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特開2022-183490カチオン電着塗料組成物、電着塗装物および電着塗装物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022183490
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】カチオン電着塗料組成物、電着塗装物および電着塗装物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 163/00 20060101AFI20221206BHJP
   C09D 5/44 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
C09D163/00
C09D5/44 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021090836
(22)【出願日】2021-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】593135125
【氏名又は名称】日本ペイント・オートモーティブコーティングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(74)【代理人】
【識別番号】100088801
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 宗雄
(72)【発明者】
【氏名】マハ シャラフ
(72)【発明者】
【氏名】中島 沙理
(72)【発明者】
【氏名】岩橋 祐斗
(72)【発明者】
【氏名】印部 俊雄
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038DB391
4J038DG302
4J038JC39
4J038KA03
4J038KA04
4J038KA08
4J038MA14
4J038NA24
4J038NA26
4J038PA04
4J038PB07
4J038PC02
(57)【要約】
【課題】貯蔵安定性に優れるとともに、低温硬化可能な塗膜を形成できる、カチオン電着塗料組成物を提供する。
【解決手段】アミン化エポキシ樹脂(A)と、ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(B)と、を含み、前記アミン化エポキシ樹脂(A)の三級アミン化率は、85%以上であり、前記ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(B)は、オキシム化合物と芳香族ポリイソシアネートとの反応により得られる、カチオン電着塗料組成物。前記アミン化エポキシ樹脂(A)の前記三級アミン化率は、95%以上が好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミン化エポキシ樹脂(A)と、
ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(B)と、を含み、
前記アミン化エポキシ樹脂(A)の三級アミン化率は、85%以上であり、
前記ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(B)は、オキシム化合物と芳香族ポリイソシアネートとの反応により得られる、カチオン電着塗料組成物。
【請求項2】
前記アミン化エポキシ樹脂(A)の前記三級アミン化率は、95%以上である、請求項1に記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項3】
前記芳香族ポリイソシアネートは、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートおよび/またはその多量体を含む、請求項1または2に記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項4】
前記オキシム化合物は、メチルエチルケトオキシムを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項5】
前記アミン化エポキシ樹脂(A)は、アミン化合物とエポキシ樹脂との反応により得られ、
前記アミン化合物は、第1アミンと第2アミンとの2種類の組合せであり、
前記第1アミンは、式:
NH-(CH)n-NR (1)
(式(1)中、RおよびRは、それぞれ独立して、末端に水酸基を有してもよい炭素数1~6のアルキル基を表し、nは2~4の整数を表す。)
で表され、
前記第2アミンは、式:
NH (2)
(式(2)中、RおよびRは、それぞれ独立して、末端に水酸基を有する炭素数1~4のアルキル基を表す。)
で表される、請求項1~4のいずれか一項に記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項6】
前記アミン化エポキシ樹脂(A)の分子量分布は、3.0以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項7】
硬化触媒の含有率は、前記カチオン電着塗料組成物の固形分の0.5質量%未満である、請求項1~6のいずれか一項に記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項8】
硬化触媒の含有率は、前記カチオン電着塗料組成物の固形分の0.25質量%未満である、請求項1~7のいずれか一項に記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載のカチオン電着塗料組成物中に被塗物を浸漬した後、前記被塗物と対極との間に電圧を印加して、前記被塗物に未硬化の塗膜を形成する工程と、
前記塗膜を140℃以下の温度で加熱して、硬化されたカチオン電着塗膜を得る工程と、を含む、電着塗装物の製造方法。
【請求項10】
被塗物と、
前記被塗物上に、請求項1~8のいずれかに記載のカチオン電着塗料組成物により形成されたカチオン電着塗膜と、を有する電着塗装物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カチオン電着塗料組成物、電着塗装物および電着塗装物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カチオン電着塗料は、自動車などの工業製品に防食性を付与するために下塗り塗料として多用されている。近年、エネルギーコスト削減のため、低温硬化可能なカチオン電着塗料が提案されている。例えば、特許文献1は、低温硬化性のブロック化ポリイソシアネート化合物、アミノ基含有エポキシ樹脂および顔料分散ペーストを含むカチオン電着塗料を教示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2017/138445号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のカチオン電着塗料は、貯蔵安定性に劣る。一般に、低温硬化性と貯蔵安定性とは相反する効果であり、これらを両立させるのは困難である。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、貯蔵安定性に優れるとともに、低温硬化可能な塗膜を形成できる、カチオン電着塗料組成物を提供することを目的とする。
本発明はまた、上記のカチオン電着塗料組成物を用いて得られる電着塗装物および電着塗装物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は以下の態様を提供する:
[1]
アミン化エポキシ樹脂(A)と、
ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(B)と、を含み、
前記アミン化エポキシ樹脂(A)の三級アミン化率は、85%以上であり、
前記ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(B)は、オキシム化合物と芳香族ポリイソシアネートとの反応により得られる、カチオン電着塗料組成物。
【0007】
[2]
前記アミン化エポキシ樹脂(A)の前記三級アミン化率は、95%以上である、上記[1]に記載のカチオン電着塗料組成物。
【0008】
[3]
前記芳香族ポリイソシアネートは、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートおよび/またはその多量体を含む、上記[1]または[2]に記載のカチオン電着塗料組成物。
【0009】
[4]
前記オキシム化合物は、メチルエチルケトオキシムを含む、上記[1]~[3]のいずれか一項に記載のカチオン電着塗料組成物。
【0010】
[5]
前記アミン化エポキシ樹脂(A)は、アミン化合物とエポキシ樹脂との反応により得られ、
前記アミン化合物は、第1アミンと第2アミンとの2種類の組合せであり、
前記第1アミンは、式:
NH-(CH)n-NR (1)
(式(1)中、RおよびRは、それぞれ独立して、末端に水酸基を有してもよい炭素数1~6のアルキル基を表し、nは2~4の整数を表す。)
で表され、
前記第2アミンは、式:
NH (2)
(式(2)中、RおよびRは、それぞれ独立して、末端に水酸基を有する炭素数1~4のアルキル基を表す。)
で表される、上記[1]~[4]のいずれか一項に記載のカチオン電着塗料組成物。
【0011】
[6]
前記アミン化エポキシ樹脂(A)の分子量分布は、3.0以下である、上記[1]~[5]のいずれか一項に記載のカチオン電着塗料組成物。
【0012】
[7]
硬化触媒の含有率は、前記カチオン電着塗料組成物の固形分の0.5質量%未満である、上記[1]~[6]のいずれか一項に記載のカチオン電着塗料組成物。
【0013】
[8]
硬化触媒の含有率は、前記カチオン電着塗料組成物の固形分の0.25質量%未満である、上記[1]~[7]のいずれか一項に記載のカチオン電着塗料組成物。
【0014】
[9]
上記[1]~[8]のいずれか一項に記載のカチオン電着塗料組成物中に被塗物を浸漬した後、前記被塗物と対極との間に電圧を印加して、前記被塗物に未硬化の塗膜を形成する工程と、
前記塗膜を140℃以下の温度で加熱して、硬化されたカチオン電着塗膜を得る工程と、を含む、電着塗装物の製造方法。
【0015】
[10]
被塗物と、
前記被塗物上に、上記[1]~[8]のいずれか一項に記載のカチオン電着塗料組成物により形成されたカチオン電着塗膜と、を有する電着塗装物。
【発明の効果】
【0016】
本発明のカチオン電着塗料組成物は、貯蔵安定性に優れるとともに、低温硬化可能な塗膜を形成することができる。本発明の電着塗装物は、耐油ハジキ性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[カチオン電着塗料組成物]
一級アミノ基は、一般に高い反応性を有する。そのため、カチオン電着塗料組成物(以下、単に電着塗料組成物と称する場合がある。)中において、アミン化エポキシ樹脂が一級アミノ基を多く有すると、硬化剤と反応し易くなって、より低温で硬化する。つまり、低温硬化性が向上する。ただし、電着塗料組成物中において、一級アミノ基を有するアミン化エポキシ樹脂は、保管中にも硬化反応が進行し易く、貯蔵安定性に劣る。
【0018】
本実施形態では、低温硬化性と貯蔵安定性とを両立するため、アミン化エポキシ樹脂の反応性を抑制するとともに、反応性の高い硬化剤を使用する。すなわち、本実施形態に用いられるアミン化エポキシ樹脂の一級アミノ基の割合を少なくし、三級アミン化率を85%以上とする。さらに、硬化剤として、オキシム化合物と芳香族ポリイソシアネートとの反応により得られるブロック化ポリイソシアネート硬化剤を用いる。
【0019】
三級アミン化率85%以上の、比較的反応性の低いアミン化エポキシ樹脂を用いるため、貯蔵安定性が向上する。オキシム化合物と芳香族ポリイソシアネートとの反応により得られるブロック化ポリイソシアネート硬化剤は、低温で解離する。そのため、反応性の低いアミン化エポキシ樹脂を低温(例えば、120℃以下)で硬化させることができる。
【0020】
三級アミン化率とは、三級アミン価を全アミン価で除した百分率(100×(三級アミン価)/(全アミン価))である。三級アミン価は、試料1g中に含まれる三級アミンを中和するのに要する過塩素酸と当量の、水酸化カリウムのmg数をいう。各アミン価は、ASTM D2073に準じ、以下の方法で求めることができる。
【0021】
三級アミン価試験方法
(1)100mlビーカーにアミン化エポキシ樹脂を秤量する。
(2)純水を0.5g加える。
(3)上記アミン化エポキシ樹脂をTHF50gに溶解させる。
(4)5分間攪拌する。
(5)次に無水酢酸7.5mlおよび酢酸2.5mlを加え約40℃で5分間攪拌する。
(6)自動電位差滴定装置を使用し、0.1N過塩素酸酢酸溶液で滴定する。
(7)次式にて三級アミン価を測定する。
三級アミン価=(滴定量(mL)×ファクター×10)/(アミン化エポキシ樹脂量(g)×固形分量)
【0022】
全アミン価試験方法
(1)200ml三角フラスコにアミン化エポキシ樹脂を500mg精秤する。
(2)氷酢酸約50mlを加え、均一に溶解する。
(3)指示薬(メチルバイオレット溶液)を5~6滴加え、均一に攪拌する。
(4)0.1N過塩素酸酢酸溶液で滴定していき、明緑色となった点を終点とする。
(上記(3)および(4)は電位差滴定に置き換えてもよい。)
【0023】
低温硬化可能であるため、飛散油によるハジキが生じ難い。ハジキは、塗面の表面が不均一で、その分布とその程度が一様でない現象である。飛散油によるハジキは、硬化前の電着塗膜(つまり、カチオン電着塗料組成物)と飛散油との表面張力の違いによって生じるといわれている。
【0024】
電着塗装は、水溶性の塗料組成物に被塗物を浸漬して行われる。また、電着塗装の前後には、通常、被塗物の水洗が行われる。そのため、塗膜の表面に水分が残存し易い。一方、塗装環境によっては油分を含むミストが飛散するなどして、塗膜の表面に油分が付着する場合もある。また、洗浄に使用される水道水中に含有されるシリコン粒子等が、油分として塗膜の表面に残存し得る。このように硬化前の電着塗膜表面に水分と油分とが存在する場合、硬化のために電着塗膜を加熱すると、まず水分が蒸発する。この蒸発に伴って、油分がはじける。これが飛散油である。飛散油が、硬化前の塗膜の表面に着地すると、両者の表面張力の違いによって、塗膜表面にはクレーターが形成される。この現象が、飛散油によるハジキである。
【0025】
本実施形態に係る電着塗装組成物により形成される塗膜は、水が蒸発する温度(約100℃)近傍においてすでに硬化し始めている。そのため、飛散油が塗膜表面に着地しても、クレーターが形成され難い。以下、これを耐油ハジキ性に優れるという。
【0026】
電着塗膜の耐油ハジキ性は、以下のようにして評価できる。
まず、被塗物に電着塗装を施した後、塗膜を室温(20℃から25℃)で自然乾燥させる。その後、被塗物を水平に置き、その中央にアルミカップを両面テープで固定する。アルミカップの中に、スポイドを用いて水を1滴落とす。続いて、水滴の上に油を1滴落とす。このまま、被塗物を110℃以上220℃以下(好ましくは、120℃以上200℃以下)で10分以上30分以下加熱して、電着塗膜を硬化させる。このとき、アルミカップ内の油が、水の蒸発に伴ってはじけて、アルミカップの外に飛び散る。その後、硬化電着塗膜の表面を目視にて観察する。硬化電着塗膜の表面に形成されたクレーターが5個以下であって、かつ、すべてのクレーターの直径が1mm以下である場合、耐油ハジキ性に優れ、クレーターが10個以下であり、かつ、すべてのクレーターの直径が3mm以下である場合、実用に適していると評価できる。クレーターの直径は、クレーターと同じ面積を有する円(相当円)の直径である。
【0027】
本実施形態に係る電着塗装組成物により形成される塗膜は、上記の通り耐油ハジキ性に優れるため、いわゆる油ハジキ防止剤を必要としないか、あるいは、その添加量を低減することができる。そのため、硬化電着塗膜と他の部材との密着性の低下が抑制される。
【0028】
電着塗料組成物の固形分量は、電着塗料組成物全量に対し、1質量%以上30質量%以下が好ましい。固形分量が上記の範囲であると、十分な量の電着塗膜が析出するため、耐食性が向上し易い。さらに、つきまわり性および塗装外観も向上し易い。
【0029】
電着塗料組成物のpHは、4.5以上7以下が好ましい。pHが上記の範囲であると、電着塗料組成物中に適正な量の酸が存在するため、塗膜外観および塗装作業性が向上し易い。さらに、電着塗料組成物のろ過性も高まるため、硬化電着塗膜の水平外観が向上し易い。電着塗料組成物のpHは、中和酸の量、遊離酸の添加量などによって、上記範囲に設定することができる。上記pHは、5以上7以下がより好ましい。上記pHは、温度補償機能を有する市販のpHメーターを用いて測定することができる。
【0030】
電着塗料組成物の固形分100gに対する酸のミリグラム当量(MEQ(A))は、10mEq以上50mEq以下が好ましい。MEQ(A)とは、mg equivalent(acid)の略であり、電着塗料組成物の固形分100g当たりのすべての酸のmg当量の合計である。MEQ(A)もまた、中和酸量および遊離酸の量によって調整することができる。MEQ(A)は、電着塗料組成物の固形分約10gを約50mlの溶剤(THF:テトラヒドロフラン)に溶解した後、0.1NのNaOH溶液で電位差滴定を行って、電着塗料組成物中の含有酸量を定量することにより、求められる。
【0031】
電着塗料組成物の固形分100gに対する塩基のミリグラム当量(MEQ(B))は、50mEq以上350mEq以下であることが好ましい。MEQ(B)とは、mg equivalent(base)の略であり、塗料の固形分100g当たりのすべての塩基(代表的には、アミン化エポキシ樹脂のアミノ基)のmg当量の合計である。MEQ(B)が上記の範囲であると、貯蔵安定性が向上し易い。また、MEQ(B)の経時変化から、電着塗料組成物の貯蔵安定性を評価することができる。MEQ(B)は、アミン化エポキシ樹脂の調製に用いられるアミン化合物の種類および量によって調整できる。MEQ(B)は、電着塗料組成物の固形分約5gを約50mlのTHFに溶解した後、0.1N過塩素酸酢酸溶液で電位差滴定を行って、電着塗料組成物中の含有塩基量を定量することにより、求められる。
【0032】
<アミン化エポキシ樹脂(A)>
アミン化エポキシ樹脂(A)は電着塗膜を構成する塗膜形成樹脂である。アミン化エポキシ樹脂は、ブロック化ポリイソシアネート硬化剤とともに、樹脂エマルションの形態で電着塗料組成物に含まれる。アミン化エポキシ樹脂(A)の三級アミン化率は、85%以上である。三級アミン化率が85%以上であるということは、一級アミノ基の量が少ないため、得られる電着塗料組成物の貯蔵安定性が向上する。アミン化エポキシ樹脂(A)の三級アミン化率は、95%以上が好ましく、96%以上がより好ましい。
【0033】
アミン化エポキシ樹脂(A)の三級アミン化率は、電着塗料組成物の電導度にも関係している。三級アミン化率が低下すると、電導度が上昇して、ガスピン性が低下し易くなる。電着塗料組成物の電導度は、1500μS/cm以上2000μS/cm以下が好ましい。電導度が上記の範囲であると、つきまわり性が向上するとともに、ガスピン性が高まって塗膜表面の外観が向上し易くなる。電導度は、市販の導電率計を使用して測定することができる。
【0034】
アミン化エポキシ樹脂(A)の数平均分子量は、1,000以上7,000以下が好ましい。数平均分子量が1,000以上であることにより、得られる硬化電着塗膜の耐溶剤性および耐食性などの物性が良好となる。数平均分子量が7,000以下であることにより、アミン化エポキシ樹脂(A)の粘度調整が容易となって円滑な合成が可能となる。加えて、得られたアミン化エポキシ樹脂(A)の乳化分散が容易になる。アミン化エポキシ樹脂(A)の数平均分子量は、1,500以上4,000以下がより好ましい。
【0035】
アミン化エポキシ樹脂(A)の分子量分布は、3.0以下が好ましく、2.7以下がより好ましく、2.5以下が特に好ましい。アミン化エポキシ樹脂(A)の分子量分布が上記の範囲であると、原料エポキシ樹脂とアミノ化合物との反応において、副反応が抑制されているといえるため、目的としたアミン化エポキシ樹脂(A)の性能が発揮され易い。
【0036】
アミン化エポキシ樹脂(A)の分子量分布を3.0以下に制御するには、反応温度や反応時間等を調整すればよい。例えば、反応温度が120℃未満であったり、180℃を越えたりすると、分子量分布が高くなる傾向にある。あるいは、アミン化合物として、後述する第1アミンおよび第2アミンの組合せを用いる方法が挙げられる。
【0037】
アミン化エポキシ樹脂(A)のアミン価(上記の全アミン価と同じ)は、20mgKOH/g以上100mgKOH/g以下が好ましい。アミン化エポキシ樹脂(A)のアミン価が20mgKOH/g以上であることにより、電着塗料組成物中におけるアミン化エポキシ樹脂(A)の乳化分散の安定性が良好となる。一方で、アミン価が100mgKOH/g以下であることにより、硬化電着塗膜中のアミノ基の量が適正となり、塗膜の耐水性の低下が抑制される。アミン化エポキシ樹脂(A)のアミン価は、20mgKOH/g以上80mgKOH/g以下がより好ましい。
【0038】
アミン化エポキシ樹脂(A)の水酸基価は、150mgKOH/g以上650mgKOH/g以下が好ましい。水酸基価が150mgKOH/g以上であることにより、電着塗料組成物の硬化性が高まるとともに、塗膜外観が向上する。水酸基価が650mgKOH/g以下であることにより、硬化電着塗膜中に残存する水酸基の量が適正となり、塗膜の耐水性が向上し易くなる。アミン化エポキシ樹脂の水酸基価は、150mgKOH/g以上400mgKOH/g以下がより好ましい。
【0039】
特に、アミン化エポキシ樹脂(A)の数平均分子量が1,000~7,000の範囲内であり、アミン価が20~100mgKOH/gであり、かつ、水酸基価が150~650mgKOH/g(好ましくは150~400mgKOH/g)であると、電着塗料組成物によって、被塗物の耐食性はさらに向上し易くなる。
【0040】
電着塗料組成物は、アミン価および/または水酸基価の異なる複数のアミン化エポキシ樹脂(A)を含んでもよい。この場合、複数のアミン化エポキシ樹脂(A)の質量比に基づいて算出される平均アミン価および平均水酸基価が、上記の範囲に含まれることが好ましい。なかでも、複数のアミン化エポキシ樹脂(A)は、アミン価が20~50mgKOH/gであり、かつ、水酸基価が50~300mgKOH/gであるアミン化エポキシ樹脂と、アミン価が50~200mgKOH/gであり、かつ、水酸基価が200~500mgKOH/gであるアミン化エポキシ樹脂と、を含むことが好ましい。これにより、エマルションのコア部がより疎水性となり、シェル部がより親水性となるため、被塗物の耐食性はより向上し易くなる。
【0041】
アミン化エポキシ樹脂(A)は、エポキシ樹脂のオキシラン環(「エポキシ基」ともいう。)をアミン化合物で変性、即ちアミン化することにより得られる。ただし、アミン化合物として、ケチミン(ジケチミンを含む)を除く、一級アミノ基、二級アミノ基および三級アミノ基の少なくとも1種を有するアミン化合物を用いることが好ましい。
【0042】
ケチミンは、活性な一級アミノ基がケトンで保護された構造を有しており、容易に加水分解して、一級アミノ基を生成する。そのため、ケチミンを使用すると、アミン化エポキシ樹脂の三級アミン化率が低くなり易い。
【0043】
原料としての一級アミノ基は、エポキシ樹脂のアミン化反応で消費されて、アミン化エポキシ樹脂(A)の分岐鎖を形成する。そのため、得られるアミン化エポキシ樹脂(A)の三級アミン化率を低下させ難い。
【0044】
アミン化の際、アミン化合物は、原料エポキシ樹脂が有するエポキシ基1当量に対して0.9当量以上1.2当量以下となる量で用いられることが好ましい。アミン化の反応条件は、反応スケールなどに応じて適宜選択することができる。例えば、80℃以上150℃以下で、0.1時間以上5時間以下、より好ましくは120℃以上150℃以下で、0.5時間以上3時間以下反応させればよい。
【0045】
(アミン化合物)
エポキシ樹脂のアミン化に用いられるケチミン以外のアミン化合物としては、例えば、ブチルアミン、オクチルアミン、モノエタノールアミンなどの一級アミン;ジエチルアミン、ジブチルアミン、メチルブチルアミン、ジエタノールアミン、N-メチルエタノールアミンなどの二級アミン;トリエチルアミン、N,N-ジメチルベンジルアミン、N,N-ジメチルエタノールアミンなどの三級アミン;ジエチレントリアミンなどの複合アミン;N,N-ジメチル-1,3-プロパンジアミン、N,N-ジメチルエチレンジアミンなどの、一級アミノ基と三級アミノ基とを有するジアミン;N-(3-アミノプロピル)ジエタノールアミンなどの、一級アミノ基と三級アミノ基とヒドロキシル基とを有するジアミンが挙げられる。アミン化合物は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、ヒドロキシル基を有するジアミンを用いると、塗膜の密着性および硬化性が向上し易い。
【0046】
アミン化合物において、一級アミノ基の数は特に限定されず、1個または2個以上であればよい。なかでも、反応制御の観点から、一級アミノ基の数は1個が好ましい。ヒドロキシル基の数も特に限定されず、1個または2個以上であればよい。
【0047】
なかでも、アミン化合物として、以下の第1アミンと第2アミンとの2種類の組合せが好ましく用いられる。これにより、アミン化エポキシ樹脂(A)の電着塗料組成物中における乳化分散の安定性が良好となるとともに、分子量分布が制御され易くなる。例えば、アミン化エポキシ樹脂(A)の分子量分布を、容易に2.7以下に制御することができる。分子量分布は、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比:Mw/Mnを意味する。各平均分子量および分子量分布は、ゲル・パーミエイション・クロマトグラフィーにより測定される、ポリスチレン換算値である。
【0048】
第1アミンは、式:
NH-(CH)n-NR (1)
(式(1)中、RおよびRは、それぞれ独立して、末端に水酸基を有してもよい炭素数1~6のアルキル基を表し、nは2~4の整数を表す。)
で表される。
【0049】
第2アミンは、式:
NH (2)
(式(2)中、RおよびRは、それぞれ独立して、末端に水酸基を有する炭素数1~4のアルキル基を表す。)
で表される。
【0050】
これらのアミン化合物を用いると、まず、第1アミンの一級アミノ基がエポキシ樹脂と反応して消費される。そのため、残る反応性のアミノ基は、第1アミンおよび第2アミンともに、二級アミノ基だけになる。二級アミノ基は、エポキシ樹脂のエポキシ基と反応して、アミン化エポキシ樹脂(A)が得られる。反応性のアミノ基が二級アミノ基のみのため、反応性に優劣が無く、反応は均等に進行し、得られるアミン化エポキシ樹脂(A)の分子量分布が制御される。
【0051】
第1アミンに存在する三級アミノ基あるいは二級アミノ基の反応で生じた三級アミノ基が、エポキシ基と反応して、四級アンモニウム基になることも考えられるが、この反応は生じ難いと考えられる。
【0052】
上記式(1)において、RおよびRは、具体的にはメチル、エチル、プロピルまたはブチルであり、末端に水酸基を有していてもよい。nは2~4の整数であり、好ましくは3である。RおよびRは、同一であっても異なっていてもよい。第1アミンの具体例としては、N-(3-アミノプロピル)ジエタノールアミン、N,N-ジメチル-1,3-プロパンジアミン(DMAPA)、N,N-ジエチル-1,3-プロパンジアミン(DEAPA)、N,N-ジブチル-1,3-プロパンジアミン等が挙げられる。
【0053】
上記式(2)において、RおよびRは、共に水酸基を有する炭素数1~4のアルキル基を有する。RおよびRは、同一であっても異なっていてもよい。第2アミンは二級アミンであり、具体例としては、ジメタノールアミンやジエタノールアミン(DETA)等が挙げられる。
【0054】
第1アミンは、第1アミンと第2アミンとの合計の30質量%以上80質量%以下が好ましく、40質量%以上70質量%以下がより好ましい。第1アミンの割合が上記の範囲であると、アミン化エポキシ樹脂(A)の粘度の過度な上昇が抑制されるとともに、アミン化エポキシ樹脂(A)を含むエマルションの安定性が向上し易くなる。
【0055】
(原料エポキシ樹脂)
アミン化エポキシ樹脂(A)の原料であるエポキシ樹脂は、例えば、ポリフェノールポリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂である。ポリフェノールポリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂は、一般に、多環式フェノール化合物とエピクロルヒドリンとの反応により得られる。多環式フェノール化合物としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フェノールノボラック、クレゾールノボラックが用いられる。
【0056】
ポリフェノールポリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂は、ポリフェノールポリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂を、さらに多環式フェノール化合物と鎖延長反応させて得られるエポキシ樹脂を含む。鎖延長反応の条件は、用いる攪拌装置および反応スケールなどに応じて適宜選択することができる。反応条件は、例えば85~180℃で0.1~8時間、より好ましくは100~150℃で2~8時間である。攪拌装置は特に限定されず、塗料分野において一般的な撹拌装置を用いることができる。
【0057】
原料エポキシ樹脂としては、また、特開平5-306327号公報に記載のオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂を挙げることができる。このエポキシ樹脂は、ジイソシアネート化合物またはジイソシアネート化合物のイソシアネート基を、メタノール、エタノールなどの低級アルコールでブロックして得られたビスウレタン化合物と、エピクロルヒドリンとの反応によって得られる。
【0058】
オキサゾリドン環含有エポキシ樹脂の一部は、2官能性のポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール(例えば、ポリエチレンオキシド基を有するポリオール、ポリプロピレンオキシド基を有するポリオールなど)、2塩基性カルボン酸などにより、鎖延長反応されていてもよい。原料エポキシ樹脂は、例えば、ポリプロピレンオキシド基を有するポリオールを用いた鎖延長反応により得られる、ポリプロピレンオキシド基含有エポキシ樹脂を含んでいてよい。ポリプロピレンオキシド基含有エポキシ樹脂の含有量は、原料エポキシ樹脂の総量100質量部に対して1質量部以上40質量部以下が好ましく、15質量部以上25質量部以下がより好ましい。
【0059】
<ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(B)>
ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(B)(以下、単に硬化剤(B)と称する場合もある。)もまた、電着塗膜を構成する。ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(B)は、アミン化エポキシ樹脂(A)のアミン基と優先的に反応し、さらに水酸基と反応して、アミン化エポキシ樹脂(A)を硬化させる。
【0060】
硬化剤(B)は、オキシム化合物と芳香族ポリイソシアネートとの反応により得られる。芳香族ポリイソシアネートをブロックするブロック化剤は、脂肪族ポリイソシアネートをブロックするブロック化剤に比べて、より低温で解離し易い。さらに、ブロック化剤としてオキシム化合物を用いるため、解離温度はさらに低下する。よって、硬化剤(B)を含む電着塗料組成物は、比較的反応性の低いアミン化エポキシ樹脂(A)を用いるにもかかわらず、低温で硬化する。
【0061】
(芳香族ポリイソシアネート)
芳香族ポリイソシアネートは、1以上の芳香環と、芳香環に結合した2以上のイソシアネート基(-N=C=O)とを有する限り、特に限定されない。芳香族ポリイソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、およびこれらの多量体が挙げられる。MDIは、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートおよび4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートを含む。多量体として、代表的には、ポリメリックMDIが挙げられる。なかでも、耐食性および反応性に優れる点で、MDIおよび/またはその多量体(特に、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(ポリメリックMDI))が好ましい。市販されているポリメリックMDIは、通常、MDIのモノマーとMDIのオリゴマーとの混合物である。
【0062】
(ブロック化剤)
イソシアネート基をブロックするオキシム化合物は、下記式(1):
【0063】
【化1】
【0064】
(式(1)中、Rは、水素または炭素数1~4のアルキル基であり、Rは、炭素数1~4のアルキル基である。)
で表される。
【0065】
炭素数1~4のアルキル基は、直鎖でも分岐していてもよい。炭素数1~4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基が挙げられる。
【0066】
耐食性に影響し難い点で、RおよびRは、ともに炭素数1~4のアルキル基であることが好ましく、ともに炭素数1~3のアルキル基であることがより好ましく、ともに炭素数1~2のアルキル基であることが特に好ましい。具体的には、Rがメチル基であり、Rがエチル基である、メチルエチルケトオキシム(MEKO)が好ましい。
【0067】
硬化剤(B)のブロック化率は100%であるのが好ましい。これにより、電着塗料組成物の貯蔵安定性がさらに向上し易くなる。
【0068】
硬化剤(代表的には、硬化剤(B))の含有量は、硬化性樹脂(代表的には、アミン化エポキシ樹脂(A))の量、構造等を考慮して設定される。具体的には、硬化性樹脂が有する一級アミノ基、二級アミノ基および水酸基などの活性水素含有官能基と反応するのに十分な量の硬化剤が用いられる。硬化剤は、例えば、硬化性樹脂と硬化剤との固形分質量比(硬化性樹脂/硬化剤)が、90/10~50/50、より好ましくは80/20~65/35になるように配合される。硬化性樹脂と硬化剤との固形分質量比によって、電着塗料組成物の流動性および硬化速度が制御される。
【0069】
<硬化触媒>
電着塗料組成物は、硬化触媒を含んでもよい。硬化触媒は特に限定されず、塗料分野において公知のものが使用できる。硬化触媒としては、例えば、有機錫、ビスマス化合物が挙げられる。有機錫としては、例えば、ジブチル錫オキサイド、ジオクチル錫オキサイド、ジオクチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジベンゾエート、ジオクチル錫ジベンゾエートが挙げられる。ビスマス化合物としては、酸化ビスマス、水酸化ビスマスが挙げられる。
【0070】
ただし、本実施形態に係る電着塗料組成物は低温硬化性に優れるため、硬化触媒の使用を省略できるか、あるいはその使用量を低減することができる。これにより、電着塗料組成物に含まれる金属が低減されるため、環境負荷も小さくなる。例えば、硬化触媒の含有率は、電着塗料組成物の固形分の0.5質量%未満であってよく、0.25質量%未満であってよい。
【0071】
本明細書中において「電着塗料組成物の固形分」とは、電着塗料組成物中に含まれる成分であって、溶媒の除去によっても固形となって残存する成分全ての質量を意味する。具体的には、電着塗料組成物中に含まれる、アミン化エポキシ樹脂(A)、ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(B)、そして必要に応じて含まれる顔料分散樹脂、顔料、他の固形成分の固形分質量の総量を意味する。
【0072】
<顔料>
電着塗料組成物は、必要に応じて顔料を含んでいてもよい。通常、顔料は、顔料分散樹脂および顔料を含む顔料分散ペーストとして、電着塗料組成物に添加される。
【0073】
顔料は、電着塗料組成物において一般的に用いられる顔料である。顔料としては、例えば、チタンホワイト(二酸化チタン)、カーボンブラックおよびベンガラなどの着色顔料;カオリン、タルク、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、マイカおよびクレーなどの体質顔料;リン酸鉄、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム、トリポリリン酸アルミニウム、およびリンモリブデン酸アルミニウム、リンモリブデン酸アルミニウム亜鉛などの防錆顔料が挙げられる。
【0074】
(顔料分散樹脂)
顔料分散樹脂は、顔料を分散させるための樹脂であり、水性媒体中に分散されて使用される。顔料分散樹脂としては、例えば、四級アンモニウム基、三級スルホニウム基および一級アミノ基から選択される少なくとも1種を有する変性エポキシ樹脂などの、カチオン基を有する顔料分散樹脂が挙げられる。顔料分散樹脂の具体例としては、四級アンモニウム基含有エポキシ樹脂、三級スルホニウム基含有エポキシ樹脂などが挙げられる。水性溶媒としては、イオン交換水または少量のアルコール類を含む水などが挙げられる。
【0075】
<他の成分>
電着塗料組成物は、必要に応じて、アミン化エポキシ樹脂(A)、ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(B)、硬化触媒以外の成分を含む。
【0076】
(硬化性樹脂)
電着塗料組成物は、必要に応じて、三級アミン化率が85%未満のアミン化樹脂を含んでもよい。電着塗料組成物は、また、必要に応じて、アミン化エポキシ樹脂(A)以外のアミン化樹脂、例えば、アミン化アクリル樹脂、アミン化ポリエステル樹脂を含んでもよい。ただし、貯蔵安定性の観点から、電着塗料組成物に含まれるすべてのアミン化樹脂のうち、80質量%以上、さらには90質量%以上、特には100質量%が、三級アミン化率85%以上のアミン化エポキシ樹脂(A)であることが好ましい。
【0077】
電着塗料組成物は、上記アミン化樹脂以外の他の硬化性樹脂を含んでもよい。他の塗膜形成樹脂としては、例えば、水酸基含有アクリル樹脂、水酸基含有ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ブタジエン系樹脂、フェノール樹脂、キシレン樹脂が挙げられる。なかでも、フェノール樹脂、キシレン樹脂が好ましい。具体的には、2個以上10個以下の芳香環を有するキシレン樹脂が好ましく挙げられる。ただし、低温硬化性の観点から、電着塗料組成物に含まれるすべての硬化性化樹脂のうち、80質量%以上、さらには90質量%以上、特には100質量%が、三級アミン化率85%以上のアミン化エポキシ樹脂(A)であることが好ましい。
【0078】
(他の硬化剤)
電着塗料組成物は、必要に応じて、硬化剤(B)以外のポリイソシアネート硬化剤、例えば、脂肪族ジイソシアネート、脂環式ポリイソシアネート、およびこれらのブロック化体や、オキシム化合物以外のブロック化剤でブロックされた芳香族ポリイソシアネートを含んでもよい。
【0079】
脂肪族ジイソシアネートとしては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート(3量体を含む)、テトラメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートが挙げられる。脂環式ポリイソシアネートとしては、例えば、イソホロンジイソシアネート、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)が挙げられる。
【0080】
ブロック化剤としては、n-ブタノール、n-ヘキシルアルコール、2-エチルヘキサノール、ラウリルアルコール、フェノールカルビノール、メチルフェニルカルビノールなどの一価のアルキル(または芳香族)アルコール類;エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノ2-エチルヘキシルエーテルなどのセロソルブ類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコールフェノールなどのポリエーテル型両末端ジオール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオールなどのジオール類と、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸などのジカルボン酸類から得られるポリエステル型両末端ポリオール類;パラ-t-ブチルフェノール、クレゾールなどのフェノール類;およびε-カプロラクタム、γ-ブチロラクタムに代表されるラクタム類が挙げられる。
【0081】
電着塗料組成物は、ポリイソシアネート硬化剤以外の硬化剤、例えば、メラミン樹脂またはフェノール樹脂などの有機硬化剤、シランカップリング剤、金属硬化剤を含んでいてもよい。
【0082】
ただし、低温硬化性の観点から、電着塗料組成物に含まれるすべての硬化剤のうち、80質量%以上、さらには90質量%以上、特には100質量%が、硬化剤(B)であることが好ましい。
【0083】
(亜硝酸金属塩)
電着塗料組成物は、さらに亜硝酸金属塩を含んでもよい。亜硝酸金属塩によって、得られる塗膜の耐食性、特にエッジ部の耐食性(エッジ防錆性)が向上し易い。亜硝酸金属塩としては、アルカリ金属の亜硝酸塩またはアルカリ土類金属の亜硝酸塩が好ましく、アルカリ土類金属の亜硝酸塩がより好ましい。亜硝酸金属塩としては、例えば、亜硝酸カルシウム、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム、亜硝酸マグネシウム、亜硝酸ストロンチウム、亜硝酸バリウム、亜硝酸亜鉛が挙げられる。
【0084】
亜硝酸金属塩の含有量は、例えば、硬化性樹脂および硬化剤の合計質量に対して、金属成分の金属元素換算で0.001質量%以上0.2質量%以下である。
【0085】
(その他の成分)
電着塗料組成物は、必要に応じて、塗料分野において一般的に用いられている添加剤、例えば、有機溶媒、乾き防止剤、消泡剤などの界面活性剤、アクリル樹脂微粒子などの粘度調整剤、はじき防止剤、無機防錆剤を含んでよい。有機溶媒としては、例えば、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノエチルヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテルが挙げられる。無機防錆剤としては、例えば、バナジウム塩、銅、鉄、マンガン、マグネシウム、カルシウム塩が挙げられる。
【0086】
さらに、上記以外に、目的に応じて公知の補助錯化剤、緩衝剤、平滑剤、応力緩和剤、光沢剤、半光沢剤、酸化防止剤、および紫外線吸収剤などが含まれてもよい。
【0087】
これらの添加剤は、樹脂エマルション製造の際に添加されてもよいし、顔料分散ペーストの製造時に添加されてもよいし、または樹脂エマルションと顔料分散ペーストとの混合時または混合後に添加されてもよい。
【0088】
<カチオン電着塗料組成物の調製>
電着塗料組成物は、アミン化エポキシ樹脂(A)およびブロック化ポリイソシアネート硬化剤(B)を含む樹脂エマルション、顔料分散ペーストおよび添加剤などを、通常用いられる方法により混合することによって、調製することができる。
【0089】
(樹脂エマルションの調製)
樹脂エマルションは、アミン化エポキシ樹脂(A)およびさらにその他の硬化性樹脂、ならびに、ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(B)およびさらにその他の硬化剤のそれぞれを、有機溶媒中に溶解させて溶液を調製し、これらの溶液を混合した後、中和酸を用いて中和することにより、調製することができる。
【0090】
中和酸としては、例えば、メタンスルホン酸、スルファミン酸、乳酸、ジメチロールプロピオン酸、ギ酸、酢酸などの有機酸が挙げられる。なかでもギ酸、酢酸および乳酸よりなる群から選択される1種またはそれ以上の酸によって中和するのがより好ましい。
【0091】
樹脂エマルションの固形分量は、通常、樹脂エマルション全量に対して25~50質量%、特に35~45質量%であるのが好ましい。ここで「樹脂エマルションの固形分」とは、樹脂エマルション中に含まれる成分であって、溶媒の除去によっても固形となって残存する成分全ての質量を意味する。具体的には、樹脂エマルション中に含まれる、アミン化エポキシ樹脂、硬化剤および必要に応じて添加される他の固形成分の質量の総量を意味する。
【0092】
中和酸は、アミン化エポキシ樹脂が有するアミノ基の当量に対する中和酸の当量比率として、10~100%となる量で用いるのがより好ましく、20~70%となる量で用いるのがさらに好ましい。本明細書において、アミン化エポキシ樹脂が有するアミノ基の当量に対する中和酸の当量比率を、中和率とする。中和率が10%以上であることにより、水への親和性が確保され、水分散性が良好となる。
【0093】
(顔料分散ペーストの調製方法)
顔料分散ペーストは、顔料分散樹脂および顔料を混合して調製される。顔料分散ペースト中の顔料分散樹脂の含有量は特に限定されず、例えば、顔料100質量部に対して樹脂固形分比で20質量部以上100質量部以下であってよい。
【0094】
顔料分散ペーストの固形分量は、例えば、顔料分散ペースト全量に対して40質量%以上70質量%以下であり、50質量%以上60質量%以下である。
【0095】
本明細書中において「顔料分散ペーストの固形分」とは、顔料分散ペースト中に含まれる成分であって、溶媒の除去によっても固形となって残存する成分全ての質量を意味する。具体的には、顔料分散ペースト中に含まれる、顔料分散樹脂、顔料および必要に応じて添加される他の固形成分の質量の総量を意味する。
【0096】
亜硝酸金属塩の電着塗料組成物への添加方法は特に限定されない。例えば、亜硝酸金属塩の水溶液を予め調製し、これを電着塗料組成物に加える。あるいは、亜硝酸金属塩を予め顔料と混合して顔料ペーストを調製し、これを電着塗料組成物に加える。
【0097】
[電着塗装物の製造方法]
電着塗料組成物を用いて被塗物に対し電着塗装することによって、電着塗膜が形成される。電着塗膜を有する電着塗装物は、上記の電着塗料組成物中に被塗物を浸漬した後、被塗物と対極との間に電圧を印加して、被塗物に未硬化の塗膜を形成する工程と、塗膜を140℃以下の温度で加熱して、硬化された電着塗膜を得る工程と、を含む方法により製造される。
【0098】
(1)印加工程
本工程では、被塗物を陰極として、対極(陽極)との間に電圧が印加される。これにより、未硬化の塗膜が被塗物上に析出する。電圧は、例えば、50V以上450V以下である。浴液温度は、例えば、10℃以上45℃以下であればよい。電圧を印加する時間は特に限定されず、例えば、2分以上5分以下である。
【0099】
被塗物の材質は特に限定されず、通電可能であればよい。被塗物としては、例えば、冷延鋼板、熱延鋼板、ステンレス、電気亜鉛めっき鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板、亜鉛-アルミニウム合金系めっき鋼板、亜鉛-鉄合金系めっき鋼板、亜鉛-マグネシウム合金系めっき鋼板、亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金系めっき鋼板、アルミニウム系めっき鋼板、アルミニウム-シリコン合金系めっき鋼板、錫系めっき鋼板、およびこれらに表面処理(例えば、リン酸塩、ジルコニウム塩などを用いた化成処理)を施したものが挙げられる。被塗物の形状も特に限定されず、平板状であってよく、複雑な立体形状であってよい。
【0100】
(2)硬化工程
印加工程の後、形成された未硬化の塗膜を、必要に応じて水洗した後、140℃以下の温度で加熱する。これにより、塗膜が硬化して、硬化した電着塗膜が得られる。本実施形態に係る電着塗料組成物は低温硬化可能であるため、このような低温で硬化させることができる。
【0101】
硬化温度は、例えば135℃以下であってよく、130℃以下であってよい。硬化温度は、100℃以上が好ましく、110℃以上がより好ましい。加熱時間は特に限定されず、例えば、10分から30分である。
【0102】
[電着塗装物]
電着塗装物は、被塗物と、被塗物上に、上記のカチオン電着塗料組成物により形成されたカチオン電着塗膜と、を有する。カチオン電着塗膜は硬化している。電着塗装物は、例えば、上記の方法により製造される。
【0103】
硬化後の電着塗膜の膜厚は、防錆性の観点から、5μm以上60μm以下が好ましく、10μm以上25μm以下がより好ましい。
【実施例0104】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り、質量基準による。
【0105】
[製造例1-1]アミン化エポキシ樹脂(A1)の製造
ブチルセロソルブを12部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(Ep、商品名DER-331J、ダウケミカル社製)を940部、ビスフェノールA(BPA)を330部、フェノールを30部、N,N-ジメチルベンジルアミンを2部加え、反応容器内の温度を120℃に保持し、エポキシ当量が650g/eqになるまで反応させた後、反応容器内の温度が110℃になるまで冷却した。これに、N,N-ジメチル-1,3-プロパンジアミン(DMAPA)50部と、ジエタノールアミン(DETA)100部との混合物を添加し、160℃で1時間反応させることにより、アミン化エポキシ樹脂(A1)を得た。
【0106】
[製造例1-2]アミン化エポキシ樹脂(A2)の製造
ブチルセロソルブ12部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(Ep、商品名DER-331J、ダウケミカル社製)を940部、ビスフェノールA(BPA)を330部、フェノールを5部、N,N-ジメチルベンジルアミンを2部加え、反応容器内の温度を120℃に保持し、エポキシ当量が620g/eqになるまで反応させた後、反応容器内の温度が110℃になるまで冷却した。これに、ジエタノールアミン(DETA)110部と、N,N-ジエチル-1,3-プロパンジアミン(DEAPA)70部との混合物を添加し、140℃で1時間反応させることにより、アミン化エポキシ樹脂(A2)を得た。
【0107】
[製造例1-3]アミン化エポキシ樹脂(A3)の製造
ブチルセロソルブ12部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(Ep、商品名DER-331J、ダウケミカル社製)を940部、ビスフェノールA(BPA)を370部、フェノールを45部、N,N-ジメチルベンジルアミンを2部加え、反応容器内の温度を120℃に保持し、エポキシ当量が620g/eqになるまで反応させた後、反応容器内の温度が110℃になるまで冷却した。これに、ジエタノールアミン(DETA)70部と、N-メチルエタノールアミン(MMA)50部との混合物を添加し、140℃で1時間反応させることにより、アミン化エポキシ樹脂(A3)を得た。
【0108】
[製造例1-4]アミン化エポキシ樹脂(A4)の製造
ブチルセロソルブ12部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(Ep、商品名DER-331J、ダウケミカル社製)を900部、ビスフェノールA(BPA)を320部、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル(商品名EP400P、三洋化成株式会社製)を60部、フェノールを30部、N,N-ジメチルベンジルアミンを2部加え、反応容器内の温度を120℃に保持し、エポキシ当量が600g/eqになるまで反応させた後、反応容器内の温度が110℃になるまで冷却した。これに、ジエタノールアミン(DETA)110部と、N,N-ジエチル-1,3-プロパンジアミン(DEAPA)70部との混合物を添加し、140℃で1時間反応させることにより、アミン化エポキシ樹脂(A4)を得た。
【0109】
[製造例1-5]アミン化エポキシ樹脂(X1)の製造
ブチルセロソルブ26部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(Ep、商品名DER-331J、ダウケミカル社製)を940部、ビスフェノールA(BPA)を365部、フェノールを45部、ジメチルベンジルアミン2部を加え、反応容器内の温度を120℃に保持し、エポキシ当量が1100g/eqになるまで反応させた後、反応容器内の温度が110℃になるまで冷却した。これに、ジエタノールアミン(DETA)70部、N-メチルエタノールアミン(MMA)25部、ジエチレントリアミンジケチミン(ジケチミン)85部を添加し、140℃で1時間反応させることにより、アミン化エポキシ樹脂(X1)を得た。
【0110】
[製造例1-6]アミン化エポキシ樹脂(X2)の製造
ブチルセロソルブ26部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(Ep、商品名DER-331J、ダウケミカル社製)を1010部、ビスフェノールA(BPA)を390部、ジメチルベンジルアミン2部を加え、反応容器内の温度を120℃に保持し、エポキシ当量が800g/eqになるまで反応させた後、反応容器内の温度が110℃になるまで冷却した。これに、ジエタノールアミン(DETA)160部、ジエチレントリアミンジケチミン(ジケチミン)65部を添加し、140℃で1時間反応させることにより、アミン化エポキシ樹脂(X2)を得た。
【0111】
[製造例1-7]アミン化エポキシ樹脂(X3)の製造
ブチルセロソルブ26部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(Ep、商品名DER-331J、ダウケミカル社製)を1190部、ビスフェノールA(BPA)を342部、ジメチルベンジルアミン2部を加え、反応容器内の温度を120℃に保持し、エポキシ基濃度が0.27ミリモル/gになるまで反応させた後、反応容器内の温度が110℃になるまで冷却した。これに、ジエチレントリアミンジケチミン(ジケチミン)167部を添加し、140℃で1時間反応させることにより、アミン化エポキシ樹脂(X3)を得た。
【0112】
[製造例2-1]ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(B1)の製造
ポリメリックMDI(MDI)を360部、反応容器に仕込み、これを60℃まで加熱した。ここに、メチルエチルケトオキシム(MEKO)240部を60℃で2時間かけて滴下した。さらに75℃で4時間加熱した後、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失したことを確認し、放冷後、メチルイソブチルケトン(MIBK)27部を加えてブロック化ポリイソシアネート硬化剤(B1)を得た。
【0113】
[製造例2-2]ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(Y1)の製造
ポリメリックMDI(MDI)を1400部、反応容器に仕込み、これを60℃まで加熱した。ここに、ブチルジグリコールエーテル(BDG)330部と、ブチルセロソルブ(BC)950部との混合物を、60℃で2時間かけて滴下した。さらに75℃で4時間加熱した後、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失したことを確認し、放冷後、メチルイソブチルケトン(MIBK)27部を加えてブロック化ポリイソシアネート硬化剤(Y1)を得た。
【0114】
[製造例2-3]ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(Y2)の製造
ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)を50部、反応容器に仕込み、これを60℃まで加熱した。ここに、トリメチロールプロパン(TMP)10部と、メチルエチルケトオキシム(MEKO)30部との混合物を、60℃で2時間かけて滴下した。さらに75℃で4時間加熱した後、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失したことを確認し、放冷後、メチルイソブチルケトン(MIBK)27部を加えてブロック化ポリイソシアネート硬化剤(Y2)を得た。
【0115】
[製造例2-4]ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(Y3)の製造
ポリメリックMDI(MDI)を270部、反応容器に仕込み、これを60℃まで加熱した。ここに、ブチルセロソルブ(BC)118部と、メチルイソブチルケトン(MIBK)25部との混合物を、60℃で2時間かけて滴下した。さらに75℃で4時間加熱した後、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失したことを確認し、放冷後、メチルイソブチルケトン(MIBK)27部を加えてブロック化ポリイソシアネート硬化剤(Y3)を得た。
【0116】
[製造例3]顔料分散ペーストの調製
サンドグラインドミルに、以下のようにして得た顔料分散樹脂106.9部、カーボンブラック1.6部、カオリン40部、二酸化チタン55.4部、リンモリブデン酸アルミニウム3部、脱イオン水13部を入れ、粒度10μm以下になるまで分散して、顔料分散ペーストを得た(固形分60%)。
【0117】
(顔料分散樹脂の調製)
撹拌装置、冷却管、窒素導入管および温度計を装備した反応容器に、イソホロンジイソシアネート2220部およびメチルイソブチルケトン342.1部を仕込んで、50℃まで昇温した。続いて、ジブチル錫ラウレート2.2部を投入し、60℃でメチルエチルケトンオキシム878.7部を仕込んだ。その後、60℃で1時間保温し、NCO当量が348となっていることを確認し、ジメチルエタノールアミン890部を投入した。さらに60℃で1時間保温し、IRでNCOピークが消失していることを確認した。その後、60℃を超えないよう冷却しながら、50%の乳酸1872.6部および脱イオン水495部を投入した。このようにして、四級化剤を得た。
【0118】
別途、他の反応容器に、トリレンジイソシアネート870部およびメチルイソブチルケトン49.5部を仕込んだ。50℃以上にならないように昇温して、2-エチルヘキサノール667.2部を2.5時間かけて滴下した。滴下終了後、メチルイソブチルケトン35.5部を投入し、30分保温した。その後、NCO当量が330~370になっていることを確認した。このようにして、ハーフブロックポリイソシアネートを得た。
【0119】
さらに、別途、他の反応容器に、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名DER-331J、ダウケミカル社製)940部およびメタノール38.5部を仕込み、次いで、ジブチル錫ジラウレート0.1部を加えた。50℃に昇温した後、トリレンジイソシアネート87.1部を投入して、さらに昇温した。100℃でN,N-ジメチルベンジルアミン1.4部を加え、130℃で2時間保温した。このとき分留管によりメタノールを分留した。これを115℃まで冷却し、メチルイソブチルケトンを固形分濃度90%になるまで仕込んだ。続いて、ビスフェノールA270.3部、2-エチルヘキサン酸39.2部を仕込んだ。125℃で2時間、撹拌した後、上記ハーフブロックポリイソシアネート516.4部を30分間かけて滴下した。その後、30分間加熱撹拌した。続いて、ポリオキシエチレンビスフェノールAエーテル1506部を、徐々に加え溶解させた。90℃まで冷却した後、上記四級化剤を加え、70~80℃に保ち、酸価が2以下になるのを確認した。このようにして、顔料分散樹脂を得た(樹脂固形分30%)。
【0120】
[実施例1]
(1)樹脂エマルション(EmA1)の調製
アミン化エポキシ樹脂(A1)400g(固形分)と、ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(B1)160g(固形分)とを混合し、エチレングリコールモノ-2-エチルヘキシルエーテルを固形分に対して3%(12g)になるように添加した。次に、ギ酸を中和率40%になるように加えて中和した。続いて、イオン交換水を徐々に加えて、希釈して、樹脂エマルション(EmA1)を得た。
【0121】
(2)電着塗料組成物の調製
ステンレス容器に、イオン交換水1394g、樹脂エマルション(EmA1)560gおよび上記の顔料分散ペースト41gを添加した。その後、40℃で16時間エージングして、電着塗料組成物C1を調製した。
【0122】
(3)電着塗装物の作製
冷延鋼板(JISG3141、SPCC-SD)を、サーフクリーナーEC90(日本ペイント・サーフケミカルズ社製)中に50℃で2分間浸漬して、脱脂処理した。次いで、ZrFを0.005%含み、NaOHを用いてpH4に調整されたジルコニウム化成処理液中に、この冷延鋼板を40℃で90秒間浸漬して、ジルコニウム化成処理を行った。このようにして、被塗物を得た。
【0123】
電着塗料組成物C1に2-エチルヘキシルグリコールを必要量(硬化後の電着塗膜の膜厚が20μmとなる量)添加し、その中に被塗物を浸漬した。電極間に、30秒昇圧して180Vに達した後、150秒間保持するという条件で、電圧を印加して、被塗物上に未硬化の塗膜を析出させた。得られた未硬化の塗膜を、120℃で25分間焼き付け硬化させて、硬化した電着塗膜を有する電着塗装物を得た。
【0124】
[実施例2]
アミン化エポキシ樹脂(A2)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、電着塗料樹脂エマルション(EmA2)および電着塗料組成物C2を調製し、電着塗装物を作製した。
【0125】
[実施例3]
アミン化エポキシ樹脂(A3)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、電着塗料樹脂エマルション(EmA3)および電着塗料組成物C3を調製し、電着塗装物を作製した。
【0126】
[実施例4]
アミン化エポキシ樹脂(A4)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、電着塗料樹脂エマルション(EmA4)および電着塗料組成物C4を調製し、電着塗装物を作製した。
【0127】
[比較例1]
アミン化エポキシ樹脂(X1)およびブロック化ポリイソシアネート硬化剤(Y1)を用いたこと、および、硬化触媒としてジオクチル錫オキサイドを12部添加したこと以外は、実施例1と同様にして、電着塗料樹脂エマルション(EmX1)および電着塗料組成物Z1を調製し、電着塗装物を作製した。
【0128】
[比較例2]
アミン化エポキシ樹脂(X2)およびブロック化ポリイソシアネート硬化剤(Y2)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、電着塗料樹脂エマルション(EmX2)および電着塗料組成物Z2を調製し、電着塗装物を作製した。
【0129】
[比較例3]
アミン化エポキシ樹脂(X3)およびブロック化ポリイソシアネート硬化剤(Y3)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、電着塗料樹脂エマルション(EmX3)および電着塗料組成物Z3を調製し、電着塗装物を作製した。
【0130】
[評価]
上記のアミン化エポキシ樹脂、電着塗料組成物または電着塗装物に対して、以下の評価を行った。結果を表1に記載する。
【0131】
(1)アミン化エポキシ樹脂の三級アミン化率
上記の方法に従って三級アミン価および全アミン価を求めた。三級アミン価を全アミン価で除して、三級アミン化率(%)を算出した。
【0132】
(2)アミン化エポキシ樹脂の分子量分布
ゲル・パーミエイション・クロマトグラフィーを用いて、以下の条件下で、重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)および分子量分布を測定した。
装置: alliance2695S eparations Module
カラム: 東ソーTSKgel ALPHA-M
流速: 0.05ml/min
検出器: alliance2414 Refractive Index Detector
移動層: N,N’-ジメチルホルムアミド
標準サンプル: TSK STANDARD POLYSTYRENE(東ソー製)、A-500、A-2500、F-1、F-4、F-20、F-80、F-700、1-フェニルヘキサン(アルドリッチ社製)
【0133】
(3)電着塗料組成物のゲル分率(硬化性)
電着塗料組成物を用いて、質量(W)を予め測定した試験板(ブリキ板)に塗膜を析出させた。次いで、120℃で25分間焼き付けて塗膜を硬化させ、試験板上にカチオン電着塗膜を作成した。硬化塗膜の膜厚は20μmであった。硬化塗膜を備える試験板の質量(W)を測定した。
【0134】
続いて、この試験板をアセトンに浸漬して6時間還流を行い、その後105℃で20分間乾燥した。乾燥後の試験板の質量(W)を測定し、以下の式(1)によりゲル分率を求めた。
ゲル分率(%)=(W-W)/(W-W)×100
【0135】
ゲル分率を以下の基準に従って評価した。ゲル分率が大きいほど、硬化性に優れる。
良:ゲル分率90%以上
可:ゲル分率85%以上90%未満
不良:ゲル分率85%未満
【0136】
(4)硬化電着塗膜のラビング性(硬化性)
硬化電着塗膜の表面を、メチルイソブチルケトン(MIBK)に浸したガーゼで50回擦り、塗膜の変化およびガーゼを目視した。
【0137】
目視の結果を、以下の基準に従って評価した。
良:塗膜の変化なし
可:塗膜の表面にスジあり
不良:ガーゼに色移りした
【0138】
(5)電着塗料組成物の貯蔵安定性(MEQ(B)評価)
電着塗料組成物の固形分約10gを、約50mlのTHFに溶解した後、無水酢酸7.5ml、酢酸2.5mlを加えた。続いて、自動電位差滴定装置(京都電子工業株式会社製、APB-410)を用いて、0.1N過塩素酸酢酸溶液で電位差滴定を行って、電着塗料組成物中の含塩基量を測定し、MEQ(B)を求めた。
別途、40℃で28日間貯蔵した電着塗料組成物のMEQ(B)を、同様にして測定した。貯蔵試験前後におけるMEQ(B)の変化量(%):MEQ(B)-MEQ(B)を算出した。
【0139】
変化量(%)を以下の基準に従って評価した。変化量(%)が小さいほど、貯蔵安定性に優れる。
良:5%未満
可:5%以上20%未満
不良:20%以上
【0140】
(6)電着塗膜の耐油ハジキ性
実施例1の「(3)硬化電着塗膜の形成」と同様にして、被塗物上に未硬化の電着塗膜を析出させた。続いて、塗膜を室温(20℃から25℃)で自然乾燥させた。その後、被塗物を水平に置き、その中央にアルミカップを両面テープで固定した。アルミカップの中に、スポイドを用いて水を1滴落とし、続いて、水滴の上に油を1滴落とした。このまま、被塗物を120℃で25分間加熱して、電着塗膜を硬化させた。得られた硬化電着塗膜の表面を目視にて観察した。クレーターの直径は、クレーターと同じ面積を有する円(相当円)の直径とみなした。
【0141】
目視の結果を、以下の基準に従って評価した。複数の基準に当てはまる場合には、良い方の基準を採用する。
良:クレーターが5個以下であり、かつ、すべてのクレーターの直径が1mm以下
可:クレーターが10個以下であり、かつ、すべてのクレーターの直径が3mm以下
不良:直径が3mm超のクレーターが1つ以上確認できる
【0142】
【表1】
【0143】
アミン化エポキシ樹脂(A)と、ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(B)とを含む実施例1から4の電着塗料組成物は、貯蔵安定性および低温硬化性ともに優れる。一方、アミン化合物としてジケチミンを使用した比較例1の電着塗料組成物は、三級アミン化率が低く、貯蔵安定性に劣っている。さらに、比較例1では、オキシム化合物以外のブロック化剤を用いたため、低温硬化性も低い。比較例2の電着塗料組成物は、脂肪族ポリイソシアネート由来の硬化剤を用いたため、低温硬化性に劣っている。比較例3の電着塗料組成物についても、オキシム化合物以外のブロック化剤を用いたため、低温硬化性が低い。
【産業上の利用可能性】
【0144】
本発明のカチオン電着塗料組成物は、特に自動車車体を塗装する下塗り塗料に好適に用いられる。