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特開2022-183114ゼラチンカプセル崩壊遅延低減剤、ゼラチンカプセル、及びゼラチンカプセル用皮膜
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022183114
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】ゼラチンカプセル崩壊遅延低減剤、ゼラチンカプセル、及びゼラチンカプセル用皮膜
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/48 20060101AFI20221201BHJP
   A61K 47/18 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
A61K9/48
A61K47/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022086085
(22)【出願日】2022-05-26
(31)【優先権主張番号】P 2021090510
(32)【優先日】2021-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】591045471
【氏名又は名称】アピ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】津谷 裕子
(72)【発明者】
【氏名】光井 太一
(72)【発明者】
【氏名】加藤 真之
(72)【発明者】
【氏名】古宮 舞
【テーマコード(参考)】
4C076
【Fターム(参考)】
4C076AA56
4C076BB01
4C076DD49H
4C076DD51H
4C076EE42H
4C076FF21
4C076GG16
(57)【要約】
【課題】容易にゼラチンカプセル皮膜の不溶化を低減できるゼラチンカプセル崩壊遅延低減剤、ゼラチンカプセル、及びゼラチンカプセル用皮膜を提供する。
【解決手段】本発明のゼラチンカプセル崩壊遅延低減剤は、第1級アミノ基を2つ以上有し、脂肪族炭化水素構造を有する化合物、第1級アミノ基が1つ結合した炭素数6以上の脂肪族炭化水素構造を有する化合物、及び第1級アミノ基が結合したアルキル基を有する複素環式芳香族アミンから選ばれる少なくとも一種のアミン化合物を含有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1級アミノ基を2つ以上有し、脂肪族炭化水素構造を有する化合物、第1級アミノ基が1つ結合した炭素数6以上の脂肪族炭化水素構造を有する化合物、及び第1級アミノ基が結合したアルキル基を有する複素環式芳香族アミンから選ばれる少なくとも一種のアミン化合物を含有するゼラチンカプセル崩壊遅延低減剤。
【請求項2】
前記第1級アミノ基を2つ以上有し、脂肪族炭化水素構造を有する化合物は、アミノグアニジン、アルギニン、アルギニンを含むペプチド、リジン、リジンを含むペプチド、スペルミジン、スペルミン、及びプトレシンから選ばれる少なくとも一種である請求項1に記載のゼラチンカプセル崩壊遅延低減剤。
【請求項3】
前記第1級アミノ基が結合したアルキル基を有する複素環式芳香族アミンは、ヒスチジン、ヒスチジンを含むペプチド、及びピリドキサミンから選ばれる少なくとも一種である請求項1に記載のゼラチンカプセル崩壊遅延低減剤。
【請求項4】
前記第1級アミノ基が1つ結合した炭素数6以上の脂肪族炭化水素構造を有する化合物としては、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、及びノニルアミンから選ばれる少なくとも一種である請求項1に記載のゼラチンカプセル崩壊遅延低減剤。
【請求項5】
前記アミン化合物としてアルギニン又はアルギニンを含むペプチドと、リジン又はリジンを含むペプチドとを含有する請求項1に記載のゼラチンカプセル崩壊遅延低減剤。
【請求項6】
前記アミン化合物としてアルギニン、アルギニンを含むペプチド、リジン、及びリジンを含むペプチドから選ばれる少なくとも一種を含有し、さらにヒスチジン、ヒスチジンを含むペプチド、中性アミノ酸、及び中性アミノ酸を含むペプチドから選ばれる少なくとも一種を含有する請求項1に記載のゼラチンカプセル崩壊遅延低減剤。
【請求項7】
前記第1級アミノ基を2つ以上有し、脂肪族炭化水素構造を有する化合物は、アルギニン、アルギニンを含むペプチド、リジン、及びリジンを含むペプチドから選ばれる少なくとも一種であり、カプセルの内容物中にアントシアニン含有素材又は油脂類を含む請求項1に記載のゼラチンカプセル崩壊遅延低減剤。
【請求項8】
第1級アミノ基を2つ以上有し、脂肪族炭化水素構造を有する化合物、第1級アミノ基が1つ結合した炭素数6以上の脂肪族炭化水素構造を有する化合物、及び第1級アミノ基が結合したアルキル基を有する複素環式芳香族アミンから選ばれる少なくとも一種のアミン化合物を含有するゼラチンカプセル崩壊遅延低減剤が内容物に含まれているゼラチンカプセル。
【請求項9】
第1級アミノ基を2つ以上有し、脂肪族炭化水素構造を有する化合物、第1級アミノ基が1つ結合した炭素数6以上の脂肪族炭化水素構造を有する化合物、及び第1級アミノ基が結合したアルキル基を有する複素環式芳香族アミンから選ばれる少なくとも一種のアミン化合物を含有するゼラチンカプセル崩壊遅延低減剤が混錬されているか、又はゼラチンカプセル内側の面に付着しているゼラチンカプセル用皮膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼラチンカプセル崩壊遅延低減剤、ゼラチンカプセル、及びゼラチンカプセル用皮膜に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、カプセルの皮膜基材として、主原料としてゼラチン、可塑剤等からなるゼラチンカプセルが知られている。しかしながら、ゼラチンカプセルは、保存期間中に経時的にゼラチンが不溶化して、消化管内における皮膜の崩壊性が低下することがあった。
【0003】
従来より、例えば特許文献1,2に開示のゼラチンの不溶化を防止したカプセル用皮膜が知られている。特許文献1は、コハク化ゼラチンをカプセル剤皮の主成分とした軟カプセルに密封される液状の薬剤組成物について開示する。特許文献2は、分子量が6,000~26,000の低分子量ゼラチンの含有率がゼラチン総量の5~10重量%であるカプセル皮膜成形用ゼラチン組成物について開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-52810号公報
【特許文献2】特開2011-136927号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献1,2のカプセル用皮膜は、ゼラチンの処理が必要であり、容易にゼラチンカプセル皮膜の不溶化を低減できないという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記の課題を解決するべく研究した結果、第1級アミノ基を2つ以上有し、脂肪族炭化水素構造を有する化合物等のアミン化合物を使用したゼラチンカプセル崩壊遅延低減剤が正しく好適であることを見出した。
【0007】
上記課題を解決する各態様を記載する。
態様1のゼラチンカプセル崩壊遅延低減剤は、第1級アミノ基を2つ以上有し、脂肪族炭化水素構造を有する化合物、第1級アミノ基が1つ結合した炭素数6以上の脂肪族炭化水素構造を有する化合物、及び第1級アミノ基が結合したアルキル基を有する複素環式芳香族アミンから選ばれる少なくとも一種のアミン化合物を含有することを要旨とする。
【0008】
態様2は、態様1に記載のゼラチンカプセル崩壊遅延低減剤において、前記第1級アミノ基を2つ以上有し、脂肪族炭化水素構造を有する化合物は、アミノグアニジン、アルギニン、アルギニンを含むペプチド、リジン、リジンを含むペプチド、スペルミジン、スペルミン、及びプトレシンから選ばれる少なくとも一種である。
【0009】
態様3は、態様1又は2に記載のゼラチンカプセル崩壊遅延低減剤において、前記第1級アミノ基が結合したアルキル基を有する複素環式芳香族アミンは、ヒスチジン、ヒスチジンを含むペプチド、及びピリドキサミンから選ばれる少なくとも一種である。
【0010】
態様4は、態様1~3のいずれか一態様に記載のゼラチンカプセル崩壊遅延低減剤において、前記第1級アミノ基が1つ結合した炭素数6以上の脂肪族炭化水素構造を有する化合物としては、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、及びノニルアミンから選ばれる少なくとも一種である。
【0011】
態様5は、態様1に記載のゼラチンカプセル崩壊遅延低減剤において、前記アミン化合物としてアルギニン又はアルギニンを含むペプチドと、リジン又はリジンを含むペプチドとを含有する。
【0012】
態様6は、態様1に記載のゼラチンカプセル崩壊遅延低減剤において、前記アミン化合物としてアルギニン、アルギニンを含むペプチド、リジン、及びリジンを含むペプチドから選ばれる少なくとも一種を含有し、さらにヒスチジン、ヒスチジンを含むペプチド、中性アミノ酸、及び中性アミノ酸を含むペプチドから選ばれる少なくとも一種を含有する。
【0013】
態様7は、態様1に記載のゼラチンカプセル崩壊遅延低減剤において、前記第1級アミノ基を2つ以上有し、脂肪族炭化水素構造を有する化合物は、アルギニン、アルギニンを含むペプチド、リジン、及びリジンを含むペプチドから選ばれる少なくとも一種であり、カプセルの内容物中にアントシアニン含有素材又は油脂類を含む。
【0014】
態様8のゼラチンカプセルは、第1級アミノ基を2つ以上有し、脂肪族炭化水素構造を有する化合物、第1級アミノ基が1つ結合した炭素数6以上の脂肪族炭化水素構造を有する化合物、及び第1級アミノ基が結合したアルキル基を有する複素環式芳香族アミンから選ばれる少なくとも一種のアミン化合物を含有するゼラチンカプセル崩壊遅延低減剤が内容物に含まれていることを要旨とする。
【0015】
態様9のゼラチンカプセル用皮膜は、第1級アミノ基を2つ以上有し、脂肪族炭化水素構造を有する化合物、第1級アミノ基が1つ結合した炭素数6以上の脂肪族炭化水素構造を有する化合物、及び第1級アミノ基が結合したアルキル基を有する複素環式芳香族アミンから選ばれる少なくとも一種のアミン化合物を含有するゼラチンカプセル崩壊遅延低減剤が混錬されているか、又はゼラチンカプセル内側の面に付着していることを要旨とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると容易にゼラチンカプセル皮膜の不溶化を低減できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<第1実施形態>
先ず、本発明に係るゼラチンカプセル崩壊遅延低減剤(以下、崩壊遅延低減剤ともいう)を具体化した第1実施形態について説明する。
【0018】
(アミン化合物)
本実施形態の崩壊遅延低減剤は、第1級アミノ基を2つ以上有し、脂肪族炭化水素構造を有する化合物、第1級アミノ基が1つ結合した炭素数6以上の脂肪族炭化水素構造を有する化合物、及び第1級アミノ基が結合したアルキル基を有する複素環式芳香族アミンから選ばれる少なくとも一種のアミン化合物を含有する。それらの成分が、カプセルに内包される内容物に含まれることにより、カプセルの保存期間中における経時的なゼラチンカプセル皮膜の不溶化を低減させる。上記のアミン化合物は、1種のアミン化合物を単独で使用してもよく、2種以上のアミン化合物を組み合わせて使用してもよい。
【0019】
第1級アミノ基を2つ以上有し、脂肪族炭化水素構造を有する化合物の具体例としては、例えばアミノグアニジン、アルギニン、アルギニンを含むペプチド、リジン、リジンを含むペプチド、スペルミジン、スペルミン、プトレシン等が挙げられる。これらのうち、塩態や水和物を形成可能な化合物は、それらも含めるものとする。アルギニンを含むペプチド又はリジンを含むペプチドとしては、例えばアルギニン又はリジンを含むジペプチド、アルギニン又はリジンを含むトリペプチド等のアミノ酸の数が10以下のオリゴペプチドが挙げられる。脂肪族炭化水素構造を形成する炭素数としては、好ましくは1以上20以下、より好ましくは1以上15以下が挙げられる。
【0020】
第1級アミノ基が結合したアルキル基を有する複素環式芳香族アミンを構成する複素環式化合物としては、例えばピリジン、イミダゾール等が挙げられる。第1級アミノ基が結合したアルキル基を有する複素環式芳香族アミンの具体例としては、例えばヒスチジン、ヒスチジンを含むペプチド、及びピリドキサミン等が挙げられる。これらのうち、塩態や水和物を形成可能な化合物は、それらも含めるものとする。ヒスチジンを含むペプチドとしては、例えばヒスチジンを含むジペプチド、ヒスチジンを含むトリペプチド等のアミノ酸の数が10以下のオリゴペプチドが挙げられる。
【0021】
第1級アミノ基が1つ結合した炭素数6以上の脂肪族炭化水素構造を有する化合物において、脂肪族炭化水素構造の炭素数の上限は、特に限定されないが、好ましくは22以下、より好ましくは18以下、さらに好ましくは16以下である。第1級アミノ基が1つ結合した炭素数6以上の脂肪族炭化水素構造を有する化合物の具体例としては、例えばヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン等が挙げられる。これらのうち、塩態や水和物を形成可能な化合物は、それらも含めるものとする。
【0022】
(アミン化合物の併用)
アミン化合物は、アルギニン又はアルギニンを含むペプチドと、リジン又はリジンを含むペプチドとを併用することが好ましい。かかる構成により、アルギニン等とリジン等との相乗効果により、崩壊遅延低減効果をより向上できる。
【0023】
また、アミン化合物としてアルギニン、アルギニンを含むペプチド、リジン、及びリジンを含むペプチドから選ばれる少なくとも一種と、さらにヒスチジン、ヒスチジンを含むペプチド、中性アミノ酸、及び中性アミノ酸を含むペプチドから選ばれる少なくとも一種とを併用することが好ましい。かかる構成により、アルギニン等と中性アミノ酸等との相乗効果により、崩壊遅延低減効果をより向上できる。
【0024】
中性アミノ酸の具体例としては、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、プロリン、グリシン、セリン、スレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、グルタミンが挙げられる。これらのうち、塩態や水和物を形成可能な化合物は、それらも含めるものとする。中性アミノ酸を含むペプチドとしては、例えば中性アミノ酸を含むジペプチド、中性アミノ酸を含むトリペプチド等のアミノ酸の数が10以下のオリゴペプチドが挙げられる。
【0025】
これらの崩壊遅延低減剤は、後述するようにゼラチンを含有するカプセルの内容物に充填されることにより用いられる。
本実施形態の崩壊遅延低減剤の作用及び効果について説明する。
【0026】
(1-1)本実施形態の崩壊遅延低減剤では、上述した第1級アミノ基を2つ以上有し、脂肪族炭化水素構造を有する化合物等のアミン化合物を含有するように構成した。したがって、ゼラチンを含有するカプセルの内容物中に崩壊遅延低減剤を含めて充填することにより、優れた崩壊遅延低減効果を発揮できる。つまり、容易にゼラチンカプセル皮膜の不溶化を低減でき、消化管内における皮膜の崩壊遅延を防止できる。
【0027】
(1-2)特にカプセルの内容物としてアントシアニン含有素材又は油脂類、特に魚油を含む場合、ゼラチンカプセルの崩壊遅延が生じやすかった。本実施形態の崩壊遅延低減剤では、カプセルの内容物としてアントシアニン含有素材又は油脂類を含む場合であっても、優れた崩壊遅延低減効果を発揮できる。
【0028】
(1-3)第1実施形態のアミン化合物としてアルギニン又はアルギニンを含むペプチドと、リジン又はリジンを含むペプチドとを併用することにより、それらの相乗効果によって崩壊遅延低減効果をより向上できる。
【0029】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施できる。
・上記実施形態の崩壊遅延低減剤は、ゼラチンを主成分とするゼラチンカプセル用皮膜に適用してもよい。ゼラチンを含有するカプセル皮膜原料に混錬させることにより、又はゼラチンを含有するカプセル皮膜の内側の面に付着させることにより、カプセルの保存期間中における経時的なゼラチンカプセル皮膜の不溶化を低減させる。それにより、優れた崩壊遅延低減効果を発揮できる。
【0030】
・上記実施形態の崩壊遅延低減剤は、本発明の効果を阻害しない範囲内において、崩壊遅延低減剤の性能を維持する観点、その他の成分として、酸化低減剤、防腐剤等と併用することを妨げるものではない。
【0031】
<第2実施形態>
次に、本発明に係るゼラチンカプセルを具体化した第2実施形態について説明する。第2実施形態について、下記の記載以外は、第1実施形態と同様の構成が適用される。
【0032】
本実施形態のゼラチンカプセルでは、第1実施形態の崩壊遅延低減剤がカプセルに内包される内容物に含まれている。
ゼラチンカプセルの形態としては、特に限定されず、ソフトカプセル、ハードカプセル、シームレスカプセル等が挙げられる。これらのカプセルは、ゼラチンカプセル用皮膜から形成される。ゼラチンカプセル用皮膜の原料としては、主原料であるゼラチンの他、目的等に応じて公知の材料を適宜選択できる。公知の材料としては、可塑剤、多糖類が挙げられる。
【0033】
(ゼラチン)
ゼラチンカプセル用皮膜の主成分であるゼラチンは、牛、豚、魚、鳥等を由来とするコラーゲンの加熱分解物であり、造膜性及びゲル化性を有した類い希な物質である。ゼラチンは、酸処理ゼラチン、アルカリ処理ゼラチン、ペプチドゼラチン等のいずれも使用できる。これらのゼラチンの具体例のうち、1種のみを単独で使用してもよいし、又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。ゼラチンの含有量は、成型性及び強度の向上の観点から適宜設定可能であるが、ゼラチンカプセル用皮膜の水以外の固形分中において、ゼラチンの含有量の下限は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上である。30質量%以上とすることにより、強度をより向上させることができる。ゼラチンの含有量の上限は、固形分中において、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下である。90質量%以下とすることにより、成型性をより向上させることができる。
【0034】
(可塑剤)
可塑剤は、ゼラチンカプセル用皮膜によって得られるカプセルの柔軟性をより向上させるために配合される。可塑剤としては、例えば多価アルコール、糖類等が挙げられる。多価アルコールとしては、例えば糖アルコール、グリセリン類、及びグリコール類が挙げられる。糖アルコールの具体例としては、例えばエリトリトール、マルチトール、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、シクリトール、アルジトール、還元水飴等が挙げられる。これらの可塑剤の具体例のうち、1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0035】
可塑剤の含有量は、成型性及び柔軟性の向上の観点から適宜設定可能であるが、固形分中における可塑剤の含有量の下限は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上である。含有量の下限を10質量%以上とすることにより、柔軟性をより向上できる。固形分中における可塑剤の含有量の上限は、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。含有量の上限を50質量%以下とすることにより、成型性をより向上できる。
【0036】
(その他)
例えば、ゼラチンカプセルをソフトカプセルとして構成する場合、まずゼラチンカプセル用皮膜の調合液を製造する工程、及び調合液をシート状に成型するとともに、内容物としての充填成分を内包する工程からなる。充填成分の内包工程は、例えば、生産効率の高く、比較的多くの量の内容物を内包できる打ち抜き法を採用できる。打ち抜き法は、前記調合液からゲル状シートを作成し、金型でカプセル形状に打ち抜くことによって製造する方法である。より具体的には内容物を充填しながらソフトカプセルを成型するロータリーダイ法を挙げることができる。尚、ロータリーダイ法は、ゲル状シートが二つの円筒型成型ダイロールの回転によって打ち抜かれ、同時にポンプにより内溶液が充填される成型方法であって、カプセルの継ぎ目がダイロールの圧力・熱によって圧着されて密閉される方法である。ロータリーダイ法は、公知の装置、例えばロータリーダイ式カプセル充填機により実施できる。
【0037】
本実施形態のゼラチンカプセルが適用される分野は、特に限定されず、飲食品、医薬品、化粧品等の各分野において好ましく適用できる。また、ゼラチンカプセルに内包されるカプセル充填成分が液体であっても粉末状等の固体であってもよい。また、カプセルに充填(内包)される内容物としては、特に限定されず健康食品、特定保健用食品、機能性表示食品、サプリメント等の食品成分、特定の効能・効果の発揮を目的とする医薬品成分等、化粧品成分等の種々の有効成分が挙げられる。
【0038】
(内容物)
内容物の具体例としては、特に限定されないが、例えば野菜、果実、種子等の植物、アントシアニン含有素材、プラセンタ、肝臓等の動物、酵母、乳酸菌、スピルリナ等の微生物、プロポリス、ローヤルゼリー等の養蜂産物、及びそれらのエキス成分、各種発酵食品、魚油、動物油、植物油等の油脂類等が挙げられる。特に、アントシアニン含有素材、油脂類、特に魚油は、ゼラチンカプセルを構成する成分と反応しやすく、カプセルの水に対する崩壊性を経時的に低下させていた。本実施形態のゼラチンカプセルは、上述した第1級アミノ基を2つ以上有し、脂肪族炭化水素構造を有する化合物等のアミン化合物を含む崩壊遅延低減剤が内容物に含有されている。そのため、特に油脂類と、ゼラチンカプセルを構成する成分との反応を抑制できる。それにより、カプセル皮膜の崩壊性を低下させることなく、油脂類をカプセルに充填し、保存できる。
【0039】
内容物中における崩壊遅延低減剤の含有量は、含有されるアミン化合物の種類又はその崩壊遅延低減効果、内容物の種類又は含有量等に応じて適宜される。内容物に対して上述したアミン化合物が好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上含有される。
【0040】
本実施形態のゼラチンカプセルによれば、以下のような効果を得ることができる。
(2-1)本実施形態のゼラチンカプセルでは、上述した第1級アミノ基を2つ以上有し、脂肪族炭化水素構造を有する化合物等のアミン化合物を含む崩壊遅延低減剤が内容物中に含有される。したがって、簡易な方法によりゼラチンカプセルの皮膜に対して優れた崩壊遅延低減効果を付与できる。特に内容物にアントシアニン含有素材又は油脂類が含まれる場合、アントシアニン又は油脂類とゼラチンカプセルを構成する成分との反応を抑制できる。それにより、カプセル皮膜の崩壊性を低下させることなく、アントシアニン含有素材又は油脂類をカプセルに充填し、保存できる。
【0041】
<第3実施形態>
次に本発明に係るゼラチンカプセル用皮膜を具体化した第3実施形態について説明する。第3実施形態について、下記の記載以外は、第1,2実施形態と同様の構成が適用される。
【0042】
本実施形態のゼラチンカプセル用皮膜は、第1実施形態の崩壊遅延低減剤が混錬されている。または、第1実施形態の崩壊遅延低減剤がカプセルの内包される側の面、つまり内側の面に付着している。ゼラチンカプセルの皮膜としては、第2実施形態に記載のゼラチンカプセル用皮膜を適用できる。
【0043】
崩壊遅延低減剤がゼラチンカプセル用皮膜中に混錬される場合、ゼラチンカプセル用皮膜中における崩壊遅延低減剤の含有量は、アミン化合物の種類又は崩壊遅延低減効果等に応じて適宜される。崩壊遅延低減剤がゼラチンカプセル用皮膜の内側の面に付着される場合、崩壊遅延低減剤の付着量は、含有されるアミン化合物の種類又は崩壊遅延低減効果等に応じて適宜される。ゼラチンカプセル用皮膜の固形分に対して上述したアミン化合物が好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上混錬又は付着される。
【0044】
ゼラチンカプセル用皮膜は、公知の方法を用いて製造できる。例えば、上述したゼラチンカプセル用皮膜の原料を水に溶解して調合液を製造する工程、次に調合液をシート状に成型することにより得られる。崩壊遅延低減剤がゼラチンカプセル用皮膜の内側に付着させる方法は、溶液状とした崩壊遅延低減剤を塗布する方法を用いてもよく、シート状に成形した崩壊遅延低減剤を皮膜内側に積層してもよい。
【0045】
本実施形態のゼラチンカプセル用皮膜によれば、以下のような効果を得ることができる。
(3-1)本実施形態のゼラチンカプセル用皮膜では、第1実施形態の崩壊遅延低減剤が混錬されているか、又はカプセルの内包される側の面に付着している。したがって、簡易な方法によりゼラチンカプセルの皮膜に対して優れた崩壊遅延低減効果を付与できる。
【0046】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施できる。
・ゼラチンカプセル用皮膜は、本発明の効果を阻害しない範囲内において、通常ゼラチンカプセル用皮膜の製造に用いられるその他の公知の添加剤を適宜配合してもよい。
【実施例0047】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。
<試験例1:崩壊性試験1>
崩壊遅延低減剤を含有するカプセル内容物を調製し、ゼラチンカプセル皮膜の崩壊試験を行った。
【0048】
(崩壊性試験液)
崩壊性試験液は、日本薬局方に準じた製法で調製した溶出試験第1液を用いた。
塩化ナトリウム20.0gと塩酸70mLを超純水に溶解し、1000mLに定容し、10倍濃度第1液を調製し、室温で保存した。試験当日に、10倍濃度第1液を超純水で10倍希釈し、pHが1.2±5%の範囲(pH1.14~1.26)にあることを確認して使用した。最後に、気泡の影響を避けるため、使用直前に超音波洗浄機を用いて脱気を行った。
【0049】
(内容物)
表1に示される各例の試料をそれぞれ15mL容量のチューブに50mgずつ量り取り、油脂類としてオリーブ油を5mL加えて、ボルテックス後、30秒間ソニケーションした。試料10mg/mL(1質量%)の各例の内容物を得た。コントロールとしてオリーブ油のみからなる内容物を用いた。
【0050】
(ゼラチンシートの調製)
ゼラチン65質量%、グリセリン26質量%、及び残部水からなるゼラチンカプセル用皮膜(厚み1mm)を1cm×1cmに切り分けて崩壊試験用のゼラチンシート片を得た。
【0051】
10cm径ディッシュにコントロール及び各例の試料を含有する内容物をそれぞれ流し入れた。ゼラチンシート片を4枚/1ディッシュを内容物に浸漬させた。
低温恒温恒湿器にて50℃、50%Rhの雰囲気下で1週間静置することにより、内容物に充填された状態のゼラチンカプセル皮膜を再現した。
【0052】
(崩壊試験の評価)
15mL容量のチューブに溶出試験第1液を10mL入れ、それをウォーターバスに入れて37℃に加温した。加温1時間後、温度計でチューブ内の水温が37±0.5℃であることを確認した。
【0053】
各内容物に1週間浸漬したゼラチンシート片を取り出し、表面に付着した薬液を紙でふき取ったものを被験試料とした(N=3)。
各ゼラチンシート片をチューブ内に入れて、サーモシェーカーで振盪した(80rpm)。60分後に不溶性物質が確認できた場合には10cm径ディッシュから溶け残った不溶性物質を採取した。
【0054】
不溶性物質の容量を、以下の判断基準で目視にて半定量的に評価した。また、表1に試料と評価結果を併せて示す。
○○○(優れる):不溶性物質なしの場合
○○(良好):不溶性物質が残存し、その量がコントロールの量に対して3分の1以下の場合
○(可):不溶性物質が残存し、その量がコントロールの3分の1を超え、3分の2以下の場合
△(やや劣):不溶性物質が残存し、その量がコントロールの3分の2を超え、コントロールよりも少ない場合
×(不可):不溶性物質が残存し、その量がコントロールと同等の場合
【0055】
【表1】
表1に示されるように、本発明に該当しない各比較例の試料は、不溶性物質の残存が多いことが確認された。一方、本発明のアミン化合物を内容物に含有する場合には、不溶性物質の量が低減することが確認された。
【0056】
<試験例2:濃度依存性1>
崩壊遅延低減剤として所定量のアルギニン及びリジンを含有するカプセル内容物を調製し、ゼラチンカプセル皮膜の崩壊試験を行った。
【0057】
アルギニンの含有量が1質量%、0.3質量%、0.1質量%であるカプセル内容物を調製した。また、リジンの含有量が1質量%、0.3質量%、0.1質量%、0.03質量%、0.01質量%であるカプセル内容物を調製した。なお、「-」は評価を行っていない。
【0058】
試験例1と同様の試験方法及び評価方法にて、崩壊試験を行った。表2に試料と評価結果を併せて示す。
【0059】
【表2】
表2に示されるように、アルギニンの場合、内容物中において例えば0.1質量%以上において良好な崩壊遅延低減効果が得られることが確認された。リジンの場合、内容物中において例えば0.01質量%以上において良好な崩壊遅延低減効果が得られることが確認された。また、各試料の濃度の増加に伴い崩壊性も向上することが確認された。
【0060】
<試験例3:濃度依存性2>
崩壊遅延低減剤として下記表3に示される所定量のスペルミジン、スペルミン、プトレシン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、及びノニルアミンを含有するカプセル内容物を調製し、ゼラチンカプセル皮膜の崩壊試験を行った。なお、「-」は評価を行っていない。崩壊試験は、試験例1と同様の試験方法及び評価方法にて行った。表3に試料と評価結果を併せて示す。なお、試験当日の温度条件等により、同一試料を用いた試験であっても若干結果に差が生ずる場合がある(以下、同じ)。
【0061】
【表3】
表3に示されるように、例えばスペルミジンの場合0.2質量%以上、スペルミンの場合0.00032質量%以上、プトレシンの場合0.00032質量%以上、ヘキシルアミンの場合0.0016質量%以上、ヘプチルアミンの場合0.00032質量%以上、オクチルアミンの場合0.008質量%以上、ノニルアミンの場合0.0016質量%以上において崩壊遅延低減の向上効果が確認された。また、各試料の濃度の増加に伴い崩壊性も向上することが確認された。
【0062】
<試験例4:併用効果1>
アルギニンとリジンの併用効果について検証した。表4に示されるように、試料として所定量のアルギニン又はリジンをそれぞれ単独で使用した場合のカプセル内容物と、アルギニン及びリジン併用した場合のカプセル内容物を調製し、ゼラチンカプセル皮膜の崩壊試験を行った。崩壊試験は、試験例1と同様の試験方法及び評価方法にて行った。表4に試料と評価結果を併せて示す。
【0063】
【表4】
アルギニン0.1質量%又はリジン0.01質量%を単独で使用した例(実施例13,14)よりも、アルギニン0.05質量%とリジン0.005質量%を併用した例(実施例18)の方が、評価に優れることが確認された。また、アルギニン0.05質量%又はリジン0.005質量%を単独で使用した例(実施例16,17)よりも、アルギニン0.01質量%とリジン0.001質量%を併用した例(実施例21)の方が、評価に優れることが確認された。アルギニンとリジンを併用することにより相乗効果が発揮されていることが確認された。
【0064】
<試験例5:併用効果2>
アルギニン又はリジンと、他のアミノ酸との併用効果について検証した。表5~7に示されるように、試料として所定量のアルギニン又はリジンと、他のアミノ酸として中性アミノ酸(グリシン、β-アラニン)、酸性アミノ酸(アスパラギン酸、グルタミン酸)、又は塩基性アミノ酸(ヒスチジン)とを併用した各カプセル内容物を使用し、ゼラチンカプセル皮膜の崩壊試験を行った。崩壊試験は、試験例1と同様の試験方法及び評価方法にて行った。表5~7に試料と評価結果を併せて示す。
【0065】
【表5】
【0066】
【表6】
【0067】
【表7】
表5に示されるように、実施例22~25の結果より、所定量のアルギニン又はリジンを単独で使用した例よりも、単独で効果がない中性アミノ酸と併用した例の方が、評価に優れることが確認された。アルギニン又はリジンと中性アミノ酸を併用することにより相乗効果が発揮されていることが確認された。
【0068】
表6に示されるように、アルギニン又はリジンと酸性アミノ酸を併用した場合は、相乗効果は得られなかった。
表7に示されるように、実施例12,19,20と実施例30,31との比較、実施例19,20,32と実施例33,34との比較、実施例19,35と実施例36との比較より、アルギニン又はリジンと塩基性アミノ酸を併用することにより相乗効果が発揮されていることが確認された。
【0069】
<試験例6:内容物の検討1>
内容物中に存在すると崩壊遅延を起こしやすいと言われているアントシアニンに対して、アルギニンとリジンがゼラチン不溶化を改善するか検証した。
【0070】
アルギニン又はリジン添加48質量%ビルベリーエキス末含有油脂を調製した。まず、オリーブ油44gを50℃に加温し、ミツロウ8gをホットプレートで溶解し、オリーブ油に加えて混合した。45℃程度まで冷やし、ビルベリーエキス末48gを加えて十分混合した。これを5g取り、そこに下記表8に示される含有量となるように試料としてアルギニン及びリジンを混合した各カプセル内容物を調製した。崩壊試験は、試験例1と同様の試験方法及び評価方法にて行った。表8に試料と評価結果を併せて示す。
【0071】
【表8】
表8に示されるように、アルギニン又はリジン添加48質量%ビルベリーエキス末含有油脂に対しては、アルギニン及びリジンともに例えば1.5質量%以上の添加でゼラチン不溶化改善効果の向上がみられた。
【0072】
<試験例7:内容物の検討2>
内容物中に存在すると崩壊遅延を起こしやすいと言われている魚油に対して、アルギニンとリジンがゼラチン不溶化を改善するか検証した。
【0073】
アルギニン又はリジン添加魚油を調製した。魚油5gに下記表9に示される含有量となるように試料としてアルギニン及びリジンを混合したカプセル内容物を調製した。崩壊試験は、試験例1と同様の試験方法及び評価方法にて行った。表9に試料と評価結果を併せて示す。
【0074】
【表9】
表9に示されるように、アルギニン添加魚油に対しては、例えば1質量%以上の添加でゼラチン不溶化改善効果の向上がみられた。リジン添加魚油に対しては、例えば0.2質量%以上の添加でゼラチン不溶化改善効果の向上がみられた。