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特開2022-183311性ステロイド前駆体とSERMとの併用による男性アンドロゲン欠乏症状又は疾患の治療
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022183311
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】性ステロイド前駆体とSERMとの併用による男性アンドロゲン欠乏症状又は疾患の治療
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/453 20060101AFI20221201BHJP
   A61K 31/5685 20060101ALI20221201BHJP
   A61P 5/26 20060101ALI20221201BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20221201BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20221201BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20221201BHJP
   A61P 7/06 20060101ALI20221201BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20221201BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20221201BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20221201BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20221201BHJP
   A61P 19/08 20060101ALI20221201BHJP
   A61P 19/10 20060101ALI20221201BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20221201BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20221201BHJP
   A61P 25/20 20060101ALI20221201BHJP
   A61P 25/24 20060101ALI20221201BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20221201BHJP
   A61P 17/14 20060101ALI20221201BHJP
   A61P 15/08 20060101ALI20221201BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20221201BHJP
   A61K 38/24 20060101ALI20221201BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20221201BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20221201BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20221201BHJP
   A61K 9/02 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
A61K31/453
A61K31/5685
A61P5/26
A61P3/04
A61P3/06
A61P3/10
A61P7/06
A61P9/00
A61P9/10 101
A61P15/00
A61P17/00
A61P19/08
A61P19/10
A61P21/00
A61P25/00
A61P25/20
A61P25/24
A61P25/28
A61P17/14
A61P15/08
A61P35/00
A61K38/24
A61K9/06
A61K9/20
A61K9/48
A61K9/02
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022167733
(22)【出願日】2022-10-19
(62)【分割の表示】P 2020133067の分割
【原出願日】2015-03-09
(31)【優先権主張番号】61/950,644
(32)【優先日】2014-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】14/638,763
(32)【優先日】2015-03-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】511305645
【氏名又は名称】アンドルシェルシュ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】フェルナンド・ラブリ
(72)【発明者】
【氏名】シルヴァン・ゴーティエ
(57)【要約】
【課題】低テストステロン及び/又は低末梢アンドロゲン形成による男性性腺機能低下症関連症状及び疾患を含む男性アンドロゲン欠乏症状又は疾患の発生を予防する、低減させる又は消失させる方法を提供すること。
【解決手段】男性性腺機能低下症関連症状及び疾患を含む男性アンドロゲン欠乏症状又は疾患の発生を予防する、低減させる又は消失させる方法であって、前記予防、低減又は消失を必要とする男性患者に、治療有効量の性ステロイド前駆体又はそのプロドラッグを、治療有効量の選択的エストロゲン受容体調節薬若しくは抗エストロゲン薬又はいずれかのプロドラッグと関連させて投与することを含む、方法により、上記課題を解決する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
男性患者において男性性腺機能低下症関連症状及び疾患を含む男性アンドロゲン欠乏症状又は疾患の発生を予防、減少又は除去するための医薬の製造における、性ステロイド前駆体の、選択的エストロゲン受容体調節薬と関連させた使用であって、前記選択的エストロゲン受容体調節薬が、循環テストステロンのレベルを上昇させるLH分泌を刺激し、前記性ステロイド前駆体が、デヒドロエピアンドロステロンであり、前記選択的エストロゲン受容体調節薬が、アコルビフェン又はEM-800であり、前記症状又は疾患が、低テストステロン、低DHEA又は両方と関連する、使用。
【請求項2】
前記症状又は疾患が、低テストステロンと関連する、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記症状又は疾患が、性欲喪失、勃起不全、疲労感、エネルギーの喪失、うつ状態、骨量減少、筋肉減少、筋力低下、脂肪蓄積、記憶喪失、認知喪失、アルツハイマー病、認知症、体毛減少、妊孕性の問題、不眠症、女性化乳房症、貧血、一過性熱感、発汗、ウェルビーイング感覚の低下、肥満、骨粗鬆症、高コレステロール血症、高脂質血症、アテローム動脈硬化症、高血圧症、インスリン抵抗性、心血管疾患及び2型糖尿病を含む群から選択される、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
前記選択的エストロゲン受容体調節薬が、アコルビフェン
【化1】
であり、炭素2に絶対配置Sを有する光学活性化合物である、請求項1に記載の使用。
【請求項5】
前記選択的エストロゲン受容体調節薬が、アコルビフェン
【化2】
であり、炭素2に絶対配置Sを有する光学活性化合物であり、前記性ステロイド前駆体が、デヒドロエピアンドロステロンである、請求項1に記載の使用。
【請求項6】
前記選択的エストロゲン受容体調節薬が、乳房、子宮又は子宮内膜組織におけるエストロゲン活性を有さない、請求項1に記載の使用。
【請求項7】
前記男性患者が乳がんを獲得するリスクを低減させる、請求項1に記載の使用。
【請求項8】
併用療法の一部として、治療有効量のヒト絨毛性性腺刺激ホルモンが更に投与される、請求項1に記載の使用。
【請求項9】
前記選択的エストロゲン受容体調節薬及び/又は性ステロイド前駆体が直腸に投与される、請求項1に記載の使用。
【請求項10】
前記選択的エストロゲン受容体調節薬及び/又は性ステロイド前駆体が経口的に投与される、請求項1に記載の使用。
【請求項11】
前記選択的エストロゲン受容体調節薬及び/又は性ステロイド前駆体が経皮的に投与される、請求項1に記載の使用。
【請求項12】
男性患者において男性性腺機能低下症関連症状及び疾患を含む男性アンドロゲン欠乏症状又は疾患の発生を予防、減少又は除去するための医薬組成物であって、
a)医薬として許容される賦形剤、希釈剤又は担体と、
b)性ステロイド前駆体であるデヒドロエピアンドロステロンと、
c)選択的エストロゲン受容体調節薬であるアコルビフェン又はEM-800と
を含み、少なくとも1つの男性アンドロゲン欠乏症状又は疾患の予防、減少又は除去のための前記組成物の使用を指示する包装で提供される、医薬組成物。
【請求項13】
性ステロイド前駆体と選択的エストロゲン受容体調節薬との両方が、丸剤、錠剤、カプセル剤、クリーム剤、ゲル剤、肛門坐剤及び注射剤を含む群から選択される医薬送達形態で一緒に配合されている、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記選択的エストロゲン受容体調節薬が、アコルビフェン
【化3】
であり、炭素2に絶対配置Sを有する光学活性化合物であり、前記性ステロイド前駆体が、デヒドロエピアンドロステロンである、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項15】
男性患者において男性性腺機能低下症関連症状及び疾患を含む男性アンドロゲン欠乏症状又は疾患の発生を予防、減少又は除去するためのキットであって、(i)性ステロイド前駆体であるデヒドロエピアンドロステロンを内部に含む第1の容器と、(ii)選択的エストロゲン受容体調節薬であるアコルビフェン又はEM-800を内部に含む第2の容器と、(iii)少なくとも1つの男性アンドロゲン欠乏症状又は疾患の予防、減少又は除去のために前記キットを使用するための説明書とを含む、キット。
【請求項16】
前記選択的エストロゲン受容体調節薬が、アコルビフェン
【化4】
であり、炭素2に絶対配置Sを有する光学活性化合物であり、前記性ステロイド前駆体が、デヒドロエピアンドロステロンである、請求項15に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、古典的に男性性機能低下症に起因するとされてきた1つ又は複数の症状を伴う低総アンドロゲン又は低テストステロンの新規治療に関する。
【背景技術】
【0002】
65才より高齢の個体の数は、1990年代と比較して10倍を超えて増加している(Shigehara及びNamiki 2011)。老化の過程において、低テストステロンは、ウェルビーイング感覚の低下、うつ状態、性欲減退及び勃起不全の増加を伴うことが多い(Lunenfeld及びNieschlag 2007)。老化と関連する血清テストステロンレベルの低下は、遅発性性腺機能低下症(LOH)と称されている(Wang、Nieschlagら 2009b)。男性性腺機能低下症の診断には通常、2.0未満~3.5ng/mLと報告される低血清テストステロンに加えて、総体症状が組み合わされていた。
【0003】
そのレベル未満ではアンドロゲン欠乏症の症状及び有害な健康転帰が出現する、正確なテストステロン閾値レベルは、知られておらず、年齢に依存する可能性がある(Kelleher、Conwayら 2004; Zitzmann、Faberら 2006; Hall、Escheら 2008)。
【0004】
3.0ng/mLのテストステロン閾値において、症状はこの値未満でより多く出現する(Kelleher、Conwayら 2004; Zitzmann、Faberら 2006; Bhasin、Cunninghamら 2010)。米国内分泌学会(US Endocrine Society)のガイドラインは、LOHを、血清テストステロン2.0ng/mL未満が古典的な性腺機能低下症の1つ又は複数の兆候及び症状と共に認められることと定義している(Bhasin、Cunninghamら 2006)。米国アンドロロジー学会(American Society of Andrology)は、症状を示す男性においては3.0ng/mL未満を推奨している(American Society of Andrology 2006)。他方、International Society for the Study of the Aging Male (ISSAM)によれば、症状を示す高齢男性は、テストステロン3.50ng/mL未満を性腺機能低下とみなすべきである(Wang、Nieschlagら 2009a)。
【0005】
同時に、その濃度未満ではテストステロン投与が転帰を改善するテストステロン濃度は不明であり、個体及び標的臓器により異なり得る。したがって、入手可能な証拠は、全ての患者において性腺機能低下症の診断を確定する、そのレベル未満では臨床的なアンドロゲン欠乏が起こるテストステロンレベルの任意の閾値の使用を裏付けていない(Bhasin、Cunninghamら 2006)。
【0006】
低い身体的活力と低い血清テストステロンとの相関は、再三にわたり低かった(Xu、Gourasら 1998; Travison、Morleyら 2006)。また、前述の通り、異なるアンドロゲン依存性標的には異なる閾値が存在する可能性がかなり高い(Bhasin、Woodhouseら 2005; Gray、Singhら 2005; Zitzmann、Faberら 2006; Shigehara及びNamiki 2011)。
【0007】
本発明のベースとなる新規な成分は、低血清デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)に由来する低いアンドロゲン細胞内分泌末梢形成を、単独で又は性腺機能低下症に起因するのと同様な総体症状と組み合わせて、更に検討すべきであることである。したがって、DHEA由来のアンドロゲン代謝産物、とりわけ、アンドロステロングルクロニド(ADT-G)を、記載されたようにして測定することができる(Labrie、Belangerら 2006)。デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)及びアンドロゲン代謝産物グルクロニド、即ち、ADT-G(総アンドロゲン作用の推定値)並びに他のアンドロゲン及び代謝産物の正常値は、(Labrie、Cusanら 2009; Labrie 2010b; Ohlsson、Labrieら 2010; Labrie 2011; O'Connor、Leeら 2011)に見ることができる。テストステロン値が正常である場合、2.0ng/mL未満の血清DHEA値を単独で低いとみなすことができるが、血清テストステロンの濃度も考慮に入れなければならず、低アンドロゲン代謝産物に反映される低総アンドロゲンをもたらす低テストステロン及び/又は低DHEAの組合せによって、低総アンドロゲンの症状が生じる。25ng/mL未満の血清ADT-Gは、低い総アンドロゲン低下作用(hypoandrogenecity)のパラメーターと考えることができる(Labrie、Diamondら1997b)。
【0008】
男性性腺機能低下症は、精子形成不全又は精巣のテストステロン分泌不全を示し得る。本発明に関与するのは、この第2の部分である[より詳細については、(Corona、Rastrelliら 2012)を参照のこと]。
【0009】
典型的には、加齢男性において見られる遅発性性腺機能低下症(LOH)は、低血清テストステロンとアンドロゲン低下作用の1つ又は複数の症状を併せ持つ。しかし、総アンドロゲンの50%までがDHEAに由来するので、低DHEAは、低テストステロンと同程度に性腺機能低下症の徴候及び症状の原因となり得る。
【0010】
このため、性腺機能低下症及び/又は低末梢アンドロゲン形成の徴候及び症状は、治療法にふさわしい状態であり得る。遊離テストステロンは、Vermeulenの式(www.issam.ch/freetesto.htm)に従って求めることもできるが、通常それほど得るところがない。
【0011】
テストステロンに加えて、精巣は、アロマターゼの作用によって、エストロゲンであるエストロン及びエストラジオールを分泌する(図1)。下垂体前葉による黄体形成ホルモン(LH)の分泌は、視床下部からのGnRH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)の拍動性分泌によって刺激されるが、テストステロンとエストラジオールはいずれも、LH分泌に関して視床下部-下垂体レベルで、全体的な阻害効果を及ぼす(Corona、Rastrelliら 2012)。LHは次に、精巣におけるライディッヒ細胞によるテストステロン分泌を刺激する(図1)。
【0012】
米国内分泌学会のガイドラインは、「一貫した症状及び徴候並びに明白に低い血清テストステロンレベル」を有する男性においてのみテストステロン治療を推奨している。しかし、テストステロン補充療法を受けている男性の半分しか、男性性腺機能低下症と診断されていなかったことがわかっている。実際に、34%は疲労の、31%は勃起不全の、12%は心理的性機能障害の治療を受けていた。(Baillargeon、Urbanら 2013)。
【0013】
前述の通り、男性における総アンドロゲンの50%までが、末梢組織で局所的にDHEAから産生されるが、DHEAは年齢75才以上男性において加齢に伴って平均80%も減少し(Labrie、Belangerら 1997b)、したがって、低DHEAが、これまで男性性腺機能低下症に起因するとされてきた症状及び徴候を説明するために低血清テストステロンと比較して少なくとも等しい役割を有する理由となる(Labrie、Belangerら 1997a)ことを考慮しなければならない。
【0014】
内分泌学会は、テストステロン療法、即ち、アンドロゲン欠乏症候群の男性におけるテストステロン療法(Testosterone Therapy in Men with Androgen Deficiency Syndrome)に対する臨床診療ガイドライン(Clinical Practice Guideline)をwww.endocrine.org.に有する(2006年;2010年改訂)。これは、前立腺特異抗原(Prostate Specific Antigen)除外基準及びPSA追跡調査ガイダンスに関する改訂された推奨基準を含む。
【0015】
低テストステロンは、以下の徴候又は症状の任意の1つ又は組合せを伴い得る:
- 性欲(性に対する関心)喪失
- 勃起困難(勃起不全)
- 疲労感及びエネルギーの欠如(エネルギーの喪失、エネルギー喪失)
- うつ状態
- 骨量減少(骨密度の低下及び骨折リスクの増加)
- 筋肉減少及び筋力低下
- 体毛減少
- 妊孕性の問題
【0016】
更なる利益、例えば、以下の医学的問題、即ち、高コレステロール血症、高脂質血症、アテローム動脈硬化症、高血圧症、アルツハイマー病、記憶喪失、認知喪失、認知症、不眠症、心血管疾患、インスリン抵抗性、2型糖尿病及び肥満(とりわけ、腹部肥満)の治療又はそれらを獲得する尤度若しくはリスクの低下(Comhaire 2000; Ding、Songら 2006; Khaw、Dowsettら 2007; Bassil、Alkaadeら 2009; Zitzmann 2009)もまた、本発明による治療によって提供される。
【0017】
男性における低血清テストステロンは、筋肉量の減少、筋力の低下及び運動能(mobility)の低下と関連する(Roy、Blackmanら 2002; Schaap、Pluijmら 2005)。健常な老年男性におけるテストステロン補充は、筋肉量及び筋力並びに脚力を増加させ、これらは運動能の重要な因子である(Bhasin、Storerら 1996; Sih、Morleyら 1997; Snyder、Peacheyら 1999; Storer、Maglianoら 2003; Bhasin、Woodhouseら 2005; Page、Amoryら 2005)。
【0018】
加齢男性におけるアンドロゲン欠乏の症状/徴候は、内分泌学会の臨床診療ガイドラインに述べられた通りであり得る(Bhasin、Cunninghamら 2006)。
【0019】
【表1】
【0020】
加齢自体が、男性における性的機能の低下と関連する(Vermeulen 2003; Ebert、Jockenhovelら 2005)。
【0021】
男性性腺機能低下症の診断には、ANDROTESTが役立ち得る(Corona、Janniniら 2006; Corona、Mannucciら 2006)。鑑別診断には、(Corona、Rastrelliら 2012)によって提供された情報が役立ち得る。LOHはまた、3.2ng/mL未満の総テストステロンレベルと関連する少なくとも3つの性的症状の存在によって定義されている(Wu、Tajarら 2010)。年齢40~79才の男性3369名の無作為集団試料で行われたその研究において、血清テストステロンに関して、症状のない男性と症状のある男性の差は、軽微であった。上記で示した通り、考えられる1つの説明は、血清テストステロンがアンドロゲン活性の唯一の供給源ではなく、アンドロゲン活性は前述の通り50%までがDHEA由来アンドロゲンに由来するという説明であり得る(Labrie、Dupontら 1985; Labrie 2011)。
【0022】
男性の性的行動におけるテストステロンの生理的役割は、十分に理解されていない。男性の性的行動と血清テストステロンの濃度を相関させようと企てる多くの研究は、矛盾する結果を示している。血清テストステロンレベルと勃起不全との間には幅広いずれがある(Salmimies、Kockottら 1982; Gooren 1987; Bhasin、Cunninghamら 2006; Traish、Guayら 2009)。しかし、低血清テストステロンは依然として、男性の性障害の評価において標準的な臨床診療となっている。
【0023】
全体的な臨床像の臨床評価が主として重要であるが、遅発性男性性腺機能低下症の診断には、質問表が役立ち得る。使用できる手段は、これらに限定するものではないが、Androgen Deficiency in Aging Males(ADAM)(Morley、Charltonら2000)、Aging Males Symptoms(AMS)Rating Scale(Moore、Hueblerら2004)及びMassachusetts Male Ageing Study(MMAS)Questionnaire(Smith、Feldmanら2000)である。診断には、Brief Sexual Function Inventory(BSFI)が役立ち得る(O'Leary、Fowlerら 1995)。この手段は、性的衝動(2項目)、勃起(3項目)、射精(2項目)、各領域における問題の認識(3項目)及び全体的満足感(1項目)を網羅する。
【0024】
男性性腺機能低下症の治療のための治療薬が新たに出現している[以下の2つ最近の総説を参照のこと:(Corona、Rastrelliら 2012; Kim、Crosnoeら 2013)]。既存の外来性テストステロン治療に加えて、選択的エストロゲン受容体調節薬(SERM)による臨床データが入手可能である。SERMは、視床下部及び下垂体において、エストラジオールと競合してエストロゲン受容体と結合する。視床下部におけるエストラジオールの阻害作用を中和すると、精巣によるテストステロン産生を増加させるLH分泌を促進するGnRH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)の分泌が増加する。クエン酸クロミフェンを用いたいくつかの研究が行われている。クエン酸クロミフェンは、テストステロンゲルの使用と同様に、血液中の血清テストステロンレベルを増加させる(Taylor及びLevine 2010)。クエン酸クロミフェンは、性腺機能低下症男性における性的機能を改善する(Guay、Jacobsonら 2003)。クエン酸クロミフェンは、性腺機能低下症男性においてテストステロン-エストラジオール比を改善する(Shabsigh、Kangら 2005)。クエン酸クロミフェンは、若い性腺機能低下症男性において、循環テストステロンを増加させ、いくつかの性腺機能低下症関連症状(性欲減退、エネルギーの欠如)を改善する(Katz、Nabulsiら 2011)。
【0025】
エンクロミフェン(Androxal; Repros社)は、男性性腺機能低下症及び不妊症を対象として開発中である。特許文献もまた、SERM又は抗エストロゲン薬が男性性腺機能低下症を含む男性アンドロゲン欠乏症に(US2006/0293294、US2009/0215733、WO01/91744、WO03/072092、WO2006/024689及びWO2013/123218)、及び他の活性薬剤との併用で有用であり得ることを示している(US2007/0078091及びWO2013/130832)。他のクラスの化合物、即ち、性腺刺激ホルモン、5α-レダクターゼ阻害薬、テストステロン前駆体、芳香族化可能でないアンドロゲン、アロマターゼ阻害薬、選択的エストロゲン受容体βアゴニスト及び選択的アンドロゲン受容体調節薬(SARM)が、男性性腺機能低下症を治療することが示唆されている。性腺刺激ホルモン療法は、依然として、続発性性腺機能低下症を有する男性における不妊症に対して有効な数少ない治療の1つである(Liu、Bakerら 2009; Farhat、Al-zidjaliら 2010)。ヒト絨毛性性腺刺激ホルモンは、テストステロンのライディッヒ細胞産生を刺激するLH類似体であり、尿及び組換え供給源から得ることができる。
【0026】
特に、治療は、性ステロイドの前駆体を細胞特異的な選択的エストロゲン受容体調節薬(SERM)、特にアコルビフェンと組み合わせて投与することを含む。
【0027】
本発明はまた、前述の組合せを実施するためのキット及び医薬組成物を提供する。
【0028】
多数の疾患、状態及び望ましくない症状が、外来性性ステロイド又はその前駆体の投与に良好に応答することが知られている。例えば、エストロゲンが、骨量減少の速度を減少させると考えられているのに対し、アンドロゲンは、骨形成を刺激することによって骨量を増大することが示されている。
【0029】
性腺機能低下症男性における長期のテストステロン治療は、メタボリックシンドロームの成分を改善する。これは、総コレステロール、低密度リポタンパク質コレステロール、トリグリセリド(tryglyceride)を低下させ、HDLコレステロールレベルを上昇させた。これはまた、血中グルコースレベルを低下させた(Traish、Haiderら 2013)。
【0030】
2年間にわたるジヒドロテストステロン(DHT)による治療は、前立腺体積に対して効果がなかったが、おそらくLH分泌の阻害により、体脂肪量を減少させ、除脂肪量を増加させ、血清テストステロンを抑制し、脊椎骨密度を減少させた。多くの他の研究は、アンドロゲン補充療法が有益であり、前立腺体積又は泌尿器症状を有意に変化させないことを示している(Sih、Morleyら 1997; Kenny、Prestwoodら 2001; Marks、Mazerら 2006; Saad、Goorenら 2008; Takao、Tsujimuraら 2009)。経口テストステロンウンデカン酸エステルを用いた10年間の研究において、前立腺サイズの増加も、がんの証拠も認められなかった(Gooren 1994)。
【0031】
性腺機能低下症男性において、下部尿路症状の改善さえも観察された(Pechersky、Mazurovら 2002)。総説については、(Amano、Imaoら 2010; Shigehara及びNamiki 2011)を参照のこと。40~160mg/日の用量での8カ月間にわたる経口テストステロンウンデカン酸エステルの補充(replacement)により、前立腺サイズも変化せず、排尿症状の悪化も示されなかった(Franchi F、Luisi Mら 1978)。100mgエナント酸テストステロンを同様に3カ月にわたって毎週注射する研究では、前立腺体積も排尿後残尿量も変化しなかった(Tenover 1992)。
【0032】
別の研究において、8カ月間にわたるアンドロゲン補充療法により、前立腺体積が18%増加したが、尿流測定データの変化は認められなかった(Holmang、Marinら 1993)。別の研究において、前立腺体積の差は観察されなかった(Behre、Bohmeyerら1994)。
【0033】
性欲減退及び勃起不全は、男性における性腺機能低下症の最も顕著な(proeminent)症状であると考えられる(Harman、Metterら 2001; Matsumoto 2002)。Massachusetts Male Aging Studyにおいて、完全な勃起不全の有病率が、年齢40才と70才の間で5%から15%まで3倍に増加した(Morley 2003)。
【0034】
他方、European Male Aging Study(EMAS)では、低血清テストステロンと不十分な起床時勃起、低い性欲及び勃起不全の症状との間に相関が認められ(テストステロン範囲2.3~3.7ng/mL)、これが、前記3つの症状を有し且つ血清テストステロンが3.2ng/mL未満又は11ナノモル/リットル未満であるという、男性におけるLOH(遅発性性腺機能低下症)の定義につながった(Wu、Tajarら 2010)。テストステロンは、性腺刺激ホルモンの分泌、性的成熟期における男性化、精子産生の誘発及び維持並びに性欲及び性的機能を制御する。
【0035】
アンドロゲンに由来するエストロゲン及びアントロゲン自体はいずれも、GnRH/LH分泌に対して全体的な負の効果を及ぼす(図1)。エストラジオールは、血液中でははるかに低濃度であるが、GnRH/LH分泌の効率的な阻害薬である。
【0036】
血清テストステロンレベルは、概日リズム及び概年リズム、脈状分泌及び測定変動の結果として、著しく変動する。テストステロン濃度は、疾病及び特定の治療薬(例えば、アヘン製剤及びグルココルチコイド)によって影響を受ける可能性がある。
【0037】
慢性状態及び運動能の限界がある65才を超える男性において行われたTOM試験では、テストステロンゲル群ではプラセボ群と比べて、2倍の有害事象(AE)が報告された(Basaria、Covielloら 2010)。慢性疾患、即ち、高血圧症、高脂質血症、糖尿病及び肥満症の有病率が高い、血清テストステロン1.0~3.5ng/mLの男性209名からなるその比較的小さい群(運動能力の限界がある老年男性におけるテストステロン、TOM)では、テストステロンゲル群における心血管事象の発生率がより高いため、試験が中止された。テストステロン治療群では、プラセボ群と比較して、レッグプレス及びチェストプレスの強度並び荷物を運びながらの階段昇降において大きい改善が認められた(Basaria、Covielloら 2010)。心血管AEのリスクは、テストステロン治療男性の方が大きかった。
【0038】
テストステロン補充療法はまた、精子数の減少及び精巣サイズの減少による副作用として不妊症と関連する。
【0039】
テストステロン注射剤は、毎週、隔週又は長期の投薬レジメンに比べて、低コストという点では有利であるが、非生理的なピーク及びトラフレベルという点で不利である。
【0040】
血清テストステロン3.0ng/mL未満の復員軍人援護局(Veteran Administration)患者8709名からなる群において、コロノグラフィー(coronography)の中央値531日後に、それらのうちの1223名がテストステロン療法を開始した(Vigen、O'Donnellら 2013)。その後向き観察研究において、3年目の死亡率は、対照群及びテストステロン群においてそれぞれ15.4%対18.5%であった。前述の通り、「この示差的な根拠は、テストステロン処方を警告する....。」(Cappola 2013)。
【0041】
しかし、TOM試験以外のテストステロン療法試験のメタ分析は、有害な心血管事象を示さなかった(Calof、Singhら 2005; Haddad、Kennedyら 2007; Fernandez-Balsells、Muradら 2010)。
【0042】
テストステロン補充療法は、性的機能及び気分の向上と関連していた(Seftel、Mackら 2004; Wang、Cunninghamら 2004)。
【0043】
性的機能の改善(Wang、Swerdloffら 2000; Isidori、Giannettaら 2005; Bolona、Uragaら 2007)に加えて、アンドロゲン欠乏症の症状がある男性へのテストステロンの投与は、骨密度を増加させ(Snyder、Peacheyら 2000; Isidori、Giannettaら 2005)、除脂肪量を増加させ(Isidori、Caprioら 1999; Snyder、Peacheyら 2000; Isidori、Giannettaら 2005)、筋力(strength)を増加させ(Sih、Morleyら 1997)、インスリン抵抗性を改善し(Jones及びSaad 2009; Jones、Arverら 2011)、脂質プロファイルを改善する(Marin、Holmangら 1993; Jones及びSaad 2009; Jones、Arverら 2011)。
【0044】
テストステロン補充療法に関する重大な問題は、それが精巣の内在性テストステロン分泌を抑制すること及び食品医薬品局に承認されたラベルによって示されるように無精子症又は精子形成障害をもたらし得ることである(Kim、Crosnoeら 2013)。外来性テストステロンは、視床下部-下垂体-精巣系を阻害し、不妊症をもたらし得る。筋肉内テストステロンは、避妊薬としても研究されている(Liu、Swerdloffら 2006)。本発明においては、LH分泌の阻害に付随する低い精巣テストステロン形成は、内在性LHを阻害するのではなくLH分泌を刺激し且つ二次的にテストステロン分泌を刺激するSERM、特にアコルビフェンを使用することによって、回避する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0045】
【特許文献1】US2006/0293294
【特許文献2】US2009/0215733
【特許文献3】WO01/91744
【特許文献4】WO03/072092
【特許文献5】WO2006/024689
【特許文献6】WO2013/123218
【特許文献7】US2007/0078091
【特許文献8】WO2013/130832
【特許文献9】US6,060,503
【特許文献10】米国特許第5,162,037号
【特許文献11】米国特許第5,154,922号
【特許文献12】米国特許第5,135,480号
【特許文献13】米国特許第4,666,441号
【特許文献14】米国特許第4,624,665号
【特許文献15】米国特許第3,742,951号
【特許文献16】米国特許第3,797,444号
【特許文献17】米国特許第4,568,343号
【特許文献18】米国特許第5,064,654号
【特許文献19】米国特許第5,071,644号
【特許文献20】米国特許第5,071,657号
【特許文献21】欧州特許第0279982号
【特許文献22】英国特許出願第2185187号
【特許文献23】米国特許第6,710,059号
【特許文献24】JP10036347
【特許文献25】WO97/32837
【特許文献26】WO97/25034
【特許文献27】WO97/25035
【特許文献28】WO97/25037
【特許文献29】WO97/25038
【特許文献30】WO97/25036
【特許文献31】EP0802183A1
【特許文献32】WO97/3283
【非特許文献】
【0046】
【非特許文献1】www.issam.ch/freetesto.htm
【非特許文献2】www.endocrine.org
【非特許文献3】H. Bundgaard 「5. Design and Application of Prodrugs」(A textbook of Drug Design and Development、P. Krogsgaard-Larsen及びH. Bundgaard編; Harwood Academic Publishers GmbH、Chur、Switzerland、1991)
【非特許文献4】Labrie、Menopause Management 19、4-24.2010
【非特許文献5】labrieら JSBMB 113 52~56
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0047】
本発明の目的は、低テストステロン及び/又は低末梢アンドロゲン形成による男性性腺機能低下症関連症状及び疾患を含む男性アンドロゲン欠乏症状又は疾患の発生を予防する、低減させる又は消失させる方法を提供することである。
【0048】
別の目的は、性欲喪失、勃起不全、疲労感、エネルギーの喪失、うつ状態、骨量減少、筋肉減少、筋力低下、脂肪蓄積、記憶喪失、認知喪失、アルツハイマー病、認知症、体毛減少、妊孕性の問題、不眠症、女性化乳房症、貧血、一過性熱感、発汗、ウェルビーイング感覚の低下、肥満、骨粗鬆症、高コレステロール血症、高脂質血症、アテローム動脈硬化症、高血圧症、インスリン抵抗性、心血管疾患及び2型糖尿病の発生を予防する、低減させる又は消失させる方法を提供することである。
【0049】
別の目的は、男性患者が乳がんを獲得するリスクを低減させる方法を提供することである。
【0050】
別の目的は、前記方法への使用に好適なキット及び医薬組成物を提供することである。好ましくは、これらの製品は、男性性腺機能低下症関連症状及び疾患を含む男性アンドロゲン欠乏症状又は疾患の発生を予防する、低減させる又は消失させるためにその内容物を使用するための指示書と共に包装する。
【0051】
別の目的は、前記方法への使用に好適なキット及び医薬組成物を提供することである。好ましくは、これらの製品は、性欲喪失、勃起不全、疲労感、エネルギーの喪失、うつ状態、骨量減少、筋肉減少、筋力低下、脂肪蓄積、記憶喪失、認知喪失、アルツハイマー病、認知症、体毛減少、妊孕性の問題、不眠症、女性化乳房症、貧血、一過性熱感、発汗、ウェルビーイング感覚の低下、肥満、骨粗鬆症、高コレステロール血症、高脂質血症、アテローム動脈硬化症、高血圧症、インスリン抵抗性、心血管疾患及び2型糖尿病の発生を予防する、低減させる又は消失させるためにその内容物を使用するための指示書と共に包装する。
【課題を解決するための手段】
【0052】
一実施形態において、本発明は、男性性腺機能低下症関連症状及び疾患を含む男性アンドロゲン欠乏症状又は疾患の発生を予防する、低減させる又は消失させる方法であって、前記予防、低減又は消失を必要とする男性患者に、治療有効量の性ステロイド前駆体又はそのプロドラッグを、治療有効量の選択的エストロゲン受容体調節薬若しくは抗エストロゲン薬又はいずれかのプロドラッグと関連させて投与することを含む、方法を提供することである。
【0053】
性ステロイド前駆体は、デヒドロエピアンドロステロン、硫酸デヒドロエピアンドロステロン、アンドロスタ-5-エン-3β,17β-ジオール、4-アンドロステン-3,17-ジオン及び前記の追加の作用剤のいずれかのプロドラッグからなる群から選択されるのが好ましい。
【0054】
選択的エストロゲン受容体調節薬は、タモキシフェン、トレミフェン、CC 8490、SERM 3471、HMR 3339、HMR 3656、ラロキシフェン、LY 335124、LY 326315、アルゾキシフェン(LY 353381)、ピペンドキシフェン(ERA 923)、バゼドキシフェン(TSE 424、WAY 140424)、Oporia(ラソフォキシフェン)、EM-652、EM-800、EM-652-HCl(アコルビフェン、EM-1538)、4-ヒドロキシ-タモキシフェン、4-ヒドロキシ-トレミフェン、ドロロキシフェン、LY 335563、GW-5638、イドキシフェン、レボルメロキシフェン、イプロキシフェン(TAT-59)、オスペミフェン(FC 1271)、フィスペミフェン、セントクロマン、CHF 4227、LY 2066948、LY 2120310、シビフェン(Sivifene)、SR 16234、クロミフェン、エンクロミフェン、ズクロミフェン、GW 7603、BL 3040、SRI 16158、SR 16157、SRI 16137、SR 16137、Rad 1901、(+)-3-(4-ヒドロキシフェニル)-2-[4-[2-(1-ピペリジニル)エトキシ]フェニル]-4-(トリフルオロメチル)-2H-1-ベンゾピラン-7-オール、Femarelle、ナフォキシジン及びエンドキシフェンを含む群から選択されるのが好ましい。
【0055】
抗エストロゲン薬は、Faslodex{ICI 182780、フルベストラント、7α-[9-(4,4,5,5,5-ペンタフルオロペンチルスルフィニル)ノニル]エストラ-1,3,5(10)-トリエン-3,17β-ジオール}、ICI 164384、CH 4893237、ZK 246965及びSH 646を含む群から選択されるのが好ましい。
【0056】
選択的エストロゲン受容体調節薬は、下記式
【0057】
【化1】
【0058】
[式中、
R1及びR2は、独立して、水素、ヒドロキシル、ハロゲン、C1~C6アルキル又はインビボでヒドロキシルに変換される部分であり、
Zは、存在しないか、又は-CH2-、-O-、-S-及び-NR3-(R3は、水素又はC1~C6アルキルである)からなる群から選択され、
R100は、4~10個の介在原子によってLをB環から隔てる二価部分であり、
Lは、-SO-、-CON<、-N<及び-SON<の群から選択される二価又は三価部分であり、
G1は、水素、C1~C5炭化水素、G2及びLと組み合わさって5~7員複素環となっている二価部分、並びに前記のもののハロ又は不飽和誘導体からなる群から選択され、
G2は、存在しないか、又は水素、C1~C5炭化水素、G1及びLと組み合わさって5~7員複素環となっている二価部分、並びに前記のもののハロ又は不飽和誘導体からなる群から選択され、
G3は、水素、メチル、エチル及びトリフルオロメチルからなる群から選択される];
下記式
【0059】
【化2】
【0060】
[式中、
Dは、-OCH2CH2N(R3)R4(R3及びR4はいずれも、C1~C4アルキルからなる群から独立して選択されるか、又はR3、R4及びそれらが結合している窒素原子が一緒になって、ピロリジニル、2,2-ジメチルピロリジニル、2-メチルピロリジニル、ピペリジノ、ヘキサメチレンイミノ及びモルホリノからなる群から選択される環構造となっている)であり、
R1及びR2は、水素、ヒドロキシル、ハロゲン、C1~C6アルキル及びインビボでヒドロキシルに変換される部分からなる群から独立して選択され、
G3は、水素、メチル、エチル及びトリフルオロメチルからなる群から選択される]
若しくは医薬として許容されるその塩;
下記式
【0061】
【化3】
【0062】
[式中、
炭素2に絶対配置Sを有する光学活性化合物であるベンゾピラン化合物、
R1及びR2は、ヒドロキシル、ハロゲン、C1~C6アルキル及びインビボでヒドロキシルに変換され得る部分からなる群から独立して選択され、
R3は、飽和、不飽和若しくは置換ピロリジニル、飽和、不飽和若しくは置換ピペリジノ、飽和、不飽和若しくは置換ピペリジニル、飽和、不飽和若しくは置換モルホリノ、窒素含有環式部分、窒素含有多環式部分及びNRaRb(Ra及びRbは、独立して、水素、直鎖若しくは分岐鎖C1~C6アルキル、直鎖若しくは分岐鎖C2~C6アルケニル又は直鎖若しくは分岐鎖C2~C6アルキニルである)からなる群から選択される種である]
若しくは医薬として許容されるその塩
を含む群から選択される式のうちの1つを有し、
塩が、酢酸、アジピン酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、カンファースルホン酸、クエン酸、フマル酸、ヨウ化水素酸、臭化水素酸、塩酸、ヒドロクロロチアジド酸、ヒドロキシナフトエ酸、乳酸、マレイン酸、メタンスルホン酸、メチル硫酸、1,5-ナフタレンジスルホン酸、硝酸、パルミチン酸、ピバル酸、リン酸、プロピオン酸、コハク酸、硫酸、酒石酸、テレフタル酸、p-トルエンスルホン酸及び吉草酸からなる群から選択される酸の塩である
のが好ましい。
【0063】
別の実施形態において、本発明は、併用療法の一部として、治療有効量のヒト絨毛性性腺刺激ホルモンを投与することを更に含む方法を提供する。
【0064】
別の実施形態において、本発明は、
a)医薬として許容される賦形剤、希釈剤又は担体と、
b)治療有効量の少なくとも1種の性ステロイド前駆体又はそのプロドラッグと、
c)治療有効量の少なくとも1種のSERM、抗エストロゲン薬又はプロドラッグと
を含む医薬組成物を提供する。
【発明の効果】
【0065】
別の実施形態において、本発明は、
a)医薬として許容される賦形剤、希釈剤又は担体と、
b)治療有効量の少なくとも1種の性ステロイド前駆体又はそのプロドラッグと、
c)治療有効量の少なくとも1種のSERM、抗エストロゲン薬又はプロドラッグと
を含む、丸剤、錠剤、カプセル剤、ゲル剤、クリーム剤、オビュール剤(ovule)、肛門坐剤及び注射剤を提供する。
【0066】
別の実施形態において、本発明は、治療有効量の少なくとも1種の性ステロイド前駆体又はそのプロドラッグを含む医薬製剤を収容する第1の容器を含むキットであって、併用療法の一部として治療有効量の少なくとも1種のSERM、抗エストロゲン薬又はプロドラッグを含む医薬製剤を収容する第2の容器を更に含む、キットを提供する。
【0067】
別の実施形態において、本発明は、男性性腺機能低下症関連症状及び疾患を含む男性アンドロゲン欠乏症状又は疾患の発生を予防する、低減させる又は消失させる方法であって、前記発生の予防、低減又は消失を必要とする患者において、デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)、硫酸デヒドロエピアンドロステロン(DHEA-S)、アンドロスタ-5-エン-3β,17β-ジオール(5-ジオール)及び4-アンドロステン-3,17-ジオンからなる群から選択される性ステロイド前駆体のレベルを増加させることを含み、併用療法の一部として治療有効量の少なくとも1種のSERM、抗エストロゲン薬又はプロドラッグを前記患者に投与することを更に含む、方法に関する。
【0068】
別の実施形態において、本発明は、男性性腺機能低下症関連症状及び疾患を含む男性アンドロゲン欠乏症状又は疾患の発生を予防する、低減させる又は消失させる方法であって、前記発生の予防、低減又は消失を必要とする患者において、SERM又は抗エストロゲン薬の作用によって循環精巣テストステロンのレベルを増加させることを含み、併用療法の一部として治療有効量の少なくとも1種の性ステロイド前駆体又はプロドラッグを前記患者に投与することを更に含む、方法に関する。
【0069】
別の実施形態において、本発明は、アンドロステロングルクロニド(ADT-G)、アンドロスタン-3α,17β-ジオール-3-グルクロニド(3α-ジオール-3G)及びアンドロスタン-3α,17β-ジオール-17-グルクロニド(3α-ジオール-17G)からなる循環アンドロゲン代謝産物のレベルを増加させることによる、男性性腺機能低下症関連症状及び疾患を含む男性アンドロゲン欠乏症状又は疾患の発生を予防する、低減させる又は消失させる方法であって、前記予防、低減又は消失を必要とする男性患者に、治療有効量の性ステロイド前駆体又はそのプロドラッグを、治療有効量の選択的エストロゲン受容体調節薬若しくは抗エストロゲン薬又はいずれかのプロドラッグと関連させて投与することを含む、方法を提供する。
【0070】
本明細書中で使用する「純SERM」は、SERMが、生理的濃度又は薬理学的濃度で、乳房又は子宮組織においてエストロゲン活性を有さないことを意味する。
【0071】
別の実施形態において、本発明は、治療有効量の少なくとも1種の性ステロイド前駆体を収容する第1の容器を含み、治療有効量の少なくとも1種のSERMを収容する第2の容器を更に含むキットを提供する。
【0072】
別の実施形態において、本発明は、1つの容器で、
a)医薬として許容される賦形剤、希釈剤又は担体と、
b)治療有効量の少なくとも1種の性ステロイド前駆体と、
c)治療有効量の少なくとも1種のSERMと
を含む医薬組成物を提供する。
【0073】
別の実施形態において、本発明は、男性性腺機能低下症関連症状及び疾患を含む男性アンドロゲン欠乏症状又は疾患の発生を予防する、低減させる又は消失させる方法であって、前記予防、低減又は消失を必要とする男性患者に、治療有効量の性ステロイド前駆体又はそのプロドラッグを、治療有効量の選択的エストロゲン受容体調節薬若しくは抗エストロゲン薬又はいずれかのプロドラッグと関連させて投与することを含み、選択的エストロゲン受容体調節薬又は抗エストロゲン薬が、循環テストステロンのレベルを上昇させるLH分泌を刺激する、方法を提供する。
【0074】
別の実施形態において、本発明は、男性性腺機能低下症関連症状及び疾患を含む男性アンドロゲン欠乏症状又は疾患の発生を予防する、低減させる又は消失させるための医薬組成物であって、
a)医薬として許容される賦形剤、希釈剤又は担体と、
b)少なくとも1種の性ステロイド前駆体又はそのプロドラッグと、
c)少なくとも1種の選択的エストロゲン受容体調節薬若しくは抗エストロゲン薬又はいずれかのプロドラッグと
を含み、少なくとも1つの男性アンドロゲン欠乏症状又は疾患の予防、低減又は消失のための前記組成物の使用を指示する包装で提供される、医薬組成物を提供する。
【0075】
別の実施形態において、本発明は、男性性腺機能低下症関連症状及び疾患を含む男性アンドロゲン欠乏症状又は疾患の発生を予防する、低減させる又は消失させるためのキットであって、(i)少なくとも1種の性ステロイド前駆体又はそのプロドラッグを内部に含む第1の容器と、(ii)少なくとも1種の選択的エストロゲン受容体調節薬若しくは抗エストロゲン薬又はいずれかのプロドラッグを内部に含む第2の容器と、(iii)少なくとも1つの男性アンドロゲン欠乏症状又は疾患のを予防、低減又は消失のために前記キットを使用するための説明書とを含む、キットを提供する。
【0076】
性ステロイド前駆体がデヒドロエピアンドロステロンであり且つ選択的エストロゲン受容体調節薬がアコルビフェンであるのが好ましい。
【0077】
本明細書中で使用する場合、他の化合物「と関連させて」患者に投与する化合物は、両化合物を時間的に近傍で投与しなくても、患者が両化合物の生理的効果を同時に得ることができる程度に十分に前記他の化合物の投与に接近して投与する。化合物を併用療法の一部として投与する場合、それらは互いに関連させて投与する。本明細書中で論じる好ましいSERM(アコルビフェン)は、好ましくは、好ましい性ステロイド前駆体、デヒドロエピアンドロステロン、硫酸デヒドロエピアンドロステロン、アンドロスタ-5-エン-3β,17β-ジオール又は4-アンドロステン-3,17-ジオン、とりわけ、デヒドロエピアンドロステロンと組み合わせて使用する。
【0078】
本出願人は、アコルビフェン治療への性ステロイド前駆体の追加が、テストステロンの細胞内レベルを増加させると考える[細胞内アンドロゲン、とりわけ、ジヒドロテストステロンが内在性DHEAに由来している前立腺がんを有する患者においては、十分立証されている(Labrie、Dupontら 1985; Labrie、Cusanら 2009; Labrie 2011)]。
【0079】
本明細書中で使用する場合、SERMは、乳房組織においてエストロゲン受容体アンタゴニスト(抗エストロゲン薬)として機能する化合物であるが、骨組織及び血清コレステロールレベルに対してエストロゲン作用又はエストロゲン様作用を示す(即ち、血清コレステロールを減少させることによって)。インビトロで又はヒト若しくはラットの乳房組織でエストロゲン受容体アンタゴニストとして機能する非ステロイド性化合物(とりわけ、化合物がヒト乳房がん細胞に対して抗エストロゲン薬として作用する場合)は、SERMとして機能する可能性が高い。これとは逆に、ステロイド性抗エストロゲン薬は、血清コレステロールに対して有益な効果を示さない傾向があるので、SERMとして機能しない傾向がある。本発明者らが試験して、SERMとして機能することが判明している非ステロイド性抗エストロゲン薬としては、EM-800、EM-652.HCl、ラロキシフェン、タモキシフェン、4-ヒドロキシ-タモキシフェン、トレミフェン、4-ヒドロキシ-トレミフェン、ドロロキシフェン、LY 353 381、LY 335 563、GW-5638、ラソフォキシフェン、バゼドキシフェン(TSE 424; WAY-TSE 424; WAY 140424; 1-[[4-[2-(ヘキサヒドロ-1H-アゼピン-1-イル)エトキシ]フェニル]メチル]-2-(4-ヒドロキシフェニル)-3-メチル-1H-インドール-5-オール)、ピペンドキシフェン{ERA 923; 2-(4-ヒドロキシフェニル)-3-メチル-1-[[4-[2-(1-ピペリジニル)エトキシ]フェニル]メチル]1H-インドール-5-オール)}、オスペミフェン及びイドキシフェンが挙げられるが、これらに限定するものではない。
【0080】
しかし、本発明者らはまた、全てのSERMは同じようには反応せず、2つのサブクラス:「純SERM」と「混合SERM」に分けられうることを見出した。例えば、EM-800及びEM-652.HCl等の一部のSERMは、乳房及び子宮内膜組織において生理的濃度又は薬理学的濃度でエストロゲン活性を有さず、ラットにおいてコレステロール低下作用及びトリグリセリド低下作用を有する。これらのSERMを、「純SERM」と称することができる。理想的なSERMは、乳腺における強力で純粋な抗エストロゲン活性のため、EM-652.HCl型の純SERMである。ラロキシフェン、タモキシフェン、ドロロキシフェン、4-ヒドロキシ-タモキシフェン[1-(4-ジメチルアミノエトキシフェニル)-1-(4-ヒドロキシルフェニル)-2-フェニル-ブタ-1-エン]、トレミフェン、4-ヒドロキシ-トレミフェン、[(Z)-(2)-2-[4-(4-クロロ-1-(4-ヒドロキシフェニル)-2-フェニル-1-ブテニル)フェノキシ]-N,N-ジメチルエタンアミン、LY 353 381、LY 335 563、GW-5638、ラソフォキシフェン、イドキシフェン、バゼドキシフェン及びオスペミフェン等の他のものは、乳房及び子宮内膜において若干のエストロゲン活性を有する。この第2の系列のSERMは、「混合SERM」と称することができる。これらの「混合SERM」の望ましくないエストロゲン活性は、図2及び図3で示すようにインビトロ試験において及び図4に示すように乳がんのインビボ試験において、純粋な「SERM」の追加によって阻害され得る。ヌードマウスにおけるヒト乳癌異種移植片はヒト乳がんの最も近い入手可能なモデルであるので、したがって、本発明者らは、ヌードマウスにおけるZR-75-1乳がん異種移植片の成長に対するEM-800及びタモキシフェンの効果を、単独の場合と併用した場合で比較した。
【0081】
一実施形態において、本発明は、以下の分子構造
【0082】
【化4】
【0083】
[式中、R1及びR2は、独立して、水素、ヒドロキシル又はインビボでヒドロキシルに変換される部分であり、n=1又は2である]
の選択的エストロゲン受容体調節薬を使用する。
【0084】
本出願人は、SERMはエストロゲン、特に、乳房組織の増殖を増加させる可能性がある性ステロイドの外来性前駆体から形成されるものの潜在的副作用を打ち消す必要があるので、本発明のSERMは乳房において純粋な抗エストロゲン薬として作用することが非常に重要であると考える。特に、本出願人は、2位に絶対配置2Sを有する本発明のベンゾピラン誘導体はそのラセミ混合物より好適であると考える。したがって、US6,060,503において、2S配置を有する光学活性ベンゾピラン抗エストロゲン薬を、エストロゲンによって悪化した乳がん及び子宮体がんの治療のために開示し、これらの化合物がラセミ混合物より著しく効率的であることが示している(US6,060,503の図1図5を参照のこと)。
【0085】
2S配置のエナンチオマーは純粋な状態として工業的に得るのが困難であるので、本出願人は、2Rエナンチオマーの夾雑は10重量%未満、好ましくは5重量%未満、より好ましくは2重量%未満が好ましいと考える。
【0086】
有効医薬成分のプロドラッグ形態は、当技術分野において周知である。例えば、H. Bundgaard 「5. Design and Application of Prodrugs」(A textbook of Drug Design and Development、P. Krogsgaard-Larsen及びH. Bundgaard編; Harwood Academic Publishers GmbH、Chur、Switzerland、1991)を参照されたい。この文献の内容を、参照することによって本明細書中に組み込む。特に、プロドラッグを定義している114頁を参照のこと:プロドラッグは、親薬物分子の薬理学的に不活性な誘導体であって、活性な薬物を放出するためには体内で自発的な又は酵素的な転換を必要とし且つ親薬物分子に比べて改善された送達特性を有するものである。本出願においては、性ステロイド前駆体のプロドラッグは、3-及び/若しくは17-ヒドロキシル基並びに/又は3-及び/若しくは17-ケトン基の誘導体であり、選択的エストロゲン受容体調節薬及び抗エストロゲン薬のプロドラッグは、ヒドロキシル基の誘導体である。ヒドロキシル基のプロドラッグ形態は、エステル、炭酸エステル、リン酸エステル、エーテル及びα-アシルオキシアルキルエーテルであり、ケトン基のプロドラッグ形態は、ケタール、イミン、エノールエステル、オキサゾリジン及びチアゾリジンであるが、これらの例によって限定されない(154頁を参照のこと)。既に引用されたSERMであるEM-800(ジエステル誘導体、ジピバレート)は、EM-652のプロドラッグである(Gauthier、Caronら 1997)。
【0087】
血清テストステロンは、朝により高く、睡眠後に最小限の濃度まで減少する(Trenell、Marshallら 2007)。血清テストステロンの適切な増加を確実にするために、血清テストステロンは、治療1カ月及び2カ月で、次いで3カ月毎にモニターすべきである(その頻度は、治療を行う医師の判断による)。同様な測定を、DHEAについても行うべきである。血清DHEAもまた、概日リズムに従い、朝に最も低い。適切な比較のために、血清テストステロン及びDHEAの測定は、種々の治療時間間隔で、即ち、1カ月目及び2カ月目、次いで3カ月毎に1日の同じ時間に行うのが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0088】
図1】視床下部-下垂体-精巣系及び視床下部-下垂体-副腎系を示す略図である。GnRH、性腺刺激ホルモン放出ホルモン; CRH、副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン; LH、黄体形成ホルモン; ACTH、副腎皮質刺激ホルモン; DHEA、デヒドロエピアンドロステロン; E2、エストラジオール; DHT、ジヒドロテストステロン; Testo、テストステロン。
図2】ヒト子宮内膜がんIshikawa細胞におけるアルカリホスファターゼ活性に対する、EM-800(アコルビフェンのプロドラッグ、遊離塩)、(Z)-4-OH-タモキシフェン、(Z)-4-OH-トレミフェン及びラロキシフェンの漸増濃度の効果を示すグラフである。アルカリホスファターゼ活性の測定は、1.0nM E2の存在下又は非存在下において漸増濃度の示された化合物に5日間曝露した後に行った。データは、4つのウェルの平均値±SEMとして表す。SEMが、使用した記号と重なる場合は、記号のみを示す(Simard、Sanchezら 1997)。
図3】ヒトIshikawa(子宮内膜)癌細胞における、抗エストロゲン薬EM-800(アコルビフェンのプロドラッグ、遊離塩)による、アルカリホスファターゼ活性に対する(Z)-4-OH-タモキシフェン、(Z)-4-OH-トレミフェン、ドロロキシフェン及びラロキシフェンの刺激作用の遮断を示すグラフである。アルカリホスファターゼ活性の測定は、30又は100nMのEM-800の存在下又は非存在下において3又は10nMの示された化合物に5日間曝露した後に行った。データが16個のウェルから得られた対照群を除いて、データは8個のウェルの平均値±SDとして表す(Simard、Sanchezら 1997)。
図4】ヒト乳がんZR-75-1異種移植片の成長に対するタモキシフェンの刺激作用が、EM-652.HCl(アコルビフェン)の同時投与によって完全に遮断されることを示すグラフである。アコルビフェンは単独では、その純粋な抗エストロゲン活性と一致して、タモキシフェンの非存在下において腫瘍成長に対して影響を及ぼさない。
図5】副腎及び細胞内分泌ステロイド産生経路を示す略図である。DHEA、デヒドロエピアンドロステロン; DHEA-S、DHEA-硫酸; DHT、ジヒドロテストステロン; HSD、ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ。
図6】69~80才の去勢男性(n=34)及び55~65才の無傷の閉経後女性(n=377)における、テストステロン(A)、総アンドロゲンプール(ADT-G、3α-ジオール-3G及び3α-ジオール-17Gの合計)(B)及びE1S(C)の血清濃度の比較を示すグラフである(Labrie、Belangerら 2006; Labrie、Cusanら 2009)。
図7】卵巣切除ラットにおける海綿骨体積に対する、デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)単独又はDHEAとフルタミド若しくはEM-800(アコルビフェンのプロドラッグ、遊離塩)との組合せによる12カ月間の処置の効果を示すグラフである。無傷動物を、追加の対照として加える。データは、平均値±SEMとして示す(** p<0.01対OVX 対照)。
図8】卵巣切除ラットにおける骨梁数に対する、デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)単独又はDHEAとフルタミド若しくはEM-800(アコルビフェンのプロドラッグ、遊離塩)との組合せによる12カ月間の処置の効果を示すグラフである。無傷動物を、追加の対照として加える。データは、平均値±SEMとして示す(** p<0.01対OVX 対照)。
図9】無傷対照(A)、卵巣切除対照(B)、及びDHEA単独(C)又はDHEAとフルタミドの組合せ(D)若しくはDHEAとEM-800(アコルビフェンのプロドラッグ、遊離塩)との組合せ(E)で処置された卵巣切除ラットからの脛骨近位骨幹端を示す画像である。卵巣切除対照動物(B)における海綿骨量(T)の減少、及びDHEA投与(C)後に誘導された海綿骨体積(T)の有意な増加に注目されたい。DHEAにフルタミドを追加すると、海綿骨体積に対するDHEAの効果が部分的に遮断される(D)のに対して、DHEAとEM-800(アコルビフェンのプロドラッグ、遊離塩)とを組み合わせると、卵巣切除と関連した骨量減少から完全に保護された。トリクロームMasson-Goldner変法、倍率×80倍。T:骨梁、GP:成長板。
図10】ラットにおける血清トリグリセリド(A)及びコレステロール(B)レベルに対する、DHEA(1日1回10mg、経皮投与)又はEM-800(アコルビフェンのプロドラッグ、遊離塩)( 1日1回75μg、経口投与)の単独又は組合せによる9カ月の処置の効果を示すグラフである。データは、平均値±SEMとして表す。**: p<0.01 実験対各対照。
図11】卵巣切除ラットにおける総血清コレステロールレベルに対する、EM-800(アコルビフェンのプロドラッグ、遊離塩)又はラロキシフェンの漸増用量(0.01、0.03、0.1、0.3及び1mg/kg)の投与による37週間の処置の効果を示すグラフである。比較は、無傷ラット及び17β-エストラジオール(E2)のインプラントを有する卵巣切除動物を用いて行った;** p<0.01、実験対OVX対照ラット。
図12】男性における性ステロイドの精巣及び副腎供給源の役割、並びにLHの分泌に対する視床下部-下垂体レベルでのエストロゲンの阻害効果を打ち消すアコルビフェンの追加の効果を示す略図である。ACTH、副腎皮質刺激ホルモン; CRH、副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン; DHEA、デヒドロエピアンドロステロン; DHT、ジヒドロテストステロン; E2、17β-エストラジオール; LH、黄体形成ホルモン; GnRH、性腺刺激ホルモン放出ホルモン。
図13】雄カニクイザルに、アコルビフェン2.5、10又は40mg/日を13週間にわたって経口的に投薬した。対照サルには、ビヒクル単独(0.4%メチルセルロース)を投与した。研究血清テストステロン濃度の終了は、検証されたガスクロマトグラフィー質量分析アッセイを用いて決定した。結果は、1群4匹のサルの平均値±SEMとして表す。P値(対照に対する)は、等分散を仮定して両側t検定で算出した。
図14】雄カニクイザルに、EM-800(アコルビフェンのプロドラッグ、遊離塩)3.13、12.5又は50mg/日を52週間にわたって経口的に投薬した。対照サルには、ビヒクル単独(0.4%メチルセルロース)を投与した。研究血清テストステロン濃度の終了は、検証されたガスクロマトグラフィー質量分析アッセイを用いて決定した。結果は、1群5匹のサル(EM-800研究)の平均値±SEMとして表す。P値(対照に対する)は、等分散を仮定して両側t検定で算出した。
図15】ZR-75-1腫瘍成長に対する抗エストロゲン薬の効果を示すグラフである。卵巣切除ヌードマウスにおけるヒトZR-75-1乳房腫瘍の成長に対する、抗エストロゲン薬タモキシフェン、EM-652.HCl(アコルビフェン)及びタモキシフェンとEM-652.HClとの組合せによる161日間の処置の効果。腫瘍サイズは、初期腫瘍面積の百分率として表す(1日目=100%)。データは、平均値±SEM(腫瘍n=18~30個/群)として表す; ##p<0.01対EM-652.HCl(アコルビフェン); **p<0.01対OVX。抗エストロゲン薬は、エストロゲン刺激の非存在下で、マウス1匹当たり200μgの用量で1日1回経口的に投与した。
図16】エストロンの1日2回の皮下注射によって同時に処置された卵巣切除マウスに対して、9日間にわたって経口的に又は皮膚への適用によって経皮的に投与された漸増一日量の抗エストロゲン薬CS-115-1(EM-343)及びEM-762の、子宮重量に対する効果を示すグラフである。
図17】エストロンで同時に処置された卵巣切除マウスに対して、9日間にわたって経口的に投与された漸増濃度のEM-652.HCl(アコルビフェン)、ラソフォキシフェン(遊離塩基;活性及び不活性エナンチオマー)及びラロキシフェンの、子宮重量に対する効果を示すグラフである。*p<0.05、**p<0.01 対E1処置対照。
図18】卵巣切除マウスに対して9日間にわたって経口的に投与された1μg及び10μgのEM-652.HCl(アコルビフェン)、ラソフォキシフェン(遊離塩基;活性及び不活性エナンチオマー)及びラロキシフェンの、子宮重量に対する効果を示すグラフである。**p<0.01対OVX対照。
図19】ZR-75-1腫瘍成長に対する抗エストロゲン薬の効果を示すグラフである。卵巣切除ヌードマウスにおけるヒトZR-75-1乳房腫瘍のエストロン誘発成長に対する、7種の抗エストロゲン薬による161日間の処置の効果。腫瘍サイズは、初期腫瘍面積の百分率として表す(1日目=100%)。データは、平均値±SEM(腫瘍n=18~30個/群)として表す;##p<0.01対EM-652.HCl(アコルビフェン);** p<0.01対OVX。抗エストロゲン薬は、エストロン及びコレステロールを1:25の比で含有する皮下0.5cmシラスティックインプラントによって得られるエストロン刺激下で、マウス1匹当たり50μgの用量で1日1回経口的に投与した。
図20】ZR-75-1腫瘍成長に対する抗エストロゲン薬の効果を示すグラフである。卵巣切除ヌードマウスにおけるヒトZR-75-1乳房腫瘍の成長に対する、7種の抗エストロゲン薬による171日間の処置の効果。腫瘍サイズは、初期腫瘍面積(1日目=100%)の百分率として表す。データは、平均値±SEM(腫瘍n=18~30個/群)として表す;##p<0.01対EM-652.HCl(アコルビフェン);** p<0.01対OVX。抗エストロゲン薬は、エストロゲン刺激の非存在下で、マウス1匹当たり100μgの用量で1日1回経口的に投与した。
図21】デヒドロエピアンドロステロンとSERMアコルビフェンの組合せの、種々のパラメーターに対する効果を示す図である。デヒドロエピアンドロステロンへのアコルビフェンの追加は、図示された、低アンドロゲンの負の効果を治療又は低減する。
【発明を実施するための形態】
【0089】
DHEAの有益な効果
イントラクリノロジー(intracrinology)と称される末梢標的組織におけるアンドロゲン及びエストロゲンの形成及び作用に対する理解の増大(Labrie 1991; Labrie、Simardら 1992a; Labrie、Simardら 1992b; Labrie、Simardら 1994; Labrie、Durocherら 1995; Luu-The、Dufortら 1995; Labrie、Simardら 1996b; Labrie、Belangerら 1997a; Labrie、Belangerら 1997b; Labrie、Diamondら 1997b; Labrie、Luu-Theら 1997)並びにラットにおける卵巣切除後の骨量減少の予防においてエストロゲンよりもアンドロゲンが中心的な役割を果たすことを示す本発明者らの最近の観察(Martel、Sourlaら 1998)及び閉経後女性の同様な状況の観察(Labrie、Diamondら 1997a)によって、性ステロイド補充療法及び老化の分野における時宜を得た、潜在的に非常に重要な進展への道が開かれたと、本発明者らは感じている。本発明者らの観察は、このような可能性を十分に裏付けている。
【0090】
したがって、本発明は、男性及び女性における性ステロイドの生理機能についての本発明者らの理解において達成された最近の進展に基づく(Labrie 1991; Labrie、Simardら 1992a; Labrie、Simardら 1992b; Labrie、Simardら 1994; Labrie、Durocherら 1995; Luu-The、Dufortら 1995; Labrie、Simardら 1996b; Labrie、Belangerら 1997a; Labrie、Belangerら 1997b; Labrie、Diamondら 1997b; Labrie、Luu-Theら 1997)。
【0091】
男性におけるアンドロゲンのプールは、DHEA及びDHEA-Sの血清濃度の低下と並行して、30才の年齢から次第に減少する(Labrie、Belangerら 1997b)。血清DHEAは、末梢組織に存在するアンドロゲンの50%までを占める(Labrie、Dupontら 1985; Labrie、Cusanら 2009; Labrie 2010b; Labrie 2011)ので、DHEAからのアンドロゲンの生合成の、老化によるこのような減少は、LOH(遅発性性腺機能低下症)の出現及び低アンドロゲンに関連する、既に述べた全ての問題において重要な役割を果たす可能性が高い。
【0092】
男性における細胞内分泌機構によって産生される末梢アンドロゲンの重要な供給源、DHEA
ヒトは一部の他の霊長類と共に、末梢組織において強力なアンドロゲン及び/又はエストロゲンに変換される不活性な前駆体ステロイドDHEA及びDHEA-Sを大量に分泌する副腎を有する点で、動物種の中で独特である。人間が、非常に精巧な内分泌系及びパラ分泌系を有することに加えて、末梢組織で性ステロイド形成に大いに資していることは注目に値する(Labrie、Dupontら 1985; Labrie、Belangerら 1988; Labrie 1991; Labrie、Belangerら 1997a)(図1図2及び図5)。
【0093】
男性において、去勢によって誘発される血清テストステロンの95%(又はそれ以上)の減少及び進行性前立腺がんによるアンドロゲンのこの部分的な消失の臨床的利益(Huggins及びHodges 1941)は、去勢がアンドロゲンの95%(又はそれ以上)を消失させる及び去勢のみが前立腺がんにふさわしい治療であると誤って考えることにつながった。
【0094】
男性において、アンドロゲンの25~50%が去勢後の前立腺に残されるという発見(Labrie、Dupontら 1985; Belanger、Belangerら 1989; Nishiyama、Hashimotoら 2004; Mostaghel、Pageら 2007)は、去勢に対する純粋な(非ステロイド性)抗アンドロゲン薬の追加が、アンドロゲンのより完全な遮断を達成し、前立腺がんにおいて寿命を延長することが示された最初の治療である根拠を説明する(Labrie、Dupontら 1982; Labrie、Dupontら 1985; Caubet、Tostesonら 1997; Prostate Cancer Triallists' Collaborative Group 2000; Labrie、Belangerら 2005)。去勢後も依然として比較的高いレベルであるアンドロゲンもまた、がんの限局段階において治療を開始した場合には、アンドロゲン遮断の組合せ又は治療開始時における精巣由来及び副腎由来の両方のアンドロゲンの遮断によってほとんどの患者が治癒され得る根拠を説明し(Labrie、Candasら2002; Akaza 2006; Ueno、Namikiら 2006)、したがって、男性における精巣外アンドロゲン又はイントラクリノロジーの重要な役割を明白に示している。
【0095】
末梢標的組織におけるアンドロゲン及び/又はエストロゲンへの副腎前駆体ステロイドDHEAの転換は、これらの組織の各細胞における種々のステロイド産生酵素及び代謝酵素の発現レベルに依存する。したがって、男性及び女性において副腎前駆体性ステロイドの分泌速度が速いというこの状況は、実験室において使用される全ての動物モデル(即ち、ラット、マウス、モルモット、及びサル以外の全ての他の動物)において性ステロイドの分泌が性腺のみで起こるのとは全く異なる(Labrie、Dupontら 1985; Labrie、Belangerら 1988; Belanger, Belangerら 1989; Labrie、Belangerら 1997a)。
【0096】
末梢組織において副腎由来のDHEAから産生されるアンドロゲン、テストステロン及びDHT並びにE2は、それらの合成が起こる同じ細胞で局所的にそれらの作用を及ぼす(図5)。この精巧な機構によって、これらの性ステロイドを必要とする特異的組織における細胞内エストロゲン及び/又はアンドロゲンの生物活性レベルの維持が可能となる一方、同じステロイドが血液中には非常に低いレベルで漏出し、したがって、生じる可能性がある負の影響が他の組織に及ばないようになっている。それらが細胞特異的に局所形成され及び局所的な細胞内作用のための即時利用可能になった後、テストステロン及びDHT(最も活性な天然アンドロゲン)及びE2は不活性化され、同じ細胞中で水溶性グルクロニド又はスルフェート誘導体に転換され、次いで、腎臓による排出前に全身循環に定量的に拡散することができ、それらは質量分析によって測定され得る(Labrie、Belangerら2006)。
【0097】
アンドロゲン及びエストロゲンの細胞内分泌形成の重要性は、非悪性疾患、例えば、ざ瘡、脂漏、男性型多毛症及びアンドロゲン性脱毛症並びに骨粗鬆症及び外陰腟萎縮症に及ぶことにも注目すべきである(Cusan、Dupontら 1994; Labrie、Belangerら 1997a; Labrie、Archerら 2009b; Labrie、Archerら 2009a; Labrie、Archerら 2009c)。実質的に全ての組織が、種々のレベルで、DHEAを転換できる一連のステロイド産生酵素を有する。しかし、各組織は、組織特異性が高い一組のステロイド産生酵素及びステロイド不活性化酵素を有し、これらについては、実験法を知る必要がある。
【0098】
テストステロンの血清レベルは69~80才の男性において去勢後に97.4%低下する(Labrie、Cusanら 2009)が、循環において測定可能な総アンドロゲン活性の唯一の正確で有効なパラメーターである(Labrie、Belangerら 2006)アンドロゲン代謝産物の合計は58.9%しか低下せず(Labrie、Cusanら 2009)、したがって、これは、精巣アンドロゲンの完全な消失後の男性においてアンドロゲンの非常に重要な比率(41.1%)が残っていることを示している。このようなデータは、種々の研究において去勢後の前立腺中にDHTが平均で39%、即ち、45%(Labrie、Dupontら 1985)、51%(Belanger、Brochuら 1986)、25%(Nishiyama、Hashimotoら 2004)及び35%(Mostaghel、Pageら 2007)残されることを示している、前立腺内DHTの濃度と極めて一致している[(Labrie 2010b)の図4を参照のこと]。
【0099】
男性において副腎由来のアンドロゲンが主として重要であることがわかったので、男性に関する前記データを、無傷の閉経後女性で測定された同じステロイドの血清レベルと比較することは興味深い。図6A及び図6Bにおいてわかるように、テストステロン及び総アンドロゲン代謝産物の血清レベルは、同等の年齢の去勢男性と閉経後女性においてほぼ重ねることができる。最も興味深いことに、硫酸エストロン(E1S)の血清レベルも同程度であることもわかる(図6C)。E1及びE2の血清レベルも同程度であり、したがって、これは、同様な量の副腎由来エストロゲンが男性及び女性のいずれでも見られることを示している(Labrie、Cusanら 2009)。
【0100】
上記に要約したデータは、69~80才の男性においては精巣の非不存在下でも約40%のアンドロゲンが末梢組織において産生されることを示している。血清DHEAは30才代から年齢と共に著しく減少する(Labrie、Dupontら 1985)が、精巣のアンドロゲン分泌はわずかしか減少しないので、より若い年齢では副腎由来のアンドロゲンが更に大きい相対的及び絶対的重要性を有する可能性が最も高い。
【0101】
前述の通り、末梢標的組織における性ステロイドの局所合成及び作用は、イントラクリノロジーと称されている(Labrie, Belangerら 1988; Labrie 1991)。この領域における最近の急速な進歩は、末梢組織で局所的にアンドロゲン及び/又はエストロゲンへのDHEA-S及びDHEAの転換に関与するステロイド産生酵素をコードするほとんどの組織特異的遺伝子の構造が解明されたことによって可能になった(Labrie、Simardら 1992a; Labrie、Sugimotoら 1992; Labrie、Durocherら 1995; Luu-The、Zhangら 1995; Labrie、Simardら 1996a; Labrie、Luu-Theら 1997)(図5)。
【0102】
ヒト性ステロイドの生理機能においてDHEA及びDHEA-Sが主として重要であることは、成人男性における総アンドロゲンの50%までがこれらの副腎前駆体ステロイドに由来するという推定によって説明される(Labrie、Dupontら 1985; Belanger、Brochuら 1986; Labrie、Belangerら 1993)。
【0103】
乳房に関しては、DHEAが、ラットにおいてジメチルベンズ(a)アントラセン乳房腫瘍の発生を予防すること(Luo、Sourlaら1997)及び成長を阻害すること(Li、Yanら1993)が知られている。加えて、DHEAは、ヌードマウスにおいてヒト乳がん異種移植片の成長を阻害する[実施例1及び(Couillard、Labrieら 1998)を参照のこと]。したがって、刺激作用を及ぼすエストロゲン及びプロゲスチンとは逆に、DHEAは、女性において乳がんの発生及び成長を共に阻害すると予想される。
【0104】
本発明者らの以前の研究で十分立証したように、生理的な量の外来性DHEAを補充することにより、特異的ステロイド産生酵素を含む該当する標的組織においてのみ、アンドロゲン及びエストロゲンの生合成が可能になる。このようにして合成された活性なアンドロゲン及びエストロゲンは、由来細胞中に残り、循環へ漏出はごくわずかしか起こらない。
【0105】
実際には、DHEA投与の最も顕著な効果は、DHTの代謝産物のグルクロニド誘導体、即ち、ADT-G及び3α-ジオール-Gの循環レベルに対するものであり、これらの代謝産物は、副腎前駆体DHEA及びDHEA-SからDHTを合成した後にDHTを不活性コンジュゲートに更に代謝する、適当なステロイド産生酵素を有する末梢細胞内分泌組織において局所的に産生される(Labrie 1991; Labrie、Simardら 1996a)。標的組織におけるアンドロゲンのこの局部的生合成及び作用が、他の組織のアンドロゲンへの曝露をなくし、したがって、望ましくない男性化効果又は他のアンドロゲン関連副作用のリスクを最小化する。本発明者らは総エストロゲン分泌の信頼性が高いパラメーター(アンドロゲンに対するグルクロニドに匹敵する)は依然として入手できないが、同じことがエストロゲンにも当てはまる。
【0106】
DHEA、筋肉量及び除脂肪体重
60~70才の男性におけるアンドロゲンの40~50%は副腎DHEAから生じる(Labrie、Cusanら 2009)ので、副腎DHEAが、男性での筋肉量及び筋力の制御において精巣テストステロンに匹敵する重要性を有すると考えるのは妥当である。
【0107】
アンドロゲンが筋肉の成長、発達及び機能において主な役割を果たすとことは疑いない。アンドロゲンが、正常男性において筋肉量を増加させることは周知であり(Bhasin、Storerら 1996; Bhasin、Woodhouseら 2001)、この効果は、国際オリンピック委員会によるアンドロゲンの禁止に関係する。実際に、スポーツドーピングの主要な形態は、依然としてアンドロゲン/タンパク質同化ステロイド乱用である。好適な用量において、外来性アンドロゲンは、全ての男性及び女性アスリートにおいて筋肉量及び筋力を増強する(Handelsman 2006)。その結果、1970年代初頭から、外来性アンドロゲンは、スポーツにおいては男性及び女性に対して禁止されてきた。
【0108】
加齢女性及び男性における血清DHEAの顕著な減少は、筋肉量の減少及び筋力の低下を含む、加齢と関連する一連の変化が、加齢に伴うDHEAの減少に起因する可能性があるという示唆につながった(Labrie、Belangerら 1998; Lamberts 2003)。齧歯動物におけるDHEAの身体組成に対する有益な効果は、周知である(Tagliaferro、Davisら 1986; Han、Hansenら 1998)。男性において観察されるいくつかの加齢性変化、とりわけ、筋肉量及び骨量の減少並びに性的機能の低下及び体脂肪量の増加は、アンドロゲン欠乏症で観察されるのと同様である(Matsumoto 2002; Morley及びPerry 2003)。
【0109】
横断面データに基づくと、年齢70才における最大筋力は、年齢30才において見られるピーク筋力の30~50%である(Murray及びPitt 1985; Kallman, Platoら 1990)。加齢に伴う筋力低下は、筋肉の断面積の減少と相関するように思われる(Larsson、Grimbyら 1979; Kallman、Platoら 1990)。加齢性のサルコペニアは、転倒、骨折、身体障害及び生命を脅かす合併症のリスクを増加させる(Evans 1997; Frontera、Hughesら 2000; Melton、Khoslaら 2000; Hughes、Fronteraら 2002; Iannuzzi-Sucich、Prestwoodら 2002)。
【0110】
テストステロンを見かけ上過度に低い用量で使用した研究(Elashoff、Jacknowら 1991)に続いて、一連の最近の研究は、筋肉サイズ及び筋力に対するアンドロゲンの用量反応性の刺激作用を明白に立証し(Bhasin、Storerら 1996; Bhasin、Storerら 1997; Bross、Casaburi ら 1998; Bhasin、Woodhouseら 2001; Storer、Maglianoら 2003; Bhasin、Woodhouseら 2005)、60~75才及び19~35才の男性においてアンドロゲン感受性パラメーターに対する漸増用量のテストステロンの有効性を比較した。全ての男性は、精巣アンドロゲンの内在性レベル及び可変レベルを排除するためにGnRHアゴニストで治療された。エナント酸テストステロンの週用量は、20週間にわたって25、50、125、300及び600mgであった。若年及び老年男性において観察された効果は、用量関連性であった。除脂肪量及び筋力の増加は、テストステロン用量と相関し、老年男性及び若年男性において異なっていなかった。最良の忍容性は、高い正常血清テストステロンレベル、低い有害作用のレベル並びに除脂肪量及び筋力の増加を示す用量である125mgの用量で達成された(Bhasin、Woodhouseら 2005)。筋肉に対するアンドロゲンの効果は、性腺機能低下症男性(Bhasin、Storerら 1997; Snyder、Peacheyら 2000)及びグルココルチコイド療法を受けている男性(Crawford、Liuら2003)においてよく認識されている。
【0111】
年齢20~95才の男性558名を対象とした研究において、年齢60~79才の男性においては血清DHEA-Sが筋力及び筋肉量の独立予知因子であることが判明した(Valenti、Dentiら 2004)。これらの結果は、血清DHEA-Sと筋力の相関を示す別の研究を一致している(Kostka、Arsacら 2000; Bonnefoy、Patricotら 2002)。
【0112】
一日量50又は100mgのDHEAのそれぞれ6カ月又は12カ月の投与により、老年男性において膝伸展筋力が改善された(Yen、Moralesら 1995)。しかし、60~80才の女性においては、対象数は少なかったが、DHEAの投与後に有意な効果が認められなかった。DHEA投与後の筋肉量増加は、女性においては、(Yen、Moralesら 1995; Diamond、Cusanら 1996; Morales、Haubrichら 1998; Gebre-Medhin、Husebyeら 2000; Villareal、Holloszyら 2000; Gordon、Graceら 2002; Johannsson、Burmanら 2002)によって観察されているが、他の人々は、有意な効果を見出していない(Yen、Moralesら 1995; Callies、Fassnachtら 2001; Percheron、Hogrelら 2003)。
【0113】
除脂肪体重は、DHEA治療によって増加することが報告されている(Diamond、Cusanら 1996; Morales、Haubrichら 1998; Gebre-Medhin、Husebyeら 2000; Villareal、Holloszyら 2000; Nair、Rizzaら 2006; Gurnell、Huntら 2008)。
【0114】
姿勢のバランスの悪さ及び転倒は、加齢時に股関節骨折と次第に関連するようになる(Cummings及びNevitt 1989)。実際に、高齢者における骨折の80%は末梢骨粗鬆症の非存在下で起こると推定されている(Siris、Chenら 2004)。このようなデータは、高齢成人において筋肉量及び筋力を維持することによって転倒を予防することが主に重要であることを強調している(Chang、Mortonら 2004)。したがって、骨折の大部分は、筋肉量の減少及び筋力低下による転倒に起因するが、筋肉量の減少及び筋力低下は、との程度までできるかは不明であるが、適当なDHEA補充によって予防できるはずである。
【0115】
骨の生理機能におけるアンドロゲン及びエストロゲンの役割
骨の生理機能におけるアンドロゲンの中心的な役割は、文書で十分に裏付けられている(Labrie、Diamondら 1997b; Martel、Sourlaら 1998)。実際に、テストステロン及びDHTはいずれも、造骨細胞様の骨肉腫細胞においてα(I)プロコラーゲンmRNAの転写を増加させた(Benz、Hausslerら 1991)。DHTによる処置が、精巣摘出ラットにおいて軟骨内性骨の発生を刺激することも示されている(Kapur及びReddi 1989)。更に、腰椎、大腿骨転子及び全身において測定された骨密度は、エストロゲン+テストステロンインプラントより、閉経後女性における24カ月の治療期間にわたって、E2単独よりも多く増加した(Davis、McCloudら 1995)。
【0116】
更に、確立された骨粗鬆症において、タンパク質同化ステロイドは、骨量減少の予防を助けることが報告されている(Hennernan及びWallach 1957)。同様に、皮下E2及びテストステロンインプラントは、閉経後女性における骨粗鬆症の予防において経口エストロゲンより効率的であることが判明している(Savvas、Studdら 1988)。その研究において観察された差は、エストロゲンの投与経路が異なることに帰せられているが、差の原因は、テストステロンの作用である可能性が高い。骨形成増加の指数として、骨形成のマーカーである血清オステオカルシンの増加が、メチルテストステロン+エストロゲンを投与されている閉経後女性において、エストロゲン単独と比較して認められた(Raisz、Wiitaら 1996)。血清オステオカルシンに対する同様な刺激作用が、12カ月間にわたる経皮DHEAによる閉経後女性の治療後に観察された(Labrie、Diamondら 1997a)。更に、アンドロゲン療法は、デカン酸ナンドロロンを用いて観察した場合、閉経後女性において椎骨骨密度を増加させることが判明している(Need、Horowitzら 1989)。アンドロゲンは、閉経後女性におけるその独特な作用のため、得られる支持がますます増加しているが、男性化効果がテストステロンの使用によって観察される(Burger、Hailesら 1984; Studd、Collinsら 1977)。
【0117】
本発明者らは、DHEAが、雌ラット(Luo、Sourlaら 1997)及び閉経後女性(Labrie、Diamondら 1997a)のいずれにおいても骨に対して有益な効果を及ぼすことを示した。したがって、無傷の雌ラットにおいて、DHEAによる治療は、全骨格、腰椎及び大腿骨の骨密度(BMD)を増加させる(Luo、Sourlaら 1997)(図7図8及び図9)。
【0118】
SERMであるラロキシフェン及びトレミフェンが骨密度を増加させることは、立証されている(Smith 2006)。クエン酸クロミフェンは、血清テストステロン及び性腺機能低下症の症状/徴候に関して正の結果を示している(Shabsigh、Kangら 2005; Whitten、Nangiaら2006)。
【0119】
DHEAと腹部肥満
腹部肥満は、インスリン抵抗性、2型糖尿病及びアテローム動脈硬化症のリスク増加と関連している(Shimokata、Tobinら 1989; Cefalu、Wangら 1995; Ferrannini、Nataliら 1997; Kopelman 2000)。その他の因子のうち、ホルモンの変化、とりわけ、副腎によるDHEA及びDHEA-Sの分泌の減少が関与因子と考えられている(Tchernof, Labrieら 1996)。ラット及びマウスモデルにおいて、DHEA投与は、食餌誘発性の肥満で内臓脂肪蓄積を減少させる(Yen、Allanら 1977; Cleary及びZisk 1986; Mohan、Ihnenら 1990; Hansen、Hanら 1997)。DHEAの有益な効果は、加齢に伴って起こるインスリン抵抗性の低下に対しても観察されている(Han、Hansenら 1998)。
【0120】
12カ月間にわたってDHEAクリーム剤を投与された閉経後女性で行った研究において、本発明者らは、インスリン抵抗性は減少したが、大腿のレベルでの皮下脂肪も減少したことを見い出した(Diamond、Cusanら 1996)。更に、65~78才の男性及び女性において6カ月間にわたってDHEA 50mgを毎日投与することにより、腹部内臓脂肪が女性において10.2%、男性において7.4%減少した(Villareal及びHolloszy 2004)。同じ研究において、腹部皮下脂肪は、女性及び男性のいずれにおいてもで6%減少した。更に、グルコース耐容試験に対する血清インスリンの応答性は13%低下したが、グルコース応答に変化は認められず、したがって、DHEA投与後のインスリン感受性指数が34%改善された。DHEA作用の改善は、高コレステロール血症を患っている中年男性でも認められた(Kawano、Yasueら 2003)。
【0121】
同じグループによって行われた過去の研究において、6カ月間にわたるDHEA投与により、総体脂肪量は1.4kg減少したが、除脂肪量は0.9kg増加した(Villareal、Holloszyら 2000)。
【0122】
36週間の男性追跡調査を含む、高齢男性1353名を登録した25件の無作為小規模臨床試験において、DHEAは、その生物活性アンドロゲン代謝産物への変換と厳密に関連する体脂肪量の減少と関連していた(Corona、Rastrelliら 2013)。脂質及び血糖代謝、骨、性的機能及びクオリティオブライフに対して有意な効果は認められなかった。
【0123】
DHEAと性的機能
地域ベースの研究は、8%から50%の女性における自己申告による性機能障害を示している。実際に、低性欲及び性機能障害は、女性において30才から加齢に伴って(Laumann、Paikら 1999)及び卵巣切除後に(Nathorst-Boos及びvon Schoultz 1992)増加する。心理社会的要因及び健康要因が低い性的興奮及び性欲に関与する(Dennerstein、Dudleyら 1997)が、低アンドロゲンが独立した役割を果たすと考えられている(Bachmann,、Bancroftら 2002; Miller, Rosnerら 2004)。
【0124】
アンドロゲンは、女性の性的興奮能力(arousability)、快感並びにオルガスムの強度及び得やすさにおいて役割を果たすことが知られている。アンドロゲンは、膨潤の神経血管性平滑筋応答及び潤滑の増加にも関与する(Basson 2004)。
【0125】
加えて、ERT又はHRTへのアンドロゲンの追加の詳細な利益が、全般的なウェルビーイング、エネルギー、気分及び全般的なクオリティオブライフについて記載されている(Sherwin及びGelfand 1985; Sherwin 1988)。主要な精神症状及び心身症状、即ち、被刺激性、神経過敏、記憶及び不眠の改善が、エストロゲン補充療法(ERT)へのアンドロゲンの追加後に観察されている(Notelovitz、Wattsら 1992)。
【0126】
性欲及び/又は性的満足感の喪失は、閉経後早期に一般的である。ホルモン補充療法(HRT)へのアンドロゲンの追加は、これらの問題に対して有益な効果を有することが知られている。(Shifren、Braunsteinら 2000)は、貼付剤によって投与された経皮テストステロンが、外科手術により閉経になった女性において、性交頻度、快感及び気分を改善したことを見出している。この効果は、正常上限の血清テストステロンレベルをもたらす用量であるテストステロン一日量300μgで見られた。テストステロン治療は、性欲減退を訴える非アンドロゲン欠乏女性においても研究されている(Goldstat、Brigantiら 2003)。テストステロンによるこのような治療は、性欲、性的機能及びクオリティオブライフをプラセボと比較して改善した。同様に、アンドロゲンレベルが正常な閉経女性において、エストロゲンへのメチルテストステロンの追加は、エストロゲン単独と比較して、性欲及び性交頻度を増加させた(Lobo、Rosenら 2003)。性的関心、欲求の障害のある女性のうち、アンドロゲン療法は、基準範囲の下位四分位点内の遊離血清テストステロンレベルを有する女性に提案された(Bachmann、Bancroftら 2002)。実際に、性的欲求低下障害(HSDD)を治療するためにテストステロンの使用が増加されている(Sherwin及びGelfand 1987; Davis、McCloudら 1995; Shifren、Braunsteinら 2000; Goldstat、Brigantiら 2003)。これらの無作為臨床試験は、テストステロンがHSDDを有する女性において有効であることを立証している。
【0127】
副腎由来のアンドロゲン欠乏症の性質の明白な例が、副腎機能不全の症例によって提供されている。(Arlt、Calliesら1999)は、副腎機能不全を患っている女性の集団において、DHEA、1日50mg及びプラセボの効果を4カ月にわたって研究した。DHEAによる治療は、正常範囲下限の血清テストステロンを上昇させた。このような治療は、性的想像、関心及び満足の頻度を増加させた。ウェルビーイング、うつ状態及び不安も改善された。DHEAが300mgの高い一日量で投与された研究において、アダルトビデオに応答して、より大きな主観的な精神状態(p<0.016)及び身体的状態(p<0.030)が、観察された(Hackbert及びHeiman 2002)。
【0128】
現在、血清テストステロンは総アンドロゲンプールを反映しないと理解されていることから(Labrie、Belangerら 2006)、血清レベルは総アンドロゲンのごく一部を表し、総アンドロゲンは50%までが細胞内で産生され且つ循環テストステロンレベルによって反映されないという理由で、性的機能を改善するには血清テストステロンを超生理学的レベルに増加させる必要があることは驚くことではない。
【0129】
アンドロゲンは女性における性機能障害に非常に不可欠であり、女性におけるアンドロゲンの実質的に100%がDHEAから生じ(Labrie 2010a; Labrie、Martelら 2011)、女性はDHEA投与により利益を得る(Labrie、Archerら 2009a)ので、低血清テストステロンの存在下又は非存在下において性欲喪失及び性機能障害の症状(又はアンドロゲン欠乏症の他の症状)を有する男性におけるDHEA投与も同様に、DHEA投与からの有益な効果を有すると考えることは妥当である。
【0130】
DHEAと心血管疾患
アンドロゲンが、男性の心血管疾患(CVD)に対して有益な効果を有するという確かな証拠がある(Alexandersen、Haarboら 1996; Anker、Chuaら 1997)(Beer、Jakubowiczら 1996; Anker、Clarkら 1997; Hak、Wittemanら 2002)。これは、高血清DHEAが、死亡の減少及びCVDと関連しているという観察(Alexandersen、Haarboら 1996)と一致している。
【0131】
臨床試験は、男性におけるテストステロン補充療法が、狭心症(English、Steedsら 2000; Malkin、Pughら 2004)、鬱血性心不全(Pugh、Jonesら 2004; Malkin、Pughら 2006)及び2型糖尿病(Kapoor、Malkinら 2005; Kapoor、Goodwinら 2006)を有するテストステロン欠乏男性に役立つことを示唆している。更に、ヒトにおいて、データは、DHEAがアテローム動脈硬化症を阻害し(Eich、Nestlerら 1993; Kurzman、Pancieraら 1998; Hayashi、Esaki ら 2000; Komesaroff 2008)、心血管リスクマーカーを低減させ(Mortola及びYen 1990; Beer、Jakubowiczら 1996)、内皮機能を改善する(Kawano、Yasueら 2003; Williams、Dawoodら 2004)ことを示している。アテローム性動脈硬化症に対するDHEAの保護的役割は、霊長類でも観察されており(Christopher-Hennings、Kurzmanら 1995)、特にウサギにおいて周知である(Gordon、Bushら 1988; Eich、Nestlerら 1993)。
【0132】
TOM試験は別として、一連の試験のメタ分析は、有害な心血管転帰を示さなかった(Calof、Singhら 2005; Haddad、Kennedyら 2007; Fernandez-Balsells、Muradら 2010)。Shoresら、2012は、テストステロンで治療された患者における死亡リスクの39%低下及び20%のより低い心臓疾患の発生率を観察した(Shores、Smithら 2012)。
【0133】
運動能力の限界がある老年男性におけるテストステロン(TOM; Testosterone in Older Men with Mobility Limitation)試験において、心血管事象を経験した男性では、経験しなかった男性よりも血清遊離テストステロンレベルの増加が大きかった(Basaria、Davdaら 2013)。
【0134】
低血清DHEA-Sは、心血管事象の発生率(Mitchell、Sprecherら 1994)、血管造影冠状動脈狭窄の程度(Herrington、Gordonら 1990)及び発生率(Herrington、Nanjeeら 1996)と正の関連を示すことがわかっており、したがって、これはCVDに対するDHEA-Sの保護的役割を示唆している。更に、低血清テストステロンが、男性における冠状動脈疾患リスクの増加と関連している(Turhan、Tulunayら 2007)のに対し、低DHEAレベルは、CVDによる早期死亡の原因となることが報告されている(Barrett-Connor、Khawら 1986; Tivesten、Vandenputら 2009; Ohlsson、Labrieら 2010)。
【0135】
DHEAと脳
閉経の従来の症状(Raven及びHinson 2007)に加えて、加齢に伴うDHEAの減少は、記憶及び認知機能の喪失と関連づけられている(Flood及びRoberts 1988; Grimley Evans、Maloufら 2006)。
【0136】
アルツハイマー病によって誘発される神経損傷の病因及び治療におけるDHEAの役割が、提示されている(Simpkins、Greenら 1997; Weill-Engerer、Davidら 2002; Yau、Rasmusonら 2003)。海馬は、学習、認知及び記憶に関与する脳領域である。この脳領域は、加齢時に及びアルツハイマー病において顕著な変化を示す(Beck及びHanda 2004)。エストロゲン及び脳中で局所的にエストロゲンを形成できるDHEAは、記憶及び学習機能を増強することが示されている(McEwen、Gouldら 1995; Foy 2001; Vallee、Mayoら 2001)。研究により、DHEA-Sが、脳機能に影響を及ぼし、記憶、気分及びエネルギーに正の影響を及び身体活動性に間接的な影響を及ぼす可能性があることが示されている(Wolkowitz、Reusら 1999; Hunt、Gurnellら 2000; Huppert及びVan Niekerk 2001)。
【0137】
ヒトにおいては、長期記憶の試験がDHEA投与によって改善された(Barrett-Connor及びEdelstein 1994)。加えて、部分的アンドロゲン欠乏症を有する加齢男性における12カ月間にわたる1日当たり25mgのDHEAの経口投与は、関節痛に加えて気分及び疲労を改善した(Genazzani、Ingleseら 2004)。
【0138】
うつ状態、記憶喪失、認知喪失及び脳細胞活性に対するアンドロゲンの役割が、提示されている(Azad、Pitaleら 2003; Hajszan、MacLuskyら 2007; Almeida、Yeapら 2008)。脳中でDHEAからも合成され得るエストロゲンは、アルツハイマー病、記憶喪失及び認知喪失に有益な役割を有することが示されている(Rocca、Bowerら 2007)。3つのメタ分析により、閉経後にエストロゲンを使用した女性において、アルツハイマー病リスクが20~40%低下することが示されている(Yaffe 1998; Hogervorst、Williamsら 2000; LeBlanc、Janowskyら 2001)。エストロゲンが脳におけるβ-アミロイド沈着を低減させるのに対し、プロゲステロンは逆の効果を有する(Xu、Gourasら 1998; Huang、Guanら 2004)。現在、神経保護(Rocca、Bowerら 2007)、心血管疾患(Manson、Bassukら 2006)及び全死亡率(Rocca、Grossardtら 2006)に対するエストロゲンの有益な効果には決定的な年齢時機があるという、臨床研究からの動かぬ証拠がある。
【0139】
エストロゲンの欠如と認知障害又は認知症との関連は、実験室データによって裏付けられている。中でも、エストロゲンは卵巣摘出ラットの海馬中の樹状突起棘上でのシナプス形成を改善する(McEwen及びAlves 1999; Monk及びBrodaty 2000)。更に、エストロゲンは、脳血流及びグルコース代謝を改善し、酸化防止剤として作用し得る(Gibbs及びAggarwal 1998; McEwen及びAlves 1999; Monk及びBrodaty 2000)。また、エストロゲンは、β-アミロイド1-42が細胞内カルシウム増加の誘発及びミトコンドリア損傷の惹起を防ぐことがわかっている(Chen、Nilsenら 2006; Morrison、Brintonら 2006)。
【0140】
ますます多くの証拠が、脳での神経保護における性ステロイド、即ち、エストラジオール及びテストステロンの役割を示唆している(Pike、Carrollら 2009)。細胞培養及び動物の研究からのデータは、テストステロンが神経を保護することを裏付けており(Holland、Bandelowら 2011)、同じデータが、老年男性における認知に対する有益な効果を示唆している(Tan及びPu 2003)。最近の前臨床研究において、テストステロンは、海馬細胞における神経及び血管の加齢を低減させ(Ota、Akishitaら 2012)、同時に認知機能低下を減少させた。
【0141】
アルツハイマー病を有する老年男性では、対照と比較して低い血清テストステロンレベルが認められた(Hogervorst、Bandelowら 2004)。
【0142】
寿命における低DHEA
低DHEA-Sは、短寿命に関連している(Kushnir、Blamiresら 2010; Labrie 2010b; Araujo及びWittert 2011; Traish、Kangら 2011; Maggi、Buvatら 2013)。
【0143】
DHEAの他の潜在的利益
加齢時の副腎によるDHEA及びDHEA-S形成が70~95%減少すると、末梢標的組織におけるアンドロゲン及びエストロゲンの形成が劇的に減少する。これは、加齢性疾患、例えば、インスリン抵抗性(Coleman、Leiterら 1982; Schriock、Buffingtonら 1988)及び肥満(Nestler、Barlasciniら 1988; MacEwen及びKurzman 1991; Tchernof、Despresら 1995)の病態形成に関与する可能性が高い。DHEAは、一連の動物モデルにおいて抗発癌活性を及ぼすことがわかっている(Schwartz、Pashkoら 1986; Gordon、Shantzら 1987; Li、Yanら 1993)。また、DHEAは、インビトロで(Suzuki、Suzukiら 1991)並びにHIV(Henderson、Yangら 1992)を含む真菌性及びウイルス性疾患においてインビボで(Rasmussen、Arrowoodら 1992)、免疫調節効果を有することも示されている。他方、免疫系に対するDHEAの刺激作用は、閉経後女性において記載されている(Casson、Andersenら 1993)。
【0144】
DHEAと脂質
変動期間にわたる種々の用量のDHEAの投与後に、総コレステロール及び高密度リポタンパク質(HDL)コレステロールのわずかであるが有意な減少が報告されている(Nestler、Barlasciniら 1988; Mortola及びYen 1990; Arlt、Calliesら 1999; Barnhart、Freemanら 1999; Petri、Lahitaら 2002; Petri、Measeら 2004)のに対し、他の研究では、全コレステロール及びHDLコレステロールに加えて、低密度リポタンパク質(LDL)コレステロールが減少した(Gebre-Medhin、Husebyeら 2000; Dhatariya、Bigelowら 2005)。DHEAが一日量50mgで(Arlt、Calliesら1999; Barnhart、Freemanら1999; Hunt、Gurnellら 2000)並びに10%DHEAクリーム剤4~6g(Labrie、Belangerら 1997a)、1600mg(Mortola及びYen 1990)及び25mg(Casson、Santoroら 1998)で投与された以前の研究では、血清HDLコレステロールのわずかな減少が報告されているのに対し、他の研究では、50mg/日(Morales、Nolanら1994; Barnhart、Freemanら1999; Villareal、Holloszyら2000)又は25mg/日(Kawano、Yasueら 2003; Lovas、Gebre-Medhinら 2003)で有意な効果は認められなかった。
【0145】
DHEAは、エストロゲンとは逆に、トリグリセリドを増加させない(Diamond、Cusanら 1996)。実際に、DHEAでは、トリグリセリドの減少がしばしば認められる(Lasco、Frisinaら 2001; Chang、Lanら 2002; Dhatariya、Bigelowら 2005)。HDLコレステロールの増加及びLDLコレステロールの減少も報告されている(Lasco、Frisinaら 2001)が、総コレステロールは減少のみが報告されている(Libe、Barbettaら 2004; Williams、Dawoodら 2004)。また、閉経後女性におけるDHEA投与は、血清アポリポタンパク質Aを減少させ、HDLコレステロールを増加させることが報告されている(Casson、Santoroら 1998; Morales、Haubrichら 1998)。DHEAは、血清Lp(A)を減少させることがわかっており(Barnhart、Freemanら 1999)、この効果はCVDに有益であるはずである(Lobo 1991)。
【0146】
アンドロゲンの影響下でのトリグリセリド及びHDLコレステロールレベルの低下は、HDLのクリアランスを増加させる肝臓のリパーゼ活性の増加に起因することが報告されている(Haffner、Kushwahaら 1983; Hazzard、Haffnerら 1984; Kantor、Bianchiniら 1985)。HDL産生の減少ではなく、コレステロール逆転送(HDLクリアランスの増加による末梢組織からのコレステロールの除去)の増加が、HDL及びトリグリセリドレベルの低下の原因となるようである(Wu及びvon Eckardstein 2003)。総コレステロール、HDLコレステロール及び場合によってはLDLコレステロールに対するDHEAの比較的小さい(存在する場合)阻害効果にはまた、肝臓のリパーゼ活性に対するDHEA由来アンドロゲンの効果が関与する可能性があり、したがって肝臓のコレステロール産生が損なわれる可能性がある(Tan、Shiuら 1998)。
【0147】
DHEAは脂質に対してごくわずかな効果を有するが臨床的に有意な効果は有さないというのが、統一見解である(Arlt、Justlら 1998; Morales、Haubrichら 1998; Gebre-Medhin、Husebyeら 2000; Lasco、Frisinaら 2001; Poretsky、Brillonら 2006; Gurnell、Huntら 2008; Lovas及びHusebye 2008)。しかし、本発明者らの前臨床研究は、DHEAは血清トリグリセリドに対する阻害効果を示しているが、コレステロールに対する効果を有さない(図10)が、EM-800(アコルビフェンのプロドラッグ、遊離塩)は血清トリグリセリド(図10)及びコレステロール(図10及び図11)を減少させることを示している。
【0148】
DHEAの利益:エストロゲン様作用とアンドロゲン作用の組合せ
本発明は、男性及び女性における性ステロイドの生理機能に関する本発明者らの理解と、閉経期の女性は卵巣によるエストロゲン分泌の停止のためエストロゲンが欠乏しているだけでなく、既に数年にわたってアンドロゲンへの曝露が徐々に減少しているという認識とについて最近達成された進展に基づく。実際に、正常女性は、男性において分泌されるアンドロゲンの約50%に相当する量のアンドロゲンを産生する(Labrie、Belangerら 1997a)。男性及び女性におけるアンドロゲンのプールは、DHEA及びDHEA-Sの血清濃度の低下と並行して、30才の年齢から次第に減少する(Labrie、Belangerら 1997b)。アコルビフェンのようなSERMの追加は、テストステロンの血清レベルを増加させ(図12)且つ骨量減少の保護及びSERM投与の他の利益に対する正の効果を増加させるはずである。図12に、GnRH/LH分泌に対するエストロゲンの負のフィードバック効果を遮断することによるDHEA及びアコルビフェンの効果の略図が提示され、雄カニクイザルにおいて得られた図13及び図14に更に図示されるように、血清テストステロンレベルの増加が観察される。
【0149】
アコルビフェンがヒトにおいてLH分泌を増加させたことは、進行性乳がんを有する閉経前女性においてアコルビフェン20mgの連日経口投与6カ月で血清E2レベルが222pg/mlから2030pg/mlに増加したことによって示される。
【0150】
アコルビフェンの有益な効果
図15から、腫瘍成長に対するタモキシフェンの約100%の刺激作用が、EM-652.HCl(アコルビフェン)との同時処置によって完全に遮断されたことがわかる。EM-652.HClは、その純粋な抗エストロゲン活性に基づき、ヌードマウスにおけるヒト乳がんZR-75-1異種移植片の成長に対して刺激作用を及ぼさなかった。
【0151】
本発明者らは、SERMが血清コレステロールに対して有する有益な効果と、骨に対する有益なエストロジェン又はエストロゲン様効果との相関にも注目した。SERMはまた、高血圧症、インスリン抵抗性、糖尿病及び肥満(とりわけ、腹部肥満)に対して有益な効果を有する。理論に束縛されるものではないが、SERMは、その多くが1~2つの炭素原子によって連結された2つの芳香環を好ましくは有し、エストロゲン受容体によって最も認識される分子の前述の部分によってエストロゲン受容体と相互作用することが予想される。好ましいSERMは、他の組織では有意な拮抗性を有さずに乳房及び通常は子宮組織で拮抗性を選択的に引き起こし得る側鎖を有する。したがって、SERMは望ましくは、乳房において抗エストロゲン薬として機能し得るのに対し、驚いたことに望ましくは、骨及び血中においてはエストロゲンとして機能する(又はエストロゲン様活性を示す)(脂質及びコレステロールの濃度が好都合に影響を受ける場合)。コレステロール及び脂質に対する好都合な効果は、コレステロール及び脂質の不適切なレベルによって悪影響を受けことが知られているアテローム性動脈硬化症に対する好都合な効果につながる(図10及び図11)。
【0152】
心血管症状、アルツハイマー病、認知機能の喪失及び不眠症には、中枢神経系に位置するエストロゲン受容体が確実に関与する。おそらく、脳中のエストロゲン(又はアンドロゲン)レベルの低下が、少なくともある程度はこれらの状態を説明できる。外来性エストロゲン、特に、性ステロイド前駆体の投与によって形成されるもの(即ち、エストラジオール)は、脳関門を通過してエストロゲン受容体と結合し、正常なエストロジェン作用を復元し得る。他方、本発明のSERM、より特定するとアコルビフェン系のものは、実施例8に示すように、脳関門を通過できない。したがって、それらは、脳中のエストロゲンの正の効果を拮抗できないが、乳房におけるエストロゲンの負の効果を拮抗し、この組合せ(SERM+性ステロイド前駆体)が、前記状態の治療又は前記状態を獲得するリスクの低下にとって特に魅力的なものとなる。
【0153】
既に記載した通り、アンドロゲンの役割も、全てのこれらの症状に対して示唆した。実際に、DHEAは、生理的必要性に応じて脳中でエストロゲン及びアンドロゲンを提供し得る。
【0154】
性ステロイド前駆体とSERM又は抗エストロゲン薬との併用の全体な相加的利益
EM-652(アコルビフェン)は、有害作用がいずれのパラメーターに対しても認められておらず、女性化乳房症、乳がん及び骨粗鬆症の予防及び治療に対しては顕著な有益効果を及ぼすはずである。
【0155】
本明細書中で論じた好ましいSERM又は抗エストロゲン薬は、(1)本発明に感受性であると述べた全ての疾患、(2)治療的及び予防的適用の両方、並びに(3)好ましい医薬組成物及びキットに関連する。
【0156】
所与の疾患の治療又はその発症リスクの低下を必要とする患者は、このような疾患と診断されている患者又はこのような疾患を獲得し得る患者である。
【0157】
特に明記した場合を除き、本発明の活性化合物の好ましい投与量(投与の濃度及び方法)は、治療目的及び予防目的のいずれに対しても同一である。本明細書中で論じた各活性成分の投与量は、治療される疾患(又は発症の尤度が低減される疾患)にかかわらず同一である。
【0158】
特に言及した場合を除き又は文脈から明らかな場合を除き、本明細書中において、投与量は、医薬賦形剤、希釈剤、担体又は他の成分に影響を受けない活性化合物の重量を指すが、本明細書中の実施例に示されるように、このような追加成分を含めるのが望ましい。製薬業界で一般的に使用される任意の剤形(カプセル剤、丸剤、錠剤、注射剤等)が、本発明における使用に適当であり、「賦形剤」、「希釈剤」又は「担体」という用語には、この業界においてこのような剤形中に有効成分と一緒に典型的に含まれる非有効成分が含まれる。例えば、典型的なカプセル、丸剤、腸溶コーティング、固体又は液体の希釈剤又は賦形剤、矯味矯臭剤、保存剤等が含まれ得る。
【0159】
本明細書中で論じた治療法のいずれかに使用される有効成分は全て、1種又は複数の他の有効成分を更に含む医薬組成物中に配合できる。或いは、患者が最終的に高い血中レベルを有するように又はそうでなければ有効成分(又はストラテジー)の各々の利益を同時に享受するように、これらはそれぞれ、別個であるが時間的に十分に同時に投与してもよい。本発明の一部の好ましい実施形態において、例えば、1種又は複数の有効成分は、単一の医薬組成物中に配合すべきである。本発明の他の実施形態において、少なくとも2つの別個の容器を含むキットであって、少なくとも1つの容器の内容物の全部又は一部が、含まれる有効成分に関して少なくとも1つの他の容器の内容物と異なる、キットが、提供される。
【0160】
本明細書中で論じる併用療法はまた、治療又は予防が本発明に従って組合せの別の有効成分を含む場合に、当該疾患の治療(又はそのリスク低下)のための医薬の製造に1種の有効成分(組合せの)を使用することを含む。例えば、一実施形態において、本発明は、本併用療法が有効であると考えられる疾患のいずれかの治療においてインビボで性ステロイド前駆体と組み合わせて使用するための医薬の調製におけるSERMの使用を提供する。
【0161】
骨密度(BMD)測定値の限界は、周知である。一例として、BMD測定値は、ステロイド性抗エストロゲン薬ICI 182780で処置されたラットにおいて変化を示さなかった(Wakeling 1993)が、阻害性の変化は、組織形態計測によって認められた(Gallagher、Chambersら 1993)。同様な差が、タモキシフェンで報告された(Jordan、Phelpsら 1987; Sibonga、Evansら 1996)。
【0162】
骨密度の低下が、骨強度の低下と関連する唯一の異常でないことを示すべきである。したがって、それらの作用についてより適切な知識を得るために、種々の成分及び治療によって誘発される骨代謝の生化学的パラメーターの変化を分析することが重要である[Table 2(表2)]。
【0163】
骨代謝の重要な生化学的パラメーターに対してDHEAとアコルビフェンの組合せが、予想外の有益な効果を及ぼすことを示すことが特に重要である。実際に、DHEAは単独では、骨吸収のマーカーである尿中ヒドロキシプロリン/クレアチニン比に影響を及ぼさない。更に、カルシウム又はリンの1日尿中排泄量に対するDHEAの効果は検出できなかった(Luo、Sourlaら 1997)。EM-800(アコルビフェンのプロドラッグ、遊離塩)は、尿中ヒドロキシプロリン/クレアチニン比を48%低下させたが、DHEAと同様に、カルシウム又はリンの尿中排泄量に対するEM-800(アコルビフェンのプロドラッグ、遊離塩)の効果は認められなかった。更に、EM-800は、骨形成のマーカーである血清アルカリホスファターゼ活性に対する効果を有さなかったが、DHEAは、このパラメーターの値を約75%増加させた(Luo、Sourlaら1997)。
【0164】
DHEAとEM-800の組合せの予想外の効果の1つは、骨吸収のマーカーである尿中ヒドロキシプロリン/クレアチニン比に関連し、この比は、DHEAとEM-800の両方を組み合わせた場合に69%低下し、この値は、EM-800単独によって達成される48%の阻害と統計学的に差があった(p<0.01)が、DHEA単独では効果を示さなかった。したがって、EM-800へのDHEAの追加は、骨再吸収に対するEM-800の阻害効果を50%増加させる。最も重要なことに、EM-800(アコルビフェンのプロドラッグ、遊離塩)へのDHEAの追加の別の予想外の効果は、尿中カルシウムの約84%の減少[23.17±1.55から3.71±0.75μmol/24時間/100gに(p<0.01)]及び尿中リンの55%の減少[132.7±6.08から59.06±4.76μmol/24時間/100gに(p<0.01)]であった(Luo、Sourlaら 1997)。
【0165】
重要なことに、12カ月間にわたって処置された卵巣切除ラットにおけるアコルビフェンとDHEAの組合せは、骨形態計測に対して有益な効果を有していた。海綿骨体積は、骨強度に及び骨折の予防に特に重要である(図7)。例えば、前記研究において、脛骨の海綿骨体積は、卵巣切除ラットにおいて、DHEA単独では4.1±0.7%から11.9±0.6%に増加したが(p<0.01)、DHEAにEM-800を追加すると、海綿骨体積は14.7±1.4%まで更に増加し、これは無傷の対照で見られるのと同様な値であった(図7)。
【0166】
卵巣切除ラットにおいて、骨梁数は、DHEAによる処置により、卵巣切除対照と比較して0.57±0.08/mmの値から137%増加した(図8)。したがって、DHEAの刺激作用は1.27±0.1/mmに達したが、EM-800とDHEAによる同時処置により、骨梁数は、DHEA単独で達成されるのと比較して更に28%増加した(p<0.01)(図8)。同様に、DHEA処置へのEM-800の追加により、海綿骨分離が、DHEA単独で達成されるのと比較して更に15%減少し(p<0.05)、したがって、無傷対照で見られる値と差がない値が得られた。
【0167】
図7及び図8に提示される数値データを補うものとして、図9は、卵巣切除された処置動物(C)において、DHEAによって誘発される脛骨近位骨幹端の海綿骨体積が、卵巣切除対照(B)と比較して増加したこと、並びにDHEA処置(D)へのフルタミドの追加後にDHEAの刺激作用が部分的に阻害されたことを示している。他方、EM-800と組み合わせてDHEAを投与すると、結果として卵巣切除によって誘発されるオステオペニアが完全に予防され(E)、海綿骨体積は、無傷の対照(A)において見られるのと同等であった。
【0168】
【表2】
【0169】
【表3】
【0170】
骨組織形態計測に対するDHEAの刺激作用のアンドロゲン成分の重要性は、骨形成及び骨吸収のマーカーに対するDHEAの効果によっても裏付けられている。骨形成のマーカーである血清アルカリホスファターゼの濃度(Lauffenburger、Olahら 1977; Meunier、Salsonら 1987)は、OVX対照における51±4IU/Lから、DHEA処置動物における201±25IU/Lまで増加した。これは、骨形成に対するDHEAの刺激作用を示唆している[Table 3(表3)]。FLUは、このパラメーターに対するDHEAの刺激作用を65%回復させたが、EM-800には有意な効果がなかった。他方、コラーゲン分解中に放出されるヒドロキシプロリンは、コラーゲン合成において再利用されないので、コラーゲン代謝又は破骨細胞性骨吸収の有用なマーカーである。本研究において、尿中ヒドロキシプロリン/クレアチニン比は、OVX対照における11.7±1.2μmol/mmolからDHEA処置ラットにおける7.3±1.0μmol/mmolまで減少した(p<0.05)[Table 3(表3)]。FLUの投与は、このパラメーターに対するDHEAの阻害効果を完全に予防したが、EM-800は、DHEAの効果に対して統計的に有意な影響をもたらさなかった。
【0171】
更に、血清コレステロールは、DHEA処置によって2.29±0.16mmol/lから1.78±0.16mmol/lに22%低下した(p<0.05)。これは、純粋な抗アンドロゲン薬FLUでの併用処置によって中和される効果であった。他方、純粋な抗エストロゲン薬EM-800の追加により、総血清コレステロールは更に0.63±0.09mmol/lまで減少し(p<0.01)、したがって、65%の阻害効果に達した。血清トリグリセリドレベルの統計的に有意な変化は、使用した処置のいずれによっても観察されなかった[Table 3(表3)]。
【0172】
血清コレステロールに対するのEM-800(アコルビフェンのプロドラッグ、遊離塩)の強い阻害効果が、DHEAによる同時処置によって予防されない(Luo、Sourlaら 1997)ことに注目することもまた、興味深い。
【0173】
海綿骨強度及びその結果生じる耐破壊性は、海綿骨の総量だけでなく、骨梁の微細構造によっても異なり、これは、骨梁の数、サイズ及び分布によって決定される。閉経後女性における卵巣機能の喪失は、総海綿骨体積の有意な減少を伴い(Melsen、Melsenら 1978; Kleerekoper、Villanuevaら 1985)、これは、主に数の減少、及びそれほどではないにせよ、骨梁幅の減少と関連する(Weinstein及びHutson 1987)。
【0174】
本明細書中で論じたあらゆる適応症に対する、本発明の併用療法の態様を容易にするために、本発明は、同時投与のために単一組成物中にSERM及び性ステロイド前駆体を含む医薬組成物を企図する。この組成物は、経口投与、皮下注射、筋肉内注射又は経皮投与を含むがこれらに限定されない任意の従来の方法での投与に好適であり得る。他の実施形態において、1種又は複数のSERM及び性ステロイド前駆体を別個の又は1つの容器中に含むキットが提供される。このキットは、経口投与に適当な材料、例えば、錠剤、カプセル剤、シロップ剤等、及び経皮投与に適当な材料、例えば、軟膏剤、ローション剤、ゲル剤、クリーム剤、持続放出貼付剤等を含み得る。
【0175】
出願人らは、SERM又は抗エストロゲン薬及び性ステロイド前駆体の投与が、前記症状のいずれかの治療及び/又はその発生率の低下において有用であると考える。本発明の有効成分(SERM、抗エストロゲン薬若しくは前駆体又はその他のいずれであっても)は、配合して、種々の方法で投与できる。本発明に従って一緒に投与する場合、有効成分は、同時に又は別個に投与し得る。
【0176】
経皮又は経粘膜投与のための有効成分は、好ましくは、0.01%~5%のDHEA又は5-ジオールである。
【0177】
SERMを経皮的に投与できることは、アコルビフェン類似体がマウスにおいて経口又は経皮のいずれで投与されても、子宮重量に対するエストラジオールの刺激作用を拮抗するアクロビフェン類似体の有効性が同等であることによって示される(図16)。
【0178】
軟膏剤、ローション剤、ゲル剤、クリーム剤又は坐剤等として製剤化する場合、活性化合物は、ヒト皮膚又は粘膜と適合性があり且つ皮膚又は粘膜を経た化合物の経皮又は経粘膜透過を増強する、好適な担体と混合する。好適な担体は当技術分野で公知であり、例としてはKlucel HF及びGlaxal基剤が挙げられるが、これらに限定するものではない。いくつかは市販されており、例えば、Glaxal基剤が、Glaxal Canada Limited Company社から入手可能である。他の好適なビヒクルは、Koller及びBuri、S.T.P. Pharmaに見い出すことができる(Koller及びBuri 1987)。担体は、好ましくは、有効成分が、周囲温度において有効成分の使用濃度で可溶なものである。担体は、前駆体を皮膚又は粘膜の局部を経て血流中に実質的に透過させ、そこで望ましい臨床効果をもたらすのに十分な期間、流れ出すことも蒸発することもなく、組成物が適用された皮膚又は粘膜の局部に阻害薬を維持するのに十分な粘度を有するべきである。担体は、典型的には、いくつかの成分、例えば、医薬として許容される溶媒及び増粘剤の混合物である。有機溶媒と無機溶媒の混合物、例えば、水とエタノール等のアルコールの混合物は、親水及び親油溶解性を補助することができる。
【0179】
オビュール剤又は肛門坐剤等として製剤化する場合、活性化合物は、ヒト直腸粘膜と適合性の好適な担体と混合する。好ましい担体は、ハードファット(飽和脂肪酸のグリセリドの混合物)、特定するとWitepsol、特にWitepsol H-15基剤(Medisca社、Montreal、Canadaから入手可能)である。任意の他の親油性基剤、例えば、Fattibase、Wecobee、カカオバター、カカオ脂、又はWitepsol基剤の他の組合せも使用し得る。
【0180】
好ましい性ステロイド前駆体は、デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)(例えば、Proquina社、Orizaba、Veracruz、Mexicoから入手可能)である。
【0181】
担体はまた、軟膏剤、ローション剤及び坐剤に一般に使用されている、化粧品及び医療の技術分野において周知の種々の添加剤を含み得る。例えば、フレグランス、酸化防止剤、パーフューム、ゲル化剤、増粘剤、例えば、カルボキシメチルセルロース、界面活性剤、安定剤、皮膚軟化剤、着色剤及び他の同様な薬剤が存在し得る。
【0182】
本発明による治療は、無期限の継続に好適である。SERM又は抗エストロゲン性化合物及び性ステロイド前駆体は、経口経路によっても投与でき、従来の医薬賦形剤、例えば、噴霧乾燥ラクトース、微結晶セルロース及びステアリン酸マグネシウムを用いて経口投与用の錠剤又はカプセル剤に製剤化できる。
【0183】
活性物質は、固体の粉状の担体物質、例えば、クエン酸ナトリウム、炭酸カルシウム又は第二リン酸カルシウム及び結合剤、例えば、ポリビニルピロリドン、ゼラチン又はセルロース誘導体と混合し、場合によっては滑沢剤、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、「Carbowax」又はポリエチレングリコールを更に添加することによって、錠剤又は糖衣錠コアの状態にすることができる。言うまでもなく、経口投与形態の場合には、呈味改善物質を添加してもよい。
【0184】
更なる形態として、プラグカプセル剤、例えば、硬質ゼラチンのプラグカプセル剤、及び軟化剤又は可塑剤、例えば、グリセリンを含む密閉軟ゼラチンカプセル剤も使用できる。プラグカプセル剤は、活性物質を、好ましくは粒状物の形態で、例えば、増量剤、例えば、ラクトース、スクロース、マンニトール、バレイショデンプン若しくはアミロペクチン等のデンプン、セルロース誘導体又は高分散ケイ酸と混合して含有する。軟ゼラチンカプセル剤では、活性物質を好ましくは、好適な液体、例えば、植物油又は液体ポリエチレングリコール中に溶解又は懸濁させる。
【0185】
ローション剤、軟膏剤、ゲル剤又はクリーム剤は、余剰分がはっきりと見えないように皮膚に十分にすりこむべきであり、経皮透過の大部分が起こるまで、好ましくは少なくとも4時間、より好ましくは少なくとも6時間、皮膚のその領域を洗浄すべきでない。
【0186】
経皮貼付剤は、公知の技術に従って前駆体を送達するのに使用できる。それは典型的には、はるかに長い期間、例えば、1~4日間適用されるが、典型的には有効成分をより小さい表面積と接触して、有効成分の緩徐で絶え間ない送達を可能にする。
【0187】
開発されて使用されている多くの経皮薬物送達系が、本発明の有効成分の送達に好適である。放出速度は典型的には、マトリックス拡散によって又は有効成分の制御膜通過によって制御する。
【0188】
経皮装置の機械的態様は、当技術分野において周知であり、例えば、米国特許第5,162,037号、第5,154,922号、第5,135,480号、第4,666,441号、第4,624,665号、第3,742,951号、第3,797,444号、第4,568,343号、第5,064,654号、第5,071,644号、第5,071,657号で説明されており、これらの特許の開示を参照によって本明細書中に組み込む。更なるバックグラウンドが、欧州特許第0279982号及び英国特許出願第2185187号によって提供されている。
【0189】
装置は、粘着性マトリックス及びリザーバー型経皮送達装置を含む、当技術分野で公知の一般的なタイプのいずれかであることができる。装置は、有効成分及び/又は担体を吸収する繊維を組み込んでいる薬物含有マトリックスを含み得る。リザーバー型装置では、リザーバーは、担体及び有効成分に対して不透過性の高分子膜によって規定され得る。
【0190】
経皮装置では、装置自体が、有効成分と所望の限局した皮膚表面との接触を維持する。このような装置において、有効成分用の担体の粘度は、クリーム剤又はゲル剤の場合よりも懸念が少ない。経皮装置の溶媒系は、例えば、オレイン酸、直鎖アルコール、ラクテート及びジプロピレングリコール、又は当技術分野において公知の他の溶媒系を含み得る。有効成分は、担体中に溶解又は懸濁させることができる。
【0191】
皮膚に付着させるために、経皮貼付剤は、中央に孔が開いている外科用粘着テープ上に取り付けてもよい。粘着剤は好ましくは、使用前のその保護のために剥離ライナーによって被覆する。放出に好適な典型な材料としては、ポリエチレン及びポリエチレン加工紙、好ましくは、除去を容易にするためにシリコーンコーティングされたものが挙げられる。装置を適用するには、剥離ライナーを簡単に剥ぎ取り、粘着剤を患者の皮膚に付着させる。参照によって本明細書中にその開示を組み込む米国特許第5,135,480号には、皮膚に装置を固定するための非粘着手段を有する代替的な装置が記載されている。
【0192】
必要なのは、SERM、抗エストロゲン薬及び性ステロイド前駆体を、それぞれの血清濃度が所望のレベルを達成できる十分な方法及び投与量で投与することだけである。本発明の併用療法によれば、性ステロイド前駆体濃度が所望のパラメーターの範囲内に維持されると同時に、SERMの濃度が所望のパラメーターの範囲内に維持される。
【0193】
1つの好ましい性ステロイド前駆体はDHEAであるが、DHEA-S及び以下で論じる類似体も、下記の理由からとりわけ有効である。
【0194】
本発明の選択的エストロゲン受容体調節薬は、以下の特徴を有する分子式を有する: a)1~2つの介在炭素原子によって隔てられている2つの芳香環であって、未置換であるか又はヒドロキシル基若しくはインビボでヒドロキシルに変換される基で置換されている、2つの芳香環、並びにb)芳香環及び第三級アミン官能基又はその塩を有する側鎖。
【0195】
本発明の1つの好ましいSERMは、アコルビフェンである:
【0196】
【化5】
【0197】
アコルビフェン(EM-652.HCl; EM-1538とも称する)は、強力な抗エストロゲン薬EM-652の塩酸塩である。これは、米国特許第6,710,059号に開示されている。別の好ましいSERMは、ラソフォキシフェン{Oporia; CP-336,156; (-)-cis-(5R,6S)-6-フェニル-5-[4-(2-ピロリジン-1-イルエトキシ)フェニル]-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-2-オール、D-(-)-酒石酸塩}[Pfizer Inc.社(米国)から入手可能]である。
【0198】
別の好ましいSERMは、Wyeth Ayers社(米国)によって開発され、JP10036347(American Home Products社)に開示され、閉経後骨粗鬆症の予防のための米国で承認されているバゼドキシフェン{TSE 424; WAY-TSE 424; WAY 140424; 1-[[4-[2-(ヘキサヒドロ-1H-アゼピン-1-イル)エトキシ]フェニル]メチル]-2-(4-ヒドロキシフェニル)-3-メチル-1H-インドール-5-オール、酢酸塩}、及びWO97/32837に記載されている非ステロイド性エストロゲン誘導体である。本発明の他の好ましいSERMとしては、タモキシフェン{(Z)-2-[4-(1,2-ジフェニル-1-ブテニル)フェノキシ]-N,N-ジメチルエタンアミン}[Zeneca社(英国)から入手可能]、トレミフェン{(Z)-2-[4-(4-クロロ-1,2-ジフェニル-1-ブテニル)フェノキシ]-N,N-ジメチルエタンアミン}[Orion社(Finland)から商標Farestonで又はSchering-Plough社から入手可能]、Eli Lilly and Co社(米国)製のドロロキシフェン{(E)-3-[1-[4-[2-(ジメチルアミノ)エトキシ]フェニル]-2-フェニル-1-ブテニル]フェノール}:ラロキシフェン{[2-(4-ヒドロキシフェニル)-6-ヒドロキシベンゾ[b]チエン-3-イル][4-[2-(1-ピペリジニル)エトキシ]フェニル]-メタン塩酸塩}、LY 335124、LY 326315、LY 335563{6-ヒドロキシ-3-[4-[2-(1-ピペリジニル)エトキシ]フェノキシル]-2-(4-ヒドロキシフェニル)ベンゾ[b]チオペン塩酸塩}及びアルゾキシフェン{LY 353381、6-ヒドロキシ-3-[4-[2-(1-ピペリジニル)エトキシ]フェノキシル]-2-(4-メトキシフェニル)ベンゾ[b]チオフェン塩酸塩}が挙げられる。他の好ましいSERMは、イドキシフェン{(E)-1-[2-[4-[1-(4-ヨードフェニル)-2-フェニル-1-ブテニル]フェノキシ]エチル]ピロリジン}(SmithKline Beecham社、USA)、レボルメロキシフェン{3,4-trans-2,2-ジメチル-3-フェニル-4-[4-(2-(ピロリジン-1-イル)エトキシ)フェニル]-7-メトキシクロマン}(Novo Nordisk, A/S社、Denmark)(Shalmiら、WO97/25034、WO97/25035、WO97/25037、WO97/25038及びKorsgaardら、WO97/25036に開示)、GW5638(Willsonら、1997によって記載)及びインドール誘導体(MillerらによってEP 0802183A1に開示)である。また、大鵬薬品工業株式会社(日本)製のイプロキシフェン{TAT 59; (E)-4-[1-[4-[2-(ジメチルアミノ)エトキシ]フェニル]-2-[4-(1-メチルエチル)フェニル]-1-ブテニル]フェノールリン酸二水素塩}、Orion-Farmos Pharmaceutica社(Finland)から入手可能なオスペミフェン{FC 1271; (Z)-2-[4-(4-クロロ-1,2-ジフェニル-1-ブテニル)フェノキシ]エタノール}、SERM 3471、HMR 3339及びHMR 3656[Sanofi-Aventis社(France)製]、Wyeth-Ayers社によって開発されたピペンドキシフェン(ERA 923)、WO97/3283に記載されている非ステロイド性エストロゲン誘導体、QuatRx社(USA)によって開発されたフィスペミフェン並びにCelgene社(USA)によって開発されたCC 8490も挙げられる。
【0199】
製造業者による推奨通りに有効性のために必要に応じて使用される任意のSERMを、使用できる。適当な投与量は、当技術分野において公知である。市販されている任意の他の非ステロイド性抗エストロゲン薬を、本発明に従って使用できる。SERMと同様な活性を有する任意の化合物(例:ラロキシフェン)を使用できる。
【0200】
本発明に従って投与するSERMは、経口投与の場合には、1日当たり0.01~5mg/kg体重(好ましくは0.05~1.0mg/kg)の投与量範囲で投与するのが好ましく、平均体重を有する人間に対しては、2つの均等に分割された用量で1日当たり5mg、とりわけ1日当たり10mgが好ましく、又は非経口投与(即ち、筋肉内投与、皮下投与又は経皮投与)の場合には、1日当たり0.003~3.0mg/kg体重(好ましくは0.015~0.3mg/mL)の投与量範囲で投与するのが好ましく、平均体重を有する人間に対しては、2つの均等に分割された用量で1日当たり1.5mg、とりわけ1日当たり3.0mgが好ましい。好ましくは、SERMは、以下に記載するような医薬として許容される希釈剤又は担体と一緒に投与する。
【0201】
本発明の1つの好ましい抗エストロゲン薬は、AstraZeneca Canada Inc.社(Mississauga、Ontario、Canada)から入手可能なフルベストラント{Faslodex; ICI 182 780; 7α-[9-(4,4,5,5,5-ペンタフルオロペンチルスルフィニル)ノニル]エストラ-1,3,5(10)-トリエン-3,17β-ジオール}であり、これは、1カ月当たり250mgの投与量で筋肉内投与される。他の好ましい抗エストロゲン薬は、Schering AG社(Germany)製のSH 646である。
【0202】
本明細書中で推奨される全ての投与量に関して、担当臨床医は、個々の患者の応答をモニターし、それに応じて投与量を調整すべきである。
【実施例0203】
(実施例1)
本発明の好ましい化合物の合成例。
アコルビフェン[(S)-(+)-7-ヒドロキシ-3-(4'-ヒドロキシフェニル)-4-メチル-2-(4''-(2'''-ピペリジノエトキシ)フェニル)-2H-1-ベンゾピラン塩酸塩、EM-01538、(EM-652.HCl)]の合成。
【0204】
【化6】
【0205】
工程A: BF3.Et2O、トルエン; 100℃; 1時間。
工程C: 3,4-ジヒドロピラン、p-トルエンスルホン酸一水和物、酢酸エチル;窒素下において25℃で16時間、次いでイソプロパノール中で結晶化。
工程D、E及びF:
(1)ピペリジン、トルエン、ディーン-スターク装置、窒素下で還流、
(2)1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデカ-7-エン、DMF、還流3時間、
(3)CH3MgCl、THF、-20~0℃、次いで室温で24時間。
工程G、H: (1S)-(+)-10-カンファースルホン酸、アセトン、水、トルエン、室温、48時間。
工程HH: 95%エタノール、70℃、次いで室温で3日間。
工程HHR: 母液及び工程HHの洗液(wash)の再循環
(S)-10-カンファースルホン酸、還流;36時間、次いで室温で16時間。
工程I:
(1)DMF水溶液、Na2CO3、酢酸エチル;
(2)エタノール、希HCl;
(3)水。
【0206】
2-テトラヒドロピラニルオキシ-4-ヒドロキシ-2'-(4''-テトラヒドロピラニルオキシフェニル)アセトフェノン(4)の合成。2,4-ジヒドロキシ-2'-(4''-ヒドロキシフェニル)アセトフェノン 3(97.6g、0.4モル)(Chemsyn Science Laboratories社、Lenexa、Kansasから入手可能)の3,4-ジヒドロピラン(218mL、3.39モル)及び酢酸エチル(520mL)中懸濁液を、約25℃においてp-トルエンスルホン酸一水和物(0.03g、0.158mmol)で処理した。反応混合物を、外部加熱なしで窒素下において約16時間撹拌した。次いで、混合物を、炭酸水素ナトリウム(1g)及び塩化ナトリウム(5g)の水(100mL)溶液で洗浄した。相を分離させ、有機相をブライン(20mL)で洗浄した。各洗液を、酢酸エチル50mLで逆抽出した。有機相を全て合わせ、硫酸ナトリウムを通して濾過した。溶媒(約600mL)を、大気圧において蒸留によって除去し、イソプロパノール(250mL)を添加した。更なる溶媒(約300mL)を、大気圧において蒸留し、イソプロパノール(250mL)を添加した。更なる溶媒(約275mL)を、大気圧において蒸留し、イソプロパノール(250mL)を添加した。溶液を、約25℃において撹拌しながら冷却し、約12時間後に結晶性固体を濾過し、イソプロパノールで洗浄し、乾燥させた(116.5g、70%)。
【0207】
4-ヒドロキシ-4-メチル-2-(4'-[2''-ピペリジノ]-エトキシ)フェニル-3-(4'''-テトラヒドロピラニルオキシ)フェニル-7-テトラヒドロピラニルオキシ-クロマン(10)の合成。2-テトラヒドロピラニルオキシ-4-ヒドロキシ-2'-(4''-テトラヒドロピラニルオキシフェニル)アセトフェノン 4(1kg、2.42モル)、4-[2-(1-ピペリジノ)エトキシ]ベンズアルデヒド 5(594g、2.55モル)(Chemsyn Science Laboratories社、Lenexa、Kansasから入手可能)及びピペリジン(82.4g、0.97モル)(Aldrich Chemical Company Inc.社、Milwaukee、Wis.から入手可能)のトルエン(8L)中溶液を、ディーン-スターク装置を用いて、1当量の水(44mL)が収集されるまで、窒素下で還流させた。トルエン(6.5L)を、大気圧において蒸留によって溶液から除去した。ジメチルホルムアミド(6.5L)及び1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデカ-7-エン(110.5g、0.726モル)を添加した。溶液を室温で約8時間かき混ぜて、カルコン8をクロマノン9に異性化し、次いで、水及び氷(8L)並びにトルエン(4L)の混合物に添加した。相を分離させ、トルエン層を水(5L)で洗浄した。合わせた水性洗液をトルエン(3×4L)で抽出した。合わせたトルエン抽出物を最後にブライン(3×4L)で洗浄し、大気圧において5.5Lに濃縮し、次いで-10℃まで冷却した。窒素下で外部冷却及び撹拌を続けながら、塩化メチルマグネシウムのTHF(2.5L、7.5モル)(Aldrich Chemical Company Inc.社、Milwaukee、Wis.から入手可能)中3M溶液を、温度を0℃未満に維持しながら添加した。全てのグリニヤール試薬を添加後、外部冷却を除去し、混合物を室温まで温めた。混合物を、この温度で約24時間撹拌した。混合物を再び約-20℃まで冷却し、外部冷却及び撹拌を続けながら、塩化アンモニウム飽和溶液(200mL)を、温度を20℃未満に維持しながら、ゆっくりと添加した。混合物を2時間撹拌し、次いで塩化アンモニウム飽和溶液(2L)及びトルエン(4L)を添加し、5分間かき混ぜた。相を分離させ、水層をトルエン(2×4L)で抽出した。合わせたトルエン抽出物を、溶液が均一になるまで、希塩酸で洗浄し、次いでブライン(3×4L)で洗浄した。最後に、トルエン溶液を大気圧において2Lまで濃縮した。この溶液を、次の工程で直接使用した。
【0208】
(2R,S)-7-ヒドロキシ-3-(4'-ヒドロキシフェニル)-4-メチル-2-(4''-[2'''-ピペリジノ]エトキシ)フェニル)-2H-1-ベンゾピラン(1S)-10-カンファースルホン酸塩(±12)の合成。4-ヒドロキシ-4-メチル-2-(4'-[-2''-ピペリジノ]-エトキシ)フェニル-3-(4'''-テトラヒドロピラニルオキシ)フェニル-7-テトラヒドロピラニルオキシクロマン(10)のトルエン溶液に、アセトン(6L)、水(0.3L)及び(S)-10-カンファースルホン酸(561g、2.42モル)(Aldrich Chemical Company Inc.社 Milwaukee Wisから入手可能)を添加した。混合物を窒素下で48時間かき混ぜ、その後、固体の(2R,S)-7-ヒドロキシ-3-(4'-ヒドロキシフェニル)-4-メチル-2-(4''-[2'''-ピペリジノ]エトキシ)フェニル)-2H-1-ベンゾピラン(1S)-10-カンファースルホン酸塩(12)を濾過し、アセトンで洗浄し、乾燥させた(883g)。この材料を、更に精製せずに次の(HH)工程で使用した。
【0209】
(2S)-7-ヒドロキシ-3-(4'-ヒドロキシフェニル)-4-メチル-2-(4''-[2'''-ピペリジノ]エトキシ)フェニル)-2H-1-ベンゾピラン(1S)-10-カンファースルホン酸塩[13、(+)-EM-652(1S)-CSA塩]の合成。(2R,S)-7-ヒドロキシ-3-(4'-ヒドロキシフェニル)-4-メチル-2-(4''-[2'''-ピペリジノ]エトキシ)フェニル)-2H-ベンゾピラン(1S)-10-カンファースルホン酸塩±12(759g)の95%エタノール中懸濁液を、固体が溶解するまで、撹拌しながら約70℃に加熱した。溶液を撹拌しながら室温まで放冷し、次いで(2S)-7-ヒドロキシ-3-(4'-ヒドロキシフェニル)-4-メチル-2-(4''-[2'''-ピペリジノ]エトキシ)フェニル)-2H-1-ベンゾピラン(1S)-10-カンファースルホン酸塩13のわずかな結晶を播種した。溶液を室温で合計約3日間撹拌した。結晶を濾過し、95%エタノールで洗浄し、乾燥させた(291g、76%)。生成物の収率は94.2%、純度は98.8%であった。
【0210】
アコルビフェン[(S)-(+)-7-ヒドロキシ-3-(4'-ヒドロキシフェニル)-4-メチル-2-(4''-(2'''-ピペリジノエトキシ)フェニル)-2H-1-ベンゾピラン塩酸塩、EM-01538、(EM-652.HCl)]の合成。化合物13(EM-652-(+)-CSA塩、500mg、0.726mmol)のジメチルホルムアミド(11μL、0.15mmol)中懸濁液を0.5M炭酸ナトリウム水溶液(7.0mL、3.6mmol)で処理し、15分間撹拌した。懸濁液を酢酸エチル(7.0mL)で処理し、4時間撹拌した。次いで、有機相を炭酸ナトリウム飽和水溶液(2×5mL)及びブライン(1×5mL)で洗浄し、硫酸マグネシウムで脱水し、濃縮した。得られたピンク色の泡(EM-652)のエタノール(2mL)中溶液を、2N塩酸(400μL、0.80mmol)で処理し、1時間撹拌し、蒸留水(5mL)で処理し、30分間撹拌した。得られた懸濁液を濾過し、蒸留水(5mL)で洗浄し、空気中、高真空下で乾燥させて(65℃)、クリーム状の粉末(276mg、77%)を得た:微細なオフホワイト色の粉末;走査熱量測定:融解ピーク開始219℃、ΔH=83J/g;[α]24 D=154° メタノール中 10mg/mL;
【0211】
【数1】
【0212】
(実施例2)
材料及び方法
動物
体重18~20gの雌BALB/cマウス(BALB/cAnNCrlBR)を、Charles-River, Inc.社(St-Constant、Quebec、Canada)から入手し、温度制御(23±1℃)及び光制御(明期12時間/日、7:15に明期開始)環境において1ケージ当たり5匹を収容した。マウスは、げっ歯類用固形飼料及び水道水を自由に摂取させた。動物は、イソフルラン麻酔下で両側側腹部切開により卵巣切除し(OVX)、動物10匹の群に無作為に割り付けた。マウス10匹を、対照として無傷に保った。
【0213】
処置
第1の実験において、試験化合物(図17及び図18)、即ち、EM-652.HCl(アコルビフェン)、ラソフォキシフェン(遊離塩基;活性及び不活性エナンチオマーとして)及びラロキシフェンを、動物1匹当たり1、3若しくは10μgの用量で1日1回、卵巣切除の2日後から開始して9日間、強制飼養によって経口投与した。第2の実験[Table 4(表4)]において、TSE 424を、動物1匹当たり1、3、10若しくは30μgの用量で1日1回、卵巣切除の2日後から開始して9日間、強制飼養によって経口投与した。両実験において、抗エストロゲン活性を評価するために、エストロン(E1、0.06μg、s.c.注射、1日2回)による処置を、卵巣切除の5日後に開始し、6日間の期間にわたって投与した。化合物は、エタノールに溶解し(最終濃度4%)、0.4%メチルセルロースに入れて投与した。無傷対照群及びOVX対照群のマウスには、9日間の期間にわたってビヒクルのみ(4%ETOH-0.4%メチルセルロース)を投与した。動物を、卵巣切除後11日目の朝に腹部大動脈での瀉血によって屠殺した。子宮及び膣を、速やかに切開し、秤量し、更なる組織学的検査のために10%ホルマリン緩衝液中で保存した。
【0214】
項目1:結果
実験1:
図17に図示されるように、EM-652.HCl(アコルビフェン)の経口一日量1μg、3μg及び10μgでの投与では、エストロン刺激子宮重量がそれぞれ24%、48%及び72%阻害された(p<0.01全て用量について対照と比較して)のに対し、ラロキシフェンの同じ用量での投与では、このパラメーターの阻害は、それぞれ6%(NS)、14%(p<0.01)及び43%(p<0.01)であった。他方、ラソフォキシフェン(遊離塩基として)は、使用した最低用量で阻害効果を及ぼさなかったが、一日量3μg及び10μgではエストロン刺激子宮重量がそれぞれ25%(p<0.01)及び44%(p<0.01)阻害された。ラソフォキシフェンの不活性エナンチオマーは、使用したいずれの用量でもこのパラメーターに対して阻害効果を及ぼさなかった。
【0215】
化合物単独を(エストロンの非存在下で)経口一日量1μg及び10μgで卵巣切除マウスに投与した場合、EM-652.HClは、使用した両用量において子宮重量に対して有意な刺激作用を及ぼさなかったが、ラソフォキシフェン及びラロキシフェン10μgによる処置では子宮重量がそれぞれ93%(p<0.01)及び85%(p<0.01)刺激された(図18)。これは、このパラメーターに対する、これら後者の化合物のエストロゲン作用を示している。同様に、EM-652.HClは、膣重量に対して有意な刺激作用を及ぼさなかった(図18)が、ラソフォキシフェン及びラロキシフェン10μgの投与では、腟重量がそれぞれ73%(p<0.01)及び56%(p<0.01)刺激された。他方、ラソフォキシフェンの不活性エナンチオマーは、子宮重量及び膣重量に対して刺激作用を及ぼさなかった。
【0216】
実験2:
Table 4(表4)に示すように、TSE 424の経口一日量1μg、3μg、10μg又は30μgでの投与では、エストロン刺激子宮重量がそれぞれ12%(NS)、47%、74%及び94%阻害された(p<0.01 高い方の3つの用量についてE1-対照と比較して)。化合物単独を(エストロンの非存在下で)経口一日量3μg及び30μgで卵巣切除マウスに投与した場合、TSE 424は、使用した両用量において子宮重量に対して有意な刺激作用を及ぼさなかった[Table 4(表4)]。
【0217】
【表4】
【0218】
(実施例3)
骨量減少、血清脂質及び総体脂肪量に対する予防効果
動物及び処置
処置開始時体重が約220~270gの10~12週齢の雌スプラーグドーリー(Sprague-Dawley)ラット[Crl:CD(SD)Br](Charles River Laboratory社、St-Constant、Canada)を使用した。動物は、実験開始前少なくとも1週間にわたって、環境条件[温度: 22±3℃;湿度: 50±20%;明(12時間)暗(12時間)周期、7:15に明期開始]に順化させた。動物は、個別に収容し、水道水及び認可されているペレット化げっ歯類用飼料(Lab Diet 5002、Ralston Purina社、St-Louis、MO)を自由に摂取させた。実験は、Canadian Council on Animal Care(CCAC)及びAssociation for Assessment and Accreditation of Laboratory Animal Care(AAALAC)によって承認されている動物施設において、CCAC Guide for Care and Use of Experimental Animalsに従って行った。
【0219】
第1の実験において、154匹のラットを無作為に、以下のような、各群動物14匹の11群に割り付けた:1)無傷対照;2)OVX対照;3)OVX+E2(1mg/kg);4)OVX+EM-652.HCl(2.5mg/kg);5)OVX+E2+EM-652.HCl;6)OVX+デヒドロエピアンドロステロン(DHEA; 80mg/kg);7)OVX+DHEA+EM-652.HCl;8)OVX+DHEA+E2;9)OVX+DHEA+E2+EM-652.HCl;10)OVX+GW 5638;11)OVX+E2+GW 5638。研究の1日目に、該当する群の動物を、イソフルラン麻酔下で両側性に卵巣切除(OVX)した。DHEAは、50%エタノール-50%プロピレングリコール中溶液として背部皮膚に局所適用し、他の試験化合物は、0.4%メチルセルロース中懸濁液として経口強制飼養によって投与した。処置は、研究の2日目に開始し、3カ月間の間、1日1回行った。
【0220】
第2の実験において、132匹のラットを無作為に、以下のような、各群動物14又は15匹の9群に割り付けた:1)無傷対照;2)OVX対照;3)OVX+プレマリン(0.25mg/kg);4)OVX+EM-652.HCl(2.5mg/kg);5)OVX+プレマリン+EM-652.HCl;6)OVX+TSE 424(2.5mg/kg);7)OVX+プレマリン+TSE 424;8)OVX+ラソフォキシフェン(酒石酸塩;ラセミ体; 2.5mg/kg);9)OVX+プレマリン+ラソフォキシフェン。研究の1日目に、該当する群の動物を、イソフルラン麻酔下で両側性にOVXした。試験化合物は、0.4%メチルセルロース中懸濁液として経口強制飼養によって投与した。処置は、研究の2日目に開始し、26週間の間、1日1回行った。両実験において、試験物を投与されていない動物を、同じ期間の間、該当するビヒクル単独で処置した。
【0221】
骨密度の測定
処置の3カ月後(実験1)又は26週間後(実験2)に、イソフルラン麻酔下の個々のラットについて、二重エネルギーX線吸収測定法(DEXA; QDR 4500A、Hologic社、Waltham、MA)及びRegional High Resolution Scanソフトウェアを使用して、それらの全身骨格及び腰椎をスキャンした。腰椎(椎骨L2~L4)の骨密度(BMD)及び総身体組成(脂肪率)を決定した。
【0222】
血清アッセイ
処置の3カ月後(実験1)又は26週間後(実験2)に、一晩絶食した動物の頸静脈から血液試料を採取した(イソフルラン麻酔下)。試料を血清調製のために処理し、アッセイまで-80℃で凍結させた。血清コレステロールレベル及びアルカリホスファターゼ活性(ALP)を、Boehringer Mannheim Diagnostic Hitachi 911 Analyzer(Boehringer Mannheim Diagnostic Laboratory Systems社)を使用して決定した。
【0223】
統計分析
データは、平均値±SEMとして表す。統計的有意性は、Duncan-Kramerの多重範囲検定(Kramer 1956)に従って判定した。
【0224】
結果
Table 5(表5)に示すように、卵巣切除の3カ月後に、腰椎のBMDは、OVX対照動物では無傷対照でより10%低かった(p<0.01)。使用した用量において、エストラジオール及びEM- 652.HClの単独投与が、腰椎BMD低下をそれぞれ98%(p<0.01)及び65%(p<0.05)予防したのに対し、E2とEM-652.HClの併用処置は、OVXによって誘発される腰椎BMD低下を61%(p<0.05)予防した。他方、DHEAの単独投与が、腰椎BMD低下を43%(p<0.05)予防したのに対し、DHEA+E2+EM-652.HClの併用処置は、OVXによって誘発される腰椎BMD低下を91%予防し、無傷対照と差がないBMD値をもたらした。
【0225】
Table 6(表6)において、卵巣切除の26週間後に、腰椎のBMDは、無傷対照と比較して18%低下した(p<0.01)。プレマリン、EM-652.HCl、TSE 424及びラソフォキシフェンの単独投与は、腰椎BMD低下をそれぞれ54%、62%、49%及び61%予防した(全て、p<0.01 対OVX対照)。EM-652.HCl、TSE 424又はラソフォキシフェンへのプレマリンの追加によりもたらされた腰椎BMD値は、各SERMの単独投与によって得られるのと有意差がなかった[Table 6(表6)]。同様に、E2又はEM-652.HClへのDHEAの追加は、OVXによって誘発される腰椎BMD低下を完全に予防した[Table5(表5)]。BMDに対するDHEAの正の効果は、骨形成及び骨代謝回転のマーカーである血清アルカリホスファターゼ活性(ALP)に対するその効果によっても裏付けられた。ALP活性は、OVX対照動物における73±6 IU/Lから、DHEA-処置動物、DHEA +EM-652.HCl-処置動物、DHEA+E2-処置動物及びDHEA+E2+EM-652.HCl-処置動物においてはそれぞれ224±18IU/L、290±27IU/L、123±8IU/L及び261±20IU/Lまで増加した(全て、p<0.01)。これは、骨形成に関するDHEAの刺激作用を示唆している[Table 7(表7)]。
【0226】
骨量減少に対する予防効果に加えて、EM-652.HCl、TSE 424、ラソフォキシフェン、GW 5638、DHEA及びE2の投与は、総体脂肪率及び血清脂質に対してある程度の有益な効果を及ぼした。卵巣切除の3カ月後に、総体脂肪量は、22%増加した[p<0.05; Table 7(表7)]。EM-652.HClの投与が、OVXによって誘発される脂肪率の増加を完全に予防したのに対し、SERMへのDHEA及び/又はE2の追加は、無傷対照動物で観察される値より低い脂肪率値をもたらした。卵巣切除の26週間後、エストロゲン欠乏によって誘発される40%の脂肪量増加は、プレマリン、EM-652.HCl、TSE 424又はラソフォキシフェンの投与後にそれぞれ74%、78%、75%及び114%回復したのに対し、各SERMへのプレマリンの追加は、OVXによって誘発される脂肪率増加を完全に予防した[Table 8(表8)]。
【0227】
Table 7(表7)に示す通り、卵巣切除の3カ月後に、無傷対照と比較して血清コレステロールレベルの22%の増加が、OVX対照ラットにおいて観察された(p<0.01)。実際に、血清コレステロールは無傷動物における2.01±0.11mmol/lからOVX対照における2.46±0.08mmol/lまで増加した。E2又はDHEAの単独投与が、血清コレステロールレベルをそれぞれ1.37±0.18mmol/l及び1.59±0.10mmol/lまで低下させたのに対し、EM-652.HClの単独投与又はEM-652.HClとE2及び/若しくはDHEAとの併用投与は、無傷対照に見られるレベル(2.01±0.11mmol/l)よりも有意に低いコレステロールレベル(0.65~0.96mmol/l)をもたらした。同様に、GW 5638、TSE 424及びラソフォキシフェンの単独投与又はGW 5638、TSE 424及びラソフォキシフェンとE2若しくはプレマリンとの併用投与は、OVXによって誘発される血清コレステロールレベルの上昇を完全に予防し、無傷対照に見られる値より低い値をもたらした[Table 7(表7)及びTable 8(表8)]。
【0228】
【表5】
【0229】
【表6】
【0230】
【表7】
【0231】
【表8】
【0232】
(実施例4)
卵巣切除された雌ラットへの、SERMであるEM-652.HCl(アコルビフェン)、TSE-424及びERA-923の単独投与及びEM-652.HCl、TSE-424及びERA-923とDHEAとの併用投与による処置後の骨量減少に対する予防効果
動物及び処置
処置開始時体重が約220~270gの10~12週齢の雌スプラーグドーリーラット[Crl:CD(SD)Br](Charles River Laboratory社、St-Constant、Canada)を使用した。動物は、実験開始前少なくとも1週間にわたって、環境条件[温度: 22±3℃;湿度: 50±20%;明(12時間)暗(12時間)周期、7:15に明期開始]に順化させた。動物は、個別に収容し、水道水及び認可されているペレット化げっ歯類用飼料(Lab Diet 5002、Ralston Purina社、St-Louis、MO)を自由に摂取させた。実験は、Canadian Council on Animal Care(CCAC)及びAssociation for Assessment and Accreditation of Laboratory Animal Care(AAALAC)によって承認されている動物施設において、CCAC Guide for Care and Use of Experimental Animalsに従って行った。
【0233】
126匹のラットを無作為に、以下のような、各群動物14匹の9群に割り付けた:1)無傷対照;2)OVX対照;3)OVX+EM-652.HCl(2.5mg/kg);4)OVX+TSE-424(EM-4803、2.5mg/kg);5) OVX+ERA-923(EM-3527、2.5mg/kg);6)OVX+デヒドロエピアンドロステロン(DHEA; 80mg/kg);7)OVX+DHEA+EM-652.HCl;8)OVX+DHEA+TSE-424;9)OVX+DHEA+ERA-923。研究の1日目に、該当する群の動物を、イソフルラン麻酔下で両側性に卵巣切除(OVX)した。DHEAは、50%エタノール-50%プロピレングリコール中溶液として背部皮膚に局所適用し、試験SERMは、0.4%メチルセルロース中懸濁液として経口強制飼養によって投与した。処置は、研究の2日目に開始し、5週間の間、1日1回行った。
【0234】
骨密度の測定
5週間の処置後に、イソフルラン麻酔下の個々のラットについて、二重エネルギーX線吸収測定法(DEXA; QDR 4500A、Hologic社、Waltham、MA)及びRegional High Resolution Scanソフトウェアを使用して、それらの腰椎、大腿骨及び脛骨をスキャンした。腰椎(椎骨L2~L4)の骨密度(BMD)、大腿骨遠位骨幹端(DFM)及び脛骨近位骨幹端(PTM)を決定した。
【0235】
統計分析
データは、平均値±SEMとして表す。統計的有意性は、Duncan-Kramerの多重範囲検定{Kramer, 1956 #37421}に従って判定した。
【0236】
結果
Table 9(表9)に示す通り、卵巣切除の5週間後に、腰椎のBMDは、Ovx対照動物では無傷対照より9%低かった。使用した用量で、SERM: EM-652.HCl、TSE-424又はERA-923の単独投与は、腰椎BMD低下をそれぞれ86%、53%及び78%予防した。他方、DHEAの単独投与が、腰椎BMD低下を44%予防したのに対し、DHEA+EM-652.HCl、DHEA+TSE 424又はDHEA+ERA-923による併用処置は、OVXによって誘発される腰椎BMD低下をそれぞれ94%、105%及び105%予防した。
【0237】
大腿骨遠位骨幹端(DFM)の骨密度は、卵巣切除の5週間後に10%低下した[Table 9(表9)]。SERM:EM-652.HCl、TSE-424又はERA-923の単独投与はDFM BMD低下をそれぞれ95%、70%及び83%予防した。他方、DHEAの単独投与が、DFM BMD低下を71%予防したのに対し、DHEA+EM-652.HCl、DHEA+TSE-424又はDHEA+ERA-923による併用処置は、OVXによって誘発されるDFM BMD低下を完全に予防し、無傷対照動物において観察される値より高いDFM BMD値をもたらした。同様な結果が、脛骨近位骨幹端BMDについても得られた[Table 9(表9)]。
【0238】
【表9】
【0239】
(実施例5)
ヒト子宮内膜腺癌Ishikawa細胞のアルカリホスファターゼ活性に対する本発明の化合物の効果
材料
保存細胞培養物の維持
高分化型子宮内膜腺癌に由来するヒトIshikawa細胞株は、Dr. Erlio Gurpide、The Mount Sinai Medical Center(New York、NY)の好意により提供されたものである。Ishikawa細胞は、5%(vol/vol)FBS(ウシ胎仔血清)を含有し且つ100U/mLペニシリン、100μg/mLストレプトマイシン、0.1mM非必須アミノ酸溶液が補充されているイーグル最小必須培地(MEM)中でルーチン的に維持した。細胞は、Falcon T75フラスコ中に37℃において細胞1.5×106個の密度で蒔いた。
【0240】
細胞培養実験
実験開始の24時間前に、コンフルエントに近いIshikawa細胞の培地を、フェノールレッド不含ハムF-12と、100U/mLペニシリン、100μg/mLストレプトマイシン、2mMグルタミン及びデキストランチャコール(dextran-coated charcoal)で2回処理された5%FBSが補充されているダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)との1:1(v:v)混合物からなる新鮮なエストロゲン不含基本培地(EFBM)に置き換えて、内在性ステロイドを除去した。次いで、細胞を、0.1%のパンクレアチン(Sigma社)及び0.25mM HEPESによって収集し、EFBM中に再懸濁させ、Falcon 96ウェル平底マイクロタイタープレートに容量100μlで細胞2.2×104個/ウェルの密度で蒔き、24時間にわたってプレートの表面に接着させた。その後、培地を、最終容量200μl中に指示した濃度の化合物を含有する新鮮なEFBMに置き換えた。細胞は5日間インキュベートし、培地交換は48時間後に行った。
【0241】
アルカリホスファターゼアッセイ
インキュベーション期間終了時に、マイクロタイタープレートを反転させ、成長培地をデカントした。プレートを、ウェル毎に200μlのPBS(0.15M NaCl、10mMリン酸ナトリウム、pH7.4)によってすすいだ。次いで、慎重に若干のPBSを残しながら、プレートからPBSを除去し、洗浄手順を1回繰り返した。次いで、緩衝生理食塩水をデカントし、反転したプレートをペーパータオルでそっと拭き取った。カバーの交換後、プレートを、-80℃に15分間置いた後、室温で10分間にわたって解凍した。次いで、プレートを氷上に載せ、5mM p-ニトロフェニルリン酸、0.24mM MgCl2及び1Mジエタノールアミンを含有する氷冷溶液(pH9.8)50μlを添加した。次に、プレートを室温に温め、p-ニトロフェニルの生成による黄色を発生させた(8分間)。プレートを、酵素結合免疫吸着測定プレートリーダー(BIO-RAD社、model 2550 EIA Reader)で405nmにおいてモニターした。
【0242】
計算
重み付き逐次最小二乗法による非線形回帰(weighted iterative nonlinear squares regression)を使用して、用量-反応曲線及びIC50値を算出した。
【0243】
【表10A】
【0244】
【表10B】
【0245】
(実施例6)
ヒト乳がんMCF-7細胞の増殖に関するEM-652.HCl(アコルビフェン)、TSE 424及びラソフォキシフェンの効果
方法:
保存細胞培養物の維持
MCF-7ヒト乳房がん細胞を、American Type Culture Collection #HTB 22から継代147で入手し、前記補充物及び5%FBSが補充されているフェノールレッド不含ダルベッコ変法イーグル-ハムF-12培地中でルーチン的に成長させた。MCF-7ヒト乳腺癌細胞株は、69歳の白人女性患者の胸水に由来した。MCF-7細胞は、継代148と継代165の間で使用し、毎週継代培養した。
【0246】
細胞増殖の研究
後期対数増殖期の細胞を、0.1%パンクレアチン(Sigma社)を用いて収集し、50ng/mLウシインスリン及びデキストランチャコールで2回処理された5%FBSを含有する適当な培地に再懸濁させて内在性ステロイドを除去した。細胞を、24ウェルFalconプラスチック培養プレート(2cm2/ウェル)中に指示された密度で蒔き、プレートの表面に72時間にわたって接着させた。その後、培地を、E2の存在下又は非存在下で99%再蒸留エタノール中に1000倍原液から希釈された、指示した濃度の化合物を含有する新鮮な培地に置き換えた。対照細胞には、エタノール性ビヒクル(0.1% EtOH,v/v)のみを与えた。細胞は、指定した時間間隔にわたってインキュベートし、培地交換は2又は3日間隔で行った。細胞数は、DNA含有量の測定によって決定した。
【0247】
計算及び統計解析
重み付き逐次最小二乗法による非線形回帰を使用して、用量-反応曲線及びIC50値を算出した。全ての結果は、平均値±SEMとして表す。
【0248】
【表11】
【0249】
(実施例7)
ヌードマウスにおけるヒトRZ-75-1乳房腫瘍の成長に対する、EM-652.HCl(アコルビフェン)、タモキシフェン、トレミフェン、ドロロキシフェン、イドキシフェン、GW-5638及びラロキシフェンの効果の比較。
本実施例の目的は、卵巣切除されたヌードマウスにおける、特徴がはっきりしたエストロゲン感受性ZR-75-1乳がん異種移植片の成長に対する、EM-652.HCl及び6種の他の経口抗エストロゲン薬(SERM)のアゴニスト作用及びアンタゴニスト作用を比較することであった。
【0250】
材料及び方法
ヒトZR-75-1乳房がん細胞
ZR-75-1ヒト乳房がん細胞は、American Type Culture Collection(Rockville、MD)から入手し、フェノールレッド不含RPMI 1640培地で培養した。細胞に、2mM L-グルタミン、1mMピルビン酸ナトリウム、100IU/mLペニシリン、100μg/mLストレプトマイシン及び10%(v/v)ウシ胎仔血清を補充し、空気95%/CO25%の加湿雰囲気下で37℃においてインキュベートした。細胞を毎週継代し、0.083%パンクレアチン/0.3mM EDTAを使用して85~90%のコンフルエンスで収集した。
【0251】
動物及び腫瘍接種
雌のホモ接合型nu/nu Br無胸腺マウス(28~42日齢)を、Charles River, Inc.社(Saint-Constant、Quebec、Canada)から入手した。マウス(1ケージ当たり5匹)を、エアフィルター蓋を装着したビニルケージに収容し、それらを、層流空気流フード中に保持し、病原体制限条件下に維持した。光周期は、明期12時間及び暗期12時間(07:15に明期開始)であった。ケージ、床敷及び飼料[Agway社 Pro-Lab R-M-H Diet #4018]は、使用前にオートクレーブした。水は、オートクレーブして、自由に摂取させた。イソフルラン誘発麻酔下で両側卵巣切除を行った。卵巣切除時に、初期腫瘍成長を刺激するためにエストラジオール(E2)のインプラントを皮下挿入した。E2インプラントは、エストラジオールとコレステロールの1:10(w/w)混合物0.5cmを含有する長さ1cmのシラスチック管(内径: 0.062インチ;外径: 0.095インチ)の形態で調製した。卵巣切除の1週間後に、0.1mLのRPMI-1640培地+30%マトリゲル中の2×106個のZR-75-1(継代93)細胞を、長さ2.5cmの22-ゲージ針により、各卵巣切除(OVX)マウスの両側腹部に皮下接種した。4週間後に、E2インプラントは、全動物において、同じサイズのエストロン含有インプラント(E1:chol、1:25、w:w)に置き換えた。無作為化及び処置は、1週間後に開始した。
【0252】
処置
処置開始の1日前に、平均面積24.4±0.4mm2(5.7~50.7mm2の範囲)のZR-75-1腫瘍を有するマウス255匹を、各群マウス15匹(腫瘍総数29又は30個)を含む17の群に無作為に割り付けた(腫瘍サイズに関して)。17の群には、2つの対照群(OVX及びOVX+エストロン)、エストロンインプラントが補充され且つ抗エストロゲン薬で処置される7つの群、及び抗エストロゲン薬のみが投与される8つの他の群を含めた。次いで、卵巣切除対照群(OVX)及び抗エストロゲン薬のみを投与される群において動物からエストロンインプラントを除去した。9つの他の群のエストロン含有インプラントは、その後6週間毎に交換した。EM-652・HCl、ラロキシフェン、ドロロキシフェン、イドキシフェン及びGW 5638は、Oncology and Molecular Endocrinology Research Centerの医薬品化学部門で合成された。タモキシフェンは、Plantex社(Netanya、Israel)から購入し、クエン酸トレミフェンは、Orion社(Espoo、Finland)から購入した。エストロン刺激下では、抗エストロゲン薬は、0.4%(w/v)メチルセルロース0.2mLに懸濁された50μg(平均で2mg/kg)の経口一日量で与えた。エストロン刺激の非存在下では、動物は、各抗エストロゲン薬200μg(平均8mg/kg)で経口経路によって1日1回処置した。両対照群の動物には、ビヒクル0.2mLのみを投与した。適当な濃度の抗エストロゲン懸濁液を毎月調製し、4℃で保存し、絶えずかき混ぜながら使用した。粉末保存物は、4℃で(イドキシフェン、ラロキシフェン、トレミフェン、GW 5638、ドロロキシフェン)又は室温で(タモキシフェン、EM-652・HCl)密閉して保存した。
【0253】
腫瘍測定及び剖検
直角に交わる2つの直径を記録し、腫瘍面積(mm2)を、式:L/2×W/2×πを使用して算出した。処置1日目に測定した面積を、100%とした。
【0254】
161日間の処置後に、残りの動物をイソフルランで麻酔し、瀉血によって屠殺した。エストロゲン及び抗エストロゲン薬の効果を更に特徴付けるために、エストロゲン応答性組織、例えば、子宮及び膣を直ちに取り出し、結合組織及び脂肪組織を取り除き、秤量した。子宮は、Image Pro-Plus(Media Cybernetics社、Maryland、USA)を用いて行われる画像分析によって子宮内膜の厚さを評価するために、下処理した。簡潔に言うと、子宮を10%ホルマリン中で固定し、パラフィン包埋した。マウス子宮のヘマトキシリン及びエオシン染色切片を分析した。子宮1つ当たり4つ(子宮角1つ当たり2つ)の画像を分析した。上皮細胞の平均高を、各群の動物全てにおいて測定した。
【0255】
効果判定規準
腫瘍縮小効果は、本研究終了時に、又は実験の過程で動物が死亡した場合は各動物の死亡時に評価した。この場合、腫瘍縮小効果の分析には、本研究の少なくとも半分の期間(84日)を生き延びたマウスのデータのみを使用した。簡潔に言うと、完全縮小は、実験終了時に検出できなかった腫瘍を特定し;部分縮小は、縮小がそれらの最初のサイズの50%以上であった腫瘍に相当し;安定奏効は、縮小が50%未満であった又は増悪が50%以下であった腫瘍を指し;増悪は、それらの最初のサイズと比較して50%以上増悪した腫瘍を指す。
【0256】
統計分析
1日目と161日目の間の総腫瘍表面積の変化を、反復測定のためのANOVAに従って分析した。モデルには、処置、時間及び時間-処置交互作用効果+無作為化時の層を考慮に入れるための項を含めた。このように、161日目に異なる処置効果の有意性を時間-処置交互作用によって検定した。残差の分析から、最初の尺度での測定値がANOVAによる分析にも、試みた変換にも適合しないことが示された。したがって、分析のために順位を選択した。上皮厚さに対する処置の効果を、また、無作為化時の層を含む一元配置ANOVAによって評価した。最小2乗平均統計量を使用して、事後対比較を行った。差の有意性を宣言するために、第1種の過誤(α)全体を5%に制御した。全ての計算は、SAS Software (SAS Institute社、Carry、NC)上でProc MIXEDを使用して行った。
【0257】
結果
ZR-75-1腫瘍成長に対するアンタゴニスト効果
エストロン単独(OVX+E1)では、23週間の処置期間においてZR-75-1腫瘍サイズは707%増加した(図19)。エストロン刺激マウスに純粋な抗エストロゲン薬EM-652・HCl(アコルビフェン)を経口一日量50μgで投与すると、腫瘍成長が完全に予防された。実際に、腫瘍成長が予防されただけでなく、23週間の処置後には、腫瘍サイズは処置開始時の初期値より26%小さかった(p<0.04)。EM-652・HClでの処置の後に得られたこの値は、卵巣切除(OVX)のみの後に観察された値と統計的に差がなく、この場合、腫瘍サイズは初期腫瘍サイズより61%減少した。同じ用量(50μg)及び処置期間において、6種の他の抗エストロゲン薬は、初期平均腫瘍サイズを減少させなかった。これらの群の腫瘍は全て、OVX対照群及びEM-652・HCl処置群よりも有意に大きかった(p<0.01)。実際に、処置前値と比較して、ドロロキシフェン、トレミフェン、GW 5638、ラロキシフェン、タモキシフェン及びイドキシフェンによる23週間の処置は、処置前値よりもそれぞれ478%、230%、227%、191%、87%及び86%高い平均腫瘍サイズをもたらした(図19)。
【0258】
ZR-75-1腫瘍成長に対するアゴニスト効果
エストロン補充の非不存在下で、一日量200μgのタモキシフェンで161日間処置後に、平均腫瘍サイズは、ベースラインより196%高い値まで増加した(p<0.01対OVX)(図20)。他方、イドキシフェンで処置したマウスの平均腫瘍サイズは増加し(125%)(p<0.01)、トレミフェンで処置したマウスの腫瘍サイズは86%増加した(p<0.01)(図20)。EM-652・HCl 200μgをタモキシフェン200μgに追加すると、タモキシフェン単独で観察される増殖が完全に阻害された(図15)。他方、EM-652・HCl(p=0.44)、ラロキシフェン(p=0.11)、ドロロキシフェン(p=0.36)又はGW 5638(p=0.17)単独による処置では、実験終了時に、OVX対照群と比較してZR-75-1腫瘍サイズの有意な変化は認められなかった(図20)。
【0259】
子宮上皮細胞の厚さに対する抗エストロゲン薬の効果
子宮内膜上皮細胞の高さを、子宮内膜における各化合物のアゴニスト及びアンタゴニスト作用の最も直接的なパラメーターとして測定した。
【0260】
子宮上皮細胞の厚さに対する、エストロン刺激の存在下における一日量50μgの抗エストロゲン薬の効果
経口一日量50μgにおいて、EM-652・HCl(アコルビフェン)は、上皮の高さに対するエストロンの刺激作用を70%阻害した。試験した6種の他の抗エストロゲン薬の有効性は、有意に低かった(p<0.01)。実際に、ドロロキシフェン、GW 5638、ラロキシフェン、タモキシフェン、トレミフェン及びイドキシフェンは、エストロン刺激をそれぞれ17%、24%、26%、32%、41%及び50%阻害した[Table 12(表12)]。
【0261】
子宮上皮細胞の厚さに対する、エストロン刺激の非存在下における一日量200μgの抗エストロゲン薬の効果
エストロン刺激の非不存在下において、EM-652・HCl及びドロロキシフェンのみが、上皮細胞の高さを有意に増加させない試験化合物であった(OVX対照群値のそれぞれ114%及び101%)。タモキシフェン(155%)、トレミフェン(135%)及びイドキシフェン(176%)は、子宮上皮の高さの有意な刺激をもたらした(p<0.01 対OVX対照群)。ラロキシフェン(122%)及びGW 5638(121%)も、子宮上皮の高さの統計的に有意な刺激をもたらした(p<0.05 対OVX対照群)[Table 12(表12)]。子宮及び膣重量に対して測定された各抗エストロゲン薬のアゴニスト及びアンタゴニスト作用は、子宮上皮厚さに関して観察されたパターンに一致している(データは示さず)。
【0262】
【表12】
【0263】
(実施例8)
14C-EM-800の単回経口投与(20mg/kg)後における雌ラット脳の放射能
実施例8は、本発明のSERM、14C-EM-800の単回経口投与(20mg/kg)後におけるラット脳の放射能を示す。比較のために、これらの動物の各々からの血液、血漿、肝臓及び子宮に関する値を含めた[Table 14(表14)]。雄及び雌ロングエバンスラットへの14C-EM-800(20mg/2mL/kg)の単回経口投与後の放射能の組織分布及び排泄。これらの数値は、雌ロングエバンスラットの脳における薬物由来の総放射能の量は、非常に低く[ng当量/g(組織)]、投与の12時間後に検出されなかったことを示している。2時間において、脳の放射能は、肝臓の放射能より412倍低く、子宮の放射能より21倍低く、血中の放射能の8.4倍低く、血漿中の放射能の13倍低かった。総脳放射能の未知の割合が血液放射能の夾雑に起因するので、脳放射能に関してTable 13(表13)に示した値は、脳組織自体における14C(EM-800)に関連する放射能のレベルの過大評価である。このようなデータは、脳組織中の抗エストロゲン薬のレベルが過度に低過ぎて、外来性エストロゲンの効果を打ち消すことができないことを示唆している。脳組織において検出された放射能の一部は、組織中の残留血液に起因する可能性があることに留意することが重要である[Table 14(表14)]。加えて、本研究に使用した14C-EM-800の放射化学的純度は、最小96.25%であった。
【0264】
【表13】
【0265】
【表14】
【0266】
(実施例9)
動物
日齢約50日及び体重18~20gの雌BALB/cマウス(BALB/cAnNCrlBR)を、Charles-River, Inc.社(St-Constant、Quebec、Canada)から入手し、温度制御(23±1℃)及び光制御(明期12時間/日、7:15に明期開始)環境において1ケージ当たり4~5匹を収容した。マウスは、げっ歯類用固形飼料及び水道水を自由に摂取させた。動物は、全身麻酔(Avertin)下で両側側腹部切開により卵巣切除し(OVX)、動物9~10匹の群に無作為に割り付けた。
【0267】
処置
CS-115-1(EM-652ラセミ体)及びEM-762(EM-800ラセミ体)を、強制飼養による経口投与又は背部皮膚への局所適用により、種々の用量、即ち、0.75、2.5、7.5、25又は75nmolの化合物/強制飼養又は適用/動物で1日1回投与した。抗エストロゲン薬(0.2mL/マウス/強制飼養又は適用)による処置は、卵巣切除の2日後に開始し、エストロン[0.06μg、皮下注射(s.c.)、1日2回]による処置は、3日後(卵巣切除の5日後)に開始した。その後、エストロン及び抗エストロゲン薬は、6日間の期間にわたって併用投与した。経口投与のためには、化合物をポリエチレングリコール600(PEG-600)とエタノールの50:50(vol/vol)混合物に溶解し、1%(w/v)ゼラチン-0.9%NaCl溶液(PEG-600:ETOHの最終濃度は8%であった)で投与し、経皮の投与のために、化合物は、50% ETOH-50%プロピレングリコールで可溶化した。OVX対照群のマウスには、9日間の間、経口ビヒクルのみを投与した。動物は、卵巣切除後11日目の朝に、頸椎脱臼によって屠殺した。子宮を速やかに切開し、秤量した。
【0268】
図16からわかるように、経口及び経皮経路によるアコルビフェン誘導体の投与後に、同等の効果が観察される。
【0269】
医薬組成物の実施例
好ましい活性SERMアコルビフェン(EM-652.HCl; EM-1538)及び好ましい活性性ステロイド前駆体デヒドロエピアンドロステロン(DHEA、プラステロン)を利用するいくつかの医薬組成物を、例として以下に記載するが、これらは限定的なものではない。本発明の他の化合物又はその組合せを、アコルビフェン又はデヒドロエピアンドロステロンの代わりに(又はそれに加えて)使用してもよい。有効成分の濃度は、本明細書中に論じる通り、広範囲にわたって変化させることができる。含めることができる他の成分の量及びタイプは、当技術分野において周知である。
【0270】
【表15】
【0271】
【表16】
【0272】
【表17】
【0273】
【表18】
【0274】
DHEA坐剤は、Witepsol H-15基剤(Medisca社、Montreal、Canada)を使用して調製した。任意の他の親油性基剤、例えば、ハードファット、Fattibase、Wecobee、カカオバター、カカオ脂、又はWitepsol基剤の他の組合せも使用できる。好ましいSERMは、EM-800及びアコルビフェンである。
【0275】
キットの実施例
好ましい活性SERMアコルビフェン、好ましい抗エストロゲン薬Faslodex及び好ましい活性性ステロイド前駆体DHEAを利用するいくつかのキットを、例として以下に記載するが、これらは限定的なものではない。有効成分の濃度は、本明細書中に論じる通り、広範囲にわたって変化させることができる。含めることができる他の成分の量及びタイプは、当技術分野において周知である。
【0276】
【表19】
【0277】
他のSERMを、前記製剤中でアコルビフェンの代わりに使用すること、並びに他の性ステロイド前駆体をDHEAの代わりに使用することも可能である。1種より多くのSERM又は1種より多くの性ステロイド前駆体を含めてもよく、この場合、総重量百分率は好ましくは、前記実施例で示した単一の性ステロイド前駆体又は単一のSERMに関する重量百分率である。
【0278】
【表20】
【0279】
DHEA坐剤は、Witepsol H-15基剤(Medisca社、Montreal、Canada)を使用して調製した。任意の他の親油性基剤、例えば、ハードファット、Fattibase、Wecobee、カカオバター、カカオ脂、又はWitepsol基剤の他の組合せも使用できる。
【0280】
【表21】
【0281】
アコルビフェン坐剤は、ハードファット(Witepsol)を使用して調製した。任意の他の基剤、例えば、Fattibase、Wecobee、カカオバター、カカオ脂又はハードファットの他の組合せも使用し得る。
【0282】
【表22】
【0283】
【表23】
【0284】
他のSERM(トレミフェン、オスペミフェン、ラロキシフェン、アルゾキシフェン、ラソフォキシフェン、TSE-424、ERA-923、EM-800、SERM 3339、GW-5638)を、前記製剤中にアコルビフェンの代わりに使用すること、並びに他の性ステロイド前駆体をDHEAの代わりに使用することも可能である。1種より多くのSERM又は1種より多くの前駆体を含めてもよく、この場合、総重量百分率は好ましくは、前記実施例で示した単一の前駆体又は単一のSERMに関する重量百分率である。
【0285】
本発明を、好ましい実施形態及び実施例に関して説明したが、本発明はそれらによって限定されるものではない。当業者ならば、本出願中の特許の請求の範囲によってのみ限定される本発明のより広い適用可能性及び範囲を容易に認識するであろう。
【0286】
推奨基準
本発明者は、内分泌学会のガイドラインが勧める処置(Bhasin、Cunninghamら 2006)の前に、触知可能な前立腺小結節若しくは硬結を有する又は3ng/mLを上回る血清PSAを有する男性は更なる泌尿器科学評価を受けることを勧める。
【0287】
同様に、赤血球増加症(ヘマトクリット50%超)、未治療の閉塞性睡眠時無呼吸、IPSSスコアが19超である未治療の重症前立腺肥大症又はコントロール不良の心不全を有する男性においては、治療を推奨しない。
【0288】
【表24】
【0289】
【表25】
【0290】
【表26】
【0291】
【表27】
【0292】
【表28】
【0293】
【表29】
【0294】
【表30】
【0295】
【表31】
【0296】
【表32】
【0297】
【表33】
【0298】
【表34】
【0299】
【表35】
【0300】
【表36】
【0301】
【表37】
【0302】
【表38】
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【表39】
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【表40】
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【0309】
【表45】
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