(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022183461
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】ラダー型フィルタおよびマルチプレクサ
(51)【国際特許分類】
H03H 9/54 20060101AFI20221206BHJP
H03H 9/17 20060101ALI20221206BHJP
H03H 9/70 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
H03H9/54 Z
H03H9/17 F
H03H9/70
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021090798
(22)【出願日】2021-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】下村 輝
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 雅人
(72)【発明者】
【氏名】折戸 悟士
(72)【発明者】
【氏名】川上 博士
(72)【発明者】
【氏名】高橋 裕樹
【テーマコード(参考)】
5J108
【Fターム(参考)】
5J108AA07
5J108BB08
5J108CC11
5J108EE03
5J108EE04
5J108GG16
(57)【要約】 (修正有)
【課題】特性を向上させかつ製造工程の増加を抑制するラダー型フィルタを提供する。
【解決手段】ラダー型フィルタは、第1端子T1と、第2端子T2との間に複数の圧電薄膜共振器と、インダクタL1、L2と、を有する。複数の圧電薄膜共振器は、直列共振器S1~S3と、並列共振器P1~P3と、を有する。第2端子T2に最も電気的に近い第1直列共振器S3は、複数の直列共振器のうち最も挿入膜が薄く、第1直列共振器以外の少なくとも1つの第2直列共振器は前記第1直列共振器より挿入膜が厚い。第2端子T2に最も電気的に近い第1並列共振器P3は、複数の並列共振器のうち最も挿入膜が薄く、第1並列共振器以外の少なくとも1つの第2並列共振器は第1並列共振器より挿入膜が厚い。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板上に設けられた圧電膜と、前記圧電膜の少なくとも一部を挟み互いに重なる共振領域を形成する第1電極および第2電極と、を備え、少なくとも一部の圧電薄膜共振器は前記共振領域内において前記第1電極と前記第2電極との間に設けられた挿入膜を備える複数の圧電薄膜共振器と、
第1端子と第2端子との間に直列接続され、前記複数の圧電薄膜共振器に含まれ、前記第2端子に最も電気的に近い第1直列共振器は、複数の直列共振器のうち最も挿入膜が薄く、前記第1直列共振器以外の少なくとも1つの第2直列共振器は前記第1直列共振器より挿入膜が厚い複数の直列共振器と、
一端が前記第1端子と前記第2端子との間に経路に接続され、他端が接地され、前記複数の圧電薄膜共振器に含まれ、前記第2端子に最も電気的に近い第1並列共振器は、複数の並列共振器のうち最も挿入膜が薄いまたは挿入膜を備えず、前記第1並列共振器以外の少なくとも1つの第2並列共振器は前記第1並列共振器より挿入膜が厚い複数の並列共振器と、
一端が前記複数の並列共振器のうち少なくとも1つの第1共振器に接続され、他端が接地されたインダクタと、
前記複数の直列共振器と接地されたインダクタが接続されていない並列共振器とのうち少なくとも1つであり、前記インダクタの接続された並列共振器の挿入膜と実質的に同じ厚さの挿入膜を備える第2共振器と、
を備えるラダー型フィルタ。
【請求項2】
前記第1共振器は前記第1並列共振器を含み、
前記第2共振器は前記第1直列共振器を含む請求項1に記載のラダー型フィルタ。
【請求項3】
前記複数の直列共振器および前記複数の並列共振器のうち、前記第1並列共振器は最も挿入膜が薄く、前記第2直列共振器は2番目に挿入膜が薄い請求項1または2に記載のラダー型フィルタ。
【請求項4】
前記複数の並列共振器のうち前記第1端子に最も電気的に近い第3並列共振器は、前記複数の直列共振器および前記複数の並列共振器のうち最も挿入膜が厚い請求項1から3のいずれか一項に記載のラダー型フィルタ。
【請求項5】
基板と、前記基板上に設けられた圧電膜と、前記圧電膜の少なくとも一部を挟み互いに重なる共振領域を形成する第1電極および第2電極と、を備え、少なくとも一部の圧電薄膜共振器は前記共振領域内において前記第1電極と前記第2電極との間に設けられた挿入膜を備える複数の圧電薄膜共振器と、
第1端子と第2端子との間に直列接続され、前記複数の圧電薄膜共振器に含まれ、前記第2端子に最も電気的に近い第1直列共振器は、複数の直列共振器のうち最も挿入膜が薄く、前記第1直列共振器以外の少なくとも1つの第2直列共振器は前記第1直列共振器より挿入膜が厚い複数の直列共振器と、
一端が前記第1端子と前記第2端子との間に経路に接続され、他端が接地され、前記複数の圧電薄膜共振器に含まれ、前記第2端子に最も電気的に近い第1並列共振器は、複数の並列共振器のうち最も挿入膜が薄いまたは挿入膜を備えず、前記第1並列共振器以外の少なくとも1つの第2並列共振器は前記第1並列共振器より挿入膜が厚い複数の並列共振器と、
前記複数の直列共振器および前記複数の並列共振器のうち少なくとも1つの第1共振器に並列接続されたキャパシタと、
前記複数の直列共振器および前記複数の並列共振器のうち少なくとも1つであり、キャパシタが並列接続されておらず、前記キャパシタが並列接続された共振器の挿入膜と実質的に同じ厚さの挿入膜を備える第2共振器と、
を備えるラダー型フィルタ。
【請求項6】
前記第1共振器は前記第1直列共振器を含み、
前記第2共振器は前記第1並列共振器を含む請求項5に記載のラダー型フィルタ。
【請求項7】
前記複数の直列共振器および前記複数の並列共振器のうち、前記第1並列共振器は最も挿入膜が薄く、前記第2直列共振器は2番目に挿入膜が薄い請求項5または6に記載のラダー型フィルタ。
【請求項8】
前記複数の並列共振器のうち前記第1端子に最も電気的に近い第3並列共振器は、前記複数の直列共振器および前記複数の並列共振器のうち最も挿入膜が厚い請求項5から7のいずれか一項に記載のラダー型フィルタ。
【請求項9】
前記第1共振器は前記第3並列共振器を含む請求項8に記載のラダー型フィルタ。
【請求項10】
前記複数の圧電薄膜共振器において、前記圧電膜の厚さは実質的に同じであり、前記第1電極の厚さは実質的に同じであり、前記第2電極の厚さは実質的に同じである請求項1から9のいずれか一項に記載のラダー型フィルタ。
【請求項11】
基板と、前記基板上に設けられた圧電膜と、前記圧電膜の少なくとも一部を挟み互いに重なる共振領域を形成する第1電極および第2電極と、を備える複数の圧電薄膜共振器と、
第1端子と第2端子との間に直列接続され、前記複数の圧電薄膜共振器に含まれ、前記第2端子に最も電気的に近い第1直列共振器は、複数の直列共振器のうち最も単体の電気機械結合係数が大きく、前記第1直列共振器以外の少なくとも1つの第2直列共振器は前記第1直列共振器より単体の電気機械結合係数が小さい複数の直列共振器と、
一端が前記第1端子と前記第2端子との間に経路に接続され、他端が接地され、前記複数の圧電薄膜共振器に含まれ、前記第2端子に最も電気的に近い第1並列共振器は、複数の並列共振器のうち最も単体の電気機械結合係数が大きく、前記第1並列共振器以外の少なくとも1つの第2並列共振器は前記第1並列共振器より単体の電気機械結合係数が小さい複数の並列共振器と、
一端が前記複数の並列共振器のうち少なくとも1つの第1共振器に接続され、他端が接地されたインダクタと、
前記複数の直列共振器と接地されたインダクタが接続されていない並列共振器とのうち少なくとも1つであり、前記インダクタの接続された並列共振器の単体の電気機械結合係数と実質的に同じ大きさの単体の電気機械結合係数を有する第2共振器と、
を備えるラダー型フィルタ。
【請求項12】
基板と、前記基板上に設けられた圧電膜と、前記圧電膜の少なくとも一部を挟み互いに重なる共振領域を形成する第1電極および第2電極と、を備える複数の圧電薄膜共振器と、
第1端子と第2端子との間に直列接続され、前記複数の圧電薄膜共振器に含まれ、前記第2端子に最も電気的に近い第1直列共振器は、複数の直列共振器のうち最も単体の電気機械結合係数が大きく、前記第1直列共振器以外の少なくとも1つの第2直列共振器は前記第1直列共振器より単体の電気機械結合係数が小さい複数の直列共振器と、
一端が前記第1端子と前記第2端子との間に経路に接続され、他端が接地され、前記複数の圧電薄膜共振器に含まれ、前記第2端子に最も電気的に近い第1並列共振器は、複数の並列共振器のうち最も単体の電気機械結合係数が大きく、前記第1並列共振器以外の少なくとも1つの第2並列共振器は前記第1並列共振器より単体の電気機械結合係数が小さい複数の並列共振器と、
前記複数の直列共振器および前記複数の並列共振器のうち少なくとも1つの第1共振器に並列接続されたキャパシタと、
前記複数の直列共振器および前記複数の並列共振器のうち少なくとも1つであり、キャパシタが並列接続されておらず、前記キャパシタが並列接続された共振器の単体の電気機械結合係数と実質的に同じ単体の電気機械結合係数を有する第2共振器と、
を備えるラダー型フィルタ。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか一項に記載のラダー型フィルタを備えるマルチプレクサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラダー型フィルタおよびマルチプレクサに関し、例えば圧電薄膜共振器を有するラダー型フィルタおよびマルチプレクサに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話等の通信機器に用いられるフィルタとして、圧電薄膜共振器を有するラダー型フィルタが知られている。圧電薄膜共振器は、下部電極と上部電極とで圧電膜を挟む構造を有している。圧電膜の少なくとも一部を挟み下部電極と上部電極とが重なる領域が共振領域である。共振領域における下部電極と上部電極との間に挿入膜を挿入することが知られている(例えば特許文献1~3)。圧電薄膜共振器をラダー型フィルタに用いることが知られている(例えば特許文献4~7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-95729号公報
【特許文献2】特開2016-29766号公報
【特許文献3】特開2017-34358号公報
【特許文献4】特開2003-22074号公報
【特許文献5】特開2004-173236号公報
【特許文献6】特開2005-223808号公報
【特許文献7】特開2007-324823号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ラダー型フィルタにおいて、スカート特性の急峻を高め、広帯域化しようとするために、圧電薄膜共振器の電気機械結合係数を異ならせることがある。電気機械結合係数の異なる圧電薄膜共振器を有するラダー型フィルタを製造するためには、製造工数が増加し製造コストが高くなる。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、特性を向上させかつ製造工程の増加を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、基板と、前記基板上に設けられた圧電膜と、前記圧電膜の少なくとも一部を挟み互いに重なる共振領域を形成する第1電極および第2電極と、を備え、少なくとも一部の圧電薄膜共振器は前記共振領域内において前記第1電極と前記第2電極との間に設けられた挿入膜を備える複数の圧電薄膜共振器と、第1端子と第2端子との間に直列接続され、前記複数の圧電薄膜共振器に含まれ、前記第2端子に最も電気的に近い第1直列共振器は、複数の直列共振器のうち最も挿入膜が薄く、前記第1直列共振器以外の少なくとも1つの第2直列共振器は前記第1直列共振器より挿入膜が厚い複数の直列共振器と、一端が前記第1端子と前記第2端子との間に経路に接続され、他端が接地され、前記複数の圧電薄膜共振器に含まれ、前記第2端子に最も電気的に近い第1並列共振器は、複数の並列共振器のうち最も挿入膜が薄いまたは挿入膜を備えず、前記第1並列共振器以外の少なくとも1つの第2並列共振器は前記第1並列共振器より挿入膜が厚い複数の並列共振器と、一端が前記複数の並列共振器のうち少なくとも1つの第1共振器に接続され、他端が接地されたインダクタと、前記複数の直列共振器と接地されたインダクタが接続されていない並列共振器とのうち少なくとも1つであり、前記インダクタの接続された並列共振器の挿入膜と実質的に同じ厚さの挿入膜を備える第2共振器と、を備えるラダー型フィルタである。
【0007】
上記構成において、前記第1共振器は前記第1並列共振器を含み、前記第2共振器は前記第1直列共振器を含む構成とすることができる。
【0008】
上記構成において、前記複数の直列共振器および前記複数の並列共振器のうち、前記第1並列共振器は最も挿入膜が薄く、前記第2直列共振器は2番目に挿入膜が薄い構成とすることができる。
【0009】
上記構成において、前記複数の並列共振器のうち前記第1端子に最も電気的に近い第3並列共振器は、前記複数の直列共振器および前記複数の並列共振器のうち最も挿入膜が厚い構成とすることができる。
【0010】
本発明は、基板と、前記基板上に設けられた圧電膜と、前記圧電膜の少なくとも一部を挟み互いに重なる共振領域を形成する第1電極および第2電極と、を備え、少なくとも一部の圧電薄膜共振器は前記共振領域内において前記第1電極と前記第2電極との間に設けられた挿入膜を備える複数の圧電薄膜共振器と、第1端子と第2端子との間に直列接続され、前記複数の圧電薄膜共振器に含まれ、前記第2端子に最も電気的に近い第1直列共振器は、複数の直列共振器のうち最も挿入膜が薄く、前記第1直列共振器以外の少なくとも1つの第2直列共振器は前記第1直列共振器より挿入膜が厚い複数の直列共振器と、一端が前記第1端子と前記第2端子との間に経路に接続され、他端が接地され、前記複数の圧電薄膜共振器に含まれ、前記第2端子に最も電気的に近い第1並列共振器は、複数の並列共振器のうち最も挿入膜が薄いまたは挿入膜を備えず、前記第1並列共振器以外の少なくとも1つの第2並列共振器は前記第1並列共振器より挿入膜が厚い複数の並列共振器と、前記複数の直列共振器および前記複数の並列共振器のうち少なくとも1つの第1共振器に並列接続されたキャパシタと、前記複数の直列共振器および前記複数の並列共振器のうち少なくとも1つであり、キャパシタが並列接続されておらず、前記キャパシタが並列接続された共振器の挿入膜と実質的に同じ厚さの挿入膜を備える第2共振器と、を備えるラダー型フィルタである。
【0011】
上記構成において、前記第1共振器は前記第1直列共振器を含み、前記第2共振器は前記第1並列共振器を含む構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、前記複数の直列共振器および前記複数の並列共振器のうち、前記第1並列共振器は最も挿入膜が薄く、前記第2直列共振器は2番目に挿入膜が薄い構成とすることができる。
【0013】
上記構成において、前記複数の並列共振器のうち前記第1端子に最も電気的に近い第3並列共振器は、前記複数の直列共振器および前記複数の並列共振器のうち最も挿入膜が厚い構成とすることができる。
【0014】
上記構成において、前記第1共振器は前記第3並列共振器を含む構成とすることができる。
【0015】
上記構成において、前記複数の圧電薄膜共振器において、前記圧電膜の厚さは実質的に同じであり、前記第1電極の厚さは実質的に同じであり、前記第2電極の厚さは実質的に同じである構成とすることができる。
【0016】
本発明は、基板と、前記基板上に設けられた圧電膜と、前記圧電膜の少なくとも一部を挟み互いに重なる共振領域を形成する第1電極および第2電極と、を備える複数の圧電薄膜共振器と、第1端子と第2端子との間に直列接続され、前記複数の圧電薄膜共振器に含まれ、前記第2端子に最も電気的に近い第1直列共振器は、複数の直列共振器のうち最も単体の電気機械結合係数が大きく、前記第1直列共振器以外の少なくとも1つの第2直列共振器は前記第1直列共振器より単体の電気機械結合係数が小さい複数の直列共振器と、一端が前記第1端子と前記第2端子との間に経路に接続され、他端が接地され、前記複数の圧電薄膜共振器に含まれ、前記第2端子に最も電気的に近い第1並列共振器は、複数の並列共振器のうち最も単体の電気機械結合係数が大きく、前記第1並列共振器以外の少なくとも1つの第2並列共振器は前記第1並列共振器より単体の電気機械結合係数が小さい複数の並列共振器と、一端が前記複数の並列共振器のうち少なくとも1つの第1共振器に接続され、他端が接地されたインダクタと、前記複数の直列共振器と接地されたインダクタが接続されていない並列共振器とのうち少なくとも1つであり、前記インダクタの接続された並列共振器の単体の電気機械結合係数と実質的に同じ大きさの単体の電気機械結合係数を有する第2共振器と、を備えるラダー型フィルタである。
【0017】
本発明は、基板と、前記基板上に設けられた圧電膜と、前記圧電膜の少なくとも一部を挟み互いに重なる共振領域を形成する第1電極および第2電極と、を備える複数の圧電薄膜共振器と、第1端子と第2端子との間に直列接続され、前記複数の圧電薄膜共振器に含まれ、前記第2端子に最も電気的に近い第1直列共振器は、複数の直列共振器のうち最も単体の電気機械結合係数が大きく、前記第1直列共振器以外の少なくとも1つの第2直列共振器は前記第1直列共振器より単体の電気機械結合係数が小さい複数の直列共振器と、一端が前記第1端子と前記第2端子との間に経路に接続され、他端が接地され、前記複数の圧電薄膜共振器に含まれ、前記第2端子に最も電気的に近い第1並列共振器は、複数の並列共振器のうち最も単体の電気機械結合係数が大きく、前記第1並列共振器以外の少なくとも1つの第2並列共振器は前記第1並列共振器より単体の電気機械結合係数が小さい複数の並列共振器と、前記複数の直列共振器および前記複数の並列共振器のうち少なくとも1つの第1共振器に並列接続されたキャパシタと、前記複数の直列共振器および前記複数の並列共振器のうち少なくとも1つであり、キャパシタが並列接続されておらず、前記キャパシタが並列接続された共振器の単体の電気機械結合係数と実質的に同じ単体の電気機械結合係数を有する第2共振器と、を備えるラダー型フィルタである。
【0018】
本発明は、上記ラダー型フィルタを備えるマルチプレクサである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、特性を向上させかつ製造工程の増加を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1(a)は、ラダー型フィルタの回路図、
図1(b)は、
図1(a)のラダー型フィルタを区間に分割した回路図である。
【
図2】
図2(a)は、連立チェビシェフ近似を用いて設計するフィルタの通過特性を示す図、
図2(b)は、圧電薄膜共振器の等価回路である。
【
図3】
図3(a)および
図3(b)は、シミュレーション1におけるラダー型フィルタの回路図である。
【
図4】
図4(a)は、フィルタA1~A3における各共振器の電気機械結合係数を示す図、
図4(b)は、フィルタA4~A6における各共振器の電気機械結合係数を示す図である。
【
図5】
図5(a)および
図5(b)は、実施例1における圧電薄膜共振器の断面図である。
【
図6】
図6は、挿入膜の厚さT8に対する電気機械結合係数k
2を示す図である。
【
図7】
図7は、実施例1におけるラダー型フィルタの回路図である。
【
図8】
図8(a)は、共振器にインダクタンスLgを直列接続したときの等価回路、
図8(b)は、インダクタンスLgの大きさに対する電気機械結合係数を示す図である。
【
図9】
図9(a)および
図9(b)は、シミュレーション2におけるフィルタB1~B3の通過特性を示す図である。
【
図10】
図10(a)および
図10(b)は、それぞれ実施例1の変形例1および2におけるラダー型フィルタの回路図である。
【
図11】
図11(a)は、共振器にキャパシタンスCpを並列接続したときの等価回路、
図11(b)および
図11(c)は、キャパシタンスCpの大きさに対する電気機械結合係数を示す図である。
【
図12】
図12(a)および
図12(b)は、シミュレーション3におけるフィルタB1、C1およびC2の通過特性を示す図である。
【
図13】
図13(a)および
図13(b)は、シミュレーション3におけるフィルタB1、C3およびC4の通過特性を示す図である。
【
図14】
図14(a)および
図14(b)は、それぞれ実施例1の変形例3および4に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
【
図15】
図15は、実施例2に係るデュプレクサの回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照し本発明の実施例について説明する。
【実施例0022】
[ラダー型フィルタと設計手法]
実施例1について説明する前にラダー型フィルタの設計手法について説明する。
図1(a)は、ラダー型フィルタの回路図である。
図1(a)に示すように、ラダー型フィルタでは、端子T1(第1端子)とT2(第2端子)との間に複数の直列共振器S1~S3が直列接続されている。端子T1とT2との間に複数の並列共振器P1~P3が並列接続されている。並列共振器P1~P3の一端は端子T1とT2の経路に接続され、他端はグランド端子Gndに接続(接地)されている。端子T1およびT2の一方は高周波信号が入力する入力端子であり、端子T1およびT2の他方は濾過された高周波信号が出力される出力端子である。
【0023】
[イメージインピーダンス法]
図1(b)は、
図1(a)のラダー型フィルタを区間に分割した回路図である。
図1(b)に示すように、直列共振器S1を2つの直列共振器S1aおよびS1bに分割し、直列共振器S2を2つの直列共振器S2aおよびS2bに分割する。並列共振器P2を2つの並列共振器P2aおよびP2bに分割し、並列共振器P3は2つの並列共振器P3aおよびP3bに分割する。1つの並列共振器と1つの直列共振器を含む区間21~25を設定する。このように、
図1(a)のラダー型フィルタは5個の区間21~25を有する5段のラダー型フィルタである。イメージインピーダンス法では、区間21~25を用いフィルタを設計する。定k型の設計では区間21~25のインピーダンスを所望の値になるように設計する。誘導m型の設計では、定k型に加え、減衰極を設けることで、スカート特性を急峻にする。しかし、通過帯域から離れた減衰量は定k型より劣る。
【0024】
イメージインピーダンス法は、設計のための計算が簡単であり、ラダー型フィルタの設計に広く用いられている。イメージインピーダンス法を用い設計された圧電薄膜共振器を有するラダー型フィルタでは、複数の直列共振器における電気機械結合係数はほとんど同じであり、複数の並列共振器における電気機械結合係数はほとんど同じである。しかし、イメージインピーダンス法を用い設計されたラダー型フィルタは圧電薄膜共振器の個数が多くなり特性が劣化する。急峻なスカート特性を有しかつ広帯域なラダー型フィルタの設計には限界がある。
【0025】
[動的パラメータ法]
動的パラメータ法は、所望の特性に最も近似できるフィルタ回路のパラメータを直接まとめて算出する方法である。少ない共振器の個数でフィルタを構成できるため特性が向上する。動的パラメータ法として、連立チェビシェフ近似を用いラダー型フィルタを設計することを検討した。連立チェビシェフ近似では、通過帯域にリップルを形成し、減衰域に減衰極を形成することで急峻なスカート特性を得ることができる。圧電薄膜共振器を用いたラダー型フィルタの設計に連立チェビシェフ近似を用いることを検討した。
【0026】
図2(a)は、連立チェビシェフ近似を用いて設計するフィルタの通過特性を示す図である。
図2(a)に示すように、フィルタの通過帯域Passにおける最大損失をPdBとする。損失PdBにおけるバンド幅をBW1とする。減衰域Attにおける最小減衰量をAdBとする。減衰量がAdBにおけるバンド幅をBWnとする。通過帯域Passと減衰域Attとの間のスカートの傾きをフィルタ降下率θとする。反射係数ρ[%]=(10
RdB/1-1)/(10
RdB/10)であり、θ=arcsin(BW1/BWn)である。nは次数である。連立チェビシェフ近似では、特性パラメータρ、θおよびAdBと設計パラメータnの4つから3つの値を決めることにより基準LPF(Low Pass Filter)を定める。基準LPFを回路変換することで所望の特性を有するBPF(Band Pass Filter)が設計できる。
【0027】
圧電薄膜共振器の等価回路にはBVD(Butterworth-Van Dyke)モデルが用いられる。
図2(b)は、圧電薄膜共振器の等価回路である。
図2(b)に示すように、端子T01とT02との間に動インダクタンスLmと動キャパシタンスCmが直列接続されている。動インダクタンスLmと動キャパシタンスCmに並列にキャパシタンスC0が接続されている。圧電薄膜共振器の等価回路としてBVDモデルを用い連立チェビシェフ近似に基づいてラダー型フィルタを設計する。共振器の共振周波数frはfr=1/(2π√(Lm×Cm))となり、反共振周波数faはfa=fr√(1+Cm/C0)となり、電気機械結合係数k
2はk
2=(π/2)
2(fr/fa)(fa-fr)/faとなる。
【0028】
[シミュレーション1]
特性パラメータおよび設計パラメータを変え連立チェビシェフ近似に基づいて6個のフィルタA1~A6を設計した。各フィルタA1~A6のパラメータは以下である。
フィルタA1:θ=60°、AdB=59dB、ρ=20%、段数:5
フィルタA2:θ=70°、AdB=44dB、ρ=20%、段数:5
フィルタA3:θ=80°、AdB=29dB、ρ=20%、段数:5
フィルタA4:θ=51°、AdB=48dB、ρ=20%、段数:3
フィルタA5:θ=51°、AdB=73dB、ρ=20%、段数:5
フィルタA6:θ=51°、AdB=98dB、ρ=20%、段数:7
【0029】
段数が5段のラダー型フィルタの回路図は
図1(a)である。
図3(a)および
図3(b)は、シミュレーション1におけるラダー型フィルタの回路図である。
図3(a)に示すように、段数が3段のラダー型フィルタでは、端子T1とT2との間に、2個の直列共振器S1およびS2が直列接続され、2個の並列共振器P1およびP2が並列接続されている。
図3(b)に示すように、段数が7段のラダー型フィルタでは、端子T1とT2との間に、4個の直列共振器S1~S4が直列接続され、4個の並列共振器P1~P4が並列接続されている。その他の構成は
図1(a)と同じであり説明を省略する。
【0030】
表1~表6は、フィルタA1~A6におけるキャパシタンスC0、動インダクタンスLm、動キャパシタンスCm、共振周波数fr、反共振周波数faおよび電気機械結合係数k2を示す表である。
【0031】
【0032】
【0033】
【0034】
【0035】
【0036】
【0037】
図4(a)は、フィルタA1~A3における各共振器の電気機械結合係数を示す図、
図4(b)は、フィルタA4~A6における各共振器の電気機械結合係数を示す図である。
図4(a)および
図4(b)に示すように、各共振器の電気機械結合係数k
2は異なる。フィルタA1~A6とも最も電気機械結合係数k
2の大きい共振器は並列共振器のうち最も端子T2に近い並列共振器である。2番目に電気機械結合係数k
2の大きい共振器は直列共振器のうち最も端子T2に近い直列共振器である。段数が3段および5段では最も電気機械結合係数k
2の小さい共振器は並列共振器のうち端子T1に最も近い並列共振器である。最も大きい電気機械結合係数k
2は最も小さい電気機械結合係数k
2の2倍近くである。このように、連立チェビシェフ近似を用いて設計するラダー型フィルタでは、共振器毎に電気機械結合係数k
2を大きく異ならせる。また、特性パラメータおよび設計パラメータに依存せず、端子T2に近い直列共振器および並列共振器の電気機械結合係数k
2を大きくする。なお、端子T2は入力端子でもよいし出力端子でもよい。
【0038】
電気機械結合係数k
2の異なる圧電薄膜共振器の例を説明する。
図5(a)および
図5(b)は、実施例1における圧電薄膜共振器の断面図である。
図5(a)に示すように、基板10上に共振器11aおよび11bが設けられている。基板10の上面に窪みからなる空隙30が設けられている。基板10および空隙30上に下部電極12(第1電極)、下部電極12上に圧電膜14、圧電膜14上に上部電極16(第2電極)が設けられている。圧電膜14の少なくとも一部を介し下部電極12と上部電極16とが重なる(対向する)領域は共振領域50である。共振領域50の平面形状は、楕円形状、多角形状(四角形状または五角形状)等の任意に設定できる。共振器11aには挿入膜18は設けられていない。共振器11bでは、圧電膜14は、下部電極12上に設けられた下部圧電膜14aと下部圧電膜14a上に設けられた上部圧電膜14bとを備えている。下部圧電膜14aと上部圧電膜14bとの間に挿入膜18が設けられている。
【0039】
共振器11aでは、下部電極12、圧電膜14および上部電極16の厚さをそれぞれT2、T4およびT6とする。共振器11bでは、下部圧電膜14a、上部圧電膜14bおよび挿入膜18の厚さをそれぞれT4a、T4bおよびT8とする。T4=T4a+T4bである。挿入膜18の設けられていない共振器11bでは、挿入膜18の厚さT8は0である。共振器11aと11bとでは、下部電極12、圧電膜14および上部電極16を同時に形成する。このため、共振器11aと11bとで下部電極12の厚さT2は製造誤差程度に実質的に同じであり、圧電膜14の厚さT4は製造誤差程度に実質的に同じであり、上部電極16の厚さT6は製造誤差程度に実質的に同じである。
【0040】
図5(b)に示すように、共振器11aでは、圧電膜14は、下部電極12上に設けられた下部圧電膜14aと下部圧電膜14a上に設けられた上部圧電膜14bとを備えている。下部圧電膜14aと上部圧電膜14bとの間に挿入膜18が設けられている。共振器11aの挿入膜18の厚さT8は共振器11bの挿入膜18の厚さT8より薄い。その他の構成は
図4(a)と同じであり説明を省略する。
【0041】
基板10は、例えばシリコン基板、サファイア基板、スピネル基板、アルミナ基板、石英基板、ガラス基板、水晶基板、セラミック基板またはGaAs基板等の絶縁基板または半導体基板である。下部電極12および上部電極16は、例えばルテニウム(Ru)、クロム(Cr)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)またはイリジウム(Ir)等の金属の単層膜またはこれらの積層膜である。
【0042】
圧電膜14は、窒化アルミニウム(AlN)、酸化亜鉛(ZnO)、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、チタン酸鉛(PbTiO3)、単結晶タンタル酸リチウム(LiTaO3)または単結晶ニオブ酸リチウム(LiNbO3)等を主成分とした膜である。また、例えば、圧電膜14は、窒化アルミニウムを主成分とし、共振特性の向上または圧電性の向上のため他の元素を含んでもよい。例えば、添加元素として、スカンジウム(Sc)、2族元素と4族元素との2つの元素、または2族元素と5族元素との2つの元素を用いることにより、圧電膜14の圧電性が向上する。このため、圧電薄膜共振器の実効的電気機械結合係数を向上できる。2族元素は、例えばカルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、ストロンチウム(Sr)または亜鉛(Zn)である。4族元素は、例えばチタン、ジルコニウム(Zr)またはハフニウム(Hf)である。5族元素は、例えばタンタル、ニオブ(Nb)またはバナジウム(V)である。さらに、圧電膜14は、窒化アルミニウムを主成分とし、ボロン(B)を含んでもよい。
【0043】
挿入膜18の音響インピーダンスは、圧電膜14の音響インピーダンスより小さいことが好ましい。圧電膜14が窒化アルミニウムを主成分とする場合、挿入膜18は、例えば酸化シリコン膜、アルミニウム膜、金膜、銅膜、チタン膜、白金膜またはタンタル膜である。
【0044】
図6は、挿入膜の厚さT8に対する電気機械結合係数k
2を示す図である。下部電極12は、厚さT2が130nmのルテニウム膜、圧電膜14は厚さT4が800nmの窒化アルミニウム膜、上部電極16は厚さT6が145nmのルテニウム膜、挿入膜18は酸化シリコン膜である。
図6に示すように、挿入膜18の厚さT8が厚くなると電気機械結合係数k
2が小さくなる。挿入膜18の厚さT8を100nm程度にすると電気機械結合係数k
2は挿入膜18を設けない共振器の約半分となる。このように、挿入膜18の厚さT8を異ならせることで、共振器の電気機械結合係数k
2を大きく異ならせることができる。
【0045】
図7は、実施例1におけるラダー型フィルタの回路図である。
図7に示すように、インダクタL1およびL2が設けられている。インダクタL1の一端は並列共振器P2に接続され、他端はグランド端子Gndに接続されている。インダクタL2の一端は並列共振器P3に接続され、他端はグランド端子Gndに接続されている。その他の回路構成は
図1(a)と同じであり説明を省略する。
【0046】
図8(a)は、共振器にインダクタンスLgを直列接続したときの等価回路、
図8(b)は、インダクタンスLgの大きさに対する電気機械結合係数を示す図である。
図8(a)に示すように、動キャパシタンスCmとキャパシタンスC0が接続されるノードN01と端子T01との間にインダクタンスLgが接続されている。インダクタンスLgが接続された共振器の共振周波数fr´は、fr´=1/(2π√(Lm×Cm+Lg×Cm))となる。反共振周波数faはインダクタンスLgを設けない
図2(b)と同じであり、fa=fr√(1+Cm/C0)である。
【0047】
図8(b)は、並列共振器P2およびP3に直列接続されたインダクタL1およびL2のインダクタンスLgに対する電気機械結合係数の変化量Δk
2の算出結果を示す図である。変化量Δk
2はインダクタンスLgを直列接続しない共振器における単体の電気機械結合係数k
2に対するインダクタL1およびL2を直列接続したときの実質的な電気機械結合係数k
2の変化量である。すなわち、Δk
2=(実質的なk
2-単体k
2)/(実質的なk
2)×100[%]である。並列共振器P2およびP3の単体での電気機械結合係数k
2はそれぞれ3.3%および5.6%である。
図8(b)に示すように、インダクタンスLgを大きくすると電気機械結合係数k
2が大きくなる。共振器単体での電気機械結合係数k
2の大きい並列共振器P3では、並列共振器P2に比べ、同じインダクタンスLgに対する変化量Δk
2が大きい。
【0048】
圧電薄膜共振器では、挿入膜18の厚さT8を異ならせるためには工程を増やすことになる。このため、連立チェビシェフ近似に基づき設計したラダー型フィルタを、圧電薄膜共振器を用いて実現しようとすると、製造工数が増大し、製造コストが高くなる。そこで、直列共振器S1~S3および並列共振器P1~P3のうち電気機械結合係数k2の近い共振器では、挿入膜18の厚さT8を略同じとし、圧電薄膜共振器における単体の電気機械結合係数k2を略同じとする。単体の電気機械結合係数k2が略同じ圧電薄膜共振器のうち実質的な電気機械結合係数k2を大きくするべき並列共振器にインダクタンスLgを接続する。これにより、挿入膜18の厚さT8の水準を少なくでき、製造工数が削減できる。
【0049】
[シミュレーション2]
LTE(Long Term Evolution)バンド7の送信フィルタを例にラダー型フィルタの通過特性をシミュレーションした。LTEバンド7では、送信帯域は2500MHz~2570MHz、受信帯域は2620MHzz~2690MHzである。送信帯域と受信帯域との間のガードバンドの幅は50MHzである。一方、送信帯域および受信帯域の幅は各々70MHzであり、周波数に対する帯域幅である比帯域は2.7%である。このように、ガードバンド幅の小さいバンドに用いるフィルタはスカート特性を急峻にすることが求められる。また、通過帯域幅を70MHzと大きくし、かつ通過帯域内のリップルを抑制することが求められる。
【0050】
フィルタB1~B3について通過特性をシミュレーションした。フィルタB1およびB2は比較例であり、フィルタB3は実施例1に相当する。
【0051】
フィルタB1は、
図1(a)のようにインダクタL1およびL2を含まず、全ての共振器の電気機械結合係数k
2を連立チェビシェフ近似に基づき設計された値とする。フィルタB1では、6個の水準の電気機械結合係数k
2(すなわち挿入膜18の厚さT8)を有する圧電薄膜共振器を用いる。
【0052】
フィルタB2は、
図1(a)のようにインダクタL1およびL2を含まず、連立チェビシェフ近似に基づき設計された電気機械結合係数k
2のうち近いものを同じ電気機械結合係数k
2を同じとした圧電薄膜共振器を用いる。並列共振器P1およびP2の電気機械結合係数k
2を同じとし、並列共振器P3および直列共振器S3の電気機械結合係数k
2を同じとした。フィルタB2では、4個の水準の電気機械結合係数k
2(すなわち挿入膜18の厚さT8)を有する圧電薄膜共振器を用いる。
【0053】
フィルタB3は、
図7のように、インダクタL1とL2を含む。各共振器の単体の電気機械結合係数k
2はフィルタB2と同じとした。単体の電気機械結合係数k
2(すなわち挿入膜18の厚さT8)の水準は4個である。並列共振器P2およびP3にインダクタL1とL2を直列接続することで実質的な電気機械結合係数k
2を並列共振器P2およびP3における単体の電気機械結合係数k
2より大きくした。これにより、全ての共振器の実質的な電気機械結合係数k
2を連立チェビシェフ近似に基づき設計された値とする。
【0054】
表7~表9は、フィルタB1~B3におけるキャパシタンスC0、動インダクタンスLm、動キャパシタンスCm、共振周波数fr、反共振周波数faおよび電気機械結合係数k2を示す表である。表9では、フィルタB3におけるインダクタンスLgおよび単体k2を示す。表9におけるk2はインダクタL1およびL2を接続した共振器の実質的なk2であり、単体k2は共振器単体のk2である。
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
表7と表9に示すように、フィルタB1とB3とにおける各共振器の各パラメータはほぼ同じとなる。表7~表9のように、フィルタB2の並列共振器P2およびP3の各パラメータはフィルタB1およびB3と異なっている。
【0059】
図9(a)および
図9(b)は、シミュレーション2におけるフィルタB1~B3の通過特性を示す図である。
図9(b)は、
図9(a)の通過帯域付近の拡大図である。
図9(a)および
図9(b)に示すように、フィルタB1とB3は通過帯域の幅、通過帯域におけるリップルおよび低周波側のスカートの急峻性は同程度である。フィルタB2では、フィルタB1およびB3に対し通過帯域の幅が狭くなり、かつ低周波側のスカートの急峻性が低下している。
【0060】
このように、フィルタB1では、通過帯域の幅は広くスカートの急峻性が高いが、6水準の電気機械結合係数k2を有する圧電薄膜共振器を準備するため製造工程が増加し製造コストが高くなる。フィルタB2では、電気機械結合係数k2を4水準とするため製造工程を削減でき製造コストを抑制できる。しかし、フィルタ特性が劣化する。フィルタB3では、インダクタL1およびL2を設けることで、共振器単体の電気機械結合係数k2を4水準とするため製造工程を削減でき製造コストを抑制できる。インダクタL1およびL2を接続することで、実質的な電気機械結合係数k2をフィルタB1と同程度にできる。これにより、フィルタ特性をフィルタB1と同程度とすることができる。
【0061】
[実施例1の変形例1]
図10(a)は、実施例1の変形例1におけるラダー型フィルタの回路図である。
図10(a)に示すように、キャパシタC1およびC2が設けられている。キャパシタC1は直列共振器S2に並列接続され、キャパシタC2は直列共振器S3に並列接続されている。その他の回路構成は
図1(a)と同じであり説明を省略する。
【0062】
[実施例1の変形例2]
図10(b)は、実施例1の変形例2におけるラダー型フィルタの回路図である。
図10(b)に示すように、キャパシタC3およびC4が設けられている。キャパシタC3は並列共振器P1に並列接続され、キャパシタC4は並列共振器P4に並列接続されている。その他の回路構成は
図1(a)と同じであり説明を省略する。
【0063】
図11(a)は、共振器にキャパシタンスCpを並列接続したときの等価回路、
図11(b)および
図11(c)は、キャパシタンスCpの大きさに対する電気機械結合係数を示す図である。
図11(a)に示すように、キャパシタンスCpはキャパシタンスC0に並列接続されている。キャパシタンスCpが接続された共振器の反共振周波数fa´は、fa´=fr√(1+Cm/(C0+Cp))となる。共振周波数frはキャパシタンスCpを設けない
図2(b)と同じであり、fr=1/(2π√(Lm×Cm))である。
【0064】
図11(b)は、直列共振器S2およびS3に並列接続されたキャパシタC1およびC2のキャパシタンスCpに対する電気機械結合係数の変化量Δk
2の算出結果を示す図である。変化量Δk
2はキャパシタンスCpを並列接続しない共振器における単体の電気機械結合係数k
2に対するキャパシタC1およびC2を並列接続したときの実質的な電気機械結合係数k
2の変化量である。直列共振器S2およびS3の単体での電気機械結合係数k
2はそれぞれ3.8%および6.7%である。
【0065】
図11(c)は、並列共振器P1およびP2に並列接続されたキャパシタC3およびC4のキャパシタンスCpに対する電気機械結合係数の変化量Δk
2の算出結果を示す図である。並列共振器P1およびP2の単体での電気機械結合係数k
2はそれぞれ3.4%および4.5%である。
【0066】
図11(b)および
図11(c)に示すように、キャパシタンスCpを大きくすると電気機械結合係数k
2が小さくなる。共振器単体での電気機械結合係数k
2の大きい共振器では、同じキャパシタンスCpに対する変化量Δk
2が大きい。このように、並列にキャパシタンスCpを設けることで、実質的な電気機械結合係数k
2を単体の電気機械結合係数k
2より小さくできる。
【0067】
[シミュレーション3]
LTEバンド7の送信フィルタを例にフィルタC1~C4の通過特性をシミュレーションした。フィルタC1およびC3は比較例であり、フィルタC2は実施例1の変形例1に相当し、フィルタC3は実施例1の変形例2に相当する。
【0068】
フィルタC1およびC3は、
図1(a)のようにキャパシタC1~C4を含まず、全ての共振器の電気機械結合係数k
2を連立チェビシェフ近似に基づき設計された電気機械結合係数k
2のうち近いものを同じ電気機械結合係数k
2を同じとした圧電薄膜共振器を用いる。
【0069】
フィルタC1では、並列共振器P2および直列共振器S2の電気機械結合係数k2を同じとし、並列共振器P3および直列共振器S3の電気機械結合係数k2を同じとした。電気機械結合係数k2(すなわち挿入膜18の厚さT8)の水準は4個である。
【0070】
フィルタC3では、並列共振器P1と直列共振器S2の電気機械結合係数k2を同じとし、直列共振器S1と並列共振器P2の電気機械結合係数k2を同じとした。電気機械結合係数k2(すなわち挿入膜18の厚さT8)の水準は4個である。
【0071】
フィルタC2は、単体の圧電薄膜共振器の電気機械結合係数k
2はフィルタC1と同じであり、単体の電気機械結合係数k
2(すなわち挿入膜18の厚さT8)の水準は4個である。
図10(a)のように、直列共振器S2およびS3にキャパシタC1およびC2を並列接続することで、直列共振器S2およびS3における実質的な電気機械結合係数k
2を直列共振器S2およびS3における単体の電気機械結合係数より小さくした。これにより、全ての共振器の電気機械結合係数k
2を連立チェビシェフ近似に基づき設計された値とする。
【0072】
フィルタC4は、単体の圧電薄膜共振器の電気機械結合係数k
2はフィルタC3と同じであり、電気機械結合係数k
2(すなわち挿入膜18の厚さT8)の水準は4個である。
図10(b)のように、並列共振器P1およびP2にキャパシタC3およびC4を並列接続することで、並列共振器P1およびP2における実質的な電気機械結合係数k
2を直列共振器S1およびS2における単体の電気機械結合係数k
2より小さくした。これにより、全ての共振器の電気機械結合係数k
2を連立チェビシェフ近似に基づき設計された値とする。
【0073】
表10~表13は、フィルタC1~C4におけるキャパシタンスC0、動インダクタンスLm、動キャパシタンスCm、共振周波数fr、反共振周波数faおよび電気機械結合係数k2を示す表である。表11および表13では、フィルタC2およびC4におけるキャパシタンスCpおよび単体k2を示す。表11および表13におけるk2はキャパシタC1~C4を並列接続した共振器の実質的なk2であり、単体k2は共振器単体のk2である。
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
表11および表13に示すように、フィルタC2およびC4における各共振器の各パラメータは表7のフィルタB1とほぼ同じとなる。表10およびC12のように、フィルタC1の直列共振器S2およびS3の各パラメータはフィルタB1およびC2と異なっている。フィルタC3の並列共振器P1およびP2の各パラメータはフィルタB1およびC4と異なっている。
【0079】
図12(a)および
図12(b)は、シミュレーション3におけるフィルタB1、C1およびC2の通過特性を示す図である。
図12(b)は、
図12(a)の通過帯域付近の拡大図である。
図12(a)および
図12(b)に示すように、フィルタB1とC2との通過特性はほぼ重なっている。フィルタC1では、フィルタB1およびC2に対し通過帯域の幅が広いものの通過帯域内にリップルが形成され、高周波側のスカートの急峻性が低くなっている。
【0080】
図13(a)および
図13(b)は、シミュレーション3におけるフィルタB1、C3およびC4の通過特性を示す図である。
図13(b)は、
図13(a)の通過帯域付近の拡大図である。
図13(a)および
図13(b)に示すように、フィルタB1とC4との通過特性はほぼ重なっている。フィルタC3では、フィルタB1およびC4に対し通過帯域の高周波側の肩にリップルが形成されている。これにより、通過帯域の幅が狭くなっている。
【0081】
このように、フィルタC2およびC4では、キャパシタC1~C4を設けることで、共振器単体の電気機械結合係数k2を4水準とするため製造工程を削減でき製造コストを抑制できる。キャパシタC1~C4を接続することで、実質的な電気機械結合係数k2をフィルタB1と同程度にできる。これにより、フィルタ特性をフィルタB1と同程度とすることができる。
【0082】
実施例1およびその変形例によれば、連立チェビシェフ近似に基づきラダー型フィルタを設計すると、シミュレーション1のフィルタA1~A6のように、端子T2に最も電気的に近い直列共振器S3(第1直列共振器)は、複数の直列共振器S1~S3のうち単体の電気機械結合係数k2が最も大きい。すなわち、直列共振器S3は、複数の直列共振器S1~S3のうち最も挿入膜18が薄い。直列共振器S3以外の少なくとも1つの直列共振器S1およびS2(第2直列共振器)は直列共振器S3より単体の電気機械結合係数k2が小さい。すなわち、直列共振器S1およびS2は直列共振器S3より挿入膜18が厚い。なお、挿入膜18が設けられていない共振器に対し、挿入膜18が設けられた共振器は挿入膜18が厚いと表現する。また、挿入膜18が設けられていない共振器は、挿入膜18が設けられた共振器に対し挿入膜18が薄いと表現する。
【0083】
同様に、端子T2に最も電気的に近い並列共振器P3(第1並列共振器)は、複数の並列共振器P1~P3のうち単体の電気機械結合係数k2が最も大きい。すなわち、並列共振器P3は、複数の並列共振器P1~P3のうち最も挿入膜18が薄いまたは挿入膜18を備えない。並列共振器P3以外の少なくとも1つの並列共振器P1およびP2(第2並列共振器)は並列共振器P3より単体の電気機械結合係数k2が小さい。すなわち、並列共振器P1およびP2は並列共振器P3より挿入膜18が厚い。
【0084】
実施例1では、フィルタB3、
図7のように、インダクタL1およびL2の一端を複数の並列共振器P1~P3のうち少なくとも1つの並列共振器P2およびP3(第1共振器)に接続し、他端を接地する。これにより、並列共振器P2およびP2における実質的な電気機械結合係数k
2を共振器単体の電気機械結合係数k
2より大きくできる。複数の直列共振器S1~S3と接地されたインダクタが接続されていない並列共振器P1とのうち少なくとも1つの共振器(第2共振器)の単体の電気機械結合係数k
2を並列共振器P2およびP3の単体の電気機械結合係数k
2と実質的に同じにする。すなわち、並列共振器P3と直列共振器S3とは単体の電気機械結合係数k
2が実質的に同じ(フィルタB3では5.6%)である(すなわち挿入膜18の厚さが実質的に同じである)。並列共振器P2とP1とは単体の電気機械結合係数k
2が実質的に同じ(フィルタB3では3.3%)である(すなわち挿入膜18の厚さが実質的に同じである)。これにより、製造工数を増やすことなく、ラダー型フィルタ内の圧電薄膜共振器の電気機械結合係数k
2の水準の数を少なくできる。並列共振器P2およびP3にインダクタL1およびL2を直列接続することで、並列共振器P2およびP3の実質的な電気機械結合係数k
2を単体の電気機械結合係数k
2より大きくできる。これにより、フィルタ特性を向上できる。よって、特性を向上させかつ製造工程の増加を抑制することができる。
【0085】
連立チェビシェフ近似に基づきラダー型フィルタを設計すると、シミュレーション1のフィルタA1~A6のように、直列共振器S3の電気機械結合係数k2は並列共振器P3の電気機械結合係数より大きくなる。そこで、インダクタL2の接続される並列共振器(第1共振器)を並列共振器P3(第1並列共振器)とし、直列共振器S3(第1直列共振器)は、並列共振器P3と実質的に同じ単体の電気機械結合係数k2とする。すなわち、直列共振器S3(第1直列共振器)と並列共振器P3(第1並列共振器)との挿入膜18の厚さT8を実質的に同じにする。これにより、特性を向上させかつ製造工程の増加を抑制することができる。
【0086】
また、連立チェビシェフ近似に基づきラダー型フィルタを設計すると、複数の直列共振器S1~S3のうち、端子T2に最も近い並列共振器P3が最も電気機械結合係数k2が大きく、端子T2に最も近い直列共振器S3が2番目に電気機械結合係数k2が大きい。すなわち、並列共振器P3は最も挿入膜18が薄く、直列共振器S3は2番目に挿入膜が薄い。直列共振器S3の単体の電気機械結合係数k2は、複数の直列共振器S1~S3のうち最も小さい単体の電気機械結合係数k2の1.2倍以上または1.4倍以上となる。また、端子T2に最も近い並列共振器P3の単体の電気機械結合係数k2は、複数の並列共振器P1~P3のうち最も小さい単体の電気機械結合係数k2の1.2倍以上または1.4倍以上となる。これを実現するため、直列共振器S3の挿入膜18と複数の直列共振器S1~S3のうち最も厚い挿入膜18との厚さの差は5nm以上であり、10nm以上である。並列共振器P3の挿入膜18と複数の並列共振器P1~P3のうち最も厚い挿入膜18との厚さの差は5nm以上であり、10nm以上である。
【0087】
さらに、連立チェビシェフ近似に基づきラダー型フィルタを設計すると、シミュレーション1のフィルタA1~A6のように、段数が5段以下では、端子T1に最も電気的に近い並列共振器P1(第3並列共振器)は、直列共振器S1~S3および並列共振器P1~P3のうち最も単体の電気機械結合係数k2が小さい(すなわち、挿入膜18が最も大きい)。
【0088】
実施例1の変形例1および2では、フィルタC2、C4および
図10(a)および
図10(b)のように、キャパシタC1~C4は直列共振器S1~S3および並列共振器P1~P3のうち少なくとも1つの共振器(第1共振器)に並列接続されている。キャパシタC1が並列接続された共振器の単体の電気機械結合係数k
2と同じ単体の電気機械結合係数k
2を有する(すなわち挿入膜18の厚さT8が実質的に同じ)共振器(第2共振器)が設けられている。例えば、フィルタC2では、キャパシタC1が並列接続された直列共振器S2とキャパシタが並列接続されていない並列共振器P2とは実質的に同じ単体の電気機械結合係数k
2(3.8%)を有する。キャパシタC2が並列接続された直列共振器S3とキャパシタが並列接続されていない並列共振器P3とは実質的に同じ単体の電気機械結合係数k
2(6.7%)を有する。フィルタC4では、キャパシタC3が並列接続された並列共振器P1とキャパシタが接続されていない直列共振器S2とは実質的に同じ単体の電気機械結合係数k
2(3.4%)を有する。キャパシタC4が並列接続された並列共振器P2とキャパシタが接続されていない直列共振器S1とは実質的に同じ単体の電気機械結合係数k
2(4.5%)を有する。これにより、製造工数を増やすことなく、ラダー型フィルタ内の圧電薄膜共振器の単体の電気機械結合係数k
2の水準の数を少なくできる。キャパシタC1~C4を共振器に並列接続することで、共振器の実質的な電気機械結合係数k
2を単体の電気機械結合係数k
2より小さくできる。これにより、フィルタ特性を向上できる。よって、特性を向上させかつ製造工程の増加を抑制することができる。
【0089】
連立チェビシェフ近似に基づきラダー型フィルタを設計すると、シミュレーション1のフィルタA1~A6のように、直列共振器S3の電気機械結合係数k2は並列共振器P3の電気機械結合係数k2より大きくなる。そこで、フィルタC2では、キャパシタC2が並列接続される共振器(第1共振器)を直列共振器S3(第1直列共振器)とし、並列共振器P3(第1並列共振器)は、直列共振器S3と実質的に同じ単体の電気機械結合係数k2とする。すなわち、並列共振器P3(第1並列共振器)と直列共振器S3(第1直列共振器)との挿入膜18の厚さを実質的に同じとする。これにより、特性を向上させかつ製造工程の増加を抑制することができる。
【0090】
また、連立チェビシェフ近似に基づきラダー型フィルタを設計すると、シミュレーション1のフィルタA1~A6のように、段数が5段以下では、端子T1に最も電気的に近い並列共振器P1(第3並列共振器)は、直列共振器S1~S3および並列共振器P1~P3のうち最も単体の電気機械結合係数k2が小さい(すなわち、挿入膜18が最も大きい)。そこで、フィルタC4のように、並列共振器P1の単体の電気機械結合係数k2を他の共振器(フィルタC4では直列共振器S2)の単体の電気機械結合係数k2と実質的に同じとし、並列共振器P1にキャパシタC3を並列接続する。これにより、特性を向上させかつ製造工程の増加を抑制することができる。
【0091】
複数の共振器において単体の電気機械結合係数k2が実質的に同じとは、複数の共振器の最大の単体の電気機械結合係数をkmax、最小の単体の電気機械結合係数をkminとしたとき、(kmax-kmin)/(kmax+kmin)は例えば0.1以下または0.05以下である。複数の共振器においてある層の厚さが実質的に同じとは、複数の共振器のある層の最大厚をTmax、最小厚をTminとしたとき、(Tmax-Tmin)/(Tmax+Tmin)は例えば0.1以下または0.05以下である。
【0092】
圧電薄膜共振器における電気機械結合係数k2を異ならせる方法として、挿入膜の厚さを異ならせる方法以外に、圧電膜14に不純物を添加し圧電性を異ならせる方法を用いてもよく、共振領域50の平面面積に対する共振領域50内の挿入膜18平面面積の比を変える方法等を用いてもよい。フィルタA1~A6のように、連立チェビシェフ近似に基づきラダー型フィルタを設計すると、直列共振器および並列共振器内で最も大きい電気機械結合係数k2は、最も小さい電気機械結合係数k2の1.5倍以上であり、場合によっては2倍以上となる。このように、電気機械結合係数k2を大きく異ならせる方法としては、挿入膜18の厚さT2を異ならせる方法が好ましい。
【0093】
[実施例1の変形例3]
実施例1の変形例3および4は、空隙の構成を変えた例である。
図14(a)および
図14(b)は、それぞれ実施例1の変形例3および4に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
図14(a)に示すように、実施例1の変形例3では、基板10の上面は平坦であり、基板10と下部電極12との間にドーム状の空隙30が設けられている。その他の構成は、実施例1の
図5(a)と同じであり説明を省略する。
【0094】
[実施例1の変形例4]
図14(b)に示すように、実施例1の変形例4では、共振領域50の下部電極12下に音響反射膜31が形成されている。音響反射膜31は、音響インピーダンスの低い膜31aと音響インピーダンスの高い膜31bとが交互に設けられている。膜31aおよび31bの膜厚は例えばそれぞれほぼλ/4(λは弾性波の波長)である。膜31aと膜31bの積層数は任意に設定できる。音響反射膜31は、音響特性の異なる少なくとも2種類の層が間隔をあけて積層されていればよい。また、基板10が音響反射膜31の音響特性の異なる少なくとも2種類の層のうちの1層であってもよい。例えば、音響反射膜31は、基板10中に音響インピーダンスの異なる膜が一層設けられている構成でもよい。その他の構成は、実施例1の
図5(a)と同じであり説明を省略する。
【0095】
実施例1およびその変形例1~3のように、圧電薄膜共振器は、共振領域50において空隙30が基板10と下部電極12との間に形成されているFBAR(Film Bulk Acoustic Resonator)でもよい。また、実施例1の変形例4のように、圧電薄膜共振器は、共振領域50において下部電極12下に圧電膜14を伝搬する弾性波を反射する音響反射膜31を備えるSMR(Solidly Mounted Resonator)でもよい。共振領域50を含む音響反射層は、空隙30または音響反射膜31を含めばよい。
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。