(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022183428
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】永久磁石の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 41/02 20060101AFI20221206BHJP
H01F 13/00 20060101ALI20221206BHJP
H01F 7/02 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
H01F41/02 G
H01F13/00 350
H01F7/02 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021090739
(22)【出願日】2021-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】弁理士法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】大河原 遊
(72)【発明者】
【氏名】幸村 治洋
【テーマコード(参考)】
5E062
【Fターム(参考)】
5E062CD04
5E062CF05
5E062CG03
(57)【要約】 (修正有)
【課題】磁気的に異方性を有する希土類鉄系磁石に対して、多極着磁を行っても、高い着磁特性が得られる永久磁石の製造方法を提供する。
【解決手段】永久磁石の製造方法は、被着磁物100に対して磁界を発生する着磁用永久磁石が等間隔に複数配列される界磁部6と、被着磁物のアキシャル方向において被着磁物と対向する加熱面4aを有し、被着磁物を加熱する加熱部4とを有する着磁装置1により被着磁物に対して着磁を行う着磁工程を含む。着磁工程において、界磁部上に被着磁物を配置し、加熱部により、被着磁物を、被着磁物のキュリー点以上の温度、且つ、着磁用永久磁石のキュリー点未満の温度まで昇温した後、被着磁物のキュリー点未満の温度まで降温させるように加熱するとともに、着磁用永久磁石により、被着磁物に着磁磁界を印加する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被着磁物に対して磁界を発生する着磁用永久磁石が等間隔に複数配列される界磁部と、前記被着磁物のアキシャル方向において前記被着磁物と対向する加熱面を有し、前記被着磁物を加熱する加熱部とを有する着磁装置により、前記被着磁物に対して着磁を行う着磁工程を含み、
前記着磁工程において、前記界磁部上に前記被着磁物を配置し、前記加熱部により、前記被着磁物を、前記被着磁物のキュリー点以上の温度且つ前記着磁用永久磁石のキュリー点未満の温度まで昇温した後、前記被着磁物のキュリー点未満の温度まで降温させるように加熱するとともに、前記着磁用永久磁石により、前記被着磁物に着磁磁界を印加し、
前記被着磁物は、平均結晶粒径が0.02μm以上3.59μm以下の異方性希土類鉄系磁石であり、
前記界磁部において、前記着磁用永久磁石は、前記着磁工程を得た前記被着磁物における極ピッチが0.3mm以上2.6mm以下となるように、配列されている、
永久磁石の製造方法。
【請求項2】
被着磁物に対して磁界を発生する着磁用永久磁石が等間隔に複数配列される界磁部と、前記被着磁物のアキシャル方向において前記被着磁物と対向する加熱面を有し、前記被着磁物を加熱する加熱部とを有する着磁装置により、前記被着磁物に対して着磁を行う着磁工程を含み、
前記着磁工程において、前記界磁部上に前記被着磁物を配置し、前記加熱部により、前記被着磁物を、前記被着磁物のキュリー点以上の温度且つ前記着磁用永久磁石のキュリー点未満の温度まで昇温した後、前記被着磁物のキュリー点未満の温度まで降温させるように加熱するとともに、前記着磁用永久磁石により、前記被着磁物に着磁磁界を印加し、
前記被着磁物は、熱間加工により得られた異方性希土類鉄系磁石であり、
前記界磁部において、前記着磁用永久磁石は、前記着磁工程を得た前記被着磁物における極ピッチが0.3mm以上3.1mm以下となるように、配列されている、
永久磁石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、永久磁石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
希土類鉄系磁石の中でも特に、Nd-Fe-B系焼結磁石は高い磁気特性を有するため、各種の機器や装置、モータに使用されている。しかしながら、高温環境下でNd-Fe-B系焼結磁石を用いた場合、減磁によって保磁力が低下する。このため、高温環境下での使用に対応するため、Nd-Fe-B系焼結磁石の耐熱性が求められている。一般に、磁石の保磁力を高めて耐熱性を改善しており、磁石の結晶粒子を微細化することで保磁力を高めることが知られている。磁石の結晶粒子の微細化による保磁力向上として、結晶粒径を焼結磁石よりも微細化し得る熱間加工磁石が有効な手段として知られている(例えば、非特許文献1参照)。この熱間加工磁石の結晶粒径は、焼結磁石の1/10~1/100で、微細化が可能になる。
【0003】
この熱間加工磁石に着磁を行う必要があり、熱間加工にて作製された磁石にパルス着磁を行う手段が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1の永久磁石の製造方法では、急冷法によって作成されたリボン状の薄帯を粉砕して粉体としたのち、ホットプレス加工で仮成形体を得て、その仮成形体に対して、温度700℃で後方押し出しを行って塑性変形させて磁石素材を得ている。そして、着磁ヨークを有するコイルがパルス電源に接続された着磁装置で磁石素材を50℃以上キュリー点以下の温度で8極の多極着磁することが記載されている。この特許文献1に記載の永久磁石は、その製造方法から、非特許文献1に記載された熱間加工磁石であり、着磁装置は、いわゆるパルス方式による着磁装置である。特許文献1には、常温において着磁して、永久磁石の磁気特性を測定したところ、最大エネルギー積は30MG・Oe、保磁力は12100(Oe)であったと記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】森田敏之、“Nd-Fe-B磁石における保磁力の温度依存性に及ぼす保磁力向上方法の影響”、大同特殊鋼技報 電気製鋼、2011年、第82巻1号、p.5-10
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、最近、熱間加工磁石の最大エネルギー積(MG・Oe)は、大きくなっており、その保磁力も12100(Oe)よりも高保磁力となっている。このため、特許文献1に記載された着磁方法である、「パルス電源に接続された着磁装置で磁石素材を50℃以上キュリー点以下の温度で着磁を行う」手段では、高保磁力となっている熱間加工磁石に対して、高い着磁特性を得ることができない虞がある。
【0007】
また、最近では、モータに使用した場合、モータのコギングトルクの低減や、センサーとして利用した場合、センサーの分解能向上のために多極着磁が求められている。特許文献1のような着磁ヨークにコイルを巻回してパルス電流を印加する、いわゆるパルス着磁の場合、着磁ピッチが狭くなると、着磁ヨークに巻回するコイルの巻数やコイル径に制約があるため、着磁磁界を大きくすることができず、着磁ピッチを小さくすることができないという問題がある。
【0008】
本発明は上記の課題に鑑み、磁気的に異方性を有する希土類鉄系磁石に対して、多極着磁を行っても、高い着磁特性が得られる永久磁石の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様に係る永久磁石の製造方法は、被着磁物に対して磁界を発生する着磁用永久磁石が等間隔に複数配列される界磁部と、上記被着磁物のアキシャル方向において上記被着磁物と対向する加熱面を有し、上記被着磁物を加熱する加熱部とを有する着磁装置により、上記被着磁物に対して着磁を行う着磁工程を含み、上記着磁工程において、上記界磁部上に上記被着磁物を配置し、上記加熱部により、上記被着磁物を、上記被着磁物のキュリー点以上の温度且つ上記着磁用永久磁石のキュリー点未満の温度まで昇温した後、上記被着磁物のキュリー点未満の温度まで降温させるように加熱するとともに、上記着磁用永久磁石により、上記被着磁物に着磁磁界を印加し、上記被着磁物は、平均結晶粒径が0.02μm以上3.59μm以下の異方性希土類鉄系磁石であり、上記界磁部において、上記永久磁石は、上記着磁工程を経た上記被着磁物における極ピッチが0.3mm以上2.6mm以下となるように、配列されている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、磁気的に異方性を有する希土類鉄系磁石に対して多極着磁を行っても、高い着磁特性を有する希土類鉄系磁石を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施形態1にて用いる着磁装置の概略構成例を示す図である。
【
図2】
図2は、実施形態1にて用いる着磁装置の界磁部を示す斜視図である。
【
図3】
図3は、着磁後の被着磁物を示す断面図である。
【
図4】
図4は、実施形態1にて用いる着磁装置の動作説明図である。
【
図5】
図5は、実施形態1にて用いる着磁装置の動作説明図である。
【
図6】
図6は、実施形態1にて用いる着磁装置の動作説明図である。
【
図7】
図7は、変形例1にて用いる着磁装置の概略構成例を示す図である。
【
図8】
図8は、変形例1にて用いる着磁装置の動作説明図である。
【
図9】
図9は、変形例1にて用いる着磁装置の動作説明図である。
【
図10】
図10は、変形例1にて用いる着磁装置の動作説明図である。
【
図11】
図11は、変形例2にて用いる着磁装置の概略構成例を示す図である。
【
図12】
図12は、変形例2にて用いる着磁装置の界磁部を示す斜視図である。
【
図13】
図13は、極ピッチ0.5mmのときについて、平均結晶粒径に対する算出した着磁指数の値を示した図である。
【
図14】
図14は、極ピッチ0.8mmのときについて、平均結晶粒径に対する着磁指数の算出値を示した図である。
【
図15】
図15は、極ピッチ1.0mmのときについて、平均結晶粒径に対する着磁指数の算出値を示した図である。
【
図16】
図16は、極ピッチ1.6mmのときについて、平均結晶粒径に対する着磁指数の算出値を示した図である。
【
図17】
図17は、極ピッチ2.0mmのときについて、平均結晶粒径に対する着磁指数の算出値を示した図である。
【
図18】
図18は、極ピッチ2.6mmのときについて、平均結晶粒径に対する着磁指数の算出値を示した図である。
【
図19】
図19は、極ピッチ3.1mmのときについて、平均結晶粒径に対する着磁指数の算出値を示した図である。
【
図20】
図20は、極ピッチに対する着磁指数の算出値を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0013】
<実施形態1の製造方法>
実施形態1の永久磁石の製造方法は、被着磁物に対して磁界を発生する着磁用永久磁石が等間隔に複数配列される界磁部と、上記被着磁物のアキシャル方向において上記被着磁物と対向する加熱面を有し、上記被着磁物を加熱する加熱部とを有する着磁装置により、上記被着磁物に対して着磁を行う着磁工程を含む。上記着磁工程において、上記界磁部上に上記被着磁物を配置し、上記加熱部により、上記被着磁物を、上記被着磁物のキュリー点以上の温度且つ上記着磁用永久磁石のキュリー点未満の温度まで昇温した後、上記被着磁物のキュリー点未満の温度まで降温させるように加熱するとともに、上記着磁用永久磁石により、上記被着磁物に着磁磁界を印加する。上記被着磁物は、平均結晶粒径が0.02μm以上3.59μm以下の異方性希土類鉄系磁石である。上記界磁部において、上記着磁用永久磁石は、上記着磁工程を経た上記被着磁物における極ピッチが0.3mm以上2.6mm以下となるように、配列されている。
【0014】
着磁工程では、着磁装置により、上記被着磁物に対して着磁を行う。
図1は、実施形態1にて用いる着磁装置の概略構成例を示す図である。
図2は、実施形態1にて用いる着磁装置の界磁部を示す斜視図である。
図3は、着磁後の被着磁物を示す断面図である。
図4~
図6は、実施形態1にて用いる着磁装置の動作説明図である。なお、
図3は、被着磁物のアキシャル方向を含む平面における断面図である。ここで、本明細書の各図のX方向は、実施形態1における被着磁物のラジアル方向である。Z方向は、被着磁物のアキシャル方向であり、上下方向であり、Z1方向が上方向であり、Z2方向が下方向である。
【0015】
実施形態1にて用いる着磁装置1は、
図1~
図3に示すように、被着磁物100に着磁を行い、着磁後の被着磁物(着磁後被着磁物)100’を製造する。着磁装置1は、架台部2と、移動部3と、加熱部4と、予熱部5と、界磁部6と、位置決めピン7と、冷却部8と、制御部10とを備える。
【0016】
架台部2は、着磁装置1の基部であり、少なくとも移動部3、加熱部4、予熱部5、界磁部6、位置決めピン7、冷却部8および制御部10が搭載されるものである。
【0017】
移動部3は、アキシャル方向において、被着磁物100および加熱部4を非加熱位置と加熱位置との間で相対移動させるものである。実施形態1における移動部3は、天井板31と、アクチュエータ32と、加熱部取付台33とを有する。天井板31は、アキシャル方向において、架台部2と離間して配置されており、アクチュエータ32および加熱部取付台33が固定されている。アクチュエータ32は、架台部2に対して天井板31をアキシャル方向において相対移動させるものである。アクチュエータ32は、例えば、油圧シリンダなどの直動機構であり、図示しない外部電力により電力が供給されるとともに、制御部10により駆動制御が行われる。アクチュエータ32は、架台部2と天井板31との間に、複数配置されており、例えば、2つ、4つ配置されている。加熱部取付台33は、加熱部4が固定されており、天井板31の下方向側面に固定されている。
【0018】
加熱部4は、被着磁物100に対して着磁用加熱を行う。加熱部4は、非磁性金属材料、例えば非磁性のステンレス鋼などにより構成されており、被着磁物100を構成する磁石のキュリー点以上に被着磁物100を加熱する。実施形態1における加熱部4は、円板状に形成され、上下方向における両面のうち、上方向側面が移動部3の加熱部取付台33に固定されており、下方向側面が加熱面4aである。加熱面4aは、外径が被着磁物100の外径よりも大きく形成されており、アキシャル方向において界磁部6の後述する載置面6aと対向する。つまり、加熱面4aは、アキシャル方向において、載置面6aに載置された被着磁物100と対向する。また、加熱面4aは、加熱位置において、被着磁物100と接触する。加熱部4は、1以上のヒータを有しており、図示しない外部電力により電力が供給されるとともに、制御部10により温度制御が行われる。
【0019】
予熱部5は、被着磁物100に対して予備用加熱を行う。予熱部5は、非磁性金属材料により構成されており、加熱位置となる前に、被着磁物100を構成する磁石のキュリー点未満(常温よりも高い温度)に被着磁物100を加熱する。実施形態1における予熱部5には、円柱状に形成され、界磁部6および位置決めピン7が固定される。ここで、予熱部5は、界磁部6および位置決めピン7を介して、界磁部6に載置された被着磁物100を加熱する。予熱部5は、上下方向における両面のうち、下方向側面が架台部2に固定されており、上方向側面が載置加熱面5aである。載置加熱面5aは、界磁部6の外径よりも大きく形成されており、界磁部6および位置決めピン7と接触する。予熱部5は、図示しない外部電力により電力が供給されるとともに、1以上のヒータを有しており、制御部10により温度制御が行われる。
【0020】
界磁部6は、被着磁物100に対して磁界を発生する。実施形態1における界磁部6は、被着磁物100に対してアキシャル方向に着磁を行う。界磁部6は、本体部61と、フランジ部62と、永久磁石63,64とを有する。本体部61は、非磁性金属材料により構成されており、円筒形状に形成されており、上下方向における両面のうち、下方向側面が予熱部5の載置加熱面5aに固定されており、上方向側面は被着磁物100が載置される載置面6aである。本体部61は、位置決めピン7が挿入される挿入孔6bが形成されている。フランジ部62は、本体部61の下方向側端部から径方向外側に突出して形成されている。フランジ部62は、予熱部5の載置加熱面5aに界磁部6が載置された状態で、図示しない貫通孔に固定具、例えば締結ネジなどが挿入され、固定具が予熱部5に固定されることで、予熱部5に対して界磁部6を固定する。永久磁石63,64は、本体部61の上方向側端部に埋設され、被着磁物100に対して磁界を発生する。永久磁石63,64は、例えば、矩形状のサマリウムコバルト磁石(Sm-Co磁石、キュリー温度は、通常750℃以上900℃以下)である。永久磁石63,64は、上下方向から見た場合において、本体部61の中心を中心として同心円に形成され、永久磁石63が径方向内側において、周方向に等間隔に複数配列され、永久磁石64が径方向外側において、永久磁石63に対して径方向に離間して、周方向に等間隔に複数配列される。永久磁石63,64は、上方向側及び下方向側において2つ磁極(S極、N極)を有し、周方向において、交互に磁極が異なるように、本体部61に対して埋設されている。ここでは、永久磁石63,64は、上方向側における磁極(例えば、S極)が周方向において隣り合う永久磁石63,64の上方向側における磁極と異なり(例えば、N極)、下方向側における磁極(例えば、N極)が周方向において隣り合う永久磁石63,64の下方向側における磁極と異なる(例えば、S極)。実施形態1における永久磁石63,64は、埋設される個数および周方向における厚さが異なり、周方向に配置される位置、すなわち配列ピッチが異なっている。なお、永久磁石63,64は、本体部61に対して、載置面6aに露出した状態で埋設されているが、載置面6aに露出せず、本体部61内部に埋設されていてもよい。より具体的には、界磁部6において、着磁用永久磁石63,64は、上記着磁工程を経た上記被着磁物における極ピッチが0.3mm以上2.6mm以下となるように、好ましくは0.5mm以上2.6mm以下となるように配列されている。
【0021】
位置決めピン7は、ラジアル方向における界磁部6に対する被着磁物100の位置を決めるため、被着磁物100の後述する貫通孔100cに挿入される。位置決めピン7は、界磁部6が予熱部5に固定された状態で、界磁部6の挿入孔6bに挿入されることで、予熱部5に固定される。
【0022】
冷却部8は、加熱部4により加熱された被着磁物100を冷却する。実施形態1における冷却部8は、図示しない固定部材により、架台部2に固定されており、空気を界磁部6に載置された被着磁物100に向けて出力する。冷却部8は、例えば、空冷ファンや、圧縮空気供給するコンプレッサーなどであり、加熱後の被着磁物100を自然空冷ではなく、冷却効率が高い強制空冷により冷却する。冷却部8は、図示しない外部電力により電力が供給されるとともに、制御部10により送風制御が行われる。
【0023】
制御部10は、被着磁物100に対して着磁を行うために、着磁装置1を制御する。制御部10は、移動部3、加熱部4、予熱部5および冷却部8を制御するものである。制御部10は、移動部3を駆動制御することで、界磁部6に載置された被着磁物100に対して加熱部4を非加熱位置と加熱位置との間で相対移動させる。ここで、非加熱位置とは、アキシャル方向において被着磁物100に対して加熱面4aが離間、実施形態1では加熱面4aが被着磁物100に非接触であり、かつ加熱部4による被着磁物100の加熱が行われない位置である(
図4参照)。一方、加熱位置は、アキシャル方向において被着磁物100に対して加熱面4aが近接、実施形態1では加熱面4aが被着磁物100に接触し、加熱部4による被着磁物100の加熱が行われる位置である(
図5参照)。制御部10は、加熱部4を温度制御することで、被着磁物100を構成する磁石のキュリー点以上の加熱温度となるように、加熱部4を加熱する。具体的には、実施形態1では、加熱位置となる前に、キュリー点に対してプラス30℃以上であり、350℃以下となるように加熱部4を加熱する。加熱温度は、被着磁物100を構成する磁石の磁気特性劣化を抑制できる温度である。ここで、制御部10は、加熱面4aが被着磁物100に接触する際の加熱部4による被着磁物100に対する押圧力の制御を行う。制御部10は、加熱面4aが被着磁物100に接触した際に、被着磁物100の破損を抑制できる押圧力となるように、移動部3を駆動制御する。これにより、被着磁物100の破損を抑制できるとともに、被着磁物100と加熱部4との接触状態の均一化を図れる。制御部10は、予熱部5を温度制御することで、加熱位置となる前に、被着磁物100を構成する磁石のキュリー点未満の予熱温度となるように、予熱部5を加熱する。具体的には、実施形態1では、キュリー点に対してマイナス30℃以下であり、150℃以上となるように予熱部5を加熱する。すなわち、好ましい予備温度Tの範囲はT<T
c、より好ましい予備温度Tの範囲はT≦T
c-30である。また、より具体的には、150℃≦T<T
c、さらに具体的には、150℃≦T≦T
c-30である。なお。T
cは、被着磁物100を構成する磁石のキュリー点である。制御部10は、冷却部8を温度制御することで、加熱位置から非加熱位置となった後に、加熱された被着磁物100を冷却する(
図6参照)。
【0024】
ここで、被着磁物100および着磁後被着磁物100’は、
図1、
図3に示すように、リング状に形成されており、アキシャル方向における両面である下方向側面100aと、上方向側面100bと、貫通孔100cと、外周面100dとを有する。被着磁物100は、例えば、外径が10mm以上、好ましくは、外径が15mm以上~50mm以下のリング状に形成されている。
【0025】
被着磁物100は、異方性希土類鉄系磁石を含む。異方性希土類鉄系磁石としては、希土類元素(RE)として、Ndと、Sc、Y、La、Ce、Pr、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuからなる群から選択された少なくとも1種とを含み、Bを1原子%以上12原子%以下含むRE-Fe-B系磁石が好ましい。具体的には、Nd-Fe-B系化合物(たとえばNd2Fe14B)を主相とするNd-Fe-B系合金を用いたNd-Fe-B系磁石がより好ましい。このようなNd-Fe-B系磁石によれば、磁気特性に優れた永久磁石が得られる。
【0026】
また、Nd-Fe-B系磁石において、鉄(Fe)の一部を、たとえばCo、Ni、Ga、Cu、Al、Si、Ti、MnおよびNbから選択される少なくとも1種の元素で置換してもよい。なお、Feの一部をCoで置換すると耐熱性を改善できる。Feの一部を上記元素で置換する場合、磁気特性の低下を防ぐ観点から、Feに対する置換量は50原子%未満が好ましく、35原子%以下がより好ましい。このような異方性希土類鉄系磁石を用いると、上述した着磁装置1により、強力に着磁できる。
【0027】
異方性希土類鉄系磁石は、平均結晶粒径が0.02μm以上3.59μm以下であり、0.29μm以上3.59μm未満であることがより好ましい。
【0028】
異方性希土類鉄系磁石は、磁気的に異方性を有していればよく、熱間加工磁石であっても、焼結磁石であってもよい。熱間加工磁石は、例えば、粉末粒径数十μmの多結晶粉に熱間加工を施して、配向、高密度化を行って製造される。焼結磁石は、例えば、粉末粒径数μmの単結晶粉を磁場中で冷間成形して配向させ、焼結による高密度化を経て製造される。
【0029】
被着磁物100のキュリー点(異方性希土類鉄系磁石のキュリー点)は、通常、250℃以上400℃以下である。
【0030】
実施形態1における着磁工程では、上記界磁部上に上記被着磁物を配置し、上記加熱部により、上記被着磁物を、上記被着磁物のキュリー点以上の温度且つ上記着磁用永久磁石のキュリー点未満の温度まで昇温した後、上記被着磁物のキュリー点未満の温度まで降温させるように加熱するとともに、上記着磁用永久磁石により、上記被着磁物に着磁磁界を印加する。以下に、この着磁工程について、より具体的に説明する。なお、着磁装置1は、非加熱位置となっている。また、被着磁物100は、予め製造個数に応じてリング状に成形されている。まず、制御部10は、
図1に示すように、加熱部4および予熱部5の加熱を開始する。ここでは、制御部10は、加熱部4を加熱温度まで加熱するとともに、予熱部5を予熱温度まで加熱する。次に、作業員は、アキシャル方向において、被着磁物100の貫通孔100cと位置決めピン7とを対向させた状態で、被着磁物100を下方向側に移動する(同図矢印A)。これにより、被着磁物100は、
図4に示すように、界磁部6の載置面6aに載置される。このとき、作業員は、界磁部6の載置面6aから突出する位置決めピンの上方向側端部を、被着磁物100の貫通孔100cに挿入することで、着磁装置1に対する被着磁物100の位置決めを行う。なお、被着磁物100の上方向側面100bは、加熱部4の加熱面4aとアキシャル方向において対向する。
【0031】
次に、制御部10は、被着磁物100を載置面6aに載置してから第1所定時間T1経過後に、移動部3により、非加熱位置から加熱位置に被着磁物100に対して加熱部4を移動させる(同図矢印B)。ここで、第1所定時間T1とは、加熱部4が加熱温度を維持しているとともに、載置面6aに載置された被着磁物100が界磁部6を介して予熱部5から受熱することで、被着磁物100が常温よりも高く且つキュリー点未満の温度になるまでに十分な時間をいう。つまり、制御部10は、非加熱位置において、加熱部4が加熱温度であるとともに、被着磁物100が予熱されてから、被着磁物100に対して加熱部4を加熱位置に移動させる。そして、被着磁物100に加熱面4aを接触させた状態で、予熱された被着磁物100の加熱を開始する。なお、制御部10は、移動部3により、非加熱位置から加熱位置に被着磁物100に対して加熱部4が移動すると、予熱部5に対する加熱を終了、すなわち温度制御をOFFとする。次に、制御部10は、
図5に示すように、被着磁物100に加熱面4aを接触させた状態で、被着磁物100をキュリー点以上となるまで加熱をする。すなわち、被着磁物100を、キュリー点以上であり、且つ、着磁用永久磁石のキュリー点未満の温度となるまで加熱をする。次に、制御部10は、加熱位置において、被着磁物100の加熱を開始してから第2所定時間T2経過後に、移動部3により、加熱位置から非加熱位置に被着磁物100に対して加熱部4を移動させる(同図矢印C)。ここで、第2所定時間T2とは、被着磁物100がキュリー点以上となるまでに十分な時間をいう。
【0032】
次に、制御部10は、
図6に示すように、非加熱位置において、被着磁物100に対して冷却部8により冷却を行う。次に、制御部10は、非加熱位置において、冷却部8による冷却を開始してから第3所定時間T3経過後に、冷却部8による冷却を終了する。ここで、第3所定時間T3とは、被着磁物100がキュリー点以上からキュリー点未満、好ましくは、キュリー点マイナス50℃、より好ましくは、キュリー点よりも50℃以上低い温度となるまでに十分な時間をいう。
【0033】
次に、作業員は、着磁された被着磁物100’を取り出す。着磁装置1により、被着磁物100に新たに着磁を行う場合、制御部10は、既に加熱部4は加熱されているので、予熱部5の加熱を開始する。
【0034】
以上のように、実施形態1の製造方法では、被着磁物100をキュリー点未満からキュリー点以上(且つ着磁用永久磁石のキュリー点未満)に昇温し、界磁部6により着磁磁界を印加された状態のまま、キュリー点以上からキュリー点未満に降温する。これにより、被着磁物100に対して着磁を行い、被着磁物100から、
図3に示す着磁後被着磁物100’(永久磁石)を製造する。着磁後被着磁物100’は、界磁部6の永久磁石63,64にそれぞれ対応した領域に着磁が行われる。着磁後被着磁物100’は、各永久磁石63に対応する着磁領域101および各永久磁石64に対応する着磁領域102が形成、すなわち少なくとも下方向側面100aにおいて、リング状に2列の多極着磁された永久磁石である。
【0035】
実施形態1の製造方法によれば、磁気的に異方性を有する希土類鉄系磁石に対して多極着磁を行っても、高い着磁特性を有する永久磁石が得られる。具体的には、実施形態1の製造方法により得られた着磁後被着磁物100’は、極ピッチが0.3mm以上2.6mm以下であり、好ましくは0.5mm以上2.6mm以下である。狭い極ピッチの場合も高い着磁特性を示す。ここで、リング状の着磁後被着磁物100’における極ピッチは、センシングなど実際に用いる位置における隣接する極間の円弧長さである。なお、センシングなど実際に用いる位置は、通常、着磁後被着磁物100’が表すリングの中心から2.5mm以上42.5mm以下である。一方、従来のパルス着磁によって、上記被着磁物を用いて、上記ピッチを有する着磁後被着磁物を作製する場合は、実施形態1の製造方法に比較して、着磁特性は低くなる。
【0036】
なお、着磁後の被着磁物100’は、加熱部4により、被着磁物100をアキシャル方向において加熱、すなわち加熱面4aと被着磁物100の上方向側面100bとを対向させて加熱するため、アキシャル方向における両面のうち、一方の面である上方向側面100bがラジアル方向における外周面100dに対して酸化被膜の膜厚が厚くなる。結果として、着磁後の被着磁物100’は、外周面100dよりも上方向側面100bにおいてNd量が増大し、Ndの偏析が多く生じることが確認できる。
【0037】
実施形態1の製造方法では、加熱位置において非加熱位置よりも、アキシャル方向において被着磁物100に対して加熱部4の加熱面4aが近接することで、アキシャル方向において加熱部4により被着磁物100の加熱が行われる。従って、加熱部4により、被着磁物100をラジアル方向、すなわち加熱面4aと被着磁物100の外周面100dとを対向させて加熱する場合と比較して、被着磁物100をアキシャル方向、すなわち加熱面4aと被着磁物100の上方向側面100bとを対向させて加熱する場合は、被着磁物100に対する加熱ムラを抑制でき、被着磁物100に対する加熱の不均質を抑制できる。特に、大きい被着磁物100は、小さい被着磁物100よりも熱容量が大きい。小さい被着磁物100は、熱し易く、冷め易いため、被着磁物100での温度分布に偏りが生じ難いが、被着磁物が大きく、例えば大径になると、被着磁物100に加熱の不均質が生じ易くなる。大きい被着磁物100の場合において、加熱の不均質の発生を抑制するために、加熱温度をさらに高温にしたり、または第2所定時間T2を長くしたりすることも可能であるが、被着磁物100を構成する磁石の磁気特性劣化が生じる虞がある。しかしながら、実施形態1の製造方法では、大きい被着磁物100であっても、被着磁物100をアキシャル方向、すなわち加熱面4aと被着磁物100の上方向側面100bとを対向させて加熱するので、加熱温度が高温でなくても、また、第2所定時間T2が長くなくても、被着磁物100に対する加熱の不均質を抑制することができる。これにより、界磁部6により着磁磁界を印加された状態における被着磁物100の温度不均一を抑制することができるので、被着磁物100の着磁特性の均一性を図れる。
【0038】
<実施形態2の製造方法>
実施形態2の永久磁石の製造方法は、被着磁物に対して磁界を発生する着磁用永久磁石が等間隔に複数配列される界磁部と、上記被着磁物のアキシャル方向において上記被着磁物と対向する加熱面を有し、上記被着磁物を加熱する加熱部とを有する着磁装置により、上記被着磁物に対して着磁を行う着磁工程を含む。上記着磁工程において、上記界磁部上に上記被着磁物を配置し、上記加熱部により、上記被着磁物を、上記被着磁物のキュリー点以上の温度且つ上記着磁用永久磁石のキュリー点未満の温度まで昇温した後、上記被着磁物のキュリー点未満の温度まで降温させるように加熱するとともに、上記着磁用永久磁石により、上記被着磁物に着磁磁界を印加する。上記被着磁物は、熱間加工により得られた異方性希土類鉄系磁石である。上記界磁部において、上記着磁用永久磁石は、上記着磁工程を経た上記被着磁物における極ピッチが0.3mm以上3.1mm以下となるように、配列されている。
【0039】
以下、実施形態2の製造方法について、実施形態1の製造方法と異なる点について説明し、同じ点については説明を省略または簡略化する。実施形態2の製造方法に用いる着磁装置は、実施形態1で用いる着磁装置1とは、界磁部が異なる。実施形態2に用いる界磁部においては、着磁用永久磁石(具体的には、永久磁石63,64)は、上記着磁工程を経た上記被着磁物における極ピッチが0.3mm以上3.1mm以下となるように、好ましくは0.5mm以上3.1mm以下となるように配列されている。
【0040】
実施形態2では、被着磁物に含まれる異方性希土類鉄系磁石は、磁気的に異方性を有しており、熱間加工により得られる。熱間加工磁石は、例えば、粉末粒径数十μmの多結晶粉に熱間加工を施して、配向、高密度化を行って製造される。実施形態2で用いる異方性希土類鉄系磁石は、平均結晶粒径が0.02μm以上0.5μm以下であることが好ましい。被着磁物のキュリー点(異方性希土類鉄系磁石のキュリー点)は、通常、250℃以上400℃以下である。
【0041】
実施形態2の製造方法によっても、磁気的に異方性を有する希土類鉄系磁石に対して多極着磁を行っても、高い着磁特性を有する永久磁石が得られる。具体的には、実施形態2の製造方法により得られた着磁後被着磁物は、極ピッチが0.3mm以上3.1mm以下であり、好ましくは0.5mm以上3.1mm以下である。狭い極ピッチの場合も高い着磁特性を示す。ここで、リング状の着磁後被着磁物における極ピッチは、センシングなど実際に用いる位置における隣接する極間の円弧長さである。一方、従来のパルス着磁によって、上記被着磁物を用いて、上記ピッチを有する着磁後被着磁物を作製する場合は、実施形態2の製造方法に比較して、着磁特性は低くなる。
【0042】
<変形例1>
実施形態1、2の製造方法に対して、着磁装置を下記の着磁装置に変更して行ってもよい。
図7は、変形例1にて用いる着磁装置の概略構成例を示す図である。
図8~
図10は、変形例1にて用いる着磁装置の動作説明図である。ここで、本明細書の各図のX方向は、変形例1における被着磁物のラジアル方向である。Z方向は、被着磁物のアキシャル方向であり、上下方向であり、Z1方向が上方向であり、Z2方向が下方向である。
【0043】
変形例1にて用いる着磁装置1が実施形態1,2にて用いる着磁装置1と異なる点は、界磁部6に非磁性材料からなるスペーサ11を載置し、スペーサ11が界磁部6と被着磁物100との間に介装した構成となる点である。また、被着磁物100がスペーサ11を介して界磁部6により着磁される点が異なる。なお、変形例1にて用いる着磁装置1の基本的構成は、実施形態1,2にて用いる着磁装置1の基本的構成と同一であるため、同一符号の構成について省略または簡略化して説明する。
【0044】
スペーサ11は、界磁部6の載置面6aに載置され、界磁部6と被着磁物100との間に介装される部材である。スペーサ11は、例えば、非磁性金属材料でリング状に形成されている。非磁性金属材料で薄くできる材料として、例えば、非磁性のステンレス鋼、チタン合金、真鍮などが挙げられ、スペーサ11は、これらにより構成されていることが好ましい。なお、加熱されるため、350℃°以上の耐熱性を有していれば、非磁性金属材料に限定されない。例えば、非磁性のセクラミックスでもよい。
【0045】
このスペーサ11の外径は、界磁部6の載置面6aと同じである。また、スペーサ11のアキシャル方向の厚さは0.7mm以下に形成されていることが好ましく、0.3mm以下に形成されていることがより好ましい。スペーサ厚は、0.7mmよりも大きくなると、被着磁物を着磁(磁化)することが難しくなる場合がある。この非磁性金属材料のスペーサ11を界磁部6と被着磁物100との間に介装することによって、被着磁物100に着磁した後、着磁された被着磁物100’と界磁部6との間の吸着力を低減できる。この結果、被着磁物100’を界磁部6から容易に取り去ることができる。さらに、被着磁物100’を界磁部6から取り去る際、被着磁物100’の一部に欠けが生じることや、被着磁物100’のエッジで、界磁部6の載置面6aに露出する永久磁石であるSm-Co磁石を傷付けることを防止できる。
【0046】
次に、変形例1における着磁装置1による着磁工程について説明する。なお、着磁装置1は、非加熱位置となっている。まず、制御部10は、
図8に示すように、加熱部4および予熱部5の加熱を開始する。ここでは、制御部10は、加熱部4を加熱温度まで加熱するとともに、予熱部5を予熱温度まで加熱する。次に、作業員は、アキシャル方向において、被着磁物100の貫通孔100cと位置決めピン7とを対向させた状態で、被着磁物100を下方向側に移動する(同図矢印A)。これにより、被着磁物100は、
図8に示すように、位置決めピン7に挿入されて界磁部6の載置面6aに載置されたスペーサ11上に、載置される。このとき、作業員は、界磁部6の載置面6aおよびスペーサ11から突出する位置決めピンの上方向側端部を、被着磁物100の貫通孔100cに挿入することで、着磁装置1に対する被着磁物100の位置決めを行う。
【0047】
次に、制御部10は、被着磁物100が載置面6a上のスペーサ11に載置してから第1所定時間T1経過後に、移動部3により、非加熱位置から加熱位置に被着磁物100に対して加熱部4を移動させる(同図矢印B)。ここで、第1所定時間T1とは、加熱部4が加熱温度を維持しているとともに、スペーサ11に載置された被着磁物100が界磁部6およびスペーサ11を介して予熱部5から受熱することで、被着磁物100が常温よりも高いキュリー点未満の温度にすることができるまでに十分な時間をいう。つまり、制御部10は、非加熱位置において、加熱部4が加熱温度であるとともに、被着磁物100が予熱されてから、被着磁物100に対して加熱部4を加熱位置に移動させる。そして、被着磁物100に加熱面4aを接触させた状態で、予熱された被着磁物100の加熱を開始する。なお、制御部10は、移動部3により、非加熱位置から加熱位置に被着磁物100に対して加熱部4が移動すると、予熱部5に対する加熱を終了、すなわち温度制御をOFFとする。次に、制御部10は、
図9に示すように、被着磁物100に加熱面4aを接触させた状態で、被着磁物100をキュリー点以上となるまで加熱をする。すなわち、被着磁物100を、キュリー点以上であり、且つ、着磁用永久磁石のキュリー点未満の温度となるまで加熱をする。次に、制御部10は、加熱位置において、被着磁物100の加熱を開始してから第2所定時間T2経過後に、移動部3により、加熱位置から非加熱位置に被着磁物100に対して加熱部4を移動させる(同図矢印C)。ここで、第2所定時間T2とは、被着磁物100がキュリー点以上となるまでに十分な時間をいう。
【0048】
次に、制御部10は、
図10に示すように、非加熱位置において、被着磁物100に対して冷却部8により冷却を行う。次に、制御部10は、非加熱位置において、冷却部8による冷却を開始してから第3所定時間T3経過後に、冷却部8による冷却を終了する。ここで、第3所定時間T3とは、被着磁物100がキュリー点以上からキュリー点未満、好ましくは、キュリー点マイナス50℃となるまでに十分な時間をいう。
【0049】
次に、作業員は、着磁された被着磁物100’を取り出す。上述のように、スペーサ11が界磁部6と被着磁物100’との間に介装されているため、被着磁物100’を界磁部6から容易に取り去ることができる。さらに、被着磁物100’の一部に欠けが生じることや、界磁部6の載置面6aに露出する永久磁石であるSm-Co磁石を傷付けることを防止できる。
【0050】
変形例1の製造方法によれば、実施形態1,2と同様に、磁気的に異方性を有する希土類鉄系磁石に対して多極着磁を行っても、高い着磁特性を有する永久磁石が得られる。具体的には、実施形態1と同様の被着磁物を用いると、得られる着磁後被着磁物は、極ピッチが0.3mm以上2.6mm以下であり、好ましくは0.5mm以上2.6mm以下である。なお、この場合は、界磁部において、上記着磁用永久磁石は、上記着磁工程を経た上記被着磁物における極ピッチが上記範囲となるように、配列されている。あるいは、実施形態2と同様の被着磁物を用いると、得られる着磁後被着磁物は、極ピッチが0.3mm以上3.1mm以下であり、好ましくは0.5mm以上3.1mm以下である。なお、この場合も、界磁部において、上記着磁用永久磁石は、上記着磁工程を経た上記被着磁物における極ピッチが上記範囲となるように、配列されている。
【0051】
<変形例2>
実施形態1,2の製造方法では、被着磁物100に対してアキシャル方向に着磁を行う場合について説明したが、これに限定されるものではなく、ラジアル方向に着磁を行ってもよい。
図11は、変形例2にて用いる着磁装置の概略構成例を示す図である。
図12は、変形例2にて用いる着磁装置の界磁部を示す斜視図である。
【0052】
変形例2にて用いる着磁装置1が実施形態1,2にて用いる着磁装置1と異なる点は、界磁部9が被着磁物100に対してラジアル方向に着磁を行う構成である点である。また、予熱部5が界磁部9を介して、すなわち間接的に被着磁物100に予熱を行うのではなく、直接予熱を行う点が異なる。なお、変形例2にて用いる着磁装置1の基本的構成は、実施形態1,2にて用いる着磁装置1の基本的構成と同一であるため、同一符号の構成について省略または簡略化して説明する。
【0053】
加熱部4は、本体部41と突出部42とを有する。本体部41は、円板状に形成され、上下方向における両面のうち、上方向側面が移動部3の加熱部取付台33に固定されており、下方向側面から突出部42が下方向に突出して形成されている。突出部42は、上下方向における下方向側面が加熱面4aである。加熱面4aは、界磁部9の挿入孔9bの径よりも小さい径で構成されている。
【0054】
予熱部5は、上方向側面が載置加熱面5aであり、2段に形成されている。載置加熱面5aのうち、上方向側の1段目において被着磁物100が載置加熱され、下方向側の2段目において界磁部9が載置加熱される。
【0055】
界磁部9は、被着磁物100に対して磁界を発生する。変形例2における界磁部9は、被着磁物100に対してラジアル方向に着磁を行い、本体部91と、フランジ部92と、永久磁石93とを有する。本体部91は、非磁性金属材料により構成されており、円筒形状に形成されており、上下方向における両面のうち、下方向側面が予熱部5の載置加熱面5aの2段目に固定されており、上方向側面9aが天井板31とアキシャル方向において対向している。本体部91は、被着磁物100が挿入される挿入孔9bが形成されている。フランジ部92は、本体部91の下方向側端部から径方向外側に突出して形成されている。フランジ部92は、予熱部5の載置加熱面5aの2段目に界磁部9が載置された状態で、図示しない貫通孔に固定具、例えば締結ネジなどが挿入され、固定具が予熱部5に固定されることで、予熱部5に対して界磁部9を固定する。永久磁石93は、径方向において本体部91の挿入孔9b側に埋設され、被着磁物100に対して磁界を発生し、例えば、矩形状のSm-Co磁石である。永久磁石93は、上下方向から見た場合において、本体部91の中心を中心として同心円に形成され、周方向に等間隔に複数配列される。永久磁石93は、径方向内側および径方向外側において2つ磁極(S極、N極)を有し、周方向において、交互に磁極が異なるように、本体部91に対して埋設されている。ここでは、永久磁石93は、径方向内側における磁極(例えば、S極)が周方向において隣り合う永久磁石93の径方向内側における磁極と異なり(例えば、N極)、径方向外側における磁極(例えば、N極)が周方向において隣り合う永久磁石93の径方向外側における磁極と異なる(例えば、S極)。なお、永久磁石93は、本体部91において、挿入孔9bに露出した状態で埋設されているが、挿入孔9bに露出せず、本体部91内部に埋設されていてもよい。
【0056】
次に、変形例2における着磁装置1による着磁工程について説明する。なお、実施形態1,2における着磁装置1による着磁工程と同一の部分は、省略または簡略化して説明する。まず、制御部10は、加熱部4および予熱部5の加熱を開始する。次に、作業員は、アキシャル方向において、被着磁物100と界磁部9の挿入孔9bとを対向させた状態で、被着磁物100を下方向側に移動し、被着磁物100を界磁部9の挿入孔9bに挿入し、予熱部5の載置加熱面5aの1段目に載置する。このとき、作業員は、被着磁物100を挿入孔9bに挿入することで、着磁装置1に対する被着磁物100の位置決めを行う。なお、被着磁物100は、外周面100dが径方向、すなわちラジアル方向において界磁部9と対向し、上方向側面100bが加熱部4の加熱面4aとアキシャル方向において対向する。
【0057】
次に、制御部10は、被着磁物100が載置加熱面5aに載置してから第1所定時間T1経過後に、移動部3により、非加熱位置から加熱位置に被着磁物100に対して加熱部4を移動させ、予熱された被着磁物100の加熱を開始し、加熱位置において、被着磁物100の加熱を開始してから第2所定時間T2経過後に、移動部3により、加熱位置から非加熱位置に被着磁物100に対して加熱部4を移動させる。制御部10は、非加熱位置において、被着磁物100に対して冷却部8により冷却を行い、非加熱位置において、冷却部8による冷却を開始してから第3所定時間T3経過後に、冷却部8による冷却を終了する。次に、作業員は、着磁された被着磁物100’を取り出す。
【0058】
以上のように、変形例2の製造方法では、被着磁物100をキュリー点未満からキュリー点以上(且つ着磁用永久磁石のキュリー点未満)に昇温し、界磁部9により着磁磁界を印加された状態のまま、キュリー点以上からキュリー点未満に降温する。これにより、被着磁物100に対して着磁を行い、被着磁物100から着磁後被着磁物(永久磁石)を製造する。着磁後被着磁物は、界磁部9の永久磁石93にそれぞれ対応した領域に着磁が行われる。変形例2における着磁後被着磁物は、各永久磁石93に対応する着磁領域が形成、すなわち少なくとも外周面100dにおいて、1列の多極着磁された永久磁石である。
【0059】
変形例2の製造方法によれば、実施形態1,2と同様に、磁気的に異方性を有する希土類鉄系磁石に対して多極着磁を行っても、高い着磁特性を有する永久磁石が得られる。具体的には、実施形態1と同様の被着磁物を用いると、得られる着磁後被着磁物は、極ピッチが0.3mm以上2.6mm以下であり、好ましくは0.5mm以上2.6mm以下である。なお、この場合は、界磁部において、上記着磁用永久磁石は、上記着磁工程を経た上記被着磁物における極ピッチが上記範囲となるように、配列されている。あるいは、実施形態2と同様の被着磁物を用いると、得られる着磁後被着磁物は、0.3mm以上3.1mm以下であり、好ましくは0.5mm以上3.1mm以下である。なお、この場合も、界磁部において、上記着磁用永久磁石は、上記着磁工程を経た上記被着磁物における極ピッチが上記範囲となるように、配列されている。ここで、リング状の着磁後被着磁物における極ピッチは、上方向側面100bの周方向における隣接する極間の円弧長さである。
【0060】
なお、上記実施形態および変形例においては、加熱部4が加熱位置となる前に加熱温度に到達しているがこれに限定されるものではなく、非加熱位置において加熱温度よりも低い待機温度に加熱しておき、加熱位置において、被着磁物100に加熱面4aが接触した状態で待機温度から加熱温度まで昇温してもよい。
【0061】
上記実施形態および変形例においては、被着磁物はリング形状であるが、これに限らず、棒状であってもよい。この場合は、着磁装置の界磁部の形状も棒状とすることで、棒状の着磁後被着磁物が得られる。
【0062】
[実施例]
[計算モデル]
計算モデルとして、外径Φ10mm/内径Φ1.0mm(肉厚4.5mm)のリング磁石に対する外周からの多極着磁を想定した。
表1のように、着磁極数(60極~10極)を設定して極ピッチ(0.5mm~3.1mm)を決めた。
【0063】
【0064】
それぞれについて、下記式で表される着磁指数を算出した。
着磁指数[-]=各着磁ピッチ時の表面磁束の最大値[mT]/被着磁磁石の残留磁気分極Jr[T]
なお、上記式で算出した着磁指数の値が大きいほど、着磁特性に優れるといえる。
また、被着磁物の材料ごと、実測した着磁率を用いて補正を行った。
【0065】
[実験例1-1]
実験例1-1では、実施形態1で説明した永久磁石の製造方法の場合について、着磁指数を算出した。
具体的には、下記の場合について、着磁指数を算出した。
着磁装置:
図1に示す着磁装置。ただし、界磁部において、
図2における永久磁石63は配列されておらず、永久磁石64のみが配列されている場合を想定した。
着磁用永久磁石:サマリウムコバルト磁石(Sm-Cо磁石)。
着磁条件:330℃(キュリー点+15℃の温度)まで昇温し、150℃(キュリー点-50℃よりも低い温度)まで降温させる間、着磁磁界を印加した場合を想定。
被着磁物:平均結晶粒径0.29μm、1.50μm、2.50μm、3.59μm、5.37μm、6.23μmの異方性希土類鉄系磁石(Nd-Fe-B系磁石)を含む被着磁物を想定。
【0066】
[実験例1-2]
実験例1-2では、従来のパルス着磁による永久磁石の製造方法の場合について、着磁指数を算出した。
着磁治具:計算に必要な着磁治具寸法は、経験的に妥当な数値を設定。
着磁条件:一般的な生産条件(最大値)として、電流密度16kA/mm2に設定。
被着磁物:平均結晶粒径0.29μm、1.50μm、2.50μm、3.59μm、5.37μm、6.23μmの異方性希土類鉄系磁石(Nd-Fe-B系磁石)を含む被着磁物を想定。
【0067】
実験例1-1、1-2について、極ピッチごとに、平均結晶粒径に対する算出した着磁指数の値をまとめた。すなわち、
図13~
図19は、極ピッチ0.5mm、0.8mm、1.0mm、1.6mm、2.0mm、2.6mm、3.1mmのときについて、平均結晶粒径に対する着磁指数の算出値を示した図である。
これらの図から、
図1に示す着磁装置を用いた永久磁石の製造方法において、従来のパルス着磁による永久磁石の製造方法に比較して、下記条件1、2を満たす場合に、特に優れた着磁特性を示すことが分かる。
条件1「界磁部の着磁用永久磁石は、着磁工程を得た被着磁物における極ピッチが0.3mm以上2.6mm以下、好ましくは0.5mm以上2.6mm以下となるように配列されていること」
条件2「被着磁物の平均結晶粒径が0.02μm以上3.59μm以下、好ましくは0.29μm以上3.59μm未満の異方性希土類鉄系磁石であること」
【0068】
[実験例2-1]
実験例2-1では、実施形態2で説明した永久磁石の製造方法の場合について、着磁指数を算出した。
具体的には、下記の場合について、着磁指数を算出した。
着磁装置:
図1に示す着磁装置。ただし、界磁部において、
図2における永久磁石63は配列されておらず、永久磁石64のみが配列されている場合を想定した。
着磁用永久磁石:サマリウムコバルト磁石(Sm-Cо磁石)。
着磁条件:330℃(キュリー点+15℃の温度)まで昇温し、150℃(キュリー点-50℃よりも低い温度)まで降温させる間、着磁磁界を印加した場合を想定。
被着磁物:熱間加工磁石(平均結晶粒径0.29μm)の異方性希土類鉄系磁石(Nd-Fe-B系磁石)を含む被着磁物を想定。
【0069】
[実験例2-2]
実験例2-2では、従来のパルス着磁による永久磁石の製造方法の場合について、着磁指数を算出した。
着磁治具:計算に必要な着磁治具寸法は、経験的に妥当な数値を設定。
着磁条件:一般的な生産条件(最大値)として、電流密度16kA/mm2に設定。
被着磁物:熱間加工磁石(平均結晶粒径0.29μm)の異方性希土類鉄系磁石(Nd-Fe-B系磁石)を含む被着磁物を想定。
【0070】
実験例2-1、2-2について、極ピッチに対する算出した着磁指数の値をまとめた。すなわち、
図20は、極ピッチに対する着磁指数の算出値を示した図である。
この図から、
図1に示す着磁装置を用いた永久磁石の製造方法において、従来のパルス着磁による永久磁石の製造方法に比較して、下記条件1、2を満たす場合に、特に優れた着磁特性を示すことが分かる。
条件1「界磁部の着磁用永久磁石は、着磁工程を得た被着磁物における極ピッチが0.3mm以上3.1mm以下、好ましくは0.5mm以上3.1mm以下となるように配列されていること」
条件2「熱間加工により得られた異方性希土類鉄系磁石であること」
【0071】
なお、
図20には、実測値も併せて示した。具体的には、実験例2-1については、極ピッチ0.5mm、0.8mmのときの実測値、実験例2-2については、極ピッチ1.6mm、2.0mmのときの実測値も併せて示した。計算モデルによって得られた算出値は、実測値と高い相関を示すことが分かる。
【符号の説明】
【0072】
1 着磁装置、2 架台部、3 移動部、4 加熱部、4a 加熱面、5 予熱部、6 界磁部、63,64 永久磁石、7 位置決めピン、8 冷却部、9 界磁部、10 制御部、11 スペーサ、100 被着磁物、100’ 着磁後の被着磁物、100b 上方向側面(一方の面)