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特開2022-183221脊髄損傷者における神経障害性疼痛の治療
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022183221
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】脊髄損傷者における神経障害性疼痛の治療
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4015 20060101AFI20221201BHJP
   A61P 25/04 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
A61K31/4015
A61P25/04
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022162551
(22)【出願日】2022-10-07
(62)【分割の表示】P 2019541683の分割
【原出願日】2017-10-16
(31)【優先権主張番号】62/408,490
(32)【優先日】2016-10-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】519217445
【氏名又は名称】シーエヌエス バイオサイエンシーズ,インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(72)【発明者】
【氏名】スコット ピー.ファルシ
(57)【要約】
【課題】レベチラセタム又はブリバラセタムを投与することによって脊髄損傷個体の神経障害性疼痛を治療する方法を記載する。
【解決手段】レベチラセタム又はブリバラセタムを投与することによって脊髄損傷個体の神経障害性疼痛を治療する方法の提供。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療を必要とする脊髄損傷個体の神経障害性疼痛を治療する方法であって、2-オキソ-ピロリジン-1-イルブタンアミド誘導体を前記個体に投与することを含む、方法。
【請求項2】
前記2-オキソ-ピロリジン-1-イルブタンアミド誘導体が、(S)-2-(2-オキソピロリジン-1-イル)ブタンアミドである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記神経障害性疼痛が、交感神経媒介性脊髄損傷疼痛である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記神経障害性疼痛が、前記脊髄損傷の神経学的レベルより下部で患者に知覚される、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記疼痛が、前記脊髄損傷のレベルに対し尾側の脊髄組織で発生する、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記疼痛が、前記脊髄損傷のレベルに対して頭側の脊髄組織で発生する、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記(S)-2-(2-オキソピロリジン-1-イル)ブタンアミドが、前記脊髄損傷のレベルより下部で髄腔内に投与される、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記2-オキソ-ピロリジン-1-イルブタンアミド誘導体が、2-(2-オキソ-4-プロピルピロリジン-1-イル)ブタンアミドである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記神経障害性疼痛が、交感神経媒介性脊髄損傷疼痛である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記神経障害性疼痛が、前記脊髄損傷の神経学的レベルより下部で患者に知覚される、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記疼痛が、前記脊髄損傷の神経学的レベルに対して尾側の脊髄組織で発生する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記疼痛が、前記脊髄損傷のレベルに対して頭側の脊髄組織で発生する、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記(S)-2-(2-オキソピロリジン-1-イル)ブタンアミドが、脊髄損傷のレベルより下部で髄腔内に投与される、請求項8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権
本出願は、2016年10月14日に出願された米国仮特許出願第62/408,490号の優先権を主張し、その内容全体が、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本明細書に開示されているのは、レベチラセタム(levetiracetam)又はブリバラセタム(brivaracetam)を投与することによって脊髄損傷者の神経障害性疼痛を治療する方法である。
【背景技術】
【0003】
脊髄損傷(SCI)は、多くの場合、激しい又は動けないほどの疼痛を引き起こす。SCIを有する個体は、20~77%の間の何れかのレベルの激しい又は動けないほどの慢性疼痛の発生に苦しんでいる。Davis et al., Clin Orthop 112:76-80 (1975); Richards et al., Pain 8:355-366 (1980); Siddall et al., Spinal Cord 39:63-73 (2001); Stormer et al., Spinal Cord 446-455 (1997); Woolsey, J Am Paraplegia 9:39-41 (1986)。少なくともある程度の激しい又は動けないほどの慢性疼痛を患っている患者は、リハビリテーションの可能性が低いことを示し、及び生活の質において、全体的に有意な低下を示す傾向がある。
【0004】
中枢性疼痛は、治療が非常に困難であることが証明されており、多くの場合、現代の医学的及び外科的疼痛治療法には不向きであることが証明されている。特定の脊髄後根進入部(DREZ)の外科的治療は、特に興味深い。障害のレベルで中枢性疼痛を発生させるDREZの外科的治療は、損傷から生じる異常な疼痛信号の神経(すなわち、電気的)の通信及び/又は発生を妨害すると考えられている。最初に、経験的技術が、外科的治療のためにDREZ部位を標的とすることで用いられ、その結果、患者に適度な予後、すなわち、治療の標的とされた損傷部位にDREZ部位が生じる。Friedman et al., J Neurosurg 65:465-469 (1986); Ishijima et al., Appl Neurophysiol 51:2-5, 175-187 (1988); Rath et al., Acta Neurochir, 138:4, 364-369 (1996); Rath et al., Sterotact Funct Neurosurg 68:1-4, Pt 1, 161-167 (1997)。この経験的手法を用いたより関連性の高い患者試験の1つは、そのように治療された患者の約50%が、SCI関連疼痛からの良好な軽減を達成することを示唆する。Friedman et al., J Neurosurg. 65:465-469 (1986)。そのシリーズでは、at-レベル疼痛(at-level pain)、すなわち、損傷のすぐ近くの疼痛は、最もよく反応し(74%の「良好な結果」)、及びbelow-レベル疼痛(below-level pain)、すなわち、損傷のレベルを下回る疼痛は、あまり反応しなかった(20%の「良好な結果」)。
【0005】
抗てんかん薬は、多くの場合、神経障害性疼痛を治療するために提案される。レベチラセタム及びブリバラセタムの商業的に承認された化合物の2つは、シナプス小胞グリコプロテイン2A(SV2A)に結合することによって作用する2-オキソ-ピロリジン-1-イルブタンアミド誘導体である。しかしながら、このクラスの化合物は、SCIを有する個体の疼痛を治療する方法としては評価されていない。Finnerupらは、レベチラセタムが、脊髄損傷から生じる疼痛を治療することに効果がないと記載した(Finnerup et al., Scandinavian Journal of Pain 1, S1 (2009) S3-S11)。Finnerupらは、「レベチラセタムは、脊髄損傷後の神経障害性疼痛又は痙攣の重症度を軽減しない」と説明した。Finnerupらはさらに、乳房切除後症候群に対する有効性の欠如が、末梢手術後の神経障害性疼痛と同様に根底にあるメカニズムとの干渉の欠如を示唆していることを指摘した。Finnerupらは、レベチラセタムの薬理学的作用が、神経障害性疼痛のメカニズムに関与していないこと、及びヒトにおいて用いられるレベチラセタムの用量でのAV2Aとの干渉が、神経障害性疼痛に影響を及ぼさないことが可能であることを示唆した。
【0006】
レベチラセタムは、ACI後の神経障害性疼痛を有する患者において鎮痛薬又は他の利益を全く持たないことが示されている。これは、ブリバラセタムを含む何れかのAV2Aに影響を与える化合物に同じことが当てはまることを示唆する(Finnerup et al.)。
【発明の概要】
【0007】
当該分野における一般的な理解に反して、本開示は、SV2AとSCI神経障害性疼痛の間に強い相関関係があることを示す。
【0008】
一態様において、本開示は、それを必要とする脊髄損傷者の神経障害性疼痛を治療する方法に関する。2-オキソ-ピロリジン-1-イルブタンアミド誘導体が、固体に投与される。
【0009】
いくつかの態様において、2-オキソ-ピロリジン-1-イルブタンアミド誘導体は、レベチラセタム((S)-2-(2-オキソピロリジン-1-イル)ブタンアミド)である。他の態様において、2-オキソ-ピロリジン-1-イルブタンアミド誘導体は、ブリバラセタム(2-(2-オキソ-4-プロピルピロリジン-1-イル)ブタンアミド)である。
【0010】
いくつかの態様において、神経障害性疼痛は、脊髄損傷のレベルより下部で患者に認識される。いくつかの態様において、神経障害性疼痛は、脊髄損傷の神経学的レベルを下回ると患者に知覚される。いくつかのバリエーションにおいて、疼痛は、脊髄損傷のレベルに対して脊髄組織の尾側で発生する。いくつかのバリエーションにおいて、疼痛は、脊髄損傷のレベルに対して脊髄組織の頭側で発生する。
【0011】
神経障害性疼痛薬は、脊髄損傷のレベルより下部で投与され得る。さらに、2-オキソ-ピロリジン-1-イルブタンアミド誘導体は、脊髄損傷のレベルより下部で、髄腔内投与され得る。
【0012】
以下の図面は、本開示の態様を例示するために作成されており、限定することを意図していない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、例示的な実施形態による、SV2Aのボックスプロット図を示す。
図2図2は、例示的な実施形態による、術前の感覚チャート及び知覚される低レベルの疼痛の領域を示す。
図3図3は、例示的な実施形態による、フィルタリングされていない、フィルタリングされたデータ(スピンドル)及びFFTラベル付きデータを記録する通常のDREZを示す。
図4図4は、例示的な実施形態による、図3と比較して、元の記録のピーク間の電圧の増加、スピンドルの増加、及び周波数スペクトルにわたる高い電気的活性のゆがみを示す電気的に高活性なDREZ記録を示す。
図5図5は、例示的な実施形態による、図4と比較して、周波数プロットがより低い周波数及びスピンドルの欠乏に向かってゆがんでいる患者のマイクロコアギュレーション(microcoagulation)後のDREZ記録を示す。
図6図6は、例示的な実施形態による、患者の脊髄遮断の領域及びDREZマイクロコアギュレーションの領域を表すT2強調MRIを示す。
図7図7は、例示的な実施形態による、患者における疼痛軽減の術後領域を示す。
図8図8は、例示的な実施形態による、at-レベルの鼠径部領域とbelow-レベルの足部疼痛及びL1のみのDREZ活動亢進(クロスハッチ)の両方を有する患者の、SCIのレベル又はそれと近接する頭側のL1脊髄の断面図を示す。
図9図9は、例示的な実施形態による、脚の疼痛を伴う完全な四肢麻痺患者におけるSCIの頸部レベルより下の領域におけるT10のDREZの正常な電気活動を示す。
図10図10は、例示的な実施形態による、完全な脊髄損傷の頸部レベルより下部のT11のDREZにおける電気的活動亢進を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示は、脊髄損傷者の神経障害性疼痛を治療するためのレベチラセタム又はブリバラセタムの使用に関する。SCI患者における交感神経媒介性中枢神経障害性疼痛と相関する疼痛産生組織を収集した。電気的活動亢進疼痛産生組織と電気的に正常な非疼痛産生組織との間の分子マーカーの比較分析は、交感神経媒介性中枢性疼痛に関与する疼痛産生組織におけるSV2Aの上方制御を示した。一般的な見方に反して、SV2Aは、脊髄損傷神経障害性疼痛に関係する。従って、SV2Aに作用するレベチラセタム又はブリバラセタムのような薬物は、SCIの神経学的レベルより下で知覚される交感神経薬の中枢性疼痛を含むSCI疼痛を治療するために用いられ得る。疼痛は、神経障害性、SCI疼痛、及びそれらの中枢神経系の起源を指す中枢性疼痛を含む。
【0015】
レベチラセタム又はブリバラセタム等の2-オキソ-ピロリジン-1-イルブタンアミド誘導体を投与することによって、それを必要とする患者において神経障害性疼痛を治療(すなわち、緩和、低減、減少又は他の方法で減衰すること)する方法が、本明細書に記載される。
【0016】
SCI神経障害性疼痛を軽減することは、薬理学的又は外科的治療の何れにおいても極めて困難な問題となっている。SCI疼痛の発生源は、SCIのレベルより上部の(頭側)脊髄領域から、又は脳自体からのみ生じなければならないと一般に考えられてきた。これら重度の薬理学的に難治性の疼痛における損傷レベルより下部の脊髄の全ての可能な影響を排除するために、完全な脊髄離断等の極端な外科的処置が行われてきた。
【0017】
実際に、損傷のレベルより下部の(尾側の)脊髄が、SCI神経障害性疼痛を引き起こし、その唯一の原因となる可能性があることが明らかにされてきた。特に、脊髄が完全に離断されていたとしても、背部灰白質内の損傷のレベルより下部の活動亢進の脊髄領域を根絶すること(レクセド層(Rexed layer) 1~3)は、完全な痛みの軽減をもたらし得る。
【0018】
脊髄疼痛は、交感神経系を通して媒介され得る。具体的には、損傷レベルより下部の脊髄から発生する活動電気亢進ニューロン信号は、交感神経鎖を介して損傷部位の周辺にルーティングされ得、脳の疼痛センターに達する。疼痛は、脊髄損傷の神経学的レベルより下部で知覚され、それは、知覚されるべきではない。例えば、T10の神経学的レベルでの完全な脊髄損傷において、患者は、臍より下(尾側の)の痛みを感じるべきではない。しかしながら、それにもかかわらず、患者は、これらの領域の痛みを感じることが出来る。疼痛は、脊髄損傷のレベルより下(尾側)又は脊髄損傷のレベルより上(頭側)に位置する組織によって発生し得る。このような交感神経媒介性脊髄損傷疼痛は、脊髄損傷の神経学的レベルの下部で患者に知覚される(本明細書において「below-レベル疼痛(below-level pain)」と称される)。
【0019】
当該技術分野における予測に反して、SV2Aは、below-レベル疼痛と相関することが発見された。具体的に、脊髄が、以前に完全に離断されたとしても、SV2Aは、損傷のレベルに対して尾側及び/又は損傷のレベルに対して頭側の電気的過活動脊髄組織(electrically hyperactive spinal cord tissue)において著しく上方制御され、及びこの活動亢進組織の根絶は、完全な疼痛治療がもたらされ得る。従って、SV2Aは、脊髄損傷後の発現の増加と共に、脊髄損傷の神経学的レベル(交感神経媒介性疼痛)より下で知覚される神経障害性疼痛の発生原として同定されている。
【0020】
従来の常識とは反対に、レベチラセタム又はブリバラセタムは、経口投与、SC投与、IV投与、舌下投与、内部投与、又は髄腔内投与でbelow-レベル神経障害性疼痛(交感神経媒介性疼痛)を軽減することが出来る。レベチラセタム又はブリバラセタムを含む、below-レベル疼痛に関連する薬物は、脊髄損傷の神経学的レベルより下部で知覚される疼痛を含む疼痛を治療するために用いられ得る。
【0021】
定義
「医薬的に許容されるビヒクル」は、医薬的に許容される希釈剤、医薬的に許容されるアジュバント、医薬的に許容される賦形剤、医薬的に許容される担体、又は本開示によって提供される化合物を患者に投与することができ、その薬理学的活性を損なわず、及び治療有効量の化合物を提供するために十分は用量で投与される場合に非毒性である、上記の何れかの組み合わせを指す。
【0022】
「医薬組成物」は、レベチラセタム又はブリバラセタム、及びレベチラセタム又はブリバラセタムと一緒に患者に投与される少なくとも1つの医薬的に許容されるビヒクルを指す。
【0023】
「治療有効量」は、疾患、又は疾患の少なくとも1つの臨床症状を治療するために対象に投与した際、そのような疾患又はその病状の治療に影響を与えることに十分な化合物の量を指す。「治療有効量」は、例えば、化合物、疾患及び/又は疾患の症状、疾患の重篤度及び/又は疾患又は障害の症状、年齢、体重、及び/又は治療を受ける患者の健康状態、並びに処方医師の判断に応じて変化し得る。どのような状況でも適切な量は、当業者によって確かめられるか、又は日常的な実験によって決定され得る。
【0024】
「治療有効用量」は、患者に疾患又は障害の有効な治療を提供する用量を指す。治療有効用量は、化合物ごとに、そして患者ごとに異なり得、及び患者の状態及び送達経路等の因子に依存し得る。治療有効用量は、当業者に知られている通常の薬理学的手順に従って決定され得る。
【0025】
化合物
レベチラセタム又はブリバラセタムは、抗てんかん薬である。レベチラセタム又はブリバラセタムは両方とも、2-オキソ-ピロリジン-1-イルブタンアミド誘導体である。レベチラセタム、又は(S)-2-(2-オキソピロリジン-1-イル)ブタンアミドは、特定のタイプの発作の治療のために処方される単一のエナンチオマーである。ブリバラセタム、又は2-(2-オキソ-4-プロピルピロリジン-1-イル)ブタンアミドは、レベチラセタムの類似体である。
【0026】
レベチラセタム又はブリバラセタムは両方とも、抗てんかん性薬の既知の標的であるSV2Aに結合する。レベチラセタムは、神経障害性疼痛の治療に用いられ得る薬として提案されているが、損傷部位のレベルを下回る疼痛を含むSCI患者の疼痛には効果がないと考えられている。
【0027】
本開示は、脊髄損傷者の疼痛を治療することに関する。いくつかのバリエーションにおいて、レベチラセタム又はブリバラセタムは、神経障害性疼痛を治療するために個体に投与される。追加のバリエーションにおいて、レベチラセタム又はブリバラセタムは、脊髄損傷者の神経障害性疼痛を治療するために個体に投与される。さらなるバリエーションにおいて、レベチラセタム又はブリバラセタムは、脊髄損傷者における交感神経媒介性中枢神経系疼痛の治療のために投与される。さらに、神経障害性疼痛は、交感神経性で媒介され得る。追加のバリエーションにおいて、神経障害性疼痛は、損傷の神経学的レベルを下回ると知覚される。追加のバリエーションにおいて、疼痛が生じる脊髄組織は、脊髄損傷の位置のレベルより下部に由来する。
【0028】
医薬組成物
本開示によって提供される医薬組成物は、個体への適切な投与のための組成物を提供するために、治療有効量のレベチラセタム又はブリバラセタムを適切な量の1つ以上の医薬的に許容されるビヒクルと共に含み得る。適切な医薬ビヒクルは、当該分野において説明される。
【0029】
特定の実施形態において、レベチラセタム又はブリバラセタムは、髄腔内投与される医薬組成物に組み込まれ得る。経口組成物は、医薬業界で公知の方法で調製され得、及びレベチラセタム又はブリバラセタム及び少なくとも1つの医薬的に許容されるビヒクルを含む。経口医薬組成物は、個体への投与に適した形態を提供するために、治療有効量のレベチラセタム又はブリバラセタム及び適切な量の薬学的に許容されるビヒクルを含み得る。
【0030】
レベチラセタム又はブリバラセタムを含む医薬組成物は、従来の混合、溶解、造粒、糖衣錠製造、研和、乳化、カプセル化、封入、又は凍結乾燥工程によって製造され得る。医薬組成物は、化合物及び1つ以上の医薬的に許容されるビヒクルの医薬的に用いられ得る製剤へのプロセシングを容易にする1つ以上の生理学的に許容される担体、希釈剤、賦形剤又は助剤を用いて通常の方法で製剤化され得る。適切な製剤は、選択された投与経路に依存する。本開示によって提供される医薬組成物は、液剤、懸濁剤、乳剤、錠剤、丸剤、ペレット剤、カプセル剤、液体を含有するカプセル剤、散剤、坐剤、乳剤類、エアロゾル剤、スプレー剤、懸濁剤類の形態、又は個体への投与に適した他の何れかの形態を取り得る。
【0031】
医薬組成物は、髄腔内注射を含む非経口投与に適している。医薬は、例えば、受容者の血液又は脳脊髄液と等張な溶液中のレベチラセタム又はブリバラセタムの無菌注射用製剤であり得る。有用な製剤はまた、適切な溶媒で希釈すると非経口(髄腔内を含む)投与に適した溶液を与える活性成分を含有する濃縮溶液又は固体を含む。非経口組成物は、緩衝材、静菌薬、糖類、増粘剤及び同様のもの等の従来のアジュバントを含み得る水性及び非水性製剤を含む。組成物は、例えば、密封アンプル及びバイアル等の単位用量又は複数用量の容器に入れて提供され得る。
【0032】
レベチラセタム又はブリバラセタムは、p.o.(経口)、IV(静脈内)、SC(皮下)、IC(髄腔内-脊髄内)、鼻腔内、及び舌下を含む何れかの他の適切な投与経路による投与のために医薬組成物に組み込まれ得る。
【0033】
本開示によって提供される医薬組成物は、単位剤形に製剤化され得る。単位剤形は、治療を受けている個体の単位用量として適切な物理的に分離した単位を指し、各単位は、意図された治療効果を生じるように計算された所定量のレベチラセタム又はブリバラセタムを含む。単位剤形は、1日当たり1回投与、1日当たり2回投与、又は1日に複数回投与、例えば、1日当たり3回以上投与のためのものであり得る。1日に複数回投与する場合、単位剤形は、各用量について同じでも異なってもよい。1つ以上の剤形は、用量を含むことができ、これはある時点で又はある時間間隔で個体に投与され得る。
【0034】
レベチラセタムの用量の量は、特定の治療に適切な何れかの量を選択することが出来る。いくつかのバリエーションにおいて、レベチラセタム用量は、少なくとも20mg、40mg、60mg、80mg、100mg、120mg、140mg、160mg、180mg、及び200mgであり得る。いくつかのバリエーションにおいて、用量は、300mg、280mg、260mg、240mg、220mg、200mg、180mg、160mg、140mg、120mg、及び100mg以下であり得る。
【0035】
いくつかのバリエーションにおいて、レベチラセタムは、1000mgの1日用量で静脈内注入により投与され得る。1日量は、1日2回500mgの投与量として投与され得る。いくつかのバリエーションにおいて、用量は、2週間ごとに1000mg/日の増分で最大3000mgの1日量まで増加され得る。いくつかのバリエーションにおいて、レベチラセタムは、1日1回1000mgで投与され得る。いくつかのバリエーションにおいて、レベチラセタムは、2週間ごとに1000mgずつ、1日の最大投与量3000mgまで投与され得る。いくつかのバリエーションにおいて、レベチラセタムの1日量は、100mg/mlの経口液剤として投与され得る。いくつかのバリエーションにおいて、レベチラセタムは、250mg、500mg、750mg、又は1グラムの錠剤として投与され得る。
【0036】
いくつかのバリエーションにおいて、レベチラセタムは、例えば、注入ポンプ(例えば、Medtronic Synchromed II Programmable Infusion Pump)等を用いて髄腔内に投与され得る。髄腔内投与は、他の投与方法よりも少ない投与量でよく、そしてボーラス(bolus)として、又はある期間にわたって様々な濃度で連続的に投与され得る。いくつかのバリエーションにおいて、レベチラセタムの髄腔内投与量は、少なくとも20マイクログラム、40マイクログラム、60マイクログラム、80マイクログラム、100マイクログラム、120マイクログラム、140マイクログラム、160マイクログラム、180マイクログラム、及び200マイクログラムであり得る。いくつかのバリエーションにおいて、用量は、300マイクログラム、280マイクログラム、260マイクログラム、240マイクログラム、220マイクログラム、200マイクログラム、180マイクログラム、160マイクログラム、140マイクログラム、120マイクログラム、及び100マイクログラム以下であり得る。
【0037】
いくつかのバリエーションにおいて、ブリバラセタムの用量は、少なくとも10mg、25mg、50mg、75mg、100mg、125mg、150mg、175mg、又は200mgであり得る。いくつかのバリエーションにおいて、用量は、300mg、275mg、250mg、225mg、200mg、175mg、150mg、125mg、又は100mg以下であり得る。いくつかのバリエーションにおいて、ブリバラセタムは、100mg/mLの経口液剤として投与され得る。そのようなバリエーションは、静脈内投与及び経口投与を含む、何れかの投与様式によるものであり得る。ブリバラセタムは、最初に50mgのPO BIDとして投与され得る。個々の忍容性及び治療反応に基づいて、用量は、25mg BID(50mg/日)まで、又は100mg BID(200mg/日)まで調製され得る。あるいは、ブリバラセタムは、IV注入によって投与され得る。注入は、錠剤又は経口液剤と同じ投与量及び同じ頻度であり得る。いくつかのバリエーションにおいて、ブリバラセタムは、50mg/5mLで静脈内投与され得る。いくつかのバリエーションにおいて、ブリバラセタムは、経口錠剤で10mg、25mg、50mg、75mg、又は100mgで投与され得る。
【0038】
いくつかのバリエーションにおいて、ブリバラセタムは、髄腔内投与され得る。髄腔内レベチラセタム投与と同様に、投与は、他の投与方法よりも少ない投与量でもよく、そしてボーラスとして、又はある期間にわたって様々な濃度で連続的に投与され得る。いくつかのバリエーションにおいて、ブリバラセタムの用量は、少なくとも10マイクログラム、25マイクログラム、50マイクログラム、75マイクログラム、100マイクログラム、125マイクログラム、150マイクログラム、175マイクログラム、又は200マイクログラムであり得る。いくつかのバリエーションにおいて、用量は、300マイクログラム、275マイクログラム、250マイクログラム、225マイクログラム、200マイクログラム、175マイクログラム、150マイクログラム、125マイクログラム、又は100マイクログラム以下であり得る。
【0039】
レベチラセタム若しくはブリバラセタム又はレベチラセタム若しくはブリバラセタムを含む医薬組成物の適切な用量は、いくつかの十分に確立されたプロトコルのうちの何れかに従って決定され得る。例えば、マウス、ラット、イヌ及び/又はサルを用いた試験等の動物試験を用いて医薬化合物の適切な用量が決定され得る。動物試験からの結果は、例えば、ヒト等の他の種における使用のための量を決定するために推定され得る。
【0040】
いくつかのバリエーションにおいて、ブリバラセタム又はレブテラセタム(lebteracetam)は、FDAの指針によって推奨されるように投与され得る。
【0041】
ブリバラセタムは、10mg/mLの静脈内溶液、10mg/mLの経口溶液として、又は錠剤として投与され得る。錠剤又は経口液剤投与の場合、推奨される開始投与量は、1日2回50mgである。個々の患者の忍容性及び治療反応に基づいて、投与量は、1日2回25mgまで(1日当たり50mg)又は1日2回100mgまで(1日当たり200mg)調整され得る。経口投与が、可能でない場合、同じ投与量は、静脈内注入によって投与され得る。ブリバラセタムの投与量を、承認された投与量から変更することが出来る。
【0042】
レブテラセタムは、経口即時放出又は経口持続放出として、1日当たり1000mgで経口投与され得る。レブテラセタムは、経口投与が不可能な場合に、静脈内注入で投与され得る。レブテラセタムの投与量を、承認された投与量から変更することが出来る。
【0043】
ブリバラセタム又はレブテラセタムの何れかを、本開示の範囲から逸脱することなく、本明細書に記載される量より少ない量又は多い量で投与することが出来る。
【実施例0044】
以下の実施例は、本開示の態様を裏付けるものである。それらは限定することを意図しない。それとは反対に、実施例は、本開示の本質に沿って変更され得る。
【0045】
実施例1: 脊髄損傷患者からの組織
脊髄疼痛に関与する組織を収集し、そして急速凍結した。脊髄疼痛を示す組織を収集する方法は、例えば、米国特許第8,694,107号等に記載されており、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0046】
中枢性疼痛を生じる脊髄組織を外科的に収集した。最初に、知覚疼痛に関与する脊髄組織を、知覚疼痛の解剖学的位置をSCI神経障害性疼痛が生じる脊髄組織の全体マップと比較することによって決定した。次いで、組織の電気的過活動(electrical hyperactivity)を測定することにより、これらの脊髄領域において、過活動(hyperactivity)の電気信号を示す脊髄組織を同定した。非電気的過活動、疼痛を生じないDREZ部位が、同じ個体で同定された。疼痛発生DREZ脊髄組織(DREZ SPINAL CORD TISSUE)及び非過活動性、非疼痛発生DREZ脊髄組織の両方の過活動性の試料が、個体から採取された。
【0047】
外科的に上(頭側)、下(尾側)、及び損傷のレベルで膠様質組織を含むDREZ組織を露出させることで組織を得た。記録電極を、脊髄の後部灰白質に約2mmの深さで挿入し、後根進入帯(DREZ)に入れた。自発的電気活動の記録を、1秒間記録した。
【0048】
記録は、DREZ頭側及び尾側に沿って両側で行い、約1mm離れた損傷のレベルまで行った。記録は、高速フーリエ変換(FFT)二乗平均平方根分析及び「スピンドル(spindle)」分析(米国特許2010/0203022及び2007/0016264の両方に記載され、両方が、参照により本明細書に組み込まれる。)を用いて分析され、神経電気性過活動の領域を同定した。記録された領域は、背部灰白質内のレクセド層1、2、3に相当する。
【0049】
記録は、体部位再現性のマップによって導かれ、損傷のレベルに対して、並びにさらなる電気的過活動が検出されなくなるまで、頭側及び尾側の両方で作製された。軟膜の小さな切除を行い、そしてマイクロ脳下垂体骨鉗子(micro-pituitary rongeur)を挿入し、約1×1×2mmの背側灰白質片を除去した。電気記録に基づき、組織は、疼痛を生じる「過活動」又は疼痛を生じない「正常電気」として同定された。組織は、切除後10分以内に急速凍結され、-81℃で保存された。
【0050】
タンパク質発現における差異を決定するために、組織は、過活動性(すなわち、疼痛発生)及び非過活動性(すなわち、非疼痛発生)DREZ部位の両方から収集される。発現タンパク質は、脊髄損傷疼痛のマーカーである。
【0051】
次いで、SV2Aを含む4,000マーカーパネルに対して、過活動性及び非過活動性脊髄由来の組織が、試験された。
【0052】
実施例2: SV2A発現
製造業者の推奨に従って、T-Per組織タンパク質抽出剤(Thermo Scientific)を用いて組織が、抽出された。200μLの緩衝液プラスHaltプロテアーゼ阻害剤カクテル(Pierce Part# 78430)を加えた。組織片が見えなくなるまで、組織は、氷上で回転乳棒を用いて30秒間ホモジナイズされた。試料は、4℃で10分間>14,000×gで遠心分離された。上清は、0.2ミクロンフィルターを通して滅菌チューブ又はプレート(Millipore Multiscreen GV filter plate、0.22 μm、滅菌済、Part # MSGV2210又は同様のもの)に0℃で濾過した。総タンパク質質量は、Micro BCAタンパク質アッセイキット(Thermo Scientific)を用いて決定された。アリコートは、-81℃で保存された。
【0053】
組織は、SOMAscan(登録商標)分析によって試験された。SOMAscanは、4,000のタンパク質パネル(SV2Aを含む)、及び様々な濃度に対して組織を試験する。SOMAscan(登録商標)並びに関連する方法及びに試薬は、例えば、米国特許第5,843,653; 5,853,984; 5,989,823; 6,261,783; 6,329,145; 6,531,286; 6,670,132; 6,673,553; 6,706,482; 7,709,192; 7,855,054; 7,964,356; 8,975,026 及び8,945,830に記載されており、それらの全体が、参照により本明細書に組み込まれる。
【0054】
過活動疼痛発生組織は、非疼痛発生組織と比較された。非疼痛発生組織と比較して過活動(疼痛産生)組織において上方制御された標的は、疼痛の標的として同定された。これらの疼痛標的は、標的に対して有効な薬物について分析された。
【0055】
SV2Aのボックスプロット表示を図1に示す。左側のボックスは、神経障害性疼痛を有する患者からの、電気的に正常な非疼痛産生脊髄組織のコントロール群におけるSV2Aタンパク質発現のRFU値が、SCIの神経学的レベルより下部で知覚されることを示す。コントロール群における水平線は、コントロール群における電気的に正常な非疼痛産生脊髄組織のSV2Aタンパク質発現の中央RFU値である。右側のボックスは、below-レベルの脊髄損傷神経障害性疼痛を有する同じ患者から取得した電気的過活動性疼痛産生脊髄組織のSV2Aタンパク質発現の測定されたRFU値を示す。疼痛産生群の黒い線は、below-レベルの脊髄損傷神経障害性疼痛を有する同じ患者から取得した電気的過活動性疼痛産生脊髄組織のSV2Aタンパク質発現の測定されたRFU値を示す。
【0056】
比較したSV2A発現に基づき、SV2Aは、疼痛産生組織における発現において4.6倍の増加を示す。正常活性膠様質組織と比較して、過活動性膠様質組織におけるSV2Aの比は、4.6であった。RFU分析のq値は、0.0064であった。
【0057】
過活動性脊髄組織は、非過活動性脊髄組織に対してSV2A濃度の増加を示した。この過活動性組織の外科的破壊は、below-レベルの神経障害性疼痛の完全な除去をもたらした。従って、SV2Aは、脊髄が損傷した個体、特に交感神経媒介性疼痛又は脊髄損傷より下部のレベルで疼痛を有する個体における神経障害性疼痛を治療するための標的である。
【0058】
従って、疼痛産生脊髄におけるSV2Aの発現は、神経障害性疼痛と相関する。シナプス小胞グリコプロテイン2Aは、ヒトではSV2A遺伝子によってコードされる偏在性シナプス小胞タンパク質である。
【0059】
実施例3
3人の患者は、49、54、及び45歳であった。全て男性であった。全て胸部脊髄損傷を持続した。全て重度のbelow-レベルの神経障害性疼痛を経験した(図2)。below-レベルの疼痛を、損傷後19年、2か月、2か月にそれぞれ最初に経験した。重大なbelow-レベルの疼痛の発生から手術までの時間は、それぞれ、2年、8年、13年であった。疼痛を特徴付ける説明は、「鋭い(sharp)」、「灼熱感」、及び「電気的」(表1)であった。
【表1】
【0060】
3人の患者全員が、以前に、脊髄に対して手術を受けていた。3人の患者のうちの1人は、below-レベルの疼痛を軽減するための失敗した試みにおいて、以前に拡大硬膜形成術及び嚢胞シャント術を伴う脊髄係留解除術を受けていた。他の2人の患者は、at-レベルの疼痛のみの完全な除去を達成することで、SCIのat-レベル及びbelow-レベルの神経障害性疼痛を軽減するために、以前の試みにおいて、障害のレベルに対してその点で及び頭側でDREZマイクロコアギュレーションを受けた。3つのうちの何れにおいても長期的なbelow-レベルの疼痛の除去は達成されなかった。3人の患者全員が、損傷部位において本質的に完全な外傷性脊髄離断を有していることが注目され、上記の脊髄に対する以前の手術の間に視覚的に確認された。それら手術の間に、損傷部位に見られる正常な髄組織を置換する無血管性瘢痕の細い帯を切断したところ、視覚的に明瞭で分離した脊髄の上昇部分と下降部分が生じた(図6)。これら以前の手術から4か月以上経過した後、3人の患者全員が、損傷を受けた部位の脊髄離断部位の尾側にある脊髄へのDREZマイクロコアギュレーションを受け、below-レベルの疼痛を治療した。DREZマイクロコアギュレーションは、電気的過活動のためにDREZの手術による電気生理学的モニタリングによって誘導された。
【0061】
疼痛は、強烈なバースト(burst)が1日に複数回起こる3人の患者全員で継続的に経験された。疼痛は、皮膚の痛み、又は尿路感染症等の身体への何れかの有害な刺激によって悪化した。試験にて感覚が欠如していた体の領域で疼痛が発生した。3人の患者全員が、1~10までの数ケール(10は、自殺-レベルに近い疼痛と見なされる)で疼痛を10と評価した。
【0062】
全ての患者は、脊柱及び脊髄を評価するために、術前に単純X線撮影、CTスキャン、及びMRイメージングを受けた。自殺念慮を有する何れかの患者は、術前心理学的評価を受け、承認を受けた。術前に、全ての患者が、経口抗うつ薬、抗けいれん薬、及び麻酔薬の投与を含む広範な薬理学的治療を受けていた。1人の患者で「和らげる(took the edge off)」ことができたが、一般に、これらの薬は効果がないと考えられていた。
【0063】
DREZ記録の方法は、以前の刊行物に記載されており、そしてこの研究において用いられた(Falci S, Best L, Bayles R, Lammertse D, Starnes C. J Neurosurg Spine 97:193-2000, 2002、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)。損傷部位での脊髄及び脊髄離断のレベル、並びにより尾側の全ての脊髄領域を、脊髄円錐のレベルにさらすために、多層椎弓切除術を実施した。7~8回の椎弓切除術が、3人の患者それぞれに行われた。脊椎レベルは、術中の放射線学的評価又は既存の脊椎用器具のレベルに関する知識によって決定された。術中の超音波検査を用いて脊髄損傷のレベルと脊髄離断の領域を同定した。硬膜を開き、顕微鏡技術を用いてDREZを同定した。次いで、損傷部位から脊髄円錐の先端まで、DREZの電気生理学的分析を行った。そのような分析を行うために、活性電極を特定のDREZに挿入した。活性電極は、末端2mmが露出した25mm単極電極(model MF 25; TECA Corporation, Pleasantville, NY)であった。術中顕微鏡を使用して、電極をDREZに「フリーハンド」で2mmの深さまで移植した。移植の軸は、内側に約35~45度であり、DREZマイクロコアギュレーションに用いられたものと同じ軸であった。接地及び参照グラス皮下脳は電極を、両側の露出した傍脊柱の筋肉に配置した。自発的電気生理学的記録は、誘発電位平均化装置(Cascade Pro 32 Channel; Cadwell Laboratories, Kennewick, WA)を用いて、高周波フィルターを3kHzに設定し、低周波フィルターを100Hzに設定し、50のゲイン設定で取得された。記録時間は、1秒間であった。
【0064】
データ分析の方法は、以前の刊行物に記載されており、この研究で使用された(Falci S, Best L, Bayles R, Lammertse D, Starnes C. J Neurosurg Spine 97:193-2000, 2002、それらの全体が、参照により本明細書に組み込まれる)。簡単に説明すると、初期データは、RMS(マイクロボルトで表示)、波形内の周波数と電圧はFFT、及び波形曲線の下面積(マイクロボルト/ミリ秒で表示)で分析した。DREZマイクロコアギュレーション後のデータを試験するために、これらと同じ分析を行った。RMS分析及び波形下面積データの両方が、記録された神経電気エネルギーの単一の数値を提供した。分析は、Cadwell Cascade softwareソフトウェアのサブルーチンを用いて実施した。「スピンドル」と表現する現象は、初期データを、65~100Hzのバンドパスを持つタイトなデジタルフィルタに通すことによって調べた。心臓の電気的活動又は電極の動きによって引き起こされるアーティファクトを除いて、1秒間の記録におけるスピンドルバーストの数の視覚的計測を行った。これらの分析により、発明者達の以前の研究と一致して、2つの異なる電気生理学的DREZ活性が見出された。より低い電圧及び周波数、波形曲線の下のより小さな面積、及び3つのより少ないスピンドルを示す活動は、非疼痛産生DREZ活動であると考えられ(図3)、及び3つ超のスピンドルが、異常な疼痛産生神経電気的過活動の領域であると考えられた(図4)。異常な神経電気的過活動の領域のDREZマイクロコアギュレーションに続いて、分析も行った。注目すべきことは、減少した活性の値が、非疼痛産生活性と一致するものよりさらに小さいことである(図5)。
【0065】
DREZマイクロコアギュレーションは、自発的な神経電気的過活動が実証された全てのDREZにおいて1mmの感覚で、針先電気焼灼器(Covidien Force FX electrosurgical generator, Valleylab, Inc, Boulder, CO)を1秒間のパルスに対して10デシケート(desiccate)の設定で使用し、実施された。マイクロコアギュレーション後、神経電気的過活動を再度測定した。記録された痕跡が神経電気的過活動の欠如を示した場合、それ以上の病変は作製されなかった。しかし、記録された痕跡が、自発的な神経電気的過活動を示し続けた場合、マイクロコアギュレーションが、繰り返された。
【0066】
3人の患者において、全てのbelow-レベルの神経障害性疼痛の完全又は完全に近い除去が達成された。1人の患者の足における残った灼熱感及び電気的感覚(強度の10のうち0~3の評価)、及びもう1人の足の疼痛を伴わない「チクチク感(tingling)」及び「暖かい感じ(warmth)」の感覚(強度10のうち0~3と評価された)を除いて、3人患者全員において、臀部、直腸、性器、上肢、並びに下肢及び足で100%の疼痛除去が報告された(図7)。3人の患者のうち2人は、デュラゲシクパッチ(Duragesic patch)、ニューロチン(Neurontin)、シンバルタ(Cymbalta)を含む全ての術前の鎮痛剤を完全に断つことが出来た。追跡調査は、3人の患者でそれぞれ1年半、2年半、及び11年行った。疼痛の除去に関する追跡観察は、電話インタビュー及び外来患者評価によって行われた。疼痛評価は口頭での尺度であり、1~10のスコアが疼痛の強度を示した。
【0067】
3人の患者全員が、術前及び術後のASIA官能検査及び運動検査を受けた。損傷部位に対して尾側のみで手術を受けたこれらASIA A患者において予想されたように、試験に変化はなかった。創傷感染、深部静脈血栓症、肺塞栓症、脳脊髄液漏出症の症例はなく、又は死亡者はいなかった。1人の患者は、術後6か月以内に非外科的に解決した術後偽性髄膜瘤を発症した。術後10か月で、同じ患者は、椎間板スペース感染及び外科的安定化を必要とするL1/2での不安定性を伴って敗血症を発症した。術後3年の時点で、同じ患者が、硬膜外膿瘍形成及びT12/L1での不安定性を伴って敗血症を発症し、再度安定化が必要であった。これらの不安定な発症は、治療に関連するとは考えられていなかった。これら2つの手術の結果、報告されている疼痛軽減が残った。
【0068】
T3~T7脊髄領域のDREZ過活動は、神経幹におけるbelow-レベルの中枢性疼痛、T8~T10脊髄領域の過活動、臀部、直腸、及び/又は性器領域のbelow-レベルの疼痛、及びT11~L1 DREZ上部、下肢における過活動、及び足のbelow-レベルの疼痛を引き起こす。この試験において3人の患者全員が、上肢、下肢、及び足のbelow-レベル疼痛を経験した。さらに、3人の患者全員が、これらと同じ身体領域(すなわちL1~S1)について古典的な体性疼痛に対する感覚性細根のより伝統的なDREZにおいて記録されたDREZ過活動を有していた(表2)。
【表2】
【0069】
3人の患者のうち2人は、below-レベルの臀部、直腸、生殖器領域疼痛を経験し、及び両方とも、T10 DREZにおいて記録されたDREZ過活動を有した。両方とも、これらの領域(すなわち、S2)から古典的な体性疼痛に対する感覚性細根のより伝統的なDREZにおいて記録されたDREZ電気的過活動をさらに有していた(表2)。
【0070】
完全に離断された脊髄(神経損傷)のレベルに対する尾側の脊髄は、below-レベル脊髄損傷性神経障害性疼痛の原因となる可能性があり、この例の患者に関しては、本質的に唯一の原因である。さらに、below-レベルSCI神経障害性疼痛伝達は、実質的に交感神経鎖及びSNS媒介性疼痛経路を介して起こり得る。脊髄上位の疼痛中枢に到達するためには、新しい神経経路は、おそらく、反応性C繊維の新芽形成、脊髄離断のレベルに対して尾側DREZ過活動の間、及び横断面に対してより頭側の交感神経鎖及び骨髄領域、及び/又は交感神経鎖次いで後頭孔を通って直接的に脳を介して術後に形成しなければならない。この新しい回路を通るDREZ過活動の伝達は、腹側根を介して交感神経鎖に至るか、または背側根を通って交感神経鎖に逆行する形で、腹側根または背側根を介して脊髄内に再進入することによって起こり得る(図8)。鼠径部から発生するat-レベルの体性C繊維求心性神経及び足から発生するbelow-レベルの交感神経性C繊維求心性神経が、同じL1 DREZに収束しているのが示される。提案された二次交感神経求心性神経経路は、交感神経遠心性神経経路と類似する。脊髄頭側をL1レベルに離断すると、脊椎中枢へのat-レベル疼痛の伝達が停止する可能性があるが、below-レベル疼痛伝達はない。この提案されたメカニズムのさらなる裏付けは、below-レベルSCI神経障害性疼痛を緩和するための声帯切除術及び脊髄切断術、並びに自身の個人的な声帯切除術に関する経験である。
【0071】
実施例4
図9は、脚の疼痛を伴う完全な四肢麻痺のACIの頸部レベルより下部の領域におけるT10の脊髄DREZの正常な電気的活性を示す。図10は、髄領域における脚部DREZ疼痛発生組織の体性マップに相当する、完全な脊髄損傷の頸部レベルより下部のT11のDREZにおける電気的過活動を示す。DREZ疼痛の発生が、完全なSCIの頸部レベルに対して尾側に位置していること、及びSCI神経障害性疼痛が、完全なSCIのレベルより下部で知覚されることは、中枢神経障害性疼痛が、交感神経性に媒介されることを示す。患者が、脊髄損傷のレベルより下部で知覚されている疼痛の存在は、疼痛が、交感神経的に媒介される疼痛のレベルより下部であることを示す。
【0072】
いくつかの実施形態を説明してきたが、本開示の本質から逸脱することなく、様々な改変形態、代替構造、及び等価物が、使用され得ることが当業者に理解され得る。加えて、本開示を不必要に曖昧にすることを避けるために、いくつかの周知の過程及び要素は説明されていない。従って、上記の説明は、本開示の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0073】
当業者は、開示された実施形態が限定としてではなく、例として教示されることを理解し得る。従って、上記説明に含まれる、又は添付の図面に示される事項は、例示として解釈されるべきであり、限定的な意味ではない。添付の特許請求の範囲は、本明細書に記載された全ての一般的及び特定の特徴、並びに方法及びシステムの範囲の全ての記述を網羅することを意図しており、それらは、言語の問題として、その間にあると言われる可能性がある。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【手続補正書】
【提出日】2022-10-21
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
個体において2-(2-オキソ-4-プロピルピロリジン-1-イル)ブタンアミドを投与することを含む、神経障害性疼痛の治療を必要とする脊髄損傷個体の神経障害性疼痛治療における使用のための、2-(2-オキソ-4-プロピルピロリジン-1-イル)ブタンアミドを含む医薬組成物であって、
該2-(2-オキソ-4-プロピルピロリジン-1-イル)ブタンアミドを、経口、静脈内、皮下、髄腔内-脊髄内、鼻腔内、または舌下投与し、
該神経障害性疼痛が、該脊髄損傷のレベルに対し尾側の脊髄組織で発生し、そして
該神経障害性疼痛が、該脊髄損傷のレベルより下部であると該個体に知覚される交感神経媒介性脊髄損傷疼痛である、医薬組成物
【請求項2】
前記2-(2-オキソ-4-プロピルピロリジン-1-イル)ブタンアミドが、前記脊髄損傷のレベルより下部で髄腔内に投与される、請求項1に記載の医薬組成物
【外国語明細書】