(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022183166
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】ウインドシールド
(51)【国際特許分類】
H05B 3/20 20060101AFI20221201BHJP
H05B 3/86 20060101ALI20221201BHJP
B60J 1/00 20060101ALI20221201BHJP
B60J 1/20 20060101ALI20221201BHJP
C03C 27/12 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
H05B3/20 355B
H05B3/86
B60J1/00 H
B60J1/20 C
C03C27/12 M
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022149736
(22)【出願日】2022-09-21
(62)【分割の表示】P 2020070101の分割
【原出願日】2016-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000004008
【氏名又は名称】日本板硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(72)【発明者】
【氏名】小川 良平
(72)【発明者】
【氏名】千葉 和喜
(72)【発明者】
【氏名】小川 永史
(57)【要約】
【課題】遮蔽層の設計自由度の高いウインドシールドを提供する。
【解決手段】本発明の一側面に係るウインドシールドは、情報取得装置と対向し光が通過する情報取得領域を有するガラス板と、車外からの視野を遮蔽する遮蔽層と、一対のバスバー部及び複数の加熱線を有し、情報取得領域を加熱する情報取得領域加熱部と、を備える。そして、遮蔽層は、ガラス板の端辺に沿って延びる帯状領域を含み、情報取得領域は、帯状領域の面方向内側に隣接して配置され、情報取得領域加熱部の両バスバー部は、視野方向において、帯状領域に含まれるように並んで配置され、情報取得領域加熱部の各加熱線は、両バスバー部に並列に接続され、一方のバスバー部から面方向内側に延びて情報取得領域上を通過し、折り返されて他方のバスバー部の方に延びる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光の照射及び/又は受光を行うことで車外からの情報を取得する情報取得装置が配置可能な自動車のウインドシールドであって、
前記情報取得装置と対向し前記光が通過する情報取得領域を有するガラス板と、
前記ガラス板に設けられ、車外からの視野を遮蔽する遮蔽層と、
一対のバスバー部及び複数の加熱線を有し、前記情報取得領域を加熱する情報取得領域加熱部と、
を備え、
前記遮蔽層は、前記ガラス板の端辺に沿って延びる帯状領域を含み、
前記情報取得領域は、前記帯状領域の面方向内側に隣接して配置され、
前記情報取得領域加熱部の両バスバー部は、視野方向において、前記帯状領域に含まれるように並んで配置され、
前記情報取得領域加熱部の各加熱線は、前記両バスバー部に並列に接続され、一方のバスバー部から面方向内側に延びて前記情報取得領域上を通過し、折り返されて他方のバスバー部の方に延びる、
ウインドシールド。
【請求項2】
前記複数の加熱線において、より面方向内側に延びる加熱線ほど断面積が大きくなっている、
請求項1に記載のウインドシールド。
【請求項3】
前記複数の加熱線のうち少なくともいずれかの隣接する加熱線はそれぞれ、互いに並行に延びる部分を有し、
前記互いに隣接する加熱線の並行に延びる部分はそれぞれ、波状に形成されている、
請求項1又は2に記載のウインドシールド。
【請求項4】
前記隣接する加熱線の並行に延びる部分の波状のパターンは、互いにずれている、
請求項3に記載のウインドシールド。
【請求項5】
前記情報取得領域には、防曇膜が取り付けられている、
請求項1から4のいずれか1項に記載のウインドシールド。
【請求項6】
前記複数の加熱線は、銅により形成されている、
請求項1から5のいずれか1項に記載のウインドシールド。
【請求項7】
1又は複数の加熱線を有し、前記情報取得領域以外の領域を加熱する他領域加熱部を更に備える、
請求項1から6のいずれか1項に記載のウインドシールド。
【請求項8】
前記情報取得領域加熱部の単位面積当たりの発熱量と前記他領域加熱部の単位面積当たりの発熱量とは相違している、
請求項7に記載のウインドシールド。
【請求項9】
前記情報取得領域加熱部の各加熱線の断面積は、前記他領域加熱部の加熱線よりも大きくなっている、
請求項8に記載のウインドシールド。
【請求項10】
前記情報取得領域加熱部の各加熱線の断面積は、前記他領域加熱部の加熱線よりも小さくなっている、
請求項8に記載のウインドシールド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用のウインドシールドに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、気温の低いところでは、車内と車外との温度差により、自動車のウインドシールドが曇ったり、場合によっては凍ったりすることがあり、運転に支障を来す恐れがある。これに対応するため、ウインドシールドの曇り又は氷を除去する様々な方法が提案されている。例えば、特許文献1には、ウインドシールドの内部に、バスバー及び加熱線を配置し、その発熱によって曇りを除去することが提案されている。
【0003】
また、近年、車外の状況を撮影するカメラを車内に設置する車載システムが提案されている。この車載システムでは、カメラにより取得した被写体の撮影画像を解析することで、対向車、前走車、歩行者、交通標識、車線境界線等を認識し、運転者に危険を知らせる等の様々な運転の支援を行うことができる。
【0004】
ただし、一般的には、ウインドシールドの周縁部に沿って、車外からの視野を遮るための遮蔽層が設けられているのに対して、車載システムのカメラは、ルームミラーの支持部近傍等、カメラの撮影範囲に当該遮蔽層が含まれ得る位置に設置される。そのため、遮蔽層がカメラの撮影を阻害してしまう可能性がある。
【0005】
そこで、特許文献2及び3では、遮蔽層の一部に透過窓を設けることが提案されている。例えば、中間膜の一部を可視光の透過率の高い素材に置き換えたり、セラミックの積層をしない領域を設けたりすることで、遮蔽層の一部に可視光の透過率の高い領域(透過窓)を形成することができる。これによって、車内に設置されたカメラは、遮蔽層に阻害されることなく、車外の状況を撮影することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000-077173号公報
【特許文献2】特開2006-327381号公報
【特許文献3】特開2007-039278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
透過窓もウインドシールドの一部であるため、その他の領域と共に、透過窓も曇ったり凍ったりする場合がある。そのため、透過窓にも、上記のような加熱線を配置し、曇り及び/又は氷を除去することが考えられる。しかしながら、本件発明者らは、従来どおりにバスバー及び加熱線を配置すると、次のような問題点が生じることを見出した。
【0008】
図1及び
図2を用いて、本件発明者らの見出した問題点について説明する。
図1は、従来例に係るウインドシールド100を模式的に例示する。また、
図2は、従来例に係るバスバー部104及び加熱線105の構成を模式的に例示する。
図1に例示されるように、従来のウインドシールド100では、周縁部に沿って遮蔽層101が設けられる。
【0009】
この遮蔽層101に、ウインドシールド100の上端辺に沿う部分から面方向内側に突出する突出領域102を設け、この突出領域102に隠れるように車内にカメラを配置する場合がある。この場合、当該カメラにより車外の状況を撮影可能なように、突出領域102に上記のような透過窓103が設けられる。
【0010】
このとき、特許文献1に例示される従来のとおりに、透過窓103を加熱する加熱部を構成したとすると、当該加熱部を構成するバスバー部104及び加熱部105は
図2に例示されるように配置される。すなわち、一対のバスバー部104は透過窓103の両側に配置され、複数の加熱線105は、透過窓103を通過し、両バスバー部104に並列に接続されるように配置される。
【0011】
しかしながら、このようにバスバー部104及び加熱線105を配置した場合、バスバー部104を車外から見えないようにするためには、少なくとも透過窓103の両側に遮蔽層(図の突出領域102)を設けなければならない。そのため、部分的に遮蔽層の形状が固定されてしまい、遮蔽層の設計自由度が狭まってしまうという問題点が生じることを本件発明者らは見出した。
【0012】
本発明は、一側面では、このような実情を鑑みてなされたものであり、その目的は、遮蔽層の設計自由度の高いウインドシールドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上述した課題を解決するために、以下の構成を採用する。
【0014】
すなわち、本発明の一側面に係るウインドシールドは、光の照射及び/又は受光を行うことで車外からの情報を取得する情報取得装置が配置可能な自動車のウインドシールドであって、前記情報取得装置と対向し前記光が通過する情報取得領域を有するガラス板と、前記ガラス板に設けられ、車外からの視野を遮蔽する遮蔽層と、一対のバスバー部及び複数の加熱線を有し、前記情報取得領域を加熱する情報取得領域加熱部と、を備える。そして、前記遮蔽層は、前記ガラス板の端辺に沿って延びる帯状領域を含み、前記情報取得領域は、前記帯状領域の面方向内側に隣接して配置され、前記情報取得領域加熱部の両バスバー部は、視野方向において、前記帯状領域に含まれるように並んで配置され、前記情報取得領域加熱部の各加熱線は、前記両バスバー部に並列に接続され、一方のバスバー部から面方向内側に延びて前記情報取得領域上を通過し、折り返されて他方のバスバー部の方に延びる。
【0015】
当該構成に係るウインドシールドでは、情報取得装置が車外の情報を取得するための情報取得領域が遮蔽層の帯状領域の面方向内側に隣接して配置され、当該情報取得領域を加熱する情報取得領域加熱部を構成する両バスバー部が帯状領域に並んで配置される。これにより、両バスバー部は帯状領域に隠れるため、情報取得領域の面方向外側を除き、情報取得領域の周囲に遮蔽層を設けなくてもよくなる。したがって、当該構成によれば、この情報取得領域の周囲の領域に遮蔽層を設けてもよいし、設けなくてもよくなるため、当該遮蔽層の設計自由度を高めることができる。
【0016】
また、上記構成に係るウインドシールドの別の形態として、前記複数の加熱線において、より面方向内側に延びる加熱線ほど断面積が大きくなっていてもよい。同一の断面積では、後述する数1の関係式により、加熱線の長さが長いほど、当該加熱線の発熱量は少なくなる。そのため、全ての加熱線の断面積を同一にすると、より面方向外側に延びる加熱線の発熱量が小さくなってしまい、情報取得領域全体を偏りなく温めることができなくなる可能性がある。これにより、情報取得領域に部分的に曇り及び/又は氷が残ってしまったり、曇り及び/又は氷の除去が遅くなる部分が生じたりしてしまう可能性がある。これに対して、当該構成によれば、より面方向内側に延びる加熱線ほど断面積を大きくすることで、より面方向内側まで延びる加熱線とそうではない加熱線との間で発熱量の違いを低減することができる。したがって、当該構成によれば、情報取得領域を万遍なく温めることができるようになり、これによって、情報取得領域の曇り及び/又は氷を適切に除去できるようになる。なお、各加熱線の厚みがほぼ一定である場合には、各加熱線の断面積は、各加熱線の線幅(「線径」と称してもよい)に比例する。そのため、この場合には、各加熱線の線幅を調節することで、各加熱線の断面積の大きさを容易に変更することができる。
【0017】
また、上記構成に係るウインドシールドの別の形態として、前記複数の加熱線のうち少なくともいずれかの隣接する加熱線はそれぞれ互いに並行に延びる部分を有してもよく、前記互いに隣接する加熱線の並行に延びる部分はそれぞれ波状に形成されてもよい。隣接する加熱線が互いに並行に延びる部分を有し、この互いに隣接する加熱線の並行に延びる部分が直線状に形成されている場合、この部分の縁で生じる光の回折により、一方向に光の強め合いが生じる。これにより、光強度の強い線状のパターンが生じてしまい、情報取得装置による情報の取得に悪影響を及ぼす可能性がある。これに対して、互いに隣接する加熱線の並行に延びる部分を波状に形成することで、光の強め合いが生じる方向を多方向に分散することができ、各方向に生じるパターンの光強度を弱めることができる。したがって、当該構成によれば、複数の加熱線において、情報取得装置による情報の取得に悪影響を及ぼす光の回折が生じ難いようにすることができる。
【0018】
また、上記構成に係るウインドシールドの別の形態として、前記隣接する加熱線の並行に延びる部分の波状のパターンは互いにずれていてもよい。当該構成によれば、光の強め合いが生じる方向をより他方向に分散することができ、各方向に生じるパターンの光強度を弱めることができる。したがって、当該構成によれば、複数の加熱線において、情報取得装置による情報の取得に悪影響を及ぼす光の回折がより生じ難いようにすることができる。
【0019】
また、上記構成に係るウインドシールドの別の形態として、前記情報取得領域には、防曇膜が取り付けられていてもよい。当該構成によれば、情報取得領域をより曇り難くすることができる。
【0020】
また、上記構成に係るウインドシールドの別の形態として、前記複数の加熱線は、銅により形成されていてもよい。銅は、加工しやすい材料である。また、銅は、化学的に安定しているため、化学的加工方法を利用して加工することができる。更に、銀等に比べて、銅は安価な材料である。そのため、各加熱線に銅を用いることで、製造コストを抑えることができる。更に、バスバー部も銅で製造することで、異種材料をまたいで通電した場合に生じる接触抵抗による異常発熱を防止することができる。
【0021】
また、上記構成に係るウインドシールドの別の形態として、上記ウインドシールドは、1又は複数の加熱線を有し、前記情報取得領域以外の領域を加熱する他領域加熱部を更に備えてもよい。当該構成によれば、情報取得領域以外の領域についても、曇り及び/又は氷を除去することができるようになる。
【0022】
また、上記構成に係るウインドシールドの別の形態として、前記情報取得領域加熱部の単位面積当たりの発熱量と前記他領域加熱部の単位面積当たりの発熱量とは相違していてもよい。情報取得領域とその他の領域とで温める理由が異なる場合がある。例えば、情報取得領域では曇りを除去するために温め、それ以外の領域では氷を除去する(融かす)ために温めるとする。このような場合、情報取得領域とその他の領域とで同じ発熱量で温めなくてもよい。当該構成によれば、情報取得領域加熱部の単位面積当たりの発熱量と他領域加熱部の単位面積当たりの発熱量とを互いに相違するように設定することで、このような要求に応じることができる。
【0023】
なお、これは、各加熱線の断面積を調整することで、簡易的に達成することができる。例えば、前記情報取得領域加熱部の各加熱線の断面積を前記他領域加熱部の加熱線よりも大きくしてもよい。これにより、情報取得領域加熱部の単位面積当たりの発熱量を他領域加熱部よりも大きくすることができる。他方、前記情報取得領域加熱部の各加熱線の断面積を前記他領域加熱部の加熱線よりも小さくしてもよい。これにより、情報取得領域加熱部の単位面積当たりの発熱量を他領域加熱部よりも小さくすることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、遮蔽層の設計自由度の高いウインドシールドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、従来の形態に係るウインドシールドを模式的に例示する。
【
図2】
図2は、従来の形態に係る加熱部の構成を模式的に例示する。
【
図3】
図3は、実施の形態に係るウインドシールドを模式的に例示する正面図である。
【
図4】
図4は、実施の形態に係るウインドシールドを模式的に例示する断面図である。
【
図7】
図7は、実施の形態に係る合わせガラスの製造工程を模式的に例示する。
【
図8】
図8は、実施の形態に係るウインドシールドの情報取得領域加熱部を模式的に例示する部分拡大図である。
【
図9】
図9は、直線状のワイヤーを並列に配置した例を示す。
【
図10】
図10は、並列に配置した直線状のワイヤーに光を通したときに発生するパターンを示す。
【
図11】
図11は、波状(正弦波)のワイヤーを並列に配置した例を示す。
【
図12】
図12は、並列に配置した波状のワイヤーに光を通したときに発生するパターンを示す。
【
図13】
図13は、他の形態に係る情報取得領域加熱部を模式的に例示する。
【
図14】
図14は、他の形態に係る情報取得領域加熱部を模式的に例示する。
【
図15】
図15は、転写シートの一例を模式的に示す断面図である。
【
図16A】
図16Aは、転写シートを用いて各加熱部を合わせガラスに転写する過程を模式的に例示する。
【
図16B】
図16Bは、転写シートを用いて各加熱部を合わせガラスに転写する過程を模式的に例示する。
【
図16C】
図16Cは、転写シートを用いて各加熱部を合わせガラスに転写する過程を模式的に例示する。
【
図17】
図17は、他の形態に係るウインドシールドを模式的に例示する。
【
図18】
図18は、防曇膜に水滴が取り付いた状態を例示する。
【
図19】
図19は、防曇膜に水滴が取り付いた状態を例示する。
【
図20】
図20は、他の形態に係るウインドシールドを模式的に例示する。
【
図21】
図21は、他の形態に係る情報取得領域加熱部を模式的に例示する。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の一側面に係る実施の形態(以下、「本実施形態」とも表記する)を、図面に基づいて説明する。ただし、以下で説明する本実施形態は、あらゆる点において本発明の例示に過ぎない。本発明の範囲を逸脱することなく種々の改良や変形を行うことができることは言うまでもない。つまり、本発明の実施にあたって、実施形態に応じた具体的構成が適宜採用されてもよい。なお、以下の説明では、説明の便宜のため、図面内の向きを基準として説明を行う。
【0027】
§1 構成例
まず、
図3~
図6を用いて、本実施形態に係るウインドシールド1を説明する。
図3及び
図4は、本実施形態に係るウインドシールド1を模式的に例示する正面図及び断面図である。また、
図5及び
図6はそれぞれ、
図3のA-A線及びB-B線の断面を模式的に例示する。
【0028】
各図に示されるように、本実施形態に係るウインドシールド1は、車外側に配置される外側ガラス板21及び車内側に配置される内側ガラス板22を中間層4により接合した合わせガラス2を備えている。この合わせガラス2は、本発明の「ガラス板」に相当する。また、この合わせガラス2の周縁部に沿って、車外からの視野を遮蔽する遮蔽層3が設けられている。
【0029】
本実施形態では、
図3及び
図4に例示されるように、この遮蔽層3には、合わせガラス2の上端辺に沿う部分の略中央に、当該合わせガラス2の上端辺に沿って延びる帯状領域31が設定されている。また、この合わせガラス2を取り付ける自動車の車内には、この帯状領域31の面方向内側(すなわち、下方)の遮蔽層3の設けられていない領域が画角に入るように、ブラケット(不図示)等を介して撮影装置8が取り付けられている。これにより、撮影装置8に対向し光が通過する情報取得領域23が、帯状領域31の面方向内側に隣接して配置されるように設定されている。すなわち、バスバー部51が帯状領域31に配置され、情報取得領域23がバスバー部51より面方向内側に配置されている。この撮影装置8は、本発明の「情報取得装置」に相当する。
【0030】
更に、本実施形態では、この情報取得領域23を加熱する情報取得領域加熱部5、及び情報取得領域23以外の領域を加熱する他領域加熱部6が、中間層4に設けられている。内側ガラス板22には、各加熱部(5、6)に端子を接続可能なように、切り欠き223~226が設けられている。これによって、情報取得領域23及びその他の領域の曇り及び/又は氷を除去することができるようになっている。以下、各構成要素について説明する。
【0031】
[外側ガラス板及び内側ガラス板]
まず、外側ガラス板21及び内側ガラス板22について説明する。外側ガラス板21は、車外側の第1面211及び車内側の第2面212を有している。同様に、内側ガラス板22は、車外側の第3面221及び車内側の第4面222を有している。
【0032】
両ガラス板(21、22)は、互いにほぼ同形であり、平面視台形状に形成されている。両ガラス板(21、22)は、面直方向に湾曲していてもよいし、平らであってもよい。例えば、両ガラス板(21、22)は、第1面211及び第3面221が凸となり、第2面212及び第4面222が凹となるように湾曲した形状を有してもよい。
【0033】
各ガラス板(21、22)には、公知のガラス板を用いることができる。例えば、各ガラス板(21、22)は、熱線吸収ガラス、クリアガラス、グリーンガラス、UVグリーンガラス等であってよい。ただし、各ガラス板(21、22)は、自動車の使用される国の安全規格に沿った可視光線透過率を実現するように構成される。例えば、各ガラス板(21、22)は、JIS R 3211で定められるように、可視光(380nm~780nm)の透過率が70%以上になるように構成されてもよい。なお、この透過率は、JIS R 3212(3.11 可視光透過率試験)で定められているように、JIS Z 8722に規定された分光測定法によって測定することができる。また、例えば、外側ガラス板21によって所望の日射吸収率を確保し、内側ガラス板22によって可視光線透過率が安全規格を満たすように調整することもできる。以下に、各ガラス板(21、22)を構成可能なガラスの組成の一例として、クリアガラスの組成の一例と、熱線吸収ガラス組成の一例を示す。
【0034】
(クリアガラス)
SiO2:70~73質量%
Al2O3:0.6~2.4質量%
CaO:7~12質量%
MgO:1.0~4.5質量%
R2O:13~15質量%(Rはアルカリ金属)
Fe2O3に換算した全酸化鉄(T-Fe2O3):0.08~0.14質量%
【0035】
(熱線吸収ガラス)
熱線吸収ガラスの組成は、例えば、クリアガラスの組成を基準として、Fe2O3に換算した全酸化鉄(T-Fe2O3)の比率を0.4~1.3質量%とし、CeO2の比率を0~2質量%とし、TiO2の比率を0~0.5質量%とし、ガラスの骨格成分(主に、SiO2やAl2O3)をT-Fe2O3、CeO2およびTiO2の増加分だけ減じた組成とすることができる。
【0036】
本実施形態に係る合わせガラス2の厚みは特に限定されないが、軽量化の観点からは、両ガラス板(21、22)の厚みの合計を、2.5mm~10.6mmとすることが好ましく、2.6mm~3.8mmとすることがさらに好ましく、2.7mm~3.2mmとすることが特に好ましい。このように、軽量化のためには、両ガラス板(21、22)の合計の厚みを小さくすればよい。各ガラス板(21、22)の厚みは特に限定されないが、例えば、以下のように、各ガラス板(21、22)の厚みを決定することができる。
【0037】
すなわち、外側ガラス板21は、主として、小石等の飛来物等の衝撃に対する耐久性及び耐衝撃性が求められる。他方、外側ガラス板21の厚みを大きくするほど重量が増し好ましくない。この観点から、外側ガラス板21の厚みは、1.6mm~2.5mmとすることが好ましく、1.9mm~2.1mmとすることがさらに好ましい。何れの厚みを採用するかは、実施の形態に応じて適宜決定することができる。
【0038】
一方、内側ガラス板22の厚みは、外側ガラス板21の厚みと同等にすることができるが、例えば、合わせガラス2の軽量化のために、外側ガラス板21よりも厚みを小さくすることができる。具体的には、ガラスの強度を考慮すると、内側ガラス板22の厚みは、0.6mm~2.1mmであることが好ましく、0.8mm~1.6mmであることがさらに好ましく、1.0mm~1.4mmであることが特に好ましい。更には、内側ガラス板22の厚みは、0.8mm~1.3mmであることが好ましい。内側ガラス板22についても、何れの厚みを採用するかは、実施の形態に応じて適宜決定することができる。
【0039】
[遮蔽層]
次に、車外からの視野を遮蔽する遮蔽層3について説明する。本実施形態では、
図4~
図6に示されるとおり、遮蔽層3は、内側ガラス板22の第4面222に設けられる。この遮蔽層3は、内側ガラス板22の第4面222の周縁部に沿って積層しており、合わせガラス2の周縁部からの光の入射を遮蔽する。
【0040】
これに対して、遮蔽層3の設けられていない領域では光の通過が可能となっており、このウインドシールド1を取り付けた自動車に乗車した運転者及び助手席に座る同行者は、この領域を介して車外前方を確認することになる。そのため、この遮蔽層3の設けられていない領域は、少なくとも車外の交通状況を目視可能な程度に可視光の透過率を有するように構成される。
【0041】
本実施形態では、合わせガラス2の上端辺に沿う部分の略中央に帯状領域31が設けられており、この帯状領域31の下方に隣接して情報取得領域23が設けられる。
図4に示されるように、この合わせガラス2よりも車内側に配置される撮影装置8は、この情報取得領域23を介して車外の状況を撮影する。そのため、情報取得領域23は、例えば、上記のとおり、JIS R 3211で定められるように、可視光の透過率が70%以上になるように構成されてもよい。
【0042】
なお、遮蔽層3の各部の寸法は、実施の形態に応じて適宜設定されてよい。例えば、合わせガラス2の上端辺及び下端辺それぞれに沿う部分の幅は20mm~100mmの範囲で設定されてよい。また、合わせガラス2の左端辺及び右端辺それぞれに沿う部分の幅は15mm~70mmの範囲で設定されてよい。
【0043】
また、遮蔽層3の材料は、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。例えば、遮蔽層3は、黒色、茶色、灰色、濃紺等の濃色のセラミックにより形成することができる。具体的に、以下の表1に示す組成のセラミックにより遮蔽層3を形成することができる。ただし、遮蔽層3を形成するセラミックの組成は、以下の表1に限定される訳ではなく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。
【0044】
【表1】
*1,アサヒ化成工業株式会社製:Black 6350(Pigment Green 17)
*2,主成分:ホウケイ酸ビスマス、ホウケイ酸亜鉛
【0045】
また、帯状領域31は、合わせガラス2の上端辺から幅10mm~50mmの範囲に設定することができる。更に、
図3の例では、帯状領域31の下端側の形状は、直線状である。ただし、帯状領域31の下端側の形状は、このような例に限定されなくてもよい。例えば、帯状領域31の下端は、幅10mm~50mmの範囲で曲線状になっていてもよく、凹凸状になっていてもよい。
【0046】
更に、
図3では、帯状領域31と情報取得領域23とはやや離れている。「情報取得領域が帯状領域の面方向内側に隣接して配置される」とは、情報取得領域と帯状領域とが連結されていなくてもよく、このようにやや離れた状態も含んでよい。
【0047】
[中間層]
次に、中間層4について説明する。本実施形態では、中間層4は、3層構造を有している。すなわち、中間層4は、情報取得領域加熱部5及び他領域加熱部6を含む発熱層と、この発熱層を挟持する一対の接着層(42、43)とを備えている。以下では、各層について説明する。
【0048】
<発熱層>
まず、発熱層について説明する。発熱層は、シート状の基材41と、この基材41上に配置される情報取得領域加熱部5及び他領域加熱部6と、を備えている。基材41の形状は、上記各ガラス板(21、22)と同じであってもよいし、各ガラス板(21、22)よりも小さくてもよい。
【0049】
(情報取得領域加熱部)
情報取得領域加熱部5は、合わせガラス2に設定された情報取得領域23を加熱し、当該情報取得領域23の曇り及び/又は氷を除去するための構成である。具体的には、
図3~
図5に例示されるように、情報取得領域加熱部5は、基材41上に配置される一対のバスバー部51と、両バスバー部51に並列に接続される3つの加熱線52A~52Cを備えている。なお、以下では、説明の便宜のため、これらを第1の加熱線52A、第2の加熱線52B、第3の加熱線52Cとも称する。
【0050】
各図に示されるように、両バスバー部51は、視野方向において、遮蔽層3の帯状領域31に含まれるように配置される。視野方向とは、このウインドシールド1を自動車に取り付けた時の運転者及び助手席に座る同行者の視野の方向であり、例えば、
図3の紙面に垂直な方向(各ガラス板(21、22)の面直方向)である。加えて、
図3に示されるように、両バスバー部51は、帯状領域31の延びる方向、すなわち、左右方向に並んで配置されている。更に、両バスバー部51は、内側ガラス板22の上端辺に形成された各切り欠き(223、224)から露出しないように、各切り欠き(223、224)よりも面方向内側に配置されている。各加熱線52A~52Cは、一方のバスバー部51から面方向内側(すなわち、下方)に延びて情報取得領域23上を通過し、折り返されて他方のバスバー部51に接続する。
【0051】
本実施形態では、その形状の一例として、各加熱線52A~52Cは、略コの字状に形成されている。すなわち、各加熱線52A~52Cは、左右方向に互いに対向し、上下方向に延びる一対の側辺部分と、この両側辺部分の下端を結ぶように左右方向に延びる下端部分と、を備えている。
【0052】
第2の加熱線52Bは、第3の加熱線52Cの外側に配置されており、各バスバー部51からより面方向内側まで延びている。そのため、第2の加熱線52Bは、第3の加熱線52Cよりも長くなっている。同様に、第1の加熱線52Aは、第2の加熱線52Bの外側に配置されており、各バスバー部51からより面方向内側に延びている。そのため、第1の加熱線52Aは、第2の加熱線52Bよりも長くなっている。
【0053】
各加熱線52A~52Cの線幅は、例えば、1μm~500μmにすることができ、5μm~100μmであるのが好ましく、5μm~15μmであるのが更に好ましい。また、これに応じて、各加熱線52A~52Cの断面積は、例えば、1μm2~250000μm2にすることができ、25μm2~10000μm2であるのが好ましく、25μm2~225μm2であるのが更に好ましい。各加熱線52A~52Cの断面積の測定は、例えば、マイクロスコープを用いて150倍に拡大した断面を観察することで行うことができる。なお、各加熱線52A~52C内で断面積のばらつきがあってもよい。この場合、断面積の測定箇所は、各加熱線52A~52Cの中央部に設定されてもよい。また、各加熱線52A~52Cの断面積を同じにしてもよい。ただし、各加熱線52A~52Cの発熱量について、以下の数1~数3の関係式が知られている。
【0054】
【数1】
【数2】
【数3】
なお、Vは電圧(電位差)、Iは電流、Rは抵抗、ρは電気抵抗率、Lは導体の長さ、Aは導体の断面積、Wは発熱量(消費電力)を示す。ここで、一般的には、自動車の電圧は一定であるため、上記数1~数3に示されるVの値は一定であるとしてよい。同様に、電気抵抗率ρは材料によって定まるため、各加熱線52A~52Cの材料が同じであるとの前提のもと、上記数1~数3に示されるρの値も一定であるとしてよい。また、各加熱線52A~52Cの断面の形状が矩形状であるとすると、各加熱線52A~52Cの断面積は、厚みと線幅との積により求めることができる。加えて、各加熱線52A~52Cの厚みがほぼ一定であるとすると、各加熱線52A~52Cの断面積は線幅に比例する。そのため、厚みがほぼ一定である場合には、各加熱線52A~52Cの線幅を調節することで、各加熱線52A~52Cの断面積を容易に変更することができる。つまり、各加熱線52A~52Cの線幅を小さくすることで各加熱線52A~52Cの断面積を小さくすることができ、各加熱線52A~52Cの線幅を大きくすることで各加熱線52A~52Cの断面積を大きくすることができる。したがって、各加熱線52A~52Cの厚みがほぼ一定である場合には、各加熱線52A~52Cの断面積はその線幅に比例するとして、各加熱線52A~52Cの断面積をその線幅を調節することで変更してもよい。ただし、各加熱線52A~52Cの断面の形状は、矩形状に限定される訳ではなく、台形状、多角形、円形状等であってもよい。
【0055】
上記数1~数3より、断面積が同一の場合、加熱線の長さが長いほど、その加熱線の発熱量(W)は小さくなってしまう。そのため、各加熱線52A~52Cの断面積を同一にすると、両バスバー部51からより面方向内側まで延びている加熱線ほどその加熱線の発熱量は小さくなってしまう。
【0056】
すなわち、第2の加熱線52Bの発熱量は第3の加熱線52Cよりも小さくなり、第1の加熱線52Aの発熱量はその第2の加熱線52Bよりも小さくなってしまう。これにより、情報取得領域23全体を偏りなく温めることができなくなってしまう可能性がある。特に、この情報取得領域23内において、両バスバー部51から離れた部分で発熱量が小さくなってしまい、曇り及び/又は氷の除去がこの部分で遅くなってしまう可能性がある。
【0057】
そこで、本実施形態では、各加熱線52A~52Cの断面積を異なるようにしてもよい。具体的には、両バスバー部51からより面方向内側まで延びている加熱線ほどその加熱線の断面積を大きくしてもよい。すなわち、第2の加熱線52Bの断面積を第3の加熱線52Cよりも大きくし、第1の加熱線52Aの断面積をその第2の加熱線52Bよりも大きくしてもよい。これによって、各加熱線52A~52Cの発熱量の差を抑えることができ、情報取得領域23を万遍なく温めることができる。
【0058】
ただし、各加熱線52A~52Cの配置及び形状によっては、各加熱線52A~52Cの断面積を調節しても、情報取得領域23全体を万遍なく温められない可能性がある。そのため、各加熱線52A~52Cの形状(特に、情報取得領域23内の配置)、長さ、及び断面積を適宜調節して、情報取得領域23全体を均等に温められるようにするのがより好ましい。
【0059】
なお、各バスバー部51の寸法、両バスバー部51の間隔及び各加熱線52A~52Cの間隔は、実施の形態に応じて適宜設定されてよい。ただし、両バスバー部51と各加熱線52A~52Cとがほぼ同一の厚みである場合、各バスバー部51の幅が各加熱線52A~52Cの線幅の10倍よりも小さくなると(例えば、各加熱線52A~52Cの線幅が500μmである場合に、各バスバー部51の幅が5mmより小さくなると)、各バスバー部51自体が異常発熱してしまう恐れがある。これによって、情報取得領域加熱部5の発熱効率が低下してしまう可能性がある。また、各バスバー部51の寸法が小さすぎる場合には、各バスバー部51に設けられた接続端子(陽極端子又は陰極端子:図示省略)の接続が困難になる恐れがある。一方、各バスバー部51の寸法が大きすぎる場合には、各バスバー部51が遮蔽層3からはみ出て、視野を妨げてしまう恐れがある。これらの観点から、各バスバー部51の寸法は、例えば、5mm(横)×5mm(縦)~60mm(横)×60mm(縦)で設定されてもよい。また、両バスバー部51の間の距離は、つまり、各バスバー部51の水平方向の中心間の距離は、10mm~120mmであってもよい。また、例えば、各加熱線52A~52Cの左右方向に延びる部分同士の間隔は、上下方向に1mm~50mmであってよく、10mm~50mmであるのが好ましい。更に、例えば、各加熱線52A~52Cの上下方向に延びる部分同士の間隔は、左右方向に5mm~40mmであってよく、10mm~40mmであるのが好ましい。
【0060】
また、本実施形態では、
図3及び
図5に示されるように、上記各バスバー部51及び各加熱線52A~52Cに通電するため、接続材71が用いられる。すなわち、接続材71は、各バスバー部51と接続端子(陽極端子又は陰極端子:図示省略)とを接続するためのものであり、例えば、導電性の材料によりシート状に形成されている。
【0061】
図5に示されるように、各接続材71は、矩形状に形成されており、各バスバー部51と接着層43との間に挟まれる。そして、各接続材71は、はんだ等の固定材72によって各バスバー部51に固定される。固定材72には、後述するウインドシールドの組み立て時のオートクレーブで同時に固定することができるように、例えば、150℃以下の低融点のはんだを用いるのが好ましい。
【0062】
また、各接続材71は、各バスバー部51から外側ガラス板21の上端縁まで延び、内側ガラス板22の上端辺に形成された各切り欠き(223、224)から露出するようになっている。そして、この露出部分において、自動車の電源から延びるケーブルの接続端子をはんだ等の固定材によって連結することで、各バスバー部51を介して各加熱線52A~52Cに電源から電気を流し、加熱することができるようになる。
【0063】
このように、各接続材71は、両ガラス板(21、22)の端部から突出することなく、内側ガラス板22の各切り欠き(223、224)から露出した部分に接続端子を固定することができるようになっている。なお、各接続材71は、薄い材料で形成されてよく、その場合、折り曲げた上で、端部を固定材72で各バスバー部51に固定することができる。
【0064】
(他領域加熱部)
一方、他領域加熱部6は、合わせガラス2の情報取得領域23以外の領域、特に、運転者及び助手席に座る同行者の視野領域(視野に入る領域)を加熱し、当該情報取得領域23以外のこの領域の曇り及び/又は氷を除去するための構成である。具体的には、
図3~
図6に例示されるように、他領域加熱部6は、基材41上に配置される一対のバスバー部61と、それぞれ左右方向に延び、両バスバー部61に並列に接続される複数の加熱線62を備えている。なお、
図3では、加熱線62の数は6つである。しかしながら、加熱線62の数は、このような例に限定されなくてもよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。加熱線62の数は、1~5つであってもよいし、7つ以上であってもよい。
【0065】
図3に示されるように、各バスバー部61は、左右それぞれの端辺に沿って延びるように形成されている。各バスバー部61は、内側ガラス板22の左右それぞれの端辺に形成された切り欠き(225、226)から露出しないように、各切り欠き(225、226)よりも面方向内側に配置されている。また、各バスバー部61は、視野方向において、遮蔽層3の左右それぞれの端辺に沿う部分に含まれるように配置されている。
【0066】
各バスバー部61の寸法は、実施の形態に応じて適宜設定されてよい。ただし、各バスバー部61と加熱線62とが同一の厚みである場合に、各バスバー部61の幅が加熱線62の線幅の10倍よりも小さくなると(例えば、加熱線62の線幅が500μmである場合に、各バスバー部61の幅が5mmより小さくなると)、各バスバー部61自体が異常発熱してしまう恐れがある。これによって、他領域加熱部6の発熱効率が低下してしまう可能性がある。一方、各バスバー部61の幅が50mmよりも大きいと、各バスバー部61が遮蔽層3からはみ出て、視野を妨げてしまう恐れがある。そのため、各バスバー部61の幅は、例えば、5mm~50mmであることが好ましい。各バスバー部61自体の発熱を抑えるためには、各バスバー部61の幅を加熱線62の線幅の10倍よりも小さくするのが好ましい。なお、各バスバー部61は、基材41に正確に沿って形成されていなくてもよい。すなわち、各バスバー部61は、基材41の端縁と完全に平行になっていなくてもよく、曲線状等の形状に形成されてもよい。
【0067】
各加熱線62は、左右方向に直線状に延びており、両バスバー部61に連結されている。各加熱線62は、上下方向に概ね平行に配置されている。各加熱線62の線幅及び間隔は、実施の形態に応じて適宜設定されてよい。例えば、このウインドシールド1を取り付けた自動車に乗車した運転者及び助手席に座る同行者は、この各加熱線62の設けられた領域を介して車外の状況を確認する。この観点から、各加熱線62の線幅は、3μm~20μmであるのが好ましく、5μm~13μmであるのが更に好ましく、8μm~10μmであるのが特に好ましい。また、隣接する加熱線62の間隔は、1mm~100mmとすることができ、1mm~50mmであるのが好ましく、1mm~10mmであるのが更に好ましい。
【0068】
なお、上記情報取得領域加熱部5の単位面積当たりの発熱量とこの他領域加熱部6の単位面積当たりの発熱量とは相違していてもよい。他領域加熱部6は、運転者及び助手席に座る同行者の視野領域を温めるのに対して、情報取得領域加熱部5は、撮影装置8の画角に入る領域(情報取得領域)を温める。そのため、各加熱部(5、6)の温める範囲が大きくことなり、その温める目的も相違し得る。したがって、情報取得領域23とその他の領域とで同じ発熱量で温めなくてもよい。
【0069】
例えば、情報取得領域23では曇りを除去するために温め、その他の領域では氷を除去するために温めるとする。このような場合、情報取得領域加熱部5よりも他領域加熱部6の方が単位面積当たりの発熱量を大きく設定するのが好ましい。このように、情報取得領域加熱部5の単位面積当たりの発熱量と他領域加熱部6の単位面積当たりの発熱量とは相違していてもよい。
【0070】
ここで、上述の数1~数3の関係式に示されるとおり、各加熱線(52A~52C、62)の断面積を変更することで、各加熱線(52A~52C、62)の発熱量を簡易的に調節することができる。例えば、情報取得領域加熱部5の各加熱線52A~52Cの断面積を他領域加熱部6の各加熱線62よりも大きくしてもよい。これにより、情報取得領域加熱部5の単位面積当たりの発熱量を他領域加熱部6よりも大きくすることができる。他方、情報取得領域加熱部5の各加熱線52A~52Cの断面積を他領域加熱部6の各加熱線62よりも小さくしてもよい。これにより、情報取得領域加熱部5の単位面積当たりの発熱量を他領域加熱部6よりも小さくすることができる。なお、当該各加熱線(52A~52C、62)の断面積の調節は、上記のとおり、各加熱線(52A~52C、62)の線幅の大きさを変更することで達成してもよい。
【0071】
また、本実施形態では、
図3及び
図6に示すように、上記情報取得領域加熱部5と同様に、上記各バスバー部61及び各加熱線62に通電するため、接続材73及び固定材74が用いられる。接続材73は、上記接続材71に対応し、当該接続材71を各バスバー部61に固定するための固定材74は、上記固定材72に対応している。
【0072】
すなわち、各接続材73は、固定材74により各バスバー部61に接続した上で、両ガラス板(21、22)の端部から突出することなく、内側ガラス板22の各切り欠き(225、226)から露出した部分に接続端子を固定できるようになっている。そして、この露出部分において、自動車の電源から延びるケーブルの接続端子がはんだ等の固定材によって連結することで、各バスバー部61を介して各加熱線62に電気を流し、加熱することができるようになる。
【0073】
なお、情報取得領域23以外の領域で加熱線による防曇及び/又は解氷を行わない場合、この他領域加熱部6は省略されてもよい。
【0074】
(材料)
次に、発熱層の材料について説明する。基材41は、透明のフィルムであればよく、その材料は特に限定されなくてもよい。例えば、基材41の材料には、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリプロピレン、ナイロン等が用いられてもよい。
【0075】
また、各加熱部(5、6)の各バスバー部(51、61)及び各加熱線(52A~52C、62)は、銅(または、例えば、スズなどを用いてメッキされた銅)、タングステン、銀、金、アルミ、それらの合金等、種々の材料で形成することができる。ここで、各バスバー部(51、61)及び各加熱線(52A~52C、62)は、同一の材料で形成されてもよいし、異なる材料で形成されてもよい。ただし、銅は、加工しやすい材料である。また、銅は、化学的に安定しているため、化学的加工方法を利用して加工することができる。更に、銀等に比べて、銅は安価な材料である。そのため、製造コストの観点から、各加熱部(5、6)の材料として銅を用いるのが好ましい。また、各バスバー部(51、61)も銅で製造することで、異種材料をまたいで通電した場合に生じる接触抵抗による異常発熱を防止することができる。
【0076】
なお、各バスバー部(51、61)を銅で形成する場合、本実施形態では遮蔽層3が第4面222に形成されているため、各バスバー部(51、61)が遮蔽層3に対して明るい色を有してしまい、各バスバー部(51、61)が車外から視認可能になってしまう。これにより、ウインドシールド1の見栄えが悪くなってしまう可能性がある。
【0077】
そこで、各バスバー部(51、61)を銅で形成する場合、各バスバー部(51、61)の車外側の面、換言すると、基材41に接触する面は、メッキ加工することで、黒色に加工するのが好ましい。これによって、遮蔽層3を第4面222に形成しても、各バスバー部(51、61)を車外側から視認しにくいようにすることができる。
【0078】
続いて、各バスバー部(51、61)及び各加熱線(52A~52C、62)の形成方法について説明する。各バスバー部(51、61)及び各加熱線(52A~52C、62)は、予め形成された細線(ワイヤ等)等を基材41上に配置することで形成することができる。
【0079】
また、各加熱線(52A~52C、62)の線幅をより細くするためには、基材41上にパターンを形成することで、各加熱線(52A~52C、62)を形成してもよい。基材41上にパターンを形成する方法は、特に限定されなくてもよく、例えば、印刷、エッチング、転写等、種々の方法が利用されてよい。
【0080】
このとき、各バスバー部51と各加熱線52A~52Cを別々に形成することもできるし、これらを一体に形成することもできる。同様に、各バスバー部61と各加熱線62とを別々に形成することもできるし、これらを一体に形成することもできる。なお、「一体的」とは、材料間に切れ目がなく(シームレス)、界面が存在しないことを意味する。
【0081】
更に、エッチングによって基材41上にパターンを形成する場合には、一例として、次のようにして、各加熱部(5、6)の各バスバー部(51、61)及び各加熱線(52A~52C、62)を形成することができる。まず、プライマー層を介して基材41に金属箔をドライラミネートする。金属箔としては、例えば、銅を用いることができる。そして、金属箔に対して、フォトリソグラフィ法を利用したケミカルエッチング処理を行うことによって、基材41上に、各加熱部(5、6)の各バスバー部(51、61)及び各加熱線(52A~52C、62)をそれぞれ一体的にパターン形成することができる。
【0082】
特に、各加熱線(52A~52C、62)の線幅を小さくする場合(例えば、15μm以下)には、薄い金属箔を用いるのが好ましい。そのため、薄い金属層(例えば、5μm以下)を基材41上に蒸着、スパッタリング等により形成し、その後、各バスバー部(51、61)及び各加熱線(52A~52C、62)をフォトリソグラフィ法によりパターニングしてもよい。
【0083】
<接着層>
次に、各接着層(42、43)について説明する。両接着層(42、43)は、上記発熱層を挟持すると共に、各ガラス板(21、22)への接着を行うためのシート状の部材である。各接着層(42、43)は、各ガラス板(21、22)とほぼ同じ大きさに形成され、内側ガラス板22の各切り欠き223~226に対応する位置に同形状の切り欠きを有している。
【0084】
各接着層(42、43)の材料は、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。例えば、各接着層(42、43)の材料には、ポリビニルブチラール樹脂(PVB)、エチレンビニルアセテート(EVA)等を用いることができる。特に、ポリビニルブチラール樹脂は、各ガラス板(21、22)との接着性の他、耐貫通性にも優れるので好ましい。なお、各接着層(42、43)と発熱層との間には、界面活性剤の層を設けることもできる。このような界面活性剤により両層の表面を改質することができ、接着力を向上することができる。
【0085】
<その他>
本実施形態に係る中間層4は、以上のように構成される。この中間層4の総厚は、特に限定されないが、0.3mm~6.0mmであることが好ましく、0.5mm~4.0mmであることが更に好ましく、0.6mm~2.0mmであることが特に好ましい。
【0086】
また、基材41の厚みは、0.01mm~2.0mmであることが好ましく、0.031mm~0.6mmであることがさらに好ましい。一方、各接着層(42、43)の厚みは、発熱層の厚みよりも大きいことが好ましく、具体的には、0.1mm~2.0mmであることが好ましく、0.1mm~1.0mmであることがさらに好ましい。なお、内側ガラス板22側に配置される接着層43と基材41との密着性を高めるためには、その間に挟まれる各バスバー部(51、61)及び各加熱線(52A~52C、62)の厚みは、1μm~500μmにすることができ、5μm~100μmが好ましく、5μm~15μmが更に好ましい。
【0087】
発熱層及び各接着層(42、43)の厚みは、例えば、以下のように測定することができる。まず、マイクロスコープ(例えば、キーエンス社製VH-5500)によって合わせガラス2の断面を175倍に拡大して表示する。そして、発熱層及び各接着層(42、43)の厚みを目視により特定し、これを測定する。このとき、目視によるばらつきを排除するため、測定回数を5回とし、その平均値を発熱層及び各接着層(42、43)の厚みとする。
【0088】
なお、中間層4の発熱層及び各接着層(42、43)の厚みは全面に亘って一定でなくてもよく、例えば、ヘッドアップディスプレイに用いられる合わせガラス用に楔形にすることもできる。この場合、中間層4の発熱層及び各接着層(42、43)の厚みは、最も厚みの小さい箇所、すなわち、合わせガラスの最下辺部を測定する。中間層4が楔形の場合、外側ガラス板21及び内側ガラス板22は互いに傾いて配置される。合わせガラス2の両ガラス板(21、22)は、平行ではなく、このように互いに傾いて配置されてもよい。例えば、1m当たり3mm以下の変化率で厚みが大きくなる発熱層及び各接着層(42、43)を用いた中間層4を利用してもよい。
【0089】
[撮影装置]
次に、撮影装置8について説明する。撮影装置8は、車外の状況を撮影可能なように、レンズ系、イメージセンサ等によって適宜構成される。撮影装置8により取得された画像は、画像処理装置81に送られる。画像処理装置81は、撮影装置8により取得された画像に基づいて、被写体の種別等を解析する。例えば、被写体の種類は、パターン認識等の公知の画像解析方法によって推定することができる。
【0090】
画像処理装置81は、そのような画像解析を行い、その結果をユーザ(運転者)に提示可能なように、記憶部、制御部、入出力部等を有するコンピュータとして構成される。このような画像処理装置81は、提供されるサービス専用に設計された装置の他、PC(Personal Computer)、タブレット端末等の汎用の装置であってもよい。
【0091】
§2 製造方法
次に、本実施形態に係るウインドシールド1の製造方法を説明する。本実施形態に係るウインドシールド1は、合わせガラス2を構成する外側ガラス板21及び内側ガラス板22を用意し、両ガラス板(21、22)の間に中間層4を挟むことで作製することができる。以下、合わせガラス2の作製から順に説明する。なお、以下で説明するウインドシールド1の製造方法は一例に過ぎず、各ステップは可能な限り変更されてもよい。また、以下で説明する製造工程について、実施の形態に応じて、適宜、ステップの省略、置換、及び追加が可能である。
【0092】
まず、
図7を用いて、合わせガラス2の製造方法について説明する。
図7は、合わせガラス2の製造ラインを例示する。
図7に例示されるように、合わせガラス2の製造ラインは、合わせガラス2の曲げ成形を行うため、リング状の成形型200と、この成形型200を搬送する搬送台201と、加熱炉202と、徐冷炉203と、を備えている。
【0093】
この合わせガラス2の曲げ成形を行う前に、平板状の各ガラス板(21、22)を用意し、用意した各ガラス板(21、22)を所定の形状に切断する。そして、内側ガラス板22の第4面222に、スクリーン印刷等によって、遮蔽層3を構成するセラミックを印刷(塗布)する。
【0094】
次に、各領域に印刷したセラミックを適宜乾燥させる。そして、セラミックを乾燥させた後、第2面212と第3面221とが向かい合うように外側ガラス板21と内側ガラス板22とを上下に重ね合わせることで平板状の合わせガラス20を形成し、形成した平板状の合わせガラス20を成形型200に載置する。この成形型200は搬送台201上に配置されており、成形型200に合わせガラス20を載置した状態で、搬送台201は、加熱炉202及び徐冷炉203内を順に通過する。
【0095】
加熱炉202内で軟化点温度付近まで加熱されると、両ガラス板(21、22)は自重によって周縁部よりも内側が下方に湾曲し、曲面状に成形される。続いて、両ガラス板(21、22)は加熱炉202から徐冷炉203に搬入され、徐冷処理が行われる。その後、両ガラス板(21、22)は、徐冷炉203から外部に搬出されて放冷される。
【0096】
このようにして、両ガラス板(21、22)が成形された後、両ガラス板(21、22)の間に中間層4を挟みこむ。具体的には、まず、外側ガラス板21、接着層42、発熱層、接着層43、及び内側ガラス板22をこの順で積層する。このとき、発熱層は、情報取得領域加熱部5及び他領域加熱部6の形成された面を接着層43側に向ける。
【0097】
また、発熱層の上下の端部は、内側ガラス板22の各切り欠き223~226よりも面方向内側に配置される。更に、各接着層(42、43)の切り欠きを、内側ガラス板22の各切り欠き223~226と一致させる。これにより、内側ガラス板22の各切り欠き223~226からは、外側ガラス板21が露出する。
【0098】
続いて、各切り欠き223~226から、発熱層と接着層43との間に、各接続材(71、73)を挿入する。このとき、各接続材(71、73)には、各固定材(72、74)として、低融点のはんだを塗布しておき、このはんだが各バスバー部(51、61)上に配置されるようにする。
【0099】
こうして、両ガラス板(21、22)、中間層4、及び各接続材(71、73)の積層された積層体が作製される。この積層体をゴムバッグに入れ、減圧吸引しながら約70~110℃で予備接着する。予備接着の方法は、これ以外でも可能であり、次の方法を採ることもできる。例えば、上記積層体をオーブンにより45~65℃で加熱する。次に、この積層体を0.45~0.55MPaでロールにより押圧する。続いて、この積層体を、再度オーブンにより80~105℃で加熱した後、0.45~0.55MPaでロールにより再度押圧する。こうして、予備接着が完了する。
【0100】
次に、本接着を行う。予備接着がなされた積層体を、オートクレーブにより、例えば、8~15気圧で、100~150℃によって、本接着を行う。具体的には、例えば、14気圧で135℃の条件で本接着を行うことができる。以上の予備接着及び本接着を通して、各接着層(42、43)が発熱層を挟んだ状態で各ガラス板(21、22)に接着される。また、各接続材(71、73)のはんだが溶融し、各接続材(71、73)が各バスバー部(51、61)に固定される。これにより、本実施形態に係るウインドシールド1が製造される。
【0101】
上記のように製造されたウインドシールド1は車体に取り付けられ、その際、各接続材(71、73)には接続端子が固定される。その後、各接続端子に通電すると、各接続材(71、73)及び各バスバー部(51、61)を介して各加熱線(52A~52C、62)に電気が流れ、発熱する。これによって、情報取得領域23及びその他の領域の曇り及び/又は氷を除去することができる。
【0102】
<特徴>
以上のとおり、本実施形態に係るウインドシールド1では、合わせガラス2の上端辺に沿う遮蔽層3の帯状領域31の下方(面方向内側)に情報取得領域23が隣接して配置されるように、撮影装置8が車内に設置される。この情報取得領域23の曇り及び/又は氷を除去するための情報取得領域加熱部5の各バスバー部51は、この情報取得領域23の上方に隣接する帯状領域31内で左右方向に並んで配置される。これによって、両バスバー部51は帯状領域31に隠れるため、情報取得領域23の上方を除き、情報取得領域23の周囲の領域に遮蔽層3を設けなくてもよくなる。すなわち、この情報取得領域23を挟むように各バスバー部51を配置するのではなく、本実施形態では、情報取得領域23からいずれか一方向の領域に両バスバー部51を配置することで、その他の方向の領域に遮蔽層3を設けても、設けなくてもいずれでもよいようにしている。これによって、本実施形態では、遮蔽層3の設計自由度を高めることができる。
【0103】
§3 変形例
以上、本発明の実施の形態を詳細に説明してきたが、前述までの説明はあらゆる点において本発明の例示に過ぎない。本発明の範囲を逸脱することなく種々の改良や変形を行うことができることは言うまでもない。例えば、上記ウインドシールド1の各構成要素に関して、実施の形態に応じて、適宜、構成要素の省略、置換及び追加が行われてもよい。また、上記ウインドシールド1の各構成要素の形状及び大きさも、実施の形態に応じて適宜決定されてもよい。例えば、以下のような変更が可能である。なお、以下では、上記実施形態と同様の構成要素に関しては同様の符号を用い、適宜説明を省略した。
【0104】
<3.1>
例えば、上記実施形態に係る遮蔽層3では、合わせガラス2の上端辺に沿う部分に帯状領域31を設定し、一対のバスバー部51を当該部分に含まれるように左右方向に並んで配置している。しかしながら、帯状領域31の設定する位置は、このような例に限定されなくてもよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。
【0105】
例えば、合わせガラス2の下端辺、左端辺、及び右端辺に沿う部分に帯状領域31を設定してもよい。この場合であっても、情報取得領域23は、帯状領域31の面方向内側に配置することができる。例えば、合わせガラス2の下端辺に沿う部分に帯状領域31を設定した場合には、情報取得領域23は、帯状領域31の上方に隣接して配置することができる。
【0106】
ここで、上記
図3では、帯状領域31は、左右方向に延びる矩形状に形成されている。しかしながら、この帯状領域31は、並んで配置される一対のバスバー部51を遮蔽するための領域であり、少なくとも一方向に延びていればよい。そのため、帯状領域31の形状は、矩形状でなくてもよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。
【0107】
また、例えば、上記実施形態では、情報取得領域加熱部5は、3つの加熱線52A~52Cを有している。しかしながら、情報取得領域加熱部5の備える加熱線の数は、3つに限定されなくてもよく、2つであってもよいし、4つ以上であってもよい。情報取得領域加熱部5の備える加熱線の数は、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。各加熱線は、バスバー部51に並列に接続される。このように、情報取得領域加熱部5が複数の加熱線を備えることで、いずれかの加熱線が断線しても、その他の加熱線により、情報取得領域23を温めることができる。
【0108】
また、
図8に示すように、上記実施形態では、各加熱線52A~52Cは直線状に延びており、隣接する加熱線は互いに並行に延びる部分を有している。
図8は、本実施形態に係る情報取得領域加熱部5を模式的に例示する拡大図である。
図8に示されるように、隣接する第1の加熱線52Aと第2の加熱線52Bとは、3つの部分521A~521Cそれぞれで互いに並行に延びている。同様に、隣接する第2の加熱線52Bと第3の加熱線52Cとは、3つの部分522A~522Cそれぞれで互いに並行に延びている。このような部分が存在すると、次のような事象が生じることを本件発明者らは見出した。
【0109】
すなわち、各加熱線52A~52Cの端部では、光の回折が生じる。これによって、位置に応じて光の強め合い又は弱め合いが生じ、撮影装置8による撮影に悪影響を及ぼす可能性がある。そこで、
図9に示されるように、ワイヤーを平行に配置し、このワイヤーを配置した領域に光を通過させて、各ワイヤーの端部で光がどのように回折するかを確認した。各ワイヤー及び光源の条件は下記のとおりである。
【0110】
(ワイヤーの条件)
・線幅:10μm
・ピッチ(隣接するワイヤーの間隔):2mm
(光源の条件)
・光源の種類:ハロゲンランプ
・配置:ワイヤーから7m離れた位置
【0111】
図10は、当該実験の結果を示す。
図10に示されるように、直線状のワイヤーが並列に配置されていると、一方向に光強度の強い線条のパターンが生じてしまうことが分かった。すなわち、上記のような部分522A~522Cが存在すると、撮影装置8による撮影に悪影響が生じやすくなってしまう可能性があることが分かった。
【0112】
そこで、
図11に示されるように、ワイヤーの形状を正弦波(角度:θ)等の波状にして、上記と同様の実験を行った。なお、ワイヤーの条件(線幅、ピッチ)及び光源の条件(光源の種類、配置)は、上記と同様にした。θは、加熱線の変曲点(振幅の中心)における接線と水平線とのなす角度を示す。
【0113】
図12は、当該実験の結果を示す。
図12に示されるとおり、ワイヤーの形状を波状にすると、各ワイヤーの端部で光の回折が生じるものの、光の強め合いが生じる方向を多方向に分散することができることが分かった。すなわち、各方向に生じるパターンの光強度を弱めることができ、これによって、ワイヤーの端部で生じる光の回折が撮影装置8による撮影に悪影響を及ぶ可能性を低減することができることが分かった。
【0114】
したがって、各加熱線52A~52Cのうち少なくともいずれかの隣接する加熱線が互いに並行に延びる部分を有する場合、互いに隣接する加熱線の並行の延びる部分はそれぞれ波状に形成してもよい。例えば、
図13及び
図14に例示されるように、各加熱線を波状に形成してもよい。
【0115】
図13は、本変形例に係る情報取得領域加熱部5Aを模式的に例示する拡大図である。各加熱線53A~53Cは、波状に形成される点を除き、上記実施形態に係る各加熱線52A~52Cと同様に構成されている。ここで、
図13で示される変形例では、隣接する第1の加熱線53Aと第2の加熱線53Bとは、3つの部分531A~531Cで互いに並行に延びている。この各部分531A~531Cでは、隣接する第1の加熱線53Aと第2の加熱線53Bとは同一パターンの正弦波状に形成されている。また、隣接する第2の加熱線53Bと第3の加熱線53Cとは、3つの部分532A~532Cで互いに並行に延びている。この各部分532A~532Cでは、隣接する第2の加熱線53Bと第3の加熱線53Cとは同一パターンの正弦波状に形成されている。これによって、上記
図12に示すとおり、各加熱線の端部で生じる光の回折により撮影装置8の撮影に悪影響が生じる可能性を低減することができる。
【0116】
また、
図14に例示されるように、隣接する加熱線の並行に延びる部分の波状のパターンを互いにずらしてもよい。
図14では、上記各加熱線53A~53Cの正弦波状のパターンをずらした形態が例示されている。このように隣接する加熱線の並行に延びる部分の波状のパターンを互いにずらすことで、
図10に示すような光強度の強い線条のパターンが更に生じ難いようにすることができる。これによって、各加熱線の端部で生じる光の回折により撮影装置8の撮影に悪影響が生じる可能性を更に低減することができる。
【0117】
加えて、上記のような光強度の強い線条のパターンが生じてしまうと、撮影装置8に入射する光を用いて撮像した画像内で当該線条のパターンのエッジが発生してしまい、例えば、パターン認識などの画像処理でエラーが生じやすくなってしまう。これに対して、上記のように各加熱線を波状にすることによって、各加熱線の間を通過した光を平坦化することができるため、撮影装置8に入射する光を用いて撮像した画像内で、当該線条のパターンのエッジが発生するのを抑えることができる。これによって、撮影装置8により得られた画像に所定の画像処理を適用した際にエラーが生じる可能性を低減することができる。したがって、撮影装置8により得られた画像を所定の画像処理を適用する場合に、上記のように各加熱線を波状にすることで、光強度の強い線状のパターンの発生を抑えることは非常に重要となる。
【0118】
他領域加熱部6の各加熱線62についても同様である。そのため、各加熱線62の少なくとも隣接する加熱線の並行に延びる部分を波状に形成してもよいし、この波状に形成した部分のパターンを互いにずらしてもよい。上記のように、各加熱線(53A~53C、62)を波状に形成することで、上記のような光の回折に起因して光強度の強い線状パターンが生じるのを防ぐ他、各加熱線(53A~53C、62)を配置する領域を均一に温め易いようにすることができる。なお、各加熱線(53A~53C、62)の形状は、上記のような直線状及び波状に限定されなくてもよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。
【0119】
<3.2>
また、例えば、上記実施形態では、情報取得領域加熱部5及び他領域加熱部6は、外側ガラス板21と内側ガラス板22との間の中間層4に配置されている。しかしながら、情報取得領域加熱部5及び他領域加熱部6の配置は、このような例に限定されなくてもよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。例えば、情報取得領域加熱部5及び他領域加熱部6は、外側ガラス板21及び内側ガラス板22のいずれかの面上に配置されてもよい。
【0120】
なお、情報取得領域加熱部5及び他領域加熱部6は、種々の方法により、外側ガラス板21及び内側ガラス板22のいずれかの面上に配置することができる。例えば、合わせガラス2を成形する際に、外側ガラス板21及び内側ガラス板22のいずれかの面(典型的には、第4面222)上に、スクリーン印刷等により、情報取得領域加熱部5及び他領域加熱部6のパターンを印刷する。そして、遮蔽層3と同様にそのパターンを焼成することで、情報取得領域加熱部5及び他領域加熱部6を形成することができる。
【0121】
また、
図15及び
図16A~
図16Cに示される転写によっても、情報取得領域加熱部5及び他領域加熱部6を外側ガラス板21及び内側ガラス板22のいずれかの面上に配置することができる。
図15は、情報取得領域加熱部5及び他領域加熱部6の転写に利用する転写シートを例示する。また、
図16A~
図16Cは、当該転写シートを利用して情報取得領域加熱部5及び他領域加熱部6を形成する過程を例示する。
【0122】
まず、
図15に例示されるような転写シートを用意する。
図15に例示される転写シートは、剥離フィルム11と、その上にスクリーン印刷等で形成された情報取得領域加熱部5及び他領域加熱部6のパターンと、当該パターンを覆うように配置された接着層12とを有している。剥離フィルム11は公知のものでよく、情報取得領域加熱部5及び他領域加熱部6は上述したものである。また、接着層12には、例えば、アクリル、メチルセルロース、ニトロセルロース、エチルセルロース、酢酸ビニル、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール、ポリビニルアルコール、ポリエステル等の樹脂製の接着剤を利用することができる。なお、転写までの間、接着層12を剥離可能な保護フィルム等で覆っておくこともできる。
【0123】
次に、
図16Aに示すように、この転写シートの接着層12を、成形後の合わせガラス2のいずれかの面に貼り付けた後、剥離フィルム11を剥がす。これにより、
図16Bに示すように、合わせガラス2の面上には、接着層12、情報取得領域加熱部5及び他領域加熱部6のパターンがこの順で配置される。その後、この合わせガラス2を焼成すると、
図16Cに示すように、接着層12が溶解し、情報取得領域加熱部5及び他領域加熱部6が合わせガラス2の面に焼き付けられる。例えば、接着層12として、アクリル系接着剤を採用した場合には、約400~700℃で、約3分の焼成により、情報取得領域加熱部5及び他領域加熱部6を合わせガラス2に転写することができる。なお、転写シートの構成は、上記のような例に限定されなくてもよく、情報取得領域加熱部5及び他領域加熱部6を転写可能であれば、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。
【0124】
以上のように、情報取得領域加熱部5及び他領域加熱部6を転写シートによって形成すると、次のような利点がある。まず、情報取得領域加熱部5及び他領域加熱部6のパターンを合わせガラス2上に直接形成するよりも、剥離フィルム11上に形成する方が容易であり、自由度が高い。そのため、高構成パターンの作製、積層体の作製等が容易となる。次に、このような転写シートを大量に作製しておけば、情報取得領域加熱部5及び他領域加熱部6を合わせガラス2に形成する際の生産性が向上する。更に、情報取得領域加熱部5及び他領域加熱部6を凹凸面についても貼り付けることができる。
【0125】
<3.3>
また、例えば、
図17に例示されるように、上記実施形態に係る情報取得領域23には、防曇膜9を取り付けてもよい。
図17は、情報取得領域23に防曇膜9が取り付けられたウインドシールド1Cを例示する。
【0126】
図17で例示されるウインドシールド1Cでは、防曇膜9は、視野方向において情報取得領域23に含まれるように、内側ガラス板22の第4面222に貼り付けられている。この防曇膜9の種類は、合わせガラス2の防曇効果を奏するものであれば、特に限定されなくてもよく、公知のものを用いることができる。一般的に、防曇膜の種類として、水蒸気から生じる水を水膜として表面に形成する親水タイプ、水蒸気を吸収する吸水タイプ、及び水蒸気から生じる水滴を撥水する撥水タイプがある。防曇膜9には、いずれのタイプも利用可能である。
【0127】
これによって、情報取得領域23をより曇り難くすることができる。また、例えば、情報取得領域23の曇りを情報取得領域加熱部5で除去するためには、各加熱線52A~52Cに通電して温まるまで、ある程度の時間がかかる。そのため、情報取得領域23が繰り返し曇ってしまうと、その曇りを除去する時間のロスがそれだけ大きくなってしまう。これに対して、当該変形例によれば、情報取得領域23を比較的に曇り難くすることができるため、情報取得領域23の曇りを除去するのに情報取得領域加熱部5を利用する回数を減らすことができ、その分だけ時間のロスを少なくすることができる。
【0128】
なお、当該変形例では、内側ガラス板22の第4面222に防曇膜9を直接貼り付けている。しかしながら、防曇膜9の配置は、このような例に限定されなくてもよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。例えば、防曇膜9をシート状の基材上に配置した上で、この基材を透明の粘着剤により合わせガラス2に貼り付けることができる。また、粘着剤、基材、及び防曇膜9をこの順で積層することもできる。基材は、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレートなどの透明の樹脂シートにより形成することができる。
【0129】
また、防曇膜9は、例えば、次のように構成することができる。すなわち、防曇膜9は、撥水基と金属酸化物成分とを含み、好ましくは吸水性樹脂をさらに含むように構成することができる。防曇膜9は、必要に応じ、その他の機能成分をさらに含んでいてもよい。吸水性樹脂は、水を吸収して保持できる樹脂であればその種類を問わない。撥水基は、撥水基を有する金属化合物(撥水基含有金属化合物)から防曇膜に供給することができる。金属酸化物成分は、撥水基含有金属化合物その他の金属化合物、金属酸化物微粒子等から防曇膜に供給することができる。以下、各成分について説明する。
【0130】
[吸水性樹脂]
まず、吸水性樹脂について説明する。吸水性樹脂としては、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、及びポリビニルアルコール樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種を例示できる。ウレタン樹脂としては、ポリイソシアネートとポリオールとで構成されるポリウレタン樹脂が挙げられる。ポリオールとしては、アクリルポリオール及びポリオキシアルキレン系ポリオールが好ましい。エポキシ系樹脂としては、グリシジルエーテル系エポキシ樹脂、グリシジルエステル系エポキシ樹脂、グリシジルアミン系エポキシ樹脂、環式脂肪族エポキシ樹脂が挙げられる。好ましいエポキシ樹脂は、環式脂肪族エポキシ樹脂である。以下、好ましい吸水性樹脂であるポリビニルアセタール樹脂(以下、単に「ポリアセタール」)について説明する。
【0131】
ポリビニルアセタールは、ポリビニルアルコールにアルデヒドを縮合反応させてアセタール化することにより得ることができる。ポリビニルアルコールのアセタール化は、酸触媒の存在下で水媒体を用いる沈澱法、アルコール等の溶媒を用いる溶解法等公知の方法を用いて実施すればよい。アセタール化は、ポリ酢酸ビニルのケン化と並行して実施することもできる。アセタール化度は、2~40モル%、さらには3~30モル%、特に5~20モル%、場合によっては5~15モル%が好ましい。アセタール化度は、例えば13C核磁気共鳴スペクトル法に基づいて測定することができる。アセタール化度が上記範囲にあるポリビニルアセタールは、吸水性及び耐水性が良好である防曇膜の形成に適している。
【0132】
ポリビニルアルコールの平均重合度は、200~4500、さらに500~4500が好ましい。高い平均重合度は、吸水性及び耐水性が良好である防曇膜の形成に有利であるが、平均重合度が高すぎると溶液の粘度が高くなり過ぎて膜の形成に支障をきたすことがある。ポリビニルアルコールのケン化度は、75~99.8モル%が好適である。
【0133】
ポリビニルアルコールに縮合反応させるアルデヒドとしては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ブチルアルデヒド、ヘキシルカルバルデヒド、オクチルカルバルデヒド、デシルカルバルデヒド等の脂肪族アルデヒドを挙げることができる。また、ベンズアルデヒド;2-メチルベンズアルデヒド、3-メチルベンズアルデヒド、4-メチルベンズアルデヒド、その他のアルキル基置換ベンズアルデヒド;クロロベンズアルデヒド、その他のハロゲン原子置換ベンズアルデヒド;ヒドロキシ基、アルコキシ基、アミノ基、シアノ基等のアルキル基を除く官能基により水素原子が置換された置換ベンズアルデヒド;ナフトアルデヒド、アントラアルデヒド等の縮合芳香環アルデヒド等の芳香族アルデヒドを挙げることができる。疎水性が強い芳香族アルデヒドは、低アセタール化度で耐水性に優れた防曇膜を形成する上で有利である。芳香族アルデヒドの使用は、水酸基を多く残存させながら吸水性が高い膜を形成する上でも有利である。ポリビニルアセタールは、芳香族アルデヒド、特にベンズアルデヒドに由来するアセタール構造を含むことが好ましい。
【0134】
防曇膜における吸水性樹脂の含有量は、膜硬度、吸水性及び防曇性の観点から、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、特に好ましくは65質量%以上であり、95質量%以下、より好ましくは90質量%以下、特に好ましくは85質量%以下である。
【0135】
[撥水基]
次に、撥水基について説明する。撥水基は、防曇膜の強度と防曇性との両立を容易にすると共に、膜の表面を疎水性として水滴が形成されたとしても入射する光の直進性を確保することに貢献する。撥水基による効果を十分に得るためには、撥水性が高い撥水基を用いることが好ましい。好ましい撥水基は、(1)炭素数3~30の鎖状又は環状のアルキル基、及び(2)水素原子の少なくとも一部をフッ素原子により置換した炭素数1~30の鎖状又は環状のアルキル基(以下、「フッ素置換アルキル基」ということがある)から選ばれる少なくとも1種である。
【0136】
(1)及び(2)に関し、鎖状又は環状のアルキル基は、鎖状アルキル基であることが好ましい。鎖状アルキル基は、分岐を有するアルキル基であってもよいが、直鎖アルキル基が好ましい。炭素数が30を超えるアルキル基は、防曇膜を白濁させることがある。膜の防曇性、強度及び外観のバランスの観点から、鎖状アルキル基の炭素数は、20以下が好ましく、例えば1~8であり、また例えば4~16であり、好ましくは4~8である。特に好ましいアルキル基は、炭素数4~8の直鎖アルキル基、例えばn-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、及びn-オクチル基である。(2)に関し、フッ素置換アルキル基は、鎖状又は環状のアルキル基の水素原子の一部のみをフッ素原子により置換した基であってもよく、鎖状又は環状のアルキル基の水素原子のすべてをフッ素原子により置換した基、例えば直鎖状のパーフルオロアルキル基、であってもよい。フッ素置換アルキル基は撥水性が高いため、少ない量の添加によって十分な効果を得ることができる。ただし、フッ素置換アルキル基は、その含有量が多くなり過ぎると、膜を形成するための塗工液中でその他の成分から分離することがある。
【0137】
(撥水基を有する加水分解性金属化合物)
撥水基を防曇膜に配合するためには、撥水基を有する金属化合物(撥水基含有金属化合物)、特に撥水基と加水分解可能な官能基又はハロゲン原子とを有する金属化合物(撥水基含有加水分解性金属化合物)又はその加水分解物を、膜を形成するための塗工液に添加するとよい。言い換えると、撥水基は、撥水基含有加水分解性金属化合物に由来するものであってもよい。撥水基含有加水分解性金属化合物としては、以下の式(I)に示す撥水基含有加水分解性シリコン化合物が好適である。
RmSiY4-m (I)
ここで、Rは、撥水基、すなわち水素原子の少なくとも一部がフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1~30の鎖状又は環状のアルキル基であり、Yは加水分解可能な官能基又はハロゲン原子であり、mは1~3の整数である。加水分解可能な官能基は、例えば、アルコキシル基、アセトキシ基、アルケニルオキシ基及びアミノ基から選ばれる少なくとも1種であり、好ましくはアルコキシ基、特に炭素数1~4のアルコキシ基である。アルケニルオキシ基は、例えばイソプロペノキシ基である。ハロゲン原子は、好ましくは塩素である。なお、ここに例示した官能基は、以降に述べる「加水分解可能な官能基」としても使用することができる。mは好ましくは1~2である。
【0138】
式(I)により示される化合物は、加水分解及び重縮合が完全に進行すると、以下の式(II)により表示される成分を供給する。
RmSiO(4-m)/2 (II)
ここで、R及びmは、上述したとおりである。加水分解及び重縮合の後、式(II)により示される化合物は、実際には、防曇膜中において、シリコン原子が酸素原子を介して互いに結合したネットワーク構造を形成する。
【0139】
このように、式(I)により示される化合物は、加水分解又は部分加水分解し、さらには少なくとも一部が重縮合して、シリコン原子と酸素原子とが交互に接続し、かつ三次元的に広がるシロキサン結合(Si-O-Si)のネットワーク構造を形成する。このネットワーク構造に含まれるシリコン原子には撥水基Rが接続している。言い換えると、撥水基Rは、結合R-Siを介してシロキサン結合のネットワーク構造に固定される。この構造は、撥水基Rを膜に均一に分散させる上で有利である。ネットワーク構造は、式(I)により示される撥水基含有加水分解性シリコン化合物以外のシリコン化合物(例えば、テトラアルコキシシラン、シランカップリング剤)から供給されるシリカ成分を含んでいてもよい。撥水基を有さず加水分解可能な官能基又はハロゲン原子を有するシリコン化合物(撥水基非含有加水分解性シリコン化合物)を撥水基含有加水分解性シリコン化合物と共に防曇膜を形成するための塗工液に配合すると、撥水基と結合したシリコン原子と撥水基と結合していないシリコン原子とを含むシロキサン結合のネットワーク構造を形成できる。このような構造とすれば、防曇膜中における撥水基の含有率と金属酸化物成分の含有率とを互いに独立して調整することが容易になる。
【0140】
防曇膜が吸水性樹脂を含む場合、撥水基は、吸水性樹脂を含む防曇膜表面における水蒸気の透過性を向上させることにより防曇性能を向上させる。吸水と撥水という2つの機能は互いに相反するため、吸水性材料と撥水性材料とは、従来、別の層に振り分けて付与されてきたが、防曇膜に含まれる撥水基は、防曇層の表面近傍における水の偏在を解消して結露までの時間を引き延ばし、防曇膜の防曇性を向上させる。以下ではその効果を説明する。
【0141】
吸水性樹脂を含む防曇膜へと侵入した水蒸気は、吸水性樹脂等の水酸基と水素結合し、結合水の形態で保持される。量が増加するにつれ、水蒸気は、結合水の形態から半結合水の形態を経て、ついには防曇膜中の空隙に保持される自由水の形態で保持されるようになる。防曇膜において、撥水基は、水素結合の形成を妨げ、かつ形成した水素結合の解離を容易にする。吸水性樹脂の含有率が同じであれば、膜中における水素結合可能な水酸基の数には差がないが、撥水基は水素結合の形成速度を低下させる。したがって、撥水基を含有する防曇膜において、水分は、最終的には上記のいずれかの形態で膜に保持されることになるが、保持されるまでには膜の底部まで水蒸気のまま拡散することができる。また、一旦保持された水も、比較的容易に解離し、水蒸気の状態で膜の底部まで移動しやすい。結果的に、膜の厚さ方向についての水分の保持量の分布は、表面近傍から膜の底部まで比較的均一になる。つまり、防曇膜の厚さ方向の全てを有効に活用し、膜表面に供給された水を吸収することができるため、表面に水滴が凝結しにくく、防曇性が高くなる。
【0142】
一方、撥水基を含まない従来の防曇膜においては、膜中に侵入した水蒸気は極めて容易に結合水、半結合水又は自由水の形態で保持される。したがって、侵入した水蒸気は、膜の表面近傍で保持される傾向にある。結果的に、膜中の水分は、表面近傍が極端に多く、膜の底部へ進むにつれて急速に減少する。つまり、膜の底部では未だ水を吸収できるにも拘わらず、膜の表面近傍では水分により飽和して水滴として凝結するため、防曇性が限られたものとなる。
【0143】
撥水基含有加水分解性シリコン化合物(式(I)参照)を用いて撥水基を防曇膜に導入すると、強固なシロキサン結合(Si-O-Si)のネットワーク構造が形成される。このネットワーク構造の形成は、耐摩耗性のみならず、硬度、耐水性等を向上させる観点からも有利である。
【0144】
撥水基は、防曇膜の表面における水の接触角が70度以上、好ましくは80度以上、より好ましくは90度以上になる程度に添加するとよい。水の接触角は、4mgの水滴を膜の表面に滴下して測定した値を採用することとする。特に撥水性がやや弱いメチル基又はエチル基を撥水基として用いる場合は、水の接触角が上記の範囲となる量の撥水基を防曇膜に配合することが好ましい。この水の接触角は、その上限が特に制限されるわけではないが、例えば150度以下、また例えば120度以下、さらには105度以下である。撥水基は、防曇膜の表面のすべての領域において上記水の接触角が上記の範囲となるように、防曇膜に均一に含有させることが好ましい。
【0145】
ここで、
図18及び
図19を用いて、水の接触角と防曇膜9との関係について説明する。
図18及び
図19は、接触角の異なる水滴(90、91)が防曇膜9に取り付いた状態を示す。
図18及び
図19に示すように、防曇膜9の表面に同量の水蒸気が凝結して形成された水滴(90、91)が防曇膜9を覆う面積は、その表面の水の接触角が大きいほど小さくなる傾向を有する。また、水滴(90、91)により覆われる面積が小さいほど、防曇膜9に入射する光が散乱する面積の比率も小さくなる。したがって、撥水基の存在により水の接触角が大きくなった防曇膜9は、その表面に水滴が形成された状態において透過光の直進性を保持するうえで有利である。
【0146】
防曇膜9は、水の接触角が上述の好ましい範囲となるように、撥水基を含むことが好ましい。吸水性樹脂を含む場合、防曇膜は、吸水性樹脂100質量部に対し、0.05質量部以上、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.3質量部以上の範囲内となるように、また、10質量部以下、好ましくは5質量部以下、の範囲内となるように、撥水基を含むことが好ましい。
【0147】
[金属酸化物成分]
次に、金属酸化物成分について説明する。金属酸化物成分は、例えば、Si、Ti、Zr、Ta、Nb、Nd、La、Ce及びSnから選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物成分であり、好ましくはSiの酸化物成分(シリカ成分)である。吸水性樹脂を含む場合、防曇膜は、吸水性樹脂100質量部に対し、0.01質量部以上、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.2質量部以上、さらに好ましくは1質量部以上、特に好ましくは5質量部以上、場合によっては7質量部以上、必要であれば10質量部以上、また、60質量部以下、特に50質量部以下、好ましくは40質量部以下、さらに好ましくは30質量部以下、特に好ましくは20質量部以下、場合によっては18質量部以下となるように、金属酸化物成分を含むことが好ましい。金属酸化物成分は、膜の強度、特に耐擦傷性を確保するために必要な成分であるが、その含有量が過多となると膜の防曇性が低下する。
【0148】
金属酸化物成分の少なくとも一部は、防曇膜を形成するための塗工液に添加された、加水分解性金属化合物又その加水分解物に由来する金属酸化物成分であってもよい。ここで、加水分解性金属化合物は、a)撥水基と加水分解可能な官能基又はハロゲン原子とを有する金属化合物(撥水基含有加水分解性金属化合物)及びb)撥水基を有さず加水分解可能な官能基又はハロゲン原子を有する金属化合物(撥水基非含有加水分解性金属化合物)から選ばれる少なくとも1つである。a)及び/又はb)に由来する金属酸化物成分は、加水分解性金属化合物を構成する金属原子の酸化物である。金属酸化物成分は、防曇膜を形成するための塗工液に添加された金属酸化物微粒子に由来する金属酸化物成分と、その塗工液に添加された、加水分解性金属化合物又その加水分解物に由来する金属酸化物成分とを含んでいてもよい。ここでも、加水分解性金属化合物は、上記a)及びb)から選ばれる少なくとも1つである。上記b)、すなわち撥水基を有しない加水分解性金属化合物は、テトラアルコキシシラン及びシランカップリング剤から選ばれる少なくとも1つを含んでいてもよい。以下、既に説明した上記a)を除き、金属酸化物微粒子と上記b)とについて説明する。
【0149】
(金属酸化物微粒子)
防曇膜9は、金属酸化物成分の少なくとも一部として金属酸化物微粒子をさらに含んでいてもよい。金属酸化物微粒子を構成する金属酸化物は、例えば、Si、Ti、Zr、Ta、Nb、Nd、La、Ce及びSnから選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物であり、好ましくはシリカ微粒子である。シリカ微粒子は、例えば、コロイダルシリカを添加することにより膜に導入できる。金属酸化物微粒子は、防曇膜に加えられた応力を膜を支持する透明物品に伝達する作用に優れ、硬度も高い。したがって、金属酸化物微粒子の添加は、防曇膜の耐摩耗性及び耐擦傷性を向上させる観点から有利である。また、防曇膜に金属酸化物微粒子を添加すると、微粒子が接触又は近接している部位に微細な空隙が形成され、この空隙から膜中に水蒸気が取り込まれやすくなる。このため、金属酸化物微粒子の添加は、防曇性の向上に有利に作用することもある。金属酸化物微粒子は、防曇膜を形成するための塗工液に予め形成した金属酸化物微粒子を添加することにより、防曇膜に供給することができる。
【0150】
金属酸化物微粒子の平均粒径は、大きすぎると膜が白濁することがあり、小さすぎると凝集して均一に分散させることが困難となる。この観点から、金属酸化物微粒子の好ましい平均粒径は、1~20nm、特に5~20nmである。なお、ここでは、金属酸化物微粒子の平均粒径を、一次粒子の状態で記述している。また、金属酸化物微粒子の平均粒径は、走査型電子顕微鏡を用いた観察により任意に選択した50個の微粒子の粒径を測定し、その平均値を採用して定めることとする。金属酸化物微粒子は、その含有量が過大となると、膜全体の吸水量が低下し、膜が白濁するおそれがある。防曇膜が吸水性樹脂を含む場合、金属酸化物微粒子は、吸水性樹脂100質量部に対し、0~50質量部、好ましくは1~30質量部、より好ましくは2~30質量部、特に好ましくは5~25質量部、場合によっては10~20質量部となるように添加するとよい。
【0151】
(撥水基を有しない加水分解性金属化合物)
また、防曇膜9は、撥水基を有しない加水分解性金属化合物(撥水基非含有加水分解性化合物)に由来する金属酸化物成分を含んでいてもよい。好ましい撥水基非含有加水分解性金属化合物は、撥水基を有しない加水分解性シリコン化合物である。撥水基を有しない加水分解性シリコン化合物は、例えば、シリコンアルコキシド、クロロシラン、アセトキシシラン、アルケニルオキシシラン及びアミノシランから選ばれる少なくとも1種のシリコン化合物(ただし、撥水基を有しない)であり、撥水基を有しないシリコンアルコキシドが好ましい。なお、アルケニルオキシシランとしては、イソプロペノキシシランを例示できる。
【0152】
撥水基を有しない加水分解性シリコン化合物は、以下の式(III)に示す化合物であってもよい。
SiY4 (III)
上述したとおり、Yは、加水分解可能な官能基であって、好ましくはアルコキシル基、アセトキシ基、アルケニルオキシ基、アミノ基及びハロゲン原子から選ばれる少なくとも1つである。
【0153】
撥水基非含有加水分解性金属化合物は、加水分解又は部分加水分解し、さらに、少なくともその一部が重縮合して、金属原子と酸素原子とが結合した金属酸化物成分を供給する。この成分は、金属酸化物微粒子と吸水性樹脂とを強固に接合し、防曇膜の耐摩耗性、硬度、耐水性等の向上に寄与しうる。防曇膜が吸水性樹脂を含む場合、撥水基を有しない加水分解性金属化合物に由来する金属酸化物成分は、吸水性樹脂100質量部に対し、0~40質量部、好ましくは0.1~30質量部、より好ましくは1~20質量部、特に好ましくは3~10質量部、場合によっては4~12質量部の範囲とするとよい。
【0154】
撥水基を有しない加水分解性シリコン化合物の好ましい一例は、テトラアルコキシシラン、より具体的には炭素数が1~4のアルコキシ基を有するテトラアルコキシシランである。テトラアルコキシシランは、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ-n-プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラ-n-ブトキシシラン、テトライソブトキシシラン、テトラ-sec-ブトキシシラン及びテトラ-tert-ブトキシシランから選ばれる少なくとも1種である。
【0155】
テトラアルコキシシランに由来する金属酸化物(シリカ)成分の含有量が過大となると、防曇膜の防曇性が低下することがある。防曇膜の柔軟性が低下し、水分の吸収及び放出に伴う膜の膨潤及び収縮が制限されることが一因である。防曇膜が吸水性樹脂を含む場合、テトラアルコキシシランに由来する金属酸化物成分は、吸水性樹脂100質量部に対し、0~30質量部、好ましくは1~20質量部、より好ましくは3~10質量部の範囲で添加するとよい。
【0156】
撥水基を有しない加水分解性シリコン化合物の好ましい別の一例は、シランカップリング剤である。シランカップリング剤は、互いに異なる反応性官能基を有するシリコン化合物である。反応性官能基は、その一部が加水分解可能な官能基であることが好ましい。シランカップリング剤は、例えば、エポキシ基及び/又はアミノ基と加水分解可能な官能基とを有するシリコン化合物である。好ましいシランカップリング剤としては、グリシジルオキシアルキルトリアルコキシシラン及びアミノアルキルトリアルコキシシランを例示できる。これらのシランカップリング剤において、シリコン原子に直接結合しているアルキレン基の炭素数は1~3であることが好ましい。グリシジルオキシアルキル基及びアミノアルキル基は、親水性を示す官能基(エポキシ基、アミノ基)を含むため、アルキレン基を含むものの、全体として撥水性ではない。
【0157】
シランカップリング剤は、有機成分である吸水性樹脂と無機成分である金属酸化物微粒子等とを強固に結合し、防曇膜の耐摩耗性、硬度、耐水性等の向上に寄与しうる。しかし、シランカップリング剤に由来する金属酸化物(シリカ)成分の含有量が過大となると、防曇膜の防曇性が低下し、場合によっては防曇膜が白濁する。防曇膜が吸水性樹脂を含む場合、シランカップリング剤に由来する金属酸化物成分は、吸水性樹脂100質量部に対し、0~10質量部、好ましくは0.05~5質量部、より好ましくは0.1~2質量部の範囲で添加するとよい。
【0158】
[架橋構造]
また、防曇膜9は、架橋剤、好ましくは有機ホウ素化合物、有機チタン化合物及び有機ジルコニウム化合物から選ばれる少なくとも1種の架橋剤、に由来する架橋構造を含んでいてもよい。架橋構造の導入は、防曇膜の耐摩耗性、耐擦傷性、耐水性を向上させる。別の観点から述べると、架橋構造の導入は、防曇膜の防曇性能を低下させることなくその耐久性を改善することを容易にする。
【0159】
金属酸化物成分がシリカ成分である防曇膜に架橋剤に由来する架橋構造を導入した場合、その防曇膜は、金属原子としてシリコンと共にシリコン以外の金属原子、好ましくはホウ素、チタン又はジルコニウム、を含有することがある。
【0160】
架橋剤は、用いる吸水性樹脂を架橋できるものであれば、その種類は特に限定されない。ここでは、有機チタン化合物についてのみ例を挙げる。有機チタン化合物は、例えば、チタンアルコキシド、チタンキレート系化合物及びチタンアシレートから選ばれる少なくとも1つである。チタンアルコキシドは、例えば、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラ-n-ブトキシド、チタンテトラオクトキシドである。チタンキレ-ト系化合物は、例えば、チタンアセチルアセトナート、チタンアセト酢酸エチル、チタンオクチレングリコール、チタントリエタノールアミン、チタンラクテートである。チタンラクテートは、アンモニウム塩(チタンラクテートアンモニウム)であってもよい。チタンアシレートは、例えばチタンステアレートである。好ましい有機チタン化合物は、チタンキレート系化合物、特にチタンラクテートである。
【0161】
吸水性樹脂がポリビニルアセタールである場合の好ましい架橋剤は、有機チタン化合物、特にチタンラクテートである。
【0162】
[その他の任意成分]
防曇膜9には、その他の添加剤を配合してもよい。添加剤としては、防曇性を改善する機能を有するグリセリン、エチレングリコール等のグリコール類が挙げられる。添加剤は、界面活性剤、レベリング剤、紫外線吸収剤、着色剤、消泡剤、防腐剤等であってもよい。
【0163】
[膜厚]
防曇膜9の膜厚は、要求される防曇特性その他に応じて適宜調整すればよい。防曇膜9の好ましい膜厚は、1~20μm、好ましくは2~15μm、特に3~10μmである。
【0164】
[成膜]
防曇膜9は、防曇膜9を形成するための塗工液を透明基板等の透明物品上に塗布し、塗布した塗工液を乾燥させ、必要に応じてさらに高温高湿処理等を実施することにより、成膜することができる。塗工液の調製に用いる溶媒、塗工液の塗布方法は、従来から公知の材料及び方法を用いればよい。
【0165】
塗工液の塗布工程では、雰囲気の相対湿度を40%未満、さらには30%以下に保持することが好ましい。相対湿度を低く保持すると、膜が雰囲気から水分を過剰に吸収することを防止できる。雰囲気から水分が多量に吸収されると、膜のマトリックス内に入り込んで残存した水が膜の強度を低下させるおそれがある。
【0166】
塗工液の乾燥工程は、風乾工程と、加熱を伴う加熱乾燥工程とを含むことが好ましい。風乾工程は、相対湿度を40%未満、さらには30%以下に保持した雰囲気に塗工液を曝すことにより、実施するのが好ましい。風乾工程は、非加熱工程として、言い換えると室温で実施できる。塗工液に加水分解性シリコン化合物が含まれている場合、加熱乾燥工程では、シリコン化合物の加水分解物等に含まれるシラノール基及び透明物品上に存在する水酸基が関与する脱水反応が進行し、シリコン原子と酸素原子とからなるマトリックス構造(Si-O結合のネットワーク)が発達する。
【0167】
吸水性樹脂等の有機物の分解を避けるべく、加熱乾燥工程において適用する温度は過度に高くしないほうがよい。この場合の適切な加熱温度は、300℃以下、例えば100~200℃であり、加熱時間は、1分~1時間である。
【0168】
防曇膜9の成膜に際しては、適宜、高温高湿処理工程を実施してもよい。高温高湿処理工程の実施により、防曇性と膜の強度との両立がより容易になりうる。高温高湿処理工程は、例えば50~100℃、相対湿度60~95%の雰囲気に5分~1時間保持することにより、実施することができる。高温高湿処理工程は、塗布工程及び乾燥工程の後に実施してもよく、塗布工程及び風乾工程の後であって加熱乾燥工程の前に実施してもよい。特に前者の場合には、高温高湿処理工程の後に、さらに熱処理工程を実施してもよい。この追加の熱処理工程は、例えば、80~180℃の雰囲気に5分~1時間保持することにより、実施することができる。
【0169】
また、塗工液から形成した防曇膜9は、必要に応じ、洗浄及び/又は湿布拭きを行ってもよい。具体的には、防曇膜9の表面を、水流に曝したり、水を含ませた布で拭いたりすることにより実施できる。これらで用いる水は純水が適している。洗浄のために洗剤を含む溶液を用いることは避けたほうがよい。この工程により、防曇膜9の表面に付着した埃、汚れ等を除去して、清浄な塗膜面を得ることができる。
【0170】
以上の説明から明らかなように、防曇膜9の好ましい形態としては、以下が挙げられる。すなわち、防曇膜9は、好ましくは、吸水性樹脂100質量部に対し、金属酸化物成分を0.1~60質量部、撥水基を0.05~10質量部含む。このとき、撥水基は、炭素数1~8の鎖状アルキル基であり、撥水基は、金属酸化物成分を構成する金属原子に直接結合しており、金属原子がシリコンであってよい。また、金属酸化物成分の少なくとも一部が、防曇膜を形成するための塗工液に添加された、加水分解性金属化合物又は加水分解性金属化合物の加水分解物に由来する金属酸化物成分であって、加水分解性金属化合物は、撥水基を有する加水分解性金属化合物、及び撥水基を有しない加水分解性金属化合物から選ばれる少なくとも1種であってよい。更に、撥水基を有しない加水分解性金属化合物が、テトラアルコキシシラン及びシランカップリング剤から選ばれる少なくとも1種を含んでよい。防曇膜9をこのようにすることで、情報取得領域23の曇りを抑えることができ、情報取得装置による車外の情報の取得を適切に行えるようになる。なお、防曇膜9を第4面222に配置する場合には、情報取得領域加熱部5が防曇膜9に直接接触しないように、例えば、上記実施形態のように、情報取得領域加熱部5を第4面222以外に配置するのが望ましい。これにより、防曇膜9の劣化を防ぐことができる。
【0171】
<3.4>
また、例えば、上記実施形態では、情報取得領域23の上方(面方向外側)を除き、情報取得領域23の周囲には、遮蔽層3が設けられていない。しかしながら、一対のバスバー部51を並列に配置する部分に遮蔽層3が設けられるのであれば、当該遮蔽層3の形状は、このような例に限定されなくてもよく、例えば、情報取得領域23を囲むように遮蔽層3が設けられてもよい。
【0172】
図20は、情報取得領域23Dを囲むように遮蔽層3Dを設けたウインドシールド1Dを模式的に例示する。
図20に例示されるように、本変形例に係る遮蔽層3Dは、合わせガラス2の上辺部に沿う部分の中央に、面方向内側に突出する矩形状の突出領域32を有している。この遮蔽層3Dは、突出領域32を有する点を除き、上記実施形態の遮蔽層3と同様である。そして、情報取得領域23Dは、この突出領域32に透過窓として設けられている。
【0173】
すなわち、情報取得領域23Dは、遮蔽層3Dを構成するセラミックが部分的に塗布されていない領域であり、これによって、突出領域32内に情報取得領域23Dを設けることができる。撮影装置8は、この情報取得領域23Dを介して、車外の状況を撮影することができる。
【0174】
なお、本変形例では、情報取得領域23Dの全周囲に遮蔽層3Dが設けられている。しかしながら、遮蔽層3Dの形状は、このような例に限定されなくてもよく、情報取得領域23Dの左右両側の部分及び下方の部分の少なくともいずれかは省略されてもよい。すなわち、遮蔽層3Dのバスバー部51を配置しない部分は省略されてもよい。
【0175】
<3.5>
また、例えば、上記実施形態では、情報取得装置として、撮影装置8を用いている。しかしながら、情報取得装置は、光の照射及び/又は受光を行うことで車外からの情報を取得可能な装置であれば、このような例に限定されなくてもよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。例えば、情報取得装置として、車間距離を測定するための可視光線及び/又は赤外線カメラ、光ビーコンなどの車外からの信号を受信する受光装置、道路の白線等を画像にて読み取る可視光線及び/又は赤外線を使用したカメラ等、種々の装置が利用されてもよい。
【0176】
また、複数の情報取得装置を利用してもよいし、情報取得装置として、複数の撮影装置を備えるステレオカメラを利用してもよい。ステレオカメラは、公知のものを用いることができる。この場合、複数の情報取得装置及び/又は複数の撮影装置に対応して、複数の情報取得領域23を設けることができる。また、複数の情報取得領域23の全てに情報取得領域加熱部5を設けてもよいし、複数の情報取得領域23の少なくともいずれかに情報取得領域加熱部5を設けてもよい。更に、2つ以上の情報取得領域23を含むように1つの情報取得領域加熱部5を設けてもよい。情報取得領域23の数及び配置並びに情報取得領域加熱部5の数及び配置は、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。
【0177】
<3.6>
また、例えば、上記実施形態に係るウインドシールド1のガラス板は、外側ガラス板21と内側ガラス板22とを中間層4を介して互いに接合した合わせガラス2で構成されている。しかしながら、ウインドシールド1のガラス板の種類は、このような例に限定されなくてもよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。ウインドシールド1は、例えば、1枚のガラス板で構成されてもよい。更に、上記実施形態では、ウインドシールド1のガラス板(合わせガラス2)は略台形状に形成されている。しかしながら、ウインドシールド1のガラス板の形状は、このような例に限定されなくてもよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。
【0178】
<3.7>
また、例えば、上記実施形態では、遮蔽層3は、合わせガラス2の第4面222に積層されている。しかしながら、遮蔽層3を積層する面は、このような例に限定されなくてもよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。例えば、遮蔽層3は、合わせガラス2の第2面212及び/又は第3面221に積層されてもよい。
【0179】
<3.8>
また、例えば、上記実施形態では、自重曲げ成形によって、合わせガラス2は、湾曲形状に形成されている。しかしながら、合わせガラス2を成形する方法は、このような例に限定されなくてもよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。例えば、公知のプレス成形によって、合わせガラス2を湾曲形状に形成してもよい。
【0180】
<3.9>
また、例えば、上記実施形態では、中間層4は、情報取得領域加熱部5及び他領域加熱部6を含む発熱層及び当該発熱層を挟持する一対の接着層(42、43)の合計3層で構成されている。しかしながら、中間層4の構成は、このような例に限定されなくてもよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。例えば、一対の接着層(42、43)のいずれか一方を省略してもよいし、基材41を省略してもよい。
【0181】
<3.10>
また、例えば、上記実施形態では、遮蔽層3は一層構造である。しかしながら、遮蔽層3は、多層構造を有してもよい。例えば、内側ガラス板22の第4面222にセラミックを積層することで第1セラミック層を形成する。次に、第1セラミック層の上に銀を積層することで銀層を形成する。更に、この銀層の上にセラミックを積層することで第2セラミック層を形成する。これによって、3層構造の遮蔽層3を形成することができる。この3層構造の遮蔽層3は、銀層によって電磁波を遮蔽することができる。なお、この銀層には以下の表2に示される組成の材料を利用することができる。
【0182】
【表2】
*1,主成分:ホウケイ酸ビスマス、ホウケイ酸亜鉛
【0183】
<3.11>
また、例えば、上記実施形態では、各加熱線52A~52Cは、略コの字状に形成されている。しかしながら、各加熱線52A~52Cの形状は、このような例に限定されなくてもよく、情報取得領域23を通過して両バスバー部51に接続可能なように適宜形成されてよい。すなわち、各加熱線52A~52Cの形状は、一方のバスバー部51から面方向内側に延びて情報取得領域23を通過し、折り返されて他方のバスバー部51の方に延びる形状であれば、特に限定されなくてもよい。例えば、
図21に例示されるように、各加熱線を形成してもよい。
【0184】
図21は、本変形例に係る情報取得領域加熱部5Eを模式的に例示する拡大図である。この情報取得領域加熱部5Eは、並列に配置される2つの加熱線(54A、54B)を備えている。第1の加熱線54Aは外側に配置されており、第2の加熱線54Bは内側に配置されている。両加熱線(54A、54B)は共に、一方のバスバー部51から情報取得領域23の方に延びて情報取得領域23を通過し、折り返されて他方のバスバー部51の方に延びる中央付近で、各バスバー部51の方に折り返される折り返し部分(541A、541B)を有する。このように、各加熱線は、折り返し部分を含んでもよい。これによって、加熱線の数が少なくても、情報取得領域23を万遍なく温めることができるようになる。
【0185】
なお、本変形例において、両加熱線(54A、54B)の断面積は同じであってもよい。ただし、外側に配置される第1の加熱線54Aは、内側に配置される第2の加熱線54Bよりも長くなる。そのため、上記数1~数3の関係式から、外側に配置される第1の加熱線54Aの発熱量が第2の加熱線54Bよりも小さくなってしまう可能性がある。そこで、両加熱線(54A、54B)の発熱量がほぼ同じになるように、第1の加熱線54Aの断面積を第2の加熱線54Bよりも大きくしてもよい。
【符号の説明】
【0186】
1…ウインドシールド、
2…合わせガラス、
21…外側ガラス板、211…第1面、212…第2面、
22…内側ガラス板、221…第3面、222…第4面、223~226…切り欠き、
23…情報取得領域、
3…遮蔽層、31…帯状領域、
4…中間層、41…基材、42・43…接着層、
5…情報取得領域加熱部、51…バスバー部、52A~52C…加熱線、
6…他領域加熱部、61…バスバー部、62…加熱線、
71…接続材、72…固定材、73…接続材、74…固定材、
8…撮影装置、81…画像処理装置、
9…防曇膜、
11…剥離フィルム、12…接着層