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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022183612
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】酸化タンタルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 34/24 20060101AFI20221206BHJP
   C22B 3/06 20060101ALI20221206BHJP
   C22B 3/38 20060101ALI20221206BHJP
   C22B 3/26 20060101ALI20221206BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20221206BHJP
   C22B 3/08 20060101ALI20221206BHJP
   C01G 35/00 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
C22B34/24
C22B3/06
C22B3/38
C22B3/26
C22B3/44 101A
C22B3/08
C01G35/00 D
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021091027
(22)【出願日】2021-05-31
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-01-17
(71)【出願人】
【識別番号】391023415
【氏名又は名称】株式会社アサカ理研
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒滝 真行
(72)【発明者】
【氏名】厳 寅男
(72)【発明者】
【氏名】星 祐喜
【テーマコード(参考)】
4G048
4K001
【Fターム(参考)】
4G048AA02
4G048AB02
4G048AB08
4G048AC08
4G048AD03
4G048AE03
4K001DB02
4K001DB03
4K001DB04
4K001DB05
4K001DB23
4K001DB29
4K001DB31
4K001DB34
(57)【要約】
【課題】不純物としてのタングステンの含有量が低減された五酸化タンタルを得ることができる五酸化タンタルの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の製造方法は、タンタルを含む原料をフッ化水素酸を含む酸に溶解してフッ化タンタルを含む第1の水溶液を得る工程と、第1の水溶液からリン酸系抽出溶媒によりフッ化タンタルを抽出してフッ化タンタルを含む第1の有機溶媒溶液を得る工程と、第1の有機溶媒溶液にアルカリ性水を添加して水酸化タンタルの沈殿を得る工程と、水酸化タンタルの沈殿をフッ化水素酸を含む酸に溶解してフッ化タンタルを含む第2の水溶液を得る工程と、第2の水溶液からケトン系抽出溶媒によりフッ化タンタルを抽出してフッ化タンタルを含む第2の有機溶媒溶液を得る工程と、第2の有機溶媒溶液にアルカリ性水を添加して水酸化タンタルの沈殿を得る工程とを備える。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンタルを含む原料から得られた水酸化タンタルを焼成して五酸化タンタルを得る五酸化タンタルの製造方法であって、
タンタルを含む原料を少なくともフッ化水素酸を含む酸に溶解してフッ化タンタルを含む第1の水溶液を得る工程と、
前記第1の水溶液からリン酸系抽出溶媒によりフッ化タンタルを抽出してフッ化タンタルを含む第1の有機溶媒溶液を得る工程と、
前記第1の有機溶媒溶液にアルカリ性水を添加して水酸化タンタルの第1の沈殿を得る工程と、
前記水酸化タンタルの第1の沈殿を少なくともフッ化水素酸を含む酸に溶解してフッ化タンタルを含む第2の水溶液を得る工程と、
前記第2の水溶液からケトン系抽出溶媒によりフッ化タンタルを抽出してフッ化タンタルを含む第2の有機溶媒溶液を得る工程と、
前記第2の有機溶媒溶液にアルカリ性水を添加して水酸化タンタルの第2の沈殿を得る工程とを備えることを特徴とする五酸化タンタルの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の五酸化タンタルの製造方法において、前記タンタルを含む原料又は水酸化タンタルの第1の沈殿を溶解する酸は、硫酸を含むことを特徴とする五酸化タンタルの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の五酸化タンタルの製造方法において、前記リン酸系抽出溶媒はリン酸トリブチル(TBP)であり、前記ケトン系抽出溶媒は5-メチル-2-ヘキサノン(MIAK)又は4-メチル-2-ペンタノン(MIBK)であることを特徴とする五酸化タンタルの製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の五酸化タンタルの製造方法において、前記第1の有機溶媒溶液又は前記第2の有機溶媒溶液にアルカリ性水を添加して水酸化タンタルの沈殿を得るときに、まず、前記第1の有機溶媒溶液又は前記第2の有機溶媒溶液に希アルカリ性水を添加してフッ化タンタルを水相に逆抽出し、次いでフッ化タンタルを含む水相に前記希アルカリ性水より高濃度のアルカリ性水を添加して水酸化タンタルを沈殿させることを特徴とする五酸化タンタルの製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の五酸化タンタルの製造方法において、前記アルカリ性水はアンモニア水であることを特徴とする五酸化タンタルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、五酸化タンタルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、高機能携帯電話(スマートフォン)、タブレット端末等において、特定の周波数の電波の送受信に用いられる電子部品として、SAW(Surface Acoustic Wave、弾性表面波)フィルタが知られている。前記SAWフィルタは、タンタル酸リチウム又はニオブ酸リチウムのウエハーを加工することにより製造されている。
【0003】
前記タンタル酸リチウムのウエハーは、炭酸リチウムと五酸化タンタルとを用いて製造されるが、ある程度以上の不純物を含有していると、前記SAWフィルタとしたときに所定の性能が得られないばかりか、ウエハー自体の製造における歩留まりが低下するという問題がある。
【0004】
従来、前記五酸化タンタルの製造方法として、タンタルを含有する廃棄物をフッ化水素酸(フッ酸)で浸出してタンタル溶液を得た後、リン酸トリブチル(TBP)を抽出溶媒として該溶液からタンタル錯塩を抽出し、アンモニア性水溶液で逆抽出してタンタル溶液を得た後、さらにアンモニア性水溶液を添加して水酸化タンタルとし、該水酸化タンタルを焼成して五酸化タンタルを得る方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4949960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の製造方法では、不純物としてのタングステンの含有量が十分に低減された五酸化タンタルを製造することが難しいという不都合がある。
【0007】
本発明は、かかる不都合を解消して、不純物としてのタングステンの含有量が低減された五酸化タンタルを得ることができる五酸化タンタルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するために、本発明の五酸化タンタルの製造方法は、タンタルを含む原料から得られた水酸化タンタルを焼成して五酸化タンタルを得る五酸化タンタルの製造方法であって、タンタルを含む原料を少なくともフッ化水素酸を含む酸に溶解してフッ化タンタルを含む第1の水溶液を得る工程と、前記第1の水溶液からリン酸系抽出溶媒によりフッ化タンタルを抽出してフッ化タンタルを含む第1の有機溶媒溶液を得る工程と、前記第1の有機溶媒溶液にアルカリ性水を添加して水酸化タンタルの第1の沈殿を得る工程と、前記水酸化タンタルの沈殿を少なくともフッ化水素酸を含む酸に溶解してフッ化タンタルを含む第2の水溶液を得る工程と、前記第2の水溶液からケトン系抽出溶媒によりフッ化タンタルを抽出してフッ化タンタルを含む第2の有機溶媒溶液を得る工程と、前記第2の有機溶媒溶液にアルカリ性水を添加して水酸化タンタルの第2の沈殿を得る工程とを備えることを特徴とする。
【0009】
本発明の五酸化タンタルの製造方法は、タンタルを含む原料から得られた水酸化タンタルを焼成して五酸化タンタルを得る方法であり、まず、タンタルを含む原料を少なくともフッ化水素酸を含む酸に溶解する。このようにすると、前記原料に含まれるタンタルがフッ化水素酸に溶解されて、フッ化タンタルとなり、該フッ化タンタルを含む第1の水溶液が得られる。
【0010】
本発明の五酸化タンタルの製造方法では、次に、前記第1の水溶液からリン酸系抽出溶媒によりフッ化タンタルを抽出してフッ化タンタルを含む第1の有機溶媒溶液を得る。
【0011】
本発明の五酸化タンタルの製造方法では、次に、前記第1の有機溶媒溶液にアルカリ性水を添加してフッ化タンタルから水酸化タンタルを生成させ、さらに水酸化タンタルの第1の沈殿を得る。
【0012】
本発明の五酸化タンタルの製造方法では、前記水酸化タンタルの第1の沈殿を得た後、該水酸化タンタルの第1の沈殿を少なくともフッ化水素酸を含む酸に再溶解する。このようにすると、前記水酸化タンタルがフッ化水素酸に溶解されて、フッ化タンタルとなり、該フッ化タンタルを含む第2の水溶液が得られる。
【0013】
本発明の五酸化タンタルの製造方法では、次に、前記第2の水溶液から、ケトン系抽出溶媒によりフッ化タンタルを抽出してフッ化タンタルを含む第2の有機溶媒溶液を得る。
【0014】
本発明の五酸化タンタルの製造方法では、次に、前記第2の有機溶媒溶液にアルカリ性水を添加してフッ化タンタルから水酸化タンタルを生成させ、さらに水酸化タンタルの第2の沈殿を得る。そして、水酸化タンタルの前記第2の沈殿を焼成することにより、不純物としてのタングステンの含有量が低減された五酸化タンタルを得ることができる。
【0015】
また、本発明の五酸化タンタルの製造方法では、前記タンタルを含む原料又は水酸化タンタルの第1の沈殿を溶解する酸は、硫酸を含むことが好ましい。前記タンタルを含む原料又は水酸化タンタルの第1の沈殿を溶解する酸が硫酸を含むことにより、前記フッ化タンタルを含む第1の水溶液又は第2の水溶液から、リン酸系抽出溶媒又はケトン系抽出溶媒によりフッ化タンタルを抽出する際に、抽出効率を高くすることができる。
【0016】
また、本発明の五酸化タンタルの製造方法では、前記リン酸系抽出溶媒としてはリン酸トリブチル(TBP)を用いることができ、前記ケトン系抽出溶媒としては5-メチル-2-ヘキサノン(MIAK)又は4-メチル-2-ペンタノン(MIBK)を用いることができる。
【0017】
前記第1の有機溶媒溶液又は前記第2の有機溶媒溶液にアルカリ性水を添加して水酸化タンタルの第1の沈殿又は第2の沈殿を得るときに、前記第1の有機溶媒溶液又は前記第2の有機溶媒溶液に十分に高濃度のアルカリ性水を添加して水酸化タンタルの沈殿を得るようにしてもよいが、このようにすると、前記水酸化タンタルの第1の沈殿又は第2の沈殿における前記リン酸系抽出溶媒又は前記ケトン系抽出溶媒の含有量が多くなる。
【0018】
そこで、本発明の五酸化タンタルの製造方法では、まず、前記第1の有機溶媒溶液又は前記第2の有機溶媒溶液に希アルカリ性水を添加してフッ化タンタルから水酸化タンタルを生成させて該水酸化タンタルを水相に逆抽出し、次いで水酸化タンタルを含む水相に前記希アルカリ性水より高濃度のアルカリ性水を添加して水酸化タンタルを沈殿させ、前記水酸化タンタルの第1の沈殿又は第2の沈殿を得ることが好ましい。このようにすることにより、前記水酸化タンタルの第1の沈殿又は第2の沈殿に含まれる前記リン酸系抽出溶媒又は前記ケトン系抽出溶媒を低減することができる。
【0019】
また、本発明の五酸化タンタルの製造方法では、前記アルカリ性水は、前記フッ化タンタルから水酸化タンタルを生成させる際の水酸基を供給することができるものであればどのようなものであってもよく、例えば、アンモニア水を用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。
【0021】
本実施形態の五酸化タンタルの製造方法では、まず、タンタルを含む原料をフッ化水素酸(フッ酸)を含む酸に溶解する。
【0022】
前記タンタルを含む原料は、タンタルを含む鉱物であってもよく、タンタルを含む廃棄物であってもよい。前記タンタルを含む鉱物としては、タンタライト、コロンバイト等を挙げることができる。また、前記タンタルを含む廃棄物としては、タンタルを含む金属を研磨加工又は旋盤加工する際に発生するダライ粉(切粉)、タンタルを含む廃ガラス粉等を挙げることができる。前記タンタルを含む原料は、不純物としてタングステン、ニオブ及びアンチモン等を含んでいる。
【0023】
前記タンタルを含む原料の溶解に用いる酸は、少なくともフッ酸を含むことが必要であるが、フッ酸の他に、硫酸、塩酸、硝酸等の無機酸を含んでいてもよい。前記酸は、フッ酸を含むことにより前記原料に含まれるタンタルをフッ化タンタルとして溶解させることができる一方、フッ酸を含まない場合には前記原料に含まれるタンタルを溶解させることができない。また、前記タンタルを含む原料の溶解に用いる酸はフッ酸の他に硫酸を含むことが好ましく、例えば、15~33モル/リットルのフッ酸と11~20モル/リットルの硫酸との混酸を用いることができる。
【0024】
タンタルを含む原料をフッ化水素酸(フッ酸)を含む酸に溶解することにより、前記原料に含まれるタンタルがフッ化タンタルとして溶解され、フッ化タンタルを含む第1の水溶液を得ることができる。
【0025】
本実施形態の五酸化タンタルの製造方法では、次に、前記第1の水溶液からリン酸トリブチル(TBP)等のリン酸系抽出溶媒によりフッ化タンタルを抽出してフッ化タンタルを含む第1の有機溶媒溶液を得る。また、このとき、前記タンタルを含む原料を溶解する酸が硫酸を含むことにより、前記リン酸系抽出溶媒による抽出効率を高くすることができる。
【0026】
本実施形態の五酸化タンタルの製造方法では、次に、前記第1の有機溶媒溶液に希アルカリ性水、例えば、2.5~3.5%アンモニア水を添加し、前記第1の有機溶媒溶液に含まれるフッ化タンタルを水酸化タンタルとして水相に逆抽出し、水酸化タンタルを含む第2の水溶液を得る。次いで、前記第2の水溶液に、前記希アルカリ性水より高濃度の濃アルカリ性水、例えば、25~29%アンモニア水を添加し、前記第2の水溶液に含まれる水酸化タンタルを沈殿させ、水酸化タンタルの第1の沈殿を得る。
【0027】
本実施形態の五酸化タンタルの製造方法では、次に、前記水酸化タンタルの第1の沈殿を、フッ酸を含む酸に再溶解する。前記水酸化タンタルの第1の沈殿の再溶解に用いる酸は、前記原料の溶解に用いる酸と同一の理由により少なくともフッ酸を含むことが必要であるが、フッ酸の他に、硫酸、塩酸、硝酸等の無機酸を含んでいてもよい。前記水酸化タンタルの第1の沈殿の再溶解に用いる酸は、例えば、15~33モル/リットルのフッ酸と11~20モル/リットルの硫酸との混酸を用いることができる。この結果、前記水酸化タンタルの第1の沈殿に含まれるタンタルがフッ化タンタルとして溶解され、フッ化タンタルを含む第2の水溶液を得ることができる。
【0028】
本実施形態の五酸化タンタルの製造方法では、次に、前記第2の水溶液から5-メチル-2-ヘキサノン(MIAK)又は4-メチル-2-ペンタノン(MIBK)等のケトン系抽出溶媒によりフッ化タンタルを抽出してフッ化タンタルを含む第2の有機溶媒溶液を得る。また、このとき、前記タンタルを含む原料を溶解する酸が硫酸を含むことにより、前記ケトン系抽出溶媒による抽出効率を高くすることができる。
【0029】
本実施形態の五酸化タンタルの製造方法では、次に、前記第2の有機溶媒溶液に希アルカリ性水、例えば、2.5~3.5%アンモニア水を添加し、前記第1の有機溶媒溶液に含まれるフッ化タンタルを水酸化タンタルとして水相に逆抽出し、水酸化タンタルを含む第2の水溶液を得る。次いで、前記第2の水溶液に、前記希アルカリ性水より高濃度の濃アルカリ性水、例えば、25~29%アンモニア水を添加し、前記第2の水溶液に含まれる水酸化タンタルを沈殿させ、水酸化タンタルの第2の沈殿を得る。
【0030】
そして、前記水酸化タンタルの第2の沈殿を焼成することにより、不純物としてのタングステンの含有量が低減された五酸化タンタルを得ることができる。前記水酸化タンタルの第2の沈殿の焼成は、それ自体公知の方法により行うことができる。
【0031】
尚、本実施形態の五酸化タンタルの製造方法では、前記第1の有機溶媒溶液又は前記第2の有機溶媒溶液にアルカリ性水を添加する際に、希アルカリ性水の添加を行わず、十分に高濃度の濃アルカリ性水のみを添加することにより、前記水酸化タンタルの第1の沈殿又は前記水酸化タンタルの第2の沈殿を得るようにしてもよい。ただし、この場合には、得られた水酸化タンタルの沈殿における前記抽出溶媒の含有量が多くなる傾向があるので注意が必要である。
【0032】
また、本実施形態の五酸化タンタルの製造方法では、前記第1の有機溶媒溶液又は前記第2の有機溶媒溶液にアルカリ性水を添加する前に、前記第1の有機溶媒溶液又は前記第2の有機溶媒溶液を洗浄水に接触させるスクラビングを行ってもよく、前記スクラビングは複数回行ってもよい。
【0033】
前記スクラビングによれば、前記第1の有機溶媒溶液又は前記第2の有機溶媒溶液に含まれるフッ化タンタル以外の金属又は金属化合物を除去することができるので、不純物としてのタングステンの含有量がさらに低減された五酸化タンタルを得ることができる。
【0034】
次に、本発明の実施例及び比較例を示す。
【実施例0035】
〔実施例1〕
本実施例では、まず、タンタルを含む原料としてのダライ粉10kgを、33モル/リットルのフッ酸と20モル/リットルの硫酸とを含む混酸に溶解し、遊離フッ酸濃度2モル/リットル、硫酸濃度1モル/リットルとなるように調整して、フッ化タンタルを含む第1の水溶液を得た。前記原料は、タンタルの他に、不純物としてタングステン、ニオブ及びアンチモン等を含んでいる。
【0036】
次に、前記第1の水溶液中の金属の濃度を、高周波誘導結合プラズマ発光分析(ICP-OES)を用いて測定したところ、タンタル(Ta)64g/リットル、タングステン(W)17g/リットル、ニオブ(Nb)13g/リットル、アンチモン(Sb)6.9g/リットルであった。また、タンタルに対するタングステンの濃度(W/Ta)は、27%(270000ppm)であった。
【0037】
次に、前記第1の水溶液から、リン酸系抽出溶媒であるリン酸トリブチル(TBP)を用い、正抽出2段、有機相と水相との流量比(O/A比)0.75で、フッ化タンタルを抽出してフッ化タンタルを含む第1の有機溶媒溶液を得た。次に、前記第1の有機溶媒に対し、スクラビング段数2段、硫酸濃度1.3モル/リットル、O/A比1でスクラビングを行った。
【0038】
次に、前記スクラビング後の前記第1の有機溶媒溶液に3%アンモニア水を添加して逆抽出した後、さらに28%アンモニア水を添加して水酸化タンタルの第1の沈殿を得た。次に、前記水酸化タンタルの第1の沈殿中のタンタルに対するタングステンの濃度(W/Ta)を、ICP-OESを用いて測定したところ、60ppmであった。
【0039】
次に、前記水酸化タンタルの第1の沈殿を、33モル/リットルのフッ酸と20モル/リットルの硫酸とを含む混酸に再溶解し、遊離フッ酸濃度3モル/リットル、硫酸濃度2.4モル/リットルとなるように調整して、フッ化タンタルを含む第2の水溶液を得た。
【0040】
次に、前記第2の水溶液から、ケトン系抽出溶媒である5-メチル-2-ヘキサノン(MIAK)を用い、正抽出2段、O/A比0.5で、フッ化タンタルを抽出してフッ化タンタルを含む第2の有機溶媒溶液を得た。次に、前記第2の有機溶媒に対し、スクラビング段数4段、硫酸濃度3モル/リットル、O/A比1でスクラビングを行った。
【0041】
次に、前記スクラビング後の前記第2の有機溶媒溶液に3%アンモニア水を添加して逆抽出した後、さらに28%アンモニア水を添加して水酸化タンタルの第2の沈殿を得た。
【0042】
次に、水酸化タンタルの第2の沈殿を濾別して、最終製品としての水酸化タンタルを得た。次に、本実施例で得られた水酸化タンタル(水酸化タンタルの第2の沈殿)中のタンタルに対するタングステンの濃度(W/Ta)を、ICP-OESを用いて測定したところ、0.01ppmであった。結果を表1に示す。
【0043】
〔実施例2〕
本実施例では、フッ化タンタルを含む第1の水溶液として、液中の金属の濃度がタンタル(Ta)60g/リットル、タングステン(W)10g/リットル、ニオブ(Nb)5.1g/リットル、アンチモン(Sb)1.0g/リットルであるものを用いた以外は、実施例1と全く同一にして、最終製品としての水酸化タンタルを得た。
【0044】
次に、前記第1の水溶液中のタンタルに対するタングステンの濃度(W/Ta)、水酸化タンタルの第1の沈殿及び本実施例で得られた水酸化タンタル(水酸化タンタルの第2の沈殿)中のタンタルに対するタングステンの濃度(W/Ta)を、それぞれ実施例1と全く同一にして測定した。結果を表1に示す。
【0045】
〔比較例1〕
本比較例では、フッ化タンタルを含む第1の水溶液として、液中の金属の濃度がタンタル(Ta)62g/リットル、タングステン(W)18g/リットル、ニオブ(Nb)12g/リットル、アンチモン(Sb)7.3g/リットルであるものを用い、第1の水溶液に対する抽出溶媒としてリン酸系抽出溶媒であるリン酸トリブチル(TBP)を用い、第2の水溶液に対する抽出溶媒としてもリン酸系抽出溶媒であるリン酸トリブチル(TBP)を用いた以外は、実施例1と全く同一にして、最終製品としての水酸化タンタルを得た。
【0046】
次に、前記第1の水溶液中のタンタルに対するタングステンの濃度(W/Ta)、水酸化タンタルの第1の沈殿及び本比較例で得られた水酸化タンタル(水酸化タンタルの第2の沈殿)中のタンタルに対するタングステンの濃度(W/Ta)を、それぞれ実施例1と全く同一にして測定した。結果を表1に示す。
【0047】
〔比較例2〕
本比較例では、フッ化タンタルを含む第1の水溶液として、液中の金属の濃度がタンタル(Ta)64g/リットル、タングステン(W)19g/リットル、ニオブ(Nb)14g/リットル、アンチモン(Sb)6.5g/リットルであるものを用い、第1の水溶液に対する抽出溶媒としてケトン系抽出溶媒である5-メチル-2-ヘキサノン(MIAK)を用い、第2の水溶液に対する抽出溶媒としてもケトン系抽出溶媒である5-メチル-2-ヘキサノン(MIAK)を用いた以外は、実施例1と全く同一にして、最終製品としての水酸化タンタルを得た。
【0048】
次に、前記第1の水溶液中のタンタルに対するタングステンの濃度(W/Ta)、水酸化タンタルの第1の沈殿及び本比較例で得られた水酸化タンタル(水酸化タンタルの第2の沈殿)中のタンタルに対するタングステンの濃度(W/Ta)を、それぞれ実施例1と全く同一にして測定した。結果を表1に示す。
【0049】
〔比較例3〕
本比較例では、フッ化タンタルを含む第1の水溶液として、液中の金属の濃度がタンタル(Ta)61g/リットル、タングステン(W)16g/リットル、ニオブ(Nb)13g/リットル、アンチモン(Sb)6.9g/リットルであるものを用い、第1の水溶液に対する抽出溶媒としてケトン系抽出溶媒である5-メチル-2-ヘキサノン(MIAK)を用い、第2の水溶液に対する抽出溶媒としてリン酸系抽出溶媒であるリン酸トリブチル(TBP)を用いた以外は、実施例1と全く同一にして、最終製品としての水酸化タンタルを得た。
【0050】
次に、前記第1の水溶液中のタンタルに対するタングステンの濃度(W/Ta)、水酸化タンタルの第1の沈殿及び本比較例で得られた水酸化タンタル(水酸化タンタルの第2の沈殿)中のタンタルに対するタングステンの濃度(W/Ta)を、それぞれ実施例1と全く同一にして測定した。結果を表1に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
表1から、第1の水溶液に対する抽出溶媒としてケトン系抽出溶媒である5-メチル-2-ヘキサノン(MIAK)を用い、第2の水溶液に対する抽出溶媒としてリン酸系抽出溶媒であるリン酸トリブチル(TBP)を用いる実施例1及び実施例2の方法によれば、第1の水溶液に対する抽出溶媒としてリン酸系抽出溶媒であるリン酸トリブチル(TBP)を用い、第2の水溶液に対する抽出溶媒としてもリン酸系抽出溶媒であるリン酸トリブチル(TBP)を用いる比較例1の方法、第1の水溶液に対する抽出溶媒としてケトン系抽出溶媒である5-メチル-2-ヘキサノン(MIAK)を用い、第2の水溶液に対する抽出溶媒としてもケトン系抽出溶媒である5-メチル-2-ヘキサノン(MIAK)を用いる比較例2の方法、第1の水溶液に対する抽出溶媒としてケトン系抽出溶媒である5-メチル-2-ヘキサノン(MIAK)を用い、第2の水溶液に対する抽出溶媒としてリン酸系抽出溶媒であるリン酸トリブチル(TBP)を用いる比較例3の方法に対して、最終製品としての水酸化タンタル(水酸化タンタルの第2の沈殿)中のタンタルに対するタングステンの濃度(W/Ta)を格段に低減することができることが明らかである。
【0053】
従って、実施例1及び実施例2の方法によれば、前記最終製品としての水酸化タンタルを焼成することにより、不純物としてのタングステンの含有量が格段に低減された五酸化タンタルを得ることができることが明らかである。