(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022183505
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】ストレッチ織物
(51)【国際特許分類】
D03D 15/40 20210101AFI20221206BHJP
D02G 3/04 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
D03D15/00 C
D02G3/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021090858
(22)【出願日】2021-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】須山 浩史
(72)【発明者】
【氏名】山本 香太郎
(72)【発明者】
【氏名】大越 美穂
【テーマコード(参考)】
4L036
4L048
【Fターム(参考)】
4L036MA05
4L036MA37
4L036MA39
4L036PA05
4L036PA33
4L036PA42
4L036PA46
4L036RA04
4L036UA07
4L048AA08
4L048AA20
4L048AA21
4L048AA34
4L048AA55
4L048AB01
4L048AB05
4L048AB08
4L048AB09
4L048AB11
4L048AB12
4L048AB21
4L048BA01
4L048BA02
4L048CA00
4L048CA04
4L048CA09
4L048CA12
4L048CA15
4L048DA01
4L048DA02
4L048EA01
(57)【要約】
【課題】
本発明の目的は、従来得ることができなかった繰り返し洗濯後の耐ピリング性を解消し、かつ優れたハリ腰性を有するストレッチ織物を提供することにある。
【解決手段】
経糸に紡績糸、緯糸に複合仮撚糸を含む織物であって、前記複合仮撚糸が別々に同方向に仮撚したポリエステル仮撚糸Aとポリエステル仮撚糸Bを複合した形態からなり、かつその交絡数が30ヶ/m以上、トルク撚数が40T/m以上、捲縮率が30%以上を満たすことを特徴とするストレッチ織物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
経糸に紡績糸、緯糸に複合仮撚糸を含む織物であって、前記複合仮撚糸が同方向に別々に仮撚したポリエステル仮撚糸Aとポリエステル仮撚糸Bを複合した糸形態からなり、かつ複合仮撚糸の交絡数が30ヶ/m以上、トルク撚数が40T/m以上、捲縮率が30%以上を満たすことを特徴とするストレッチ織物。
【請求項2】
ポリエステル仮撚糸Aおよびポリエステル仮撚糸Bがポリエチレンテレフタレートからなる非コンジュゲート糸で構成されることを特徴とする請求項1に記載のストレッチ織物。
【請求項3】
ポリエステル仮撚糸Aおよびポリエステル仮撚糸Bを構成するポリマーが同一であることを特徴とする請求項1または2に記載のストレッチ織物。
【請求項4】
複合仮撚糸の糸長差が3%以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のストレッチ織物。
【請求項5】
繰り返し洗濯後のピリングが3.5級以上であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のストレッチ織物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長期繰り返し洗濯使用においても、耐ピリング性に優れたストレッチ織物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルやポリアミドなどの熱可塑性ポリマーを用いた繊維は力学的特性、寸法安定性をはじめ様々な優れた特性を有している。そのため、衣料用途をはじめ、インテリア、車両内装、産業資材等の各種分野で利用されている。一方、繊維の用途が多様化するに伴い、その要求特性も多様なものになってきている。
【0003】
特に近年においては着用時の束縛感の抑制や動作の追従性が求められるようになり、衣服等のストレッチ性能に関する要求が高く、さまざまなストレッチ商品が市場に出るようになった。特に経糸の一部に紡績糸を使用した織物はそのソフトでふくらみのある風合いと表面感を有していることで、ユニフォーム素材、カジュアル素材、スポーツ素材等に好適に使用されており、ストレッチ性への要求も高まってきている。
【0004】
従来、織物を構成する原糸にストレッチ性を付与する方法も種々提案されている。例えば、通常仮撚加工糸を緯糸に用い、織物にストレッチ性を付与する方法がある。しかし、経糸の一部に紡績糸を使用した織物においては、緯方向にストレッチ性を発現させるには、染色加工時に織物経方向の張力を弱めて加工する必要があり、シボが発現し、織物品位が低下するという課題があった。さらに、繰り返し洗濯使用による摩擦や衝撃によって、経糸の毛羽と緯糸の捲縮が絡まり、耐ピリング性が悪化するという問題があった。
【0005】
また緯糸にポリウレタン系の繊維を混用し、ストレッチ性を付与する方法がある。しかしながら、染色堅牢度が悪く、変色や色移りしやすいことや、繰り返し使用による強度劣化などの課題があった。
【0006】
またサイドバイサイド複合糸を利用した潜在捲縮発現性繊維の織織物が提案されている。 例えば、特許文献1には、粘度差のある2成分のポリマーをサイドバイサイド型に貼り合わせた複合繊維による潜在捲縮性複合繊維が提案されている。このような潜在捲縮性複合繊維を用いれば、熱処理後に繊維が高収縮成分側に大きく湾曲することになるため、これが連続することで3次元的なコイル構造をとる。このため、該構造がバネのように伸び縮みすることで、織物にストレッチ性を付与することができる。しかし、これらサイドバイサイド型の複合繊維は、繰り返し洗濯使用による摩擦や衝撃によって、コイル捲縮が織物表面に飛び出し、さらに複合繊維界面において剥離が生じ、耐ピリング性が低下するという課題があった。
【0007】
また、特許文献2には、a成分及びb成分の2種のポリマーからなる偏心芯鞘複合繊維の横断面において、a成分がb成分で完全に覆われている偏心芯鞘複合繊維を一部に用いた織物が提案されており、摩耗耐久性が考慮されている。ただし、該方法においても、繰り返し洗濯使用による摩擦や衝撃によって、コイル捲縮が織物表面に飛び出し、経糸の毛羽と絡まり、耐ピリング性が低下するという課題があった。
【0008】
また、特許文献3には、S方向のトルクを有する仮撚捲縮加工糸とZ方向のトルクを有する仮撚捲縮加工糸との複合糸を用いたストレッチ織物が提案されている。確かにこの手法では表面がフラットなストレッチ性織物を得ることができるが、経糸に紡績糸を用いた織物においては、その複合糸の嵩高な捲縮が績糸の毛羽に絡みやすくなり、繰り返し洗濯後の耐ピリング性が低下するという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平09-157941号公報
【特許文献2】特開2019-214798号公報
【特許文献3】特開2009-138287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、従来ストレッチ織物の課題であった繰り返し洗濯後の耐ピリング性を解消し、かつ優れたハリ腰性を有するストレッチ織物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる課題を解決するため本発明のストレッチ織物は、次の構成を有する。すなわち、
経糸に紡績糸、緯糸に複合仮撚糸を含む織物であって、前記複合仮撚糸が同方向に別々に仮撚したポリエステル仮撚糸Aとポリエステル仮撚糸Bを複合した糸形態からなり、かつ複合仮撚糸の交絡数が30ヶ/m以上、トルク撚数が40T/m以上、捲縮率が30%以上を満たすことを特徴とするストレッチ織物、である。
【0012】
本発明のストレッチ織物は、ポリエステル仮撚糸Aおよびポリエステル仮撚糸Bがポリエチレンテレフタレートからなる非コンジュゲート糸で構成されることが好ましい。
【0013】
本発明のストレッチ織物は、ポリエステル仮撚糸Aおよびポリエステル仮撚糸Bを構成するポリマーが同一であることが好ましい。
【0014】
本発明のストレッチ織物は、複合仮撚糸の糸長差が3%以下であることが好ましい。
【0015】
本発明のストレッチ織物は、繰り返し洗濯後のピリングが3.5級以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、従来得ることができなかった繰り返し洗濯後の耐ピリング性を解消し、かつ優れたハリ腰性を有するストレッチ織物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のストレッチ織物は経糸に紡績糸、緯糸に複合仮撚糸を含む織物である。経糸に紡績糸を使用することで、ソフトでふくらみのある織物を得ることができるが、ストレッチ性を得るために、緯糸に仮撚糸を用いた場合、経糸の紡績糸の毛羽と緯糸の仮撚糸の捲縮が繰り返し洗濯で絡まり、ピリングになりやすい課題があった。
【0018】
本発明においては鋭意検討の結果、緯糸の複合仮撚糸を別々に同方向に仮撚したポリエステル仮撚糸Aとポリエステル仮撚糸Bを複合した形態とし、ポリエステル仮撚糸AおよびBの捲縮が収束形態の状態を維持しながら捲縮を発現させること、すなわち緯糸に交絡数が30ヶ/m以上、トルク撚数が40T/m以上、捲縮率が30%以上の複合仮撚糸を使用することで、繰り返し洗濯後も経糸の紡績糸の毛羽と、緯糸のポリエステル仮撚糸AおよびBの捲縮が絡まらず、耐ピリング性に優れたストレッチ織物を得ることに成功した。
【0019】
本発明のストレッチ織物を構成する複合仮撚糸の交絡数は30ヶ/m以上あることで、織物内での捲縮を収束形態にさせることができる。好ましい交絡数は60~150ヶ/mである。交絡数が30ヶ/m未満であると、複合仮撚糸の捲縮が紡績糸の毛羽に絡みやすくなり、繰り返し洗濯後の耐ピリング性が悪化する。
【0020】
また本発明のストレッチ織物を構成する複合仮撚糸のトルク撚数は40T/m以上であることで、染色加工時に捲縮発現すると同時にトルクも発現させることで、複合仮撚糸の捲縮の収束形態を維持することができる。好ましいトルク発現数は50~200T/M以下である。トルク発現数が40T/M未満であると、染色加工時にトルク発現が小さく、複合加工糸の嵩高性が大きくなるので、捲縮が紡績糸の毛羽に絡みやすくなり、繰り返し洗濯後の耐ピリング性が悪化する。
【0021】
また本発明のストレッチ織物を構成する複合仮撚糸の捲縮率は30%以上であることで、織物に高ストレッチ性を付与することができる。好ましい捲縮率は30~60%である。捲縮率が30%未満であると、織物に高ストレッチ性を付与することができない。
【0022】
また本発明のストレッチ織物を構成する複合仮撚糸の糸長差は3%以下であることが、繰り返し洗濯後に複合仮撚糸の単糸が織物表面に飛び出し難くなり、耐ピリング性を向上させる点で好ましい。複合仮撚糸の糸長差が1%以下であることが、より好ましい。
【0023】
また本発明のストレッチ織物を構成する複合仮撚糸は別々に同方向に仮撚したポリエステル仮撚糸Aとポリエステル仮撚糸Bを複合した形態であることが重要である。
【0024】
ポリエステルは、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレートが挙げられるが、中でも捲縮が安定しているポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0025】
また上記ポリエステル仮撚糸Aおよびポリエステル仮撚糸Bのポリマー内にスルホン酸成分、ジカルボン酸成分、ジオール成分あるいはオキシカルボン酸成分等の任意の成分が共重合していても問題無い。例えば、スルホン酸基などのアニオン部位を有していれば、カチオン部位を有するカチオン染料との相互作用により、カチオン可染性を有することができるが、上記ポリエステル仮撚糸Aおよびポリエステル仮撚糸Bの両方ともカチオン可染性のポリマーを使用し、同一染色性とした場合、繰り返し洗濯使用による摩擦や衝撃によって生ずるピリングの色目が目立ち難くなるので、好ましい。
【0026】
そして、ポリエステル仮撚糸Aとポリエステル仮撚糸Bが別々に同方向に仮撚され、複合されていることで、異なる位相の捲縮が重なり合う形態になり、繰り返し洗濯後も紡績糸の毛羽が絡まり難くなり、耐ピリング性が向上するので好ましい。
【0027】
また上記ポリエステル仮撚糸Aおよびポリエステル仮撚糸Bを構成するポリマーが同一である場合、捲縮発現性能は同一で、位相だけ異なり、捲縮が重なり合う形態にすることができ、さらに好ましい。
【0028】
また、上記ポリエステル仮撚糸Aおよびポリエステル仮撚糸Bは収束した捲縮形態を維持しやすい非コンジュゲート糸で構成されることが好ましい。このような構成とすると、繰り返し洗濯使用による摩擦や衝撃によっても、コイル捲縮が織物表面に飛び出し難く、耐ピリング性が向上する。
【0029】
また、上記ポリエステル仮撚糸Aおよびポリエステル仮撚糸Bは断面が丸型、三角、扁平、六角、L型、T型、W型、八葉型、ドッグボーン型などの多角形型、多様型、中空型など任意の形状を有するものを選択することができるが、A、Bの断面を同一とすることが、捲縮発現性能は同一で、位相だけ異なり、捲縮が重なり合う形態にすることができ、好ましい。
【0030】
また、上記ポリエステル仮撚糸Aおよびポリエステル仮撚糸Bは、本発明の目的を損なわない範囲で、酸化チタンなどの艶消し剤、難燃剤、滑剤、抗酸化剤、着色顔料等として無機微粒子や有機化合物、カーボンブラックを必要に応じて含有させることができるが、同一の含有物とすることが、捲縮発現性能は同一で、位相だけ異なり、捲縮が重なり合う形態にすることができ、好ましい。
【0031】
また上記ポリエステル仮撚糸Aおよびポリエステル仮撚糸Bの繊度はそれぞれ30~200dtexであることが織物にストレッチ性、ふくらみ感を付与する点で好ましい。ここでは上記ポリエステル仮撚糸Aおよびポリエステル仮撚糸Bの繊度は同一であると、位相だけ異なり、捲縮が重なり合う形態にすることができ、さらに好ましい。
【0032】
また上記ポリエステル仮撚糸Aおよびポリエステル仮撚糸Bの単糸繊度はそれぞれ0.5~7dtexであることが織物にストレッチ性、ソフト性を付与する点で好ましい。ここでは上記ポリエステル仮撚糸Aおよびポリエステル仮撚糸Bの単糸繊度は同一であると、位相だけ異なり、捲縮が重なり合う形態にすることができ、さらに好ましい。
【0033】
また、本発明で用いる経糸の紡績糸の素材としては、通常のあらゆる合成繊維はもとより、アセテート等のセルロース系繊維、再生セルロース系繊維、または綿、絹、および動物繊維などの天然繊維、あるいはその混紡糸なども適用することができる。中でも繰り返し洗濯後にも短繊維のほつれ等が少ないポリエステル混の素材が好適に用いられる。また経糸には紡績糸だけではなく、紡績糸とフィラメントの配列であれば、繰り返し洗濯後もピリングも抑制されるので好ましい。
【0034】
紡績糸の単繊維繊度は、精紡性とソフト風合の両立の面から好ましくは通常の複合紡績糸で使用される単繊維繊度が0.5~10dtexの範囲であり、より好ましくは0.7~4.0dtexの範囲である。
【0035】
また、紡績糸の繊維長は、品質の面から好ましくは25~80mmの範囲であり、より好ましくは30~60mmの範囲である。
【0036】
また、紡績糸の糸番手は、10~100番手(綿式)の範囲であることが好ましいが、この糸番手は用途に応じて適宜選ぶことができる。例えば、衣料用の織物であれば、20~80番手(綿式)が好ましい態様である。
【0037】
また、紡績糸のヨリ係数は、2.0~5.0の範囲であることが好ましいが、このヨリ係数は、用途に応じて適宜選ぶことができる。また、ヨリ係数は一定である必要はなく、用途に応じて複合紡績糸の糸長手方向に変更することができる。
【0038】
本発明のストレッチ織物は、次の製造方法によって得ることができる。
【0039】
本発明のストレッチ織物を構成する複合仮撚糸の原糸を紡糸するにあたっては、捲縮発現率を向上させるためには非晶部が高配向状態であることが好ましく、好ましい紡糸速度は2,500~3,800m/minである。
【0040】
続いて、本発明で用いる複合仮撚加工糸を製造するにあたっては、ポリエステル仮撚糸Aの原糸と、ポリエステル仮撚糸Bの原糸を別々に同方向の仮撚方向(SおよびS方向の仮撚、もしくはZおよびZ方向の仮撚)を行い、後交絡することで、高捲縮かつ高発現トルクの複合加工糸が得られ、織物内での捲縮の収束形態を維持することができる。
【0041】
仮撚条件としては任意の仮撚条件を選定できる。ツイスターにはスピンドル式、フリクションディスク式、ベルトニップ式いずれを用いても構わないが、高速で仮撚可能で単糸スナールが比較的少ないフリクションディスク式が好ましい。仮撚温度は接触式ヒータの場合、170~225℃であれば、強固な捲縮付与ができる点で好ましい。仮撚数においては、仮撚係数(仮撚数(T/M)×繊度(dtex)0.5)が27,000~33,000となる範囲で設定することが、強固な捲縮付与ができる点で好ましい。ここでは仮撚糸A、Bの仮撚数は同一であると、位相だけ異なり、捲縮が重なり合う形態にすることができ、さらに好ましい。
【0042】
また、交絡条件としては、ストレッチ性と収束性のバランスを考慮して、交絡圧は0.25~0.5MPaであることが好ましい。
【0043】
糸加工速度については早ければ生産性が高くなり好ましいが、安定加工性を考慮すると、100~800(m/min)が好ましい。
【0044】
また、本発明で用いる複合仮撚加工糸はダウンツイスター、ダブルツイスター等任意の撚糸機を用いて撚糸することができるが、捲縮発現が得られにくくなるので、撚糸数は500T/M以下であることが好ましい。さらに好ましくは無撚りである。
【0045】
本発明のストレッチ織物は一般に使用される普通織機、レピア、ウオータージェツトルーム、エアージエットルーム等の織機を例示できるが、これらに特に限定されることなく採用できる。組織は平、ツイル、サテン、アムンゼン、二重織物等の任意の組織を選択することができる。
【0046】
また、本発明のストレッチ織物には、本発明の目的が損なわれない範囲内であれば、常法の吸水加工、撥水加工、起毛加工、紫外線遮蔽あるいは抗菌剤、抗ウイルス剤、消臭剤、防虫剤、再帰反射剤等の機能を付与する各種加工を付加適用してもよい。
【0047】
また、本発明のストレッチ織物においては、通常のピリング評価に加え、繰り返し洗濯後のピリングが3.5級以上であることで、繰り返し洗濯後の実着用を想定した環境においても、ピリングが発生し難く好ましい。さらに好ましい繰り返し洗濯後のピリングは4級以上である。
【0048】
また本発明により得られたストレッチ織物は衣料としてユニフォーム素材、学生衣料素材、カジュアル素材、スポーツ素材、フォーマル素材等などの用途に好適に用いられる。
【実施例0049】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。
(1)繊度
枠周1.0mの検尺機を用いて100回分のカセを作製し、下記式に従って繊度を測定した。
【0050】
繊度(dtex)=100回分のカセ重量(g)×100
(2)交絡度
交絡度は、0.1cN/dtexの張力下における1m当たりの交絡部の数であり、糸に0.02cN/dtexの張力下で非交絡部にピンを刺し、糸条1mにわたり0.1cN/dtexの張力でピンを糸の長手方向の上下に移動せしめ、抵抗なく移動した部分を非交絡部として移動した距離を記録し、ピンが止まる部分を交絡部とする。この作業を30回繰り返し、その非交絡部の距離の平均値から1m当たりの交絡度を計算する。
(3)捲縮率
周長0.8mの検尺機に、90mg/dtexの張力下で糸を10回巻回してカセ取りした後、2cm以下の棒につり下げ、約24時間放置した。このカセをガーゼにくるみ、無緊張状態下で90℃×20分間熱水処理した後、2cm以下の棒につり下げ約12時間放置した。放置後のカセの一端をフックにかけ他端に初荷重と測定荷重をかけ水中に垂下し2分間放置した。このときの初荷重(g)=2mg/dtex、測定荷重(g)=90mg/dtex、水温=20±2℃とした。放置したカセの内側の長さを測り、Lとした。さらに、測定荷重を除き初荷重だけにした状態で2分間放置し、放置したカセの内側の長さを測り、L1とした。次式により、捲縮を求め、この作業を5回繰り返し、平均値により求めた。
【0051】
捲縮率(%)={(L-L1)/L}×100
(4)トルク撚数
複合仮撚糸約75cmを横に張り、中央部に0.02mN/dtexの初荷重を吊るした後、両端を引揃える。糸は残留トルクにより回転しはじめるが初荷重が静止するまでそのままの状態で持ち、撚糸を得る。こうして得た撚糸を1mN/dtexの荷重下で25cm長の撚数を検撚器で測定する。得られた撚数(T/25cm)を4倍にしてトルク(T/m)とする。
(5)糸長差
複合仮撚糸約10cmをポリエステル仮撚糸Aとポリエステル仮撚糸Bに丁寧に分解して、分解糸の長さを測定し、長い方を最大長、短い方を最小長として、次式により、糸長差を求めた。この作業を10回繰り返し、平均値の少数第1位を四捨五入して求めた。
【0052】
糸長差(%)=(最大長-最小長)/最小長×100
(6)ストレッチ率(%)
JIS L 1096(2010)に記載のB法に従い、1.5kgf(14.7N)荷重時の伸長率を測定した。
(7)耐ピリング評価
2槽式洗濯機で液温度40℃、洗濯時間5分、すすぎ30℃×2分×2回、脱水30秒のサイクル洗濯1回とした。洗剤には花王の“アタック”(登録商標)を1g/Lを用い、液量40L、試験布と導布である綿布の重量を合算して830gで実施した。この洗濯作業を20回繰り返した後、JIS L 1076(2018)A法に従い、ピリング評価を行い、級判定を行った。3.5級以上を合格とする。
(8)ハリ腰性
官能評価にて、ハリ腰が大変優れている、ハリ腰が優れている、ハリ腰がやや不足している、ハリ腰が不足している、の4段階で評価し、無作為に選んだ10人の評価の平均に近いものを結果とした。
【0053】
<実施例1>
まず丸断面のポリエチレンテレフタレートを紡速3,000(m/分)で紡糸し、繊度140dtex、36フィラメント、伸度140%のポリエチレンテレフタレート部分配向糸を2本得た。そして、上記2本の部分配向糸をフリクション仮撚加工機によって、加工速度:500m/min、ヒータ温度:215℃で、延伸倍率:1.65倍、仮撚係数:29,000で別々にS方向に仮撚を行い、その後、交絡圧:0.3MPaでインターレース加工を行い、繊度:167dtex、交絡数:68ヶ/m、トルク撚数:52T/m(S方向)、捲縮率:41%、糸長差:0%の複合加工糸を得た。
【0054】
また、単繊維繊度:1.45dtex、繊維長:38mmのポリエチレンテレフタレート短繊維および綿繊維を65:35の割合で混紡し、通常の紡績工程を経て、綿方式の番手で45/2の双糸紡績糸を得た。
【0055】
そして、上記紡績糸を経糸に、上記複合加工糸を緯糸に用いて、エアージェット織機で2/1ツイル織物に製織を行い、次に、得られた製織生地に対して、98℃拡布連続精練、180℃の中間セット、分散染料・反応染料を用いた130℃での紺色染色を行い、さらに160℃仕上げセットを施し、加工密度(経糸:125本/2.54cm、緯糸:105本/2.54cm)の製品とした。
【0056】
得られた織物は、ストレッチ率:18%、耐ピリング評価は洗濯前:4.5級、20回後洗濯後:4.5級であり、長期繰り返し洗濯使用においても、耐ピリング性に大変優れ、ハリ腰性に大変優れた織物であった。
【0057】
<実施例2>
まず丸断面のポリエチレンテレフタレートを紡速3,000(m/分)で紡糸し、繊度140dtex、36フィラメント、伸度140%のポリエチレンテレフタレート部分配向糸を得た。
【0058】
一方、丸断面のポリブチレンテレフタレートを紡速3,000(m/分)で紡糸し、繊度140dtex、36フィラメント、伸度138%のポリブチレンテレフタレート部分配向糸を得た。
【0059】
そして、上記2本の部分配向糸をフリクション仮撚加工機によって、加工速度:500m/min、ヒータ温度:210℃で、延伸倍率:1.65倍、仮撚係数:28,000で別々にS方向に仮撚を行い、その後、芯糸をポリエチレンテレフタレート、鞘糸をポリブチレンテレフタレートとして、芯鞘オーバーフィード差:4%、交絡圧:0.3MPa、でインターレース加工を行い、繊度:167dtex、交絡数:75ヶ/m、トルク撚数:44T/m(S方向)、捲縮率:41%、糸長差:4%の複合加工糸を得た。
【0060】
その後、実施例1と同様に織物を作製し、染色加工を実施し、加工密度(経糸:125本/2.54cm、緯糸:105本/2.54cm)の製品とした。
【0061】
得られた織物は、ストレッチ率:20%、耐ピリング評価は洗濯前:4.5級、20回後洗濯後:3.5級であり、長期繰り返し洗濯使用においても、耐ピリング性に優れ、ハリ腰性に優れた織物であった。
【0062】
<実施例3>
まず丸断面のポリエチレンテレフタレートを紡速3,000(m/分)で紡糸し、繊度140dtex、36フィラメント、伸度140%のポリエチレンテレフタレート部分配向糸を2本得た。そして、上記2本の部分配向糸をピン仮撚加工機によって、加工速度:100m/min、ヒータ温度:220℃で、延伸倍率:1.65倍、仮撚係数:32,000で別々にS方向に仮撚を行い、その後、交絡圧:0.35MPaでインターレース加工を行い、繊度:167dtex、交絡数:93ヶ/m、トルク撚数:68T/m(S方向)、捲縮率:48%、糸長差:0%の複合加工糸を得た。
【0063】
その後、実施例1と同様に織物を作製し、染色加工を実施し、加工密度(経糸:125本/2.54cm、緯糸:105本/2.54cm)の製品とした。
【0064】
得られた織物は、ストレッチ率:25%、耐ピリング評価は洗濯前:4.5級、20回後洗濯後:4.5級であり、長期繰り返し洗濯使用においても、耐ピリング性に大変優れ、ハリ腰性に大変優れた織物であった。
【0065】
<比較例1>
まず丸断面のポリエチレンテレフタレートを紡速3,000(m/分)で紡糸し、繊度280dtex、72フィラメント、伸度142%のポリエチレンテレフタレート部分配向糸を得た。そして、上記の部分配向糸をフリクション仮撚加工機によって、加工速度:500m/min、ヒータ温度:215℃で、延伸倍率:1.65倍、仮撚係数:29,000でS方向に仮撚を行い、その後、交絡圧:0.2MPaでインターレース加工を行い、繊度:330dtex、交絡数:50ヶ/m、トルク撚数:45T/m(S方向)、捲縮率:29%の仮撚加工糸を得た。
【0066】
その後、実施例1と同様に織物を作製し、染色加工を実施し、加工密度(経糸:120本/2.54cm、緯糸:105本/2.54cm)の製品とした。
【0067】
得られた織物は、ストレッチ率:8%、耐ピリング評価は洗濯前:4級、20回後洗濯後:2.5級であり、ストレッチ性、長期繰り返し洗濯使用における耐ピリング性が不十分であり、かつハリ腰性もやや不足していた。
【0068】
<比較例2>
まず丸断面のポリエチレンテレフタレートを紡速3,000(m/分)で紡糸し、繊度280dtex、72フィラメント、伸度142%のポリエチレンテレフタレート部分配向糸を得た。そして、上記の部分配向糸をフリクション仮撚加工機によって、加工速度:500m/min、ヒータ温度:215℃で、延伸倍率:1.65倍、仮撚係数:29,000で別々にS方向とZ方向に仮撚を行い、その後、交絡圧:0.3MPaでインターレース加工を行い、繊度:330dtex、交絡数:70ヶ/m、トルク撚数:8T/m(S方向)、捲縮率:38%の仮撚加工糸を得た。
【0069】
その後、実施例1と同様に織物を作製し、染色加工を実施し、加工密度(経糸:125本/2.54cm、緯糸:105本/2.54cm)の製品とした。
【0070】
得られた織物は、ストレッチ率:16%、耐ピリング評価は洗濯前:4.5級、20回後洗濯後:3級であり、ハリ腰性には優れていたが、長期繰り返し洗濯使用における耐ピリング性が不十分であった。
【0071】
<比較例3>
まず丸断面のポリエチレンテレフタレートを紡速3,000(m/分)で紡糸し、繊度140dtex、36フィラメント、伸度140%のポリエチレンテレフタレート部分配向糸を得た。
【0072】
一方、丸断面の5-ナトリウムスルホイソフタル酸を0.3mol%共重合したポリエチレンテレフタレートを紡速3,000(m/分)で紡糸し、繊度140dtex、36フィラメント、伸度145%のポリエチレンテレフタレート部分配向糸を得た。
【0073】
そして、上記2本の部分配向糸をフリクション仮撚加工機によって、加工速度:500m/min、ヒータ温度:180℃で、延伸倍率:1.65倍、仮撚係数:27,000で別々にS方向に仮撚を行い、その後、交絡圧:0.3MPaでインターレース加工を行い、繊度:167dtex、交絡数:64ヶ/m、トルク撚数:55T/m(S方向)、捲縮率:25%、糸長差:0%の複合加工糸を得た。
【0074】
その後、実施例1と同様に織物を作製し、染色加工を実施し、加工密度(経糸:122本/2.54cm、緯糸:105本/2.54cm)の製品とした。
【0075】
得られた織物は、ストレッチ率:10%、耐ピリング評価は洗濯前:4.5級、20回後洗濯後:2級であり、ストレッチ性、長期繰り返し洗濯使用における耐ピリング性が不十分であり、かつハリ腰性もやや不足していた。
【0076】
<比較例4>
まず丸断面のポリエチレンテレフタレートを紡速3,000(m/分)で紡糸し、繊度140dtex、36フィラメント、伸度140%のポリエチレンテレフタレート部分配向糸を2本得た。そして、上記2本の部分配向糸をフリクション仮撚加工機によって、加工速度:500m/min、ヒータ温度:215℃で、延伸倍率:1.65倍、仮撚係数:29,000で別々にS方向に仮撚を行い、その後、交絡圧:0.15MPaでインターレース加工を行い、繊度:167dtex、交絡数:21ヶ/m、トルク撚数:44T/m(S方向)、捲縮率:43%、糸長差:0%の複合加工糸を得た。
【0077】
その後、実施例1と同様に織物を作製し、染色加工を実施し、加工密度(経糸:125本/2.54cm、緯糸:105本/2.54cm)の製品とした。
【0078】
得られた織物は、ストレッチ率:18%、耐ピリング評価は洗濯前:4.5級、20回後洗濯後:3級であり、ハリ腰性には優れていたが、長期繰り返し洗濯使用における耐ピリング性が不十分であった。
【0079】
<比較例5>
まず丸断面のポリエチレンテレフタレートを紡速3,000(m/分)で紡糸し、繊度140dtex、36フィラメント、伸度140%のポリエチレンテレフタレート部分配向糸を得た。
【0080】
一方、ポリエチレンテレフタレートとポリブチレンテレフタレートを重量複合比50/50でサイドバイサイド型口金から吐出し、紡速3,500(m/分)で紡糸し、繊度120dtex、36フィラメント、伸度126%のコンジュゲート部分配向糸を得た。
そして、上記2本の部分配向糸をフリクション仮撚加工機によって、加工速度:500m/min、ヒータ温度:215℃で、延伸倍率:1.55倍、仮撚係数:31,000で疋揃えた後、S方向に複合仮撚を行い、その後、交絡圧:0.3MPaでインターレース加工を行い、繊度:162dtex、交絡数:55ヶ/m、トルク撚数:51T/m(S方向)、捲縮率:52%、糸長差:8%の複合加工糸を得た。
【0081】
その後、実施例1と同様に織物を作製し、染色加工を実施し、加工密度(経糸:128本/2.54cm、緯糸:105本/2.54cm)の製品とした。
【0082】
得られた織物は、ストレッチ率:27%、耐ピリング評価は洗濯前:3.5級、20回後洗濯後:2級であり、ハリ腰性には優れていたが、長期繰り返し洗濯使用における耐ピリング性が不十分であった。