(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022183601
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】アクチュエータ
(51)【国際特許分類】
F15B 15/10 20060101AFI20221206BHJP
【FI】
F15B15/10 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021091011
(22)【出願日】2021-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(71)【出願人】
【識別番号】592185666
【氏名又は名称】管清工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100109047
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 雄祐
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【弁理士】
【氏名又は名称】三木 友由
(74)【代理人】
【識別番号】100133215
【弁理士】
【氏名又は名称】真家 大樹
(72)【発明者】
【氏名】塚越 秀行
(72)【発明者】
【氏名】笹田 和希
(72)【発明者】
【氏名】飯島 達昭
(72)【発明者】
【氏名】高田 淳
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 淳
(72)【発明者】
【氏名】相原 光
【テーマコード(参考)】
3H081
【Fターム(参考)】
3H081AA18
3H081BB03
3H081CC29
3H081DD07
(57)【要約】
【課題】変形量が大きくなっても発生力が低下しにくいアクチュエータを提供する。
【解決手段】内部を加圧可能なチューブ型のアクチュエータ100において、アクチュエータ100の表層には、軸方向について、離散的に設けられたN個(Nは、N≧3の整数)の変形領域110が設けられる。アクチュエータ100を軸方向から断面視したときに、N個の変形領域110は、それぞれの中心が360°/M(Mは、M≧3の整数)の位相差で位置している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部を加圧可能なチューブ型のアクチュエータであって、
前記アクチュエータの表層には、軸方向について、離散的に設けられたN個(Nは、N≧3の整数)の変形領域が設けられ、
前記アクチュエータを軸方向から断面視したときに、前記N個の変形領域は、それぞれの中心が360°/M(Mは、M≧3の整数)の位相差で位置しており、
前記アクチュエータの表層は、前記N個の変形領域それぞれにおいて、伸縮異方性を有し、前記N個の変形領域以外の非伸縮領域において、非伸縮性を有し、その内部を加圧可能に構成されることを特徴とするアクチュエータ。
【請求項2】
N=Mであることを特徴とする請求項1に記載のアクチュエータ。
【請求項3】
前記アクチュエータを軸方向から断面視したときに、前記N個の変形領域はそれぞれ、周方向に170°~190°の範囲にわたり存在することを特徴とする請求項1または2に記載のアクチュエータ。
【請求項4】
前記N個の変形領域の伸縮容易方向と、前記アクチュエータの軸方向のなす角度は、0°~45°の範囲であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のアクチュエータ。
【請求項5】
前記アクチュエータの内側に挿入された非伸縮性を有するコードをさらに備えることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のアクチュエータ。
【請求項6】
前記アクチュエータは、
加圧により膨張するチューブと、
前記チューブを覆うカバーと、
を備え、
前記カバーは、前記N個の変形領域に対応するN個の異方性伸縮布と、前記非伸縮領域に対応する非伸縮布を結合した構造を有することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のアクチュエータ。
【請求項7】
前記アクチュエータの前記表層は、非伸縮性材料を含み、前記非伸縮性材料は、前記N個の変形領域に対応する部分においてヒダを有することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のアクチュエータ。
【請求項8】
前記アクチュエータは、
気密性を有し、前記N個の変形領域に対応するN個の異方性伸縮部材と、
気密性を有し、前記非伸縮領域に対応する非伸縮部材と、
を備え、
前記N個の異方性伸縮部材と前記非伸縮部材は、気密性を有するように接合されていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のアクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体圧を利用したアクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
産業分野、医療分野等において、さまざまなアクチュエータが使用されている。アクチュエータのなかでも、空気圧を利用したものが注目されている。空気圧は軽量かつ柔軟であるという特徴を有しており、高出力を有する点から、用途によっては非常に有用である。
【0003】
特許文献1および2には、空気圧を使用した管路内の移動体、およびそれに好適に使用可能なアクチュエータが開示される。この移動体は、推進ユニットを単位として構成される。推進ユニットは、2個の支持ユニットと、それらの間に設けられる推進アクチュエータを備える。支持ユニットは径方向に広がることにより、管路の内壁に対して固定される。推進アクチュエータは、圧力制御によって長さ方向に伸縮制御が可能である。進行方向に向かって後ろ側の支持ユニットを駆動して、推進ユニットをその後端において管路に対して固定し、その状態で推進アクチュエータを延ばすと、前方の支持ユニットが前進する。今度は、前方の支持ユニットを膨張させて、推進ユニットをその後端において管路に対して固定し、反対に後端での固定を解除する。この状態で、推進アクチュエータを縮めると、後端の支持ユニットが前方に引き寄せられる。この動作を繰り返すことで、推進ユニットは管路内を前進する。
【0004】
特許文献2で提案される支持ユニットは、径方向に膨張しながら、螺旋状(ヘリカル)に変形して、管路の内壁に押し付けられ、支持力を発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-185002号公報
【特許文献2】特開2018-189168号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、螺旋状に変形するアクチュエータを支持ユニットについて検討した結果、以下の課題を認識するに至った。このアクチュエータは、径が小さい管路内では、十分な支持力を発生することができるが、管路の径が大きくなると、言い換えるとアクチュエータの変形量が大きくなるにしたがって、支持力が低下する。
【0007】
本開示はかかる状況においてなされたものであり、その例示的な目的のひとつは、変形量が大きくなっても発生力が低下しにくいアクチュエータの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示のある態様は、内部を加圧可能なチューブ型のアクチュエータに関する。このアクチュエータの表層には、軸方向について、間隔を空けて離散的に設けられたN個(Nは、N≧3の整数)の変形領域が設けられる。アクチュエータを軸方向から断面視したときに、N個の変形領域は、それぞれの中心が360°/M(Mは、M≧3の整数)の位相差で位置しており、アクチュエータの表層は、N個の変形領域それぞれにおいて、伸縮異方性を有し、N個の変形領域以外の非伸縮領域において、非伸縮性を有する。
【0009】
なお、以上の構成要素を任意に組み合わせたもの、あるいは本開示の表現を、方法、装置などの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0010】
本開示のある態様によれば、変形量が大きくなっても発生力を維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態に係るアクチュエータの斜視図である。
【
図2】N個の変形領域の配置を説明する断面図である。
【
図3】アクチュエータの1個の変形領域における変形を模式的に示す図である。
【
図4】アクチュエータの内部を加圧したときのアクチュエータ全体の変形を示す図である。
【
図5】アクチュエータを管路内で加圧したときの状態を模式的に示す断面図である。
【
図6】M=2である比較技術に係るアクチュエータを管路内で加圧したときの状態を模式的に示す断面図である。
【
図8】作製したN=3のサンプルの評価結果を示す図である。
【
図9】N=4のサンプルの評価結果を示す図である。
【
図10】
図10(a)~(c)は、変形例1に係るカバーの構成および製造工程を示す図である。
【
図11】変形例3に係るアクチュエータを示す図である。
【
図12】アクチュエータを備える移動体を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(実施形態の概要)
本開示のいくつかの例示的な実施形態の概要を説明する。この概要は、後述する詳細な説明の前置きとして、実施形態の基本的な理解を目的として、1つまたは複数の実施形態のいくつかの概念を簡略化して説明するものであり、発明あるいは開示の広さを限定するものではない。この概要は、考えられるすべての実施形態の包括的な概要ではなく、すべての実施形態の重要な要素を特定することも、一部またはすべての態様の範囲を線引きすることも意図していない。便宜上、「一実施形態」は、本明細書に開示するひとつの実施形態(実施例や変形例)または複数の実施形態(実施例や変形例)を指すものとして用いる場合がある。
【0013】
一実施形態に係るアクチュエータは、内部を加圧可能なチューブ型のアクチュエータであって、アクチュエータの表層には、軸方向について、離散的に設けられたN個(Nは、N≧3の整数)の変形領域が設けられ、アクチュエータを軸方向から断面視したときに、N個の変形領域は、それぞれの中心が360°/M(Mは、M≧3の整数)の位相差で位置しており、アクチュエータの表層は、N個の変形領域それぞれにおいて、伸縮異方性を有し、N個の変形領域以外の非伸縮領域において、非伸縮性を有し、その内部を加圧可能に構成される。
【0014】
この構成では、N個の変形領域が関節となってアクチュエータが折れ曲がる。そしてN個の変形領域が管路の内壁と接触し、各変形領域が内壁を内側から押す力を発生する。ここで、N個の変形領域は、断面視したときに、360°/Mの間隔で形成されているため、アクチュエータが内壁を押す複数の力は、異なる方向を向く。アクチュエータは管路に対してN点で支持されることとなり、アクチュエータを管路の軸方向に引っ張ったときに強い抗力(グリップ力)を発生することができる。
【0015】
一実施形態において、N=Mであってもよい。これにより、N個の変形領域が発生するN個の力が、均等にN個の方向に分散されるため、強い抗力を発生することができる。
【0016】
一実施形態において、アクチュエータを軸方向から断面視したときに、N個の変形領域はそれぞれ、周方向に170°~190°の範囲にわたり存在してもよい。これにより変形量を最大化できる。
【0017】
一実施形態において、N個の変形領域の伸縮容易方向と、アクチュエータの軸方向のなす角度は、0°~45°の範囲であってもよい。
【0018】
一実施形態において、アクチュエータは、アクチュエータの内側に挿入された非伸縮性を有するコードをさらに備えてもよい。管路内で使用する際に、コードを引っ張ることで、アクチュエータを回収しやすくなる。
【0019】
一実施形態において、アクチュエータは、加圧により膨張するチューブと、チューブを覆うカバーと、を備えてもよい。カバーは、N個の変形領域に対応するN個の異方性伸縮布と、非伸縮領域に対応する非伸縮布を結合した構造を有してもよい。
【0020】
一実施形態において、アクチュエータの表層は、非伸縮性材料を含み、非伸縮性材料は、N個の変形領域に対応する部分においてヒダを有してもよい。
【0021】
一実施形態において、アクチュエータは、気密性を有し、N個の変形領域に対応するN個の異方性伸縮部材と、気密性を有し、非伸縮領域に対応する非伸縮部材と、を備えてもよい。N個の異方性伸縮部材と非伸縮部材は、気密性を有するように接合されていてもよい。
【0022】
(実施形態)
以下、好適な実施の形態について図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0023】
図1は、実施形態に係るアクチュエータ100の斜視図である。アクチュエータ100は内部を加圧可能なチューブ型(中空)の空気圧アクチュエータであり、略円柱形状を有している。理解の容易化のため、円筒座標系(r,θ,z)を導入する。
【0024】
アクチュエータ100の表層には、軸方向について、離散的に設けられたN個(Nは、N≧3の整数)の変形領域110_1~110_Nが設けられる。Nは、3または4が好適であるが、それより多くてもよい。
図1にはN=3の場合が示される。
【0025】
図2は、N個の変形領域110_1~110_Nの配置を説明する断面図である。N個の変形領域110_1~110_Nは、アクチュエータ100を軸方向(図中、z軸方向)から断面視したときに、それぞれの中心が360°/M(Mは、M≧3の整数)の位相差Δθで位置している。なお、位相差Δθはすべて完全に等しいことが求められるわけではなく、したがって「複数の変形領域110の中心が360°/M(Mは、M≧3の整数)の位相差Δθで位置している」とは複数の変形領域110が略均等に配置されていることを含み、完全に等間隔に配置されていることを要求するものではない。
【0026】
図2には、N=3、M=3の例が示され、3個の変形領域110_1~110_3それぞれの中心C1~C3は、120°ずれた角度に位置している。変形領域110_1の中心C1の角度θ
1を0ととるとき、変形領域110_1の中心C1の角度θ
1を0°ととるとき、変形領域110_2の中心C2の角度θ
2は120°、変形領域110_3の中心C3の角度θ
3は240°となる。
【0027】
変形領域110_1~110_Nの幅について説明する。変形領域110の幅を、アクチュエータを軸方向から断面視したときの角度で定義する。本発明者らは、変形領域110の幅を変化させてアクチュエータ100の変形について検討したところ、180°において湾曲量が最大化され、180°から逸脱するに従い、湾曲量が減少することを見いだした。したがってN個の変形領域110_1~110_Nはそれぞれ、アクチュエータを軸方向から断面視したときに、周方向に170°~190°の範囲にわたり存在することが望ましい。
図2では、3個の変形領域110_1~110_3はそれぞれ、周方向に180°の範囲に存在する。
【0028】
図1に戻る。アクチュエータ100の表層は、N個の変形領域110_1~110_Nそれぞれにおいて、伸縮異方性を有する。一方でN個の変形領域110_1~110_N以外の領域120(非伸縮領域という)において、非伸縮性を有する。
図1において、変形領域110_1~110_N内に付された実線112は、変形領域の伸縮異方性を示しており、この実線の方向が伸縮不能方向を、それと垂直な方向が、伸縮可能方向を示す。したがって、各変形領域110は、実線の間隔が広がる方向に伸縮する。
【0029】
N個の変形領域110_1~110_Nの伸縮容易方向(ストレッチ方向)と、アクチュエータ100の軸方向のなす角度(オフセット角という)ψは、アクチュエータ100の変形量および発生する力の観点から、オフセット角は0°が好適であるが、0°からずれていてもよく、0~45°の範囲であればよい。ψが大きくなるほど、発生する力が低下する場合があるが、用途によっては十分な場合もある。
【0030】
以上がアクチュエータ100の基本構成である。続いてその動作を説明する。
【0031】
図3は、アクチュエータ100の1個の変形領域110_1における変形を模式的に示す図である。アクチュエータ100の内部の中空部分を加圧すると、変形領域110_1は、実線112が広がる方向に変形する。これにより、アクチュエータ100は、変形領域110を節として折れ曲がる。言い換えると、折れ曲がる方向は、各変形領域110_iの中心C
iの角度θ
iに応じて決まる。
【0032】
図4は、アクチュエータ100の内部を加圧したときのアクチュエータ100全体の変形を示す図である。アクチュエータ100は、変形領域110_1~110_3において折れ曲がるように変形し、さらに径方向に膨張する。
【0033】
図5は、アクチュエータ100を管路内で加圧したときの状態を模式的に示す断面図である。アクチュエータ100が、変形領域110_1~110_3において膨張、変形することにより、変形領域110_1~110_3が管路300の内壁302と接触し、変形領域110_1~110_3が内壁302を内側から押す力F
1~F
3が発生する。
【0034】
以上がアクチュエータ100の動作である。このアクチュエータ100によれば、変形領域110_1~110_Nの形成位置(θ1~θ3)が異なっているため、これらの力F1~F3の向きも異なることとなる。N=3の場合、アクチュエータ100は管路300に対して3点支持されることとなり、アクチュエータ100を管路の軸方向に引っ張ったときに強い抗力を発生することができる。
【0035】
この利点は、仮に、M=2(つまり変形領域110_1~110_Nの位相差Δθが180°)とした比較技術との対比によって明確となる。
図6は、M=2である比較技術に係るアクチュエータ100Rを管路内で加圧したときの状態を模式的に示す断面図である。アクチュエータ100Rは、加圧に応じて同一面内でジグザグに折れ曲がり、2次元的に変形する。その結果、変形領域110_1,110_3は、紙面における上向きの力F
1,F
3を発生させ、変形領域110_2は下向きの力F
2を発生させることとなる。つまり、比較技術では、上下方向の1次元の力のベクトル成分しか発生することができず、左右方向の力が発生しない。
【0036】
これと比べて、実施形態に係るアクチュエータ100によれば、M≧3とすることにより、上下方向の力のベクトル成分と、左右方向の力のベクトル成分の両方を発生することができる。
【0037】
続いて、アクチュエータ100の構成例を説明する。
【0038】
図7は、アクチュエータ100の構成例を示す図である。アクチュエータ100は、内部チューブ200とカバー220と、を備える。内部チューブ200は、加圧によって膨張可能である。内部チューブ200はカバー220により覆われている。
【0039】
内部チューブ200を覆っている。カバー220はアクチュエータ100の表層を形成しており、N個の変形領域に対応するN個の異方性伸縮布222_1~222_Nと、非伸縮領域120に対応する非伸縮布224を結合した構造を有する。
【0040】
たとえばN個の異方性伸縮布222_1~222_Nと非伸縮布224の結合の方法は特に限定されず、異方性伸縮布222や非伸縮布224の物理的、化学的な特性に適したものを選択することができる。たとえば異方性伸縮布222_1~222_Nと非伸縮布224は、縫合してもよいし、接着材を用いて接着してもよいし、溶着してもよい。
【0041】
続いて実際にアクチュエータ100のサンプルを作製し、評価した結果を説明する。サンプルでは、N=3,M=3とした。作製したアクチュエータ100のサンプルにおいて、内部チューブ200は、内径10mm外径17mmのアメゴムチューブを用い、その先端に栓をして閉じた。また異方性伸縮布222は、スーパーストレッチII(632)との名称で市販される布を用い、非伸縮布224は、東レ社製の透湿防水素材であるBreathatec(登録商標)を用いた。カバー220はこれらを縫合して作製した。
【0042】
内部チューブ200の直径は25mmとした。
【0043】
また、カバー220の各部の寸法は以下の通りとした。
直径Da=26mm
全長L =300mm
カバー周長 = 82mm
変形領域110_1~110_3の径方向の幅h=41mm
変形領域110_1,110_3の軸方向の長さ w1=35mm
変形領域110_2の軸方向の長さ w1=70mm
変形領域110_1,110_2,110_3の軸方向の間隔l=70mm
【0044】
図8は、作製したN=3のサンプルの評価結果を示す図である。実験では、アクチュエータ100を管路内に配置し、0.3MPaで加圧してアクチュエータ100を膨張、変形させ、管路の内壁に対して抗力を発生させた。この状態でアクチュエータ100を軸方向に引っ張り、アクチュエータ100が動き出したときの引張力(これをアクチュエータ100のグリップ力と称する)を測定した。
図8の横軸は管路の内径を、縦軸はグリップ力を示す。サンプルは2個作製し、2つのサンプルの特性が示される。また2個のサンプルの測定結果に加えて、特許文献2に記載されるヘリカル型のアクチュエータのグリップ力の測定を併せて示す。
【0045】
ヘリカル型のアクチュエータは、管路の内径が100mmを超えるとグリップ力が減衰し、内径が150mmまで達すると、グリップ力はゼロとなる。これに対して作製したサンプルでは、内径が150mmであっても、10N前後のグリップ力を維持している。
【0046】
また内径が50mmのとき、ヘリカル型のアクチュエータでは、グリップ力が27N程度であったのに対して、作製したサンプルでは、35Nを超えており、大幅に改善されている。
【0047】
特許文献1に開示される移動体の支持ユニットとしてアクチュエータ100を用いる場合、グリップ力として20N程度が望まれる。作製したサンプルでは、管路の内径が100mm以上においてこの要件を満たしていない。しかしながらサンプル作製において管路内壁と接触する変形領域110として用いた異方性伸縮布222(スーパーストレッチII)は、決して滑りにくい材料とは言えない。したがって、より滑りにくい布を選択し、あるいは異方性伸縮布222の表面に滑り止めの加工を施すことにより、グリップ力はさらに改善する余地があり、内径150mmの管路内においても、20Nのグリップ力を得ることは可能であると考えられる。
【0048】
続いて、N=4のアクチュエータについてもサンプルを作製した評価した。N=4のサンプルの設計パラメータは以下の通りである。
・内部チューブ200の寸法
内径10mm外径17mm
・カバー220の寸法
直径Da=26mm
全長L =300mm
カバー周長 = 82mm
変形領域110_1~110_3の径方向の幅h=41mm
変形領域110_1~110_4の軸方向の長さ w=50mm
変形領域110_1~110_4の軸方向の間隔l=20mm
【0049】
図9は、N=4のサンプルの評価結果を示す図である。サンプルは、M=3およびM=4のものを作製した。この2つのサンプルを比較すると、N=4としたとき、M=4、すなわち位相差Δθ=90°の場合の方が、M=3、すなわち位相差Δθ=120°の場合よりも高いグリップ力が得られることが分かる。この結果から、N=Mが成り立っていることが望ましいことが推察される。なお、
図9(N=4)と
図8(N=3)の結果を比べると、N=3の場合の方が全体的にグリップ力が高いが、この要因のひとつとして、N=4の場合の圧力を0.25MPaとしていることが挙げられる。またN=4の場合の設計寸法(
図7のL,w
1,w
2,l,h)は最適化されているとは言えず、これもN=4のサンプルのグリップ力が小さいことの要因である。したがって圧力や設計寸法を最適化した場合は、N=4の方がグリップ力が高い可能性もありうる。
【0050】
上述した実施形態は例示であり、それらの各構成要素やそれらの組み合わせにいろいろな変形例が可能なことが当業者に理解される。以下、こうした変形例について説明する。
【0051】
(変形例1)
実施形態では、変形領域110と非伸縮領域120を備えるカバー220を、異なる材料を組み合わせることで実現したが、カバー220の構造はそれに限定されない。
図10(a)~(c)は、変形例1に係るカバー220Aの構成および製造工程を示す図である。
【0052】
はじめに
図10(a)に示すように、非伸縮性のシート230が準備される。シート230は、続いて
図10(b)に示すように、非伸性製シート230を一対の金型240で挟み込み、プレス加工する。これにより、
図10(c)に示すように、非伸縮性シート230の変形領域110に対応する部分に、ヒダ232_1~232_3を形成する。金型240は、ヒダ232_1~232_3に対応する凹凸を有している。
【0053】
そして、ヒダ加工された非伸縮性シート230を円筒状に丸めて、対向する2辺E1,E2を接合することにより、カバー220Aを形成する。このカバ-220Aは、ヒダ232の折り目方向と垂直方向が伸縮容易軸となる。
【0054】
図10では、シートをプレス加工した後に、円筒状に接合してカバー220Aを形成した後に、がその限りでなく、円筒状の非伸縮性のチューブを用意し、複数の変形領域110に対応する部分にヒダ加工を施すことにより、カバーを形成してもよい。
【0055】
(変形例2)
アクチュエータ100の構成は、
図7のそれに限定されない。異方性伸縮布222_1~222_Nおよび非伸縮布224を有するカバー220(あるいは
図10(c)のカバー220A)が十分な気密性を有している場合、内部チューブ200を省略して、カバー220,220Aの内側を直接加圧してもよい。
【0056】
(変形例3)
図11は、変形例3に係るアクチュエータ100Bを示す図である。
図7のアクチュエータ100は、軸方向に引っ張ると、内部チューブ200とカバー220の両方が軸方向に伸長しうる。したがって、管路内にアクチュエータ100を挿入した後にそれを回収する際に、アクチュエータ100自体を引っ張ると、アクチュエータ100が伸びてしまい、うまく回収できないという問題が生じうる。
【0057】
この問題を解決するために、
図11のアクチュエータ100Bは、その内側に挿入された非伸縮性を有するコード130をさらに備えてもよい。このコード130の材料は限定されないが、ウレタンチューブなどが好適である。
【0058】
アクチュエータ100Bは、内部チューブ200を備えており、内部チューブ200の内側に、コード130が挿入されている。また、このコード130は、給排気用の空気チューブ132と兼用されている。空気チューブ132には、内部チューブ200の内部空間と連通する給排気口134が設けられる。空気チューブ132の一端を加圧すると、給排気口134を介して内部チューブ200の内部が加圧される。空気チューブ132を複数に分割し、隣接する分割された空気チューブ132を、給排気口134を有するアダプタで結合してもよい。
【0059】
アクチュエータ100Bの内部に非伸縮性のコード130を挿入することで、管路内のアクチュエータ100Bを回収する際に、コード130を引っ張ることで、アクチュエータ100Bが長さ方向に伸びなくなるため、格段に回収しやすくなる。
【0060】
最後にアクチュエータ100の用途を説明する。
図12は、アクチュエータ100を備える移動体2を示す図である。移動体2は、連結部20を介して直列に連結される複数N個(Nは2以上の整数)の推進ユニット10_1~10_Nと、圧力コントローラ30と、備える。移動体2は、管路1内を推進する。
【0061】
各推進ユニット10は、推進アクチュエータ12、第1支持アクチュエータ14、第2支持アクチュエータ16を備える。
【0062】
推進アクチュエータ12は、流体の供給圧に応じて長さを制御可能に構成される。推進アクチュエータ12の直径は、その長さによらずに、管路1の内径φよりも十分に小さいことが好ましい。一例として、内径50mmの管路に対して、推進アクチュエータ12の直径は25mm以下が好ましい。一般化すると、推進アクチュエータ12の直径は、内径の1/2より小さいことが好ましい。また推進アクチュエータ12は加圧状態においても、折れ曲り可能な構造的柔軟性を有していることが望ましい。
【0063】
本実施の形態では、推進アクチュエータ12は、加圧により伸張し、減圧により収縮するものとする。
【0064】
第1支持アクチュエータ14は、推進アクチュエータ12の一端側に設けられ、流体の供給圧に応じて径方向に膨張、収縮可能に構成される。第2支持アクチュエータ16は、推進アクチュエータ12の他端側に設けられ、流体の供給圧に応じて径方向に膨張、収縮可能に構成される。第1支持アクチュエータ14および第2支持アクチュエータ16は、膨張状態において、管路1の内壁と接触して、内壁をグリップする。
【0065】
移動体2には、3つの圧力系統(流路)34,36,38が設けられる。第1圧力系統34は、複数の推進ユニット10に含まれる複数の第1支持アクチュエータ14と接続される。第2圧力系統36は、複数の推進ユニット10に含まれる複数の第2支持アクチュエータ16と接続される。第3圧力系統38は、複数の推進ユニット10に含まれる複数の推進アクチュエータ12に接続される。
【0066】
圧力コントローラ30は、3つの圧力系統34,36,38それぞれの圧力を独立に制御することにより、(i)複数の第1支持アクチュエータ14、(ii)複数の第2支持アクチュエータ16、(iii)複数の推進アクチュエータ12に供給される流体の圧力を独立に制御可能に構成される。流体は、空気(窒素)などの気体であってもよいし、水や溶液などの液体であってもよい。
【0067】
上述したアクチュエータ100は、
図12の支持アクチュエータ14,16として好適に用いることができる。
【0068】
なおアクチュエータ100の用途はそれに限定されず、管路内に配置され、膨張することにより管路の内壁をグリップするさまざまな用途に用いることができる。
【0069】
あるいは、管路が柔軟性を有する場合、管路内でアクチュエータ100を径方向に膨張させて管路の径を拡張する用途にも利用可能である。
【0070】
具体的な用語を用いて説明される実施の形態は、本発明の原理、応用を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【符号の説明】
【0071】
100 アクチュエータ
110 変形領域
120 非伸縮領域
130 コード
200 内部チューブ
220 カバー
222 異方性伸縮布
224 非伸縮布