(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022183528
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】滑り支承
(51)【国際特許分類】
F16F 15/02 20060101AFI20221206BHJP
F16F 15/023 20060101ALI20221206BHJP
F16F 15/03 20060101ALI20221206BHJP
F16F 9/53 20060101ALI20221206BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
F16F15/02 A
F16F15/02 E
F16F15/02 L
F16F15/023 Z
F16F15/03 G
F16F9/53
E04H9/02 331E
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021090887
(22)【出願日】2021-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(74)【代理人】
【識別番号】100089875
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】馮 徳民
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
3J069
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AC19
2E139CA21
2E139CA28
2E139CC02
3J048AA06
3J048AB01
3J048AB11
3J048AC01
3J048AC04
3J048AC08
3J048AD01
3J048BE05
3J048BE12
3J048CB12
3J048CB21
3J048DA01
3J048EA38
3J069AA35
3J069BB10
3J069DD11
3J069DD25
3J069EE63
(57)【要約】
【課題】占有スペースおよびコストの抑制を図りつつ大きな地震エネルギーを減衰させる上で有利な滑り支承を提供する。
【解決手段】地震などにより大きい水平方向の力が建物に作用した場合、制御部28がセンサ38により検出した振動量の大きさに応じて磁力発生部26から磁力を発生させる。この磁力は、下向きの滑り面20を上向きの滑り面18に向かって吸引する力として作用するため、下向きの滑り面20が外周部1804から抵抗を受けることになる。さらに、この磁力が磁気粘性流体24に印加されることで磁気粘性流体24の粘度が高くなり、脚部30が磁気粘性流体24による抵抗を受けることになる。大きい水平方向の力が建物に作用した場合に、2種類の抵抗が発生することにより、より大きな減衰力で建物の揺れを抑制できる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部構造体に設けられた上向きの滑り面と、
上部構造体に設けられ前記上向きの滑り面の輪郭よりも小さく前記上向きの滑り面の中央部に滑動可能に接触した下向きの滑り面とを備え、
前記上向きの滑り面は、磁力が透過する材料で摩擦係数が小さく形成され、
前記上向きの滑り面に、前記下向きの滑り面に対して磁力を発生させる第1磁力発生部が設けられ、
前記下向きの滑り面は、磁石に吸着される磁性材料で摩擦係数が小さく形成され、
前記第1磁力発生部により発生する磁力を制御する制御部が設けられた滑り支承であって、
前記上向きの滑り面の輪郭に沿って延在する側壁が設けられ、
前記上向きの滑り面と前記側壁とによって形成された上方に開放された収容空間に磁気粘性流体が収容され、
前記下向きの滑り面は、前記上部構造体の下部から突設された脚部の下端に設けられ、
前記下向きの滑り面が前記上向きの滑り面に接触した状態で、前記脚部の少なくとも下部は前記磁気粘性流体に浸漬しており、
前記磁気粘性流体に対して磁力を発生させる第2磁力発生部が設けられ、
前記第2磁力発生部により発生する磁力が前記制御部で制御される、
ことを特徴とする滑り支承。
【請求項2】
前記第1磁力発生部により前記第2磁力発生部が兼用されている、
ことを特徴とする請求項1記載の滑り支承。
【請求項3】
前記上向きの滑り面を構成する滑り部材が前記下部構造体に設けられ、
前記側壁は前記滑り部材と一体に設けられている、
ことを特徴とする請求項1記載の滑り支承。
【請求項4】
前記第2磁力発生部は、前記側壁に設けられている、
ことを特徴とする請求項1または3記載の滑り支承。
【請求項5】
前記上向きの滑り面は、前記下向きの滑り面の輪郭よりも大きい中央部を有し、
前記第1磁力発生部は、前記上向きの滑り面の前記中央部の周囲の外周部に設けられている、
ことを特徴とする請求項1から4の何れか1項記載の滑り支承。
【請求項6】
前記第1磁力発生部は、前記中央部の中心を中心とした仮想円周上に周方向に間隔をおいて配置された複数のコイルからなるコイル環状列によって構成されている、
ことを特徴とする請求項5記載の滑り支承。
【請求項7】
前記コイル環状列は、前記中央部の中心からの半径を異ならせた複数の前記仮想円周上に設けられている、
ことを特徴とする請求項6記載の滑り支承。
【請求項8】
前記外周部における前記制御部による前記第1磁力発生部の制御は、前記中央部の中心から距離が離れるほど前記磁力を大きくするようになされる、
ことを特徴とする請求項5から6の何れか1項記載の滑り支承。
【請求項9】
前記制御部による前記第1磁力発生部および前記第2磁力発生部の制御は、前記上部構造体または前記下部構造体の振動量が大きくなるほど前記磁力を大きくするようになされる、
ことを特徴とする請求項1から8の何れか1項記載の滑り支承。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、滑り支承に関する。
【背景技術】
【0002】
建物である上部構造体と建物の基礎をなす下部構造体との間に複数の滑り支承を設け、各滑り支承の一方の滑り面を磁石に吸着される磁性材料で形成し、他方の滑り面に磁性材料に対して磁力を発生させる磁力発生部を設け、地震などにより建物が振動した際に、磁力発生部から磁力を発生させ、一方の滑り面を他方に滑り面に対して吸引させる方向の力を発生させることで一方の滑り面に抵抗を与え、建物に作用する地震エネルギーを減衰させるようにした滑り支承が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術では、建物に作用する地震エネルギーが大きくなるほど、磁力発生部によって発生させる磁力や滑り面の面積を大きく確保する必要があり、滑り支承の占有スペースの大型化とコストアップが懸念され、何らかの改善が求められている。
本発明は前記事情に鑑み案出されたもので、本発明の目的は、占有スペースおよびコストの抑制を図りつつ大きな地震エネルギーを減衰させる上で有利な滑り支承を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した目的を達成するために、本発明の一実施の形態は、下部構造体に設けられた上向きの滑り面と、上部構造体に設けられ前記上向きの滑り面の輪郭よりも小さく前記上向きの滑り面の中央部に滑動可能に接触した下向きの滑り面とを備え、前記上向きの滑り面は、磁力が透過する材料で摩擦係数が小さく形成され、前記上向きの滑り面に、前記下向きの滑り面に対して磁力を発生させる第1磁力発生部が設けられ、前記下向きの滑り面は、磁石に吸着される磁性材料で摩擦係数が小さく形成され、前記第1磁力発生部により発生する磁力を制御する制御部が設けられた滑り支承であって、前記上向きの滑り面の輪郭に沿って延在する側壁が設けられ、前記上向きの滑り面と前記側壁とによって形成された上方に開放された収容空間に磁気粘性流体が収容され、前記下向きの滑り面は、前記上部構造体の下部から突設された脚部の下端に設けられ、前記下向きの滑り面が前記上向きの滑り面に接触した状態で、前記脚部の少なくとも下部は前記磁気粘性流体に浸漬しており、前記磁気粘性流体に対して磁力を発生させる第2磁力発生部が設けられ、前記第2磁力発生部により発生する磁力が前記制御部で制御されることを特徴とする。
また、本発明の一実施の形態は、前記第1磁力発生部により前記第2磁力発生部が兼用されていることを特徴とする。
また、本発明の一実施の形態は、前記上向きの滑り面を構成する滑り部材が前記下部構造体に設けられ、前記側壁は前記滑り部材と一体に設けられていることを特徴とする。
また、本発明の一実施の形態は、前記第2磁力発生部は、前記側壁に設けられていることを特徴とする。
また、本発明の一実施の形態は、前記上向きの滑り面は、前記下向きの滑り面の輪郭よりも大きい中央部を有し、前記第1磁力発生部は、前記上向きの滑り面の前記中央部の周囲の外周部に設けられていることを特徴とする。
また、本発明の一実施の形態は、前記第1磁力発生部は、前記中央部の中心を中心とした仮想円周上に周方向に間隔をおいて配置された複数のコイルからなるコイル環状列によって構成されていることを特徴とする。
また、本発明の一実施の形態は、前記コイル環状列は、前記中央部の中心からの半径を異ならせた複数の前記仮想円周上に設けられていることを特徴とする。
また、本発明の一実施の形態は、前記外周部における前記制御部による前記第1磁力発生部の制御は、前記中央部の中心から距離が離れるほど前記磁力を大きくするようになされることを特徴とする。
また、本発明の一実施の形態は、前記制御部による前記第1磁力発生部および前記第2磁力発生部の制御は、前記上部構造体または前記下部構造体の振動量が大きくなるほど前記磁力を大きくするようになされることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の一実施の形態によれば、上部構造体または下部構造体に水平方向の大きい力が作用した場合、第1磁力発生部から磁力を発生させることで、下向きの滑り面が上向きの滑り面に向かって吸引される方向の力として作用するため、下向きの滑り面が上向きの滑り面から抵抗を受けることになり、また、第2磁力発生部から磁力を発生させることで、磁気粘性流体の粘度が高くなり、脚部が磁気粘性流体による抵抗を受けることになる。
そのため、大きい水平方向の力が建物に作用した場合に、2種類の抵抗が発生することにより、より大きな減衰力で建物の揺れを抑制できる。
したがって、従来技術のように磁力発生部によって発生させる磁力や滑り面の面積を大きく確保する必要なく、滑り支承の占有スペースおよびコストの抑制を図りつつ大きな地震エネルギーを減衰させる上で有利となる。
また、上向きの滑り面に設けられ下向きの滑り面に対して磁力を発生させる第1磁力発生部が、磁気粘性流体に対して磁力を発生させる第2磁力発生部を兼用していると、構成の簡素化、コストダウンを図る上で有利となる。
また、側壁を滑り部材と一体に設けると、構成の簡素化、コストダウンを図る上で有利となる。
また、第2磁力発生部を側壁に設けると、第1磁力発生部と第2磁力発生部を独立して制御することができ、地震エネルギーの減衰の制御をきめ細かく行なう上で有利となる。
また、上向きの滑り面の中央部の輪郭を、下向きの滑り面の輪郭よりも大きく形成すると、上部構造体または下部構造体に水平方向の小さい力が作用した場合、従来の滑り支承と同様に、下向きの滑り面が、上向きの滑り面の中央部の輪郭内で円滑に速やかに移動する。
また、第1磁力発生部を、中央部の中心を中心とした仮想円周上に周方向に間隔をおいて配置された複数のコイルからなるコイル環状列によって構成すると、上部構造体または下部構造体に作用する水平方向の力の方向に拘わらず、上向きの滑り面の外周部から下向きの滑り面に安定して磁力を作用させることができるため、下向きの滑り面が上向きの滑り面の外周部からより安定して抵抗を受けることになり、滑り支承によってエネルギーを減衰させる上で有利となる。
また、コイル環状列を、中央部の中心からの半径を異ならせた複数の仮想円周上に設けると、上部構造体または下部構造体の水平方向への変位量が大きくなっても確実に上向きの滑り面の外周部から下向きの滑り面に安定して磁力を作用させることができるため、下向きの滑り面が上向きの滑り面の外周部からより安定して抵抗を受けることになり、滑り支承によってエネルギーを減衰させる上で有利となる。
また、上向きの滑り面の外周部において、中央部の中心から距離が離れるほど第1磁力発生部から発生する磁力を大きくするように第1磁力発生部を制御すると、上部構造体または下部構造体の水平方向への変位量が大きくなればなるほど、下向きの滑り面が上向きの滑り面の外周部から受ける抵抗が大きくなり、滑り支承によってエネルギーを大きく減衰させる上で有利となる。
また、上部構造体または下部構造体の振動量が大きくなるほど第1磁力発生部および第2磁力発生部から発生する磁力を大きくするように第1磁力発生部を制御すると、上部構造体または下部構造体の振動量が大きくなるほど、下向きの滑り面が上向きの滑り面から受ける抵抗および脚部が磁気粘性流体から受ける抵抗が大きくなり、滑り支承によってエネルギーを大きく減衰させる上で有利となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】(A)は滑り部材が設けられた下部構造体を断面図で示した第1の実施の形態の滑り支承の側面図、(B)は滑り部材が設けられた下部構造体の平面図である。
【
図2】(A)は滑り部材が設けられた下部構造体を断面図で示した第2の実施の形態の滑り支承の側面図、(B)は滑り部材が設けられた下部構造体の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(第1の実施の形態)
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1に示すように、免震装置10は、例えば、建物である上部構造体12と、建物の基礎をなす下部構造体14との間に配設された複数の滑り支承16と、不図示の複数の積層ゴムと、不図示のエネルギー減衰手段とを備えている。
滑り支承16は、下部構造体14に設けられた上向きの滑り面18と、側壁22と、上部構造体12に設けられ上向きの滑り面18で支持される下向きの滑り面20と、磁気粘性流体24と、磁力発生部26と、制御部28とを含んで構成されている。
複数の滑り支承16はそれら滑り面18、20を介して上部構造体12の荷重を支持し、また、上部構造体12を下部構造体14上で移動可能に支持している。
下向きの滑り面20は、上向きの滑り面18の輪郭よりも小さく、下向きの滑り面20は上向きの滑り面18の中央部1802に位置し、上部構造体12または下部構造体14に水平方向の力が作用したときに、下向きの滑り面20は上向きの滑り面18の中央部1802からその周囲の外周部1804に向かって滑動する。
【0009】
下向きの滑り面20は、上部構造体12の下部から突設された脚部30の下端に設けられ、本実施の形態では、脚部30は上部構造体12の下面1202に取り付けられている。また、脚部30は磁石に吸着される磁性材料で構成され、下向きの滑り面20は摩擦係数が小さく形成されている。
このような磁性材料として、鉄やニッケル合金など磁石に吸着する従来公知の様々な金属材料が使用可能である。
脚部30は、上部構造体12の下面1202にボルトで取着されるフランジ3002と、フランジ3002の中央部から突設された円柱状の柱部3004とを備えている。
そして、柱部3004の円形の下端面が、平坦で平滑な下向きの滑り面20に形成されている。
また、下向きの滑り面20が上向きの滑り面18に接触した状態で、脚部30の少なくとも下部、すなわち、柱部3004の少なくとも下部の外周面3006は、後述するように磁気粘性流体24に浸漬している。
【0010】
上向きの滑り面18は、下部構造体14の上面1402に設けられている。
下部構造体14はコンクリート製で、下部構造体14の上面1402に平面視円形の凹部1404が設けられ、上向きの滑り面18は、この凹部1404に取着された滑り部材32の上面で構成され、上向きの滑り面18は摩擦係数が小さく形成されている。
滑り部材32は、磁力を透過する低摩擦材料から形成され、このような磁力を透過する低摩擦材料として、例えば、ポリテトラフルオロチレンを主成分とする合成樹脂材料など従来公知の様々な合成樹脂材料が使用可能である。
上向きの滑り面18は、円形の中央部1802とその外周に位置する円環状の外周部1804とで構成され、上向きの滑り面18の中央部1802は、下向きの滑り面20の直径よりも大きい直径で形成されている。したがって、上向きの滑り面18の中央部1802の輪郭は、下向きの滑り面20の輪郭よりも大きい。
【0011】
側壁22は、上向きの滑り面18の輪郭に沿って延在して設けられている。
本実施の形態では、側壁22は滑り部材32と一体に形成され、側壁22は滑り部材32の外周に沿って環状に形成されている。
また、側壁22の高さは、側壁22の上端が上部構造体12に干渉しない寸法に設定されており、本実施の形態では、側壁22の高さは、脚部30の高さのほぼ半分程度の寸法となっている。
【0012】
図1(A)に示すように、磁気粘性流体24は、上向きの滑り面18と側壁22の内周面2202とによって形成された上方に開放された収容空間Sに収容されている。なお、
図1(B)において磁気粘性流体24は省略されている。
下向きの滑り面20が上向きの滑り面18に接触した状態で、脚部30の少なくとも下部(柱部30の外周面3006)は磁気粘性流体24に浸漬している。
磁気粘性流体24(Magneto Rheological Fluid:MR流体)とは、鉄(Fe)等の磁性粒子をオイル等の溶媒に分散させた流体であって、磁力(磁場、磁界)を印加することにより粘度が大きく変化する機能性流体であり、印加する磁力が大きくなるほど粘度が高く変化する。
【0013】
磁力発生部26は、上向きの滑り面18に設けられ、下向きの滑り面20に対して磁力を発生させる第1磁力発生部26Aとして機能する。また、本実施の形態では、磁力発生部26は、磁気粘性流体24に対して磁力を発生させる第2磁力発生部26Bとしても機能しており、言い換えると、第1磁力発生部26Aが第2磁力発生部26Bを兼用している。
本実施の形態では、磁力発生部26は、上向きの滑り面18の外周部1804に設けられている。
磁力発生部26により磁力を発生させると、この磁力により下向きの滑り面20は上向きの滑り面18に向かって吸引される。
磁力発生部26は、外周部1804で中央部1802の中心を中心とした仮想円周上に周方向に等間隔をおいて配置された複数のコイル34からなるコイル環状列36によって構成されている。各コイル34は、後述する制御部28から電流が供給されることで磁力を発生させる電磁石である。また、複数のコイル34は、滑り部材32に埋め込まれて配置されている。
本実施の形態では、コイル環状列36は、中央部1802の中心からの半径を異ならせた複数の仮想円周上に設けられており、コイル環状列36は、第1コイル環状列36Aと、第1コイル環状列36Aよりも中央部1802の中心からの半径が大きい第2コイル環状列36Bの2つ設けられている。
なお、磁力発生部26を構成するコイル環状列36は、2列に限定されず、1列であっても、3列以上であっても良い。
【0014】
本実施の形態では、磁力発生部26は、上向きの滑り面18の外周部1804で中央部1802の中心を中心とした仮想円周上に周方向に等間隔をおいて配置された複数のコイル34からなるコイル環状列36によって構成されているので、建物に作用する水平方向の力の方向に拘わらず、外周部1804から下向きの滑り面20に安定して磁力を作用させることができるので、下向きの滑り面20が上向きの滑り面18の外周部1804からより安定して抵抗を受けることになり、滑り支承16によって地震エネルギーを減衰させ、地震による建物の揺れを抑制する上で有利となる。
また、本実施の形態では、磁力発生部26は、複数の第1コイル環状列36A、第2コイル環状列36Bが中央部1802からの半径を異なる2つの仮想円周上に設けられているので、建物の水平方向への変位量が大きくなっても確実に外周部1804から下向きの滑り面20に安定して磁力を作用させることができるので、下向きの滑り面20が上向きの滑り面18の外周部1804からより安定して抵抗を受けることになり、滑り支承16によって地震エネルギーを減衰させ、地震による建物の揺れを抑制する上で有利となる。
【0015】
さらに、磁力発生部26から発生する磁力が収容空間Sに収容された磁気粘性流体24に作用することにより、磁気粘性流体24の粘度が変化し、磁力が大きくなるほど粘度が高くなる。
したがって、地震などにより建物の揺れが発生し、磁気粘性流体24に浸漬した脚部30が水平方向に移動すると、脚部30が磁気粘性流体24により抵抗を受け、この抵抗は、磁気粘性流体24に印加される磁力の大きさによって制御されることになる。
このため、磁力発生部26から発生する磁力により発生する下向きの滑り面20が上向きの滑り面18の外周部1804から受ける抵抗に加え、磁気粘性流体24によって脚部30に作用する抵抗が発生するため、滑り支承16によって地震エネルギーを減衰させ、地震による建物の揺れを抑制する上でさらに有利となる。
【0016】
制御部28は、磁力発生部26により発生する磁力を制御するものである。
制御部28は、CPU、記憶部、インターフェース回路などを含むマイクロコンピュータを含んで構成されている。
記憶部にはCPUが実行する制御プログラムが格納されている。
また、インターフェース回路を介して複数のコイル34、センサ38が接続されている。
センサ38は、滑り支承16が設置された建物、すなわち、上部構造体12あるいは下部構造体14の振動量(例えば加速度)を検出するものである。
CPUが制御プログラムを実行することでセンサ38の検出結果に基づいてコイル34に対する通電量(電流)を制御し、下向きの滑り面20に対して発生する磁力および磁気粘性流体24に印加する磁力を制御する。
具体的に説明すると、大きさの異なる振動を段階ごとに分けて、各段階の振動の大きさとコイル環状列36毎の複数のコイル34に通電する通電量とを対応付けたテーブルを予め記憶部に記憶しておく。
CPUは、センサ38によって検出された振動量からテーブルを参照して振動の大きさに対応する電気量によりコイル34に通電を行う。
【0017】
本実施の形態では、制御部28は、外周部1804において中央部1802の中心から距離が離れるほど磁力発生部26から発生する磁力を次第に大きくするように磁力発生部26を制御する。言い換えると、制御部28は、中央部1802の中心から距離が離れるほどコイル環状列36毎に複数のコイル34から発生する磁力を次第に大きくするように磁力発生部26を制御する。すなわち、第1コイル環状列36Aの磁力よりも第2コイル環状列36Bの磁力が大きくなるように制御する。
また、本実施の形態では、センサ38で検出された上部構造体12または下部構造体14の振動量が大きくなるほど磁力発生部26から発生する磁力を次第に大きくするように磁力発生部26を制御する。
すなわち、外周部1804において中央部1802の中心から距離が離れるほど各コイル環状列36から発生する磁力を次第に大きくし、かつ、上部構造体12または下部構造体14の振動量が大きくなるほど各コイル環状列36から発生する磁力を次第に大きくするように磁力発生部26を制御する。
【0018】
次に、本実施の形態の作用効果について説明する。
風などにより小さい水平方向の力が建物に作用した場合には、不図示の積層ゴムが剪断変形すると共に、下向きの滑り面20が、上向きの滑り面18の中央部1802の輪郭内で移動する。
したがって、小さい水平方向の力が建物に作用した場合、小さい水平方向の力による建物の揺れが抑制される。
この場合、制御部28は、センサ38で検出された振動量が小さいので、まだ磁力発生部26から磁力を発生させない。
【0019】
また、地震などにより大きい水平方向の力が建物に作用した場合には、不図示の積層ゴムが剪断変形すると共に、下向きの滑り面20が、上向きの滑り面18の中央部1802から外周部1804に移動し、その際に、不図示のエネルギー減衰手段によりエネルギーが減衰される。
さらに、制御部28がセンサ38により検出した振動量の大きさに応じて磁力発生部26、すなわち、上向きの滑り面18の外周部1804に設けられた各コイル環状列36の複数のコイル34から磁力を発生させる。
この磁力は、下向きの滑り面20を上向きの滑り面18に向かって吸引する力として作用するため、下向きの滑り面20が上向きの滑り面18の外周部1804から抵抗を受けることになる。
さらに、この磁力が磁気粘性流体24に印加されることで磁気粘性流体24の粘度が高くなり、脚部30が磁気粘性流体24による抵抗を受けることになる。
そのため、大きい水平方向の力が建物に作用した場合に、2種類の抵抗が発生することにより、より大きな減衰力で建物の揺れを抑制できる。
したがって、従来技術のように磁力発生部26によって発生させる磁力や滑り面18、20の面積を大きく確保する必要がなく、滑り支承16の占有スペースおよびコストの抑制を図りつつ大きな地震エネルギーを減衰させる上で有利となる。
また、滑り支承16によっても地震エネルギーが減衰され、免震装置10の減衰力の一部を滑り支承16が負担することから、免震装置10に要求される減衰力を変えずに、鉛プラグやオイルダンパーなどのエネルギー減衰手段を小型化でき、したがって、免震装置10の小型化を図る上で有利となる。
【0020】
また、本実施の形態では、上向きの滑り面18に設けられ下向きの滑り面20に対して磁力を発生させる第1磁力発生部26Aが、磁気粘性流体24に対して磁力を発生させる第2磁力発生部26Bを兼用しているので、構成の簡素化、コストダウンを図る上で有利となる。
【0021】
また、側壁22は滑り部材32と別体に設けてもよいが、本実施の形態のように、側壁22を滑り部材32と一体に設けると、構成の簡素化、コストダウンを図る上で有利となる。
【0022】
なお、上向きの滑り面18の中央部1802の輪郭と、下向きの滑り面20の輪郭とを同一に形成してもよいが、本実施の形態のように、上向きの滑り面18の中央部1802を、下向きの滑り面20の直径よりも大きい直径で形成し、言い換えると、上向きの滑り面18の中央部1802の輪郭を、下向きの滑り面20の輪郭よりも大きく形成すると、風などにより小さい水平方向の力が建物に作用した場合には、従来と同様に、下向きの滑り面20が、上向きの滑り面18の中央部1802の輪郭内で円滑に速やかに移動する。
したがって、風などによる小さい水平方向の力が建物に作用した場合、建物の揺れを速やかに効率的に抑制する上で有利となる。
【0023】
また、本実施の形態では、磁力発生部26は、外周部1804で中央部1802の中心を中心とした仮想円周上に周方向に等間隔をおいて配置された複数のコイル34からなるコイル環状列36によって構成されているので、建物に作用する水平方向の力の方向に拘わらず、外周部1804から下向きの滑り面20に安定して磁力を作用させることができるので、下向きの滑り面20が外周部1804からより安定して抵抗を受けることになり、滑り支承16によって地震エネルギーを減衰させ、地震による建物の揺れを抑制する上で有利となる。
また、本実施の形態では、複数の第1コイル環状列36A、第2コイル環状列36Bが中央部1802の中心からの半径を異ならせた複数の仮想円周上に設けられているので、建物の水平方向への変位量が大きくなっても確実に外周部1804から下向きの滑り面20に安定して磁力を作用させることができるので、下向きの滑り面20が外周部1804からより安定して抵抗を受けることになり、滑り支承16によって地震エネルギーを減衰させ、地震による建物の揺れを抑制する上で有利となる。
【0024】
また、制御部28により、上向きの滑り面18の中央部1802の中心からの距離に拘わらず磁力発生部26から発生する磁力を同一となるように磁力発生部26を制御してもよいが、本実施の形態のように、制御部28により、外周部1804において上向きの滑り面18の中央部1802の中心から距離が離れるほど磁力が大きくなるように磁力発生部26を制御すると、地震などにより大きい水平方向の力が建物に作用した場合には、下向きの滑り面20が、上向きの滑り面18の中央部1802から離れれば離れるほど、言い換えると、建物の水平方向への変位量が大きくなればなるほど、上向きの滑り面18が外周部1804から受ける抵抗が大きくなり、滑り支承16によって地震エネルギーを大きく減衰させる上で有利となる。
したがって、大きい水平方向の力が建物に作用した場合、より大きな減衰力により建物の揺れを抑制する上でより有利となる。
【0025】
また、制御部28により、センサ38で検出された建物の振動量に拘わらず磁力発生部26から発生する磁力を変化させず同一となるように磁力発生部26を制御してもよいが、本実施の形態のように、制御部28により、センサ38で検出された建物の振動量が大きくなるほど磁力発生部26から発生する磁力を次第に大きくするよう磁力発生部26を制御すると、地震などにより大きい水平方向の力が建物に作用した場合には、建物に作用する力が大きくセンサ38で検出される振動量が大きくなればなるほど、下向きの滑り面20が上向きの滑り面18の外周部1804から受ける抵抗および脚部30が磁気粘性流体24から受ける抵抗が大きくなり、滑り支承16によって地震エネルギーを大きく減衰させる上で有利となる。
したがって、大きい水平方向の力が建物に作用した場合、より大きな減衰力により建物の揺れを抑制する上でより有利となる。
【0026】
(第2の実施の形態)
次に、
図2を参照して第2の実施の形態について説明する。
第2の実施の形態の滑り支承16Aでは、第1磁力発生部26Aと第2磁力発生部26Bとを別々に設けている。
第1磁力発生部26Aは、第1の実施の形態と同様に、上向きの滑り面18の外周部1804に設けられている。
第2磁力発生部26Bは、側壁22を囲むように螺旋状に巻かれて配置されたコイル40により構成され、コイル40は、側壁22の外周面に接着剤等により取り付けられている。
コイル40は、電流が流れることによって磁気粘性流体24に対して磁力を発生させる電磁石であり、制御部28によって供給される電流が制御される。
なお、側壁22の内周面2202に沿って螺旋状に巻かれたコイル40を内周面2202に取り付け、コイル40と磁気粘性流体24が接触するようにしてもよい。
また、側壁22が磁力を透過する材料(滑り部材32)で形成されていれば、螺旋状に巻かれたコイル40を側壁22の内部に埋設してもよい。
【0027】
制御部28のCPUが制御プログラムを実行することでセンサ38の検出結果に基づいてコイル34に対する通電量(電流)を制御し、下向きの滑り面20に対して発生する磁力を制御すると共に、コイル40に対する通電量(電流)を制御して磁気粘性流体24に作用する磁力を制御する。
第1の実施の形態と同様に、大きさの異なる振動を段階ごとに分けて、各段階の振動の大きさとコイル環状列36毎の複数のコイル34に通電する通電量とを対応付けたテーブルを予め記憶部に記憶しておくことに加えて、大きさの異なる振動を段階ごとに分けて、コイル40に通電する通電量とを対応付けたテーブルを予め記憶部に記憶しておく。
CPUは、センサ38によって検出された振動量から上記2つのテーブルをそれぞれ参照して振動の大きさに対応する電気量によりコイル34、コイル40に通電を行う。
【0028】
第2の実施の形態によれば、制御部28により第1磁力発生部26Aで発生させる磁力と、第2磁力発生部26Bで発生させる磁力とを独立して制御できるため、下向きの滑り面20が上向きの滑り面18の外周部1804から受ける抵抗と、脚部30が磁気粘性流体24から受ける抵抗とをきめ細かく制御することができ、地震エネルギーの減衰をきめ細かく制御する上で有利となる。
また、制御部28により、第1磁力発生部26Aおよび第2磁力発生部26Bの双方を機能させて地震エネルギーを減衰させることができることは無論のこと、第1磁力発生部26Aおよび第2磁力発生部26Bの一方を機能させ他方の機能を停止させて地震エネルギーを減衰させることもできる。
したがって、建物に加わる振動の大きさに応じて第1磁力発生部26Aおよび第2磁力発生部26Bによって発生させる磁力を選択的に制御することで、地震エネルギーを適切に減衰させる上で有利となる。
【符号の説明】
【0029】
10 免震装置
12 上部構造体
1202 下面
14 下部構造体
1402 上面
1404 凹部
16、16A 滑り支承
18 上向きの滑り面
1802 中央部
1804 外周部
20 下向きの滑り面
22 側壁
2202 内周面
24 磁気粘性流体
26 磁力発生部
28 制御部
30 脚部
3002 フランジ
3004 柱部
3006 外周面
32 滑り部材
34 コイル
36 コイル環状列
36A 第1コイル環状列
36B 第2コイル環状列
38 センサ
40 コイル
S 収容空間