(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022183432
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】電池用電解質組成物及び電池
(51)【国際特許分類】
H01M 14/00 20060101AFI20221206BHJP
H01L 37/00 20060101ALN20221206BHJP
【FI】
H01M14/00 Z
H01L37/00
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021090744
(22)【出願日】2021-05-31
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-11-10
(71)【出願人】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】今野 隆寛
【テーマコード(参考)】
5H032
【Fターム(参考)】
5H032CC16
5H032EE03
5H032EE04
5H032HH02
(57)【要約】
【課題】
電解液含有量が高く保持できる電池用電解質組成物と、高い出力が得られ、熱安定性に優れた電池を提供すること。
【解決手段】
上記課題は、酸性基及びその中和基を有する樹脂と、レドックス対を含む電解質とを含有し、25℃におけるpHが3以上9以下であり、好ましくは、レドックス対が、ヨウ化物イオンと三ヨウ化物イオン、鉄(II)イオンと鉄(III)イオン、及びコバルト(II)イオンとコバルト(III)イオンからなる群から選択された少なくとも1対を含有し、酸性基及びその中和基を有する樹脂が、(メタ)アクリル酸に由来する単量体単位を含む重合体を含有する電池用電解質組成物によって解決される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性基及びその中和基を有する樹脂と、レドックス対を含む電解質とを含有し、25℃におけるpHが3以上9以下である電池用電解質組成物。
【請求項2】
前記レドックス対が、ヨウ化物イオンと三ヨウ化物イオン、鉄(II)イオンと鉄(III)イオン、及びコバルト(II)イオンとコバルト(III)イオンからなる群から選択された少なくとも1対を含有する請求項1記載の電池用電解質組成物。
【請求項3】
前記酸性基及びその中和基を有する樹脂が、(メタ)アクリル酸に由来する単量体単位を含む重合体を含有する請求項1又は2記載の電池用電解質組成物。
【請求項4】
請求項1~3いずれか記載の電池用電解質組成物を具備してなる電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池用電解質組成物及び電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、IoTセンサー技術の発達により独立電源の開発が急がれており、特に、排熱を利用した熱電変換型の電池が注目されている。熱電変換型電池は異種金属接合体無機系電池が主流であるが、ゼーベック係数が低いという欠点があった。一方で、近年、イオンの酸化還元を利用したゼーベック係数の高い有機系の熱電変換型電池が注目されている。
【0003】
非特許文献1では、耐熱性を付与するためにイオン液体電解液を用いた有機系熱電変換システムを報告している。しかし、いずれも水電解液と比較し、電池として用いた際の電圧出力が劣るという問題があった。
【0004】
特許文献1では、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)/ポリスチレンスルホン酸(PSS)、フェロシアン化物イオン/フェリシアン化物イオンを利用したコイン型電池において、40Kの温度差で約11μWの高い出力が報告されている。しかし、電解質が水溶液であるため、水の揮発に伴い出力が大きく低下する懸念があった。
【0005】
特許文献2には、水の揮発を抑制し、高い出力を出すために電解質を樹脂に含有させたゲル電解質として、ヒドロキシアルキルセルロース樹脂の立体構造中に電解液が保持されているゲル電解質が開示されている。しかし、電解液保持性が低く加熱により水が揮発し易いため、熱電変換型電池には不向きであった。
【0006】
一般に、高分子が水を内包しゲルを形成する熱力学的原理として、三次元的高分子内外の浸透圧差によって水が三次元高分子内に流入することが知られている。この解釈に従うと、低分子やイオン濃度が高い高分子は水吸収性が高くなると考えられる。また、内包させる液体が電解質を含む電解液である場合には、浸透圧差が小さくなる、もしくは浸透方向が逆になり電解液の吸収性が悪くなることが予測される。
【0007】
一方で、吸収性向上のために高分子内にイオンを多く含有すると、ナトリウムイオン電池として知られているように、電極付近でレドックス対と同時にイオンの還元反応が生じ、熱電変換型電池としての性能が低下することが考えられる。また、ゲルは樹脂間の相互作用により三次元構造が容易に変化するため、温度やpHなどの外部刺激により相転移現象が生じ体積変化することが知られている。使用温度範囲内で相転移が生じ体積変化が起こると、電極との間に空隙が発生し電池出力が低下してしまうことが予測される。
【0008】
体積変化、特に加熱による膨張を抑制するためには樹脂同士を強固に架橋させることが有効だと考えられる。しかし、強固な架橋は電解液の吸収性が悪化する。特許文献3には、ヒドロキシル基を有する化合物とイソシアネート基を有する化合物とを反応させてなる三次元架橋構造に電解質を保持させ、電解液の液漏れを改善した電解質が報告されている。しかし、強固な化学架橋が多く含まれ複雑な編み目構造を形成しているため、イオン伝導度が低く、電池に用いるには不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開WO2018/079325
【特許文献2】特開2014-197661号公報
【特許文献3】特開2005―294020号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】“Seebeck coefficients in ionic Liquids prospects for thermo-electrochemical cell", T.J.Abraham, et al., Chem. Commun., 47, (2011) pp.6260-6262.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
背景技術に記載した材料や技術を使用した場合、上で述べたような問題がある。そこで、本発明が解決しようとする課題は、電解液含有量が高く保持できる電池用電解質組成物と、高い出力が得られ、熱安定性に優れた電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明に至った。
すなわち、本発明は、酸性基及びその中和基を有する樹脂と、レドックス対を含む電解質とを含有し、25℃におけるpHが3以上9以下である電池用電解質組成物に関する。
【0013】
また、本発明は、上記レドックス対が、ヨウ化物イオンと三ヨウ化物イオン、鉄(II)イオンと鉄(III)イオン、及びコバルト(II)イオンとコバルト(III)イオンからなる群から選択された少なくとも1対を含有する上記電池用電解質組成物に関する。
【0014】
また、本発明は、酸性基及びその中和基を有する樹脂が、(メタ)アクリル酸に由来する単量体単位を含む重合体を含有する上記電池用電解質組成物に関する。
【0015】
また、本発明は、上記電池用電解質組成物を具備してなる電池に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、電解液含有量が高く保持できる電池用電解質組成物と、高い出力が得られ、熱安定性に優れた電池を提供できるようになった。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、詳細に本発明について説明する。尚、本明細書では、特に断りがない限り「%」は「質量%」を示す。また、数値範囲において「○○以上、××以下」を「○○~××」と表記する。また、「(メタ)アクリル」とはアクリル及びメタクリルを、「(メタ)アクリロイル」とはアクリロイル及びメタクリロイルを、「(メタ)アクリレート」とはアクリレート及びメタクリレートを意味する。尚、特に断りのない限り、「部」は「質量部」、「%」は「質量%」を表す。また、「電池用電解質組成物」を「電解質組成物」と略記することがある。
【0018】
<酸性基及びその中和基を有する樹脂>
まず、本明細書における酸性基及びその中和基を有する樹脂について説明する。本明細書における酸性基及びその中和基を有する樹脂とは、分子内に酸性基及びその中和基をそれぞれ1つ以上有する樹脂を指す。酸性基を有することで、樹脂同士が結合し、加熱した際の体積膨張が抑制でき、電池の熱安定性が向上する。さらに、酸性基を塩基で中和して生成される中和基を有することで、電解液吸収性が向上する。水素結合性の観点から、酸性基及びその中和基を有する樹脂は、カルボキシル基及びその中和基を有する樹脂であることが好ましい。酸性基及びその中和基を有する樹脂は、(メタ)アクリル酸に由来する単量体単位を含む重合体を含有することが好ましい。
【0019】
酸性基及びその中和基との比率は、酸性基/中和基(mol比)が、0.005~11.5であることが好ましく、0.005~3であることがより好ましく、0.005~0.6であることがさらに好ましい。mol比が0.005以上あることで体積膨張が抑制され、11.5以下であることで電解液吸収性が良化する。mol比は酸性基の中和量で調整することができる。
【0020】
酸性基を有する樹脂は、酸性基を有する単量体を重合させて得ることができる。酸性基を有する単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、フタル酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、p-カルボキシベンジル(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性(付加モル数:2~18)フタル酸(メタ)アクリレート、フタル酸モノヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、コハク酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、β- カルボキシエチル(メタ)アクリレート、2-(4-ベンゾイル-3-ヒドロキシフェノキシ)エチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。モノ(メタ)アクリレート以外の酸性基を有する単量体としては、スチレンスルホン酸、マレイン酸、モノエチルマレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、フマル酸が挙げられる。これら酸性基を有する単量体は、かかる例示のみに限定されるものではなく、それぞれ単独で用いても良く、2種類以上併用してもよい。
【0021】
酸性基及びその中和基を有する樹脂は、電解質組成物中、1~20%含まれることが好ましく、1~15%であることがより好ましく、さらに1~10%であることがより好ましい。1%以上含まれることでゲル形状が維持されやすく耐久性が向上する。20%以下であることで電池性能が向上する。
【0022】
(メタ)アクリル酸に由来する単量体の中でも、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸塩及び(メタ)アクリル酸カルボキシラートから選ばれるいずれかの単量体を含むことが好ましい。重合体中にこれらの単量体を含むことで、水との親和性が良化し、ハイドロゲルを形成しやすくなる。
【0023】
酸性基及びその中和基を有する樹脂中、(メタ)アクリル酸に由来する単量体は、60~100%含むことが好ましく、70~100%含むことがより好ましく、80~100%含むことがさらに好ましい。この範囲にあることでゲルの電解液保持性が向上する。
【0024】
酸性基及びその中和基を有する樹脂は、(メタ)アクリル酸に由来する単量体以外に、その他単量体と共重合させても得ることができる。その他単量体と共重合させることで、耐久性、柔軟性、密着性などを向上させることができる。
【0025】
その他単量体としては、例えば、アルキル(メタ)アクリレートとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、2-エチルへキシル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、tert-ブチルヘキシル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。シクロアルキル(メタ)アクリレートとしては、シクロヘキシル(メタ)アクリレートなどのシクロアルキル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0026】
ヒドロキシ(メタ)アクリレートとしては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートのε-カプロラクトン1モル付加物、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートのε-カプロラクトン2モル付加物、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートのε-カプロラクトン3モル付加物などの炭素数が1~4のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートのε-カプロラクトン付加物、1,1-ジヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、1,2-ジヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2,2-ジヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2,3-ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0027】
アルキレングリコール(メタ)アクリレートとして、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリテトラエチレン(メタ)アクリレート、アルコキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、アルコキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、アルコキシポリテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリテトラエチレングリコール(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0028】
エポキシ(メタ)アクリレートとして、グリシジル(メタ)アクリレート、α-メチルグリシジル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0029】
さらに、電解質組成物の機械的強度を高めるため、1分子内に(メタ)アクリロイル基を2個以上有する多官能単量体と共重合させてもよい。1分子内に(メタ)アクリロイル基を2個以上有する多官能単量体としては、エチレングリコールモノ又はポリ(1~20)アルキレン(C2~C20)オキサイド付加体ジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンポリ(C2~C20)アルキレン(C2~C20)オキサイド付加体トリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールポリ(C2~C20)アルキレン(C2~C20)オキサイド付加体テトラ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0030】
<レドックス対>
次に、レドックス対について説明する。本明細書におけるレドックス対とは、酸化還元反応をしうる2種類のイオンからなる対を意味する。レドックス対は、特に限定はないが、化学安定性や電池性能の観点から、金属元素又はハロゲン元素を含むことが好ましく、鉄(II)イオン/鉄(III)イオン、コバルト(II)イオン/コバルト(III)イオン、及びヨウ化物イオン/三ヨウ化物イオンからなる群から選択された少なくとも1対を含有することがより好ましい。特に、ヨウ化物イオンと三ヨウ化物イオン、フェロシアン化物イオンとフェリシアン化物イオン、フェロセンとフェロセニウムイオン、及びコバルトトリスビピリジン(II)とコバルトトリスビピリジン(III)からなる群から選択された少なくとも1対を含有することがさらに好ましく、フェロシアン化物イオンとフェリシアン化物イオンからなる対であることが特に好ましい。
【0031】
レドックス対は、電解質組成物中、合計で10~40%含まれることが好ましい。10%以上含まれることで電池性能が良化し、40%以下であることでゲル形状が維持できる。
【0032】
電解質組成物は、25℃におけるpHが3以上9以下であり、4.5以上9以下であることがより好ましく、5.5以上9以下であることがさらに好ましい。pHが3以上であることで電解液吸収性が良化し、9以下であることで、樹脂中に酸性基が残留し水素結合を形成するため、体積膨張を抑制し熱安定性が向上する。
【0033】
pHを調整する方法としては、酸性基及びその中和基を有する樹脂の酸性基の中和によって行う方法や、酸性基及びその中和基を有する樹脂量の調整によって行う方法が挙げられる。具体的には、(1)中和された酸性基を含む単量体を重合する方法、(2)酸性基を有する樹脂を中和する方法、(3)酸性基及びその中和基を有する樹脂を溶剤で希釈する方法等が挙げられるが、これらの方法は適宜選択又は併用してもよい。特に、(1)及び/又は(2)の方法が好ましく、中和割合や塩基の種類を変更することでpHを容易に調整することができる。
【0034】
中和に用いる塩基は、公知の塩基を適宜選択して使用してもよく、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウムなどの無機塩基、アンモニア、1級アミン、2級アミン、3級アミンなどの有機塩基が挙げられるが、かかる例示に限定されず、1種類又は2種類以上併用して用いることができる。
【0035】
電解質組成物は、さらに溶媒を含むことが好ましい。溶媒としては、特に限定されず、公知のものを適宜選択して使用することができ、例示すると、水や以下の有機溶媒があげられる。有機溶媒としては、例えば、トルエン、キシレンなどの芳香族系溶媒;n-ブチルアルコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ダイアセトンアルコール、エチルセロソルブなどのアルコール系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテートなどのエステル系溶媒;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、フルオロエチレンカーボネートなどのカーボネート系溶剤;ジメチルホルムアミドなどがあげられるが、かかる例示に限定されず、1種類又は2種類以上併用して用いることができる。レドックス対の溶解性の観点から、プロトン性溶媒が含まれていることが好ましく、水を含有していることがより好ましい。
【0036】
電解質組成物は、液体状態、ゾル状態、ゲル状態、固体状態いずれの形態をとっていてもよいが、フレキシブル性、電池安全性や性能の観点から、ゾル状態又はゲル状態であることが好ましい。
【0037】
電解質組成物は、本発明の効果を妨げない範囲で、更に、レベリング剤、増粘剤、表面調整剤、消泡剤、レオロジーコントロール剤などが含有されていてもよい。
【0038】
次に、電解質組成物の製造方法について説明する。電解質組成物を製造する方法としては、(1)酸性基及びその中和基を有する樹脂とレドックス対とを溶媒に浸漬させる方法、(2)酸性基及びその中和基を有する樹脂とレドックス対とを配合し、熱や活性エネルギー線などのエネルギーを加え得る方法、(3)酸性基及びその中和基を有する樹脂の原料とレドックス対とを配合し、熱や活性エネルギー線などのエネルギーを加え、酸性基及びその中和基を有する樹脂の原料より酸性基及びその中和基を有する樹脂を得る方法、などが挙げられるが、特に限定はされず、適宜選択して製造してもよい。また必要に応じて、各工程で溶媒、架橋剤や各種添加剤を添加してもよい。
【0039】
本発明における電池について説明する。本発明における電池は、本発明の電解質組成物を具備してなる。より具体的には、本発明の電解質組成物を少なくとも1対の電極に挟持されて構成されている。本発明の電解質組成物及び電池は、熱電変換型電池である熱化学電池に好適に使用することができる。電極は、公知の電極を適宜選択して使用することができ、例えば、白金、金、銅、銀などの金属電極や、カーボンナノチューブ、グラフェン、グラファイトなどの炭素電極や、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロールなどの導電性高分子電極などが挙げられるが、特に限定されず、1種類又は2種類以上併用して用いることができる。これらの電極は、単独で形成されていてもよく、また、プラスチックフィルム等の基材上に形成されていてもよい。また、電極と本発明の電解質組成物の間に、イオン透過膜やその他電解質組成物が積層されていてもよい。
【実施例0040】
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、以下の実施例は、本発明の技術的範囲を何ら制限するものではない。実施例を説明する前に実施例で使用した材料について記載する。
【0041】
[アクリル酸ナトリウム水溶液の調整]
アクリル酸100.0部を氷水で冷却、撹拌しながら、アクリル酸/水酸化ナトリウム=1.0mol/1.0molとなるように、20.0%水酸化ナトリウム水溶液277.78部を30分間かけて滴下し、アクリル酸ナトリウム水溶液(アクリル酸ナトリウムの含有量34.6%)を得た。
【0042】
[製造例1]
アクリル酸26.89部、上記アクリル酸ナトリウム水溶液8.72部、イオン交換水64.3部、過硫酸カリウム0.06部をよく混合し、樹脂前駆体を得た後、得られた樹脂前駆体2部を金属缶に入れて蓋をして80℃で30分間加熱し、酸性基及びその中和基を有する樹脂(A1)を含むゲル(A1)を得た。得られたゲルの厚みは0.7mmであった。
【0043】
[製造例2~11、比較製造例1、2]
表1に示す材料及び組成に変更した以外は、製造例1と同様にして、樹脂(A2~A11)、ゲル(A2~A11)、比較用樹脂(B1、B2)及び比較用ゲル(B1、B2)をそれぞれ得た。なお、表1中に記載されているPEG#600ジアクリレートとは、ポリエチレングリコールジアクリレート(エチレングリコール単位の繰り返し数の平均が14)を指す。表1中、特に断りがない限り、数値は部を表し、空欄は配合していないことを表す。
【0044】
[実施例1]
<電解質組成物の製造と電解液含有性の評価>
製造例1で得られた樹脂(A1)を含むゲル(A1)を2cm×2cmに切り出し、重量を測定した。切り出したゲル(A1)を、電解液として0.25Mに調製したK3[Fe(CN)6]/ K4[Fe(CN)6]・3H2O水溶液50mLに浸漬させ、40℃で24時間放置した。放置した後、ゲルを取り出し、表面に付着した電解液をふき取り、電解質組成物(A1)を得た。得られた電解質組成物(A1)の重量を測定し、浸漬前後の重量変化からゲル(A1)に吸収された電解液の重量を求め、電解質組成物(A1)中の電解液/樹脂比率を算出した。例えば、電解液/樹脂比率1とは、樹脂1gが電解液1gを吸収したことを示し、電解液/樹脂比率10とは樹脂1gで電解液10gを吸収したことを意味する。
【0045】
[評価基準]
◎:電解液/樹脂比率30以上 (極めて良好)
○:電解液/樹脂比率20以上、30未満 (良好)
△:電解液/樹脂比率10以上、20未満 (使用可能)
×:電解液/樹脂比率10未満 (不良)
【0046】
<電解質組成物のpHの測定方法>
pHの測定は得られた電解質組成物を25℃に維持し、pHメータ(堀場製作所社製、卓上pHメータ、F-72)を用いて25℃にて測定した。電極はフラット形 pH複合電極(堀場製作所社製、6261-10C)を用いた。
【0047】
[実施例2~11、比較例1、2]
表2に示したゲルに変更した以外は、実施例1と同様にして、ゲル(A2~A11)及びゲル(B1、B2)を作製して評価を行った。実施例1と併せて結果を表2に示す。
【0048】
[実施例21]
製造例1で得られた樹脂(A1)を含むゲル(A1)を2cm×2cmに切り出した。切り出したゲル(A1)1.0部を0.25Mに調製したヨウ化リチウム/ヨウ素水溶液4.0部に25℃で1日間浸漬させてゲル状の電解質組成物(A21)を得た。得られた電解質組成物(A21)のpHを以下の方法で測定を行い、その後、後述する方法で電池を作製し、電池出力と熱安定性の評価を行った。各成分の含有割合及び結果を表3に示す。尚、特に断りのない限り、表3中の数値は「部」を表し、空欄は配合していないことを表す。
【0049】
[電池の作製]
<電極の作製>
ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)とポリスチレンスルホン酸(PSS)の分散体(オルガコンS315、日本アグファマテリアルズ社製)をテフロン(登録商標)容器に注ぎ入れ、80℃1時間乾燥し、更に150℃3時間で乾燥させ、導電膜を得た。この際、乾燥後の膜厚が60μmになるようにPEDOT/PSS分散体の量を調整した。得られた導電膜をφ16mmの円板状に打ち抜き電極とした。
【0050】
<電池の製造>
電解質組成物(A21)をφ16mmの円板状(膜厚1mm)に打ち抜いた。その後、アルゴン雰囲気で満たされたグローブボックス中で電極2枚の間に打ち抜かれた電解質組成物(A21)を挟み、SUS316製のケースを用いてCR2032型電池と同じサイズのコイン型電池を作製した。
【0051】
<電池評価>
上記コイン型電池を用いて、電池の出力を測定した。25℃の屋内で、45℃に加熱したホットプレート上にコイン型電池を置き、コイン型電池の両面に20℃の温度差をつけた。次に、二つの電極をソースメータと接続して電圧値、電流値を測定し、出力を求めた。
[評価基準]
◎:電池出力が15μW以上(極めて良好)
○:電池出力が10μW以上15μW未満(良好)
△:電池出力が5μW以上10μW未満(使用可能)
×:電池出力が5μW未満(不良)
なお、実用可能な電池出力は5μW以上である。
【0052】
<熱安定性評価>
上記コイン型電池の冷熱サイクル試験を実施した。10℃で30分間の冷却、80℃で30分間の加熱を1サイクルとして、冷却と加熱を30サイクル繰り返した後、再び上記と同様に電池評価を実施した。冷熱サイクル試験前後での電池出力の低下率を求め、以下の基準で評価した。(出力低下率0%が冷熱サイクル試験前後で電池出力に変化がないことを示す。)
◎:出力低下率2%未満(良好)
○:出力低下率2%以上5%未満(使用可能)
×:出力低下率5%以上(不良)
なお、実用可能な出力低下率は5%未満である。
【0053】
[実施例22~31、比較例3,4]
表3に示す組成に変更した以外は、実施例1と同様にして、電解質組成物(A22~A31)及び比較用電解質組成物(B11、B12)を作製して評価を行った。結果を表2に示す。尚、表中のレドックス対水溶液はそれぞれ以下の通りである。
0.25M Fe2+/Fe3+:0.25M フェリシアン化カリウム/フェロシアン化カリウム水溶液
0.40M Fe2+/Fe3+:0.40M フェリシアン化カリウム/フェロシアン化カリウム水溶液
0.25M I-/I3
-:0.25M ヨウ化リチウム/ヨウ素水溶液
0.10M Co2+/Co3+:0.10M トリス(2,2’-ビピリジン)コバルト(II)ビス(ヘキサフルオロホスファート)/トリス(2,2’-ビピリジン)コバルト(III)トリス(ヘキサフルオロホスファート)水溶液
【0054】
このように、本発明の電解質組成物は、電解液保持性が良好で、電池に使用した際の電池出力及び熱安定性に優れていることが明らかとなった。一方、比較例1、3の電解質組成物は、電解液保持性に乏しく電池出力が低かった。また、比較例2、4の電解質組成物は、ナトリウムイオンが過剰に含まれているため副反応が生じ、電池出力が低く、実用性に乏しいことが明らかとなった。これは、ナトリウムイオンが過剰に含まれているため副反応が生じ、さらに水素結合性に乏しいため、温度変化により体積変化が生じたためと推察される。
【0055】
【0056】
【0057】
前記レドックス対が、ヨウ化物イオンと三ヨウ化物イオン、鉄(II)イオンと鉄(III)イオン、及びコバルト(II)イオンとコバルト(III)イオンからなる群から選択された少なくとも1対を含有する請求項1記載の電池用電解質組成物。