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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022183426
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】情報処理装置および脳病変推定方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/00 20060101AFI20221206BHJP
   G16H 50/20 20180101ALI20221206BHJP
【FI】
A61B5/00 D
G16H50/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021090737
(22)【出願日】2021-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ストコ ステファニー
(72)【発明者】
【氏名】敦森 洋和
(72)【発明者】
【氏名】舟根 司
(72)【発明者】
【氏名】西村 彩子
(72)【発明者】
【氏名】小幡 亜希子
(72)【発明者】
【氏名】神鳥 明彦
【テーマコード(参考)】
4C117
5L099
【Fターム(参考)】
4C117XA01
4C117XB01
4C117XB08
4C117XB09
4C117XD03
4C117XE43
4C117XG14
4C117XG18
4C117XG22
4C117XG34
4C117XJ12
4C117XJ13
4C117XJ21
4C117XJ34
4C117XJ36
4C117XJ48
4C117XL01
5L099AA04
(57)【要約】
【課題】
本発明は、目的に基づいて最適化された脳病変推定の手段を提供することを課題とする。
【解決手段】
本願発明の好ましい一側面は、あらかじめ準備されたテストとアルゴリズムから、被験者の脳における病変リスクを推定するために用いるテストとアルゴリズムを選択する情報処理装置において、前記推定の目的あるいは前記推定の目的を推定するための情報の入力を受け付ける入力受信ユニットと、前記入力受信ユニットの入力に基づいて、前記推定に用いるアルゴリズムを選択するとともに、前記入力受信ユニットの入力に基づいて、前記被験者の脳の状態を反映した変数を得るためのテストを選択する推定アルゴリズム選択ユニットと、を備える情報処理装置である。
【選択図】 図2A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
あらかじめ準備されたテストとアルゴリズムから、被験者の脳における病変リスクを推定するために用いるテストとアルゴリズムを選択する情報処理装置において、
前記推定の目的あるいは前記推定の目的を推定するための情報の入力を受け付ける入力受信ユニットと、
前記入力受信ユニットの入力に基づいて、前記推定に用いるアルゴリズムを選択するとともに、前記入力受信ユニットの入力に基づいて、前記被験者の脳の状態を反映した変数を得るためのテストを選択する推定アルゴリズム選択ユニットと、
を備える情報処理装置。
【請求項2】
前記推定アルゴリズム選択ユニットは、
前記入力受信ユニットの入力に基づいて前記テストを選択し、次に前記入力受信ユニットの入力に基づいて、選択されたテストで得られる変数を使用するアルゴリズムを選択する、
請求項1記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記アルゴリズムは脳領域ごとにあらかじめ準備されており、
前記推定アルゴリズム選択ユニットは、前記推定の目的から、必要な解像度及び推定性能を決定し、脳の全ての領域に対してアルゴリズムを選択する、
請求項2記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記推定アルゴリズム選択ユニットは、
選択した前記アルゴリズムが使用する変数の全てを前記選択したテストから得られない場合、選択したテストから得られる変数で選択したテストから得られない変数を置き換える、
請求項3記載の情報処理装置。
【請求項5】
第1のテストから得られる変数を第2のテストから得られる変数に変換するためのルールを記憶した、可変テスト推定式テーブルを備え、前記推定アルゴリズム選択ユニットは前記可変テスト推定式テーブルを参照して、選択したテストから得られる変数で選択したテストから得られない変数を置き換える、
請求項4記載の情報処理装置。
【請求項6】
さらに数式開発ユニットを備え、
前記推定アルゴリズム選択ユニットが、選択されたテストから得られる変数を使用するアルゴリズムを選択したが、脳の全ての領域に対してアルゴリズムを選択することができなかった場合、あるいは、前記推定アルゴリズム選択ユニットが、選択したテストから得られる変数を、選択した前記アルゴリズムが使用する変数に変換したが、選択した前記アルゴリズムが使用する変数の全てを得られなかった場合、前記数式開発ユニットが、前記選択されたテストから得られる変数を使用するアルゴリズムを新たに開発する、
請求項5記載の情報処理装置。
【請求項7】
前記数式開発ユニットが
被験者の過去データとして被験者の脳の状態と、前記テストにより得た前記被験者の脳の状態を反映した変数を格納した被験者データベースを参照し、
病変の発生率とスパース性に基づいて、前記被験者データベースから前記選択されたテストから得られる変数を含むデータセットを抽出し、
抽出したデータセットを用いて、アルゴリズムを新たに開発する、
請求項6記載の情報処理装置。
【請求項8】
さらにテスト開発ユニットを備え、
前記テスト開発ユニットは、選択された前記アルゴリズムに基づいて、前記アルゴリズムに入力する前記被験者の脳の状態を反映した変数を得るためのインターフェースを作成する、
請求項1記載の情報処理装置。
【請求項9】
前記入力受信ユニットは、前記目的を推定するための情報として、被験者の特性と検査サイトを受け付ける、
請求項1記載の情報処理装置。
【請求項10】
情報処理装置を用いて、あらかじめ準備されたテストとアルゴリズムから、被験者の脳における病変リスクを推定するために用いるテストとアルゴリズムを選択する方法において、
前記推定の目的あるいは前記推定の目的を推定するための情報の入力を受け付ける第1のステップ、
前記入力に基づいて、前記推定に用いるアルゴリズムを選択するとともに、前記入力に基づいて、前記被験者の脳の状態を反映した変数を得るためのテストを選択する第2のステップ、
を実行する脳病変推定方法。
【請求項11】
前記第2のステップは、
前記入力に基づいて前記テストを選択し、次に、前記入力に基づいて、選択されたテストで得られる変数を使用するアルゴリズムを選択する、
請求項10記載の脳病変推定方法。
【請求項12】
前記アルゴリズムは脳領域ごとにあらかじめ準備されており、
前記第2のステップは、脳の全ての領域に対してアルゴリズムを選択する、
請求項11記載の脳病変推定方法。
【請求項13】
前記第2のステップで、選択した前記アルゴリズムが使用する変数の全てを前記選択したテストから得られない場合、選択したテストから得られる変数で選択したテストから得られない変数を置き換える第3のステップを実行し、
前記第3のステップでは、
第1のテストから得られる変数を第2のテストから得られる変数に変換するためのルールを記憶した、可変テスト推定式テーブルを参照して、選択したテストから得られる変数を、選択した前記アルゴリズムが使用する変数に変換する、
請求項12記載の脳病変推定方法。
【請求項14】
前記第2のステップで、選択されたテストから得られる変数を使用するアルゴリズムを選択したが、脳の全ての領域に対してアルゴリズムを選択することができなかった場合、あるいは、前記第2のステップで、選択したテストから得られる変数を、選択した前記アルゴリズムが使用する変数に変換したが、選択した前記アルゴリズムが使用する変数の全てを得られなかった場合、
被験者の過去データとして被験者の脳の状態と、前記テストにより得た前記被験者の脳の状態を反映した変数を格納した被験者データベースを参照し、病変の発生率とスパース性に基づいて、前記被験者データベースから前記選択されたテストから得られる変数を含むデータセットを抽出し、抽出したデータセットを用いて、アルゴリズムを新たに開発する第4のステップを実行する、
請求項13記載の脳病変推定方法。
【請求項15】
前記病変の発生率とスパース性の条件は、前記入力に基づいて設定される、
請求項14記載の脳病変推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、最適化された解像度および感度を備えた脳病変推定技術に関する。
【背景技術】
【0002】
脳病変の情報は、診断や治療あるいは予後の観察のために必要である。脳病変の情報を分析するための技術として、例えば特許文献1と特許文献2がある。
【0003】
また、特許文献3には、複数の被検体について、所定の検査に対する被検体の行動の結果である検査結果と、被検体の脳状態とを関連づける検査-脳状態関連情報を記憶する記憶部と、所定の検査に対する第1の被検体の行動の結果である第1の検査結果を受け付ける入力部と、検査-脳状態関連情報に基づいて、第1の検査結果から脳状態を推定する制御部と、推定した脳状態を出力する出力部と、を備える情報処理システムが開示される。
【0004】
特許文献1は、画像技術を使用して脳病変を監視するものである。特許文献2は、侵襲性プローブを使用して病変の特徴を検出するものである。特許文献3は、患者や医療スタッフ等へリハビリ効果を早期にフィードバックするために、脳状態を可視化し、リハビリプログラムの最適化によりリハビリを効率化するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2015/0325139A1
【特許文献2】特表2019-513520号公報
【特許文献3】特開2021-49064号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発明者らの検討によれば、脳の病変を推定する際の制約として、データセットの不均衡がある。すなわち、被験者の脳において、病変の箇所が多く均一に存在している場合もあるし、逆に全体の病変の程度が低く、病変がまばらにしか存在しない場合がある。
【0007】
この場合、例えば病変の箇所が多く均一に存在しているデータを前提にして病変推定モデルを生成すると、病変の程度が低く、病変がまばらにしか存在しない被験者に対して有効でない場合がある。
【0008】
実際の検査では,脳病変推定に適した脳病変の適切な分布を持つデータセットを取得することは難しい。例えば,脳分割数が多く病変(病巣)が小さいデータセットでは、約70%の領域において5%以下の被験者でしか病巣が存在しないことがあり得る。このようなデータセットをもとに脳病変を推定するための推定モデルを学習すると、検出感度(または、感度)を上げることが難しく、病巣の検出漏れが発生するおそれがある。
【0009】
病巣が存在する脳部位の推定にあたり、脳部位の分割方法は複数あり、脳分割数を小さくして領域を広くし、陽性判定の基準を緩くすることで検出感度が向上する。しかし、目的に応じた分解能と検出感度のトレードオフを最適化した上で検査を選択・提示する方法が無かった。
【0010】
本発明は、目的に基づいて最適化された脳病変推定の手段を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明の好ましい一側面は、あらかじめ準備されたテストとアルゴリズムから、被験者の脳における病変リスクを推定するために用いるテストとアルゴリズムを選択する情報処理装置において、前記推定の目的あるいは前記推定の目的を推定するための情報の入力を受け付ける入力受信ユニットと、前記入力受信ユニットの入力に基づいて、前記推定に用いるアルゴリズムを選択するとともに、前記入力受信ユニットの入力に基づいて、推定アルゴリズム選択ユニット(推定式選択ユニット202とも示す)が、前記推定の目的から、必要な解像度及び推定性能を決定し、前記被験者の脳の状態を反映した変数を得るためのテストを選択する推定アルゴリズム選択ユニットと、を備える情報処理装置である。
【0012】
本願発明の他の好ましい一側面は、情報処理装置を用いて、あらかじめ準備されたテストとアルゴリズムから、被験者の脳における病変リスクを推定するために用いるテストとアルゴリズムを選択する方法において、前記推定の目的あるいは前記推定の目的を推定するための情報の入力を受け付ける第1のステップ、前記入力に基づいて、前記推定に用いるアルゴリズムを選択するとともに、前記入力に基づいて、前記被験者の脳の状態を反映した変数を得るためのテストを選択する第2のステップ、を実行する脳病変推定方法である。
【0013】
本開示に関連する更なる特徴は、本明細書の記述、添付図面から明らかになるものである。
【0014】
本明細書の記述は典型的な例示に過ぎず、本開示の特許請求の範囲又は適用例を如何なる意味に於いても限定するものではない。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、目的に基づいて最適化された脳病変推定の手段を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】さまざまな解像度での病変リスク推定の例を示す概念図。
図2A】環境開発システム200の構成を示すブロック図。
図2B】推定計算システム300の構成を示すブロック図。
図3】環境開発システム200と推定計算システム300を実現するシステムの構成例のブロック図。
図4A】環境開発システム200の処理フロー図。
図4B】環境開発システム200の処理フロー図(続き)。
図5A】新規被験者用ユーザーインターフェースの例を示すイメージ図。
図5B】登録済被験者用ユーザーインターフェースの例を示すイメージ図。
図6】被験者-環境-テストテーブル203の例を示す表図。
図7】病変推定式テーブル205の例を示す表図。
図8】可変テスト推定式テーブル207の例を示す表図。
図9】被験者データベース204の一例を示す表図。
図10】被験者データ選択処理S408の処理フロー図。
図11】病変のスパース性の計算の概念を示す表図。
図12】被験者データの病変の発生確率と病変のスパース性の関係を示すグラフ図。
図13】数式モデリングのプロセスフローS409を示す処理フロー図。
図14】テスト開発ユニット209によって開発されたユーザーインターフェースの例を示すイメージ図。
図15】推定解像度ユニット302による推定プロセスを示す処理フロー図。
図16A】新規被験者用推定結果のユーザーインターフェースの例を示すイメージ図。
図16B】登録済被験者用推定結果のユーザーインターフェースの例を示すイメージ図。
図17】用途とモデル、モデル開発のためのデータセットの関係を示す表図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。本発明の思想ないし趣旨から逸脱しない範囲で、その具体的構成を変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。
【0018】
以下に説明する実施例の構成において、同一部分又は同様な機能を有する部分には同一の符号を異なる図面間で共通して用い、重複する説明は省略することがある。
【0019】
同一あるいは同様な機能を有する要素が複数ある場合には、同一の符号に異なる添字を付して説明する場合がある。ただし、複数の要素を区別する必要がない場合には、添字を省略して説明する場合がある。
【0020】
本明細書等における「第1」、「第2」、「第3」などの表記は、構成要素を識別するために付するものであり、必ずしも、数、順序、もしくはその内容を限定するものではない。また、構成要素の識別のための番号は文脈毎に用いられ、一つの文脈で用いた番号が、他の文脈で必ずしも同一の構成を示すとは限らない。また、ある番号で識別された構成要素が、他の番号で識別された構成要素の機能を兼ねることを妨げるものではない。
【0021】
図面等において示す各構成の位置、大きさ、形状、範囲などは、発明の理解を容易にするため、実際の位置、大きさ、形状、範囲などを表していない場合がある。このため、本発明は、必ずしも、図面等に開示された位置、大きさ、形状、範囲などに限定されない。
【0022】
本明細書で引用した刊行物、特許および特許出願は、そのまま本明細書の説明の一部を構成する。
【0023】
脳の病変は、病変の領域のサイズに応じた階層レベル(たとえば、半球、葉、脳回のレベル)を使用したラベリングによって定義できる。疎な病変は、解像度を低下させてより大きな領域の病変としてラベリングすることができる。その結果、病変推定における検出感度の向上が期待できる。
【0024】
実施例に示されるシステムは、解像度と推定性能の間のトレードオフを考慮に入れることができる。スクリーニング、予後モニタリングなどの目的、被験者の病歴、または場所(診療所、病院、リハビリ施設、家など)に基づいて、必要な解像度及び推定性能が決定され、最適な解像度と検出感度に対応するテストと推定アルゴリズムが選択される。選択されたアルゴリズムは、病変の推定値を取得するために必要な機能テストを最小限に抑えることができる。
【0025】
図1は、さまざまな解像度での病変リスク推定の例を示している。カラーバー101は、推定された病変リスクの確率の尺度を示す。確率は例えば最低0%から最高100%のように示される。画像102は、最高の解像度(ここでは、脳回レベル)を示している。葉と半球のレベルは、それぞれ画像103と画像104で視覚化される。
【0026】
なお、脳回とは、大脳皮質にあるしわの隆起した部分である。葉(ローブ)とは、大脳の解剖学的に区分けされた領域であり、主要な脳溝を境界として、前頭葉、側頭葉、頭頂葉、後頭葉、島葉、辺縁葉の六つの葉がある。半球とは脳の最大の部分であり、左右の半球が対をなして大脳を構成する。
【0027】
グレーの領域は、病変リスクが推定される領域を表す。濃いグレーはより高い病変リスクを表す。葉または半球内の病変リスクにより、関連する葉または半球単位での病変リスクが判定される。低解像度でのリスク確率の尺度は、高解像度での最高確率によって調整される。
【0028】
たとえば、前頭葉105のリスク確率は、中前頭回(Middle Frontal Gyrus:MFG)106、上前頭回107、下前頭回の一部108のうち最も高いリスク確率によって決定される。すなわち、MFG106の病変リスクの確率が、前頭葉105のリスク確率となる。また、半球109のリスク確率は、高解像度での最高確率であるローランド弁蓋110のリスク確率によって推定される。このようにして、病変リスクの推定は、必要に応じて複数の解像度のレベルで行うことができる。
【0029】
図2Aは、病変検査における環境開発のシステム構成を示すブロック図である。環境開発システム200は、ユーザーとのインターフェースを含む検査環境を提供する。環境開発システム200は、6つのユニットと、分析情報および患者データからなるデータベースを含む。
【0030】
入力受信ユニット201は、ユーザー設定のためのシステムインターフェースであり、ユーザー(例えば検査を実施する医療従事者)から検査目的に関する情報あるいは検査目的を推定するための入力を受信する。検査目的に関する情報とは、例えば、検査が病変の発見やスクリーニングのためのものか、リハビリテーションの効果を測定するものか、等である。検査目的を推定するための情報としては、例えば、被験者に関する情報や検査場所に関する情報がある。
【0031】
被験者に関する情報とは、例えば被験者の特性データや履歴データである。被験者の特性データとは、例えば年齢、性別、身長、体重、体調や自覚症状に関する情報等である。被験者の履歴データとは、例えば被験者の病歴や既往症の有無、治療履歴、過去の検査の結果である。
【0032】
検査場所に関する情報とは、システム位置や検査場所を示す情報であり、例えば、検査場所が臨床サイトか非臨床サイトかなどである。一般に臨床とは健康保険が適用される環境であり、病院の入院病棟、外来、治療を目的とする検査、および、リハビリテーション施設などが含まれる。非臨床とは、家庭内、人間ドックや健康診断等である。
【0033】
推定式選択ユニット202は、入力受信ユニット201で設定された入力に基づいて推定アルゴリズム(推定式)を選択する。選択は、データベースに格納されている被験者-環境-テストテーブル203、被験者データベース204、および病変推定式テーブル205を利用してなされる。設定された入力による適切な推定アルゴリズムがない場合、新しい推定アルゴリズムが、データベースに格納された可変テスト推定式テーブル207を利用して、数式開発ユニット206で開発される。
【0034】
推定アルゴリズムが選択された後、機能タスクに関連する必要なアルゴリズム変数が数式入力抽出ユニット208で抽出される。
【0035】
必要な機能タスクの情報は、被験者の機能テストの入力を要求するユーザーインターフェースを作成するテスト開発ユニット209で管理される。作成されたユーザーインターフェースは、ディスプレイユニット210に表示される。
【0036】
環境開発システム200は、ユーザー入力に従って推定式を具体的に選択し、ユーザー入力に応じた適切な式がない場合は推定式の開発をサポートし、推定環境(つまり、病変リスク検査を行うユーザーインターフェース)を開発することができる。
【0037】
環境開発システム200は、典型的な例ではコンピューターで実現することができる。一般的なコンピューターと同様に、入力装置、出力装置、処理装置、記憶装置を含むが、図2Aにはあらわに示していない。
【0038】
点線で示す入力受信ユニット201、推定式選択ユニット202、数式開発ユニット206、数式入力抽出ユニット208、テスト開発ユニット209は、半導体メモリ等の記憶装置に記憶されたソフトウェアを処理装置が実行し、入力装置、出力装置、記憶装置と協働することで実現できる。被験者-環境-テストテーブル203、被験者データベース204、病変推定式テーブル205、可変テスト推定式テーブル207はハードディスク装置等の記憶装置にデータとして格納する。ディスプレイユニット210は、出力装置の一例である。
【0039】
図2Bは、推定計算システムの構成を示すブロック図である。推定計算システム300は、被験者の脳の状態を反映した情報が、テスト入力受信ユニット301を介して作成および表示されたユーザーインターフェースに入力された後の推定を実行する。
【0040】
推定計算システム300は、典型的な例ではコンピューターで実現することができる。環境開発システム200と同じコンピューターでもよいし、別でもよい。一般的なコンピューターと同様に、入力装置、出力装置、処理装置、記憶装置を含むが、図2Bにはあらわに示していない。
【0041】
点線で示すテスト入力受信ユニット301、推定解像度ユニット302は、半導体メモリ等の記憶装置に記憶されたソフトウェアを処理装置が実行することで実現できる。被験者データベース204、病変推定式テーブル205はハードディスク装置等の記憶装置にデータとして格納する。ディスプレイユニット210は、出力装置の一例である。
【0042】
テスト入力受信ユニット301は、被験者が機能タスク(テスト)を実行することにより得られた脳の状態を反映した情報もしくはスコアを受信する。機能タスクの例は、被験者に対する質問や、あるいは例えば特許文献3に開示される指タッピング等がある。
【0043】
推定プロセスは、病変推定式テーブル205および推定解像度ユニット302を用いて実行される。推定解像度ユニット302は、脳の状態を反映した情報に基づいて得られた定量化された情報に基づいて、病変推定式テーブル205から選択されたアルゴリズムを使用して、最適化された解像度及び検出性能(感度、特異度等)で病変リスクを推定する。現在の推定値は、例えば、投薬、リハビリテーションなどの治療履歴を参照可能な、被験者データベース204の以前の推定値と比較することができる。推定結果は、ディスプレイユニット210に表示される。
【0044】
この構成により、推定計算システム300は、ユーザーインターフェースに入力されたテストの実行結果に応じて病変リスクの推定値を計算し、スクリーニング、予後回復モニタリングなどの目的に応じて推定解像度及び検出性能(感度、特異度等)を決定できる。
【0045】
図3は、環境開発システム200と推定計算システム300の機能をネットワークで接続したハードウェア構成例を示すブロック図である。データベースサーバ3001と、環境開発システム200のソフトウェアをメモリ3021に実装した環境開発サーバ3002と、推定計算システム300のソフトウェアをメモリ3031に実装した推定計算サーバ3003が、ネットワーク3004で接続されている。各ソフトウェアとハードウェアの資源は、推定計算サーバ3003の入力装置3032で利用可能である。
【0046】
推定計算サーバ3003は、臨床サイトあるいは非臨床サイトに置かれ、脳機能の検査装置として利用することができる。推定計算サーバ3003は、入力装置3032を使用して、環境開発サーバ3002による環境開発も実行可能である。
【0047】
図4A図4Bは、環境開発システム200の処理フローを示す。環境開発システム200は次の手順を実行する。
【0048】
図4Aで、推定式選択ユニット202は、入力受信ユニット201を介して、ユーザーが入力装置3032で設定した入力を受信する(S401)。ユーザーは、例えば検査を実施する医療従事者である。入力は、例えば対象とする被験者の分類(例えば、病歴のある被験者、正常あるいは無症状の被験者)および/またはシステム環境(例えば、臨床サイト、非臨床サイト)および/または検査目的・用途(例えば、リハビリ効果測定、スクリーニング)である。
【0049】
推定式選択ユニット202は、病変リスクを推定するための適切なテストリストを、設定された入力を被験者-環境-テストテーブル203と照合することによって1または複数取得する(S402)。被験者-環境-テストテーブル203については、後に図6で詳細に説明する。
【0050】
被験者がすでに過去に検査を受けたことがあり、推定を実行したことがある場合は、被験者データベース204と照合することによってテストリストを取得することができる。たとえば、被験者が以前にS401で同じ入力で推定を実行したことがある場合は、過去に使用したテストリストと同様の推定式を選択することができる。
【0051】
1つのテストから、1つ以上のスコアを取得することができる。テストは例えば被験者に対する質問や動作の要求であり、スコアは質問や動作の要求に対する数値化された回答あるいは応答である。特許文献3には、スコア情報として、指タッピング検査の総移動距離、MMSE( mini-mental state examination)、FIM(Functional Independence Measure)、CAT(Clinical Assessment for Attention)のスコアがあげられており、これらを利用することができる。これらのスコアと被験者の脳状態を関連付けることができる(例えば特許文献3参照)。
【0052】
スコアは、推定式(ロジスティック回帰モデルなど)の変数となる。推定式は、脳の領域ごとに独立していることを想定する。各領域には、異なる変数を持つ1つ以上の数式が対応する場合がある。
【0053】
推定式選択ユニット202が病変推定式テーブル205を参照し、S403で指定された被験者の分類とシステム環境(もしくは検査目的)に従って、領域ごとの推定式が選択される。
【0054】
推定式の全ての変数が、適切なテストで取得されるスコアから得られない場合もあり得る。同一の領域において該当する推定式が複数ある場合には、適切なテストで得られるスコアを変数として使用する割合のより大きな推定式、つまり、該当する推定式で使用される全スコア種類の数に対する使用可能な(取得された)スコア種類の数の比がより大きな推定式が、病変推定式テーブル205から選択される(S403)。病変推定式テーブル205については、後に図7で詳細に説明する。
【0055】
その後、推定式選択ユニット202は、選択された推定式がすべての脳領域をカバーしているかどうかを確認する(S404)。ここで、ある脳領域をカバーするとは、該当領域の推定式に用いるスコア種類に対して所定数(例えば50%)以上のスコアが使用可能であることを意味する。
【0056】
すべての脳領域が選択された式でカバーされている場合(S404でYes)、推定式選択ユニット202は、選択した推定式で利用できないスコアが使用されているかどうか、すなわち、推定式で必要な変数に使用する全てのスコアが、適切なテストリストから得られているかどうかを再チェックする(S405)。
【0057】
選択した推定式で利用できないスコアが使用されていない場合(S405でNo)、選択されたテストにより推定(図4B)が可能となる。
【0058】
推定式で必要な変数に使用する一部の(例えば、50%未満)スコアが、適切なテストリストから取得できない場合(S405でYes)は、推定式選択ユニット202は、取得できないスコアを、適切なテストリストから取得できるスコアに置き換えることができるかどうか判定する(S406)。
【0059】
適切なテストリストから取得できないスコアを、適切なテストリストから取得できるスコアに置き換られるかどうかは、可変テスト推定式テーブル207を使用して評価される(S406)。可変テスト推定式テーブル207については、後に図8で詳細に説明する。
【0060】
変数の置換が可能である場合(S406でYes)、置換された変数に関連付けられた推定式が修正される(S407)。修正された推定式を用いて、推定が行われる(図4B)。以上のステップS401~S407は、推定式選択ユニット202で実行される。
【0061】
スコアを適切なテストリストのスコアに置き換えできない場合(S406でNo)、あるいは、選択した領域ごとの推定式ですべての脳領域をカバーできない場合(S404でNo)は、数式開発ユニット206により、適切なテストリストの変数を用いた、カバーされていない脳領域のための新しい推定式が開発される(S408―9)。新しい式を開発するために、データベースに保存されている被験者データベース204が使用される。
【0062】
被験者データベース204に保存されたすべての被験者データが無条件に使用されるわけではない。モデルの適切性の基準に従って、適切なテストリストの変数を持つ、あるいは適切なテストリストの変数に置換可能な変数を持つ被験者データが選択される(S408)。被験者データの選択手法については後述する。
【0063】
選択された被験者データ(病変データや変数など)を使用することにより、カバーされていない領域の病変リスクがモデル化され、推定式が得られる(S409)。
【0064】
新しい推定式の開発については、後に図10及び図13で詳細に説明する。脳領域の全体が適切な変数を持つ推定式でカバーされた後、図4Bの推定処理へ進む。
【0065】
図4Bで、適切な変数を持つ推定式を使用して、脳領域の全体をカバーして病変リスクを推定する。まず、選択された推定式で必要な変数に対応するスコアが、数式入力抽出ユニット208で抽出される(S410)。
【0066】
抽出されたスコアを取得するためのユーザーインターフェースは、抽出されたスコアに対応した入力項目に基づいてテスト開発ユニット209で作成される(S411)。テスト開発ユニット209は、たとえばディスプレイユニット210に表示したユーザーインターフェースにより、どの変数(たとえば、テストAアイテム1、2、…)が必要かをユーザーに通知する。その後、ユーザー(医療従事者など)は被験者に当該変数に対応するテスト(例えばデジタル化されたテスト、身体検査など)を実行するように依頼する(S412)。ユーザーインターフェースについては、後に図14で説明する。
【0067】
なお、テスト開発ユニット209がユーザーを介さずに、直接テスト内容をディスプレイユニット210に表示して、被験者に入力を促してもよい。実行されるテストは、例えば特許文献3に開示されているような、脳や体の機能を評価する際に知られている一般的なテストを使用できる。
【0068】
これらの変数を取得するために、被験者はテストを実行する場合があるが、目的に応じて選択されたテスト(質問、項目など)のみが実行されるので、変数の収集と病変リスクの推定に必要な時間を節約することができる。
【0069】
以上のプロセスでは、適切なテストを選択するための事前のユーザー入力の手間が少ない。ユーザー入力に基づいた推定式の選択や開発は自動的に実行される。推定環境は、設定されたテスト要件と推定式に必要なテスト変数に応じて、変数エントリを使用して自動的に作成される。
【0070】
なお、上記プロセスではS401でテストを選んでからS402でアルゴリズムを選んでいるが、逆の順序でもよい。
【0071】
図5A図5Bは、入力受信ユニット201が実行するステップS401で、ユーザーが入力を行うためにディスプレイユニット210に表示される、ユーザーインターフェースの例である。ユーザーインターフェースは、被験者に応じて、図5Aの新規被験者用インターフェース500aまたは図5Bの登録済被験者用インターフェース500bが選択される。
【0072】
被験者501の設定に際しては、新規か登録済みかで入力の項目を変える。新規の被験者501aを選択すると、対象となる被験者のデータ502が新規登録され、新しいID503、年齢504、性別505などの被験者の情報が、被験者データベース204に保存される(図5A)。
【0073】
登録済の被験者501bの場合、ユーザーインターフェースは、被験者データベース204に保存されたデータを呼び出して、IDのリスト507とともに表示し、被験者選択506の機能を提供する(図5B)。
【0074】
また、被験者分類508が定義される、例えば既往症のある被験者508aまたは正常あるいは無症状の被験者508bである。これらは一例であって、他の分類を定義してもよい。
【0075】
さらに、検査環境509が定義されている。検査環境は、例えば、臨床サイト509aまたは非臨床サイト509bである。これらは一例であって、他の分類を定義してもよい。
【0076】
以上の入力を推定プロセスに実装するには、「設定OK」ボタン510を押す。
【0077】
以上のように被験者を登録し、被験者のタイプとシステム環境を指定するための実用的なインターフェースを提供する。以降では、被験者のタイプとシステム環境に基づいて、適した推定モデルが選択される。
【0078】
図6は、被験者-環境-テストテーブル203の一例である。被験者-環境-テストテーブル203には、脳の機能を評価するために一般的に使用されるテスト601がリストされている。テストとは被験者に所定の動作を要求することにより、被験者の状態を反映した入力を得るためのプロセスである。テストは公知のものでよい。例えば、TestAは指タッピング、TestBはMMSE、TestCはFIMのように設定される。各テストの内容は、別途データ化して関連付けておく。
【0079】
臨床603a,604a、非臨床603b,604b、病歴のある被験者603、正常あるいは無症状の被験者604の区分、検査間隔602の項目がある。臨床603a,604a、非臨床603b,604b、病歴のある被験者603、正常あるいは無症状の被験者604の各項目の組み合わせに応じて、適合するテストの適用可能性は、チェックマークで示されている。
【0080】
被験者-環境-テストテーブル203は医師、医療スタッフ、研究者などの知識やノウハウに基づいて、適用可能性についてあらかじめ判定して作成したものである。これは、ターゲットになる特定の被験者によって特定のシステム環境で実行される一般的な脳体機能テストの実用性を考慮して作成する。
【0081】
例えば図6で、「正常/無症状」かつ「非臨床」では、TestE, TestF が適用可能であり、TestA~TestDは不適切である。例えば脳の病変を検出する場合、病変の初期の段階では、被験者は無症候性であり、病変は一般的に低くまばらな発生で観察される。症状が現れないことにより病変を看過すること防ぐために、病変の検出感度を向上させる推定性能が優先される。したがって、解像度が低くとも検出感度が高いテストを採用することで、人間ドック等における病変の初期段階におけるスクリーニングの目的に貢献することができる。
【0082】
例えば図6で、「脳卒中の病歴あり」かつ「臨床」では、TestA~TestCが適用可能であり、TestD~TestFは不適切である。明らかな症状を伴う病変の後期段階では、機能障害の原因の特定のため、より正確な病変位置を取得することが必要である。このために、検出感度よりも解像度が優先される。
【0083】
また、「脳卒中の病歴あり」かつ「非臨床」では、リハビリテーション施設等において、リハビリテーションの効果を評価するために、検出感度よりも解像度が高いテストが選択される。
【0084】
以上のように、被験者-環境-テストテーブル203により、特定の被験者ターゲット(例えば、患者、正常/無症状の人)およびシステム環境(例えば、臨床、非臨床サイト)に適したテストを特定することができる。
【0085】
図7は、病変推定式テーブル205の例である。脳の領域、被験者ターゲット(例えば、患者、正常/無症状の人)および環境(例えば臨床、非臨床)ごとに推定式が準備される。
【0086】
【数1】
…(式1)
【0087】
式1は、病変確率を推定する推定式の例を示す。式1は領域1についての病変確率Pregion1を得る推定式を示す。式は脳の領域ごとに定義されており,k個の領域に対しては係数を独自に定義されたk個以上の推定式が必要である。1つのテストには、2以上の評価項目(Item1、Item2など)が含まれる場合がある。式1は独立変数xから従属変数Pregion1を得るためのモデルに相当する。
【0088】
式1の右辺には、係数aと変数xが与えられている。ここで係数aは病変推定式テーブル205から得られ、変数xはテスト項目701ごとに、例えば被験者が質問に回答することによるスコアから得られる。
【0089】
病変推定式テーブル205には、各推定式に使用する係数aと切片a0が示される。切片a0は、脳の領域、被験者ターゲット、および環境の組み合わせ(便宜的に「検査種別」という)702~706に対して固有に設定される。すなわち、検査種別702~706において、一般に切片a0は異なる値をとる。また、検査種別702~706に対する各テスト項目701に対応する推定式の係数aも、一般に異なる値をとる。
【0090】
病変推定式テーブル205中の「0」は、推定式の係数aが0であることを示し、従ってこの場合、該当するテスト項目701から得られるスコアは、当該推定式の計算結果に寄与しない。例えば、「TestA Item1」から得られる変数は、検査種別702の「領域1/患者/臨床」の推定式の計算結果に寄与しない。
【0091】
特定の脳領域は、テスト項目701の組み合わせに対応している。例えば、検査種別703の「領域1/患者/非臨床」は、「TestA Item1」、「TestA Item2」その他に対応している。テスト項目701から得られるスコアに対応した変数xに対して、病変推定式テーブル205で指定される係数aを適用して式1が構成される。
【0092】
例えば、検査種別703の「領域1/患者/非臨床」の推定式では、式1の変数x1には「TestA Item1」のスコアに基づく変数が与えられ、係数a1は「TestA Item1」と「領域1/患者/非臨床」で特定される係数aとなる。同じく、変数x2には「TestA Item2」のスコアに基づく変数が与えられ、係数a2は「TestA Item2」と「領域1/患者/非臨床」で特定される係数aとなる。切片a0は、「切片」と「領域1/患者/非臨床」で指定されるa0が用いられる。なお、式1中のnの数は推定式ごとに異なる場合がある。
【0093】
病変推定式テーブル205の内容は、例えばMRIによって特定された脳の診断画像とテスト結果に基づいて経験的に推定式を得ることにより準備される。また、病変推定式テーブル205の内容は、数式開発ユニット206が開発した推定式に基づいて追加される。したがって、病変推定式テーブル205は、推定条件が変化するにつれて更新および追加が可能である。
【0094】
図7の脳領域の粒度は混在していてもよい。粒度間の病変リスクの変換は、図1に示した手法で可能である。図6図7から理解されるように、本実施例では、目的を推定するための情報として、被験者の特性と検査サイトを受け付け、それに適合したテストとアルゴリズムを選択できる。
【0095】
図8は、ステップS406で使用する可変テスト推定式テーブル207の例を示す。可変テスト推定式テーブル207は、他の使用可能なテスト項目の変数から、適切なテスト項目の変数を推定するための式推定式が示される。式推定式として、m個の従属変数を推定するためのn個の独立変数の係数bn,mが示される。また、式の切片b0が示される。
【0096】
可変テスト推定式テーブル207は、たとえば異なるテストのスコア同士の相関を評価するなどして関係を分析し、あらかじめ作成してデータベースに保存しておく。
【0097】
たとえば、図7の病変推定式テーブル205で、検査種別703の「領域1/患者/非臨床」の推定式では、「TestA Item2」のスコアが必要である。しかし、図6の被験者-環境-テストテーブル203で、例えば、「患者/非臨床」に対してTestA Item2がテスト時間の制限などで適切でない場合、「TestA Item2」のスコアを使用しないことが望ましい。そこで、適切でないテストのスコアを、適切なテストのスコアで代用する。例えば、可変テスト推定式テーブル207(図8)によれば、「TestA Item2」(801)は、「TestA Item1」、「TestC Item1」、「TestC Item2」の少なくとも一つを使って置き換えることができる。推定式は、使用できない変数の置換率を高めるために、テストごとの項目(非多変量)ごとに独立させることが望ましい。
【0098】
いま、式1を以下の式2のように変数xを「TestA Itemn」で表記することにする。
【0099】
【数2】
…(式2)
【0100】
ここで「TestA Itemn」(801)は当該テスト項目で得られる変数である。ここで、式2右辺のカッコ内第2項「a2(TestA Item2)」でTestA Item2が使用不可の場合を考える。
【0101】
この場合、置き換えは式3のようになる。
【0102】
【数3】
…(式3)
【0103】
変数(TestA Item2)は、(bTestA Item2, TestC Item1 TestC Item1+b0)に置き換えられる。図8のテーブルから、TestC Item1とTestA Item2の変換のための係数bTestA Item2, TestC Item1と切片b0を得ることができる。この置き換えの式は一例であり、異なるテストのItemで得られるスコア間の相関関係を用いて、他の式を用いてもよい。
【0104】
以上のようにステップS407で推定式を修正し、図4Bのフローにより推定が可能となる。
【0105】
図9は、被験者データベース204の一例を示す。被験者ID901、性別902、年齢903が記録されている。過去に検査を受けたことがある場合は、検査を受けたシステム環境904(臨床または非臨床サイト)、検査日時905、各領域に関する病変データ(例、推定結果またはイメージング結果)906,907、およびテスト結果(例えばスコア)に関する項目908,909,910がデータベースにされている。テスト結果が記録されている被験者は、図5Bで登録済の被験者として扱うことができ、次の検査では同じテストを使用することができる。
【0106】
被験者データベース204は、被験者の推定履歴を呼び出し、必要に応じてステップS408、S409で新しい推定式を開発するために被験者データを収集するために使用される。
【0107】
図10は、数式開発ユニット206による、被験者データ選択処理S408の処理フローを示す。数式開発ユニット206は、データ選択S408とモデリングS409の2つの主要なプロセスを実行する。図10は、データ選択のプロセスである。
【0108】
データ選択S408とモデリングS409が実行されるのは、第一に、選択した推定式で利用できない変数(スコア)が使用されており(S405)、かつ、スコアの置き換えができない場合(S406)、第二に、選択した推定式でカバーできない脳領域がある場合である(S404)。
【0109】
この場合、数式開発ユニット206は、適切なテストリストで得られる変数を用いて推定を行うための、新たな推定式を開発する。
【0110】
まず、被験者データベース204において、すべての被験者データをチェックし、被験者データに適切なテストリストに関連する変数(スコア)が含まれていない場合、欠落している変数を可変テスト推定式テーブル207に基づいて可能な範囲で推定する。このためには、図8で説明した方法で、被験者データに含まれている変数から欠落している変数を推定すればよい(S1001)。
【0111】
次に、適切なテストリストに関連する変数(スコア)をすべて持つ被験者データが抽出される(S1002)。
【0112】
抽出した被験者データを用いた計算により、被験者データそれぞれの病変のスパース性が評価され(S1003)、病変の発生が評価される(S1004)。
【0113】
病変のスパース性と病変の発生のデータに基づいて、推定モデルを開発するために適切なデータセットが抽出される(S1005)。
【0114】
病変推定の目的に合わせたモデルを作成するために、データ特性に従って被験者データを選択し、推定モデルの学習に用いる。すると、推定目的に従ったモデルの適切性が向上する。推定目的は、S401(図4A)の入力に応じて決定される(後に図17で詳細に説明する)。
【0115】
図11は、病変のスパース性の計算の概念を示す図である。スパース性は、領域ごとの病変の粗密を示す。この計算では、距離行列1101と病変発生行列1102の2つの行列を計算する。両方の行列にはk×k個の配列があり、kは脳領域の数である(たとえば、領域R1、R2、R3、R4、R5など)。距離行列1101と病変発生行列1102は対角対称行列である。
【0116】
距離行列1101は、脳の領域間の距離を示す。距離行列1101の各要素は、領域間の物理的な距離を示している(R1-R1、R1-R2など)。数値は正規化されており、最も遠い距離を1としている。すなわち物理的距離は、領域の点の中心間の距離、または関連する領域のボクセル単位の座標間の平均距離によって定義できる。ボクセル単位の座標は、例えば、磁気共鳴画像法、コンピューター断層撮影法、および任意の画像化技術を介して取得することができる。
【0117】
病変発生行列1102は、領域相互の病変の発生有無を示す(たとえば、R1-R1、R1-R2など)。病変発生行列1102の各要素は、2つの領域での病変の発生有無を、両方で病変が発生している場合(論理積)を「1」、いずれかで病変が発生している場合(論理和)を「NaN」で示している。
【0118】
データは病変の距離と発生に限定されず、病変の位置も含んでよい。また、相互病変の発生の定義は、病変の重症度が重みとして適用される場合があり得る。
【0119】
次に、距離行列1101と病変発生行列1102の要素ごとの乗算(アダマール積;○)が実行され、積行列1103が生成される。病変のスパース性の尺度は、NaN以外の要素全体を平均することによって0~1の範囲の値に定量化される。このパラメータは、病変のスパース性の尺度、つまり病変領域どうしがどれだけ近いか遠いかを表す。以上のように、各被験者データのスパース性が計算される。
【0120】
図12は、被験者データの病変の発生確率(横軸)と病変のスパース性(縦軸)の関係を示すグラフ図である。横軸で示す病変の発生確率1201は、病変領域の数と総領域の数の比率で定義する。全ての領域に病変が発生している場合、病変の発生確率は1である。病変が全くない場合、病変の発生確率は0である。縦軸で示す病変のスパース性1202は、図11の計算により得られる。
【0121】
スパース性を計算するため病変のある領域が少なくとも2つ必要なため、スパース性は0にはなり得ない。スパース性の値が高い(最大で1)場合は、発生した病変が互いに遠く離れていることを示す。
【0122】
病変の発生と病変のスパース性との関係は、下限1203と上限1204の範囲内で視覚化される。各被験者データは、これらの範囲内に散在している。病変の発生確率が増加するにつれて、被験者データのスパース性の分布は狭まっていき、スパース性中程度(0.5)周辺に収束する。
【0123】
新しい病変推定式の開発を目的としたデータベースからの被験者データの選択は、モデルに対する適切性を考慮して行われる。モデルに対する適切性は、たとえば、病変の発生確率1201と病変のスパース性1202の2つのパラメータ1200によって評価され得る。
【0124】
被験者データセットは、例えば低発生-低スパース性の領域1205、中程度の発生-中程度のスパース性の領域1206、高発生-中程度のスパース性の領域1207などの基準に基づいて分類し、選択することができる。
【0125】
被験者データセットの領域の分類は、公知の教師なしクラスタリング手法で実行できる。各領域は、分離した領域1205、1206となる場合もあり、また重複した領域1206,1207になる場合があり得る。
【0126】
たとえば、図6の「正常/無症状」で「臨床」では、スクリーニング目的に適したTestAが選択されているとする。無症候性の人の病変リスクを推定するためには、病変の発生が少ない被験者データを用いることで、モデルの適切性が向上する。そこで、S401(図4A)で「正常/無症状」で「臨床」が選択された場合、低発生-低~高スパース性の領域1208が選択される。
【0127】
また、図6の「脳卒中の病歴あり」「臨床」では、病変のある脳回周辺を高分解能でリスクを推定するために適しているTestBが選択されている。病変の発生率が高く、スパース性中程度の被験者データセットは、病変のある脳回のリスクを推定するために適している。このとき、高発生-中スパース性の領域1209が選択される。
【0128】
以上説明したように、本実施例では、被験者データは、病変の発生と病変の希薄性(スパース性)という2つのパラメータによって分類される。
【0129】
図13は、数式開発ユニット206による、数式モデリングのプロセスフローS409を示す図である。このプロセスでは、スコアから病変リスクの確率を導くためのモデル(式1に相当)が作成される。
【0130】
図12の原理で抽出された所定の発生確率とスパース性を持つデータセットから、被験者ごとの病変データ(従属変数)と適切なテストリストのスコアによる独立変数xが抽出される(S1301)。病変データは、病変の発生の有無あるいは病変のレベル、当該病変の脳領域などを含む。
【0131】
先に説明したように、数式モデリングのプロセスフローS409が実行されるのは、第一に、選択した推定式で利用できない変数(スコア)が使用されており(S405)、かつ、スコアの置き換えができない場合(S406)、第二に、選択した推定式でカバーできない脳領域がある場合である(S404)。
【0132】
推定式は脳領域ごとに準備されるので、上記第一の場合には、変数が準備できない結果利用できない推定式が対象とする脳領域に着目して推定式を開発する。上記第二の場合には、カバーされていない脳領域に着目して推定式を開発する。
【0133】
式1において適切なテストリストから得られる変数は、各領域の病変状態に対応するようにトレーニングされる(S1302)。
【0134】
トレーニングプロセスは、スコアから病変リスクの確率を例えば式1の形にモデル化するために実行される。例えば学習のための入力は、被験者データの適切なテストリストに関連する独立変数xと病変クラス(従属変数:無・有または低・高)である。
【0135】
トレーニングでは、例えば脳領域に病変がある場合、係数を固定すると各変数はどのような値をとるかが学習される。係数側をトレーニングしてもよいが、推定式では係数が0の場合がある点に注意すべきである。
【0136】
トレーニングされたモデルは検証され(S1303)、評価される(S1304)。検証のためには、通常はトレーニングに使用したものとは異なるデータセットが使用される。評価の項目は、推定精度、特異度、または検出感度など所望のスペックを評価すればよい。
【0137】
次に、モデルの性能(例えば、推定精度、特異度、または感度)が、性能が満足のいくものであるかどうか確認される(S1305)。
【0138】
以上の処理フローにより、モデリングに用いるデータは、所定の発生率とスパース性を持つデータセットから選ばれるため、目的に応じたモデルが生成される。目的は、S401の入力に応じて設定される(精度重視あるいは感度重視など)。以上のように、各領域のための推定式は、推定性能(精度、特異度、感度など)を最適化することができる。
【0139】
図14は、テスト開発ユニット209によって開発されたユーザーインターフェースの例である。このユーザーインターフェースは、推定式1400に含まれるテスト変数あるいはスコアを入力するように動作する。
【0140】
このユーザーインターフェースでは、テストの入力項目を1つ以上の変数にすることができる。被験者が特定のテストに関する項目を実行した後、変数値1401,1402,1403,1404を入力できる。入力はユーザー(医療従事者など)が直接行ってもよいし、被験者の入力に応じてシステムが変換した値を入力値としてもよい。その後、「推定」ボタン1405を押すことにより、推定プロセスを実行できる。
【0141】
推定環境のユーザーインターフェースには、適切な変数エントリがある。変数はテストごとの項目に対応する。全てのテストを実行する必要はない。これにより、推定にかかる時間を短縮することができる。
【0142】
図15は、推定解像度ユニット302による推定プロセスである。
【0143】
まず、ユニットはユーザーインターフェース1400(図14)から入力された変数の入力を受け取る(S1501)。
【0144】
選択され、必要に応じて修正あるいは開発された推定式に対して変数が与えられ、推定病変リスクが各脳領域に対して計算される(S1502)。
【0145】
その後、推定解像度は、設定された入力に従って決定される。解像度は適宜ユーザーが指定することができる。また、例えば被験者分類508に従ってあらかじめ決定することができる。例えば、病歴あり508aでは高解像度、正常/無症状508bでは低解像度、のように設定される(S1503)。解像度に応じた病変リスクの調整は、図1で説明したとおり行われる。
【0146】
推定結果は、ディスプレイユニット210に表示される(S1504)。
【0147】
被験者ターゲットと推定の目的に応じて、推定の解像度を適切化することができる。たとえば、正常/無症状508bでは、病変の発生の認識が優先される。したがって、半球または葉の解像度での推定で十分な場合がある。一方、患者のリハビリテーションを支援するには、より高い推定解像度(葉や脳回のレベルなど)が必要である。
【0148】
図16A図16Bに推定結果の表示例を示す。表示タイプは、新規被験者用推定結果のユーザーインターフェース1600a(図16A)と、登録済被験者用推定結果のユーザーインターフェース1600b(図16B)が準備される。
【0149】
図16Aを参照すると、現在新しい被験者の場合、表示される結果は現在の推定値1601のみとなる。推定結果は、脳回、葉、または半球レベルのいずれかの領域ごとに視覚化される。
【0150】
この例では、損傷した葉の推定値が表示される。病変リスクの程度(例えば、低から高へ)は、カラーマップ1602によって示される。
【0151】
着色されていない領域(頭頂葉、後頭葉、小脳葉など)は病変のリスクを示さない。この例では、前頭葉、側頭葉、および亜葉の病変リスクが徐々に増加する(1603<1604<1605)。
【0152】
図16Bを参照すると、被験者が以前に登録された被験者である場合、現在の推定値1601および以前の推定値1606が表示される。
【0153】
この例では、前頭葉のリスクは減少(1607>1603)、亜葉のリスクは増加(1609<1605)、側頭葉のリスクは同じままである(1608=1604)。
【0154】
病変リスク推定の結果は、さまざまな程度の推定確率で表示される。さらに、推定結果は、決定されたものに応じて異なる空間解像度で視覚化することができる。
【0155】
図17は、本実施例において被験者ターゲット、使用サイト、用途、適切な推定モデル、および推定モデルの学習に適切なデータセットの条件の一例を表にしたものである。図17では、使用サイト、用途の条件も記したが、病変リスク推定においては、使用サイト、用途の入力は不要で、被験者ターゲットの入力があれば十分である。
【0156】
例えば、被験者ターゲットが「患者/臨床」では、リハビリテーション施設や病院での患者の検査を想定している。この場合の典型的な用途・目的は、リハビリテーション効果測定や病変部位の特定であり、このために要求される推定モデルの性能は、高解像度で高精度である。よって、図4AのS401で「患者/臨床」を入力した場合、S402では、高解像度で高精度な結果を得られるテストリストが被験者-環境-テストテーブル203で選択される。S403では、各脳部位について被験者ターゲットが「患者/臨床」とされる推定式が病変推定式テーブル205から選択される。このとき、できるだけ選択されたテストで得られるスコアを使用できる推定式が選択される。以上のように、推定アルゴリズム選択ユニット(推定式選択ユニット202とも示す)は、推定の目的から、必要な解像度及び推定性能を決定する際、図17に示す表を用いても良い。ここで、検査のためには脳の全領域をカバーする必要があるが、選択された推定式で使用する変数が選択されたテストから得られない場合や、すべての脳領域をカバーする推定式が得られていない場合には、選択されたテストから得られる変数あるいはこれから変換可能な変数を使用した推定式を開発する。推定式の開発の際には、高解像度で高精度なモデルのために病変発生率が高く、スパース性が中程度のデータセットが被験者データベース204から抽出されて使用される。
【0157】
以上説明したように、従来は、すべての脳領域に適切な病変分布を持つ患者のデータを取得することは困難であり、真の病変の検出のための推定能力が十分でなく、偽陰性の結果が生じるという問題があった。また、分解能と感度の両者を高品質で満足させようとすると、被験者の検査に要する負担が増加するという問題もあった。
【0158】
本実施例によれば、検査目的に適した解像度と検出感度を備えるテストとアルゴリズムを選択することができる。また、テストから得られる変数とアルゴリズムで用いる変数が不一致の場合は、変数を他のテストから得られる変数に変換することや、アルゴリズムを新たに開発することで対応することができる。よって、検査目的に適合した検査を実行することが可能になる。
【符号の説明】
【0159】
入力受信ユニット201、推定式選択ユニット202、被験者-環境-テストテーブル203、被験者データベース204、および病変推定式テーブル205、数式開発ユニット206、可変テスト推定式テーブル207、数式入力抽出ユニット208、テスト開発ユニット209、ディスプレイユニット210
図1
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16A
図16B
図17