(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022183205
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】反射型マスク、並びに反射型マスクブランク及び半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
G03F 1/24 20120101AFI20221201BHJP
G03F 1/84 20120101ALI20221201BHJP
G03F 1/54 20120101ALI20221201BHJP
C23C 14/06 20060101ALN20221201BHJP
【FI】
G03F1/24
G03F1/84
G03F1/54
C23C14/06 R
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022160710
(22)【出願日】2022-10-05
(62)【分割の表示】P 2021043121の分割
【原出願日】2016-08-26
(71)【出願人】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】池邊 洋平
(57)【要約】
【課題】 高いコントラスト値を有する反射型マスクを製造するための反射型マスクブランクの製造方法を提供する。
【解決手段】 基板上に、多層反射膜及び吸収体膜をこの順で有する反射型マスクブランクの製造方法であって、シミュレーションにより、吸収体膜の膜厚と、吸収体膜表面での反射率との関係を得る工程と、膜厚D
0の吸収体膜表面での反射率R
absと、吸収体膜を除去して多層反射膜又は保護膜を露出させた多層反射膜表面又は保護膜表面での反射率R
multiとから、第1のコントラスト値C
1を算出する工程と、前記第1のコントラスト値C
1よりも高い第2のコントラスト値C
2を有する、吸収体膜の膜厚方向の一部を除去して残膜させた場合の残膜層の膜厚d及び総膜厚D=D
1(ただし、D
0=D
1-d)を求める工程と、前記吸収体膜を前記総膜厚Dとなるように形成する工程とを含む、製造方法である。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、多層反射膜及び吸収体膜をこの順で、又は多層反射膜、保護膜及び吸収体膜をこの順で有する反射型マスクブランクの製造方法であって、
シミュレーションにより、吸収体膜の膜厚と、吸収体膜表面での反射率との関係を得る工程と、
吸収体膜の膜厚と、吸収体膜表面での反射率との関係に基づいて、膜厚D0の吸収体膜表面での反射率Rabsと、吸収体膜を除去して多層反射膜又は保護膜を露出させた多層反射膜表面又は保護膜表面での反射率Rmultiとから、第1のコントラスト値C1、すなわち、
C1=(Rmulti-Rabs)/(Rmulti+Rabs)
を算出する工程と、
吸収体膜の膜厚と、吸収体膜表面での反射率との関係に基づいて、膜厚Dの吸収体膜表面での反射率R’absと、吸収体膜の膜厚方向の一部を除去して残膜させた場合の膜厚dの残膜層の表面での反射率R’multiとから、前記第1のコントラスト値C1よりも高い第2のコントラスト値C2、すなわち、
C2=(R’multi-R’abs)/(R’multi+R’abs)
を有する、残膜層の膜厚d及び総膜厚D=D1(ただし、D0=D1-d)を求める工程、又は
吸収体膜の膜厚と、吸収体膜表面での反射率との関係に基づいて、膜厚Dの吸収体膜表面での反射率R’absと、吸収体膜の膜厚方向の一部を除去して残膜させた場合の膜厚dの残膜層の表面での反射率R’multiとから、前記第1のコントラスト値C1と同じ第2のコントラスト値C2(=C1)、すなわち、
C2=(R’multi-R’abs)/(R’multi+R’abs)
を有する、残膜層の膜厚d及び総膜厚D=D2(ただし、D0>D2-d)を求める工程と、
前記吸収体膜を前記総膜厚Dとなるように形成する工程と
を含むことを特徴とする反射型マスクブランクの製造方法。
【請求項2】
前記吸収体膜の総膜厚Dと、残膜層の膜厚dとの差が65nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の反射型マスクブランクの製造方法。
【請求項3】
前記吸収体膜の残膜層は、190nm以上400nm以下の波長範囲における前記残膜層の反射率が15%以下となる材料からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の反射型マスクブランクの製造方法。
【請求項4】
前記吸収体膜の残膜層は、欠陥検査の検査光に対する反射率が30%以下の材料からなることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の反射型マスクブランクの製造方法。
【請求項5】
前記吸収体膜は、吸収体膜の残膜層の膜厚に相当する膜厚dの部分に形成されたエッチングストッパー層を有することを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の反射型マスクブランクの製造方法。
【請求項6】
前記吸収体膜は、タンタルと窒素とを含有することを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の反射型マスクブランクの製造方法。
【請求項7】
基板上に、EUV光を反射するための多層反射部パターン及びEUV光を吸収するための吸収体部パターンを有する反射型マスクであって、
前記多層反射部パターンは、前記基板上に、多層反射膜及び吸収体膜の残膜層をこの順で、又は多層反射膜、保護膜及び吸収体膜の残膜層をこの順で有し、
前記吸収体部パターンは、前記基板上に、多層反射膜及び吸収体膜をこの順で、又は多層反射膜、保護膜及び吸収体膜をこの順で有し、
前記吸収体膜の残膜層の膜厚dは、前記吸収体膜の総膜厚Dよりも薄く、
第1のコントラスト値C1が基準反射型マスクのコントラスト値であり、基準反射型マスクの多層反射部パターンが吸収体膜の残膜層を有せず、吸収体部パターンが膜厚D0の吸収体膜を有し、
第2のコントラスト値C2が前記反射型マスクのコントラスト値であるときに、
C1<C2かつD0=D-d、又は、C1=C2かつD0>D-d
であることを特徴とする反射型マスク。
【請求項8】
前記吸収体膜の総膜厚Dと、前記残膜層の膜厚dとの差が65nm以下であることを特徴とする請求項7に記載の反射型マスク。
【請求項9】
前記吸収体膜の残膜層は、190nm以上400nm以下の波長範囲における前記残膜層の反射率が15%以下となる材料からなることを特徴とする請求項7又は8に記載の反射型マスク。
【請求項10】
前記吸収体膜の残膜層は、欠陥検査の検査光に対する反射率が30%以下の材料からなることを特徴とする請求項7~9のいずれか1項に記載の反射型マスク。
【請求項11】
前記多層反射部パターンは、前記吸収体膜の残膜層の膜厚に相当する膜厚dの部分、及び前記残膜層上に形成されたエッチングストッパー層を有することを特徴とする請求項7~10のいずれか1項に記載の反射型マスク。
【請求項12】
前記吸収体膜は、タンタルと窒素とを含有することを特徴とする請求項7~11のいずれか1項に記載の反射型マスク。
【請求項13】
請求項7~12のいずれか1項に記載の反射型マスクを用いて半導体基板上にパターンを形成するパターン形成工程を含むことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置の製造などに使用される露光用マスクを製造するための原版である反射型マスクブランクの製造方法に関する。また、本発明は、その反射型マスクブランクを用いて製造される露光用マスクである反射型マスク、及びその反射型マスクを用いる半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体産業において、半導体デバイスの高集積化に伴い、フォトリソグラフィー法の転写限界を上回る微細パターンが必要とされてきている。このため、より波長の短い極端紫外(Extreme Ultra Violet:以下、EUVと略称する。)光を用いた露光技術であるEUVリソグラフィが有望視されている。なお、ここで、EUV光とは、軟X線領域又は真空紫外線領域の波長帯の光を指し、具体的には波長が0.2~100nm程度の光のことである。このEUVリソグラフィにおいて用いられるマスクとしては、例えば下記特許文献1に記載された露光用反射型マスクが提案されている。
【0003】
反射型マスクは、基板上に露光光を反射する多層反射膜が形成され、該多層反射膜上にバッファ膜、更にその上に露光光を吸収する吸収体膜がパターン状に形成されたものである。バッファ膜は、吸収体膜のパターン形成工程及び修正工程における多層反射膜の保護を目的として多層反射膜と吸収体膜との間に設けられている。露光機(パターン転写装置)に搭載された反射型マスクに入射した光は、吸収体膜のある部分では吸収され、吸収体膜のない部分では多層反射膜により反射された光像が反射光学系を通して半導体基板上に転写される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
反射型マスクを用いて、微細パターンを高精度で半導体基板等へのパターン転写を行うためには、EUV光などの露光光に対するコントラスト値を向上させることが重要である。コントラスト値は、反射型マスクの表面において、露光光を吸収するための吸収体膜表面での露光光の反射率をRabs、露光光を反射するための多層反射膜表面での露光光の反射率(保護膜がある場合には、吸収体膜直下の保護膜表面での反射率)をRmultiとして、下記の式で表すことができる。
コントラスト値=(Rmulti-Rabs)/(Rmulti+Rabs) ・・・(1)
【0006】
また、二つの反射型マスクのコントラスト値が同じ値であるならば、微細でかつ高精度の転写パターンを有する半導体装置を製造するために、吸収体膜(吸収体部パターン)によるシャドーイング効果が小さい方の反射型マスクが有利である。
【0007】
なお、本明細書では、反射型マスクの表面において、露光光を吸収するための吸収体膜表面の部分を吸収体部パターンといい、露光光を反射するための多層反射膜表面、保護膜表面、又は吸収体膜の残膜層の表面の部分を多層反射部パターンという。
【0008】
したがって、本発明は、高いコントラスト値を有する反射型マスクを製造するための反射型マスクブランクの製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、高いコントラスト値を有する反射型マスクを提供することを目的とする。また、本発明は、高いコントラスト値を有する反射型マスクを用いることにより、微細でかつ高精度の転写パターンを有する半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【0009】
本発明は、吸収体部パターンを形成した吸収体膜によるシャドーイング効果が小さい反射型マスクを製造するための反射型マスクブランクの製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、吸収体部パターンを形成した吸収体膜によるシャドーイング効果が小さい反射型マスクを提供することを目的とする。また、本発明は、吸収体部パターンを形成した吸収体膜によるシャドーイング効果が小さい反射型マスクを用いることにより、微細でかつ高精度の転写パターンを有する半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の式(1)によれば、高いコントラスト値を得るためには、一般的に、露光光に対する多層反射膜表面の反射率Rmultiを高くし、吸収体膜表面の反射率Rabsを低くすることが求められる。
【0011】
本発明者らは、吸収体膜表面の反射率Rabsと、多層反射膜表面の反射率Rmultiから得られるコントラスト値よりも、吸収体膜表面の反射率Rabsと、吸収体膜を完全に除去せずに残膜させた吸収体膜の残膜層表面の反射率とから得られるコントラスト値の方が高いことを見出した。この知見を応用することにより、高いコントラスト値を有する反射型マスクを製造するための反射型マスクブランクを製造することができることを見出し、本発明に至った。
【0012】
また、本発明者らは、更に上述の知見を応用することにより、吸収体部パターンを形成した吸収体膜によるシャドーイング効果が小さい反射型マスクを製造するための反射型マスクブランクを製造することができることを見出し、本発明に至った。
【0013】
すなわち、上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を有する。本発明は、下記の構成1~6の反射型マスクブランクの製造方法、下記の構成7~12の反射型マスク及び下記の構成13の半導体装置の製造方法である。
【0014】
(構成1)
本発明の構成1は、基板上に、多層反射膜及び吸収体膜をこの順で、又は多層反射膜、保護膜及び吸収体膜をこの順で有する反射型マスクブランクの製造方法であって、
シミュレーションにより、吸収体膜の膜厚と、吸収体膜表面での反射率との関係を得る工程と、
吸収体膜の膜厚と、吸収体膜表面での反射率との関係に基づいて、膜厚D0の吸収体膜表面での反射率Rabsと、吸収体膜を除去して多層反射膜又は保護膜を露出させた多層反射膜表面又は保護膜表面での反射率Rmultiとから、第1のコントラスト値C1、すなわち、
C1=(Rmulti-Rabs)/(Rmulti+Rabs) ・・・(2)
を算出する工程と、
吸収体膜の膜厚と、吸収体膜表面での反射率との関係に基づいて、膜厚Dの吸収体膜表面での反射率R’absと、吸収体膜の膜厚方向の一部を除去して残膜させた場合の膜厚dの残膜層の表面での反射率R’multiとから、前記第1のコントラスト値C1よりも高い第2のコントラスト値C2、すなわち、
C2=(R’multi-R’abs)/(R’multi+R’abs) ・・・(3)
を有する、残膜層の膜厚d及び総膜厚D=D1(ただし、D0=D1-d)を求める工程、又は
吸収体膜の膜厚と、吸収体膜表面での反射率との関係に基づいて、膜厚Dの吸収体膜表面での反射率R’absと、吸収体膜の膜厚方向の一部を除去して残膜させた場合の膜厚dの残膜層の表面での反射率R’multiとから、前記第1のコントラスト値C1と同じ第2のコントラスト値C2(=C1)、すなわち、
C2=(R’multi-R’abs)/(R’multi+R’abs)
を有する、残膜層の膜厚d及び総膜厚D=D2(ただし、D0>D2-d)を求める工程と、
前記吸収体膜を前記総膜厚Dとなるように形成する工程と
を含むことを特徴とする反射型マスクブランクの製造方法である。
【0015】
本発明の構成1によれば、反射型マスクブランクの吸収体膜が、総膜厚Dとなるように反射型マスクブランクを製造することができる。本発明の製造方法により製造される反射型マスクブランクを用いるならば、反射型マスクを製造する際に膜厚dの残膜層を残すことができるので、高いコントラスト値を有する反射型マスクを製造することができる。また、本発明の製造方法により製造される反射型マスクブランクを用いるならば、吸収体部パターンを形成した吸収体膜によるシャドーイング効果が小さい反射型マスクを製造することができる。
【0016】
(構成2)
本発明の構成2は、前記吸収体膜の総膜厚Dと、残膜層の膜厚dとの差が65nm以下であることを特徴とする構成1の反射型マスクブランクの製造方法である。
【0017】
本発明の構成2により製造される反射型マスクブランクを用いて反射型マスクを製造するならば、前記吸収体膜の総膜厚Dと、残膜層の膜厚dとの差を65nm以下とすることにより、吸収体部パターンを形成した吸収体膜によるシャドーイング効果を小さくすることが可能な反射型マスクを得ることができる。
【0018】
(構成3)
本発明の構成3は、前記吸収体膜の残膜層が、190nm以上400nm以下の波長範囲における前記残膜層の反射率が15%以下となる材料からなることを特徴とする構成1又は2の反射型マスクブランクの製造方法である。
【0019】
本発明の構成3によれば、前記吸収体膜の残膜層が、190nm以上400nm以下の波長範囲における前記残膜層の反射率が15%以下となる材料からなることにより、反射型マスクを用いたときのアウトオブバンド光を抑制することが可能となる。
【0020】
(構成4)
本発明の構成4は、前記吸収体膜の残膜層が、欠陥検査の検査光に対する反射率が30%以下の材料からなることを特徴とする構成1~3のいずれかの反射型マスクブランクの製造方法である。
【0021】
本発明の構成4により得られる反射型マスクブランクを用いるならば、前記吸収体膜の残膜層が、欠陥検査の検査光に対する反射率が30%以下の材料からなることにより、高精度の欠陥検査が可能な反射型マスクをより確実に製造することができる。
【0022】
(構成5)
本発明の構成5は、前記吸収体膜が、吸収体膜の残膜層の膜厚に相当する膜厚dの部分に形成されたエッチングストッパー層を有することを特徴とする構成1~4のいずれかの反射型マスクブランクの製造方法である。
【0023】
本発明の構成5によれば、所定のエッチングストッパー層を有することにより、エッチングによって目標とする吸収体膜の残膜層の膜厚を得ることが容易になる。
【0024】
(構成6)
本発明の構成6は、前記吸収体膜が、タンタルと窒素とを含有することを特徴とする構成1~5のいずれかの反射型マスクブランクの製造方法である。
【0025】
本発明の構成6によれば、吸収体膜が、タンタルと窒素とを含有することにより、吸収体膜の表面において、吸収体膜を構成する結晶粒子の拡大を抑制できる。そのため、吸収体膜をパターニングしたときのパターンエッジラフネスを低減することができる。
【0026】
(構成7)
本発明の構成7は、基板上に、EUV光を反射するための多層反射部パターン及びEUV光を吸収するための吸収体部パターンを有する反射型マスクであって、
前記多層反射部パターンは、前記基板上に、多層反射膜及び吸収体膜の残膜層をこの順で、又は多層反射膜、保護膜及び吸収体膜の残膜層をこの順で有し、
前記吸収体部パターンは、前記基板上に、多層反射膜及び吸収体膜をこの順で、又は多層反射膜、保護膜及び吸収体膜をこの順で有し、
前記吸収体膜の残膜層の膜厚dは、前記吸収体膜の総膜厚Dよりも薄く、
第1のコントラスト値C1が基準反射型マスクのコントラスト値であり、基準反射型マスクの多層反射部パターンが吸収体膜の残膜層を有せず、吸収体部パターンが膜厚D0の吸収体膜を有し、
第2のコントラスト値C2が前記反射型マスクのコントラスト値であるときに、
C1<C2かつD0=D-d、又は、C1=C2かつD0>D-d
であることを特徴とする反射型マスクである。
【0027】
本発明の構成7によれば、高いコントラスト値を有する反射型マスクを得ることができる。また、本発明の構成7によれば、吸収体部パターンを形成した吸収体膜によるシャドーイング効果が小さい反射型マスクを得ることができる。
【0028】
(構成8)
本発明の構成8は、前記吸収体膜の総膜厚Dと、前記残膜層の膜厚dとの差が65nm以下であることを特徴とする構成7の反射型マスクである。
【0029】
本発明の構成8によれば、前記吸収体膜の総膜厚Dと、残膜層の膜厚dとの差を65nm以下とすることにより、吸収体部パターンを形成した吸収体膜によるシャドーイング効果を小さくすることが可能な反射型マスクを得ることができる。
【0030】
(構成9)
本発明の構成9は、前記吸収体膜の残膜層が、190nm以上400nm以下の波長範囲における前記残膜層の反射率が15%以下となる材料からなることを特徴とする構成7又は8の反射型マスクである。
【0031】
本発明の構成9によれば、反射型マスクを用いたときのアウトオブバンド光を抑制することが可能となる。
【0032】
(構成10)
本発明の構成10は、前記吸収体膜の残膜層が、欠陥検査の検査光に対する反射率が30%以下の材料からなることを特徴とする構成7~9のいずれかの反射型マスクである。
【0033】
本発明の構成10によれば、前記吸収体膜の残膜層が、欠陥検査の検査光に対する反射率が30%以下の材料からなることにより、高精度の欠陥検査が可能な反射型マスクを得ることができる。
【0034】
(構成11)
本発明の構成11は、前記多層反射部パターンが、前記吸収体膜の残膜層の膜厚に相当する膜厚dの部分、及び前記残膜層上に形成されたエッチングストッパー層を有することを特徴とする構成7~10のいずれかの反射型マスクである。
【0035】
本発明の構成11によれば、反射型マスクの製造の際に、所定のエッチングストッパー層を有することにより、エッチングによって目標とする吸収体膜の残膜層の膜厚を得ることが容易になる。
【0036】
(構成12)
本発明の構成12は、前記吸収体膜が、タンタルと窒素とを含有することを特徴とする構成7~11のいずれかの反射型マスクである。
【0037】
本発明の構成12によれば、吸収体膜が、タンタルと窒素とを含有することにより、吸収体膜の表面において、吸収体膜を構成する結晶粒子の拡大を抑制できる。そのため、吸収体膜をパターニングしたときのパターンエッジラフネスを低減した反射型マスクを得ることができる。
【0038】
(構成13)
本発明の構成13は、構成7~12のいずれかの反射型マスクを用いて半導体基板上にパターンを形成するパターン形成工程を含むことを特徴とする半導体装置の製造方法である。
【0039】
本発明の構成13によれば、露光の際に、高いコントラスト値を得ることができる反射型マスクを用いることができるので、微細でかつ高精度の転写パターンを有する半導体装置を製造することができる。また、本発明の構成13によれば、吸収体部パターンを形成した吸収体膜によるシャドーイング効果が小さい反射型マスクを用いることができるので、微細でかつ高精度の転写パターンを有する半導体装置を製造することができる。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、高いコントラスト値を有する反射型マスクを製造するための反射型マスクブランクの製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、高いコントラスト値を有する反射型マスクを提供することができる。また、本発明によれば、高いコントラスト値を有する反射型マスクを用いることにより、微細でかつ高精度の転写パターンを有する半導体装置の製造方法を提供することができる。
【0041】
本発明によれば、吸収体部パターンを形成した吸収体膜によるシャドーイング効果が小さい反射型マスクを製造するための反射型マスクブランクの製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、吸収体部パターンを形成した吸収体膜によるシャドーイング効果が小さい反射型マスクを提供することができる。また、本発明によれば、吸収体部パターンを形成した吸収体膜によるシャドーイング効果が小さい反射型マスクを用いることにより、微細でかつ高精度の転写パターンを有する半導体装置の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図1】本発明の製造方法によって製造される反射型マスクブランクの一例を示す断面模式図である。
【
図2】本発明の製造方法によって製造される反射型マスクブランクの別の一例を示す断面模式図である。
【
図3】本発明の製造方法によって製造される反射型マスクブランクの更に別の一例を示す断面模式図である。
【
図4】従来の反射型マスクの一例を示す断面模式図である。
【
図5】本発明の反射型マスクの実施形態1の一例を示す断面模式図である。
【
図6】本発明の反射型マスクの実施形態2の一例を示す断面模式図である。
【
図7】本発明の反射型マスクの実施形態2の、別の一例を示す断面模式図である。
【
図8】反射型マスクにおける、吸収体膜(TaN膜)の膜厚と、反射率との関係の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明を具体化する際の形態であって、本発明をその範囲内に限定するものではない。
【0044】
図1に、本発明の製造方法によって製造される反射型マスクブランク10(以下、単に「本発明の反射型マスクブランク10」という場合がある。)の一例の断面模式図を示す。本発明は、基板12上に、多層反射膜13及び吸収体膜15をこの順で有する反射型マスクブランク10の製造方法である。
【0045】
図2に、本発明の製造方法によって製造される反射型マスクブランク10の別の一例の断面模式図を示す。
図2に示すように、反射型マスクブランク10は、多層反射膜13及び吸収体膜15の間に、保護膜14を有することができる。
【0046】
本発明の反射型マスクブランク10の製造方法は、吸収体膜15の残膜層15bの膜厚dを考慮して、吸収体膜15を所定の総膜厚Dとなるように形成することに特徴がある。以下、本発明の反射型マスクブランク10の製造方法について説明する。
【0047】
本発明の反射型マスクブランク10の製造方法は、シミュレーションにより、吸収体膜15の膜厚と、吸収体膜15表面での反射率との関係を得る工程を含む。
【0048】
図8に、反射型マスク20における、シミュレーションによって得られた、吸収体膜15の膜厚と、吸収体膜15の表面での反射率との関係の一例を示す。なお、多層反射膜13、保護膜14及び吸収体膜15等の屈折率n及び消衰係数kを特定することにより、
図8に示すような関係をシミュレーションによって得るための方法は、当業者に公知である。
図8に示すシミュレーションに用いた反射型マスク20の構造は、基板12上に、多層反射膜13(Mo膜とSi膜との多層膜、膜厚284nm)、Ruを材料とする保護膜14(膜厚2.5nm)及びTaN膜単層の吸収体膜15をこの順で形成した構造である。また、シミュレーションに用いた露光光の波長は、13.5nmである。
図8に示すように、吸収体膜15の表面での反射率は、吸収体膜15の膜厚が厚くなるほど低下する傾向にあるが、吸収体膜15による露光光の干渉のため、反射率の膜厚依存性に振動構造が生じていることが見て取れる。
【0049】
本発明の反射型マスクブランク10の製造方法は、吸収体膜15の膜厚と、吸収体膜15表面での反射率との関係に基づいて、膜厚D0の吸収体膜15表面での反射率Rabsと、吸収体膜15を除去して多層反射膜13又は保護膜14を露出させた場合の多層反射膜13表面又は保護膜14表面での反射率Rmultiとから、第1のコントラスト値C1を算出する工程を含む。なお、第1のコントラスト値C1は、下記式で表すことができる。
C1=(Rmulti-Rabs)/(Rmulti+Rabs)・・・(2)
【0050】
図8において、A点は吸収体膜15が存在しない場合の反射率(R
A)であり、a点は吸収体膜15の膜厚D
0の場合の反射率(R
a)である。したがって、反射型マスク20が膜厚D
0の吸収体膜15を有する場合、コントラスト値C
1を求めるならば、下記のようになる。なお、C
1(A,a)は、
図8におけるA点と、a点とのコントラスト値C
1であることを示す。
C
1(A,a)=(R
A-R
a)/(R
A+R
a)
(なお、R
A=R
multi、R
a=R
absである。)
【0051】
更に具体的に、
図4に、光強度I
0の入射光30が入射した際に、多層反射膜13上に形成された保護膜14表面から強度I
r-multi(=I
0・R
multi)の反射光31aが反射し、吸収体膜15表面から強度I
r-abs(=I
0・R
abs)の反射光31bが反射する様子を示す。
図4において、吸収体膜15の膜厚は、D
0である。なお、
図4において、吸収体膜15が存在しない部分は、EUV光を反射するための多層反射部パターン23であり、吸収体膜15が存在する部分は、EUV光を吸収するための吸収体部パターン25である。したがって、上述のコントラスト値C
1は、
図4に示すR
multi及びR
absを用いて、上述の式(2)によって求めることができる。
【0052】
本発明の反射型マスクブランク10の製造方法は、吸収体膜15の残膜層15bの膜厚d及び吸収体膜15の総膜厚Dを求める工程を含む。本工程は、次に説明する実施形態1及び実施形態2のううちのいずれかであることができる。
【0053】
本発明の製造方法において、実施形態1の吸収体膜15の残膜層15bの膜厚d及び吸収体膜15の総膜厚Dを求める工程は、吸収体膜15の膜厚と、吸収体膜15表面での反射率との関係に基づいて、膜厚Dの吸収体膜15表面での反射率R’absと、吸収体膜15の膜厚方向の一部を除去して残膜させた場合の膜厚dの残膜層15bの表面での反射率R’multiとから、第1のコントラスト値C1よりも高い第2のコントラスト値C2を有する、残膜層15bの膜厚d及び総膜厚D=D1(ただし、D0=D1-d)を求める工程である。なお、第2のコントラスト値C2は、下記式で表すことができる。
C2=(R’multi-R’abs)/(R’multi+R’abs) ・・・(3)
【0054】
図5に、光強度I
0の入射光30が入射した際に、膜厚dの吸収体膜15表面から強度I
r-multi(=I
0・R’
multi)の反射光31aが反射し、膜厚D(=D
1)の吸収体膜15表面から強度I
r-abs(=I
0・R’
abs)の反射光31bが反射する様子を示す。なお、
図5において、膜厚dの吸収体膜15が存在する部分は、EUV光を反射するための多層反射部パターン23であり、膜厚D(=D
1)の吸収体膜15が存在する部分は、EUV光を吸収するための吸収体部パターン25である。
【0055】
図8を用いて、
図5に示す構造の反射型マスク20の露光光の反射ついて説明する。
図8において、B点は吸収体膜15の膜厚がdの場合(多層反射部パターン23の場合)の反射率(R
B)であり、b点は吸収体膜15の膜厚d+D
0の場合(吸収体部パターン25の場合)の反射率(R
b)である。この場合のコントラスト値C
2(B,b)を求めるならば、下記のようになる。なお、C
2(B,b)は、
図8におけるB点と、b点とのコントラスト値C
2であることを示す。
C
2(B,b)=(R
B-R
b)/(R
B+R
b)
(なお、R
B=R’
multi、R
b=R’
absである。)
【0056】
図8に示すシミュレーションおいて、C
1(A,a)及びC
2(B,b)は、共に、膜厚の差が、膜厚D
0である。従来の反射型マスク20では、A点では吸収体膜15が存在せず、コントラスト値が、C
1(A,a)となるように、吸収体膜15の膜厚D
0が決定されていた。一方、本発明者らは、C
1(A,a)と、C
2(B,b)とを比較した場合、C
2(B,b)の方がC
1(A,a)より大きくなる場合があるとの知見を見出した。これは、
図8に示すように、吸収体膜15による露光光の干渉のため、反射率の膜厚依存性に振動構造が生じていることに起因する。
【0057】
上記の知見に基づき、本発明者らは、A点で示すような吸収体膜15が存在しない多層反射部パターン23の代わりに、膜厚dの吸収体膜15が存在する多層反射部パターン23を用いた方が、反射型マスク20のコントラスト値が高くなる場合があることを見出し、本発明に至った。そこで、本発明の製造方法の実施形態1では、第1のコントラスト値C
1よりも高い第2のコントラスト値C
2を有する、吸収体膜15の膜厚方向の一部を除去して残膜させた場合の残膜層15bの膜厚d及び総膜厚D=D
1(ただし、D
0=D
1-d)を求める。
図8に示すような、吸収体膜15の膜厚と、吸収体膜15表面での反射率との関係が得られていれば、D
0の膜厚差を有する場合のコントラスト値は、容易に計算できるので、第1のコントラスト値C
1よりも高い第2のコントラスト値C
2を有する場合の残膜層15bの膜厚dを容易に求めることができる。
【0058】
なお、吸収体膜15がD0の膜厚差を有する場合、第2のコントラスト値C2が、第1のコントラスト値C1よりも高くなるような残膜層15bの膜厚dは、複数の範囲の値を取ることが考えられる。本発明では、第2のコントラスト値C2が、第1のコントラスト値C1よりも高くなるような残膜層15bの膜厚dであれば、任意の膜厚dを選択することができる。しかしながら、より高いコントラスト値を得るために、より高い第2のコントラスト値C2となるような膜厚dを選択することが好ましい。また、より薄い吸収体膜15であることが経済的であることから、残膜層15bの膜厚dの複数の値の範囲のうち、より薄い膜厚dを選択することも可能である。
【0059】
本発明の製造方法において、実施形態2の吸収体膜15の残膜層15bの膜厚d及び吸収体膜15の総膜厚Dを求める工程は、吸収体膜15の膜厚と、吸収体膜15表面での反射率との関係に基づいて、膜厚Dの吸収体膜15の表面での反射率R’absと、吸収体膜15の膜厚方向の一部を除去して残膜させた場合の膜厚dの残膜層15bの表面での反射率R’multiとから、前記第1のコントラスト値C1と同じ第2のコントラスト値C2(=C1)を有する、残膜層15bの膜厚d及び総膜厚D=D2(ただし、D0>D2-d)を求める工程である。なお、第2のコントラスト値C2は、下記式で表すことができる。
C2=(R’multi-R’abs)/(R’multi+R’abs)・・・(3)
【0060】
図6に、光強度I
0の入射光30が入射した際に、膜厚dの吸収体膜15表面から強度I
r-multi(=I
0・R’
multi)の反射光31aが反射し、膜厚D(=D
2)の吸収体膜15表面から強度I
r-abs(=I
0・R’
abs)の反射光31bが反射する様子を示す。なお、
図6において、膜厚dの吸収体膜15が存在する部分は、EUV光を反射するための多層反射部パターン23であり、膜厚D(=D
2)の吸収体膜15が存在する部分は、EUV光を吸収するための吸収体部パターン25である。実施形態2では、多層反射部パターン23と、吸収体部パターン25との吸収体膜15の膜厚差(D
2-d)が、第1のコントラスト値C
1を算出する工程において用いた膜厚D
0より薄い。そのため、実施形態2の反射型マスクブランク10を用いて製造することのできる反射型マスク20は、従来の反射型マスクと同じコントラスト値を有しながら、膜厚差(D
2-d)を小さくすることができる。この結果、吸収体部パターン25を形成した吸収体膜15によるシャドーイング効果を小さくすることができる。
【0061】
本発明の反射型マスクブランク10の製造方法は、吸収体膜15を、上述のようにして得られた総膜厚Dとなるように形成する工程を含む。吸収体膜15の形成の際の成膜時間を調整することにより、吸収体膜15の膜厚を制御して、総膜厚Dの吸収体膜15を形成することができる。吸収体膜15の形成方法は、イオンビームスパッタリング法、DCスパッタリング法及びRFスパッタリング法などを用いることができる。
【0062】
本発明によれば、反射型マスクブランク10の吸収体膜15が、残膜層15bの膜厚dを考慮した総膜厚Dとなるように反射型マスクブランク10を製造することができる。本発明の反射型マスクブランク10を用いるならば、反射型マスク20を製造する際に膜厚dの残膜層15bを残すことができるので、高いコントラスト値を有する反射型マスク20、又は吸収体部パターン25を形成した吸収体膜15によるシャドーイング効果が小さい反射型マスク20を製造することができる。
【0063】
本発明の反射型マスクブランク10の製造方法では、吸収体膜15の総膜厚Dと、残膜層15bの膜厚dとの差が65nm以下であることが好ましく、60nmであることがより好ましい。吸収体膜15の総膜厚Dと、残膜層15bの膜厚dとの差を65nm以下とすることにより、吸収体部パターン25を形成した吸収体膜15によるシャドーイング効果を小さくすることが可能な反射型マスク20を得ることができる。
【0064】
本発明の反射型マスクブランク10の製造方法では、吸収体膜15の残膜層15bは、190nm以上400nm以下の波長範囲における残膜層15bの反射率が15%以下となる材料からなることが好ましい。
【0065】
露光源としてEUV光を用いた場合、アウトオブバンド(OoB:Out Of Band)光と呼ばれる真空紫外光及び紫外光(波長:190~400nm)が発生することが知られている。例えば、多層反射膜掘り込み遮光帯型のEUVリソグラフィ用反射型マスクでは、遮光帯領域で基板12が露出しているため、露光源から発生するアウトオブバンド光は、基板面での反射や、基板12を透過し、基板12の裏面に設けられた裏面導電膜11による反射が生じてしまう。隣接した回路パターン領域は複数回露光されるため、反射したアウトオブバンド光の光量積算値は無視できない大きさとなり、配線パターンの寸法に影響を与えてしまうという問題が発生する。190nm以上400nm以下の波長範囲における、吸収体膜15の残膜層15bの反射率が15%以下となる材料からなることにより、反射型マスク20を用いたときのアウトオブバンド光を抑制することが可能となる。
【0066】
本発明の反射型マスクブランク10の製造方法では、吸収体膜15の残膜層15bは、欠陥検査の検査光に対する反射率が30%以下の材料からなることが好ましい。
【0067】
吸収体膜15の残膜層15bが、欠陥検査の検査光に対する反射率が30%以下の材料からなる反射型マスクブランク10を用いることにより、高精度の欠陥検査が可能な反射型マスク20をより確実に製造することができる。
【0068】
<反射型マスクブランク10の構成>
図1及び
図2は、本発明の製造方法により製造されるEUVリソグラフィ用の反射型マスクブランク10の構成を説明するための断面模式図である。
図1及び
図2を用いて本発明の反射型マスクブランク10について説明する。
【0069】
図1に示すように、本発明の反射型マスクブランク10は、基板12の裏面側の主表面上に形成された静電チャック用の裏面導電膜11を有する基板12と、この基板12の主表面(裏面導電膜11が形成された側とは反対側の主表面)上に形成され、かつ、露光光であるEUV光を反射する多層反射膜13と、この多層反射膜13上に形成された、EUV光を吸収するための吸収体膜15と、を備えている。また、
図2に示す反射型マスクブランク10は、多層反射膜13と、吸収体膜15との間に、多層反射膜13を保護するための保護膜14を更に有している。
【0070】
本明細書において、例えば、「基板12の主表面上に形成された多層反射膜13」との記載は、多層反射膜13が、基板12の表面に接して配置されることを意味する場合の他、基板12と、マスクブランク用多層膜26との間に他の膜を有することを意味する場合も含む。他の膜についても同様である。また、本明細書において、例えば「膜Aが膜Bの上に接して配置される」とは、膜Aと膜Bとの間に他の膜を介さずに、膜Aと膜Bとが直接、接するように配置されていることを意味する。
【0071】
以下、基板12及び各層の構成を説明する。
【0072】
(基板12)
EUV光による露光時の熱による吸収体部パターン25の歪みを防止するため、基板12としては、0±5ppb/℃の範囲内の低熱膨張係数を有するものが好ましく用いられる。この範囲の低熱膨張係数を有する素材としては、例えば、SiO2-TiO2系ガラス、又は多成分系ガラスセラミックス等を用いることができる。
【0073】
基板12の両主表面のうち、反射型マスク20の転写パターンとなる吸収体膜15が形成される側の主表面は、少なくともパターン転写精度、位置精度を得る観点から高平坦度となるように表面加工されている。EUV露光の場合、基板12の転写パターンが形成される側の主表面の132mm×132mmの領域において、平坦度が0.1μm以下であることが好ましく、更に好ましくは0.05μm以下、特に好ましくは0.03μm以下である。また、基板12の両主表面のうち、吸収体膜15が形成される側と反対側の主表面は、露光装置にセットするときに静電チャックされるための裏面導電膜11が形成される表面である。裏面導電膜11が形成される表面の平坦度は、142mm×142mmの領域において、1μm以下であることが好ましく、更に好ましくは0.5μm以下、特に好ましくは0.3μm以下である。
【0074】
なお、本明細書において、平坦度は、TIR(Total Indecated Reading)で示される表面の反り(変形量)を表す値である。この値は、基板12の表面を基準として最小二乗法で定められる平面を焦平面とし、この焦平面より上にある基板12の表面の最も高い位置と、焦平面より下にある基板12の表面の最も低い位置との高低差の絶対値である。
【0075】
また、EUV露光の場合、基板12として要求される表面平滑度は、基板12の、転写パターンとなる吸収体膜15が形成される側の主表面の表面粗さが、二乗平均平方根粗さ(RMS)で0.1nm以下であることが好ましい。なお、表面平滑度は、原子間力顕微鏡(AFM)で測定することができる。
【0076】
更に、基板12は、その上に形成される膜(多層反射膜13など)の膜応力による変形を防止するために、高い剛性を有しているものが好ましい。特に、基板12は、65GPa以上の高いヤング率を有しているものが好ましい。
【0077】
(多層反射膜13)
多層反射膜13は、EUVリソグラフィ用反射型マスク20において、EUV光を反射する機能を有する。多層反射膜13は、屈折率の異なる元素が周期的に積層された多層膜である。
【0078】
一般的には、高屈折率材料である軽元素又はその化合物の薄膜(高屈折率層)と、低屈折率材料である重元素又はその化合物の薄膜(低屈折率層)とが交互に40~60周期程度積層された多層膜が、多層反射膜13として用いられる。多層膜は、基板12側から高屈折率層と低屈折率層をこの順に積層した高屈折率層/低屈折率層の積層構造を1周期として複数周期積層した構造を有することができる。また、多層膜は、基板12側から低屈折率層と高屈折率層をこの順に積層した低屈折率層/高屈折率層の積層構造を1周期として複数周期積層した構造を有することができる。なお、多層反射膜13の最表面の層、すなわち多層反射膜13の基板12と反対側の表面層は、高屈折率層とすることが好ましい。上述の多層膜において、基板12から高屈折率層と低屈折率層をこの順に積層した高屈折率層/低屈折率層の積層構造を1周期として複数周期積層する場合は最上層が低屈折率層となる。そのため、最上層の低屈折率層上に更に高屈折率層を形成して多層反射膜13とすることが好ましい。
【0079】
本発明の反射型マスクブランク10において、高屈折率層としては、Siを含む層を採用することができる。Siを含む材料としては、Si単体の他に、Siに、B、C、N、及び/又はOを含むSi化合物でもよい。Siを含む層を高屈折率層として使用することによって、EUV光の反射率に優れたEUVリソグラフィ用反射型マスク20が得られる。また、本発明の反射型マスクブランク10において、基板12としてはガラス基板が好ましく用いられる。Siはガラス基板との密着性においても優れている。また、低屈折率層としては、Mo、Ru、Rh、及びPtから選ばれる金属単体、並びにこれらの合金が用いられる。例えば波長13~14nmのEUV光に対する多層反射膜13としては、好ましくはMo膜とSi膜を交互に例えば40~60周期程度積層したMo/Si周期積層膜が用いられる。なお、多層反射膜13の最上層である高屈折率層をケイ素(Si)で形成し、当該最上層(Si)と保護膜14との間に、ケイ素と酸素とを含むケイ素酸化物層を形成するようにしてもよい。これにより、マスク洗浄耐性(吸収体部パターン25等の膜剥がれ耐性)を向上させることができる。
【0080】
このような多層反射膜13の単独での反射率は、例えば、65%以上であり、上限は通常73%であることが好ましい。なお、多層反射膜13の各構成層の膜厚及び周期の数は、露光波長によるブラッグの法則を満たすように、適宜選択される。多層反射膜13において高屈折率層及び低屈折率層はそれぞれ複数存在する。すべての高屈折率層は同じ膜厚でなくてもよい。また、すべての低屈折率層は同じ膜厚でなくてもよい。また、多層反射膜13の最表面のSi層の膜厚は、反射率を低下させない範囲で調整することができる。最表面のSi(高屈折率層)の膜厚は、例えば、3~10nmとすることができる。
【0081】
多層反射膜13の形成方法は当該技術分野において公知である。例えばイオンビームスパッタリング法により、多層反射膜13の各層を成膜することで形成できる。上述したMo/Si周期多層膜の場合、例えばイオンビームスパッタリング法により、まずSiターゲットを用いて膜厚4nm程度のSi膜を基板12上に成膜し、その後Moターゲットを用いて膜厚3nm程度のMo膜を成膜する。Si膜及びMo膜の成膜を1周期として、全体で、40~60周期積層して、多層反射膜13を形成する(最上層はSi層とする)。
【0082】
(保護膜14)
本発明の反射型マスクブランク10は、多層反射膜13と吸収体膜15との間に保護膜14を有することが好ましい。
【0083】
図2に示すように、保護膜14は、後述するEUVリソグラフィ用反射型マスク20の製造工程におけるドライエッチング又は洗浄液から多層反射膜13を保護するために、多層反射膜13の上に形成される。保護膜14は、例えば、Ru(ルテニウム)を主成分として含む材料(主成分:50原子%以上)により構成される。Ruを主成分として含む材料は、Ru金属単体、RuにNb、Zr、Y、B、Ti、La、Mo、Co、及び/又はReなどの金属を含有したRu合金、又はそれらの材料にN(窒素)が含まれる材料であることができる。また、保護膜14を3層以上の積層構造とし、最下層と最上層を、上記Ruを含有する物質からなる層とし、最下層と最上層との間に、Ru以外の金属、若しくは合金を介在させたものであることができる。
【0084】
保護膜14の膜厚は、保護膜14としての機能を果たすことができる限り特に制限されない。EUV光の反射率の観点から、保護膜14の膜厚は、好ましくは、1.5~8.0nm、より好ましくは、1.8~6.0nmである。
【0085】
保護膜14の形成方法としては、公知の成膜方法を特に制限なく採用することができる。保護膜14の形成方法の具体例としては、スパッタリング法及びイオンビームスパッタリング法が挙げられる。
【0086】
(吸収体膜15)
図1及び
図2に示すように、本発明の反射型マスクブランク10は、多層反射膜13の上に吸収体膜15を含む。
図1に示すように、吸収体膜15は、多層反射膜13の上に接して形成することができる。また、
図2に示すように、保護膜14が形成されている場合には、保護膜14の上に接して形成することができる。
【0087】
上記吸収体膜15は、単層でも積層構造であってもよい。積層構造の場合、同一材料の積層膜、異種材料の積層膜のいずれでもよい。積層膜は、材料や組成が膜厚方向に段階的及び/又は連続的に変化したものとすることができる。
【0088】
上記吸収体膜15の材料は、特に限定されるものではない。例えば、EUV光を吸収する機能を有するもので、Ta(タンタル)単体、又はTaを主成分とする材料を用いることが好ましい。Taを主成分とする材料は、通常、Taの合金である。このような吸収体膜15の結晶状態は、平滑性、平坦性の点から、アモルファス状又は微結晶の構造を有しているものが好ましい。Taを主成分とする材料としては、例えば、TaとBを含む材料、TaとNを含む材料、TaとBを含み、更にOとNの少なくともいずれかを含む材料、TaとSiを含む材料、TaとSiとNを含む材料、TaとGeを含む材料、及びTaとGeとNを含む材料などから選択した材料を用いることができる。また例えば、TaにB、Si及びGe等から選択した少なくとも一つを加えることにより、アモルファス構造が容易に得られ、平滑性を向上させることができる。更に、TaにN及び/又はOを加えれば、酸化に対する耐性が向上するため、経時的な安定性を向上させることができる。上記の基板12や、多層反射膜13が形成された基板12の表面形態を保ちつつ、吸収体膜15の表面を反射型マスク20として適した表面形状とするためには、吸収体膜15を微結晶構造にするか、又はアモルファス構造にすることが好ましい。結晶構造については、X線回折装置(XRD)により確認することができる。
【0089】
具体的には、吸収体膜15を形成するタンタルを含有する材料としては、例えば、タンタル金属、タンタルに、窒素、酸素、ホウ素及び炭素から選ばれる一以上の元素を含有し、水素を実質的に含有しない材料等が挙げられる。例えば、Ta、TaN、TaON、TaBN、TaBON、TaCN、TaCON、TaBCN及びTaBOCN等が挙げられる。前記材料については、本発明の効果が得られる範囲で、タンタル以外の金属を含有させてもよい。吸収体膜15を形成するタンタルを含有する材料にホウ素を含有させると、吸収体膜15をアモルファス構造(非晶質)になるように制御しやすい。
【0090】
本発明の反射型マスクブランク10の吸収体膜15は、タンタルと窒素を含有する材料で形成されることが好ましい。吸収体膜15中の窒素含有量は、50原子%以下であることが好ましく、30原子%以下であることが好ましく、25原子%以下であることがより好ましく、20原子%以下であることが更に好ましい。吸収体膜15中の窒素含有量は、5原子%以上であることが好ましい。
【0091】
本発明の反射型マスクブランク10では、吸収体膜15が、タンタルと窒素とを含有し、窒素の含有量が10原子%以上50原子%以下であることが好ましく、より好ましくは、15原子%以上50原子%以下、更に好ましくは、30原子%以上50原子%以下が望ましい。吸収体膜15がタンタルと窒素とを含有し、窒素の含有量が10原子%以上50原子%以下であることにより、吸収体膜15を構成する結晶粒子の拡大を抑制できるので、吸収体膜15をパターニングしたときのパターンエッジラフネスが低減できる。
【0092】
本発明の反射型マスクブランク10では、吸収体膜15の膜厚は、上述のように求められた総膜厚Dとする。
【0093】
また、吸収体膜15の材料は、Ta以外の材料でも構わない。Ta以外の材料としては、Ti、Cr、Ni、Nb、Mo、Ru、Rh、Te、Pd及びWが挙げられる。また、Ta、Ti、Cr、Ni、Nb、Mo、Ru、Rh、Te、Pd及びWのうち2以上の元素を含む合金を材料として用いることができ、これらの元素を材料とする層の積層膜とすることができる。また、これらの材料に窒素、酸素、及び炭素から選ばれる一以上の元素を含有しても良い。中でも窒素を含む材料とすることにより、吸収体膜15の表面の二乗平均平方根粗さ(Rms)を小さくすることができ、高感度欠陥検査装置を使用しての欠陥検査における疑似欠陥の検出を抑制させることができる反射型マスクブランク10が得られるので好ましい。
【0094】
なお、吸収体膜15を積層膜とする場合、同一材料の層の積層膜や、異種材料の層の積層膜としても良い。この場合、吸収体膜の残膜層となる下層を、アウトオブバンド光を抑制する材料で形成しても良い。例えば、吸収体膜の下層は、酸素(O)を含むタンタル化合物(TaO、及びTaON等)とすることができる。酸素の含有量は50原子%以上が好ましい。また、吸収体膜15を異種材料の層の積層膜とした場合、この複数層を構成する材料が互いに異なるエッチング特性を有する材料にして、エッチングマスク機能を持った吸収体膜15としてもよい。
【0095】
また、本発明の反射型マスクブランク10では、吸収体膜15は、多層反射部パターン23による反射光31aと、吸収体部パターン25による反射光31bとの間に所望の位相差を有する位相シフト機能を持たせることができる。その場合、EUV光による転写解像性が向上した反射型マスク20のための原版である反射型マスクブランク10が得られる。また、所望の転写解像性を得るのに必要な位相シフト効果を奏するために必要な吸収体の膜厚が従来よりも薄膜化することができるので、シャドーイング効果を小さくした反射型マスクブランク10が得られる。位相シフト機能を有する吸収体膜15の材料は、特に限定されるものではなく、上述の吸収体膜の材料とすることができる。
【0096】
吸収体膜15の形成は、成膜開始から成膜終了まで大気に曝さず連続して成膜することが好ましい。例えば、吸収体膜15は、イオンビームスパッタリング法で形成することが好ましい。しかしながら、DCスパッタリング法及びRFスパッタリング法などの公知の方法で形成することもできる。吸収体膜15の形成の際の成膜時間を調整することにより、吸収体膜15の膜厚を制御して、総膜厚Dの吸収体膜15を形成することができる。総膜厚Dは、20~100nmであることが好ましい。
【0097】
図3に示すように、本発明の反射型マスクブランク10において、吸収体膜15は、吸収体膜15の残膜層15bの膜厚に相当する膜厚dの部分に形成されたエッチングストッパー層16を有することが好ましい。
【0098】
図7に、
図3に示す反射型マスクブランク10を用いて製造された反射型マスク20の一例を示す。
図7に示す反射型マスク20は、吸収体膜15の残膜層15bの膜厚に相当する膜厚dの部分に形成されたエッチングストッパー層16を有する。反射型マスクブランク10の吸収体膜15が、所定のエッチングストッパー層16を有することにより、吸収体膜15をエッチングする際に、エッチング時間にあまり依存せずに、エッチングの進行をエッチングストッパー層16によって停止することができる。そのため、目標とする吸収体膜15の残膜層15bの膜厚dをエッチングによって得ることが容易になる。
【0099】
エッチングストッパー層16の材料は、吸収体膜15に対するエッチングガスにてエッチング選択性を有する材料で形成される。具体的には、エッチングストッパー層16の材料として、Ru及び/又はCrを用いることができる。
【0100】
エッチングストッパー層16の膜厚は、1~20nmであることが好ましく、2~10nmであることが好ましい。
【0101】
図7に示す例では、本発明の実施形態2(膜厚D
2の吸収体部パターン25と、多層反射部パターン23との膜厚差がD
2-d)を示した。
図7において、多層反射部パターン23の膜厚をD
1、多層反射部パターン23と、吸収体部パターン25との膜厚差をD
0とすることにより、
図3に示す反射型マスクブランク10を用いて、本発明の実施形態1の反射型マスク20を製造することもできる。
【0102】
(エッチングマスク膜)
本発明の反射型マスクブランク10では、吸収体膜15上に、更にエッチングマスク膜(図示せず)を形成することができる。エッチングマスク膜は、多層反射膜13の最上層に対してエッチング選択性を有し、かつ、吸収体膜15に対するエッチングガスにてエッチング可能な(エッチング選択性がない)材料で形成される。具体的には、エッチングマスク膜は、例えば、Cr又はTaを含む材料によって形成される。Crを含む材料としては、Cr金属単体、並びにCrにO、N、C、H、及びBなどの元素から選ばれる一種以上の元素を添加したCr系化合物などが挙げられる。Taを含む材料としては、Ta金属単体、TaとBを含有するTaB合金、Taとその他遷移金属(例えば、Hf、Zr、Pt、及びW)を含有するTa合金、Ta金属、並びそれらの合金にN、O、H及び/又はCなどを添加したTa系化合物などが挙げられる。ここで、吸収体膜15がTaを含む場合、エッチングマスク膜を形成するための材料としては、Crを含む材料が選択される。また、吸収体膜15がCrを含む場合、エッチングマスク膜を形成するための材料としては、Taを含む材料が選択されることが好ましい。
【0103】
エッチングマスク膜の形成は、DCスパッタリング法及びRFスパッタリング法などの公知の方法により行うことができる。
【0104】
エッチングマスク膜の膜厚は、ハードマスクとしての機能確保という観点から5nm以上であることが好ましい。反射型マスク20の製造工程において、エッチングマスク膜は、吸収体膜15のエッチング工程の際のフッ素系ガスによって、吸収体膜15と同時に除去されるものである。そのため、エッチングマスク膜は、吸収体膜15と概ね同等の膜厚であることが好ましい。吸収体膜15の膜厚を考慮すると、エッチングマスク膜の膜厚は、5nm以上20nm以下、好ましくは、5nm以上15nm以下が望ましい。
【0105】
(裏面導電膜11)
基板12の裏面側(多層反射膜13の形成面の反対側)には、
図1及び
図2に示すように、静電チャック用の裏面導電膜11が形成される。静電チャック用の裏面導電膜11に求められる電気的特性は、通常100Ω/sq以下のシート抵抗である。裏面導電膜11の形成は、例えば、クロム若しくはタンタル等の金属、又はそれらの合金のターゲットを使用して、マグネトロンスパッタリング法又はオンビームスパッタリング法により行うことができる。裏面導電膜11を、例えば、CrNで形成する場合には、Crターゲットを用い、窒素ガス等のNを含むガス雰囲気で、上述のスパッタリング法により、成膜することができる。裏面導電膜11の膜厚は、静電チャック用としての機能を満足する限り特に限定されないが、通常10~200nmである。
【0106】
以上、実施形態による反射型マスクブランク10の構成について各層ごとに説明をした。
【0107】
なお、本発明の反射型マスクブランク10は、上述のような実施形態に限られるものではない。例えば、本発明の反射型マスクブランク10は、吸収体膜15上に、エッチングマスクとしての機能を有するレジスト膜を備えることができる。また、本発明の反射型マスクブランク10は、多層反射膜13上に保護膜14を備えずに、多層反射膜13の上に接して吸収体膜15を備えることができる。
【0108】
<反射型マスク20>
次に、本発明の反射型マスク20について、
図5~
図7を参照して説明する。
【0109】
図5~
図7に示すように、本発明の反射型マスク20は、基板12上に、EUV光を反射するための多層反射部パターン23及びEUV光を吸収するための吸収体部パターン25を有する。
【0110】
図5及び
図6に示すように、本発明の反射型マスク20の多層反射部パターン23は、基板12上に、多層反射膜13及び吸収体膜15の残膜層15bをこの順で、又は多層反射膜13、保護膜14及び吸収体膜15の残膜層15bをこの順で有する。また、
図5及び
図6に示すように、本発明の反射型マスク20の吸収体部パターン25は、基板12上に、多層反射膜13及び吸収体膜15をこの順で、又は多層反射膜13、保護膜14及び吸収体膜15をこの順で有する。また、吸収体膜15の残膜層15bの膜厚dは、吸収体膜15の総膜厚Dよりも薄い。総膜厚Dは、20~100nmであることが好ましく、膜厚dは4~40nmであることが好ましい。また、
図7に、本発明の反射型マスク20の別の一例を示す。
図7に示す例では、残膜層15bの上に、更にエッチングストッパー層16を有している。
【0111】
本発明において、第1のコントラスト値C
1とは、基準反射型マスク20aのコントラスト値である。基準反射型マスク20aとは、
図4に示すような反射型マスク20aである。すなわち、基準反射型マスク20aの多層反射部パターン23は、吸収体膜15の残膜層15bを有しない。また、基準反射型マスク20aの吸収体部パターン25は、膜厚D
0の吸収体膜15を有する。
【0112】
本発明の反射型マスク20の実施形態1では、反射型マスク20のコントラスト値を、第2のコントラスト値C2とすると、第1のコントラスト値C1及び第2のコントラスト値C2は、C1<C2の関係であり、かつ、基準反射型マスク20aの吸収体膜15の膜厚D0、反射型マスク20の吸収体膜15の総膜厚D及び残膜層15bの膜厚dは、D0=D-dの関係である。
【0113】
図5に、実施形態1の反射型マスク20を示す。
図5では、光強度I
0の入射光30が入射した際に、膜厚dの吸収体膜15表面から強度I
r-multi(=I
0・R’
multi)の反射光31aが反射し、膜厚D(=D
1)の吸収体膜15表面から強度I
r-abs(=I
0・R’
abs)の反射光31bが反射する様子を示す。なお、
図5において、膜厚dの吸収体膜15が存在する部分は、EUV光を反射するための多層反射部パターン23であり、膜厚D(=D
1)の吸収体膜15が存在する部分は、EUV光を吸収するための吸収体部パターン25である。
【0114】
本発明の反射型マスク20の実施形態1によれば、高いコントラスト値を有する反射型マスク20を得ることができる。
【0115】
本発明の反射型マスク20の実施形態2では、反射型マスク20のコントラスト値を、第2のコントラスト値C2とすると、第1のコントラスト値C1及び第2のコントラスト値C2は、C1=C2の関係であり、かつ、基準反射型マスク20aの吸収体膜15の膜厚D0、反射型マスク20の吸収体膜15の総膜厚D及び残膜層15bの膜厚dは、D0>D-dの関係である。
【0116】
図6に、実施形態2の反射型マスク20を示す。
図6では、光強度I
0の入射光30が入射した際に、膜厚dの吸収体膜15表面から強度I
r-multi(=I
0・R’
multi)の反射光31aが反射し、膜厚D(=D
2)の吸収体膜15表面から強度I
r-abs(=I
0・R’
abs)の反射光31bが反射する様子を示す。なお、
図6において、膜厚dの吸収体膜15が存在する部分は、EUV光を反射するための多層反射部パターン23であり、膜厚D(=D
2)の吸収体膜15が存在する部分は、EUV光を吸収するための吸収体部パターン25である。実施形態2では、多層反射部パターン23と、吸収体部パターン25との膜厚差(D
2-d)が、第1のコントラスト値C
1を算出する工程において用いた膜厚D
0より薄い。そのため、実施形態2の反射型マスク20は、従来の反射型マスクと同じコントラスト値を有しながら、膜厚差(D
2-d)を小さくすることができる。この結果、吸収体部パターン25を形成した吸収体膜15によるシャドーイング効果を小さくすることができる。
【0117】
本発明の反射型マスク20は、吸収体膜15の総膜厚Dと、残膜層15bの膜厚dとの差が65nm以下であることが好ましい。吸収体膜15の総膜厚Dと、残膜層15bの膜厚dとの差を65nm以下とすることにより、吸収体部パターン25を形成した吸収体膜15によるシャドーイング効果を小さくすることが可能な反射型マスク20を得ることができる。
【0118】
本発明の反射型マスク20は、吸収体膜15の残膜層15bは、190nm以上400nm以下の波長範囲における残膜層15bの反射率が15%以下となる材料からなることが好ましい。残膜層15bの反射率を所定の範囲の値とすることにより、反射型マスク20を用いたときのアウトオブバンド光を抑制することが可能となる。
【0119】
本発明の反射型マスク20は、吸収体膜15の残膜層15bは、欠陥検査の検査光に対する反射率が30%以下の材料からなることが好ましい。吸収体膜15の残膜層15bが、欠陥検査の検査光に対する反射率が30%以下の材料からなることにより、高精度の欠陥検査が可能な反射型マスク20を得ることができる。
【0120】
本発明の反射型マスク20の吸収体膜15は、本発明の反射型マスクブランク10の吸収体膜15として説明したものを用いることができる。本発明の反射型マスク20の吸収体膜15は、タンタルと窒素とを含有することが好ましい。吸収体膜15が、タンタルと窒素とを含有することにより、吸収体膜15の表面において、吸収体膜15を構成する結晶粒子の拡大を抑制できる。そのため、吸収体膜15をパターニングしたときのパターンエッジラフネスを低減した反射型マスク20を得ることができる。
【0121】
上述の本発明の反射型マスクブランク10を使用して、本発明の反射型マスク20を作製することができる。EUVリソグラフィ用反射型マスク20の製造には、高精細のパターニングを行うことができるフォトリソグラフィー法が最も好適である。
【0122】
フォトリソグラフィー法を利用した反射型マスク20の製造方法について、
図2に示す反射型マスクブランク10を用いて、
図6に示す実施形態1の反射型マスク20を製造する場合を例に説明する。
【0123】
まず、
図2に示した反射型マスクブランク10の最表面(吸収体膜15の最表面)の上に、レジスト膜(図示せず)を形成する。レジスト膜の膜厚は、例えば、100nmとすることができる。次に、このレジスト膜に所望のパターンを描画(露光)し、更に現像・リンスすることによって所定のレジストパターン(図示せず)を形成する。
【0124】
次に、吸収体膜15に対し、レジストパターン(図示せず)をマスクとして、SF
6等のフッ素系ガスを含むエッチングガスによるドライエッチングを実施することにより、所定の吸収体部パターン25及び多層反射部パターン23を形成する。すなわち、吸収体膜15のエッチングは、多層反射部パターン23の残膜層15bの膜厚が膜厚dとなるように行う。この工程において、レジストパターン(図示せず)が除去される。なお、
図7に示す実施形態2の場合にも、残膜層15bの膜厚dとなるようにエッチングをすることにより、実施形態2の反射型マスク20を製造することができる。
【0125】
ここで、吸収体膜15のエッチングレートは、吸収体膜15を形成する材料、及びエッチングガス等の条件に依存する。異なる材料の多層膜からなる吸収体膜15の場合、異なる各材料の層ごとにエッチングレートが多少変化する。しかしながら、各層の膜厚が小さいので、吸収体膜15全体におけるエッチングレートは、略一定となると考えられる。エッチングレートを考慮して、吸収体膜15の成膜時間を調整することにより、膜厚dの残膜層15bを形成することができる。
【0126】
本発明の反射型マスク20は、多層反射部パターン23は、吸収体膜15の残膜層15bの膜厚に相当する膜厚dの部分、及び残膜層15b上に形成されたエッチングストッパー層16を有することが好ましい。
【0127】
図7に、吸収体膜15の残膜層15bの膜厚に相当する膜厚dの部分にエッチングストッパー層16が形成された反射型マスク20の一例を示す。吸収体膜15が、所定のエッチングストッパー層16を有することにより、吸収体膜15をエッチングする際に、エッチング時間にかかわらず、エッチングの進行をエッチングストッパー層16によって停止することができる。そのため、目標とする吸収体膜15の残膜層15bの膜厚dをエッチングによって得ることが容易になる。エッチングストッパー層16の材料及び膜厚については、本発明の反射型マスクブランク10での説明の通りである。
【0128】
上記工程によって、吸収体膜パターン(多層反射部パターン23及び吸収体部パターン25)が形成される。多層膜からなる吸収体膜15の場合には、一種類のエッチングガスによるドライエッチングにより、連続的にエッチングすることができる。一種類のエッチングガスによりドライエッチングをすることにより、工程簡略化の効果を得られる。次に、酸性又はアルカリ性の水溶液を用いたウェット洗浄を行い、高い反射率を達成したEUVリソグラフィ用反射型マスク20が得られる。
【0129】
なお、吸収体膜15のエッチングガスとしては、SF6の他、CHF3、CF4、C2F6、C3F6、C4F6、C4F8、CH2F2、CH3F、C3F8、及びF等のフッ素系ガス、並びにこれらのフッ素ガス及びO2を所定の割合で含む混合ガスを用いることができる。吸収体膜15のエッチングの際には、加工に有用なガスであれば、他のガスを用いてもよい。他のガスとして、例えば、Cl2、SiCl4、CHCl3、CCl4、及びBCl3等から選択される塩素系のガス及びこれらの混合ガス、塩素系ガス及びHeを所定の割合で含む混合ガス、塩素系ガス及びArを所定の割合で含む混合ガス、フッ素ガス、塩素ガス、臭素ガス及びヨウ素ガスから選択される少なくとも一つを含むハロゲンガス、並びにハロゲン化水素ガスからなる群から選択される少なくとも一種類又はそれ以上が挙げられる。更に、これらのガスと、酸素ガスとを含む混合ガス等が挙げられる。
【0130】
また、吸収体膜15が多層膜からなる場合、吸収体膜15の最上層に対してエッチング耐性を有する材料で下層を形成する場合には、上述したエッチングガスから2種類用いて2段階のドライエッチングを行うことも可能である。
【0131】
<半導体装置の製造>
本発明は、上述の本発明の反射型マスク20を用いて半導体基板上にパターンを形成するパターン形成工程を含む、半導体装置の製造方法である。
【0132】
上述の本発明の反射型マスク20を使用して、EUVリソグラフィ用により半導体基板上に反射型マスク20の吸収体膜パターン(多層反射部パターン23及び吸収体部パターン25)に基づく転写パターンを形成することができる。その後、その他種々の工程を経ることで、半導体基板上に種々のパターン等が形成された半導体装置を製造することができる。転写パターンの形成には、公知のパターン転写装置を用いることができる。
【0133】
本発明の半導体装置の製造方法によれば、露光の際に、高いコントラスト値を得ることができるので、微細でかつ高精度の転写パターンを有する半導体装置を製造することができる。また、本発明の半導体装置の製造方法によれば、吸収体部パターン25を形成した吸収体膜15によるシャドーイング効果が小さい反射型マスク20を用いることができるので、微細でかつ高精度の転写パターンを有する半導体装置を製造することができる。
【実施例0134】
以下、本発明を、各実施例に基づいて説明する。
【0135】
<実施例1>
次に述べる方法で、実施例1の反射型マスク20のコントラスト値を、シミュレーションによって求めた。実施例1の反射型マスク20は、CrN裏面導電膜11\基板12\MoSi多層反射膜13\保護膜14\吸収体膜15という構造を有するものとした。表1に、実施例1の反射型マスク20及びそれに対応する基準反射型マスク20aの、吸収体膜15、保護膜14及び多層反射膜13の膜厚を示す。各膜を構成する材料の屈折率n及び消衰係数kを特定することにより、シミュレーションによって、吸収体膜15の膜厚と、反射率との関係を得た。
図8に、実施例1の構造の反射型マスク20において、シミュレーションにより得られた吸収体膜15の膜厚と、反射率との関係を示す。
【0136】
実施例1の基板12は、厚さが6.35mmのSiO2-TiO2系ガラス基板12とした。また、基板12の裏面には、膜厚20nmのCrNからなる裏面導電膜11が配置されているものとした。
【0137】
実施例1の多層反射膜13は、基板12の裏面導電膜11が配置されている表面(裏面)とは反対側の表面上に、膜厚4.2nmのSi膜、及び膜厚2.8nmのMo膜が配置され、これを一周期として40周期積層され、最後にSi膜が膜厚4.0nmで配置された構造とした。したがって、多層反射膜13の合計膜厚は284nmである。
【0138】
表1に示すように、実施例1の保護膜14は、多層反射膜13の最上層のSi膜上に、Ruを材料とする保護膜14を膜厚2.5nmで配置された構造とした。
【0139】
表1に示すように、実施例1の吸収体膜15は、保護膜14上に、単層のTaN膜が配置された構造とした。なお、実施例1の反射型マスク20に対応する基準反射型マスク20aは、吸収体部パターン25の吸収体膜15の膜厚が62nmであり、多層反射部パターン23には吸収体膜15が形成されていない反射型マスク20aとした。実施例1の反射型マスク20の吸収体部パターン25の吸収体膜15の膜厚は76nmであり、多層反射部パターン23の吸収体膜15(残膜層15b)の膜厚は14nmなので、吸収体部パターン25と多層反射部パターン23との吸収体膜15の膜厚差は、基準反射型マスク20aの吸収体部パターン25の吸収体膜15の膜厚62nmと同じである。なお、
図8に、基準反射型マスク20aの多層反射部パターン23の吸収体膜15の膜厚(=0nm)及び吸収体部パターン25の吸収体膜15の膜厚に対応する点をそれぞれA点及びa点として示す。また、
図8に、実施例1の反射型マスク20の多層反射部パターン23及び吸収体部パターン25の吸収体膜15の膜厚に対応する点を、それぞれB点及びb点として示す。
【0140】
実施例1の反射型マスク20及びそれに対応する基準反射型マスク20aの吸収体部パターン25及び多層反射部パターン23での、波長13.5nmの露光光に対する反射率を、シミュレーションによって求めた。また、それらの反射率から、式(2)に基づいて基準反射型マスク20aのコントラスト値C1、及び式(3)に基づいて実施例1の反射型マスク20のコントラスト値C2を計算した。それらの結果を表1に示す。
C1=(Rmulti-Rabs)/(Rmulti+Rabs) ・・・(2)
C2=(R’multi-R’abs)/(R’multi+R’abs) ・・・(3)
【0141】
表1から明らかなように、本発明の実施例1の反射型マスク20のコントラスト値は、従来の反射型マスクである基準反射型マスク20aのコントラスト値より大きい。したがって、本発明によれば、高いコントラスト値を有する反射型マスク20を得ることができるといえる。
【0142】
【0143】
<実施例2>
次に述べる方法で、実施例2の反射型マスク20のコントラスト値を、シミュレーションによって求めた。実施例2の反射型マスク20は、CrN裏面導電膜11\基板12\MoSi多層反射膜13\保護膜14\吸収体膜15という構造を有するものとした。表2に、実施例2の反射型マスク20及びそれに対応する基準反射型マスク20aの、吸収体膜15、保護膜14及び多層反射膜13の膜厚を示す。実施例2の基板12、裏面導電膜11、多層反射膜13及び保護膜14は、実施例1と同じである。
【0144】
表2に示すように、実施例2の吸収体膜15は、実施例1と異なり、TaN層の上層(保護膜14とは反対側の層)及びTaO層の下層(保護膜14に接する層、残膜層)からなる2層構造とした。また、実施例2の反射型マスク20に対応する基準反射型マスク20aの吸収体膜15の膜厚等を、表2に示す。
【0145】
実施例2の反射型マスク20及びそれに対応する基準反射型マスク20aの吸収体部パターン25及び多層反射部パターン23での、波長13.5nmの露光光に対する反射率を、シミュレーションによって求めた。また、それらの反射率から式(2)及び式(3)に基づいて、基準反射型マスク20aのコントラスト値C1、及び実施例2の反射型マスク20のコントラスト値C2を計算した。それらの結果を表2に示す。
【0146】
表2から明らかなように、本発明の実施例2の反射型マスク20のコントラスト値は、従来の反射型マスクである基準反射型マスク20aのコントラスト値より大きい。したがって、本発明によれば、高いコントラスト値を有する反射型マスク20を得ることができるといえる。
【0147】
【0148】
<半導体装置の製造>
実施例1及び2の反射型マスク20を実際に製造し、EUVスキャナにセットし、半導体基板上に被加工膜とレジスト膜が形成されたウエハに対してEUV露光を行うことができる。そして、この露光済レジスト膜を現像することによって、被加工膜が形成された半導体基板上にレジストパターンを形成することができる。
【0149】
実施例1及び2の反射型マスク20は、従来の反射型マスクである基準反射型マスク20aのコントラスト値より大きいので、微細でかつ高精度の転写パターンを有する半導体装置を製造することができる。
【0150】
このレジストパターンをエッチングにより被加工膜に転写し、また、絶縁膜、導電膜の形成、ドーパントの導入、あるいはアニールなど種々の工程を経ることで、所望の特性を有する半導体装置を高い歩留まりで製造することができる。