(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022183507
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】透析廃液処理方法
(51)【国際特許分類】
B01D 61/02 20060101AFI20221206BHJP
B01D 61/58 20060101ALI20221206BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20221206BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20221206BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20221206BHJP
B01D 71/16 20060101ALI20221206BHJP
B01D 71/56 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
B01D61/02 500
B01D61/58
B01D69/00
B01D69/10
B01D69/12
B01D71/16
B01D71/56
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021090860
(22)【出願日】2021-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】永野 泉
(72)【発明者】
【氏名】吉冨 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】宮本 竜馬
(72)【発明者】
【氏名】岡本 宜記
(72)【発明者】
【氏名】花田 茂久
(72)【発明者】
【氏名】志村 晴季
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA03
4D006HA01
4D006HA21
4D006HA41
4D006HA61
4D006JA05A
4D006JA05C
4D006JA06A
4D006JA06C
4D006JA58A
4D006KA52
4D006KA55
4D006KA57
4D006MA03
4D006MA06
4D006MA09
4D006MA22
4D006MB02
4D006MB06
4D006MB16
4D006MC11
4D006MC16
4D006MC18X
4D006MC22
4D006MC23
4D006MC24
4D006MC27
4D006MC29
4D006MC39
4D006MC48
4D006MC54X
4D006MC62
4D006MC63
4D006NA05
4D006NA10
4D006NA18
4D006NA41
4D006PA01
4D006PA04
4D006PB12
4D006PB20
4D006PB27
4D006PB70
4D006PC41
(57)【要約】 (修正有)
【課題】透析廃液から必要な電解質成分を回収しながら、体内から除去された不要なカリウムイオンと尿素を除去する透析廃液処理方法を提供する。
【解決手段】原液を、分離膜1を有する分離膜モジュール1と分離膜2を有する分離膜モジュール2で処理し、水および電解質を回収した精製液と、尿素などの中性低分子を含んだ廃液に分離する透析廃液処理方法であって、前記原液は少なくとも電解質、中性低分子を含む透析廃液であり、前記分離膜1は陽電子消滅寿命測定法を用いて測定される孔径が7Å以上であり、前記分離膜2は陽電子消滅寿命測定法を用いて測定される孔径が7Å以下であり、前記分離膜モジュール1の透過液を前記分離膜モジュール2に供給し分離処理される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原液を、分離膜1を有する分離膜モジュール1と分離膜2を有する分離膜モジュール2で処理し、水および電解質を回収した精製液と、尿素などの中性低分子を含んだ廃液に分離する透析廃液処理方法であって、
前記原液は少なくとも電解質、中性低分子を含む透析廃液であり、前記分離膜1は陽電子消滅寿命測定法を用いて測定される孔径が7Å以上であり、前記分離膜2は陽電子消滅寿命測定法を用いて測定される孔径が7Å以下であり、前記分離膜モジュール1の透過液は前記分離膜モジュール2に供給し分離処理され、
少なくとも以下の(i)(ii)のいずれかの要件を満たすことを特徴とする透析廃液処理方法。
(i)前記分離膜モジュール2の透過液の一部を前記原液と混合後前記分離膜モジュール1に供給し、前記分離膜モジュール2の透過液の残りの全量または一部を前記分離膜モジュール1の濃縮液と混合し精製液を得る。
(ii)前記分離膜モジュール2の透過液の全量を前記原液と混合後前記分離膜モジュール1の供給側に供給し、前記分離膜モジュール1の濃縮液を精製液として得る。
【請求項2】
前記分離膜1に対して、10000mg/Lの塩化ナトリウム(NaCl)と250mg/Lの尿素を混合した溶液1を36℃、圧力1.2Mpaで供給した場合において、供給液に対する透過液中の成分濃度の減少率で定義する除去率について、前記分離膜1の塩化ナトリウム除去率が90%以上であり、かつ、前記分離膜1の尿素除去率が25%以下である、請求項1に記載の透析廃液処理方法。
【請求項3】
前記分離膜2に対して、1000mg/Lの塩化ナトリウム(NaCl)と700mg/Lの尿素を混合した溶液2を36℃、圧力1.8Mpaで供給した場合において、供給液に対する透過液中の成分濃度の減少率で定義する除去率について、
前記分離膜2の尿素除去率が85%以上である、請求項1または2に記載の透析廃液処理方法。
【請求項4】
前記(i)の要件において、前記分離膜モジュール2の透過液量に対する、原液に混合する前記分離膜モジュール2の透過液の一部の量の比が0.6以上である、請求項1~3のいずれかに記載の透析廃液処理方法。
【請求項5】
前記原液に対する前記精製液の量の割合が75%以上である、請求項1~4のいずれかに記載の透析廃液処理方法。
【請求項6】
前記分離膜が、支持層と、ポリアミドおよび酢酸セルロースのうちの少なくとも一方を含有する分離機能層膜を含む請求項1~5のいずれかに記載の透析廃液処理方法。
【請求項7】
前記分離膜が、支持層と、ポリアミドを含有する分離機能層膜を含む請求項1~6のいずれかに記載の透析廃液処理方法。
【請求項8】
原液を分離膜モジュール1と分離膜モジュール2で分離処理する透析廃液処理装置であって、前記分離膜モジュールは分離膜を有し、
前記分離膜1は陽電子消滅寿命測定法を用いて測定される孔径が7Å以上であり、前記分離膜2は陽電子消滅寿命測定法を用いて測定される孔径が7Å以下であり、前記分離膜モジュール1の透過側から得られる透過液を含む透過側溶液のラインは前記分離膜モジュール2の供給側に接続され、
少なくとも以下の(i)(ii)のいずれかの要件を満たすことを特徴とする透析廃液処理装置。
(i)前記分離膜モジュール2の透過液ラインを2つに分岐させ、一方を前記原液ラインに接続し、前記分離膜モジュール2の透過液ラインのもう一方を前記分離膜モジュール1の濃縮液ラインに接続し精製液ラインとする。
(ii)前記分離膜モジュール2の透過液ラインを前記原液ラインに接続し、前記分離膜モジュール1の濃縮液ラインを精製液ラインとする。
【請求項9】
前記分離膜1に対して、10000mg/Lの塩化ナトリウム(NaCl)と250mg/Lの尿素を混合した溶液1を36℃、圧力1.2Mpaで供給した場合において、供給液に対する透過液中の成分濃度の減少率で定義する除去率について、前記分離膜1の塩化ナトリウム除去率が90%以上であり、かつ、前記分離膜1の尿素除去率が25%以下である、請求項8に記載の透析廃液処理装置。
【請求項10】
前記分離膜2に対して、1000mg/Lの塩化ナトリウム(NaCl)と700mg/Lの尿素を混合した溶液2を36℃、圧力1.8Mpaで供給した場合において、供給液に対する透過液中の成分濃度の減少率で定義する除去率について、
前記分離膜2の尿素除去率が85%以上である、請求項8または9に記載の透析廃液処理方法。
【請求項11】
前記分離膜が、支持層と、ポリアミドおよび酢酸セルロースのうちの少なくとも一方を含有する分離機能層膜を含む請求項8~10のいずれかに記載の透析廃液処理装置。
【請求項12】
前記分離膜が、支持層と、ポリアミドを含有する分離機能層膜を含む請求項8~11のいずれかに記載の透析廃液処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は透析廃液処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な選択分離技術のニーズの中で、近年、生活水準の向上に伴って世界的に人工透析治療の患者が増えており、治療により排出される透析廃液から不純物を除去し透析液として再生する技術が着目されつつある。一般的な人工透析治療では、一回の処置において90Lから150Lの大量の透析液を使用する必要がある。人工透析治療に使用された透析液には血液から移動した尿素などの老廃物が含まれるため、基本的に一度の使用によって透析液は廃棄される。そのため大量の透析廃液が発生してしまうことが問題となっている。
透析液の作成方法としては、水道水を逆浸透膜などで処理した純水に、必要な塩分、グルコースなどを添加し透析液とする方法が一般的である。しかしながら、水道水の供給が断続的な水不足地域においては、必要な量の水道水の確保が困難な場合もあり、水使用量の低減が求められている。さらに、水供給量が十分な地域においても、災害時において断水が続くと透析液を水道水から作ることができなくなる。そのため、透析廃液から尿素などの老廃物を取り除き、透析液として再利用する透析廃液再利用の要望はますます高まってきており、透析廃液再利用技術の提案がいくつかなされている。
例えば、透析廃液から、吸着材によって不純物、老廃物、及び電解質を取り除くことが提案されているが、実施される透析治療に応じて透析廃液の再生には数キログラムの吸着材が必要とされ、重量やコストをできるだけ抑えるシステムが望まれている。
特許文献1には吸着材や電気透析により塩分をある程度除去した後に、逆浸透膜を用いて不純物を除去するシステムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術は、孔径が7.0Å以下の逆浸透膜を用いて尿素などの老廃物を分離し透析廃液を再生する技術である。本技術では、再生液に塩を足す必要があり、コストがかかる。
そこで透析廃液から必要な塩を回収し再利用するようなシステムが必要となるが、その際老廃物であるカリウムイオンまで回収・再利用することになる。カリウムイオンが透析患者の体内に蓄積することにより高カリウム血症を引き起こす恐れがあるため、血中カリウムイオン濃度のコントロールも透析における重要な役割である。
そこで、本発明の目的は、透析廃液から必要な電解質成分を回収しながら、体内から除去された不要なカリウムイオンと尿素を除去する透析廃液処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明の透析廃液処理方法は、以下の(1)~(12)のいずれかの構成を構える。
(1)原液を、分離膜1を有する分離膜モジュール1と分離膜2を有する分離膜モジュール2で処理し、水および電解質を回収した精製液と、尿素などの中性低分子を含んだ廃液に分離する透析廃液処理方法であって、前記原液は少なくとも電解質、中性低分子を含む透析廃液であり、前記分離膜1は陽電子消滅寿命測定法を用いて測定される孔径が7Å以上であり、前記分離膜2は陽電子消滅寿命測定法を用いて測定される孔径が7Å以下であり、前記分離膜モジュール1の透過液は前記分離膜モジュール2に供給し分離処理され、
少なくとも以下の(i)(ii)のいずれかの要件を満たすことを特徴とする透析廃液処理方法。
(i)前記分離膜モジュール2の透過液の一部を前記原液と混合後前記分離膜モジュール1に供給し、前記分離膜モジュール2の透過液の残りの全量または一部を前記分離膜モジュール1の濃縮液と混合し精製液を得る。
(ii)前記分離膜モジュール2の透過液の全量を前記原液と混合後前記分離膜モジュール1の供給側に供給し、前記分離膜モジュール1の濃縮液を精製液として得る。
(2)前記分離膜1に対して、10000mg/Lの塩化ナトリウム(NaCl)と250mg/Lの尿素を混合した溶液1を36℃、圧力1.2Mpaで供給した場合において、供給液に対する透過液中の成分濃度の減少率で定義する除去率について、前記分離膜1の塩化ナトリウム除去率が90%以上であり、かつ、前記分離膜1の尿素除去率が25%以下である、(1)に記載の透析廃液処理方法。
(3)前記分離膜2に対して、1000mg/Lの塩化ナトリウム(NaCl)と700mg/Lの尿素を混合した溶液2を36℃、圧力1.8Mpaで供給した場合において、供給液に対する透過液中の成分濃度の減少率で定義する除去率について、
前記分離膜2の尿素除去率が85%以上である、(1)または(2)に記載の透析廃液処理方法。
(4)前記(i)の要件において、前記分離膜モジュール2の透過液量に対する、原液に混合する前記分離膜モジュール2の透過液の一部の量の比が0.6以上である、(1)~(3)のいずれかに記載の透析廃液処理方法。
(5)前記原液に対する前記精製液の量の割合が75%以上である、(1)~(4)のいずれかに記載の透析廃液処理方法。
(6)前記分離膜が、支持層と、ポリアミドおよび酢酸セルロースのうちの少なくとも一方を含有する分離機能層膜を含む(1)~(5)のいずれかに記載の透析廃液処理方法。
(7)前記分離膜が、支持層と、ポリアミドを含有する分離機能層膜を含む(1)~(6)のいずれかに記載の透析廃液処理方法。
(8)原液を分離膜モジュール1と分離膜モジュール2で分離処理する透析廃液処理装置であって、前記分離膜モジュールは分離膜を有し、
前記分離膜1は陽電子消滅寿命測定法を用いて測定される孔径が7Å以上であり、前記分離膜2は陽電子消滅寿命測定法を用いて測定される孔径が7Å以下であり、前記分離膜モジュール1の透過側から得られる透過液を含む透過側溶液のラインは前記分離膜モジュール2の供給側に接続され、
少なくとも以下の(i)(ii)のいずれかの要件を満たすことを特徴とする透析廃液処理装置。
(i)前記分離膜モジュール2の透過液ラインを2つに分岐させ、一方を前記原液ラインに接続し、前記分離膜モジュール2の透過液ラインのもう一方を前記分離膜モジュール1の濃縮液ラインに接続し精製液ラインとする。
(ii)前記分離膜モジュール2の透過液ラインを前記原液ラインに接続し、前記分離膜モジュール1の濃縮液ラインを精製液ラインとする。
(9)前記分離膜1に対して、10000mg/Lの塩化ナトリウム(NaCl)と250mg/Lの尿素を混合した溶液1を36℃、圧力1.2Mpaで供給した場合において、供給液に対する透過液中の成分濃度の減少率で定義する除去率について、前記分離膜1の塩化ナトリウム除去率が90%以上であり、かつ、前記分離膜1の尿素除去率が25%以下である、(8)に記載の透析廃液処理装置。
(10)前記分離膜2に対して、1000mg/Lの塩化ナトリウム(NaCl)と700mg/Lの尿素を混合した溶液2を36℃、圧力1.8Mpaで供給した場合において、供給液に対する透過液中の成分濃度の減少率で定義する除去率について、
前記分離膜2の尿素除去率が85%以上である、(8)または(9)に記載の透析廃液処理方法。
(11)前記分離膜が、支持層と、ポリアミドおよび酢酸セルロースのうちの少なくとも一方を含有する分離機能層膜を含む(8)~(10)のいずれかに記載の透析廃液処理装置。
(12)前記分離膜が、支持層と、ポリアミドを含有する分離機能層膜を含む(8)~(11)のいずれかに記載の透析廃液処理装置。
【発明の効果】
【0006】
本発明の透析廃液処理方法によって、低圧運転下でも必要な電解質成分を残しつつ体内から除去された不要なカリウムイオンと尿素を除去した精製液を透析廃液から高い回収率で回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明に記載の透析廃液処理装置の模式図の一例である。
【
図2】本発明に記載の透析廃液処理装置の模式図の一例である。
【
図3】従来の透析廃液処理装置の模式図の一例である。
【
図4】従来の透析廃液処理装置の模式図の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
<透析および透析廃液について>
透析には公知の方法が適用される。透析装置は、尿素等の毒素を透過し、かつ血漿成分を透過しない透析膜を有する。透析膜の一方の面に透析液を供給しながら他方の面に血液を供給する。透析液の組成は公知であり、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、ブドウ糖等が含まれる。血液中の尿素が透析膜を介して透析液に拡散することで、血液中から尿素が除かれる。また、尿素以外に透析により除去する必要がある物質のひとつに、カリウムイオンがある。カリウムイオンは約90%が腎臓から排出されるため、透析患者は蓄積しやすい。高カリウム血症は心停止を引き起こす可能性があり、血中カリウムイオン濃度のコントロールも透析における重要な役割である。透析システムとして、毎回の透析で血中カリウムイオンを26%~35%の範囲で除去し、血中カリウムイオン濃度をコントロールする必要がある。
透析装置を通過した透析廃液として電解質が10000mg/L、そのうちカリウムイオンが100mg/L、中性分子である尿素が600mg/L程度含まれているものを想定する。透析廃液から尿素を70%程度除去、カリウムイオンを2~12%の範囲で除去すると再生液として好ましく、電解質を80%以上回収するとコスト削減の観点からより好ましい。
<プロセス概要>
図1、
図2に本発明に示す透析廃液処理方法の1つの形態を示す。
図1、
図2に示す透析廃液処理装置では、分離膜モジュール1および分離膜モジュール2ともに透過側の供給がない形の通常の分離膜モジュールが使用されている。通常の分離膜モジュールではモジュールの供給側に加圧された供給液を導入し、濃縮液と透過液を得る。
分離膜モジュール1は尿素の透過性が高く電解質の除去率は高い。分離膜モジュール2は尿素や電解質といった分離膜モジュール1の透過水に含まれるすべての成分を高除去する。分離膜モジュール1(1)の濃縮液(105)は尿素より電解質の濃縮率が高いため、電解質がより優先的に含まれるようになる。一方、分離膜モジュール1の透過液(106)は尿素が多く含まれており、電解質はあまり含まれない。分離膜1の透過液(106)を分離膜モジュール2(2)で処理し、分離膜モジュール2の濃縮液(108)と透過液(109)を得る。分離膜モジュール2はすべての成分を高除去するため、分離膜モジュール2の透過液にはカリウムイオンを含む電解質と尿素ともにごく微量しか含まれない。また、尿素を多く含む分離モジュール2の濃縮液(108)は系外に排出される。
図1に示す透析廃液処理方法では分離膜モジュール2の透過液(109)の一部を、
図2では分離膜モジュール2の透過液(109)の全てを、分離膜モジュール1(1)に供給される原液(101)と混合し循環している。残りの分離膜モジュール2の透過液(109)と分離膜モジュール1の濃縮液(105)を混合し、尿素をあまり含まないが電解質を多く含む精製液(102)を得る。
本発明における透析廃液処理方法に用いられる透析廃液には、総成分濃度として1000mg/L以上含まれていることが想定される。分離膜モジュール2の透過液の循環がない透析廃液処理方法では、分離膜モジュール1の濃縮液(105)が高濃度になる問題があった。しかし上記の循環によって分離膜モジュール1の供給液(104)の濃度が低くなり、分離膜モジュール2の透過液(109)の循環を行わない透析廃液処理方法に対して、より低圧で処理することが可能となる。低圧で処理することができれば、高圧ポンプや高圧対応の流路、圧力容器を使用する必要がなくなるため、装置コストの低減や騒音の低減が期待される。分離膜モジュール2の透過液(109)の量に対する循環(110)量の比は0.6以上が好ましく、システム全体として尿素除去率を70%以上にするには0.8以上がより好ましい。
ここでシステム全体の尿素の除去率は以下の式から求めた。
尿素の除去率=[(原液(101)の尿素濃度)×(原液(101)の流量)-(精製液(102)の尿素濃度)×(精製液(102)の流量)]/[(原液(101)の尿素濃度)×(原液(101)の流量)]×100[%]
供給される原液に対する精製液の割合、つまりシステム全体の水の回収率は75%以上が好ましく、水道インフラが発達していない地域で本透析廃液処理法使用をする際には、必要な補液量をより少なくするため、システム全体の水の回収率が90%以上であることが好ましい。
また、精製液の濃度調整などのため、分離膜モジュール2の透過液の一部を取り出したり、精製液に純水や溶液を追加したりしても良い。
本発明の透析廃液処理方法を具現化するために、前記の流れでラインを組み、適切な位置にバルブやポンプを配置させ、透析廃液処理装置を組み立てることができる。
<プロセスを成立させるために必要な膜の条件>
分離膜モジュール1では分離膜1を、分離膜モジュール2では分離膜2をそれぞれ用いる。分離膜1は、陽電子消滅寿命測定法を用いて測定される孔径が7Å以上である。透析廃液処理システムを在宅で使用する観点から、分離膜1は孔径が7Å以上であると実用性のある透水性を有することができ、システムが短時間で透析液を再生することができる。また必要な電解質除去率を確保するため、分離膜1の孔径は10Å以下であるとより好ましい。
分離膜2は陽電子消滅寿命測定法を用いて測定される孔径が7Å以下である。分離膜の孔径が7Å以下であることで、分離膜モジュール2は尿素や電解質といった分離膜モジュール1の透過水に含まれるすべての成分を高除去することができる。
孔径は陽電子消滅寿命測定法を用いて測定される。陽電子消滅寿命測定法とは、陽電子が試料に入射してから消滅するまでの時(数百ピコ秒から数十ナノ秒のオーダー)を測定し、その消滅寿命に基づいて、0.1~10nmの空孔の大きさ、その数密度、およびその大きさの分布などの情報を非破壊的に評価する手法である。この測定方法については、「第4版実験化学講座」第14巻、485頁、日本化学会編,丸善株式会社(1992)に記載されている。
本発明による分離膜の分離機能層における平均孔半径Rは、上記の陽電子消滅寿命τに基づいて、以下の式(1)から求めている。式(1)は、厚さΔRの電子層にある半径Rの空孔にo-Psが存在すると仮定した場合の関係を示しており、ΔRは経験的に0.166nmと求められている(Nakanishi他,Journal of Polymer Science,Part B:Polymer Physics,Vol.27,p.1419,John Wiley & Sons,Inc.(1989)にその詳細が記載されている)。
【0009】
【0010】
以下、分離膜1の塩除去率と尿素除去率は、pH7、10000mg/Lの塩化ナトリウム(NaCl)と250mg/Lの尿素を混合した溶液1に対して、圧力1.2MPaとなる場合の供給溶液中の成分濃度に対して、透過した溶液中の成分濃度の減少率で定義する。
また分離膜2の塩除去率と尿素除去率は、pH7、1000mg/Lの塩化ナトリウム(NaCl)と700mg/Lの尿素を混合した溶液2に対して、圧力1.8MPaとなる場合の供給溶液中の成分濃度に対して、透過した溶液中の成分濃度の減少率と定義する。
尿素の濃度はウレアーゼGLDH法を用いて測定される。ウレアーゼGLDH法とは、以下の第一反応および第二反応を行い、補酵素(NADPH)の変化量を測定することによりBUNを測定する方法である。
(第一反応)
反応式(II)において反応式(I)で生じた内因性アンモニアをαケトグルタル酸、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)、グルタミン酸脱水素酵素(GLDH)の作用により消去し、このとき生じた酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP)は反応式(III)においてL-イソクエン酸脱水素酵素(ICDH)の作用によって還元されNADPHへと変化する。
(第二反応)
第一反応により内因性アンモニアを消去した後、尿素はウレアーゼの作用によりアンモニアと二酸化炭素に分解される。このアンモニアとα‐ケトグルタル酸(α‐KG)は、GLDHの作用によりグルタミン酸に変化し、同時にNADPHはNADPに変わる。NADPHは340nmに吸収極大をもち、この吸光度の減少速度を測定して尿素窒素値を求める。尚、このとき第一反応の反応式(III)は第二試薬に添加されているキレート剤の作用により停止している。
尿素+H2O(+ウレアーゼ)→2NH3+CO2・・・(I)
α‐ケトグルタル酸+NH3+NADPH+H+(+GLDH)→グルタミン酸+NADP++H2O・・・(II)
NADP++L-イソクエン酸(+ICDH)→NADPH++α-ケトグルタル酸+CO2・・・(III)
システム全体の電解質回収率を80%以上にするためには分離膜1の塩化ナトリウム除去率が90%以上であることが好ましい。また、システム全体として尿素のみ優先的に70%程度除去するためには、分離膜1の尿素除去率は25%以下であることが好ましく、分離膜2の尿素除去率は85%以上であることが好ましい。
前記システムにおいてカリウムイオンは他の電解質と共に回収され、再生透析液内に蓄積するが、本発明者らが分離膜モジュール1の塩除去率と4時間の透析後血中カリウムイオン除去率との関係を精査したところ、分離膜モジュール1の塩除去率が93%~99%の範囲であればシステム全体としてカリウムイオンは2~12%の範囲で除去され、血中カリウムイオン除去率を26%~35%の範囲にコントロールすることができることが分かった。
ここでシステム全体の電解質回収率およびカリウムイオン除去率は以下の式から求めた。
電解質回収率=(精製液(102)の電解質濃度)×(精製液(102)の流量)/[(原液(101)の電解質濃度)×(原液(101)の流量)]×100[%]
カリウムイオンの除去率=[(原液(101)のカリウムイオン濃度)×(原液(101)の流量)-(精製液(102)のカリウムイオン濃度)×(精製液(102)の流量)]/[(原液(101)のカリウムイオン濃度)×(原液(101)の流量)]×100[%]
本発明における透析廃液処理方法に使用される分離膜としては、溶液中の残したい電解質成分と、除去したいカリウムイオンと尿素に応じた分離性能を有する分離膜が用いられる。分離膜は、単一層であってもよいし、分離機能層と基材とを備える複合膜であってもよい。また、複合膜においては、分離機能層と基材との間に、さらに多孔性支持層があってもよい。
分離機能層は、分離機能および支持機能の両方を有する層であってもよいし、分離機能のみを備えていてもよい。なお、「分離機能層」とは、少なくとも分離機能を備える層を指す。
分離機能層が分離機能および支持機能の両方を有する場合、支持機能層としては、セルロース、ポリフッ化ビニリデン、ポリエーテルスルホンおよびポリスルホンからなる群から選ばれるポリマーを主成分として含有する層が好ましく適用される。
一方、分離機能層としては、孔径の制御が容易であり、かつ耐久性に優れるという点で、架橋高分子が好ましく使用される。特に、供給液中の成分の分離性能に優れるという点で、酢酸セルロースおよびポリアミドのうちの少なくとも一方を含んだ分離機能層を備えた複合膜が好ましく、特により高除去性能を有するポリアミドを含んだ分離機能層を備えた複合膜が好ましい。操作圧力に対する耐久性と、高い透水性、阻止性能を維持できるためには、ポリアミドを分離機能層とし、それを多孔質膜や不織布からなる支持体で保持する構造のものが適している。
多孔性支持層は、分離機能層を支持する層であり、樹脂が素材の場合多孔性樹脂層とも言い換えることができる。
多孔性支持層に使用される材料や、その形状は特に限定されないが、例えば、多孔性樹脂によって基板上に形成されてもよい。多孔性支持層の組成は特に限定されないが、熱可塑性樹脂によって形成されていることが好ましい。ここで、熱可塑性樹脂とは、鎖状高分子物質からできており、加熱すると外力によって変形または流動する性質が表れる樹脂のことをいう。熱可塑性樹脂の例としては、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、ポリエステル、セルロース系ポリマー、ビニルポリマー、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルホン、ポリフェニレンオキシドなどのホモポリマーあるいはコポリマーを単独であるいはブレンドして使用することができる。ここでセルロース系ポリマーとしては酢酸セルロース、硝酸セルロースなど、ビニルポリマーとしてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、アクリロニトリル・スチレン共重合体などが使用できる。これらの中から化学的、機械的、熱的に安定性が高く、孔径が制御しやすいポリスルホンを使用することが好ましい。
多孔性支持層は、例えば、上記ポリスルホンのN,N-ジメチルホルムアミド溶液を、後述する基材(例えば密に織ったポリエステル不織布)の上に一定の厚みに注型し、それを水中で湿式凝固させることによって、製造することができる。
分離膜の強度、寸法安定性などの観点から、分離膜は基材を有してもよい。基材としては、強度、流体透過性の点で繊維状の基材を用いることが好ましい。
基材としては、長繊維不織布および短繊維不織布それぞれを好ましく用いることができる。
<エレメント>
本発明における分離膜1や分離膜2は、平膜状の膜を集水管の周囲に巻囲したスパイラル型エレメントや、プレート型支持板の両面に平膜を張ったものを、スペーサーを介して一定の間隔で積層したプレート・アンド・フレーム型エレメント、さらには、管状膜を用いたチューブラー型エレメント、中空糸膜を束ねてケースに収納した中空糸膜エレメントとして構成することができる。さらに、これらのエレメントを耐圧容器に単数もしくは複数個を直列に接続して収容し分離膜モジュールとする。エレメントの形態としては、いずれの形態であっても良いが、操作性や互換性の観点からはスパイラル型エレメントを使用するのが好ましい。スパイラル型分離膜エレメントは、分離膜、透過側流路材、供給側流路材の積層物を、透過液を集める有孔集水管の周りに巻囲したものである。
なお、供給側流路材の素材は特に限定されず、分離膜と同素材であっても異素材であっても構わない。
ここで、分離膜には透過側の面と濃縮側の面があり、供給側の面が互いに向かい合うように形成された状態の分離膜のことを分離膜対と呼ぶ。
分離膜は、供給側流路材、透過側流路材と分離膜対を形成する。分離膜は、供給側流路材を挟んで供給側の面が対向するように配置される。また、透過側の面の間には透過側流路材が配置される。透過側流路は、透過流体が有孔中心管に流れるように、透過側の面の間が、巻回方向内側の一辺のみにおいて開放され、他の三辺においては封止される。
【実施例0011】
以下に実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
(分離膜性能の測定)
PA膜A、PA膜B、PA膜C、PA膜F、CA膜についてはpH7、10000mg/Lの塩化ナトリウム(NaCl)と250mg/Lの尿素を混合した溶液1に対して、圧力1.2MPaで膜透過フラックスが0.35m/dとなる場合のNaClの除去率と尿素除去率を分離膜性能と定義する。
PA膜D、PA膜E、PA膜GについてはpH7、1000mg/Lの塩化ナトリウム(NaCl)と700mg/Lの尿素を混合した溶液2に対して、圧力1.8MPaで膜透過フラックスが0.35m/dとなる場合のNaClの除去率と尿素除去率を分離膜性能と定義する。
(陽電子ビーム法による陽電子消滅寿命測定法)
各例における分離機能層の陽電子消滅寿命測定は、以下のように陽電子ビーム法を用いて行った。すなわち、減圧下室温で分離機能層を乾燥させ、1.5cm×1.5cm角に切断して検査試料とした。陽電子ビーム発生装置を装備した薄膜対応陽電子消滅寿命測定装置(この装置は、例えば、Radiation Physics and Chemistry,58,603,Pergamon(2000)で詳細に説明されている)にて、ビーム強度1keV、室温、真空下で、光電子増倍管を使用して二フッ化バリウム製シンチレーションカウンターにより総カウント数500万で検査試料を測定し、POSI TRONFITにより解析を行った。解析により得られた第4成分の平均陽電子消滅寿命τから、平均孔径を算出した。
(微多孔性支持膜の作製)
ポリエステル不織布(通気量2.0cc/cm
2/sec)上にポリスルホン(PSf)の16.0重量%DMF(dimethylformamide)溶液を室温(25℃)にて200μmの厚みでキャストし、ただちに純水中に浸漬して5分間放置することによって支持膜を作製した。
(PA膜Aの作製)
m-フェニレンジアミンの1.5重量%水溶液を作製した。上述の操作で得られた支持膜を上記水溶液中に2分間浸漬し、該支持膜を垂直方向にゆっくりと引き上げ、エアーノズルから窒素を吹き付け支持膜表面から余分な水溶液を取り除いた後、25℃に保たれたブース内でトリメシン酸クロリド(TMC)0.065重量%を含む25℃のデカン溶液を表面が完全に濡れるように塗布して60秒間静置し膜を得た。得た膜の分離膜性能はNaClの除去率97%、尿素除去率18%であった。陽電子消滅寿命測定法を用いて測定される孔径は7.2Åであった。
(PA膜Bの作製)
m-フェニレンジアミンの1.8重量%水溶液を作製した。上述の操作で得られた支持膜を上記水溶液中に2分間浸漬し、該支持膜を垂直方向にゆっくりと引き上げ、エアーノズルから窒素を吹き付け支持膜表面から余分な水溶液を取り除いた後、25℃に保たれたブース内でトリメシン酸クロリド(TMC)0.06重量%を含む25℃のデカン溶液を表面が完全に濡れるように塗布して60秒間静置し膜を得た。得た膜の分離膜性能はNaClの除去率98%、尿素除去率25%であった。陽電子消滅寿命測定法を用いて測定される孔径は7.0Åであった。
(PA膜Cの作製)
ピペラジンンの0.2重量%水溶液を作製した。上述の操作で得られた支持膜を上記水溶液中に2分間浸漬し、該支持膜を垂直方向にゆっくりと引き上げ、エアーノズルから窒素を吹き付け支持膜表面から余分な水溶液を取り除いた後、45℃に保たれたブース内でトリメシン酸クロリド(TMC)0.17重量%を含む45℃のデカン溶液を表面が完全に濡れるように塗布して1分間静置した。次に膜から余分な溶液を除去するために、膜を1分間垂直に把持して液切りを行って、送風機を使い25℃の気体を吹き付けて乾燥させた。乾燥後、直ちに水で洗い、室温にて保存しナノろ過膜を得た。得た膜の分離膜性能はNaClの除去率93.7%、尿素除去率16%であった。陽電子消滅寿命測定法を用いて測定される孔径は9.0Åであった。
(PA膜Dの作製)
m-フェニレンジアミンの重量6.0%水溶液を作製した。上述の操作で得られた支持膜を上記水溶液中に2分間浸漬し、該支持膜を垂直方向にゆっくりと引き上げ、エアーノズルから窒素を吹き付け支持膜表面から余分な水溶液を取り除いた後、45℃に保たれたブース内でトリメシン酸クロリド(TMC)0.17重量%を含む45℃のデカン溶液を表面が完全に濡れるように塗布して10秒間静置した。140℃のオーブンに入れ、膜の裏面側に設けたノズルから100℃の水蒸気を供給しつつ、30秒間加熱して膜を得た。得た膜の分離膜性能はNaClの除去率99.6%、尿素除去率90%であった。陽電子消滅寿命測定法を用いて測定される孔径は5.1Åであった。
(PA膜Eの作製)
m-フェニレンジアミンの5.5重量%水溶液を作製した。上述の操作で得られた支持膜を上記水溶液中に2分間浸漬し、該支持膜を垂直方向にゆっくりと引き上げ、エアーノズルから窒素を吹き付け支持膜表面から余分な水溶液を取り除いた後、45℃に保たれたブース内でトリメシン酸クロリド(TMC)0.15重量%を含む45℃のデカン溶液を表面が完全に濡れるように塗布して10秒間静置した。140℃のオーブンに入れ、膜の裏面側に設けたノズルから100℃の水蒸気を供給しつつ、30秒間加熱して膜を得た。得た膜の分離膜性能はNaClの除去率99.6%、尿素除去率90%であった。陽電子消滅寿命測定法を用いて測定される孔径は6.0Åであった。
(PA膜Fの作製)
m-フェニレンジアミンの2.0重量%水溶液を作製した。上述の操作で得られた支持膜を上記水溶液中に2分間浸漬し、該支持膜を垂直方向にゆっくりと引き上げ、エアーノズルから窒素を吹き付け支持膜表面から余分な水溶液を取り除いた後、25℃に保たれたブース内でトリメシン酸クロリド(TMC)0.12重量%を含む25℃のデカン溶液を表面が完全に濡れるように塗布して40秒間静置した。140℃のオーブンに入れ、膜の裏面側に設けたノズルから100℃の水蒸気を供給しつつ、30秒間加熱して膜を得た。得た膜の分離膜性能はNaClの除去率99.0%、尿素除去率50%であった。陽電子消滅寿命測定法を用いて測定される孔径は6.8Åであった。
(PA膜Gの作製)
m-フェニレンジアミンの1.8重量%、ε-カプロラクタム4.5重量%水溶液を作製した。上述の操作で得られた支持膜に塗布し、エアーノズルから窒素を吹き付け支持膜表面から余分な水溶液を取り除いた後、トリメシン酸クロリド0.06重量%を含む25℃のn-デカン溶液を表面が完全に濡れるように塗布した。その後、膜から余分な溶液をエアブローで除去し、80℃の熱水で洗浄して、エアブローで液切りして膜を得た。得た膜の分離膜性能はNaClの除去率97.0%、尿素除去率80%であった。陽電子消滅寿命測定法を用いて測定される孔径は7.2Åであった。
(CA膜の作製)
酢酸セルロース25重量%、アセトン45重量%、ホルムアミド30重量%の割合で混合したキャスト溶液を、上述の操作で得られた支持膜上に流延して2分間キャスト溶液を蒸発させた後、氷水中に浸漬した。次に、90℃の温水中に浸漬し膜を得た。得た膜の逆浸透膜性能はNaClの除去率93.0%、尿素除去率15%であった。陽電子消滅寿命測定法を用いて測定される孔径は10Åであった。
(I型分離膜エレメントの作製)
海水淡水化用RO膜および低圧RO膜を6枚裁断し、内周端部が折り目となるように供給側を内側にして折りたたみ、ネット(厚み:0.8mm、ピッチ:5mm×5mm、繊維径:380μm、投影面積比:0.15)を供給側流路材として、ネット構成糸の傾斜角度が巻回方向に対して45°となるように配置した。このようにして、長さ850mm、幅:930mmまたは465mmの分離膜対を6枚作製した。透過側流路材として、厚みが均一であるトリコット(厚み:280μm、溝幅:200μm、畦幅:300μm、溝深さ:105μm)を用意し6枚分裁断した。透過側流路材を分離膜の透過側の面に配置して、内周端部が開口するように透過側流路に接着剤を塗布し、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)製の有孔中心管(長さ:1020mm、径:30mm、孔数40個×直線状1列)にスパイラル状に巻囲した。巻囲後、外周にフィルムを巻き付け、テープで固定した後に、エッジカット、端板の取り付け、フィラメントワインディングを行うことで、海水淡水化用RO膜および低圧RO膜を用いたI型分離膜エレメントを作製した。
(原液)
原液を人工透析廃液とした。原液中の成分は塩類(10000mg/Lうちカリウムイオン100mg/L)、尿素(630mg/L)である。
(実施例1)
作成した分離膜エレメントに端板およびブラインシールを取り付け、圧力容器に入れ分離膜モジュール1および分離膜モジュール2を1本ずつ得た。
図2のようにポンプおよびバルブを用意し、配管接続を行った。システム全体の水の回収率が97%、尿素除去率が70%前後になるようにバルブを調整し、表1に示す条件で評価を行ったところ、結果は表1に示すようであった。
(実施例2)
モジュール1と2に使用する分離膜対の幅が465mmであること以外は実施例1と同様の分離膜モジュールを用意した。作成した分離膜エレメントに端板およびブラインシールを取り付け、圧力容器に入れ分離膜モジュール1および分離膜モジュール2を1本ずつ得た。
図1のようにポンプおよびバルブを用意し、配管接続を行った。システム全体の水の回収率が97%、尿素除去率が70%前後になるようにバルブを調整し、表1に示す条件で評価を行ったところ、結果は表1に示すようであった。なお、分離膜モジュール2の透過液の循環比は0.85であった。分離膜モジュール2の透過液が一部精製液に行くことでモジュール1と2への水量が減り、実施例1の半分の膜面積でシステムを成立することができる。
(実施例3)
逆浸透膜モジュール1に使用する逆浸透膜をCA膜とした以外は実施例1と同様の逆浸透膜モジュールを用意した。作成した逆浸透膜エレメントに端板およびブラインシールを取り付け、圧力容器に入れ逆浸透膜モジュール1および逆浸透膜モジュール2を1本ずつ得た。
図1のようにポンプおよびバルブを用意し、配管接続を行った。システム全体の水の回収率が97%、尿素除去率が70%前後になるようにバルブを調整し、表1に示す条件で評価を行ったところ、結果は表1に示すようであった。なお、逆浸透膜モジュール2の透過液の循環比は0.95であった。
(実施例4)
分離膜モジュール2に使用する分離膜をPA膜Eとした以外は実施例1と同様の分離膜モジュールを用意した。作成した分離膜エレメントに端板およびブラインシールを取り付け、圧力容器に入れ分離膜モジュール1および分離膜モジュール2を1本ずつ得た。
図1のようにポンプおよびバルブを用意し、配管接続を行った。システム全体の水の回収率が97%、尿素除去率が70%前後になるようにバルブを調整し、表1に示す条件で評価を行ったところ、結果は表1に示すようであった。なお、分離膜モジュール2の透過液の循環比は0.95であった。
(実施例5)
分離膜モジュール1に使用する分離膜をPA膜Bとした以外は実施例1と同様の分離膜モジュールを用意した。作成した分離膜エレメントに端板およびブラインシールを取り付け、圧力容器に入れ分離膜モジュール1および分離膜モジュール2を1本ずつ得た。
図1のようにポンプおよびバルブを用意し、配管接続を行った。システム全体の水の回収率が97%、尿素除去率が70%前後になるようにバルブを調整し、表1に示す条件で評価を行ったところ、結果は表1に示すようであった。なお、分離膜モジュール2の透過液の循環比は0.85であった。
(実施例6)
分離膜モジュール1に使用する分離膜をPA膜Cとした以外は実施例1と同様の分離膜モジュールを用意した。作成した分離膜エレメントに端板およびブラインシールを取り付け、圧力容器に入れ分離膜モジュール1および分離膜モジュール2を1本ずつ得た。
図1のようにポンプおよびバルブを用意し、配管接続を行った。システム全体の水の回収率が90%、尿素除去率が70%前後になるようにバルブを調整し、表1に示す条件で評価を行ったところ、結果は表1に示すようであった。なお、分離膜モジュール2の透過液の循環比は0.90であった。
(実施例7)
実施例1と同様の分離膜モジュールを用意した。作成した分離膜エレメントに端板およびブラインシールを取り付け、圧力容器に入れ分離膜モジュール1および分離膜モジュール2を1本ずつ得た。
図1のようにポンプおよびバルブを用意し、配管接続を行った。システム全体の水の回収率が75%、尿素除去率が60%前後になるようにバルブを調整し、表1に示す条件で評価を行ったところ、結果は表1に示すようであった。なお、分離膜モジュール2の透過液の循環比は0.60であった。
【0012】
【0013】
(比較例1)
実施例1と同様の分離膜モジュールを用意した。
図1のようにポンプおよびバルブを用意し、配管接続を行った。分離膜モジュール2の透過液のすべてを分離膜モジュール1の濃縮液と混合し(すなわち分離膜モジュール2の透過液の分離膜モジュール1の原液への循環を行わない)、精製液とするように透過液循環バルブを調整した。装置の最大運転圧力は5.5MPaなので、最大運転圧力が5.5MPaになるようにバルブを調整し、表2に示す条件で評価を行ったところ、結果は表2に示すようであった。システム全体の尿素除去率をあげるためには、分離膜モジュール1における尿素透過率を上げるために分離膜モジュール1の回収率を上げる必要があるが、
図1の透析廃液処理方法において循環を行わない場合は分離膜モジュール1の浸透圧差が高くなり5.5MPaでも十分な有効圧が得られず、尿素の除去率が得られない。
【0014】
【0015】
(比較例2)
分離膜モジュール1に使用する分離膜をPA膜Fとした以外は実施例1と同様の分離膜モジュールを用意した。
図1のようにポンプおよびバルブを用意し、配管接続を行った。システム全体の水の回収率が90%、装置の最大運転圧力は5.5MPaなので、最大運転圧力が5.5MPaになるようにバルブを調整し、表2に示す条件で評価を行ったところ、結果は表2に示すようであった。分離膜モジュール1における尿素透過率が低いので、システム全体の尿素除去率をあげるためには分離膜モジュール1の回収率を上げる必要があるが、分離膜モジュール1の浸透圧差が高くなり、5.5MPaでも十分な有効圧が得られず、尿素の除去率が得られない。
(比較例3)
分離膜モジュール2に使用する分離膜をPA膜Gとした以外は実施例1と同様の分離膜モジュールを用意した。
図1のようにポンプおよびバルブを用意し、配管接続を行った。システム全体の水の回収率が90%、装置の最大運転圧力は5.5MPaなので、最大運転圧力が5.5MPaになるようにバルブを調整し、表2に示す条件で評価を行ったところ、結果は表2に示すようであった。水の回収率を90%以上にしようとすると分離膜2の孔径が大きいため尿素除去率が低く、分離膜モジュール1の回収率を上げる必要があるが、5.5MPaでも尿素の除去率が得られない。
(比較例4)
分離膜モジュール1に使用する分離膜をPA膜Dとした以外は実施例1と同様の分離膜モジュールを用意した。
図3のようにポンプおよびバルブを用意し、配管接続を行った。システム全体の水の回収率が90%になるようにバルブを調整し、表2に示す条件で評価を行ったところ、結果は表2に示すようであった。分離膜モジュール1の濃縮液をすべて排出してしまうため、電解質回収率が1%以下となる。
(比較例5)
分離膜モジュール1に使用する分離膜をPA膜Dとした以外は実施例1と同様の分離膜モジュールを用意した。
図4のようにポンプおよびバルブを用意し、配管接続を行った。システム全体の水の回収率が90%になるようにバルブを調整し、表2に示す条件で評価を行ったところ、結果は表2に示すようであった。分離膜モジュール1の濃縮液をすべて排出してしまうため、電解質回収率が1%以下となる。