(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022183448
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】フィルター構造体
(51)【国際特許分類】
B01D 46/10 20060101AFI20221206BHJP
F24F 8/108 20210101ALI20221206BHJP
F24F 7/06 20060101ALI20221206BHJP
F24F 7/013 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
B01D46/10 B
F24F8/108 200
F24F7/06 101A
F24F7/013 101G
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021090762
(22)【出願日】2021-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000222141
【氏名又は名称】東洋アルミエコープロダクツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101409
【弁理士】
【氏名又は名称】葛西 泰二
(74)【代理人】
【識別番号】100175662
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 英明
(74)【代理人】
【識別番号】100175385
【氏名又は名称】葛西 さやか
(72)【発明者】
【氏名】足立 将司
【テーマコード(参考)】
3L058
4D058
【Fターム(参考)】
3L058BK05
4D058JA12
4D058KA25
4D058KC04
4D058KC06
4D058KC28
4D058SA01
4D058SA02
(57)【要約】
【課題】粘着剤層の粘着面の状態を悪化させることが無く、粘着剤層が適切な粘着力を発揮することができるフィルター構造体を提供する。
【解決手段】フィルター層1と粘着剤層10とシート層20とを有するフィルター構造体Fであって、シート層は厚さが12μm~75μm、粘着剤層と接する面の表面粗さRaが0.09μm~0.4μmである。シート層の厚さを12μm以上とすることにより、粘着剤層に積層したときの波打ちが抑制され、粘着剤層の表面の平滑性が保たれる。シート層の厚さを75μm以下とすることにより、折り畳んだときにシート層が粘着剤層から離れにくくなる。シート層の表面粗さRaを0.4μm以下とするので、これに接する粘着剤層の表面粗さを制御して、粘着力が確実に発揮される状態にする。シート層の表面粗さを0.09μm以上とするので、取り扱い性が良好になり、製造コストの増大を招かない。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
通気性を有し通過する気体をろ過するフィルター層と、前記フィルター層の一方面の少なくとも一部に粘着剤により形成された粘着剤層と、前記粘着剤層の表面に積層され且つ剥離可能なシート層とを有するフィルター構造体であって、
前記シート層は、厚さが12μm~75μmであり、前記粘着剤層と接する面の表面の算術平均粗さRa(JIS B0601:2001による算術平均粗さRa)が0.09μm~0.4μmである、フィルター構造体。
【請求項2】
前記シート層の表面の算術平均粗さRaは、0.1μm~0.25μmである、請求項1記載のフィルター構造体。
【請求項3】
前記シート層の厚さは、12μm~25μmである、請求項1又は請求項2記載のフィルター構造体。
【請求項4】
レンジフードの金属フィルター又は整流板、エアコンの吸気口、空気清浄機の吸気口、及び、屋内外の通気口のうちの少なくとも1つに使用される、請求項1から請求項3のいずれかに記載のフィルター構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンジフード、エアコン、空気清浄機、通気口等の対象物に貼着して、通過する気体をろ過するためのフィルター構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レンジフードの金属フィルター又は整流板、エアコンや空気清浄機の空気吸入口、屋内外の通気口等に装着して、通過する空気をろ過するためのフィルター構造体が従来使用されている。例えば特許文献1には主としてエアコンに使用されるフィルター構造体が記載され、特許文献2には整流板付きレンジフードに使用されるフィルター構造体が記載されている。
【0003】
これらの文献に記載されるようなフィルター構造体は一般に、不織布等からなるシート状のフィルター層と、フィルター層の一方の面に粘着剤によって形成された粘着剤層と、粘着剤層の表面に剥離可能に積層されたシート層とを有する構造となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-85927号公報
【特許文献2】特開2017-15297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図3は従来のフィルター構造体において、シート層が波打つ問題が生じた状態を示す断面図であり、
図4は従来のフィルター構造体において、折り畳んだときにシート層が粘着剤層から離れる問題が生じた状態を示す断面図である。
【0006】
特許文献1又は特許文献2に記載されるようなフィルター構造体をレンジフードやエアコンの吸気口等の対象物に取り付けるには、粘着剤層の表面に積層したシート層を剥離して粘着剤層の表面を露出させ、フィルター構造体の全体を拡げた状態に保ちながら対象物の取付個所に位置合わせした後、粘着剤層を対象物に貼り付ける作業を行う。
【0007】
ところで、フィルター構造体における粘着剤層の表面状態が悪化することにより、所望の粘着力が発揮できず、フィルター構造体を対象物に取り付けにくくなったり、フィルター構造体が対象物からすぐに脱落したりするという問題を生じさせる場合がある。
【0008】
図3を参照して、フィルター層31、粘着剤層32、及び、シート層33が積層された構造のフィルター構造体30において、例えば、シート層33に一旦粘着剤を塗布した後に、このシート層33の粘着剤を塗布した面とフィルター層31とを重ね合わせることでシート層33からフィルター層31に粘着剤を転写し適宜粘着剤を乾燥等により固化させることによりフィルター層31に粘着剤層32を形成する方法を採用した場合、シート層33の厚さが薄いときには、シート層33に粘着剤を塗布した後やシート層33から粘着剤をフィルター層31に転写後にシート層33に波打ちが生じることがある。シート層33が波打つ理由は定かではないが、粘着剤として溶剤を含む粘着剤を用いた場合にシート層33が薄いとシート層33が粘着剤に含まれる溶剤により膨潤してシート層33の波打った状態となったり、シート層33から粘着剤をフィルター層31へ転写後に、粘着剤に含まれる溶剤を揮発させるために乾燥を行う際にシート層33が熱により収縮や変形するからである、と推察される。シート層33の波打ちによってフィルター層31に形成される粘着剤層32も波打ち、粘着面32aの平滑性が低下する結果、粘着剤層32の対象物に対する接触面積が減少し、適切な粘着力を発揮することが難しくなる。
【0009】
図4を参照して、フィルター構造体30は折り畳んで梱包した状態で出荷されることが多いが、シート層33の厚さが大きすぎるとシート層33の折り曲げ強度が強くなりすぎるため、フィルター構造体30を折り畳んだ時に、フィルター構造体30の折り曲げ部分に対応するシート層33の部分が粘着剤層32の表面から離れてしまうという現象が生じることがある。フィルター構造体30において、このようにしてシート層33が離れて粘着剤層32が露出した個所32bは、使用するまでの間に繊維屑等が付着し易くなり、その結果、粘着面の状態が悪化して、使用時には対象物に対する適切な粘着力を発揮することが難しくなる。
【0010】
又、表面粗さの大きいシート層33を用いた場合、シート層33の表面粗さに伴ってこれに接する粘着剤層32の表面粗さも大きくなってしまい、その結果、粘着剤層32の対象物に対する粘着力の低下を招く可能性が有る。
【0011】
尚、シート層33の表面粗さはある程度小さいことが好ましいものの、表面粗さが小さすぎると、即ち表面平滑度が非常に高い場合は、フィルター構造体製造時におけるシート層33の取り扱いが難しくなるうえ、製造コストも高くなるという問題が生じる。
【0012】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みて、粘着剤層の粘着面の状態を悪化させることが無く、粘着剤層が適切な粘着力を発揮することができるフィルター構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、通気性を有し通過する気体をろ過するフィルター層と、フィルター層の一方面の少なくとも一部に粘着剤により形成された粘着剤層と、粘着剤層の表面に積層され且つ剥離可能なシート層とを有するフィルター構造体であって、シート層は、厚さが12μm~75μmであり、粘着剤層と接する面の表面の算術平均粗さRa(JIS B0601:2001による算術平均粗さRa)が0.09μm~0.4μmであるものである。
【0014】
このように構成すると、シート層は粘着剤層の表面を覆って保護する。シート層を剥離すると粘着剤層が露出し、フィルター構造体が使用可能となる。シート層の厚さを12μm以上としたので、粘着剤層の表面に積層したときに、シート層が波打ちにくくなる。シート層の厚さを75μm以下としたので、フィルター構造体の折り曲げや折り畳み等の変形にシート層の追従が容易となる。シート層における粘着剤層に接する面の表面粗さRaを0.09μm以上0.4μm以下としたので、これに接する粘着剤層の表面粗さを制御できる。
【0015】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明の構成において、シート層の表面の算術平均粗さRaは、0.1μm~0.25μmであるものである。
【0016】
このように構成すると、シート層の表面粗さRaが0.1μm~0.25μmの範囲であることにより、シート層を剥離した後の粘着剤層の表面の平滑性が高くなる。
【0017】
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2記載の発明の構成において、シート層の厚さは、12μm~25μmであるものである。
【0018】
このように構成すると、シート層の厚さが12μm~25μmの範囲であることにより、フィルター構造体の折り曲げや折り畳み等の変形にシート層の追従がより容易となる。
【0019】
請求項4記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれかに記載の発明の構成において、レンジフードの金属フィルター又は整流板、エアコンの吸気口、空気清浄機の吸気口、及び、屋内外の通気口のうちの少なくとも1つに使用されるものである。
【0020】
このように構成すると、フィルター構造体は、レンジフードの金属フィルター又は整流板、エアコンの吸気口、空気清浄機の吸気口、及び、屋内外の通気口のうちの少なくとも1つに使用されて、通過する気体の濾過を行う。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、請求項1記載の発明によれば、シート層によって粘着剤層の表面が保護されるから、フィルター構造体の使用前に粘着剤層が目的の対象物以外に張り付くのを防止できる。又、複数のフィルター構造体を重ね合わせることも可能になる等、取り扱い性が向上する。シート層の厚さを12μm以上とすることによりシート層の波打ちが抑制される結果、粘着剤層の表面の平滑性が保たれるので、対象物に貼り付ける際に適切な粘着力を発揮する。シート層の厚さを75μm以下とすることにより、フィルター構造体の折り曲げや折り畳み等の変形にシート層が追従できるので、フィルター構造体を折り曲げや折り畳み等をしてもシート層が粘着剤層から離れにくくなる。その結果、フィルター構造体の使用前に粘着剤層を露出させにくくなり、使用時の繊維屑等の付着による粘着力の低下を抑制できる。又、シート層の表面粗さRaを0.09μm以上0.4μm以下とするので、これに接する粘着剤層の表面粗さを制御して、粘着力が確実に発揮される状態にすることができる。
【0022】
請求項2記載の発明によれば、請求項1記載の発明の効果に加えて、シート層の剥離後の粘着剤層表面の平滑性が高くなるから、対象物に対し優れた粘着力を発揮することができる。
【0023】
請求項3記載の発明によれば、請求項1又は請求項2記載の発明の効果に加えて、フィルター構造体の折り曲げや折り畳み等の変形にシート層の追従がより容易になるから、フィルター構造体の折り曲げや折り畳み等によってもシート層が粘着剤層の表面から離れない。従って、折り曲げた状態や折り畳んだ状態等でも、シート層が粘着剤の表面を確実に保護して、繊維屑等が付着による粘着力が低下するのを抑制する。これにより、フィルター構造体を折り畳んだ状態で包装することが可能となるから、取り扱い性の良好な製品を提供することができる。
【0024】
請求項4記載の発明によれば、請求項1から請求項3のいずれかに記載の発明の効果に加えて、粘着剤層が優れた粘着力を発揮するから、どの使用対象に対しても確実に取り付けることができ、長期にわたり脱落するおそれがない。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の実施の形態によるフィルター構造体の一例を示す正面図である。
【
図2】
図1に示すフィルター構造体における一点鎖線で囲んだ領域Sを拡大し、シート層の一部を剥離した状態を示す斜視図である。
【
図3】従来のフィルター構造体において、シート層が波打つ問題が生じた状態を示す断面図である。
【
図4】従来のフィルター構造体において、折り畳んだときにシート層が粘着剤層から離れる問題が生じた状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1は本発明の実施の形態によるフィルター構造体の一例を示す正面図であり、
図2は
図1に示すフィルター構造体における一点鎖線で囲んだ領域Sを拡大し、シート層の一部を剥離した状態を示す斜視図である。
【0027】
このフィルター構造体Fは、対象物に貼着して通過する気体をろ過するためのものであり、通気性を有し通過する気体をろ過するシート状のフィルター層1と、フィルター層1の一方面の少なくとも一部に粘着剤により形成され、対象物に対し粘着力を発揮する粘着剤層10と、粘着剤層10の表面に積層され且つ剥離可能なシート層20とを備えるものである。
【0028】
(フィルター層)
フィルター層1は、例えば不織布、織布、又は編み布等で構成され、ホコリ等の捕集と気体の流通とが両立すると共に、実用的な強度を有するものである。好適には、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル、ポリプロピレン又はプロピレン主体の共重合体、モダクリルを含むアクリル等の合成樹脂繊維で構成される不織布を用いることができるが、これらに限定されない。不織布の製造方法についても限定はなく、例えばケミカルボンド法やサーマルボンド法等の公知の製法によって製造された不織布を好適に用いることができる。又、フィルター層1は、抗ウイルスや抗菌の加工が施されていてもよい。また、難燃性付与等を目的として、上記の合成樹脂繊維に、ステアリン酸アルミニウム等の脂肪酸金属塩を適量付着させたり、難燃性の繊維を混合したりすることもできる。フィルター層1の厚さは0.3~15.0mm、及び、目付けが20~200g/m2 の範囲とするのが好ましい。このように構成すると、空気中の油煙や粉塵を確実に捕集しつつ気体を通過させることが可能であると共に、実用的な強度を備える。厚さが0.3mm未満、又は、目付けが20~200g/m2 未満の場合は、実用的な強度が不足すると共に、十分な捕集機能を発揮しないおそれがある。厚さが15.0mmを超えるか、又は、目付けが200g/m2 を超えると、気体の流通抵抗が大きくなり、エアフィルターとしての実用性が損なわれるおそれがある。
【0029】
(粘着剤層)
粘着剤層10を形成する粘着剤は特に限定されず、例えば、2液混合型ポリウレタン系粘着剤のような主剤及び硬化剤を含む2液混合型粘着剤やアクリル系ホットメルト粘着剤のようなホットメルト粘着剤等が使用できる。又、粘着剤には、必要に応じ、密着性を向上させる粘着付与剤や、紫外線吸収剤、充填剤、着色剤、酸化防止剤、消泡剤、光安定剤等の添加剤、低温時における粘着力の低下、糊残り等を抑制するための各種添加剤を配合してもよい。
【0030】
フィルター層への粘着剤層の形成方法は、公知の方法を採用することができる。例えば、粘着剤を不織布に直接塗布するか、又は後述するような剥離可能なシート層等に一旦粘着剤を塗布した上で、このシート層と不織布を接触させることにより不織布に粘着剤を転写する等の方法により間接的に塗布して粘着剤層を形成した後、これを乾燥や冷却等により固化させる方法を採用することができる。直接的又は間接的に粘着剤層をフィルター層に塗布するにあたっての塗布方法は、限定されないが、例えばローラー、スプレー、刷毛、印刷等によって実施することができる。即ち、公知の装置を使用した、例えばロールコーター法、コンマコーター法、ダイコーター法、インクジェット法、リバースコーター法、シルクスクリーン法、グラビアコーター法等をいずれも採用することができる。間接的に塗布する場合は、例えばシリコーンコートが施された剥離可能な剥離シート層に粘着剤をロール等にて印刷した後、このシート層の粘着剤層側をフィルター層と接触させロール等で圧着することにより、フィルター層に粘着剤層を転写する方法等が採用できる。
【0031】
尚、本例のフィルター構造体Fはレンジフード用であって、異なる大きさのレンジフードに対応できるような形態に粘着剤層10が形成されている。具体的には、フィルター層1が短辺1a方向を縦、長辺1b方向を横とする矩形の形態を有し、短辺1aと平行でほぼ等間隔の3本のミシン目11a~11cが、フィルター層及びシート層を貫通するように形成されている。そして粘着剤層10は、各ミシン目11a~11cによって区画された4つの領域それぞれに、ほぼ矩形の枠状に形成された第1枠部12a~第4枠部12dを有している。又、第1枠部12a~第4枠部12dそれぞれの内部には、短辺1a及び長辺1bに対し約45°で傾斜する格子部13a~13dが形成されている。更に、第1枠部12a~第4枠部12d及び格子部13a~13dの一部を省略した部分に、フィルターの交換時期を表示する文字等の形態の表示部14が形成されている。
【0032】
粘着剤層10をこのように構成したので、貼り付け対象となるレンジフードの大きさに合わせて選択したミシン目11a~11cでフィルター層及びシート層を切断することにより、フィルター構造体Fを所望の大きさとすることが可能である。又、本例では、ミシン目11a~11cで区画された領域ごとに第1枠部12a~第4枠部12dを形成したので、切断後のフィルター構造体Fは、輪郭に沿って粘着剤層10を有するものとなるから、対象物に確実に貼り付けることができ、フィルター層1の略全周にわたり、対象物の表面との間の隙間を無くすことが可能である。
【0033】
格子部13a~13dは、フィルター構造体Fの粘着力の発揮に寄与するものである。特に整流板付のレンジフードに使用する場合に、格子部13a~13dが整流板に貼り付くので、第1枠部12a~第4枠部12dの粘着力に加えて、フィルター構造体Fの粘着力を向上させる。又、粘着剤を格子状に形成することで、レンジフード等の吸気口を塞ぐ面積を抑えて、空気の流通を阻害しにくくすることができる。
【0034】
尚、表示部14は、フィルター構造体Fの交換時期を視覚的に表示するためのものであり、図示した文字の形態の外に、絵柄や図形の形態に形成してもよい。フィルター層1における空気が流通する部位ではホコリ等の蓄積により着色が進行するのに対し、粘着剤層を形成した部位は空気の流通が抑えられるから、フィルター層1の着色が進まない。その結果、使用を継続するにつれて、粘着剤で形成された表示部14の文字等が白く浮き上がるようになるから、フィルター構造体Fの交換時期を表示することが可能である。又、表示部14も対象物への貼着力に寄与するものである。
【0035】
(シート層)
シート層20は、粘着剤層10の表面に積層されて、粘着面10aを保護するものである。シート層20を設けることで、フィルター構造体Fの使用前に粘着剤層10が目的の対象物以外に貼り付くのを防止できる。又、複数のフィルター構造体を重ね合わせることも可能になる等、取り扱い性が向上する。使用に際しては、
図2に示すように、シート層20を粘着剤層10から剥離し、露出させた粘着面10aを対象物にシールのように貼り付ければよい。
【0036】
シート層20の素材としては、後述する厚さ及び表面粗さの条件を満たすことができるものであれば、特に限定されない。例えば、シリコーンコートが少なくとも一方の面に形成されたPETフィルム等が用いられる。又、セロファンや、PET以外の樹脂フィルムも使用可能である。更には後述する厚さ及び表面粗さの条件を満たすものであれば、樹脂コートのような表面加工を施した紙や金属シート等も使用可能である。
【0037】
本例のシート層は、その厚さが12μm~75μmの範囲とするのがよく、より好ましくは12μm~25μmの範囲とするのがよい。又、シート層の表面の算術平均粗さ(JIS B0601:2001による算術平均粗さ。以下、「表面粗さ」と言う)Raは0.09μm~0.4μm範囲とするのがよく、より好ましくは0.1μm~0.25μmの範囲とするのがよい。尚、シート層の厚みは、マイクロメーター法(JIS C2151)にて測定することができる。
【0038】
シート層の厚さが12μm以上であれば、フィルター構造体の粘着剤層の表面に積層されるシート層の波打ちを抑制でき、その結果、粘着剤層の表面の平滑性が保たれるので、対象物に密着して適切な粘着力を発揮させることができる。シート層の厚さが12μm未満であると、波打ちが生じ易くなり、その結果、粘着剤層の表面の平滑性が悪くなるおそれがある。
【0039】
又、シート層の厚さが75μm以下であれば、フィルター構造体の折り曲げや折り畳み等の変形にシート層が追従できるので、フィルター構造体の折り曲げや折り畳み等によってもシート層が粘着剤層から離れにくくなる。その結果、フィルター構造体の使用前に粘着剤層を露出させにくくなり、使用時の繊維屑等の付着による粘着力の低下を抑制できる。シート層の厚さが75μmを超えると、シート層の折り曲げ強度が強くなりすぎるため、フィルター構造体を折り畳んだ時に、フィルター構造体の折り曲げ部分に対応するシート層の部分が粘着剤層の表面から離れてしまうという現象が生じるおそれがある。フィルター構造体において、このようにしてシート層が離れて粘着剤層が露出した個所は、使用するまでの間に繊維屑等が付着し易くなり、その結果、粘着面の状態が悪化して、使用時には対象物に対する適切な粘着力を発揮することが難しくなるおそれがある。
【0040】
シート層の表面粗さRaが0.09μm以上0.4μm以下の場合は、これに接する粘着剤層の表面粗さを制御して、粘着力が確実に発揮される状態にすることができるので、対象物との密着性が良好となる。
【0041】
シート層の表面粗さRaが0.4μmを超えると、これに接する粘着剤層の表面粗さも大きくなるため、対象物との接触面積が低下し、その結果、粘着力が十分に発揮されなくなる可能性が有る。
【0042】
シート層の表面粗さが0.09μm未満であると、シート層の表面の平滑性が非常に高くなるためフィルター構造体製造時におけるシート層の取り扱い性が悪くなる。また、製造コストが高くなるおそれがある。
【0043】
尚、シート層の表面粗さRaは、0.1~0.25μmの範囲とするのがより好ましい。表面粗さRaをこの範囲に設定すると、シート層を剥離した後の粘着剤層の表面の平滑性が高くなるから、対象物に対しより優れた粘着力を発揮することができ、特に、経時における高温条件下での粘着力低下を抑制できる。
【0044】
又、シート層の厚さは、12~25μmの範囲とするのがより好ましい。厚さをこの範囲に設定することで、フィルター構造体の折り曲げや折り畳み等の変形にシート層の追従がより容易になり、フィルター構造体の折り曲げや折り畳み等によってもシート層がフィルター層及び粘着剤層の変形に追従できるから、シート層が粘着剤層の表面からより離れにくくなる。従って、折り曲げた状態や折り畳んだ状態等でも、シート層が粘着剤層の表面を確実に保護して、繊維屑等により粘着面の粘着力が低下するのを抑制する。その結果、フィルター構造体を折り畳んだ状態で包装することが可能であるから、取り扱い性の良好な製品を提供することができる。
【0045】
上記のように構成された本例のフィルター構造体は、シート層を剥離したときに、露出する粘着剤層の表面の平滑性が保たれると共に良好な平滑性を有しているから、対象物に圧着したときの密着性が高くなり、適切な粘着力を発揮することができる。しかも従来製品と比較して、取り扱い性を低下させたり、特段のコストアップを招いたりすることもない。
【0046】
本例のフィルター構造体は、台所や厨房のレンジフードの外、エアコンや空気清浄機の吸気口、換気扇等の家庭用又は業務用の機器、屋内外に設置される通気口等に使用することができる。
【0047】
フィルター構造体は、使用対象の形態に応じて、その一部を切断する必要が生じることがある。例えば、フィルター構造体を前面吸気型の空気清浄機に使用する場合、空気清浄機の前面カバーを支持する支持体がフィルター構造体と干渉することがあるので、矩形のフィルター層の四隅を含む部分が切除予定領域に設定される。これに対応するため、フィルター層及びシート層の少なくとも一方に、フィルター層の切除予定領域を示す表示を印刷等で設けてもよい。或いは、フィルター層の切除予定領域に沿うミシン目を形成してもよい。更には粘着剤層を、フィルター層の切除予定領域を表示するように形成してもよい。尚、切除予定領域は隅部に限定されるものではなく、フィルター構造体の取り付けに際し、取付対象と干渉する部分に対応する個所を切除予定領域とすればよい。例えば、円形のフィルター構造体の場合では角が無いため隅部が無く、取付対象と干渉する部分に対応する個所を切除予定領域とすればよい。更に、切除予定領域を設定しないことも可能である。
【0048】
又、上記の実施の形態では、フィルター構造体の形状は矩形形状であったが、矩形形状に限定されるものではなく、多角形、円形、楕円形等様々な形状を採用できる。
【0049】
又、上記の実施の形態では、フィルターの交換時期を表示する表示部を形成したが、無くてもよい。又、表示部として、文字のほか、絵柄、記号、図形等を形成してもよい。文字、絵柄、記号、図形等は1つでもよく、複数でもよい。
【0050】
更に、上記の実施の形態では、粘着剤層が、帯状の粘着剤を枠状又は格子状の形態にパターン印刷したものを含んでいるが、帯状の粘着剤層を含まないものとし、スプレー式で塗布した粘着剤をフィルター層の全面に点在させる構成の粘着剤層を形成してもよい。
【実施例0051】
表1に記載の材質、厚みおよび表面粗さを備えたシート層を用いて、シート層に一旦粘着剤を塗布した後に、このシート層の粘着剤を塗布した面とフィルター層とを重ね合わせることでシート層からフィルター層に粘着剤を転写し、粘着剤を固化させることによりフィルター層へ粘着剤層を形成する方法にて、シート状のフィルター層と、フィルター層の片面の一部に形成された粘着剤層10と、粘着剤層10の表面に積層され且つ剥離可能なシート層20とを備える実施例1~8および比較例1~11のフィルター構造体を準備した。尚、実施例および比較例のフィルター構造体に用いたフィルター層は主にPET繊維からなる不織布で構成され、その目付は40g/m2であった。また、実施例および比較例のフィルター構造体に形成された粘着剤層の塗布量は30g/m2であった。これらのフィルター構造体を用いて、下記の試験を行った。
【0052】
(1)波打ちの有無
フィルター層の一方の面に形成した粘着剤層の表面に積層した状態で、表1に記載のそれぞれのシート層を用いた実施例および比較例のフィルター構造体について、シート層の波打ちの有無について、以下の評価基準により判定した。
・〇(又は◎):波打ちがない。
・△(又は〇):僅かな波打ち。
・×…明らかに大きな波打ちがありシート層にダブつきが認められる。
【0053】
(2)貼り付け適性(凹凸表面)
シート層を剥離して露出させた粘着剤層を、表面にシボ加工が施されたABS樹脂製の板に実施例および比較例の各フィルター構造体を4cm×11cmで切り出したものを貼り付け、垂直に立掛け、脱落の有無を確認した。尚、貼り付けは、ローラーで圧力2kg/cm2 にて1往復させる方式で実施した。得られたサンプルについてフィルター脱落の有無を調べた。以下の評価基準により判定した。
・〇…貼り付く。
・×…剥がれる。
この試験は、ある程度凹凸のある表面に対する密着性を評価するものである。
【0054】
(3)貼り付き適正(レンジフード)
シート層を剥離して露出させた粘着剤層を、フッ素加工を表面に施したレンジフードの金属フィルターに当該金属フィルターと略同一寸法に切り出した実施例および比較例の各フィルター構造体をローラーで圧力2kg/cm2にて1往復させる方式で貼り付けた後、フィルター構造体を貼り付けた面が下を向くようにした状態で常温で1週間静置し、フィルター構造体が貼り付いた状態を維持するか剥離するかを観察した。以下の評価基準により判定した。
・〇…貼り付いている。
・×…剥がれる。
【0055】
(4)経時での貼り付き適正(高湿条件下)
フィルター構造体のシート層の半分を剥離して露出させた状態で、アクリル板に貼り付け、この状態で、温度25℃、湿度95%の環境に静置する。24時間経過後、アクリル板を上下に10回振った時に、フィルター構造体が貼り付いた状態を維持するか剥離するかを観察した。この試験は、粘着剤の劣化有無を評価するものである。以下の評価基準により判定した。
・◎…剥がれない。
・〇…わずかに剥がれる。
・×…半分以上剥離。
【0056】
(5)折り曲げ加工適性
実施例および比較例の各フィルター構造体を61cm×36cmに切り出し、2つ折りにした後、再度元の折り曲げ前の状態に拡げたときに、折り曲げ部分においてシート層が粘着剤層から浮いた部分を有するか否かを観察した。この試験は、シート層の追従性を評価するものである。
・◎…折り曲げ後に再度拡げたときに粘着面からシート層の浮きが全く無い。
・〇…わずかであるが一部に浮き有り。
・×…折り曲げた部分のシート層が完全に浮く。
【0057】
(表面粗さ測定)
試験に用いた各フィルター構造体のシート層の表面粗さRa(JIS B0601:2001による算術平均粗さRa)は、株式会社ミツトヨ製のCNC表面形状測定機「CS-H5000CNC」を用いて測定した。評価条件は下記の通りである。
評価条件:曲線=R_J01-個所=[1]
規格:JIS B0601:2001
評価曲線種別:R_J01
基準長さ:0.8mm
区間数:5
λc:0.8mm
λs:0.0025mm
フィルタ種別:Gaussian
評価長さ:4.0mm
助走:0.4mm
後走:0.397mm
スムース接続:Off
試験結果を表1に示す。
【0058】
【表1】
表1の結果から、本発明の実施品は、シート層の厚さが12~75μmの範囲で且つ表面粗さRaが0.09~0.4μm範囲であることにより、試験(1)~(5)のいずれにおいても良好な結果を呈している。
【0059】
特に、シート層の表面粗さRaが0.09~0.25μmの範囲のもの(実施例1、2、4~7)は、試験(4)の経時での貼り付き適正(高湿条件下)に優れている。
【0060】
又、シート層の厚さが12~25μmの範囲のもの(実施例1~5)は、折り曲げ加工適性が優れることが分かる。
【0061】
これらに対し、シート層がPETフィルムであっても、厚さの薄すぎるものは、表面粗さRaが適正でも、波打ちが生じる結果、適切な粘着力を発揮できないことが分かる。反対に、シート層が厚すぎるものは、表面粗さRaが適正でも、折り畳み加工適性が不良になることが分かる。
【0062】
更に、比較例8~11で用いた紙製のシート層は、厚さも表面粗さも本発明に範囲であるため、適切な粘着力も、折り畳み適性も発揮できないことが分かる。