IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱重工業株式会社の特許一覧

特開2022-183494事象シナリオ予測システム、事象シナリオ予測方法及びプログラム
<>
  • 特開-事象シナリオ予測システム、事象シナリオ予測方法及びプログラム 図1
  • 特開-事象シナリオ予測システム、事象シナリオ予測方法及びプログラム 図2
  • 特開-事象シナリオ予測システム、事象シナリオ予測方法及びプログラム 図3
  • 特開-事象シナリオ予測システム、事象シナリオ予測方法及びプログラム 図4
  • 特開-事象シナリオ予測システム、事象シナリオ予測方法及びプログラム 図5
  • 特開-事象シナリオ予測システム、事象シナリオ予測方法及びプログラム 図6
  • 特開-事象シナリオ予測システム、事象シナリオ予測方法及びプログラム 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022183494
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】事象シナリオ予測システム、事象シナリオ予測方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G05B 23/02 20060101AFI20221206BHJP
【FI】
G05B23/02 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021090843
(22)【出願日】2021-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】藤原 和也
(72)【発明者】
【氏名】平井 俊輔
【テーマコード(参考)】
3C223
【Fターム(参考)】
3C223AA01
3C223BA01
3C223EB01
3C223FF03
3C223FF05
3C223FF45
3C223FF52
3C223GG01
3C223HH02
(57)【要約】
【課題】プラントの状態に合わせて、今後発生する事象シナリオのリスクを再計算するシステムを提供する。
【解決手段】事象シナリオ予測システムは、プラントが備える機器の故障情報を取得する機器故障情報取得部と、前記プラントで発生した起因事象の情報を取得する起因事象取得部と、前記起因事象が生じたときの事象の進展のパターンを示す1つ又は複数のシナリオについて、PRAの設計情報に基づく前記シナリオの発生確率を取得するPRA確率取得部と、前記機器の故障情報と前記PRAの設計情報に含まれる前記シナリオのカットセットとに基づいて、前記シナリオの発生確率を再計算するリスク再計算部と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラントが備える機器の故障情報を取得する機器故障情報取得部と、
前記プラントで発生した起因事象の情報を取得する起因事象取得部と、
前記起因事象が生じたときの事象の進展のパターンを示す1つ又は複数のシナリオについて、PRA(Probabilistic Risk Assessment)の設計情報に基づく前記シナリオの発生確率を取得するPRA確率取得部と、
前記機器の故障情報と前記PRAの設計情報に含まれる前記シナリオのカットセットとに基づいて、前記シナリオの発生確率を再計算するリスク再計算部と、
を有する事象シナリオ予測システム。
【請求項2】
前記プラントのプロセス値や制御信号を含むパラメータを取得するデータ取得部と、
前記データ取得部が取得した前記パラメータから機器の故障を推定する機器故障推定部と、をさらに備え、
機器故障情報取得部は、前記機器故障推定部が推定した前記機器の故障の情報を取得する、
請求項1に記載の事象シナリオ予測システム。
【請求項3】
前記機器故障推定部は、前記パラメータに基づいて、前記機器が所望の動作状態にあるか否かを判定し、所望の動作状態にないと判定した場合、前記機器が故障していると判定し、
前記リスク再計算部は、故障と判定された前記機器が関係する前記カットセットに基づいて、前記シナリオの発生確率を再計算する、
請求項2に記載の事象シナリオ予測システム。
【請求項4】
前記機器故障推定部は、前記パラメータに基づいて、前記プラントの系統の機能を維持できているか否かを判定し、維持できていない場合には、前記系統に含まれる前記機器を故障が疑われる機器群として特定し、
前記リスク再計算部は、前記機器群が関係する前記カットセットに基づいて、前記シナリオの発生確率を再計算する、
請求項2または請求項3に記載の事象シナリオ予測システム。
【請求項5】
前記シナリオと、その発生確率と、前記機器の故障情報と、を表示した画面を出力する表示制御部、をさらに備え、
前記表示制御部は、前記リスク再計算部が前記発生確率を再計算すると、前記画面に表示された前記発生確率を更新する、
請求項1から請求項4の何れか1項に記載の事象シナリオ予測システム。
【請求項6】
前記表示制御部は、前記シナリオとともに当該シナリオの進展を緩和するための対応処置とその対応処置に成功した場合の次の前記対応処置と、失敗した場合の次の前記対応処置とを前記画面に表示する、
請求項5に記載の事象シナリオ予測システム。
【請求項7】
前記表示制御部は、次の前記対応処置および当該対応処置に成功した場合と失敗した場合の前記対応処置に限定して、又は、その先以降の前記対応処置までを切り替え可能に表示する、
請求項6に記載の事象シナリオ予測システム。
【請求項8】
前記表示制御部は、前記画面に表示された前記対応処置が選択されると、前記対応処置に関係する機器の状態と、前記対応処置を実施する制限時間までの残り時間と、を表示する、
請求項6から請求項7の何れか1項に記載の事象シナリオ予測システム。
【請求項9】
前記表示制御部は、前記対応処置に成功したか、または、失敗したかを示す情報を取得し、その情報に応じて、生じ得る前記シナリオに限定して表示する、
請求項6から請求項8の何れか1項に記載の事象シナリオ予測システム。
【請求項10】
プラントが備える機器の故障情報を取得するステップと、
前記プラントで発生した起因事象の情報を取得するステップと、
前記起因事象が生じたときの事象の進展のパターンを示す1つ又は複数のシナリオについて、PRA(Probabilistic Risk Assessment)の設計情報に基づく前記シナリオの発生確率を取得するステップと、
前記機器の故障情報と前記PRAの設計情報に含まれる前記シナリオのカットセットとに基づいて、前記シナリオの発生確率を再計算するステップと、
を有する事象シナリオ予測方法。
【請求項11】
コンピュータに、
プラントが備える機器の故障情報を取得するステップと、
前記プラントで発生した起因事象の情報を取得するステップと、
前記起因事象が生じたときの事象の進展のパターンを示す1つ又は複数のシナリオについて、PRA(Probabilistic Risk Assessment)の設計情報に基づく前記シナリオの発生確率を取得するステップと、
前記機器の故障情報と前記PRAの設計情報に含まれる前記シナリオのカットセットとに基づいて、前記シナリオの発生確率を再計算するステップと、
を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、プラントに発生する事象についての事象シナリオ予測システム、事象シナリオ予測方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
プラントの運転中に異常が発生した場合、その影響を最小限に抑えるためには、事象の進展を正しく把握し、対処する必要がある。例えば、同程度の確率で被害が大きい事象1と被害が小さい事象2が発生することが予測される場合、被害が大きい事象1に対する対策を優先的に行うことができる。特許文献1には、プラントの運転中に異常が検知されると、将来の時点で発生する異常を予測し、その異常に対処するための情報を出力するシステムが提供されている(特許文献1)。しかし、プラント運転中には予想外の異常が発生する可能性があり、事前に想定した対処を行っても対処に失敗する可能性がある。また、予期しない機器故障等の状況変化に応じて、その後に発生する事象が変化する可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6812312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発生した異常の影響を最小限に抑えるためには、時々刻々と変化する状況に応じて、その後の事象進展を示す事象シナリオの発生確率を正確に把握する必要がある。
【0005】
本開示は、上記課題を解決することができる事象シナリオ予測システム、事象シナリオ予測方法及びプログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の事象シナリオ予測システムは、プラントが備える機器の故障情報を取得する機器故障情報取得部と、前記プラントで発生した起因事象の情報を取得する起因事象取得部と、前記起因事象が生じたときの事象の進展のパターンを示す1つ又は複数のシナリオについて、PRAの設計情報に基づく前記シナリオの発生確率を取得するPRA確率取得部と、前記機器の故障情報と前記PRAの設計情報に含まれる前記シナリオのカットセットとに基づいて、前記シナリオの発生確率を再計算するリスク再計算部と、を有する。
【0007】
本開示の事象シナリオ予測方法は、プラントが備える機器の故障情報を取得するステップと、前記プラントで発生した起因事象の情報を取得するステップと、前記起因事象が生じたときの事象の進展のパターンを示す1つ又は複数のシナリオについて、PRAの設計情報に基づく前記シナリオの発生確率を取得するステップと、前記機器の故障情報と前記PRAの設計情報に含まれる前記シナリオのカットセットとに基づいて、前記シナリオの発生確率を再計算するステップと、を有する。
【0008】
本開示のプログラムは、コンピュータに、プラントが備える機器の故障情報を取得するステップと、前記プラントで発生した起因事象の情報を取得するステップと、前記起因事象が生じたときの事象の進展のパターンを示す1つ又は複数のシナリオについて、PRAの設計情報に基づく前記シナリオの発生確率を取得するステップと、前記機器の故障情報と前記PRAの設計情報に含まれる前記シナリオのカットセットとに基づいて、前記シナリオの発生確率を再計算するステップと、を実行させる。
【発明の効果】
【0009】
上述の評価方法、事象シナリオ予測システム、事象シナリオ予測方法及びプログラムによれば、時々刻々と変化する状況に応じて、その後の事象進展を示す事象シナリオの発生確率を正確に予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係る事象シナリオ予測システムの一例を示す構成図である。
図2】実施形態に係る事象シナリオの発生確率の再計算について説明する図である。
図3】実施形態に係る予測システムの動作の一例を示すフローチャートである。
図4】実施形態に係る運転支援画面の一例を示す第1の図である。
図5】実施形態に係る運転支援画面の一例を示す第2の図である。
図6】実施形態に係る運転支援画面の一例を示す第3の図である。
図7】実施形態に係る事象シナリオ予測システムのハードウェア構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<実施形態>
以下、本開示の事象シナリオ予測システムについて、図1図7を参照して説明する。
(システム構成)
図1は、実施形態に係る事象シナリオ予測システム10の一例を示す構成図である。事象シナリオ予測システム10は、例えば、原子力プラントなどの図示しない監視対象のプラント1についてのPRA(Probabilistic Risk Assessment)の設計情報と、プラント1が備える機器の故障情報と、プラント1に発生した事故の起因事象と、に基づいて、プラント1の状況に応じた事故シナリオの最新の発生確率を計算する。事象シナリオ予測システム10は、データ取得部11と、機器故障推定部12と、起因事象取得部13と、PRA確率算出部14と、記憶部15と、表示制御部16と、入力部17と、を備える。
【0012】
データ取得部11は、プラント1で計測された圧力、温度、流量等のプロセス値、プラント1の運転状態を示す制御信号、プラント1が備えるポンプ、バルブ等の機器の動作や状態を示す状態信号、機器が故障したときにその機器から出力される故障信号などを取得する。
【0013】
機器故障推定部12は、データ取得部11が取得したプロセス値、制御信号などに基づいて、プラント1が備える機器または機器群の故障を推定する。例えば、制御信号がプラントの運転状態が“状態1”であることを示しており、“状態1”のときには弁1を“閉”に制御することが決まっている場合であって、弁1の開度を示す状態信号が、弁1が“開”となっていることを示していれば、機器故障推定部12は、弁1が故障していると推定する(機器ごとに直接的に故障推定)。あるいは、ポンプ1と弁1と流量計1を含む系統1において、プラント1が“状態1”のときに系統1を流れる流体の流量がX(m/秒)であることが決まっている場合であって、ポンプ1と弁1の動作状態を示す状態信号を取得できない場合や状態信号からポンプ1および弁1の動作状態を特定できない場合であって、流量計1が計測した流量が、例えば0(m/秒)であれば、機器故障推定部12は、系統1のポンプ1と弁1を故障が疑われる機器群として推定する(機器群ごとに間接的な故障推定)。例えば、後述するカットセットの計算では、ポンプ1と弁1が故障したとして扱う。また、機器故障推定部12は、データ取得部11が機器1の故障を示す故障信号に基づいて、機器1の故障を推定する。
【0014】
起因事象取得部13は、プラント1で発生した事故の発端となった起因事象の情報を取得する。
【0015】
PRA確率算出部14は、機器の故障情報及び起因事象の情報から、PRAの設計情報に基づいて、設計上考えられる事故シナリオに対して発生確率の計算を行う。より具体的には、PRA確率算出部14は、起因事象が生じたときの事故の進展のパターンを示す1つ又は複数の事故シナリオについて、PRAの設計情報に基づく事故シナリオの(初期)発生確率を設定する。また、PRA確率算出部14は、起因事象の発生後に機器故障推定部12が推定した機器の故障と、PRAの設計情報に含まれる事故シナリオのカットセットと基づいて、各事故シナリオの発生確率を再計算する。PRAの設計情報とは、プラント1のリスク解析によって得られるフォルトツリーやイベントツリーの情報である。事故シナリオとは、ある起因事象についてのイベントツリーにおいて、最終的な事象に到達するまでの様々な事象進展パターンである。カットセットとは、それぞれの事故シナリオが発生するときの1または複数の基事象(機器の故障など)の組合せである。
【0016】
記憶部15は、プラント1のPRAの設計情報など種々の情報を記憶する。
表示制御部16は、事故シナリオと、その発生確率と、各事故シナリオに対処するための対応処置を表示した運転支援画面を表示装置20へ出力する。運転支援画面には、事象シナリオの発生確率、起因事象、機器の故障情報、対応処置などの情報が表示される。運転支援画面については、後に図4図6を用いて説明する。
【0017】
入力部17は、キーボード、マウス、タッチパネル、ボタン等の入力装置を用いて構成される。入力部17は、事象シナリオ予測システム10に対するユーザによる操作や情報の入力を受け付ける。入力部17は、受け付けた入力の内容を表示制御部16等に出力する。
【0018】
(発生確率の再計算)
図2は、実施形態に係る事象シナリオの発生確率の再計算について説明する図である。
図2の上下段にPRAの設計情報に含まれるイベントツリー100の一例を示す。イベントツリー100は、“事故K”の発生を起因事象として、プラント1にそれ以降に生じる事象の進展をモデル化したものである。イベントツリー100のヘディングには、起因事象(事故K)と緩和策L,M,Nが並んでいる。緩和策L~Nは、事故Kを発端として発生する事象の進展を緩和する機器や操作を示す。緩和策が成功すれば、事象の進展を回避したり抑制したりすることができ、失敗すると重大事故(例えば、炉心損傷)へ進展する。例えば、原子力プラントの場合、事故が発生すると、その後の緩和策L~Nに成功するかどうかによって、炉心損傷を防ぐことができたり、炉心損傷に至ったりする。イベントツリー100では、緩和策L~Nの分岐点において、成功を水平方向の線で表し、失敗は垂直方向の線で表されている。図示するように緩和策L、M、Nの成功、失敗の組合せにより、事故シナリオ1~4が決定される。緩和策L、Mに成功するシナリオが事故シナリオ1、緩和策Lに成功した後、緩和策Mに失敗するシナリオが事故シナリオ2、緩和策Lに失敗した後、緩和策Nに成功するシナリオが事故シナリオ3、緩和策L、Nに失敗するシナリオが事故シナリオ4である。これらのうち、事故シナリオ1、3では炉心損傷に至ることを回避することができ、事故シナリオ2、4では炉心損傷に至る。
【0019】
PRA(確率論的リスク評価)では、事故発生時のプラント1の挙動に対し、必要となる緩和機能の失敗に確率を与え、重大事故に至る確率の評価を行っている。図2の例では、事故Kの発生時に緩和策L、緩和策M、緩和策Nが検討されている。重大事故を防ぐためには、緩和策L及び緩和策Mの成功、又は緩和策Lが失敗した場合は、緩和策Nの成功が必要である。イベントツリー100は、予めプラント設計及びシミュレーションにより評価されたプラント1の挙動に基づき、どのような緩和策を行うべきか、緩和策に失敗した場合にはどのように事象が進展するか等が解析されて構築される。さらに各緩和策の失敗確率の評価のため、緩和策の失敗要因を体系的に表したフォルトツリーが構築されている。構築されたイベントツリー及びフォルトツリーに従い、重大事故に至る事故シナリオのリスク(発生確率)が計算される。事故シナリオのリスクは、その事故シナリオへ到達する故障事象の組み合わせ(=カットセット)の確率を積み上げたものである。Qシナリオの発生確率を事故シナリオQのリスク、Qカットセットiを事故シナリオQに至るカットセットiの発生確率、nをカットセットの数とすると、事故シナリオQのリスクは、次式(1)によって計算することができる。
【0020】
【数1】
【0021】
例えば、事故シナリオ2の発生に関係する“ポンプA”、“弁B”、“弁C”、“タンクA”、“タンクE”について、例えば、ポンプAの故障と弁Bの故障とタンクAの故障が発生したり、ポンプAの故障と弁Cの故障とタンクEの故障が発生したりすると事故シナリオ2が発生する。このとき、“ポンプAの故障と弁Bの故障とタンクAの故障”や“ポンプAの故障と弁Cの故障とタンクEの故障”は、事故シナリオ2のカットセットである。また、カットセットを構成する“ポンプAの故障”、“弁Bの故障”などは基事象である。カットセットは、緩和策L~Nごとにフォルトツリーによって表現され、各カットセットを構成する機器の故障確率(基事象の発生確率)もPRAの設計情報として与えられている。すると、緩和策Lに成功し、緩和策Mに失敗する場合の全てのカットセットを緩和策Lおよび緩和策Mのフォルトツリーから抽出して、抽出したカットセットの発生確率を機器故障の発生確率から計算し、それらを合計することで、緩和策Lに成功し、緩和策Mに失敗する確率を計算することができる。記憶部15には、予めPRA設計情報に基づいて計算された事故シナリオ1~4の発生確率が登録されている。図2のグラフ101に、初期状態(事故K発生前)における事故シナリオ2、4の発生確率をリスク値として示す。
【0022】
実際に事故Kが発生すると、その後の事象進展に伴い機器故障が生じる場合がある。例えば、起因事象の発生後に緩和策Lに関するポンプEが故障したとする。すると、ポンプEの故障をカットセットに含む事故シナリオの発生確率は変化する。例えば、図2の例の場合、事故シナリオ4のカットセットのポンプEの故障の発生確率が“1”となる為、ポンプEの故障を含むカットセットの発生確率は、初期状態に比べて上昇する。PRA確率算出部14は、ポンプE故障を含むカットセットのポンプE故障の発生確率を“1”として、各事故シナリオの発生確率を式(1)により再計算する。例えば、PRA確率算出部14は、事故シナリオ4について、ポンプE故障が発生したことを前提として、緩和策Lに失敗し、緩和策Nに失敗する確率を再計算する。具体的には、PRA確率算出部14は、次のようにして事故シナリオ4のリスクを再計算する。
【0023】
(1)予め初期状態における炉心損傷の事故シナリオ2、4の発生確率及び各事故シナリオを発生させるカットセットの発生確率が計算され、記憶部15に記録されている。
(2)事故が発生し、同時に緩和策Lの達成に必要な機器の1つであるポンプEが故障する。すると、機器故障推定部12は、プロセス値などに基づいて、ポンプEの故障を推定する。
(3)PRA確率算出部14は、ポンプE故障の発生確率を1として各カットセットの発生確率を再計算する。これにより、事故シナリオ4に含まれるポンプE故障を有するカットセットの確率が増加する。
(4)PRA確率算出部14は、再計算されたカットセットの発生確率を用いて、事故シナリオ4の発生確率を再計算する。これにより、事故シナリオ4のリスクが増加し、結果的にリスク上有意なシナリオとして抽出される。
【0024】
ポンプE故障発生後の事故シナリオ4の発生確率を図2下段のグラフ102にリスク値として示す。このように本実施形態では、予め算出されている各カットセットの発生確率に対し、実際のプラント状態の監視により得られた機器故障の推定結果を反映し、発生確率の再計算を行うことで、プラントの状態に応じた最新の事故シナリオのリスク値を再評価することができ、今後重要なリスク上有意な事故シナリオを把握することができる。
【0025】
なお、プラント状態の監視により、ポンプEが故障していないと推定される場合、事故シナリオ4のカットセットにおいてポンプEの故障確率に0を入力することで、事故シナリオ4の確率の再計算も可能である。この場合、事故シナリオ4のリスクは減少する。
【0026】
(動作)
図3に実施形態に係る事故シナリオの発生確率の再計算および再計算結果に基づく運転支援画面の表示処理のフローチャートを示す。
前提として、記憶部15には、PRAの設計情報が記録されている。例えば、起因事象ごとのイベントツリー、各イベントツリーによって定義される事故シナリオ別のカットセット、各事故シナリオの発生確率(リスク)および各カットセットの発生確率の設計値、各カットセットを構成する基事象(例えば、ポンプEの故障確率)の発生確率が記憶部15に記録されている。また、記憶部15には、プラント1の系統図、プラント1の運転状態別の各機器の動作状態の設計情報が記録されている。
【0027】
まず、プラント1にて重大事故につながり得る起因事象が発生したとする。すると、起因事象取得部13が、起因事象の情報を取得する(ステップS11)。起因事象の情報は、ユーザが事象シナリオ予測システム10へ入力してもよいし、プラント1の監視システムが異常発生を検出し、検出した異常の情報を事象シナリオ予測システム10へ入力してもよい。起因事象取得部13は、起因事象の情報をPRA確率算出部14へ出力する。また、起因事象取得部13は、起因事象の情報を記憶部15に記録する。
【0028】
これと並行して、データ取得部11が、プロセス値、制御信号、状態信号などを取得する(ステップS12)。次に機器故障推定部12が、プロセス値などに基づいて、機器の故障を推定する(ステップS13)。例えば、機器故障推定部12は、制御信号から機器のあるべき動作状態(弁の開閉、ポンプの起動停止など)を判定し、状態信号が示す機器の動作状態を比較する。あるべき動作状態になっていない場合、機器故障推定部12は、当該機器が故障していると推定する。また、例えば、動作状態を取得できない機器については、機器故障推定部12は、系統全体として機能を維持できているかをプロセス値から判断し、維持できていない場合には、その系統に含まれる機器群を系統図に基づいて特定する。機器故障推定部12は、特定した機器群が、全て故障していると推定する。機器故障推定部12は、故障していると推定した機器の情報をPRA確率算出部14へ出力する。また、機器故障推定部12は、故障を推定した機器の情報を記憶部15に記録する。
【0029】
次にPRA確率算出部14は、事故シナリオの発生確率を再計算する(ステップS14)。PRA確率算出部14は、起因事象に対応するイベントツリーを記憶部15から読み出す。PRA確率算出部14は、読み出したイベントツリーに示される事故シナリオと当該事故シナリオを引き起こすカットセットについて、故障が推定された機器の故障確率に“1”を設定し、その機器に関係するカットセットおよび事故シナリオの発生確率を再計算する。また、例えば、緩和策L~Nによる対処を行う中で、例えば、緩和策Lが成功した後には、緩和策Lにのみ関係する機器の故障確率に“0”を設定し、カットセットおよび事故シナリオの発生確率を再計算する。PRA確率算出部14は、各事故シナリオの発生確率を記憶部15に記録する。
【0030】
次に表示制御部16が、運転支援画面を出力、更新する(ステップS15)。ここで図4図6を参照する。図4図6は、それぞれ、実施形態に係る運転支援画面の一例を示す第1~第3の図である。表示制御部16は、図4図6に例示する運転支援画面200を生成し、表示装置20へ出力する。また、表示制御部16は、入力部17を介して入力されたユーザの操作に基づいて、運転支援画面200を更新する。
【0031】
(運転支援画面)
まず、図4を参照する。運転支援画面200の領域201には、起因事象が表示される。領域202には、起因事象に対応するイベントツリーの緩和策がツリー形式で表示される。各ブロック2021の上段2022には、緩和策の内容・名称(例えば、“対処1”)が表示され、下段の左欄2023には、緩和策に関係する機器(例えば“弁”)の故障の有無が色別にアイコン表示され、下段の中央欄2024には、その緩和策を実施するうえで注意すべきヒューマンエラーが表示され、下段の右欄2025には、その緩和策を実施しなければならない最終時刻までの猶予時間が示される。ブロック2021から右または下に分岐しているラインはそれぞれブロック2021に該当する処置の成功、失敗を表す。また、成功失敗に関わらず必要な緩和策のブロック2021は右に分岐するライン上に表示される。ブロック2021から下に分岐したライン上の矢羽根2026を選択することで、そこから先のツリーを展開して表示したり、折りたたんで表示を省略したりすることが可能である。ツリーの表示を省略しているとき、矢羽根2026内には省略された後段の事故シナリオの炉心損傷の有無が表示される。OKが炉心損傷なしを示し、CDが炉心損傷ありを示す。矢羽根2026内にOKとCDが併記されている場合、省略された後段の事故シナリオの中にはOKのシナリオとCDのシナリオの両方が存在することを示している。
【0032】
また、No欄2027には、事故シナリオの識別番号が表示され、識別欄2028には、炉心損傷の有無が表示される。また、リスク欄2029には、PRA確率算出部14が算出した各事故シナリオの最新の発生確率が表示され、グラフ欄202Aには、各事故シナリオの発生確率の大きさ(シナリオ間の相対値)が棒グラフで表示される。例えば、起因事象の発生直後や機器故障が検出されない場合、リスク欄2029には、PRA設計で得られた発生確率の設計値(初期値)が表示される。また、起因事象発生後に、機器故障等が発生すると、リスク欄2029には、機器故障の条件付き確率に基づいて再計算された事故シナリオの発生確率が表示される。これにより、時々刻々と変化するプラントの状態に応じた最新のリスクが視認可能となる。表示制御部16は、炉心損傷なし(OK)に係る欄2027~202Aの値と、炉心損傷あり(CD)に係る欄2027~202Aの値と、を異なる色(例えば、それぞれ白色と黄色)で表示してもよい。また、表示制御部16は、最もリスク値が大きい事故シナリオに係る欄2027~202Aの値を他とは異なる態様で表示してもよい(例えば、赤色で表示する。図4図5では下線を引いて表示する。)。
【0033】
また、領域203には、事象選択ボタン2031と、1手先表示ボタン2032と、2手先表示ボタン2033と、全展開表示ボタン2034と、画像出力ボタン2035と、が表示される。ユーザが入力部17を用いてボタン2031~2035を押下することにより、領域202に表示する対応処置の表示内容を切り替えることができる。例えば、ユーザが事象選択ボタン2031を押下すると、ツリー表示対象の事故シナリオを切り替えることができる。他システムにより自動判別した起因事象に連なる事故シナリオおよび緩和策を自動表示するモードと、手動で表示する事故シナリオおよび緩和策を切り替えるモードの2種類がある。手動モードの場合、ユーザは、任意の事故シナリオもついての緩和策のツリーを表示することができる。また、ユーザが1手先表示ボタン2032を押下すると、表示制御部16は、領域202に表示するツリーを、次の1手先の緩和策についてのみ矢羽根2026を展開して表示し、2手先以降の緩和策については省略表示とする。また、ユーザが2手先表示ボタン2033を押下すると、表示制御部16は、領域202に表示するツリーを、次の1手先の緩和策および2手先の緩和策についてのみ矢羽根2026を展開して表示し、それ以降の緩和策については省略表示とする。また、ユーザが全展開表示ボタン2034を押下すると、表示制御部16は、領域202に表示するツリーを全展開して表示する。これにより、ユーザは、必要な範囲に限って緩和策を表示することができるので、利便性を向上することができる。また、ユーザが、画像出力ボタン2035を押下することにより、ツリーを全展開した状態の画像を画像ファイルとして出力することができる。
【0034】
次に図5を参照する。ユーザが“対処1”のブロック2021を選択すると、対応処置の成否を登録することができる(後述する小ウインドウ300)。ユーザが、“対処1”の成功を登録すると、表示制御部16は、“対処1”のブロック2021の色を、例えば青色に変更して表示する。これにより、緩和策の進捗や結果(成功、失敗)を管理することができる。また、“対処1”の成功が登録されると、“対処1”が失敗した場合の後続の緩和策は必要ない為、表示制御部16は、“対処1”が成功した場合の後続のツリーのみを表示する。これにより、余計な情報が表示されることを防ぐことができる。なお、表示制御部16は、データ取得部11が取得したプロセス値などを用いて対応処置の成否を自動で判定してもよい。
【0035】
“対処1”に成功した後、“対処2”に失敗すると、ユーザは、“対処2”のブロック2021を選択する。すると、表示制御部16は、小ウインドウ300を表示する。ユーザは、失敗を選択し、OKボタンを押下する。すると、表示制御部16は、“対処2”のブロック2021の色を例えば赤色に変更して表示する。また、“対処2”の失敗が登録されると、“対処2”が成功した場合の後続の緩和策は必要ない為、表示制御部16は、“対処2”が失敗したときの後続のツリーのみを表示する。
【0036】
また、ユーザがブロック2021の下段の左欄2023、中央欄2024および右欄2025のうちの何れかを押下すると、表示制御部16は、機器のステータスの詳細画面400を表示する。図6に対処3の左欄2023等を押下したときの詳細画面400の一例を示す。詳細画面400には、1つ又は複数のステータス表示欄401が設けられ、対処3に関係する系統別に機器の状態が表示される。例えば、図6の例の場合、電源系統、水源系統、制御用空気系統、その他の機器について故障の有無が表示されている。例えば、電源系統の場合、非常用電源1が故障していて、復旧に5分程度を要し、電源系統全体としては軽故障のステータスであることが示される。水源系統の場合、タンク1の水位異常が検出され、復旧の目途が立たない状態であり、水源系統全体としては重故障のステータスであることが示される。これらの情報のうち復旧に要する時間については、例えば、表示制御部16が、本実施形態の事象シナリオ予測システム10とは別の機器の稼働状態を管理するシステム(図示せず)から取得して表示する。非常用電源1の故障やタンク1の水位異常などの異常情報については、同様にして機器の稼働状態を管理するシステムから取得して表示してもよいし、機器故障推定部12の推定結果に基づいて表示してもよい。また、詳細画面400の時間情報表示欄403には、対処3の猶予時間が表示される。対処3の猶予時間は、PRAの設計情報とともに予め記憶部15に記録されている。ユーザは、詳細画面400を参照することにより、対処3の実行にあたり障害となっている機器故障の情報、復旧に要する時間、対処3の猶予時間を把握することができ、対処3の実行可否を判断することができる。
【0037】
事象シナリオ予測システム10は、プラントの監視が終了するまでの間(ステップS16;No)、ステップS11~S15の処理を繰り返し実行する。これにより、ユーザは、プラント1にて事故が発生した後のリスク値の変動を、運転支援画面200を参照することによって、リアルタイムに把握することができる。
【0038】
(効果)
プラント運転において、大規模災害などが発生し、設計想定外の機器の故障が起こると、設計時に想定した対応処置に失敗する可能性がある。また、想定外の機器故障や複数の機器が同時に故障した場合などには、その場でリカバリープランを検討することは困難である。これに対し、本実施形態によれば、プラント1から得られるリアルタイムのプロセス値などに基づいてプラント状態を監視し、機器故障を反映した事故シナリオの発生確率を速やかに計算して表示することで、想定外の機器故障が発生した場合でも、その状況下で最もリスクが高いシナリオを把握することができる。また、各事故シナリオの発生確率を表示することで、ユーザは、各事故シナリオのリスクを定量的に把握することができる。また、各事故シナリオの発生確率とともにその事故シナリオに対処する対応処置(緩和策)および対応処置を実行するうえで必要な系統や機器の状態を表示することで、想定外の事故等が生じたときでもユーザは、状況に応じてどのような対応を行うべきかを把握することができる。また、運転支援画面200にて、事象対応処置の成否や進行状況を登録することにより、進捗管理やリカバリープランの検討を行うことができる。
【0039】
また、事故シナリオの発生確率の計算では、予め設計されたカットセットおよびカットセットを構成する基事象の発生確率のうち、実際に発生した基事象の発生確率に1又は0を設定して条件付確率を計算する。これにより、発生確率の再計算を高速化することができる。例えば、事故シナリオの発生確率の再計算は、PRAの一般的な計算ツールにおいて、ポンプE故障を境界条件として与えることで実施可能ではある。しかし、一般的な計算ツールを用いた方法では、プラントの挙動に応じてリアルタイムに計算を行うことを考えた場合、計算負荷が大きい。本実施形態では、予め得られているカットセットを利用して、各カットセットを構成する基事象のうちの一部の発生確率を変更して再計算するだけで、高速に事故シナリオの発生確率を再計算することができる。
【0040】
図7は、実施形態に係る事象シナリオ予測システムのハードウェア構成の一例を示す図である。
コンピュータ900は、CPU901、主記憶装置902、補助記憶装置903、入出力インタフェース904、通信インタフェース905を備える。
上述の事象シナリオ予測システム10は、コンピュータ900に実装される。そして、上述した各機能は、プログラムの形式で補助記憶装置903に記憶されている。CPU901は、プログラムを補助記憶装置903から読み出して主記憶装置902に展開し、当該プログラムに従って上記処理を実行する。また、CPU901は、プログラムに従って、記憶領域を主記憶装置902に確保する。また、CPU901は、プログラムに従って、処理中のデータを記憶する記憶領域を補助記憶装置903に確保する。
【0041】
なお、事象シナリオ予測システム10の全部または一部の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより各機能部による処理を行ってもよい。ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータシステム」は、WWWシステムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、CD、DVD、USB等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。また、このプログラムが通信回線によってコンピュータ900に配信される場合、配信を受けたコンピュータ900が当該プログラムを主記憶装置902に展開し、上記処理を実行しても良い。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。
【0042】
以上のとおり、本開示に係るいくつかの実施形態を説明したが、これら全ての実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態及びその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0043】
<付記>
各実施形態に記載の事象シナリオ予測システム10、事象シナリオ予測方法及びプログラムは、例えば以下のように把握される。
【0044】
(1)第1の態様に係る事象シナリオ予測システムは、プラントが備える機器の故障情報を取得する機器故障情報取得部(機器故障推定部12)と、前記プラントで発生した起因事象の情報を取得する起因事象取得部13と、前記起因事象が生じたときの事象の進展のパターンを示す1つ又は複数のシナリオについて、PRA(Probabilistic Risk Assessment)の設計情報に基づく前記シナリオの発生確率を取得するPRA確率取得部(PRA確率算出部14)と、前記機器の故障情報と前記PRAの設計情報に含まれる前記シナリオのカットセットとに基づいて、前記シナリオの発生確率を再計算するリスク再計算部(PRA確率算出部14)と、を有する。
これにより、プラントの状況の変化に応じて、事故シナリオの発生確率を計算することができる。予め得られたカットセットを利用することにより、発生確率の再計算を高速に行うことができるので、プラントの状況の変化に応じてリアルタイムに事故シナリオのリスクを計算することができる。
【0045】
(2)第2の態様に係る事象シナリオ予測システムは、(1)のシナリオ予測システムであって、前記プラントのプロセス値や制御信号を含むパラメータ(プロセス値、制御信号、状態信号など)を取得するデータ取得部11と、前記データ取得部が取得したパラメータから機器の故障を推定する機器故障推定部12と、をさらに備え、機器故障情報取得部は、前記機器故障推定部が推定した前記機器の故障の情報を取得する。
これにより、想定外の災害や事故が発生した場合でも、リスク計算や対応処置の実施に必要な機器や機器群の故障を推定することができる。
【0046】
(3)第3の態様に係るシナリオ予測システムは、(2)の事象シナリオ予測システムであって、前記機器故障推定部は、前記パラメータに基づいて、前記機器が所望の動作状態にあるか否かを判定し、所望の動作状態にないと判定した場合、故障であると判定し、前記リスク再計算部は、故障と判定された前記機器が関係する前記カットセットに基づいて、前記シナリオの発生確率を再計算する。
これにより、機器が故障しているか否かを機器ごとに推定することができる。故障した機器を特定することで、その機器故障に関するカットセットの発生確率のみを再計算することにより、事故シナリオの発生確率を高速に再計算することができる。
【0047】
(4)第4の態様に係るシナリオ予測システムは、(2)~(3)の事象シナリオ予測システムであって、前記機器故障推定部は、前記パラメータに基づいて、前記プラントの系統の機能を維持できているか否かを判定し、維持できていない場合には、前記系統に含まれる前記機器を故障が疑われる機器群として特定し、前記リスク再計算部は、前記機器群が関係する前記カットセットに基づいて、前記シナリオの発生確率を再計算する。
これにより、機器群の故障を推定し、当該機器群の故障に関するカットセットの発生確率のみを再計算することにより、事故シナリオの発生確率を再計算することができる。
【0048】
(5)第5の態様に係るシナリオ予測システムは、(1)~(4)の事象シナリオ予測システムであって、前記シナリオと、その発生確率と、機器の故障情報と、を表示した画面(運転支援画面200)を出力する表示制御部16、をさらに備え、前記表示制御部は、前記リスク再計算部が前記発生確率を再計算すると、前記画面に表示された前記発生確率を更新する。
これにより、ユーザは、プラント状態の変化に応じた最新の事故シナリオの発生確率を把握することができる。
【0049】
(6)第6の態様に係るシナリオ予測システムは、(5)のシナリオ予測システムであって、前記表示制御部は、前記シナリオとともに当該シナリオの進展を緩和するための対応処置とその対策に成功した場合の対応処置と、失敗した場合の対応処置とを前記画面に表示する。
これにより、ユーザは、プラントに生じた事象への対応処置を把握することができる。
【0050】
(7)第7の態様に係る事象シナリオ予測システムは、(6)の事象シナリオ予測システムであって、前記表示制御部は、次の対応処置および当該対応処置に成功した場合と失敗した場合の前記対応処置に限定して、又は、その先以降の前記対応処置までを切り替え可能に表示する。
必要な範囲に限定して対応処置を表示したり、最後の対応処置まで表示したり切り替えることで、必要に応じた範囲で実施すべき対応処置を見通すことができ、ユーザの利便性を向上することができる。
【0051】
(8)第8の態様に係る事象シナリオ予測システムは、(6)~(7)の事象シナリオ予測システムであって、前記表示制御部は、前記画面に表示された前記対応処置が選択されると、前記対応処置に関係する機器の状態と、当該対応処置を実施する制限時間までの残り時間と、を表示する。
これにより、ユーザは、前記対応処置の実行可否を判断することができる。
【0052】
(9)第9の態様に係る事象シナリオ予測システムは、(6)~(8)の事象シナリオ予測システムであって、前記表示制御部は、前記対応処置に成功したか、又は、失敗したかを示す情報を取得し、その情報に応じて、生じ得る前記シナリオに限定して表示する。
事象の進展や対応処置の成否によって生じ得るシナリオは変化する。実際に生じる可能性があるシナリオに限定して表示することで、ユーザの視認性を向上することができる。
【0053】
(10)第10の態様に係る事象シナリオ予測方法は、プラントが備える機器の故障情報を取得するステップと(S13)、前記プラントで発生した起因事象の情報を取得するステップと(S12)、前記起因事象が生じたときの事象の進展のパターンを示す1つ又は複数のシナリオについて、PRA(Probabilistic Risk Assessment)の設計情報に基づく前記シナリオの発生確率を取得するステップと(S14)、前記機器の故障情報と前記PRAの設計情報に含まれる前記シナリオのカットセットとに基づいて、前記シナリオの発生確率を再計算するステップと(S14)、を有する。
【0054】
(11)第11の態様に係るプログラムは、コンピュータに、プラントが備える機器の故障情報を取得するステップと、前記プラントで発生した起因事象の情報を取得するステップと、前記起因事象が生じたときの事象の進展のパターンを示す1つ又は複数のシナリオについて、PRA(Probabilistic Risk Assessment)の設計情報に基づく前記シナリオの発生確率を取得するステップと、前記機器の故障情報と前記PRAの設計情報に含まれる前記シナリオのカットセットとに基づいて、前記シナリオの発生確率を再計算するステップと、を実行させる。
【符号の説明】
【0055】
10・・・事象シナリオ予測システム
11・・・データ取得部
12・・・機器故障推定部
13・・・起因事象取得部
14・・・PRA確率算出部
15・・・記憶部
16・・・表示制御部
17・・・入力部
900・・・コンピュータ
901・・・CPU
902・・・主記憶装置
903・・・補助記憶装置
904・・・入出力インタフェース
905・・・通信インタフェース
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7