(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022183496
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】蒸気タービンの損傷評価装置、方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
F01D 9/04 20060101AFI20221206BHJP
F01D 25/00 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
F01D9/04
F01D25/00 V
F01D25/00 W
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021090846
(22)【出願日】2021-05-31
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2020年度~2021年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「カーボンリサイクル・次世代火力発電等技術開発/次世代火力発電基盤技術開発/石炭火力の負荷変動対応技術開発/タービン発電設備次世代保守技術開発」委託事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 悠介
(72)【発明者】
【氏名】加瀬 賢一
(72)【発明者】
【氏名】河合 泰輝
【テーマコード(参考)】
3G202
【Fターム(参考)】
3G202GA13
(57)【要約】
【課題】大きな出力変動を伴う発電計画で運用される蒸気タービンにおけるノズルダイヤフラムのクリープ変形挙動を、シミュレーションにより精緻に評価する技術を提供する。
【解決手段】損傷評価装置10は、蒸気タービン20に設置された複数のセンサ21の各々から検出データ31を取得する取得部11と、これら検出データ31に基づいて蒸気タービン20におけるノズルダイヤフラムの運転状態量φを計算する計算部15と、この運転状態量φに基づいてノズルダイヤフラムのクリープ変形速度Vを演算する演算部16と、蒸気タービン20における今後の運転計画26に基づきクリープ変形速度Vからノズルダイヤフラムの変形量Dを推定する推定部17と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸気タービン又はその周辺部に設置された複数のセンサの各々から検出データを取得する取得部と、
前記検出データに基づいて前記蒸気タービンにおけるノズルダイヤフラムの運転状態量を計算する計算部と、
前記運転状態量に基づいて前記ノズルダイヤフラムのクリープ変形速度を演算する演算部と、
前記蒸気タービンにおける今後の運転計画に基づき前記クリープ変形速度から前記ノズルダイヤフラムの変形量を推定する推定部と、を備える蒸気タービンの損傷評価装置。
【請求項2】
請求項1に記載の蒸気タービンの損傷評価装置において、
前記センサは、前記蒸気タービンの蒸気入口側、出口側及び抽気管の少なくとも一つに設置されたものであって、
前記計算部は、前記検出データに基づく前記蒸気タービンのヒートバランスの計算結果から前記運転状態量を得る蒸気タービンの損傷評価装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の蒸気タービンの損傷評価装置において、
前記クリープ変形速度は、過去の前記検出データを積算した履歴データにも基づいて演算される蒸気タービンの損傷評価装置。
【請求項4】
請求項3に記載の蒸気タービンの損傷評価装置において、
前記履歴データは、外部入力されたものである蒸気タービンの損傷評価装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の蒸気タービンの損傷評価装置において、
前記クリープ変形速度は、前記運転状態量から導かれる前記ノズルダイヤフラムの等価応力に基づいて演算される蒸気タービンの損傷評価装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の蒸気タービンの損傷評価装置において、
推定された前記変形量に基づいて前記ノズルダイヤフラムの損傷リスクを評価する評価部を備える蒸気タービンの損傷評価装置。
【請求項7】
請求項6に記載の蒸気タービンの損傷評価装置において、
前記評価部は、前記蒸気タービンの運転時間も加えた二つのパラメータにより前記損傷リスクを評価する蒸気タービンの損傷評価装置。
【請求項8】
請求項5を引用する請求項6又は請求項7に記載の蒸気タービンの損傷評価装置において、
前記クリープ変形速度を前記等価応力に対し確率分布で表すことにより、前記ノズルダイヤフラムの前記損傷リスクをその変形量の発生頻度で評価する蒸気タービンの損傷評価装置。
【請求項9】
請求項7に記載の蒸気タービンの損傷評価装置において、
前記損傷リスクは、演算に基づく前記変形量の推定値を前記ノズルダイヤフラムの実測値で修正して評価する蒸気タービンの損傷評価装置。
【請求項10】
蒸気タービン又はその周辺部に設置された複数のセンサの各々から検出データを取得するステップと、
前記検出データに基づいて前記蒸気タービンにおけるノズルダイヤフラムの運転状態量を計算するステップと、
前記運転状態量に基づいて前記ノズルダイヤフラムのクリープ変形速度を演算するステップと、
前記蒸気タービンにおける今後の運転計画に基づき前記クリープ変形速度から前記ノズルダイヤフラムの変形量を推定するステップと、を含む蒸気タービンの損傷評価方法。
【請求項11】
コンピュータに、
蒸気タービン又はその周辺部に設置された複数のセンサの各々から検出データを取得するステップ、
前記検出データに基づいて前記蒸気タービンにおけるノズルダイヤフラムの運転状態量を計算するステップ、
前記運転状態量に基づいて前記ノズルダイヤフラムのクリープ変形速度を演算するステップ、
前記蒸気タービンにおける今後の運転計画に基づき前記クリープ変形速度から前記ノズルダイヤフラムの変形量を推定するステップ、を実行させる蒸気タービンの損傷評価プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、大きな出力変動を伴う発電計画で運用される蒸気タービンの損傷評価技術に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで火力発電は、エネルギー効率が高い定格運転で連続発電を行うベースロード運転が主体であった。しかし近年の火力発電は、太陽光や風力といった再生可能エネルギー発電の出力変動の調整役としての要請が高まってきている。このため近年の火力発電は、エネルギー効率の低い部分負荷運転を行うケースが増え、起動停止の回数も増加してきている。
【0003】
ところで、火力発電プラントの主要構成である蒸気タービンや制御弁、ボイラーなどは、運転に伴い各部位に損傷や劣化が発生・蓄積し、発電性能の低下や損傷リスクが増大することが知られている。このような損傷の一つとして、各種部品のクリープ変形及びこれに伴うき裂発生が挙げられる。クリープ変形とは、金属材料が融点の半分程度の温度環境下で使用される際に、金属材料の耐力以下の低い応力においても時間に伴い徐々に永久変形が生じ、最終的にき裂が生じ金属が破断する現象である。
【0004】
このようなクリープ変形に関し、蒸気タービンの保守管理で重要視される部品として、500℃以上の蒸気が吹き付けられるノズルダイヤフラムが挙げられる。その理由は、ノズルダイヤフラムと隣接する動翼やロータの間隙が、蒸気のリークを防ぐため可能な範囲で狭く設計されているためである。
【0005】
もし、ノズルダイヤフラムのクリープ変形が一定量に達すると、隣接する動翼やそれを保持するロータなどの回転体に接触し、部品の損傷・飛散などを引き起こし、火力発電プラントが計画外停止してしまう。
【0006】
そこで、ノズルダイヤフラムと回転体の接触を防ぐために、このノズルダイヤフラムのクリープ変形量をデータベースや運転データなどから予測したり、また定期検査の際に変形量を計測したりするなどの保守管理が従来から行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年の火力発電プラントは、上述したように出力変動の調整役として、起動停止や部分負荷運転が繰り返される。このため、ノズルダイヤフラムのクリープ変形に伴う損傷リスクの評価がより困難となっている。従来から行われているノズルダイヤフラムのクリープ変形量の保守管理は、ベースロード運転であることを前提にシミュレーションしたものであった。
【0009】
ベースロード運転では、プラント効率が最大となる定格出力近辺で運転されるケースが多い。このようなケースで各ノズルダイヤフラムが晒される温度や圧力等(以下、「運転状態量」と称す)は、タービン設計時に精緻な評価および最適化が行なわれている。さらに運転中のタービン出力変動も少ないことから運転状態量の変動も考慮する必要が無い。このため、ベースロード運転でのノズルダイヤフラムの変形量は、設計情報と運転履歴から容易にシミュレーションすることができた。
【0010】
一方で、部分負荷運転や起動停止が増えると、設計点を外れた運転が増える。さらに、設計時に想定していない温度・圧力にノズルダイヤフラムが長時間晒されたり運転状態量が変動したりする状況も増える。このために、ノズルダイヤフラムのクリープ変形に関する従来のデータベースやシミュレーションを、一日のうち起動停止が何回も繰り返され部分負荷運転も広く実施される近年の火力発電プラントに、そのまま適用させることはできなかった。
【0011】
ところで、ノズルダイヤフラムのクリープ変形の管理手段として、最も一般的な手法は、プラント停止時に蒸気タービンを分解してノズルダイヤフラムを取り出し、その歪み(変形)を直接計測する手法である。しかし、ノズルダイヤフラムは、蒸気タービン内部に複数個配置されており、これらを全て取り出すにはタービンを分割する必要がある。さらに、動翼間に配された個々のノズルダイヤフラムを分解するのは手間がかかることに加え、さらにノズルダイヤフラム下半側を取り出すためにロータをタービンから吊り出す作業も必要となる。
【0012】
このため、この手法は最も変形量を精緻に計測できるため、信頼性の高い手法ではあるが、計測に手間(LT)とコストがかかり、さらに定検工期が長くなり発電コストが増加する課題があった。また、タービンの運転中にノズルダイヤフラムとロータの間隙を計測する手法なども検討されてきたが、そのような計測機器をセッティングすることも、特殊環境下で高い信頼性を長時間にわたり維持することも、困難であった。
【0013】
本発明の実施形態はこのような事情を考慮してなされたもので、大きな出力変動を伴う発電計画で運用される蒸気タービンにおけるノズルダイヤフラムのクリープ変形挙動を、シミュレーションにより精緻に評価する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
実施形態に係る蒸気タービンの損傷評価装置において、蒸気タービン又はその周辺部に設置された複数のセンサの各々から検出データを取得する取得部と、前記検出データに基づいて前記蒸気タービンにおけるノズルダイヤフラムの運転状態量を計算する計算部と、前記運転状態量に基づいて前記ノズルダイヤフラムのクリープ変形速度を演算する演算部と、前記蒸気タービンにおける今後の運転計画に基づき前記クリープ変形速度から前記ノズルダイヤフラムの変形量を推定する推定部と、を備える。
【発明の効果】
【0015】
本発明の実施形態において、大きな出力変動を伴う発電計画で運用される蒸気タービンにおけるノズルダイヤフラムのクリープ変形挙動を、シミュレーションにより精緻に評価する技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る蒸気タービンの損傷評価装置のブロック図。
【
図2】第2実施形態に係る蒸気タービンの損傷評価装置のブロック図。
【
図3】ノズルダイヤフラムに作用する等価応力とクリープ変形速度との関係を示すグラフ。
【
図4】蒸気タービンの運転時間に対するノズルダイヤフラムの変形量の発生頻度を表した損傷リスクの評価テーブル。
【
図5】ノズルダイヤフラムのクリープ変形量の将来予測を示す損傷リスクの評価グラフ。
【
図6】実施形態に係る蒸気タービンの損傷評価方法の工程、及び蒸気タービンの損傷評価プログラムのアルゴリズムを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1実施形態)
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
図1は本発明の第1実施形態に係る蒸気タービンの損傷評価装置10A(10)のブロック図である。このように蒸気タービン20の損傷評価装置10Aは、蒸気タービン20又はその周辺部に設置された複数のセンサ21の各々から検出データ31を取得する取得部11と、これら検出データ31に基づいて蒸気タービン20におけるノズルダイヤフラムの運転状態量φを計算する計算部15と、この運転状態量φに基づいてノズルダイヤフラムのクリープ変形速度Vを演算する演算部16と、蒸気タービン20における今後の運転計画26に基づきクリープ変形速度Vからノズルダイヤフラムの変形量Dを推定する推定部17と、を備えている。
【0018】
ノズルダイヤフラム(図示略)とは、蒸気タービン20に複数列配置される動翼の各段落間に設置される部品である。そしてノズルダイヤフラムは、ロータ表面に配された動翼に対向するように、円周状に複数のノズル板(静翼板)が配置されている。
【0019】
さらに、これらノズル板の内周側および外周側は、内輪および外輪と呼ばれるリング状の構造物で保持されている。そして、ノズル板と内輪および外輪は、溶接などで固定され、0度および180度位置にて分割できる構造を持っている。ノズルダイヤフラムは、このような分割構造を持ち、上下よりロータを挟み込むように設置されることで、ロータに植え込まれた動翼の各段落間に、設置可能となっている。
【0020】
ノズルダイヤフラムは、上流側の動翼を通過した蒸気がそのノズル板の間を通過するように設計され、下流側の動翼に蒸気を適切な流速で導く機能を持っている。このような機能を持つために、ノズルダイヤフラムの上流側と下流側では蒸気に圧力差が生じる。さらにノズルダイヤフラムは、高温域で使用されるため、タービンケーシングに保持された外輪側との圧力差により、内輪側が蒸気下流側に傾くクリープ変形が生じ易い。
【0021】
センサ21は、蒸気タービン20又はその周辺部に複数設置されており、蒸気タービン20の蒸気入口側および蒸気出口側の温度・圧力や抽気温度・圧力といった検出データ31を出力する。またこれ以外にセンサ21は、蒸気弁前後の温度・圧力といった検出データ31、取り付け先であるタービンケーシングや蒸気弁ケーシングの検出データ31も出力する。また、センサ21は、例えば発電機出力などの発電所内の蒸気タービン20以外の機器(図示略)に設置されたものも含み、それら機器における検出データ31も出力する。
【0022】
取得部11は、複数のセンサ21の各々から時々刻々と連続的に出力される検出データ31を、適切なサンプリング周波数で逐次的に取得する。蒸気タービン20を停止状態から起動させると、過渡状態を経て、発電出力が一定になる定常状態に移行する。さらに蒸気タービン20は、出力調整の要請を受けて、ある定常状態から別の定常状態に移行したり停止されたりする場合もある。このような場合も、過渡状態を経ることになる。また移行後の定常状態も、エネルギー効率が高い定格運転とエネルギー効率の低い部分負荷運転とに運転状態が大きく分類される。
【0023】
このように蒸気タービン20の運転状態が頻繁に変動することで、ノズルダイヤフラムが被るクリープ変形速度も変動することになる。このため、取得部11で取得される検出データ31は、ノズルダイヤフラムにおけるクリープ変形の挙動に直接反映する情報であるといえる。そしてこれら検出データ31は、補正部12において、後工程で適切に処理されるように平均化およびノイズ除去といった補正が施される。
【0024】
計算部15は、これら検出データ31に基づいて蒸気タービン20のヒートバランスを計算する。ここで、ヒートバランスとは、蒸気タービン20の構成要素(ノズルダイヤフラムを含む)の各々における熱エネルギーの分布状態を示したものである。
【0025】
つまり計算部15は、これら構成要素のうち少なくともノズルダイヤフラムに関与する温度、圧力、エンタルピー、流量等といった運転状態量φを、検出データ31に基づいて計算し出力するものである。なお、このようなノズルダイヤフラムの運転状態量φの計算手法は、蒸気タービン20のヒートバランスに基づくことに限定されることはなく、他の計算手法に基づいてもよい。
【0026】
計算部15では、具体的に、蒸気タービン20の入口側および出口側に設置された温度センサ21等が出力する検出データ31に基づいて、蒸気タービン20の各段落におけるヒートバランスを収支計算にて求める。ところで、蒸気タービン20を構成するノズルダイヤフラムの種類、個数によっては、逐次的に取得される検出データ31の全てをヒートバランスの計算処理に充てるのは困難な場合がある。
【0027】
そのような場合は、評価部位(ノズルダイヤフラム)のヒートバランスを、予め想定される検出データ31に対応させて、データベース(図示略)に保有させる。そして、取得部11で取得された検出データ31に対応する運転状態量φをこのデータベースから逐次出力させるといった計算処理がなされるようにしてもよい。
【0028】
演算部16は、このヒートバランスの計算結果から得られるノズルダイヤフラムの運転状態量φとノズルダイヤフラムの設計情報Kとに基づいてノズルダイヤフラムのクリープ変形速度Vを演算する。もしくは、ノズルダイヤフラムの運転状態量φとクリープ変形速度Vとのデータセットを構築し、演算部16は、入力した任意の運転状態量φに対し、対応するクリープ変形速度Vを出力するようにしてもよい。なお、ここで演算されるクリープ変形速度Vは、蒸気タービン20の回転軸に沿う方向成分のみでよい。
【0029】
推定部17は、演算部16から出力されるクリープ変形速度Vを実時間で積分していくことにより、ノズルダイヤフラムの現時刻における変形量Dを推定することができる。さらに、蒸気タービン20の今後の運転計画26から推定される運転時間とクリープ変形速度Vとからノズルダイヤフラムの将来的な変形量Dも推定することができる。なおここで運転計画26とは、例えば、設備稼働率や平均出力、起動停止回数頻度等である。
【0030】
表示部18では(
図5参照)、蒸気タービン20の運転時間tに対するノズルダイヤフラムのクリープ変形量Dを表示する。ここで、実時間で演算されるクリープ変形速度Vに基づいて、現時刻におけるクリープ変形量Dが「演算実績」として示される。さらに、運転計画26に基づいて、将来におけるクリープ変形量Dが「将来予測」として示される。
【0031】
このように、現時刻の「演算実績」と「将来予測」におけるクリープ変形量Dに基づいて、間隙の余裕度が少なく設計されているノズルダイヤフラムに対し、有効な保守推奨時期を提示することができる。
【0032】
(第2実施形態)
次に
図2を参照して本発明における第2実施形態について説明する。
図2は第2実施形態に係る蒸気タービンの損傷評価装置10B(10)のブロック図である。なお、
図2において
図1と共通の構成又は機能を有する部分は、同一符号で示し、重複する説明を省略する。
【0033】
第2実施形態の損傷評価装置10Bは、第1実施形態の損傷評価装置10Aと同様に、検出データ31の取得部11、運転状態量φを出力させるヒートバランスの計算部15、クリープ変形速度Vの演算部16、変形量Dの推定部17、の機能を備えている。
【0034】
そして第2実施形態の損傷評価装置10Bにおけるクリープ変形速度Vは、第1実施形態と同様の実時間で取得された検出データ31に加え、過去に取得された検出データ31を積算した履歴データ32にも基づいて演算されている。
【0035】
この履歴データ32は、実時間で取得した検出データ31を補正部12で補正した後に蓄積部14に蓄積することで形成される。よってこの履歴データ32は、蒸気タービン20の運転開始時からの運転期間を全て積算したデータとなっている。
【0036】
また履歴データ32は、データ入力部13から外部入力することもできる。これは、損傷評価装置10Bが、運転開始後しばらく時間経過した既設の蒸気タービン20で運用される場合に対応するためである。このような履歴データ32にも基づくことで、より信頼性の高いクリープ変形速度Vを演算することができる。
【0037】
図3はノズルダイヤフラムに作用する等価応力σとクリープ変形速度Vとの関係を示すグラフである。このグラフは、評価対象のノズルダイヤフラムに限定されず共通の素材で構成される構造物に対し普遍的に適用できるように作成されたものである。
【0038】
損傷評価装置10Bの演算部16(
図2)は、クリープ変形速度Vを、運転状態量φから導かれるノズルダイヤフラムの等価応力σに基づいて演算する。すなわち、この演算部16は、ノズルダイヤフラムの運転状態量φ及び設計情報Kを演算式25に入力し、このノズルダイヤフラムに発生する等価応力σを演算する。
【0039】
なおこの等価応力σは、ノズルダイヤフラムのクリープ変形挙動を元に、クリープ変形量を代表する応力として弾性論または弾性クリープ論を用いて演算式を決定する。これら理論式を用いて等価応力σの演算式を求めるのが困難な場合、予め有限要素法などを用いてクリープ変形量を代表する応力パラメータの近似式を求めるなども可能である。なおクリープ変形速度Vを表す関数Gは、等価応力σに対し、例えばクリープ強度などの材料のばらつきを考慮することで確率分布29のように幅を持たせて定義することもできる。
【0040】
等価応力σ=f(φ,K)
クリープ変形速度V=G(φ,K,σ)=A・σB
ここでA,Bはφ,Kで決まる定数である。ノズルダイヤフラムの変形を仮定し、前述の等価応力σを求める演算式fと同様、弾性論又は弾性クリープ論から定めてもよいし、有限要素法などを用いて定めてもよい。
【0041】
なお、本実施例ではクリープ変形速度Vを等価応力σのべき乗則で求めているが、これ以外の予測式も適用可能である。ノズルダイヤフラムの形状はプラントごと、タービン段落ごとに異なるため、各ノズルに適した予測式を適用可能である。これらいずれの予測式においても、式中に使用する定数はφ,Kより求まる。
【0042】
図4は、蒸気タービン20の運転時間に対するノズルダイヤフラムの変形量Dの発生頻度を表した損傷リスクの評価テーブルである。この評価テーブルは、発生頻度を「High」「Middle」「Low」の三段階に分けて表示しているが、この表示方法に特に限定はない。
【0043】
損傷評価装置10B(
図2)は、推定部17で推定されたクリープ変形量Dに基づいてノズルダイヤフラムの損傷リスクを評価する評価部28を備えている。クリープ変形速度Vを等価応力σに対し確率分布29(
図3)で表したことにより、
図4に示すようにノズルダイヤフラムの損傷リスクを、変形量Dと運転時間tに基づき、発生頻度で評価することができる。なお
図4に示される各閾値(A、B、a、b)は、ノズルダイヤフラムの寸法や素材等といった設計情報Kで予め決定することができる。
【0044】
ノズルダイヤフラムの変形量Dは、センサ21の実時間における検出データ31から計算される。しかしこれでは、ノズルダイヤフラムの材料強度のバラツキによる予測誤差が、変形量Dに生じることが懸念される。この誤差は運転時間の増加とともに比例して大きくなる。このため、損傷リスクの評価テーブル(
図4)に示すように、変形量Dと運転時間tといった二つのパラメータにより損傷リスクを評価することで、適切なリスク評価が実現される。
【0045】
第2実施形態において、評価部28が、二つのパラメータのマトリクスよる損傷リスクの評価テーブル(
図4)を、表示部18に表示させる方法を示した。しかし、評価部28による損傷リスク評価は、必ずしもこのような方法に限るものではない。例えば機器の稼働率や平均的な運転温度、起動停止回数などをパラメータに用いても良いし、マトリクスとパラメータにより一義的にリスクを決定するのではなく、確率論的手法を用いて損傷確率を算出することも可能である。
【0046】
図5はノズルダイヤフラムのクリープ変形量Dの将来予測を示す損傷リスクの評価グラフである。このように損傷リスクは、演算に基づくクリープ変形量Dの推定値24をノズルダイヤフラムの実測値27で修正して評価することができる。
【0047】
つまり、蒸気タービン20の停止時に実施した目視点検等の実測値27の情報を反映し、将来予測の精度を向上させることができる。予め推定部17から出力されたクリープ変形量Dの推定値24と点検による実測値27とのズレを定量化し、そのズレに応じて将来の損傷予測線を矢印で示すように修正する。
【0048】
図6のフローチャートに基づいて(適宜、
図2参照)、実施形態に係る蒸気タービンの損傷評価方法の工程、及び蒸気タービンの損傷評価プログラムのアルゴリズムを説明する。まず、蒸気タービン20又はその周辺部に設置された複数のセンサ21の各々から検出データ31を取得する(S11)。次に、これら検出データ31に基づいて蒸気タービン20のヒートバランスを計算する(S12)。
【0049】
そして、このヒートバランスの計算結果から得られるノズルダイヤフラムの運転状態量φに基づいて(S13)、ノズルダイヤフラムのクリープ変形速度Vを演算する(S14)。なお、このクリープ変形速度Vは、必要に応じて過去の検出データ31を積算した履歴データ32にも基づいて演算される。
【0050】
演算したクリープ変形速度Vを積分していくことにより、ノズルダイヤフラムの実時間におけるクリープ変形量Dを表示していく(S15)。さらに、蒸気タービン20における今後の運転計画26に基づき(S16)、これまでのクリープ変形速度Vの実績からノズルダイヤフラムの将来的なクリープ変形量Dを推定し表示する(S17)。そして、この将来的なクリープ変形量Dに基づいて、ノズルダイヤフラムの損傷リスクを評価し(S18)、ノズルダイヤフラムの保守推奨時期等を提示する(END)。
【0051】
以上述べた少なくともひとつの実施形態の蒸気タービンの損傷評価装置によれば、設置された複数のセンサの検出データから計算された蒸気タービンのヒートバランスに基づきノズルダイヤフラムのクリープ変形速度を実時間で演算することで、大きな出力変動を伴う発電計画で運用される蒸気タービンにおけるノズルダイヤフラムのクリープ変形挙動をシミュレーションにより精緻に評価することが可能となる。
【0052】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0053】
以上説明した蒸気タービンの損傷評価装置は、専用のチップ、FPGA(Field Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)、又はCPU(Central Processing Unit)などのプロセッサを高集積化させた制御装置と、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)などの記憶装置と、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)などの外部記憶装置と、ディスプレイなどの表示装置と、マウスやキーボードなどの入力装置と、通信I/Fとを、備えており、通常のコンピュータを利用したハードウェア構成で実現できる。このため蒸気タービンの損傷評価装置の構成要素は、コンピュータのプロセッサで実現することも可能であり、蒸気タービンの損傷評価プログラムにより動作させることが可能である
【0054】
また蒸気タービンの損傷評価プログラムは、ROM等に予め組み込んで提供される。もしくは、このプログラムは、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD-ROM、CD-R、メモリカード、DVD、フレキシブルディスク(FD)等のコンピュータで読み取り可能な記憶媒体に記憶されて提供するようにしてもよい。
【0055】
また、本実施形態に係る蒸気タービンの損傷評価プログラムは、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせて提供するようにしてもよい。また、蒸気タービンの損傷評価装置は、構成要素の各機能を独立して発揮する別々のモジュールを、ネットワーク又は専用線で相互に接続し、組み合わせて構成することもできる。
【符号の説明】
【0056】
10(10A,10B)…損傷評価装置、11…取得部、12…補正部、13…データ入力部、14…蓄積部、15…計算部、16…演算部、17…推定部、18…表示部、20…蒸気タービン、21…センサ、24…推定値、25…演算式、26…運転計画、27…実測値、28…評価部、29…確率分布、31…検出データ、32…履歴データ、φ…運転状態量、σ…等価応力、K…設計情報、V…クリープ変形速度(変形速度)、D…クリープ変形量(変形量)。