(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022183513
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】筒状部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
B21C 37/06 20060101AFI20221206BHJP
B23K 20/00 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
B21C37/06 P
B23K20/00 310L
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021090872
(22)【出願日】2021-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000144614
【氏名又は名称】株式会社三條機械製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100091373
【弁理士】
【氏名又は名称】吉井 剛
(72)【発明者】
【氏名】刈谷 博之
(72)【発明者】
【氏名】関根 隆尋
(72)【発明者】
【氏名】服部 文彦
(72)【発明者】
【氏名】五井 一志
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 亮
【テーマコード(参考)】
4E167
【Fターム(参考)】
4E167BA00
(57)【要約】
【課題】筒状部材の素材の選択の幅を広げることができ、更に量産性も向上させることができる筒状部材の製造方法を提供する。
【解決手段】第一半筒体1と第二半筒体2とを互いの対向端部同士を向かい合わせて連結し筒状部材を製造する方法であって、前記第一半筒体1の対向端部に設けられた第一係合部3と前記第二半筒体2の対向端部に設けられた第二係合部4とを係合が外れないように抜け止め係合させる係合工程と、前記第一半筒体1自身若しくは前記第二半筒体2自身の弾性により、前記第一係合部3と前記第二係合部4との重合面を押し付け合う状態とする接合準備工程と、前記押し付け合った状態の重合面を加熱して拡散接合する拡散接合工程と、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一半筒体と第二半筒体とを互いの対向端部同士を向かい合わせて連結し筒状部材を製造する方法であって、
前記第一半筒体の対向端部に設けられた第一係合部と前記第二半筒体の対向端部に設けられた第二係合部とを係合が外れないように抜け止め係合させる係合工程と、
前記第一半筒体自身若しくは前記第二半筒体自身の弾性により、前記第一係合部と前記第二係合部との重合面を押し付け合う状態とする接合準備工程と、
前記押し付け合った状態の重合面を加熱して拡散接合する拡散接合工程と、
を含むことを特徴とする筒状部材の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の筒状部材の製造方法において、前記第一係合部の前記重合面には外向き面を含み、前記第二係合部の前記重合面には前記外向き面と径方向において向かい合う内向き面を含むことを特徴とする筒状部材の製造方法。
【請求項3】
請求項2記載の筒状部材の製造方法において、前記外向き面は、前記第一半筒体の軸方向に延在し該第一半筒体の対向端部先端側に向かって径方向外側に傾斜するテーパー面であり、前記内向き面は、前記第二半筒体の軸方向に延在し該第二半筒体の対向端部先端側に向かって径方向内側に傾斜するテーパー面であることを特徴とする筒状部材の製造方法。
【請求項4】
請求項3記載の筒状部材の製造方法において、前記外向き面及び前記内向き面の傾斜角度は同一であることを特徴とする筒状部材の製造方法。
【請求項5】
請求項2~4いずれか1項に記載の筒状部材の製造方法において、前記外向き面の外径は前記内向き面の内径より僅かに大きいことを特徴とする筒状部材の製造方法。
【請求項6】
請求項1~5いずれか1項に記載の筒状部材の製造方法において、前記係合工程は、前記第一半筒体を縮径した状態若しくは前記第二半筒体を拡径した状態で行うことを特徴とする筒状部材の製造方法。
【請求項7】
請求項6記載の筒状部材の製造方法において、前記係合工程後、前記第一半筒体の縮径状態若しくは前記第二半筒体の拡径状態を解消することで、前記接合準備工程において前記重合面が押し付け合う状態を作出することを特徴とする筒状部材の製造方法。
【請求項8】
請求項1~7いずれか1項に記載の筒状部材の製造方法において、前記係合工程は、前記第一半筒体に対して前記第二半筒体を筒状部材の軸方向に相対的にスライド移動させて、一対の前記第一係合部を軸方向端部側から前記第二係合部間に挿入する工程を含むことを特徴とする筒状部材の製造方法。
【請求項9】
請求項1~8いずれか1項に記載の筒状部材の製造方法において、前記拡散接合工程は、真空雰囲気中若しくは不活性雰囲気中で行うことを特徴とする筒状部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筒状部材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
モーター等のシャフトとして、既製のパイプ部材の両端に、ギアやスプラインが設けられた連結部材が摩擦圧接により接合された中空シャフトが用いられることがある(特許文献1参照)。例えば電気自動車(EV)用モーターのシャフトなどのように、軽量化の要請が強い場合に、この中空シャフトが採用されることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述のシャフトに限らず、既製のパイプ部材を用いる場合には、メーカが予め用意してある既製品の中から選択しなければならず、選択できる素材に制限があった。
【0005】
本発明は、パイプ部材(筒状部材)の素材の選択の幅を広げることができると共に、量産性も向上させることができる、これまでにない筒状部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0007】
第一半筒体1と第二半筒体2とを互いの対向端部同士を向かい合わせて連結し筒状部材を製造する方法であって、
前記第一半筒体1の対向端部に設けられた第一係合部3と前記第二半筒体2の対向端部に設けられた第二係合部4とを係合が外れないように抜け止め係合させる係合工程と、
前記第一半筒体1自身若しくは前記第二半筒体2自身の弾性により、前記第一係合部3と前記第二係合部4との重合面を押し付け合う状態とする接合準備工程と、
前記押し付け合った状態の重合面を加熱して拡散接合する拡散接合工程と、
を含むことを特徴とする筒状部材の製造方法に係るものである。
【0008】
また、請求項1記載の筒状部材の製造方法において、前記第一係合部3の前記重合面には外向き面5を含み、前記第二係合部4の前記重合面には前記外向き面5と径方向において向かい合う内向き面6を含むことを特徴とする筒状部材の製造方法に係るものである。
【0009】
また、請求項2記載の筒状部材の製造方法において、前記外向き面5は、前記第一半筒体1の軸方向に延在し該第一半筒体1の対向端部先端側に向かって径方向外側に傾斜するテーパー面であり、前記内向き面6は、前記第二半筒体2の軸方向に延在し該第二半筒体2の対向端部先端側に向かって径方向内側に傾斜するテーパー面であることを特徴とする筒状部材の製造方法に係るものである。
【0010】
また、請求項3記載の筒状部材の製造方法において、前記外向き面5及び前記内向き面6の傾斜角度は同一であることを特徴とする筒状部材の製造方法に係るものである。
【0011】
また、請求項2~4いずれか1項に記載の筒状部材の製造方法において、前記外向き面5の外径は前記内向き面6の内径より僅かに大きいことを特徴とする筒状部材の製造方法に係るものである。
【0012】
また、請求項1~5いずれか1項に記載の筒状部材の製造方法において、前記係合工程は、前記第一半筒体1を縮径した状態若しくは前記第二半筒体2を拡径した状態で行うことを特徴とする筒状部材の製造方法に係るものである。
【0013】
また、請求項6記載の筒状部材の製造方法において、前記係合工程後、前記第一半筒体1の縮径状態若しくは前記第二半筒体2の拡径状態を解消することで、前記接合準備工程において前記重合面が押し付け合う状態を作出することを特徴とする筒状部材の製造方法に係るものである。
【0014】
また、請求項1~7いずれか1項に記載の筒状部材の製造方法において、前記係合工程は、前記第一半筒体1に対して前記第二半筒体2を筒状部材の軸方向に相対的にスライド移動させて、一対の前記第一係合部3を軸方向端部側から前記第二係合部4間に挿入する工程を含むことを特徴とする筒状部材の製造方法に係るものである。
【0015】
また、請求項1~8いずれか1項に記載の筒状部材の製造方法において、前記拡散接合工程は、真空雰囲気中若しくは不活性雰囲気中で行うことを特徴とする筒状部材の製造方法に係るものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明は上述のようにするから、筒状部材の素材の選択の幅を広げることができ、更に量産性も向上させることができる、これまでにない筒状部材の製造方法となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図3】第一半筒体の縮径に関する概略説明断面図である。
【
図4】第二半筒体の拡径に関する概略説明断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
好適と考える本発明の実施形態を、図面に基づいて本発明の作用を示して簡単に説明する。
【0019】
第一半筒体1の対向端部に設けられた第一係合部3と第二半筒体2の対向端部に設けられた第二係合部4とを抜け止め係合させ、第一係合部3と第二係合部4との重合面を押し付け合う状態とし加熱して拡散接合することで、第一半筒体1と第二半筒体2とが連結された筒状部材を得る。
【0020】
例えば、第一係合部3の外寸法を第二係合部4の内寸法より若干大きい寸法とし、第一係合部3を縮径(若しくは第二係合部4を拡径)させた状態で、第一係合部3を第二係合部4間に挿入して第一係合部3と第二係合部4とを係合させ、縮径(若しくは拡径)状態を解除することで部材自身の弾性により重合面を押し付け合う状態(互いに圧力がかかる状態)とすることができる。
【0021】
したがって、本発明によれば、治具を使用せずに第一半筒体1と第二半筒体2との筒形状を保持することができ、しかも、拡散接合の際、治具等で互いに押し付け合うように保持する必要がなく、第一半筒体1若しくは第二半筒体2自身の弾性を利用して拡散接合面となる前記重合面を押し付け合った状態とすることができるため、それだけ簡易な設備で拡散接合を行うことが可能となる。
【実施例0022】
本発明の具体的な実施例について図面に基づいて説明する。
【0023】
本実施例は、
図1に図示したような半円筒状の第一半筒体1と第二半筒体2とを互いの対向端部同士を向かい合わせて連結し、筒状部材(円筒部材)を製造する方法である。
【0024】
具体的には、前記第一半筒体1の対向端部に設けられた第一係合部3と前記第二半筒体2の対向端部に設けられた第二係合部4とを係合が外れないように抜け止め係合させる係合工程と、前記第一半筒体1自身若しくは前記第二半筒体2自身の弾性により、前記第一係合部3と前記第二係合部4との重合面を押し付け合う状態とする接合準備工程と、前記押し付け合った状態の重合面を加熱して拡散接合する拡散接合工程とを含む。
【0025】
本実施例の第一半筒体1及び第二半筒体2は、筒状部材を概ね二分割した半円筒状の例えば高張力鋼、ステンレス鋼またはチタン合金等の金属製の部材であり、第一係合部3と第二係合部4の形状を除き、同形である。第一半筒体1及び第二半筒体2の素材は同一金属素材としても異種金属素材としても良い。
【0026】
第一半筒体1の対向端部には、夫々第一係合部3が設けられており、第二半筒体3の対向端部には、夫々第二係合部4が設けられている。そして、第一係合部3と第二係合部4とを夫々係合することで円筒形状となる。具体的には、一対の第一係合部3は第二係合部4間に配設され、夫々係合されるように構成されている。
【0027】
第一係合部3と第二係合部4とは、係合した際に径方向に外れない形状に構成されており、第一半筒体1と第二半筒体3との円筒形状が維持されるように構成される。
【0028】
第一係合部3および第二係合部4の互いに接触する面が重合面であり、前記第一係合部3の前記重合面には外向き面5を含み、前記第二係合部4の前記重合面には前記外向き面5と径方向において向かい合う内向き面6を含む。
【0029】
前記外向き面5は、前記第一半筒体1の軸方向に延在し該第一半筒体1の対向端部先端側に向かって径方向外側に傾斜するテーパー面である。また、前記内向き面6は、前記第二半筒体2の軸方向に延在し該第二半筒体2の対向端部先端側に向かって径方向内側に傾斜するテーパー面である。
【0030】
具体的には、各重合面は、前記筒状部材の内周面に連なる内方部10と、前記筒状部材の外周面に連なる外方部11と、前記内方部10と前記外方部11とを連結する中央部12とを有し、前記中央部12に前記外向き面5と前記内向き面6とが設けられている(
図5参照)。また、各重合面の内方部10と外方部11における面は夫々、第一半筒体1と第二半筒体2の対向方向Yと直交する方向Xに平行な面に設定され、重合面全体として断面視において略Z字状を呈する構成としている。
【0031】
なお、第一係合部3及び第二係合部4の形状は上述の構成に限られず、少なくとも前記外向き面5と前記内向き面6とを含んでおり、外向き面5と内向き面6とが互いに係合して径方向に外れない構成、すなわち、両者を係合した状態で接合していなくとも治具を使用せずとも円筒形状を自己保持可能な構成であれば良い。
【0032】
重合面の面粗度は、Ra0.4~Ra1.6程度とするのが好ましい。0.4未満では、加工難易度が高い割に接合品質の飛躍的な向上が期待できず、1.6を超えると接合品質が低下するためである。
【0033】
また、前記外向き面5及び前記内向き面6の傾斜角度は同一に設定されている。本実施例では、前記外向き面5及び前記内向き面6のY方向に対する傾斜角度αは約20°としている。この傾斜角度αは1°~45°とするのが好ましい。1°未満では径方向への抜けが良好に防止できず、45°を超えると重合面圧力が低下するためである。
【0034】
また、前記外向き面5の外径は前記内向き面6の内径より僅かに大きい構成としている。本実施例では0.1mm程度大きい構成としているが、筒状部材の径、厚さに応じて適宜設定できる。
【0035】
したがって、係合状態とした際に第一半筒体1及び第二半筒体2自身の弾性により、重合面の前記外向き面5と前記内向き面6とを押し付け合う状態とすることができ、拡散接合のために必要な重合面の圧接状態を作出することができる(当該押し付け合いにより内方部10と外方部11も圧接され、重合面が良好に拡散接合される。)。
【0036】
製造工程について具体的に説明する。
【0037】
半円筒体に第一係合部3が形成された第一半筒体1を作製すると共に、半円筒体に第一係合部3と合致する第二係合部4が形成された第二半筒体2を作製する。
【0038】
続いて、第一半筒体1及び第二半筒体2の第一係合部3及び第二係合部4を径方向に外れないように夫々抜け止め係合させる(係合工程)。本実施例では、前記第一半筒体1に対して前記第二半筒体2を筒状部材の軸方向に相対的にスライド移動させて、一対の前記第一係合部3を軸方向端部側から前記第二係合部4間に挿入させて円筒形状とする(
図2(a))。
【0039】
外向き面5の外径が内向き面6の外径より若干大きいため、前記係合工程は、前記第一半筒体1を縮径した状態若しくは前記第二半筒体2を拡径した状態(各重合面間に隙間が生じた状態)で行う。本実施例では、
図3に図示したように第一半筒体1の対向端部(第一係合部3)に外力を付与して縮径した状態で、第二係合部4に係合させる。
【0040】
なお、本実施例では上述のようにして係合しているが、第一半筒体1の縮径は、第一半筒体1を冷却することで行っても良い。また、第二半筒体2側を拡径して行っても良い。第二半筒体2の拡径は、対向端部(第二係合部4)に外力を付与して行っても良いし(
図4参照)、第二半筒体2を加熱することで行っても良い。
【0041】
そして、前記係合工程後、前記第一半筒体1の縮径状態若しくは前記第二半筒体2の拡径状態を解消することで、前記重合面が押し付け合う状態とする(接合準備工程)。拡径状態及び縮径状態の解除は、外力の付与により拡径等した場合は外力を解除することで行い、加熱若しくは冷却により拡径等した場合は温度を各部材間で平衡にすること(所定時間放置すること)で行う。
【0042】
続いて、加熱炉内に円筒形状をなす第一半筒体1及び第二半筒体2を導入し、内部を真空雰囲気若しくは不活性雰囲気とした状態で加熱して拡散接合を行う(拡散接合工程)。例えば、10
-6Paから10
-3Pa程度の真空雰囲気で900℃~1000℃程度に加熱し、所定時間(数十分~数時間)保持することで拡散接合を行う(
図2(b))。
【0043】
拡散接合工程後、例えば200℃程度まで冷却してから、加熱炉から取り出し円筒部材Aを得る(
図2(c))。
【0044】
得られた円筒部材Aは、
図6に図示したように、例えば円筒部材Aの両端部にギアやスプライン等の係合部を有する金属製の連結部材Bを接合し、EV用モーター用のシャフトなどに用いることもできる。
【0045】
本実施例は上述のようにするから、治具を使用せずに第一半筒体1と第二半筒体2との円筒形状を保持することができ、しかも、拡散接合の際、治具等で互いに押し付け合うように保持する必要がなく、第一半筒体1若しくは第二半筒体2自身の弾性を利用して拡散接合面となる前記重合面を押し付け合った状態とすることができるため、それだけ簡易な設備で拡散接合を行うことが可能となる。
【0046】
よって、本実施例は、筒状部材の素材の選択の幅を広げることができ、更に量産性も向上させることができる、これまでにない筒状部材の製造方法となる。