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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022183511
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】積層体の製造方法および積層体
(51)【国際特許分類】
   B32B 13/00 20060101AFI20221206BHJP
   B32B 13/02 20060101ALI20221206BHJP
   B32B 13/14 20060101ALI20221206BHJP
   B28B 1/30 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
B32B13/00
B32B13/02
B32B13/14
B28B1/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021090867
(22)【出願日】2021-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 三馨
(72)【発明者】
【氏名】臼井 達哉
(72)【発明者】
【氏名】木ノ村 幸士
(72)【発明者】
【氏名】張 文博
【テーマコード(参考)】
4F100
4G052
【Fターム(参考)】
4F100AD11B
4F100AE01A
4F100AE01C
4F100AK21A
4F100AK21C
4F100AK47B
4F100AT00B
4F100BA03
4F100BA08
4F100DC16B
4F100DG01B
4F100DG03A
4F100DG03C
4F100EH23
4F100YY00B
4G052DA01
4G052DA08
4G052DB12
4G052DC06
(57)【要約】
【課題】曲げ強度を向上させた積層体の製造方法および積層体を提供することにある。
【解決手段】本発明に係る積層体1の製造方法は、セメント系材料により積層体1を製造する方法であって、前記セメント系材料で前記積層体1を形成する際に、少なくとも1つの層間3にメッシュ材4を設けることを特徴とする。また、本発明に係る積層体1は、セメント系材料で形成された積層体1であって、前記積層体1のうちの少なくとも1つの層間3にメッシュ材4が設けられていることを特徴とする。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント系材料により積層体を製造する方法であって、
前記セメント系材料で前記積層体を形成する際に、少なくとも1つの層間にメッシュ材を設けることを特徴とする積層体の製造方法。
【請求項2】
前記セメント系材料に短繊維を混入したことを特徴とする請求項1に記載の積層体の製造方法。
【請求項3】
前記メッシュ材は、厚みが0.01mm以上5mm以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の積層体の製造方法。
【請求項4】
前記メッシュ材が、連続繊維シートであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
【請求項5】
前記メッシュ材が、前記積層体の最外層となる1段目の層と前記1段目の層に積層される2段目の層との間に設けられることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
【請求項6】
前記積層体は、前記セメント系材料の押し出し方向が1層ごとに交差する互層となるように積層されることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
【請求項7】
セメント系材料で形成された積層体であって、
前記積層体のうちの少なくとも1つの層間にメッシュ材が設けられていることを特徴とする積層体。
【請求項8】
前記セメント系材料に短繊維を混入したことを特徴とする請求項7に記載の積層体。
【請求項9】
前記メッシュ材は、厚みが0.01mm以上5mm以下であることを特徴とする請求項7または請求項8に記載の積層体。
【請求項10】
前記メッシュ材が、連続繊維シートであることを特徴とする請求項7から請求項9のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項11】
前記メッシュ材が、前記積層体の最下層となる1段目の層と前記1段目の層の上に積層される2段目の層との間に設けられていることを特徴とする請求項7から請求項10のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項12】
前記積層体は、前記セメント系材料の押し出し方向が1層ごとに交差する互層となるように積層されていることを特徴とする請求項7から請求項11のいずれか1項に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体の製造方法および積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建設分野においても、セメント系材料を対象とした3Dプリンティング技術の開発が進められている。当該3Dプリンティング技術の一つに、高チクソトロピー性を有するセメント系材料を吐出して積層させる形式の建設用コンクリート3Dプリンタ(以下、建設3Dプリンタ)がある。建設3Dプリンタには、時間短縮、コスト削減、省力化、省人化、24時間施工、危険作業の無人化による安全性向上などの様々な利点が見込まれるため、その研究は益々盛んに行われている。
【0003】
建設3Dプリンタに関して、例えば、特許文献1に記載の技術が提案されている。
具体的には、特許文献1には、繊維入りコンクリート生成工程と、繊維補強コンクリート体施工工程と、を備える繊維補強コンクリート部材の製造方法が記載されている。ここで、前記繊維入りコンクリート生成工程は、未硬化状態のコンクリートまたはモルタルに複数の繊維を混入させて繊維入りコンクリートを生成する工程である。また、前記繊維補強コンクリート体施工工程は、前記繊維入りコンクリートを付加製造装置のノズルから所定の位置に押し出して繊維補強コンクリート体を施工する工程である。
【0004】
特許文献1に記載の技術では、繊維の配向を容易に制御し、これにより、プリント方向に沿った外力作用に対して、繊維による補強効果をより効率的に発揮させている。しかし、特許文献1に記載の技術には、曲げ強度を向上させることについて改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-2744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、曲げ強度を向上させた積層体の製造方法および積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明は以下の手段を有する。
本発明は、セメント系材料により積層体を製造する方法であって、前記セメント系材料で前記積層体を形成する際に、少なくとも1つの層間にメッシュ材を設ける積層体の製造方法とした。
また、本発明は、セメント系材料で形成された積層体であって、前記積層体のうちの少なくとも1つの層間にメッシュ材が設けられている積層体である。
本発明の積層体の製造方法および積層体によれば、メッシュ材が引張力を負担するので、メッシュ材を配置しない場合に比べて曲げ強度が向上する。また、本発明の積層体の製造方法および積層体では、メッシュ材を用いているため、積層体の層間の一体性が損なわれ難い。また、メッシュ材が2つの層に食い込むように存在することになるため、これが障害物となって層間で生じ得るずれを抑制する。
本発明の積層体の製造方法および積層体においては、前記セメント系材料に短繊維を混入することが好ましい。ここで、「短繊維」とは、セメント系材料に分散混入することを目的とした、鋼繊維、炭素繊維、ガラス繊維、プラスチック繊維などの短い繊維をいう。このようにすると、短繊維を混入することによる強度向上効果によって曲げ強度が向上し得る。
本発明の積層体の製造方法および積層体においては、前記メッシュ材は、厚みが0.01mm以上5mm以下であることが好ましい。メッシュ材の厚みをこのようにすると積層体の層間の一体性が損なわれ難く、また、層間で生じ得るずれをより確実に抑制することができる。従って、曲げ強度をより向上させることができる。
本発明の積層体の製造方法および積層体においては、前記メッシュ材は、連続繊維シートであることが好ましい。ここで、「連続繊維シート」とは、1本の太さが数μmから十数μm程度のフィラメントを多数束ねて、平面状の一方向または複数の方向に配列してシート状または織物状にしたものをいう。連続繊維シート、特に建築用連続繊維シートは引張強度が高いため、曲げ強度をより向上させることができる。
本発明の積層体の製造方法および積層体においては、前記メッシュ材が、前記積層体の最外層となる1段目の層と前記1段目の層に積層される2段目の層との間に設けられていることが好ましい。このようにすると、曲げ荷重によって1段目の層が引張縁となる場合であっても、引張縁に近い位置にメッシュ材が配置されるので、曲げ強度をより向上させることができる。
本発明の積層体の製造方法および積層体においては、前記積層体は、前記セメント系材料の押し出し方向が1層ごとに交差する互層となるように積層されることが好ましい。このようにすると、特定の方向の曲げに対して弱い・強いといった曲げ強度の偏りをなくし、積層体全体の曲げ強度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、曲げ強度を向上させた積層体の製造方法および積層体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係る積層体の製造方法の具体的な一例を示すフローチャートである。
図2】積層順に、第1層/メッシュ材/第2層という2層構成の積層体において、第2層目を形成している様子の一例を示す一部透視図である。
図3】(a)、(b)はいずれも、本実施形態における積層体の積層構造を説明する概略構成図である。
図4】本実施形態に係る積層体1の一構成例を示す断面図である。
図5】小型試験体の曲げ試験の概要を示す説明図である。図中の数値の単位はmmである。
図6】小型試験体の積層構造を説明する概略図であり、小型試験体に作用する曲げモーメントが図6(a)に図示するx軸と直交する軸回り(つまり、y軸回り)となるように力を印加する場合、(a)は強軸の小型試験体を、(b)は弱軸の小型試験体を、(c)は互層の小型試験体を、(d)は突固めの小型試験体をそれぞれ図示している。
図7】セメント系材料の押出し方向別の曲げ試験結果を示すグラフである。図中の縦軸は曲げ強度(N/mm)を示している。
図8】(a)は、CFRPからなるメッシュ材の格子間隔(50mm×50mm)を示す説明図であり、(b)は、アラミド繊維からなるメッシュ材の格子間隔(5mm×5mm)を示す説明図である。
図9】曲げ試験結果を示すグラフである。図中の縦軸は曲げ強度(N/mm)を示している。
図10】実規模曲げ試験体の概要を説明する説明図であり、(a)は最下層のセメント系材料の押出し方向が強軸方向となるもの(下層強軸の試験体)を示し、(b)は最下層のセメント系材料の押出し方向が弱軸方向となるもの(下層弱軸の試験体)を示している。
図11】下層強軸の試験体および下層弱軸の試験体の曲率および曲げ応力の関係を示すグラフである。図中の横軸は曲率(1/m)を示し、縦軸は曲げ強度(N/mm)を示している。
図12】積層体1の一変形例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、適宜図面を参照して本発明の一実施形態について詳細に説明する。なお、各実施形態の説明において、同一の構成要素に関しては同一の名称、符号で表し、重複する説明は省略する場合がある。
【0011】
[積層体の製造方法]
はじめに、本発明に係る積層体の製造方法(以下、単に「本製造方法」ということがある)の一実施形態について説明する。
本製造方法は、セメント系材料により積層体を製造するものである。本製造方法では、前記したセメント系材料で積層体を形成する際に、少なくとも1つの層間にメッシュ材を設ける。
【0012】
セメント系材料は、石灰を主成分とし、水と反応して硬化する土木建築用の無機質接合剤である。セメント系材料としてはモルタルやコンクリートなどが挙げられる。セメント系材料には、必要に応じて各種の混和材料を混和させることができる。本実施形態においては、混和材料を混和させるなどしてチクソトロピー性を高めた建設3Dプリンタ用のセメント系材料(コンクリート)を用いる。ここで、チクソトロピー性は、水セメント比を調節して高めることもできる。なお、本実施形態で用いることのできるセメント系材料は前記したものに限定されず、例えば、高チクソトロピー性を有するセメントペーストを用いることができる。
【0013】
本製造方法においては、セメント系材料に短繊維を混入することが好ましい。短繊維を混入することによる強度向上効果によって曲げ強度が向上し得る。短繊維は、例えば、呼び長さ15mm、呼び径0.3mm、密度1.3g/cmのビニロン繊維などを用いることができるが、これに限定されない。短繊維としては、例えば、鋼繊維やポリプロピレン繊維を用いることもできる。短繊維の添加量は、例えば、2.5vol%などとすることができるが、これに限定されない。
【0014】
メッシュ材は、網の目構造を有するシート状の部材である。メッシュ材は、網の目構造と同様の効果を出すものであれば多孔板などであってもよい。メッシュ材の網の目構造によりメッシュ材の表面および裏面に配される積層体にメッシュ材が良好に定着するため、積層体の層間の一体性が損なわれ難く、積層体の層間で生じ得るずれを抑制することができる。網の目構造は、例えば、格子状(四角形状)、三角形状、六角形状などとすることができるが、これらに限定されるものではない。また、多孔板の場合、網の目構造として例えば円形の穴などとすることができる。
【0015】
メッシュ材は、セメント系材料に作用する引張力(曲げ引張力)に耐えうる引張強度を有していることが好ましい。メッシュ材は、例えば、引張強度が1000N/mm以上、好ましくは2000N/mm以上のものを用いるとよい。このようにすると、積層体を建築物などの構造体として利用できる。メッシュ材は、前記特性を有するものであればどのようなものも用いることができる。このようなメッシュ材としては、例えば、連続繊維シート、より具体的には、建築用連続繊維シートが挙げられる。連続繊維シート(建築用連続繊維シート)は引張強度が高いため、曲げ強度をより向上させることができる。連続繊維シート、すなわち、メッシュ材は、例えば、炭素繊維強化プラスチックまたはアラミド繊維で形成されたものを好適に用いることができる。これらはいずれも引張強度が高いので、セメント系材料にひび割れが発生した後でも、積層体に作用する引張力を負担するとともに、積層体の層間で生じ得るずれをより抑制し、曲げ強度を向上させることができる。また、これらの繊維で形成されたメッシュ材は軽く、持ち運びが容易であり、超音波カッターやレーザーなどで切断することで任意の形状に成形することが可能である。そのため、作業員の負担が軽減され、作業性が向上する。
【0016】
また、メッシュ材の厚さは、積層体の一層の層厚の1/2以下(例えば、積層体の一層の層厚が10mmである場合には、0.01mm以上5mm以下)であることが好ましい。このようにすると、積層体の層間の一体性が損なわれ難い。また、メッシュ材が層間に食い込むように存在できるため、これが障害物となって層間で生じ得るずれをより抑制できる。これらの効果をより高く得る観点から、メッシュ材の厚さは、例えば、積層体の一層の層厚の1/3以下(例えば、積層体の一層の層厚が10mmである場合には、0.01mm以上3mm以下)とすることがより好ましく、1/4以下(例えば、一層の層厚が10mmである場合には、0.02mm以上2.5mm以下)とすることがさらに好ましい。具体的には、例えば、積層体の一層の層厚の1/5以下(例えば、一層の層厚が10mmである場合には、0.024mm以上2mm以下)とすることができる。メッシュ材の厚さが積層体の一層の層厚の1/2以下であり、かつ、メッシュ材がたわみ性を有していると、積層を阻害せず、曲げ力が加わっても積層体とともに曲がることができる。
【0017】
メッシュ材の目開きの間隔は、例えば、5mm以上であり、かつ、積層体の幅寸法(短尺方向の寸法)よりも小さいことが好ましい。このようにすると、目開きの間隔が適切であるので、積層体の層間の一体性が損なわれ難い。また、メッシュ材を構成する筋材の本数・密度が十分得られるので、メッシュ材の機械的強度も十分確保でき、それによる積層体の曲げ強度向上効果も期待できる。
【0018】
(本製造方法の具体的な一例)
図1は、本製造方法の具体的な一例を示すフローチャートである。
図1に示すように、本製造方法は、例えば、第1積層工程S1、載置工程S2および第2積層工程S3を有する。
第1積層工程S1では、セメント系材料を用いて、メッシュ材を載置する層まで積層体の中間体を形成する。
載置工程S2では、中間体の上面にメッシュ材を載置する。
第2積層工程S3では、中間体の上面に載置したメッシュ材の上に前記したセメント系材料を積層して、積層体を完成させる。
【0019】
第1積層工程S1および第2積層工程S3における積層回数はいずれも特に限定されず、それぞれ任意に設定できる。
例えば、第1積層工程S1における積層を1回行って1層目を形成した後、載置工程S2を行い、その後、第2積層工程S3における積層を1回行うことができる。このようにすると、積層順に、第1層/メッシュ材/第2層という2層構成の積層体を形成することができる。なお、図2は、積層順に、第1層/メッシュ材/第2層という2層構成の積層体において、第2層目を形成している様子の一例を示す一部透視図である。
【0020】
また、例えば、第1積層工程S1における積層を1回行って1層目を形成した後、載置工程S2を行い、その後、第2積層工程S3における積層を2回行うことができる。このようにすると、積層順に、第1層/メッシュ材/第2層/第3層という3層構成の積層体を形成することができる。また、3層構成の積層体の場合、例えば、第1積層工程S1における積層を2回行って2層目までを形成した後、載置工程S2を行い、その後、第2積層工程S3における積層を1回行うことができる。このようにすると、積層順に、第1層/第2層/メッシュ材/第3層という構成とすることができる。
前記したように、第1積層工程S1および第2積層工程S3における積層回数は特に限定されないので、さらに積層数の多い積層体とすることができる。例えば、第1積層工程S1における積層を1回行って1層目を形成した後、載置工程S2を行い、その後、第2積層工程S3における積層を4回行うことができる。このようにすると、積層順に、第1層/メッシュ材/第2層/第3層/第4層/第5層という5層構成の積層体を形成することもできる。
【0021】
さらに、本実施形態においては、図1に示すように、第1積層工程S1および載置工程S2を1セットで任意の回数繰り返すことができる。
例えば、第1積層工程S1および載置工程S2を1セットで2回繰り返した後、第2積層工程S3における積層を1回行うことができる。このようにすると、積層順に、第1層/メッシュ材/第2層/メッシュ材/第3層という3層構成の積層体を形成することができる。なお、この場合も前記と同様、第1積層工程S1および第2積層工程S3における積層回数は特に限定されず、任意に設定できる。そのため、例えば、積層を2回行う第1積層工程S1および載置工程S2を1セットで2回繰り返した後、積層を1回行う第2積層工程S3を実施することができる。このようにすると、積層順に、第1層/第2層/メッシュ材/第3層/第4層/メッシュ材/第5層という5層構成の積層体を形成することもできる。
このように、第1積層工程S1および載置工程S2における積層回数を様々に変更することで多様な態様の積層体を作製することができる。なお、積層体の外観形状は特に限定されず、任意に設定可能である。
【0022】
積層体は、材料押出方式の付加製造装置、つまり、前記した建設3Dプリンタを用いて製造することが好ましい。このようにすると、積層体を好適に製造できる。建設3Dプリンタは、所定の開口幅を有するノズルを備えており、当該ノズルからセメント系材料を吐出する。なお、第1積層工程S1および第2積層工程S3を行うにあたり、ノズルからセメント系材料を吐出しつつノズルを移動させることにより形成されるセメント材料の帯状体の幅寸法が、ノズルの移動方向と直交する方向における積層体の長さよりも小さい場合には、複数列の帯状体をその幅方向に連設することにより、積層体の各層を形成する。
材料押出方式の付加製造装置で積層すると、ノズルからセメント系材料を吐出する際に受ける押し出し力により、短繊維の長手方向の向きとセメント系材料の押し出し方向が合致する。短繊維の長手方向の向きが一定方向に揃うと、短繊維による強度向上効果が増すので、その方向については曲げ強度が向上する。そのため、セメント系材料の押し出し方向の両端を支点として曲げ荷重を作用させるときの曲げ強度が向上する。特に、セメント系材料の押出し方向を互層(互層については後記する)とすることで、短繊維の呼び長さがノズル径以下でもセメント系材料の押出し方向と短繊維の配向が揃うため、曲げ強度を向上させることができる。
【0023】
ここで、図3(a)、(b)は、本実施形態における積層体の積層構造を説明する概略構成図である。第1積層工程S1および第2積層工程S3において形成される層は、例えば、図3(a)に示すように、全ての層においてセメント系材料の押し出し方向(帯状体の長手方向)を同一の方向とすることができる。すなわち、短繊維の長手方向の向きを一定方向に揃えることができる。この場合、積層体は、一般的には、セメント系材料の押し出し方向に沿う軸(図3(a)においてはx軸)と直交する軸回りの曲げモーメントに対しては、高い曲げ強度を発揮することができる(強軸)。その一方で、積層体は、セメント系材料の押し出し方向に沿う軸(図3(a)においてはx軸)回りの曲げモーメントに対しては、曲げ強度が低下する(弱軸)。しかし、本製造方法は、これらのいずれの場合であっても、少なくとも1つの層間にメッシュ体を設けるので、メッシュ体を設けない場合と比較して曲げ強度を向上させることができる。
【0024】
なお、第1積層工程S1および第2積層工程S3において形成される層は、例えば、図3(b)に示すように、1層ごとに交差する互層となるように積層することが好ましい。このようにすると、前記したように、各層においてセメント系材料の押し出し方向に沿う軸(図3(a)においてはx軸)と直交する軸回りの曲げモーメントに対して高い強度を得ることができる。また、このようにすると、そのような層が互層となっているので、特定の方向のたわみに対して弱い・強いといった曲げ強度の偏りをなくすことができる。従って、積層体全体の曲げ強度を向上させることができる。この場合も、本製造方法により、少なくとも1つの層間にメッシュ体を設けることで、メッシュ体を設けない場合と比較して曲げ強度を向上させることができる。
【0025】
[積層体]
次に、図4を参照して、本発明に係る積層体1の一実施形態について説明する。なお、図4は、本実施形態に係る積層体1の一構成例を示す断面図である。
本実施形態に係る積層体1は、前述した本製造方法によって好適に製造できる。
図4に示すように、積層体1は、セメント系材料を第1層11、第2層12…などと積層することで形成されている。積層体1は、積層体1のうちの少なくとも1つの層間3にメッシュ材4が設けられている。なお、図4では、積層体1の一例として、積層順に、第1層11/メッシュ材4/第2層12/第3層13/第4層14/第5層15という5層構成のものを図示しているが、積層体1の構成がこれに限定されないことは前述したとおりである。また、図4では、積層体1の一例として、全ての層においてセメント系材料の押し出し方向を同一の方向としたものを図示しているがこれに限定されず、互層とすることができる(互層の構成については、図3(b)参照)。また、積層体1は、前述したように、積層数、外観形状、メッシュ材4の配置位置などは任意に設定することができる。
【0026】
このように、積層体1は、少なくとも1つの層間3に設けたメッシュ材4により引張力を負担するので、曲げ強度を向上させることができる。また、メッシュ4に目開きが存在することによって、積層体1の層間3の一体性が損なわれ難く、また、メッシュ材4が2つの層に食い込むように存在するので、これが障害物となって層間3で生じ得るずれを抑制することができる。そのため、積層体1は、曲げ強度を向上させることができる。
【0027】
なお、前述したように、セメント系材料は短繊維2を混入したものであることが好ましい。メッシュ材4の厚さは積層体1の一層の層厚の1/2以下であることが好ましく、1/3以下であることがより好ましく、1/4以下であることがさらに好ましく、1/5以下とすることもできる。メッシュ材4の厚さは具体的には例えば、0.01mm以上5mm以下であることが好ましく、0.01mm以上3mm以下であることがより好ましく、0.02mm以上2.5mm以下とすることがさらに好ましく、0.024mm以上2mm以下とすることもできる。
また、メッシュ材4は、連続繊維シートであることが好ましく、また、例えば、炭素繊維強化プラスチックまたはアラミド繊維で形成されていることが好ましい。
曲げ荷重が積層体1の積層方向(セメント系材料の押出し方向)に作用する場合には、メッシュ材4は、図4に示すように、積層体1の最外層となる層とその内側の層(図4では、最下層となる1段目の層(第1層11)とこの1段目の層の上に積層される2段目の層(第2層12))との間に配置し、メッシュ材4に接する層が曲げ引張側となるように積層体1を配置することが好ましい。
さらに、積層体1は、セメント系材料の押し出し方向が1層ごとに交差する互層となるように積層されることが好ましい。
これらの好ましい態様については既に説明しているので、ここでの説明は省略する。
【実施例0028】
次に、実施例および比較例により、本発明に係る積層体の製造方法および積層体について具体的に説明する。
【0029】
〔1〕配合および使用材料
使用したセメント系材料の示方配合を表1に示す。
【0030】
【表1】
【0031】
配合選定は、既往の埋設型枠の強度特性((一財)土木研究センター:建設技術審査証明報告書(技審証第0124号)「ダクタルフォーム」、2017.3.、(一財)土木研究センター:建設技術審査証明報告書(技審証第0429号)「SEEDフォーム」、2020.4.、および、協立エンジ(株):KKフォーム工法パンフレット、[URL]http://www.kyoritsu-enji.co.jp/pdf/products/kkform/KKform2017.1.6.pdf(閲覧日:2021年1月8日))を参考にした。
【0032】
材齢7日の目標圧縮強度は50N/mm、目標曲げ強度を10N/mmとして、かつ、3Dプリンタ用モルタル(セメント系材料)に必要な流動保持性、圧送性、積層性などの諸元を満足するものとした。なお、材齢28日の目標圧縮強度は60N/mm、目標曲げ強度は12.5N/mmとした。使用した結合材(P)は、初期の反応性を高めた速硬性を有するセメント(密度:3.08g/cm、比表面積3970cm/g)である。細骨材には、砕砂(S1)および微粉末(S2)を併用している。砕砂(S1)の密度は2.71g/cm、最大粒形は2mmおよび粗粒率は2.86である。微粉末(S2)の密度は2.71g/cm、比表面積は8000cm/g程度の非常に微細なものを使用している。混和剤には水溶性の分離低減剤(V)(密度:1.32g/cm)、ポリカルボン酸系高性能減水剤(SP)、消泡剤(De)および有機酸系の凝結遅延剤(Re)を用いた。短繊維には、呼び長さ15mm、呼び径0.3mm、密度1.3g/cmのビニロン繊維を用い、繊維混入量(率)は2.5vol%とした。
【0033】
そして、3Dプリンティングシステム(以下、3Dプリンタ装置)は既往の研究にて開発したものである(村田哲、木ノ村幸士、小尾博俊、「3Dプリンタ技術を応用した新たなコンクリート施工法の開発と展望」、大成建設技術センター報、第51号、pp.23-1~23-6,2018.)。
【0034】
材料の保管、材料の練混ぜ、試験体の作製、材齢24時間までの養生は同一の実験室で実施した。この実験室は、外気温の影響を受けて気温が変動する。試験体作製時の外気温は19.0~22.9℃、モルタル温度は23.1~25.7℃およびJIS R 5210に基づいて測定した練混ぜ直後の0打モルタルフローは、109~112mm、15打モルタルフローは177~187mmで、練り混ぜ直後のフレッシュ性状に有意な差は見られない。
材料の練混ぜには100Lのパン型ミキサを用い、プレミックス粉体を低速15秒空練りし、注水後に低速2分練り混ぜ後かき落とし、短繊維を投入後、低速でさらに2分間練り混ぜた。
【0035】
〔2〕曲げ強度の検討
(1)小型試験体による積層構造の検討
3Dプリンタ用繊維補強モルタル(セメント系材料)は、セメント系材料の押出し方向(ノズルの移動方向)に繊維が配向する特徴を持つため、セメント系材料の押出し方向が曲げ強度に与える影響が大きい。そこで、今回の検討では、セメント系材料の押出し方向をパラメータとし、JIS A 1106に準拠して曲げ強度試験を行った。
小型試験体の曲げ試験の概要を図5に示す。図5に示すように、小型試験体の寸法は、長さ200mm、幅150mm、高さ50mmとし、スパンを150mm、等曲げ区間を50mmとした。また、試験材齢は7日とした。載荷面は凹凸にならないように石こうで不陸を除去した。小型試験体の中間の位置に取り付けた3つのアタッチメントにより変位を測定した。
【0036】
小型試験体の積層構造を図6(a)~(d)に示す。小型試験体に作用する曲げモーメントが図6(a)に図示するx軸と直交する軸回り(つまり、y軸回り)となるように力を印加する場合、小型試験体を作製する際のセメント系材料の押出し方向がx軸である場合を強軸の小型試験体(図6(a))、y軸である場合を弱軸の小型試験体(図6(b))、層ごとにx軸およびy軸である場合を互層の小型試験体(図6(c))とする。また、今回の検討では、突固めの小型試験体(図6(d))も採用した。なお、互層は最下層を強軸方向とした。3Dプリンタ装置のノズルから吐出する積層幅は25mm、積層高さは10mmである。なお、小型試験体は3体ずつ作製し、材齢1日まで封かん養生した後、20℃、99%R.H.の霧室に3日養生し、その後、20℃、70%R.H.の恒温恒湿室に静置した。
【0037】
セメント系材料の押出し方向別の曲げ試験結果を図7に示す。図7に示すように、目標値10N/mmに対して、強軸、互層、突固めの小型試験体の曲げ強度は当該目標値を上回った。これに対し、弱軸の小型試験体では目標値の半分程度と大幅に下回った。これらのことから、短繊維の配向が曲げ強度に与える影響は大きいことが確認された。
【0038】
(2)メッシュ材が曲げ強度に及ぼす影響
今回の検討では、炭素繊維強化プラスチック(以下、CFRP)とアラミド繊維の2種類のメッシュ材を選定し、3Dプリンタ装置で積層体を製造する際にそれを層間に配置して、曲げ補強を行った。
【0039】
メッシュ材の種類と格子間隔を図8(a)および(b)に示す。また、試験体名と試験の仕様を表2に示す。なお、図8(a)は、CFRPからなるメッシュ材の格子間隔(50mm×50mm)を示し、図8(b)は、アラミド繊維からなるメッシュ材の格子間隔(5mm×5mm)を示している。各メッシュ材は、層間の一体性を損なわないために、市販品で格子状の厚さが薄いもの(CFRP:設計厚さ2mm、アラミド繊維:設計厚さ0.024mm)を選定した。従って、メッシュ材の材質により断面積や引張強度も異なるため、曲げ補強効果は一様ではない。通常、アラミド繊維は樹脂に含浸させて使用するが、今回は樹脂含浸しなかった。試験体の寸法は、前記「(1)小型試験体による積層構造の検討」と同様とした。メッシュ材は、幅160mm、奥行き110mmとした。補強段数が1段のものは、メッシュ材を底面から高さ10mmの位置に、補強段数が2段のものは、メッシュ材を底面から高さ10mmおよび40mmの位置に、それぞれ積層面の中央に手動で配置した。積層方法は、互層および突固めとし、それぞれ3~4体の試験体を作製した。
【0040】
そして、これらの試験体を用いて、前記同様、JIS A 1106に準拠して曲げ強度試験を行った。なお、ブランクとして、互層および突固めの両方において、メッシュ材を配置しない試験体(「メッシュ材なし」、表2には示さず)をそれぞれ作製し、同様に曲げ強度試験を行った。曲げ試験結果を図9に示す。
【0041】
【表2】
【0042】
図9に示すように、曲げ強度はメッシュ材なしのケースを含め、全てのケースで目標値10N/mmを上回った。これは、短繊維を含んでいたこと、およびセメント系材料の押出し方向が互層であったことによると考えられる。また、互層および突固めのいずれも場合もメッシュ材を設けることでメッシュ材なしに比べて曲げ強度が向上していた。互層と突固めを比較すると、他の条件が同一の場合、両者はほぼ同等であることが確認された。つまり、互層の積層体とし、メッシュ材を設けることで突固めの構造体と同様に扱うことが可能になると推察される。
【0043】
(3)実規模部材による曲げ強度の検証
3Dプリンタ装置を使用した積層体を埋設型枠として使用する場合には、構造体の最外層に積層体が配置されることになるので、積層構造を互層にしても、最下層のセメント系材料の押出し方向が曲げ強度に影響を与える可能性がある。そこで、今回の検討では、積層体の最下層のセメント系材料の押出し方向による異方性を考慮し、2方向での実規模部材による曲げ試験を実施した。実規模曲げ試験体の概要を図10(a)、(b)に示す。
【0044】
図10(a)に示すように、下層強軸の実規模部材(試験体)は、最下層のセメント系材料の押出し方向を強軸方向とした。また、図10(b)に示すように、下層弱軸の試験体は、最下層のセメント系材料の押出し方向を弱軸方向とした。図10(a)に示すように、下層強軸の試験体の寸法は、L1200mm×D600mm×H50mmとした。また、図10(b)に示すように、下層弱軸の試験体の寸法は、L800mm×D800mm×H50mmとした。メッシュ材の寸法は、下層強軸の試験体では1100mm×500mmとし、下層弱軸の試験体では700mm×700mmとした。メッシュ材はCFRPを用い、底面から高さ10mmの位置の中央に1段設置した。試験体数は各2体(下層強軸-1、下層強軸-2、下層弱軸-1、下層弱軸-2)とし、試験材齢は14日~22日とした。そして、中央変位計を載荷点直下の部材下面に2点設置し、曲率と曲げ応力を測定した。
【0045】
下層強軸の試験体および下層弱軸の試験体の曲率および曲げ応力の関係を図11に示す。ひび割れ発生時の曲げ応力は、下層強軸の試験体で平均8.9N/mm、下層弱軸の試験体で平均7.4N/mmであった。ひび割れ発生以降は、下層強軸および下層弱軸による曲げ挙動の違いは認められず、試験は曲げ応力がいずれも30N/mm程度となった時点で載荷を終了した。曲げ強度は、目標の12.5N/mmを大幅に上回った。これは、メッシュ材が良好に定着されたためだと考えられる。
【0046】
以上、本発明の実施形態および実施例について説明したが、本発明は、前述の実施形態および実施例に限られず、前記の各構成要素については本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。例えば、図12は、積層体1の一変形例を示す斜視図である。図2図4に示すように、積層体1は、セメント系材料を直線状に吐出して積層して形成することができるが、これに限定されない。すなわち、図12の一変形例に示すように、積層体1は、セメント系材料を曲線状に吐出して積層して形成することができる。
【符号の説明】
【0047】
1 積層体
2 短繊維
3 層間
4 メッシュ材
11 第1層
12 第2層
13 第3層
14 第4層
15 第5層
S1 第1積層工程
S2 載置工程
S3 第2積層工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12