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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022183533
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】自動変速機の油圧制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 59/72 20060101AFI20221206BHJP
【FI】
F16H59/72
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021090896
(22)【出願日】2021-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100197561
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 三喜男
(72)【発明者】
【氏名】小林 素身
(72)【発明者】
【氏名】重中 康夫
【テーマコード(参考)】
3J552
【Fターム(参考)】
3J552MA02
3J552NA01
3J552NB01
3J552QC07
3J552RC02
3J552TA10
3J552VA48W
3J552VA76W
3J552VC01W
(57)【要約】
【課題】コストの増加を抑制しつつ自動変速機の油温を精度良く検出する。
【解決手段】オイルポンプ2からの油圧を複数の摩擦締結要素10に共通の第1油路21と第1油路21から分岐した複数の第2油路22とを通じて複数の摩擦締結要素10にそれぞれ供給する自動変速機1の油圧制御装置は、第1油路21の油温を検出する第1油温センサ14と、複数の第2油路22の油温をそれぞれ検出する複数の第2油温センサ13と、複数の第2油温センサ13によってそれぞれ検出された油温を用いて、第1油温センサ14によって検出された油温を補正する油温補正手段30とを備えている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オイルポンプからの油圧を複数の摩擦締結要素に共通の第1油路と前記第1油路から分岐した複数の第2油路とを通じて前記複数の摩擦締結要素にそれぞれ供給する自動変速機の油圧制御装置であって、
前記第1油路の油温を検出する第1油温センサと、
前記複数の第2油路の油温をそれぞれ検出する複数の第2油温センサと、
前記複数の第2油温センサによってそれぞれ検出された油温を用いて、前記第1油温センサによって検出された油温を補正する油温補正手段とを備えている、自動変速機の油圧制御装置。
【請求項2】
前記油温補正手段は、前記複数の第2油温センサによってそれぞれ検出された油温が所定範囲内にあるときに油温の補正を行う、
請求項1に記載の自動変速機の油圧制御装置。
【請求項3】
前記油温補正手段は、前記第1油温センサ及び前記複数の第2油温センサによって検出された油温の平均値に基づいて、前記第1油温センサによって検出された油温を補正する、
請求項1又は請求項2に記載の自動変速機の油圧制御装置。
【請求項4】
前記第2油路の油圧をそれぞれ検出する複数の油圧センサを備え、
前記第2油温センサは、前記油圧センサに一体的に設けられている、
請求項1から請求項3の何れか1項に記載の自動変速機の油圧制御装置。
【請求項5】
前記第1油温センサによって検出される油温は、前記複数の摩擦締結要素にそれぞれ供給する作動油の流量の算出に用いられる、
請求項1から請求項4の何れか1項に記載の自動変速機の油圧制御装置。
【請求項6】
前記第1油温センサは、所定温度以上の高温領域において所定温度未満の低温領域より精度が高くなるように構成されている、
請求項1から請求項5の何れか1項に記載の自動変速機の油圧制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される自動変速機の油圧制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載される自動変速機は一般に、複数のプラネタリギヤセット(遊星歯車機構)とクラッチやブレーキなどの複数の摩擦締結要素とを備えている。この種の自動変速機は、複数の摩擦締結要素が選択的に締結されることにより各プラネタリギヤセットを経由する動力伝達経路が選択的に切り換えられ、車両の運転状態に応じた変速段を達成するように構成されている。
【0003】
自動変速機の摩擦擦締結要素は、複数の摩擦板と、複数の摩擦板を押圧して締結させるピストンと、ピストンを締結方向に付勢する作動油が供給される油圧室とを備え、油圧室に対する作動油の油圧の給排によって、締結ないし解放されるようになっている。
【0004】
複数の摩擦締結要素の油圧室にはそれぞれ、オイルポンプによって生成された作動油の油圧が、オイルポンプに接続された複数の摩擦締結要素に共通の第1油路と第1油路から分岐して各摩擦締結要素に接続された第2油路とを通じて供給されるようになっている。摩擦締結要素に供給される油圧は、摩擦締結要素の締結時におけるショックの抑制や応答性の向上を図るように制御されている。
【0005】
摩擦締結要素の油圧室に供給される作動油は、油温に応じて粘性などの特性が変化する。このため、自動変速機に油温を検出する油温センサが備えられ、油温センサによって検出された油温に応じて油圧を制御することが行われている。自動変速機の油温を適切な温度に確保するため、油温センサの異常を判定する油温センサの異常判定装置も知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010-180927号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
自動変速機では、複数の摩擦締結要素にそれぞれ供給する油圧を精度良く制御するため、オイルポンプに接続された複数の摩擦締結要素に共通の油路に油温センサを配置して油温を検出し、油温に応じて複数の摩擦締結要素にそれぞれ供給する作動油の流量を算出して油圧を制御することがある。かかる場合、自動変速機の油圧制御を緻密に制御するため、油温センサの検出精度を向上させることが望まれる。
【0008】
これに対し、通常の油温センサに代えて、温度範囲全体に亘って精度を高めた高精度の油温センサを用いることが考えられる。しかしながら、温度範囲全体に亘って精度を高めた高精度の油温センサを用いることは、コストの増加を引き起こし得る。
【0009】
そこで、本発明は、オイルポンプからの油圧を複数の摩擦締結要素にそれぞれ供給する自動変速機において、コストの増加を抑制しつつ自動変速機の油温を精度良く検出することができる自動変速機の油圧制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、オイルポンプからの油圧を複数の摩擦締結要素に共通の第1油路と前記第1油路から分岐した複数の第2油路とを通じて前記複数の摩擦締結要素にそれぞれ供給する自動変速機の油圧制御装置であって、前記第1油路の油温を検出する第1油温センサと、前記複数の第2油路の油温をそれぞれ検出する複数の第2油温センサと、前記複数の第2油温センサによってそれぞれ検出された油温を用いて、前記第1油温センサによって検出された油温を補正する油温補正手段とを備えている、自動変速機の油圧制御装置を提供する。
【0011】
本発明によれば、複数の摩擦締結要素に共通の第1油路の油温を検出する第1油温センサと、複数の摩擦締結要素にそれぞれ油圧を供給する複数の第2油路の油温をそれぞれ検出する複数の第2油温センサとが備えられ、油温補正手段によって、複数の第2油温センサによって検出された油温を用いて、第1油温センサによって検出される油温が補正される。第1油温センサが複数の第2油温センサを用いて学習補正されるので、第1油温センサの検出精度を向上させることができ、自動変速機の油温を精度良く検出することができる。
【0012】
第1油温センサとして、40度などの所定温度以上の高温領域のみを校正して精度を高めた第1油温センサを用い、高温領域では第1油温センサによって油温を精度良く検出し、第2油温センサによって検出される油温のバラツキが少ない前記所定温度未満の低温領域では、複数の第2油温センサによって検出された油温を用いて第1油温センサによる油温を学習補正することで、低温領域及び高温領域において自動変速機の油温を精度良く検出することができる。第1油温センサとして、高温領域及び低温領域においてそれぞれ校正して温度範囲全体に亘って精度を高めた高価な高精度の油温センサを用いることなく、自動変速機の油温を精度良く検出することができる。
【0013】
したがって、オイルポンプからの油圧を複数の摩擦締結要素にそれぞれ供給する自動変速機において、第1油温センサのみを用いて油温を検出する場合に比して、コストの増加を抑制しつつ自動変速機の油温を精度良く検出することができる。
【0014】
前記油温補正手段は、複数の第2油温センサによってそれぞれ検出された油温が所定範囲内にあるときに油温の補正を行うことが好ましい。
【0015】
本構成により、複数の第2油温センサによってそれぞれ検出された油温が所定範囲内にあるときに油温の補正が行われるので、エンジン停止後所定時間経過後など、複数の第2油温センサによって検出される油温が低く油温のバラツキが少ない所定範囲内にあるときに、複数の第2油温センサによって検出される油温を用いて、第1油温センサの検出精度を向上させることができる。
【0016】
前記油温補正手段は、第1油温センサ及び複数の第2油温センサによって検出された油温の平均値に基づいて、第1油温センサによって検出された油温を補正することが好ましい。
【0017】
本構成により、第1油温センサ及び複数の第2油温センサによって検出された油温の平均値に基づいて、第1油温センサによって検出された油温が補正されるので、比較的容易に、第1油温センサの検出精度を向上させることができる。
【0018】
前記第2油路の油圧をそれぞれ検出する複数の油圧センサが備えられ、第2油温センサは、油圧センサに一体的に設けられることが好ましい。
【0019】
本構成により、第2油温センサは、第2油路の油圧を検出する油圧センサに一体的に設けられるので、油圧センサに一体的に設けられた油温センサを第2油温センサとして用いることができ、別途第2油温センサを設けることなく、コストの増加を抑制しつつ第1油温センサによる油温の検出精度を向上させることができる。
【0020】
前記第1油温センサによって検出される油温は、複数の摩擦締結要素にそれぞれ供給する作動油の流量の算出に用いられ得る。
【0021】
本構成により、第1油温センサによって検出される油温は、複数の摩擦締結要素にそれぞれ供給する作動油の流量の算出に用いられるので、油温を用いて複数の摩擦締結要素にそれぞれ供給する作動油の流量を算出して複数の摩擦締結要素にそれぞれ供給する油圧を制御する際に、油温を精度良く検出して複数の摩擦締結要素にそれぞれ供給する油圧を精度良く制御することができる。
【0022】
前記第1油温センサは、所定温度以上の高温領域において所定温度未満の低温領域より精度が高くなるように構成されることが好ましい。
【0023】
本構成により、第1油温センサは、高温領域において低温領域より精度が高くなるように構成されるので、高温領域及び低温領域においてそれぞれ校正して温度範囲全体に亘って精度を高めた高価な油温センサを用いる場合に比して、コストの増加を抑制することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る自動変速機の油圧制御装置によれば、オイルポンプからの油圧を複数の摩擦締結要素にそれぞれ供給する自動変速機において、コストの増加を抑制しつつ自動変速機の油温を精度良く検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の実施形態に係る自動変速機の油圧制御回路の要部を示す回路図である。
図2】油温センサの許容差を説明する説明図である。
図3】自動変速機の油圧制御装置を示すブロック図である。
図4】油温センサの目標補正温度範囲を示す図である。
図5】初期油温補正に用いる目標補正温度特性を示す図である。
図6】通常油温補正に用いる目標補正温度特性及び実行補正温度特性を示す図である。
図7】補正反映特性を示す図である。
図8】油温センサの温度補正制御を示すフローチャートである。
図9】補正反映特性を示す別の図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
【0027】
図1は、本発明の実施形態に係る自動変速機の油圧制御回路の要部を示す回路図である。本発明の実施形態に係る自動変速機は、これに限定するものではないが、フロントエンジン・リアドライブ車などの車両に搭載され、エンジンからの動力が入力されるようになっている。自動変速機は、変速機ケース内に、エンジンに接続される入力軸の軸線上に、複数のプラネタリギヤセットとクラッチやブレーキなどの複数の摩擦締結要素とを備えた変速機構を備えている。
【0028】
自動変速機は、前記変速機構を構成する複数の摩擦締結要素が選択的に締結されることにより各プラネタリギヤセットを経由する動力伝達経路が選択的に切り換えられ、車両の運転状態に応じた変速段を達成するように構成されている。自動変速機は、4つのプラネタリギヤセットと、3つのクラッチ及び2つのブレーキからなる5つの摩擦締結要素とを備え、これらの摩擦締結要素のうちの3つを選択的に締結することにより、前進8段及び後退速が形成されるように構成されている。
【0029】
自動変速機は、エンジンにトルクコンバータなどの流体伝動装置を介することなく接続され、エンジンと自動変速機の入力軸との間に摩擦締結要素として動力断接クラッチを備えている。動力断接クラッチは、エンジンの出力軸と自動変速機の入力軸との間を断接可能に構成されている。動力断接クラッチが締結されることで、エンジンと自動変速機との間で動力を伝達することができるようになっている。
【0030】
自動変速機ではまた、エンジンと動力断接クラッチとの間に同軸上にオイルポンプ駆動用のドライブスプロケットがエンジンの出力軸に接続して配置され、チェーンを介して自動変速機の軸心から径方向に離れて変速機ケース内に配置されたオイルポンプが駆動されるようになっている。
【0031】
本実施形態では、自動変速機は、変速機構を構成する5つの摩擦締結要素と動力断接クラッチを構成する摩擦締結要素とからなる6つの摩擦締結要素を備えている。摩擦締結要素はそれぞれ、複数の摩擦板と、複数の摩擦板を押圧して締結させるピストンと、ピストンを締結方向に付勢する作動油が供給される油圧室とを備え、油圧室に対する作動油の油圧の給排によって、締結ないし解放されるようになっている。
【0032】
自動変速機1は、図1に示すように、オイルポンプ2からの油圧を複数、具体的には6つの摩擦締結要素10にそれぞれ選択的に供給してエンジンからの動力を自動変速機1に伝達するとともに所定の変速段を実現するための油圧制御回路20を有している。
【0033】
油圧制御回路20は、油圧を供給する油圧供給元としてのオイルポンプ2によって生成された作動油の油圧が、オイルポンプ2に接続された複数の摩擦締結要素10に共通の第1油路21と、第1油路21から分岐して各摩擦締結要素10に接続された第2油路22とを通じて、複数の摩擦締結要素10の油圧室にそれぞれ供給されるようになっている。
【0034】
第1油路21には、オイルポンプ2の吐出圧を所定油圧のライン圧に調整する調圧弁3が設けられるとともに、運転者によって選択されたレンジに応じてライン圧の供給先を切り換えるマニュアルバルブ及び複数の摩擦締結要素10に対する油圧の供給、排出を切り換えるシフトバルブを含む所定油圧回路4が設けられている。
【0035】
複数の第2油路22にはそれぞれ、摩擦締結要素10に供給する油圧を制御するソレノイドバルブ11が設けられている。ソレノイドバルブ11として、リニアソレノイドが用いられる。ソレノイドバルブ11は、元圧ポートに入力される油圧を所定油圧の制御圧、すなわち油圧室に供給する油圧に調整して出力ポートに出力させるように、あるいは元圧ポート及び出力ポート間を遮断して出力ポートをドレンポートに連通させるように作動し、摩擦締結要素10に供給する油圧の供給、排出ができるように構成されている。ソレノイドバルブ11は、調圧弁3や所定油圧回路4内の他のソレノイドバルブなどとともにコントロールユニット30によって制御される。
【0036】
第2油路22には、ソレノイドバルブ11の下流側に第2油路22の油圧を検出する油圧センサ12が配設されている。油圧センサ12によって検出される油圧は、各摩擦締結要素10に供給する作動油の流量の算出及び各摩擦締結要素10に対する油圧制御などに用いられる。油圧センサ12には、第2油路22の油温を検出する油温センサ(第2油温センサ)13が一体的に設けられ、油圧センサ12は、第2油温センサ13によって検出される油温を用いて油圧センサ12が過電流等で温度上昇していないか監視するようになっている。
【0037】
油圧センサ12に一体的に設けられた第2油温センサ13は、温度の上昇に伴って抵抗が低下するサーミスタなどを備えた温度センサが用いられ、40度などの所定温度以上の高温領域及び前記所定温度未満の低温領域において検出精度が±1度などの第1所定範囲内であるように構成されている。
【0038】
自動変速機1では、第1油路21に、第1油路21の油温を検出する油温センサ(第1油温センサ)14が設けられている。第1油温センサ14は、オイルポンプ2に接続された第1油路21において調圧弁3の下流側及び所定油圧回路4の上流側に設けられている。第1油温センサ14として、サーミスタなどを備えた温度センサが用いられる。
【0039】
第1油温センサ14は、40度などの所定温度以上の高温領域において校正され、高温領域では前記所定温度未満の低温領域より精度が高く構成されている。第1油温センサ14は、前記所定温度未満の低温領域では検出精度が±1度などの第1所定範囲内であるが、前記所定温度以上の高温領域では検出精度が±0.5度などの第1所定範囲より小さい第2所定範囲内であるように精度が高められている。
【0040】
図2は、油温センサの許容差を説明する説明図である。図2では、第1油温センサ14について、温度(℃)を横軸にとり、油温センサの許容差である検出精度(℃)を縦軸にとって表示している。第1油温センサ14は、図3の二点鎖線L1で示すように温度にかかわらずほぼ一定の許容差W1を有する通常の油温センサに比して、図3の実線L2で示すように、40度などの所定温度Ta以上の高温領域において許容差W2が所定値以下になるように校正されて精度が高く構成されている。
【0041】
第1油温センサ14は、高温領域において校正されて精度が高く構成されることに伴って所温温度Ta未満の低温領域についても温度が高くなるに従って許容差W3が小さくなっているが、許容差W2より大きくなっている。第1油温センサ14は、高温領域において低温領域より精度が高く構成されている。
【0042】
第1油温センサ14は、所定温度Ta未満の低温領域では、複数の第2油温センサ13によって検出される油温を用いることで、第1油温センサ14によって検出された油温を学習補正し、図3の破線L3で示すように、低温領域において精度を高くするように形成される。
【0043】
前述したように、第1油温センサ14によって検出される油温は、各摩擦締結要素10に供給する作動油の流量の算出などに用いられ、各摩擦締結要素10の油圧制御などに用いられる。
【0044】
各摩擦締結要素10に供給される作動油の流量を算出する際、第2油路22に設けられたソレノイドバルブ11に対する指示圧と第2油路22に設けられた油圧センサ12によって検出される油圧との差圧が算出され、前記差圧と摩擦締結要素10の油圧室に対する作動油の流入流量との関係を示す特性データを用いて、摩擦締結要素10の油圧室に対する作動油の流入流量が算出され、摩擦締結要素10の油圧室に供給される作動油の積算流量が算出される。そして、算出された摩擦締結要素10の油圧室に供給される作動油の積算流量から油圧室の予測油圧が算出され、予測油圧に基づいて摩擦締結要素10に供給される油圧が制御される。
【0045】
前記差圧と摩擦締結要素10の油圧室に対する作動油の流入流量との関係を示す特性データは、作動油の油温に依存し、油温が高くなるにつれて流入流量が大きくなるとともに油温が低くなるにつれて流入流量が小さくなるように設定されている。第1油温センサ14によって検出される油温に応じた前記特性データを用い、各摩擦締結要素10に供給する作動油の流量が算出される。各摩擦締結要素10に供給する作動油の流量の算出は、コントロールユニット30によって行われる。
【0046】
コントロールユニット30は、第1油温センサ14によって検出される油温の検出精度を高めるように、複数の第2油温センサ13によってそれぞれ検出された油温を用いて、第1油温センサ14によって検出された油温を補正する。
【0047】
図3は、自動変速機の油圧制御装置を示すブロック図である。図3に示すように、自動変速機の油圧制御装置40は、油圧制御回路20における各ソレノイドバルブ11を制御して運転状態に応じた変速段を形成するコントロールユニット30を備えている。
【0048】
コントロールユニット30には、運転者の操作により選択されたレンジを検出するレンジセンサ5、車両の車速を検出する車速センサ6、運転者のアクセルペダルの踏込み量(アクセル開度)を検出するアクセル開度センサ7、複数の摩擦締結要素にそれぞれ供給する油圧を検出する複数の油圧センサ12、第1油路21の油温を検出する第1油温センサ14、複数の第2油路22の油温をそれぞれ検出する複数の第2油温センサ13、エンジンの回転数を検出するエンジン回転数センサ(不図示)、エンジン停止からの経過時間であるソーク時間を検出するソークタイマ(不図示)からの信号などが入力されるようになっている。
【0049】
そして、これらの信号に基づき、コントロールユニット30は、運転状態に応じて油圧制御回路20における第1油路21に設けられた調圧弁3、複数の第2油路22にそれぞれ設けられた複数のソレノイドバルブ11、所定油圧回路4に含まれるその他のソレノイドバルブなどに制御信号を出力し、オイルポンプ2からの油圧を6つの摩擦締結要素10にそれぞれ選択的に供給してエンジンからの動力を自動変速機1に伝達するとともに運転状態に応じた所定の変速段を形成するようになっている。なお、コントロールユニット30は、マイクロコンピュータを主要部として構成されている。
【0050】
前述したように、コントロールユニット30は、各種信号に基づき、第1油温センサ14によって検出される油温に基づいて複数の摩擦締結要素10にそれぞれ供給する作動油の流量を算出し、算出された作動油の流量に基づいて各摩擦締結要素10の油圧室に供給する油圧を制御するようになっている。
【0051】
コントロールユニット30はまた、油圧を精度良く制御するためなど、複数の第2油温センサ13によってそれぞれ検出された油温を用いて、第1油温センサ14によって検出された油温を補正するようになっている。コントロールユニット30には、第1油温センサ14によって検出された油温を補正するための各種データなどが記憶されている。コントロールユニット30は、複数の第2油温センサ13によってそれぞれ検出された油温を用いて、第1油温センサ14によって検出された油温を補正する油温補正手段を構成する。
【0052】
第1油温センサ14及び第2油温センサ13はそれぞれ、温度に応じた抵抗を有するサーミスタなど油温を検出する検出部と、検出部に接続されて油温を測定する測定回路部と、測定回路部に接続されて油温に対応した出力信号を出力する出力部とを備え、油温を検出するように構成されている。
【0053】
第2油温センサ13は、40度などの所定温度以上の高温領域及び前記所定温度未満の低温領域において検出精度が±1度などの第1所定範囲内であるように構成されている。第1油温センサ14は、40度などの所定温度未満の低温領域では検出精度が±1度などの第1所定範囲内であるが、前記所定温度以上の高温領域では検出精度が±0.5度などの第1所定範囲より小さい第2所定範囲内となるように精度が高められている。第1油温センサ14の測定回路部は、高温領域において検出精度が第2所定範囲内となるように形成されている。
【0054】
図4は、油温センサの目標補正温度範囲を示す図である。図4では、測定温度である温度を横軸にとり、目標補正温度を縦軸にとって表示し、第1油温センサ14によって検出された油温が補正される目標補正温度範囲が表示されている。目標補正温度範囲は、目標補正温度が上限値ラインL4と下限値ラインL5との間になるように設定されている。
【0055】
図4に示すように、上限値ラインL4は、温度が-30度~-20度では6度に設定され、温度が-20度~40度では温度が-20度で6度に且つ温度40度で4度になる所定傾きを有するように設定され、温度が40度~110度では温度40度で4度に且つ温度110度でゼロになる所定傾きを有するように設定されている。
【0056】
下限値ラインL5は、温度が-30度~-20度では-6度に設定され、温度が-20度~40度では温度が-20度で-6度に且つ温度40度で-4度になる所定傾きを有するように設定され、温度が40度~110度では温度40度で-4度に且つ温度110度でゼロになる所定傾きを有するように設定されている。
【0057】
測定温度に対する目標補正温度が上限値ラインL4及び下限値ラインL5の間である目標補正温度範囲内である場合には前記目標補正温度が設定されるが、上限値ラインL4より高い場合には上限値ラインL4の目標補正温度に設定され、下限値ラインL5より低い場合には下限値ラインL5の目標補正温度に設定される。例えば、測定温度20度において目標補正温度P1が2度である場合、目標補正温度が2度に設定されるが、測定温度40度において目標補正温度P2が6度である場合、上限値ラインL4の目標補正温度P3である4度に設定される。
【0058】
このように、測定温度に対する目標補正温度が設定されるとき、目標補正温度範囲内に設定されることで、油温センサの故障などによって目標補正温度が誤って設定されることを抑制することができる。
【0059】
自動変速機1が搭載された車両では、エンジン停止後8時間などの所定時間経過後に、第1油温センサ14及び複数の第2油温センサ13によって検出される油温の平均値に基づいて、第1油温センサ14によって検出される油温を補正する。
【0060】
第1油温センサ14によって検出される油温を補正する際には、第1油温センサ14によって検出される油温(第1油温)及び第2油温センサ13によって検出される油温(第2油温)の平均値である平均油温を算出する。自動変速機1では、1つの第1油温と6つの第2油温とからなる7つの油温の平均油温を第1油温及び第2油温の平均油温として算出する。
【0061】
次に、第1油温センサ14によって検出される油温に対して、算出された第1油温及び第2油温の平均油温の油温誤差を算出する。油温誤差として、第1油温及び第2油温の平均油温と第1油温との差が算出される。そして、算出された油温誤差に基づいて、第1油温センサ14によって検出される油温を補正する目標補正温度特性を算出する。
【0062】
目標補正温度特性が算出されると、第1油温センサ14によって検出される油温を補正する際に目標補正温度特性を実際に反映させる実行補正温度特性を算出し、算出された実行補正温度特性に基づいて第1油温センサ14によって検出される油温を補正する。
【0063】
図5は、初期油温補正に用いる目標補正温度特性を示す図である。図5では、測定温度である温度を横軸にとり、目標補正温度を縦軸にとって表示し、初期温度補正に用いる目標補正温度特性を示している。自動変速機1が搭載された車両において初めて第1油温センサ14によって検出される油温を補正する初期油温補正では、図5に示すような目標補正温度特性ラインL6が用いられる。
【0064】
目標補正温度特性ラインL6は、第1油温センサ14によって検出された油温の温度T11では油温誤差に(-1)を掛けて目標補正温度T21が設定される。例えば、第1油温が4度であるときに、第1油温及び第2油温の平均油温が6度である場合、第1油温4度から平均油温6度を引いて油温誤差として-2度が算出され、油温誤差-2度に(-1)を掛けて目標補正温度として2度が算出される。
【0065】
目標補正温度特性ラインL6は、温度-30度~110度について、温度T11より高い温度では温度T11における目標補正温度T21と温度110度におけるゼロである目標補正温度とを結んで温度が高くなるにつれて目標補正温度が低下する所定傾きを有するように設定され、温度T11より低い温度では温度T11における目標補正温度T21と同じ目標補正温度T21に設定される。
【0066】
目標補正温度特性ラインL6が算出されると、第1油温センサ14によって検出される油温を補正する際に目標補正温度特性を実際に反映させる実行補正温度特性が算出される。初期油温補正では、目標補正温度特性を実際に反映させる補正反映率αは100%に設定され、目標補正温度特性がそのまま実行補正温度特性として算出される。
【0067】
実行補正温度特性が算出されると、第1油温センサ14の出力部は、第1油温センサ14によって検出された油温を実行補正温度特性によって補正して出力するように制御される。次回、第1油温センサ14によって油温が検出されるとき、第1油温センサ14は、センサ部及び測定回路部によって検出された油温を実行補正温度特性によって補正して、すなわち目標補正温度を加算することによって油温を補正して出力する。
【0068】
図6は、通常油温補正に用いる目標補正温度特性及び実行補正温度特性を示す図である。図6では、測定温度である温度を横軸にとり、温度特性を縦軸にとって表示し、通常油温補正に用いる目標補正温度特性及び実行補正温度特性を示している。初期油温補正後に第1油温センサ14によって検出される油温を補正する通常油温補正では、図6の実線に示すような目標補正温度特性ラインL7が用いられる。
【0069】
目標補正温度特性ラインL7は、目標補正温度特性ラインL6と同様に、第1油温センサ14によって検出された油温の温度T12では油温誤差に(-1)を掛けて目標補正温度T22が設定される。
【0070】
目標補正温度特性ラインL7は、温度(T12-40)~(T12+40)度について、温度T12より高い温度では温度T12における目標補正温度T22と温度(T12+40)度におけるゼロである目標補正温度とを結んで温度が高くなるにつれて目標補正温度が低下する所定傾きを有するように設定され、温度T12より低い温度では温度T12における目標補正温度T22と温度(T12-40)度におけるゼロである目標補正温度とを結んで温度が低くなるにつれて目標補正温度が低下する所定傾きを有するように設定される。
【0071】
通常油温補正についても、目標補正温度特性ラインL7が算出されると、第1油温センサ14によって検出される油温を補正する際に目標補正温度特性を実際に反映させる実行補正温度特性が算出される。
【0072】
図7は、補正反映特性を示す図である。図7では、測定温度である温度を横軸にとり、補正反映率を縦軸にとって表示し、通常油温補正に用いる補正反映特性を示している。初期油温補正では、補正反映率が温度(T12-40)~(T12+40)度について温度にかかわらず100%に設定された補正反映特性ラインが用いられ、通常油温補正では、図7に示すような補正反映特性ラインL8が用いられる。
【0073】
補正反映特性ラインL8は、温度(T12-40)~(T12+40)度について、温度T12では補正反映率αが40%に設定され、温度T12より高い温度では温度T12における補正反映率αと温度(T12+40)度におけるゼロである補正反映率とを結んで温度が高くなるにつれて補正反映率が低下する所定傾きを有するように設定され、温度T12より低い温度では温度T12における補正反映率αと温度(T12-40)度におけるゼロである補正反映率とを結んで温度が低くなるにつれて補正反映率が低下する所定傾きを有するように設定される。
【0074】
通常油温補正では、目標補正温度特性に補正反映特性を掛けて実行補正温度特性が算出され、目標補正温度ラインL7と補正反映特性ラインL8とから、図6の二点鎖線で示すような実行補正温度特性ラインL9が算出される。
【0075】
実行補正温度特性ラインL9は、温度(T12-40)~(T12+40)度について、温度T12では目標補正温度T22に補正反映率αを掛けた実行補正温度αT22に設定され、温度T12より高い温度では温度T12における実行補正温度αT22と温度(T12+40)度におけるゼロである実行補正温度とを結んで温度が高くなるにつれて実行補正温度が低下する所定傾きを有するように設定され、温度T12より低い温度では温度T12における実行補正温度αT22と温度(T12-40)度におけるゼロである実行補正温度とを結んで温度が低くなるにつれて実行補正温度が低下する所定傾きを有するように設定される。
【0076】
通常油温補正についても、実行補正温度特性が算出されると、第1油温センサ14の出力部は、第1油温センサ14によって検出された油温を実行補正温度特性によって補正して出力するように制御される。次回、第1油温センサ14によって油温が検出されると、第1油温センサ14は、センサ部及び測定回路部によって検出された油温を実行補正温度特性によって補正して、すなわち目標補正温度を加算することによって油温を補正して出力する。
【0077】
このようにして、通常油温補正を繰り返して行うことで、第1油温センサ14によって検出される油温が複数の第2油温センサ13を用いて学習補正されて検出されるので、第1油温センサ14によって検出される油温を精度良く検出することができる。
【0078】
本実施形態では、目標補正温度特性が算出されるとき、初期油温補正では、図5に示すような目標補正温度特性データがそのまま算出されるが、通常油温補正では、図6に示すような目標補正温度特性データが、図4に示す目標補正温度範囲内である場合はそのまま算出されるが、図4に示す目標補正温度範囲外である場合は、目標補正温度範囲内に補正されて算出される。
【0079】
図8は、油温センサの油温補正制御を示すフローチャートであり、第1油温センサ14の油温補正制御を示すフローチャートである。図8に示すように、第1油温センサ14によって検出された油温を補正する油温補正制御は、コントロールユニット30によって行われる。
【0080】
コントロールユニット30には先ず、各種信号が読み込まれる(ステップS1)。レンジセンサ5、車速センサ6、アクセル開度センサ7、複数の油圧センサ12、第1油温センサ14、複数の第2油温センサ13、エンジン回転数センサ、ソークタイマからの信号などが読み込まれる。
【0081】
次に、ステップS1で読み込まれた各種信号に基づいて、エンジン停止後所定時間経過したか否かが判定される(ステップS2)。自動変速機1が搭載された車両では、エンジン停止後所定時間として8時間が設定されている。油温補正制御は、エンジン停止後所定時間経過後にエンジン停止中に行われる。
【0082】
ステップS2での判定結果がYESの場合、第1油温センサ14及び複数の第2油温センサ13によって検出される油温が所定範囲内であるか否かが判定される(ステップS3)。第1油温センサ14及び第2油温センサ13によって検出される第1油温及び第2油温の平均油温が算出され、算出された平均油温に対して第1油温及び第2油温がそれぞれ6度などの所定範囲内であるか否かが判定される。第1油温センサ14及び第2油温センサ13によって検出される油温は同時に検出される。なお、第1油温センサ14及び第2油温センサ13によって検出される油温は同所定期間の平均値を用いるようにしてもよい。
【0083】
ステップS3での判定結果がYESの場合、第1油温センサ14によって検出される油温(第1油温)に対して、第1油温センサ14及び複数の第2油温センサ13によって検出される油温の平均油温(第1油温及び第2油温の平均油温)の油温誤差が算出される(ステップS4)。
【0084】
ステップS4で油温誤差が算出されると、算出された油温誤差に基づいて、第1油温センサ14によって検出される油温を補正する目標補正温度特性が算出される(ステップS5)。目標補正温度特性は、初期油温補正では、図5に示すような目標補正温度特性ラインL6が算出される。
【0085】
ステップS5で目標補正温度特性が算出されると、第1油温センサ14によって検出される油温を補正する際に目標補正温度特性を実際に反映させる実行補正温度特性が算出される(ステップS6)。初期油温補正では、目標補正温度特性がそのまま実行補正温度特性として算出される。
【0086】
ステップS6で実行補正温度特性が算出されると、算出された実行補正温度特性に基づいて第1油温センサ14によって検出される油温の補正制御を実行し(ステップS7)、終了する。次回、第1油温センサ14によって油温が検出されるとき、第1油温センサ14によって検出された油温を実行補正温度特性によって補正して出力する。
【0087】
第1油温センサ14の出力部は、次回、第1油温センサ14によって油温を検出するときに、第1油温センサ14によって検出される油温を実行補正温度特性によって補正して出力するようになっている。第1油温センサ14の出力部はまた、初期油温補正後に行われる通常油温補正についても同様に、第1油温センサ14によって検出された油温を実行補正温度特性によって補正して出力するようになっている。
【0088】
ステップS5で目標補正温度特性が算出されるとき、目標補正温度特性は、通常油温補正では、図6の実線で示すような目標補正温度特性ラインL7が算出される。
【0089】
通常油温補正についても、ステップS5で目標補正温度特性が算出されると、第1油温センサ14によって検出される油温を補正する際に目標補正温度特性を実際に反映させる実行補正温度特性が算出される(ステップS6)。通常油温補正では、図7に示すような補正反映特性ラインL8が設定されている。通常油温補正では、目標補正温度特性に補正反映特性を掛けて実行補正温度特性が算出され、図6の二点鎖線で示すような実行補正温度特性ラインL9が算出される。
【0090】
通常油温補正についても、ステップS6で実行補正温度特性が算出されると、算出された実行補正温度特性に基づいて第1油温センサ14によって検出される油温の補正制御を実行し(ステップS7)、終了する。次回、第1油温センサ14によって油温が検出されるとき、第1油温センサ14によって検出された油温を実行補正温度特性によって補正して出力する。
【0091】
ステップS5において目標補正温度特性が算出されるとき、初期油温補正では、図5に示すような目標補正温度特性がそのまま算出されるが、通常油温補正では、図6に示すような目標補正温度特性が、図4に示す目標補正温度範囲内である場合はそのまま算出されるが、図4に示す目標補正温度範囲外である場合は、目標補正温度範囲内に補正されて算出される。
【0092】
一方、ステップS2での判定結果がNOの場合、第1油温センサ14の油温補正制御を行うことなく、終了する。エンジン停止後8時間などの所定時間経過していない場合、複数の第2油温センサ13によって検出される油温が高く油温のバラツキが大きいおそれがあるので、油温補正制御を行わない。
【0093】
また、ステップS3での判定結果がNOの場合についても、第1油温センサ14の油温補正制御を行うことなく、終了する。第1油温センサ14及び第2油温センサ13によって検出される第1油温及び第2油温の平均油温に対して第1油温及び第2油温が所定範囲内でない場合、第1油温センサ14及び第2油温センサ13が油温を誤検出しているおそれがあるので、油温補正制御を行わない。
【0094】
このように、本実施形態に係る自動変速機の油圧制御装置40では、複数の第2油温センサ13によって検出された油温を用いて、第1油温センサ14によって検出される油温が補正され、第1油温センサ14が複数の第2油温センサ13を用いて学習補正される。これにより、第1油温センサ14の検出精度を向上させることができ、自動変速機の油温を精度良く検出することができる。
【0095】
第1油温センサ14として、高温領域のみを精度を高めた第1油温センサ14を用いる場合においても、複数の第2油温センサ13によって検出された油温を用いて第1油温センサ14による油温を学習補正することで、低温領域についても自動変速機の油温を精度良く検出することができる。
【0096】
このようにして第1油温センサ14によって検出された油温は、前述したように、複数の摩擦締結要素10にそれぞれ供給する作動油の流量の算出などに用いられ、作動油の流量の算出などを精度良く行うことができる。
【0097】
本実施形態では、エンジン停止後8時間などの所定時間経過したか否かが判定されているが、実験等によってエンジン停止後8時間経過したときは複数の第2油温センサ13によってそれぞれ検出された油温が0.5度内にあることから、エンジン停止後所定時間経過したか否かに代えて、複数の第2油温センサ13によってそれぞれ検出された油温が0.5度などの所定範囲内にあるか否かを判定するようにしてもよい。
【0098】
また、油温誤差が算出されるとき、第1油温及び第2油温の平均油温としてすべての油温の平均油温を用いているが、最高油温と最低油温を除く油温の平均油温を用いて油温誤差を算出するようにしてもよい。
【0099】
また、第1油温センサ14の出力部において、第1油温センサ14によって検出される油温を実行補正温度特性によって補正して出力するようになっているが、第1油温センサ14によって検出された油温をコントロールユニット30によって実行補正温度特性によって補正して出力するようにしてもよい。
【0100】
また、目標補正温度特性が算出されるとき、通常油温補正では、図6に示すような目標補正温度特性が、図4に示す目標補正温度範囲外である場合は、目標補正温度範囲内に補正されて算出されているが、目標補正温度範囲を設定することなく、目標補正温度特性を算出することも可能である。
【0101】
本実施形態では、実行補正温度特性が算出されるとき、通常油温補正では、図7に示すような補正反映特性ラインL8を用いているが、温度T12における補正反映率αとして40%に代えて60%など他の補正反映率αを設定するようにしてもよい。
【0102】
図9は、補正反映特性を示す別の図である。図7に示すような補正反映特性ラインL8に代えて、図9に示すような補正反映特性ラインL7´を用い、実行補正温度特性を算出するようにしてもよい。
【0103】
補正反映特性ラインL7´は、温度(T12-40)~(T12+40)度について、温度T12では補正反映率αが40%に設定され、温度T12より高い温度では、温度T12で補正反映率40%に、温度(T12+10)で補正反映率20%に、温度(T12+20)で補正反映率10%に、温度(T12+40)で補正反映率ゼロになるようにそれぞれ直線状になる所定傾きを有するように設定され、温度T12より低い温度では、温度T12で補正反映率40%に、温度(T12-10)で補正反映率20%に、温度(T12-20)で補正反映率10%に、温度(T12-40)で補正反映率ゼロになるようにそれぞれ直線状になる所定傾きを有するように設定されている。
【0104】
補正反映率特性ラインL7´についても、温度T12における補正反映率αとして40%に代えて60%など他の補正反映率αを設定するようにしてもよい。
【0105】
本実施形態では、複数の摩擦締結要素10に共通の第1油路21に設けられた第1油温センサ14は、調圧弁3の下流側及び所定油圧回路4の上流側に設けられているが、調圧弁3の上流側や所定油圧回路4に設けてもよい。自動変速機1は、6つの摩擦締結要素10を備えているが、油温補正制御は、6つ以外の複数の摩擦締結要素を備えた自動変速機についても同様に適用可能である。
【0106】
このように、本実施形態に係る自動変速機の油圧制御装置40では、複数の摩擦締結要素10に共通の第1油路21の油温を検出する第1油温センサ14と、複数の摩擦締結要素10にそれぞれ油圧を供給する複数の第2油路22の油温をそれぞれ検出する複数の第2油温センサ13とが備えられ、油温補正手段30によって、複数の第2油温センサ13によって検出された油温を用いて、第1油温センサ14によって検出される油温が補正される。第1油温センサ14が複数の第2油温センサ13を用いて学習補正されるので、第1油温センサ14の検出精度を向上させることができ、自動変速機の油温を精度良く検出することができる。
【0107】
第1油温センサ14として、40度などの所定温度Ta以上の高温領域のみを校正して精度を高めた第1油温センサ14を用い、高温領域では第1油温センサ14によって油温を精度良く検出し、第2油温センサ13によって検出される油温のバラツキが少ない前記所定温度Ta未満の低温領域では、複数の第2油温センサ13によって検出された油温を用いて第1油温センサ14による油温を学習補正することで、低温領域及び高温領域において自動変速機の油温を精度良く検出することができる。第1油温センサとして、高温領域及び低温領域においてそれぞれ校正して温度範囲全体に亘って精度を高めた高価な高精度の油温センサを用いることなく、自動変速機の油温を精度良く検出することができる。
【0108】
したがって、オイルポンプ2からの油圧を複数の摩擦締結要素10にそれぞれ供給する自動変速機1において、第1油温センサのみを用いて油温を検出する場合に比して、コストの増加を抑制しつつ自動変速機の油温を精度良く検出することができる。
【0109】
また、油温補正手段30は、複数の第2油温センサ13によってそれぞれ検出された油温が所定範囲内にあるときに油温の補正を行う。これにより、エンジン停止後所定時間経過後など、複数の第2油温センサ13によって検出される油温が低く油温のバラツキが少ない所定範囲内にあるときに、複数の第2油温センサ13によって検出される油温を用いて、第1油温センサ14の検出精度を向上させることができる。
【0110】
また、油温補正手段30は、第1油温センサ14及び複数の第2油温センサ13によって検出された油温の平均値に基づいて、第1油温センサ14によって検出された油温を補正する。これにより、比較的容易に、第1油温センサ14の検出精度を向上させることができる。
【0111】
また、第2油路22の油圧をそれぞれ検出する複数の油圧センサ12が備えられ、第2油温センサ13は、油圧センサ12に一体的に設けられる。これにより、油圧センサ12に一体的に設けられた油温センサ13を第2油温センサ13として用いることができ、別途第2油温センサを設けることなく、コストの増加を抑制しつつ第1油温センサ14による油温の検出精度を向上させることができる。
【0112】
また、第1油温センサ14によって検出される油温は、複数の摩擦締結要素10にそれぞれ供給する作動油の流量の算出に用いられる。これにより、油温を用いて複数の摩擦締結要素10にそれぞれ供給する作動油の流量を算出して複数の摩擦締結要素10にそれぞれ供給する油圧を制御する際に、油温を精度良く検出して複数の摩擦締結要素10にそれぞれ供給する油圧を精度良く制御することができる。
【0113】
また、第1油温センサ14は、所定温度Ta以上の高温領域において所定温度Ta未満の低温領域より精度が高くなるように構成される。これにより、高温領域及び低温領域においてそれぞれ校正して温度範囲全体に亘って精度を高めた高価な油温センサを用いる場合に比して、コストの増加を抑制することができる。
【0114】
前述した実施形態では、自動変速機1が搭載された車両において、初期油温補正後に通常油温補正を行っているが、初期油温補正を行うことなく、初めて第1油温センサ14によって検出される油温を補正するときから通常油温補正を行うことも可能である。
【0115】
本発明は、例示された実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計上の変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0116】
以上のように、本発明によれば、オイルポンプからの油圧を複数の摩擦締結要素にそれぞれ供給する自動変速機において、コストの増加を抑制しつつ自動変速機の油温を精度良く検出することが可能となるから、自動変速機ないしこれを搭載する車両の製造産業分野において好適に利用される可能性がある。
【符号の説明】
【0117】
1 自動変速機
2 オイルポンプ
10 摩擦締結要素
12 油圧センサ
13 第2油温センサ
14 第1油温センサ
20 油圧制御回路
21 第1油路
22 第2油路
30 コントロールユニット
40 油圧制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9