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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022183224
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】抗C5a抗体とその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20221201BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20221201BHJP
   C07K 16/18 20060101ALI20221201BHJP
   C12N 5/20 20060101ALI20221201BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20221201BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20221201BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20221201BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20221201BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20221201BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20221201BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20221201BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20221201BHJP
   A61P 11/06 20060101ALI20221201BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20221201BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20221201BHJP
   A61P 7/06 20060101ALI20221201BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20221201BHJP
   A61P 21/04 20060101ALI20221201BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20221201BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20221201BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20221201BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20221201BHJP
   A61P 9/14 20060101ALI20221201BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/46 ZNA
C07K16/18
C12N5/20
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61P43/00 111
A61P27/02
A61P9/10
A61P19/02
A61P29/00
A61P17/02
A61P1/04
A61P11/06
A61P37/08
A61P11/00
A61P7/06
A61P37/06
A61P21/04
A61P25/00
A61P31/04
A61P13/12
A61P3/00
A61P9/14
A61P17/00
A61P29/00 101
【審査請求】有
【請求項の数】20
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022162654
(22)【出願日】2022-10-07
(62)【分割の表示】P 2019551994の分割
【原出願日】2018-03-23
(31)【優先権主張番号】62/475,573
(32)【優先日】2017-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】500429103
【氏名又は名称】ザ トラスティーズ オブ ザ ユニバーシティ オブ ペンシルバニア
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(72)【発明者】
【氏名】ウェンチャオ ソン
(72)【発明者】
【氏名】三輪 隆史
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 さやか
(72)【発明者】
【氏名】ダモダー ガリパリ
(57)【要約】
【課題】本発明は、抗C5a抗体を用いた補体シグナル伝達の抑制に関する。具体的には、本発明は、個体で補体が媒介する疾患または補体が媒介する障害を、その個体に抗C5a抗体を接触させることによって治療する方法に関する。
【解決手段】個体で補体が媒介する疾患または補体が媒介する障害を、その個体に抗C5a抗体を接触させることによって治療する方法の提供。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトC5aに特異的に結合する抗体。
【請求項2】
キメラ抗体である、請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
VH-CDR1:配列番号3、VH-CDR2:配列番号4、VH-CDR3:配列番号5、VL-CDR1:配列番号8、VL-CDR2:配列番号9、およびVL-CDR3:配列番号10からなる群から選択される少なくとも1つのCDR、またはその1つもしくは複数の改変体を含む、請求項1に記載の抗体。
【請求項4】
VH-CDR1:配列番号3、VH-CDR2:配列番号4、VH-CDR3:配列番号5、VL-CDR1:配列番号8、VL-CDR2:配列番号9、およびVL-CDR3:配列番号10、またはその1つもしくは複数の改変体を含む、請求項1に記載の抗体。
【請求項5】
配列番号2のアミノ酸配列またはその改変体を含む重鎖を含む、請求項1に記載の抗体。
【請求項6】
配列番号7のアミノ酸配列またはその改変体を含む軽鎖を含む、請求項1に記載の抗体。
【請求項7】
配列番号2のアミノ酸配列を含む重鎖および配列番号7のアミノ酸配列を含む軽鎖、またはその1つもしくは複数の改変体を含む、請求項1に記載の抗体。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の抗C5a抗体を個体に投与する工程を含む、個体において補体経路が媒介する疾患または障害を治療する方法。
【請求項9】
前記疾患または障害が、黄斑変性(MD)、加齢黄斑変性(AMD)、虚血再灌流障害、関節炎、関節リウマチ、狼瘡、潰瘍性大腸炎、脳卒中、術後全身性炎症反応症候群、喘息、アレルギー性喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)症候群、自己免疫性溶血性貧血(AIHA)、ゴーシェ病、重症筋無力症、視神経脊髄炎(NMO)、多発性硬化症、移植後機能障害、抗体関連型拒絶、非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)、網膜中心静脈閉塞症(CRVO)、網膜中心動脈閉塞症(CRAO)、表皮水疱症、敗血症、敗血症性ショック、臓器移植、炎症(その非限定的な例に、心肺バイパス手術と腎臓透析に関連した炎症が含まれる)、C3腎症、膜性腎症、IgA腎症、糸球体腎炎(その非限定的な例に抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連糸球体腎炎、ループス腎炎、およびこれらの組み合わせが含まれる)、ANCA関連血管炎、志賀毒素誘導型HUS、抗リン脂質抗体誘導型流産、移植片対宿主病(GVHD)、またはこれらの任意の組み合わせからなる群から少なくとも選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
個体の補体系の活性を低下させる方法であって、腸投与、非経口投与、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される投与経路を介してその個体に抗体を投与することを含み、前記抗体が、アミノ酸配列:配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号8、配列番号9、および配列番号10、またはその1つもしくは複数の改変体を有する6つの相補性決定領域を含む、方法。
【請求項11】
前記抗体が、Fab、Fab'、F(ab)2、F(ab')2、scFv、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される抗体フラグメントである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
配列番号2と約90%超の同一性があるアミノ酸配列を有する重鎖可変(vH)領域を持つ、ヒトC5aに特異的に結合する抗体。
【請求項13】
前記抗体が、Fab、Fab'、F(ab)2、F(ab')2、scFv、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される抗体フラグメントである、請求項12に記載の抗体。
【請求項14】
配列番号7と約90%超の同一性があるアミノ酸配列を有する軽鎖可変(vL)領域を持つ、ヒトC5aに特異的に結合する抗体。
【請求項15】
前記抗体が、Fab、Fab'、F(ab)2、F(ab')2、scFv、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される抗体フラグメントである、請求項14に記載の抗体。
【請求項16】
重鎖可変(vH)領域と軽鎖可変(vL)領域を有し、前記vH領域が、配列番号2と約90%超の同一性があるアミノ酸配列を持ち、前記vL領域が、配列番号7と約90%超の同一性があるアミノ酸配列を持つ、ヒトC5aに特異的に結合する抗体。
【請求項17】
前記抗体が、Fab、Fab'、F(ab)2、F(ab')2、scFv、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される抗体フラグメントである、請求項16に記載の抗体。
【請求項18】
請求項1~7および12~17の少なくとも1項に記載の抗体を含む細胞。
【請求項19】
請求項1~7および12~17の少なくとも1項に記載の抗体を産生する、請求項23に記載の細胞。
【請求項20】
ハイブリドーマである、請求項18に記載の細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連する出願の相互参照
本出願は、2017年3月23日に出願されたアメリカ合衆国仮特許出願第62/475,573号の優先権を主張するものであり、その内容の全体が参照によって本明細書に組み込まれている。
【0002】
連邦が資金提供する研究または開発に関する宣言
本発明は、政府のサポートを得て、国立衛生研究所(NIH)から資金提供されたNIH AI44970のもとでなされた。政府は本発明に関して所定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
補体系は、宿主の防御において重要な役割を果たしている自然免疫の一部である。しかし活性化された補体は組織の顕著な損傷と破壊を引き起こす能力も有するため、異常な補体活性は多数の稀な疾患および一般的な疾患と関係していることが見いだされており、その例は、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)、非典型溶血性尿毒症症候群、関節リウマチ、加齢黄斑変性などである。したがって抗補体療法は、ヒトのこれら疾患を治療する有望な1つの方法である。
【0004】
補体C5は、補体活性化の末端経路における極めて重要な1つのタンパク質であり、強力な炎症促進メディエータC5aのほか、細胞溶解膜侵襲複合体(MAC)であるC5b-9を生成させるための前駆タンパク質である。
【0005】
補体が媒介するいくつかの疾患では、C5aとMACの両方が媒介するプロセスが病原性に寄与している可能性がある一方で、別の疾患では、C5aが媒介する炎症だけ、またはMACが媒介する細胞損傷だけが関与している可能性がある。補体メディエータ(C5aとMACが含まれる)は病原体の感染に対する宿主の防御でも重要な役割を果たしているため、治療薬の開発に当たっては、選択的な抗補体薬を開発すること、すなわち組織が損傷したときに補体の好ましくない効果だけを阻止する一方で、正常な宿主防御機能はそのまま残す薬を開発することが望ましい。
【0006】
溶血性疾患PNHはMACによって引き起こされる。PNHを治療するための他の抗Caモノクローナル抗体が存在している。しかしその抗体はC5aの産生を不必要に阻止するため、MACだけを阻止する治療薬と比べて患者を感染症に対してより大きなリスクに曝す。同様に、主にC5aに依存した炎症が媒介している可能性のある補体媒介疾患(例えば敗血症)が存在しているが、そのような疾患のための抗Caモノクローナル抗体薬は、有効であることが期待される一方で、副作用として不必要にMACを阻止する可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、C5aが媒介する活性を抑制できるがMAC活性は阻止しない抗ヒトCaモノクローナル抗体が本分野で必要とされている。本発明は、これらの必要性とそれ以外の必要性に対処して応えている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一実施態様では、本発明は、C5aに特異的に結合する抗体に関する。一実施態様では、C5aはヒトC5aである。一実施態様では、抗体はモノクローナル抗体である。一実施態様では、抗体はヒト化抗体である。いくつかの実施態様では、抗体は完全長抗体である。いくつかの実施態様では、抗体は抗体フラグメントであり、その非限定的な例に含まれるのは、Fab、Fab'、F(ab)2、F(ab')2、scFvである。いくつかの実施態様では、抗体は、1つのコンストラクトの一部、例えばその抗体と標的部分またはエフェクタ部分とを含む融合コンストラクトの一部である。いくつかの実施態様では、抗体は、1つの複合体コンストラクトの一部、例えば抗体-薬複合体コンストラクトの一部である。
【0009】
一実施態様では、抗体はキメラ抗体である。一実施態様では、抗体は、VH-CDR1:配列番号3、VH-CDR2:配列番号4、VH-CDR3:配列番号5、VL-CDR1:配列番号8、VL-CDR2:配列番号9、およびVL-CDR3:配列番号10からなる群から選択される少なくとも1つのCDR、またはその1つまたは複数の改変体を含んでいる。一実施態様では、抗体は、CDRとして、VH-CDR1:配列番号3、VH-CDR2:配列番号4、VH-CDR3:配列番号5、VL-CDR1:配列番号8、VL-CDR2:配列番号9、およびVL-CDR3:配列番号10、またはその1つまたは複数の改変体を含んでいる。一実施態様では、抗体は、配列番号2のアミノ酸配列またはその改変体を含む重鎖を含んでいる。一実施態様では、抗体は、配列番号7のアミノ酸配列またはその改変体を含む軽鎖を含んでいる。一実施態様では、抗体は、配列番号2のアミノ酸配列またはその改変体を含む重鎖と、配列番号7のアミノ酸配列またはその改変体を含む軽鎖を含んでいる。一実施態様では、抗体は7A12である。
【0010】
一実施態様では、本発明は、個体において補体経路が媒介する疾患または障害を治療する方法に関するものであり、本明細書に記載した抗C5a抗体をその個体に投与する工程を含んでいる。一実施態様では、疾患または障害は、黄斑変性(MD)、加齢黄斑変性(AMD)、虚血再灌流障害、関節炎、関節リウマチ、狼瘡、潰瘍性大腸炎、脳卒中、術後全身性炎症反応症候群、喘息、アレルギー性喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)症候群、自己免疫性溶血性貧血(AIHA)、ゴーシェ病、重症筋無力症、視神経脊髄炎(NMO)、多発性硬化症、移植後機能障害、抗体関連型拒絶、非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)、網膜中心静脈閉塞症(CRVO)、網膜中心動脈閉塞症(CRAO)、表皮水疱症、敗血症、敗血症性ショック、臓器移植、炎症(その非限定的な例に、心肺バイパス手術と腎臓透析に関連した炎症が含まれる)、C3腎症、膜性腎症、IgA腎症、糸球体腎炎(その非限定的な例に抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連糸球体腎炎、ループス腎炎、およびこれらの組み合わせが含まれる)、ANCA関連血管炎、志賀毒素誘導型HUS、抗リン脂質抗体誘導型流産、移植片対宿主病(GVHD)、またはこれらの任意の組み合わせからなる群から少なくとも選択される。いくつかの実施態様では、APが媒介する疾患は、敗血症、敗血症性ショック、関節リウマチ、自己免疫性溶血性貧血、GvHD、抗リン脂質症候群、ゴーシェ病のいずれかである。一実施態様では、抗C5a抗体の投与によってC5aタンパク質の活性が抑制される。
【0011】
一実施態様では、本発明は、個体の補体系の活性を低下させる方法に関するものであり、この方法は、腸投与、非経口投与、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される投与経路を介してその個体に抗体を投与することを含んでいて、その抗体は、アミノ酸配列:配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号8、配列番号9、および配列番号10、またはその1つまたは複数の改変体を有する6つの相補性決定領域を含んでいる。一実施態様では、抗体は、Fab、Fab'、F(ab)2、F(ab')2、scFv、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される抗体フラグメントである。
【0012】
一実施態様では、本発明はヒトC5aに対する抗体を記述しており、その抗体は、配列番号2と約90%超(例えば91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、100%のいずれか)の同一性があるアミノ酸配列またはその改変体を有する重鎖可変(vH)領域を持っている。一実施態様では、抗体は、Fab、Fab'、F(ab)2、F(ab')2、scFv、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される抗体フラグメントである。
【0013】
一実施態様では、本発明はヒトC5aに対する抗体を記述しており、その抗体は、配列番号7と約90%超(例えば91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、100%のいずれか)の同一性があるアミノ酸配列またはその改変体を有する軽鎖可変(vL)領域を持っている。一実施態様では、抗体は、Fab、Fab'、F(ab)2、F(ab')2、scFv、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される抗体フラグメントである。
【0014】
一実施態様では、本発明はヒトC5aに対する抗体であり、その抗体は重鎖可変(vH)領域と軽鎖可変(vL)領域を持ち、そのvH領域は、配列番号2と約90%超(例えば91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、100%のいずれか)の同一性があるアミノ酸配列またはその改変体を持ち、そのvL領域は、配列番号7と約90%超(例えば91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、100%のいずれか)の同一性があるアミノ酸配列またはその改変体を持つ。一実施態様では、抗体は、Fab、Fab'、F(ab)2、F(ab')2、scFv、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される抗体フラグメントである。
【0015】
一実施態様では、本発明は、本明細書の他の箇所に記載されている抗体の少なくとも1つを含む細胞である。一実施態様では、細胞は、本明細書の他の箇所に記載されている抗体の少なくとも1つを産生する。一実施態様では、細胞はハイブリドーマである。
【0016】
一実施態様では、本発明は、本明細書に記載されている抗体の少なくとも1つを含む細胞系である。一実施態様では、細胞系は、本明細書に記載されている抗体の少なくとも1つを産生する。一実施態様では、細胞系はハイブリドーマである。
【0017】
上記の概要と本発明の実施態様の例に関する以下の詳しい説明は、添付の図面と合わせて読むとき、よりよく理解されよう。しかし本発明が図面に示されている実施態様の正確な配置と手段に限定されないことを理解すべきである。図面には以下のものが含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1図1A図1Bを含んでおり、モノクローナル抗体7A12がヒトC5に結合することを示す結果を表わしている。図1Aは、インタクトなヒトC5に対する7A12と2G1(対照抗C5モノクローナル抗体)の反応性をELISAによって評価した結果を示している。プレートは、精製したヒトC5で覆った。段階希釈した7A12または対照抗C5モノクローナル抗体とともにインキュベートした後、結合したモノクローナル抗体をHPR結合ウサギ抗マウスIgGによって検出した。7A12と対照抗C5モノクローナル抗体の両方とも、ヒトC5に対する大きな反応性を示した。図1Bは、モノクローナル抗体7A12と対照抗C5モノクローナル抗体が、それぞれ非還元条件と還元条件のもとで、精製したヒトC5タンパク質を認識したことをウエスタンブロッティングによって示している。観察された7A12反応性の190 kDaのバンドは、C5タンパク質全体を表わしているのに対し、115 kDaのバンドは、C5のα鎖を表わしている。NR:非還元条件;R:還元条件。
【0019】
図2図2は、7A12が、赤血球細胞(RBC)の溶解を抑制する対照抗C5モノクローナル抗体2G1とは異なり、溶血アッセイにおいて活性を持たないことを示す結果を表わしている。抗体で感作したヒツジRBCを、7A12または抗C5モノクローナル抗体の段階希釈物を含有する正常なヒト血清(NHS)とともに37℃で1時間インキュベートした。RBCの溶解は、吸光度をOD 405 nmで測定することによって求めた。予想通り、対照抗C5モノクローナル抗体2G1は、50%NHS媒介ヒツジ赤血球溶解を用量に依存して抑制した。それに対してモノクローナル抗体7A12は、0.975~120μg/mlの用量では50%NHS媒介ヒツジ赤血球溶解の抑制を示さなかった。
【0020】
図3図3図3A図3Bを含んでおり、7A12は、C5aに結合しない対照抗C5モノクローナル抗体2G1とは異なり、ヒトC5aと用量に依存して結合するが、マウスC5aには結合しないことを示す結果を表わしている。プレートは、ヒトC5aまたはマウスC5aで覆った。段階希釈した7A12または対照抗C5モノクローナル抗体とともにインキュベートした後、結合したモノクローナル抗体をHRP結合ウサギ抗マウスIgGによって検出した。図3Aは、モノクローナル抗体7A12が、ヒトC5aに対して大きな反応性を示したことを表わしている。モノクローナル抗体7A12は(図1に示したように)C5タンパク質全体と反応するため、天然状態のヒトC5のC5a部分と遊離したヒトC5aの両方に結合すると結論できる。その一方で、ヒトC5aへの対照抗C5モノクローナル抗体の結合は見られなかった。図3Bは、C5aへのモノクローナル抗体7A12の結合がヒトC5aに特異的であり、マウスC5aにはほとんど結合しなかったことを表わしている。
【0021】
図4図4図4A図4Bを含んでおり、ヒトC5とヒトC5aへのモノクローナル抗体7A12の結合親和性を評価する実験の結果を表わしている。精製したヒトC5またはヒトC5aを、アミンカップリング法を利用してCM4チップにカップルさせた。Biacore分析をBiacore-2000装置で実施した。各結合の間に50 mMのNaOHを用いてチップを再生させた。モノクローナル抗体7A12は、ヒトC5(図4A)とヒトC5a(図4B)に同じような親和性で結合する。
【0022】
図5図5は、対照抗C5モノクローナル抗体2G1ではなくてモノクローナル抗体7A12が、C5aが媒介する好中球の移行を抑制することを示す結果を表わしている。10 nMのヒトC5aを用い、ヒトC5a受容体をトランスフェクトしたヒト単球細胞系U937の走化性を誘導した。細胞を、モノクローナル抗体7A12または対照C5モノクローナル抗体の存在下でTranswellの上方の部屋に配置した後、下方の部屋の中の細胞を数えることによって細胞の移行を定量した。モノクローナル抗体7A12は、C5aが誘導する走化性を10μg/mlで完全に抑制したのに対し、対照抗C5モノクローナル抗体2G1は、C5aが誘導する走化性を阻止できなかった。
【0023】
図6図6図6A図6Dを含んでおり、対照抗C5モノクローナル抗体2G1ではなくてモノクローナル抗体7A12が、U937細胞の中でC5aが誘導する細胞内カルシウム動員を抑制することを示す結果を表わしている。ヒトC5aの刺激がないと、ヒトC5a受容体(U937-C5aR)を発現しているU937細胞の中ではカルシウムの動員が起こらなかったことが、図6Aに示されている。図6Bに示されているように、C5a(10 nM)で処理することによってU937-C5aR細胞の中で一過性カルシウム流入が起こった。それは、図6Cに示されているように、モノクローナル抗体7A12(50μg/ml)とともにあらかじめインキュベートすることによって抑制できたが、図6Dに示されているように、対照抗C5モノクローナル抗体2G1(50μg/ml)とともにあらかじめインキュベートすることによっては抑制できなかった。矢印は、C5aまたはC5a混合物と抗体を細胞懸濁液に添加した時点を示す。
【0024】
図7図7図7A図7Bを含んでおり、モノクローナル抗体7A12の重鎖と軽鎖の可変領域の配列を表わしている。図7Aは、モノクローナル抗体7A12のVHの核酸配列とアミノ酸配列を表わしている。シグナルペプチドに下線を引いてあり、CDR1、CDR2、CDR3の配列は太字にして灰色で強調してある。図7Bは、モノクローナル抗体7A12のVLの核酸配列とアミノ酸配列を表わしている。シグナルペプチドには下線が引いてあり、CDR1、CDR2、CDR3の配列は太字にして灰色で強調している。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、抗C5a抗体を用いた補体シグナル伝達の抑制に関する。さまざまな実施態様では、本発明は、個体で補体が媒介する疾患、または補体が媒介する障害を治療するための組成物と、その個体に抗C5a抗体を接触させることによってその疾患または障害を治療する方法に関する。補体が媒介する疾患または障害で本発明の組成物と方法によって治療できるものの非限定的な例に含まれるのは、黄斑変性(MD)、加齢黄斑変性(AMD)、虚血再灌流障害、関節炎、関節リウマチ、狼瘡、潰瘍性大腸炎、脳卒中、術後全身性炎症反応症候群、喘息、アレルギー性喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)症候群、自己免疫性溶血性貧血(AIHA)、ゴーシェ病、重症筋無力症、視神経脊髄炎(NMO)、多発性硬化症、移植後機能障害、抗体関連型拒絶、非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)、網膜中心静脈閉塞症(CRVO)、網膜中心動脈閉塞症(CRAO)、表皮水疱症、敗血症、敗血症性ショック、臓器移植、炎症(その非限定的な例に、心肺バイパス手術と腎臓透析に関連した炎症が含まれる)、C3腎症、膜性腎症、IgA腎症、糸球体腎炎(その非限定的な例に抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連糸球体腎炎、ループス腎炎、およびこれらの組み合わせが含まれる)、ANCA関連血管炎、志賀毒素誘導型HUS、抗リン脂質抗体誘導型流産、移植片対宿主病(GVHD)、またはこれらの任意の組み合わせである。
【0026】
定義
【0027】
特に断わらない限り、本明細書で用いるすべての科学技術用語は、本発明が属する分野の当業者が一般に理解しているのと同じ意味を持つ。本発明を実施または試験するのに本明細書に記載したのと同様または同等な任意の方法と材料を使用できるが、ここには方法と材料の例が記載されている。
【0028】
本明細書では、下記のそれぞれの用語は本節に記載した意味を持つ。
【0029】
冠詞「1つの」は、本明細書では、この冠詞の1つ、または2つ以上(すなわち少なくとも1つ)の文法的対象を意味する。例として「1つの要素」は、1つの要素、または2つ以上の要素を意味する。
【0030】
「抑制する」と「抑制」は、本明細書では、活性または機能を対照値と比べて少なくとも約10%減少させること、または抑制すること、または低減させること、または阻止することを意味する。いくつかの実施態様では、活性は、対照値と比べて少なくとも約50%抑制または阻止される。いくつかの実施態様では、活性は、少なくとも約75%抑制または阻止される。いくつかの実施態様では、活性は、少なくとも約95%抑制または阻止される。
【0031】
「有効な量」と「医薬として有効な量」は、望む生物学的結果を提供するのに薬剤が十分な量であることを意味する。その結果は、疾患または障害の徴候、症状、原因いずれかの減少および/または緩和や、生物系の他の望ましいあらゆる変化である可能がある。任意の個体における適切な有効量は、当業者が定型的な実験を利用して決めることができる。
【0032】
「患者」、「対象」、「個体」などの用語は、本明細書では交換可能に用いられ、補体系を有する任意の動物、いくつかの実施態様では哺乳動物、いくつかの実施態様ではヒトであり、その中には、ある状態またはその後遺症の治療を必要とするヒト、またはある状態またはその後遺症になりやすいヒトが含まれる。個体に含まれるのは、例えば、イヌ、ネコ、ブタ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ラット、サル、マウス、ヒトである。
【0033】
「異常な」という用語は、生物、組織、細胞や、その構成要素の文脈で用いられるときには、「正常な」(予想される/ホメオスタティックな)それぞれの特徴を示す生物、組織、細胞や、その構成要素とは観察または検出が可能な少なくとも1つの特徴(例えば年齢、治療、1日のうちの時点など)が異なる生物、組織、細胞や、その構成要素を意味する。1つの細胞、組織のタイプ、対象のいずれかで正常であるか予想される特徴は、異なるタイプの細胞または組織では異常である可能性がある。
【0034】
「疾患」は、対象がホメオスタシスを維持できない健康状態であり、その疾患が改善されない場合には対象の健康が悪化を続ける。
【0035】
それとは対照的に、対象の「障害」は、ホメオスタシスを維持できるが、その障害がない場合よりも好ましくない健康状態である。障害は、治療されずに放置しても対象の健康状態をさらに低下させるとは限らない。
【0036】
疾患または障害が「緩和される」のは、患者が、その疾患または障害の徴候または症状の重篤度と頻度の一方または両方の低下を経験する場合である。
【0037】
ある化合物の「有効な量」または「医薬として有効な量」は、その化合物を投与される対象に有利な効果をもたらすのに十分な化合物の量である。
【0038】
本明細書では、「使用説明材料」に、キット内の本発明の化合物、組成物、ベクター、送達系のいずれかが本明細書に記載したさまざまな疾患または障害を緩和するのに役立つことを知らせるのに使用できる刊行物、記録、図表や、他の任意の媒体が含まれる。場合によっては、またはその代わりに、使用説明材料は、哺乳動物の細胞または組織の疾患または障害を緩和する1つ以上の方法を記述することができる。本発明のキットの使用説明材料は、例えば同定された本発明の化合物、組成物、ベクター、送達系のいずれかを含有する容器に添付すること、または同定された化合物、組成物、ベクター、送達系のいずれかを含有する容器とともに出荷することができる。あるいは使用説明材料は容器とは別に出荷し、レシピエントが使用説明材料と化合物を連携して用いられるようにすることができる。
【0039】
「作動可能に連結した」または「作動的に連結した」は、本明細書では、遺伝子の発現が、空間的に接続されているプロモータの制御下にあることを意味することができる。プロモータは、そのプロモータの制御下にある遺伝子の5'(上流)または3'(下流)に配置することができる。プロモータと遺伝子の間の距離は、そのプロモータの出所である遺伝子内でのそのプロモータと、そのプロモータの制御下にある遺伝子の間の距離とほぼ同じにすることができる。本分野で知られているように、プロモータの機能を失うことなく、この距離を変えることができる。
【0040】
「治療的処置」は、疾患または障害の徴候を示す対象に対してその徴候を減らすかなくすことを目的としてなされる処置である。
【0041】
本明細書では、「疾患または障害を治療する」は、患者が経験する疾患または障害の徴候および/または症状の頻度および/または重篤度を減らすことを意味する。
【0042】
「生物学的サンプル」、「サンプル」、「試料」という用語は、本明細書では、核酸またはポリペプチドの発現を検出できる細胞、組織、体液のいずれかを含むあらゆるサンプルを包含することが想定されている。生物学的サンプルは、望むバイオマーカーの検出に適した任意の生物材料を含有することができ、個体から取得した細胞材料および/または非細胞材料を含むことができる。そのような生物学的サンプルの非限定的な例に含まれるのは、血液、リンパ液、骨髄、生検、スメアである。自然状態で液体であるサンプルは、本明細書では「体液」と呼ばれる。生物学的サンプルは、患者からさまざまな技術によって、例えばある領域をこするか拭うことによって、または針を用いて体液を取得することによって取得することができる。さまざまな身体サンプルを回収する方法は本分野で周知である。
【0043】
「抗体」という用語は、本明細書では、抗原の特定のエピトープに特異的に結合することのできる免疫グロブリン分子を意味する。抗体として、天然の供給源または組み換え供給源に由来するインタクトな免疫グロブリンが可能であり、インタクトな免疫グロブリンの免疫反応部分が可能である。本発明の抗体はさまざまな形態で存在することができ、その中に含まれるのは、例えば、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、細胞内抗体(「イントラボディ」)、Fv、Fab、Fab'、F(ab)2、F(ab')2のほか、一本鎖抗体(scFv)、重鎖抗体(ラクダ抗体など)、ヒト化抗体である(Harlow他、1999年、「Using Antibodies: A Laboratory Manual」、Cold Spring Harbor Laboratory Press、ニューヨーク;Harlow他、1989年、「Antibodies: A Laboratory Manual」、Cold Spring Harbor、ニューヨーク;Houston他、1988年、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 第85巻:5879~5883ページ;Bird他、1988年、Science第242巻:423~426ページ)。
【0044】
本明細書では、「合成抗体」という用語で、組み換えDNA技術を利用して作製する抗体(例えばバクテリオファージによって発現させる抗体)を意味する。この用語は、抗体のうちで、その抗体をコードしていて抗体タンパク質を発現するDNA分子を合成することによって生成されるもの、またはその抗体を特定するアミノ酸配列を意味するとも解釈すべきである。なおそのDNA配列またはアミノ酸配列は、本分野で利用可能な周知の合成DNA技術またはアミノ酸配列技術を利用して得られたものである。
【0045】
本明細書では、「重鎖抗体」または「複数の重鎖抗体」という用語は、ペプチドを用いた免疫化の後に血清を単離することによるか、そのような抗体をコードする核酸配列をクローニングして発現させることによるラクダ種由来の免疫グロブリン分子を含んでいる。「重鎖抗体」または「複数の重鎖抗体」という用語はさらに、重鎖疾患を有する対象から単離されるか、対象からのVH(可変重鎖免疫グロブリン)遺伝子のクローニングと発現によって調製された免疫グロブリン分子を包含する。
【0046】
「キメラ抗体」は、ドナー抗体に由来する天然の可変領域(軽鎖と重鎖)を、アクセプタ抗体に由来する軽鎖と重鎖の定常領域とともに含有する操作されたある種の抗体を意味する。
【0047】
「ヒト化抗体」は、非ヒトドナーの免疫グロブリンに由来するCDRを持ち、分子の残りの免疫グロブリン由来の部分は1つ(または複数の)ヒト免疫グロブリンに由来する操作されたある種の抗体を意味する。それに加え、フレームワーク支持残基を変化させて結合親和性が保持されるようにできる(例えば1989年、Queen他、Proc. Natl. Acad Sci USA、第86巻:10029~10032ページ;1991年、Hodgson他、Bio/Technology、第9巻:421ページを参照されたい)。適切なヒトアクセプタ抗体として、従来からあるデータベース(例えばKABATデータベース、ロスアラモスデータベース、スイスタンパク質データベース)から、ドナー抗体のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列との相同性によって選択された1つの抗体が可能である。(アミノ酸に基づき)ドナー抗体のフレームワーク領域との相同性によって特徴づけられるヒト抗体は、ドナーCDRを挿入するための重鎖定常領域および/または重鎖可変フレームワーク領域を提供するのに適している可能性がある。軽鎖定常領域または軽鎖可変フレームワーク領域を与えることのできる適切なアクセプタ抗体は同様のやり方で選択することができる。アクセプタ抗体の重鎖と軽鎖は必ずしも同じアクセプタ抗体に由来する必要がないことに注意すべきである。先行技術にそのようなヒト化抗体を作製するいくつかの方法が記載されている(例えばEP-A-0239400とEP-A-054951を参照されたい)。
【0048】
「ドナー抗体」という用語は、免疫グロブリンコード領域が変化し、その結果としてドナー抗体に特徴的な抗原性特異性と中和活性を有する発現された変化した抗体を提供するため、そのドナー抗体の可変領域、CDRや、それ以外の機能的フラグメントまたは類似体のアミノ酸配列が第1の免疫グロブリンパートナーに寄与する抗体(モノクローナル抗体および/または組み換え抗体)を意味する。
【0049】
「アクセプタ抗体」という用語は、ドナー抗体とは異種で、その重鎖および/または軽鎖フレームワーク領域、および/またはその重鎖および/または軽鎖定常領域をコードするアミノ酸配列のすべて(または任意の一部だが、いくつかの実施態様ではすべて)が第1の免疫グロブリンパートナーに寄与する抗体(モノクローナル抗体および/または組み換え抗体)を意味する。いくつかの実施態様では、ヒト抗体はアクセプタ抗体である。
【0050】
「CDR」は、抗体の相補性決定領域のアミノ酸配列と定義され、免疫グロブリンの重鎖と軽鎖の超可変領域である。例えばKabat他、「Sequences of Proteins of Immunological Interest」、第4版、アメリカ合衆国保険福祉省、国立衛生研究所(1987年)を参照されたい。免疫グロブリンの可変部には3つの重鎖CDR(またはCDR領域)と3つの軽鎖CDRが存在している。抗体の構造とタンパク質折り畳みは、他の残基が抗原結合領域の一部であると見なされることを意味することができ、当業者にはそのように理解されると考えられる。例えばChothia他、(1989年)「免疫グロブリン超可変領域のコンホメーション」;Nature 第342巻、877~883ページを参照されたい。当業者は、CDR配列の予測に用いられる多数の方法と技術が存在していることを理解するであろう。したがって所与の抗体のCDR配列は、CDR配列の予測にどの方法と技術を用いるかによっていくらか異なる可能性がある。方法と技術の非限定的な例に含まれるのは、Lyskov他、2013年、PLoS One、第8巻(5):e63906ページ;Kunik他、2012年、Nucleic Acids Res.第40巻:W521~524ページ;Marcatili他、2008年、Bioinformatics第24巻:1953ページ;Chothia他、1989年、Nature第342巻:887ページ;Kabat他、1991年、「Sequences of Proteins of Immunological Interest」、第5版、公衆衛生局、国立衛生研究所、ベセスダ、メリーランド州;Johnson他、2000年、Nucleic Acids Res第28巻:214ページ;Martin他、1989年、P.N.A.S.第86巻:9268ページ;MacCallum他、1996年、J Mol Biol第5巻:732ページ;Dunbar他、20106年、Nucleic Acids Res. 第44巻:W474~478ページに記載されている方法と技術である。
【0051】
本明細書では、「イムノアッセイ」は、標的分子を検出して定量するためその標的分子に特異的に結合できる抗体を利用する任意の結合アッセイを意味する。
【0052】
抗体に関して本明細書で用いられる「特異的に結合する」という表現は、サンプル中の特定の標的分子を認識してその標的分子に結合するが、他の分子を認識してその分子に結合することは実質的にない抗体を意味する。いくつかの場合には、「特異的な結合」または「特異的に結合する」という表現は、認識と結合が標的分子上の特定の構造(例えば抗原決定基またはエピトープ)の存在に依存することを意味するのに用いられる。例えば抗体がエピトープ「A」に特異的に結合する場合には、標識付きAと抗体を含有する反応物の中にエピトープAを含有する標識なし分子が存在することで、抗体に結合する標識付きAの量が減ることになる。
【0053】
遺伝子の「コード領域」は、遺伝子のコード鎖のヌクレオチド残基と、その遺伝子の非コード鎖のヌクレオチドからなり、それらヌクレオチドは、それぞれ、遺伝子の転写によって生成するmRNA分子のコード領域と相同であるか、相補的である。
【0054】
mRNA分子の「コード領域」も、そのmRNA分子のヌクレオチド残基のうちで、翻訳中にトランスファーRNA分子のアンチコドン領域と一致するヌクレオチド残基、または停止コドンをコードするヌクレオチド残基からなる。したがってコード領域は、mRNA分子によってコードされる成熟タンパク質の中には存在しないアミノ酸残基(例えばタンパク質搬出シグナル配列の中のアミノ酸残基)のためのコドンを含むヌクレオチド残基を含むことができる。
【0055】
「示差的に減少した発現」または「下方調節」は、バイオマーカー産物のレベルが対照と比べて少なくとも10%以上(例えば20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%以上)低いこと、および/または1/2.0以下、1/1.8以下、1/1.6以下、1/1.4以下、1/1.2以下、1/1.1以下であること、これらの間のあらゆる整数または分数の増分だけ低いことを意味する。
【0056】
「示差的に増加した発現」または「上方調節」は、バイオマーカー産物のレベルが対照と比べて少なくとも10%以上(例えば20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%以上)高いこと、および/または1.1倍、1.2倍、1.4倍、1.6倍、1.8倍、2.0倍であること、これらの間のあらゆる整数または分数の増分だけ高いことを意味する。
【0057】
本明細書で核酸に関して用いられる「相補的な」は、2本の核酸鎖の領域間、または同じ核酸鎖の2つの領域間の配列相補性に関する広い考え方を意味する。第1の核酸領域のアデニン残基は、第2の核酸領域の残基がチミンまたはウラシルである場合には、第1の領域と反平行なその第2の核酸領域の残基と特別な水素結合を形成できること(「塩基対形成」)が知られている。同様に、第1の核酸領域のシトシン残基は、第2の核酸領域の残基がグアニンである場合には、第1の領域と反平行なその第2の核酸領域の残基と塩基対を形成できることが知られている。核酸の第1の領域は、2つの領域が反平行に配置されているときに第1の領域の少なくとも1個のヌクレオチド残基が第2の領域の塩基と塩基対を形成できるのであれば、同じ核酸または異なる核酸のその第2の領域と相補的である。いくつかの実施態様では、第1の領域は第1の部分を含んでいて、第2の領域は第2の部分を含んでいるため、第1の部分と第2の部分が反平行に配置されているとき、第1の部分のヌクレオチド残基の少なくとも約50%、または少なくとも約75%、または少なくとも約90%、または少なくとも約95%が、第2の部分内のヌクレオチド残基と塩基対を形成することができる。いくつかの実施態様では、第1の部分のすべてのヌクレオチド残基が第2の部分内のヌクレオチド残基と塩基対を形成することができる。
【0058】
「DNA」という用語は、本明細書ではデオキシリボ核酸と定義される。
【0059】
「コードしている」は、ポリヌクレオチド(遺伝子、cDNA、mRNAなど)の中にあって決められたヌクレオチド配列(すなわちrRNA、tRNA、mRNA)または決められたアミノ酸配列と、そこから生じる生物学的特性を持ち、生物学的プロセスにおいて他のポリマーや巨大分子を合成するための鋳型として機能するヌクレオチドの特定の配列の固有の特性を意味する。したがって遺伝子は、その遺伝子に対応するmRNAの転写と翻訳によって細胞内または他の生物系の中でタンパク質が産生される場合に、そのタンパク質をコードしている。ヌクレオチド配列がmRNA配列と同じであって通常は配列リストの中に示されるコード鎖と、遺伝子またはcDNAを転写するための鋳型として使用される非コード鎖の両方を、その遺伝子またはcDNAのタンパク質その他の産物をコードしていると呼ぶことができる。
【0060】
特に断わらない限り、「アミノ酸配列をコードしているヌクレオチド配列」には、互いに縮重していて同じアミノ酸配列をコードしているすべてのヌクレオチド配列が含まれる。「タンパク質またはRNAをコードするヌクレオチド配列」という表現には、イントロンも含めることができる。ただしそれは、タンパク質をコードしているヌクレオチド配列が何らかの場合にイントロンを含有できる場合である。
【0061】
「ハイブリドーマ」という用語は、本明細書では、Bリンパ球と融合パートナー(骨髄腫細胞など)の融合から生じる細胞を意味する。ハイブリドーマは、細胞培養物の中でクローニングして永久的に維持できるため、モノクローナル抗体を産生することができる。ハイブリドーマはハイブリッド細胞と見なすこともできる。
【0062】
「単離された」は、自然状態から変化しているか、取り出されていることを意味する。例えば生きている対象の中に正常な文脈で自然に存在している核酸またはペプチドは「単離されている」のではないが、自然な文脈で共存している材料から部分的に、または完全に分離された同じ核酸またはペプチドは「単離されている」。単離された核酸またはタンパク質は、実質的に精製された形態で存在すること、または非天然環境(例えば宿主細胞)の中に存在することができる。
【0063】
「単離された核酸」は、天然に起こる状態で隣接している配列から分離された核酸のセグメントまたはフラグメント、すなわち通常は隣接している配列(ゲノム内でそのフラグメントに自然状態で隣接した配列)から取り出されたDNAフラグメントを意味する。この表現は、自然状態で付随する他の構成要素から実質的に精製された核酸(すなわち細胞内で自然に付随するRNA、DNA、タンパク質)にも適用される。したがってこの表現には、例えばベクターや、自律的に複製されるプラスミドまたはウイルスや、原核生物または真核生物のゲノムDNAに組み込まれる組み換えDNA、または他の配列とは独立な別の分子(すなわちPCRまたは制限酵素消化によって生じるcDNA、またはゲノム、またはcDNAフラグメント)として存在する組み換えDNAが含まれる。この表現には、追加ポリペプチド配列をコードするハイブリッド遺伝子の一部である組み換えDNAも含まれる。
【0064】
本発明の文脈では、一般に見られる核酸塩基について以下の略号を用いる。「A」はアデノシンを表わし、「C」はシトシンを表わし、「G」はグアノシンを表わし、「T」はチミジンを表わし、「U」はウリジンを表わす。
【0065】
「ポリヌクレオチド」という用語は、本明細書では、ヌクレオチドの鎖と定義される。さらに、核酸は、ヌクレオチドのポリマーである。したがって本明細書では、核酸とポリヌクレオチドは交換可能に用いられる。当業者は、核酸がポリヌクレオチドであり、それを加水分解してモノマーの「ヌクレオチド」にすることができるという一般的な知識を有する。モノマーのヌクレオチドを加水分解してヌクレオシドにすることができる。本明細書では、ポリヌクレオチドの非限定的な例に、本分野で利用できる任意の手段(その非限定的な例に、組み換え手段、すなわち通常のクローニング技術とPCRを利用して組み換えライブラリまたは細胞ゲノムからの核酸配列のクローニングなど)によって得られるすべての核酸配列と、合成手段によって得られるすべての核酸配列が含まれる。
【0066】
本明細書では、「ペプチド」、「ポリペプチド」、「タンパク質」という用語は交換可能に用いられ、ペプチド結合によって共有結合したアミノ酸残基からなる化合物を意味する。タンパク質またはペプチドは少なくとも2個のアミノ酸を含有していなければならず、1つのタンパク質配列またはペプチド配列に含めることのできるアミノ酸の最大数に制限はない。ポリペプチドには、ペプチド結合によって互いに接合された2個以上のアミノ酸を含む任意のペプチドまたはタンパク質が含まれる。本明細書では、この用語は、短い鎖(本分野では一般に例えばペプチド、オリゴペプチド、オリゴマーとも呼ばれる)と、より長い鎖(本分野ではタンパク質と一般に呼ばれ、多くのタイプが存在する)の両方を意味する。「ポリペプチド」には、例えば生物学的に活性な断片、実質的に相同なポリペプチド、オリゴペプチド、ホモダイマー、ヘテロダイマー、ポリペプチドの改変体、修飾されたポリペプチド、誘導体、類似体、融合タンパク質が特に含まれる。ポリペプチドには、天然のペプチド、組み換えペプチド、合成ペプチドや、これらの組み合わせが含まれる。
【0067】
「子孫」という用語は、本明細書では、子孫または子を意味し、哺乳動物の子を含むとともに、親細胞に由来する分化した子孫細胞、分化していない子孫細胞も含んでいる。子孫という用語は、1つの用法では、親と遺伝子が同じ子孫細胞を意味する。この用語は、別の用法では、親と遺伝子および表現型が同じ子孫細胞を意味する。この用語は、さらに別の用法では、親細胞から分化した子孫細胞を意味する。
【0068】
「RNA」という用語は、本明細書ではリボ核酸と定義される。
【0069】
「組み換えDNA」という用語は、本明細書では、異なる供給源からのDNAの断片を接合することによって作製されたDNAと定義される。
【0070】
「組み換えポリペプチド」という用語は、本明細書では、組み換えDNA法を利用して作製されたポリペプチドと定義される。
【0071】
本明細書では、「複合体化した」は、1個の分子が第2の分子と共有結合していることを意味する。
【0072】
本明細書では、「改変体」は、参照核酸配列または参照ペプチド配列と配列が異なるが、参照分子の本質的な生物学的特性を保持している核酸配列またはペプチド配列をそれぞれ意味する。核酸改変体の配列が変化しても、参照核酸によってコードされるペプチドのアミノ酸配列は変化しないことや、アミノ酸の置換、付加、欠失、融合、切断が起こることがある。ペプチド改変体の配列の変化は典型的には制限されているか保存的であるため、参照ペプチドと改変体の配列は全体的によく似ており、多くの領域が一致する。改変体と参照ペプチドは、アミノ酸配列の違いが、1箇所以上の置換、付加、欠失の任意の組み合わせであることが可能である。核酸またはペプチドの改変体として、自然に生じる改変体(例えばアレル改変体)と、自然に生じることが知られていない改変体が可能である。核酸とペプチドの自然には生じない改変体は、突然変異誘発技術によって、または直接的な合成によって作製することができる。さまざまな実施態様では、改変体配列は、参照配列と少なくとも99%、少なくとも98%、少なくとも97%、少なくとも96%、少なくとも95%、少なくとも94%、少なくとも93%、少なくとも92%、少なくとも91%、少なくとも90%、少なくとも89%、少なくとも88%、少なくとも87%、少なくとも86%、少なくとも85%同一性がある。
【0073】
「調節する」という用語は、本明細書では、基質のレベルまたは活性を変化させる任意の方法を意味することができる。タンパク質に関する調節の非限定的な例に含まれるのは、発現(転写および/または翻訳を含む)に影響を及ぼすこと、折り畳みに影響を及ぼすこと、分解またはタンパク質の代謝回転に影響を及ぼすこと、タンパク質の局在に影響を及ぼすことである。酵素に関する調節の非限定的な例には、酵素活性に影響を及ぼすことがさらに含まれる。「調節因子」は、分子であって、その活性に基質のレベルまたは活性に影響を及ぼすことが含まれるものを意味する。調節因子は、直接的なもの、または間接的なものが可能である。調節因子は、対応する基質の活性化または抑制や、それ以外の調節の機能を持つことができる。
【0074】
「走査ウインドウ」は、本明細書では、1つの配列をあらゆる隣接配列と独立に評価することのできる多数の連続した位置からなるセグメントを意味する。走査ウインドウは、一般に、独立に評価しているそれぞれの新しいセグメントとともに、評価すべき配列の長さに沿って増分単位でシフトさせる。シフトの増分単位として、1つ以上の位置が可能である。
【0075】
「ベクター」は、本明細書では、複製起点を含有する核酸配列を意味する。ベクターとして、プラスミド、バクテリオファージ、細菌人工染色体、酵母人工染色体が可能である。ベクターとして、DNAベクターまたはRNAベクターが可能である。ベクターとして、自己複製染色体外ベクター、または宿主のゲノムに組み込まれるベクターが可能である。
【0076】
範囲:本開示全体を通じ、本発明のさまざまな側面を範囲の形式で提示することができる。範囲の形式での記述は単に便宜上と簡潔さのためであり、本発明の範囲に強い制約を課すと考えてはならないことを理解すべきである。したがって範囲の記述は、具体的に開示されている可能なあらゆる部分的範囲のほか、その範囲内の個々の数値を持つと見なすべきである。例えば1~6などの範囲の記述は、1~3、1~4、1~5、2~4、2~6、3~6などの具体的に開示されている部分的範囲のほか、その範囲内の個々の数値、例えば1、2、2.7、3、4、5、5.3、6を持つと見なすべきである。
【0077】
説明
【0078】
本発明は、抗C5a抗体を用いて補体シグナル伝達を抑制することと、補体に関連した疾患と障害を抑制することに関する。一実施態様では、本発明は、補体成分C5とその切断産物であるC5aタンパク質を特異的に標的とすることによってシグナル伝達カスケードを抑制する一方で、C5切断産物であるC5bは機能したままの状態にすることに関する。一実施態様では、本発明は、望ましくない、または制御されない、または過剰な補体活性化によって起こる炎症と自己免疫性の疾患および障害の治療方法と予防方法に関する。一実施態様では、本発明は、個体で補体が媒介する疾患、または補体が媒介する障害を、その個体に抗C5a抗体を接触させることによって治療することに関する。いくつかの実施態様では、本発明は、C5aが媒介する走化性を治療する一方で、C5bが媒介するMACアセンブリはインタクトなままの状態にしておく方法に関する。
【0079】
一実施態様では、本発明は、個体で補体が媒介する疾患または障害を治療する方法であり、その個体に抗C5a抗体を投与することによってC5aタンパク質の効果を選択的に抑制する工程を含んでいる。補体が媒介する疾患または障害で本発明の方法によって治療できるものの非限定的な例に含まれるのは、黄斑変性(MD)、加齢黄斑変性(AMD)、虚血再灌流障害、関節炎、関節リウマチ、狼瘡、潰瘍性大腸炎、脳卒中、術後全身性炎症反応症候群、喘息、アレルギー性喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)症候群、自己免疫性溶血性貧血(AIHA)、ゴーシェ病、重症筋無力症、視神経脊髄炎(NMO)、多発性硬化症、移植後機能障害、抗体関連型拒絶、非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)、網膜中心静脈閉塞症(CRVO)、網膜中心動脈閉塞症(CRAO)、表皮水疱症、敗血症、敗血症性ショック、臓器移植、炎症(その非限定的な例に、心肺バイパス手術と腎臓透析に関連した炎症が含まれる)、C3腎症、膜性腎症、IgA腎症、糸球体腎炎(その非限定的な例に抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連糸球体腎炎、ループス腎炎、およびこれらの組み合わせが含まれる)、ANCA関連血管炎、志賀毒素誘導型HUS、抗リン脂質抗体誘導型流産、移植片対宿主病(GVHD)、またはこれらの任意の組み合わせである。いくつかの実施態様では、APが媒介する疾患は、敗血症、敗血症性ショック、関節リウマチ、自己免疫性溶血性貧血、GvHD、抗リン脂質症候群、ゴーシェ病のいずれかである。
【0080】
免疫系が「自己」抗原と「非自己」抗原を識別する能力は、侵入してくる微生物に対する特異的防御として、免疫系が機能する上で極めて重要である。「非自己」抗原は、体内に入ってくる基質または体内に存在している基質の表面にある抗原であり、対象自身の構成要素とは異なる、すなわち外来性であるとして検出可能であるのに対し、「自己」抗原は、健康な対象の中にあって自身の構成要素とは異なる、すなわち外来性であるとして検出することはできない抗原である。本発明の方法のさまざまな実施態様では、抑制される補体活性化は、細菌抗原、非生物外来表面、変化した自己組織からなる群の少なくとも1つ、またはこれらの組み合わせによって開始される活性化である。非生物外来表面の一例は、心肺バイパス外科手術や腎臓透析で用いられるような血液チューブである。変化した自己組織の例に含まれるのは、アポトーシスした組織と細胞、壊死した組織と細胞、虚血のストレスを受けた組織と細胞や、これらの組み合わせである。
【0081】
いくつかの実施態様では、本発明の抗C5a抗体は、代替補体経路(AP)、古典的経路(CP)、レクチン経路(LP)のいずれかの活性化の下流効果を抑制する。一般に、CPは、抗原-抗体複合体によって開始され、LPは、レクチンが微生物表面の糖分子に結合することによって活性化されるのに対し、APは、低レベルで構成的に活性化されるが、調節タンパク質が欠けていることが理由で細菌、ウイルス、寄生虫の細胞の表面で迅速に増幅される可能性がある。宿主細胞は、通常は、調節タンパク質によってAP補体活性化から保護されている。しかしいくつかの状況では(調節タンパク質に欠陥があったり失われたりしているとき)、APも宿主細胞上での活性化が制御不能になり、補体が媒介する疾患または障害につながる可能性がある。CPは、C1、C2、C4という構成要素からなり、C3活性化工程でAPに収束する。LPは、マンノース結合レクチン(MBL)とMBL関連セリンプロテアーゼ(Masp)からなり、C4とC2という構成要素をCPと共有している。APは、C3という構成要素と、いくつかの因子(因子B、因子D、プロペルジン、C5、流体相調節因子Hなど)からなる。補体活性化は、3つの段階からなる。すなわち、(a)認識、(b)酵素活性化、(c)細胞死に至る膜侵襲である。CP補体活性化の第1段階はC1から始まる。C1は3つの異なるタンパク質、すなわち認識サブユニットであるC1qと、セリンプロテアーゼサブ構成要素であるC1rおよびC1sからなり、これらが互いに結合してカルシウム依存性四量体複合体C1r2 s2になっている。C1の生理学的活性化が起こるにはインタクトなC1複合体が必要とされる。インタクトなC1複合体が免疫グロブリンに結合して抗原と複合体になると活性化が起こる。この結合によってC1が活性化され、次いでC4タンパク質とC2タンパク質の両方が切断されてC4aとC4bが生成するとともに、C2aとC2bが生成する。C4b断片とC2a断片が合わさってC3コンベルターゼであるC4b2aを形成する。それが今度はC3を切断してC3aとC3bを形成する。LPの活性化はMBLが標的表面のいくつかの糖に結合することによって開始され、そのことによってMBL関連セリンプロテアーゼ(MAPS)の活性化が開始される。するとMAPS がC4とC2を、CPのC1活性化と同様にして切断する結果、C3 コンベルターゼであるC4b2aが生成する。C4b2aによってC3が切断されてC3bとC3aになることは、2つの理由で補体経路の中心的なイベントである。この切断が、AP増幅ループを開始させる。なぜなら表面に堆積したC3bはAPの中心的な中間体であるからである。C3aとC3bの両方が生物学的に重要である。C3aは炎症促進性であり、C5aと合わさってアナフィラトキシンと呼ばれる。C3bとそのさらなる切断産物も、好中球、好酸球、単球、マクロファージの表面に存在する補体受容体と結合し、そのことによってC3bオプソニン化粒子のファゴサイトーシスと除去が容易になる。最後に、C3bがC4b2aと合わさってCPとLPのC5コンベルターゼを形成して終末補体配列を活性化することで、強力な炎症促進メディエータであるC5aと、細胞溶解膜侵襲複合体(MAC)であるC5~C9の産生につながる。
【0082】
一実施態様では、本発明の方法を利用して抑制される補体経路の活性は、リポ多糖(LPS)、リポオリゴ糖(LOS)、病原体関連分子パターン(PAMP)、危険関連分子パターン(DAMP)から選択される群の少なくとも1つによって誘導される補体経路の活性である。別の一実施態様では、本発明の方法を利用して抑制される補体シグナル伝達の活性は、C5aタンパク質の活性である。別の一実施態様では、本発明の方法を利用して抑制される補体経路の活性は、C5aに依存する。
【0083】
一実施態様では、本発明は、個体内の終末補体活性化を通じて炎症カスケードの開始を抑制する方法であり、その個体に抗C5a抗体を投与することにより、個体でCP、LP、APいずれかの活性化から生じる終末補体活性化を通じたC5a依存性の炎症の開始を抑制する工程を含んでいる。これら実施態様の例は、補体が媒介する全身性炎症に苦しむ敗血症患者と、補体を媒介とした臓器特異的炎症によって起こる可能性のある病気(aHUS、AIHA、抗リン脂質症候群、GVHD、喘息、虚血/再灌流障害、関節リウマチ、ANCAが媒介する腎臓疾患など)に苦しむ個体である。本発明のさまざまな実施態様では、本発明の組成物と方法を用いて治療できる疾患と障害の非限定的な例に含まれるのは、補体が媒介する溶血、補体が媒介するaHUS、C3腎症、視神経脊髄炎、重症筋無力症、喘息、虚血/再灌流障害、敗血症、敗血症性ショック、関節リウマチ、ANCAが媒介する腎臓の疾患または障害である。いくつかの実施態様では、APが媒介する疾患は、敗血症、敗血症性ショック、関節リウマチ、自己免疫性溶血性貧血、GvHD、抗リン脂質症候群、ゴーシェ病のいずれかである。
【0084】
本明細書では、他のさまざまな実施態様に、補体シグナル伝達に対して抑制効果を持つ可能性のある抗C5a抗体を同定する方法が提示されている。そのような1つの方法に含まれるのは、a)細胞にC5a受容体を安定にトランスフェクトする工程と;b)走化性アッセイ用バッファー(0.5%BSAを含むRPMI培地)の中に入れたそれら細胞をTranswellインサートの上方の部屋に播種する工程と;c)抗体を用いてあらかじめ処理した10 nMの組み換えヒト補体C5aを走化性アッセイ用バッファーに添加する工程と;d)37℃で3時間インキュベートする工程と;e)移行した細胞を下方の部屋から回収してCoulterカウンタを用いて細胞をカウントする工程と;f)組み換えヒト補体C5aを与えられたTranswellの上方の部屋に播種されて下方の部屋に移行した細胞の数を、陽性比較対照Transwellと陰性比較対照Transwellの下方の部屋に移行した細胞の数と比較する工程であり、移行した細胞の数が陽性比較対照と比較して減少しているとき、抗C5a抗体が同定される。
【0085】
本明細書では、他のさまざまな実施態様に、補体シグナル伝達に対して抑制効果を持つ可能性のある抗C5a抗体を同定する方法が提示されている。そのような1つの方法に含まれるのは、a)細胞にC5a受容体を安定にトランスフェクトする工程と;b)1 mg/mlのウシ血清アルブミン(BSA)を含有するカルシウム動員アッセイ用HEPESバッファー(25 mMのHEPES、119 mMのNaCl、5 mMのKCl、5.6 mMのグルコース、0.4 mMのMgCl2、1 mMのCaCl2)で細胞を洗浄する工程と;c)細胞を1μMのインド-1 アセトキシメチルエステルとともに室温で30分間インキュベートする工程と;d)細胞を2回洗浄し、1.3 mlの上記バッファーの中に再懸濁させる工程と;e)10 nMのヒトC5aタンパク質と50μg/mlのC5a抗体を室温で混合して最終濃度が10 nMのタンパク質と50μg/mlの抗体にする工程と;f)Infinite F200マルチモードマイクロプレートリーダーを用いて細胞間Ca2+を励起波長360 nm、発光波長415 nmで測定する工程と;g)陽性比較対照と陰性比較対照で処理した細胞内でC5aによって誘導される細胞間カルシウム動員を比較する工程であり、カルシウム動員が陽性比較対照と比べて減少しているとき、抗C5a抗体が同定される。
【0086】
抗C5a抗体
【0087】
いくつかの実施態様では、本発明は、C5とC5aに特異的に結合する抗体を含む組成物を含んでいる。一実施態様では、本発明の抗C5a抗体はC5に特異的に結合する。一実施態様では、本発明の抗C5a抗体はC5aに特異的に結合する。一実施態様では、本発明の抗C5a抗体はC5とC5aの両方に特異的に結合する。一実施態様では、本発明の抗C5a抗体は、C5のC5a部分と、遊離したC5aの両方に特異的に結合する。いくつかの実施態様では、本発明の抗C5a抗体はC5に特異的に結合するが、C5が切断されてC5aとC5bになることは阻止しない。一実施態様では、抗C5a抗体はポリクローナル抗体である。別の一実施態様では、抗C5a抗体はモノクローナル抗体である。いくつかの実施態様では、抗C5a抗体はC5が切断されてC5aとC5bになることを阻止しないが、C5aに依存した生物活性を抑制する。いくつかの実施態様では、抗C5a抗体はキメラ抗体である。さらに別の実施態様では、抗C5a抗体はヒト化抗体である。いくつかの実施態様では、抗体は抗体フラグメントである。いくつかの実施態様では、C5aはヒトC5aである。
【0088】
いくつかの実施態様では、ヒトC5aへの抗体または抗体フラグメントの結合は、インタクトな生物におけるC5aの発現レベルの低下または半減期の短縮と関係している。いくつかの実施態様では、本発明は、ヒトC5aに結合できるタンパク質またはポリペプチドである。いくつかの実施態様では、抗体または抗体フラグメント、タンパク質またはポリペプチドは、ヒトC5aの関連する部分または断片またはエピトープに結合し、ヒトC5aの関連する部分への抗体またはその抗体フラグメント、タンパク質またはポリペプチドの結合は、インタクトな生物におけるC5aの発現レベルの低下または半減期の短縮と関係している。
【0089】
いくつかの実施態様では、ヒトC5aへの抗体または抗体フラグメントの結合は、インタクトな生物内の補体活性化経路におけるC5aの活性の低下と関係している。いくつかの実施態様では、本発明は、ヒトC5aに結合できるタンパク質またはポリペプチドである。いくつかの実施態様では、抗体または抗体フラグメント、タンパク質またはポリペプチドは、ヒトC5aの関連する部分または断片またはエピトープに結合し、ヒトC5aの関連する部分への抗体またはその抗体フラグメント、タンパク質またはポリペプチドの結合は、インタクトな生物におけるC5aの活性の低下と関係している。
【0090】
いくつかの実施態様では、ヒトC5a結合抗体またはそのC5a結合抗体フラグメントはさらに、タンパク質、ペプチド、別の化合物のいずれかと複合体を形成する。いくつかの実施態様では、C5a結合抗体またはその抗体フラグメントは、タンパク質、ペプチド、別の化合物のいずれかと複合体を形成する。いくつかの実施態様では、ヒトC5a結合抗体またはその抗体フラグメントが複合体を形成するタンパク質、ペプチド、別の化合物は、標的部分である(すなわちその標的部分はC5a以外の分子に特異的に結合する)。いくつかの実施態様では、ヒトC5a結合抗体またはその抗体フラグメントが複合体を形成するタンパク質、ペプチド、別の化合物は、エフェクタ分子(例えば細胞毒性分子)である。
【0091】
一実施態様では、抗C5a抗体またはその抗原結合フラグメントは、VH-CDR1:配列番号3、VH-CDR2:配列番号4、VH-CDR3:配列番号5、VL-CDR1:配列番号8、VL-CDR2:配列番号9、およびVL-CDR3:配列番号10からなる群から選択される少なくとも1つのCDR、またはその1つまたは複数の改変体を含んでいる。別の一実施態様では、抗C5a抗体は、VH-CDR1:配列番号3、VH-CDR2:配列番号4、VH-CDR3:配列番号5、VL-CDR1:配列番号8、VL-CDR2:配列番号9、およびVL-CDR3:配列番号10からなる群のCDR、またはその1つまたは複数の改変体のすべてを含んでいる。
【0092】
いくつかの実施態様では、抗C5a抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号3のアミノ酸配列を含むVH-CDR1、または約3個まで(例えば約1個、または約2個、または約3個のいずれか)のアミノ酸置換を含むその改変体と、VL-CDR1:配列番号8、または約3個まで(例えば約1個、または約2個、または約3個のいずれか)のアミノ酸置換を含むその改変体を含んでいる。いくつかの実施態様では、抗C5a抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号3のアミノ酸配列を含むVH-CDR1と、VL-CDR1:配列番号8を含んでいる。
【0093】
いくつかの実施態様では、抗C5a抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号4のアミノ酸配列を含むVH-CDR2、または約3個まで(例えば約1個、または約2個、または約3個のいずれか)のアミノ酸置換を含むその改変体と、VL-CDR2:配列番号9、または約3個まで(例えば約1個、または約2個、または約3個のいずれか)のアミノ酸置換を含むその改変体を含んでいる。いくつかの実施態様では、抗C5a抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号4のアミノ酸配列を含むVH-CDR2と、VL-CDR2:配列番号9を含んでいる。
【0094】
いくつかの実施態様では、抗C5a抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号5のアミノ酸配列を含むVH-CDR3、または約3個まで(例えば約1個、または約2個、または約3個のいずれか)のアミノ酸置換を含むその改変体と、VL-CDR3:配列番号10、または約3個まで(例えば約1個、または約2個、または約3個のいずれか)のアミノ酸置換を含むその改変体を含んでいる。いくつかの実施態様では、抗C5a抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号5のアミノ酸配列を含むVH-CDR3と、VL-CDR3:配列番号10を含んでいる。
【0095】
いくつかの実施態様では、抗C5a抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号3のアミノ酸配列を含むVH-CDR1、または約3個まで(例えば約1個、または約2個、または約3個のいずれか)のアミノ酸置換を含むその改変体と、配列番号4のアミノ酸配列を含むVH-CDR2、または約3個まで(例えば約1個、または約2個、または約3個のいずれか)のアミノ酸置換を含むその改変体と、配列番号5のアミノ酸配列を含むVH-CDR3、または約3個まで(例えば約1個、または約2個、または約3個のいずれか)のアミノ酸置換を含むその改変体と、配列番号8のアミノ酸配列を含むVL-CDR1、または約3個まで(例えば約1個、または約2個、または約3個のいずれか)のアミノ酸置換を含むその改変体と、配列番号9のアミノ酸配列を含むVL-CDR2、または約3個まで(例えば約1個、または約2個、または約3個のいずれか)のアミノ酸置換を含むその改変体と、配列番号10のアミノ酸配列を含むVL-CDR3、または約3個まで(例えば約1個、または約2個、または約3個のいずれか)のアミノ酸置換を含むその改変体を含んでいる。
【0096】
いくつかの実施態様では、抗C5a抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号3のアミノ酸配列を含むVH-CDR1、または約3個まで(例えば約1個、または約2個、または約3個のいずれか)のアミノ酸置換を含むその改変体と、配列番号4のアミノ酸配列を含むVH-CDR2、または約3個まで(例えば約1個、または約2個、または約3個のいずれか)のアミノ酸置換を含むその改変体と、配列番号5のアミノ酸配列を含むVH-CDR3と、配列番号8のアミノ酸配列を含むVL-CDR1、または約3個まで(例えば約1個、または約2個、または約3個のいずれか)のアミノ酸置換を含むその改変体と、配列番号9のアミノ酸配列を含むVL-CDR2、または約3個まで(例えば約1個、または約2個、または約3個のいずれか)のアミノ酸置換を含むその改変体と、配列番号10のアミノ酸配列を含むVL-CDR3を含んでいる。
【0097】
いくつかの実施態様では、抗C5a抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号3のアミノ酸配列を含むVH-CDR1と、配列番号4のアミノ酸配列を含むVH-CDR2と、配列番号5のアミノ酸配列を含むVH-CDR3と、配列番号8のアミノ酸配列を含むVL-CDR1と、配列番号9のアミノ酸配列を含むVL-CDR2と、配列番号10のアミノ酸配列を含むVL-CDR3を含んでいる。
【0098】
いくつかの実施態様では、抗C5a抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号2のアミノ酸配列またはその改変体を含む重鎖を含んでいる。別の実施態様では、抗C5a抗体は、配列番号7のアミノ酸配列またはその改変体を含む軽鎖を含んでいる。別の一実施態様では、抗C5a抗体は、mAb 7A12と名づけられたモノクローナル抗体である。mAb 7A12と名づけられたモノクローナル抗C5a抗体は、配列番号2のアミノ酸配列またはその改変体を含む重鎖と、配列番号7のアミノ酸配列またはその改変体を含む軽鎖を含んでいる。いくつかの実施態様では、モノクローナル抗C5a抗体は、7A12と名づけられたモノクローナル抗体のCDRまたはその改変体の1つ以上またはすべてを有するヒト化抗体である。いくつかの実施態様では、モノクローナル抗C5a抗体は、7A12と名づけられたモノクローナル抗体のCDRまたはその改変体の1つ以上またはすべてを有するキメラ抗体である。
【0099】
いくつかの実施態様では、抗C5a抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号2のアミノ酸配列またはその改変体を含む重鎖のCDR1、CDR2、CDR3の少なくとも1つを含んでいる。別の実施態様では、抗C5a抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号7のアミノ酸配列またはその改変体を含む軽鎖のCDR1、CDR2、CDR3の少なくとも1つを含んでいる。
【0100】
いくつかの実施態様では、抗体はキメラ抗体である。いくつかの実施態様では、抗ヒトC5a抗体は、ヒト軽鎖とヒト重鎖の定常領域を、可変領域CDR配列または本明細書の別の箇所に記載したその改変体と組み合わせて含むことができる。当業者であれば、興味ある特定の抗体の関係するドメインを交換する公知の技術を利用してキメラ抗体を調製して取得することができよう。そのような抗体は、異種抗体ドメインのグラフトと、本明細書に記載した1つ以上のCDR配列の組み込みによって容易に調製される。公知の組み換え技術を利用すると、ヒトの重鎖と軽鎖の定常領域の核酸配列によってコードされる重鎖と軽鎖の定常領域と、本開示に記載されているCDR配列に対応する核酸配列によってコードされるCDRを含む重鎖と軽鎖の可変領域とを含む組み換え抗体を調製して取得することができる。当業者は、本開示に記載されている1つ以上のCDR配列を含んでいて、軽鎖の部分だけまたは重鎖の部分だけが、別の種(ヒトなど)に属する抗体からの領域で置き換えられた抗ヒトC5a抗体を調製することができる。配列番号3~5、8~10から選択される1つ以上のCDR配列、またはその1つまたは複数の改変体を有する可変領域をマウス抗体または非マウス抗体のCDR領域外の構造要素と組み合わせて含む抗ヒトC5a抗体は、本分野で知られている定型的な方法によって調製することができる。いくつかの実施態様では、本分野で知られている技術を利用して抗体または抗体フラグメントがさらにヒト化される。
【0101】
いくつかの実施態様では、抗C5a抗体は、本明細書に配列番号3~5、8~10として記載されているCDR配列のうちの1つ以上とアミノ酸が少なくとも約85%同一性を有する抗体を含んでいる。
【0102】
一実施態様では、本発明は、本明細書に記載されているCDR配列と少なくとも約85%同一性があるCDR配列を有する抗C5a抗体を包含する。本発明は、本明細書に記載されているCDR配列と少なくとも約85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、99%、または100%同一性があるCDR配列を有する抗C5a抗体、またはその抗原結合フラグメントを包含する。一実施態様では、ヒトC5aに対する抗体は重鎖可変(vH)領域と軽鎖可変(vL)領域を持ち、そのvH領域は、配列番号2と少なくとも約85%同一性があるアミノ酸配列を持ち、そのvL領域は、配列番号7と少なくとも約90%同一性があるアミノ酸配列を持つ。いくつかの実施態様では、抗体または抗体フラグメントが修飾される。いくつかの実施態様では、修飾に含まれるのは、抗体またはその抗原結合フラグメントと別のタンパク質の部分またはタンパク質断片の融合である。いくつかの実施態様では、本発明の抗体またはその抗体フラグメントが修飾されて同じ生体内での循環半減期が増加する。例えば抗体またはフラグメントを、生体内で抗体を安定化させる新生児Fc受容体としても知られるFcRn分子と融合させることができる。(Nature Reviews Immunology 第7巻:715~725ページ)。当業者であれば、配列番号3~5、8~10から選択される少なくとも1つのCDR配列を含むヒトC5a結合一本鎖可変フラグメント(scFv)を調製することができよう。scFvは、配列番号3~5で指定される少なくとも1つの重鎖可変領域と、配列番号8~10で指定される少なくとも1つの軽鎖可変領域を含むことができる。scFvの中に組み込まれていて本開示に記載されているCDR配列と80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一性があるアミノ酸配列を有するCDR配列は、本開示の範囲に包含される。
【0103】
いくつかの実施態様では、抗体または抗体フラグメントが修飾される。いくつかの実施態様では、修飾に、抗体またはその抗原結合フラグメントと別のタンパク質の部分またはタンパク質断片の融合が含まれる。いくつかの実施態様では、本発明の抗体または抗体フラグメントが修飾されて同じ生体内での循環半減期が増加する。例えば抗体またはフラグメントを、生体内で抗体を安定化させる新生児Fc受容体としても知られるFcRn分子と融合させることができる。(Nature Reviews Immunology 第7巻:715~725ページ)。いくつかの実施態様では、本発明の抗体またはその抗原結合フラグメントは、エフェクタ分子および/または別の標的部分(例えば異なる分子、異なる抗原、異なるエピトープを認識する抗体または抗体フラグメント)と複合体を形成する(例えば融合する)。
【0104】
さまざまな実施態様では、本明細書に記載されている本発明の抗体で本明細書に記載されている可変領域のいずれかを有するものは、ヒトIgG4定常重鎖を含むことができる。いくつかの実施態様では、本発明の抗体は、S228P変異を有するヒトIgG4定常重鎖を含んでいる。
【0105】
当業者であれば、配列番号3~5、8~10から選択される少なくとも1つの特定のCDR配列またはその1つまたは複数の改変体を含むC5a結合一本鎖可変フラグメント(scFv)を調製することができよう。scFvは、配列番号3~5で指定される重鎖可変領域配列、またはその1つまたは複数の改変体と、配列番号8~10で指定される軽鎖可変領域配列、またはその1つまたは複数の改変体を含むことができる。scFvの中に組み込まれていて本開示に記載されているCDR配列と少なくとも約85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一性があるアミノ酸配列を有するCDR配列は、本開示の範囲に包含される。
【0106】
スクリーニングアッセイ
【0107】
本発明にはさまざまなスクリーニングアッセイでの用途があり、その中には、候補抗C5a抗体が補体活性を抑制できるかどうかを明らかにすることが含まれる。
【0108】
いくつかの実施態様では、候補抗C5a抗体の存在下での補体活性のレベルを、陽性比較対照で検出される補体活性と比較する。陽性比較対照は、添加される試験化合物なしでの補体活性化、またはC5aと結合しない別の試験化合物の存在下での補体活性化を含む。いくつかの実施態様では、候補抗C5a抗体は、候補抗C5a抗体の存在下での補体活性が、陽性比較対照で検出される補体活性の約70%未満であるとき、補体の阻害剤であると同定される。これは、試験化合物の存在下における補体活性の抑制が約30%超であることに対応する。別の実施態様では、候補抗C5a抗体は、候補抗C5a抗体の存在下での補体活性が、陽性比較対照で検出される補体活性の約80%未満であるとき、補体の阻害剤であると同定される。これは、試験化合物の存在下における補体活性の抑制が約20%超であることに対応する。さらに別の実施態様では、候補抗C5a抗体は、候補抗C5a抗体の存在下での補体活性が、陽性比較対照で検出される補体活性の約90%未満であるとき、補体の阻害剤であると同定される。これは、試験化合物の存在下における補体活性の抑制が約10%超であることに対応する。いくつかの実施態様では、候補抗C5a抗体による補体抑制レベルを陰性比較対照での抑制レベルと比較する。
【0109】
競合イムノアッセイ形式と非競合イムノアッセイ形式、抗原捕獲アッセイ、2抗体サンドイッチアッセイ、3抗体サンドイッチアッセイを含む多彩なイムノアッセイ形式が、本発明の有用な方法である(Self他、1996年、Curr. Opin. Biotechnol. 第7巻:60~65ページ)。本発明が、既知のアッセイやこれまで知られていないアッセイのどれか1つのタイプに限定されると考えてはならず、アッセイで補体の抑制を検出できればよい。
【0110】
酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)が、本発明の方法において有用である。酵素(その非限定的な例に含まれるのは、セイヨウワサビ・ペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、ウレアーゼである)を、例えば本発明の方法で用いるための抗体または二次抗体に結合させることができる。セイヨウワサビ・ペルオキシダーゼ検出系を例えば発色基質であるテトラメチルベンジン(TMB)とともに用いることができる。TMB は、450 nmで検出可能な可溶性産物を過酸化水素の存在下で生成させる。他の便利な酵素結合系に含まれるのは例えばアルカリホスファターゼ検出系であり、これは、発色基質であるリン酸p-ニトロフェニルとともに用いて405 nmで容易に検出可能な可溶性産物を生成させることができる。同様に、β-ガラクトシダーゼ検出系を発色基質であるo-ニトロフェニル-β-D-ガラクトピラノシド(ONPG)とともに用いて410 nmで検出可能な可溶性産物を生成させることができる。あるいはウレアーゼ検出系を尿素-ブロモクレゾールパープル(Sigma Immunochemicals社、セントルイス、ミズーリ州)などの基質とともに用いることができる。酵素に結合する有用な一次抗体と二次抗体は、任意の数の民間供給源から取得することができる。
【0111】
化学発光の検出も、補体の抑制を検出するのに有用である。化学発光二次抗体は、任意の数の民間供給源から取得することができる。
【0112】
蛍光の検出も、補体の抑制を検出するのに有用である。有用な蛍光体の非限定的な例に含まれるのは、DAPI、フルオレセイン、Hoechst 33258、R-フィコシアニン、B-フィコエリトリン、R-フィコエリトリン、ローダミン、テキサス・レッド、リサミン-フルオレセインで標識した抗体、ローダミンで標識した抗体である。
【0113】
ラジオイムノアッセイ(RIA)も、本発明の方法において有用である。そのようなアッセイは本分野で周知であり、例えばBrophyら(1990年、Biochem. Biophys. Res. Comm. 第167巻:898~903ページ)と、Guechotら(1996年、Clin. Chem. 第42巻:558~563ページ)が記載している。ラジオイムノアッセイは、例えばヨウ素125で標識した一次抗体または二次抗体を用いて実施される(Harlow他、上記文献、1999年)。
【0114】
検出可能な抗体から出る信号の分析は、例えば分光測光器を用いて化学発光基質からの色を検出することによって、または放射線カウンタで放射線を検出することによって、または蛍光計を用いて所定の波長の光の存在下で蛍光を検出することによって実施する。酵素結合アッセイを利用する場合には、分光測光器を用いて定量分析を実施する。本発明のアッセイは、手作業で実施すること、または望むのであれば自動化が可能であることと、複数のサンプルから出る信号を市場で入手できる多数のシステムで同時に検出できることがわかる。
【0115】
本発明の方法は、キャピラリ電気泳動に基づくイムノアッセイ(CEIA)の利用も包含する。これは、望むのであれば自動化することができる。イムノアッセイは、レーザーによって誘導される蛍光と組み合わせて利用することもできる。それは例えばSchmalzingら(1997年、Electrophoresis第18巻:2184~2193ページ)と、Bao(1997年、J. Chromatogr. B. Biomed. Sci. 第699巻:463~480ページ)が記載している。リポソームイムノアッセイ(フローインジェクションリポソームイムノアッセイなど)とリポソーム免疫センサーも、本発明の方法に従って用いることができる(Rongen他 1997年、J. Immunol. Methods第204巻:105~133ページ)。
【0116】
定量ウエスタンブロッティングを利用して本発明の方法で補体抑制のレベルを求めることもできる。ウエスタンブロットは、走査デンシトメトリー(Parra他、1998年、J. Vasc. Surg. 第28巻:669~675ページ)などの周知の方法を利用して定量される。
【0117】
投与の方法
【0118】
本発明の方法は、少なくとも1つの抗C5a抗体またはその結合フラグメント(例えば本明細書の別の箇所に記載されている抗体またはそのフラグメントの任意のもの)の治療に有効な量を、補体が媒介する疾患または障害を有することが特定されたか疑われる個体に投与することを含んでいる。一実施態様では、個体は、補体系を有する哺乳動物である。一実施態様では、個体はヒトである。さまざまな実施態様では、少なくとも1つの抗C5a抗体またはその結合フラグメントは、局所投与、または領域投与、または全身投与される。
【0119】
さまざまな実施態様では、疾患または障害は、黄斑変性(MD)、加齢黄斑変性(AMD)、虚血再灌流障害、関節炎、関節リウマチ、喘息、アレルギー性喘息、狼瘡、潰瘍性大腸炎、脳卒中、術後全身性炎症反応症候群、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)症候群、自己免疫性溶血性貧血(AIHA)、ゴーシェ病、重症筋無力症、視神経脊髄炎(NMO)、多発性硬化症、移植後機能障害、抗体関連型拒絶、非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)、網膜中心静脈閉塞症(CRVO)、網膜中心動脈閉塞症(CRAO)、表皮水疱症、敗血症、敗血症性ショック、臓器移植、炎症(その非限定的な例に、心肺バイパス手術と腎臓透析に関連した炎症が含まれる)、C3腎症、膜性腎症、IgA腎症、糸球体腎炎(その非限定的な例に抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連糸球体腎炎、ループス腎炎、およびこれらの組み合わせが含まれる)、ANCA関連血管炎、志賀毒素誘導型HUS、抗リン脂質抗体誘導型流産、またはこれらの任意の組み合わせからなる群から少なくとも選択される。いくつかの実施態様では、APが媒介する疾患は、敗血症、敗血症性ショック、関節リウマチ、自己免疫性溶血性貧血GvHD、抗リン脂質症候群、ゴーシェ病のいずれかである。本発明の方法は、少なくとも1つの抗C5a抗体またはその結合フラグメントの投与を含むことができるが、本発明が、本明細書に記載されている抗C5a抗体に限定されると考えてはならず、本発明は、補体活性化を減少・低減させる既知と未知両方の任意の抗C5a抗体を包含すると考えるべきである。
【0120】
本発明の方法は、少なくとも1つの抗C5a抗体またはその結合フラグメントの治療に有効な量を個体に投与することを含んでおり、少なくとも1つの抗C5a抗体またはその結合フラグメントを単独で、または少なくとも1つの他の治療剤と組み合わせて含む本発明の組成物として投与される。本発明は、他の治療法(例えば抗炎症療法など)と組み合わせて利用することができる。本発明の方法と組み合わせて利用できる抗炎症療法の例に含まれるのは、例えばステロイド剤薬を用いる療法や、非ステロイド剤薬を用いる療法である。
【0121】
本発明の方法は、少なくとも1つの抗C5a抗体またはその抗原結合フラグメントの治療に有効な量を対象に投与することを含んでいる。いくつかの実施態様では、本発明は、補体シグナル伝達の異常が関与するC5a関連疾患を、本発明の抗体の治療に有効な量、またはその抗体フラグメントの治療に有効な量を投与することにより対象でC5a活性の低下を実現することによって治療する方法を包含する。いくつかの実施態様では、本発明は、補体シグナル伝達の異常が関与するC5a関連疾患を、抗体または抗体フラグメントの治療に有効な量を投与することによって治療する方法を包含する。いくつかの実施態様では、本発明は、補体シグナル伝達の異常が関与するC5a関連疾患を、抗体、抗体フラグメント、ポリペプチド、ペプチド、複合体化したペプチドいずれかの治療に有効な量を対象に投与することにより対象で補体活性を低下させることによって治療する方法を包含する。いくつかの実施態様では、治療法は、対象に抗体または抗体フラグメントの全身有効用量を投与することで、C5a活性を対象の全身で低下させることを包含する。
【0122】
本発明の治療法における抗C5a抗体またはその結合フラグメントの投与は、本分野で知られている方法を利用して多数の異なるやり方で実現することができる。したがって本発明の治療法と予防法は、抗C5a抗体を含む医薬組成物の利用を包含する。
【0123】
本発明を実施するのに有用な医薬組成物は、対象の体重1 kg当たり少なくとも約1 ng、少なくとも約5 ng、少なくとも約10 ng、少なくとも約25 ng、少なくとも約50 ng、少なくとも約100 ng、少なくとも約500 ng、少なくとも約1μg、少なくとも約5μg、少なくとも約10μg、少なくとも約25μg、少なくとも約50μg、少なくとも約100μg、少なくとも約500μg、少なくとも約1 mg、少なくとも約5 mg、少なくとも約10 mg、少なくとも約25 mg、少なくとも約50 mg、少なくとも約100 mg、少なくとも約200 mg、少なくとも約300 mg、少なくとも約400 mg、少なくとも約500 mgの用量を送達するために投与することができる。一実施態様では、本発明において、本発明のC5a抗体またはその結合フラグメントを、個体の体内で少なくとも約1 pM、少なくとも約10 pM、少なくとも約100 pM、少なくとも約1 nM、少なくとも約10 nM、少なくとも約100 nM、少なくとも約1μM、少なくとも約2μM、少なくとも約3μM、少なくとも約4μM、少なくとも約5μM、少なくとも約6μM、少なくとも約7μM、少なくとも約8μM、少なくとも約9μM、少なくとも約10μMの濃度となる用量で投与する。別の一実施態様では、本発明において、本発明のC5a抗体またはその結合フラグメントを、個体の血漿中で少なくとも約1 pM、少なくとも約10 pM、少なくとも約100 pM、少なくとも約1 nM、少なくとも約10 nM、少なくとも約100 nM、少なくとも約1μM、少なくとも約2μM、少なくとも約3μM、少なくとも約4μM、少なくとも約5μM、少なくとも約6μM、少なくとも約7μM、少なくとも約8μM、少なくとも約9μM、少なくとも約10μMの濃度となる用量で投与することを考える。
【0124】
いくつかの実施態様では、本発明を実施するのに有用な医薬組成物は、対象の体重1 kg当たり約1 ng以下、約5 ng以下、約10 ng以下、約25 ng以下、約50 ng以下、約100 ng以下、約500 ng以下、約1μg以下、約5μg以下、約10μg以下、約25μg以下、約50μg以下、約100μg以下、約500μg以下、約1 mg以下、約5 mg以下、約10 mg以下、約25 mg以下、約50 mg以下、約100 mg以下、約200 mg以下、約300 mg以下、約400 mg以下、約500 mg以下の用量を送達するために投与することができる。一実施態様では、本発明において、本発明のC5a抗体またはその結合フラグメントを、個体の体内で約1 pM以下、約10 pM以下、約100 pM以下、約1 nM以下、約10 nM以下、約100 nM以下、約1μM以下、約2μM以下、約3μM以下、約4μM以下、約5μM以下、約6μM以下、約7μM以下、約8μM以下、約9μM以下、約10μM以下の濃度となる用量で投与する。別の一実施態様では、本発明において、本発明のC5a抗体またはその結合フラグメントを、個体の血漿中で約1 pM以下、約10 pM以下、約100 pM以下、約1 nM以下、約10 nM以下、約100 nM以下、約1μM以下、約2μM以下、約3μM以下、約4μM以下、約5μM以下、約6μM以下、約7μM以下、約8μM以下、約9μM以下、約10μM以下の濃度となる用量で投与することを考える。本明細書に開示されている任意の用量の間の用量範囲も考えられる。
【0125】
典型的には、本発明の方法で対象(いくつかの実施態様ではヒト)に投与することのできる用量は、対象の体重1 kg当たり0.5μg~約50 mgの範囲である。正確な用量は任意の数の因子(その非限定的な例に、対象のタイプ、治療する疾患状態のタイプ、対象の年齢、投与経路が含まれる)に依存する。いくつかの実施態様では、化合物の用量は、対象の体重1 kg当たり約1μgから約10 mgまで変化する。別の実施態様では、用量は、対象の体重1 kg当たり約3μgから約1 mgまで変化する。
【0126】
抗体は、1日に数回の頻度で対象に投与すること、またはより少ない頻度で(例えば1日に1回、1日に2回、1日に3回、週に1回、週に2回、週に3回、2週間に1回、2週間に2回、2週間に3回、月に1回、月に2回、月に3回)、またはより一層少ない頻度で(例えば数ヶ月に1回、それどころか年に1回または数回、またはそれよりも少ない回数)で投与することができる。投与の頻度は当業者には容易にわかるであろうし、任意の数の因子(その非限定的な例に、治療する疾患のタイプと重篤度、対象のタイプと年齢などが含まれる)に依存するであろう。医薬組成物の製剤は、既知の任意の方法によって、または薬理学で今後開発される方法によって調製することができる。一般に、そのような調製法には、活性成分を基剤または1つ以上の他の付属成分と組み合わせた後、必要な場合または望ましい場合にはその製品を望む単回投与ユニットまたは多数回投与ユニットに成形または包装する工程が含まれる。
【0127】
本明細書で提供する医薬組成物の説明は主に、ヒトへの倫理的な投与に適した医薬組成物に関するものだが、当業者は、そのような組成物が一般にあらゆる種類の対象への投与に適していることを理解するであろう。ヒトへの投与に適した医薬組成物をさまざまな対象に投与するのに適したように改変することはよく理解されており、獣医学の分野の薬理学者は、必要な場合には単に一般的な実験をすることで、そのような改変を設計して実施することができる。本発明の医薬組成物を投与することが考えられる個体の非限定的な例に含まれるのは、ヒトとそれ以外の霊長類、哺乳動物(市場で重要な哺乳動物である非ヒト霊長類、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ネコ、イヌが含まれる)である。
【0128】
本発明の方法で有用な医薬組成物は、点眼、経口投与、直腸投与、膣投与、非経口投与、局所投与、肺投与、鼻腔内投与、口腔内投与、眼内投与、硝子体内投与、筋肉内投与、皮内投与、静脈内投与に適した製剤として調製、包装、販売することができる。考慮できる他の製剤に含まれるのは、凹凸ナノ粒子、リポソーム調製物、活性成分を含有する再封止れた赤血球、免疫学に基づく製剤である。
【0129】
本発明の医薬組成物は、バルクで、単一の単位用量として、または複数の単位用量として調製、包装、販売することができる。単位用量は、所定量の活性成分を含む離散量の医薬組成物である。活性成分の量は、一般に、個体に投与されることになる活性成分の用量、またはそのような用量の簡単な分数(例えばそのような用量の半分または1/3)と等しい。
【0130】
本発明の医薬組成物に含まれる活性成分、医薬として許容可能な基剤、任意の追加成分の相対量は、治療する個体の素性、サイズ、状態によって異なるとともに、その組成物の投与経路によっても異なる。例として、組成物は、0.1%~100%(w/w)の活性成分を含むことができる。さまざまな実施態様では、組成物は、活性成分を、少なくとも約1%、少なくとも約2%、少なくとも約3%、少なくとも約4%、少なくとも約5%、少なくとも約6%、少なくとも約7%、少なくとも約8%、少なくとも約9%、少なくとも約10%、少なくとも約11%、少なくとも約12%、少なくとも約13%、少なくとも約14%、少なくとも約15%、少なくとも約16%、少なくとも約17%、少なくとも約18%、少なくとも約19%、少なくとも約20%、少なくとも約21%、少なくとも約22%、少なくとも約23%、少なくとも約24%、少なくとも約25%、少なくとも約26%、少なくとも約27%、少なくとも約28%、少なくとも約29%、少なくとも約30%、少なくとも約31%、少なくとも約32%、少なくとも約33%、少なくとも約34%、少なくとも約35%、少なくとも約36%、少なくとも約37%、少なくとも約38%、少なくとも約39%、少なくとも約40%、少なくとも約41%、少なくとも約42%、少なくとも約43%、少なくとも約44%、少なくとも約45%、少なくとも約46%、少なくとも約47%、少なくとも約48%、少なくとも約49%、少なくとも約50%、少なくとも約51%、少なくとも約52%、少なくとも約53%、少なくとも約54%、少なくとも約55%、少なくとも約56%、少なくとも約57%、少なくとも約58%、少なくとも約59%、少なくとも約60%、少なくとも約61%、少なくとも約62%、少なくとも約63%、少なくとも約64%、少なくとも約65%、少なくとも約66%、少なくとも約67%、少なくとも約68%、少なくとも約69%、少なくとも約70%、少なくとも約71%、少なくとも約72%、少なくとも約73%、少なくとも約74%、少なくとも約75%、少なくとも約76%、少なくとも約77%、少なくとも約78%、少なくとも約79%、少なくとも約80%、少なくとも約81%、少なくとも約82%、少なくとも約83%、少なくとも約84%、少なくとも約85%、少なくとも約86%、少なくとも約87%、少なくとも約88%、少なくとも約89%、少なくとも約90%、少なくとも約91%、少なくとも約92%、少なくとも約93%、少なくとも約94%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、少なくとも約99%、少なくとも約100%(w/w)のいずれかの割合で含んでいる。
【0131】
本発明の医薬組成物は、活性成分に加え、医薬として活性な1種類以上の追加の薬剤をさらに含むことができる。
【0132】
従来からの技術を利用して本発明の医薬組成物の制御放出製剤または持続放出製剤を作製することができる。
【0133】
医薬組成物の非経口投与には、個体の組織の物理的割れ目を特徴とする任意の投与経路と、組織内の割れ目を通じた医薬組成物の投与が含まれる。非経口投与は、局所投与、領域投与、全身投与のいずれかが可能である。したがって非経口投与の非限定的な例に含まれるのは、医薬組成物の注射による投与、外科的切開を通じた組成物の適用、組織に侵入する非外科的傷を通じた組成物の適用などである。非経口投与に特に含まれると考えられるのは、静脈内投与、眼内投与、硝子体内投与、皮下投与、腹腔内投与、筋肉内投与、皮内投与、胸骨内注入、腫瘍内投与だが、これらに限定されない。
【0134】
非経口投与に適した医薬組成物の製剤は、活性成分を、医薬として許容可能な基剤(減菌水や減菌等張生理食塩水など)と組み合わせて含んでいる。このような製剤は、ボーラス投与または連続投与に適した形態で調製、または包装、または販売することができる。注射可能な製剤は、単位用量の形態(アンプル、保存剤を含有する多用量容器)で調製、または包装、または販売することができる。非経口投与のための製剤の非限定的な例に含まれるのは、懸濁液、溶液、油性または水性のビヒクル中の乳液、ペースト、移植可能な持続放出性または生物分解性の製剤である。このような製剤はさらに、1つ以上の追加成分を含むことができ、その非限定的な例に含まれるのは、懸濁剤、安定剤、分散剤である。非経口投与のための製剤の一実施態様では、活性成分は乾燥(すなわち粉末または顆粒)形態で提供されて、適切なビヒクル(例えば発熱物質を含まない減菌水)を用いて再構成された後、その再構成された組成物が非経口投与される。
【0135】
医薬組成物は、注射可能な減菌水溶液の形態や、懸濁液または溶液の形態で調製、または包装、または販売することができる。この懸濁液または溶液は公知の技術に従って製剤化することができ、活性成分に加えて追加成分(分散剤、湿潤剤、懸濁剤など)を含むことができる。このような注射可能な減菌製剤は、非毒性で非経口投与可能な希釈剤または溶媒(例えば水、1,3-ブタンジオールなど)を用いて調製することができる。他の許容可能な希釈剤と溶媒の非限定的な例に含まれるのは、リンゲル液、等張塩化ナトリウム溶液、不揮発性油(合成モノグリセリド、合成ジグリセリドなど)である。非経口投与可能な有用な他の製剤に含まれるのは、微結晶形態やリポソーム調製物になった活性成分、または生物分解性ポリマー系の構成成分としての活性成分を含むものである。持続放出または移植のための組成物は、医薬として許容可能なポリマー材料または疎水性材料(乳剤、イオン交換樹脂、難溶性ポリマー、難溶性塩など)を含むことができる。
【0136】
本発明の医薬組成物は、口腔を通じた肺投与に適した製剤として調製、または包装、または販売することができる。このような製剤は、活性成分を含んでいて約0.5~約7ナノメートル(いくつかの実施態様では約1~約6ナノメートル)の範囲の直径を持つ乾燥粒子を含むことができる。このような組成物は、乾燥粉末の形態にして、乾燥粉末リザーバを備える装置(その乾燥粉末リザーバに推進剤の流れを向けることで粉末を分散させることができる)を用いて、または自己駆動溶媒/粉末分散容器(例えば低沸点推進剤の中に溶かすか懸濁させた活性成分を密封された容器内に含む装置)を用いて投与するのに都合がよい。いくつかの実施態様では、そのような粉末は、重量の少なくとも98%が0.5ナノメートル超の直径を持ち、数の少なくとも95%が7ナノメートル未満の直径を持つ粒子を含んでいる。いくつかの実施態様では、粒子の重量の少なくとも95%が1ナノメートル超の直径を持ち、数の少なくとも90%が6ナノメートル未満の直径を持つ。いくつかの実施態様では、乾燥粉末組成物は、細かい固体粉末希釈剤(糖など)を含んでいて、単位用量形態で提供するのに都合がよい。
【0137】
低沸点推進剤は、一般に、大気圧で65°F未満の沸点を持つ液体推進剤を含んでいる。一般に、推進剤は、組成物の50~99.9%(w/w)を構成することができ、活性成分は、組成物の0.1~20%(w/w)を構成することができる。推進剤はさらに、追加成分として、液体の非イオン性表面活性剤、固体のアニオン性界面活性剤、固体希釈剤(いくつかの実施態様では、活性成分を含む粒子と同程度の粒径を持つ)などを含むことができる。
【0138】
肺送達用の製剤にされた本発明の医薬組成物は、活性成分を溶液または懸濁液の液滴の形態で提供することもできる。このような製剤は、活性成分を含んでいて場合によっては減菌された水性または希アルコール性の溶液または懸濁液として調製、または包装、または販売することができ、任意の噴霧装置または霧吹き装置を用いて投与するのに都合がよい。このような製剤はさらに、1つ以上の追加成分を含むことができ、その非限定的な例に含まれるのは、風味剤(サッカリンナトリウムなど)、揮発油、緩衝剤、表面活性剤、保存剤(ヒドロキシ安息香酸メチルなど)である。いくつかの実施態様では、この投与経路で提供される液滴は、約0.1~約200ナノメートルの範囲の平均直径を有する。
【0139】
製剤は、本発明の医薬組成物を鼻腔内送達するのにも有用である。
【0140】
鼻腔内投与に適した別の製剤は、活性成分を含んでいて平均粒径が約0.2~500マイクロメートルの粗い粉末である。このような製剤は、嗅ぐことによって、すなわち鼻孔に近づけて保持した粉末の容器から鼻腔を通じた急速な吸引によって投与する。
【0141】
鼻腔内投与に適した別の製剤は、例えば、少なければ約0.1%(w/w)、多ければ100%(w/w)の活性成分を含むことができ、さらに1種類以上の追加成分を含むことができる。
【0142】
本発明の医薬組成物は、口腔内投与に適した製剤として調製すること、または包装すること、または販売することができる。このような製剤は、例えば、従来法を利用して製造された錠剤またはロゼンジの形態にすることができ、例えば0.1~20%(w/w)の活性成分を含むことができ、残部は、口内で溶解または崩壊が可能な組成物と、場合によっては1種類以上の追加成分を含んでいる。あるいは口腔内投与に適した製剤は、活性成分を含む粉末か、活性成分を含むエアロゾル化または噴霧化された溶液または懸濁液を含むことができる。いくつかの実施態様では、このように粉末化またはエアロゾル化された製剤は、分散されると、粒子または液滴の平均サイズが約0.1~約200ナノメートルとなること、そして1つ以上の追加成分をさらに含むことができる。
【0143】
本明細書では、「追加成分」の非限定的な例に含まれるのは、賦形剤、表面活性剤、分散剤、不活性な希釈剤、顆粒剤と崩壊剤、結合剤、潤滑剤、甘味剤、風味剤、着色剤、保存剤、生理学的に分解可能な組成物(ゼラチンなど)、水性のビヒクルと溶媒、油性のビヒクルと溶媒、懸濁剤、分散剤または湿潤剤、乳化剤、緩和剤、バッファー、塩類、増粘剤、充填剤、乳化剤、抗酸化剤、抗生剤、抗真菌剤、安定剤、医薬として許容可能なポリマー材料または疎水性材料のうちの1つ以上である。本発明の医薬組成物に含めることのできる他の「追加可能な成分」は本分野で知られており、例えば「Remington's Pharmaceutical Sciences」(1985年、Genaro編、Mack Publishing Co.社、イーストン、ペンシルヴェニア州)に記載されている(その内容は、参照によって本明細書に組み込まれている)。
【0144】
細胞が産生する抗体とその抗原結合フラグメント
【0145】
いくつかの実施態様では、本発明は、本明細書に記載されている少なくとも1つの抗C5a抗体または抗原結合フラグメントを産生する細胞または細胞系(宿主細胞など)である。一実施態様では、細胞または細胞系は、本明細書に記載されている少なくとも1つの抗C5a抗体または抗原結合フラグメントを産生する遺伝子改変された細胞である。一実施態様では、細胞または細胞系は、本明細書に記載されている少なくとも1つの抗C5a抗体または抗原結合フラグメントを産生するハイブリドーマである。
【0146】
ハイブリッド細胞(ハイブリドーマ)は、一般に、Bリンパ球が非常に豊富なマウス脾臓細胞と骨髄腫「融合パートナー細胞」の間の融合塊から作製される(Alberts他、「Molecular Biology of the Cell」(Garland Publishing, Inc.社、1994年);Harlow他、「Antibodies. A Laboratory Manual」(Cold Spring Harbor Laboratory、コールド・スプリング・ハーバー、1988年)。融合体の中の細胞はその後、複数のプールに分配されて、望む特異性を有する抗体の産生に関して分析することができる。陽性を試験するプールは、望む特異性の抗体を産生する単一細胞クローンが同定されるまで、さらに分割することができる。そのようなクローンによって産生される抗体はモノクローナル抗体と呼ばれる。
【0147】
本明細書に開示されている任意の抗体または抗体フラグメントをコードする核酸のほか、その核酸を含むベクターも提供される。したがって本発明の抗体とフラグメントは、細胞または細胞系(例えば、組み換え免疫グロブリンまたはヒト化免疫グロブリンの発現に典型的に用いられる細胞系)の中でその核酸を発現させることによって生成させることができる。したがって本発明の抗体とフラグメントは、核酸を1つ以上の発現ベクターに入れてクローニングし、そのベクターで細胞系(例えば、組み換え免疫グロブリンまたはヒト化免疫グロブリンの発現に典型的に用いられる細胞系)を形質転換することによって生成させることもできる。
【0148】
免疫グロブリンの重鎖と軽鎖、またはそのフラグメントをコードする遺伝子は、本分野で知られている方法(その非限定的な例にポリメラーゼ連鎖反応(PCR)が含まれる)に従って操作することができる(例えばSambrook他、「Molecular Cloning: A Laboratory Manual」、第2版、Cold Spring Harbor、ニューヨーク州、1989年;BergerとKimmel、「Methods in Enzymology」、第152巻:「Guide to Molecular Cloning Techniques」、Academic Press, Inc.社、サンディエゴ、カリフォルニア州、1987年;Co他、1992年、J. Immunol. 第148巻:1149ページを参照されたい)。例えば重鎖と軽鎖またはそのフラグメントをコードする遺伝子を抗体分泌細胞のゲノムDNAからクローニングすること、またはcDNAを細胞のRNAの逆転写から生成させることができる。クローニングは、クローニングする遺伝子または遺伝子のセグメントに隣接するか重複する配列にハイブリダイズするPCRプライマーを用いることを含む従来の技術によって実現される。
【0149】
本発明の抗体をコードする核酸や、重鎖または軽鎖またはそのフラグメントをコードする核酸は、多彩な宿主細胞またはインビトロ翻訳系の中で、特定の免疫グロブリン、免疫グロブリン鎖、そのフラグメントまたは改変体を作製するための組み換え核酸技術に従って取得して用いることができる。例えば抗体をコードする核酸またはそのフラグメントを適切な原核ベクターまたは真核ベクター(例えば発現ベクター)の中に入れ、適切な方法(例えば形質転換、トランスフェクション、電気穿孔、感染)によって適切な宿主細胞の中に導入することで、その核酸が例えばベクター内の1つ以上の発現制御エレメントと作動可能に連結するように、または宿主細胞のゲノムと一体化するようにできる。
【0150】
いくつかの実施態様では、重鎖と軽鎖、またはそのフラグメントを2つの異なる発現ベクターの中で組み立て、それらベクターを用いてレシピエントの細胞に同時にトランスフェクトすることができる。いくつかの実施態様では、各ベクターは、2つ以上の選択可能な遺伝子を含有することができる。一方の遺伝子は、細菌系の中での選択用であり、もう一方は、真核細胞系の中での選択用である。これらベクターによって細菌系の中で遺伝子を産生させて増幅し、その後に真核細胞に同時にトランスフェクトし、同時にトランスフェクトされたそれら細胞を選択することが可能になる。この選択手続きを利用して、真核細胞に入れられた2つの異なるDNAベクターに導入された抗体の核酸の発現を選択することができる。
【0151】
あるいは重鎖と軽鎖、またはそのフラグメントをコードする核酸は、1つのベクターから発現させることができる。重鎖と軽鎖は別々の遺伝子によってコードされているが、組み換え法を利用してそれらを接合することができる。例えばそれら2つのポリペプチドは、それらポリペプチドを1本のタンパク質鎖にすることのできる合成リンカーによって接合することができる。このタンパク質鎖(一本鎖Fv(scFv)として知られる;例えばBird他、1988年、Science 第242巻:423~426ページ; Huston他、1988年、Proc. Natl. Acad. Sci. USA第85巻:5879~5883ページを参照されたい)では、VL領域とVH領域が対になって1価の分子を形成している。
【0152】
本発明により、重鎖および/または軽鎖をコードする核酸配列を含む単離された核酸分子のほか、そのフラグメントが提供される。軽鎖と重鎖の両方をコードする配列を含む核酸分子またはそのフラグメントを操作して、細胞内で産生されたときに抗体またはフラグメントの分泌を探すための合成シグナル配列を含有するようにできる。さらに、核酸分子は、他の抗体配列を挿入できるようにするとともに翻訳読み取りフレームを維持して抗体配列に通常見いだされるアミノ酸を変えないようにする特定のDNAリンクを含有することができる。
【0153】
本発明によれば、抗体をコードする核酸配列は、適切な発現ベクターに挿入することができる。さまざまな実施態様では、発現ベクターは、抗体またはそのフラグメントを形成するための抗体配列の発現を指示する組み換えDNA分子を生成させることを目的として、抗体をコードする挿入核酸の転写と翻訳に必要なエレメントを含んでいる。
【0154】
抗体をコードする核酸またはそのフラグメントに対し、当業者に知られているさまざまな組み換え核酸技術(部位特異的突然変異誘発など)を適用することができる。
【0155】
多彩な方法を利用して細胞内で核酸を発現させることができる。核酸は多数のタイプのベクターの中でクローニングすることができる。しかし本発明が特定のベクターに限定されると考えてはならない。そうではなく、本発明は、容易に入手できる、および/または本分野で知られている多彩なベクターを包含すると考えるべきである。例えば本発明の核酸は、ベクター(その非限定的な例に含まれるには、プラスミド、ファージミド、ファージ誘導体、動物ウイルス、コスミドである)に入れてクローニングすることができる。特に興味深いベクターに含まれるのは、発現ベクター、複製ベクター、プローブ生成ベクター、シークエンシングベクターである。
【0156】
特別な実施態様では、発現ベクターは、ウイルスベクター、細菌ベクター、哺乳動物細胞ベクターからなる群から選択される。上に議論した組成の少なくとも一部またはすべてを含む多数の発現ベクター系が存在している。原核ベクターおよび/また真核ベクターに基づく系を本発明で利用してポリヌクレオチドまたはそのコグネイトポリペプチドを生成させることができる。多数のこのような系が市販されていて広く利用できる。
【0157】
ウイルスベクター技術は本分野で周知であり、例えばSambrook他(2012年)、Ausubel他(1999年)や、ウイルス学と分子生物学に関するそれ以外の教科書に記載されている。ベクターとして有用なウイルスの非限定的な例に含まれるのは、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、レンチウイルスである。いくつかの実施態様では、マウス幹細胞ウイルス(MSCV)ベクターを用いて望む核酸を発現させる。MSCVベクターは、望む核酸を細胞内で効率的に発現させることが明らかにされている。しかし本発明がMSCVベクターの使用に限定されるはずはなく、任意のレトロウイルス発現法が本発明に含まれる。ウイルスベクターの別の例は、モロニーマウス白血病ウイルス(MoMuLV)とHIVに基づくものである。いくつかの実施態様では、適切なベクターは、少なくとも1つの生体内で機能する複製起点と、プロモータ配列と、好都合な制限エンドヌクレアーゼ部位と、1つ以上の選択マーカーを含有している(例えばWO 01/96584;WO 01/29058;アメリカ合衆国特許第6,326,193号を参照されたい)。
【0158】
追加の調節エレメント(例えばエンハンサ)を用いて転写開始の頻度を調節することができる。プロモータとして、天然の状態で遺伝子または核酸配列に付随するものが可能であり、それは例えばコードセグメントおよび/またはエキソンの上流に位置する5'非コード配列を単離することによって得られる。このようなプロモータは「内在性」と呼ぶことができる。同様に、エンハンサとして、天然の状態で核酸配列に付随していてその配列の下流または上流に位置するものが可能である。あるいはコード核酸セグメントを組み換えプロモータまたは異種プロモータ(自然環境の中で核酸配列に通常は付随していないプロモータを意味する)の制御下に置くことによっていくつかの利点が得られよう。組み換えエンハンサまたは異種エンハンサも、自然環境の中で核酸配列に通常は付随していないエンハンサを意味する。このようなプロモータまたはエンハンサは、他の遺伝子のプロモータまたはエンハンサを含むことや、他の任意の原核細胞、ウイルス細胞、真核細胞から単離されたプロモータまたはエンハンサを含むことや、「自然には生じない」プロモータまたはエンハンサ、例えば異なる転写調節領域の異なるエレメントおよび/または発現を変化させる変異を含有するプロモータまたはエンハンサを含むことができる。本明細書に開示されている組成物に関し、プロモータとエンハンサの核酸配列を合成によって生成させることに加え、配列は、組み換えクローニングおよび/または核酸増幅技術(PCRが含まれる)を利用して生成させることができる(アメリカ合衆国特許第4,683,202号、第5,928,906号)。さらに、非核オルガネラ(ミトコンドリア、葉緑体など)の中での配列の転写および/または発現を指示する対照配列も使用できることを考慮する。
【0159】
当然、発現させるために選択された細胞種、オルガネラ、生物の中でDNAセグメントが効果的に発現するように指示するプロモータおよび/またはエンハンサを用いることが重要になろう。分子生物学の当業者は、一般に、プロモータ、エンハンサ、細胞のタイプの組み合わせをどのように利用してタンパク質を発現させるかを知っている(例えばSambrook他(2012年)を参照されたい)。使用されるプロモータとして、構成的プロモータ、および/または組織特異的プロモータ、および/または誘導的プロモータ、および/または導入されたDNAセグメントの高レベルの発現を適切な条件下で指示するのに有用なプロモータ、例えば組み換えタンパク質とその断片の大規模な産生に有利なプロモータが可能である。
【0160】
プロモータの一例は、サイトメガロウイルス(CMV)のプロモータ配列である。このプロモータ配列は、作動可能に連結された任意のポリヌクレオチド配列の高レベルな発現を駆動することのできる強力な構成的プロモータ配列である。しかし他の構成的プロモータ配列も用いることができ、その非限定的な例に含まれるのは、サルウイルス40(SV40)初期プロモータ、マウス乳腺腫瘍ウイルス(MMTV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)長い末端反復(LTR)プロモータ、モロニーウイルスプロモータ、トリ白血病ウイルスプロモータ、エプスタイン-バールウイルス最初期プロモータ、ラウス肉腫ウイルスプロモータのほか、ヒト遺伝子プロモータ(その非限定的な例に含まれるのは、アクチンプロモータ、ミオシンプロモータ、ヘモグロビンプロモータ、筋肉クレアチンプロモータ)である。さらに、本発明が構成的プロモータの使用に限定されるはずはない。誘導的プロモータも本発明の一部と見なされる。本発明で誘導的プロモータを用いると、そのような発現が望ましいとき、作動可能に連結されているポリヌクレオチド配列の発現をオンにしたり、発現が望ましくないときにその発現をオフにしたりすることのできる分子スイッチが提供される。誘導的プロモータの非限定的な例に含まれるのは、メタロチオネインプロモータ、グルココルチコイドプロモータ、プロゲステロンプロモータ、テトラサイクリンプロモータである。さらに、本発明には、望む組織または細胞の中でだけ活性なプロモータである組織特異的プロモータまたは細胞種特異的プロモータの利用が含まれる。組織特異的プロモータは本分野で周知であり、その非限定的な例に含まれるのは、HER-2プロモータ配列とPSA関連プロモータ配列である。
【0161】
核酸の発現を評価するため、細胞に導入される発現ベクターは、選択マーカー遺伝子とレポータ遺伝子の一方または両方も含有することができる。それは、ウイルスベクターを通じてトランスフェクトまたは感染を実現しようとする細胞の集団から、発現している細胞を同定して選択することが容易になるようにするためである。別の実施態様では、選択マーカーを別の核酸の上に担持させ、同時トランスフェクション手続きで使用することができる。選択マーカー遺伝子とレポータ遺伝子の両方とも、宿主細胞の中で発現させることができるよう適切な調節配列に隣接させることができる。有用な選択マーカーは本分野で知られており、その例に含まれるのは、抗生剤耐性遺伝子(ネオなど)である。
【0162】
レポータ遺伝子は、トランスフェクトされた可能性がある細胞の同定と、調節配列の機能の評価に用いられる。容易に分析できるタンパク質をコードするレポータ遺伝子は本分野で周知である。一般に、レポータ遺伝子は、レシピエントとなる生物または組織の中に存在していないか、レシピエントとなる生物または組織によって発現されず、いくつかの容易に検出可能な特性(例えば酵素活性)によって発現がわかるタンパク質をコードしている遺伝子である。レポータ遺伝子の発現は、DNAがレシピエント細胞の中に導入されてから適切な時間が経過した時点で調べられる。
【0163】
適切なレポータ遺伝子は、ルシフェラーゼ、β-ガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、分泌型アルカリホスファターゼ、緑色蛍光タンパク質遺伝子のいずれかをコードする遺伝子を含むことができる(例えばUi-Tei他、2000年 FEBS Lett. 第479巻:79~82ページを参照されたい)。適切な発現系は周知であり、周知の技術を利用して調製したり、市販のものを入手したりできる。一般に、レポータ遺伝子が最高レベルの発現を示す最小5'隣接領域を有するコンストラクトが、プロモータとして同定される。そのようなプロモータ領域をレポータ遺伝子と連結させて用いることで、プロモータによって駆動される転写の能力に関して薬剤を評価することができる。
【0164】
細胞の中に核酸を導入して発現させる方法は本分野で知られている。発現ベクターの文脈では、ベクターは、本分野の任意の方法によって宿主細胞(例えば哺乳動物の細胞、細菌の細胞、酵母の細胞、昆虫の細胞)の中に容易に導入することができる。例えば発現ベクターは、物理的手段、化学的手段、生物学的手段のいずれかによって宿主細胞の中に移すことができる。
【0165】
ポリヌクレオチドを宿主細胞の中に導入するための物理的方法に含まれるのは、リン酸カルシウム沈降、リポエフェクション、粒子衝撃、微量注入、電気穿孔、レーザー穿孔などである。ベクターおよび/または外来性核酸を含む細胞を作製する方法は本分野で周知である。例えばSambrook他(2012年)、Ausubel他(1999年)を参照されたい。
【0166】
興味ある核酸を宿主細胞の中に導入するための生物学的方法に含まれるのは、DNAベクターまたはRNAベクターの利用である。ウイルスベクター、特にレトロウイルスベクターが、遺伝子を哺乳動物(例えばヒト)の細胞に挿入するために最も広く利用されている方法になっている。他のウイルスベクターは、レンチウイルス、天然痘ウイルス、単純ヘルペスウイルスI、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルスなどから誘導することができる。例えばアメリカ合衆国特許第5,350,674号、第5,585,362号を参照されたい。
【0167】
核酸を宿主細胞に導入するための化学的手段に含まれるのは、コロイド分散系(巨大分子複合体など)、ナノカプセル、マイクロスフェア、ビーズ、脂質に基づく系(水中油型エマルジョン、ミセル、混合ミセル、リポソームが含まれる)である。インビトロと生体内で送達用ビヒクルとして用いるのに好ましいコロイド系は、リポソーム(例えば人工膜小胞体)である。そのような系の調製と利用は本分野で周知である。
【0168】
外来性核酸を宿主細胞に導入したり、細胞を本発明の核酸にそれ以外のやり方で曝露したりするのに用いる方法が何であれ、宿主細胞の中に組み換えDNA配列が存在することを確認するため、多彩なアッセイを実施することができる。そのようなアッセイの例に含まれるのは、当業者に周知の「分子生物学的」アッセイ(サザンブロッティング、ノーザンブロッティング、RT-PCR、PCRなど)と;本発明の範囲に入る薬剤を同定するため、例えば免疫学的手段(ELISAやウエスタンブロット)によって、または本明細書に記載したアッセイによって特定のペプチドの存在または不在を確認する「生化学的」アッセイである。
【0169】
キット
【0170】
本発明には、本発明の1つの抗C5a抗体またはその組み合わせと、使用説明材料が含まれたキットも含まれる。使用説明材料には、本明細書の別の箇所に記載されている治療的処置または治療外利用として例えば個体にその抗C5a抗体またはその組み合わせを投与することが記載されている。一実施態様では、このキットはさらに、本発明の抗C5a抗体またはその組み合わせを含む治療用組成物を溶解または懸濁させるのに適した(場合によっては無菌の)医薬として許容可能な基剤を含んでいて、例えば溶解または懸濁の後に個体にその抗体が投与される。場合によってはこのキットは、その抗体を投与するための投与具を含んでいる。
【実施例0171】
以下の実施例を参照して本発明をこれから説明する。これら実施例は説明を目的として提示されているだけであり、本発明がこれら実施例に限定されると見なしてはならず、むしろ本発明は、本明細書に提示されている教示の結果として明らかになるあらゆるバリエーションを包含すると見なすべきである。
【0172】
詳しくは説明しないが、当業者は、上記の説明と以下の実施例を利用して、本発明の化合物を作製して利用することと、請求項の方法を実施することができる。したがって以下の実施例が本開示の残部を何らかのやり方で制限すると考えてはならない。
【0173】
実施例1
【0174】
補体系は、宿主の防御において重要な役割を果たしている自然免疫の一部である。しかし活性化された補体は組織の顕著な損傷や破壊をもたらす能力も有するため、異常な補体活性は、多数の稀な疾患および一般的な疾患(発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)症候群、非典型溶血性尿毒症症候群、関節リウマチ、敗血症、加齢黄斑変性など)と関係していることが見いだされている。したがって抗補体療法はヒトのこれら障害を治療する1つの有望な方法である。補体C5は、補体活性化の末端経路における極めて重要なタンパク質であり、強力な炎症促進メディエータであるC5aと細胞溶解膜侵襲複合体(MAC)C5b-9を生じさせる前駆タンパク質である。
【0175】
機能を阻止する抗ヒトC5aモノクローナル抗体(7A12)を開発したので本明細書でそれを記述する。このモノクローナル抗体は、C5aが媒介する活性を阻止するが、(溶解アッセイで評価される)MAC活性は阻止しない。
【0176】
この実施例で利用する方法と材料をここに説明する。
【0177】
ウエスタンブロッティング
【0178】
精製したヒトC5タンパク質(1μg)をサンプルバッファーの中で沸騰させ、非還元条件下または還元条件下で6%SDS-PAGEゲルに装填した。タンパク質をPVDF膜にブロットし、それを10μg/mlの一次抗体(モノクローナル抗体7A12または対照抗C5モノクローナル抗体)で1時間プローブした後、HRP抗マウスIgG(1:4000、Bio-Rad社)を用いて検出した。
【0179】
ヒトのC5、C5a、モノクローナル抗体の結合アッセイ
【0180】
ポリスチレン製微量滴定プレートを、精製したヒトC5またはC5a(50 ng/ウエル、Hycult社)を含むPBSで37℃にて1時間被覆した。C5溶液またはC5a溶液を吸引した後、1%BSAを含むPBSを用いてウエルを室温で1時間ブロックした。C5またはC5aの被覆がないウエルをバックグラウンド対照として用いた。異なる濃度の7A12モノクローナル抗体または対照抗C5モノクローナル抗体またはキメラ7A12を含むブロッキング溶液を50μl/ウエルの割合でウエルに添加した。ウエルを室温で1時間インキュベートした後、PBSTで徹底的に洗浄した。抗マウスIgG HRP 1:4000希釈液をブロッキング溶液に添加し、室温で1時間インキュベートすることにより、ヒトC5またはC5aが結合したモノクローナル抗体を検出した。プレートをPBSTで洗浄した後、HRP基質を用いて6~10分間現像した。2NのH2SO4を用いて反応を停止させ、マイクロプレートリーダーの中でプレートを450 nmで読み取った。
【0181】
マウスのC5aとモノクローナル抗体の結合アッセイ
【0182】
ポリスチレン製微量滴定プレートを、精製したマウスC5a(50 ng/ウエル、Hycult社)を含むPBSで37℃にて1時間被覆した。C5a溶液を吸引した後、1%BSAを含むPBSを用いてウエルを室温で1時間ブロックした。C5aの被覆がないウエルをバックグラウンド対照として用いた。異なる濃度の7A12モノクローナル抗体または対照抗C5モノクローナル抗体またはキメラ7A12を含むブロッキング溶液を50μl/ウエルの割合でウエルに添加した。ウエルを室温で1時間インキュベートした後、PBSTで徹底的に洗浄した。抗マウスIgG HRP 1:4000希釈液をブロッキング溶液に添加し、室温(RT)で1時間インキュベートすることにより、マウスC5aが結合したモノクローナル抗体を検出した。プレートをPBSTで洗浄した後、HRP基質を用いて6~10分間現像した。2NのH2SO4を用いて反応を停止させ、マイクロプレートリーダーの中でプレートを450 nmで読み取った。
【0183】
抗ヒトC5aモノクローナル抗体の作製:
【0184】
B10.D2/oSnJ雌(Stock # 000461、Jackson laboratory社)マウスを、アジュバントで乳化した30μgの精製ヒトC5(# A120、Complement Technology, Inc社)で免疫化した。14日目、マウスをアジュバントで乳化した30μgの精製ヒトC5で再度免疫化した。融合前にマウスを33μgの精製ヒトC5で3回追加免疫化した。その後、頸椎脱臼によってマウスを安楽死させ、脾臓を単離して機械的破壊により単一細胞懸濁液を調製した。脾臓細胞懸濁液をハイブリドーマ無血清培地(HYB-SFM)(Invitrogen社)+10%FBS培地で1回洗浄し、細胞をカウントし、X63-Ag8.653骨髄腫細胞(ATCC)と2:1の比で混合した。細胞混合物を再度HYB-SFM培地で洗浄し、遠心分離(1000 rpm×5分間)によって細胞ペレットを調製した。細胞ペレットを軽く撹乱して緩んだ状態にした後、ポリエチレングリコール(PEG 1500)をゆっくりと添加すること(3×108個の細胞に1.5 mlのPEG)によって細胞の融合を誘導した。細胞を37℃で1分間放置した後、20 mlのHYB-SFM培地を3分間かけて細胞に添加した(最初の1分間に1 ml、次の1分間に3 ml、次の1分間に16 ml)。この混合物を1000 rpmで5分間遠心分離し、細胞を24ウエルのプレートのHAT培地(10 mlのHAT[Sigma H0262]、5 mlのペニシリン/ストレプトマイシン、500μlのゲンタマイシン、10%FBSを含む500 mlのHYB-SFM培地)の中に入れた。2週間後、コロニーを視認できるウエルから上清を取り出し、精製ヒトC5との反応性をELISAによってスクリーニングした。陽性クローンを取り出し、限界希釈法によって96ウエルのプレートに入れ、ELISAによる2回目のスクリーニングの後に単独のクローンを取得した。陽性クローンをHT培地(10 mlのHT、5 mlのペニシリン/ストレプトマイシン、500μlのゲンタマイシン、10%FBSを含む500 mlのHYB-SFM培地)の中で増幅した。抗体を回収する前にハイブリドーマ細胞を2~3日の間、無血清培地(HYB-SFM)に切り換えた。細胞培地を回収してプロテインGアフィニティクロマトグラフィによってモノクローナル抗体の純度を調べた。
【0185】
モノクローナル抗体のクローニング:
【0186】
7A12のcDNAをクローニングするため、TRizol試薬(Sigma社)によって全RNAをハイブリドーマ細胞から単離した。Oligo(dT)プライマーを用いた逆転写によってcDNAの第1の鎖を合成した。(IgG1、IgG2a/bのための)重鎖cDNAを増幅するため、PCR反応では以下のプライマー、すなわち5'- GAGGTGAAGCTGGTGGAG(T/A)C(T/A)GG-3'(配列番号11)と、5'- GGGGCCAGTGGATAGAC-3'(配列番号12)を使用した。k軽鎖を増幅するため、以下の4つの上流プライマー、すなわち5'-CCAGTTCCGAGCTCCAGATGACCC
AGACTCCA-3'(配列番号70);5'-CCAGTTCCGAGCTCGTGCTCACCCAGTCTCCA-3'(配列番号71);5'- CCAGTTCCGAGCTCCAGATGACCCAGTCTCCA-3'(配列番号72); 5'-CCAGTTCCGAGCTCGTGATGACACAGTCTCCA-3'(配列番号13)と、下流プライマー、すなわち5'- GTTGGTGCAGCATCAGC-3'(配列番号14)の混合物を使用した。PCRアンプリコンをpCR TOPO TA 2.1ベクター(Invitrogen社)に入れてクローニングした後、シークエンシングした。モノクローナル抗体のシグナルペプチド(リーダー)配列を得るため、Invitrogen社からのキット(GebeRacer)で5'-RACE法を利用した。5'-RACEから求めた特別なプライマーと初期シークエンシングデータを用いて完全な可変領域cDNAを増幅した。
【0187】
溶血アッセイ
【0188】
抗体で感作したヒツジRBC(1×107細胞、Complement Technology, Inc.社)をゼラチンベロナールバッファー(GVB2+、Sigma社)の中で50%NHS(Complement Technology, Inc.社)とともに37℃で20分間インキュベートした。ヒツジRBCに添加する前にNHSを7A12モノクローナル抗体または対照抗C5モノクローナル抗体とともに4℃で1時間インキュベートした。氷で冷やした40 mMのEDTAを含むPBSを添加して溶解反応を停止させた。インキュベーション混合物を1500 rpmで5分間遠心分離し、上清を回収してOD 405 nmを測定した。NHSなしのサンプル、またはEDTAを添加したサンプルを陰性溶解対照として使用し、蒸留水で完全に溶解させたヒツジRBCのサンプルを陽性対照(100%溶解)として使用し、他のサンプルでの溶解率(%)はこの陽性対照に規格化した。
【0189】
Transwell移行アッセイ
【0190】
C5a受容体が安定にトランスフェクトされたU937細胞(U937-C5aR細胞)を、孔径3.0μmのポリカーボネート膜フィルタ(Corning社)を有する24ウエルTranswellインサートの上方の部屋に播種した(1×106細胞/ウエル、走化性アッセイ用バッファーに含まれた状態)。下方のBoyden部屋には、抗体(1μg/mlまたは10μg/ml)を用いてあらかじめ処理した10 nMの組み換えヒト補体C5aを含む走化性アッセイ用バッファーを収容した。37℃で3時間インキュベートした後、下方の部屋に移行した細胞を回収し、Coulterカウンタ(Beckman Coulter社)を用いてカウントした。(走化性アッセイ用バッファー:0.5%BSAを含むRPMI 1640培地)。
【0191】
カルシウム動員アッセイ
【0192】
1 mg/mlのBSAを含有するカルシウム動員アッセイ用HEPESバッファー(25 mM HEPES、119 mM NaCl、5 mM KCl、5.6 mMグルコース、0.4 mM MgCl2、1 mM CaCl2)で1×107個の細胞を2回洗浄した後、1μMのヨード-1 アセトキシメチルエステル(Anaspec, Inc社、フレモント、カリフォルニア州、アメリカ合衆国)とともにインキュベートした。その後、細胞を2回洗浄し、1.3 mlの同じバッファーの中に再懸濁させた。ヒトC5aと抗体を混合し、室温で10分間かけて最終濃度をそれぞれ10 nMと50μg/mlにした。最後に、Infinite F200マルチモードマイクロプレートリーダー(Tecan Systems Inc社、サンノゼ、カリフォルニア州、アメリカ合衆国)を励起波長360 nmと発光波長415 nmで用いて細胞間Ca2+測定を実施した。測定の開始後300秒の時点で混合物を添加した。
【0193】
この実施例の結果をこれから説明する。
【0194】
図1に示されているように、7A12はヒトC5に結合することが示された。インタクトなヒトC5に対する7A12と対照C5モノクローナル抗体2G1の反応性をELISAによって評価した結果が図1に示されている。ELISAプレートを精製したヒトC5で被覆した。段階希釈した7A12または対照C5モノクローナル抗体とともにインキュベートした後、結合したモノクローナル抗体をHRP結合ウサギ抗マウスIgGによって検出した。7A12と対照C5モノクローナル抗体の両方が、ヒトC5との大きな反応性を示した。ウエスタンブロッティングによると、モノクローナル抗体7A12と対照C5モノクローナル抗体は、図1Bに示されているように、それぞれ非還元条件下と還元条件下で精製したヒトC5タンパク質を認識した。観察された7A12反応性の190 kDaのバンドはC5タンパク質全体を表わしているのに対し、115 kDaのバンドはC5のα鎖を表わしている。
【0195】
図2に示されているように、7A12は、赤血球細胞(RBC)の溶解を抑制する対照C5モノクローナル抗体2G1とは異なり、溶血アッセイで活性を有することが明らかにされた。抗体で感作したヒツジRBCを、7A12または対照抗C5モノクローナル抗体の段階希釈物を含有する正常なヒト血清(NHS)とともに37℃で1時間インキュベートした。OD 405 nmでの吸光度を測定することによってRBCの溶解を調べた。予想通り、対照抗C5モノクローナル抗体は、50%NHS媒介ヒツジ赤血球溶解を用量に依存して抑制した。それに対してモノクローナル抗体7A12は、0.975~120μg/mlの用量で50%NHS媒介ヒツジ赤血球溶解をまったく示さなかった。
【0196】
7A12は、C5aに結合しない対照C5モノクローナル抗体2G1とは異なり、ヒトC5aに結合することが示された。ELISAプレートをヒトC5aまたはマウスC5aで被覆した。段階希釈した7A12または対照C5モノクローナル抗体とともにインキュベートした後、結合したモノクローナル抗体をHRP結合抗マウスIgGによって検出した。図3Aは、モノクローナル抗体7A12がヒトC5aとの大きな反応性を示したことを明らかにしている。(図1に示されているように)モノクローナル抗体7A12はC5タンパク質全体と反応するため、モノクローナル抗体7A12は天然状態のヒトC5のC5a部分と遊離したヒトC5aの両方に結合すると結論することができる。その一方で、図3Bに示されているように、ヒトC5aへの対照C5モノクローナル抗体の結合はまったく見られない。C5aへのモノクローナル抗体7A12の結合はヒトC5aに特異的であり、マウスC5aにはほとんど結合しないことが見いだされた。
【0197】
ヒトC5とヒトC5aへのモノクローナル抗体7A12の結合親和性。精製したヒトC5またはヒトC5aを、アミンカップリング法を利用してCM4チップの表面にカップルさせた。Biacore-2000装置でBiacore分析を実施した。各結合操作の間に50 mMのNaOHを用いてチップを再生させた。モノクローナル抗体7A12は、図4Aに示されているようにヒトC5に結合するとともに、図4Bに示されているようにヒトCa5に結合し、同じような親和性である。
【0198】
図5に示されている結果は、対照C5モノクローナル抗体ではなくてモノクローナル抗体7A12が、C5aが媒介する好中球の移行を抑制することを明らかにしている。10 nMのヒトC5aを用い、ヒトC5a受容体をトランスフェクトしたヒト単一細胞系U937の走化性を誘導した。細胞を、モノクローナル抗体7A12または対照C5モノクローナル抗体の存在下でTranswellの上方の部屋に配置した後、下方の部屋の中の細胞をカウントすることによって細胞の移行を定量した。モノクローナル抗体7A12は、C5aによって誘導される走化性を10μg/mlで完全に抑制することが示されたのに対し、対照C5モノクローナル抗体は、C5aによって誘導される走化性を阻止するのに失敗した。
【0199】
図6に示されている結果は、対照C5モノクローナル抗体ではなくてモノクローナル抗体7A12が、U937細胞でC5aによって誘導される細胞間カルシウム動員を抑制することを明らかにしている。図6Aに示されているように、ヒトC5a受容体を発現しているU937細胞(U937-C5aR)では、ヒトC5aの刺激がないとカルシウム動員は起こらなかった。C5aで処理すると、図6Bに示されているように一過性のカルシウム流入が起こり、それは、図6Cに示されているように、モノクローナル抗体7A12(50μg/ml)とともにあらかじめインキュベートすることによって抑制できたが、図6Dに示されているように、対照C5モノクローナル抗体(50μg/ml)とともにあらかじめインキュベートしても抑制できなかった。矢印は、C5aと抗体の混合物を細胞懸濁液に添加した時点を指す。
【0200】
本明細書で引用したあらゆる特許、特許出願、刊行物の開示内容は、その全体が参照によって本明細書に組み込まれている。
【0201】
本発明を具体的な実施態様を参照して開示してきたが、当業者は、本発明の真の精神と範囲を逸脱することなく、本発明の他の実施態様とバリエーションを考案することができる。添付の請求項は、そのような実施態様と、それと同等なバリエーションのすべてを含むと考えられることが想定されている。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
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【手続補正書】
【提出日】2022-10-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】変更
【補正の内容】
【配列表】
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【外国語明細書】