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特開2022-183623超音波診断装置及びイメージ処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022183623
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】超音波診断装置及びイメージ処理方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/14 20060101AFI20221206BHJP
【FI】
A61B8/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021091041
(22)【出願日】2021-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】320011683
【氏名又は名称】富士フイルムヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久津 将則
【テーマコード(参考)】
4C601
【Fターム(参考)】
4C601EE04
4C601HH14
4C601HH25
4C601HH29
4C601HH38
4C601JB22
4C601JB41
4C601JB45
4C601JC17
4C601JC23
(57)【要約】
【課題】送信開口合成法を実行する超音波診断装置において、表示用イメージの品質を高める。
【解決手段】第1合成部15Aは、複数のサブイメージに対して第1重みパターンを適用した上でそれらを合成し、これにより第1合成イメージを生成する。第2合成部15Bは、複数のサブイメージに対して第2重みパターンを適用した上でそれらを合成し、これにより第2合成イメージを生成する。生成部32は、第1合成イメージ及び第2合成イメージに基づいて表示用イメージを生成する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信開口合成のための複数のサブイメージを生成する受信部と、
前記複数のサブイメージに対して第1重みパターンを適用した上でそれらを合成し、これにより第1合成イメージを生成する第1合成部と、
前記複数のサブイメージに対して前記第1重みパターンとは異なる第2重みパターンを適用した上でそれらを合成し、これにより第2合成イメージを生成する第2合成部と、
前記第1合成イメージ及び前記第2合成イメージに基づいて表示用イメージを生成する生成部と、
を含むことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
請求項1記載の超音波診断装置において、
前記生成部は、
前記第1合成イメージ及び前記第2合成イメージに基づいて類似度セットを演算する演算器と、
前記類似度セットに基づいて前記第1合成イメージ及び前記第2合成イメージの一方又は両方の利得を調整し、これにより前記表示用イメージを生成する利得調整器と、
を含むことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項3】
請求項2記載の超音波診断装置において、
前記利得調整器は、前記第1合成イメージに対して前記類似度セットを乗算することにより前記表示用イメージを生成する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項4】
請求項3記載の超音波診断装置において、
前記第2重みパターンは、前記第1重みパターンに比べて、重み付け後においてサイドローブ成分の増大をもたらすパターンである、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項5】
請求項3記載の超音波診断装置において、
前記利得調整器から出力された前記表示用イメージに対して包絡線検波を適用する検波器と、
前記検波器から出力された表示用イメージに対して対数変換を適用する対数変換器と、
を含むことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項6】
請求項1記載の超音波診断装置において、
前記生成部は、
前記第1合成イメージに対して包絡線検波及び対数変換を適用する第1後処理部と、
前記第2合成イメージに対して包絡線検波及び対数変換を適用する第2後処理部と、
前記第1後処理部から出力された第1合成イメージ及び前記第2後処理部から出力された第2合成イメージを加算して前記表示用イメージを生成する加算器と、
を含むことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項7】
請求項6記載の超音波診断装置において、
前記第1重みパターンは、各深さ位置において電子走査方向の一方側に偏移した形態を有し、
前記第2重みパターンは、各深さ位置において前記電子走査方向の他方側に偏移した形態を有する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項8】
送信開口合成のための複数のサブイメージを生成する工程と、
前記複数のサブイメージに対して第1重みパターンを適用した上でそれらを合成して第1合成イメージを生成する工程と、
前記複数のサブイメージに対して前記第1重みパターンとは異なる第2重みパターンを適用した上でそれらを合成して第2合成イメージを生成し、又は、前記複数のサブイメージを合成して第2合成イメージを生成する工程と、
前記第1合成イメージ及び前記第2合成イメージに基づいて類似度セットを演算する工程と、
前記類似度セットに基づいて前記第1合成イメージの利得を調整し、これにより表示用イメージを生成する工程と、
を含むことを特徴とするイメージ処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、超音波診断装置及びイメージ処理方法に関し、特に、送信開口合成法に従ってイメージを処理する超音波診断装置及びイメージ処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1,2には、送信開口合成法(Synthetic Transmit Aperture Method)を実行する超音波診断装置が記載されている。送信開口合成法(より正確には、仮想音源を利用した送信開口合成法)では、生体内に形成された送信焦点が仮想音源(Virtual Source)とみなされる。具体的には、受信部において、整相加算(遅延加算)用のディレイデータを生成又は計算する際に、仮想音源から各受信点までの球面波の伝搬時間が考慮される。複数回の送受信によって生成された複数のサブイメージ(複数の低解像度イメージ)を合成することにより、合成イメージ(高解像度イメージ)が生成される。
【0003】
複数のサブイメージの合成に先立って、個々のサブイメージに対して重みパターンが適用される。重みパターンは、二次元に分布する複数の重みからなる。重みパターンの適用により、合成イメージにおける利得が空間的に均一化され、また、個々のサブイメージに含まれる無効部分が除外される。特許文献1,2には、同一のサブイメージに対して複数の重みパターンを並列的に適用することは記載されていない。
【0004】
なお、特許文献3及び非特許文献1には、ビームデータ列に対して複数の重み関数を並列的に適用することが開示されている。特許文献3及び非特許文献1には、送信開口合成のための構成は開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-77442号公報
【特許文献2】再表2016-129376号公報
【特許文献3】特開2015-213673号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Chi Hyung Seo, et. al., Sidelobe Suppression in Ultrasound Imaging Using Dual Apodization with Cross-Correlation, IEEE UFFC, Vol.55, No.10, 2008.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示の目的は、送信開口合成法に従って表示用イメージを生成する場合において、表示用イメージの品質を向上させることにある。あるいは、本開示の目的は、送信開口合成法に従って表示用イメージを生成する場合において、サイドローブ成分、アーチファクト成分等の不要成分を低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示に係る超音波診断装置は、送信開口合成のための複数のサブイメージを生成する受信部と、前記複数のサブイメージに対して第1重みパターンを適用した上でそれらを合成し、これにより第1合成イメージを生成する第1合成部と、前記複数のサブイメージに対して前記第1重みパターンとは異なる第2重みパターンを適用した上でそれらを合成し、これにより第2合成イメージを生成する第2合成部と、前記第1合成イメージ及び前記第2合成イメージに基づいて表示用イメージを生成する生成部と、を含むことを特徴とする。
【0009】
本開示に係るイメージ処理方法は、送信開口合成のための複数のサブイメージを生成する工程と、前記複数のサブイメージに対して第1重みパターンを適用した上でそれらを合成して第1合成イメージを生成する工程と、前記複数のサブイメージに対して前記第1重みパターンとは異なる第2重みパターンを適用した上でそれらを合成して第2合成イメージを生成し、又は、前記複数のサブイメージを合成して第2合成イメージを生成する工程と、前記第1合成イメージ及び前記第2合成イメージに基づいて類似度セットを演算する工程と、前記類似度セットに基づいて前記第1合成イメージの利得を調整することにより、表示用イメージを生成する工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、送信開口合成法に従って表示用イメージを生成する場合において、表示用イメージの品質を向上できる。あるいは、本開示によれば、送信開口合成法に従って表示用イメージを生成する場合において、サイドローブ成分、アーチファクト成分等の不要成分を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1実施形態に係る超音波診断装置を示すブロック図である。
図2図1に示したモジュールの構成例を示すブロック図である。
図3】送信開口合成法の下でのサブイメージの生成を示す模式図である。
図4】送信開口合成法の下での合成イメージの生成を示す模式図である。
図5】第1実施形態に係るサブイメージ処理を示す模式図である。
図6】第2実施形態に係る超音波診断装置を示すブロック図である。
図7】第2実施形態に係るサブイメージ処理を示す図である。
図8】第1変形例に係る超音波診断装置を示すブロック図である。
図9】第2変形例に係る超音波診断装置を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。
【0013】
(1)実施形態の概要
実施形態に係る超音波診断装置は、受信部、第1合成部、第2合成部、及び、生成部を有する。受信部は、送信開口合成のための複数のサブイメージを生成する。第1合成部は、複数のサブイメージに対して第1重みパターンを適用した上でそれらを合成し、これにより第1合成イメージを生成する。第2合成部は、複数のサブイメージに対して第1重みパターンとは異なる第2重みパターンを適用した上でそれらを合成し、これにより第2合成イメージを生成する。生成部は、第1合成イメージ及び第2合成イメージに基づいて表示用イメージを生成する。
【0014】
上記構成によれば、互いに異なる性質を有する第1合成イメージ及び第2合成イメージに基づいて表示用イメージを生成し得る。よって、単一の合成イメージをそのまま表示用イメージにする場合に比べて、表示用イメージの品質を高められる。例えば、第1重みパターン及び第2重みパターンの組み合わせ(重みパターンペア)として、サイドローブを低減できるものを採用してもよいし、アーチファクトを低減できるものを採用してもよい。複数の重みパターンペアを用意しておき、状況に応じて、それらの中から特定の重みパターンペアが選択されてもよい。実施形態においては、同じサブイメージに対して複数の重みパターンが並列的に適用されるので、空間分解能の低下やフレームレートの低下は基本的に生じない。
【0015】
上記のイメージ処理は、送信開口合成法に基づくものであり、特に、仮想音源を利用した送信開口合成法に基づくものである。実施形態に係る超音波診断装置は、送受波座標系に従うイメージを表示座標系に従うイメージへ変換する座標変換部を有する。サブイメージ、合成イメージ、及び、表示用イメージは、それぞれ、座標変換前のデータ又は座標変換後のデータである。本願明細書において、イメージという用語は広義に解釈される。なお、電子走査方向における送受信開口の位置に応じて、第1重みパターンの内容及び第2重みパターンの内容が動的に変更されてもよい。
【0016】
実施形態において、生成部は、第1合成イメージ及び第2合成イメージに基づいて類似度セットを演算する演算器と、類似度セットに基づいて第1合成イメージ及び第2合成イメージの一方又は両方の利得を調整し、これにより表示用イメージを生成する利得調整器と、を含む。
【0017】
類似度は真の成分である可能性の大小を表す指標である。類似度として相関係数を用いてもよい。表示用イメージの生成に際して、そのソース(源)となった原イメージは、第1合成イメージ及び第2合成イメージの一方又は両方である。利得調整器は、類似度が高い場合には原イメージの利得を大きくし、類似度が低い場合には原イメージの利得を小さくする。これにより真の成分を保存しつつサイドローブ成分を低減することが可能となる。
【0018】
実施形態において、利得調整器は、第1合成イメージに対して類似度セットを適用することにより表示用イメージを生成する。この場合、第1合成イメージが主要イメージとして用いられ、第2合成イメージが補助的イメージ又は比較用イメージとして用いられる。実施形態において、第2重みパターンは、第1重みパターンに比べて、重み付け後においてサイドローブ成分の増大をもたらすパターンである。なお、第2合成イメージが補助的イメージとして用いられる場合、第2重みパターンとして、すべての重みが1であるパターンを採用してもよく、あるいは、第2合成イメージの生成に際して第2重みパターンの適用を省略することも可能である。
【0019】
実施形態に係る超音波診断装置は、更に、利得調整器から出力された表示用イメージに対して包絡線検波を適用する検波器と、検波器から出力された表示用イメージに対して対数変換を適用する対数変換器と、を含む。包絡線検波によりRFデータから包絡線データが生成される。対数変換は人間の視覚特性に応じた輝度操作に相当する。
【0020】
実施形態において、生成部は、第1合成イメージに対して包絡線検波及び対数変換を適用する第1後処理部と、第2合成イメージに対して包絡線検波及び対数変換を適用する第2後処理部と、第1後処理部から出力された第1合成イメージ及び第2後処理部から出力された第2合成イメージを加算して表示用イメージを生成する加算器と、を含む。この構成は、後処理の第1合成イメージ及び第2合成イメージを加算して表示用イメージを生成するものである。
【0021】
実施形態において、第1重みパターンは、各深さ位置においてビーム走査方向の一方側に偏移した形態を有する。第2重みパターンは、各深さ位置においてビーム走査方向の他方側に偏移した形態を有する。このような重みパターンペアを用いることにより、表示用イメージに含まれるアーチファクトを低減し得る。
【0022】
本開示に係るイメージ処理方法は、サブイメージ生成工程、第1合成工程、第2合成工程、演算工程、及び、利得調整工程を有する。サブイメージ生成工程では、送信開口合成のための複数のサブイメージが生成される。第1合成工程では、複数のサブイメージに対して第1重みパターンが適用された上でそれらが合成され、これにより第1合成イメージが生成される。第2合成工程では、複数のサブイメージに対して第1重みパターンとは異なる第2重みパターンが適用された上でそれらが合成され、これにより第2合成イメージが生成される。あるいは、第2合成工程では、複数のサブイメージが合成され、これにより第2合成イメージが生成される。演算工程では、第1合成イメージ及び第2合成イメージに基づいて類似度セットが演算される。利得調整工程では、類似度セットに基づいて第1合成イメージの利得が調整され、これにより表示用イメージが生成される。
【0023】
上記構成において、生体への超音波の送信及び生体内からの反射波の受信を繰り返すことにより、複数のサブイメージが生成される。複数のサブイメージに基づいて第1合成イメージ及び第2合成イメージが生成される。第1合成イメージが主要イメージであり、第2合成イメージは補助的イメージ又は比較用イメージである。それ故、第2合成イメージの生成に際して、第2重みパターンの適用を省略してもよい。第2重みパターンの適用を省略しても、互いに性質の異なる第1合成イメージ及び第2合成イメージを取得し得る。それらの合成イメージの比較により類似度セットが生成され、その類似度セットを第1合成イメージに対して適用することにより、表示用イメージが生成される。
【0024】
上記イメージ処理方法はハードウエアの機能として又はソフトウエアの機能として実現され得る。上記イメージ処理方法を実行するためのプログラムが、可搬型記憶媒体を介して、又は、ネットワークを介して、情報処理装置へインストールされてもよい。情報処理装置の概念には、超音波診断装置、超音波画像処理装置、コンピュータ等が含まれる。情報処理装置において、上記プログラムが非一時的記憶媒体に記憶されてもよい。
【0025】
(2)実施形態の詳細
図1には、第1実施形態に係る超音波診断装置の構成が示されている。超音波診断装置は、医療機関等に設置され、被検体(生体)への超音波の送受波により得られたデータに基づいて超音波画像を生成及び表示する医用装置である。実施形態に係る超音波診断装置は、仮想音源を用いた送信開口合成法を実行するための構成を備えている。
【0026】
図1において、プローブ10は、被検体の表面に当接される可搬型の送受波器である。プローブ10内には、複数の振動素子(トランスデューサ)からなる振動素子アレイが設けられている。振動素子アレイにより超音波ビームが形成され、超音波ビームが電子走査される。これにより被検体の内部にビーム走査面が形成される。超音波ビームの電子走査が繰り返され、これによりビーム走査面の形成が繰り返される。ビーム走査面は二次元データ取込み領域である。電子走査方式として、電子リニア走査方式、電子セクタ走査方式等が知られている。プローブ10内に二次元振動素子アレイを設け、生体内の三次元空間からボリュームデータが取得されてもよい。
【0027】
送信部12は、送信ビームフォーマーとして機能する送信回路である。受信部14は、受信ビームフォーマーとして機能する受信回路である。送信時において、送信部12は、振動素子アレイに対して複数の送信信号を並列的に出力する。これにより送信ビームが形成される。受信時において、生体内からの反射波が振動素子アレイにより受信されると、振動素子アレイから受信部14に対して並列的に複数の受信信号が出力される。
【0028】
受信部14は、複数の受信信号に対して整相加算(遅延加算)を適用し、これによりビームデータを生成する。ビームデータは包絡線検波前のRFデータである。受信部14は、複数のA/D変換器、複数の遅延器、及び、加算器を有する。実際には、受信部14では、パラレル受信が実施されており、受信部14は、1回の受信当たり、電子走査方向(ビーム走査方向)に並ぶ複数のビームデータを生成する。
【0029】
受信部14においては、送信開口合成法に従って、個々の遅延器に与えられるディレイデータが計算される。具体的には、個々のディレイデータの計算に際しては、送信開口中心(送信基準時を定める基準位置)から仮想音源(送信焦点)までの送信波の伝搬時間、受信点から各振動素子までの反射波の伝搬時間、及び、仮想音源から受信点までの球面波の伝搬時間の両方が考慮される。
【0030】
上記のように、1回の送受信当たり、電子走査方向に並ぶ複数のビームデータが並列的に生成される。複数のビームデータは、それ全体として、1つのサブイメージを構成する。サブイメージは低解像度イメージとも言い得る。送信開口及び受信開口の位置を変更しながら送受信を繰り返すことにより、電子走査方向に並ぶ複数のサブイメージが生成される。複数のサブイメージは、互いに部分的に重複した関係を有する。複数のサブイメージが第1合成部15A及び第2合成部15Bに対して並列的に順次出力される。
【0031】
第1合成部15A及び第2合成部15Bは、それぞれ、送信開口合成法に従う構成を備える。具体的には、第1合成部15Aは、第1重み付け器16、第1記憶部20、及び、第1合成器24を有する。第2合成部15Bは、第2重み付け器18、第2記憶部22、及び、第2合成器26を有する。
【0032】
第1重み付け器16は、個々のサブイメージに対して第1記憶部20に格納された第1重みパターンを適用(具体的には乗算)する。これにより重み付け後の複数のサブイメージが生成される。重み付け後の複数のサブイメージが第1合成器24において合成される。これにより第1合成イメージが生成される。第1合成イメージは、高解像度イメージと言い得る。同様に、第2重み付け器18は、個々のサブイメージに対して第2記憶部22に格納された第2重みパターンを適用(具体的には乗算)する。これにより重み付け後の複数のサブイメージが生成される。それらが第2合成器26において合成される。これにより第2合成イメージが生成される。第2合成イメージも高解像度イメージと言い得る。
【0033】
第1重みパターンの内容及び第2重みパターンの内容は相互に異なっている。それらは、それぞれ、二次元分布する複数の重みにより構成される。個々のサブイメージは二次元分布する複数の信号値により構成される。信号値ごとに、当該信号値に対して、それに対応する重みが乗算され、重み付け後の信号値が求められる。各重みは、例えば、0~1.0の間の値を有する。位相情報を有するRF信号又はIQ信号(複素信号)が信号値列を構成する。
【0034】
生成部32は、第1実施形態において、相関係数演算器及び利得調整器(乗算器)を有する。生成部32は、第1合成イメージ及び第2合成イメージに基づいて表示用イメージを生成するものである。具体的には、生成部32は、第1合成イメージ及び第2合成イメージに基づいて、類似度セットとして相関係数セットを演算する。そして、相関係数セットを第1合成イメージに対して乗算する。その乗算は利得調整を目的とするものである。
【0035】
第1実施形態においては、利得調整後においてサイドローブが低減されるように、第1重みパターン及び第2重みパターンが決定されている。実際には、第1重みパターンとしてサイドローブを低減できるパターンが採用されている。第2重みパターンは、第1重みパターンに比べて、重み付け後にサイドローブ成分をより多く残留させるパターンである。すなわち、第1重みパターンのサイドローブ成分抑圧作用の度合いは、第2重みパターンのサイドローブ成分抑圧作用の度合いよりも大きい。第1重みパターンは主要パターンであり、第2重みパターンは比較用パターンとしての補助的パターンである。
【0036】
信号処理部34は、第1実施形態において、包絡線検波器及び対数変換器を有する。信号処理部34内に更に他の回路が設けられてもよい。第1実施形態において、生成部32及び信号処理部34によりモジュール30が構成される。モジュール30の具体的構成例を後に図5に示す。
【0037】
DSC(デジタルスキャンコンバータ)36は座標変換部として機能する。すなわち、DSC36において、送受波座標系に従うデータが表示座標系に従うデータに変換される。実施形態においては、DSC36において、表示用イメージに対して座標変換が適用される。座標変換後の表示用イメージが表示器38に送られる。表示器38には、座標変換後の表示用イメージが表示される。その表示用イメージは、例えば、断層画像である。DSC36は、座標変換機能の他に、画素補間機能、フレームレート変換機能等も有する。実際には、表示器38に、時間軸上において並んだ複数の表示用イメージにより構成される動画像が表示される。表示器38は、LCD、有機ELデバイス等により構成される。
【0038】
制御部40は、図1に示されている各構成の動作を制御する。制御部40は、プログラムを実行するCPUにより構成される。第1合成部15A、第2合成部15B、生成部32、信号処理部34、及び、DSC36は、それぞれプロセッサにより構成され得る。CPUが第1合成部15A、第2合成部15B、生成部32、信号処理部34、及び、DSC36として機能してもよい。
【0039】
制御部40には操作パネル42が接続されている。操作パネル42は、複数のボタン、複数のつまみ、トラックボール、キーボード等を備える入力デバイスである。操作パネル42を利用して送信開口合成条件がユーザー(医師、検査技師等)により設定されてもよい。
【0040】
図2には、サブイメージ生成方法が模式的に示されている。符号52は振動素子アレイを示している。符号54は送受信開口を示している。送信開口と受信開口とが別々に設定されてもよい。送受信開口54内の複数の振動素子に対して一定の遅延関係を有する複数の送信信号が供給される。これにより送信ビーム56が形成される。送信ビーム56は送信焦点58を有する。図2において、グレー表現されている部分は、一定値以上の音圧を有する部分である。
【0041】
送信ビーム56は、それ全体として見て、砂時計のような形態を有する。送信ビーム56において、送信焦点58付近の部分が細くなっており、くびれが生じている。送信ビーム56は、送信焦点58から上方へ広がった浅い部分56A、及び、送信焦点58から下方へ広がった深い部分56Bからなる。
【0042】
受信時においてパラレル受信を行うことにより受信ビームアレイ60が形成される。受信ビームアレイは、電子走査方向に一定間隔で並ぶ複数の受信ビームからなる。個々の受信ビームの形成に際しては、受信ダイナミックフォーカス技術が適用される。すなわち、深さ方向に沿って複数の受信点(複数の受信焦点)が順次形成される。図2においては、その内で特定の受信点62が示されている。
【0043】
受信点62に受信焦点を形成するために、仮想音源法に従って、送信焦点(仮想音源)58から受信点62までの球面波の第1伝搬時間(符号64を参照)と、受信点62から各振動素子までの反射波の第2伝搬時間(例えば66A,66B,66Cを参照)と、が考慮される。具体的には、送信開口中心から送信焦点58までの送信波の伝搬時間、第1伝搬時間、及び、第2伝搬時間を加算することにより、整相加算用のディレイデータが計算される。
【0044】
1回の送受信で、1つのサブイメージを構成する複数のビームデータが生成される。送受信開口をシフトさせながら送受信を繰り返し実行することにより、1フレーム当たり、電子走査方向に並ぶ複数のサブイメージが生成される。
【0045】
図3には、合成イメージ生成方法が模式的に示されている。横軸は電子走査方向を示している。縦軸は時間軸である。
【0046】
第1合成部においては、電子走査方向に並ぶ複数のサブイメージLa~Lkに対して重みパターンWP1が乗算される。重み付け後の複数のサブイメージを合成することにより、合成イメージH1が生成される。これと同様に、第2合成部において、上記の複数のサブイメージLa~Lkに対して重みパターンWP2が乗算される。重み付け後の複数のサブイメージを合成することにより、合成イメージH2が生成される。
【0047】
図4には、複数のサブイメージLa,Lb,・・・に対する第1重みパターンWP1及び第2重みパターンWP2の乗算が示されている。その乗算の結果、重み付け後の複数のサブイメージLa1,Lb1,・・・及び重み付け後の複数のサブイメージLa2,Lb2,・・・が生成される。
【0048】
第1重みパターンWP1は、中心軸Cを中心として左右対称の形態を有する。具体的には、第1重みパターンWP1は、各深さにおいて山状のプロファイルを有し、各深さにおいて頂点は中心軸Cに一致している。送信焦点から上方にかけて、山状のプロファイルの幅が徐々に広がっており、送信焦点から下方にかけて、山状のプロファイルの幅が広がっている。
【0049】
例えば、深さD1においては、かなり広がった山状のプロファイル74となっており、深さD2においては、広がりが抑制された山状のプロファイル76となっている。このような第1重みパターンWP1を利用することにより、送信開口合成により生じるサイドローブを低減でき、また、合成イメージ上において、深さ方向への輝度変化を滑らかにできる。各プロファイル74,76において、横軸は電子走査方向に対応しており、縦軸は重みの大きさを示している。
【0050】
第2重みパターンWP2は、中心軸Cを中心として左右対称の形態を有する。具体的には、第2重みパターンWP2は、各深さにおいて台形状のプロファイルを有する。各深さにおいてプロファイルの中心は中心軸Cに一致している。台形状のプロファイルの幅は、送信焦点から上方にかけて広がっており、送信焦点から下方にかけて広がっている。
【0051】
例えば、深さD1においては、かなり広がった台形状のプロファイル78となっており、深さD2においては、広がりが抑制された台形状のプロファイル80となっている。このような第2重みパターンWP2を利用することにより、第1重みパターンWP1を用いる場合よりも、より多くのサイドローブ成分を有する合成イメージを生じさせることが可能となる。
【0052】
図5には、図1に示したモジュール30の構成例が示されている。生成部32は、相関係数演算器44及び乗算器46により構成される。信号処理部34は、検波器48及び対数変換器50により構成される。
【0053】
相関係数演算器44は、第1合成イメージH1及び第2合成イメージH2を相互に比較し、これにより類似度セットとしての相関係数セットを演算する。例えば、以下の(1)式に従って相関係数ρ(m,n)が演算される。
【0054】
【数1】
【0055】
上記(1)式において、HRI1は第1合成イメージH1を表しており、HRI2は第2合成イメージを表している。また、mは受信ビーム番号を示しており、nは深さ方向における受信点番号(サンプル点番号)を示している。Aにより深さ方向における参照範囲の大きさが規定されている。参照範囲は、電子走査方向に1の大きさを有し、深さ方向に2A+1の大きさを有する。一次元参照範囲に代えて二次元参照範囲が設定されてもよい。なお、個々の合成イメージが実信号により構成されてもよいし、個々の合成イメージがIQ信号(複素信号)により構成されてもよい。
【0056】
乗算器46において、第1合成イメージを構成する各信号値に対して、各相関係数が乗算される。実際には、(1)式で計算された相関係数の絶対値が乗算される。乗算器46は、第1合成イメージH1用の利得調整器として機能する。
【0057】
検波器48は、乗算器46から出力されたイメージに対して包絡線検波を適用する。包絡線検波によりRFデータがベースバンドデータに変換される。対数変換器50は、検波器48から出力された検波後のイメージに対して対数変換を実行する。これにより対数変換後のイメージが生成される、そのイメージが表示用イメージとしてDSCへ出力される。
【0058】
第1実施形態によれば、フレームレートの低下を招くことなく、表示用イメージに含まれるサイドローブ成分を効果的に抑圧できる。複数の重みパターンペアを用意しておき、状況に応じて、使用する重みパターンペアが選択されてもよい。3つ以上の重みパターンを利用して3つ以上の合成イメージを生成し、それらに基づいて表示用イメージが生成されてもよい。
【0059】
第1実施形態によれば、サイドローブ成分以外の不要成分(例えば多重反射成分)も抑圧され得る。生成部32として、第1合成イメージ及び第2合成イメージから表示用イメージを生成する機械学習モデルを備える生成器を設けてもよい。その場合、サイドローブ成分等の不要成分が抑圧されるように機械学習モデルに学習を行わせればよい。
【0060】
第1実施形態において、超音波ビームの電子走査、つまり送受信開口の電子走査に際して、第1重みパターンの内容と第2重みパターンの内容が動的に変更されてもよい。重み付け及び合成に際しては各サブイメージを構成するビームデータごとに処理を行ってもよい。
【0061】
次に、図6及び図7に基づいて、第2実施形態について説明する。図6には、第2実施形態に係る超音波診断装置の構成が示されている。なお、図6において、図1に示した構成と同様の構成には同一の符号を付し、その説明を省略する。このことは、後に説明する図6及び図9についても同様である。
【0062】
第2実施形態においては、第1記憶部20にアーチファクト低減用の第1重みパターンが格納されており、第2記憶部22にアーチファクト低減用の第2重みパターンが格納されている。第1重み付け器16において、複数のサブイメージに対して第1重みパターンが乗算され、第1合成器24において重み付け後の複数のサブイメージが合成され、これにより第1合成イメージが生成されている。同様に、第2重み付け器18において、複数のサブイメージに対して第2重みパターンが乗算され、第2合成器26において重み付け後の複数のサブイメージが合成され、これにより第2合成イメージが生成されている。
【0063】
モジュール82には、検波器84及び対数変換器88からなる第1後処理部83Aと、検波器86及び対数変換器90からなる第2後処理部83Bと、が含まれる。また、モジュール82には、加算器92が含まれる。第1合成イメージに対して第1後処理(包絡線検波及び対数変換)が適用される。第2合成イメージに対して第2後処理(包絡線検波及び対数変換)が適用される。第1後処理後の合成イメージ及び第2後処理後の合成イメージが加算器92で加算され、これにより表示用イメージが生成されている。表示用イメージはDSC36に送られている。
【0064】
図7には、第2実施形態に係る重み付けが示されている。第1重み付け器は、複数のサブイメージLa,Lb,・・・に対して第1重みパターンWP3を乗算する。これにより重み付け後の複数のサブイメージLa1,Lb1,・・・が生成される。それらの合成により第1合成イメージが生成される。
【0065】
第1重みパターンWP3は、中心軸Cに対して、電子走査方向の一方側へ偏移した形態を有している。例えば、深さD1においては、電子走査方向の一方側に偏移した山状のプロファイル94となっており、深さD2においても、電子走査方向の一方側に偏移した山状のプロファイル96となっている。プロファイルの幅は、送信焦点から上方又は下方へ離れるに従って、大きくなっている。各深さにおいて、プロファイルの頂点は、電子走査方向の一方側に偏移している。
【0066】
第2重み付け器は、複数のサブイメージLa,Lb,・・・に対して第2重みパターンWP4を乗算する。これにより重み付け後の複数のサブイメージLa2,Lb2,・・・が生成される。それらの合成により第2合成イメージが生成される。
【0067】
第2重みパターンWP4は、中心軸Cに対して、電子走査方向の他方側へ偏移した形態を有している。例えば、深さD1においては、電子走査方向の他方側に偏移した山状のプロファイル98となっており、深さD2においても、電子走査方向の他方に偏移した山状のプロファイル100となっている。プロファイルの幅は、送信焦点から上方又は下方へ離れるに従って、大きくなっている。各深さにおいて、プロファイルの頂点は、電子走査方向の他方側に偏移している。第1重みパターンWP3と第2重みパターンWP2は、中心軸を基準として線対称の関係を有する。
【0068】
第2実施形態によれば、以上のように生成された第1合成イメージ及び第2合成イメージを加算することにより、アーチファクトを効果的に低減することが可能である。第2実施形態では、第1後処理後の第1合成イメージ及び第2合成処理後の第2合成イメージが加算されているが、後処理適用前の第1合成イメージ及び第2合成イメージを加算して表示用イメージを生成した上で、その表示用イメージに対して後処理(つまり包絡線検波及び対数変換)を適用してもよい。包絡線検波後の第1合成イメージ及び第2合成イメージを加算してもよい。
【0069】
図8には、第1変形例に係る構成が示されている。第1変形例は、第1実施形態に係る超音波診断装置において受信部の構成を変更したものに相当する。
【0070】
第1変形例において、受信部14Aは、並列配置された2つの処理系統を有する。すなわち、受信部14Aは、第1前段重み付け器102、第2前段重み付け器104、第1整相加算器110、第2整相加算器112、及び、前段合成器114を有している。第1前段重み付け器102は、送受信開口から出力された複数の受信信号に対して第1重み関数106を乗算する。第2前段重み付け器104は、送受信開口から出力された複数の受信信号に対して第2重み関数108を乗算する。第1重み関数106及び第2重み関数は、それぞれ、電子走査方向に沿って配列された重み列からなるものである。それらは、サイドローブ成分等の不要成分を低減するための形態を有する。例えば、それらの関数の例が特許文献3及び非特許文献1に示されている。
【0071】
第1整相加算器110においては、重み付け後の複数の受信信号がパラレル受信法に従って整相加算され、これにより複数のビームデータが生成される。それらは第1サブイメージに相当する。同様に、第2整相加算器112においては、重み付け後の複数の受信信号がパラレル受信法に従って整相加算され、これにより複数のビームデータが生成される。それらは第2サブイメージに相当する。重み付け後の第1サブイメージ及び重み付け後の第2サブイメージが前段合成器114において合成(加算)される。これにより合成サブイメージが生成される。電子走査に伴って複数の合成サブイメージが順次生成され、それらが第1合成部15A及び第2合成部15Bに並列的に送られる。
【0072】
図8に示す第1変形例によれば、サイドローブ成分等の不要成分をより抑圧することが可能となる。この変形例において、第1前段重み付け器102及び第2前段重み付け器104を時分割で交互に動作させてもよい。
【0073】
図9には、第2変形例に係る構成が示されている。第2変形例に係る構成は、第1実施形態に係る構成において第2合成部を部分的に変更したものに相当する。
【0074】
図9に示す第2変形例において、第1合成部15Aは、図1に示した第1合成部15Aと同様の構成を有する。一方、第2変形例において、第2合成部15Cは、第2重み付け器を有しておらず、第2合成器26Aのみを有している。第2合成器26Aでは、受信部14から出力された複数のサブイメージがそのまま合成され、これにより第2合成イメージが生成されている。生成部32においては、第1合成イメージ及び第2合成イメージに基づいて相関係数セットが演算され、その相関係数セットが第1合成イメージに乗算されている。これにより表示用イメージが生成されている。
【0075】
第2変形例においても、表示用イメージに含まれるサイドローブ成分を抑圧することが可能である。第2変形例によれば、第2合成部15Cにおいて、重み付け処理を実行する必要がないので、その分だけ超音波診断装置の構成を簡素化できる。
【符号の説明】
【0076】
10 プローブ、12 送信部、14 受信部、15A 第1合成部、15B 第2合成部、16 第1重み付け器、18 第2重み付け器、24 第1合成器、26 第2合成器、32 生成部、34 信号処理部。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9