(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022183360
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】統合型プラスミド
(51)【国際特許分類】
C12N 15/86 20060101AFI20221201BHJP
C12N 15/861 20060101ALI20221201BHJP
C12N 15/864 20060101ALI20221201BHJP
C12N 15/867 20060101ALI20221201BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
C12N15/86 Z ZNA
C12N15/861 Z
C12N15/864 100Z
C12N15/867 Z
C12N1/21
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022169231
(22)【出願日】2022-10-21
(62)【分割の表示】P 2022506963の分割
【原出願日】2021-11-02
(31)【優先権主張番号】P 2020184491
(32)【優先日】2020-11-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】517235683
【氏名又は名称】株式会社シンプロジェン
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100118371
【弁理士】
【氏名又は名称】▲駒▼谷 剛志
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 俊介
(72)【発明者】
【氏名】柘植 謙爾
(57)【要約】
【課題】ウイルスベクタープラスミドを生産すること。
【解決手段】一つの局面において、本開示は、枯草菌内で複製する配列を有するウイルスベクタープラスミドを作製する方法を提供し、この方法は、枯草菌内で複製する配列を有する、ウイルスベクターを生産するための核酸配列を含む核酸を宿主細胞に導入して、前記宿主細胞においてプラスミドを形成させるステップを含む。一つの実施形態において、枯草菌は外部から取り込んだ核酸からプラスミドを形成する能力を有し得るので、この方法において、導入する核酸はプラスミドでなくてもよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ウイルスベクターを生産するためのプラスミドを提供する。本開示は、またプラスミドから生産されたウイルスベクターおよびこれを含む組成物を提供する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子治療およびワクチン療法などのためにアデノウイルスベクター(特許文献1)など種々のウイルスベクターが開発されている。
【0003】
ウイルスベクターの調製のためには、通常、プロデューサー細胞にウイルスベクタープラスミドを導入する必要がある。そのため、ウイルスベクタープラスミドの合成・構築が必要である。設計されたウイルスベクタープラスミドは、大腸菌などにおいて合成・構築されることが多く、枯草菌において合成・構築されたことはなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、枯草菌においてウイルスベクタープラスミドを生産できることを見出した。この知見に基づき、本開示は、枯草菌において複製できるウイルスベクタープラスミドを提供する。また、本開示は、ウイルスベクタープラスミドを含む枯草菌、およびウイルスベクタープラスミドから生産されたウイルスベクターも提供する。
【0006】
したがって、本発明は以下を提供する。
(項目A1)
枯草菌においてプラスミド複製を促進する核酸配列と、
ウイルスベクターを構成するのに必要な核酸配列のうちの少なくとも1つと、
を含むプラスミド。
(項目A2)
前記ウイルスベクターを構成するのに必要な核酸配列は、
前記ウイルスのカプシドタンパク質をコードする核酸配列と、
前記ウイルスのゲノムをパッケージング、転写および複製するタンパク質をコードする核酸配列と、
前記ウイルスの2つの末端反復配列と、
ヘルパー遺伝子をコードする核酸配列と、
を含む、前記項目のいずれかのプラスミド。
(項目A3)
前記ウイルスのカプシドタンパク質をコードする核酸配列、
前記ウイルスのゲノムをパッケージング、転写および複製するタンパク質をコードする核酸配列、
前記ウイルスの2つの末端反復配列、および
ヘルパー遺伝子をコードする核酸配列
のうちの少なくとも2つを含む、前記項目のいずれかのプラスミド。
(項目A4)
前記ウイルスのカプシドタンパク質をコードする核酸配列、
前記ウイルスのゲノムをパッケージング、転写および複製するタンパク質をコードする核酸配列、
前記ウイルスの2つの末端反復配列、および
ヘルパー遺伝子をコードする核酸配列
のうちの少なくとも3つを含む、前記項目のいずれかのプラスミド。
(項目A5)
前記ウイルスのカプシドタンパク質をコードする核酸配列と、
前記ウイルスのゲノムをパッケージング、転写および複製するタンパク質をコードする核酸配列と、
前記ウイルスの2つの末端反復配列と、
ヘルパー遺伝子をコードする核酸配列と、
を含む、前記項目のいずれかのプラスミド。
(項目A6)
前記ウイルスベクターを構成するのに必要な核酸配列が、約10kb以上である、前記項目のいずれかのプラスミド。
(項目A7)
前記カプシドタンパク質をコードする核酸配列、前記ゲノムをパッケージング、転写および複製するタンパク質をコードする核酸配列および前記ヘルパー遺伝子の少なくとも1つが、前記2つの末端反復配列に挟まれる領域の外にある、前記項目のいずれかのプラスミド。
(項目A8)
枯草菌においてプラスミド複製を促進する前記核酸配列が、枯草菌において作動する複製起点を含む、前記項目のいずれかのプラスミド。
(項目A9)
大腸菌においてプラスミドを増幅する核酸配列をさらに含む、前記項目のいずれかのプラスミド。
(項目A10)
前記ウイルスのカプシドタンパク質をコードする核酸配列が、L1、L2、L3、L4、L5、capおよびgagのうちの少なくとも1つを含む、前記項目のいずれかのプラスミド。
(項目A11)
前記ウイルスのゲノムをパッケージング、転写および複製するタンパク質をコードする核酸配列が、E1A、E1B、E2A、E2B、E4、rep、ψ、APP、MAAP、polおよびrevのうちの少なくとも1つを含む、前記項目のいずれかのプラスミド。
(項目A12)
前記末端反復配列が、末端逆位反復配列(ITR)または長鎖末端反復配列(LTR)である、前記項目のいずれかのプラスミド。
(項目A13)
前記ヘルパー遺伝子が、E1A、E1B、E2A、E4、VA、env、tat、RPE、PPT、PREおよびproのうちの少なくとも1つを含む、前記項目のいずれかのプラスミド。
(項目A14)
前記ウイルスのカプシドタンパク質をコードする核酸配列および前記ウイルスのゲノムを転写および複製するタンパク質をコードする核酸配列のうちの少なくとも1つが、アデノウイルスの血清型1~52またはアデノ随伴ウイルスの血清型1~12およびその改変体のいずれかに由来する、前記項目のいずれかのプラスミド。
(項目A15)
前記プラスミドが、前記ウイルスの全ゲノムのうち少なくとも一部の遺伝子の配列を含まない、前記項目のいずれかのプラスミド。
(項目A16)
前記ウイルスが、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レンチウイルス、レトロウイルスまたはセンダイウイルスである、項目A1~15のいずれか一項に記載のプラスミド。
(項目A17)
前記ウイルスが、アデノ随伴ウイルスまたはレンチウイルスである、前記項目のいずれかのプラスミド。
(項目A18)
前記ウイルスが、アデノ随伴ウイルスである、前記項目のいずれかのプラスミド。
(項目A19)
前記末端反復配列が、アデノ随伴ウイルスの血清型1~12およびその改変体のいずれかに由来する末端逆位反復配列(ITR)である、前記項目のいずれかのプラスミド。
(項目A20)
5’ITRおよび3’ITRの間に上流からプロモーター、所望の遺伝子およびターミネーターを含む、前記項目のいずれかのプラスミド。
(項目A21)
前記ヘルパー遺伝子が、E1A、E1B、E2A、E4、およびVAのうちの少なくとも1つを含む、前記項目のいずれかのプラスミド。
(項目A22)
前記ヘルパー遺伝子が、E2A、E4、およびVAを含む、前記項目のいずれかのプラスミド。
(項目A23)
前記ヘルパー遺伝子のそれぞれが、アデノウイルスの血清型1~52およびその改変体のいずれかに由来する、前記項目のいずれかのプラスミド。
(項目A24)
前記ウイルスのゲノムをパッケージング、転写および複製するタンパク質をコードする核酸配列が、repを含む、前記項目のいずれかのプラスミド。
(項目A25)
前記repが、アデノ随伴ウイルスの血清型1~12およびその改変体のいずれかに由来する、前記項目のいずれかのプラスミド。
(項目A26)
前記ウイルスのカプシドタンパク質をコードする核酸配列が、capを含む、前記項目のいずれかのプラスミド。
(項目A27)
前記capが、アデノ随伴ウイルスの血清型1~12およびその改変体のいずれかに由来する、前記項目のいずれかのプラスミド。
(項目A28)
前記ウイルスの2つの末端反復配列の間に所望の遺伝子を含む、前記項目のいずれかのプラスミド。
(項目A29)
前記所望の遺伝子が、2~100個の遺伝子である、前記項目のいずれかのプラスミド。
(項目A30)
前記所望の遺伝子が、10~100個の遺伝子である、前記項目のいずれかのプラスミド。
(項目A31)
前記所望の遺伝子が、プロモーター配列を含む、前記項目のいずれかのプラスミド。
(項目A32)
前記プラスミドおよびプロデューサー細胞が、一緒になって前記ウイルスベクターを構成するのに必要な核酸配列を含む、前記項目のいずれかのプラスミド。
(項目A33)
前記プラスミドを導入したプロデューサー細胞から生産される全ウイルスベクター粒子のうち、核酸を含まないウイルスベクター粒子が65%以下である、前記項目のいずれかのプラスミド。
(項目A34)
プロデューサー細胞に導入した場合に、生産される全ウイルスベクター粒子のうち、全ての所望の遺伝子を含む核酸を含むウイルスベクター粒子が90%以上である、前記項目のいずれかのプラスミド。
(項目A35)
プロデューサー細胞に導入した場合に、生産される全ウイルスベクター粒子のうち、所望の核酸以外の前記プラスミド由来の核酸を含むウイルスベクター粒子が2%以下である、前記項目のいずれかのプラスミド。
(項目A36)
CCC(covalently closed circular)純度が、80%以上である、前記項目のいずれかのプラスミド。
(項目A37)
所望の遺伝子を発現するための、前記項目のいずれかのプラスミドを含む組成物であって、前記所望の遺伝子は前記プラスミド上で前記ウイルスの2つの末端反復配列の間に配置される、組成物。
(項目A38)
前記項目のいずれかの核酸配列を作動可能に連結するステップを含む、前記項目のいずれかのプラスミドを生産する方法。
(項目A39)
項目A38に記載の方法によって生産されるプラスミド含有組成物。
(項目A40)
プラスミドのCCC(covalently closed circular)純度が、80%以上である、前記項目のいずれかのプラスミド含有組成物。
(項目A41)
前記項目のいずれかのプラスミドを作製するためのキットであって、
枯草菌においてプラスミド複製を促進する核酸配列と、
ウイルスを構成するのに必要な核酸配列と、
を含む少なくとも1つの核酸を含む、キット。
(項目A42)
前記項目のいずれかのプラスミドを含む、ウイルスベクターを調製するための組成物。
(項目A43)
前記項目のいずれかのプラスミドを用いてウイルスベクターを生産するステップを含む、ウイルスベクターを調製するための方法。
(項目A44)
前記プラスミドに含まれる核酸の少なくとも一部が、前記プラスミドを導入したプロデューサー細胞の染色体に組み込まれる、前記項目のいずれかの方法。
(項目A45)
項目A1~36のいずれか一項に記載のプラスミドを用いて生産される、または項目A43または44に記載の方法を用いて生産される、ウイルスベクター。
(項目A46)
前記項目のいずれかのプラスミドを用いて生産される、または前記項目のいずれかの方法を用いて生産される、ウイルスベクター含有組成物。
(項目A47)
全ウイルスベクター粒子のうち核酸を含まないウイルスベクター粒子が65%以下である、前記項目のいずれかの組成物。
(項目A48)
全ウイルスベクター粒子のうち、全ての所望の遺伝子を含む核酸を含むウイルスベクター粒子が90%以上である、前記項目のいずれかの組成物。
(項目A49)
全ウイルスベクター粒子のうち、所望の核酸以外の前記プラスミド由来の核酸を含むウイルスベクター粒子が2%以下である、前記項目のいずれかの組成物。
(項目A50)
前記項目のいずれかのプラスミドを含む枯草菌または大腸菌。
(項目A51)
前記項目のいずれかのプラスミドが導入されたプロデューサー細胞であって、前記プラスミドに含まれる核酸の少なくとも一部が、前記プロデューサー細胞の染色体に組み込まれている、プロデューサー細胞。
(項目1)
枯草菌においてプラスミド増幅を促進する核酸配列と、
ウイルスベクターを構成するのに必要な核酸配列のうちの少なくとも1つと、
を含むプラスミド。
(項目2)
前記ウイルスベクターを構成するのに必要な核酸配列は、
前記ウイルスのカプシドタンパク質をコードする核酸配列と、
前記ウイルスのゲノムをパッケージング、転写および複製するタンパク質をコードする核酸配列と、
前記ウイルスの2つの末端反復配列と、
ヘルパー遺伝子と、
を含む、前記項目のいずれかのプラスミド。
(項目3)
枯草菌においてプラスミド増幅を促進する前記核酸配列が、枯草菌において作動する複製起点を含む、前記項目のいずれかのプラスミド。
(項目4)
前記ウイルスのカプシドタンパク質をコードする核酸配列が、L2、L3、capおよびgagのうちの少なくとも1つを含む、前記項目のいずれかのプラスミド。
(項目5)
前記ウイルスのゲノムをパッケージング、転写および複製するタンパク質をコードする核酸配列が、E1A、E1B、E2A、E2B、E4、rep、ψ、APP、MAAP、polおよびrevのうちの少なくとも1つを含む、前記項目のいずれかのプラスミド。
(項目6)
前記末端反復配列が、末端逆位反復配列(ITR)または長鎖末端反復配列(LTR)である、前記項目のいずれかのプラスミド。
(項目7)
前記ヘルパー遺伝子が、E1A、E1B、E2A、E4、VA、env、tat、RPE、PPT、PREおよびproのうちの少なくとも1つを含む、前記項目のいずれかのプラスミド。
(項目8)
前記ウイルスのカプシドタンパク質をコードする核酸配列および前記ウイルスのゲノムを転写および複製するタンパク質をコードする核酸配列のうちの少なくとも1つが、アデノウイルスの血清型1~51またはアデノ随伴ウイルスの血清型1~11のいずれかに由来する、前記項目のいずれかのプラスミド。
(項目9)
前記ウイルスが、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レンチウイルス、レトロウイルスまたはセンダイウイルスである、前記項目のいずれかのプラスミド。
(項目10)
前記ウイルスの2つの末端反復配列の間に所望の遺伝子を含む、前記項目のいずれかのプラスミド。
(項目11)
前記所望の遺伝子が、2~100個の遺伝子である、前記項目のいずれかのプラスミド。
(項目12)
前記所望の遺伝子が、プロモーター配列を含む、前記項目のいずれかのプラスミド。
(項目13)
前記プラスミドおよびプロデューサー細胞が前記ウイルスベクターを構成するのに必要な核酸配列を含むようなプロデューサー細胞において機能するように構成される、前記項目のいずれかのプラスミド。
(項目14)
前記プラスミドを導入したプロデューサー細胞から生産される全ウイルスベクター粒子のうち、核酸を含まないウイルスベクター粒子が65%以下である、前記項目のいずれかのプラスミド。
(項目15)
プロデューサー細胞に導入した場合に、生産される全ウイルスベクター粒子のうち、全ての所望の遺伝子を含む核酸を含むウイルスベクター粒子が90%以上である、前記項目のいずれかのプラスミド。
(項目16)
プロデューサー細胞に導入した場合に、生産される全ウイルスベクター粒子のうち、所望の核酸以外の前記プラスミド由来の核酸を含むウイルスベクター粒子が2%以下である、前記項目のいずれかのプラスミド。
(項目17)
前記項目のいずれかの核酸配列を作動可能に連結するステップを含む、前記項目のいずれかのプラスミドを生産する方法。
(項目18)
前記項目のいずれかの方法によって生産されるプラスミド含有組成物。
(項目19)
プラスミドのCCC(covalently closed circular)純度が、80%以上である、前記項目のいずれかのプラスミド含有組成物。
(項目20)
前記項目のいずれかのプラスミドを作製するためのキットであって、
枯草菌においてプラスミド増幅を促進する核酸配列と、
ウイルスを構成するのに必要な核酸配列と、
を含む少なくとも1つの核酸を含む、キット。
(項目21)
前記項目のいずれかのプラスミドを含む、ウイルスベクターを調製するための組成物。(項目22)
前記項目のいずれかのプラスミドを用いてウイルスベクターを生産するステップを含む、ウイルスベクターを調製するための方法。
(項目23)
前記項目のいずれかのプラスミドを用いて生産される、または前記項目のいずれかの方法を用いて生産される、ウイルスベクター。
(項目24)
前記項目のいずれかのプラスミドを用いて生産される、または前記項目のいずれかの方法を用いて生産される、ウイルスベクター含有組成物。
(項目25)
全ウイルスベクター粒子のうち核酸を含まないウイルスベクター粒子が65%以下である、前記項目のいずれかの組成物。
(項目26)
全ウイルスベクター粒子のうち、全ての所望の遺伝子を含む核酸を含むウイルスベクター粒子が90%以上である、前記項目のいずれかの組成物。
(項目27)
全ウイルスベクター粒子のうち、所望の核酸以外の前記プラスミド由来の核酸を含むウイルスベクター粒子が2%以下である、前記項目のいずれかの組成物。
(項目28)
前記項目のいずれかのプラスミドを含む枯草菌。
【0007】
本発明において、上記の1つまたは複数の特徴は、明示された組み合わせに加え、さらに組み合わせて提供され得ることが意図される。本発明のなおさらなる実施形態および利点は、必要に応じて以下の詳細な説明を読んで理解すれば、当業者に認識される。
【発明の効果】
【0008】
本開示は、枯草菌において複製できるウイルスベクタープラスミドを提供する。このウイルスベクタープラスミドに基づいて、従来にない改善された様式でウイルスベクター生産が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】pRC2-mi342プラスミドの構造を示す。
【
図4】pGETS103-AVプラスミドの構造を示す。
【
図5】pGETS103-RC2プラスミドの構造を示す。
【
図6】pGETS103-AAV-RC2プラスミドの構造を示す。
【
図7】pGETS103-AAV-Helper-RC2プラスミドの構造を示す(オールインワン構造)。
【
図8】pGETS103-AAVプラスミドの構造を示す。
【
図9】pGETS103-Helperプラスミドの構造を示す。
【
図10】pGETS103-AAV-Helper-RC2プラスミドを22の断片からOGAB法によって構築する概略を示す。点線の囲みは、AarI切断によって取り除かれる部分を示す(大文字はリンカー由来配列を示し、小文字はベクター由来配列を示す)。第1、第3および第16の断片は化学合成およびMAP法によって取得した。その他の断片は、PCRによって取得した。
【
図11】OGAB法によって構築したpGETS103-AAV-Helper-RC2プラスミドの電気泳動の結果を示す。
【
図12】pGETS103ΔAarIをベースに構築した例示的なレンチウイルスベクタープラスミドの構造を示す。
【
図13】pGETS103ΔAarIをベースに構築した例示的なレトロウイルスベクタープラスミドの構造を示す。
【
図14】pGETS103ΔAarIをベースに構築した例示的なセンダイウイルスベクタープラスミドの構造を示す。
【
図15】pGETS103ΔAarIをベースに構築した例示的なアデノウイルスベクタープラスミドの構造を示す。
【
図16】プラスミドpGETS118-AarIの構造および核酸導入箇所を示す。点線囲み部分は、AarI切断によって取り除かれる部分を示す。
【
図17】pGETS118-AarIに導入したAAVベクターを生産するための追加の7種のオールインワン構造を示す。各オールインワン構造の下に示す白抜きの四角は、構築に使用した単位DNAの数およびおおよその対応領域を示す。
【
図18】追加のベクタープラスミド(2~8)を使用した場合においてもpGETS103-AAV-Helper-RC2プラスミド(1)と同様にウイルスベクターが生産されることを示す。
【
図19】アデノウイルスベクターを生産するためのオールインワン構造を示す。下に示す白抜きの四角は、構築に使用した単位DNAの数およびおおよその対応領域を示す。GOIは所望の遺伝子を示す。
【
図20】プラスミドpBET131-AarIの構造および核酸導入箇所を示す。点線囲み部分は、AarI切断によって取り除かれる部分を示す。
【
図21】pGETS103-ΔAarIに基づくAAV1のRepおよびAAV6のCapを使用したAAVウイルスオールインワンベクタープラスミドの構造を示す。オールインワン構造の下に示す白抜きの四角は、構築に使用する単位DNAの数およびおおよその対応領域を示す。
【
図22】pGETS103-ΔAarIに基づくCAGプロモーター、AAV5のRepおよびAAV1のCapを使用したAAVウイルスオールインワンベクタープラスミドの構造を示す。オールインワン構造の下に示す白抜きの四角は、構築に使用する単位DNAの数およびおおよその対応領域を示す。
【
図23】pGETS103-ΔAarIに基づくEF1αプロモーター、AAV8のRepおよびAAV9のCapを使用したAAVウイルスオールインワンベクタープラスミドの構造を示す。オールインワン構造の下に示す白抜きの四角は、構築に使用する単位DNAの数およびおおよその対応領域を示す。
【
図24】pGETS103-ΔAarIに基づくRep、CapおよびHelperを異なる順序で配置したAAVウイルスオールインワンベクタープラスミドの構造を示す。SV40プロモーターを使用した例でもある。オールインワン構造の下に示す白抜きの四角は、構築に使用する単位DNAの数およびおおよその対応領域を示す。
【
図25】pBETS131-AarIに基づくRep、CapおよびHelperを異なる順序で配置したAAVウイルスオールインワンベクタープラスミドの構造を示す。オールインワン構造の下に示す白抜きの四角は、構築に使用する単位DNAの数およびおおよその対応領域を示す。
【
図26】pBETS103-ΔAarIに基づくHelper遺伝子の要素を変更したAAVウイルスオールインワンベクタープラスミドの構造を示す。オールインワン構造の下に示す白抜きの四角は、構築に使用する単位DNAの数およびおおよその対応領域を示す。
【
図27】pGETS103-ΔAarIに基づくAAV1のRepおよびAAV6のCapを使用したコロナウイルスオールインワンベクタープラスミドの構造を示す。構造タンパク質領域に所望の遺伝子(GOI)をプロモーターとともに位置付けた例である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示を最良の形態を示しながら説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本開示の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0011】
以下に本明細書において特に使用される用語の定義および/または基本的技術内容を適宜説明する。
【0012】
本明細書において「枯草菌」とは、土壌や植物に普遍的に存在し、反芻動物やヒトの胃腸管に存在する、好気性のグラム陽性のカタラーゼ陽性の細菌であり、0.7~0.8×2~3μmの大きさであり、中温性で、最適生育温度は25~40℃であり、芽胞を形成するとされ、学名Bacillus subtilisまたはこれと近縁なBacillus属細菌であるBacillus amyloliquefaciens、Bacillus licheniformis、Bacillus pumilusなどを含む、病原性を有せず、自然形質転換能を有する任意の細菌をさす。好ましい実施形態では、枯草菌は、Bacillus subtilisの中で高い自然形質転換能を有する株であるMarburg 168株またはその派生株のRM125株である。168株は、遺伝的に最も研究されたグラム陽性菌であり、RM125株とともにATCC(American Type Culture Collection)などから入手可能であり、それ自体は人畜無害であること、OGAB法が適応可能であることが判っていることなどからも、本開示において好適に使用され得る。
【0013】
本明細書において使用する場合、「プラスミド」とは、細胞中で染色体とは別個に存在するか、または細胞に導入した場合に染色体とは別個に存在する環状DNAを指す。
【0014】
本明細書において「プラスミド複製を促進する核酸配列」とは、「プラスミド増幅を促進する核酸配列」と同じ意味で用いられ、宿主細胞(例えば、枯草菌)に導入されたときに、宿主細胞内に存在するプラスミドの複製(この文脈においては、増幅と同じである。)を促進する任意の核酸配列をいう。好ましくは、このプラスミド複製を促進する核酸配列は、対象となるプラスミドをコードする核酸配列と作動可能に連結されているがこれに限定されない。プラスミド複製を促進する核酸配列、対象となるプラスミド、それらの関係などの詳細は、本明細書の別の箇所に記載される。プラスミド複製を促進する核酸配列としては、対象となる宿主細胞(例えば、枯草菌)において作動する複製起点を含む核酸配列などをあげることができる。例えば、枯草菌においてプラスミド複製を促進する核酸配列は、枯草菌におけるプラスミド複製の促進を可能にする能力を有するが、枯草菌以外の微生物(例えば、大腸菌)においてプラスミド複製の促進を可能にする能力をさらに有してもよい。枯草菌および他の生物(例えば、大腸菌)においてプラスミド複製を促進する核酸配列は、枯草菌および他の生物(例えば、大腸菌)の両方において同じ領域がプラスミド複製の促進のために利用される核酸配列でもよいし、本開示のベクタープラスミド上の連続配列であってもよいし、離れた箇所に位置付けられる配列であってもよい。例えば、プラスミドpSTK1(Issay Narumtら、BIOTECHNOLOGY LETTERS、Volume 17 No.5 (May 1995) pp.475-480)、およびプラスミドpBS195(Molekuliarnaia Genetikaら、01 May 1991, (5):26-29、PMID:1896058)は、枯草菌および大腸菌の両方において同じ複製開始領域で複製可能であることが示されており、このような核酸配列は、枯草菌および大腸菌の両方においてプラスミド複製を促進する核酸配列として使用され得る。また、BR322(大腸菌プラスミド)およびpC194(枯草菌プラスミド)を連結して作製されたシャトルプラスミド(P Trieu-Cuotら、EMBO J. 1985 Dec 16;4(13A):3583-3587.)、およびタカラバイオ(滋賀県)から提供されるpUBoriおよびColE1 oriを含むB. subtilis Secretory Protein Expression Systemのプラスミドは、大腸菌および枯草菌の両方において複製可能であり、このような離れて位置付けられる核酸配列も、枯草菌および大腸菌の両方においてプラスミド複製を促進する核酸配列として使用され得る。枯草菌における核酸(プラスミド)の複製機構としては、ローリングサークル型、シータ型、oriC、ファージによるものなどが挙げられ、枯草菌内で複製される配列としていずれの機構を利用するものでも使用することができる。ローリングサークル型の複製機構は、二本鎖DNAの片側の一本鎖の複製を行ったのち、もう一方の鎖の複製を行う機構であり、核酸が一本鎖DNAとして存在する時間が長いためプラスミドが不安定化になる傾向がある。シータ型の複製機構は、細菌染色体の複製の場合と同じように複製起点から2方向に同時に二本鎖DNA(プラスミド)の複製が開始される機構であり、本開示のように長いDNA(例えば、10kb以上)の複製の際には好ましく使用され得る(Janniere, L., A. Gruss, and S. D. Ehrlich. 1993. Plasmids, p. 625-644. InA. L. Sonenshein, J. A. Hoch, and R. Losick (ed.), Bacillus subtilis and othergram-positive bacteria: biochemistry, physiology and molecular genetics.American Society for Microbiology, Washington, D.C.)。oriCの複製機構は、宿主細菌(例えば、枯草菌)染色体の複製の場合と同じように作動する。枯草菌内でプラスミド複製を促進する核酸配列としては、ローリングサークル型、シータ型、oriC、ファージなどによる複製機構を作動させることが公知である、プラスミドもしくはその部分または複製起点あるいはそれらの改変体などが挙げられる。ローリングサークル型プラスミドとして、pUB110、pC194、pE194、pT181などが公知であり、シータ型プラスミドとして、pAMβ1、pTB19、pLS32、pLS20などが公知である。枯草菌内でプラスミド複製を促進する核酸配列は、公知の複製開始点と同一または類似の配列(例えば、90%以上、95%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.5%以上の配列同一性)を有し得る。例えば、候補DNA断片と、薬剤耐性遺伝子などの枯草菌で有効な選択マーカー遺伝子とを連結したDNA断片を枯草菌に導入した後、(薬剤などを添加して)培養した後に、これが染色体外で複製される場合、この候補DNA断片は枯草菌内でプラスミド複製を促進する核酸配列を有すると判定できる。プラスミド増幅を促進する核酸配列は、複製開始点を有するDNA断片であり、染色体DNAとは独立して複製可能なDNA断片を指す。これらのDNA断片が複製可能かどうかは、これらのDNA断片に薬剤耐性遺伝子などの選択マーカー遺伝子を連結し、薬剤などの選択条件で培養した後、プラスミドDNAを精製し、電気泳動によりそのDNAのバンドを観察するなどの手法により確認することが出来る。プラスミドは、複製開始点の他に、複製開始点に宿主のDNA複製酵素を誘導するrepタンパク質の遺伝子や、プラスミドの娘細胞への分配を確実に行うための分配機構遺伝子、選択マーカー遺伝子などを含んでもよい。repタンパク質の遺伝子内に複製開始点が融合していてもよい。
【0015】
本明細書において使用する場合、「パッケージング細胞」とは、ベクタープラスミドを生産するための細胞を指す。
【0016】
本明細書において使用する場合、「ベクタープラスミド」または「ウイルスベクタープラスミド」とは、ウイルスベクターに搭載する遺伝子を含む、プロデューサー細胞においてウイルスベクターを生産するためのプラスミドを指す。ベクタープラスミドは、2つの末端反復配列の間にウイルスベクターの標的細胞内で発現させる遺伝子(所望の遺伝子)の配列を含み、その他にプロモーターを含み、さらに他の要素(例えば、エンハンサー、ターミネーター等)を含んでもよい。
【0017】
本明細書において使用する場合、「プロデューサー細胞」とは、所望のウイルスベクターを産生できる細胞を意味し、ウイルスベクターの産生に必要な遺伝子が、染色体および導入したプラスミドから発現される細胞であり得る。プロデューサー細胞に本開示のベクタープラスミドを導入することで、所望のウイルスベクターが生産され得る。例えば、AAVウイルスベクターの場合、その産生にE1AとE1Bが必要であるが、HEK293はこれらを有するため、これらをヘルパープラスミドから除くことができる。他の細胞でも、このようなヘルパー因子を有するように改変すれば、プロデューサー細胞として機能する。
【0018】
本明細書において使用する場合、「ウイルスベクター」とは、ウイルスに由来する構造を少なくとも部分的に有し、標的細胞に核酸を導入できる構築物を指す。典型的には、ウイルスベクターは、ウイルスのカプシドおよび異種遺伝子を含む核酸を含むウイルス粒子の形態である。本明細書において使用する場合、「起源ウイルス」とは、ウイルスベクターが有するウイルス由来構造を天然に有するウイルスを指す。ウイルスベクターにおいて、カプシドに包有される核酸(搭載核酸)は、2つの末端反復配列の間にウイルスベクターの標的細胞内で発現させる遺伝子(所望の遺伝子)配列を含み、その他に、プロモーター、エンハンサー、ターミネーター等を含んでもよいし、起源ウイルスに由来する遺伝子を含んでもよい。
【0019】
本明細書において、「ウイルスベクターを構成するのに必要な核酸配列」とは、これを含むプロデューサー細胞がウイルスベクターを生産できる核酸配列(例えば、核酸配列の組合せ)を指す。一つの実施形態において、ウイルスベクターを構成するのに必要な核酸配列は、ウイルスのカプシドタンパク質をコードする核酸配列と、ウイルスのゲノムをパッケージング、転写および複製するタンパク質をコードする核酸配列と、ウイルスの2つの末端反復配列と、ヘルパー遺伝子の核酸配列とを含む。「ヘルパー遺伝子の核酸配列」とは、例えば、ウイルスのカプシドタンパク質をコードする核酸配列、ウイルスのゲノムをパッケージング、転写および複製するタンパク質をコードする核酸配列、およびウイルスの2つの末端反復配列以外の任意のウイルスベクターを構成するのに必要な核酸配列を含みうるかあるいは本質的になる。これらのそれぞれの核酸配列は、ウイルスベクターごとに異なり得る。これらの詳細は、本明細書の別の箇所に記載される。好ましい実施形態では、ウイルスベクターを構成するのに必要な核酸配列は、AAVおよびアデノウイルスに共通する有利な配列が利用され、より好ましくはAAVに有利な配列が利用され得る。このようなAAVおよびアデノウイルスに共通する有利な配列は、末端逆位反復配列(ITR)の間に所望の遺伝子を含み、ヘルパー遺伝子、rep、capまたはL1、L2、L3、L4、L5を含でもよいという特徴を有し、AAVに有利な配列は、ITRの間に所望の遺伝子を含み、ヘルパー遺伝子、rep、capを含んでもよい。ヘルパー遺伝子、rep、capの配置は2つのITRの外側でもよいという特徴を有する。例えば、このような例としては、特定のヘルパー遺伝子E1A、E1B、E2A、E2B、E3、E4の配列が挙げられるがこれに限定されない。
【0020】
本明細書において「ウイルスのゲノムをパッケージング、転写および複製するタンパク質」とは、ウイルスのゲノムをカプシドに内包させるタンパク質、転写するタンパク質、ウイルスのゲノムを複製するタンパク質、その両方の機能を有するタンパク質を含み、E1A、E1B、E2A、E2B、E4、rep、pol、ψ、APP、MAAPおよびrevなどを挙げることができる。限定を意図しないが、ウイルスのゲノムをパッケージング、転写および複製するタンパク質はアデノウイルスの血清型1~52またはアデノ随伴ウイルスの血清型1~12、あるいはその改変体(rh10、DJ、DJ/8、PHP.eB、PHP.S、AAV2-retro、AAV2-QuadYF、AAV2.7m8、AAV6.2、rh.74、AAV2.5、AAV-TT、Anc80など)のいずれかに由来するものが利用され得る。このタンパク質は、天然のものであっても、人工的に変異を導入したものであってもよい。「人工的に変異」を導入したものは、例えば公知の文献に記載されている天然のものの配列に対して適宜の変異を導入することで作製することができる。
【0021】
本明細書において使用する場合、「カプシド」は、ウイルスまたはウイルスベクターの表面に存在する(必要に応じてエンベロープに封入されている)ウイルスが有する遺伝子から生産されるタンパク質を指し、「カプシドタンパク質」ともいう。カプシドは細胞への感染性を担い得る。カプシドタンパク質には、L2、L3、capおよびgagをあげることができるがこれらに限定されない。限定を意図しないが、ウイルスのカプシドタンパク質をコードする核酸配列は、アデノウイルスの血清型1~52またはアデノ随伴ウイルスの血清型1~12、あるいはその改変体(rh10、DJ、DJ/8、PHP.eB、PHP.S、AAV2-retro、AAV2-QuadYF、AAV2.7m8、AAV6.2、rh.74、AAV2.5、AAV-TT、Anc80など)のいずれかに由来するものが利用され得る。カプシドは、天然のものであっても、人工的に変異を導入したものであってもよい。「人工的に変異」を導入したものは、例えば公知の文献に記載されている天然のものの配列に対して適宜の変異を導入することで作製することができる。
【0022】
本明細書において「反復配列」または「タンデムリピート」(な核酸配列)とは、生物ゲノムの核酸配列で、同じ配列が反復して(特に数回以上)見られるものの総称である。当該分野で使用される任意の反復配列を本開示において使用することができる。典型的には、プロモーター配列が反復して出現する。
【0023】
本明細書において「末端反復配列」は、生物ゲノムの核酸配列で、同じ配列が反復して(特に数回以上)見られるもののうち、末端に存在するものの総称である。末端反復配列としては、末端逆位反復配列(ITR)または長鎖末端反復配列(LTR)などをあげることができるがこれらに限定されない。末端反復配列は、アデノウイルスの血清型1~52またはアデノ随伴ウイルスの血清型1~12、あるいはその改変体(rh10、DJ、DJ/8、PHP.eB、PHP.S、AAV2-retro、AAV2-QuadYF、AAV2.7m8、AAV6.2、rh.74、AAV2.5、AAV-TT、Anc80など)のいずれかに由来するものが利用され得る。末端反復配列としては、天然のものであっても、人工的に変異を導入したものであってもよい。「人工的に変異」を導入したものは、例えば公知の文献に記載されている天然のものの配列に対して適宜の変異を導入することで作製することができる。
【0024】
本明細書において「ヘルパー遺伝子」とは、単独では増殖できないウイルスの増幅を支援する遺伝子をいう。本開示において、ヘルパー遺伝子には、例えば、そのウイルスのカプシドタンパク質をコードする核酸配列、そのウイルスのゲノムをパッケージング、転写および/または複製するタンパク質をコードする核酸配列、ならびにそのウイルスの2つの末端反復配列以外の任意のウイルスベクターを構成、増殖、活性向上、毒性低減するのに必要な核酸配列が挙げられ得るがこれらに限定されない。使用され得るヘルパー遺伝子としては、例えば、E1A、E1B、E2A、E2B、E4、RPE、WRPE、PPT、oPRE、エンハンサー、インスレーター、サイレンサー配列等を挙げることができるがこれらに限定されない。
【0025】
本明細書において使用する場合、「搭載(loaded)核酸」とは、ウイルスベクターに担持されている核酸を意味する。搭載核酸であるかどうかは、ウイルスベクター調製物をDNase処理してカプシド外の核酸を分解した後、DNaseを不活化し、その後カプシドから抽出した核酸を確認することによって確認することができる。搭載核酸であるかどうかは、得られた核酸生成物の配列(好ましくは全長または全長に近い長さのもの)を調べることによって確認することもできる。
【0026】
本明細書において使用する場合、「宿主細胞」とは、外来性の核酸またはタンパク質またはウイルスもしくはウイルスベクターが導入された細胞(そのような細胞の子孫を含む)をさす。
【0027】
本明細書において「タンパク質」、「ポリペプチド」および「ペプチド」は、同じ意味で使用され、任意の長さのアミノ酸のポリマーをいう。このポリマーは、直鎖であっても分岐していてもよく、環状であってもよい。アミノ酸は、天然のものであっても非天然のものであってもよく、改変されたアミノ酸であってもよい。この用語はまた、天然または人工的に改変されたポリマーも包含する。そのような改変としては、例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化または任意の他の操作もしくは改変(例えば、標識成分との結合体化)が包含される。
【0028】
本明細書において「ポリヌクレオチド」および「核酸」は、同じ意味で使用され、任意の長さのヌクレオチドのポリマーをいう。核酸の例として、DNA、RNA、cDNA、mRNA、rRNA、tRNA、マイクロRNA(miRNA)、lncRNAが挙げられる。この用語はまた、「ポリヌクレオチド誘導体」を含む。「ポリヌクレオチド誘導体」とは、ヌクレオチド誘導体を含むか、またはヌクレオチド間結合が通常とは異なるポリヌクレオチドをいう。「ヌクレオチド誘導体」とは、天然のDNAまたはRNAにおいて使用される通常のヌクレオチドとは異なる構造を有するヌクレオチドをいい、例えば、ロックト核酸(LNA)、2’-O,4’-C-エチレン架橋核酸(2'-O,4'-C-ethylene bridged nucleic acid、ENA)などのエチレン核酸、その他の架橋核酸(bridged nucleic acid、BNA)、ヘキシトール核酸(hexitol nucleic acid、HNA)、アミド架橋核酸(Amido-bridged nucleic acid、AmNA)、モルホリノ核酸、トリシクロ-DNA(tcDNA)、ポリエーテル核酸(例えば、米国特許第5,908,845号参照)、シクロヘキセン核酸(CeNA)などが挙げられる。ヌクレオチド間結合が通常とは異なる例として、例えば、リン酸ジエステル結合がホスホロチオエート結合に変換されたオリゴヌクレオチド間結合、リン酸ジエステル結合がN3’-P5’ホスホロアミデート結合に変換されたオリゴヌクレオチド間結合、リボースとリン酸ジエステル結合とがペプチド核酸結合に変換されたオリゴヌクレオチド間結合などが挙げられる。
【0029】
他にそうではないと示されなければ、特定の核酸配列はまた、明示的に示された配列と同様に、その保存的に改変された改変体(例えば、縮重コドン置換体)および相補配列を包含することが企図される。具体的には、縮重コドン置換体は、1またはそれ以上の選択された(または、すべての)コドンの3番目の位置が混合塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換された配列を作成することにより達成され得る。例えば、アデノウイルスの血清型1~52およびアデノ随伴ウイルスの血清型1~12など具体的な野生型配列に基づく改変体には、公知の改変体(例えば、rh10、DJ、DJ/8、PHP.eB、PHP.S、AAV2-retro、AAV2-QuadYF、AAV2.7m8、AAV6.2、rh.74、AAV2.5、AAV-TT、Anc80など)以外にも、元となる配列と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%または少なくとも99.5%の配列同一性を有する配列を含む核酸も含まれる。
【0030】
本明細書において「遺伝子」とは、一定の生物学的機能を果たす核酸部分を指す。この生物学的機能として、ポリペプチドまたはタンパク質をコードすること、タンパク質非コード機能性RNA(rRNA、tRNA、マイクロRNA(miRNA)、lncRNAなど)をコードすること、ポリペプチド、タンパク質またはタンパク質非コード機能性RNAの生産を制御すること、特定のタンパク質に特異的に結合されること、核酸の切断または複製を制御することが挙げられる。そのため、本明細書における遺伝子には、タンパク質またはタンパク質非コード機能性RNAをコードする核酸部分以外にも、プロモーター、ターミネーター、エンハンサー、インスレーター、サイレンサー、複製起点、内部リボソーム侵入部位などの転写翻訳調節配列、およびウイルス粒子へのパッケージングに必要となる核酸部分が含まれる。本明細書において「遺伝子産物」とは、遺伝子にコードされるポリペプチド、タンパク質、またはタンパク質非コード機能性RNAを指し得る。
【0031】
本明細書において2つの遺伝子がシスであるとは、同一の核酸分子または相補鎖(二本鎖核酸の場合)の核酸分子上にそれらの遺伝子が存在することを指す。また、本明細書において2つの遺伝子がトランスであるとは、(ある生物における)ある細胞において、これらの遺伝子が、同一の核酸分子または相補鎖(二本鎖核酸の場合)の核酸分子上に存在しないことを指す。例えば、ゲノム上に存在する遺伝子と、ウイルスベクターで導入された核酸上の遺伝子はトランスであり得る。必要に応じて、2つの遺伝子がトランスであるかどうかは、2つの遺伝子が細胞に同時に存在するようになった(例えば、細胞への核酸の導入)時点における状態において判断され得る。
【0032】
本明細書において遺伝子の数について言及する場合、1つの遺伝子は、ある生物のゲノム上に通常(最も高い頻度または50%以上の確率)存在する形態において連続配列を有する遺伝子を指す。例えば、あるタンパク質をコードする2つのエクソンは、2つの遺伝子であり得る。例えば、プロモーター配列とタンパク質をコードする配列とが連続配列を形成している場合、プロモーター配列およびタンパク質をコードする配列を含む核酸部分は、1つの遺伝子であり得る。例えば、切断されることで機能的になるタンパク質がゲノム上で連続配列によってコードされる場合、このタンパク質は、1つの遺伝子にコードされ得る。機能の側面から遺伝子に言及する場合、核酸配列は連続配列である必要はなく、例えば、あるタンパク質をコードする複数のエクソンは集合的にそのタンパク質の遺伝子として言及される。
【0033】
本明細書において使用する場合、遺伝子を「欠損する」とは、核酸がその遺伝子を含まないか、またはその遺伝子の正常な機能(例えば、機能的なタンパク質を生産する機能)を発揮しないように改変された遺伝子を含むことを指す。
【0034】
本明細書において使用する場合、「作動可能に連結された(る)」とは、所望の配列の発現(作動)がある転写翻訳調節配列(例えば、プロモーター、エンハンサーなど)または翻訳調節配列の制御下に配置されることをいう。プロモーターが遺伝子に作動可能に連結されるためには、通常、その遺伝子のすぐ上流にプロモーターが配置されるが、必ずしも隣接して配置される必要はない。
【0035】
本明細書において使用する場合、「転写翻訳調節配列」は、プロモーター配列、ポリアデニル化シグナル、転写終結配列、上流調節ドメイン、複製起点、エンハンサー、IRESなどを総称し、それらが協働して、レシピエント細胞でコード配列の複製、転写及び翻訳を可能にする。選択されるコード配列の複製、転写および翻訳が適当な宿主細胞において可能である限り、これらの転写翻訳調節配列のすべてが必ずしも存在する必要があるわけではない。当業者は、公開情報から調節核酸配列を容易に同定することができる。さらに、当業者は、例えばin vivo、ex vivoまたはin vitroで、使用目的に適用できる転写翻訳調節配列を同定することができる。
【0036】
本明細書において使用する場合、「プロモーター」は、作動可能に連結された核酸配列の転写を制御する核酸配列のセグメントを指す。プロモーターは、RNAポリメラーゼによる認識、結合および転写開始のために十分である特定の配列を含む。プロモーターは、RNAポリメラーゼの認識、結合または転写開始を調節する配列を含んでもよい。
【0037】
本明細書において使用する場合、「エンハンサー」は、目的遺伝子の発現効率を高める機能を有する核酸配列のセグメントを指す。
【0038】
本明細書において使用する場合、「サイレンサー」は、エンハンサーとは逆に目的遺伝子の発現効率を低下させる機能を有する核酸配列のセグメントを指す。
【0039】
本明細書において使用する場合、「インスレーター」は、DNAの配列上の離れた位置にある遺伝子の発現の調節を行うシス調節の機能を有する核酸配列のセグメントを指す。
【0040】
本明細書において使用する場合、「ターミネーター」は、タンパク質をコードする領域の下流に位置し、核酸がmRNAに転写される際の転写の終結に関与する核酸配列のセグメントを指す。
【0041】
本明細書において使用する場合、「複製起点」は、その核酸配列を認識するタンパク質(例えば、イニシエーターDnaAタンパク質など)が結合することや、RNAが合成されることで部分的にDNA二重らせんが解かれ、複製が開始される核酸配列のセグメントを指す。
【0042】
本明細書において使用する場合、内部リボソーム侵入部位(「IRES」)は、その下流の核酸配列の翻訳の際、リボソームの侵入または保持を促進する核酸セグメントを指す。
【0043】
本明細書において核酸の「相同性」とは、2以上の核酸配列の、互いに対する同一性の程度をいい、一般に「相同性」を有するとは、同一性または類似性の程度が高いことをいう。従って、ある2つの核酸の相同性が高いほど、それらの配列の同一性または類似性は高い。「類似性」は、同一性に加え、類似の塩基についても計算に入れた数値であり、ここで類似の塩基とは、混合塩基(例えば、R=A+G、M=A+C、W=A+T、S=C+G、Y=C+T、K=G+T、H=A+T+C、B=G+T+C、D=G+A+T、V=A+C+G、N=A+C+G+T)において、一部が一致する場合をいう。2種類の核酸が相同性を有するか否かは、配列の直接の比較、またはストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーション法によって調べられ得る。2つの核酸配列を直接比較する場合、その核酸配列間で、代表的には少なくとも50%同一である場合、好ましくは少なくとも70%同一である場合、より好ましくは少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一である場合、それらの遺伝子は相同性を有する。
【0044】
アミノ酸は、その一般に公知の3文字記号か、またはIUPAC-IUB Biochemical Nomenclature Commissionにより推奨される1文字記号のいずれかにより、本明細書中で言及され得る。ヌクレオチドも同様に、一般に認知された1文字コードにより言及され得る。本明細書では、アミノ酸配列および塩基配列の類似性、同一性および相同性の比較は、配列分析用ツールであるBLASTを用いてデフォルトパラメータを用いて算出される。同一性の検索は例えば、NCBIのBLAST 2.10.1+(2020.6.18発行)を用いて行うことができる。本明細書における同一性の値は通常は上記BLASTを用い、デフォルトの条件でアラインした際の値をいう。ただし、パラメータの変更により、より高い値が出る場合は、最も高い値を同一性の値とする。複数の領域で同一性が評価される場合はそのうちの最も高い値を同一性の値とする。類似性は、同一性に加え、類似のアミノ酸についても計算に入れた数値である。
【0045】
本明細書において、特に断らない限り、ある生物学的物質(例えば、タンパク質、核酸、遺伝子)についての言及は、その生物学的物質の生物学的機能と同様の機能(同じ程度でなくてもよい)を発揮するその生物学的物質のバリアント(例えば、アミノ酸配列に修飾を有するバリアント)についての言及でもあることが理解される。このようなバリアントには、元の分子のフラグメント、同一サイズの元の生物学的物質のアミノ酸配列または核酸配列にわたり、または当該分野で公知のコンピュータ相同性プログラムによってアラインメントを行ってアラインされる元の分子の配列と比較した際、少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%または99%同一である分子が含まれ得る。バリアントには、改変されたアミノ酸(例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化またはリン酸化による改変)または改変されたヌクレオチド(例えば、メチル化による改変)を有する分子が含まれ得る。
【0046】
本明細書において「ストリンジェントな条件」とは、当該分野で慣用される周知の条件をいう。ストリンジェントな条件は、例えば、以下の条件を採用することができる。(1)洗浄のために低イオン強度および高温度を用いる(例えば、50℃で、0.015Mの塩化ナトリウム/0.0015Mのクエン酸ナトリウム/0.1%のドデシル硫酸ナトリウム)、(2)ハイブリダイゼーション中にホルムアミド等の変性剤を用いる(例えば、42℃で、50%(v/v)ホルムアミドと0.1%ウシ血清アルブミン/0.1%フィコール/0.1%のポリビニルピロリドン/50mMのpH6.5のリン酸ナトリウムバッファー、および750mMの塩化ナトリウム、75mMクエン酸ナトリウム)、または(3)20%ホルムアミド、5×SSC、50mMリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハード液、10%硫酸デキストラン、および20mg/mlの変性剪断サケ精子DNAを含む溶液中で、37℃で一晩インキュベーションし、次に約37-50℃で1×SSCでフィルターを洗浄する。なお、ホルムアミド濃度は50%またはそれ以上であってもよい。洗浄時間は、5、15、30、60、もしくは120分、またはそれら以上であってもよい。ハイブリダイゼーション反応のストリンジェンシーに影響する要素としては温度、塩濃度など複数の要素が考えられ、詳細はAusubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, Wiley Interscience Publishers,(1995)を参照することができる。「高度にストリンジェントな条件」の例は、0.0015M塩化ナトリウム、0.0015Mクエン酸ナトリウム、65~68℃、または0.015M塩化ナトリウム、0.0015Mクエン酸ナトリウム、および50%ホルムアミド、42℃である。ハイブリダイゼーション、Molecular Cloning 2nd ed.,Current Protocols in Molecular Biology, Supplement 1-38, DNA Cloning 1:Core Techniques, A Practical Approach, Second Edition, Oxford University Press(1995)などの実験書に記載されている方法に準じて行うことができる。ここで、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列からは、好ましくは、A配列のみまたはT配列のみを含む配列が除外される。中程度のストリンジェントな条件は、例えば、DNAの長さに基づき、当業者によって、容易に決定することができ、Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第3番、Vol.1、7.42-7.45 Cold Spring Harbor Laboratory Press,2001に示され、そしてニトロセルロースフィルターに関し、5×SSC、0.5% SDS、1.0mM EDTA(pH8.0)の前洗浄溶液、約40-50℃での、約50%ホルムアミド、2×SSC-6×SSC(または約42℃での約50%ホルムアミド中の、スターク溶液(Stark’s solution)などの他の同様のハイブリダイゼーション溶液)のハイブリダイゼーション条件、および約60℃、0.5×SSC、0.1% SDSの洗浄条件の使用が含まれる。従って、本開示において使用されるポリペプチドには、本開示で特に記載されたポリペプチドをコードする核酸分子に対して、高度または中程度でストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸分子によってコードされるポリペプチドも包含される。
【0047】
本明細書において「対応する」アミノ酸または核酸とは、あるポリペプチド分子またはポリヌクレオチド分子において、比較の基準となるポリペプチドまたはポリヌクレオチドにおける所定のアミノ酸またはヌクレオチドと同様の作用を有するか、または有することが予測されるアミノ酸またはヌクレオチドをいい、特に酵素分子にあっては、活性部位中の同様の位置に存在し触媒活性に同様の寄与をするアミノ酸をいう。例えば、アンチセンス分子であれば、そのアンチセンス分子の特定の部分に対応するオルソログにおける同様の部分であり得る。対応するアミノ酸は、例えば、システイン化、グルタチオン化、S-S結合形成、酸化(例えば、メチオニン側鎖の酸化)、ホルミル化、アセチル化、リン酸化、糖鎖付加、ミリスチル化などがされる特定のアミノ酸であり得る。あるいは、対応するアミノ酸は、二量体化を担うアミノ酸であり得る。このような「対応する」アミノ酸または核酸は、一定範囲にわたる領域またはドメインであってもよい。従って、そのような場合、本明細書において「対応する」領域またはドメインと称される。
【0048】
本明細書において「対応する」遺伝子(例えば、ポリヌクレオチド配列または分子)とは、ある種において、比較の基準となる種における所定の遺伝子と同様の作用を有するか、または有することが予測される遺伝子(例えば、ポリヌクレオチド配列または分子)をいい、そのような作用を有する遺伝子が複数存在する場合、進化学的に同じ起源を有するものをいう。従って、ある遺伝子に対応する遺伝子は、その遺伝子のオルソログであり得る。例えば、血清型1のAAVのcapは血清型2のAAVのcapに対応し得る。例えば、あるウイルスにおける対応する遺伝子は、対応する遺伝子の基準となるウイルスの遺伝子配列をクエリ配列として用いてそのウイルスの配列データベースを検索することによって見出すことができる。
【0049】
本発明に従って、用語「活性」は、本明細書において、最も広い意味での分子の機能を指す。活性は、限定を意図するものではないが、概して、分子の生物学的機能、生化学的機能、物理的機能または化学的機能を含む。活性は、例えば、酵素活性、他の分子と相互作用する能力、および他の分子の機能を活性化するか、促進するか、安定化するか、阻害するか、抑制するか、または不安定化する能力、安定性、特定の細胞内位置に局在する能力を含む。適用可能な場合、この用語はまた、最も広い意味でのタンパク質複合体の機能にも関する。
【0050】
本明細書において「生物学的機能」とは、ある遺伝子またはそれに関する核酸分子もしくはポリペプチドについて言及するとき、その遺伝子、核酸分子またはポリペプチドが生体内において有し得る特定の機能をいい、これには、例えば、特異的な細胞表面構造認識能、酵素活性、特定のタンパク質との結合能等を挙げることができるがそれらに限定されない。本開示においては、例えば、あるプロモーターが特定の宿主細胞において認識される機能などを挙げることができるがそれらに限定されない。本明細書において、生物学的機能は、「生物学的活性」によって発揮され得る。本明細書において「生物学的活性」とは、ある因子(例えば、ポリヌクレオチド、タンパク質など)が、生体内において有し得る活性のことをいい、種々の機能(例えば、転写促進活性)を発揮する活性が包含され、例えば、ある分子との相互作用によって別の分子が活性化または不活化される活性も包含される。例えば、ある因子が酵素である場合、その生物学的活性は、その酵素活性を包含する。別の例では、ある因子がリガンドである場合、そのリガンドの対応するレセプターへの結合を包含する。そのような生物学的活性は、当該分野において周知の技術によって測定することができる。従って、「活性」は、結合(直接的または間接的のいずれか)を示すかまたは明らかにするか;応答に影響する(すなわち、いくらかの曝露または刺激に応答する測定可能な影響を有する)、種々の測定可能な指標をいい、例えば、宿主細胞における上流または下流のタンパク質の量あるいは他の類似の機能の尺度が挙げられる。
【0051】
本発明において使用する場合、ウイルスまたはウイルスベクターの「感染性」とは、ウイルスまたはウイルスベクターの細胞への接着または膜融合によって、ウイルスまたはウイルスベクター内の核酸を細胞内に導入する能力を指す。センダイウイルスベクターは、野生型ベクターと同じ複製能力を有しても良く、また遺伝子変異によって弱くなっても良い。ウイルスまたはウイルスベクターの「複製能力」とは、感染細胞内で感染性のウイルス粒子またはウイルスベクター粒子を産生する能力を指す。
【0052】
本明細書において使用する場合、用語「形質転換」、「形質導入」および「トランスフェクション」は、特に言及しない限り互換可能に使用され、宿主細胞への核酸の導入(必要に応じてウイルスまたはウイルスベクターを介した)を意味する。形質転換方法としては、宿主細胞に核酸を導入する方法であればいずれも用いることができ、例えば、コンピテント化細胞の使用、エレクトロポレーション法、パーティクルガン(遺伝子銃)を用いる方法、リン酸カルシウム法などの種々の周知の技術が挙げられる。
【0053】
本明細書において「精製された」物質または生物学的因子(例えば、核酸またはタンパク質など)とは、その生物学的因子に天然に随伴する因子の少なくとも一部が除去されたものをいう。従って、通常、精製された生物学的因子におけるその生物学的因子の純度は、その生物学的因子が通常存在する状態よりも高い(すなわち濃縮されている)。本明細書中で使用される用語「精製された」は、好ましくは少なくとも75重量%、より好ましくは少なくとも85重量%、よりさらに好ましくは少なくとも95重量%、そして最も好ましくは少なくとも98重量%の、同型の生物学的因子が存在することを意味する。本発明で用いられる物質は、好ましくは「精製された」物質である。
【0054】
本明細書において「医薬成分」とは、医薬を構成し得る任意の成分を意味し、例えば、有効成分(それ自体が薬効を示すもの)、添加成分(それ自体は、薬効を期待されていないが、医薬として含まれる場合一定の役割(例えば、賦形剤、滑沢剤、界面活性剤等)を果たすことが期待される成分)等を例示することができる。医薬成分は、単独の物質であってもよく、複数の物質や剤の組み合わせであってもよい。有効成分と添加成分との組み合わせ、アジュバントと有効成分との組み合わせなどの任意の組み合わせも含まれ得る。
【0055】
本明細書では、「有効成分」は、意図される薬効を発揮する成分をいい、単独または複数の成分が該当し得る。
【0056】
本明細書において「添加成分」とは、薬効を期待されていないが、医薬として含まれる場合一定の役割を果たす任意の成分をいい、例えば、薬学的に受容可能なキャリア、安定化剤、(補)助剤、溶解度改善剤、可溶化剤、希釈剤、賦形剤、緩衝剤、結合剤、希釈剤、香味料、潤滑剤を挙げることができる。
【0057】
本明細書において「薬剤」、「剤」または「因子」(いずれも英語ではagentに相当する)は、広義には、交換可能に使用され、意図する目的を達成することができる限りどのような物質または他の要素(例えば、光、放射能、熱、電気などのエネルギー)でもあってもよい。そのような物質としては、例えば、タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド、ペプチド、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド、核酸(例えば、cDNA、ゲノムDNAのようなDNA、mRNAのようなRNAを含む)、ポリサッカリド、オリゴサッカリド、脂質、有機低分子(例えば、ホルモン、リガンド、情報伝達物質、有機低分子、コンビナトリアルケミストリで合成された分子、医薬品として利用され得る低分子(例えば、低分子リガンドなど)など)、これらの複合分子およびこれらの混合物が挙げられるがそれらに限定されない。
【0058】
本明細書において使用される場合、「複合体」または「複合分子」とは、2以上の部分を含む任意の構成体を意味する。例えば、一方の部分がポリペプチドである場合は、他方の部分は、ポリペプチドであってもよく、それ以外の物質(例えば、基材、糖、脂質、核酸、他の炭化水素等)であってもよい。本明細書において複合体を構成する2以上の部分は、共有結合で結合されていてもよくそれ以外の結合(例えば、水素結合、イオン結合、疎水性相互作用、ファンデルワールス力等)で結合されていてもよい。
【0059】
本明細書において「標識」とは、目的となる分子または物質を他から識別するための存在(例えば、物質、エネルギー、電磁波など)をいう。そのような標識方法としては、RI(ラジオアイソトープ)法、蛍光法、ビオチン法、化学発光法等を挙げることができる。標的タンパク質またはそれを捕捉する因子または手段を複数、蛍光法によって標識する場合には、蛍光発光極大波長が互いに異なる蛍光物質によって標識を行う。蛍光発光極大波長の差は、10nm以上であることが好ましい。機能に影響を与えない任意の標識が使用できるが、蛍光物質としては、AlexaTMFluorが挙げられる。AlexaTMFluorは、クマリン、ローダミン、フルオレセイン、シアニンなどを修飾して得られた水溶性の蛍光色素であり、広範囲の蛍光波長に対応したシリーズであり、他の該当波長の蛍光色素に比べ、非常に安定で、明るく、またpH感受性が低い。蛍光極大波長が10nm以上ある蛍光色素の組み合わせとしては、AlexaTM555とAlexaTM633の組み合わせ、AlexaTM488とAlexaTM555との組み合わせ等を挙げることができる。他の蛍光標識として、シアニン色素(例えば、CyDyeTMシリーズのCy3、Cy5等)、ローダミン6G試薬、N-アセトキシ-N2-アセチルアミノフルオレン(AAF)、AAIF(AAFのヨウ素誘導体)等が挙げられる。本開示では、このような標識を利用して、使用される検出手段に検出され得るように目的とする対象を改変することができる。そのような改変は、当該分野において公知であり、当業者は標識におよび目的とする対象に応じて適宜そのような方法を実施することができる。
【0060】
本明細書において「キット」とは、通常2つ以上の区画に分けて、提供されるべき部分(例えば、ウイルスベクター、説明書など)が提供されるユニットをいう。安定性等のため、混合されて提供されるべきでなく、使用直前に混合して使用することが好ましいような組成物の提供を目的とするときに、このキットの形態は好ましい。そのようなキットは、好ましくは、提供される部分をどのように使用するか、あるいは、試薬をどのように処理すべきかを記載する指示書または説明書を備えていることが有利である。本明細書においてキットが試薬キットとして使用される場合、キットには、通常、ウイルスベクター等の使い方などを記載した指示書などが含まれる。
【0061】
本明細書において「指示書」は、本開示を使用する方法を医師または他の使用者に対する説明を記載したものである。この指示書は、本開示の医薬などを投与することを指示する文言が記載されている。また、指示書には、投与形態を指示する文言が記載されていてもよい。この指示書は、本開示が実施される国の監督官庁(例えば、日本であれば厚生労働省、米国であれば食品医薬品局(FDA)など)が規定した様式に従って作成され、その監督官庁により承認を受けた旨が明記される。指示書は、いわゆる添付文書(package insert)であり、通常は紙媒体で提供されるが、それに限定されず、例えば、電子媒体(例えば、インターネットで提供されるホームページ、電子メール)のような形態でも提供され得る。
【0062】
用語「約」は、示された値プラスまたはマイナス10%を指す。「約」が、温度について使用される場合、示された温度プラスまたはマイナス5℃を指し、「約」が、pHについて使用される場合、示されたpHプラスまたはマイナス0.5を指す。
【0063】
(好ましい実施形態)
以下に本開示の好ましい実施形態を説明する。以下に提供される実施形態は、本開示のよりよい理解のために提供されるものであり、本開示の範囲は以下の記載に限定されるべきでないことが理解される。従って、当業者は、本明細書中の記載を参酌して、本開示の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。また、以下の実施形態は単独でも使用されあるいはそれらを組み合わせて使用することができることが理解される。
【0064】
(ベクタープラスミド)
一つの局面において、本開示は、枯草菌において複製できるウイルスベクタープラスミドを提供する。1つの実施形態では、本開示は、Bacillus subtilisにおいて複製できるウイルスベクタープラスミドを提供する。これを達成するための任意の手段が本開示の範囲であると企図される。例えば、明示的な記載がなくとも、ある成分を使用する方法の記載は、同成分を含む組成物、同成分の使用および同方法に使用するための同成分など、他の手段を反映した実施形態も同時に企図するものである。
【0065】
一つの局面において、本開示は、枯草菌においてプラスミド複製を促進する核酸配列と、ウイルスベクターを構成するのに必要な核酸配列とを含むプラスミドを提供する。一つの実施形態において、枯草菌においてプラスミド複製を促進する核酸配列は、枯草菌において作動する複製起点、例えば、oriC、およびpTB19(Imanaka,T., et al. J. Gen. Microbioi. 130, 1399-1408. (1984))やpLS32(Tanaka, T and Ogra, M. FEBS Lett. 422, 243-246. (1998))、pAMβ1(Swinfield, T. J., et al. Gene 87, 79-90. (1990))等のプラスミドに含まれる複製起点を含み得る。枯草菌においてプラスミド複製を促進する核酸配列としては、ローリングサークル型、シータ型、oriC、ファージなどによる複製機構を作動させることが公知である、プラスミドもしくはその部分または複製起点あるいはそれらの改変体などが挙げられる。一つの実施形態において、枯草菌においてプラスミド複製を促進する核酸配列は、公知の複製開始点と同一または類似の配列(例えば、90%以上、95%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.5%以上の配列同一性)を有し得る。
【0066】
一つの実施形態において、本開示のベクタープラスミドは、枯草菌において作動するプロモーターおよび/またはエンハンサーを有し得る。例えば、枯草菌のプロモーターとして、IPTG(isopropyl s-D-thiogalactopyranoside)で発現制御可能なPspac(Yansura, D. and Henner, D. J. Pro. Natl. Acad. Sci, USA 81, 439-443.(1984.))、あるいはPrプロモーター(Itaya, M. Biosci. Biotechnol. Biochem. 63, 602-604. (1999))等が挙げられる。枯草菌において作動する核酸エレメントは枯草菌に由来する必要はなく、高効率に作動するものなどが選択され得る。一つの実施形態において、ベクタープラスミド中の枯草菌において作動する複製起点、プロモーターおよび/またはエンハンサーは、ウイルスベクターの起源ウイルスのゲノム(改変を含んでもよい)またはその一部をコードする領域の外側に位置付けられる。
【0067】
一つの実施形態において、本開示のベクタープラスミドは、枯草菌以外の生物の細胞において作製または使用され得るので、それら生物において作動する複製起点、プロモーター、転写終結配列などの転写翻訳調節配列を含み得る。生物ごとの転写翻訳調節配列は、公知であり、当業者が適宜選択できる。一つの実施形態において、本開示のベクタープラスミドは、大腸菌、酵母などにおいて作製または複製され得るので、これらの微生物において作動する転写翻訳調節配列を含み得る。一つの実施形態において、本開示のベクタープラスミドは、プロデューサー細胞に導入され得るので、プロデューサー細胞において作動する転写翻訳調節配列を含み得る。一つの実施形態において、本開示のベクタープラスミドは、ウイルスの全ゲノムのうち少なくとも一部の遺伝子の配列を含まない。
【0068】
一つの実施形態において、ウイルスを構成するのに必要な核酸配列は、ベクタープラスミド上のまとまった領域に配置される。ウイルスを構成するのに必要な核酸配列を含む核酸断片を元となるプラスミドに組み込むことでこのような構造のベクタープラスミドが形成され得る。一つの実施形態において、ウイルスを構成するのに必要な核酸配列は、ベクタープラスミドの全塩基長の約50%以下、約40%以下、約30%以下、約25%以下、約20%以下、約15%以下、約10%以下、または約5%以下の塩基長の連続領域内に存在する。一つの実施形態において、枯草菌内で複製される配列は、ウイルスを構成するのに必要な核酸配列が存在する連続領域内に配置されてもよいし、この連続領域外に配置されてもよい。一つの実施形態において、ウイルスを構成するのに必要な核酸配列の末端反復配列以外の要素(例えば、ウイルスのカプシドタンパク質をコードする核酸配列、ウイルスのゲノムをパッケージング、転写および複製するタンパク質をコードする核酸配列およびヘルパー遺伝子のうちの1つまたは複数)は、各々、2つの末端反復配列の間に配置されてもよいし、外側に配置されてもよい。本開示のベクタープラスミドにおいて、ウイルスを構成するのに必要な核酸配列の各要素は、任意の順序および位置で配置してもよく、図面などにおいて具体的に示した配置以外の種々の配置のものが使用できると理解される。ヘルパー遺伝子など特定の機能で記載される核酸配列が複数の要素を含む場合、特段記載しない限り、ベクタープラスミドにおける各要素の順序および位置は任意であり得るが、任意の要素(例えば、VA、E2A、E4)同士を連続して(間に他の遺伝子を挟まずに)配置してもよい。
【0069】
一つの実施形態において、ウイルスを構成するのに必要な核酸配列は、ウイルスの2つの末端反復配列を含み、2つの末端反復配列に挟まれる領域の塩基長(末端反復配列自体は除く)は、約5kb以上、約10kb以上、約20kb以上、約30kb以上、約40kb以上、約50kb以上、約70kb以上、または約100kb以上であり得る。一つの実施形態において、ウイルスを構成するのに必要な核酸配列は、ウイルスの2つの末端反復配列およびその他の部分を含み、その他の部分は、前記2つの末端反復配列に挟まれる領域の外に位置付けられる。一つの実施形態において、ウイルスを構成するのに必要な核酸配列は、ウイルスのカプシドタンパク質をコードする核酸配列(例えば、cap、アデノ随伴ウイルスの血清型1~12またはその改変体のいずれかに由来し得る)と、ウイルスのゲノムをパッケージング、転写および複製するタンパク質をコードする核酸配列(例えば、rep、アデノ随伴ウイルスの血清型1~12またはその改変体8のいずれかに由来し得る)と、ウイルスの2つの末端反復配列(例えば、血清型1~12またはその改変体のいずれかに由来する)と、ヘルパー遺伝子(例えば、E1A、E1B、E2A、E4、およびVAのうちの少なくとも1つ、アデノウイルスの血清型1~52またはその改変体のいずれかに由来し得る)と、を含む。一つの実施形態において、5’ITRおよび3’ITRの間に上流からプロモーター、所望の遺伝子およびターミネーターを含む。特に、ウイルスのカプシドタンパク質をコードする核酸配列は、野生型配列(例えば、アデノ随伴ウイルスの血清型1~12)の改変体であってもよいことが企図される。
【0070】
一つの実施形態において、本開示のベクタープラスミドは、所望の遺伝子を含む。一つの実施形態において、所望の遺伝子は、2つの末端反復配列の間に配置され得る。一つの実施形態において、本開示のベクタープラスミドにおける所望の遺伝子は、最終的にウイルスベクターの搭載核酸に含まれ得る。このような所望の遺伝子は、治療用タンパク質がコードされていてもよいし、遺伝子治療用遺伝子がコードされていてもよいし、CART療法など遺伝子細胞治療用遺伝子がコードされていてもよいし、タンパク質非コード機能性RNA(rRNA、tRNA、マイクロRNA(miRNA)、lncRNAなど)をコードしていてもよいし、これらと組み合わせてまたは独立にプロモーター、ターミネーター、インスレーター、エンハンサー、サイレンサー、複製起点などの転写翻訳調節配列を含んでもよい。一つの実施形態において、所望の遺伝子は、サイトメガロウイルスプロモーター、CAGプロモーター、SV40プロモーター、RSVプロモーターなどのウイルスプロモーターを含む(必要に応じて、タンパク質コード遺伝子の上流に)。一つの実施形態において、所望の遺伝子は、IRESを含む(必要に応じて、タンパク質コード遺伝子の上流に)。一つの実施形態において、所望の遺伝子は、ウイルスベクターを投与する被験体の染色体に組み込まれ得る。この実施形態において、所望の遺伝子は、被験体が元来有する遺伝子の発現を制御する機能を有してもよいし、長期にわたるタンパク質発現をもたらしてもよい。例えば、アデノ随伴ウイルス、レトロウイルスなどに基づくウイルスベクターは、被験体の染色体に組み込まれ得る。一つの実施形態において、所望の遺伝子は、治療用細胞(例えば、染色体)に組み込まれ得る(例えば、体外でのウイルスベクターによる細胞の処理を介して)。一つの実施形態において、本開示のベクタープラスミドは、ウイルスベクターの起源ウイルスが増殖するために必要な遺伝子を全て含むことはなく、そうすることで生産されるウイルスベクターが増殖能を備えないように構成されてもよい。
【0071】
一つの実施形態において、本開示のベクタープラスミドは、前記プラスミドを導入したプロデューサー細胞(例えば、HEK293細胞)から生産される全ウイルスベクター粒子のうち核酸を含まないウイルスベクター粒子が、約90%以下、約80%以下、約75%以下、約70%以下、約65%以下、約60%以下、約55%以下、または約50%以下であり得る。一つの実施形態において、前記核酸を含まないウイルスベクター粒子の割合は、前記プロデューサー細胞を3回凍結融解した後、37℃で1時間Benzonazeで処理し、12500rpmで30分間遠心分離を行った後に上清を取得し、前記上清を28000rpmで18時間塩化セシウム密度勾配超遠心に供してウイルスベクター画分を取得した場合に達成される。一つの実施形態において、本開示のベクタープラスミドは、プロデューサー細胞(例えば、HEK293細胞)に導入した場合に、生産される全ウイルスベクター粒子のうち、全ての所望の遺伝子を含む核酸を含むウイルスベクター粒子が、約75%以上、約80%以上、約85%以上、約90%以上、約92%以上、約95%以上、約97%以上、または約99%以上であり得る。一つの実施形態において、本開示のベクタープラスミドは、プロデューサー細胞(例えば、HEK293細胞)に導入した場合に、生産される全ウイルスベクター粒子のうち、所望の核酸以外の本開示のプラスミド由来の核酸を含むウイルスベクター粒子が、約10%以下、約7%以下、約5%以下、約4%以下、約3%以下、約2%以下、約1.5%以下、約1%以下、約0.7%以下、約0.5%以下、約0.4%以下、約0.3%以下、約0.2%以下、または約0.1%以下であり得る。
【0072】
一つの実施形態において、本開示のベクタープラスミドにおける所望の遺伝子は、複数の遺伝子を含み得る。一つの実施形態において、所望の遺伝子は、2~100、例えば、2以上、3以上、4以上、5以上、7以上、10以上、12以上、15以上、20以上、25以上、30以上、40以上または50以上、かつ100以下、90以下、80以下、70以下、60以下、50以下、40以下、35以下、30以上、25以下、20以下、17以下、15以下、12以下または10以下の遺伝子を含み得る。一つの実施形態において、本開示のベクタープラスミドにおける所望の遺伝子は、約0.1~1000kbp、例えば、約0.1kbp以上、約0.3kbp以上、約1kbp以上、約2kbp以上、約5kbp以上、約7kbp以上、約10kbp以上、約20kbp以上、約50kbp以上または約100kbp以上、かつ約1000kbp以下、約700kbp以下、約500kbp以下、約200kbp以下、約100kbp以下、約70kbp以下、約50kbp以下、約20kbp以下または約10kbp以下の塩基長を含み得る。本開示のベクタープラスミドは、OGAB法によって複数の遺伝子を含む複雑な構造に構築され得るので、所望の遺伝子も複雑な構造に構築され得る。ウイルスベクターの種類によって搭載核酸のサイズは制限され得るので、所望の遺伝子のサイズに応じてウイルスベクターの種類が選択されてもよい。一つの実施形態において、所望の遺伝子が複数の遺伝子を含むことで、被験体の組織(例えば、がん組織)特異的または時期特異的なプロモーターとこれに作動可能に連結された治療用遺伝子(治療用タンパク質コード配列、遺伝子治療用遺伝子、遺伝子細胞治療用遺伝子など)との組合せ、代謝カスケードを制御する一連の酵素の協調発現を可能と一連の酵素をコードする配列など、高度な機能性を有する核酸を被験体に送達可能であり得る。
【0073】
一つの実施形態において、本開示のベクタープラスミドにおける所望の遺伝子にコードされるタンパク質としては、治療用ポリペプチド(例えば、補充療法)、免疫原性ポリペプチド(例えば、病原体ポリペプチド、がん抗原ポリペプチド)などが挙げられる。治療用ポリペプチドとしては、嚢胞性線維症膜貫通制御タンパク質(CFTR)、ジストロフィン(ミニジストロフィンおよびマイクロジストロフィン、ミオスタチンプロペプチド、フォリスタチン、アクチビンII型可溶性受容体、IGF-1、抗炎症性ポリペプチド、サルコスパン、ユートロフィン、ミニユートロフィン、凝固因子(例えば、第VIII因子、第IX因子、第X因子など)、エリスロポエチン、アンジオスタチン、エンドスタチン、カタラーゼ、チロシンヒドロキシラーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ、レプチン、LDL受容体、リポタンパク質リパーゼ、オルニチントランスカルバミラーゼ、β-グロビン、α-グロビン、スペクトリン、α1-アンチトリプシン、アデノシンデアミナーゼ、ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ、β-グルコセレブロシダーゼ、スフィンゴミエリナーゼ、リソソームヘキソサミニダーゼA、分岐鎖ケト酸脱水素酵素、RP65タンパク質、サイトカイン(例えば、α-インターフェロン、β-インターフェロン、インターフェロン-γ、インターロイキン-2、インターロイキン-4、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、リンホトキシンなど)、ペプチド増殖因子、神経栄養因子およびホルモン(例えば、ソマトトロピン、インスリン、インスリン様増殖因子1および2、血小板由来増殖因子、上皮増殖因子、線維芽細胞増殖因子、神経増殖因子、神経栄養因子-3および-4、脳由来神経栄養因子、骨形態形成タンパク質、グリア由来増殖因子、形質転換増殖因子-αおよび-βなど)、リソソーム酸α-グルコシダーゼ、α-ガラクトシダーゼA、腫瘍壊死増殖因子α可溶性受容体、S100A1、パルブアルブミン、アデニリルシクラーゼ6型、抗炎症性因子、抗ミオスタチンタンパク質、アスパルトアシラーゼ、自殺遺伝子産物(例えば、チミジンキナーゼ、シトシンデアミナーゼ、ジフテリア毒素、腫瘍壊死因子)、腫瘍抑制遺伝子産物(例えば、p53、Rb、Wt-1)、TRAIL、FAS-リガンドなどが挙げられる。
【0074】
病原体ポリペプチドとしては、細菌、真菌、寄生虫などの病原生物の細胞表面タンパク質、およびウイルスの表面に発現するタンパク質(例えば、スパイクタンパク質、エンベロープタンパク質、カプシドタンパク質など)が挙げられる。病原体ポリペプチドの具体例としては、オルソミクソウイルス免疫原(例えば、インフルエンザウイルスヘマグルチニン(HA)、核タンパク質)、レンチウイルス免疫原(例えば、HIVもしくはSIVのエンベロープGP160タンパク質、マトリックス/カプシドタンパク質、gag、pol、env遺伝子産物)、アレナウイルス免疫原(例えば、ラッサ熱ウイルス核カプシドタンパク質、エンベロープ糖タンパク質)、ポックスウイルス免疫原(例えば、ワクシニアL1またはL8遺伝子産物)、フラビウイルス免疫原(例えば、黄熱病ウイルスまたは日本脳炎ウイルス免疫原)、フィロウイルス免疫原(例えば、NPおよびGP遺伝子産物などのエボラウイルスまたはマールブルグウイルス免疫原)、ブニヤウイルス免疫原(例えば、RVFV、CCHF、SFSウイルス免疫原)、コロナウイルス免疫原(例えば、ヒトコロナウイルスエンベロープ糖タンパク質などのヒトコロナウイルス免疫原)、ポリオ免疫原、ヘルペスウイルス免疫原(例えば、CMV、EBV、HSV免疫原)、ムンプスウイルス免疫原、麻疹ウイルス免疫原、風疹ウイルス免疫原、ジフテリア毒素もしくは他のジフテリア免疫原、百日咳抗原、および肝炎(例えば、A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎など)免疫原などが挙げられる。
【0075】
がん抗原ポリペプチドとして、BRCA1遺伝子産物、BRCA2遺伝子産物、gp100、チロシナーゼ、GAGE-1/2、BAGE、RAGE、LAGE、NY-ESO-1、CDK-4、β-カテニン、MUM-1、カスパーゼ-8、KIAA0205、HPVE、SART-1、PRAME、p15、メラノーマ腫瘍抗原、MART-1、gp100 MAGE-1、MAGE-2、MAGE-3、CEA、TRP-1、TRP-2、P-15、チロシナーゼ、HER-2/neu遺伝子産物、CA125、LK26、FB5(エンドシアリン)、TAG72、AFP、CA19-9、NSE、DU-PAN-2、CA50、SPan-1、CA72-4、HCG、STN(シアリルTn抗原)、c-erbB-2タンパク質、PSA、L-CanAg、エストロゲン受容体、乳脂肪グロブリン、p53腫瘍抑制因子タンパク質、ムチン抗原、テロメラーゼ、核マトリックスタンパク質、前立腺酸性ホスファターゼ、パピローマウイルス抗原などが挙げられる。
【0076】
一つの実施形態において、所望の遺伝子は、特定の疾患を治療するための遺伝子(例えば、遺伝子治療遺伝子)であり得る。特定の疾患に対して選択するべき遺伝子は当業者が適宜選択し得る。このような疾患として、例えば、各種病原体による感染症、嚢胞性線維症、血友病A、血友病B、サラセミア、貧血、アルツハイマー病、多発性硬化症、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、脊髄性筋萎縮症、癲癇、がん(メラノーマ、腺がん腫、胸腺腫、リンパ腫、肉腫、肺がん、肝臓がん、結腸がん、白血病、子宮がん、乳がん、前立腺がん、卵巣がん、子宮頚がん、膀胱がん、腎臓がん、膵臓がん、脳がんなど)、糖尿病、筋ジストロフィー、ゴーシェ病、ハーラー病、アデノシンデアミナーゼ欠乏症、糖原貯蔵疾患、先天性肺気腫、レッシュ・ナイハン症候群、ニーマン・ピック病、テイ・サックス病、アンジェルマン症候群、メープルシロップ尿症、加齢黄斑変性、黒内障、糖尿病性網膜症、網膜変性疾患、星状細胞腫、膠芽腫、心不全、末梢動脈疾患、関節炎、関節障害、内膜過形成、AIDS、筋消耗、腎臓欠損症、肝炎、LDL受容体欠乏症、高アンモニア血症、クラッベ病、バッテン病、脊髄性大脳性運動失調症、フェニルケトン尿症、自己免疫疾患、アミノ酸代謝異常症、有機酸代謝異常症、脂肪酸代謝異常症、ミトコンドリア病、糖質代謝異常症、ライソゾーム病、ペルオキシソーム病、金属代謝異常症、プリンピリミジン代謝異常症、ビタミン代謝異常症、神経伝達物質異常症、脂質代謝異常症、結合組織異常症、先天性ポルフィリン症、α1-アンチトリプシン欠損症、リソソーム蓄積症、ムコ多糖症障害、ファブリー病、カナバン病、リー病、レフサム病、トゥレット症候群、原発性側索硬化症、進行性筋萎縮症、ピック病、筋ジストロフィー、重症筋無力症、ビンスワンガー病、脳梗塞、気分障害、うつ病、双極性感情障害、持続性感情障害、二次的気分障害、統合失調症、薬物依存性、不安症、強迫障害、身体表現性障害、解離性障害、悲嘆、産後うつ病、幻覚、妄想、認知症、パラノイア、自閉症スペクトラム障害、注意欠陥障害、精神性的障害、睡眠障害、疼痛性障害、摂食障害、体重障害、肥満症、悪液質、神経性食欲不振症、過食症などが挙げられる。一つの実施形態において、所望の遺伝子は、CART療法などで使用する治療用細胞(例えば、染色体)に組み込まれ得る(例えば、体外でのウイルスベクターによる細胞の処理を介して)。
【0077】
(ウイルスベクター)
本開示のベクタープラスミドは、ウイルスベクターを生産するために使用される。一つの実施形態において、本開示は、本開示のベクタープラスミドを使用してウイルスベクターを作製する方法を提供する。一つの実施形態において、本開示は、このように作製されたウイルスベクター含有組成物またはウイルスベクターを提供する。ウイルスベクターとしては、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノ随伴ウイルス、アデノウイルスまたはセンダイウイルスに基づくウイルスベクターが挙げられる。
【0078】
一つの実施形態において、本開示のベクタープラスミドは、プロデューサー細胞に導入されてウイルスベクターを生産する。プロデューサー細胞の例として、例えば、911細胞、PER.C6細胞、E1形質転換羊膜細胞、E1形質転換A549細胞、GH329:HeLa細胞、HEK293細胞、IT293SF細胞、HEK293T、HEK293F、Vero細胞、CHO細胞、Sf9細胞、Freestyle(商標)293-F、Expi293-F(商標)、Expi293 inducible、Expi293 NGT-Viral Production Cells 1.0、Viral Production Cells 2.0、AAVpro(登録商標)293T Cell Line、Lenti-X(商標)293T Cell Line、FreeStyle(商標)CHO-S cells、ExpiCHO-S(商標)などが挙げられるが、これらに限定されない。生産するウイルスベクターの種類に応じて、任意の公知の好適なプロデューサー細胞が選択され得る。一つの実施形態において、本開示のベクタープラスミドは、ウイルスベクターの起源ウイルスの遺伝子のうちの少数(例えば、1つ、2つ、3つ、4つ、または5つ)を欠損し、他の全ての遺伝子を含んでもよい。一つの実施形態において、本開示のベクタープラスミドは、ウイルスベクターを生産するために必要な遺伝子セットのうちの一部を欠損しており、遺伝子セットのうちのベクタープラスミドが欠損している遺伝子は、ベクタープラスミドとはトランスにプロデューサー細胞において供給される。一つの実施形態において、本開示のベクタープラスミドは、その他のプラスミドと組み合わせることなく単独でプロデューサー細胞に導入することでウイルスベクター生産を可能にし得る。一つの実施形態において、本開示のベクタープラスミドは、ウイルスベクターを生産するために必要な遺伝子セットのうちベクタープラスミドが欠損した遺伝子全てを発現するプロデューサー細胞に導入され得る。例えば、AAVのcapおよびrep、ならびにアデノウイルスのE2A、E4およびVAを含む本開示のベクタープラスミドは単独で、アデノウイルスのE1AおよびE1Bを発現するHEK293細胞に導入することでウイルスベクターを生産し得る。一つの実施形態において、本開示のベクタープラスミドは、ウイルスベクターを生産するために必要な遺伝子セットのうちベクタープラスミドが欠損した遺伝子を含む別の核酸またはその遺伝子の産物(例えば、ウイルス粒子)とともにプロデューサー細胞に導入され得る。
【0079】
一つの実施形態において、ウイルスベクターは、ベクタープラスミドを、ウイルスベクターの起源ウイルスを感染させたプロデューサー細胞の中に導入し、その細胞の中で相同組み換えを生じさせることにより作製することができる。この実施形態において使用するウイルスベクタープラスミドは、所望の遺伝子および起源ウイルスのゲノムのいずれかの領域(例えば、遺伝子間の領域)に相同性を有する核酸配列を含む。一つの実施形態において、ベクタープラスミドは、生産するウイルスベクターの起源ウイルスのゲノムのいずれかの遺伝子の間に所望の遺伝子を含む構造を有し得る。一つの実施形態において、ベクタープラスミドに含まれる核酸の少なくとも一部がプロデューサー細胞の染色体に組み込まれる。
【0080】
一つの実施形態において、本開示のベクタープラスミドは、生産するウイルスベクターの起源ウイルスの搭載核酸切り出しのためのセグメント(レトロウイルスにおけるLTR、AAVウイルスにおけるITRなど)を含み、一つの実施形態において、このセグメントの間に所望の遺伝子を含む。一つの実施形態において、本開示のベクタープラスミドは、このセグメントの間に所望の遺伝子ならびにこれに作動可能に連結したプロモーターおよび/またはターミーター(例えば、ウイルスベクターが標的とする対象において作動可能であるもの)を含む。一つの実施形態において、本開示のベクタープラスミドは、このセグメントの間にウイルスベクターの起源ウイルスの複製のために必要な遺伝子を含まない。一つの実施形態において、本開示のベクタープラスミドは、生産するウイルスベクターの起源ウイルスのパッケージングシグナルを含む。
【0081】
生産されるウイルスベクターはカプシドを有し、カプシドは組織または細胞との結合に関与し得る。そのため、カプシドを改変して組織または細胞(またはその表面構造)との結合性を改変することでウイルスベクターの組織または細胞への標的化を調整することができる。一つの実施形態において、本開示のベクタープラスミドは、カプシドをコードする遺伝子を有してもよく、このカプシドは改変されていてもよい。例えば、組織または細胞標的化を調整するカプシド改変として、他のタンパク質(他のウイルスカプシド(例えば、他の血清型のウイルスのカプシド、VSV-G)、抗体の抗原結合領域、被験体生物のリガンドタンパク質(がん抗原に対するリガンド)など)との置換または融合が挙げられる。また、エンベロープを有するウイルスベクターは、プロデューサー細胞の細胞膜成分をエンベロープに含み得る。そのため、プロデューサー細胞の細胞膜成分を改変することで、エンベロープを有するウイルスベクターの組織または細胞への標的化を調整することができる。一つの実施形態において、ウイルスベクターは、神経細胞(末梢神経系または中枢神経系の細胞、ニューロンおよびオリゴデンドロサイトなどの脳細胞など)、肺細胞、眼の細胞(網膜細胞、網膜色素上皮、角膜細胞など)、上皮細胞(例えば、腸または呼吸器の上皮細胞)、筋細胞(例えば、骨格筋細胞、心筋細胞、平滑筋細胞、横隔膜筋細胞)、樹状細胞、膵臓細胞(島細胞など)、肝細胞、心筋細胞、骨細胞(例えば、骨髄幹細胞)、造血幹細胞、脾臓細胞、ケラチノサイト、線維芽細胞、内皮細胞、前立腺細胞、生殖細胞、がん細胞などを標的とするように設計されてもよい。それぞれの細胞に特異的な表面構造(受容体など)は、公知であり、当業者は、その表面構造に強力にまたは特異的に結合するタンパク質を適宜選択できる。
【0082】
一つの実施形態において、本開示のベクタープラスミドは、生産するウイルスベクターの起源ウイルスのタンパク質を弱毒化したタンパク質をコードする遺伝子を含んでもよい。本開示のベクタープラスミドは、任意の公知の弱毒化ウイルスタンパク質をコードする遺伝子を含むことができる。
【0083】
一つの実施形態において、本開示は、本開示のベクタープラスミドの集団を含むプラスミド含有組成物を提供する。一つの実施形態において、プラスミド含有組成物は、プラスミドのCCC(covalently closed circular)純度が、約60%以上、約70%以上、約75%以上、約80%以上、約85%以上、約90%以上または約95%以上であり得る。
【0084】
・アデノウイルスベクター
アデノウイルスは、アデノウイルス科マストアデノウイルス属のウイルスであり、ウイルス粒子は、ヌクレオキャプシドおよび二本鎖線状DNAゲノムから構成され、90~100nmの正20面体の構造を有する。アデノウイルスの感染は細胞表面のcoxackie-adenovirus receptor(CAR)にウイルスカプシドが吸着することにより開始され、次いで細胞表面のインテグリンを介してウイルスは細胞内に侵入し得る。その後、ライソゾームから脱出したウイルスゲノムは核内に到達しウイルスゲノムの複製をもたらし得る。ウイルス複製は、まずE1A蛋白質が発現し、他の初期蛋白質であるE1B、E2、E3、E4の発現を活性化することで開始される。ウイルスゲノムは、E2から発現した末端タンパク質(TP)とデオキシシチジンとが共有結合し、これにさらにポリメラーゼが結合した複合体が形成されて複製が開始される。ゲノムはまた、ペントン(L2)、ヘキソン(L3)、骨格タンパク質(L4)、および繊維タンパク質(L5)を含む構造タンパク質をコードし、単一プロモーターの制御下にある、5つの後期転写単位(L1、L2、L3、L4、およびL5)も含む。ゲノムの両端は、ウイルスの複製に必要な逆向き末端配列(inverted terminal repeat: ITR)を含む。ウイルスの構造タンパク質は細胞質で翻訳された後、核内に移行してウイルス粒子を構成し、ウイルスゲノムのパッケージングシグナル(ψ)を認識してゲノムをパッケージングする。また、アデノウイルスは、タンパク質非コードVA RNAを生産し、これは、VA遺伝子にコードされている。アデノウイルス粒子は、L2およびL3のカプシドを有し得る。
【0085】
現在までに52のヒトアデノウイルスの抗原型が同定され、それは血球凝集反応の性質と配列相同性に基づいて6つのサブグループ:サブグループA(例えば、血清型12、18および31)、サブグループB(例えば、血清型3、7、11、14、16、21、34、35および50)、サブグループC(例えば、血清型1、2、5および6)、サブグループD(例えば、血清型8、9、10、13、15、17、19、20、22~30、32、33、36~39および42~48)、サブグループE(例えば、血清型4)、サブグループF(例えば、血清型40および41)、および未分類の血清型群(例えば、血清型49および51)に分類されている。
【0086】
一つの実施形態において、アデノウイルスベクタープラスミドは、アデノウイルスベクターを構成するのに必要な核酸配列のうちの少なくとも1つおよび所望の遺伝子を含む。一つの実施形態において、アデノウイルスベクタープラスミドは、5’ITRおよび3’ITRの間に所望の遺伝子を含む。一つの実施形態において、アデノウイルスベクタープラスミドは、5’ITRおよび3’ITRの間に所望の遺伝子、プロモーターおよびターミネーターを含む。一つの実施形態において、アデノウイルスベクタープラスミドは、5’ITRおよび3’ITRの間にアデノウイルスベクターを構成するのに必要な核酸配列のうちの1つまたは複数(例えば全て)を含まない。一つの実施形態において、アデノウイルスベクタープラスミドは、ベクタープラスミドおよびプロデューサー細胞がアデノウイルスベクターを構成するのに必要な核酸配列を含むようなプロデューサー細胞において機能するように構成される。一つの実施形態において、アデノウイルスベクターを構成するのに必要な核酸配列のうちベクタープラスミドに含まれない遺伝子のうち1つまたは複数(例えば、全て)は、プロデューサー細胞の染色体にコードされていてもよい。
【0087】
一つの実施形態において、アデノウイルスベクターを構成するのに必要な核酸配列は、E1A、E1B、E2A、E2B、E3、E4、L1、L2、L3、L4、L5、IX、IVa2をコードする遺伝子を含み得る。一つの実施形態において、アデノウイルスベクターを構成するのに必要な核酸配列は、E3以外のアデノウイルスの全ての遺伝子であり得る。一つの実施形態において、アデノウイルスベクターを構成するのに必要な核酸配列は、カプシドタンパク質をコードする核酸配列(L2、L3)と、ゲノムをパッケージング、転写および複製するタンパク質をコードする核酸配列(E1A、E1B、E2A、E2B、E4)と、2つの末端反復配列(5’ITR、3’ITR)と、ヘルパー遺伝子の核酸配列とを含み得る。一つの実施形態において、ヘルパー遺伝子の核酸配列は、L2、L3、E1A、E1B、E2A、E3、E2B、E4、5’ITR、3’ITR以外の全てのアデノウイルス遺伝子であり得る。一つの実施形態において、アデノウイルスベクタープラスミドは、VA、E1A、E1B、E2A、E2B、E4のうちの1つまたは複数を含まなくてもよく、一つの実施形態において、アデノウイルスベクターを構成するのに必要な核酸配列はこれらを含む。特定の実施形態において、アデノウイルスベクタープラスミドは、E1AおよびE1Bを含まない。一つの実施形態において、アデノウイルスベクタープラスミドは、E1Aを欠損しており、この欠損箇所に所望の遺伝子が挿入されていてもよい。VA RNAは、ヒトにおいてエクスポーチン、RISK、Dicerなどと相互作用することが知られており、アデノウイルスベクタープラスミドからVAを欠損させることでアデノウイルスベクター感染細胞への副作用が低減され得る。E1A、E1B、E2A、E2B、E4は、アデノウイルスの複製に必要な遺伝子であり得るので、これらを欠損させたアデノウイルスベクタープラスミドは、感染細胞における複製能力が低減され得る。
【0088】
一つの実施形態において、本開示のアデノウイルスベクターはヒトのサブグループC、例えば、血清型2または血清型5由来であり得る。一つの実施形態において、本開示のアデノウイルスベクターは血清型12(サブグループA)、血清型7または血清型35(サブグループB)、血清型30または血清型36(サブグループD)、血清型4(サブグループE)、あるいは血清型41(サブグループF)由来であり得る。アデノウイルスベクターを生産するためのプロデューサー細胞として、HEK293、HEK293T、HEK293F、Hela、Sf9などの細胞が挙げられる。
【0089】
・アデノ随伴ウイルスベクター
アデノ随伴ウイルス(AAV)は,パルボウイルス科ディペンドウイルス属の線状一本鎖DNAウイルスであり、ウイルス粒子は直径20~26nmである。AAVの増殖にはアデノウイルスエレメントが必要である。AAVゲノムの量末端にはITR(inverted terminal repeat)と呼ばれるT字型のヘアピン構造が存在する。このITRの部分が複製の開始点となり、プライマーの役割を果たす。また、ウイルス粒子へのパッケージングや宿主細胞の染色体DNAへの組込みにもこのITRが必要である。ゲノムの左半分に非構造蛋白質、すなわち複製や転写を司る調節タンパク質(Rep78、Rep68、Rep52、Rep40)をコードするrep遺伝子が存在し、ゲノムの右半分に構造蛋白質(VP1、VP2、VP3)の三つのカプシドタンパク質をコードするcap遺伝子が存在する。
【0090】
AAVの生活環は潜伏感染と溶解感染に分けられる。前者は単独で感染した場合であり、宿主細胞の第19番染色体長腕のAAVS1領域(19q13.3-qter)へ組み込まれるのが特徴的である。この組込みは非相同組換えによるものでありRepが関与している。AAVS1領域とITRのRep結合領域とに共通して存在する塩基配列(GAGC繰返し配列)に,Rep78/Rep68が結合することが報告されている。したがって、野生型AAVが標的細胞に感染した際には、RepがAAVのITRおよびAAVS1に結合し、Repが介在することによりAAVゲノムの第19番染色体への部位特異的組込みが起こるものと考えられている。アデノウイルスなどのヘルパーウイルスが同時に感染した場合、AAVが潜伏感染している細胞にさらにヘルバーウイルスが重複感染した場合にAAVの複製が起こり、細胞破壊により大量のウイルスが放出される(溶解感染)。
【0091】
一つの実施形態において、AAVベクタープラスミドは、AAVベクターを構成するのに必要な核酸配列のうちの少なくとも1つおよび所望の遺伝子を含む。一つの実施形態において、AAVベクタープラスミドは、5’ITRおよび3’ITRの間に所望の遺伝子を含む。一つの実施形態において、AAVベクタープラスミドは、5’ITRおよび3’ITRの間に所望の遺伝子、プロモーターおよびターミネーターを含む。一つの実施形態において、AAVベクタープラスミドは、5’ITRおよび3’ITRの間にAAVベクターを構成するのに必要な核酸配列のうちの1つまたは複数(例えば全て)を含まない。一つの実施形態において、AAVベクタープラスミドは、ベクタープラスミドおよびプロデューサー細胞がAAVベクターを構成するのに必要な核酸配列を含むようなプロデューサー細胞において機能するように構成される。一つの実施形態において、AAVベクターを構成するのに必要な核酸配列のうちベクタープラスミドに含まれない遺伝子のうち1つまたは複数(例えば、全て)は、プロデューサー細胞の染色体にコードされていてもよい。
【0092】
一つの実施形態において、AAVベクターを構成するのに必要な核酸配列は、AAVの5’ITR、rep、cap、AAP(アセンブリ活性化タンパク質)、MAAP(膜会合アクセサリータンパク質)および3’ITR、ならびにアデノウイルスのE1A、E1B、E2A、VAおよびE4であり得る。一つの実施形態において、AAVベクターを構成するのに必要な核酸配列は、AAVカプシドタンパク質をコードする核酸配列(cap)と、ゲノムをパッケージング、転写および複製するAAVタンパク質をコードする核酸配列(rep)と、AAVの2つの末端反復配列(5’ITR、3’ITR)と、ヘルパー遺伝子の核酸配列(アデノウイルスのE1A、E1B、E2A、VA、E4)とを含み得る。一つの実施形態において、AAVベクタープラスミドは、rep、cap、VA、E1A、E1B、E2A、E4のうちの1つまたは複数を含まなくてもよく、一つの実施形態において、アデノウイルスベクターを構成するのに必要な核酸配列はこれらを含む。
【0093】
AAVは、カプシドに基づいて1~12型までの血清型が報告されている。また、rh10、DJ、DJ/8、PHP.eB、PHP.S、AAV2-retro、AAV2-QuadYF、AAV2.7m8、AAV6.2、rh.74、AAV2.5、AAV-TT、Anc80の血清型も報告されている。本開示のAAVベクターは、標的組織に応じて好適な血清型のAAVに基づいて作製されてもよい。例えば、(血清型):(標的組織)の関係は以下の通りに選択されてもよい;(AAV1):(筋肉、肝臓、気道、神経細胞)、(AAV2):(筋肉、肝臓、神経細胞)、(AAV3):(筋肉、肝臓、神経細胞)、(AAV4):(筋肉、脳室上衣細胞)、(AAV5):(筋肉、肝臓、神経細胞、グリア細胞、気道)、(AAV6):(筋肉、肝臓、気道、神経細胞)、(AAV7):(筋肉、肝臓)、(AAV8):(筋肉、肝臓)、(AAV9):(筋肉、肝臓、気道)。AAVベクターを生産するためのプロデューサー細胞として、HEK293、HEK293T、HEK293F、Hela、Sf9などの細胞が挙げられる。AAVのカプシドとして、野生型の他に、標的化変異を加えたカプシド(AAV2i8、AAV2.5、AAV-TT、AAV9.HRなど)、ランダム変異を加えたカプシド(AAV-PHP.Bなど)、インシリコで設計したカプシド(Anc80など)が挙げられ、一つの実施形態において、本開示のAAVベクターはこれらの改変カプシドを含んでもよく、本開示のAAVベクタープラスミドはこれらの改変カプシドをコードするように構築されてもよい。本明細書において、核酸配列が特定の血清型に由来すると記載する場合、核酸配列は、野生型のカプシドをコードしてもよいし、野生型のカプシドに基づき上記のような改変が施されたカプシドをコードしてもよいことが企図される。
【0094】
・レトロウイルスベクター
本明細書において、「レトロウイルス」は、一般にレトロウイルス科のウイルスを指す。トロウイルスは、主にゲノムをRNAからDNAに逆転写する能力を特徴とする二本鎖RNAエンベロープウイルスである。ビリオンの長さは直径約100~120nmであり、ヌクレオキャプシドタンパク質と複合体を形成した同一のプラスRNA鎖の二量体ゲノムを含有する。ゲノムは、ウイルス感染に必要な酵素タンパク質、すなわち逆転写酵素、インテグラーゼおよびプロテアーゼを含有するキャプシドに封入されている。マトリックスタンパク質が、ウイルス核粒子の周りを囲む、宿主細胞膜に由来する脂質二重層であるエンベロープと相互作用するキャプシドコアの外側の層を形成する。この二重層には、宿主細胞上の特異的受容体を認識し、感染プロセスを開始させるウイルスエンベロープ糖タンパク質が固定されている。エンベロープタンパク質は、タンパク質を脂質膜内に固定させる膜貫通(TM)と細胞受容体に結合する表面(SU)の2つのサブユニットによって形成される。
【0095】
レトロウイルスとして、マウス白血病ウイルス(MLV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、ウマ感染性貧血ウイルス(EIAV)、マウス乳房腫瘍ウイルス(MMTV)、Rous肉腫ウイルス(RSV)、Fujinami肉腫ウイルス(FuSV)、Moloneyマウス白血病ウイルス(Mo-MLV)、FBRマウス骨肉腫ウイルス(FBR MSV)、Moloneyマウス肉腫ウイルス(Mo-MSV)、Abelsonマウス白血病ウイルス(A-MLV)、トリ骨髄細胞腫症ウイルス29(MC29)、およびトリ赤芽球症ウイルス(AEV)、およびレンチウイルスが挙げられるが、これらに限定されない。レンチウイルスは、「霊長類」および「非霊長類」に分けることができる。霊長類レンチウイルスの例としては、ヒト後天性免疫不全症候群(AIDS)の原因物質であるヒト免疫不全ウイルス(HIV)、およびサル免疫不全ウイルス(SIV)が挙げられる。非霊長類レンチウイルス群には、プロトタイプ「遅発性ウイルス」のビスナ/マエディウイルス(VMV)、ならびに関連するヤギ関節炎脳炎ウイルス(CAEV)、ウマ感染性貧血ウイルス(EIAV)、およびより最近になって記述されたネコ免疫不全ウイルス(FIV)、およびウシ免疫不全ウイルス(BIV)が含まれる。
【0096】
感染プロセスの間、レトロウイルスは最初に特定の細胞表面受容体に付着する。感受性の宿主細胞に侵入すると、レトロウイルスRNAゲノムは、逆転写酵素によってDNAにコピーされる。このDNAは宿主細胞核に輸送され、次いで宿主ゲノムに組み入れられ、この状態はプロウイルスと呼ばれる。プロウイルスは、細胞分裂中の宿主染色体において安定であり、他の細胞タンパク質のように転写される。プロウイルスは、より多くのウイルスを作製するために必要とされるタンパク質およびパッケージング機構をコードし、出芽して細胞から離れることができる。レトロウイルスが宿主細胞から出芽すると、それらは宿主細胞脂質膜を含む。このようにして、宿主細胞由来膜タンパク質がレトロウイルス粒子の一部となる。
【0097】
レトロウイルスのゲノムは、gag(群特異的抗原)、pro(プロテアーゼ)、pol(ポリメラーゼ)およびenv(エンベロープ)の4つの遺伝子を含む。gag配列は、マトリックスタンパク質、ヌクレオキャプシドタンパク質、およびキャプシドタンパク質の3つの主要な構造タンパク質をコードする。pro配列は、粒子の集合、出芽および成熟の間にGagおよびGag-Polを切断する役割を担うプロテアーゼをコードする。pol配列は、逆転写酵素およびインテグラーゼの酵素をコードし、前者は、感染プロセスの間にウイルスゲノムのRNAからDNAへの逆転写を触媒し、後者はLTRをプロセシングし、プロウイルスDNAを宿主細胞ゲノムへ組み入れる役割を担う。env配列は、エンベロープ糖タンパク質のSUおよびTMサブユニットの両方をコードする。レトロウイルスが特異的な細胞表面受容体を使用してその標的宿主細胞に結合する能力はEnvタンパク質の表面成分(SU)によって与えられるが、レトロウイルスが膜融合を介して細胞に進入する能力は、膜アンカー型膜貫通成分(TM)によって付与され得る。レトロウイルスゲノムは、遺伝子発現、逆転写および宿主細胞染色体への組み入れを促進するために必要な要素を含有し、この要素として、2つのLTR(長い末端反復)、新たに形成するビリオンへのウイルスRNAの特異的パッケージングに必要なパッケージングシグナル(ψ)配列、および逆転写の間にプラス鎖DNA合成を開始する部位として機能するポリプリントラクト(polypurine tract;PPT)のような非コーディングシス作用性配列が挙げられる。長鎖末端反復(LTR)は約600ntの長さであり、そのうちU3領域が450、R配列が100、U5領域がおよそ70ntの長さである。
【0098】
レンチウイルスなどの複合レトロウイルスのゲノムは、gag、pro、polおよびenvに加えて、ウイルス遺伝子発現、感染性粒子の集合を調節し、感染細胞におけるウイルス複製をモジュレートするアクセサリー遺伝子を含み得る。代表的なレンチウイルスはHIV-1である。レンチウイルスは、2つの制御遺伝子、tatおよびrevを含み得る。例えば、HIV-1はvif、vpr、vpuおよびnefをさらに含む。他にもvpxなどのアクセサリー遺伝子が存在する。これらのアクセサリー遺伝子は、ウイルスRNAの合成およびプロセシングならびに他の複製機能の制御に関与している。特に、HIVはその他にも構造的ランドマーク(TAR、RRE、PE、SLIP、CRS、INS)などを含む。レンチウイルス粒子は、p24のカプシドタンパク質を含み得る。
【0099】
一つの実施形態において、レトロウイルスベクタープラスミドは、レトロウイルスベクターを構成するのに必要な核酸配列のうちの少なくとも1つおよび所望の遺伝子を含む。一つの実施形態において、レトロウイルスベクタープラスミドは、5’LTRおよび3’LTRの間に所望の遺伝子を含む。一つの実施形態において、レトロウイルスベクタープラスミドは、5’LTRおよび所望の遺伝子の間にprimer binding site(PBS)および/またはポリプリントラクト(PPT)を含んでもよい。一つの実施形態において、レトロウイルスベクタープラスミドは、所望の遺伝子および3’LTRの間にウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(WPRE)を含んでもよい。一つの実施形態において、レトロウイルスベクタープラスミドは、ベクタープラスミドおよびプロデューサー細胞がレトロウイルスベクターを構成するのに必要な核酸配列を含むようなプロデューサー細胞において機能するように構成される。一つの実施形態において、レトロウイルスベクターを構成するのに必要な核酸配列のうちベクタープラスミドに含まれない遺伝子のうち1つまたは複数(例えば、全て)は、プロデューサー細胞の染色体にコードされていてもよい。一つの実施形態において、レトロウイルスベクターの構築の際に、envをVSV-G(水疱性口内炎ウイルス(VSV)の糖タンパク質G)をコードする遺伝子と取り換えてもよい。一つの実施形態において、レトロウイルスベクター(レンチウイルスを含む)プラスミドは、VSV-G遺伝子を追加で含んでもよい。一つの実施形態において、レトロウイルスベクター(レンチウイルスを含む)の構築の際に、envに加えてまたはこれと置き換えて、狂犬病ウイルスの糖タンパク質遺伝子(RV-G)またはRV-Gの細胞内ドメインを水泡性口内炎ウイルス糖タンパク質(VSV-G)のもので置換した融合糖タンパク質(FuG-B)を使用してもよく、レトロウイルスベクター(レンチウイルスを含む)プラスミドは、これらの遺伝子を含んでもよい。
【0100】
一つの実施形態において、レトロウイルスベクターを構成するのに必要な核酸配列は、カプシドタンパク質をコードする核酸配列(gag)と、ゲノムをパッケージング、転写および複製するタンパク質をコードする核酸配列(pol)と、2つの末端反復配列(5’LTR、3’LTR)と、ヘルパー遺伝子の核酸配列とを含み得る。一つの実施形態において、ヘルパー遺伝子の核酸配列は、パッケージングシグナル(ψ)配列、pro、polおよびenvであり得る。一つの実施形態において、レトロウイルスベクタープラスミドは、gag、pro、pol、envのうちの1つまたは複数を含まなくてもよく、一つの実施形態において、レトロウイルスベクターを構成するのに必要な核酸配列はこれらを含む。polは、レトロウイルスの複製に必要な遺伝子であり得るので、これを欠損させたレトロウイルスベクタープラスミドは、感染細胞における複製能力が低減され得る。一つの実施形態において、レトロウイルスベクタープラスミドは、5’LTRおよび3’LTRの間にレトロウイルスベクターを構成するのに必要な核酸配列のうちの1つまたは複数(例えば全て)を含まない。一つの実施形態において、レトロウイルスベクタープラスミドは、5’LTRおよび3’LTRの間に所望の遺伝子を含む。一つの実施形態において、レトロウイルスベクタープラスミドは、5’LTRおよび3’LTRの間に所望の遺伝子、プロモーター、およびターミネーターを含む。一つの実施形態において、レトロウイルスベクタープラスミドは、LTRのU3領域が欠損するように改変されていてもよい。レトロウイルスベクターを生産するためのプロデューサー細胞として、HEK293Tなどの細胞が挙げられる。
【0101】
一つの実施形態において、レンチウイルスベクターを構成するのに必要な核酸配列は、カプシドタンパク質をコードする核酸配列(gag)と、ゲノムをパッケージング、転写および複製するタンパク質をコードする核酸配列(pol、rev、パッケージングシグナル(ψ)配列、APP、MAAPのうちの少なくとも1つ)と、2つの末端反復配列(5’LTR、3’LTR)と、ヘルパー遺伝子の核酸配列とを含み得る。一つの実施形態において、ヘルパー遺伝子の核酸配列は、pro、polおよびenvであり得る。一つの実施形態において、レンチウイルスベクタープラスミドは、rev、gag、pro、pol、envのうちの1つまたは複数を含まなくてもよく、一つの実施形態において、レンチウイルスベクターを構成するのに必要な核酸配列はこれらを含む。polおよびrevは、レンチウイルスの複製に必要な遺伝子であり得るので、これらを欠損させたレンチウイルスベクタープラスミドは、感染細胞における複製能力が低減され得る。一つの実施形態において、レンチウイルスベクタープラスミドは、tat、vif、vpr、vpu、nef、vpx、TAR、RRE、PE、SLIP、CRS、INS、APP、MAAP、RPE、PPT、PRE、WRPE、oPREのうちの1つまたは複数を含んでもよい。一つの実施形態において、レンチウイルスベクタープラスミドは、5’LTRおよび3’LTRの間にレンチウイルスベクターを構成するのに必要な核酸配列のうちの1つまたは複数(例えば全て)を含まない。一つの実施形態において、レンチウイルスベクタープラスミドは、5’LTRおよび3’LTRの間に所望の遺伝子を含む。一つの実施形態において、レンチウイルスベクタープラスミドは、5’LTRおよび3’LTRの間に所望の遺伝子、プロモーター、ターミネーター、およびWPREを含む。一つの実施形態において、レンチウイルスベクタープラスミドは、LTRのU3領域、TATが欠損するように改変されていてもよい。一つの実施形態において、レトロウイルスベクタープラスミドは、LTRのU3領域が欠損するように改変されていてもよい。レンチウイルスベクターを生産するためのプロデューサー細胞として、HEK293T、HEK293、Helaなどの細胞が挙げられる。
【0102】
・センダイウイルスベクター
センダイウイルス(SeV)は、パラミクソウイルス科(Paramyxoviridae)レスピロウイルス属(Respirovirus)に分類されるマイナス鎖RNAウイルスである。センダイウイルスはニューロンを含む非分裂細胞にも感染し得る。センダイウイルスの感染後、ウイルスゲノムは宿主細胞の染色体に組み込まれずRNAの状態で細胞質に留まる。
【0103】
センダイウイルスのタンパク質をコードする遺伝子としては、N、P、M、F、HNおよびL遺伝子が挙げられる。N、P、M、F、HNおよびL遺伝子は、それぞれヌクレオキャプシド、ホスホ、マトリックス、フュージョン、ヘマグルチニン・ノイラミニダーゼおよびラージ蛋白質をコードする。一般的に野生型センダイウイルスのゲノム上には、3’の短いリーダー領域(LE)に続き、N(ヌクレオカプシドタンパク質)、P(ホスホタンパク質)、M(マトリックスタンパク質)、F(フュージョンタンパク質)、HN(ヘマグルチニン・ノイラミニダーゼ)およびL(ラージタンパク質)をコードする6つの遺伝子が並んでおり、他端に短い5’トレイラー領域(TR)が存在する。P遺伝子の領域からはCおよびVと呼ばれるアクセサリータンパク質も翻訳される。
【0104】
センダイウイルスは、宿主細胞の細胞質におけるチューブリンおよびセンダイウイルスのRNAポリメラーゼ(Lタンパク質)の両方によって遺伝子を発現する。センダイウイルスは、宿主細胞のゲノムと相互作用せず、ヒトに対して病原性ではない。センダイウイルスのこれらの特徴は、センダイウイルスベクターのヒトに対する安全性を示唆する。Mタンパク質、Fタンパク質、およびHNタンパク質は、センダイウイルスのウイルス粒子の形成およびウイルス感染を担い得る。Nタンパク質、Pタンパク質およびLタンパク質は、ウイルスゲノムの発現および複製を担い得る。
【0105】
一つの実施形態では、プロデューサー細胞においてセンダイウイルスベクタープラスミドから転写された核酸は、センダイウイルスベクターの搭載核酸となる。そのため、以下のセンダイウイルスベクタープラスミドに関する特徴は、センダイウイルスベクターの搭載核酸の特徴でもあり得る。
【0106】
一つの実施形態において、センダイウイルスベクタープラスミドは、センダイウイルスベクターを構成するのに必要な核酸配列のうちの少なくとも1つおよび所望の遺伝子を含む。一つの実施形態では、所望の遺伝子は、センダイウイルス遺伝子(N、P、M、F、HNおよびL遺伝子)のいずれかの上流および/または下流に位置付けられ得る。一つの実施形態では、センダイウイルスベクタープラスミドは、所望の遺伝子の上流または下流にEIS配列(転写終結(E)配列-介在(I)配列-転写開始(S)配列)を含むことができ、そうすることで所望の遺伝子の上流または下流の遺伝子の発現が促進され得る。一つの実施形態では、センダイウイルスベクタープラスミドは、6の倍数の塩基数を有する配列(例えば、所望の遺伝子を含む配列)を挿入するように改変され得る。一つの実施形態において、センダイウイルスベクタープラスミドは、ベクタープラスミドおよびプロデューサー細胞がセンダイウイルスベクターを構成するのに必要な核酸配列を含むようなプロデューサー細胞において機能するように構成される。一つの実施形態において、センダイウイルスベクターを構成するのに必要な核酸配列のうちベクタープラスミドに含まれない遺伝子またはその遺伝子産物のうち1つまたは複数(例えば、全て)は、ベクタープラスミドとトランスにプロデューサー細胞において供給され得る。
【0107】
一つの実施形態において、センダイウイルスベクターを構成するのに必要な核酸配列は、カプシドタンパク質をコードする核酸配列(N、HN)と、ゲノムをパッケージング、転写および複製するタンパク質をコードする核酸配列(P、L)と、2つの末端配列(LE、TR)と、ヘルパー遺伝子の核酸配列とを含み得る。一つの実施形態において、ヘルパー遺伝子の核酸配列は、F、V、CおよびMであり得る。一つの実施形態において、センダイウイルスベクターを構成するのに必要な核酸配列は、センダイウイルスの全ての遺伝子であり得る。一つの実施形態において、センダイウイルスベクタープラスミドは、LEおよびTRの間にセンダイウイルスを構成するのに必要な核酸配列を含む。一つの実施形態において、センダイウイルスベクターを構成するのに必要な核酸配列は、N、P、V、C、M、F、HN、Lの遺伝子を含み得る。一つの実施形態において、センダイウイルスベクターを構成するのに必要な核酸配列は、M、FおよびHNのうちの1つまたは複数以外のセンダイウイルスの全ての遺伝子であり得る。M、FおよびHN遺伝子のうちの一つまたは複数を欠損するセンダイウイルスベクタープラスミドを使用する場合、搭載核酸は宿主における伝播性を喪失し得る。一つの実施形態において、センダイウイルスベクタープラスミドは、M、FおよびHNのうちの1つまたは複数を含まなくてもよく、一つの実施形態において、センダイウイルスベクターを構成するのに必要な核酸配列はこれらを含む。一つの実施形態において、センダイウイルスベクタープラスミドは、バクテリオファージT7のRNAポリメラーゼをコードする遺伝子を含んでもよい。一つの実施形態において、センダイウイルスベクタープラスミドは、自己切断リボザイムRbzを含んでもよい。
【0108】
一つの実施形態では、センダイウイルスタンパク質の抗原性を低下させるために、またはRNAの転写効率および複製効率を高めるために、センダイウイルス遺伝子を改変してもよい。一つの実施形態では、転写または複製の機能を増強するために、複製因子であるN遺伝子、P遺伝子およびL遺伝子の一つまたは複数を改変してもよい。一つの実施形態では、構造タンパク質であるHNタンパク質を改変してもよく、そうすることで、ヘマグルチニン活性および/またはノイラミニダーゼ活性が変化し得、ヘマグルチニン活性を弱めることで血中のウイルスの安定性が向上し得、ノイラミニダーゼ活性が変化することでウイルスの感染性が変化し得る。一つの実施形態では、膜融合に関わるFタンパク質を改変してもよい。一つの実施形態では、アクセサリー遺伝子であるV遺伝子を欠損させるように改変してもよい。センダイウイルスベクターを生産するためのプロデューサー細胞として、BHK/T7などの細胞が挙げられる。
【0109】
一つの実施形態において、本開示は、本開示のウイルスベクターの集団を含むウイルスベクター含有組成物を提供する。一つの実施形態において、ウイルスベクター含有組成物は、全ウイルスベクター粒子のうち核酸を含まないウイルスベクター粒子が、約90%以下、約80%以下、約75%以下、約70%以下、約65%以下、約60%以下、約55%以下、または約50%以下であり得る。一つの実施形態において、本開示のウイルスベクター含有組成物は、全ウイルスベクター粒子のうち、全ての所望の遺伝子を含む核酸を含むウイルスベクター粒子が、約75%以上、約80%以上、約85%以上、約90%以上、約92%以上、約95%以上、約97%以上、または約99%以上であり得る。一つの実施形態において、本開示のウイルスベクター含有組成物は、全ウイルスベクター粒子のうち、所望の核酸以外の本開示のプラスミド由来の核酸を含むウイルスベクター粒子が、約10%以下、約7%以下、約5%以下、約4%以下、約3%以下、約2%以下、約1.5%以下、約1%以下、約0.7%以下、約0.5%以下、約0.4%以下、約0.3%以下、約0.2%以下、または約0.1%以下であり得る。
【0110】
(ウイルスベクタープラスミドの作製)
一つの実施形態において、本開示は、複数の核酸配列を作動可能に連結するステップを含む、本開示のベクタープラスミドを作製する方法を提供する。一つの実施形態において、本開示は、本開示のベクタープラスミドを枯草菌において複製するステップを含む、本開示のベクタープラスミドを作製する方法を提供する。一つの実施形態において、本開示は、枯草菌内で複製される配列を有する、ウイルスベクターを生産するための核酸配列を含む核酸を宿主細胞に導入して、前記宿主細胞においてプラスミドを形成させるステップを含む、本開示のベクタープラスミドを作製する方法を提供する。本明細書において、一つの実施形態において、枯草菌は外部から取り込んだ核酸からプラスミドを形成する能力を有し得るので、この方法において、導入する核酸はプラスミドでなくてもよい。例えば、枯草菌は、核酸(例えば、タンデムリピートな核酸配列を有する非環状核酸)と接触すると、この核酸を取り込み、枯草菌内でプラスミドを形成し得る(例えば、本明細書に記載のOGAB法を参照のこと)。
【0111】
一つの実施形態において、枯草菌に核酸を導入する方法は、任意の方法であり得るが、例えば、コンピテントな枯草菌の使用、エレクトロポレーション法、パーティクルガン(遺伝子銃)を用いる方法、リン酸カルシウム法などが挙げられる。「コンピテント」とは、細胞が外来性の物質(例えば、核酸)に対してより透過性になった状態を指す。枯草菌をコンピテントにするためには、任意の公知の方法を使用することができるが、例えば、Anagnostopoulou, C. and Spizizen, J. J. Bacteriol., 81, 741-746(1961)に記載の方法を使用することができる。一つの実施形態において、本開示のベクタープラスミドは、枯草菌において作製され、そのまま同じ枯草菌において増幅されてもよい。
【0112】
枯草菌に核酸を導入して、この核酸とは異なる構造のウイルスベクタープラスミドを作製する場合、導入する核酸は、以下で詳細に説明するウイルスベクタープラスミドの各要素を含み得る。
【0113】
(OGAB法)
一つの実施形態において、本開示のベクタープラスミドは、OGAB法によって作製され得る。OGAB(Ordered Gene Assembly in Bacillus subtilis)法は、集積核酸を形質転換生物に取り込ませることでこの生物において環状のプラスミドを生成する方法である。OGAB法は、必ずしも枯草菌(Bacillus subtilis)を使用する必要はなく、非環状の長鎖核酸を取り込み、プラスミドを生成できる任意の生物を使用でき、このような生物を本明細書では「形質転換生物」と呼ぶ。OGAB法では、大きなサイズの核酸を含むプラスミドが簡便に調製され得る。形質転換生物に取り込ませる核酸を本明細書では「集積核酸」と呼び、典型的には、集積核酸は、同じ方向にプラスミドの1単位と、1セットの単位核酸とが繰り返し現れるようなタンデムリピート状の構造を有し、このような構造の集積核酸を使用することで、形質転換生物におけるプラスミドの生成が促進され得る。本明細書において「単位核酸」とは、集積核酸の配列を構成する一部の配列を有する核酸分子または核酸分子の部分を指し、以下で詳細に説明されるように、複数種類の単位核酸が単位ベクターとして調製され、その後集積核酸が構築される。
【0114】
以下で、形質転換生物に取り込ませるための集積核酸の作製手順を説明する。
【0115】
・単位核酸の調製
集積核酸に組み込むための単位核酸を調製する。単位核酸は任意の公知の方法によって作製でき、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)や化学合成により作製することができる。単位核酸は、所望のタンパク質(治療用タンパク質、ウイルスベクターを構成するタンパク質など)をコードする配列またはその部分、遺伝子を制御する配列(プロモーター、エンハンサーなど)、核酸を操作するための配列(制限酵素認識配列など)など任意の所望の配列を有し得る。集積核酸に組み込んだときに、複数種類の単位核酸が特定の順番および/または特性の方向に並ぶように、それぞれの単位核酸の末端は、特定の突出配列を生じるように構成され得る。
【0116】
最終的にプラスミド上に多数の単位核酸が集積され得るので、1つまたは複数の単位核酸は塩基長の長い1つまたは複数の遺伝子をコードするように設計されてもよい。塩基長の長い遺伝子としては、例えば、一連の代謝経路を構成する遺伝子群などが挙げられる。
【0117】
・単位ベクターの調製
単位核酸と、それとは異なる付加核酸とを連結することで単位ベクターを調製することができる。単位ベクターを使用することで、単位核酸をより容易に取り扱うことが可能になり得る。
【0118】
付加核酸は、直鎖状核酸であってもよいし、環状のプラスミドであってもよい。環状のプラスミドを付加核酸として使用する場合、単位ベクターも環状構造を有し得るため、例えば、大腸菌等の形質転換に使用できる。一つの実施形態において、導入された宿主中で単位ベクターが複製されるように、付加核酸は複製開始点を含み得る。一つの実施形態において、ある集積核酸を構築するための全ての単位核酸は、同一種類の付加核酸に連結してもよく、そうすることで単位ベクター間のサイズ差を小さくし、複数種類の単位ベクターの取り扱いが容易になり得る。一つの実施形態において、ある集積核酸を構築するための単位核酸は、異なる種類の付加核酸に連結してもよい。一つの実施形態において、ある集積核酸を構築するための1つまたは複数の単位核酸について、(単位核酸の塩基長)/(単位ベクターの塩基長)の割合またはその平均は、50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、15%以下、10%以下、7%以下、5%以下、2%以下、1.5%以下、1%以下または0.5%以下であり得る。付加核酸のサイズが単位核酸より大きいほど、異なる種類の単位ベクターのより均一な取り扱いが可能になり得る。単位核酸と付加核酸との連結は、例えば、DNAリガーゼを用いたライゲーション、TAクローニング法など任意の方法で実施できる。一つの実施形態において、ある集積核酸を構築するための1つまたは複数の単位核酸について、(単位核酸の塩基長)/(単位ベクターの塩基長)の割合またはその平均は、1%以上、0.3%以上、0.1%以上、0.03%以上、0.01%以上、0.003%以上または0.001%以上であり得、単位ベクターの操作が容易になり得る。
【0119】
一つの実施形態において、単位核酸の長さは、10bp以上、20bp以上、50bp以上、70bp以上、100bp以上、200bp以上、500bp以上、700bp以上、1000bp以上または1500bp以上、かつ5000bp以下、5000bp以下、2000bp以下、1500bp以下、1200bp以下、1000bp以下、700bp以下または500bp以下であり得る。
【0120】
一つの実施形態において、集積核酸は、2種以上、4種以上、6種以上、8種以上、10種以上、15種以上、20種以上、30種以上、40種以上、50種以上、60種以上、70種以上、80種以上、90種以上または100種以上、かつ1000種以下、700種以下、500種以下、200種以下、120種以下、100種以下、80種以下、70種以下、60種以下70種以下または50種以下の単位核酸から構築され得る。各々の単位核酸(または単位ベクター)のモル数がほぼ同一になるように調整することで、タンデムリピート状の構造を有する所望の集積核酸が効率的に作製され得る。
【0121】
一つの実施形態において、単位核酸は、集積核酸における1セットの反復配列を単位核酸の数でほぼ等分した塩基長を有してもよい。そうすることで、各々の単位核酸(または単位ベクター)のモル数を揃える操作が容易になり得る。一つの実施形態において、単位核酸は、集積核酸における1セットの反復配列を単位核酸の数でほぼ等分した塩基長から30%以下、25%以下、20%以下、15%以下、10%以下、7%以下または5%以下の増大または減少した塩基長を有し得る。
【0122】
一つの実施形態において、単位核酸は、単位核酸の端部に非回文配列(パリンドローム配列でない配列)を有するように設計され得る。このように設計された単位核酸は、その非回文配列を突出配列にした場合、集積核酸において単位核酸が互いに順序を保ったまま連結した構造を容易に与え得る。
【0123】
・集積核酸の作製
集積核酸は、単位核酸を互いに連結することによって構築され得る。一つの実施形態において、単位核酸は、単位ベクターから制限酵素などによって切り出されることで調製され得る。集積核酸は、反復配列のセットを1つ以上、2つ以上、3つ以上、4つ以上、5つ以上、6つ以上、7つ以上、8つ以上、9つ以上または10つ以上含み得る。集積核酸における反復配列は、単位核酸の配列および必要に応じて集積ベクター核酸の配列を含み得る。集積核酸は、形質転換生物において核酸の複製を可能とする配列を有し得る。一つの実施形態において、形質転換生物において核酸の複製を可能とする配列は、形質転換生物(例えば、Bacillus属細菌(枯草菌))中で有効な複製開始点を含み得る。枯草菌中で有効な複製開始点の配列は、特に限定されないが、例えば、θ型の複製機構を有するものとしては、pTB19(Imanaka,T., et al. J.Gen.Microbioi. 130, 1399-1408.(1984))やpLS32(Tanaka, T and Ogra, M. FEBS Lett. 422, 243-246.(1998))、pAMβ1(Swinfield, T.J., et al. Gene 87, 79-90.(1990))等のプラスミドに含まれる複製開始点等の配列が挙げられる。
【0124】
集積核酸は、単位核酸の他にも、必要に応じて追加の塩基配列を含んでもよい。一つの実施形態において、集積核酸は、プロモーター、オペレーター、アクチベーター、ターミネーター等の転写翻訳を制御する塩基配列を含んでもよい。枯草菌を宿主とした場合のプロモーターとしては、具体的には、IPTG(isopropyl s-D-thiogalactopyranoside)で発現制御可能なPspac(Yansura, D. and Henner, D.J. Pro. Natl. Acad. Sci, USA 81, 439-443.(1984.))、あるいはPrプロモーター(Itaya, M. Biosci. Biotechnol. Biochem. 63, 602-604.(1999))等が挙げられる。
【0125】
単位核酸は、集積核酸において一定の順序および向きを保った繰り返し構造を形成し得る。一つの実施形態において、単位ベクターから切り出された単位核酸の突出末端の塩基配列が互いに相補的になるように単位核酸を構築することで、集積核酸における一定の順序および向きを保った繰り返し構造の形成が可能になり得る。一つの実施形態において、異なる単位核酸毎に突出末端の構造をユニークにすることで、効率的に一定の順序および向きを保った繰り返し構造を形成し得る。一つの実施形態において、突出末端は、非回分配列を有してもよく、5’末端突出または3’末端突出のいずれであってもよい。
【0126】
一つの実施形態において、制限酵素を用いて単位ベクターから突出末端を有する単位核酸が切り出され得る。この実施形態において、単位ベクターは、1つまたは複数の制限酵素認識配列を有し得る。単位ベクターが複数の制限酵素認識配列を有する場合、それぞれの制限酵素認識配列は同じ制限酵素によって認識されてもよいし、異なる制限酵素によって認識されてもよい。一つの実施形態において、単位ベクターは、同じ制限酵素によって認識される1対の領域を、完全な単位核酸領域がこれらの領域の間に含まれるように含み得る。使用される制限酵素は、特に限定されないが、タイプII制限酵素、例えば、AarI、BbsI、BbvI、BcoDI、BfuAI、BsaI、BsaXI、BsmAI、BsmBI、BsmFI、BspMI、BspQI、BtgZI、FokI、SfaNIなどのタイプIIS制限酵素を使用でき、これらの制限酵素は、認識配列の外側の認識配列から一定距離離れた部位に突出末端を創出可能であり得る。(例えば単独の)タイプIIS制限酵素を用いると、切り出した単位核酸の突出末端の配列が単位核酸毎に異なり得るので、複数の単位核酸を一定の順序および向きで集積させるのに有利であり得る。タイプIIS制限酵素を使用する一つの実施形態において、単位ベクターは単位核酸領域にそのタイプIIS制限酵素が認識する領域を含まない。認識領域を切断する制限酵素を使用する実施形態において、単位ベクターは単位核酸領域の末端にその制限酵素が認識する領域を含み得る。
【0127】
一つの実施形態において、複数の単位ベクターから単位核酸を切り出すために同じ種類の制限酵素を使用する場合、この複数の単位ベクターを含む溶液中で制限酵素処理を行うことができ、作業の効率が向上し得る。ある集積核酸を作製するために使用する制限酵素の種類は、例えば、5種以下、4種以下、3種以下、2種以下または1種であり得、少ない種類の制限酵素を使用することで、単位核酸間のモル数のばらつきが低減され得る。一つの実施形態において、単位ベクターから切り出された単位核酸は、アガロースゲル電気泳動など任意の公知の分画法により容易に精製され得る。
【0128】
単位核酸および必要に応じて集積ベクター核酸は、DNAリガーゼ等を用いて互いに連結(ライゲーション)することができる。これにより、集積核酸を作製できる。例えば、単位核酸および必要に応じて集積ベクター核酸の連結は、ポリエチレングリコール(例えば、PEG2000、PEG4000、PEG6000、PEG8000など)および塩(例えば、1価のアルカリ金属、塩化ナトリウムなど)などの成分の存在下で実施することができる。ライゲーション反応液中の各単位核酸の濃度は、特に限定されず、1fmol/μl以上などであり得る。ライゲーションの反応温度および時間は、特に限定されず、37℃で30分以上などである。一つの実施形態において、単位核酸および必要に応じて集積ベクター核酸を連結させる前に、単位核酸および必要に応じて集積ベクター核酸を含む組成物を制限酵素を失活させる任意の条件に供してもよい(例えば、フェノール・クロロフォルム処理)。
【0129】
単位核酸は、WO2015/111248に記載される方法などを使用して、ほぼ同じモル数に調整することができる。単位核酸をほぼ同じモル数に調整することで、タンデムリピート状の構造を有する所望の集積核酸が効率的に作製され得る。単位ベクターまたは単位核酸の濃度を測定することで、単位核酸のモル数を調整することができる。
【0130】
・集積核酸からのプラスミドの作製
集積核酸を形質転換生物と接触させることで、形質転換生物においてプラスミドが形成され得る。一つの実施形態において、形質転換生物として、Bacillus属細菌、Streptococcus属細菌、Haemophilus属細菌、Neisseria属などが挙げられる。Bacillus属細菌としては、B.subtilis(枯草菌)、B.megaterium(巨大菌)、B.stearothermophilus(中度高熱菌)などが挙げられる。好ましい実施形態において、形質転換生物は枯草菌である。一つの実施形態において、集積核酸を取り込ませる形質転換生物は、コンピテント状態であり、能動的に核酸を取り込むことができる。例えば、コンピテント状態の枯草菌は、基質となる2本鎖核酸を細胞上で切断し、2本鎖の内のいずれかの1本鎖をこの切断点から分解し、他方の1本鎖を菌体内に取り込む。取り込まれた1本鎖は、菌体内で環状の2本鎖核酸に修復され得る。形質転換生物をコンピテント状態にするために、任意の公知の方法を使用できるが、例えば、枯草菌は、Anagnostopoulou, C. and Spizizen, J. J. Bacteriol., 81, 741-746(1961)に記載の方法を用いてコンピテント状態にすることができる。形質転換の方法は、それぞれの形質転換生物に適した公知の方法を用いることができる。
【0131】
一つの実施形態において、パッケージング細胞から生産されたベクタープラスミドは任意の公知の方法を用いて精製でき、本開示は、このように精製されたベクタープラスミドも提供する。一つの実施形態において、精製したベクタープラスミドが所望の核酸配列を有することは、制限酵素切断により発生する断片のサイズパターンを調べること、PCR法、塩基配列決定法などにより確認することができる。一つの実施形態において、本開示のベクタープラスミド作製方法によって調製されたベクタープラスミド含有組成物は、含有エンドトキシンが少量であり得る。一つの実施形態において、本開示のベクタープラスミドを含む枯草菌を提供する。
【0132】
(組成物)
一つの実施形態において、本開示は、本明細書に記載のベクタープラスミドまたはウイルスベクターを含む組成物を提供する。
【0133】
(剤型等)
本明細書に記載される組成物は、種々の形態で提供され得る。組成物の形態としては、例えば、注射剤、カプセル剤、錠剤、顆粒剤、吸入剤等であってもよい。注射用の水溶液は、例えば、バイアル、またはステンレス容器で保存してもよい。また注射用の水溶液は、例えば生理食塩水、糖(例えばトレハロース)、NaCl、またはNaOH等を配合してもよい。
【0134】
一つの実施形態では、本開示の組成物は、薬学的に許容しうるキャリアもしくは賦形剤を含む。このようなキャリアは、無菌液体、例えば水および油であることも可能であり、石油、動物、植物または合成起源のものが含まれ、限定されるわけではないが、ピーナツ油、ダイズ油、ミネラルオイル、ゴマ油等が含まれる。医薬を経口投与する場合は、水が好ましいキャリアである。医薬組成物を静脈内投与する場合は、生理食塩水および水性デキストロースが好ましいキャリアである。好ましくは、生理食塩水溶液、並びに水性デキストロースおよびグリセロール溶液が、注射可能溶液の液体キャリアとして使用される。適切な賦形剤には、軽質無水ケイ酸、結晶セルロース、マンニトール、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、モルト、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、脱脂粉乳、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノール、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、ポロキサマー、白糖、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩等が含まれる。組成物は、望ましい場合、少量の湿潤剤または乳化剤、あるいはpH緩衝剤もまた含有することも可能である。これらの組成物は、溶液、懸濁物、エマルジョン、錠剤、ピル、カプセル、粉末、持続放出配合物等の形を取ることも可能である。伝統的な結合剤およびキャリア、例えばトリグリセリドを用いて、組成物を座薬として配合することも可能である。経口配合物は、医薬等級のマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリン・ナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなどの標準的キャリアを含むことも可能である。適切なキャリアの例は、E.W.Martin, Remington’s Pharmaceutical Sciences(Mark Publishing Company, Easton, U.S.A)に記載される。これらのほか、例えば、界面活性剤、賦形剤、着色料、着香料、保存料、安定剤、緩衝剤、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤等を含んでいてもよい。一つの実施形態では、本開示の任意の液体組成物のpHは、約3、約3.5、約4、約4.5、約5、約5.5、約6、約6.5、約7、約7.5、約8、約8.5、約9、約9.5、約10、約10.5、約11またはこれらの任意の2つの値の間の範囲であり得る。
【0135】
本開示の組成物の任意の成分は、薬学的に許容しうる塩として提供することができ、例えば、塩酸、リン酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸などに由来する遊離型のカルボキシル基とともに形成される塩、イソプロピルアミン、トリエチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインなどに由来するものなどの遊離型のアミン基とともに形成される塩、並びにナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、および水酸化第二鉄とともに形成される塩であり得る。
【0136】
好ましい実施形態において、公知の方法に従って、ヒトへの投与に適応させた医薬組成物として、組成物を配合することができる。このような組成物は注射により投与することができる。代表的には、注射投与のための組成物は、無菌等張水性緩衝剤中の溶液である。必要な場合、組成物はまた、可溶化剤および注射部位での疼痛を和らげるリドカインなどの局所麻酔剤も含むことも可能である。一般的に、成分を別個に供給するか、または単位投薬型中で一緒に混合して供給し、例えば活性剤の量を示すアンプルまたはサシェなどの密封容器中、凍結乾燥粉末または水不含濃縮物として供給することができる。組成物を注入によって投与しようとする場合、無菌薬剤等級の水または生理食塩水を含有する注入ビンを用いて、分配することも可能である。組成物を注射によって投与しようとする場合、投与前に、成分を混合可能であるように、注射用の無菌水または生理食塩水のアンプルを提供することも可能である。
【0137】
(使用・用途)
本明細書に記載のベクタープラスミドまたはウイルスベクター、またはこれらを含む組成物は遺伝子治療、機能的ゲノム学、癌ワクチン接種および/または抗ウイルスワクチン接種など、種々の用途で使用することができる。
【0138】
本開示のウイルスベクターまたはウイルスベクター含有組成物を被験体に適用する場合、被験体は特に限定されず、哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ヒツジ、ブタ、サル、ヒトなど)、鳥類、爬虫類、両生類、節足動物、魚類などであり得る。
【0139】
本開示のウイルスベクターまたはウイルスベクター含有組成物の量は、処置または予防する障害または状態の性質によって変動しうるが、当業者は本明細書の記載に基づき標準的臨床技術によって決定可能である。場合によって、in vitroアッセイを使用して、最適投薬量範囲を同定するのを補助することも可能である。配合物に使用しようとする正確な用量はまた、投与経路、および疾患または障害の重大性によっても変動しうるため、担当医の判断および各患者の状況に従って、決定すべきである。本開示のウイルスベクターまたはウイルスベクター含有組成物の投与量は特に限定されないが、例えば、1回あたり1×105個、1×106個、1×107個、1×108個、1×109個、1×1010個、1×1011個、1×1012個、1×1013個、1×1014個もしくは1×1015個の個数のウイルスベクターであってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。投与間隔は特に限定されないが、例えば、1、7、14、21、または28日あたりに1または2回投与してもよく、それらいずれか2つの値の範囲あたりに1または2回投与してもよい。投与量、投与間隔、投与方法は、患者の年齢や体重、症状、対象臓器等により、適宜選択してもよい。
【0140】
本明細書に記載のウイルスベクターまたはウイルスベクター含有組成物の投与経路は、例えば、静脈内、皮内、皮下、筋肉内、腹腔内、髄腔内、脳室内、脳実質内、経肺、鼻内、硬膜外、または経口投与等であってもよい。一つの実施形態では、本開示の組成物、種々の送達(デリバリー)系をともに使用することができる。このような系には、例えばリポソーム、微小粒子、および微小カプセル中の被包:受容体が仲介するエンドサイトーシスの使用などがある。好適な経路によって、例えば注入によって、ボーラス(bolus)注射によって、上皮または皮膚粘膜裏打ち(例えば口腔、直腸および腸粘膜など)を通じた吸収によって、医薬を投与することも可能であるし、必要に応じてエアロゾル化剤を用いて吸入器または噴霧器を使用しうるし、そして他の薬剤と一緒に投与することも可能である。投与は全身性または局所であることも可能である。
【0141】
本開示の組成物はキットとして提供することができる。一つの実施形態では、本開示は、ベクタープラスミドを作製するためのキットであって、枯草菌においてプラスミド複製を促進する核酸配列と、ウイルスを構成するのに必要な核酸配列と、を含む少なくとも1つの核酸を含む、キットを提供する。一つの実施形態では、本開示は、本開示の組成物に添加され得る1以上の成分が充填された、1以上の容器を含む、薬剤パックまたはキットを提供する。場合によって、このような容器に付随して、医薬または生物学的製品の製造、使用または販売を規制する政府機関によって規定された形で、政府機関による、ヒト投与のための製造、使用または販売の認可を示す情報を示すことも可能である。
【0142】
本開示の組成物の医薬等としての製剤化手順は、当該分野において公知であり、例えば、日本薬局方、米国薬局方、他の国の薬局方などに記載されている。従って、当業者は、本明細書の記載があれば、過度な実験を行うことなく、使用すべき量等の実施形態を決定することができる。
【0143】
本明細書において「または」は、文章中に列挙されている事項の「少なくとも1つ以上」を採用できるときに使用される。「もしくは」も同様である。本明細書において「2つの値」の「範囲内」と明記した場合、その範囲には2つの値自体も含む。
【0144】
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0145】
以上、本開示を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本開示を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本開示を限定する目的で提供したのではない。従って、本開示の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例0146】
試薬類は具体的には実施例中に記載した製品を使用したが、他メーカー(Sigma-Aldrich、和光純薬、ナカライ、R&D Systems、USCN Life Science INC等)の同等品でも代用可能である。
【0147】
(実施例1:AAVベクタープラスミドの増幅)
以下の手順に従ってAAVベクタープラスミドを作製し、大腸菌および枯草菌で増幅した。
【0148】
材料
pAAV-CMVベクター、pRC2-mi342ベクター、pHelperベクターのプラスミド(AAVpro(登録商標)Helper Free System)は、タカラバイオ(滋賀県)より購入した。枯草菌-大腸菌間シャトルプラスミドベクターであるpGETS103ΔAarIは、プラスミドpGETS103(Tsuge, K., Itaya, M. (2001) Recombinational transfer of 100-kilobase genomic DNA to plasmid in Bacillus subtilis 168, Journal of Bacteriology, 183, 5453-5458.)における唯一の制限酵素AarI認識部位(5’-CACCTGC-3’)に点突然変異(5’-CACCAGC-3’)を導入することによりAarI認識部位を消失させたプラスミドであり、神戸大学より譲渡を受けた。大腸菌JM109株のケミカルコンピテントセルは、タカラバイオより購入した。枯草菌BUSY9797株(Tsuge, K., Sato, Y., Kobayashi, Y., Gondo, M., Hasebe, M., Togashi, T., Tomita, M., Itaya, M. (2015) Method of preparing an equimolar DNA mixture for one-step DNA assembly of over 50 fragments, Scientific Reports, 5, 10655.)は、神戸大学より譲渡を受けた。TAクローニング用ベクターのpMD19-Tv-vector、DNA Ligation Kit <Mighty Mix>は、タカラバイオより購入した。制限酵素AarIは、Thermo Fisher Scientific(米国)から購入した。その他の制限酵素は全てNew England Biolab(米国)より購入した。TE緩衝液(10mM Tris-HCl、1mM EDTA、pH8.0)は、ナカライテスク(京都)より購入した。カルベニシリンおよびテトラサイクリンは、シグマアルドリッチ(米国)より購入した。低融点アガロースとして、2-ヒドロキシエチルアガロース(シグマアルドリッチ)を用いた。他の一般的な電気泳動用アガロースゲルは、インビトロジェン(米国)のUltraPure Agaroseを使用した。フェノール飽和TEは、ナカライテスクより購入した。プラスミドのカラム精製キットとして、キアゲン(ドイツ)のQIA quick miniprepキット、およびPCR purification Kitを用いた。Bactotryptone、Yeast extract、Bacto Agarは、ベクトン・ディッキンソン(米国)より購入した。その他の培地用試薬は、ナカライテスクより購入した。卵白リゾチーム、エチジウムブロマイドは、シグマアルドリッチより購入した。リボヌクレアーゼAは、ナカライテスより購入した。プラスミド精製に用いる、P1、P2、P3は、キアゲンより購入した。塩化セシウムは、ナカライテスクより購入した。
【0149】
培地
LB培地は、Bactotryptone 10g、Yeast extract 5g、塩化ナトリウム5gを1Lの水に溶解し、寒天プレートを形成する場合は、さらにBacto Agar 15gを添加し、オートクレーブ(121℃、20分)したものを使用した。必要に応じて、カルベニシリン(終濃度100μg/ml)、あるいはテトラサイクリン(終濃度10μg/ml)を加えた。枯草菌形質転換用のTF-1培地およびTF-II培地は、以下のように調製した。まず、10×Spizizen(1Lあたり、140g K2HPO4(無水)、60g KH2PO4(無水)、20g (NH4)2SO4)、10g Na3シトレート・2H2O)、50%グルコース、2% MgSO4・7H2O、2%カザミノ酸および水を、それぞれオートクレーブして個別に準備した。トリプトファン、アルギニン、ロイシン、トレオニンの各アミノ酸の水溶液(5mg/ml)は、フィルター滅菌により準備した。TF-I培地500mlの調製のためには、10×Spizizenを50ml、50%グルコース、2% MgSO4・7H2O、2%カザミノ酸、5mg/mlのトリプトファン、アルギニン、ロイシン、トレオニンの各アミノ酸を、それぞれ5mlづつ使用し、最後に滅菌水415mlを混合して、フィルターろ過し、使用までは4℃で保存した。TF-II培地500mlの調製については、2%カザミノ酸を2.5ml、各アミノ酸溶液(5mg/ml)を0.5ml、滅菌水を435.5mlにした以外は、TF-I培地と同様の量を加えてフィルターろ過し、使用まで4℃で保存した。
【0150】
試験管内遺伝子操作
他の一般的なDNAの操作については、標準プロトコル(Sambrook, J., et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual. Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York(1989))に従って行った。
【0151】
電気泳動ゲルからのDNA断片の切り出しおよび精製
増幅したDNA断片は、0.7%の低融点アガロースゲル(2-Hydroxyethyl Agarose TypeVII、シグマアルドリッチ)で、1×TAEバッファー(Tris-Acetate-EDTA Buffer、ナカライテスク)存在下で、汎用アガロースゲル電気泳動装置(i-MyRun.N 核酸用電気泳動システム、コスモバイオ(東京))において、100V(約8V/cm)の電圧を印加し、1時間泳動することにより、ベクタープラスミドおよび単位DNAを分離した。この泳動ゲルを、1μg/mlのエチジウムブロマイドを含む1×TAEバッファー100mlで30分間染色し、長波長の紫外線(366mn)を照射して可視化することで、目的サイズのPCR産物をカミソリで切り出し、1.5mlチューブに回収した。回収した低融点アガロースゲル(約300mg程度)に1×TAEバッファーを添加して全体積を約700μlとし、これを65℃で10分間インキュベートすることにより、ゲルを溶解した。その後、等量のTE飽和フェノールを添加し、よく混合することで制限酵素を失活させた。遠心分離(20,000×g、10分間)によりフェノール相と水相とに分離し、水相(約900μl)を新しい1.5mlチューブに回収した。ここに1-ブタノールを500μl添加し、よく混合した後、遠心分離(20,000×g、1分間)により分離し、水分が飽和した1-ブタノール相を取り除くという操作を水相の体積が450μl以下になるまで繰り返すことで、水相の体積を減少させた。これに、3M酢酸カリウム-酢酸緩衝液(pH5.2)50μlおよびエタノール900μlを添加し、遠心分離(20,000×g、10分間)することにより、DNAを沈殿させ、これを70%エタノールでリンスして、20μlのTE緩衝液に溶解した。この回収DNAは、使用まで-20℃で保存した。
【0152】
組換えプラスミド構築
pAAV-CMVプラスミド(
図1)、pRC2-mi342プラスミド(
図2)、pHelperプラスミド(
図3)から制限酵素による切り出しなどによって取得した必要な断片(pAAV-CMVからは1.8kbのSbfI断片、pRC2-mi342からは5.2kbのEagI-XmaI断片、pHelperからは9.3kbのBamHI-BamHI-NdeI断片)を、集積用のプラスミドに連結することで組換えプラスミドを構築した。pHelper内のVA領域内にBamHIサイトが存在していることから、このBamHIサイトと近傍のNdeIサイトまでの0.3kbの断片は、PCRで増幅して取得した。この断片を、上記の3つの断片を導入可能なように、SbfIサイト、AarIサイト、EagI-XmaIサイトを導入したプライマーを使用して増幅することで、配列番号1に示す配列を有するPCR産物を得た。
【0153】
このPCR産物をプラスミドpMD19にクローニングし、塩基配列が正しいことを確認後、上記DNAの末端付近に設計されたBsaIで切断することにより、断片を得た。この断片を、HindIIIによるpGETS103ΔAarIの切断および脱リン酸化処理を行って取得した断片に連結した。得られたプラスミドは、pGETS103-VAと命名した(
図4)。pGETS103-VAをEagIおよびXmaIで切断後、電気泳動により短い断片を除去し、プラスミドpRC2-mi342をEagIおよびXmaIで切断後、5.2kbの大きい断片をゲルから切り出して精製し、これらを連結して得られたプラスミドをpGETS103-RC2と命名した(
図5)。pGETS103-RC2をSbfIで切断後、制限酵素失活のためにフェノール処理およびエタノール沈殿を行い精製して得られた断片に、プラスミドpAAV-CMVをSbfIで切断して得られた1.8kbの断片を連結し、得られたプラスミドをpGETS103-AAV-RC2と命名した(
図6)。さらにこれをAarIで切断して、短いDNA断片を取り除き、ここにプラスミドpHelperの9.0kbのBamHI断片を連結し、事前に導入したBamHI-NdeI領域との連結でVA領域が再生する方向にBamHI断片が導入されたものを選択することにより、3つのプラスミドを1つのプラスミドに統合したオールインワンの構造のpGETS103-AAV-Helper-RC2を構築した(
図7、配列番号2)。さらに、断片を単独で有するプラスミドを構築した。具体的には、pGETS103-VAをSbfIで切断したものにプラスミドpAAV-CMVをSbfIで切断して得られた1.8kbの断片を連結して得られたプラスミドをpGETS103-AAVと命名した(
図8)。また、pGETS103-VAをAarIで切断して、短いDNA断片を取り除き、ここにプラスミドpHelperの9.0kbのBamHI断片を連結し、事前に導入したBamHI-NdeI領域との連結でVA領域が再生する方向にBamHI断片が導入されたものを選択することにより、pGETS103-Helperを構築した(
図9)。
【0154】
大腸菌形質転換法
溶解した大腸菌JM109コンピテントセル50μlを氷上に準備した1.5mlの遠心チューブに移し、これに組換えプラスミドを最大で5μlとなるように添加し、氷上に15分静置後、42℃の温浴で45秒インキュベーション後、氷上に戻して2分経過後に、コンピテントセルに付属しているSOC培地を200μl添加し、回転培養装置(RT-50に試験管用培養ホルダーSA-1811を搭載、タイテック(大阪))にセットし、30rpmの回転速度で37℃で1時間培養した。その後、これを、カルベニシリン入りLB培地寒天プレートに塗抹し、37℃で一晩培養した。
【0155】
枯草菌形質転換法
Falcon(登録商標)の14ml試験管(2051)にLB培地2mlを入れ、そこに、-70℃で保存したグリセロールストックの枯草菌を植菌し、回転培養装置で回転しながら、37℃で17時間培養した。新しい14ml試験管(Falcon 2051)にTF-I培地を900μl分注し、25μlの2%カザミノ酸を添加し、50μlの上記培養液を添加し、回転培養装置で回転しながら、37℃で4時間培養した。その後、新しい14ml試験管にTF-II培地を900μl分注し、100μlのTF-I培養液を添加し、回転培養装置で回転しながら、37℃で1.5時間培養した。1.5mlの遠心チューブにTF-II培養液を100μl入れ、8μlの組換えプラスミドを添加した。回転培養装置で回転しながら、37℃で30分培養した後、LB培地を300μl添加し、さらに回転培養装置で回転しながら、37℃で1時間培養した。その後、培養物を、テトラサイクリン10μg/mlを含むLB培地寒天プレート上に広げて、37℃で一晩インキュベーションすることで、形質転換体を得た。
【0156】
大腸菌のプラスミド少量調製
大腸菌内で構築した組換えプラスミドの構造確認のための少量精製は、キアゲンのQIAprep Spin Miniprep Kit、および自動化装置であるQIA cubeを用いてマニュアルに従い行った。
【0157】
枯草菌および大腸菌からのプラスミド大量調製法
塩化セシウムーエチジウムブロマイド密度勾配超遠心法により高純度のプラスミドDNAを調達した。以下は、LB培地200mlの場合の精製方法を示すが、200mlを超える場合は、200mlごとに以下の操作を繰り返して行った。LB培地に抗生物質(テトラサイクリン)を加えたものを200ml用意し、500mlの三角フラスコに100mlずつ入れて、大腸菌もしくは枯草菌プラスミド保持株を接種し、37℃で終夜培養した。
【0158】
培養終了後、50mlずつ50mlチューブ(ファルコン2070)4本に分注し、5,000×gで10分間遠心した。上清を捨てて、菌ペレットをボルテックスにより完全にほぐした。10mg/mlのリゾチーム、および10mg/mlのリボヌクレアーゼA添加P1溶液を用意し、菌を入れたチューブ4本にそれぞれ5mlずつ添加し、よく混合した。これを室温で5分間インキュベーションした。4本のチューブにそれぞれP2を5mlずつ添加し、ゆっくりと混合し、室温で5分間インキュベーションした。さらに、P3を5mlずつ添加し、白濁物質が均等に分散できるようにある程度強い力で混合した。5,000×gで10分間遠心して、上清をピペットで吸い、新しい4本のネジ蓋の50mlチューブ(ファルコン2070)に移した。それぞれのチューブに5mlのフェノール飽和TEを添加し、激しく混合した。5,000×gで10分間遠心して、上清をピペットで吸い、新しい4本のネジ蓋の50mlチューブ(ファルコン2070)に移した。100%エタノールをそれぞれ20ml添加し混合して、5,000×gで10分間遠心し、上清を取り除いた。沈殿に5.4mlのTEを添加し、完全に溶解した。次に、6.40gの塩化セシウムを投入し、完全に溶解した。更に、1.1g/mlの塩化セシウム溶液(1.1gの塩化セシウムと1mlの水を混ぜて作製した溶液であり、体積調整せず)を2.6ml添加した。最後に、10mg/mlのエチジウムブロマイド溶液を600μl添加し、よく混合した。超遠心チューブ(ベックマン362181)1本に中身を移した。バランスとの重さの違いが20mg以内になるように、水、あるいは1.1g/ml塩化セシウム溶液(比重約1.5g/ml程度)を添加して重さを微調整した。超遠心装置(ベックマンコールター)で以下の条件で遠心を行った。温度:18℃、速度:50,000rpm、加速度:Max、減速度:Max。15時間以上遠心した。
【0159】
遠心終了後、紫外線(365nm)観察下で、針(21G×5/8”)をセットした1mlのシリンジでccc型のプラスミドのバンドに挿し、プラスミド溶液を回収し、15mlチューブに移した。ここにP3を500μl添加し、次に、全体が3mlになるように水を添加した。さらに、9mlの100%エタノールを添加した。5,000×gで10分間遠心し、上清を取り除いた。得られた沈殿に700μlのTEを15mlチューブに添加し、DNAを溶解した。これを1.5mlのチューブに移し、600μlの1-ブタノールを添加して混合し、20,000×gで10秒程度遠心して、2層に分離し、上層のブタノール層を捨てた。新たに、600μlの1-ブタノールを添加して混合し、20,000×gで10秒程度遠心して、2層に分離し、上層のブタノール層を捨てた。この操作を、水層が200μl以下になるまで続けた。水層が200μl以下になったら、1mlのPB(キアゲン)を添加し、よく混合し、QIAprep Spin Miniprep Kitのスピンカラムに、600μlのPB混合物をアプライし、20,000×gで1分間遠心した。フロースルーを捨てて、残りの600μlのPB混合物を上記カラムに再アプライし、20,000×gで1分間遠心した。フロースルーを捨てて、カラムを再度コレクションチューブにセットし、PEを700μlアプライし、20,000×gで1分間遠心した(1回目)。再度フロースルーを捨てて、カラムを再度コレクションチューブにセットし、PEを700μlアプライし、20,000×gで1分間遠心した(2回目)。フロースルーを捨てて、カラムを再度コレクションチューブにセットし、PE(キアゲン)を700μlアプライし、20,000×gで1分間遠心した(3回目)。フロースルーを捨てて、カラムを再度コレクションチューブにセットし、空の状態で、20,000×gで1分間遠心し、残渣を完全に払い落とした。TEを50μlアプライし、室温で1分間インキュベーション後、20,000×gで1分間遠心し、プラスミドを溶出した。
【0160】
NanoDropに溶出物1μlをアプライし、濃度、純度を測定した。濃度 数十ng/μl、純度260/280=1.8~2.0、260/230=2.0~3.0であることを確認した。26.2μlのサンプルを158μlのサンプルに溶解し、8μlずつ以下の制限酵素で消化して構造を確認した;切断せず、BamHI-HF、BglII(NEB3.1)、EcoRI-HF、EcoRV-HF、HindIII-HF、KpnI-HF、NotI-HF、PstI-HF、PvuII-HF、SacI-HF、SalI-HF、SfiI、SmaI、XbaI(BglII以外は、CutSmart buffer)。
【0161】
(実施例2:増幅したベクタープラスミドからのAAVベクターの生産)
大腸菌および枯草菌で増幅したベクタープラスミドをプロデューサー細胞に導入し、AAVベクターを生産させた。この実施例の実験は、SignaGen Laboratories(米国)に依頼して実施した。
【0162】
大腸菌または枯草菌で増幅したpGETS103-AAV-Helper-RC2(1.19x1013コピー)、大腸菌または枯草菌で増幅したpGETS103-AAV:pGETS103-Helper:pGETS103-RC2=1:1:1(合計1.19x1013コピー)、あるいは大腸菌で増幅したpAAV-CMV:pHelper:pRC2-mi342=1:1:1(合計1.19x1013コピー)をトラスフェクションに使用した。これらのプラスミドDNAに対して、2.7倍(重量比)量のPolyJet(商標)試薬を混合した。調製したDNA複合体を、培養した2x108細胞のHEK293細胞(継代数12)にトランスフェクションし、さらに5時間培養を続けた。トランスフェクションした細胞を回収し、3回凍結融解した後、37℃で1時間、Benzonaze(登録商標)で処理した。12500rpmで30分間遠心分離を行い、上清を回収した。次に、28000rpmで18時間塩化セシウム密度勾配超遠心を行った後、rAAV(組換えアデノ随伴ウイルスベクター粒子)を回収し、0.001% Pluronic(登録商標)F-68を含むPBSで分散させた。
【0163】
作製したrAAVのゲノムコピータイターを、定量PCRを用いて定量した。各rAAVをDNaseIで処理した後、プロテイナーゼKを用いてDNaseIを不活性化した。98℃で15分間加熱処理し、カプシドを変性させ、検量線の範囲におさまるよう希釈を行った後、定量PCRで測定した。ターゲットはITRとし、5’-GGAACCCCTAGTGATGGAGTT-3’(配列番号67)および5’-CGGCCTCAGTGAGCGA-3’(配列番号68)の配列のプライマーを使用した。また、rAAV分散液に含まれるエンドトキシン量を、Pierce LAL Endotoxin Quantitation Kit (Thermo Fisher Scientific、米国)を用いて定量した。
【表1】
【0164】
各プラスミド条件において生産されたrAAVウイルスゲノム量[VG/mL]およびエンドトキシン量[Unit/mL]を測定した。全ての条件においてrAAVウイルスの生産が同様に確認された。いずれの条件においてもエンドトキシンは検出されなかった。
【0165】
(実施例3:構築したプラスミドDNAのCCC純度)
rAAVの作製に用いたプラスミドDNAのCCC(covalently closed circular)純度を、P/ACE MDQ Plus(SCIEX)およびdsDNA 1000 kit(AB SCIEX、東京)を用いて定量した。キットに含まれるゲル粉末に超純水を20mL加え、終夜撹拌した。ゲルが完全に溶解したことを確認し、1xTBE electrophoresis buffer(Thermofisher)で10倍希釈した。希釈したゲルに、0.01vol%となるようSYBR Gold nucleic acid gel stain(Thermofisher)を加えた後、キャピラリーにゲルを充填した。各プラスミドDNAは、超純水で10ng/μLに調整し、P/ACE MDQ Plusを用いて測定した。
【0166】
測定サンプルは、0.2psi、2秒でキャピラリーにインジェクションし、9.0kVで20分間電気泳動を行った。検出のために蛍光(励起波長:488nm、蛍光波長:520nm、Dynamic range:1000RFU)を用いた。プラスミドDNAのCCC純度は、CCCプラスミドDNAのピーク面積値を、その他不純物も含めたピーク面積値の合計で除算することで算出した。
【0167】
【0168】
pGETS103-AAV-Helper-RC2およびpGETS103-RC2の両方のプラスミドについて、大腸菌よりも枯草菌においてCCC純度が高かった。本開示のプラスミドは、高いCCC純度を有し得る。FDAのガイダンスによると、CCC純度は80%を上回ることが定められているが、枯草菌を用いて生産したプラスミドは、高いCCC純度を有することが観察されたため、CCC純度向上のための精製操作の負担及び製造コストを軽減することができる。CCC純度はプラスミドDNAの安定性、機能性、トランスフェクション効率にも関係するとされ、高いCCC純度のプラスミドDNAは有用性が高い。
【0169】
(実施例4:完全ゲノムを含むrAAVの割合)
SignaGenで凍結保存された各rAAVを解凍し、Step One plus(Thermofisher)を用いて、rAAVゲノムに対して定量PCRを行った。250U/mLに調製したDNaseI(タカラバイオ)と作製したrAAVとを等量混合後、PCR用サーマルサイクラー(Thermofisher)を用いて37℃で30分間加熱した。次いで、0.04MのEDTAバッファー(pH8.0、タカラバイオ)を添加し2倍希釈し、55℃で30分間加熱した。さらに、ヌクレアーゼフリーの水(Promega)で2.5倍希釈し、95℃で10分間加熱した。最後に、TEバッファー(Promega)を加えて10倍希釈を行い、抽出したrAAVゲノムを定量PCR用のテンプレートとして用いた。
【0170】
定量PCRの反応液は、プレート1ウェルあたりに、QuantiTect SYBR Green PCR Master mix(QIAgen) 10μL、0.01mMプライマー(フォワード)1μL、0.01mMプライマー(リバース)1μL、水6μL、テンプレート2μLを含み、シールでプレートを密閉後、定量PCRを行った。反応液は、ITRをターゲットとしたプライマー(フォワード:5’-GGAACCCCTAGTGATGGAGTT-3’(配列番号67)、リバース:5’-CGGCCTCAGTGAGCGA-3’(配列番号68))を含む反応液と、CMVをターゲットとしたプライマー(フォワード:5’-CATCAATGGGCGTGGATAGC-3’(配列番号69)、リバース:5’-GGAGTTGTTACGACATTTTGGAAA-3’(配列番号70))を含む反応液の二種類を調製した。
【0171】
PCR条件は、95℃で15分間加熱した後、(1)94℃で15秒、(2)60℃で30秒、(3)72℃で30秒のサイクルを40回繰り返した。検量線は、制限酵素でpAAV-CMV直線状にしたDNAを用いて作成し、それぞれのCt値からrAAVゲノムコピー濃度を算出した。完全ゲノムを含むrAAVの割合は、CMVをターゲットとして算出されたゲノムコピー濃度に対し、ITRをターゲットとして算出されたゲノムコピー数を除算することで算出した。
【0172】
【0173】
rAAV#1(オールインワン、枯草菌)およびrAAV#3(オールインワン、大腸菌)において特に完全ゲノムの割合が高かった。ゲノムはウイルス粒子内に核酸を含むため、ウイルスベクター作製後に完全ゲノム含有ウイルス粒子と不完全ゲノム含有ウイルス粒子とを分離することは困難であり、ウイルスベクター作製段階で高い割合で完全ゲノムを含むウイルス粒子を調製できることは非常に好ましい。本開示のプラスミドは、完全ゲノムを高効率に含有するウイルスベクターを提供し得る。
【0174】
(実施例5:マーカー遺伝子を含むrAAVの割合)
SignaGenで凍結保存された各rAAVを解凍し、Step One plusを用いて、プラスミドバックボーンに含まれるAmpr遺伝子に対して、定量PCRを行った。作製したrAAVにTEバッファーを加え3倍希釈した後、PCR用サーマルサイクラーを用いて95℃で10分間加熱した液を、抽出したrAAVゲノムを定量PCR用のテンプレートとして用いた。
【0175】
定量PCRの反応液は、プレート1ウェルあたりに、QuantiTect SYBR Green PCR Master mix 10μL、0.01mMプライマー(フォワード:5’-TTGATCGTTGGGAACCGGAG-3’(配列番号71))1μL、0.01mMプライマー(リバース:5’-TTGTTGCCGGGAAGCTAGAG-3’(配列番号72))1μL、水6μL、テンプレート2μLを含み、シールでプレートを密閉した後、PCRを行った。
【0176】
PCR条件は、95℃で15分間加熱した後、(1)94℃で15秒、(2)60℃で30秒、(3)72℃で30秒のサイクルを40回繰り返した。検量線は、制限酵素でpAAV-CMVを直線状にしたDNAを用いて作成し、それぞれのCt値からゲノムコピー濃度を算出した。マーカー遺伝子を含むrAAVの割合は、Amprをターゲットとして算出されたゲノムコピー濃度を、CMVをターゲットとして算出されたrAAVゲノムコピー数で除算することで算出した。
【0177】
【0178】
rAAV#1(オールインワン、枯草菌)およびrAAV#4(3種混合プラスミド、大腸菌)において特に不純物の割合が低かった。オールインワンの構造のプラスミドおよび枯草菌の組み合わせが優れていることが示唆された。
【0179】
(実施例6:空カプシドの割合)
SignaGenで凍結保存された各rAAVを解凍し、ARVO X5(パーキンエルマー)を用いて、ELISA法にてカプシド粒子濃度の定量を行った。定量キットには、AAV2 Titration ELISA 2.0R(PROGEN)を利用し、プロトコルに基づき試験を実施した。キットに含まれる抗AAV2抗体が固定化された96ウェルプレートに、rAAVおよび標準品(キットに含まれる空カプシド試薬)を100μLずつ添加した。37℃で1時間静置後、液を廃棄し、200μLのアッセイバッファーで3回洗浄した。100μLのビオチン結合抗AAV2抗体を添加し、37℃で1時間静置後、液を廃棄し、200μLのアッセイバッファーで3回洗浄した。さらに、100μLのHRP標識済みのストレプトアビジンを添加し、37℃で1時間静置後、液を廃棄し、200μLのアッセイバッファーで3回洗浄した。最後に、100μLのTMBを添加し、室温で15分間静置後、反応停止試薬を加えて、ARVO X5で吸光度(450nm、650nm)を測定した。
【0180】
空カプシドの割合は、CMVをターゲットとして算出されたrAAVゲノムコピー濃度(ゲノムコピータイター)に対し、ELIZA法で定量されたカプシド粒子濃度(ウイルス粒子タイター)で除した値を、1から差し引くことで算出した。
【0181】
【0182】
rAAV#1(オールインワン、枯草菌)において特に空カプシドの割合が低かった。空カプシドは免疫原性であり得るため、低減されることが好ましい。実施例2に記載されるように、rAAVの取得の際に塩化セシウム密度勾配超遠心を行い、この操作により部分的に空カプシドが除かれている可能性はあるが、空カプシドは本質的に除去されていないと考えられる。カラムクロマトグラフィーを行っても、空カプシドの効率的な除去は通常困難であるため、上流工程で空カプシドの生成を低減させることが特に好ましい。しかし、本開示の方法で作製したウイルスベクターでは、特に空カプシドの割合が低く、高効率なウイルスベクターの生産が可能であり得る。そのため、僅かな密度の差に基づく分離法など労力を要し得る空カプシドの除去操作の負担が軽減され得る。
【0183】
(実施例7:OGAB法によるプラスミド構築)
OGAB法によりpGETS103-AAV-Helper-RC2を構築した(
図10)。
【0184】
OGAB集積用ベクターDNAの構築
プラスミドpGETS103ΔAarIを制限酵素HindIIIで切断し、TE飽和フェノール処理、ブタノール抽出、エタノール沈殿で精製し、これに配列番号3および4で示される一本鎖DNAをアニールして作製したリンカーDNAを挿入して、OGAB集積用ベクターであるpGETS103-ΔAarI-Linkerを作製した。このプラスミドを制限酵素AarIで切断し、低融点アガロースゲル電気泳動によりサイズ分離し、大きい15kbの断片をゲルから切り出し、精製して、OGAB集積用のベクター断片を取得した。
【0185】
OGAB用集積断片の準備
pGETS103-AAV-Helper-RC2の塩基配列のうち、ベクター部分のpGETS103の塩基配列を除くAAV-Helper-RC2の領域(
図10)について、OGAB法による再構成が可能かどうかを検討した。まず、上記DNA領域を
図10に示す22個の断片に分割するように設計した。第3断片はAAV断片とHelper断片の境界の領域を含み、第16断片はHelper断片とRC2断片の境界の領域を含むため、第1、第3および第16断片は、以下に示すように材料のDNAを化学合成後、MAP法(特願2018-93024)により準備した。具体的には、第1断片については配列番号5~10の、第3断片については配列番号11~16の、第16断片については配列番号17~22の、一本鎖DNAを用いて、MAP法によりアセンブリして得られた二本鎖DNAを用いた。残りの領域については、配列番号23~66に示す各断片の番号の付くFとRのプライマーの組み合わせを用いて、第2断片についてはpAAV-CMV Vectorを、第4~第15断片はpHelper Vectorを、第17~第22断片についてはpRC2-mi342 Vectorをテンプレートとして以下の条件によりPCRにより増幅した。一反応あたり、10μlの2×Prime Star mix(タカラバイオ)、1μlのテンプレートDNA、両方のプライマーを3.2pmolずつ含む1μlの溶液、8μlの滅菌水を加えて、96℃2分ののち、98℃10秒、55℃15秒、72℃5秒のサイクルを30サイクル行った。
【0186】
OGAB用集積断片のベクターへのクローニング
DNA断片をMAP法、もしくはPCR法により得たのち、これらのDNAをMinElute PCR Purification Kit(キアゲン)を用いて精製し、最終的に15μlのTE緩衝液(ナカライテスク)によりカラムから溶出した。得られたDNA溶液の1.4μlに0.2μlの10×Ex-Taq buffer(タカラバイオ)、0.2μlの2mM dNTP(タカラバイオ)、0.2μlの10xA-attachment mix(TOYOBO)を加えて、60℃で1時間反応させた。その後、1μlのpMD19 simple(タカラバイオ)をTE緩衝液で20倍に希釈して、3μlのDNA Ligation Kit <Mighty Mix>を加えて、16℃で3時間ライゲーション反応を行い、大腸菌JM109コンピテントセル(タカラバイオ)を用いて形質転換を行った。終夜培養後、カルベニシリン入りLBプレートに出現したコロニーについて塩基配列を確認することで、それぞれの断片について正しい配列のクローンを取得した。
【0187】
OGAB用断片の等モル混合物の調整
これらのクローンを持つ大腸菌を2mlのLB培地で増殖後、その900μlを用いてQIAprep Spin Miniprep Kit(キアゲン)により、自動化システムQIAcubeによりプラスミドを精製し、最終的に30μlのTE緩衝液に溶出した。そのうちの2.5μg相当のプラスミドDNAを含む溶液を50μlになるようにTE緩衝液を添加した。さらにそこに、6μlの10XPlasmid safe buffer(epicentre)、2.4μlの25mM ATP、2μlのPlasmid-Safe ATP-Dependent DNase (epicentre)を加えて、37℃1時間反応後、70℃30分失活させることで、環状構造以外のDNAを分解した。その後、反応液をMinElute PCR Purification Kit(キアゲン社)を用いて精製し、最終的に15μlのTE緩衝液(ナカライテスク)によりカラムから溶出した。得られたDNA溶液を微量分光光度計(Nano drop One、Thermofisher)を用いて測定し、100ng/μlとなるようにTE緩衝液を加えて希釈した。その後、再度濃度を測定し、正確に500ngのDNAを分取する際に必要なDNA体積を小数点以下2桁μlまで計算して、マイクロピペットにより分取することで各プラスミドの等モル分取を行った。分取したDNA溶液は、その後に使用する制限酵素の種類により2つの1.5mlの遠心チューブに分けてプールした。第1、3、5、7、9、11、13、14,17、19、21断片をクローン化するプラスミドは、制限酵素AarIで切断するチューブへ、第2、4、6、8、10、12,15、16、18、20、22断片をクローン化するプラスミドは、制限酵素BsaIで切断するグループにそれぞれプールした。その後、AarIで切断するチューブには、各プラスミドの容積の合計を1体積とした場合に、1.94体積の滅菌水、0.33体積の10×Buffer AarI(Thermofisher)、0.06体積の50×オリゴヌクレオチド(0.025mM)、0.17体積のAarI(Thermofisher)を加えて37℃で2時間反応させた。また、BsaIで切断するチューブには、各プラスミドの容積の合計を1体積とした場合に、2体積の滅菌水、0.33体積の10XCutSmart buffer(NEB)、0.17体積のBsaI-HF v2を加えて37℃で2時間反応させた。それぞれのチューブに制限酵素反応液と等量のTE飽和フェノールを添加して、よく混合することで制限酵素を失活させた後、乳化した状態のフェノールとDNA溶液の混合物を一つの2ml遠心チューブに統合して、20,000×gで10分間遠心し、フェノール相と水相とに分離した。上層を新しいチューブに移して、そこに等量の1-ブタノールを加え、よく撹拌し、20,000×gで1分間遠心した。その後、上層をピペットで吸って取り除き、下層の体積が450μl以下になるまで、再度等量の1-ブタノールを加えて、遠心、上層を捨てる、の操作を繰り返した。その後、50μlのP3バッファーを加えて、900μlのエタノールを加え、20,000×gで10分間遠心した。沈殿を失わないように上清を捨てたのち、900μlの70%エタノールでリンス後、上清をピペットで吸って捨てた。その後、再度遠心し、残っている上清を底部に集めて、ピペットで完全に液体を取り除いた。直ちに、TE50μlを加えて沈殿を5分間タッピングすることで完全に溶解した。その後、低融点アガロースゲルによる電気泳動によりpMD19から切り出された約750bpの22種類の断片の等モル混合物をサイズ分画し、実施例1に記載の電気泳動ゲルからのDNA断片の切り出しと精製の方法に従って、22種類の断片の混合物を精製した。
【0188】
OGAB法によるpGETS103-AAV-Helper-RC2再構成
その後、得られたDNA溶液の1fmolと、AarIで切断し精製したpGETS103ΔAarI-Linkerの1fmolとに合計4μlとなるようにTE緩衝液を追加し、そこに5μlの2×ライゲーションバッファー(15%ポリエチレングリコール6000、500mM NaCl、132mM Tris・HCl(pH7.6)、13.2mM MgCl2、20mM DTT、0.2mM ATP)を添加してよく混合後、1μlのT4 DNA Ligase(タカラバイオ)を加え、37℃で5時間インキュベーションした。ここに枯草菌コンピテントセル100μlを添加し、37℃で、30分ダックローターにより回転培養した。その後、300μlのLB培地を添加して、37℃で1時間ダックローターで回転培養し、その後、培養液を10μg/mlのテトラサイクリン(シグマアルドリッチ)入りLBプレートに広げ、37℃で一晩培養した。コロニーは94個得られた。
【0189】
形質転換体のプラスミド構造確認
ランダムに12株のコロニーを選択して、2mlの10μg/mlのテトラサイクリン入りLB培地で一晩培養し、内部のプラスミドのコピー数を増幅するためにIPTGを終濃度1mMとなるように添加して更に37℃で3時間培養した。得られた菌体から以下の様に少量のプラスミド抽出を行った。900μlの菌液を1.5ml遠心チューブにとり、6800×gで3分遠心し、上清をマイクロピペットで取り除いた。得られた菌体ペレットをよく懸濁後、10mg/mlの卵白リゾチーム(wako)を含むP1バッファーを100μl添加後、37℃で5分間インキュベーションした。そこに、200μlのP2バッファーを加えて4回転倒混和した。その後、P3を150μl添加し、4回転倒混和した。これを20,000×gで、10分間遠心することにより、白い沈殿と上清に分離した。上清を新しい1.5ml遠心チューブに移して、そこに、450μlのTE飽和フェノール(ナカライテスク)を添加し、良く混和した後、20,000×gで、10分間遠心することにより、フェノール相と水相とに分離し、水相320μlを新しいチューブに移して、そこに900μlのエタノールを加え、20,000×gで、10分間遠心した。上清をマイクロピペットで取り除き、900μlの70%エタノールを加え、チューブ全体をリンスした。その後、70%エタノールをマイクロピペットで取り除き、得られた沈殿を27μlのTE緩衝液で溶解した。得られたプラスミド溶液を8μlとり、そこに1μlの10×3.1 NEB buffer(NEB)と、1μlのSmaIを添加し、37℃で1時間反応後、アガロースゲル電気泳動により切断バターンを確認した。
図11に示すように、12個中1個(クローン番号3)が期待した切断パターンを示した。このクローンについて、全塩基配列を決定したところ、pGETS103-AAV-Helper-RC2を再構成していることを確認した。
【0190】
(実施例8:様々なAAVオールインワンベクタープラスミドの構築)
同様に、AAVウイルスベクターを生産するためのオールインワン構造の7種類のベクタープラスミドを、他の血清型のAAVゲノムおよびアデノウイルスゲノムから取得した構成要素を使用して構築した。pGETS118-AarI(Tsuge, K., Sato, Y., Kobayashi, Y.,Gondo,M., Hasebe,M., Togashi,T., Tomita, M., and Itaya, M. Method of preparing an equimolar DNA mixture for one-step DNA assembly of over 50 fragments. Sci Rep 5, 10655 (2015).)に基づき各プラスミドを構築した(
図16に模式図を示す)。ベクタープラスミドの各々において使用したITR、Rep、CapおよびHelper(VA、E2AおよびE4)の由来となるウイルスゲノムの血清型を以下の表に示す(
図17も参照のこと)。
【表6】
*1のベクタープラスミドは、上記実施例のものである(pGETS103-AAV-Helper-RC2)。
AAV:アデノ随伴ウイルス血清型
Ad:アデノウイルス血清型および群
【0191】
上記のそれぞれのオールインワン核酸(全長15~16kb)を設計し、その長さに応じて18~19個の単位DNA断片(700~900bp)を含むDNA断片を化学合成した。これらのDNA断片を、AarI、BbsI、BsaI、BsmBIのいずれかの制限酵素により切り出して単位DNA断片を調製した。これらの単位DNA断片をAarIで切断したpGETS118とタンデムリピートに連結し、その後、上の実施例と同様にOGAB法により枯草菌において環状のプラスミドを形成させた。その結果、上記の追加の7種類のAAVのオールインワン構造のベクタープラスミドの構築が確認された。
【0192】
これらのプラスミドを培養細胞(プロデューサー細胞)に導入することにより、それぞれのウイルスベクターが生産されることを確認した(
図18)。
【0193】
(実施例9:アデノウイルスオールインワンベクタープラスミドの構築)
アデノウイルスベクターAd5について、タカラバイオ社のpAxCAwtit2にGIO遺伝子を導入した全長約36kbのアデノウイルスベクターを生産するためのオールインワン構造を設計した(
図19)。これを40個の約800bpに分割し、PCRまたは化学合成により単位DNA断片を含むDNA断片を調製した。これらのDNA断片を、AarI、BbsI、BsaI、BsmBIのいずれかの制限酵素により切り出して単位DNA断片を調製した。その後、AarIで切断したpGETS118-AarI、またはpBET131(Tanaka, T., and M. Ogura.1998. A novel Bacillus natto plasmid pLS32 capable of replication in Bacillus subtilis. FEBS Lett.422:243-246)のBamHIサイトにリンカーDNAを導入して新たなAarIサイトを2か所導入したpBET131―AarI(
図20)をAarIで切断して得られる2つの大きい断片とタンデムリピートに連結し、その後、上の実施例と同様にOGAB法により枯草菌において環状のプラスミドを形成させた。その結果、アデノウイルスベクターを生産するためのオールインワン構造を有するクローンの構築が確認された。
【0194】
(実施例10:さらなるAAVウイルスオールインワンベクタープラスミドの構造例)
図21~26に示すAAVウイルスオールインワンベクタープラスミドも企図される。
・
図21は、pGETS103-ΔAarIに基づくAAV1のRepおよびAAV6のCapを使用した構築例である。
・
図22は、pGETS103-ΔAarIに基づくCAGプロモーター、AAV5のRepおよびAAV1のCapを使用した構築例である。
・
図23は、pGETS103-ΔAarIに基づくEF1αプロモーター、AAV8のRepおよびAAV9のCapを使用した構築例である。
・
図24は、pGETS103-ΔAarIに基づくSV40プロモーターを使用し、Rep、CapおよびHelperを異なる順序で配置した構築例である。
・
図25は、pGETS131-AarIに基づくRep、CapおよびHelperを異なる順序で配置した構築例である。
・
図26は、pBETS103-ΔAarIに基づくHelper遺伝子の要素を変更した(他の要素と分離してアデノウイルスE1AおよびE1Bを追加した)構築例である。
【0195】
(実施例11:種々のウイルスに基づくウイルスベクタープラスミドの構築)
AAVウイルスベクタープラスミドは、HEK293以外のプロデューサー細胞(NIH3T3、HT1080、A549、HeLa、HEK 293Tなど)を使用する場合には、上記の実施例の構造に加えて、さらにE1AおよびE1B遺伝子を含むように構築することができる。
【0196】
例えば、レトロウイルスベクタープラスミド、レンチウイルスベクタープラスミド、センダイウイルスベクタープラスミド、アデノウイルスウイルスベクタープラスミドの具体的な構成として、上記実施例のpGETS103ΔAarIをベースとして
図12~15が想定される。
【0197】
レンチウイルスベクタープラスミド(
図12)
pGETS103ΔAarIをベースに以下の核酸配列を追加してベクタープラスミドを構築する。
・CMVプロモーター、VSV-G(水疱性口内炎ウイルスの糖タンパク質G)、ポリA・CMVプロモーター、rev、ポリA
・5’LTR、Ψ(パッケージングシグナル配列)、RPE、PPT、CMVプロモーター、WPRE、3’LTR
・CMVプロモーター、gag、pol、RPE、ポリA
(所望の遺伝子はLTR間でプロモーターの下流に位置付けられ得る。)
【0198】
レトロウイルスベクタープラスミド(
図13)
pGETS103ΔAarIをベースに以下の核酸配列を追加してベクタープラスミドを構築する。
・CMVプロモーター、env、ポリA
・5’LTR、Ψ(パッケージングシグナル配列)、RPE、PPT、CMVプロモーター、WPRE、3’LTR
・CMVプロモーター、gag、pol、RPE、ポリA
(所望の遺伝子はLTR間でプロモーターの下流に位置付けられ得る。)
【0199】
センダイウイルスベクタープラスミド(
図14)
pGETS103ΔAarIをベースに以下の核酸配列を追加してベクタープラスミドを構築する。
・CAGプロモーター、T7 RNAポリメラーゼ
・CAGプロモーター、N
・CAGプロモーター、P、L、F
・T7プロモーター、Fを欠失させたセンダイウイルスゲノム、Rbz
(所望の遺伝子はセンダイウイルスゲノムのいずれかの遺伝子の間に位置付けられ得る。)
【0200】
アデノウイルスベクタープラスミド(
図15)
pGETS103ΔAarIをベースに以下の核酸配列を追加してベクタープラスミドを構築する。
・5’ITR、アデノウイルス血清型5のゲノム(E1遺伝子の部位をプロモーターおよびE1A遺伝子で置換する)、3’ITR
(E1A遺伝子に加えて、所望の遺伝子も上記または他のプロモーターの下流に位置付けられ得る。)
【0201】
コロナウイルスベクタープラスミド(
図27)
コロナウイルスベクタープラスミドを、pGETS103ΔAarIをベースに以下の核酸配列を追加して構築する。
・非構造タンパク質領域のORF1a、非構造タンパク質領域のORF1bおよび構造タンパク質領域を含み、構造タンパク質領域に所望の遺伝子を含む。構造タンパク質領域のスパイク遺伝子S、エンベロープ遺伝子E、マトリックス遺伝子M、ヌクレオカプシド遺伝子N等は必要に応じて欠損させてもよい。
【0202】
(注記)
以上のように、本開示の好ましい実施形態を用いて本開示を例示してきたが、本開示は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【0203】
本出願は、2020年11月4日に日本国特許庁に出願された特願2020-184491号に対する優先権の利益を主張し、その内容全体が本明細書に参考として援用される。