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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022183567
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】電動航空機の制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 29/00 20160101AFI20221206BHJP
   B64C 27/04 20060101ALI20221206BHJP
   B64F 5/00 20170101ALI20221206BHJP
   B64D 27/24 20060101ALI20221206BHJP
   B64D 31/02 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
H02P29/00
B64C27/04
B64F5/00
B64D27/24
B64D31/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021090953
(22)【出願日】2021-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤井 啓太
(72)【発明者】
【氏名】橋本 真梨子
(72)【発明者】
【氏名】杉田 俊
(72)【発明者】
【氏名】谷本 尚生
【テーマコード(参考)】
5H501
【Fターム(参考)】
5H501AA30
5H501BB05
5H501CC04
5H501JJ03
5H501JJ04
5H501JJ17
5H501LL01
5H501LL22
5H501LL23
5H501LL32
5H501LL60
5H501PP02
(57)【要約】
【課題】騒音が過度に大きくなることを抑制しつつ電動航空機に搭載された回転翼を洗浄する。
【解決手段】電動航空機100に搭載された回転翼30を駆動する駆動用モータ12を制御する制御装置19であって、電動航空機を飛行させるための飛行用モータ制御モードと、回転翼を清掃するための清掃用モータ制御モードと、を含む少なくとも2種類のモータ制御モードのうちのいずれかのモータ制御モードで選択的に動作するように駆動用モータを制御し、清掃用モータ制御モードにおいて、駆動用モータの回転数が、人間の可聴域より低い周波数となるように駆動用モータを制御する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動航空機(100)に搭載された回転翼(30)を駆動する駆動用モータ(12)を制御する制御装置(19)であって、
前記電動航空機を飛行させるための飛行用モータ制御モードと、前記回転翼を清掃するための清掃用モータ制御モードと、を含む少なくとも2種類のモータ制御モードのうちのいずれかのモータ制御モードで選択的に動作するように前記駆動用モータを制御し、
前記清掃用モータ制御モードにおいて、前記駆動用モータの回転数が、人間の可聴域より低い周波数となるように前記駆動用モータを制御する、制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の制御装置であって、
前記清掃用モータ制御モードにおいて、前記回転翼の羽の数がA(Aは正の整数)であるときの前記周波数は、20/AHz(ヘルツ)よりも低い、制御装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の制御装置であって、
前記駆動用モータに関する回転数と、回転抵抗と、駆動電流と、駆動電圧と、前記電動航空機の機体に関する振動と、前記機体の傾きと、のうちの少なくとも1つの計測結果を取得する計測結果取得部(192)と、
取得された前記計測結果を用いて、前記電動航空機に異常が有るか否かの判定を実行する正常性判定部(193)と、を備え、
前記少なくとも2種類のモータ制御モードは、前記飛行用モータ制御モードと前記清掃用モータ制御モードとに加えて、前記駆動用モータを停止させるための停止モードを含み、
前記清掃用モータ制御モードで前記駆動用モータを制御中において、前記判定の結果が異常有りの場合、前記清掃用モータ制御モードを前記停止モードに切り替え、前記判定の結果が異常無しの場合、前記清掃用モータ制御モードを継続させる、制御装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の制御装置であって、
前記清掃用モータ制御モードにおいて前記回転翼を清掃するために、洗浄用液体噴射と、ブラシ洗浄と、乾燥と、を含む清掃を実行する清掃機器に前記実行を指示する清掃指示部(194)と、
前記指示の送信を含む通信を有線または無線により行う入出力インターフェイス(19c)と、をさらに備える、制御装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の制御装置であって、
前記飛行用モータ制御モードにおいて、前記制御装置は、前記電動航空機の飛行を制御する機体制御装置(50)からの指令に応じて前記駆動用モータを制御し、
前記清掃用モータ制御モードにおいて、前記制御装置は、外部から送信される指令に応じて、または、自身に予め設定されている前記清掃用モータ制御用プログラムに応じて、前記駆動用モータを制御する、制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電動航空機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、航空機を洗浄するためのシステムが知られている。例えば、特許文献1では、翼に取り付けられた状態にあるエンジンの洗浄システムが開示されている。この洗浄システムでは、翼に取り付け状態のエンジンが回転している間に、エンジンに洗浄液が導かれる。洗浄時には、かかるエンジンは、飛行時の約20%の回転数で回転するように制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2008-537583号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の洗浄システムでは、洗浄時のモータの回転数を飛行時より減少させてはいるが、騒音についてまでは検討されていない。このため、例えば、モータにより回転する回転翼を有する電動航空機において、特許文献1の洗浄システムを用いて回転翼を洗浄しようとする場合、騒音が大きな問題となり得る。これは、電動航空機の保管場所は、従来の航空機と比べて人家や商業施設に近いことが想定されるためである。そこで、騒音が過度に大きくなることを抑制しつつ電動航空機に搭載された回転翼を洗浄する技術が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【0006】
本開示の一形態として、電動航空機(100)の制御装置(19)が提供される。この制御装置は、電動航空機に搭載された回転翼(30)を駆動する駆動用モータ(12)を制御する制御装置であって、前記電動航空機を飛行させるための飛行用モータ制御モードと、前記回転翼を清掃するための清掃用モータ制御モードと、を含む少なくとも2種類のモータ制御モードのうちのいずれかのモータ制御モードで選択的に動作するように前記駆動用モータを制御し、前記清掃用モータ制御モードにおいて、前記駆動用モータの回転数が、人間の可聴域より低い周波数となるように前記駆動用モータを制御する。
【0007】
この形態の制御装置によれば、清掃用モータ制御モードにおいて、人間の可聴域より低い周波数となるように駆動用モータの回転数は制御されるので、騒音が過度に大きくなることを抑制しつつ電動航空機に搭載された回転翼を洗浄できる。
【0008】
本開示は、種々の形態で実現することも可能である。例えば、電動航空機の制御装置の制御方法等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示の一実施形態としての制御装置が搭載された電動垂直離着陸機の構成を模式的に示す上面図である。
図2】清掃機器から回転翼への液体噴射を模式的に示す側面図である。
図3】電動垂直離着陸機の構成を示すブロック図である。
図4】回転翼清掃処理の手順を示すフローチャートである。
図5】異常検知処理の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
A.第1実施形態:
A-1.装置構成:
本開示の一実施形態としての制御装置19を適用した電駆動システム10(以下、「EDS(Electric Drive System)10とも呼ぶ」)は、図1および図2に示す電動垂直離着陸機100(以下、「eVTOL(electric Vertical Take-Off and Landing aircraft)」100とも呼ぶ)に搭載され、eVTOL100が有する回転翼30の動作を制御する。
【0011】
eVTOL100は、電気により駆動され、鉛直方向に離着陸可能な無人航空機として構成されている。eVTOL100は、複数のEDS10に加えて、図3に示す機体制御装置50と、機体20と、複数の回転翼30と、図3に示すバッテリ40と、コンバータ42と、分配器44と、機体通信部64と、報知部66とを備えている。
【0012】
機体制御装置50は、機体側記憶部51と図示しないCPU(Central Processing Unit)とを備えるコンピュータとして構成されている。機体側記憶部51は、ROM(Read Only Memory)とRAM(Random Access Memory)とを有する。CPUは、機体側記憶部51に予め記憶されている制御プログラムを実行することにより、eVTOL100の全体動作を制御する機体側制御部52として機能する。
【0013】
eVTOL100の全体動作としては、例えば、垂直離着陸動作、飛行動作等が該当する。垂直離着陸動作および飛行動作は、設定された航空経路情報に基づいて実行されてもよく、後述する外部装置500が備える外部制御部510からの指令に基づいて実行されてもよい。機体側制御部52は、各回転翼30のブレード角等を制御する。また、機体側制御部52は、eVTOL100を飛行させるための清掃用モータ制御モードと、回転翼30を清掃するための清掃用モータ制御モードと、駆動用モータ12を停止させるための停止モードのうちのいずれかのモータ制御モードで選択的に駆動用モータ12を動作させるように制御装置19に対して指示する。
【0014】
図1に示すように、本実施形態のeVTOL100は、回転翼30とEDS10とをそれぞれ4つずつ備えている。なお、図2では、図示の便宜上、eVTOL100が備える4つの回転翼30および4つのEDS10のうち、2つの回転翼30と2つのEDS10を代表して示している。また、図3では、図示の便宜上、eVTOL100が備える4つの回転翼30と4つのEDS10のうち、1つの回転翼30と1つのEDS10を代表して示している。
【0015】
図1および図2において、機体20は、eVTOL100において回転翼30およびEDS10を除いた部分に相当する。機体20は、機体本体部21と、支柱部22と、4つの第1支持部23と、4つの第2支持部24とを備える。
【0016】
機体本体部21は、eVTOL100の胴体部分を構成する。機体本体部21は、機体軸AXを対称軸として左右対称の構成を有する。本実施形態において、「機体軸AX」とは、機体重心位置CMを通り、eVTOL100の前後方向に沿った軸を意味している。また、「機体重心位置CM」とは、貨物等が積載されていない空虚重量時におけるeVTOL100の重心位置を意味している。また、機体本体部21には、加速度センサ29が搭載される。加速度センサ29は、飛行中のeVTOL100の姿勢の制御に利用される。加速度センサ29は、三軸センサにより構成され、eVTOL100の傾きや振動を測定する。加速度センサ29による計測結果は、機体制御装置50へと出力される。
【0017】
支柱部22は、略柱状の外観形状を有し、機体本体部21の上部に固定されている。支柱部22は、eVTOL100が地上で停止した状態において、鉛直方向に延びる。本実施形態において、支柱部22は、鉛直方向に見てeVTOL100の機体重心位置CMと重なる位置に配置されている。支柱部22の上端部には、4つの第1支持部23の一方の端部がそれぞれ固定されている。
【0018】
4つの第1支持部23は、それぞれ略棒状の外観形状を有し、鉛直方向に垂直な面に沿って延びるように、互いに等角度間隔で放射状に配置されている。第1支持部23の他方の端部、すなわち支柱部22から遠ざかる位置にある端部には、それぞれ回転翼30とEDS10とが配置されている。
【0019】
4つの第2支持部24は、それぞれ略棒状の外観形状を有し、互いに隣り合う第1支持部23の他方の端部(支柱部22と接続されていない側の端部)同士を接続している。なお、図示の便宜上、4つの第2支持部24は、図1において直線で表されている。
【0020】
図1に示すように、4つの回転翼30は、各第1支持部23および各第2支持部24の端部に配置されている。4つの回転翼30は、2つの回転翼30aと、2つの回転翼30bから構成されている。2つの回転翼30aは、機体重心位置CMよりも前方側に位置する。他方、2つの回転翼30bは、機体重心位置CMよりも後方側に位置する。4つの回転翼30は、機体20の揚力を得るためのリフト用回転翼および推力を得るためのクルーズ用回転翼として利用可能に構成されている。具体的には、4つの回転翼30は、各回転翼30の回転数が等しく制御されることによりリフト用回転翼として用いられる。また、4つの回転翼30は、前方側の2つの回転翼30aの回転数と後方側の2つの回転翼30bの回転数が互いに異なるように制御されることによって、クルーズ用回転翼として用いられる。各回転翼30は、それぞれの回転軸を中心として、互いに独立して回転駆動される。
【0021】
図3に示すように、各回転翼30には、回転数センサ34と、トルクセンサ35とがそれぞれ設けられている。回転数センサ34は、回転翼30の回転数を測定する。トルクセンサ35は、回転翼30の回転トルクを測定する。各センサ34、35による計測結果は、機体制御装置50へと出力される。なお、各回転翼30には、EDS10が接続されている。
【0022】
各回転翼30に接続されている4つのEDS10は、各回転翼30をそれぞれ回転駆動させるための電駆動システムとして構成されている。4つのEDS10は、それぞれ回転翼30を回転駆動させる。
【0023】
図3に示すように、各EDS10は、駆動部11と、駆動用モータ12と、ギアボックス13と、回転数センサ14と、電流センサ15と、電圧センサ16と、トルクセンサ17と、制御装置19とを有する。
【0024】
駆動部11は、図示しないインバータ回路と、かかるインバータ回路を制御する図示しないコントローラとを含む電子機器として構成されている。インバータ回路は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)やMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)等のパワー素子により構成され、コントローラから供給される制御信号に応じたデューティ比により駆動用モータ12に駆動電圧を供給する。コントローラは、制御装置19と電気的に接続されており、制御装置19からの指令に応じてインバータ回路に制御信号を供給する。
【0025】
駆動用モータ12は、本実施形態ではブラシレスモータにより構成され、駆動部11のインバータ回路から供給される電圧および電流に応じた回転運動を出力する。なお、ブラシレスモータに代えて、誘導モータやリラクタンスモータ等の任意のモータにより構成されていてもよい。
【0026】
ギアボックス13は、駆動用モータ12と回転翼30とを物理的に接続している。ギアボックス13は、図示しない複数のギアを有し、駆動用モータ12の回転を減速して回転翼30へと伝達する。なお、ギアボックス13が省略されて駆動用モータ12に回転翼30の回転軸が直接的に接続されていてもよい。
【0027】
回転数センサ14と、トルクセンサ17とは、それぞれ駆動用モータ12に設けられており、駆動用モータ12の回転数と、回転トルクとをそれぞれ測定する。電流センサ15と電圧センサ16とは、それぞれ駆動部11と駆動用モータ12との間に設けられており、駆動電流と駆動電圧とをそれぞれ測定する。各センサ14~17による計測結果は、駆動部11を介して制御装置19へと出力される。
【0028】
制御装置19は、CPU19aと、記憶部19bと、入出力インターフェイス19cとを備えるコンピュータとして構成されている。CPU19aは、記憶部19bに予め記憶されている制御プログラムを実行することにより、駆動制御部191、計測結果取得部192、正常性判定部193、清掃指示部194として機能する。
【0029】
駆動制御部191は、機体制御装置50から通知される指令値に応じた制御信号を駆動部11に送信することにより、回転翼30を駆動させる。指令値とは、例えば、飛行用モータ制御モードと、清掃用モータ制御モードのいずれかのモータ制御モードに対応する駆動用モータ12の回転数などが該当する。機体制御装置50からの指令に応じて、駆動制御部191は、清掃用モータ制御モードにおいて、駆動用モータ12の回転数が、人間の可聴域より低い周波数となるように制御する。具体的には、駆動制御部191は、清掃用モータ制御モードにおいて、回転翼30の羽の数がAであるときのかかる周波数が20/AHz(ヘルツ)よりも低い周波数になるように制御する。なお、Aは正の整数である。
【0030】
計測結果取得部192は、駆動用モータ12に関する回転数と、回転抵抗と、駆動電流と、駆動電圧と、機体20に関する振動と、機体20の傾きの計測結果を取得する。具体的には、計測結果取得部192は、回転数センサ14,34と、電流センサ15と、電圧センサ16と、加速度センサ29における計測結果を取得する。
【0031】
正常性判定部193は、計測結果取得部192において取得された計測結果を用いて、eVTOL100に異常があるか否かの正常性を判定する。具体的には後述する。
【0032】
清掃指示部194は、清掃用モータ制御モードにおいて、回転翼30を清掃するために、図2および図3に示す清掃機器200に清掃の実行を指示する。また、清掃用モータ制御モードで駆動用モータ12の制御中において、eVTOL100に異常があると判定された場合、清掃指示部194は、回転翼30の清掃処理を停止するために、清掃機器200に清掃処理実行の停止を指示する。
【0033】
図2に示すように、本実施形態における清掃機器200は、地面から鉛直方向に延びた第1柱形部200aと、地面と水平方向に延びた第2柱形部200bとがL字状に一体形成されている。第1柱形部200aは、高さが調整可能な構成となっている。
【0034】
図3に示すように、清掃機器200は、機器制御部210と、機器通信部220とを備える。機器制御部210は、清掃機器200の制御を実行する。具体的には、機器制御部210は、洗浄用液体噴射と、ブラシ洗浄と、乾燥とを実行するように制御する。なお、図2では、洗浄用液体噴射を実行中の様子が模式的に示されている。機器通信部220は、無線通信を行う機能を有し、機体通信部64と通信可能に構成されている。無線通信としては、例えば、民間用VHF(Very High Frequency)無線通信や、4G(第4世代移動体通信システム)や5G(第5世代移動体通信システム)等の電気通信事業者が提供する無線通信や、IEEE802.11規格に従った無線LAN通信等が該当する。また、例えば、USB(Universal Serial Bus)や、IEEE802.3規格に従った有線通信であってもよい。
【0035】
清掃機器200は、記憶部19bに予め記憶されている洗浄プログラムに従って、回転翼30を清掃する。かかる洗浄プログラムには、例えば、洗浄用液体噴射フェーズと、ブラシフェーズと、乾燥フェーズがある。本実施形態において、各フェーズの実行時間は外部装置500から入力される。外部装置500としては、例えば、清掃機器200の実行時間の設定等を行う管理および制御用のコンピュータが該当する。かかる管理・制御用コンピュータは、例えば、航空管制室に配置されているサーバ装置であってもよく、また、清掃を含む保守や点検を行う保守作業員がeVTOL100の運用場所に持ち込んだパーソナルコンピュータであってもよい。
【0036】
洗浄用液体噴射フェーズでは、図2に示すように、清掃機器200から洗浄用液体を回転翼30へ向けて噴射する。上述したように、清掃機器200の第1柱形部200aの高さが調整可能なので、地面に停止状態のeVTOL100の回転翼30の高さに合わせて清掃機器200の高さが調整される。本実施形態において、洗浄用液体は水であるが、水に限らず、洗浄用の任意の種類の化学薬品であってもよい。
【0037】
ブラシフェーズでは、清掃機器200の第2柱形部200bの地面と対向する面に備えられた図示しないブラシが回転翼30と接触する位置に固定される。回転翼30が回転することによって、固定されたブラシが回転翼30を洗浄する。
【0038】
乾燥フェーズでは、他のフェーズよりも高いモータ回転数で回転翼30を回転させることによって、回転翼30に付着した水と汚れを遠心力で取り除く。
【0039】
記憶部19bは、ROMおよびRAMからなり、ROMには、上述の制御プログラムや洗浄プログラムが予め記憶されている。また、ROMには、各センサの計測値が記憶される。
【0040】
入出力インターフェイス19cは、制御装置19と外部との間で、設定値や出力値を入出力するために用いられる。また、入出力インターフェイス19cは、清掃指示部194からの指示を有線通信または無線通信により行うために用いられる。かかる指示は、機体通信部64を介して清掃機器200へと送られる。
【0041】
バッテリ40は、リチウムイオン電池により構成され、eVTOL100における電力供給源の1つとして機能する。バッテリ40は、主に、各EDS10がそれぞれ有する駆動部11へと電力を供給して各駆動用モータ12を駆動させる。なお、リチウムイオン電池に代えて、ニッケル水素電池等の任意の二次電池により構成されていてもよく、バッテリ40に代えて、またはバッテリ40に加えて、燃料電池や発電機等の任意の電力供給源が搭載されていてもよい。
【0042】
コンバータ42は、バッテリ40と接続されており、バッテリ40の電圧を降圧してeVTOL100が備える図示しない補機類や機体制御装置50へと供給する。分配器44は、バッテリ40の電圧を各EDS10が備える駆動部11へと分配する。
【0043】
機体通信部64は、無線通信を行なう機能を有する。機体通信部64は、外部装置500が備える外部通信部520とeVTOL100との間や、清掃機器200とeVTOL100との間の情報の送受信を行なうとともに、機体制御装置50と通信可能に構成されている。無線通信としては、例えば、民間用VHF(Very High Frequency)無線通信や、4G(第4世代移動体通信システム)や5G(第5世代移動体通信システム)等の電気通信事業者が提供する無線通信や、IEEE802.11規格に従った無線LAN通信等が該当する。また、例えば、USB(Universal Serial Bus)や、IEEE802.3規格に従った有線通信であってもよい。
【0044】
本実施形態における洗浄プログラムは、特許請求の範囲における「清掃用モータ制御用プログラム」に相当する。
【0045】
A-2.回転翼清掃処理:
本実施形態において、記憶部19bに予め記憶されている洗浄プログラムに従って、清掃指示部194が清掃機器200に清掃の実行を指示すると図4に示す回転翼清掃処理が実行される。回転翼清掃処理とは、清掃機器200によってeVTOL100の回転翼を清掃するための処理である。回転翼清掃処理においては、洗浄用液体噴射フェーズと、ブラシフェーズと、乾燥フェーズの3つのフェーズの処理を実行する。eVTOL100が地上に停止した状態で、回転翼清掃処理が行われる。
【0046】
洗浄用液体噴射フェーズの実行時間が外部装置500から設定される(ステップS10)。駆動制御部191からの指示によって、駆動部11は駆動用モータ12の回転速度を加速させる(ステップS12)。ステップS12と、後述のステップS14との間に、洗浄用液体である水が回転翼30に噴射される。駆動用モータ12の回転速度が加速して回転翼30が回転したときに働く遠心力によって、噴射された水が回転翼30の周方向外側に行き渡る。
【0047】
計測結果取得部192は、回転数センサ14によって計測された駆動用モータ12の回転数の計測結果を取得する。駆動制御部191は、取得された回転数が洗浄用液体噴射の予め定められた目標回転数に達したか否かを判定する(ステップS14)。取得された回転数が目標回転数に達していないと判定された場合(ステップS14:No)、処理はステップS12に戻る。取得された回転数が目標回転数に達していると判定された場合(ステップS14:Yes)、駆動制御部191は、駆動用モータ12の回転速度を維持する定常運転を行うように駆動部11に対して指示する(ステップS16)。
【0048】
駆動制御部191は、洗浄用液体噴射フェーズの実行時間が設定された実行時間に達したか否かを判定する(ステップS18)。設定した実行時間に達していないと判定された場合(ステップS18:No)、処理はステップS16に戻る。設定した実行時間に達したと判定された場合(ステップS18:Yes)、駆動制御部191は、駆動用モータ12の回転速度を減速させるように駆動部11に対して指示する(ステップS20)。
【0049】
駆動制御部191は、駆動用モータ12の回転数が0(ゼロ)に達したか否かを判定する(ステップS22)。駆動用モータ12の回転数が0に達していないと判定された場合(ステップS22:No)、処理はステップS20に戻る。駆動用モータ12の回転数が0に達したと判定された場合(ステップS22:Yes)、駆動制御部191は、全てのフェーズの処理を実行したか否かを判定する(ステップS24)。ブラシ洗浄および乾燥の処理はまだ実行されていないので、全てのフェーズの処理を実行していないと判定され(ステップS24:No)、処理はステップS10に戻る。
【0050】
ブラシ洗浄フェーズの実行時間が外部装置500から設定される(ステップS10)。ステップS10とステップS12との間に、清掃機器200からブラシが飛び出してきて回転翼30と接触する位置に固定される。駆動制御部191からの指示によって、駆動部11は駆動用モータ12の回転速度を加速させる(ステップS12)。駆動用モータ12の回転速度が加速して、回転翼30に付着している水と共に回転翼30がブラシ洗浄される。ステップS14~ステップS22の処理が、洗浄用液体噴射フェーズと同様に実行される。駆動制御部19は、全てのフェーズの処理を実行したか否かを判定する(ステップS24)。乾燥の処理はまだ実行されていないので、全てのフェーズの処理を実行していないと判定され(ステップS24:No)、処理はステップS10に戻る。
【0051】
乾燥フェーズの実行時間が外部装置500から設定される(ステップS10)。駆動制御部191からの指示によって、駆動部11は駆動用モータ12の回転速度を加速させる(ステップS12)。ステップS12において、駆動用モータ12の回転速度が加速して回転翼30が回転したときに働く遠心力によって、回転翼30に付着した汚れや水が飛散して乾燥する。ステップS14~ステップS22の処理が、洗浄用液体噴射フェーズおよびブラシ洗浄フェーズと同様に実行される。駆動制御部19は、全てのフェーズの処理を実行したか否かを判定する(ステップS24)。3つの全てのフェーズの処理を実行したので、全てのフェーズの処理を実行したと判定され(ステップS24:Yes)、処理は終了する。
【0052】
上述したように、駆動制御部191は、清掃用モータ制御モードにおいて、駆動用モータ12の回転数は、人間の可聴域より低い周波数となるように制御し、回転翼30の羽の数がAであるときのかかる周波数は、20/AHz(ヘルツ)よりも低い。ここで、人間の可聴域より低い周波数となるための、洗浄用液体噴射と、ブラシ洗浄と、乾燥とにそれぞれ対応する駆動用モータ12の具体的な目標回転数は、回転翼30のファンの径等により最適な値が異なる。なお、かかる具体的な目標回転数は、乾燥において最も大きく、洗浄用液体噴射が最も小さい。ブラシ洗浄の目標回転数は、乾燥と洗浄用液体噴射との中間の回転数に相当する。
【0053】
A-3.異常検知処理:
本実施形態において、上述した回転翼清掃処理の実行開始と共に、図5に示す異常検知処理が実行される。異常検知処理とは、回転翼清掃処理中におけるeVTOL100の異常の有無を検知するための処理である。異常検知処理は、eVTOL100に異常が発生すると清掃機器200による回転翼30の清掃処理が危険となるので、かかる危険な事態を未然に回避するために行われる。かかる危険な事態は、例えば、回転翼30の異常な動きによって、回転翼30に接触して位置固定されたブラシが飛散したり、eVTOL100の姿勢が崩れる等の事態が該当する。
【0054】
正常性判定部193は、駆動用モータ12に関する回転数の計測結果を用いて、異常回転数を検知したか否かを判定する(ステップS100)。具体的には、正常性判定部193は、かかる計測結果が予め定められた回転数の範囲内であるか否かによって、異常回転数を検知したか否かを判定する。異常回転数を検知したと判定された場合(ステップS100:Yes)、図4に示す回転翼清掃処理が停止し(ステップS110)、異常検知処理は終了する。具体的には、異常回転数を検知したと判定されると、清掃指示部194は、清掃機器200に対して清掃実行の停止を指示する。また、駆動制御部191は、駆動部11に対して駆動用モータ12の駆動の停止を指示する。モータ制御モードは、清掃用モータ制御モードから停止モードに切り替えられる。
【0055】
異常回転数を検知していないと判定された場合(ステップS100:No)、清掃用モータ制御モードは継続される。正常性判定部193は、異常抵抗を検知したか否かを判定する(ステップS102)。回転翼30の清掃の際に、例えば当接するブラシによって、ファンには回転を止めようとする力が作用するため、駆動部11から制御予定であった回転翼30の回転数と、かかる回転数を検知する回転数センサ34の計測結果で回転数のズレが生じる。上記「抵抗」とは、かかるズレの程度を意味する。また、「異常抵抗」とは、かかるズレが予め定められた範囲外である抵抗を意味する。異常抵抗を検知したと判定された場合(ステップS102:Yes)、図4に示す回転翼清掃処理が停止し(ステップS110)、異常検知処理は終了する。ステップS110の具体的な処理は、上述の異常回転数を検知したと判例された場合のステップS110の処理と同様である。
【0056】
異常抵抗を検知していないと判定された場合(ステップS102:No)、清掃用モータ制御モードは継続される。正常性判定部193は、異常振動を検知したか否かを判定する(ステップS104)。「異常振動」とは、加速度センサ29によって計測されるeVTOL100の機体20に関する振動、または、機体20の傾きがそれぞれ清掃時の値として予め定められた値の範囲外である振動を意味する。異常振動を検知したと判定された場合(ステップS104:Yes)、図4に示す回転翼清掃処理が停止し(ステップS110)、異常検知処理は終了する。ステップS110の具体的な処理は、上述の異常回転数を検知したと判例された場合のステップS110の処理と同様である。
【0057】
異常振動を検知していないと判定された場合(ステップS104:No)、清掃用モータ制御モードは継続される。正常性判定部193は、異常電力を検知したか否かを判定する(ステップS106)。「異常電力」とは、電流センサ15および電圧センサ16によって計測される値によって算出される電力値が清掃時の値として予め定められた値の範囲外である電力を意味する。異常電力を検知したと判定された場合(ステップS106:Yes)、図4に示す回転翼清掃処理が停止し(ステップS110)、異常検知処理は終了する。ステップS110の具体的な処理は、上述の異常回転数を検知したと判例された場合のステップS110の処理と同様である。
【0058】
異常電力を検知していないと判定された場合(ステップS106:No)、異常無しとして清掃用モータ制御モードは継続される。駆動制御部191は、図4に示す回転翼清掃処理が終了したか否かを判定する(ステップS108)。回転翼清掃処理が終了していないと判定された場合(ステップS108:No)、処理はステップS100に戻る。回転翼清掃処理が終了したと判定された場合(ステップS108:Yes)、処理は終了する。
【0059】
本実施形態の異常検知処理における「清掃処理停止」(ステップS110)は、特許請求の範囲における「停止モード」に相当する。
【0060】
以上説明した本実施形態の制御装置19によれば、清掃用モータ制御モードにおいて、駆動用モータ12の回転数は、人間の可聴域より低い周波数となるように制御するので、騒音が過度に大きくなることを抑制しつつeVTOL100に搭載された回転翼30を洗浄できる。
【0061】
また、清掃用モータ制御モードにおいて、回転翼30の羽の数がAであるときの周波数は、20/AHz(ヘルツ)よりも低いので、回転翼30の羽の数に対応して騒音を抑制できる。
【0062】
さらに、回転数センサ14等からの計測結果を取得する計測結果取得部192と、eVTOL100に異常が有るか否かを判定する正常性判定部193を備え、清掃用モータ制御モードにおいて、判定の結果が異常有りの場合、回転翼30の清掃処理を中止するので、かかる清掃処理に伴う危険を回避できる。
【0063】
また、清掃指示部194と、入出力インターフェイス19cと、をさらに備えるので、清掃を実行する指示を清掃機器200へと送信できる。
【0064】
さらに、清掃用モータ制御モードにおいて、記憶部19bに予め記憶されている洗浄プログラムに応じて、駆動用モータ12を制御するので、洗浄用液体噴射フェーズ等の各フェーズが自動化できる。
【0065】
B.他の実施形態:
(B1)本実施形態の制御装置であって、清掃用モータ制御モードにおいて、回転翼30の羽の数がA(Aは正の整数)であるときの周波数は、20/AHz(ヘルツ)よりも低い値であったが、20/AHzよりも低い値に限らず、人間の可聴域より低い周波数であれば任意の周波数であってもよい。
【0066】
(B2)本実施形態の制御装置19において、計測結果取得部192は、駆動用モータ12に関する回転数と、回転抵抗と、駆動電流と、駆動電圧と、eVTOL100の機体20に関する振動と、機体20の傾きの計測結果を取得していたが、これらの全ての計測結果を取得することに代えて、これらの計測結果のうちの一部の計測結果を取得してもよい。
【0067】
(B3)本実施形態の制御装置19において、清掃指示部194は、回転翼30を清掃するために、洗浄用液体噴射と、ブラシ洗浄と、乾燥の清掃の実行指示をしていたが、これらの指示に加えて、清掃機器200が実行できる他の任意の種類の清掃の指示をしてもよい。例えば、清掃指示部194は、回転翼30にワックスがけを行う指示をしてもよい。
【0068】
(B4)本実施形態の制御装置19において、清掃用モータ制御モードにおいて、記憶部19b自身に予め設定されている洗浄プログラムに応じて、駆動用モータ12を制御していたが、外部装置500等の外部装置から送信される指令に応じて駆動用モータ12を制御してもよい。
【0069】
(B5)本実施形態の制御装置19は、eVTOL100に搭載されていたが、eVTOL100に限らず他の任意の種類の電動航空機に搭載されていてもよい。また、eVTOL100は、無人航空機として構成されていたが、有人航空機として構成されていてもよい。
【0070】
(B6)本実施形態において、異常検知処理を実行していたが実行しなくてもよい。
【0071】
(B7)本実施形態において、飛行用モータ制御モードと清掃用モータ制御モードとに加えて、停止モードを含んでいたが、停止モードを含んでいなくてもよい。また、飛行用モータ制御モードと清掃用モータ制御モードとに加えて、さらに任意の種類の制御モードを含んでいてもよい。本開示の制御装置19において、飛行用モータ制御モードと清掃用モータ制御モードと、を含む少なくとも2種類のモータ制御モードのうちのいずれかのモータ制御モードで選択的に動作するように駆動用モータ12を制御すればよい。
【0072】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した形態中の技術的特徴に対応する各実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【0073】
本開示に記載の制御装置及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御装置及びその手法は、一つ以上の専用ハードウエア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御装置及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウエア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【符号の説明】
【0074】
12…駆動用モータ、19…制御装置、30…回転翼、100…eVTOL
図1
図2
図3
図4
図5