(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022183504
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】ポリエステル太細マルチフィラメント
(51)【国際特許分類】
D01F 6/62 20060101AFI20221206BHJP
D01F 6/84 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
D01F6/62 303H
D01F6/84 305B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021090856
(22)【出願日】2021-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高堂 聖英
(72)【発明者】
【氏名】中原 健
【テーマコード(参考)】
4L035
【Fターム(参考)】
4L035AA05
4L035BB31
4L035DD12
4L035DD20
(57)【要約】
【課題】 染色織編物にしたときの杢調の鮮明性に優れ、かつ濃染部と淡染部により発現する濃淡コントラストが強く、ソフトな風合いを有する意匠性織編物を提供する。
【解決手段】 金属スルホネート基を含有するイソフタル酸成分をポリエステルの全ジカルボン酸に対して0.6~2.5モル%含有し、単糸繊度0.40~1.2dtex、ウースター波形の繊度変動ベースラインからの繊度変動率幅40%以上の繊度変動ピーク個数(N40)の平均値が3~17個/mであることを特徴とするカチオン可染性ポリエステル太細マルチフィラメントにおいて、破断強度が1.8~2.5cN/dtex、タフネスが19.0以上であり、マルチフィラメント長手方向の繊度斑に由来するウースター太細斑が5~16%、かつウースター波形の繊度変動ベースラインからの繊度変動率幅20%以上の繊度変動ピークの個数(N20)の変動係数CV%が12%以下であるカチオン可染性ポリエステル太細マルチフィラメント。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属スルホネート基を有するイソフタル酸成分をポリエステルの全ジカルボン酸に対して0.6~2.5モル%含有しており、下記A~Bを満足することを特徴とするポリエステル太細マルチフィラメント。
A.単糸繊度0.40~1.2dtex
B.マルチフィラメント長手方向の繊度斑に由来するウースター波形の繊度変動ベースラインからの繊度変動率幅40%以上の繊度変動ピーク個数(N40)の平均値が3~17個/m
【請求項2】
破断強度が1.8~2.5cN/dtex、タフネスが19.0以上であることを特徴とする請求項1に記載のポリエステル太細マルチフィラメント。
【請求項3】
マルチフィラメント長手方向の繊度斑に由来するウースター太細斑が5~16%であることを特徴とする請求項1に記載のポリエステル太細マルチフィラメント。
【請求項4】
マルチフィラメント長手方向の繊度斑に由来するウースター波形の繊度変動ベースラインからの繊度変動率幅20%以上の繊度変動ピークの個数(N20)の変動係数CV%が12%以下であることを特徴とする請求項1に記載のポリエステル太細マルチフィラメント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸長手方向に太細を有し、濃淡コントラストの大きい杢調を表現でき、かつソフトな風合いを有する織編物を与え得るポリエステル太細マルチフィラメントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、スポーツ衣料・インテリア用途について意匠性に優れた織編物のニーズが高まっており、濃淡コントラストが大きく、意匠性に富み、かつソフトな風合いを有する杢調素材の需要が拡大している。
【0003】
杢調素材の代表的なマルチフィラメントとして、ポリエステル高配向未延伸マルチフィラメントを不均一延伸して糸長手方向に太細のあるマルチフィラメントとすることは公知の技術である。これにより得られた太細マルチフィラメントは太細に由来する濃淡染色差による杢感を有しており、婦人・紳士用アウターやカジュアルウエアなど織編物衣料用途やインテリア用途に用いられている(特許文献1)。
【0004】
一方、ポリエステルマルチフィラメントの発色性改良を目的に、金属スルホネート基を含有するイソフタル酸成分などに代表されるイオン性染着座席を共重合することによって、発色性に優れたカチオン染料により染色可能なポリエステル太細マルチフィラメントを得ることができる(特許文献2~5)。
【0005】
また、ポリエステルとナイロンをブレンドし、染め分けする方法が提案されている(特許文献6)。この方法によれば、ポリエステルとナイロンをブレンドし、かつ2時点移転以下の温度で延伸することによって太細斑を形成することによる濃淡染色差と異染料による染め分けによって多色化することにより、意匠性に富むポリエステルマルチフィラメントを得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭50-18717号公報
【特許文献2】特開2018-162531号公報
【特許文献3】特開2003-306830号公報
【特許文献4】特開2006-200064号公報
【特許文献5】特開2004-277956号公報
【特許文献6】特開昭55-158329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2~5記載の方法にて得た杢調は発色鮮明性に優れるものの、金属スルホネート基を含有するイソフタル酸成分などに代表されるイオン性染着座席を共重合したポリマーのみを用いた高配向未延伸マルチフィラメントは、定応力伸長領域伸度が短く、続く延伸工程にて不均一延伸した際に太部と細部の繊維径差が小さくなる。単糸繊度が低い高配向未延伸マルチフィラメントでは、その影響がより顕著となる。そのため、得られたカチオン可染性ポリエステル太細マルチフィラメントは、発色鮮明性に優れるものの、得られた杢調は濃淡コントラストが小さく、意匠性素材としての特徴が弱まってしまう。
【0008】
また、特許文献6記載の繊維では、ポリエステルとナイロンをブレンドして溶融紡糸し、2次点移転以下の低温にて延伸し、太細の斑を形成する。ポリエステルとナイロンをブレンドするため高配向未延伸マルチフィラメントの強度が低下することから、単糸繊度が低い場合、特に曵糸性が悪く、紡糸中に単糸切れが多発し、紡糸困難である。また、延伸時の糸切れや単糸切れを避けるため、低倍率にて延伸せざるを得ない。そのため、太部と細部の繊維径差が十分ではなく、得られた杢調は濃淡コントラストが小さくなってしまう。
本発明は、工程通過性に優れた、糸長手方向に太細を有し、濃淡コントラストの大きい杢調を表現でき、かつソフトな風合いを有する織編物を与え得るポリエステル太細マルチフィラメント糸を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明は以下の構成を採用する。
(1)金属スルホネート基を含有するイソフタル酸成分をポリエステルの全ジカルボン酸に対して0.6~2.5モル%含有しており下記A~Bを満足することを特徴とするポリエステル太細マルチフィラメント。
A.単糸繊度0.40~1.2dtex
B.マルチフィラメント長手方向の繊度斑に由来するウースター波形の繊度変動ベースラインからの繊度変動率幅40%以上の繊度変動ピーク個数(N40)の平均値が3~17個/m
(2)破断強度が1.8~2.5cN/dtex、タフネスが19.0以上であることを特徴とする(1)に記載のポリエステル太細マルチフィラメント。
(3)マルチフィラメント長手方向の繊度斑に由来するウースター太細斑が5~16%であることを特徴とする(1)に記載のポリエステル太細マルチフィラメント。
(4)マルチフィラメント長手方向の繊度斑に由来するウースター波形の繊度変動ベースラインからの繊度変動率幅20%以上の繊度変動ピークの個数(N20)の変動係数CV%が12%以下であることを特徴とする(1)に記載のポリエステル太細マルチフィラメント。
【発明の効果】
【0010】
本発明のカチオン可染性ポリエステル太細マルチフィラメントは、染色したときの発色鮮明性が良好であり、また濃染部と淡染部により表現される杢調の濃淡コントラストが大きく、かつソフトな風合いを有する織編物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】定応力伸長領域伸度(NDR伸度)を説明するためのS-S曲線
【
図2】実施例で使用した不均一延伸装置を模式的に示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明のポリエステルの主成分は、テレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体及びエチレングリコールまたはそのエステル形成性誘導体を、エステル化またはエステル交換反応させた後に得られるポリエチレンテレフタレートである。
【0014】
本発明のポリエステル太細マルチフィラメント中の金属スルホネート基を含有するイソフタル酸成分(SI成分)は全カルボン酸成分に対して0.6~2.5モル%である。
SI成分の含有量が0.6モル%未満では、十分な発色鮮明性が得られず、杢調も濃淡コントラストが小さくなる。また、SI成分の含有量が2.5モル%を超える場合、マルチフィラメントの太細斑に関係なく均一に染まるため、杢調が目立たなくなる上に、マルチフィラメントの機械的特性(強度等)が低下する。SI成分の含有量は好ましくは1.0~2.0モル%である。
【0015】
本発明のポリエステル太細マルチフィラメントは、マルチフィラメント長手方向の繊度変動率について、ウースター波形チャートにおける繊度変動率のベースラインからの繊度変動率幅が40%以上となる繊度変動ピーク(N40)の平均値が3~17個/m、好ましくは5~17個/mである。N40の平均値が3個/m未満であると濃淡染色差が十分ではなく、明瞭な杢調を得ることができない。またN40の平均値が17個/mを超えると、濃染部が優勢となり、布帛全体が濃染に見え明瞭な杢調を得ることができない。
【0016】
本発明のポリエステル太細マルチフィラメントは、単糸繊度が0.40~1.2dtexである。より好ましくは1.0dtex以下、更に好ましくは0.8dtex以下である。単糸繊度0.4dtex未満では、濃染部、淡染部が細かく分散することによって杢調を視認しづらくなり、明瞭な杢調を得ることができない。1.2dtexを超えると布帛とした際に曲げ剛性が増加し、ソフトな風合いを得ることができない。
【0017】
本発明のポリエステル太細マルチフィラメントの好ましい態様としては、破断強度は1.8~2.5cN/dtexである。破断強度をかかる範囲とすることによって後加工工程の通過性がより良好であり、かつ織編物にして染色した際に杢調の濃淡コントラストが良好となる。
【0018】
本発明のポリエステル太細マルチフィラメントのタフネスは19.0以上であることが好ましい。より好ましくは20.0以上である。なお、タフネスTはマルチフィラメントの強度をScN/dtex、伸度をE%とすると、次式によって示される。
T=S×E1/2
タフネスが19.0以上であると、織編物にした際の布帛強度が衣料用途レベルであり高次加工性が良好である。
【0019】
本発明のポリエステル太細マルチフィラメントは、マルチフィラメント長手方向の繊度斑に由来するウースター太細斑が5~16%であることが好ましい。ウースター太細斑をかかる範囲とすることによって、布帛とした際に明瞭な杢調が得られる。また、濃染部を示す太部の局在化が起こりにくく、織編物の寸法安定性が良好となる。
【0020】
本発明のポリエステル太細マルチフィラメントは、マルチフィラメント長手方向の繊度変動率について、ウースター波形チャートにおける繊度変動率のベースラインからの繊度変動率幅が20%以上となる繊度変動ピーク個数(N20)の変動係数CV%が12%以下であることが好ましい。より好ましくは3~10%である。N20のCV%が12%以下、すなわちマルチフィラメント長手方向の太細斑発生頻度のバラツキが小さく、織編物にした際、太部および細部の局在化が起こりにくく、杢調が安定する。また、布帛強度や寸法安定性にも優れる。
【0021】
本発明のポリエステル太細マルチフィラメントの具体的な製造方法を以下に詳細に記載する。
【0022】
本発明におけるポリエステル太細マルチフィラメントは、DSCにより測定される融点の異なる2種類のポリエステルを溶融混合紡糸し、S-S曲線において、35~70%の定応力伸長領域伸度(NDR伸度A)を有する高配向未延伸糸を得る。その後、別工程で高配向未延伸糸を摩擦抵抗体を用いて不均一延伸することによって得られるものである。
【0023】
融点の異なる2種類のポリエステルとして、ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体及びジオールまたはそのエステル形成性誘導体を、エステル化またはエステル交換反応させた後に得られるポリエステル(以下、ポリエステルAと称す)と、ポリエステルAに第3成分としてSI成分を共重合したポリエステル(以下、共重合ポリエステルBと称す)を用いる。このSI成分(金属スルホネート基を含有するイソフタル酸成分)は、好ましくは5-ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチルである。上記ポリエステルA、共重合ポリエステルBは、本発明の目的を逸脱しない範囲で第4の成分を共重合しても良く、またリサイクル原料を用いても良い。さらに、添加剤、例えば艶消剤や顔料、染料、防汚剤、蛍光増白剤、難燃剤、安定剤、耐候剤、紫外線吸収剤、滑剤、あるいは吸湿剤などの機能剤を添加しても良い。
【0024】
ポリエステルAの溶融粘度(Pa)と共重合ポリエステルBの溶融粘度(Pb)の比(Pb/Pa)は0.7~2.0とするのが相溶性の観点から好ましい。溶融粘度比をかかる範囲とすることによって2種類のポリエステルの相溶性が増し、本発明のポリエステル太細マルチフィラメントの破断強度、タフネスを高く保つことができる。また、高配向未延伸糸の紡糸、不均一延伸加工時には糸切れを抑制し優れた操業性が得られる。
【0025】
ポリエステルAと共重合ポリエステルBの混合重量比は、ポリエステルAと共重合ポリエステルBの合計量100重量%に対して、ポリエステルAの割合を50重量%以上とする。好ましくは55~80重量%である。ポリエステルAの割合をかかる範囲とすることにより、NDR伸度Aを長く保つことができ、続く延伸工程にて不均一延伸した際に太部と細部の繊維径差が大きくなり、濃淡のコントラストが大きく、明瞭な杢調を得ることができる。一方、ポリエステルAの割合が50%未満の場合、NDR伸度Aが短くなり、続く延伸工程にて不均一延伸した際に太部と細部の繊維径差が小さくなり、濃淡のコントラストが小さく、明瞭な杢調を得ることができなくなるため好ましくない。
【0026】
ポリエステルAと共重合ポリエステルBを溶融混錬、混合する方法として、2種類のポリエステルポリマーを別々に溶融してミキサーで溶融混練する方法や、2種類のポリエステルポリマーをチップの状態で混合してから溶融する方法などを用いることができる。
【0027】
また、これらを組み合わせた方法を用いると共重合ポリエステルBを偏りなくマルチフィラメント中に分散させた相溶系を実現することができ、S-S曲線において35~70%のNDR伸度Aを有する高配向未延伸糸が得られる。該高配向未延伸を不均一延伸加工して得られるポリエステル太細マルチフィラメントは、繊度変動ピーク(N40)の平均値を所望の範囲とすることができる。また、破断強度、タフネスも高く保つことができる。より具体的には、ポリエステルAと共重合ポリエステルBをそれぞれチップ化・計量して混合した後、エクストルーダーを用いて溶融混練し、更に配管ミキサーにより攪拌混合する。ポリエステルAと共重合ポリエステルBの2種類のポリマーを上記の割合にて溶融混錬、混合して得た繊維のS-S曲線挙動は、共重合ポリエステルB単成分の高配向未延伸糸のS-S曲線よりもNDR伸度Aが長く、ポリエステルA単成分の高配向未延伸糸のS-S曲線寄りになる。そのため、続く延伸工程にて不均一延伸した際に太部と細部の繊維径差が大きくなり、濃淡のコントラストが大きく、明瞭な杢調を得ることができる。
【0028】
また、単糸繊度が低下するにつれてNDR伸度Aは短くシフトするため、共重合ポリエステルB単成分の単糸繊度の低い高配向未延伸糸についても、S-S曲線においてNDR伸度Aが発現しないか、もしくは領域が非常に狭くなる。しかしながら、ポリエステルAと共重合ポリエステルBの2種類のポリマーを用いることによって、単糸繊度が低くても高配向未延伸糸のNDR伸度Aを長く保つことができ、続く延伸工程にて不均一延伸した際に太部と細部の繊維径差が大きくなり、濃淡のコントラストが大きく、明瞭な杢調を得ることができる。
【0029】
溶融混錬では、エクストルーダーにより強固に混練することが好ましく、単軸あるいは複軸のエクストルーダーなど公知の方法により実施することができる。
【0030】
溶融混錬後の攪拌混合に用いる配管ミキサーは、被移送体へ位置変換と分割作用とを繰返し与えるものが好ましく、位置変換と分割作用を与えるために配管内に設置されるエレメントの形状については公知のものを用いることができるが、分割、位置変換の回数は5回以上とすると2種類のポリエステルポリマーを強固に攪拌混合できるため好ましい。
【0031】
また、溶融紡糸は従来公知の方法により実施できる。すなわち、ポリエステルポリマーを275~300℃の温度で溶融し、紡糸口金から吐出し、冷却風を吹き付けることによって糸条を形成して、収束した後、油剤と交絡を付与し、巻取ったパッケージとすることにより高配向未延伸マルチフィラメントを巻き取る。
【0032】
本発明における高配向未延伸糸は、紡糸速度2000~3200m/分にて紡糸することが好ましい。紡糸速度が2000m/分以上であると、延伸後の太細マルチフィラメントの強度が実用レベルとなり、生産性の観点からも有利である。また、紡糸速度3200m/分以下である場合、
図1のNDR伸度Aが発現して、延伸工程にてマルチフィラメント長手方向の太細斑の発生が良好となる。
【0033】
本発明の高配向未延伸糸を製造するに際しては、給油ガイドにて給油を行う。高配向未延伸糸への紡糸油剤付着量は0.7~1.6質量%であることが好ましい。給油方式については給油ガイドやオイリングローラー等、一般的に溶融紡糸された高配向未延伸糸に油剤付着させる手法であれば特に限定されない。紡糸油剤付着量をかかる範囲とすることにより設備との擦過による破断強度、タフネスの低下を防ぐことができるとともに、設備の糸条走行部分へのスカム析出が少なく、揮発した油剤が摩擦抵抗体上に過度に付着することもないので摩擦抵抗体の表面状態が安定化して、マルチフィラメント長手方向の太細斑の発生頻度バラツキが小さくなる。
【0034】
本発明のポリエステル太細マルチフィラメントは、前記高配向未延伸糸を所定の倍率で摩擦抵抗体を用いて不均一延伸することによって得られる。不均一延伸工程は紡糸工程に連続して行うことも可能であるが、紡糸直後の高配向未延伸糸は
図2のAで示す定応力伸長領域伸度が明瞭でないので、不均一延伸してもマルチフィラメントに太細を形成しにくい。そのため一旦高配向未延伸糸として巻き取った後に不均一延伸することが好ましい。
【0035】
図2は本発明で採用できる好ましい不均一延伸糸の製造装置の一実施態様である。
図2において、高配向未延伸糸1をフィードローラー2と延伸ローラー4の間で摩擦抵抗体3を介して低倍率延伸を行い太細マルチフィラメントとした後、ワインダー6で巻き取る。
【0036】
摩擦抵抗体としては円柱状の熱ピンが好ましい。円柱状熱ピンを外周するように高配向未延伸糸が巻かれていることで、摩擦抵抗体が走行糸条を安定的に把持することができ、スティックスリップ現象が安定化することでマルチフィラメント長手方向の太細斑の発生頻度バラツキが小さくなり、また明瞭な杢調を得ることができる。
【0037】
また、フィードローラー2と延伸ローラー4の速度比で延伸倍率は決定されるが、延伸倍率は安定した太細斑を生じさせるために、延伸倍率を以下(2)式に従って決定したとき、0.80≦α≦1.10が好ましい。なお、NDR伸度は
図1におけるA部分を指す。αが1.10以下であると太部の発生頻度が好適となり、染色布帛としたとき濃染部が顕在化して、目的とする杢調が得られる。また、αが0.80以上であると太細マルチフィラメントの強度およびタフネスが実用レベルとなり、高次加工時の糸切れ等の発生が少ない。
(1+定応力伸長領域伸度A(%)/100)×α倍 ・・・ (2)
(α:延伸倍率における係数)
また、本発明のポリエステル太細マルチフィラメントは、本発明の目的を逸脱しない範囲で、不均一延伸した後に加熱型ローラーなどを用いて熱セットしても良い。
【0038】
なお、ポリエステル太細マルチフィラメントを構成するフィラメントの断面形状は特に限定されず、丸断面、三角断面、楕円、多葉などいずれの形状も好ましく用いることができる。
【実施例0039】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、実施例中の各特性値は次の方法で求めた。
【0040】
(1)金属スルホネート基を有するイソフタル酸成分の測定
チップ、繊維試料を、蛍光X線分析装置((株)リガク製 ZSX-100e)を用い、元素を分析した。S元素量にS成分の分子量を乗ずることで算出した。
【0041】
(2)溶融粘度
チップ状のポリマーを真空乾燥機によって、水分率150ppm以下とし、メルトインデクサー(立山科学工業社製 L225-41)を用いて溶融粘度を測定した。なお、測定温度は紡糸温度と同様290℃、荷重は1000g、測定距離は2.54cm、オリフィス内径は0.2095cm、オリフィス長は0.8000cm、ピストン径は0.9478cmとし、窒素雰囲気下で測定を行った。
【0042】
(3)N40
後述するウースター糸むら試験機を用いて25秒間測定を実施し、得られたウースター波形チャート(糸長10m分相当)の繊度変動率最低値をベースライン(
図3のC)とする。ベースラインaから+40%の位置(
図3のD)にラインを引き、ラインD以上にピークトップを有する繊度変動ピーク個数をカウントする(
図3)。なお、ウースター波形チャートは、zellweger社製USTER TESTER UT-4を用いて、糸のトータル繊度により使用する測定用スロットルを選択した後、糸速25m/分、撚り数5000T/mの条件にて1分間測定することにより得る。
【0043】
(4)N20の変動係数CV%
前記ウースター糸むら試験機を用いて25秒間測定を実施し、得られたウースター波形チャート(糸長10m分相当)の繊度変動率最低値をベースライン(
図3のC)とする。ベースラインaから+20%の位置(
図3のE)にラインを引き、ラインE以上にピークトップを有する繊度変動ピーク個数をカウントする(
図3)。糸長10m中のピーク個数をカウントした後、本測定を6回繰り返し、得られたピーク個数から平均値および変動係数CV%を算出する。なお、ウースター波形チャートは前記条件同様である。
【0044】
(5)紡糸油剤付着量
得られた高配向未延伸マルチフィラメントを10g精秤し、メタノール100mlで油剤を抽出する。抽出分の高配向未延伸マルチフィラメントに対する割合(質量%)を紡糸油剤付着量(質量%)とする。
【0045】
(6)総繊度・単糸繊度
仮撚糸を解舒張力1/11.1(g/dtex)で枠周1.0mの検尺機で100回巻き、天秤を用いて重量を測定し、100倍することにより得られた重量を総繊度とした。また、総繊度をフィラメント数で除した値を単糸繊度とした。
【0046】
(7)紡糸油剤付着量
得られた高配向未延伸マルチフィラメントを10g精秤し、メタノール100mlで油剤を抽出する。抽出分の高配向未延伸マルチフィラメントに対する割合(質量%)を紡糸油剤付着量(質量%)とする。
【0047】
(8)S-S曲線(破断強度・破断伸度・タフネス・NDR伸度)
ORIENTEC(現エー・アンド・ディ)社製のTENSILON RTC-1210Aを用い、試長200mm、引張速度200mm/分の条件で応力-歪み曲線を求め、糸が破断した際の力を繊度で除した値を強度とし、糸が破断した際の伸びを試料長で除した値に100を乗じた値を伸度として、各値サンプルを変えて3点ずつ測定し、その平均値を求めた。タフネスは、強度および伸度結果から前記(1)の式を用いて表す。定応力伸長領域伸度伸度は、測定で得た
図3に示すチャート上のAの伸度を読み取り、サンプルを変えて6点ずつ測定し、その平均値で表す。
【0048】
(9)発色鮮明性
得られたカチオン可染性ポリエステル太細マルチフィラメントにて目付150g/m2の筒編み地を作製し、下記条件で染色し、染色織編物の発色鮮明性について、熟練の検査員3名の目視判定にて、その合議により発色鮮明性が「極めて優れている」は5点、「優れている」は4点、「普通」は3点、「劣っている」は2点、「発色鮮明性無し」は1点とし、4点以上を合格とした。
[染色条件]
染 料 ;アイゼンカロチンブルーGLH 0.7%O.W.F.
染色助剤 ;酢酸ソーダ 0.15g/L
;酢酸(100%) 0.5mL/L
浴 比 ; 1:100
染 色 ;50℃×15分処理の後、1.6℃/分の速度で昇温し、98℃×20分処理する。
【0049】
(10)濃淡コントラスト
上記(9)項で調製した筒編み地について、熟練の検査員3名の目視判定にて、その合議により濃淡コントラストが「十分大きい」は5点、「大きい」は4点、「普通」は3点、「小さい」は2点、「濃淡コントラスト無し」は1点とし、4点以上を合格とした。
【0050】
(11)杢調バラツキ
上記(9)項で調製した筒編み地について、5年以上の品位判定経験を有する検査員3名の目視判定にて、その合議により杢調が「十分分散している」は5点、「分散している」は4点、「普通」は3点、「やや局在化している」は2点、「局在化している」は1点とし、4点以上を合格とした。
【0051】
(12)ソフトな風合い
上記(9)項で調製した筒編み地を、ソフトな風合いについて、官能評価を実施した。熟練の検査員3名に対して、その合議により、ソフトな肌触りが「極めて優れている」は5点、「優れている」は4点、「普通」は3点、「劣っている」は2点、「ソフトな肌触り無し」は1点とし、4点以上を合格とした。
【0052】
(13)紡糸操業性
製糸時の糸切れ発生率を、4錘建て巻取機にて生産した場合の値に換算した際に、糸切れ回数を紡糸数量で除した糸切れ発生率が「1.0回未満」は○○、「1.0回以上3.0回未満」は○、「3.0回以上5.0回未満」は△、「5.0回以上」は×とした。○以上が目標レベルである。
【0053】
(14)加工操業性
不均一延伸糸の製造装置にて、巻き量3.0kgの加工糸を製造した際に、加工糸ドラムの満管率が、「90%以上」は○○、「85%以上90%未満」は○、「80%以上85%未満」は△、「80%未満」は×とした。○以上が目標レベルである。
【0054】
(15)高次加工操業性
高次加工の操業性は、カチオン可染性ポリエステル太細マルチフィラメントを用いて織編物を作製する際に、糸切れ回数を仕掛数で除した罰点率が「1.0%未満」は○○、「1.0%以上3.0%未満」は○、「3.0%以上5.0%未満」は△、「5.0%以上」は×とした。○以上が目標レベルである。
【0055】
[実施例1]
290℃における溶融粘度比(共重合ポリエステルB/ポリエステルA)が1.3となる、金属スルホネート基を有するイソフタル酸成分(SI成分)を含有しないポリエステルAとSI成分を含有する共重合ポリエステルBとを、SI成分の割合が全ジカルボン酸に対して1.6モル%となるよう計量し、混錬温度284℃で単軸エクストルーダーにて溶融混練し、分割、位置変換の回数12回の配管ミキサーを通して混合し、192孔を配列した紡糸口金を使用して紡糸温度290℃、紡糸速度2000m/分で溶融紡糸し、紡糸油剤を0.85質量%塗布したのちに、2糸条取りでドラムに巻き付け96フィラメント、総繊度が100dtexの高配向未延伸糸を得た。
【0056】
次に、該高配向未延伸糸を
図1に示すような延伸機を使用し、熱ピン3の温度80℃、延伸倍率を(1)式の係数αを0.95として熱ピン延伸し、フィードローラー5で引取り、さらにワインダー6でボビンに巻き取って96フィラメント、総繊度が66dtexのポリエステル太細マルチフィラメントを得た。得られたポリエステル太細マルチフィラメントは、表1に示すとおり、良好な性質を持っていた。
【0057】
[実施例2~5]
実施例1において共重合ポリエステルB/ポリエステルAのブレンド比を変更し、糸中の全ジカルボン酸に対するSI成分の割合を変更した以外は実施例1と同様にして紡糸・延伸加工実施し、ポリエステル太細マルチフィラメントを得た。得られたマルチフィラメントの特性を表1に示す。得られたポリエステル太細マルチフィラメントは、表1に示すとおり、良好な性質を持っていた。
【0058】
【0059】
[実施例6~11]
共重合ポリエステルBに含まれるSI成分の割合、共重合ポリエステルB/ポリエステルAのブレンド比、糸中の全ジカルボン酸に対するSI成分の割合を変更した以外は実施例1と同様にして紡糸・延伸加工実施し、ポリエステル太細マルチフィラメントを得た。得られたマルチフィラメントの特性を表2に示す。得られたポリエステル太細マルチフィラメントは、表1に示すとおり、良好な性質を持っていた。
【0060】
【0061】
[実施例12~15]
実施例1において使用する紡糸口金のホール数、ポリマー吐出量を変化させた以外は、実施例1と同様にして紡糸・延伸加工実施し、ポリエステル太細マルチフィラメントを得た。得られたマルチフィラメントの特性を表3に示す。得られたポリエステル太細マルチフィラメントは、表1に示すとおり、良好な性質を持っていた。
【0062】
[実施例16]
実施例1において使用する配管ミキサーの分割・位置交換回数を5回とした以外は実施例1と同じ方法で紡糸・延伸加工を実施し、ポリエステル太細マルチフィラメントを得た。得られたマルチフィラメントの特性を表3に示す。得られたポリエステル太細マルチフィラメントは、表1に示すとおり、良好な性質を持っていた。
【0063】
【0064】
[実施例17~18]
実施例1において使用するポリマーの溶融粘度比を変更した以外は、実施例1と同じ方法で紡糸・延伸加工を実施し、ポリエステル太細マルチフィラメントを得た。得られたマルチフィラメントの特性を表4に示す。得られたポリエステル太細マルチフィラメントは、表1に示すとおり、良好な性質を持っていた。
【0065】
[実施例19~20]
実施例1において紡糸油剤の付着量を変更した以外は、実施例1と同じ方法で紡糸・延伸加工を実施し、ポリエステル太細マルチフィラメントを得た。得られたマルチフィラメントの特性を表4に示す。得られたポリエステル太細マルチフィラメントは、表1に示すとおり、良好な性質を持っていた。
【0066】
[実施例21~22]
実施例1において延伸倍率における係数αを変更した以外は、実施例1と同じ方法で紡糸・延伸加工を実施し、ポリエステル太細マルチフィラメントを得た。得られたマルチフィラメントの特性を表4に示す。得られたポリエステル太細マルチフィラメントは、表1に示すとおり、良好な性質を持っていた。
【0067】
[実施例23]
実施例1において不均一延伸した後、加熱型ローラーにて90℃で熱セットしたこと以外は、実施例1と同じ方法で紡糸・延伸加工を実施し、ポリエステル太細マルチフィラメントを得た。得られたマルチフィラメントの特性を表4に示す。得られたポリエステル太細マルチフィラメントは、表1に示すとおり、良好な性質を持っていた。
【0068】
【0069】
[比較例1]
ポリエステルAを用いず、SI成分をイソフタル酸の割合が全ジカルボン酸に対して1.6モル%含有する共重合ポリエステルBのみを用いたこと以外は、実施例1と同じ方法で紡糸・延伸加工を実施し、ポリエステル太細マルチフィラメントを得た。得られたマルチフィラメントの特性を表5に示す。得られたポリエステル太細マルチフィラメントは、濃淡コントラストが小さく、バラツキの大きい杢調を有しており、意匠性素材としては特徴に欠ける杢調であった。また、高次加工操業性は目標未達であった。
【0070】
[比較例2~4]
共重合ポリエステルB/ポリエステルAのブレンド比を変更し、糸中の全ジカルボン酸に対するSI成分の割合を変更した以外は実施例1と同様にして紡糸・延伸加工実施し、ポリエステル太細マルチフィラメントを得た。得られたマルチフィラメントの特性を表5に示す。比較例2にて得られたポリエステル太細マルチフィラメントは、発色鮮明性に欠けるものであった。
【0071】
比較例3にて得られたポリエステル太細マルチフィラメントは、濃淡コントラストが小さく、バラツキの大きい杢調を有しており、意匠性素材としては特徴に欠ける杢調であった。また、紡糸、加工および高次加工操業性は目標未達であった。
【0072】
比較例4にて得られたポリエステル太細マルチフィラメントは、濃淡コントラストが小さく意匠性素材としては特徴に欠ける杢調であった。また、紡糸、加工および高次加工操業性は目標未達であった。
【0073】
[比較例5~6]
実施例1において使用する紡糸口金ホール数、ポリマー吐出量を変化させた以外は、実施例1と同様にして紡糸・延伸加工実施し、ポリエステル太細マルチフィラメントを得た。得られたマルチフィラメントの特性を表5に示す。比較例5にて得られたポリエステル太細マルチフィラメントは、表5に示すとおり濃淡コントラストが小さく意匠性素材としては特徴に欠ける杢調であり、また、紡糸、加工および高次加工操業性は目標未達であった。
【0074】
比較例6にて得られたポリエステル太細マルチフィラメントは、表5に示すとおり濃淡コントラストが小さく意匠性素材としては特徴に欠ける杢調であった。また、得られた布帛はソフトな風合いに欠けるものであった。
【0075】
[比較例7~8]
実施例1において延伸倍率における係数αを変更した以外は、実施例1と同様にして紡糸・延伸加工実施し、ポリエステル太細マルチフィラメントを得た。得られたマルチフィラメントの特性を表5に示す。得られたポリエステル太細マルチフィラメントは、表5に示すとおり濃淡コントラストが小さく意匠性素材としては特徴に欠ける杢調であった。
【0076】
[比較例9]
実施例1において摩擦抵抗体を用いずホットローラーを用いて延伸した以外は、実施例1と同じ方法で紡糸・延伸加工を実施し、ポリエステル太細マルチフィラメントを得た。得られたマルチフィラメントの特性を表5に示す。得られたポリエステル太細マルチフィラメントは、濃淡コントラストが小さく、バラツキの大きい杢調を有しており、意匠性素材としては特徴に欠ける杢調であった。
【0077】
[比較例10]
ポリエステルAのみを用いたこと以外は、実施例1と同じ方法で紡糸・延伸加工を実施し、ポリエステル太細マルチフィラメントを得た。得られたマルチフィラメントの特性を表5に示す。得られたポリエステル太細マルチフィラメントは、発色性に欠けるものであった。
【0078】