(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022183643
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】ステンレス鋼複合材及びステンレス鋼複合材製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 28/04 20060101AFI20221206BHJP
B32B 7/023 20190101ALI20221206BHJP
B32B 15/18 20060101ALI20221206BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
C23C28/04
B32B7/023
B32B15/18
B32B9/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021091078
(22)【出願日】2021-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】504136889
【氏名又は名称】株式会社ファルテック
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 久典
(72)【発明者】
【氏名】竪谷 薫
(72)【発明者】
【氏名】田中 渉
【テーマコード(参考)】
4F100
4K044
【Fターム(参考)】
4F100AA17B
4F100AB04A
4F100AK01C
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100DD06B
4F100DD09C
4F100EH71C
4F100JL10B
4F100JN30B
4K044AA03
4K044AB06
4K044BA12
4K044BA21
4K044BB03
4K044BB10
4K044BC09
4K044BC14
4K044CA16
4K044CA31
(57)【要約】
【課題】表面に絶縁性を有する領域が選択的に設けられたステンレス鋼複合材を提供可能とする。
【解決手段】ステンレス鋼複合材100であって、表面の全範囲あるいは一部の範囲に光の干渉作用に基づく干渉色を発現する酸化被膜層111が設けられたステンレス鋼からなるステンレス鋼基材110と、ステンレス鋼基材110の表面の一部の範囲にて酸化被膜層111に形成された凹部113に充填された樹脂部材120とを備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面の全範囲あるいは一部の範囲に光の干渉作用に基づく干渉色を発現する酸化被膜層が設けられたステンレス鋼からなるステンレス鋼基材と、
前記ステンレス鋼基材の表面の一部の範囲にて前記酸化被膜層に形成された凹部に充填された樹脂部材と
を備えることを特徴とするステンレス鋼複合材。
【請求項2】
前記樹脂部材が前記凹部に充填された範囲である樹脂部材充填範囲における前記酸化被膜層の層厚と、前記樹脂部材が前記凹部に充填されていない範囲である樹脂部材非充填範囲における前記酸化被膜層の層厚とが異なることを特徴とする請求項1記載のステンレス鋼複合材。
【請求項3】
前記樹脂部材が前記凹部に充填されていない範囲である樹脂部材非充填範囲にて前記酸化被膜層に積層形成されためっき層を備えることを特徴とする請求項1または2記載のステンレス鋼複合材。
【請求項4】
ステンレス鋼からなるステンレス鋼基材の表面の全範囲あるいは一部の範囲に光の干渉作用に基づく干渉色を発現する酸化被膜層を形成する酸化被膜層形成工程と、
前記ステンレス鋼基材の表面の一部の範囲にて前記酸化被膜層に形成された凹部に充填された樹脂部材を形成する樹脂部材形成工程と
を有することを特徴とするステンレス鋼複合材製造方法。
【請求項5】
前記樹脂部材形成工程では、テープ基材の表面に前記樹脂部材の形成材料が接着された樹脂テープを前記酸化被膜層に押圧することにより前記樹脂部材の形成材料を前記凹部に充填することを特徴とする請求項4記載のステンレス鋼複合材製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステンレス鋼複合材及びステンレス鋼複合材製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、車両等にはステンレス鋼によって形成された部品が多く用いられている。例えば、特許文献1には、ステンレス鋼によって形成された芯材を備えるアウトサイドモールが開示されている。この他、車両には、ステンレス鋼によって形成されたサッシュモールが設置される場合もある。このようなステンレス鋼によって形成された部品は、金属光沢を有することから、車両の質感等を向上させることが可能になる。また、ステンレス鋼は、表面に光の干渉作用に基づく干渉色を発現させる酸化被膜を形成することが可能であり、意匠性に優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車両に設置されるステンレス鋼によって形成された部品は、導電性を有しているが、信号等を案内する導電路として用いられることはなされていない。これは、ステンレス鋼の表面に対して絶縁性を維持可能な経年劣化の少ない絶縁領域を選択的に形成することが難しいことにあると考えられる。
【0005】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、表面に絶縁性を有する領域が選択的に設けられたステンレス鋼複合材を提供可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、以下の構成を採用する。
【0007】
本発明の第1の態様は、ステンレス鋼複合材であって、表面の全範囲あるいは一部の範囲に光の干渉作用に基づく干渉色を発現する酸化被膜層が設けられたステンレス鋼からなるステンレス鋼基材と、上記ステンレス鋼基材の表面の一部の範囲にて上記酸化被膜層に形成された凹部に充填された樹脂部材とを備えるという構成を採用する。
【0008】
本発明の第2の態様は、上記第1の態様において、上記樹脂部材が上記凹部に充填された範囲である樹脂部材充填範囲における上記酸化被膜層の層厚と、上記樹脂部材が上記凹部に充填されていない範囲である樹脂部材非充填範囲における上記酸化被膜層の層厚とが異なるという構成を採用する。
【0009】
本発明の第3の態様は、上記第1または第2の態様において、上記樹脂部材が上記凹部に充填されていない範囲である樹脂部材非充填範囲にて上記酸化被膜層に積層形成されためっき層を備えるという構成を採用する。
【0010】
本発明の第4の態様は、ステンレス鋼複合材製造方法であって、ステンレス鋼からなるステンレス鋼基材の表面の全範囲あるいは一部の範囲に光の干渉作用に基づく干渉色を発現する酸化被膜層を形成する酸化被膜層形成工程と、上記ステンレス鋼基材の表面の一部の範囲にて上記酸化被膜層に形成された凹部に充填された樹脂部材を形成する樹脂部材形成工程とを有するという構成を採用する。
【0011】
本発明の第5の態様は、上記第4の態様において、上記樹脂部材形成工程では、テープ基材の表面に上記樹脂部材の形成材料が接着された樹脂テープを上記酸化被膜層に押圧することにより上記樹脂部材の形成材料を上記凹部に充填するという構成を採用する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ステンレス鋼基材の表面に対して設けられた酸化被膜層の凹部に樹脂部材が充填されている。このような樹脂部材が酸化被膜層の凹部に充填されることによって、樹脂部材が充填されていない範囲に対して樹脂部材が充填された範囲の抵抗が高まり、表面に絶縁性の領域を選択的に形成することが可能になる。また、樹脂部材は、酸化被膜層の凹部に充填されていることから、簡単に脱落することがない。このため、絶縁性を長期に亘って維持することができる。したがって、本発明によれば、表面に絶縁性を有する領域が選択的に設けられたステンレス鋼複合材を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の第1実施形態におけるステンレス鋼複合材の概略構成を示す模式図であり、(a)が平面図であり、(b)が(a)のA-A断面図である。
【
図2】本発明の第1実施形態におけるステンレス鋼複合材の製造方法を説明するための模式図である。
【
図3】本発明の第2実施形態におけるステンレス鋼複合材の概略構成を示す模式図であり、(a)が平面図であり、(b)が(a)のB-B断面図である。
【
図4】本発明の第3実施形態におけるステンレス鋼複合材の概略構成を示す模式図であり、(a)が平面図であり、(b)が(a)のC-C断面図である。
【
図5】本発明の第4実施形態におけるステンレス鋼複合材基板を有するスクリーングリルを備える車両の模式的な正面図である。
【
図6】本発明の第4実施形態におけるステンレス鋼複合材基板を有するスクリーングリルの分解斜視図である。
【
図7】本発明の第4実施形態におけるステンレス鋼複合材基板を有するスクリーングリルを車両前後方向沿った鉛直面で切断した断面図であり、
図5のD-D断面図である。
【
図8】本発明の第5実施形態におけるステンレス鋼複合材を有するサッシュモール及びアウトサイドモールを備える車両の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明に係るステンレス鋼複合材及びステンレス鋼複合材製造方法の一実施形態について説明する。
【0015】
(第1実施形態)
図1は、本実施形態のステンレス鋼複合材100の概略構成を示す模式図であり、(a)が平面図であり、(b)が(a)のA-A断面図である。本実施形態のステンレス鋼複合材100は、例えば車両用の部品として用いられる。ただし、本実施形態のステンレス鋼複合材100は、車両以外に設けられる部品に用いることも可能である。
【0016】
本実施形態のステンレス鋼複合材100は、板状の部材であり、表面101が意匠面とされている。
図1(a)においては、ステンレス鋼複合材100の表面101側が図示されている。また、
図1(b)においては、ステンレス鋼複合材100の表面101側の一部が図示されている。
【0017】
図1(a)に示すように、ステンレス鋼複合材100の表面101には、相対的に電気抵抗が低い絶縁領域R1と、相対的に電気抵抗が高い導電領域R2とが設けられている。本実施形態では、
図1(a)に示すように、2つの絶縁領域R1の間に1つの導電領域R2が配置されている。ただし、絶縁領域R1と導電領域R2との配置パターンはこれに限定されるものではなく、任意に変更可能である。
【0018】
図1(b)に示すように、本実施形態のステンレス鋼複合材100は、ステンレス鋼基材110と、樹脂部材120とを有している。ステンレス鋼基材110は、ステンレス鋼によって形成された基材であり、表面の全範囲に対して酸化被膜層111を有している。なお、ステンレス鋼基材110のうち、酸化されていない基材厚さ方向における中央部(酸化被膜層111ではない部位)については、基材基部112と称する。
【0019】
この酸化被膜層111は、光の干渉作用に基づく干渉色を発現するための層であり、表面に開口された多数の凹部113を有している。なお、光の干渉作用に基づく干渉色を発現するとは、外部から視認する者に対して、干渉現象により強められた波長に基づく色調を感じさせることを意味する。つまり、干渉色を発現する酸化被膜層111が設けられることにより、外部の者は、ステンレス鋼複合材100の酸化被膜層111を特定の色調にて視認する。なお、酸化被膜層111の膜厚寸法によって、酸化被膜層111が発現する干渉色の色調が変化する。このため、酸化被膜層111の膜厚寸法を変更することで、外部の者が視認する酸化被膜層111の色調を変化させることができる。このような酸化被膜層111は、例えば黒、赤、緑、青等の任意の色調の干渉色を膜厚寸法に応じて発現可能である。
【0020】
本実施形態においては、絶縁領域R1と導電領域R2との両方に同一の膜厚寸法の酸化被膜層111が設けられている。ただし、絶縁領域R1と導電領域R2とのうち導電領域R2については、干渉色を発現する酸化被膜層111を設けないことも可能である。このため、例えば絶縁領域R1を含む基材基部112の一部が干渉色を発現する酸化被膜層111によって覆われ、導電領域R2の全域あるいは一部領域が干渉色を発現しない自然酸化被膜で覆われた構成とすることも可能である。
【0021】
なお、本実施形態においては、上述のように、絶縁領域R1と導電領域R2とに同一の膜厚寸法の酸化被膜層111が設けられている。このため、ステンレス鋼複合材100の全域にて酸化被膜層111が発現する干渉色の色調は同一となる。
【0022】
樹脂部材120は、絶縁領域R1にて酸化被膜層111が有する複数の凹部113に対して充填されている。本実施形態においては、絶縁領域R1及び導電領域R2に対して酸化被膜層111が設けられ、導電領域R2では凹部113に樹脂部材120が充填されておらず、絶縁領域R1では凹部113に樹脂部材120が充填されている。つまり、本実施形態において樹脂部材120は、酸化被膜層111が有する複数の凹部113の一部に対して充填されている。なお、上述のように干渉色を発現する酸化被膜層111が絶縁領域R1のみに設けられている場合には、樹脂部材120は、干渉色を発現する酸化被膜層111の全域にて凹部113に充填される。
【0023】
樹脂部材120は、樹脂によって形成された充填部材であり、ステンレス鋼基材110の表面の電気抵抗を高める。つまり、樹脂部材120が酸化被膜層111の凹部113に充填された領域は、樹脂部材120が配置されていない領域に対して電気抵抗が相対的に高まる。本実施形態では、樹脂部材120が酸化被膜層111の凹部113に充填された領域(樹脂部材充填範囲)が絶縁領域R1として用いられ、樹脂部材120が酸化被膜層111の凹部113に充填されてない領域(樹脂部材非充填範囲)が導電領域R2として用いられる。
【0024】
樹脂部材120は、例えばアクリル系の樹脂によって形成されている。例えば、流動性を有する樹脂材料を凹部113に充填し、その後樹脂材料を乾燥等により硬化させることで樹脂部材120を形成することができる。なお、樹脂部材120に流動性が残っていても構わない。
【0025】
なお、
図1(b)においては、作図の便宜上、凹部113が規則的に配列された状態で図示されている。しかしながら、実際の凹部113は
図1(b)に示すよりも複雑に配列されている。このような凹部113に樹脂部材120が充填されることで、樹脂部材120が酸化被膜層111の表面を覆っていなくとも、ステンレス鋼基材110の電気抵抗を高めることが可能である。ただし、隣接する凹部113に樹脂部材120同士が酸化被膜層111の表面側で互いに接続され、酸化被膜層111の表面が樹脂部材120で覆われるようにしても良い。
【0026】
また、樹脂部材120は、酸化被膜層111が発現する干渉色の色調に影響を与えない透明とすることができる。このように樹脂部材120が透明である場合には、絶縁領域R1の色調と導電領域R2との色調とを合わせ、絶縁領域R1と導電領域R2との境界を外部の者に視認され難くすることが可能である。ただし、外部の者が視認する絶縁領域R1の色調が導電領域R2と敢えて異なるように、樹脂部材120の色を選択することも可能である。
【0027】
ここで
図2を参照して、本実施形態のステンレス鋼複合材100の製造方法(ステンレス鋼複合材製造方法)について説明する。
図2は、本実施形態のステンレス鋼複合材100の製造方法を説明するための模式図である。
【0028】
まず、
図2(a)に示すように、ステンレス鋼基材110を用意する。なお、一般的に、ステンレス鋼基材110の表面には、自然酸化被膜が形成されている。このため、必要に応じて自然酸化被膜を除去する。
【0029】
続いて、
図2(b)に示すように、ステンレス鋼基材110の表面に、光の干渉作用に基づく干渉色を発現する酸化被膜層111を形成する。例えば、ステンレス鋼基材110を発色処理液に浸漬して酸化被膜を形成する。その後、必要に応じて酸化被膜を硬化処理することで酸化被膜層111を形成する。このような
図2(b)に示す工程は、ステンレス鋼からなるステンレス鋼基材110の表面の全範囲(あるいは一部の範囲)に光の干渉作用に基づく干渉色を発現する酸化被膜層111を形成する酸化被膜層形成工程に相当する。
【0030】
続いて、
図2(c)に示すように、テープ基材131の表面に樹脂部材120の形成材料132が接着された樹脂テープ130を酸化被膜層111に押圧する。樹脂テープ130の形成材料132をステンレス鋼基材110側に向けて、形成材料132を酸化被膜層111に接触させるようにして、樹脂テープ130をステンレス鋼基材110に貼付する。なお、樹脂テープ130は、絶縁領域R1が形成される領域のみに貼付され、導電領域R2が形成される領域には貼付しない。
【0031】
図2(c)においては、ステンレス鋼基材110に貼付された樹脂テープ130をステンレス鋼基材110に向けて押圧することで、形成材料132を酸化被膜層111の凹部113の奥部まで進行させる。例えば、ステンレス鋼基材110に貼付された樹脂テープ130のテープ基材131をステンレス鋼基材110に向けて治具を用いて一定の圧力で均等に押圧する。
【0032】
続いて、
図2(d)に示すように、ステンレス鋼基材110に貼付された樹脂テープ130のテープ基材131を剥離する。このようにテープ基材131をステンレス鋼基材110から剥離することで、酸化被膜層111の凹部113に入り込んだ形成材料132は、凹部113に残存する。その後、凹部113に残存した形成材料132を必要に応じて乾燥等させて硬化させることで樹脂部材120が形成される。
【0033】
これらの
図2(c)及び
図2(d)に示す工程は、ステンレス鋼基材110の表面の一部の範囲にて酸化被膜層111に形成された凹部113に充填された樹脂部材120を形成する樹脂部材形成工程に相当する。
【0034】
このような工程を経ることによって本実施形態のステンレス鋼複合材100が形成される。この本実施形態のステンレス鋼複合材100は、表面の全範囲(あるいは一部の範囲)に光の干渉作用に基づく干渉色を発現する酸化被膜層111が設けられたステンレス鋼からなるステンレス鋼基材110と、ステンレス鋼基材110の表面の一部の範囲にて酸化被膜層111に形成された凹部113に充填された樹脂部材120とを備えている。
【0035】
このような本実施形態のステンレス鋼複合材100によれば、ステンレス鋼基材110の表面に対して設けられた酸化被膜層111の凹部113に樹脂部材120が充填されている。このような樹脂部材120が酸化被膜層111の凹部113に充填されることによって、樹脂部材120が充填されていない範囲に対して樹脂部材120が充填された範囲の抵抗が高まり、表面に絶縁性の領域を選択的に形成することが可能になる。また、樹脂部材120は、酸化被膜層111の凹部113に充填されていることから、簡単に脱落することがない。このため、絶縁性を長期に亘って維持することができる。したがって、表面に絶縁性を有する領域が選択的に設けられたステンレス鋼複合材100を提供することが可能となる。
【0036】
また、本実施形態のステンレス鋼複合材100の製造方法は、ステンレス鋼からなるステンレス鋼基材110の表面の全範囲(あるいは一部の範囲)に光の干渉作用に基づく干渉色を発現する酸化被膜層111を形成する酸化被膜層形成工程と、ステンレス鋼基材110の表面の一部の範囲にて酸化被膜層111に形成された凹部113に充填された樹脂部材120を形成する樹脂部材形成工程とを有する。
【0037】
このような本実施形態のステンレス鋼複合材100の製造方法によれば、ステンレス鋼基材110の表面に対して設けられた酸化被膜層111の凹部113に樹脂部材120が充填されたステンレス鋼複合材100を形成することができる。このため、本実施形態のステンレス鋼複合材100の製造方法によれば、表面に絶縁性を有する領域が選択的に設けられたステンレス鋼複合材100を提供することが可能となる。
【0038】
また、本実施形態のステンレス鋼複合材100の製造方法においては、樹脂部材形成工程では、テープ基材131の表面に樹脂部材120の形成材料132が接着された樹脂テープ130を酸化被膜層111に押圧することにより樹脂部材120の形成材料132を凹部113に充填した。このため、樹脂部材120の形成材料132を凹部113の奥部まで進行させることができ、絶縁領域R1の絶縁性を高め、樹脂部材120の及びステンレス鋼基材110に対する密着力を向上させることが可能になる。
【0039】
(第2実施形態)
続いて、本発明の第2実施形態について、
図3を参照して説明する。なお、本実施形態の説明において、上記第1実施形態と同様の部分については、その説明を省略あるいは簡略化する。
【0040】
図3は、本実施形態のステンレス鋼複合材100の概略構成を示す模式図であり、(a)が平面図であり、(b)が(a)のB-B断面図である。例えば、
図3(b)に示すように、本実施形態のステンレス鋼複合材100においては、導電領域R2における酸化被膜層111の層厚が、絶縁領域R1における酸化被膜層111の層厚よりも小さい。
【0041】
このような本実施形態のステンレス鋼複合材100によれば、絶縁領域R1と導電領域R2とにおいて酸化被膜層111の層厚が異なる。このため、絶縁領域R1の色調と導電領域R2の色調とを異ならせることが可能になる。
【0042】
(第3実施形態)
続いて、本発明の第3実施形態について、
図4を参照して説明する。なお、本実施形態の説明において、上記第1実施形態と同様の部分については、その説明を省略あるいは簡略化する。
【0043】
図4は、本実施形態のステンレス鋼複合材100の概略構成を示す模式図であり、(a)が平面図であり、(b)が(a)のC-C断面図である。例えば、
図3(b)に示すように、本実施形態のステンレス鋼複合材100においては、導電領域R2において酸化被膜層111に積層形成されためっき層140が設けられている。
【0044】
絶縁領域R1は電気を通さず、導電領域R2は電気を通す。このため、例えば上記第1実施形態のステンレス鋼複合材100に対して電界めっき処理を施すことによって、本実施形態のステンレス鋼複合材100を形成することができる。
【0045】
このような本実施形態のステンレス鋼複合材100によれば、導電領域R2にめっき層140が露出して設けられるため、導電領域R2にめっき層140によって得られる金属光沢を付与することが可能になる。さらに、本実施形態のステンレス鋼複合材100によれば、レジストを用いることなく、めっき層140をパターニングすることが可能になる。
【0046】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態について説明する。なお、本実施形態の説明においては、上記第1実施形態と同様の部分については、その説明を省略あるいは簡略化する。
【0047】
図5は、スクリーングリル1を備える車両20の模式的な正面図である。
図5に示すように、車両20は、フロントガラスGの下方に配置された開閉可能なフードH、フードHの下方にて左右に離間して配置されたヘッドランプL、及びヘッドランプLの下方に配置されたフロントバンパB等を備えている。
【0048】
フードH、ヘッドランプL及びフロントバンパB等の車両パーツの表面は、搭載される車両20の種類に応じた複雑な立体的な形状とされている。例えば、フードHの上面は、本実施形態においては、車両前方に向かうに連れて下方に落ち込むように湾曲されている。ヘッドランプLの前面及びフロントバンパBの前面は、車幅方向にて車両20の端部に向かうに連れて後方に向かうように湾曲されている。
【0049】
なお、本実施形態において車両20に搭載される車両パーツは一例であり、車両20に対しては他の車両パーツが搭載可能である。また本実施形態における車両パーツの表面形状も一例であり、車両パーツの表面形状は平面ではない三次元形状にて変更可能である。
ただし、全ての車両パーツの表面形状が三次元形状である必要は必ずしもない。複数の車両パーツのうち、少なくとも1つの表面形状は三次元形状とされている。
【0050】
スクリーングリル1は、車両20の外に向けてピクトグラムや文字等の表示を行う表示装置であり、
図5に示すように、これらのような三次元形状の表面を有する車両パーツに囲まれるように車両20の前部に配置されている。本実施形態においては、スクリーングリル1は、フードHの下方、フロントバンパBの上方、かつ、左右のヘッドランプLの間に配置されている。
【0051】
図6は、スクリーングリル1の分解斜視図である。
図7は、スクリーングリル1を車両前後方向沿った鉛直面で切断した断面図であり、
図5のD-D断面図である。例えば、
図6及び
図7に示すように、スクリーングリル1は、インナ部材2と、表示部3と、ベゼル4と、アウタカバー5と、半透過層6とを備えている。
【0052】
なお、以下の説明においては、表示部3によって情報を提示する先を前方と称し、表示部3によって情報を表示しない側を後方と称する。本実施形態では、インナ部材2と、表示部3と、ベゼル4と、アウタカバー5とが前後方向に配列されており、これらのうちインナ部材2が最も後方側に配置され、アウタカバー5が最も前方側に配置されている。
【0053】
インナ部材2は、表示部3、ベゼル4及びアウタカバー5を直接的あるいは間接的に支持する部材であり、表示部3、ベゼル4及びアウタカバー5の後方(背後)に配置されている。インナ部材2は、例えば黒色のABSによって形成されている。インナ部材2は、板状部2aと、板状部2aを上下左右方向から囲うように設けられたインナ縁部2bとを有している。
【0054】
板状部2aは、表示部3の後述する支持基板3aに対して前後方向に一定の隙間を空けて配置されており、表示部3を後方から覆う板状の部位である。このようなインナ部材2の板状部2aは、表示部3の後述する支持基板3aに対して一定の隙間を空けて配置されている。
【0055】
また、このような板状部2aには、表示部3をねじ7(
図7参照)によって固定するための孔部2a1が複数設けられている。これらの孔部2a1に挿入されたねじ7が表示部3の後述する支持基板3aに設けられた螺合部3bに螺合されることで、インナ部材2に対して表示部3が固定される。また、インナ部材2のインナ縁部2bには、インナ部材2を車体に対して取り付けるための複数の取付部2cが設けられている。これらの取付部2cが車体に対して不図示のねじ等によって固定されることによって、スクリーングリル1が車体に対して固定される。
【0056】
また、インナ部材2のインナ縁部2bには、アウタカバー5を係止するための係止突起2dが設けられている。インナ部材2には、係止突起2dによってアウタカバー5が接続される。このようなインナ部材2は、アウタカバー5に後方から接続されると共にアウタカバー5との間に半透過層6及びLED素子3dが収容される閉空間を形成する。
【0057】
表示部3は、不図示の制御装置の制御に基づいて文字やピクトグラムを表示する装置であり、支持基板3aと、螺合部3bと、ステンレス鋼複合材基板3cと、LED(発光ダイオード)素子3dとを備えている。
【0058】
支持基板3aは、ステンレス鋼複合材基板3cを支持する。このような支持基板3aは、アウタカバー5に対して一定の隙間を空けて配置されている。螺合部3bは、支持基板3aの裏面から後方に向けて突出して設けられた筒状の部位であり、インナ部材2の板状部2aに設けられた孔部2a1に対応して複数設けられている。これらの螺合部3bには、
図7に示すように、ねじ7が螺合される。
【0059】
ステンレス鋼複合材基板3cは、上述のステンレス鋼複合材100によって形成されている。ステンレス鋼複合材基板3cは、表面側にLED素子3dが固定されており、裏面側が支持基板3aに固定されている。このステンレス鋼複合材基板3cは、例えば、LED素子3dのプラス端子が接合される部位が上述の絶縁領域R1とされ、LED素子3dのマイナス端子が接合される部位が上述の導電領域R2とされている。導電領域R2は、例えば基準電位と接続されており、LED素子3dに供給される電力の導通路として機能する。なお、絶縁領域R1に接合されたLED素子3dのプラス端子には、不図示のリード線等が接続されている。このように、ステンレス鋼複合材基板3cは、本実施形態においてLED素子3dが実装される配線基板として用いられている。
【0060】
LED素子3dは、ステンレス鋼複合材基板3cを介して支持基板3aの前面に固定されており、前後左右方向に複数配列されている。これらのLED素子3dは、前方から見て、支持基板3aの中央部に設けられた表示領域R(
図6参照)に集めて配置されている。各々のLED素子3dには、LED素子3dに給電するための不図示のリード線が接続されている。これらのリード線は、表示領域Rから側方に引き延ばされ、例えば支持基板3aやインナ部材2の板状部2aに設けられた開口を介して外部に引き出され、制御装置に接続される。なお、リード線を通過させるための開口は、封止しておくことが好ましい。これらのLED素子3dが選択的に発光されることによって、表示領域Rに所望の文字やピクトグラムが表示される。
【0061】
なお、
図6に示すように、支持基板3aにおいて表示領域Rの周囲には、ステンレス鋼複合材基板3c及びLED素子3dが配置されていない領域が環状に設けられており、このLED素子3dが設けられていない領域の背面に螺合部3bが設けられている。
【0062】
また、LED素子3dと半透過層6との間には、緩衝空間Kが設けられている。この緩衝空間Kは、車両20の走行振動によってLED素子3dとアウタカバー5とが相対移動した場合であっても、LED素子3dが半透過層6と接触することを防止する空間である。また、緩衝空間Kを設けることによって、LED素子3dが消灯している場合に、アウタカバー5の前方からLED素子3dがより視認され難くすることが可能となる。
【0063】
ベゼル4は、
図6に示すように、中央に開口4aが設けられた環状の板部材であり、アウタカバー5側から見て表示領域Rを囲う枠形状とされている。このベゼル4は、表示部3とアウタカバー5との間に介挿されている介挿部材であり、例えば黒色のABSによって形成されている。ベゼル4の開口4aは、アウタカバー5の前方側から見て表示領域Rよりも僅かに小さな形状とされており、アウタカバー5の外側から発光するLED素子3dを視認可能としている。
【0064】
ベゼル4は、LED素子3dよりも僅かに前方に配置されており、LED素子3dに対して僅かに隙間を空けて配置されている。このベゼル4は、
図7に示すように、表示領域Rの端に配列されたLED素子3dに対して、前方から見て内縁部が僅かに重なるように配置されている。このようにベゼル4の開口4aを形成する内縁部が前方から見て僅かに端のLED素子3dに重なることによって、ベゼル4とLED素子3dとの間に隙間を設けても、表示領域Rの外側が外部から視認されることを防止できる。
【0065】
また、このようなベゼル4は、車両20の走行等によって表示部3が半透過層6に近づくことを規制するストッパとして機能する。このため、車両20が緊急停止したような場合であっても、ベゼル4が表示部3の半透過層6に接近することを防止し、LED素子3dが半透過層6に接触することや、LED素子3dと半透過層6までの距離が変化することを防止することができる。
【0066】
アウタカバー5は、表示部3(すなわちLED素子3d)の前方に配置された透明のカバー部材である。このアウタカバー5は、例えばPMMA等によって形成されている。このようなアウタカバー5は、透明板状部5aと、透明板状部5aを上下左右方向から囲うように設けられたアウタ縁部5bとを有している。
【0067】
透明板状部5aは、LED素子3dの前方に配置されており、表示部3を前方から覆う板状の部位である。このようなアウタカバー5の透明板状部5aは、表示部3のLED素子3d(表示領域R)に対して一定の隙間を空けて配置されている。また、アウタカバー5のアウタ縁部5bには、アウタカバー5をインナ部材2に係止するための係止爪部5cが設けられている。アウタカバー5は、係止爪部5cがインナ部材2の係止突起2dに係止されることによってインナ部材2が接続される。なお、アウタ縁部5bとインナ縁部2bとの境界部分には、必要に応じてシーリングが施される。このようなシーリングによって、インナ部材2とアウタカバー5との間の閉空間が封止され、LED素子3dを空気中の水分等から守ることが可能となる。
【0068】
半透過層6は、入射された光の一部を透過すると共に残りを反射させる層であり、アウタカバー5の後面に設けられている。つまり、半透過層6は、アウタカバー5と表示部3との間に配置され、表示部3の前方に配置されて表示部3を前方から覆っている。本実施形態においては、半透過層6は、アウタカバー5の後面に塗料を塗布し、この塗料を乾燥させることによって形成された塗料層からなる。なお、半透過層6で反射する色成分は、周囲の車両パーツと同一色あるいは同系色であることが好ましい。これによって、外部から視認する者が、半透過層6を周囲の車両パーツと一体化して認識できるため、スクリーングリル1の車両20の外観印象に与える影響をより低減することが可能となる。なお、半透過層6を設けない構成を採用することも可能である。
【0069】
このような本実施形態においてステンレス鋼複合材基板3cは、LED素子3dが実装された配線基板として用いられている。つまり、ステンレス鋼複合材基板3cを介してLED素子3dに給電することが可能になる。さらに、LED素子3dの間からステンレス鋼複合材基板3cの干渉色を視認することができる。このため、ステンレス鋼複合材基板3cによれば優れた意匠をスクリーングリル1に付与することが可能になる。
【0070】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されないことは言うまでもない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0071】
例えば、上記4実施形態においては、ステンレス鋼複合材100をスクリーングリル1のステンレス鋼複合材基板3cとして用いる構成について説明した。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではない。
図8は、車両30の側面図である。車両30には、フロントドア31、リアドア32及びリアサイドガラス33が設けられている。また、車両30には、アウトサイドモール34やサッシュモール35が設けられている。アウトサイドモール34は、フロントドア31とリアドア32との各々に設けられており、昇降式ウィンドウの下端部に配置されている。このアウトサイドモール34には、外部に露出した芯材を有している場合がある。このようなアウトサイドモール34の芯材に、例えば上記第3実施形態のめっき層140が導電領域R2に設けられたステンレス鋼複合材100を備えても良い。また、車両30は、フロントドア31の前部からフロントドア31の上縁部及びリアドア32の上縁部を経由して、リアドア32の後方に配置されたリアサイドガラス33の後部まで設けられた長尺状のサッシュモール35を備えている。このようなサッシュモール35に、例えば上記第3実施形態のめっき層140が導電領域R2に設けられたステンレス鋼複合材100を用いても良い。
【0072】
また、上記実施形態においては、ステンレス鋼複合材100の表面に、絶縁領域R1と導電領域R2との両方が設けられた構成について説明した。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、絶縁領域R1をステンレス鋼複合材100の1つの面に設け、導電領域R2をステンレス鋼複合材100の絶縁領域R1が設けられた面と異なる面に設けるようにしても良い。
【符号の説明】
【0073】
100……ステンレス鋼複合材、101……表面、110……ステンレス鋼基材、111……酸化被膜層、112……基材基部、113……凹部、120……樹脂部材、130……樹脂テープ、131……テープ基材、132……形成材料、140……めっき層、R1……絶縁領域(樹脂部材充填範囲)、R2……導電領域(樹脂部材非充填範囲)、34……アウトサイドモール、35……サッシュモール