(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022183209
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】エアゾール洗浄剤組成物
(51)【国際特許分類】
C11D 17/08 20060101AFI20221201BHJP
C11D 7/50 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
C11D17/08
C11D7/50
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022161184
(22)【出願日】2022-10-05
(62)【分割の表示】P 2020019887の分割
【原出願日】2018-05-31
(31)【優先権主張番号】P 2017108838
(32)【優先日】2017-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】503123864
【氏名又は名称】神戸合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101085
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 健至
(74)【代理人】
【識別番号】100134131
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 知理
(74)【代理人】
【識別番号】100185258
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 宏理
(72)【発明者】
【氏名】宮岡 督修
(72)【発明者】
【氏名】宮岡 祐士
(57)【要約】
【課題】引火の危険性や火災時のリスクが低く、消防法上の非危険物で、危険物倉庫不要および保管量に法的な制限がなく、低毒性で、オゾン層破壊などの環境負荷が小さく、高引火点の製品や水系の製品では未達な従来製品と同等以上の洗浄性を有し、適度な乾燥性を実現し、ゴムや樹脂に対する侵食を防止しつつ洗浄剤組成物で汚れ成分を湿潤させて洗い流し落とせ、一定程度離れた距離から噴射可能であることにより機械化に対応できる、新たな自動車、二輪自動車、自転車、建機、農機、航空機、鉄道車両、船舶などの各種車両・乗物・輸送機関の洗浄用エアゾール組成物の提供。
【解決手段】アルゴンを除く希ガス、または、それにN2、圧縮空気、CO2、前記希ガス以外の希ガスの少なくともいずれか1種以上を混合したものを噴射ガスとし、(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを洗浄成分とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルゴンを除く希ガス、または、それにN2、圧縮空気、CO2、前記希ガス以外の希ガスの少なくともいずれか1種以上を混合したものを噴射ガスとし、(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを洗浄成分とし、HFE系の不燃性フッ素系溶剤を質量比((Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン/HFE系の不燃性フッ素系溶剤)が30/70~99/1の範囲では含まないことを特徴とする各種車両・乗物・輸送機関の洗浄用不燃性エアゾール組成物。
【請求項2】
各種車両・乗物・輸送機関のブレーキクリーナー用であることを特徴とする、請求項1に記載の洗浄用不燃性エアゾール組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車、二輪自動車、自転車、建機、農機、航空機、鉄道車両、船舶などの各種車両・乗物・輸送機関の洗浄に用いるための新たなエアゾール洗浄剤組成物であって、各種車両・乗物・輸送機関におけるボディ、ブレーキ部品、サスペンション、ホイールなどの各種の車両用部品や制御装置などの細部に付着した油脂を除去するためのものであり、不燃性で、引火の危険性や火災のリスクが低く消防法上の非危険物に該当することから危険物倉庫が不要のため、大量使用する洗浄剤組成物の保管量に法的な制限がなく、さらに、毒性が低く、かつ、オゾン層破壊などの環境負荷が小さいという優れた特性を有し、さらには、従来の洗浄剤組成物と同等以上の洗浄性、乾燥性、汚れの再付着防止性を有するという優れた特性を併せ持つ、エアゾール洗浄剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、二輪自動車、自転車、建機、農機、航空機、鉄道車両、船舶などの各種車両・乗物・輸送機関は、ボディ、ブレーキ、サスペンション、ホイールなどの各種部品や装置などが、金属や各種の樹脂などを用いて製造されている。また、近年、軽量化や装飾性を高めることを意図して、金属に樹脂を組み合わせた複合材料なども用いた部材も使用されている。これらの部品や装置は、使用する間に油分や汚れなどがその表面に付着すると所期の性能や装飾性が低下し、付着成分によっては金属表面が腐食して所期の性能や装飾性が不可逆的に損なわれてしまう。また、車両・乗物・輸送機関には、各装置の動きをスムーズにするようグリスなどの油分が必要部位に塗布される。しかし、それら油分は、走行時に空気の流れや雨水が吹き付けられるなどすることにより徐々に意図しない部位に流れ出るなどし、また他の車両・乗物・輸送機関から流れ出た油分などが汚れと共に路面から巻き上げられるなどして、車両・乗物・輸送機関の各部に付着し、各種の部品や装置における所期の性能を低下させる要因となる。特に、車両・乗物・輸送機関において多く用いられるブレーキライニングを施したブレーキシューをブレーキディスクやブレーキドラム等の回転体に制動子として作用させる摩擦ブレーキ装置においては、油分が付着すると摩擦係数が低下し、さらにブレーキライニングが摩耗して生じた粉塵が付着しやすくなって、ブレーキの制動性が低下してしまう。そこで、定期的にメンテナンス作業を実施し、これらの部品や装置の細部に入り込み付着している油分や汚れを洗浄する必要が生じている。
【0003】
また、車両・乗物・輸送機関の組み立て製造時や点検後の再組み立て時において、部品や装置の表面に油分などが付着したままになっていると、樹脂や塗料が安定して付着せずに剥離したり変質するなどして、製品の品質が大幅に低下してしまう。また、ブレーキ、サスペンション、ホイールなどの運行時の安全性担保のために特に重要な部品や装置においては、油分などが付着したままでは摩擦係数が低下し、そのまま組み上げてしまうと制動性が損なわれるなどして、所期の性能を安定して発揮させることが出来なくなる。そこで、車両・乗物・輸送機関の組み立て製造時や点検後の再組み立て時には、各部品の表面に付着した油分を細部にまで洗浄し、十分に取り除くことが求められている。
【0004】
そこで従来は、各種車両・乗物・輸送機関のボディ、ブレーキ部品、サスペンション、ホイールなどの洗浄剤組成物として、洗浄性を有するトリクロロエタンを主成分とするものが開発され、車両・乗物・輸送機関の洗浄に利用されていた。しかし、トリクロロエタンは、毒性を有しており、また、オゾン層の保護のためのウィーン条約の下で発効したオゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書において、締約国における生産と消費を段階的に削減し1996年には全廃するとともに、議定書の非締約国との輸出入の禁止又は制限がされている。そのため、トリクロロエタンを用いた洗浄剤組成物の使用は、避けられることとなった。
【0005】
そこで、イソヘキサン、シクロヘキサンなどのC6の石油系炭化水素をベースに、エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類を添加し、洗浄性、乾燥性、沸点を調整した洗浄剤組成物とそのエアゾール製品が提案され、用いられている。しかし、上記の石油系炭化水素やアルコール類は、いずれも引火性が高く、消防法上の危険物として規制を受けるため、保管には危険物倉庫の設置が必要であり、設置の為のコストがかかるものであった。また、危険物倉庫を有していても、保管できる量には制限があり、特に上記洗浄剤組成物は、その多くが第四類第一石油類に分類されるが、法令上1倉庫に保管可能な第四類第一石油類の指定数量は低く設定されていることから、洗浄剤組成物使用施設においては、洗浄剤組成物の使用量が多いにもかかわらず、少量しか保管できないという問題があり、その改善が求められていた。加えて、作業時に洗浄剤組成物のエアゾール製品を勢いよく噴射させるなどすると、作業者の手袋や衣服に引火性が高い上記洗浄剤組成物が多量に染みこむことがあるが、上記洗浄剤組成物は引火性が高く、その後の乾燥が不十分であると、静電気やタバコの火による発火事故が生じる危険性があり、作業環境における確実な安全性を確保する上でも、それらの引火性の高い成分の使用を避けるよう、改善が求められていた。さらに、上記炭化水素はトリクロロエタンのような毒性はないものの過剰量を吸入することにより炭化水素中毒となる危険性があるため、屋外や換気装置のある屋内などの換気がされている環境下にて使用する必要があり、製品にもその旨の注意書きがされているが、エアゾール製品を使用するため、作業場だけでなく風下にも気化した炭化水素が流れ、そこにいる人が吸入する危険性は残っており、改善が求められていた。
【0006】
引火点を持たない溶剤として一般的に良く知られているものにハロゲン系の溶剤があるが、塩素系、臭素系はその有害性から製造や使用に制限があり、洗浄剤組成物への使用は困難を伴う。そこで、保管量や安全性確保の問題を解決する一案として、炭素数の長い石油系炭化水素を用いた高引火点の製品や洗浄成分として、カルビトール、アルコールなどを含む水系の製品が提案されている(特許文献1を参照)。しかし、上述した水系組成物は、乾燥に30~40分もの時間を要するなど乾燥性が非常に悪く遅いため(特許文献1を参照)、使用後にブレーキ廻りに水系組成物の液が残留しやすくなり、液が残留したままにブレーキを使用してしまうとブレーキ制動力が下がるといった重大な影響を及ぼすことに繋がるため、洗浄後に十分な乾燥を行う作業工程が必須で煩雑であり、改善が求められていた。またさらに、水系であることから、従来のブレーキクリーナー用洗浄剤組成物に比して洗浄性に劣り、汚れの種類によっては必ずしも十分な洗浄性能を有していないために使用場面に制限があり、より汎用性を高めるものとなるよう改善が求められていた。
【0007】
他方、金属材料の洗浄を志向したものとして、出願人は、洗浄成分が周囲に飛び散らずに金属表面に留まる発泡型の汚れ除去剤を用いたエアゾール製品を、金型のような凹部を有する金属表面の汚れを除去するものとして提案している(特許文献2)。しかし、上記提案のものは、水系であることや、汚れ除去剤が発泡して金属表面に留まるため、発泡した汚れ除去剤を汚れと共にウエス布で拭き取る必要があり、各種車両・乗物・輸送機関のブレーキなどの制動装置など組み上がった製品の洗浄に適用するには、その工程が極めて煩雑になり、廃棄物が多量に排出され、洗浄の機械化対応も困難であり、さらなる改善が求められるものであった。
【0008】
金属の洗浄に利用し得る溶剤としては、(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンも知られている。しかし、(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンは、樹脂やエラストマーに対して強い侵食性を有しており(非特許文献1)、使用する場面を十分に精査する必要がある。特に、ブレーキなどの制動装置、ライト、窓などは、自動車、二輪自動車、自転車、建機、農機、航空機、鉄道車両、船舶などの各種車両・乗物・輸送機関において安全性を高く保つことが求められる重要部品であり、金属で構成された主要部材に、ポリカーボネート、アクリル、ABS、ポリスチレン、シリコーンゴム、天然ゴム、HNBR、NBR、フッ素ゴムおよびウレタンゴムなどの各種の樹脂やエラストマーからなる素材が併用されており、例えば、ブレーキは、ブレーキフルードの油圧により制御し、そのブレーキフルードは一般的に金属で作られる装置間を連結するゴムホース内に満たされている。しかし、(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンは、上記車両・乗物・輸送機関の重要部品において金属と併用されるポリカーボネートを失透させ、アクリル、ABS及びポリスチレンを溶解し、シリコーンゴム、天然ゴム、HNBR、NBR、フッ素ゴム及びウレタンゴムを膨潤させる(非特許文献1)。そのため、(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを多量に触れさせると、車両・乗物・輸送機関の重要部品の安全性低下が懸念されることとなる。
【0009】
【特許文献1】特開2001-207199号公報
【特許文献2】特許第5121130号公報
【非特許文献1】1233Z 優れた環境性能、高い洗浄力 次世代フッ素系溶剤 セントラル硝子株式会社 カタログ発行年月 2015年10月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、引火の危険性が低く、火災時のリスクが低く、消防法上の非危険物に該当し、危険物倉庫が不要で、大量使用する洗浄剤組成物の保管量に法的な制限がなく、さらに、毒性が低く、オゾン層破壊などの環境負荷が小さいという特性を有し、高引火点の製品や水系の製品では達成していない従来製品と同等もしくはそれ以上の洗浄性を有し、適度な乾燥性が実現されるとともに、ゴムや樹脂に対する侵食を防止しつつ洗浄剤組成物で汚れ成分を湿潤させて洗い流し落とすことができ、さらに一定程度離れた距離から噴射可能であることにより機械化にも対応できる、新たな自動車、二輪自動車、自転車、建機、農機、航空機、鉄道車両、船舶などの各種車両・乗物・輸送機関の洗浄用エアゾール組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願の発明者は、上記課題を解決する新たな車両・乗物・輸送機関の洗浄用エアゾール組成物を提供するため、様々な化合物や組成物が有する物性と洗浄性を調査する作業を進めていた中で、金属の洗浄に利用し得る成分であるが、樹脂やエラストマーが変質、失透、溶解するなどの重大な不具合が生じることが知られた(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを、エアゾール組成物の噴射ガスとして頻用されるLPGを用いてエアゾール組成物とすると、噴出後直ちにLPGが揮発してしまい(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンが微細な液滴となって広範囲に拡がってしまうことで、洗浄成分である(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン自体が速やかに揮発してしまい洗浄が困難になること、溶液状態を確保しようとすると非常に多量のエアゾール組成物を噴射し続ける必要があるが、噴射部位が氷結し水分が付着し不具合を生じることを確認した。そしてさらに、安全性を高く保つことが求められる車両・乗物・輸送機関のブレーキなどの制動装置のような重要部品に併用される樹脂やエラストマーにまで広範囲に(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンが付着してしまうために、樹脂やエラストマーが侵食されて車両・乗物・輸送機関の重要部品の安全性低下がる強い懸念が生じるものであり、車両・乗物・輸送機関の洗浄用エアゾール組成物への適用は不適であることも確認した。
【0012】
ところが、噴射ガスとしてN2、圧縮空気、CO2を用いると、驚くことに(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンが噴射直後に揮発することなく溶液としての状態が保持されること、および、噴射後のエアゾール組成物が微細な液滴となって広範囲に拡がらずに棒状の溶液のまま狭い範囲へと集中して送達できるようになること、すなわち、遠距離から噴射してピンポイントで汚染箇所を狙って(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの溶液で洗い流すことができ、樹脂やエラストマーを避けて車両・乗物・輸送機関のブレーキなどの制動装置のような重要部品の金属部分の汚染箇所の洗浄が可能となることを見出し、本願発明を完成させた。
【0013】
上記の課題を解決するための本発明の第1の手段は、(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンと、N2、圧縮空気、CO2、アルゴンまたはそれらを2以上混合したものである噴射ガスとを含有することを特徴とする自動車、二輪自動車、自転車、建機、農機、航空機、鉄道車両、船舶などの各種車両・乗物・輸送機関の洗浄用エアゾール組成物である。
【0014】
上記の課題を解決するための本発明の第2の手段は、自動車、二輪自動車、自転車、建機、農機、航空機、鉄道車両、船舶などの各種車両・乗物・輸送機関のブレーキクリーナー用であることを特徴とする、第1の手段に記載の洗浄用エアゾール組成物である。
【0015】
また、本発明の手段の洗浄用エアゾール組成物を用いた洗浄方法の手段は、N2、圧縮空気、CO2、アルゴンまたはそれらを2以上混合したものを噴射ガスとし、(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを洗浄成分とすることを特徴とする各種車両・乗物・輸送機関の洗浄用不燃性エアゾール組成物を洗浄成分として各種車両・乗物・輸送機関に対して噴射して洗浄する各種車両・乗物・輸送機関の洗浄方法である。
【0016】
また、本発明の手段の洗浄用エアゾール組成物を用いた洗浄方法の他の手段は、N2、圧縮空気、CO2、アルゴンまたはそれらを2以上混合したものを噴射ガスとし、(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを洗浄成分とすることを特徴とする各種車両・乗物・輸送機関の洗浄用不燃性エアゾール組成物を洗浄成分として各種車両・乗物・輸送機関の制動装置に対して噴射して洗浄する各種車両・乗物・輸送機関の制動装置の洗浄方法である。
【0017】
また、本発明の手段の洗浄用エアゾール組成物の噴射状態を調整する方法の手段は、噴射ガス中にN2とCO2が質量比でN2:CO2=0:100~100:0の範囲で含み、(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを洗浄成分として含有する、各種車両・乗物・輸送機関の洗浄用エアゾール組成物の噴射状態を調整する方法である。
【0018】
また、本発明の手段の洗浄用エアゾール組成物は、アルゴンを除く希ガス、または、それにN2、圧縮空気、CO2、前記希ガス以外の希ガスの少なくともいずれか1種以上を混合したものを噴射ガスとし、(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを洗浄成分とし、HFE系の不燃性フッ素系溶剤を質量比((Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン/HFE系の不燃性フッ素系溶剤)が30/70~99/1の範囲では含まないことを特徴とする各種車両・乗物・輸送機関の洗浄用不燃性エアゾール組成物、および、各種車両・乗物・輸送機関のブレーキクリーナー用であることを特徴とする前記洗浄用不燃性エアゾール組成物である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の手段のエアゾール組成物に配合される(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンは、引火点がなく不燃性である。そのため、本発明の手段のエアゾール組成物は、その使用環境における引火の危険性および火災時のリスクが低い。そして、(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンは、消防法上の非危険物に該当することから、危険物倉庫が不要で、大量使用する洗浄剤組成物の保管量に法的な制限がない。また、上記各成分は、いずれも毒性が低く、オゾン層破壊などの環境負荷が小さいため、人体や環境に配慮された製品となる。
【0020】
一方で、(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンは、それを洗浄組成物として塗布しウエスで拭き取るように用いようとすると、乾燥性が過剰なために洗浄対象部位に油脂成分が残存しやすく、作業者の手技や熟練度により洗浄結果のバラツキが生じる懸念がり、過乾燥による影響を減少させようとすると溶剤の使用量が過剰になってしまうという問題点を有するものである。また、浸漬させると、車両・乗物・輸送機関の重要部品に併用されている樹脂やエラストマーが侵食され、重要部品の安全性低下がる強い懸念が生じるため、そのような用い方は不可である。さらに、エアゾール組成物において頻用されるLPGを噴射ガスとして用いると、噴出後直ちにLPGが揮発してしまい(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンが微細な液滴となって広範囲に拡がり速やかに揮発してしまい洗浄が困難になること、そこで溶液状態を確保しようとすると非常に多量のエアゾール組成物を噴射し続けると広範囲に拡がった(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン溶液が車両・乗物・輸送機関の重要部品に併用されている樹脂やエラストマーに付着し、樹脂やエラストマーが侵食されて重要部品の安全性が低下する強い懸念が生じるものであり、車両・乗物・輸送機関の洗浄用エアゾール組成物への適用は不適であることが明らかとなった。
【0021】
しかしながら、本発明の手段のエアゾール組成物は、上記問題点を有している(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンに、噴射ガスとしてN2、圧縮空気、CO2、アルゴンまたはそれらを2以上混合したものを含有させるものとすることで、(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンが噴射直後に揮発することなく溶液としての状態が保持されるようになる。そして、噴射後のエアゾール組成物は、微細な液滴となって広範囲に拡がらずに棒状の溶液のまま狭い範囲へと集中して送達できるようになり、すなわち、遠距離から噴射してピンポイントで汚染箇所を狙って(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの溶液で洗い流すことができ、樹脂やエラストマーを避けて車両・乗物・輸送機関のブレーキなどの制動装置のような重要部品の金属部分の汚染箇所の洗浄が可能となるという極めて有用な、顕著な効果を奏するものとなる。また、本発明の手段のエアゾール組成物にした(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンは適度に乾燥に要する時間が確保されることから洗浄対象となる部位に付着した油脂成分を相溶させた後にきちんと洗い流すことができ、さらには、洗浄後の部位を速やかに乾燥した状態にすることが可能になるという顕著な効果を有する。加えて、エアゾール組成物の噴射口から洗浄対象までの距離を十分に確保してもなお微細な液滴となって広範囲に拡がらずに棒状の溶液のまま狭い範囲へと集中して送達できるようになることから、車両・乗物・輸送機関を分解して洗浄対象装置を露出させて洗浄箇所へ接近せずとも離れた箇所からエアゾール組成物を噴射して洗浄することが可能となり、洗浄工程の機械化も容易になるという優れた効果も有するものとなっている。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明を実施するための最良の形態について以下の記載を参照しつつ、本発明の手段の洗浄剤組成物およびそのエアゾール組成物について説明する。
【0023】
<主要成分について>
本発明の手段のエアゾール組成物の主要成分について説明する。本発明の手段のエアゾール組成物には、洗浄剤の成分として(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンと、噴射ガスとしてN2、圧縮空気、CO2、アルゴンまたはそれらを2以上混合したものを含有させるものとする。
【0024】
上記(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンは、樹脂およびエラストマーの変質、失透または溶解などを生じさせる(非特許文献1)ため、樹脂およびエラストマーを用いたものの洗浄剤の成分として、塗布や浸漬などにより用いることは好ましくない。また、そのような洗浄剤組成物に配合する成分としては不適である(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンは、従来のエアゾール組成物に頻用されているLPGを噴射ガスとして含有させてエアゾール組成物とすると、噴出後直ちにLPGが揮発してしまう。そのために、(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンが微細な液滴となって広範囲に拡がり速やかに揮発してしまい洗浄が困難になるとともに、対応すべく噴射量を増大させると樹脂およびエラストマーの変質、失透または溶解などを生じさせる(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンが広範囲に付着するのみならず、当該部位が氷結し水分が付着するため、樹脂やエラストマーが併用されている車両・乗物・輸送機関のブレーキなどの重要部品の洗浄に用いることは不適である。
【0025】
ところが、そのような洗浄剤組成物に配合する成分としては不適である(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを、噴射ガスとしてN2、圧縮空気、CO2、アルゴンまたはそれらを2以上混合したものとを含有させてエアゾール組成物とすると、(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンが噴射直後に揮発することなく溶液としての状態が保持されるようになる。そのため、噴射後のエアゾール組成物は、微細な液滴となって広範囲に拡がらずに棒状の溶液のまま狭い範囲へと集中して送達できるようになり、すなわち、遠距離から噴射してピンポイントで汚染箇所を狙って(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの溶液で洗い流すことができることとなる。その結果として、(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンにより侵食されてしまう樹脂やエラストマーを避けながら、車両・乗物・輸送機関のブレーキなどの制動装置のような重要部品の金属部分の汚染箇所に(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを噴射して洗い流すという洗浄工程を実施することが可能となるという優れた効果を奏する新たなエアゾール組成物の提供が可能となる。
【0026】
<(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンについて>
上述した本発明の手段の洗浄剤組成物およびそのエアゾール組成物には、必須となる2成分のうちの一方の成分として、(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを含有するものとする。(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンは、ハイドロフルオロオレフィン系の溶剤として、1233Z(セントラル硝子株式会社,日本)などの名称で市販されているものを入手し利用することができる。
【0027】
(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンは、引火点がなく爆発限界試験方法ASTM E681による燃焼範囲もない、不燃性の溶剤である。また、オゾン層破壊係数ODPが実質的にゼロで地球温暖化係数GWPが<1などの環境性にも配慮された化学的性質を有している。そのため、オゾン層保護法、地球温暖化対策推進法、フロン排出抑制法、消防法、高圧ガス保安法などにおいて特定される成分には該当せず、その利用に特別な制限がかかるものではない。保管にあたり危険物倉庫が不要で、保管量に法的な制限がない。
【0028】
<エアゾール組成物について>
エアゾール組成物における噴射ガスとしては、N2、圧縮空気、CO2、アルゴンまたはそれらを2以上混合したものを用い、液化ガスや圧縮ガスとしたものを使用することができる。そして、本発明の手段の洗浄剤組成物と上記の噴射ガスを混合してエアゾール組成物とし、耐圧缶に充填して提供することが出来る。
【0029】
<使用方法について>
本発明の手段の洗浄剤組成物を噴射ガスとなる液化ガスと混合したエアゾール組成物を耐圧缶に充填してエアゾール化させ、または、本発明の手段の洗浄剤組成物をペール缶に入れ、使用する作業場に移動式小型充填機を設置し、圧縮空気によりペール缶に入れた洗浄剤組成物をエアゾール化させ、洗浄対象となる自動車、二輪自動車、自転車、建機、農機、航空機、鉄道車両、船舶などの各種車両・乗物・輸送機関の金属部材に、エアゾールとして吹き付けて用いることができる。なお、噴射するエアゾールは、棒状の溶液のまま狭い範囲へと集中して送達できるため、車両・乗物・輸送機関のブレーキなどの制動装置のような重要部品における樹脂やエラストマーを避けて金属部材の油脂などによる汚染箇所のみにピンポイントでエアゾール組成物を噴射し、(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの溶液で洗い流すようにして用いる。
【実施例0030】
以下に、本発明の洗浄剤組成物およびそのエアゾール組成物を製造し使用した例を、実施例及び試験例として示す。
【0031】
<試験用サンプルについて>
試験用サンプルを調製する。本発明の洗浄剤組成物に用いる成分である(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンとしては、1233Z(セントラル硝子株式会社,日本)を購入した。また、従来の洗浄剤として、速乾原液としては、イソヘキサンを用いる、ブレーキ&パーツクリーナー(速乾タイプ)(神戸合成株式会社,日本)を使用し、さらに、脱脂洗浄剤としては、シクロヘキサンを用いる、脱脂洗浄剤(株式会社ホンダアクセス,日本)を、常乾原液としては、イソパラフィン系溶剤の、ブレーキクリーナーN04(スズキ株式会社,日本)を、また、トリクロロエタンを、それぞれ購入した。
【0032】
そして、本発明のエアゾール組成物として、以下に示す実施例1~実施例3のエアゾール組成物をそれぞれ耐圧缶に充填して製造した。
実施例1:(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンと、N2である噴射ガスとを含有するエアゾール組成物
実施例2:(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンと、圧縮空気である噴射ガスとを含有するエアゾール組成物
実施例3:(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンと、CO2である噴射ガスとを含有するエアゾール組成物
【0033】
また、比較例となるエアゾール組成物として、以下に示す比較例4のエアゾール組成物を耐圧缶に充填して製造した。さらに、従来の洗浄組成物として速乾原液、脱脂洗浄剤、常乾原液をそれぞれ比較例5~7として用意した。なお、速乾原液、脱脂洗浄剤、常乾原液は、いずれも燃焼性が高く、また、トリクロロエタンは有害性が高く、これらはいずれも洗浄用組成物としては問題のある特性を有している。
比較例4:(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンと、LPG(液化石油ガス)である噴射ガスとを含有するエアゾール組成物
比較例5:速乾原液
比較例6:脱脂洗浄剤
比較例7:常乾原液
比較例8:トリクロロエタン
【0034】
次に、以下に示す各試験例を実施し、本発明の手段のエアゾール組成物が優れた特性を有するものであることを、具体的に確認した。
【0035】
<試験例1:グリスおよびオイルへの相溶性の評価>
・材料および方法
実験サンプルとして実施例1~3ならびに比較例4~8を用意する。
【0036】
洗浄し除去する対象となる油脂類として、次に示す、自動車等において汎用される各種グリス及びオイルを用意する。
グリス:GREASE(オレンジ)(神戸合成株式会社,日本)
:ラバー兼用ブレーキグリス(神戸合成株式会社,日本)
:ディスクブレーキ用グリス(神戸合成株式会社,日本)
:ブレーキグリス(神戸合成株式会社,日本)
:シリコングリス(神戸合成株式会社,日本)
:キャリパーピングリス(株式会社ホンダアクセス,日本)
:パッド&シューグリス(株式会社ホンダアクセス,日本)
:ラバーグリス(株式会社ホンダアクセス,日本)
:ブレーキグリス(株式会社ホンダアクセス,日本)
オイル:エンジンオイル Mobil1 0W-20(エクソンモービル,米国)
:ブレーキフルード(DOT3)(株式会社ホンダアクセス,日本)
:ブレーキフルード(DOT4)(スズキ株式会社,日本)
【0037】
10mLバイアル瓶を用意し、上記グリスまたはエンジンオイルをそれぞれ1g入れる。そのバイアル瓶に、さらに実施例1~3または比較例4~8のエアゾール組成物または溶液を加える。バイアル瓶の蓋を閉じた後、各バイアル瓶を超音波洗浄機(AU16C、アイワ医科工業株式会社,日本)にて超音波処理する。
1時間の超音波処理後に、超音波洗浄機から各バイアル瓶を取り出す。バイアル瓶の内部を確認し、グリスまたはエンジンオイルと、実施例1~3または比較例4~8の溶液とが、完全に混ざっていれば○、一部分離していれば△、完全に分離していれば×として、相溶性を評価する。
【0038】
・試験結果
上記試験を実施した結果を表1に示す。
【0039】
【0040】
(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを用いる実施例1~3及び比較例4は、自動車等において汎用される各種グリス及びオイルへの相溶性は概して良好であり、従来の速乾原液、脱脂洗浄剤、常乾原液よりも相溶性を有するグリス及びオイルの種類は多いことが明らかとなった(表1)。このことから、(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを用いると、従来の洗浄組成物以上にグリス及びオイルが相溶され、自動車、二輪自動車、自転車、建機、農機、航空機、鉄道車両、船舶などの各種車両・乗物・輸送機関に付着したグリス及びオイルなどの汚れを効果的に洗浄できる可能性が十分にあることが明らかとなった。
【0041】
<試験例2:乾燥性の評価>
・材料および方法
試験例1と同様に、上述した実施例1~3ならびに比較例4~8のエアゾール組成物または溶液をそれぞれ用意する。
【0042】
恒温恒湿機(HPAV-120-40,株式会社いすゞ製作所,日本)を、40℃、25℃または10℃で湿度70%の温度条件に設定し、2cmの平皿を入れ、静置した。平皿の温度が一定になったところで、平皿に実施例1~3ならびに比較例4~8を100μLとなる分量の組成物または溶液を入れ、平皿上から各溶液の液滴が完全に揮発し、乾燥するまでの時間を目視で計測する。
【0043】
・試験結果
上記試験を実施したところ、40℃、25℃または10℃での乾燥時間は、従来の速乾原液(比較例5)でそれぞれ1分36秒、2分11秒、3分54秒、従来の脱脂洗浄剤(比較例6)でそれぞれ3分48秒、5分58秒、6分38秒、従来の常乾原液でそれぞれ15分以上、15分以上、10分以上であった。
【0044】
一方、従来のエアゾール組成物で頻用されているLPGを用いた、比較例4((Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンと、LPGである噴射ガスとを含有するエアゾール組成物)の場合には、噴射後直ちにLPGが揮発し、(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンが微細な液滴となるとともにそれも直ぐに揮発してしまった。
【0045】
他方、実施例1((Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンと、N2である噴射ガスとを含有するエアゾール組成物)、実施例2((Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンと、圧縮空気である噴射ガスとを含有するエアゾール組成物)、実施例3((Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンと、CO2である噴射ガスとを含有するエアゾール組成物)では、噴射後にエアゾールが直ちに揮発するようなことはなく、棒状の溶液のままで噴出され、(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの溶液となり、その乾燥時間は、実施例1でそれぞれ0分57秒、1分37秒、2分14秒、実施例2でそれぞれ0分52秒、1分32秒、2分9秒、実施例3でそれぞれ0分50秒、1分30秒、2分5秒となった。
【0046】
これらの結果から、実施例1~実施例3のN2、圧縮空気またはCO2を噴射ガスとして用いるエアゾール組成物では、(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンが微細な液滴になって直ぐに揮発することなく、棒状の溶液のままで噴出されて、噴射対象に溶液として到達して一定の時間溶液状態が保持されることが明らかとなった。このことから、N2、圧縮空気またはCO2を噴射ガスとして用いるエアゾール組成物とすると、対象の汚れを(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン溶液で湿潤させて取り除ける可能性を十分に有するものであることが、新たに明らかとなった。
【0047】
他方、噴射ガスのLPGは、従来のエアゾール組成物で頻用されているものであるが、比較例4のエアゾール組成物では、予想外にも噴射後直ちにLPGが揮発し、(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンも微細な液滴となって直ぐに揮発してしまい、噴射対象に溶液として到達して一定の時間溶液状態が保持されることが無いことが明らかとなった。従来のエアゾール組成物で頻用されているLPGを噴射ガスとして(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン溶液と組み合わせて用いると、対象の汚れを(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン溶液で湿潤させて十分に取り除くことが困難であることが、新たに明らかとなった。
【0048】
<試験例3:エアゾール組成物に使用する噴射ガスの評価>
・材料および方法
試験例1と同様に、上述した実施例1~3ならびに比較例4のエアゾール組成物をそれぞれ用意する。
【0049】
エアゾール組成物に使用するガス種による噴射状態、乾燥時間、噴射可能距離や洗浄性の違いについて、それぞれ確認を行う。金属板を用い、金属板から5cm、10cm、50cm、1m、2m及び10m離れた位置から上記実施例1~3及び比較例4のエアゾール組成物を10秒間スプレーし、エアゾールの噴射状態と、金属板上の噴射後の液の状態及び液が乾くまでの時間を目視で測定した。
【0050】
・試験結果
本発明の手段のエアゾール組成物である実施例1~実施例3のN2、圧縮空気またはCO2を噴射ガスとして用いるものは、10秒間のスプレー噴射後にエアゾールが直ちに揮発するようなことはなく、エアゾール組成物が棒状の溶液のままで噴出され、5cm、10cm、50cmおよび1m離れた金属板上の直径5cmの狭い範囲を(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン溶液で集中的に濡らすことができるものであることが確認された。CO2を用いる場合、耐圧缶のガス内圧が0.2MPaまでは棒状の溶液のままで噴出させることが出来たが、それを超える内圧にすると、エアゾールが霧状となってしまった。内圧を一定程度以下に留めることで、エアゾールが棒状となり、車両・乗物・輸送機関のブレーキなどの制動装置のような重要部品における樹脂やエラストマーに(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン溶液が接触することを避け、所望の金属部材の油脂などによる汚染箇所のみにピンポイントでエアゾール組成物を噴射させることが可能なものであることが理解される。
また、N2または圧縮空気では、内圧を0.2MPaよりも高めてもエアゾール組成物が霧状とならず、2m及び10mといった、より離れた距離の金属板上にまで棒状の溶液のままでエアゾール組成物を到達させ、金属板上の直径5cmの狭い範囲を(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン溶液で集中的に濡らすことができるものであることが確認された。N2または圧縮空気を用いる場合には、より離れた距離の金属板上にまで棒状の溶液のままでエアゾール組成物を到達させることが可能であり、車両・乗物・輸送機関のブレーキなどの制動装置のような重要部品における樹脂やエラストマーに(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン溶液が接触することを避けながらの洗浄における自由度がより高くなるものであることが理解される。
【0051】
他方、噴射ガスのLPGは、従来のエアゾール組成物で頻用されているものであるが、比較例4のエアゾール組成物では、噴射後直ちにLPGが揮発し、(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン溶液もそれに伴い速やかに揮発するため、金属板上を(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン溶液で湿潤させることができないものであり、重要部品に樹脂やエラストマーが併用される車両・乗物・輸送機関の洗浄には適さないものであることが確認された。
【0052】
<試験例4:エアゾール組成物による洗浄性の評価>
・材料および方法
試験例1と同様に、上述した実施例1~3ならびに比較例4のエアゾール組成物をそれぞれ用意する。
【0053】
エアゾール組成物による洗浄性を確認する。表面に幅1mm、深さ1mmの溝を複数有する金属板を複数枚用意し、試験例1で用いたグリスまたはオイルを、それぞれ塗布する。実施例1~3ならびに比較例4のエアゾール組成物を、噴射距離を変えて10秒または30秒間噴射し、エアゾールが金属板上に到達した際に溶液で濡れた範囲の直径を測定するとともに、エアゾールの溶液が乾燥せずに下方に流れ落ち、グリスまたはオイルを溶かし十分に洗い流してその残留が無くなったものを◎、エアゾールの溶液が乾燥せずに下方に垂れ、グリスまたはオイルをほぼ洗い流せたものを○、エアゾールの溶液がその場に留まり、エアゾールの溶液によりグリスまたはオイルが溶解するが、エアゾール溶液が途中で乾燥してしまい金属板上にグリスまたはオイルが残留したものを△、エアゾールの溶液が金属板上で蒸発するためにグリスまたはオイルが十分には溶解せず残留したままとなったものを×として、評価した。
【0054】
・試験結果
本発明の手段のエアゾール組成物である実施例1~実施例3のN2、圧縮空気またはCO2を噴射ガスとして用いるものは、10秒間の噴射により、金属板上の直径5cmの狭い範囲を(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン溶液で集中的に濡らすことができており、かつ、エアゾールの溶液が乾燥せずに下方に垂れ、グリスまたはオイルがほぼ洗い流せており、○の評価が得られた。また、30秒間噴射することで、金属板上の直径5cmの狭い範囲を(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン溶液で集中的に濡らすことができており、かつ、エアゾールの溶液が乾燥せずに下方に流れ落ち、グリスまたはオイルが溶かされ十分に洗い流されていて、残留が無くなっており、◎の評価が得られた。N2および圧縮空気のものについては、内圧を0.2MPaよりも高めて10mといった、より離れた距離の金属板上のグリスまたはオイルの洗浄性についても確認したが、いずれも、90秒噴射により、金属板上の直径5cmの狭い範囲を(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン溶液で集中的に濡らすことができており、かつ、エアゾールの溶液が乾燥せずに下方に垂れ、グリスまたはオイルがほぼ洗い流せており、○の評価が得られ、さらに180秒噴射することで、金属板上の直径5cmの狭い範囲を(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン溶液で集中的に濡らすことができており、かつ、エアゾールの溶液が乾燥せずに下方に流れ落ち、グリスまたはオイルが溶かされ十分に洗い流されていて、残留が無くなっており、◎の評価が得られた。エアゾールの噴射状態が棒状となることで、ピンポイントで汚染箇所を狙って洗浄できること、より遠い距離からでもエアゾールの噴射状態が棒状となりピンポイントで汚染箇所を狙って洗浄できることから、装置を分解して接近して洗浄せずとも、離れた距離から洗浄ができ、機械化対応など洗浄工程における汎用性が高まるものであることが理解される。
【0055】
一方、比較例4のエアゾール組成物は、噴射後直ちにLPGが揮発し、(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン溶液もそれに伴い速やかに揮発して広い範囲に拡がってしまうため、金属板上を(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン溶液で湿潤させることができず、エアゾールの溶液が金属板上で蒸発するためにグリスまたはオイルが十分には溶解せず残留したままとなっており、×の評価となった。また、金属板をエアゾールの噴出口に接近させると、噴射後直ちにLPGが揮発し、(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンが微細な液滴となって、広い範囲に付着することが明らかとなった。車両・乗物・輸送機関のブレーキなどの制動装置のような重要部品において併用されている樹脂やエラストマーに、(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン溶液が接触し、樹脂やエラストマーが侵食されてしまう危険性が極めて高くなるものであり、自動車、二輪自動車、自転車、建機、農機、航空機、鉄道車両、船舶などの各種車両・乗物・輸送機関の洗浄用エアゾール組成物としては不適であることが理解される。
【0056】
<試験例5:エアゾール組成物に使用する噴射ガス(混合ガス)の評価>
・材料および方法
本発明の(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンと噴射ガスを用いるエアゾール組成物ついて、使用する噴射ガスを混合した場合についても評価した。
試験例1と同様しにて、(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンと噴射ガスとしてN2、CO2とN2、またはCO2とを耐圧缶に充填し、実施例9~16のものを製造した。なお、噴射ガスの充填条件は、以下のように設定した。
実施例9:N2を内圧が0.6MPaとなるまで充填。
実施例10:CO2を内圧0.1MPaとなるよう充填し、次いでN2を内圧が0.6MPaとなるまで充填。
実施例11:CO2を内圧0.2MPaとなるよう充填し、次いでN2を内圧が0.6MPaとなるまで充填。
実施例12:CO2を内圧0.3MPaとなるよう充填し、次いでN2を内圧が0.6MPaとなるまで充填。
実施例13:CO2を内圧0.4MPaとなるよう充填し、次いでN2を内圧が0.6MPaとなるまで充填。
実施例14:CO2を内圧0.5MPaとなるよう充填し、次いでN2を内圧が0.6MPaとなるまで充填。
実施例15:CO2を内圧が0.6MPaとなるまで充填。
また、比較例として、噴射ガスをLPGとし、内圧を0.25MPaに設定した比較例16、(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンをハンドスプレーに充填した比較例17、(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを洗浄瓶に充填した比較例18も用意した。
【0057】
上記実施例9~15および比較例16~18を用いて、噴射状態、液垂れの状態、洗浄範囲や洗浄性について、それぞれ確認を行う。実施例9~15および比較例16については、まず2秒間噴射した際のエアゾール組成物の噴射量(g)を測定した。実施例9~12については2秒あたりの噴射量が約20gとなり、実施例13~15および比較例16については2秒あたりの噴射量がそれよりも少なくなっていた。そこで、洗浄効果を確認する試験においては、実施例9~12については噴射量が約20gとなるよう、噴射時間を2秒に設定し、噴射量が少なくなった実施例13~15および比較例16については、噴射量が20gとなるように噴射時間を長く設定した。
【0058】
試験例4で使用した金属板を用い、その表面にブレーキグリスを直径36mmの円状にしながら0.2g塗布した。次に、ブレーキグリスが塗布された金属板に対して実施例9~15および比較例16~18を用いて(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン溶液を20g吹きかけ、エアゾールの噴射状態、(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン溶液の液垂れの状態、洗浄範囲や洗浄性を測定した。
【0059】
・試験結果
上記試験を実施した結果を表2に示す。
【0060】
【0061】
本発明の洗浄用エアゾール組成物は、噴射ガスとしてN2を使用することで、(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン溶液が即揮発することなく、棒状に噴射されるとともに、20cmもしくは50cmと、距離を保持しても、溶液が洗浄対象の金属板表面に的確に到達し、到達部位を十分に濡らすとともに、当該部位から溶液が十分に液垂れする、すなわち、洗浄後の溶液が汚染部位に留まらずに流れ落ち、洗浄箇所を清浄にすることが可能なものであることが判明した。洗浄範囲が5.25~6.25cmと狭めであることも判明した(表2)。汚染部位が一点に集中しているような場合には、噴射ガスとしてN2を用いたエアゾール組成物を用いれば、効率良く洗浄作業を行うことが可能となることが理解される。なお、先の試験例で確認されたように、噴射ガスとして、CO2を用いる場合にも、CO2を耐圧缶に内圧0.2MPa以下で充填すると(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン溶液が即揮発することなく棒状に噴射されることから、汚染部位が一点に集中しているような場合には、CO2についても同様に、(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン溶液を用いる洗浄用エアゾール組成物と組み合わせる噴射ガスとすることができることが理解される。
【0062】
さらに、噴射ガスとしてCO2を耐圧缶に、その内圧が0.6MPaとなるまで充填する場合には、噴射状態は霧状が保持され、金属板表面に、(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン溶液が到達できており、塗布したブレーキグリスが十分に洗浄できたことが確認された。また、洗浄範囲を確認したところ、洗浄範囲が8.00~9.00cmと、棒状の窒素ガスの場合よりも広くなることが判明した(表2)。加えて、N2とCO2とを混合した噴射ガスを耐圧缶に、その内圧が0.6MPaとなるまで充填する場合には、CO2を予め0.2MPaまで充填した場合には、噴射状態が棒霧状になり、棒状となるN2の場合よりも洗浄範囲が広く、かつ、CO2のみの時よりは噴射後の洗浄範囲が狭くなるが、金属板表面には(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン溶液が到達到達できており、塗布したブレーキグリスが十分に洗浄できたことが確認された。また、CO2を予め0.3MPa以上充填した場合には、噴射状態は霧状が保持され、金属板表面に(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン溶液が到達できており、塗布したブレーキグリスが十分に洗浄できたことが確認された(表2)。
【0063】
いずれの場合においても、本発明のエアゾール組成物は、洗浄箇所を十分に清浄にすることが可能なものであることが判明した。また、本発明の用いる噴射ガスについては、複数混合したものとしても、十分に洗浄性を保持したものが提供できることが明らかとなった。さらにN2やCO2が主要な構成成分である圧縮空気なども、同様に洗浄性を発揮し得るものであることが理解される。また、本発明のエアゾール組成物は、洗浄対象箇所における汚染の集中の程度(または広がりの程度)により、噴射ガスの種類や耐圧缶に充填する際の圧力を、幅広く調整できるものであることが理解される。
【0064】
他方、従来のエアゾール組成物において噴射ガスとして汎用されるLPGについては、噴射後、(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン溶液が細かい霧状となって即揮発し、洗浄対象となる金属板表面が十分濡れる程度には到達しないものであった(表2)。さらに、噴射された金属板表面は、(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン溶液とLPGの揮発により急激な温度低下が生じたためか、氷結してしまっていた。ブレーキ部位や各種重要部品を含む自動車、二輪自動車、自転車、建機、農機、航空機、鉄道車両、船舶などの各種車両・乗物・輸送機関の洗浄において、洗浄箇所を氷結させ、すなわち水分で濡らしてしまうことは避けるべき状況であることから、(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンとLPGとの組合せは好ましくないものであることが理解される。また、(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンをハンドスプレーに充填した比較例17では、溶液が霧状になり、洗浄対象となる金属板表面には到達しないものであった(表2)。(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを洗浄瓶に充填した比較例18では、洗浄瓶から溶液を棒状に出して金属板表面に到達させ、洗浄作業を行うことは可能であったが(表2)、全て手作業となるため作業工程に組み入れることには向いていない。なお、噴射後の内圧を確認したところ、即揮発して洗浄対象となる金属板表面には到達しないLPGでは、噴射後の内圧は変化が無かった。このことから、LPGが(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン溶液には多量に相溶しており、噴射後に(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン溶液に多量に相溶していたLPGが即揮発してしまうと考えられる。他方、洗浄対象へ(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン溶液を棒状、棒霧状、霧状での噴射により到達させることが可能であったN2、CO2およびそれらを混合したものを噴射ガスとしたものでは、耐圧缶における噴射後の内圧が下がった。このことから、N2、CO2およびそれらを混合したものを噴射ガスとしたものは、LPGのように(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン溶液に相溶することなく、(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン溶液を耐圧缶から噴射させることに寄与し、棒状、棒霧状、霧状での噴射により洗浄対象面まで到達させることが可能になっているであろうことが理解され、同様の成分を含有する圧縮空気や、他物質との反応性をほとんど有しないアルゴンなどの希ガスについても、同様であることが理解される。