(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022018314
(43)【公開日】2022-01-27
(54)【発明の名称】PC矢板を用いた堤防補強構造
(51)【国際特許分類】
E02B 3/10 20060101AFI20220120BHJP
【FI】
E02B3/10
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020121352
(22)【出願日】2020-07-15
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000237134
【氏名又は名称】株式会社富士ピー・エス
(74)【代理人】
【識別番号】100095337
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100174425
【弁理士】
【氏名又は名称】水崎 慎
(74)【代理人】
【識別番号】100203932
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 克宗
(72)【発明者】
【氏名】堤 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】左東 有次
(72)【発明者】
【氏名】江藤 彰彦
【テーマコード(参考)】
2D118
【Fターム(参考)】
2D118AA01
2D118AA02
2D118BA03
2D118CA02
2D118CA07
2D118FA01
2D118FB30
2D118GA09
(57)【要約】
【課題】地中の水分による腐食を防ぎ、洪水等に対する堤防の耐力を長期間維持することができるPC矢板を用いた堤防補強構造を提供する。
【解決手段】プレストレストコンクリートを用いて形成されたPC矢板11を備えた堤防補強構造であって、PC矢板11は、上側部分が基礎地盤13の上側に設けられた土堤防12の内部に配置されて、PC矢板11の下側部分を基礎地盤13に埋め込み固定されている。上記のように固定されて、土堤防12および基礎地盤13の地中に設けられたPC矢板11が、土堤防12の延設方向に沿って配置されていることを特徴とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレストレストコンクリートを用いて形成されており、上側部分が基礎地盤の上側に設けられた土堤防の内部に配置されて、下側部分が前記基礎地盤に埋め込まれるPC矢板を備え、
前記PC矢板が前記土堤防の延設方向に沿って一列に配置されている、
ことを特徴とするPC矢板を用いた堤防補強構造。
【請求項2】
プレストレストコンクリートを用いて形成されており、上側部分が基礎地盤の上側に設けられた土堤防の内部に配置されて、下側部分が前記基礎地盤に埋め込まれるPC矢板を備え、
前記PC矢板が前記土堤防の延設方向に沿って二列に配置されている、
ことを特徴とするPC矢板を用いた堤防補強構造。
【請求項3】
前記二列に配置されるPC矢板の前記各上側部分に接続されるタイ部材を備えた、
ことを特徴とする請求項2に記載のPC矢板を用いた堤防補強構造。
【請求項4】
前記二列に配置されるPC矢板は、土砂と接触する側面部に、前記土砂と接触したときに摩擦力が生じる粗面部が設けられている、
ことを特徴とする請求項2または請求項3に記載のPC矢板を用いた堤防補強構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、河川や海岸などに建設される堤防の補強にPC矢板を用いた堤防補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
地盤に矢板を打設して堤防などの補強を行う場合、一般的なコンクリートによって形成された矢板を使用すると、例えば、経年によってひび割れが発生して強度が低下するため、鋼材によって形成された矢板を補強材として使用することが主流となっている。
矢板を用いて堤防を補強する場合には、例えば、基礎地盤に一列の矢板を打設し、堤防の内部に埋設する構造が用いられている(例えば、特許文献1参照)。
また、堤防を補強する構造として、堤防の延設方向に沿って矢板を二列に打設し、堤防の内部に埋設する構造があり、さらに、二列に並べた矢板の上端部の間を切梁(タイ部材等)で接続して、土砂などの移動に対する強度を増大させた構造がある(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-16107号公報
【特許文献2】特開2019-210777号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
堤防の補強に用いる矢板は、基礎地盤に打設され、地中に埋められることになる。
そのため、鋼材を用いて形成された矢板を堤防の補強に使用すると、例えば、雨水や浸透水などの地中の水分に触れることが避けられず、これらの水分によって腐食が生じる。
堤防等の構造体は、矢板の腐食が進行すると、腐食した部分、もしくはその周辺の強度が低下する。即ち、堤防等の耐力を長期間に渡って確保することが難しくなる。
【0005】
また、上記の地中の水分は、周囲の地形や地質によって様々な量が存在し、時間経過に伴って変化する。そのため、地中に埋設した鋼材について、腐食の程度を予想することが困難になる。
即ち、鋼材によって形成された矢板を堤防等の補強に用いた場合には、堤防を設置した後、地中の構造物の点検や補修等が必要になる時期を予想することが難しく、安全性を重視すると、点検や補修が必要になるまでの期間を短く設定することになる。
また、地中に埋設された矢板を点検する、または補修することは容易に実施することができない。
【0006】
また、鋼材は、表面を平滑に仕上げて錆が発生し易い微細な欠損部分がなくなるようにしている。
そのため、鋼材によって形成された矢板は、土砂と接触したときの摩擦が小さく、経年によって地形等が変化するとき、堤防等を形成する土砂と一体になって変形することが生じ難く、地形の経年変化に伴って堤防等の構造体に傷みが発生し易くなる。
【0007】
本開示は、上記の問題点を解決するためになされたもので、地中の水分による腐食を防ぎ、洪水等に対する堤防の耐力を長期間維持することができるPC矢板を用いた堤防補強構造を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示に係るPC矢板を用いた堤防補強構造は、プレストレストコンクリートを用いて形成されており、上側部分が基礎地盤の上側に設けられた土堤防の内部に配置されて、下側部分が前記基礎地盤に埋め込まれるPC矢板を備え、前記PC矢板が前記土堤防の延設方向に沿って一列に配置されていることを特徴とする。
【0009】
また、本開示に係るPC矢板を用いた堤防補強構造は、プレストレストコンクリートを用いて形成されており、上側部分が基礎地盤の上側に設けられた土堤防の内部に配置されて、下側部分が前記基礎地盤に埋め込まれるPC矢板を備え、前記PC矢板が前記土堤防の延設方向に沿って二列に配置されていることを特徴とする。
【0010】
また、前記二列に配置されるPC矢板の各上側部分に接続されるタイ部材を備えたことを特徴とする。
【0011】
また、前記二列に配置されるPC矢板は、土砂と接触する側面部に、前記土砂と接触したときに摩擦力が生じる粗面部が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、水分等の多い地中に設置されても腐食を防ぐことができ、長期間に渡って洪水などに対する耐力を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本開示の実施の形態1によるPC矢板を用いた堤防補強構造に使用する矢板の概観を示す斜視図である。
【
図2】本開示の実施の形態1によるPC矢板を用いた堤防補強構造の概略構成を示す説明図である。
【
図3】本開示の実施の形態2によるPC矢板を用いた堤防補強構造の概略構成を示す説明図である。
【
図4】本開示の実施の形態3によるPC矢板を用いた堤防補強構造の概略構成を示す説明図である。
【
図5】本開示の実施の形態4によるPC矢板を用いた堤防補強構造の概略構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、この発明の実施の一形態を説明する。
(実施の形態1)
図1は、本開示の実施の形態1によるPC矢板を用いた堤防補強構造に使用する矢板1の概観を示す斜視図である。
【0015】
矢板1は、プレストレストコンクリート(以下、PCと記載する)を用いて形成されたもので、上端部2または下端部3側から見たとき、例えば、
図1(a)の矢板1のように波形に形成されている。換言すると、この矢板1は、側面部4に複数のウエブとフランジとを連ねて形成し、外力に対する耐力を向上させたものである。なお、PCを用いた矢板1は、上記の形状に限定されず、十分な強度を有するものであればよく、例えば、
図1(b)の矢板1のように、側面部4を平面状に形成したものや、
図1(c)の矢板1のように、垂直方向に延設された複数の溝部を側面部4に形成したものでもよい。
矢板1は、PCを用いて形成したことにより、一般的なコンクリートに比べて、ひび割れなどの発生が無く、もしくは、ひび割れなどの発生が非常に少なく、長期間に渡って一定の強度を保持することが可能である。また、水分に触れた場合には、鋼材のように容易に酸化腐食が発生せず、強度が低下することはない。
【0016】
図2は、本開示の実施の形態1による堤防補強構造10の概略構成を示す説明図である。
図2は、例えば、河川や海岸線に沿って設けられた(堤防補強構造10を有する)堤防の、延設方向に直交する断面構造を表している。
図中、左側は河川等が存在する堤外地100、右側は住宅地や農地などが存在する提内地101である。
【0017】
図2の堤防補強構造10は、
図1の矢板1と同様にPCを用いて、また、矢板1と同様な形状に形成された矢板11を備えている。
堤防補強構造10は、基礎地盤13の上側に、例えば、盛土によって形成された土堤防12が設けられている。
堤防補強構造10は、堤防の延設方向に沿って矢板11が一列に配置され、矢板11の下端部(
図1に示した下端部3に相当する部分)が、基礎地盤13に埋め込まれるように打設されている。
【0018】
矢板11は、
図2に示されない側面部(
図1の側面部4に相当する部分)が、堤防の延設方向に沿って配置され、土堤防12の上側から垂直に基礎地盤13まで到達するように打設されている。
矢板11は、上端部(
図1の上端部2に相当する部分)が、土堤防12の内部に配置されている。即ち、矢板11は、土堤防12および基礎地盤13の地中に全体が埋設されている。
なお、矢板11の打設には、例えば、バイブロハンマーを用いた工法、ウォータージェット工法、バイブロハンマーとウォータージェットとを併用した工法などが用いられ、矢板11を設置する位置の地盤条件などに適した工法を採用するとよい。
【0019】
矢板11は、前述のようにPC、即ち、繊密な高強度コンクリートを用いて形成されており、プレストレス工法が施されている。そのため、ひび割れの発生が充分抑制され、また、酸化腐食などに高い耐性を有している。また、矢板11は、無機性のコンクリート(PC)を用いることにより、環境負荷を低減することを可能にしたものである。また、鋼材に比べて、土砂と接触したときの摩擦係数が大きく、土砂の位置固定が良好である。
即ち、矢板11は、堤防を補強するために地中に埋設された状態でも、ひび割れや腐食の発生を充分に抑制することができ、堤防等の構造体の耐力を、長期間に渡って維持することが可能である。
【0020】
堤防補強構造10は、前述のように、堤防の地中において、矢板11が一列に配置されて基礎地盤13に打設されている。即ち、矢板11は、自立式矢板として堤防補強構造10を構成している。
堤防補強構造10は、矢板11が基礎地盤13に自立していることから、堤外地100に存在する河川等に洪水が発生し、堤防を越流して提内地101へ流れ込み、土堤防12等の土砂に崩壊が生じる状態になった場合でも、自立している矢板11が、上記の越流に対して土堤防12等の土砂を支えて破堤を防ぐことができる。
また、堤外地100に存在する河川等に洪水が発生し、土堤防12等の土砂を侵食しても、自立している矢板11が侵食を防ぐことができる。
【0021】
(実施の形態2)
図3は、本開示の実施の形態2による堤防補強構造20の概略構成を示す説明図である。
図3は、例えば、河川や海岸線に沿って設けられた(堤防補強構造20を有する)堤防の、延設方向に直交する断面を表している。
なお、
図3は、
図2に示したものと同等、あるいは相当する部分に同じ符号を使用している。
【0022】
図3の堤防補強構造20は、
図1の矢板1等と同様にPCを用いて、また、矢板1等と同様な形状に形成された矢板21および矢板22を備えている。
堤防補強構造20は、堤防の延設方向に沿って、矢板21および矢板22が二列に並べられて設置されている。
詳しくは、矢板21および矢板22は、矢板21の側面部(
図1の側面部4に相当する部分)と、矢板22の側面部(
図1の側面部4に相当する部分)とを対向させて二列に並べられている。
また、二列に並べられた矢板21および矢板22は、例えば、堤防の上端面(土堤防12の上端部)の幅員より内側に間隔を開けて設置されている。
【0023】
矢板21および矢板22は、各側面部が堤防の延設方向に沿うように配置され、土堤防12の上側から垂直に基礎地盤13まで到達するように打設されている。
詳しくは、矢板21および矢板22は、各下端部(
図1の下端部3に相当する部分)が基礎地盤13に埋め込まれるように打設されている。
また、矢板21および矢板22は、各上端部(
図1の上端部2に相当する部分)が土堤防12の内部に配置されている。即ち、矢板21および矢板22は、土堤防12および基礎地盤13の地中に全体が埋設されている。
なお、矢板21および矢板22の打設には、前述の矢板11等と同様な工法を採用するとよい。
【0024】
矢板21および矢板22は、前述のようにPCを用いて形成されており、矢板11と同様に、堤防を補強するために地中に埋設された状態でも、ひび割れや腐食の発生を充分に抑制することができ、堤防等の構造体の耐力を、長期間に渡って維持することが可能である。また、矢板21および矢板22は、無機性のコンクリート(PC)を用いることにより、環境負荷を低減することを可能にしたものである。また、鋼材に比べて、土砂と接触したときの摩擦係数が大きく、土砂の位置固定が良好である。
【0025】
堤防補強構造20は、前述のように、堤防を設置した地中において、矢板21および矢板22が二列に並べられて基礎地盤13に打設されている。即ち、矢板21および矢板22は、自立式二重矢板として堤防補強構造20を構成している。
また、堤防補強構造20は、二列に並べて配置された矢板21と矢板22との間に土砂が挟まれている。
矢板21と矢板22との間に挟まれた土砂は、水平方向の変形が矢板21および矢板22によって拘束される。即ち、矢板21と矢板22との間に挟まれた土砂は、矢板21および矢板22と一体の構造体になって挙動する。
そのため、堤外地100に存在する河川等に洪水が発生し、堤防を越流して提内地101へ流れ込み、土堤防12等の土砂に崩壊が生じる状態になった場合でも、矢板21、矢板22、および、矢板21と矢板22との間に挟まれた土砂によって構成された構造体は、崩壊することなく形状等を維持することができる。即ち、洪水発生時には、矢板21、矢板22、また、これらの間に挟まれた土砂等によって(上記の構造体によって)、上記の越流に対して土堤防12等の土砂を支えて破堤を防ぐことができる。
また、堤外地100に存在する河川等に洪水が発生し、土堤防12等の土砂を侵食しても、自立している矢板21が侵食を防ぐことができる。
【0026】
(実施の形態3)
図4は、本開示の実施の形態3による堤防補強構造30の概略構成を示す説明図である。
図4は、例えば、河川や海岸線に沿って設けられた(堤防補強構造30を有する)堤防の、延設方向に直交する断面を表している。
なお、
図4は、
図2および
図3に示したものと同等、あるいは相当する部分に同じ符号を使用している。
【0027】
図4の堤防補強構造30は、前述の矢板1等と同様にPCを用いて、また、矢板11等と同様な形状に形成された矢板31および矢板32を備えている。矢板31および矢板32は、無機性のコンクリート(PC)を用いることにより、環境負荷を低減することを可能にしたものである。また、鋼材に比べて、土砂と接触したときの摩擦係数が大きく、土砂の位置固定が良好である。
堤防補強構造30は、堤防の延設方向に沿って、矢板31および矢板32が二列に並べられて設置されている。
矢板31および矢板32は、前述の矢板21および矢板22と同様に、各々の側面部(
図1の側面部4に相当する部分)を対向させて二列に並べられている。
また、二列に並べられた矢板31および矢板32は、例えば、堤防の上端面(土堤防12の上端部)の幅員より内側に間隔を開けて設置されている。
【0028】
矢板31および矢板32は、矢板31および矢板32の各側面部が堤防の延設方向と平行になるように配置されている。また、矢板31および矢板32は、土堤防12の上側から垂直に基礎地盤13まで到達するように打設されている。
詳しくは、矢板31および矢板32は、各下端部(
図1の下端部3に相当する部分)が基礎地盤13に埋め込まれるように打設されている。
また、矢板31および矢板32は、各上端部(
図1の上端部2に相当する部分)が土堤防12の内部に配置されている。即ち、矢板31および矢板32は、土堤防12および基礎地盤13の地中に全体が埋設されている。
なお、矢板31および矢板32の打設には、前述の矢板11等と同様な工法を採用するとよい。
【0029】
堤防補強構造30は、タイ部材33によって矢板31の上端部と矢板部32の上端部との間を接続している。即ち、矢板31と矢板32は、タイ部材33によって上端部が接続固定されたタイ式二重矢板として堤防補強構造30を構成している。
タイ部材33は、伸び難い特性を有する材料によって形成され、水分による腐食などを防ぐ表面処理等が施されたもの、あるいは、上記の特性を有するとともに、水分に触れても腐食が発生しない(プレキャストコンクリートなどの)材料で形成されたものである。
タイ部材33は、矢板31および矢板32の延設方向において、適当な間隔を開けて複数個所に設置されている。
タイ部材33は、矢板31の上端部および矢板32の上端部に直接取り付け固定されている。なお、タイ部材33は、プレキャストコンクリートの腹起し材等を用いて、上記の各上端部へ取り付け固定してもよい。
【0030】
矢板31および矢板32は、前述のように下端部が基礎地盤13に埋め込まれており、上端部がタイ部材33によって接続されているため、矢板31と矢板32との間隔が上下方向の両端において一定に保持されている。
【0031】
堤防補強構造30は、二列に並べて配置された矢板31と矢板32との間に土砂が挟まれている。
矢板31と矢板32との間に挟まれた土砂は、水平方向の変形が矢板31および矢板32によって拘束される。即ち、上下両端の間隔が固定された矢板31と矢板32との間に挟まれた土砂は、矢板31および矢板32と一体化された構造体になって挙動する。
そのため、堤外地100に存在する河川等に洪水が発生し、堤防を越流して提内地101へ流れ込み、土堤防12等の土砂に崩壊が生じる状態になった場合でも、タイ部材33によって接続された矢板31および矢板32、また、これらの間に挟まれた土砂によって構成された構造体は、崩壊することなく形状等を維持することができる。即ち、洪水発生時には、タイ部材33によって接続された矢板31および矢板32、また、これらの間に挟まれた土砂等によって(上記の構造体によって)、上記の越流に対して土堤防12等の土砂を支えて破堤を防ぐことができる。
また、堤外地100に存在する河川等に洪水が発生し、土堤防12等の土砂を侵食しても、自立している矢板31が侵食を防ぐことができる。
【0032】
(実施の形態4)
図5は、本開示の実施の形態4による堤防補強構造40の概略構成を示す説明図である。
図5は、例えば、河川や海岸線に沿って設けられた(堤防補強構造40を有する)堤防の、延設方向に直交する断面を表している。
なお、
図5は、
図2~
図4に示したものと同等、あるいは相当する部分に同じ符号を使用している。
【0033】
図5の堤防補強構造40は、前述の矢板1等と同様にPCを用いて、また、矢板1等と概ね同様な形状に形成された矢板41および矢板42を備えている。矢板41および矢板42は、無機性のコンクリート(PC)を用いることにより、環境負荷を低減することを可能にしたものである。また、鋼材に比べて、土砂と接触したときの摩擦係数が大きく、土砂の位置固定が良好である。
堤防補強構造40は、堤防の延設方向に沿って、矢板41および矢板42が二列に並べられて設置されている。
矢板41および矢板42は、前述の矢板21および矢板22と同様に、各々の側面部(
図1の側面部4に相当する部分)を対向させて二列に並べられている。
また、二列に並べられた矢板41および矢板42は、例えば、堤防の上端面(土堤防12の上端部)の幅員より内側に間隔を開けて設置されている。
【0034】
矢板41および矢板42は、矢板41および矢板42の各側面部が堤防の延設方向と平行になるように配置され、土堤防12の上側から垂直に基礎地盤13まで到達するように打設されている。
詳しくは、矢板41および矢板42は、各下端部(
図1の下端部3に相当する部分)が基礎地盤13に埋め込まれるように打設されている。
また、矢板41および矢板42は、各上端部(
図1の上端部2に相当する部分)が土堤防12の内部に配置されている。即ち、矢板41および矢板42は、土堤防12および基礎地盤13の地中に全体が埋設されている。
なお、矢板41および矢板42の打設には、前述の矢板11等と同様な工法を採用するとよい。
【0035】
矢板41および矢板42は、例えば、側面部の片面に、粗面部43が設けられている。なお、
図5に例示した矢板41および矢板42は、側面部の一方の片側面に粗面部43が設けられている。また、他方の片側面に粗面部44が設けられている。
図5の堤防補強構造40は、粗面部43が設けられた側面部が対向するように、矢板41および矢板42が配置固定されている。
粗面部43は、例えば、土堤防12等を形成する土砂が接触したとき、この土砂との間に摩擦力が生じるように、適度な大きさの粗目を形成させた部分である。
粗面部43は、矢板41および矢板42が基礎地盤13に打設されたとき、基礎地盤13の上側に設けられた土堤防12の土砂と接触する位置に設置されている。
粗面部44は、粗面部43と同様な粗目を形成させた部分であり、矢板41および矢板42が基礎地盤13に打設されたとき、矢板41の粗面部44は、堤外地100側の土堤防12等を形成する土砂と接触し、矢板42の粗面部44は、堤内地101側の土堤防12等を形成する土砂と接触するように設置されている。
【0036】
堤防補強構造40は、二列に並べて配置された矢板41と矢板22との間に土砂が挟まれている。
矢板41と矢板42との間に挟まれた土砂は、水平方向の変形が矢板41および矢板42によって拘束される。
即ち、矢板41と矢板42との間に挟まれた土砂は、矢板41に設けられた粗面部43、および、矢板42に設けられた粗面部43に接触しており、矢板41の表面を滑り移動することが抑えられ(防止され)、同様に、矢板42の表面を滑り移動することが抑えられる(防止される)。
矢板41と矢板42との間に挟まれた土砂は、上記のように矢板41および矢板42の表面を滑ることなく(滑り移動することが抑制されて)、一体化された構造体となって挙動する。
矢板41および矢板42に設けられた粗面部44は、土堤防12を形成する土砂と接触すると前述のように摩擦が生じ、土堤防12の崩壊を抑制する働きがある。
【0037】
そのため、堤外地100に存在する河川等に洪水が発生し、堤防を越流して提内地101へ流れ込み、土堤防12等の土砂に崩壊が生じる状態になった場合でも、矢板41および矢板42、また、これらの間に挟まれた土砂によって構成された構造体は、崩壊することなく形状等を維持することができる。即ち、洪水発生時には、矢板41および矢板42、また、これらの間に挟まれた土砂等によって(上記の構造体によって)、上記の越流に対して土堤防12等の土砂を支えて破堤を防ぐことができる。
また、堤外地100に存在する河川等に洪水が発生し、土堤防12等の土砂を侵食しても、自立している矢板41が侵食を防ぐことができる。
【0038】
図5に例示した矢板41および矢板42は、
図3の矢板21および矢板22と同様に、自立式二重矢板として堤防補強構造40を構成させているが、
図4に示した矢板31および矢板32と同様に、タイ部材33等によって上端部を接続固定し、タイ式二重矢板として堤防補強構造40を構成させてもよい。換言すると、
図4の矢板31および矢板32に、粗面部43を設けることも可能である。
また、
図5に例示した矢板41および矢板42は、側面部の両側に粗面部43、粗面部44を設けているが、側面部の片側面にのみ粗面部43または粗面部44を設けた構成としてもよい。
【0039】
ここで例示した矢板11,21,22,31,32,41,42は、いずれもPCを用いて形成されたものである。
これらの矢板は、PCを用いたことにより、鋼材によって形成された矢板に比べて部材が厚く、剛性が高い。そのため、水が堤防を越流したときに生じる変形が、鋼材を用いた場合に比べて小さく、洪水発生時に堤防が決壊することを強固に防ぐことができる。
また、上記の各矢板は、PCを用いたことにより、地中の水分などに触れても腐食を生じることがないため、堤防の補強に鋼材を用いた場合に比べて、洪水などに対する耐力を長期間維持することができ、堤防の耐久性を高めることができる。即ち、メンテナンスフリーとなることから、長期的には堤防の維持等に関するコストを抑制することが可能になる。
【0040】
また、堤防補強構造10、堤防補強構造20、堤防補強構造30、堤防補強構造40は、いずれもPCによって形成された矢板を打設することが主な施工となる。即ち、堤防補強構造10~40を施工する際には、既存の堤防の(大掛かりな)改築や、河川を締め切る施工などが不要になり、施工コストを抑制することが可能になる。また、施工期間を渇水期に限らずに通年設定することが可能になる。
【符号の説明】
【0041】
1,11,21,22,31,32,41,42 矢板
2 上端部
3 下端部
4 側面部
10 堤防補強構造
12 土堤防
13 基礎地盤
20 堤防補強構造
30 堤防補強構造
33 タイ部材
40 堤防補強構造
43,44 粗面部
100 堤外地
101 堤内地
【手続補正書】
【提出日】2020-10-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
土砂と接触したときの摩擦係数が鋼材よりも大きいプレストレストコンクリートを用いて形成されており、上側部分が基礎地盤の上側に設けられた土堤防の内部に配置されて、下側部分が前記基礎地盤に埋め込まれるPC矢板が、前記土堤防の延設方向に沿って二列に配置され、
前記PC矢板は、側面部の両側または片側に、前記土堤防を形成する土砂と接触したときに摩擦力が生じる大きさの粗目を形成させた粗面部が設けられている、
ことを特徴とするPC矢板を用いた堤防補強構造。
【請求項2】
前記二列に配置されるPC矢板の前記上側部分に接続されるタイ部材を備えた、
ことを特徴とする請求項1に記載のPC矢板を用いた堤防補強構造。
【手続補正書】
【提出日】2021-02-02
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
土砂と接触したときの摩擦係数が鋼材よりも大きいプレストレストコンクリートを用いて形成されており、堤防の基礎地盤の上側に形成された土堤防の内部に上側部分が配置されて、下側部分が前記基礎地盤に埋め込まれるPC矢板が、前記堤防の延設方向に沿って二列に配置され、
前記PC矢板は、
側面部が、波形面、平面、および、垂直方向に延設された複数の溝部を有する面のいずれかに形成され、
前記側面部の両面または片面に、前記土堤防を形成する土砂と接触したときに前記土砂の滑り移動を抑える摩擦力が生じる大きさの粗目を形成させた粗面部が設けられている、
ことを特徴とするPC矢板を用いた堤防補強構造。
【請求項2】
前記二列に配置されるPC矢板の前記上側部分に接続されるタイ部材を備えた、
ことを特徴とする請求項1に記載のPC矢板を用いた堤防補強構造。