(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022183346
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】探索システム及び探索方法
(51)【国際特許分類】
G06F 16/28 20190101AFI20221201BHJP
【FI】
G06F16/28
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022168763
(22)【出願日】2022-10-21
(62)【分割の表示】P 2020533412の分割
【原出願日】2019-07-18
(31)【優先権主張番号】P 2018144907
(32)【優先日】2018-08-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100169591
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 浩嗣
(72)【発明者】
【氏名】吉武 道子
(57)【要約】
【課題】関係性が既に知られた物性パラメータ対の各物性パラメータをノード、その関係性をエッジとしたグラフ(物性関係性グラフ)の経路探索する探索システムにおいて、多様な探索方法及び多様な探索方法を実行可能な探索システムを提供する。
【解決手段】探索システムは、物性関係性グラフを対象とする経路探索を行うグラフ探索部と、入力される探索条件に基づいてグラフ探索部に複数の探索項目を供給する探索条件抽出部とを備える。探索条件抽出部は、入力された探索条件から、始点または終点または始点と終点の両方と、前記始点と終点とは異なる第三ノードまたは経路長条件とを抽出して、探索項目としてグラフ探索部に供給し、グラフ探索部は、供給された探索項目に応じて物性関係性グラフを探索して、その探索条件に合致する経路または部分グラフを探索結果として出力する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
物性関係性グラフを対象とする経路探索を行うグラフ探索部と、入力される探索条件に基づいて前記グラフ探索部に複数の探索条件項目を供給する探索条件抽出部とを備え、
前記物性関係性グラフは、複数の物性パラメータにそれぞれ対応する複数のノードと、互いに関係性を有する複数の物性パラメータ対に対応する一対のノード間をそれぞれ接続するエッジとによって構成される探索システムであって、
前記探索条件抽出部は、前記探索条件から、始点または終点または始点と終点の両方と、前記始点と終点とは異なる第三ノードまたは経路長条件とを抽出して、前記探索条件項目として前記グラフ探索部に供給し、
前記グラフ探索部には、
始点と終点と第三ノードとが指定されたときに、当該始点から当該終点に至る経路のうち当該第三ノードを経由する経路を探索する第1探索モードと、
始点と終点と第三ノードとが指定されたときに、当該始点から当該終点に至る経路のうち当該第三ノードを経由しない経路を探索する第2探索モードと、
始点と終点と経路長条件とが指定されたときに、当該始点から当該終点に至る経路のうち当該経路長条件を満足する経路を探索する第3探索モードとが実装され、且つ、
始点と終点と第三ノードとが指定されたときに、当該始点から当該終点に至る経路と当該始点から当該第三ノードに至る経路とに共通する共通経路または共通しない非共通経路、或いは、当該始点から当該終点に至る複数の経路による第1の部分グラフと当該始点から当該第三ノードに至る複数の経路による第2の部分グラフとの和集合による部分グラフのうちの少なくともいずれかを出力する第4探索モードと、
始点と終点と第三ノードとが指定されたときに、当該始点から当該終点に至る経路と当該第三ノードから当該終点に至る経路とに共通する共通経路または共通しない非共通経路、或いは、当該始点から当該終点に至る複数の経路による当該第1の部分グラフと当該第三ノードから当該終点に至る複数の経路による第3の部分グラフとの和集合による部分グラフのうちの少なくともいずれかを出力する第5探索モードと、
始点と終点と第三ノードとが指定されたときに、当該始点から当該終点に至る経路に加えて、当該終点から当該第三ノードに至る経路を探索する第6探索モードと、
始点と終点と経路長条件とが指定されたときに、当該始点から当該終点に至る経路に加えて、当該終点から当該経路長条件を満足する経路を合わせて探索する第7探索モードと、
始点と経路長条件とが指定されたときに、当該始点から当該経路長条件を満足する範囲にある経路を探索する第8探索モードと、
終点と経路長条件とが指定されたときに、当該終点に至る経路のうち当該経路長条件を満足する範囲にあるノードを始点とする経路を探索する第9探索モードのうちの少なくとも1つの探索モードが実装され、
前記グラフ探索部は、前記第1乃至第9探索モードのうち供給された前記探索条件項目に応じた探索モードで、前記物性関係性グラフを探索して、前記探索条件に合致する経路または部分グラフを探索結果として出力する、
探索システム。
【請求項2】
請求項1において、前記探索システムは探索結果出力部をさらに備え、
前記探索条件抽出部は、入力された前記探索条件から、表示オプションを抽出して、前記探索結果出力部に供給し、
前記グラフ探索部は、
始点と終点と第三ノードとが指定されたときに、当該始点から当該終点に至る経路のうち当該第三ノードを経由する経路を探索する第1探索モードと、
始点と終点と第三ノードとが指定されたときに、当該始点から当該終点に至る経路のうち当該第三ノードを経由しない経路を探索する第2探索モードと、
始点と終点と経路長条件とが指定されたときに、当該始点から当該終点に至る経路のうち当該経路長条件を満足する経路を探索する第3探索モードのうち少なくとも1つの探索モードを実行し、
表示オプションが第1オプションであるとき、前記探索結果出力部は、前記グラフ探索部から出力されたすべての経路を探索結果として出力し、
表示オプションが第2オプションであるとき、前記探索結果出力部は、前記グラフ探索部から出力された経路のうち最短の経路長をもつ経路を、探索結果として出力し、
表示オプションが第3オプションであるとき、前記探索結果出力部は、前記グラフ探索部から出力された経路のうち第1の所定値以下の経路長をもつ経路を、探索結果として出力し、
表示オプションが第4オプションであるとき、前記探索結果出力部は、前記グラフ探索部から出力された経路のうち第2の所定値以上第3の所定値以下の経路長をもつ経路を、探索結果として出力し、
表示オプションが第5オプションであるとき、前記探索結果出力部は、前記グラフ探索部から出力された経路のうち第4の所定値以上の経路長をもつ経路を、探索結果として出力し、
表示オプションが第6オプションであるとき、前記探索結果出力部は、前記グラフ探索部から出力された経路と、前記第1から第5オプションのいずれか指定された表示オプションを同じ探索に作用させた場合に表示されるべき経路との差分を、探索結果として出力する、
探索システム。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
前記探索システムは、データベースとグラフ生成部とをさらに備え、
前記データベースは、互いに関係性を有する物性パラメータの複数のパラメータ対を記憶し、
前記グラフ生成部は、前記パラメータ対に含まれる複数の物性パラメータをノードとし、前記パラメータ対に対応するノード間をエッジとすることにより、前記物性関係性グラフをする、
探索システム。
【請求項4】
入力される探索条件に基づいて、メモリ上に展開される物性関係性グラフを対象として前記メモリにアクセス可能な計算機上で実行される探索方法であって、
前記物性関係性グラフは、複数の物性パラメータにそれぞれ対応する複数のノードと、互いに関係性を有する複数の物性パラメータ対に対応する一対のノード間をそれぞれ接続するエッジとによって構成され、
前記探索条件は、始点または終点または始点と終点の両方と、前記始点と終点とは異なる第三ノードまたは経路長条件とを探索条件項目として含み、
前記探索方法は、
前記探索条件から、探索モードと探索条件項目とを抽出する、探索条件項目抽出工程と、
抽出された探索モードと探索条件項目に応じて、前記物性関係性グラフを探索して、前記探索モードと及び前記探索条件項目によって特定される経路または部分グラフを探索結果として出力する、グラフ探索工程とを含み、
前記探索条件項目抽出工程において、探索モードとして第1探索モードと、探索条件項目として始点と終点と第三ノードとが抽出されたとき、
前記グラフ探索工程は、
前記物性関係性グラフを対象として、当該始点から当該終点に至る経路を探索する第1探索工程と、
前記物性関係性グラフを対象として、当該始点から当該第三ノードに至る経路を探索する第2探索工程と、
さらに、前記第1探索工程によって探索された経路と、前記第2探索工程によって探索された経路との間で共通する共通経路を求める第1の共通経路生成工程、または共通しない非共通経路を求める第1の非共通経路生成工程、或いは、当該始点から当該終点に至る複数の経路による第1の部分グラフと当該始点から当該第三ノードに至る複数の経路による第2の部分グラフとの和集合による部分グラフを生成する第1の和集合部分グラフ生成工程のうちの少なくともいずれかを含み、
前記探索条件項目抽出工程において、探索モードとして第2探索モードと、探索条件項目として始点と終点と第三ノードとが抽出されたとき、
前記グラフ探索工程は、
前記物性関係性グラフを対象として、当該始点から当該終点に至る経路を探索する第1探索工程と、
前記物性関係性グラフを対象として、当該第三ノードから当該終点に至る経路を探索する第3探索工程と、
さらに、前記第1探索工程によって探索された経路と、前記第3探索工程によって探索された経路との間で共通する共通経路を求める第2の共通経路生成工程、または共通しない非共通経路を求める第2の非共通経路生成工程、或いは、当該始点から当該終点に至る複数の経路による第1の部分グラフと当該第三ノードから当該終点に至る複数の経路による第3の部分グラフとの和集合による部分グラフを生成する第2の和集合部分グラフ生成工程のうちの少なくともいずれかを含み、
前記探索条件項目抽出工程において、探索モードとして第3探索モードと、探索条件項目として始点と終点と第三ノードとが抽出されたとき、
前記グラフ探索工程は、前記物性関係性グラフを対象として、当該始点から当該終点に至る経路に加えて、当該終点から当該第三ノードに至る経路を探索し、
前記探索条件項目抽出工程において、探索モードとして第4探索モードと、探索条件項目として始点と終点と経路長条件とが抽出されたとき、
前記グラフ探索工程は、前記物性関係性グラフを対象として、当該始点から当該終点に至る経路に加えて、当該終点から当該経路長条件を満足する経路を合わせて探索し、
前記探索条件項目抽出工程において、探索モードとして第5探索モードと、探索条件項目として始点と経路長条件とが抽出されたとき、
前記グラフ探索工程は、前記物性関係性グラフを対象として、当該始点から当該経路長条件を満足する範囲にある経路を探索し、
前記探索条件項目抽出工程において、探索モードとして第6探索モードと、探索条件項目として終点と経路長条件とが抽出されたとき、
前記グラフ探索工程は、前記物性関係性グラフを対象として、当該終点に至る経路のうち当該経路長条件を満足する範囲にあるノードを始点とする経路を探索し、
前記第1から第6の少なくとも1つの探索モードを実行可能であり、前記探索条件項目抽出工程において抽出された探索モード及び探索条件項目によって前記グラフ探索工程で探索した結果を探索結果として出力する、
探索方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、データベースを使った探索システム及び探索方法に関し、特に物性パラメータ間の関係性を表すグラフを対象とする経路探索に好適に利用できるものである。
【背景技術】
【0002】
材料研究における予測や設計の目標は、目的の特性を持つ材料を特定することである。このために旧来から多用されてきた手法は、条件-特性チャートから目的の特性を持つ材料の特定を目指す手法である。これは複数の条件のうち特定の1つの条件のみを変化させたときの特性の変化を観測してチャートを作成し、そのチャートを補間または外挿することによって、目的の特性を持つ条件を求め、それに合致する材料を特定する方法である。ここでいう「チャート」とは、折れ線グラフ等を表す「グラフ」と同義であるが、後述する、ノードとエッジから成る「グラフ」と区別する目的で別の語を用いる。
【0003】
このとき、複数の条件のうち特定の1つの条件のみを変化させたときの特性の変化は、自ら実験を行って入手することが多い。多数の文献を調査しても上記特定の条件以外の条件がすべて同じであるデータを大量に入手することは困難だからである。
【0004】
特許文献1には、所望の特性を有する新規材料の構成物質情報を、客観的に探索することが可能な探索システムが開示されている。
【0005】
同文献に開示される探索システムは、複数(多数)の物質についてそれぞれ複数の物性パラメータ情報を有するデータベースを備える。このとき、データベースには、物質によっては実データが与えられていない物性パラメータがあってもよい。検索対象の物性パラメータを1つの軸とし、他の物性パラメータの一部をその他の軸として、2次元または3次元以上の空間を作成して、上記データベース内の各物質をマッピングする。このとき、実データのない物性パラメータについては、多変量解析、所定の論理式に基づく計算、または、第1原理計算などを使って予測した仮想データによって補う。実データと仮想データをマッピングして得られた探索マップにおいて、予め規定したルールに基づいて、所望の特性を有する物質を特定するとされる。
【0006】
特許文献2には、複数の物性パラメータの任意の組合せのうち、既に知られている関係性に基づいて、有意な関係性を有する、物性パラメータの未知の組合せを探索することができる、探索システム及び探索方法が開示されている。この探索システムは、データベースとグラフ生成部とグラフ探索部とを備え、以下のように構成される。データベースは、互いに関係性を有する物性パラメータの複数の対を記憶し、グラフ生成部は、データベースに記憶された複数の物性パラメータをノードとし、関係性を有すると記憶された物性パラメータ対に対応するノード間をエッジとする、グラフを生成する。グラフ探索部は、与えられる探索条件に基づいて、グラフ生成部から生成されたグラフに対する経路探索を行い、探索結果を出力する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007-18444号公報
【特許文献2】国際公開第WO2017/221444号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1及び2について本発明者が検討した結果、以下のような新たな課題があることがわかった。
【0009】
特許文献1に記載される技術では、仮想データを予測するために、複数の物性パラメータ相互の関係性を利用するが、その関係性は既に知られている関係性に限られることとなる。
【0010】
これに対し本願の発明者は、多数の技術分野を横断的に見た場合には、物性パラメータの数が非常に多くなるため、関係性の有無に依らない任意の組合せの中から、未知の、しかし有意な関係性を抽出することが可能であることを見出し、その解決方法として特許文献2に記載される探索システムを提案した。
【0011】
特許文献2に示される探索システム及び探索方法によれば、相互に関係性の低い分野を含むあらゆる分野を横断的に探索することができ、もって有意な関係性を有する物性パラメータの未知の組合せを抽出することができる。
【0012】
このような探索を行うユーザーは、抽出された経路に基づいて、有意な関係性を有する2つの物性パラメータのうちの一方を制御して、他方を目的の物性値に調整するような、最適材料の選択や製造工程の最適化を行うことができる。このとき、2つの物性パラメータの関係性を規定する経路には、他の物性が含まれている場合が少なくない。
【0013】
本願の発明者は、最適材料の選択や製造工程の最適化のためには、ユーザーはさらに複雑な経路探索が必要であることを見出した。
【0014】
例えば、最適材料の選択や製造工程の最適化するために、一方の物性パラメータ(始点)を他方(終点)の最適化のために制御するときにも、それ以外のある特定の物性の物性値を変化させたくない場合がある。この時、特許文献2に示される探索システムで抽出された経路では、始点と終点の間に複数の物性パラメータに対応するノードが含まれている場合がある。始点の物性パラメータを変化させた場合に、終点の物性パラメータだけではなく、途中のノードに対応する物性パラメータも変化してしまう可能性が高い。
【0015】
また例えば、1つの物性パラメータ(始点)を他方(終点)の最適化のために制御するときに、別の物性パラメータも合わせて最適化したい場合がある。
【0016】
本願の発明者は、このような多様なニーズに応えるためには、始点と終点のみに着目した、グラフの経路探索では十分ではないことに気づいた。
【0017】
本願の発明者は、物性パラメータ間の関係性について種々の重み付けを行い、これを対応するエッジの属性として与えることによって、グラフの経路探索における優先順位付けを可能とする探索方法を発明し、特願2017-037387として出願した。
【0018】
しかしながら、物性パラメータ間の関係性について種々の重み付けをエッジの属性として与えただけでは、上記のような多様なニーズにすべて応えるには十分ではないことがわかった。
【0019】
本発明の目的は、物性パラメータ間の関係性の探索において、多様な探索方法及び多様な探索方法を実行可能な探索システムを提供することである。
【0020】
このような課題を解決するための手段を以下に説明するが、その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述及び添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の一実施の形態によれば、下記の通りである。
【0022】
すなわち、物性関係性グラフを対象とする経路探索を行うグラフ探索部と、入力される探索条件に基づいてグラフ探索部に複数の探索条件項目を供給する探索条件抽出部とを備える探索システムであって、以下のように構成される。
【0023】
物性関係性グラフは、複数の物性パラメータにそれぞれ対応する複数のノードと、互いに関係性を有する複数の物性パラメータ対に対応する一対のノード間をそれぞれ接続するエッジとによって構成される。
【0024】
探索条件抽出部は、入力された探索条件から、始点または終点または始点と終点の両方と、前記始点と終点とは異なる第三ノードまたは経路長条件とを抽出して、探索条件項目としてグラフ探索部に供給し、グラフ探索部は、供給された探索項目に応じて物性関係性グラフを探索して、その探索条件に合致する経路または部分グラフを探索結果として出力する。
【0025】
第三ノードは、単一のノードであっても複数のノードであってもよい。また、経路長条件は、所定の経路長以内の他、所定の範囲内、所定の経路長以上など、種々の条件を指定することができる。さらに本発明でいう経路長とは、経由するエッジの数で定義してもよいし、経路長を算出する他の定義を採用しても良い。例えば、エッジごとに物性の関係性に関する属性を数値化して付与し、経路に沿った属性値の合計を経路長と定義しても良い。
【発明の効果】
【0026】
本発明の前記一実施の形態によって得られる効果を簡単に説明すれば下記のとおりである。
【0027】
すなわち、物性パラメータ間の関係性の探索において、多様な探索方法及び多様な探索方法を実行可能な探索システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】
図1は、実施形態1に係る探索システムの構成例を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、本実施形態1において実行することができる探索モードを示す説明図である。
【
図3】
図3は、本実施形態1において追加指定することができる表示オプションを示す説明図である。
【
図4】
図4は、本実施形態1の探索システムの一変形例を示すブロック図である。
【
図5】
図5は、本発明の探索システムが実装されるハードウェアシステムの一例を示すブロック図である。
【
図6】
図6は、本発明の探索方法を説明するフローチャートである。
【
図7】
図7は、本発明の探索方法の変形例を説明するフローチャートである。
【
図8】
図8は、物性関係性グラフ3のエッジに属性情報を与える物性関係性データベースの一例を示す説明図である。
【
図9】
図9は、物性関係性グラフ3のノードに属性情報を与える物性関係性データベースの一例を示す説明図である。
【
図10】
図10は、物性最適化探索の一例が適用される、物性関係性グラフの例を示す説明図である。
【
図11】
図11は、物性最適化探索の別の例が適用される、物性関係性グラフの例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
1.実施の形態の概要
先ず、本願において開示される代表的な実施の形態について概要を説明する。代表的な実施の形態についての概要説明で括弧を付して参照する図面中の参照符号はそれが付された構成要素の概念に含まれるものを例示するに過ぎない。
【0030】
〔1〕<多様な探索方法を提供することができる探索システム>
本願において開示される代表的な実施の形態は、物性関係性グラフ(3)を対象とする経路探索を行うグラフ探索部(4)と、入力される探索条件に基づいて前記グラフ探索部に複数の探索条件項目を供給する探索条件抽出部(51)とを備える探索システムであって、以下のように構成される(
図1)。
【0031】
前記物性関係性グラフは、複数の物性パラメータにそれぞれ対応する複数のノードと、互いに関係性を有する複数の物性パラメータ対に対応する一対のノード間をそれぞれ接続するエッジとによって構成される。
【0032】
前記探索条件抽出部は、前記探索条件から、始点または終点または始点と終点の両方と、前記始点と終点とは異なる第三ノードまたは経路長条件とを抽出して、前記探索条件項目として前記グラフ探索部に供給する。前記グラフ探索部は、供給された前記探索条件項目に応じて、前記物性関係性グラフを探索して、前記探索条件に合致する経路または部分グラフを探索結果として出力する。
【0033】
これにより、多様な探索を実行可能な探索システムを提供することができる。
【0034】
〔2〕<探索モード>
〔1〕項において、前記グラフ探索部は、以下に列挙する9種類の探索モード(
図2のmode 2-10)のうち、少なくとも1つの探索モードを実行可能であり、その結果を探索結果として出力する。
【0035】
第1探索モード: 始点と終点と第三ノードとが指定されたときに、当該始点から当該終点に至る経路のうち当該第三ノードを経由する経路を探索する(mode 2,
図2)。
【0036】
第2探索モード: 始点と終点と第三ノードとが指定されたときに、当該始点から当該終点に至る経路のうち当該第三ノードを経由しない経路を探索する(mode 3,
図2)。
【0037】
第3探索モード: 始点と終点と経路長条件とが指定されたときに、当該始点から当該終点に至る経路のうち当該経路長条件を満足する経路を探索する(mode 7,
図2)。
【0038】
第4探索モード: 始点と終点と第三ノードとが指定されたときに、当該始点から当該終点に至る経路と当該始点から当該第三ノードに至る経路とに共通する共通経路または共通しない非共通経路、或いは、当該始点から当該終点に至る複数の経路による第1の部分グラフと当該始点から当該第三ノードに至る複数の経路による第2の部分グラフとの和集合による部分グラフのうちの少なくともいずれかを出力する(mode 4,
図2)。
【0039】
第5探索モード: 始点と終点と第三ノードとが指定されたときに、当該始点から当該終点に至る経路と当該第三ノードから当該終点に至る経路とに共通する共通経路または共通しない非共通経路、或いは、当該始点から当該終点に至る複数の経路による当該第1の部分グラフと当該第三ノードから当該終点に至る複数の経路による第3の部分グラフとの和集合による部分グラフのうちの少なくともいずれかを出力する(mode 5,
図2)。
【0040】
第6探索モード: 始点と終点と第三ノードとが指定されたときに、当該始点から当該終点に至る経路に加えて、当該終点から当該第三ノードに至る経路を探索する(mode 6,
図2)。
【0041】
第7探索モード: 始点と終点と経路長条件とが指定されたときに、当該始点から当該終点に至る経路に加えて、当該終点をさらなる始点とし当該経路長条件を満足する経路を合わせて探索する(mode 8,
図2)。
【0042】
第8探索モード: 始点と経路長条件とが指定されたときに、当該始点から当該経路長条件を満足する範囲にある経路を探索する(mode 9,
図2)。
【0043】
第9探索モード: 終点と経路長条件とが指定されたときに、当該終点に至る経路のうち当該経路長条件を満足する範囲にあるノードを始点とする経路を探索する(mode 10,
図2)。
【0044】
これにより、選択的に列挙される9種類のうちの少なくとも1種類の探索を実行可能な探索システムを提供することができる。
【0045】
なお、第三ノードは単一のノードであっても良いし、複数のノードであってもよい。複数ノードの場合には、当該複数ノードを論理積(AND条件)で扱うか、論理和(OR条件)で扱うかを合わせて指定する。例えば、第1探索モードで、複数ノードがAND条件で指定された場合には、当該複数ノードをすべて経由する経路が探索され、OR条件で指定された場合には、当該複数ノードの少なくとも1個を経由する経路が探索される。
【0046】
複数ノードを第三ノードとして指定可能とすることにより、ユーザーの意図する探索条件をより柔軟に取り込むことができる。
【0047】
また、経路長条件は、所定の経路長以内の他、所定の範囲内、所定の経路長以上など、種々の条件を指定することができる。本発明でいう経路長とは、経由するエッジの数で定義してもよいし、経路長を算出する他の定義を採用しても良い。例えば、エッジごとに物性の関係性に関する属性を数値化して付与し、経路に沿った属性値の合計を経路長と定義しても良い。
〔3〕<表示オプション1>
〔1〕項において、前記探索システムは探索結果出力部(52)をさらに備える(
図1)。
【0048】
前記探索条件抽出部は、入力された前記探索条件から、表示オプション(
図3)を抽出して、前記探索結果出力部に供給する。
【0049】
前記グラフ探索部は、以下の3種類の探索モードのうち少なくとも1つの探索モードを実行して、その結果を前記探索結果出力部へ供給することができるように構成されている。
【0050】
始点と終点と第三ノードとが指定されたときに、当該始点から当該終点に至る経路のうち当該第三ノードを経由する経路を探索する(第1探索モード)。
【0051】
始点と終点と第三ノードとが指定されたときに、当該始点から当該終点に至る経路のうち当該第三ノードを経由しない経路を探索する(第2探索モード)。
【0052】
始点と終点と経路長条件とが指定されたときに、当該始点から当該終点に至る経路のうち当該経路長条件を満足する経路を探索する(第3探索モード)。
【0053】
前記探索結果出力部は、前記グラフ探索部から供給された、少なくとも1つの探索モードを実行した結果得られる複数の経路のうち、前記表示オプションに合致するものを、探索結果として出力する。
【0054】
これにより、探索によって抽出された複数の経路から表示オプションに合致する一定の経路だけに絞って出力することができ、ユーザーが所望の経路を発見するのを助ける機能を提供することができる。
【0055】
〔4〕<表示オプション1の具体例>
〔3〕項における前記表示オプションは、以下の第1から第6までのオプションのうちの少なくとも1個を含む。
【0056】
第1オプション: 表示オプションが第1オプション(No. 1,
図3)であるとき、前記探索結果出力部は、前記グラフ探索部から出力されたすべての経路を探索結果として出力する。
【0057】
第2オプション: 表示オプションが第2オプション(No. 2,
図3)であるとき、前記探索結果出力部は、前記グラフ探索部から出力された経路のうち最短の経路長をもつ経路を、探索結果として出力する。
【0058】
第3オプション: 表示オプションが第3オプション(No. 3,
図3)であるとき、前記探索結果出力部は、前記グラフ探索部から出力された経路のうち第1の所定値以下の経路長をもつ経路を、探索結果として出力する。
【0059】
第4オプション: 表示オプションが第4オプション(No. 4,
図3)であるとき、前記探索結果出力部は、前記グラフ探索部から出力された経路のうち第2の所定値以上第3の所定値以下の経路長をもつ経路を、探索結果として出力する。
【0060】
第5オプション: 表示オプションが第5オプション(No. 5,
図3)であるとき、前記探索結果出力部は、前記グラフ探索部から出力された経路のうち第4の所定値以上の経路長をもつ経路を、探索結果として出力する。
【0061】
第6オプション: 表示オプションが第6オプション(No. 6,
図3)であるとき、前記探索結果出力部は、前記グラフ探索部から出力された経路と、前記第1から第5オプションのいずれか指定された表示オプションを同じ探索に作用させた場合に表示されるべき経路との差分を、探索結果として出力する。
【0062】
これにより、探索によって抽出された複数の経路から特に経路長に着目した表示オプションに合致する一定の経路だけに絞って出力することができ、ユーザーに気付きを促し、所望の経路を発見するのを助ける機能を提供することができる。
【0063】
〔5〕<表示オプション2>
〔1〕項において、前記探索システムは探索結果出力部(52)をさらに備える。
【0064】
前記探索条件抽出部は、入力された前記探索条件から、表示オプション(
図3)を抽出して、前記グラフ探索部と前記探索結果出力部とに供給する。
【0065】
前記表示オプションが所定の第1オプション(No. 7, “similar paths”,
図3)であるときに、前記探索システムは以下のように動作する。
【0066】
前記グラフ探索部は、始点と終点とが指定されたときに、当該始点から当該終点に至る経路を探索してその結果を第1の探索結果として前記探索結果出力部へ出力する。
【0067】
前記グラフ探索部はさらに、前記始点とは異なる別の始点から前記終点とは異なる別の終点に至る経路であって、前記第1の探索結果に含まれる経路上の最も多くのノードを含むように前記別の始点と前記別の終点とを選んだ経路を、第2の探索結果として前記探索結果出力部へ出力する。
【0068】
前記探索結果出力部は、前記第1の探索結果に加えて前記第2の探索結果を出力する。
【0069】
これにより、ユーザーが探索した経路の始点・終点の物性に代わる別の始点・終点を、代替案としてユーザーに提示する機能を提供することができる。
【0070】
〔6〕<表示オプション3>
〔1〕項において、前記探索システムは探索結果出力部(52)をさらに備える。
【0071】
前記探索条件抽出部は、入力された前記探索条件から、表示オプションを抽出して、前記グラフ探索部と前記探索結果出力部とに供給する。
【0072】
前記表示オプションが所定の第2オプション(No. 8, “similar graph”,
図3)であるときに、前記探索システムは以下のように動作する。
【0073】
前記グラフ探索部は、始点または終点と経路長条件とが指定されたときに、当該始点から当該経路長条件を満たす範囲にあるノードによる部分グラフまたは当該終点に至る経路のうち当該経路長条件を満足する範囲にあるノードを始点とする部分グラフを第1の部分グラフとして前記探索結果出力部へ出力する。
【0074】
前記グラフ探索部はさらに、前記第1の部分グラフと類似度が最も高い別の部分グラフを前記探索結果出力部へ出力する。
【0075】
前記探索結果出力部は、前記第1の部分グラフに加えて前記別の部分グラフを出力する。
【0076】
これにより、ユーザーが探索した物性と一定の関連性を持つ物性パラメータ群を、代替案としてユーザーに提示する機能を提供することができる。
【0077】
〔7〕<グラフ生成部を含む探索システム>
〔1〕項から〔6〕項のうちのいずれか1項に記載される探索システムは、データベース(1)とグラフ生成部(2)とをさらに備え、以下のように構成される(
図4)。
【0078】
前記データベースは、互いに関係性を有する物性パラメータの複数のパラメータ対を記憶する。
【0079】
前記グラフ生成部は、前記パラメータ対に含まれる複数の物性パラメータをノードとし、前記パラメータ対に対応するノード間をエッジとすることにより、前記物性関係性グラフをする。
【0080】
これにより、物性関係性グラフ3を探索システム10内で生成することができる。
【0081】
〔8〕<多様な探索方法を提供することができる探索システム>
入力される探索条件に基づいて、メモリ上に展開される物性関係性グラフ(3)を対象として前記メモリにアクセス可能な計算機上で実行される探索方法であって、以下のように構成される(
図1,4,6)。
【0082】
前記物性関係性グラフは、複数の物性パラメータにそれぞれ対応する複数のノードと、互いに関係性を有する複数の物性パラメータ対に対応する一対のノード間をそれぞれ接続するエッジとによって構成される。
【0083】
前記探索条件は、始点または終点または始点と終点の両方と、前記始点と終点とは異なる第三ノードまたは経路長条件とを探索条件項目として含む(
図2)。
【0084】
前記探索方法は、探索条件項目抽出工程(S1)とグラフ探索工程(S2)とを含む(
図6)。
【0085】
探索条件項目抽出工程(S1)は、前記探索条件から、探索モードと探索条件項目とを抽出する。グラフ探索工程(S2)は、抽出された探索モードと探索条件項目に応じて、前記物性関係性グラフを探索して、前記探索モード及び前記探索条件項目にしたがった探索によって抽出された経路または部分グラフを探索結果として出力する。
【0086】
これにより、物性関係性グラフを対象とする多様な探索方法を提供することができる。
【0087】
〔9〕<探索モード>
〔8〕項に記載の探索方法は、以下に列挙する9種類の探索モード(
図2のmode 2-10)のうち、少なくとも1つの探索モードを実行可能であり、その結果を探索結果として出力するように構成される。
【0088】
第1探索モード: 前記探索条件項目抽出工程において、探索モードとして第1探索モード(mode 2)と、探索条件項目として始点と終点と第三ノードとが抽出されたとき、前記グラフ探索工程は、前記物性関係性グラフを対象として、当該始点から当該終点に至る経路のうち当該第三ノードを経由する経路を探索する。
【0089】
第2探索モード: 前記探索条件項目抽出工程において、探索モードとして第2探索モード(mode 3)と、探索条件項目として始点と終点と第三ノードとが抽出されたとき、前記グラフ探索工程は、前記物性関係性グラフを対象として、当該始点から当該終点に至る経路のうち当該第三ノードを経由しない経路を探索する。
【0090】
第3探索モード: 前記探索条件項目抽出工程において、探索モードとして第3探索モード(mode 7)と、探索条件項目として始点と終点と経路長条件とが抽出されたとき、前記グラフ探索工程は、前記物性関係性グラフを対象として、当該始点から当該終点に至る経路のうち当該経路長条件を満足する経路を探索する。
【0091】
第4探索モード: 前記探索条件項目抽出工程において、探索モードとして第4探索モード(mode 4)と、探索条件項目として始点と終点と第三ノードとが抽出されたとき、前記グラフ探索工程は、以下の各工程を含んで構成される。
前記物性関係性グラフを対象として、当該始点から当該終点に至る経路を探索する第1探索工程
前記物性関係性グラフを対象として、当該始点から当該第三ノードに至る経路を探索する第2探索工程
【0092】
さらに、前記第1探索工程によって探索された経路と、前記第2探索工程によって探索された経路との間で共通する共通経路を求める第1の共通経路生成工程、または共通しない非共通経路を求める第1の非共通経路生成工程、或いは、当該始点から当該終点に至る複数の経路による第1の部分グラフと当該始点から当該第三ノードに至る複数の経路による第2の部分グラフとの和集合による部分グラフを生成する第1の和集合部分グラフ生成工程のうちの少なくともいずれかを含む。
【0093】
第5探索モード: 前記探索条件項目抽出工程において、探索モードとして第5探索モード(mode 5)と、探索条件項目として始点と終点と第三ノードとが抽出されたとき、前記グラフ探索工程は、以下の各工程を含んで構成される。
前記物性関係性グラフを対象として、当該始点から当該終点に至る経路を探索する第1探索工程
前記物性関係性グラフを対象として、当該第三ノードから当該終点に至る経路を探索する第3探索工程
【0094】
さらに、前記第1探索工程によって探索された経路と、前記第3探索工程によって探索された経路との間で共通する共通経路を求める第2の共通経路生成工程、または共通しない非共通経路を求める第2の非共通経路生成工程、或いは、当該始点から当該終点に至る複数の経路による第1の部分グラフと当該第三ノードから当該終点に至る複数の経路による第3の部分グラフとの和集合による部分グラフを生成する第2の和集合部分グラフ生成工程のうちの少なくともいずれかを含む。
【0095】
第6探索モード: 前記探索条件項目抽出工程において、探索モードとして第6探索モード(mode 6)と、探索条件項目として始点と終点と第三ノードとが抽出されたとき、前記グラフ探索工程は、前記物性関係性グラフを対象として、当該始点から当該終点に至る経路に加えて、当該終点から当該第三ノードに至る経路を探索する。
【0096】
第7探索モード: 前記探索条件項目抽出工程において、探索モードとして第7探索モード(mode 8)と、探索条件項目として始点と終点と経路長条件とが抽出されたとき、前記グラフ探索工程は、前記物性関係性グラフを対象として、当該始点から当該終点に至る経路に加えて、当該終点から当該経路長条件を満足する経路を合わせて探索する。
【0097】
第8探索モード: 前記探索条件項目抽出工程において、探索モードとして第8探索モード(mode 9)と、探索条件項目として始点と経路長条件とが抽出されたとき、前記グラフ探索工程は、前記物性関係性グラフを対象として、当該始点から当該経路長条件を満足する範囲にある経路を探索する。
【0098】
第9探索モード: 前記探索条件項目抽出工程において、探索モードとして第9探索モード(mode 10)と、探索条件項目として終点と経路長条件とが抽出されたとき、前記グラフ探索工程は、前記物性関係性グラフを対象として、当該終点に至る経路のうち当該経路長条件を満足する範囲にあるノードを始点とする経路を探索する。
【0099】
これにより、9種類の探索モードのうちの少なくとも1種類以上を実行可能な探索方法を提供することができる。
【0100】
なお、第三ノードは単一のノードであっても良いし、複数のノードであってもよい。複数のノードをしている場合には、当該複数ノードをAND条件で扱うか、OR条件で扱うかを合わせて指定する。例えば、第1探索モードで、複数ノードがAND条件で指定された場合には、当該複数ノードをすべて経由する経路が探索され、OR条件で指定された場合には、当該複数ノードの少なくとも1個を経由する経路が探索される。
【0101】
複数ノードを第三ノードとして指定可能とすることにより、ユーザーの探索条件をより柔軟に取り込むことができる。
【0102】
また、経路長条件は、所定の経路長以内の他、所定の範囲内、所定の経路長以上など、種々の条件を指定することができる。本発明でいう経路長とは、経由するエッジの数で定義してもよいし、経路長を算出する他の定義を採用しても良い。例えば、エッジごとに物性の関係性に関する属性を数値化して付与し、経路に沿った属性値の合計を経路長と定義しても良い。
〔10〕<表示オプション1>
〔8〕項において、前記探索方法は、探索結果出力工程(S5)をさらに含み(
図7)、以下の第1から第3の少なくとも1つの探索モードを実行可能であり、前記探索結果出力工程は、前記グラフ探索工程の結果、抽出された複数の経路のうち、前記表示オプションに合致するものを、探索結果として出力する。
【0103】
前記探索条件抽出工程は、入力された前記探索条件から、さらに表示オプションを抽出する(S4)。
【0104】
前記探索条件項目抽出工程において、探索モードとして第1探索モード(mode 2)と、探索条件項目として始点と終点と第三ノードとが抽出されたとき、前記グラフ探索工程は、前記物性関係性グラフを対象として、当該始点から当該終点に至る経路のうち当該第三ノードを経由する経路を探索する。
【0105】
前記探索条件項目抽出工程において、探索モードとして第2探索モード(mode 3)と、探索条件項目として始点と終点と第三ノードとが抽出されたとき、前記グラフ探索工程は、前記物性関係性グラフを対象として、当該始点から当該終点に至る経路のうち当該第三ノードを経由しない経路を探索する。
【0106】
前記探索条件項目抽出工程において、探索モードとして第3探索モード(mode 7)と、探索条件項目として始点と終点と経路長条件とが抽出されたとき、前記グラフ探索工程は、前記物性関係性グラフを対象として、当該始点から当該終点に至る経路のうち当該経路長条件を満足する経路を探索する。
【0107】
これにより、探索によって抽出された複数の経路から表示オプションに合致する一定の経路だけに絞って出力することができ、ユーザーが所望の経路を発見するのを助ける機能を提供することができる。
【0108】
〔11〕<表示オプション1の具体例>
〔10〕項に記載される探索方法は、前記表示オプションとして、以下の第1から第6までのオプションのうちの少なくとも1個を含むように構成される。
【0109】
第1オプション: 表示オプションが第1オプション(No. 1,
図3)であるとき、前記探索結果出力工程は、前記グラフ探索工程によって抽出されたすべての経路を探索結果として出力する。
【0110】
第2オプション: 表示オプションが第2オプション(No. 2,
図3)であるとき、前記探索結果出力工程は、前記グラフ探索工程によって抽出された経路のうち最短の経路長をもつ経路を、探索結果として出力する。
【0111】
第3オプション: 表示オプションが第3オプション(No. 3,
図3)であるとき、前記探索結果出力工程は、前記グラフ探索工程によって抽出された経路のうち第1の所定値以下の経路長をもつ経路を、探索結果として出力する。
【0112】
第4オプション: 表示オプションが第4オプション(No. 4,
図3)であるとき、前記探索結果出力部は、前記グラフ探索部から出力された経路のうち第2の所定値以上第3の所定値以下の経路長をもつ経路を、探索結果として出力する。
【0113】
第5オプション: 表示オプションが第5オプション(No. 5,
図3)であるとき、前記探索結果出力部は、前記グラフ探索部から出力された経路のうち第4の所定値以上の経路長をもつ経路を、探索結果として出力する。
【0114】
第6オプション: 表示オプションが第6オプション(No. 6,
図3)であるとき、前記探索結果出力工程は、前記グラフ探索工程によって抽出された経路と、前記第1から第5オプションのいずれか指定された表示オプションを同じ探索に作用させた場合に表示されるべき経路との差分を、探索結果として出力する。
【0115】
これにより、探索によって抽出された複数の経路から特に経路長に着目した表示オプションに合致する一定の経路だけに絞って出力することができ、ユーザーが所望の経路を発見するのを助ける機能を提供することができる。
【0116】
〔12〕<表示オプション2>
〔8〕項に記載される前記探索方法において、探索結果出力工程(S5)をさらに含み、前記探索条件抽出工程は、入力された前記探索条件から、さらに表示オプション(
図3)を抽出する(S4)。
【0117】
前記表示オプションが所定の第1オプション(No. 7, “similar paths”)であるときに、前記探索方法は以下のように構成される。
【0118】
前記グラフ探索工程は、始点と終点とが指定されたときに、当該始点から当該終点に至る経路を探索してその結果を第1の探索結果として出力する第1の探索工程と、前記始点とは異なる別の始点から前記終点とは異なる別の終点に至る経路であって、前記第1のグラフ探索工程の探索結果に含まれる経路上の最も多くのノードを含むように前記別の始点と前記別の終点とを選んだ経路を、第2の探索結果として出力する第2の探索工程とを含み、前記探索結果出力工程は、前記第1の探索結果に加えて前記第2の探索結果を出力する。
【0119】
これにより、ユーザーが探索した経路の始点・終点の物性に代わる別の始点・終点を、代替案としてユーザーに提示する機能を提供することができる。
【0120】
〔13〕<表示オプション3>
〔8〕項に記載される前記探索方法において、探索結果出力工程(S5)をさらに含み、前記探索条件抽出工程は、入力された前記探索条件から、さらに表示オプション(
図3)を抽出する(S4)。
【0121】
前記表示オプションが所定の第2オプションで(No. 8, “similar graph”)あるときに、前記探索方法は以下のように構成される。
【0122】
前記グラフ探索工程は、始点または終点と経路長条件とが指定されたときに、当該始点から当該経路長条件を満たす範囲にあるノードによる部分グラフまたは当該終点に至る経路のうち当該経路長条件を満足する範囲にあるノードを始点とする部分グラフを第1部分グラフとして生成する第1部分グラフ生成工程と、前記グラフ探索工程はさらに、前記第1部分グラフと類似度が最も高い別の部分グラフを生成する第1部分グラフ生成工程を含み、前記探索結果出力工程は、前記第1部分グラフに加えて前記別の部分グラフを出力する。
【0123】
これにより、ユーザーが探索した物性と一定の関連性を持つ物性パラメータ群を、代替案としてユーザーに提示する機能を提供することができる。
【0124】
〔14〕<グラフ生成部を含む探索システム>
〔8〕項から〔13〕項のうちのいずれか1項に記載される探索方法はグラフ生成工程をさらに備えることができる(
図4;フローチャートは不図示)。
【0125】
前記グラフ生成工程は、互いに関係性を有する物性パラメータの複数のパラメータ対によって構成されるデータベースから前記物性関係性グラフを生成して前記メモリ上に展開する。
【0126】
これにより、物性関係性グラフを探索システム内で生成することができる。
【0127】
2.実施の形態の詳細
実施の形態について更に詳述する。
【0128】
〔実施形態1〕
図1は、実施形態1に係る探索システムの構成例を示すブロック図である。
【0129】
探索システム10は、物性関係性グラフ3とグラフ探索部4とユーザーインターフェース5とを備える。
【0130】
物性関係性グラフ3は、互いに関係性を有する物性パラメータの複数の対によって構成されたグラフであり、個々の物性パラメータをそれぞれ1個のノードに対応付け、関係性を有する対に対応するノード間がエッジで接続されている。このとき、互いに関係性を有する物性パラメータ対は、できる限り多くの技術分野から収集するとよい。また、科学的根拠に基づいた関係性、即ち、理論的に説明された関係性に基づくものだけではなく、理論的な説明が未だなされておらず、または、定式化もされていない段階であっても、実験データから明確な相関が認められることによって、関係性の存在が知られている物性パラメータの対を含めることもできる。なお、「理論的に説明された関係性」には、定理や公式のように定式化された関係性の他、相関の有無や相関係数の正負(一方が増加するときに他方も増加するか減少するかなど)が説明されている半定量的、あるいは、定性的な関係性までもが広く含まれていてよい。このとき、如何なる分野で知られている関係性であっても特に排除される必要はなく、あらゆる分野で関係性が知られている物性パラメータ対を含めることができる。
【0131】
グラフ探索部4は、入力される探索条件に基づいて、物性関係性グラフ3内の経路探索を行って抽出した経路情報を出力し、または、物性関係性グラフ3から入力される探索条件に合致する部分グラフを生成して出力する。グラフ探索部4には、グラフ理論に基づく種々の経路探索アルゴリズムを適用することができる。
【0132】
探索条件として始点と終点を指定して、物性関係性グラフ3内の経路を探索してその経路を探索結果として出力することができる。また、探索条件として、始点または終点と、その始点からまたはその終点までの経路長条件とを指定して、物性関係性グラフ3から当該始点または終点を中心とする当該経路長条件に合致した部分の部分グラフを、探索結果として出力することができる。
【0133】
これにより、探索システム10は、複数の物性パラメータの任意の組合せのうち、既に知られている関係性に基づいて、有意な関係性を有する物性パラメータの未知の組合せを探索することができる。
【0134】
互いに異なる技術分野においてのみ知られていた関係性を、物性関係性グラフ3に統合して表すことによって、すべての関係性がどの技術分野で知られていたかに関わらず、グラフ全体を対象とした経路探索をすることができる。そのエッジに対応する関係性がどのような技術分野で知られていたかに関わらず、単純にエッジの有無のみに基づく経路を探索することができるため、多くの分野を横断的に探索することができる。その結果、物性パラメータの既に知られた関係性に留まらず、有意な関係性を有する未知の組合せをも発見することができる。
【0135】
なお、「グラフ」とは、複数のノードとそれらを接続する複数のエッジを有し、全てのノードがエッジによって直接または間接に接続されている範囲を意味し、複数のグラフ(部分グラフ)の集合であってもよい。
【0136】
また、物性関係性グラフ3は有向グラフであると好適である。物性パラメータ対の関係性は必ずしも双方向で定義できるとは限らないためである。ただし、探索システムとしては無向グラフを採用することもできる。探索アルゴリズムが単純化されるメリットがある一方で、現実には因果関係のない方向での関係性を含む経路が抽出される恐れがある。このときは現実には因果関係のない方向での関係性を含む経路を後段で排除する後処理を追加することによって解決され得る。
【0137】
<探索モード>
本発明では、さらに多様な探索モードを提供することができる。
【0138】
ユーザーインターフェース5は、探索条件抽出部51を備え、入力される探索条件から始点または終点または始点と終点の両方と、前記始点と終点とは異なる第三ノードまたは経路長条件とを抽出して、探索条件項目としてグラフ探索部4に供給する。グラフ探索部4は、供給された探索条件項目に応じて、物性関係性グラフ3を探索して、入力された探索条件に合致する経路または部分グラフを探索結果として出力する。
【0139】
探索条件として始点と終点を指定して、物性関係性グラフ3の経路探索を実行する、従来の探索モードに対して、始点と終点に加えていずれとも異なる第三ノードまたは経路長条件をさらに探索条件として追加し、または始点または終点の一方と経路長条件を探索条件として指定することによって、探索条件として追加する項目を最小限に抑えながら、探索方法を大幅に多様化することができる。
【0140】
図2は、本実施形態1において実行することができる探索モードを示す説明図である。探索モード「mode」、探索式「query」、探索による出力「output of the search operation」を表形式で示す。
【0141】
探索条件として始点Aと終点Bを指定して、物性関係性グラフ3の経路探索を実行する、従来の探索モード(第1探索モード)に対して、始点と終点とは異なる第三ノードをさらに探索条件として追加することにより、以下の5通りの探索モードを追加することができる。
【0142】
追加された第三ノードDを経由する経路を探索する、包含経路探索(第2探索モード)
追加された第三ノードDを経由しない経路を探索する、排除経路探索(第3探索モード)
始点から終点に至る経路と、始点から第三ノードに至る経路との間の、共通経路、非共通経路、または和集合のグラフを出力する経路探索(第4探索モード)
始点から終点に至る経路と、第三ノードから終点に至る経路との間の、共通経路、非共通経路、または和集合のグラフを出力する経路探索(第5探索モード)
始点から終点に至る経路に加えて、終点から第三ノードへの経路を合わせて出力する経路探索(第6探索モード)
【0143】
ここで、第三ノードは単一のノード("D")であっても良いし、複数のノードであってもよい。複数のノードを指定する場合には、当該複数ノードを論理積(AND)条件で扱う("D1 and D2 ・・・")か、論理和(OR)条件で扱う("D1 or D2 ・・・")かを合わせて指定する。例えば、第1探索モードで、複数ノードがAND条件で指定された場合には、当該複数ノードをすべて経由する経路が探索され、OR条件で指定された場合には、当該複数ノードの少なくとも1個を経由する経路が探索される。
【0144】
第2探索モード(包含経路探索)は、始点に対応する物性パラメータを制御して終点に対応する物性パラメータを最適化するときに、その経路の途中にある第三ノードに対応する物性パラメータも合わせて最適化したい場合の経路探索に有効である。一方、第3探索モード(排除経路探索)は、始点に対応する物性パラメータを制御して終点に対応する物性パラメータを最適化するときに、追加指定された第三ノードに対応する物性パラメータを変化させたくない場合の経路探索に有効である。
【0145】
第4探索モードは、始点に対応する物性パラメータを制御して終点に対応する物性パラメータを最適化するときに、その経路外にある第三ノードに対応する物性パラメータも合わせて最適化したい場合の経路探索に有効である。また、第5探索モードは、始点に対応する物性パラメータを制御して終点に対応する物性パラメータを最適化するときに、その経路外にある第三ノードに対応する物性パラメータを制御しても、当該終点に対応する物性パラメータを最適化することができるような、ユーザーが最初に想定していない始点を発見することを促すことができる。
【0146】
探索条件として始点と終点を指定して、物性関係性グラフ3の経路探索を実行させる、従来の探索モード(第1探索モード)に対して、第三ノードに代えて経路長条件をさらに探索条件として追加することにより、以下の2通りの探索モードを追加することができる。
始点から終点に至る経路のうち、経路長条件を満足する経路のみを抽出する経路探索(第7探索モード)
始点から終点に至る経路に加えて、終点からさらに経路長条件を満足する範囲のノードに至る経路を合わせて出力する経路探索(第8探索モード)
【0147】
ここで、経路長条件は、所定の経路長以内の他、所定の範囲内、所定の経路長以上など、種々の条件を指定することができる。
【0148】
第7探索モードは、始点に対応する物性パラメータを制御して終点に対応する物性パラメータを最適化するときに、その制御の影響を受ける物性パラメータをできる限り少なく抑え、直接的に制御できる条件を見出すことを目的とした経路探索に有効である。
【0149】
第8探索モードは、始点に対応する物性パラメータを制御して終点に対応する物性パラメータを最適化するときに、終点に対応する物性パラメータと合わせて最適化できる物性パラメータの発見を助ける。
【0150】
探索条件として始点と終点の両方を指定して経路探索を実行する従来の経路探索に代えて、始点または終点の一方と経路長条件とを探索条件として指定することにより、さらに以下の2通りの探索モードを追加することができる。
始点と経路長条件とが指定されたときに、当該始点から当該経路長条件を満足する範囲を部分グラフとして出力する経路探索(第9探索モード)
終点と経路長条件とが指定されたときに、当該終点に至る経路のうち当該経路長条件を満足する範囲を部分グラフとして出力する経路探索(第10探索モード)
【0151】
このように、始点と終点に加えていずれとも異なる第三ノードまたは経路長条件をさらに探索条件として追加し、または始点または終点の一方と経路長条件を探索条件として指定することによって、探索条件として追加する項目を最小限に抑えながら、探索方法を大幅に多様化することができる。
【0152】
第9探索モードによれば、制御しようとしている物性(始点に対応)が、思いがけず変えてはいけない物性に影響を及ぼす可能性を事前に発見することができる。
【0153】
第10探索モードによれば、最適化の目的としている物性(終点に対応)を制御することができる、思いがけない物性(ユーザーが想定していなかった始点)を発見できる可能性がある。
【0154】
探索システム10には、
図2に示した第1から第10探索モードの全てを実装する必要はなく、必要な探索モードのみを実装することができ、また、
図2に示した以外の探索モードを追加して実装しても良い。
【0155】
例えば、第9及び第10探索モードにおいて、経路長条件を「経路長mノード以下」とする代わりに、「経路長がm1以上m2以下」のように、範囲指定とした探索モードを追加することができる(第11及び第12探索モード)。この場合でも、探索条件を規定する項目数は3項目であるから、第1から第10探索モードと同程度に最小限の項目数に抑えられている。
【0156】
なお、経路長は、始点ノードから終点ノードに至る経路において経由するノードの数、あるいはエッジの数と定義することができる。これに代えて、経路長を算出する他の定義を採用しても良い。例えば優先度を考慮した経路長の定義が可能である。詳しくは後述する。
【0157】
<適用例1>
図10は、物性最適化探索の一例が適用される、物性関係性グラフである。
【0158】
各ノードに物性名が表示され、互いに関係性を有する物性間がエッジによって接続されている。例えば、熱電材料の性能は、ゼーベック係数、電気伝導率、熱伝導率に依存し、図中に示した式を使って算出される。
【0159】
電子状態密度を制御することにより熱電材料の性能を最適化する例について説明する。
【0160】
単純には、電子状態密度を始点、熱電材料の性能を終点とする経路探索を行う。経路に沿って関係性を累積的に辿り、熱電材料の性能を最適化するための電子状態密度を求める。このとき、探索結果として出力される経路は、例えば以下の3経路を含む。
[電子状態密度]-[温度による電位差]-[ゼーベック係数]-[熱電材料の性能]
[電子状態密度]-[キャリア密度]-[電気伝導率]-[熱電材料の性能]
[電子状態密度]-[キャリア密度]-[電気伝導率]-[電子熱伝導率]-[熱伝導率]-[熱電材料の性能]
【0161】
ここで、ユーザーが電子熱伝導率に何らかの関心がある(例えば「電子熱伝導率は変化させたくない」など)ときには、電子熱伝導率を第三ノードと指定した包含経路探索(第2探索モード)を行う。
【0162】
その結果、[電子状態密度]-[キャリア密度]-[電気伝導率]-[電子熱伝導率]-[熱伝導率]-[熱電材料の性能]が抽出される。このことから、この経路で電子状態密度の制御を行うと、電気伝導率と熱伝導率も変化することがわかる。
【0163】
図示されている数式から、熱電材料の性能は、電気伝導率に比例し、熱伝導率には反比例するので、熱電材料の性能を大きくするためには、電気伝導率が高く、熱伝導率が低いほうが良いことがわかる。
【0164】
一方、電気伝導率が高い、即ち金属的伝導特性を示す材料では、電気伝導率と電子熱伝導率が比例関係にあり、「電気伝導率が高く、且つ、熱伝導率が低い」という関係は両立しないことが知られている。ただしこれはユーザー自身が持っている知見であって、本探索システムによる探索結果から導かれるものではない。
【0165】
そこで、ユーザーは、電子熱伝導率を変化させずに、熱伝導率を小さくする方策を考えることとなる。
【0166】
電子熱伝導率を第三ノードと指定した排除経路探索(第3探索モード)を行うと、以下の2経路が探索結果として抽出される。
[電子状態密度]-[温度による電位差]-[ゼーベック係数]-[熱電材料の性能]
[電子状態密度]-[キャリア密度]-[電気伝導率]-[熱電材料の性能]
【0167】
または、始点を指定せずに、終点を熱電材料の性能とし、経路長を上記包含経路探索の結果の経路長5以内とした、経路探索(第10探索モード)を行う。これにより、最適化の目的としている物性(終点に対応)を制御することができる、思いがけない物性(ユーザーが想定していなかった始点)を発見できる可能性がある。本適用例では、以下の経路が抽出される。
[格子熱伝導率]-[熱伝導率]-[熱電材料の性能]
【0168】
ユーザーが当初、始点の制御対象と考えていた電子状態密度に代えて、格子熱伝導率を制御することによっても熱電材料の性能を最適化する物性の制御が可能であることが見出される。
【0169】
<適用例2>
図11は、物性最適化探索の別の例が適用される、物性関係性グラフである。
【0170】
各ノードに物性名が表示され、互いに関係性を有する物性間がエッジによって接続されている。
【0171】
組成を制御することにより仕事関数を最適化する例について説明する。
【0172】
ユーザーは、基本的には始点を組成、終点を仕事関数とした経路探索を行うが、バルク組成に何らかの関心があるときには、バルク組成を第三ノードと指定した包含経路探索(第2探索モード)を行う。その結果、以下の経路が抽出される。
[組成]-[表面偏析の有無]-[バルク組成]-[フェルミレベルの深さ]-[バルク項]-[仕事関数]
【0173】
ここで、制御の過程でバルク組成が変化することに着目し、その副作用について考察する。そのため、バルク組成を始点とし、経路長を5以下とした第9探索モードの経路探索を行う。経路長5は、上で抽出した経路の経路長に準じた値である。その結果、以下の経路が抽出される。
[バルク組成]-[フェルミレベルの深さ]-[結合ポテンシャルの深さ]-[引張り強さ]-[ビッカース硬度]
【0174】
したがって、仕事関数を最適化するために、組成を始点としてバルク組成を経由した制御を行うと、ビッカース硬度にも変化をもたらすことがわかる。
【0175】
そこで、ユーザーは、始点を組成、終点を仕事関数、バルク組成を第三ノードと指定した排除経路探索(第3探索モード)を行う。その結果、以下の経路が抽出される。
【0176】
[組成]-[表面偏析の有無]-[表面組成]-[表面電荷分布]-[表面ダイポール]-[表面項]-[仕事関数]
このように、組成を制御しても、バルク組成とビッカース硬度を変化させることなく、仕事関数を最適化することができる経路を発見することができる。
【0177】
<表示オプション>
各種の探索モードに、さらに表示オプションを追加することにより、ユーザーに気付きを促し、所望の経路を発見するのを助けることができる。
【0178】
図3は、本実施形態1において追加指定することができる表示オプションを示す説明図である。オプション番号「No.」、表示オプション「display option」とその動作「display operation」を表形式で示す。
【0179】
表示オプション1「all paths」は、探索条件に合致するすべての経路を表示させる。
【0180】
表示オプション2「shortest path」は、探索式で指定された探索条件に合致するすべての経路のうち最短の経路を表示させる。さらに例えば“shortest q paths”のように、短い方から順にq個の経路を表示することができるような表示オプションを追加しても良い。
【0181】
表示オプション3「within p paths」は、探索式で指定された探索条件に合致するすべての経路のうち所定の経路長p以下の経路を表示させる。
【0182】
表示オプション4「within p1-p2 paths」は、探索式で指定された探索条件に合致するすべての経路のうち所定の経路長p1以上p2以下の経路を表示させる。
【0183】
表示オプション5「beyond p paths」は、探索式で指定された探索条件に合致するすべての経路のうち所定の経路長p以上の経路を表示させる。
【0184】
表示オプション6「difference with [opt. No.]」は、現在の探索結果と指定の表示オプション[opt. No.]との差分を表示させる。
【0185】
表示オプション1から6は、
図2に示した第1、第2、第3、第7探索モードなどと組み合わせて指定することができる。
【0186】
さらに高度な表示オプションも追加することができる。
【0187】
表示オプション7「similar paths」は、探索結果と多くの経路を共有する別の探索条件を表示させる。
【0188】
例えば、探索条件として始点Aと終点Bを指定して第1探索モードの経路探索を実行したとき、その結果として抽出される経路とできるだけ多くの共通部分をもつ、別の始点A’から別の終点B’に至る経路を抽出して、その探索条件、即ち「始点A’、終点B’」が存在することをユーザーに示すものである。
【0189】
ここで「できるだけ多くの共通部分」は、例えば、2つの経路の間で共通するノードとエッジの数によって定量化することができる。また、共通部分をもつ経路の数を勘案してもよい。
【0190】
ユーザーが探索した経路の始点・終点の物性に代わる別の始点・終点を、代替案としてユーザーに提示する機能を提供することができる。
【0191】
表示オプション8「similar graph」は、探索結果と類似のグラフを持つ別の探索条件を表示させる。
【0192】
例えば、探索条件として始点または終点と経路長条件とが指定され、当該始点から当該経路長条件を満足する範囲を部分グラフとして出力する経路探索(第9探索モード)、または、当該終点に至る経路のうち当該経路長条件を満足する範囲を部分グラフとして出力する経路探索(第10探索モード)が実行された場合に、探索結果として出力される部分グラフとの間で類似度の高い別の部分グラフを表示するオプションである。ここで類似度は、グラフ理論で一般的に用いられる類似度を意味する。例えば、部分グラフ内の各ノード及び各エッジを、比較すべき2つの部分グラフの間で1:1対応付けできたときに、2つの部分グラフが等しい、即ち最大の類似度を有すると定義し、対応付けできないノードやエッジの数や属性を数値化して、前記最大の類似度から減ずることによって、類似度を定量化することができる。
【0193】
これにより、ユーザーが探索した物性と一定の関連性を持つ物性パラメータ群を、代替案としてユーザーに提示する機能を提供することができる。
【0194】
例えば、同じ数式が全く別の分野において全く別の物性間の関係性を理論的に説明することがある。ユーザーが探索している分野では未だ理論的に説明されていない関係性でも、他の分野、他の物性間の関係性と類似することがわかれば、ユーザーは、同じ数式で説明することができるのではないかという仮説を立てることができる。「同じ数式で説明する」という極端な仮説ではないまでも、類似の関連性を持つ物性群を提示されることにより、ユーザーは何らかの気付きを促されることが期待される。
【0195】
図2において探索モードとして説明した一部の例は、単純な探索モードと
図3に示す以下の表示オプションとの組み合わせに変更することができる。単純な探索モードと表示オプションの組み合わせは、以下に説明するように、
図2の高機能な探索モードと同様の探索機能を実現するので、置き換える(いずれか一方の機能を実装する)ことが可能ではあるが、敢えて両方の機能を残してもよい。
【0196】
例えば、第4及び第5探索モードの共通経路、非共通経路の探索結果としての出力は、第1探索モードと以下の表示オプションの組み合わせに変更することができる。
【0197】
表示オプション9「common paths with from A to X」は、探索結果と始点A終点Xとで共通する経路を表示させる。第1探索モード「search paths from A to B」と組み合わせて指定することにより、第4探索モードの共通経路探索「search paths from A to B AND A to X」と同様の探索機能を、ユーザーに提供することができる。
【0198】
表示オプション10「uncommon paths with from A to X」は、探索結果と始点A終点Xとで共通しない経路を表示させる。第1探索モード「search paths from A to B」と組み合わせて指定することにより、第4探索モードの非共通経路探索「search paths from A to B NOT A to X」と同様の探索機能を、ユーザーに提供することができる。
【0199】
表示オプション11「common paths with from Y to B」は、探索結果と始点Y終点Bとで共通する経路を表示させる。第1探索モード「search paths from A to B」と組み合わせて指定することにより、第5探索モードの共通経路探索「search paths from A to B AND Y to B」と同様の探索機能を、ユーザーに提供することができる。
【0200】
表示オプション12「uncommon paths with from Y to B」は、探索結果と始点Y終点Bとで共通しない経路を表示させる。第5探索モードの非共通経路探索「search paths from A to B NOT Y to B」と同様の探索機能を、ユーザーに提供することができる。
【0201】
また例えば、第6及び第8探索モードの探索結果としての出力は、第1探索モードと以下の表示オプションの組み合わせに変更することができる。
【0202】
表示オプション13「from the end node to D」は、終点からさらにノードDに至る経路を合わせて表示させる。第1探索モード「search paths from A to B」と組み合わせて指定することにより、第6探索モード「search paths from A to B OR B to D」と同様の探索機能を、ユーザーに提供することができる。
【0203】
表示オプション14「around the end node within m paths」は、終点からさらにその終点の周囲で経路長m以内の範囲の経路を合わせて表示させる。第1探索モード「search paths from A to B」と組み合わせて指定することにより、第8探索モード「search paths from A to B OR around B within m」と同様の探索機能を、ユーザーに提供することができる。
<優先度を考慮した経路長>
経路長は、始点ノードから終点ノードに至る経路において経由するノードの数、あるいはエッジの数であるとしてここまで説明してきたが、これに代えて、優先度を考慮した経路長とすることができる。
【0204】
物性関係性グラフ3のノードとエッジのうちの少なくとも一部に属性情報を付与しておき、その属性情報に基づいて、ユーザーの関心がより高い経路を優先的に扱うことができる。属性情報を数値化し、経路に沿って重み付け加算して求めたスコアを、経路長とすることができる。
【0205】
図8は、物性関係性グラフ3のエッジに属性情報を与える物性関係性データベースの一例を示す説明図である。
【0206】
図8では、物性パラメータ名としてノード名そのものを表示してあり、原因側物性パラメータ対する結果側物性パラメータの関係性、その信頼度、及び、その関係性が適用される条件が、各エッジに対応する物性パラメータ対ごとに記憶されている。
【0207】
信頼度は、その物性パラメータ対の関係性が、理論的に確立された関係性か、経験的に知られているに過ぎず、理論的裏付けがなされていない関係性か、などに基づいて規定することができる。信頼度が高い程、小さい値を割り当てておくことによって、始点から結果側物性パラメータまでの経路に沿って、信頼度の和を求めた時に、値が小さいほど高信頼度の経路であることになる。
【0208】
図9は、物性関係性グラフ3のノードに属性情報を与える物性関係性データベースの一例を示す説明図である。
【0209】
図8は各エントリー(各行)がエッジに対応するので、ノードに付与する属性情報を記述するには適さないので、
図9に示すような、各エントリーがノードに対応するデータベースが追加される。
【0210】
図9でも、物性パラメータ名としてノード名そのものが記載されており、グラフにマッピングされた時のエッジ数が出エッジの数と入エッジに分けて記憶され、当該物性値の測定可能性、データベースデータ量、及び物性値がそれぞれ記憶されている。測定可能性は、物性値の測定の容易さを表す指標である。データベースデータ量はデータベース内に蓄積されているデータの量である。物性値は、具体的な物性値そのものである。
【0211】
図8に示したエッジに付与する属性情報、及び、
図9に示したノードに付与する属性情報の種類や数は一例に過ぎず、任意に変更することができる。また、エッジのみまたはノードのみに属性情報を付与しても、両方に付与しても良い。
【0212】
複数の属性情報が付与された場合には、それらを重み付け加算して経路のスコアを算出し、これを経路長として使用することができる。重み付けを調整することにより、重視すべき属性情報、軽視または無視して良い属性情報を選択的に変更することができる。
【0213】
例えば、信頼度の重みを大きくすることにより、信頼度の高い経路を優先した探索結果を出力することができる。ノードに付したエッジ数の属性情報は、その物性との関係性を有する物性の数を表しているので、他の物性をできる限り変化させないように最適化制御する経路を求めたいときには、エッジ数の少ない経路を優先するような重み付けを行うことができる。
【0214】
このように、優先度を考慮した経路長を採用することにより、ユーザーの望む探索結果を効率的に得ることができる。
【0215】
<グラフ生成部を含むシステム>
探索システム10は、物性パラメータ関係性データベースとグラフ生成部とをさらに備えると好適である。
【0216】
図4は、本実施形態1の探索システムの一変形例を示すブロック図である。
【0217】
物性パラメータ関係性データベース1は、互いに関係性を有する物性パラメータの複数のパラメータ対を記憶する。グラフ生成部2は、パラメータ対に含まれる複数の物性パラメータをノードとし、そのパラメータ対に対応するノード間をエッジとすることにより、物性関係性グラフ3を生成する。
【0218】
これにより、物性関係性グラフを探索システム内で生成することができる。
【0219】
<ハードウェア/ソフトウェア実装形態>
本発明の探索システム10は、記憶装置と計算機を備えたハードウェアシステム上に、ソフトウェアとして機能構築される。
【0220】
図5は、本発明の探索システム10が実装されるハードウェアシステムの一例を示すブロック図である。
【0221】
サーバー100とユーザー側のワークステーション110,120が、インターネットなどのネットワーク200に接続されている。サーバー100は、計算機101、記憶装置102、ネットワークインターフェース103、入力部104及び表示部105を有する。
【0222】
ネットワーク200を介する入出力で十分であれば、入力部104及び表示部105は具備されなくても良い。ユーザー側のワークステーション110,120もそれぞれ、計算機111,121、記憶装置112,122、ネットワークインターフェース113,123、入力部114,124及び表示部115,125を有する。一方、ネットワーク200に接続されない態様で実装することもできる。サーバー100からネットワークインターフェース103を省略し、本発明の探索システム10のすべてを、計算機101、記憶装置102、入力部104及び表示部105に実装すればよい。
【0223】
探索システム10の物性パラメータ関係性データベース1は記憶装置102に記憶され、グラフ生成部2は計算機101上で動作するソフトウェアである。グラフ生成部2によって生成される物性関係性グラフ3は、中間データとして記憶装置102に記憶され、計算機101上にソフトウェアとして実装されるグラフ探索部4の入力データとされる。
【0224】
探索システム10のユーザーインターフェース5は、ユーザー側のワークステーション110,120の入力部114,124及び表示部115,125を使って実装される。ユーザー側のワークステーション110,120からユーザーインターフェース5を介して、グラフ探索部4に探索条件が与えられ探索結果が応答される。
【0225】
グラフ探索部4は、サーバー100ではなくまたはサーバー100に加えて、ユーザー側のワークステーション110,120の計算機111,121上にソフトウェアとして実装されても良い。このとき、物性関係性グラフ3は、ユーザー側のワークステーション110,120からの要求に応じてサーバー100から供給される。物性関係性グラフ3は、その経路探索に先立って、予めダウンロードし、ワークステーション110,120の記憶装置112、122上に格納しておいても良い。これにより、グラフ探索部4による経路探索処理が高速化される。特に、多数のユーザーが同時にグラフ探索処理を実行する場合に、サーバー100に処理の負荷が集中するのを防止することができる。
【0226】
〔実施形態2〕
図1、
図4に例示した探索システム10は、
図5に例示し上で説明したように、種々のハードウェア上に実装することができる。その探索方法は、一般に、記憶装置を備える電子計算機上で動作するソフトウェアによって実現される。
【0227】
図6は、本発明の探索方法を説明するフローチャートである。
【0228】
探索方法は、探索条件項目抽出工程(S1)とグラフ探索工程(S2)と探索結果出力工程(S3)とを含む。
【0229】
探索条件項目抽出工程(S1)は、入力される探索条件から、探索モードと探索条件項目とを抽出する。グラフ探索工程(S2)は、抽出された探索モードと探索条件項目に応じて、物性関係性グラフ3を探索して、探索モード及び探索条件項目にしたがった探索によって抽出された経路または部分グラフを探索結果として出力する。探索結果出力工程(S3)は、グラフ探索工程(S2)が探索によって抽出した探索結果を探索システム10から出力する。
【0230】
ここで、探索条件項目抽出工程(S1)によって抽出される探索モード及び探索項目、それにしたがってグラフ探索工程(S2)において実行される経路探索は、
図2に例示し実施形態1で説明したものと同様である。探索条件項目は、探索モードに応じて、経路探索の始点、終点、及び始点・終点のいずれとも異なる第三ノード、または、始点及び/または終点と経路長条件である。
【0231】
探索条件として始点と終点を指定して、物性関係性グラフ3の経路探索を実行する、従来の探索モードに対して、始点と終点に加えていずれとも異なる第三ノードまたは経路長条件をさらに探索条件として追加し、または始点または終点の一方と経路長条件を探索条件として指定することによって、探索条件として追加する項目を最小限に抑えながら、探索方法を大幅に多様化することができる。
【0232】
図7は、本発明の探索方法の変形例を説明するフローチャートである。
【0233】
表示オプション抽出工程(S4)と表示オプション処理工程(S5)とが追加される。
【0234】
表示オプションは、
図3に例示し実施形態1で説明したものと同様である。表示オプションは入力される探索条件の一部であるので、表示オプション抽出工程(S4)は探索条件項目抽出工程(S1)に含まれるものとしてもよい。また、指定された表示オプションにしたがった表示内容の加工は、表示オプション処理工程(S5)で行われるが、この工程も探索結果出力工程(S3)に含まれるものとしてもよい。
【0235】
各種の探索モードに、表示オプションを追加することにより、ユーザーに気付きを促し、所望の経路を発見するのを助けることができる。
【0236】
以上本発明者によってなされた発明を実施形態に基づいて具体的に説明したが、本発明はそれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0237】
1 物性パラメータ関係性データベース
2 グラフ生成部
3 物性関係性グラフ
4 グラフ探索部
5 ユーザーインターフェース
10 探索システム
51 探索条件抽出部
52 探索結果出力部
100 サーバー
110、120 ワークステーション
101、111、121 計算機
102、112、122 記憶装置
103、113、123 ネットワークインターフェース
104、114、124 入力部
105、115、125 表示部
200 ネットワーク