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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022183508
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】制振装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/03 20060101AFI20221206BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20221206BHJP
   F16F 9/46 20060101ALI20221206BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
F16F15/03 G
F16F15/02 L
F16F15/02 E
F16F9/46
E04H9/02 351
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021090863
(22)【出願日】2021-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(74)【代理人】
【識別番号】100089875
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】馮 徳民
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
3J069
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139BA10
2E139BA12
2E139BA53
2E139BA66
2E139CA02
2E139CA21
3J048AA06
3J048AA07
3J048AC01
3J048AC04
3J048AD01
3J048BE03
3J048BE12
3J048BG04
3J048CB12
3J048CB21
3J048EA38
3J069AA50
3J069EE36
(57)【要約】
【課題】発生した地震動に対して時間遅れを生じることなく効果的に地震エネルギーを減衰させる上で有利な制振装置を提供する。
【解決手段】地震動検出部20で検出された地震動情報のうち、最初に到達するP波に相当する部分に基づいて地震動学習モデル22AからS波地震動情報を推定すると共に、推定されたS波地震動情報に基づいてエネルギー減衰部18Aの減衰量を制御するようにした。従来のように到達したS波地震動を検出し、その検出結果に応じてエネルギー減衰部18Aの減衰量を制御する場合に比較して、S波地震動により水平方向の力が建物に作用した場合、時間遅れを生じること無く、エネルギー減衰部18Aにより減衰力を発生させることができるため、地震エネルギーを確実に吸収でき、建物の揺れの低減を図る上で有利となる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部構造体上で上部構造体を支持する支持体と、前記下部構造体と前記上部構造体との間に設けられ地震エネルギーを減衰させる減衰量が制御可能に構成されたエネルギー減衰部とを備えた制振装置であって、
時間経過に伴う地震動の大きさの変化を地震動情報として検出する地震動検出部と、
前記地震動のうちP波に対応するP波地震動の時間経過に伴う大きさの変化を示すP波地震動情報と、前記地震動のうちS波に対応するS波地震動の時間経過に伴う大きさの変化を示すS波地震動情報との関係を規定する地震動学習モデルと、
前記地震動検出部で検出された前記地震動情報のうちP波に相当する部分に基づいて前記地震動学習モデルから前記S波地震動情報を推定する地震動推定部と、
前記地震動推定部により推定された前記S波地震動情報に基づいて前記エネルギー減衰部の前記減衰量を制御する減衰量制御部と、
を備えることを特徴とする制振装置。
【請求項2】
前記支持体は滑り支承を含んで構成され、
前記滑り支承は、前記下部構造体に設けられた上向きの滑り面と、前記上部構造体に設けられ前記上向きの滑り面で支持される下向きの滑り面とを備え、
前記2つの滑り面のうちの一方の滑り面は、磁石に吸着される磁性材料で形成されると共に、他方の滑り面は、磁力が透過する材料で形成され、
前記一方の滑り面に対して磁力を発生させる磁力発生部が設けられ、
前記エネルギー減衰部は、前記一方のすべり面と前記他方のすべり面と前記磁力発生部で構成され、
前記減衰量制御部による前記減衰量の制御は、前記磁力発生部により発生する磁力を制御することでなされる、
ことを特徴とする請求項1記載の制振装置。
【請求項3】
前記エネルギー減衰部は、減衰力可変ダンパーで構成され、
前記減衰量制御部による前記減衰量の制御は、前記減衰力可変ダンパーの減衰力を制御することでなされる、
ことを特徴とする請求項1記載の制振装置。
【請求項4】
前記地震動検出部で検出された前記地震動情報に基づいて前記地震動学習モデルの学習を行なわせる地震動モデル学習部を備える、
ことを特徴とする請求項1から3の何れか1項記載の制振装置。
【請求項5】
前記地震動検出部は、検出する加速度の方向が鉛直方向に設定された1軸の加速度センサで構成されている、
ことを特徴とする請求項1から4の何れか1項記載の制振装置。
【請求項6】
前記地震動検出部は、検出する加速度の方向が水平面内で互いに直交する2方向となる2軸の加速度センサで構成されている、
ことを特徴とする請求項1から4の何れか1項記載の制振装置。
【請求項7】
前記地震動検出部は、検出する加速度の方向が鉛直方向と水平面内で互いに直交する2方向となる3軸の加速度センサで構成されている、
ことを特徴とする請求項1から5の何れか1項記載の制振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
建物である上部構造体と建物の基礎をなす下部構造体との間に複数の滑り支承を設け、各滑り支承の一方の滑り面を磁石に吸着される磁性材料で形成し、他方の滑り面に磁性材料に対して磁力を発生させる磁力発生部を設けると共に、地震動の大きさをセンサで検出し、その検出結果に応じて磁力発生部で発生する磁力を制御することで建物に作用する地震エネルギーを減衰させるようにした技術が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-153501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術では、センサで地震動が検出されてから磁力発生部で発生する磁力を制御するため、発生する地震動に対して磁力発生部で発生する磁力に時間遅れが生じることから、発生した地震動の地震エネルギーを効果的に減衰させる上で改善の余地がある。
本発明は前記事情に鑑み案出されたもので、本発明の目的は、発生した地震動に対して時間遅れを生じることなく効果的に地震エネルギーを減衰させる上で有利な制振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した目的を達成するために、本発明の一実施の形態は、下部構造体上で上部構造体を支持する支持体と、前記下部構造体と前記上部構造体との間に設けられ地震エネルギーを減衰させる減衰量が制御可能に構成されたエネルギー減衰部とを備えた制振装置であって、時間経過に伴う地震動の大きさの変化を地震動情報として検出する地震動検出部と、前記地震動のうちP波に対応するP波地震動の時間経過に伴う大きさの変化を示すP波地震動情報と、前記地震動のうちS波に対応するS波地震動の時間経過に伴う大きさの変化を示すS波地震動情報との関係を規定する地震動学習モデルと、前記地震動検出部で検出された前記地震動情報のうちP波に相当する部分に基づいて前記地震動学習モデルから前記S波地震動情報を推定する地震動推定部と、前記地震動推定部により推定された前記S波地震動情報に基づいて前記エネルギー減衰部の前記減衰量を制御する減衰量制御部とを備えることを特徴とする。
また、本発明の一実施の形態は、前記支持体は滑り支承を含んで構成され、前記滑り支承は、前記下部構造体に設けられた上向きの滑り面と、前記上部構造体に設けられ前記上向きの滑り面で支持される下向きの滑り面とを備え、前記2つの滑り面のうちの一方の滑り面は、磁石に吸着される磁性材料で形成されると共に、他方の滑り面は、磁力が透過する材料で形成され、前記一方の滑り面に対して磁力を発生させる磁力発生部が設けられ、前記エネルギー減衰部は、前記一方のすべり面と前記他方のすべり面と前記磁力発生部で構成され、前記減衰量制御部による前記減衰量の制御は、前記磁力発生部により発生する磁力を制御することでなされることを特徴とする。
また、本発明の一実施の形態は、前記エネルギー減衰部は、減衰力可変ダンパーで構成され、前記減衰量制御部による前記減衰量の制御は、前記減衰力可変ダンパーの減衰力を制御することでなされることを特徴とする。
また、本発明の一実施の形態は、前記地震動検出部で検出された前記地震動情報に基づいて前記地震動学習モデルの学習を行なわせる地震動モデル学習部を備えることを特徴とする。
また、本発明の一実施の形態は、前記地震動検出部は、検出する加速度の方向が鉛直方向に設定された1軸の加速度センサで構成されていることを特徴とする。
また、本発明の一実施の形態は、前記地震動検出部は、検出する加速度の方向が水平面内で互いに直交する2方向となる2軸の加速度センサで構成されていることを特徴とする。
また、本発明の一実施の形態は、前記地震動検出部は、検出する加速度の方向が鉛直方向と水平面内で互いに直交する2方向となる3軸の加速度センサで構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の一実施の形態によれば、地震動検出部で検出された地震動情報のうち、最初に到達するP波に相当する部分に基づいて地震動学習モデルからS波地震動情報を推定すると共に、推定されたS波地震動情報に基づいてエネルギー減衰部の減衰量を制御するようにした。
したがって、従来のように到達したS波地震動を検出し、その検出結果に応じてエネルギー減衰部の減衰量を制御する場合に比較して、S波地震動により水平方向の力が建物に作用した場合、時間遅れを生じること無く、エネルギー減衰部により減衰力を発生させることができるため、地震エネルギーを確実に吸収でき、建物の揺れの低減を図る上で有利となる。
また、支持体を滑り支承で構成し、エネルギー減衰部を、滑り支承の一方のすべり面と他方のすべり面と磁力発生部で構成し、減衰量制御部による減衰量の制御を磁力発生部により発生する磁力を制御することでなされるようにすると、磁力発生部で発生する磁力を利用して、滑り面に吸引する方向の力が作用して滑り面が抵抗を受けることで、地震エネルギーを確実に吸収でき、建物の揺れの低減を図る上で有利となる。
また、エネルギー減衰部を減衰力可変ダンパーで構成し、減衰量の制御を減衰力可変ダンパーの減衰力を制御することでなされるようにすると、減衰力可変ダンパーにより、地震エネルギーを確実に吸収でき、建物の揺れの低減を図る上で有利となる。
また、地震動モデル学習部によって、地震動検出部で検出された地震動情報に基づいて地震動学習モデルの学習を行なわせるようにすると、地震動推定部による地震動の推定の精度を向上させる上で有利となり、地震エネルギーを確実に吸収する上で有利となり、建物の揺れの低減を図る上で有利となる。
また、地震動検出部を検出する加速度の方向が鉛直方向に設定された1軸の加速度センサで構成すると、安価な加速度センサで足り、制振装置のコスト低減を図る上で有利となる。
また、地震動検出部を、検出する加速度の方向が水平面内で互いに直交する2方向となる2軸の加速度センサで構成すると、検出するP地震動情報の精度を上げることができるため、地震動推定部による地震動の推定の精度を向上させることができ、地震エネルギーを確実に吸収でき、建物の揺れの低減を図る上で有利となる。
また、地震動検出部を、検出する加速度の方向が鉛直方向と水平面内で互いに直交する2方向となる3軸の加速度センサで構成すると、検出するP地震動情報の精度をより上げることができるため、地震動推定部による地震動の推定の精度を向上させることができ、地震エネルギーを確実に吸収でき、建物の揺れの低減を図る上でより有利となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】(A)は第1の実施の形態の制振装置の側面図、(B)は下部構造体の平面図である。
図2】第1の実施の形態の制振装置の制御系の構成を示すブロック図である。
図3】第1の実施の形態の制振装置の動作フローチャートである。
図4】第2の実施の形態の制振装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(第1の実施の形態)
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
まず、図1を参照して第1の実施の形態から説明する。
制振装置10Aは、建物の基礎をなす下部構造体14上で建物である上部構造体12を支持する複数の支持体16と、エネルギー減衰部18Aと、地震動検出部20と、制御装置22とを備えている。
本実施の形態では、支持体16は、複数の滑り支承24と、不図示の複数の免震積層ゴムとを含んで構成されている。
滑り支承24は、下部構造体14に設けられた上向きの滑り面26と、上部構造体12に設けられ上向きの滑り面26で支持される下向きの滑り面28と、磁力発生部30とを含んで構成されている。
複数の滑り支承24はそれら滑り面26、28を介して上部構造体12の荷重を支持し、また、上部構造体12を下部構造体14上で移動可能に支持している。
下向きの滑り面28は、上向きの滑り面26の輪郭よりも小さく、下向きの滑り面28は上向きの滑り面26の中央部2602に位置し、上部構造体12または下部構造体14に水平方向の力が作用したときに、下向きの滑り面28は上向きの滑り面26の中央部2602からその周囲の外周部2604に向かって滑動する。
【0009】
下向きの滑り面28は、上部構造体12の下面1202に取り付けられた脚部32の下面に設けられている。本実施の形態では、脚部32は磁石に吸着される磁性材料で構成され、下向きの滑り面28は摩擦係数が小さく形成されている。
このような磁性材料として、鉄やニッケル合金など磁石に吸着する従来公知の様々な金属材料が使用可能である。
脚部32は、上部構造体12の下面1202にボルトで取着されるフランジ3202と、フランジ3202の中央部から突設された柱部3204とを備えている。
そして、柱部3204の下端面が、平坦で平滑な下向きの滑り面28に形成されている。
【0010】
上向きの滑り面26は、下部構造体14の上面1402に設けられている。
下部構造体14はコンクリート製で、下部構造体14の上面1402に平面視円形の凹部1404が設けられ、上向きの滑り面26は、この凹部1404に取着された滑り部材34の上面で構成され、上向きの滑り面26は摩擦係数が小さく形成されている。
滑り部材34は、磁力を透過する低摩擦材料から形成され、このような磁力を透過する低摩擦材料として、例えば、ポリテトラフルオロチレンを主成分とする合成樹脂材料など従来公知の様々な合成樹脂材料が使用可能である。
上向きの滑り面26は、円形の中央部2602とその外周に位置する円環状の外周部2604とで構成され、上向きの滑り面26の中央部2602は、下向きの滑り面28の直径よりも大きい直径で形成されている。したがって、上向きの滑り面26の中央部2602の輪郭は、下向きの滑り面28の輪郭よりも大きい。
【0011】
磁力発生部30は、上向きの滑り面26に設けられ、下向きの滑り面28に対して磁力を発生させるものであり、本実施の形態では、磁力発生部30は、上向きの滑り面26の外周部2604に設けられている。
磁力発生部30により磁力を発生させると、この磁力により下向きの滑り面28は上向きの滑り面26に向かって吸引される。
磁力発生部30は、外周部2604で中央部2602の中心を中心とした仮想円周上に周方向に等間隔をおいて配置された複数のコイル36からなるコイル環状列38によって構成されている。各コイル36は、後述する減衰量制御部22Cから電流が供給されることで磁力を発生させる電磁石である。また、複数のコイル36は、滑り部材34に埋め込まれて配置されている。
本実施の形態では、コイル環状列38は、中央部2602の中心からの半径を異ならせて複数設けられており、コイル環状列38は、第1コイル環状列38Aと、第1コイル環状列38Aよりも中央部2602の中心からの半径が大きい第2コイル環状列38Bの2つ設けられている。
なお、磁力発生部30を構成するコイル環状列38は、2列に限定されず、1列であっても、3列以上であっても良い。
本実施の形態では、一方のすべり面26と他方のすべり面38と磁力発生部30によって、下部構造体14と上部構造体12との間に設けられ地震エネルギーを減衰させる減衰量が制御可能に構成されたエネルギー減衰部18Aが構成されている。
【0012】
本実施の形態では外周部2604で中央部2602の中心を中心とした仮想円周上に周方向に等間隔をおいて配置された複数のコイル36からなるコイル環状列38によって構成されているので、建物に作用する水平方向の力の方向に拘わらず、外周部2604から下向きの滑り面28に安定して磁力を作用させることができるので、下向きの滑り面28が外周部2604からより安定して抵抗を受けることになり、滑り支承24によって地震エネルギーを減衰させ、地震による建物の揺れを抑制する上で有利となる。
また、本実施の形態では、複数の第1コイル環状列38A、第2コイル環状列38Bが中央部2602からの半径を異ならせて設けられているので、建物の水平方向への変位量が大きくなっても確実に外周部2604から下向きの滑り面28に安定して磁力を作用させることができるので、下向きの滑り面28が外周部2604からより安定して抵抗を受けることになり、滑り支承24によって地震エネルギーを減衰させ、地震による建物の揺れを抑制する上で有利となる。
【0013】
地震動検出部20は、時間経過に伴う地震動の大きさの変化を地震動情報として検出するものであり、本実施の形態では下部構造体14に設けられている。
地震動検出部20は、上部構造体12、あるいは、下部構造体14の近傍の地盤に設けられていてもよい。
本実施の形態では、地震動検出部20は、検出する加速度の方向が鉛直方向に設定された1軸の加速度センサで構成され、時間経過に伴う鉛直方向の地震動の加速度の変化を地震動情報として検出し、検出した地震動情報を後述する制御装置22に供給する。
地震動検出部20は、地震動のうち最初に到達するP波(初期微動)の地震動を検出すれば足りるため、1軸の加速度センサであってもよい。
1軸の加速度センサであればコストが安価で済む利点がある。
なお、地震動検出部20を、検出する加速度の方向が水平面内で互いに直交する2方向となる2軸の加速度センサ、あるいは、検出する加速度の方向が鉛直方向と水平面内で互いに直交する2方向となる3軸の加速度センサで構成してもよいことは無論である。
また、地震動検出部20は、地震動の変位を計測する変位計で構成してもよく、その場合、地震動情報は時間経過に伴う地震動の変位の変化である。
また、地震動検出部20は、地震動の速度を検出する速度計で構成してもよく、その場合、地震動情報は時間経過に伴う地震動の速度の変化である。
【0014】
図2に示すように、制御装置22は、CPU、記憶部、インターフェース回路などを含むマイクロコンピュータを含んで構成され、記憶部にはCPUが実行する制御プログラムが格納されている。
そして、CPUが制御プログラムを実行することにより、地震動学習モデル22A、地震動推定部22B、減衰量制御部22C、地震動モデル学習部22Dが実現される。
【0015】
地震動学習モデル22Aは、地震動のうちP波に対応するP波地震動の時間経過に伴う大きさの変化を示すP波地震動情報と、地震動のうちS波に対応するS波地震動の時間経過に伴う大きさの変化を示すS波地震動情報との関係を規定するものである。
P波地震動とは、初期微動に対応する地震動であり、最初に到達する地震動であり、揺れの大きさが比較的小さなものである。
S波地震動とは、主要動に対応する地震動であり、P波地震動に続いて到達する地震動であり、揺れの大きさが初期微動よりも大きい。
過去に発生した多数の地震動の地震波形データを集めて解析することにより、地震動学習モデル22Aが作成される。
このような過去に発生した地震動の地震波形データは、例えば、気象庁などの各種観測機関によって蓄積されたデータベースに登録されているものを利用すればよい。
地震波形データは、時系列データであり、時間経過に伴って変化する地震動の加速度、あるいは、速度、あるいは、変位(振幅)のデータである。
具体的には、地震波形データは、横軸に経過時間、縦軸に地震動の加速度、あるいは、速度、あるいは、変位(振幅)をとった線図で表現される。
本実施の形態では、地震動学習モデル22Aは、地震動の加速度の時間的な変化を示す地震波形データに基づいて、P波地震動情報およびS波地震動情報との関係を規定する。
P波地震動情報およびS波地震動情報は、地震動の加速度で示されたものに限定されず、地震動の変位あるいは地震動の速度で示されたものであってもよい。
【0016】
地震動推定部22Bは、地震動検出部20で検出された地震動情報のうちP波に相当する部分に基づいて地震動学習モデル22AからS波地震動情報を推定するものである。
【0017】
地震動モデル学習部22Dは、地震動検出部20で検出された地震動情報に基づいて地震動学習モデル22Aの学習を行なわせるものである。
前述したように地震動情報は、地震動の加速度、地震動の変位、地震動の速度の何れで示されるものであってもよく、本実施の形態では地震動の加速度で示される。
【0018】
減衰量制御部22Cは、地震動推定部22Bにより推定されたS波地震動情報に基づいてエネルギー減衰部18Aの減衰量を制御するものである。
本実施の形態では、減衰量制御部22Cは、地震動推定部22Bにより推定されたS波地震動情報(加速度の変化)に基づいてエネルギー減衰部18Aの減衰量を制御する。
すなわち、減衰量制御部22Cは、推定されたS波地震動が大きければ大きいほど、エネルギー減衰部18Aの減衰量が大きくなるように制御する。
具体的に説明すると、減衰量制御部22Cは、推定されたS波地震動情報に基づいてコイル36に対する通電量(電流)を制御し、下向きの滑り面28に対して発生する磁力を制御する。
この場合、推定されたS波地震動が大きければ大きいほど、複数のコイル36に通電する通電量が大きくなるように制御する。
【0019】
また、本実施の形態では、減衰量制御部22Cは、外周部2604において中央部2602の中心から距離が離れるほど磁力発生部30から発生する磁力を次第に大きくするように磁力発生部30を制御する。言い換えると、減衰量制御部22Cは、中央部2602の中心から距離が離れるほどコイル環状列38毎に複数のコイル36から発生する磁力を次第に大きくするように磁力発生部30を制御する。すなわち、第1コイル環状列38Aの磁力よりも第2コイル環状列38Bの磁力が大きくなるように制御する。
すなわち、外周部2604において中央部2602の中心から距離が離れるほど各コイル環状列38から発生する磁力を次第に大きくし、かつ、上部構造体12または下部構造体14の振動量が大きくなるほど各コイル環状列38から発生する磁力を次第に大きくするように磁力発生部30を制御する。
このようにすると、地震などにより大きい水平方向の力が建物に作用した場合には、下向きの滑り面28が、上向きの滑り面26の中央部2602から離れれば離れるほど、言い換えると、建物の水平方向への変位量が大きくなればなるほど、上向きの滑り面26が外周部2604から受ける抵抗が大きくなり、滑り支承24によって地震エネルギーを大きく減衰させる上で有利となる。
したがって、大きい水平方向の力が建物に作用した場合、より大きな減衰力により建物の揺れを抑制する上でより有利となる。
なお、本実施の形態では、支持体16が滑り支承24に加えて免震積層ゴムを含んで構成されているため、地震動が建物(下部構造体14)に到達した際に、不図示の免震積層ゴムが剪断変形するとことよっても地震動が抑制される。
【0020】
次に図3のフローチャートを参照して制振装置10Aの動作を説明する。
地震動検出部20の動作が開始される(ステップS10)。
地震発生により、地震動検出部20により地震動情報が検出され、地震動情報が制御装置22に供給される(ステップS12)。
地震動推定部22Bは、地震動検出部20で検出された地震動情報のうちP波に相当する部分に基づいて地震動学習モデル22AからS波地震動情報を推定する(ステップS14)。
減衰量制御部22Cは、地震動推定部22Bにより推定されたS波地震動情報に基づいてエネルギー減衰部18Aの減衰量を制御する(ステップS16)。この制御はS波地震動情報に含まれているS波地震動が継続する時間に相当する時間なされる。
すなわち、P波地震動に続いて到達したS波地震動により水平方向の力が建物に作用するとほぼ同時に、減衰量制御部22Cにより磁力発生部30から磁力を発生させる。すなわち、上向きの滑り面26の外周部2604に設けられた各環状コイル列32の複数のコイル36から磁力を発生させる。
この磁力は、下向きの滑り面28を上向きの滑り面26に向かって吸引する力として作用するため、下向きの滑り面28が外周部2604から抵抗を受けることになり、地震エネルギーが減衰され、地震による建物の揺れが抑制される。
したがって、S波地震動により水平方向の力が建物に作用した場合、時間遅れを生じること無く、あるいは、ほぼ時間遅れを生じること無く、エネルギー減衰部18Aにより減衰力を発生させることができる。
なお、地震動が建物(下部構造体14)に到達した際に、下向きの滑り面28が、上向きの滑り面26の中央部2602から外周部2604に移動することで滑り面同士の摩擦力が発生することによっても地震動が抑制されることは無論である。
また、地震動モデル学習部22Dは、地震動検出部20で検出された地震動情報に基づいて地震動学習モデル22Aの学習を行なわせる(ステップS18)。
減衰量制御部22CによるS波地震動情報に基づいたエネルギー減衰部18Aの制御が終了すると、言い換えると、地震動が収束すると、ステップS10に戻り、地震動検出部20による地震動の検出が再開される。
【0021】
本実施の形態によれば、地震動検出部20で検出された地震動情報のうち、最初に到達するP波に相当する部分に基づいて地震動学習モデル22AからS波地震動情報を推定すると共に、推定されたS波地震動情報に基づいてエネルギー減衰部18Aの減衰量を制御するようにした。
したがって、従来のように到達したS波地震動を検出し、その検出結果に応じてエネルギー減衰部18Aの減衰量を制御する場合に比較して、S波地震動により水平方向の力が建物に作用した場合、時間遅れを生じること無く、エネルギー減衰部18Aにより減衰力を発生させることができるため、地震エネルギーを確実に吸収でき、建物の揺れの低減を図る上で有利となる。
【0022】
また、本実施の形態では、エネルギー減衰部18Aは、一方のすべり面26と他方のすべり面28と磁力発生部30で構成され、減衰量制御部22Cによる減衰量の制御は、磁力発生部30により発生する磁力を制御することでなされる。
そのため、磁力発生部30で発生する磁力を利用して、滑り面に吸引する方向の力が作用して滑り面が抵抗を受けることで、地震エネルギーを確実に吸収でき、建物の揺れの低減を図る上で有利となる。
【0023】
また、本実施の形態では、地震動モデル学習部22Dによって、地震動検出部20で検出された地震動情報に基づいて地震動学習モデル22Aの学習を行なわせるようにしたので、地震動が検出されるたびに、地震動学習モデル22Aの精度が向上し、地震動推定部22Bによる地震動の推定の精度を向上させることができ、地震エネルギーを確実に吸収する上で有利となり、建物の揺れの低減を図る上で有利となる。
【0024】
また、本実施の形態では、地震動検出部20は、検出する加速度の方向が鉛直方向に設定された1軸の加速度センサで構成されているので、安価な加速度センサで足り、制振装置10Aのコスト低減を図る上で有利となる。
また、地震動検出部20を、検出する加速度の方向が水平面内で互いに直交する2方向となる2軸の加速度センサで構成してもよく、その場合は、検出するP地震動情報の精度を上げることができるため、地震動推定部22Bによる地震動の推定の精度を向上させることができ、地震エネルギーを確実に吸収でき、建物の揺れの低減を図る上で有利となる。
また、検出するP地震動情報の精度を上げることができるため、地震動学習モデル22Aの精度が向上し、地震動推定部22Bによる地震動の推定の精度を向上させることができ、地震エネルギーを確実に吸収でき、建物の揺れの低減を図る上で有利となる。
また、地震動検出部20を、検出する加速度の方向が鉛直方向と水平面内で互いに直交する2方向となる3軸の加速度センサで構成してもよく、その場合は、検出するP地震動情報の精度をより上げることができるため、地震動推定部22Bによる地震動の推定の精度を向上させることができ、地震エネルギーを確実に吸収でき、建物の揺れの低減を図る上でより有利となる。
また、検出するP地震動情報の精度をより上げることができるため、地震動学習モデル22Aの精度が向上し、地震動推定部22Bによる地震動の推定の精度をより向上させることができ、地震エネルギーを確実に吸収でき、建物の揺れの低減を図る上でより有利となる。
【0025】
(第2の実施の形態)
次に、図4を参照して第2の実施の形態について説明する。
なお、以下の実施の形態において第1の実施の形態と同様の部分、部材については同一の符号を付してその説明を省略し、異なる部分について重点的に説明する。
第2の実施の形態は、支持体16およびエネルギー減衰部18Bの構成が第1の実施の形態と異なっており、制御装置22は第1の実施の形態と同様である。
図4に示すように、下部構造体14上で上部構造体12を支持する支持体16は、複数の免震積層ゴム40で構成されている。
免震積層ゴム40は、上部構造体12を支持しつつ、地震発生時には上部構造体12を水平方向に移動させることで、地震による地盤の揺れを上部構造体12に伝えにくくする。
なお、免震積層ゴム40に代えて滑り支承で支持体16を構成してもよいことは無論である。
【0026】
第2の実施の形態では、エネルギー減衰部18Bは、減衰力(減衰量)が制御可能な減衰力可変ダンパー42で構成されている。
本実施の形態では、減衰力可変ダンパー42として、オイルダンパーにおけるオイルの流路に電気的に開度が調整可能な可変バルブを設け、可変バルブの開度をアクチュエータを用いて電気的に制御することでオイルの流路の断面積を制御することにより、減衰力(減衰量)を制御できるようにしたものを用いる。
減衰力可変ダンパー42は、オイル(作動油)が封入されたシリンダ4202と、シリンダ4202内部で移動可能に設けられたピストン(不図示)と、ピストンに設けられた可変バルブ(不図示)と、一端がピストンに取り付けられ、他端がシリンダ4202の一端から突出して出没するピストンロッド4204とを備えている。
ピストンロッド4204の他端には取り付け部材4204Aが取り付けられ、取り付け部材4204Aは、シリンダ4202の軸心方向と直交する鉛直方向に延在する軸44Bを介して軸44Bの周りに揺動可能な状態で下部構造体14の上面1402に取り付けられた保持部材1410に連結されている。
ピストンロッド4204の他端と反対側に位置するシリンダ4202の端部には、取り付け部材4202Aが取り付けられ、取り付け部材4202Aは、シリンダ4202の軸心方向と直交する鉛直方向に延在する軸44Aを介して軸44A周りに揺動可能な状態で上部構造体12の下面1202に取り付けられた保持部材1210に連結されている。
【0027】
第2の実施の形態では、減衰量制御部22Cが可変バルブに制御信号を与えて可変バルブの開度を制御することでオイルの流路の断面積を制御し、これにより減衰力可変ダンパー42の減衰力(減衰量)を制御する。
そして、第1の実施の形態と同様に、地震動検出部20で検出された地震動情報のうち、最初に到達するP波に相当する部分に基づいて地震動推定部22Bが地震動学習モデル22AからS波地震動情報を推定すると共に、減衰量制御部22Cは推定されたS波地震動情報に基づいてエネルギー減衰部18Bの減衰量を制御する。
【0028】
次に、図3のフローチャートを流用して制振装置10Bの動作を説明する。
ステップS10からS14の動作は第1の実施の形態と同様であるため、説明を省略する。
ステップS16において、減衰量制御部22Cは、地震動推定部22Bにより推定されたS波地震動情報に基づいてエネルギー減衰部18Aの減衰量を制御する。この制御はS波地震動情報に含まれているS波地震動が継続する時間に相当する時間なされる。
すなわち、P波地震動に続いて到達したS波地震動により水平方向の力が建物に作用するとほぼ同時に、減衰量制御部22Cにより減衰力可変ダンパー42の可変バルブの開度を電気的に制御することでオイルの流路の断面積を制御することにより、減衰力を制御する。
これにより、減衰力可変ダンパー42により、地震エネルギーが減衰され、地震による建物の揺れが抑制される。
したがって、S波地震動により水平方向の力が建物に作用した場合、時間遅れを生じること無く、エネルギー減衰部18Bにより減衰力を発生させることができる。
また、ステップS18において地震動モデル学習部22Dは、地震動検出部20で検出された地震動情報に基づいて地震動学習モデル22Aの学習を行なわせる点は第1の実施の形態と同様である。
減衰量制御部22CによるS波地震動情報に基づいたエネルギー減衰部18Bの制御が終了すると、言い換えると、地震動が収束すると、ステップS10に戻り、地震動検出部20による地震動の検出が再開される。
【0029】
したがって、第1の実施の形態と同様に、S波地震動により水平方向の力が建物に作用した場合、時間遅れを生じること無く、エネルギー減衰部18Bにより減衰力を発生させることができるため、地震エネルギーを確実に吸収でき、建物の揺れの低減を図る上で有利となるという効果が奏される。
【0030】
なお、第2の実施の形態では、減衰力可変ダンパー42として可変バルブの開度を制御することで減衰力(減衰量)を制御するものを用いた場合について説明したが、オイルダンパーのオイルに代えて印加される磁場に応じて粘性が変化する磁気粘性流体を用い、磁気粘性流体に印加する磁場の強さを制御することで流路を流通する磁気粘性流体の粘性を制御することにより、減衰力(減衰量)を制御できるようにした減衰力可変ダンパーを用いてもよく、従来公知の様々な減衰力可変ダンパーを用いることができる。
【符号の説明】
【0031】
10A、10B 制振装置
12 上部構造体
1202 下面
1210 保持部材
14 下部構造体
1402 上面
1404 凹部
1410 保持部材
16 支持体
18A、18B エネルギー減衰部
20 地震動検出部
22 制御装置
22A 地震動学習モデル
22B 地震動推定部
22C 減衰量制御部
22D 地震動モデル学習部
24 滑り支承
26 上向きの滑り面
2602 中央部
2604 外周部
28 下向きの滑り面
30 磁力発生部
32 脚部
3202 フランジ
3204 柱部
34 滑り部材
36 コイル
38 コイル環状列
38A 第1コイル環状列
38B 第2コイル環状列
40 免震積層ゴム
42 減衰力可変ダンパー
4202 シリンダ
4202A 取り付け部材
4204 ピストンロッド
4204A 取り付け部材
44A、44B 軸
図1
図2
図3
図4