IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アズビル株式会社の特許一覧

特開2022-183666バルブメンテナンス支援装置および方法
<>
  • 特開-バルブメンテナンス支援装置および方法 図1
  • 特開-バルブメンテナンス支援装置および方法 図2
  • 特開-バルブメンテナンス支援装置および方法 図3
  • 特開-バルブメンテナンス支援装置および方法 図4
  • 特開-バルブメンテナンス支援装置および方法 図5
  • 特開-バルブメンテナンス支援装置および方法 図6
  • 特開-バルブメンテナンス支援装置および方法 図7
  • 特開-バルブメンテナンス支援装置および方法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022183666
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】バルブメンテナンス支援装置および方法
(51)【国際特許分類】
   G05B 23/02 20060101AFI20221206BHJP
【FI】
G05B23/02 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021091106
(22)【出願日】2021-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006666
【氏名又は名称】アズビル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】田中 雅人
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 史明
(72)【発明者】
【氏名】小山 晋一
【テーマコード(参考)】
3C223
【Fターム(参考)】
3C223AA05
3C223BA01
3C223CC01
3C223DD01
3C223FF03
3C223FF04
3C223FF13
3C223FF15
3C223FF24
3C223FF35
3C223FF45
3C223GG01
(57)【要約】
【課題】バルブのメンテナンスの作業効率を向上させる。
【解決手段】バルブメンテナンス支援装置は、開度指令値が定常状態になったバルブの実開度値で、定常状態の開度指令値に対応する時間帯の実開度値を診断用データとして抽出する定常データ抽出部5と、診断用データに定常状態の開度指令値を挟んで略一定の周期で上下動するハンチング状態が生じているか否かを判定するハンチング判定部6と、ハンチング状態が生じていると判定された場合にハンチング速度とハンチング上下動幅に基づいてグランドパッキンのフリクションが強過ぎるか否かを判定するフリクション判定部7と、フリクションが弱過ぎるか否かを判定するフリクション判定部8と、フリクションが強過ぎる又は弱過ぎると判定されたバルブのIDをグランドパッキンに不具合があるバルブのIDとして提示する判定結果提示部9を備えている。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バルブに与えられた開度指令値のデータとデータの送信元のバルブのIDとを対応付けて記憶するように構成された開度指令値記憶部と、
バルブの実開度値のデータとデータの送信元のバルブのIDとを対応付けて記憶するように構成された開度計測値記憶部と、
前記開度指令値記憶部に記憶された開度指令値のうち同一のバルブについて略一定値を継続的に指示している定常状態の開度指令値のデータを探索し、与えられた開度指令値が前記定常状態になったバルブの実開度値で、かつ前記定常状態の開度指令値に対応する時間帯の実開度値を診断用データとして抽出するように構成された定常データ抽出部と、
前記診断用データに前記定常状態の開度指令値を挟んで略一定の周期で上下動するハンチング状態が生じているか否かを判定するように構成されたハンチング判定部と、
前記ハンチング状態が生じているバルブのグランドパッキンに不具合があるか否かを判定するように構成されたフリクション判定部と、
前記グランドパッキンに不具合ありと判定されたバルブのIDを提示するように構成された判定結果提示部とを備えることを特徴とするバルブメンテナンス支援装置。
【請求項2】
請求項1記載のバルブメンテナンス支援装置において、
前記フリクション判定部は、前記ハンチング判定部が前記診断用データにハンチング状態が生じていると判定した場合に、ハンチング速度とハンチング上下動幅とに基づいて前記グランドパッキンのフリクションが強過ぎるか否かを判定し、
前記判定結果提示部は、前記グランドパッキンのフリクションが強過ぎると判定されたバルブのIDを、前記グランドパッキンに不具合があるバルブのIDとして提示することを特徴とするバルブメンテナンス支援装置。
【請求項3】
請求項2記載のバルブメンテナンス支援装置において、
前記フリクション判定部は、前記ハンチング速度と前記ハンチング上下動幅との比が第1の規定値より大きい場合に、前記グランドパッキンのフリクションが強過ぎると判定することを特徴とするバルブメンテナンス支援装置。
【請求項4】
請求項1記載のバルブメンテナンス支援装置において、
前記フリクション判定部は、前記ハンチング判定部が前記診断用データにハンチング状態が生じていると判定した場合に、ハンチング速度とハンチング上下動幅とに基づいて前記グランドパッキンのフリクションが弱過ぎるか否かを判定し、
前記判定結果提示部は、前記グランドパッキンのフリクションが弱過ぎると判定されたバルブのIDを、前記グランドパッキンに不具合があるバルブのIDとして提示することを特徴とするバルブメンテナンス支援装置。
【請求項5】
請求項4記載のバルブメンテナンス支援装置において、
前記フリクション判定部は、前記ハンチング速度と前記ハンチング上下動幅との比が第2の規定値より小さい場合に、前記グランドパッキンのフリクションが弱過ぎると判定することを特徴とするバルブメンテナンス支援装置。
【請求項6】
バルブに与えられた開度指令値のデータとデータの送信元のバルブのIDとを対応付けて記憶する第1のステップと、
バルブの実開度値のデータとデータの送信元のバルブのIDとを対応付けて記憶する第2のステップと、
前記第1のステップで記憶した開度指令値のうち同一のバルブについて略一定値を継続的に指示している定常状態の開度指令値のデータを探索し、与えられた開度指令値が前記定常状態になったバルブの実開度値で、かつ前記定常状態の開度指令値に対応する時間帯の実開度値を診断用データとして抽出する第3のステップと、
前記診断用データに前記定常状態の開度指令値を挟んで略一定の周期で上下動するハンチング状態が生じているか否かを判定する第4のステップと、
前記ハンチング状態が生じているバルブのグランドパッキンに不具合があるか否かを判定する第5のステップと、
前記グランドパッキンに不具合ありと判定したバルブのIDを提示する第6のステップとを含むことを特徴とするバルブメンテナンス支援方法。
【請求項7】
請求項6記載のバルブメンテナンス支援方法において、
前記第5のステップは、前記第4のステップで前記診断用データにハンチング状態が生じていると判定した場合に、ハンチング速度とハンチング上下動幅とに基づいて前記グランドパッキンのフリクションが強過ぎるか否かを判定するステップを含み、
前記第6のステップは、前記グランドパッキンのフリクションが強過ぎると判定したバルブのIDを、前記グランドパッキンに不具合があるバルブのIDとして提示するステップを含むことを特徴とするバルブメンテナンス支援方法。
【請求項8】
請求項7記載のバルブメンテナンス支援方法において、
前記第5のステップは、前記ハンチング速度と前記ハンチング上下動幅との比が第1の規定値より大きい場合に、前記グランドパッキンのフリクションが強過ぎると判定するステップを含むことを特徴とするバルブメンテナンス支援方法。
【請求項9】
請求項6記載のバルブメンテナンス支援方法において、
前記第5のステップは、前記第4のステップで前記診断用データにハンチング状態が生じていると判定した場合に、ハンチング速度とハンチング上下動幅とに基づいて前記グランドパッキンのフリクションが弱過ぎるか否かを判定するステップを含み、
前記第6のステップは、前記グランドパッキンのフリクションが弱過ぎると判定したバルブのIDを、前記グランドパッキンに不具合があるバルブのIDとして提示するステップを含むことを特徴とするバルブメンテナンス支援方法。
【請求項10】
請求項9記載のバルブメンテナンス支援方法において、
前記第5のステップは、前記ハンチング速度と前記ハンチング上下動幅との比が第2の規定値より小さい場合に、前記グランドパッキンのフリクションが弱過ぎると判定するステップを含むことを特徴とするバルブメンテナンス支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メンテナンス作業を支援する技術に係り、特にグランドパッキンを備えたバルブのメンテナンス作業を支援するバルブメンテナンス支援装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、石油化学プラントなどで使用されるバルブ(例えば図7のコントロールバルブ)は、特に安全性に留意する必要があり、ゆえに定期的なメンテナンスが行なわれる。図7に示すバルブ100は、バルブ本体101と、ポジショナ102と、操作器103とを備えている。操作器103は、ポジショナ102から供給される空気出力圧Poに応じて弁軸(ステム)104を上下動させて、バルブの開度(弁体105とシートリング106との間の隙間)を調節する。すなわち、流体の流れを調節する。
【0003】
ポジショナ102は、弁軸104に連結されたフィードバックレバー107の回転角度位置から弁軸104のリフト位置、すなわちバルブの実開度を検出し、この検出した実開度と設定開度との差に応じた空気出力圧Poを操作器103へ供給する。
弁軸104を摺動可能に保持するグランド部108には、弁箱110内の流体が弁箱110の上部に設けられたボンネット111と弁軸104との隙間から漏れることを防止するため、ボンネット111の内壁と弁軸104との隙間にグランドパッキン109が設けられている。
【0004】
図7に示したようなバルブ100が設置されているプラントにおいてバルブのメンテナンス作業効率を改善するために、バルブのハンチング状態を判定する技術(特許文献1参照)が提案されている。
【0005】
特許文献1に開示されたバルブメンテナンス支援装置は、所定時間TXにおけるバルブへの開度指令値の変動量の累積値を変動量累積値A、所定時間TXにおけるバルブの実開度値の変動量の累積値を摺動量累積値Bとして算出し、変動量累積値Aと摺動量累積値Bとの差を判定指標として算出し、判定指標が閾値を超えているときにバルブがハンチング状態にあると判定するものである。また、特許文献1に開示されたバルブメンテナンス支援装置は、バルブがハンチング状態にあると判定した場合に、バルブの開度を制御する制御装置の制御パラメータ(PIDパラメータ)をハンチングが生じ難い側に修正する。PIDパラメータを自動修正することで、ハンチング状態を解消できる。
【0006】
特許文献1に開示された技術は、PIDパラメータの調整ミスやバルブの特性変化によって、PIDパラメータの設定が適切でないケースを想定している。しかしながら、バルブのハンチングの原因はPIDパラメータの設定の不適切さだけとは限らないので、特許文献1に開示された技術では、バルブのハンチングを解消できない可能性があった。
【0007】
石油化学プラントなどでは多数のバルブが使用される。例えば図8の例では、バルブ100-A,100-Mが流路114-1に配設され、バルブ100-Cが流路114-3に配設されている。115-A,115-C,115-Mは流量計測器、116はタンク、117は圧力発信器である。このように、多数のバルブが使用されているプラントなどでは、メンテナンス作業の効率について、さらなる改善が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2015-114942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、制御パラメータの設定の不適切さに起因しないバルブのハンチングに対応することができ、バルブのメンテナンスの作業効率を向上させることができるバルブメンテナンス支援装置および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のバルブメンテナンス支援装置は、バルブに与えられた開度指令値のデータとデータの送信元のバルブのIDとを対応付けて記憶するように構成された開度指令値記憶部と、バルブの実開度値のデータとデータの送信元のバルブのIDとを対応付けて記憶するように構成された開度計測値記憶部と、前記開度指令値記憶部に記憶された開度指令値のうち同一のバルブについて略一定値を継続的に指示している定常状態の開度指令値のデータを探索し、与えられた開度指令値が前記定常状態になったバルブの実開度値で、かつ前記定常状態の開度指令値に対応する時間帯の実開度値を診断用データとして抽出するように構成された定常データ抽出部と、前記診断用データに前記定常状態の開度指令値を挟んで略一定の周期で上下動するハンチング状態が生じているか否かを判定するように構成されたハンチング判定部と、前記ハンチング状態が生じているバルブのグランドパッキンに不具合があるか否かを判定するように構成されたフリクション判定部と、前記グランドパッキンに不具合ありと判定されたバルブのIDを提示するように構成された判定結果提示部とを備えることを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明のバルブメンテナンス支援装置の1構成例において、前記フリクション判定部は、前記ハンチング判定部が前記診断用データにハンチング状態が生じていると判定した場合に、ハンチング速度とハンチング上下動幅とに基づいて前記グランドパッキンのフリクションが強過ぎるか否かを判定し、前記判定結果提示部は、前記グランドパッキンのフリクションが強過ぎると判定されたバルブのIDを、前記グランドパッキンに不具合があるバルブのIDとして提示することを特徴とするものである。
また、本発明のバルブメンテナンス支援装置の1構成例において、前記フリクション判定部は、前記ハンチング速度と前記ハンチング上下動幅との比が第1の規定値より大きい場合に、前記グランドパッキンのフリクションが強過ぎると判定することを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明のバルブメンテナンス支援装置の1構成例において、前記フリクション判定部は、前記ハンチング判定部が前記診断用データにハンチング状態が生じていると判定した場合に、ハンチング速度とハンチング上下動幅とに基づいて前記グランドパッキンのフリクションが弱過ぎるか否かを判定し、前記判定結果提示部は、前記グランドパッキンのフリクションが弱過ぎると判定されたバルブのIDを、前記グランドパッキンに不具合があるバルブのIDとして提示することを特徴とするものである。
また、本発明のバルブメンテナンス支援装置の1構成例において、前記フリクション判定部は、前記ハンチング速度と前記ハンチング上下動幅との比が第2の規定値より小さい場合に、前記グランドパッキンのフリクションが弱過ぎると判定することを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明のバルブメンテナンス支援方法は、バルブに与えられた開度指令値のデータとデータの送信元のバルブのIDとを対応付けて記憶する第1のステップと、バルブの実開度値のデータとデータの送信元のバルブのIDとを対応付けて記憶する第2のステップと、前記第1のステップで記憶した開度指令値のうち同一のバルブについて略一定値を継続的に指示している定常状態の開度指令値のデータを探索し、与えられた開度指令値が前記定常状態になったバルブの実開度値で、かつ前記定常状態の開度指令値に対応する時間帯の実開度値を診断用データとして抽出する第3のステップと、前記診断用データに前記定常状態の開度指令値を挟んで略一定の周期で上下動するハンチング状態が生じているか否かを判定する第4のステップと、前記ハンチング状態が生じているバルブのグランドパッキンに不具合があるか否かを判定する第5のステップと、前記グランドパッキンに不具合ありと判定したバルブのIDを提示する第6のステップとを含むことを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明のバルブメンテナンス支援方法の1構成例において、前記第5のステップは、前記第4のステップで前記診断用データにハンチング状態が生じていると判定した場合に、ハンチング速度とハンチング上下動幅とに基づいて前記グランドパッキンのフリクションが強過ぎるか否かを判定するステップを含み、前記第6のステップは、前記グランドパッキンのフリクションが強過ぎると判定したバルブのIDを、前記グランドパッキンに不具合があるバルブのIDとして提示するステップを含むことを特徴とするものである。
また、本発明のバルブメンテナンス支援方法の1構成例において、前記第5のステップは、前記ハンチング速度と前記ハンチング上下動幅との比が第1の規定値より大きい場合に、前記グランドパッキンのフリクションが強過ぎると判定するステップを含むことを特徴とするものである。
【0015】
また、本発明のバルブメンテナンス支援方法の1構成例において、前記第5のステップは、前記第4のステップで前記診断用データにハンチング状態が生じていると判定した場合に、ハンチング速度とハンチング上下動幅とに基づいて前記グランドパッキンのフリクションが弱過ぎるか否かを判定するステップを含み、前記第6のステップは、前記グランドパッキンのフリクションが弱過ぎると判定したバルブのIDを、前記グランドパッキンに不具合があるバルブのIDとして提示するステップを含むことを特徴とするものである。
また、本発明のバルブメンテナンス支援方法の1構成例において、前記第5のステップは、前記ハンチング速度と前記ハンチング上下動幅との比が第2の規定値より小さい場合に、前記グランドパッキンのフリクションが弱過ぎると判定するステップを含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ハンチング状態が生じているバルブのグランドパッキンに不具合があるか否かを判定することにより、グランドパッキンの不具合を検知することができ、作業担当者がメンテナンス候補のバルブを選定する作業を支援することができる。その結果、本発明では、制御パラメータの設定の不適切さに起因しないバルブのハンチングに対応することができ、バルブのメンテナンスの作業効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明の第1の実施例に係るバルブメンテナンス支援装置の構成を示すブロック図である。
図2図2は、本発明の第1の実施例に係るバルブメンテナンス支援装置の動作を説明するフローチャートである。
図3図3は、本発明の第1の実施例に係るバルブメンテナンス支援装置の動作を説明するフローチャートである。
図4図4は、診断用データの略一定周期のハンチング状態の例を示す図である。
図5図5は、本発明の第2の実施例に係るプラントとその機器管理システムの構成を示す図である。
図6図6は、本発明の第1、第2の実施例に係るバルブメンテナンス支援装置を実現するコンピュータの構成例を示すブロック図である。
図7図7は、コントロールバルブの1例を示す図である。
図8図8は、プラントのタンクに使用される複数のバルブの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[発明の原理]
発明者は、グランドパッキンのフリクションが強いと、バルブのハンチング現象が発生することに加え、グランドパッキンのフリクションを弱め過ぎても、ハンチング現象が発生することを突き止めた。
【0019】
以下、グランドパッキンのフリクションに関係するハンチング現象について詳細に説明する。ここでは、バルブの各部の符号として図7の符号を用いて説明する。バルブ開度を自動調節するポジショナ102の代表的な例とも言える力平衡式ポジショナでは、感度(P動作)に関わる機構がカムやバネなどの機械部品によって構成されているため、ポジショナの感度が固定されていることになる。したがって、ポジショナ102の動作の調整作業としては、フィードバックレバー107の状態と空気出力圧Poの状態をゼロ・スパン調整で実施するなど、機械的な調整作業になる。
【0020】
ポジショナ102の調整作業は上記のような作業内容であるため、グランドパッキン109のフリクションが強い場合、開度指令値に対して弁軸104が動かない状態(スティック)が一時的に発生する。この場合、ポジショナ102は、操作器103への空気出力圧Poを上昇させることになる(逆作動弁の場合)。そして、空気出力圧Poがフリクションを超えた時に、弁軸104がスリップする。弁軸104のスリップにより、フィードバックされる開度計測値が開度指令値に対して行き過ぎると、ポジショナ102は空気出力圧Poを下降させる。そして、空気出力圧Poがフリクションを超えた時に、弁軸104がスリップしてしまう。
【0021】
このように、グランドパッキン109のフリクションが強い場合、スティックとスリップを繰り返してハンチングが発生する。したがって、グランドパッキン109のフリクションを弱めることで弁軸104のスティックをなくし、開度指令値に対して弁軸104を円滑に動かせるようになり、結果としてハンチングを取り除くことができる。すなわち、グランドパッキン109のフリクションが強いことが原因でハンチングが発生していると判定できれば、ハンチングを解決する調整をオペレータが実施できる。
【0022】
一方、例えばハンチングを解決する調整作業により、グランドパッキン109のフリクションを弱め過ぎたとする。この場合も、ポジショナ102の感度とフリクションのレベルが不一致になった状態であり、弁軸104が円滑に動き過ぎることになり、別な性質のハンチングが発生することになる。
【0023】
したがって、グランドパッキン109のフリクションを適度に強めることで、ハンチングを取り除くことができる。すなわち、グランドパッキン109のフリクションが弱いことが原因でハンチングが発生していると判定できれば、ハンチングを解決する調整をオペレータが実施できる。
【0024】
発明者は、以上のようにそれぞれのハンチングの発生のメカニズムを分析した。そして、グランドパッキン109のフリクションが強い場合と弱い場合のハンチングを識別する指標を見出した。具体的には、ハンチングの幅とハンチングの速度の関係が、識別するための指標になる。
【0025】
グランドパッキン109のフリクションが強いと弁軸104の推進力に対して静止摩擦力が強く働くため、弁軸104が動き難くなり、静止摩擦力を超えるのに必要な推進力に一旦上昇する。静止摩擦力を超えると、動摩擦力へと下降するが、上昇した推進力があるので弁軸104は急峻な動きになる。これにより、ハンチングの幅と比較してハンチングの速度(数回のハンチング上下動における最大速度)は大きめになる。
【0026】
一方、グランドパッキン109のフリクションが弱いと弁軸104が動き易くなり過ぎるので、フィードバック制御における制御対象のハイゲイン化と同様の力関係(バランス)に陥るため、滑らかな上下動のハンチングになる。これにより、ハンチングの幅と比較してハンチングの速度(数回のハンチング上下動における最大速度)は小さめになる。
【0027】
[第1の実施例]
以下、本発明の実施例について図面を参照して説明する。図1は本発明の第1の実施例に係るバルブメンテナンス支援装置の構成を示すブロック図である。以下の実施例では、説明を簡潔にするため、バルブのID(識別情報)の事例などは、実際のプラントで利用されるものよりも単純なものとする。
【0028】
バルブメンテナンス支援装置は、メンテナンスの候補となり得る複数のバルブのIDを予め記憶するバルブID記憶部1と、バルブに与えられた開度指令値とバルブの実開度値とを取得する開度取得部2と、開度指令値のデータとデータの送信元のバルブのIDとを対応付けて記憶する開度指令値記憶部3と、実開度値のデータとデータの送信元のバルブのIDとを対応付けて記憶する開度計測値記憶部4と、開度指令値記憶部3に記憶された開度指令値のうち同一のバルブについて略一定値を継続的に指示している定常状態の開度指令値のデータを探索し、与えられた開度指令値が定常状態になったバルブの実開度値で、かつ定常状態の開度指令値に対応する時間帯の実開度値を診断用データとして抽出する定常データ抽出部5と、診断用データに定常状態の開度指令値を挟んで略一定の周期で上下動するハンチング状態が生じているか否かを判定するハンチング判定部6と、ハンチング判定部6が診断用データにハンチング状態が生じていると判定した場合に、ハンチング速度とハンチング上下動幅とに基づいてグランドパッキンのフリクションが強過ぎるか否かを判定するフリクション判定部7と、ハンチング判定部6が診断用データにハンチング状態が生じていると判定した場合に、ハンチング速度とハンチング上下動幅とに基づいてグランドパッキンのフリクションが弱過ぎるか否かを判定するフリクション判定部8と、グランドパッキンのフリクションが強過ぎるまたは弱過ぎると判定されたバルブのIDを、グランドパッキンに不具合があるバルブのIDとして提示(表示)する判定結果提示部9とを備えている。
【0029】
図2図3は本実施例のバルブメンテナンス支援装置の動作を説明するフローチャートである。本実施例では、例えばプラント内にバルブが26個あるとして、これら26個のバルブにそれぞれ“A”,“B”,“C”,・・・,“M”,・・・,“X”,“Y”,“Z”という固有のIDが予め割り当てられているものとする。本実施例では、特にバルブID“A”,“C”,“M”のバルブが特定の定期プラントメンテナンスにおいて最優先のメンテナンス対象として選定されているバルブで、このID“A”,“C”,“M”がバルブID記憶部1に予め記憶されているものとする。
【0030】
各バルブに使用されているポジショナ(図7の102)は、上位装置から与えられる開度指令値SP(ステム位置指令値)とバルブの実開度値PV(ステム位置計測値)との差に応じた空気圧を操作器(図7の103)へ供給する。
【0031】
開度取得部2は、バルブID記憶部1にバルブIDが登録されているバルブについて、各バルブのポジショナから開度指令値SPと実開度値PVのデータを取得する(図2ステップS100)。
【0032】
開度取得部2は、開度指令値SPのデータとデータの送信元のバルブのIDとデータの受信時刻の情報とを対応付けて開度指令値記憶部3に格納する(図2ステップS101)。また、開度取得部2は、実開度値PVのデータとデータの送信元のバルブのIDとデータの受信時刻の情報とを対応付けて開度計測値記憶部4に格納する(図2ステップS102)。
【0033】
バルブのIDは、バルブのポジショナが開度指令値SPと実開度値PVのデータに付加して送信したバルブIDを開度取得部2で取得すればよい。時刻の情報は、バルブのポジショナ側で付加してもよいし、開度取得部2が付加してもよい。
【0034】
こうして、ステップS100~S102の処理を繰り返すことにより、開度指令値SPと実開度値PVのそれぞれの時系列データが開度指令値記憶部3、開度計測値記憶部4に蓄積される。
【0035】
次に、定常データ抽出部5は、開度指令値記憶部3に記憶された開度指令値SPのうち、同一のバルブについて略一定値を継続的に指示している定常状態の開度指令値SPのデータを探索する(図3ステップS103)。そして、定常データ抽出部5は、開度計測値記憶部4に記憶された実開度値PVのうち、与えられた開度指令値SPが定常状態になったバルブ(同一IDのバルブ)の実開度値PVで、かつ定常状態の開度指令値SPに対応する時間帯の実開度値PVを診断用データとして抽出する(図3ステップS104)。
【0036】
開度指令値SPが略一定値を継続的に指示している定常状態とは、例えば基準値SPref(例えば直近の平均値)に対して開度指令値SPがSPref±α(αは許容幅)の範囲内にある状態が所定時間Tconst以上継続することを言う。定常状態の開度指令値SPに対応する時間帯の実開度値PVとは、開度指令値SPの定常状態の開始時刻から、定常状態の終了後に所定時間Tdが経過した時刻までの実開度値PVのことを言う。開度指令値SPに対してバルブには応答の遅れがある。この応答の遅れを考慮した時間を上記の所定時間Tdとして設定すればよい。ただし、本実施例の定常状態の検出方法および診断用データの抽出方法は1例であって、他の方法を採用してもよいことは言うまでもない。
【0037】
ハンチング判定部6は、定常状態の開度指令値SPに関して抽出された診断用データに、定常状態の開度指令値SPを挟んで略一定の周期で上下動するハンチング状態が生じているか否かを判定する(図3ステップS105)。
【0038】
図4(A)、図4(B)は診断用データ(実開度値PV)の略一定周期のハンチング状態の例を示す図である。図4(A)はグランドパッキンのフリクションが強い場合のハンチングの例、図4(B)はグランドパッキンのフリクションが弱い場合のハンチングの例を示している。
【0039】
ハンチング判定部6は、診断用データが予め規定された上下動閾値を超える上下動幅で変化しているときに診断用データが上下動していると判定すればよい。また、ハンチング判定部6は、診断用データの上下動ピーク(極大・極小)間の時間変動率が予め規定された変動率閾値の範囲内のときに略一定の周期であると判定すればよい。本実施例のハンチング検出方法は1例であって、他の方法を採用してもよいことは言うまでもない。
【0040】
フリクション判定部7は、ハンチング判定部6が診断用データに略一定周期のハンチング状態が生じていると判定した場合(ステップS105においてYES)、ハンチング速度とハンチング上下動幅とに基づいてグランドパッキンのフリクションが強過ぎるか否かを判定する(図3ステップS106)。
【0041】
具体的には、フリクション判定部7は、ハンチング速度ΔH_max(ハンチング上下動で検出される診断用データの変化の最大速度)とハンチング上下動幅H(数回のハンチング上下動幅の代表値)との比ΔH_max/Hが第1の規定値T1より大きい場合に(ΔH_max/H>T1)、グランドパッキンのフリクションが強過ぎる(グランドパッキンを締め付け過ぎている)と判定する。ハンチング上下動幅(極大値と極小値との差)の代表値としては、例えば数回のハンチング上下動幅の平均値がある。
【0042】
一方、フリクション判定部8は、ハンチング判定部6が診断用データに略一定周期のハンチング状態が生じていると判定した場合(ステップS105においてYES)、ハンチング速度とハンチング上下動幅とに基づいてグランドパッキンのフリクションが弱過ぎるか否かを判定する(図3ステップS107)。
【0043】
具体的には、フリクション判定部8は、ハンチング速度ΔH_maxとハンチング上下動幅H(数回のハンチング上下動幅の代表値)との比ΔH_max/Hが第2の規定値T2(T1>T2)より小さい場合に(ΔH_max/H<T2)、グランドパッキンのフリクションが弱過ぎる(グランドパッキンを緩め過ぎている)と判定する。
【0044】
判定結果提示部9は、バルブID記憶部1にバルブIDが登録されているバルブのうち、グランドパッキンに不具合あり(フリクションが強過ぎまたは弱過ぎ)と判定されたバルブのIDを不具合の内容(強過ぎまたは弱過ぎ)と共に作業担当者に対して提示する(図3ステップS108)。
【0045】
ただし、判定結果提示部9は、バルブID記憶部1にバルブIDが登録されている全てのバルブについて、「グランドパッキンのフリクションが強過ぎる」、「グランドパッキンのフリクションが弱過ぎる」、「グランドパッキンの不具合なし」のいずれかの情報を提示(表示)するようにしてもよい。この場合、作業担当者(オペレータ)は、グランドパッキンの判定を行なった結果として不具合が無かったバルブについても、バルブIDを確認できる。
【0046】
こうして、図3のステップS100~S108の処理が定期的に行なわれる。なお、フリクション判定部7とフリクション判定部8のいずれかの処理を省略し、いずれか一方の実施した判定結果を提示(表示)するようにしてもよい。
【0047】
本実施例では、バルブのハンチング現象を監視することで、グランドパッキンの不具合を検知することができ、作業担当者がメンテナンス候補のバルブを選定する作業を支援することができる。
【0048】
[第2の実施例]
次に、本発明の第2の実施例について説明する。本実施例は、第1の実施例の実装例を説明するものである。図5はプラントとその機器管理システムの構成を示す図であり、図8と同一の構成には同一の符号を付してある。
【0049】
石油、化学系のプラントの機器管理システムには、プラントの各機器を制御・管理する管理装置10が設けられている。第1の実施例で説明したバルブID記憶部1と開度取得部2と開度指令値記憶部3と開度計測値記憶部4については、プラント固有の膨大な情報を扱うので、管理装置10に実装されることが好ましい。
【0050】
一方、定常データ抽出部5とハンチング判定部6とフリクション判定部7,8と判定結果提示部9とは、原則的にバルブのメンテナンス要否判断時のみ必要な処理を提供するものである。また、メンテナンス実施者(メンテナンス受託企業の作業担当者)は、プラントオーナ企業から委託されてプラントのメンテナンスを実施するのが一般的である。したがって、不特定多数のプラントを対象にすることを想定して、メンテナンス受託企業の作業担当者(オペレータ)が持ち歩く携帯型のコンピュータ11に、定常データ抽出部5とハンチング判定部6とフリクション判定部7,8と判定結果提示部9とを実装することが好ましい。
【0051】
プラントの管理装置10とコンピュータ11とは、メンテナンス作業実施時にイーサネット(登録商標)などの通信機能を利用して一時的に接続される。
オペレータがコンピュータ11上のアプリケーションソフトウエアを起動すると、コンピュータ11のCPU(Central Processing Unit)は、メモリに格納されたプログラムに従って処理を実行し、定常データ抽出部5とハンチング判定部6とフリクション判定部7,8と判定結果提示部9としての機能を実現する。
【0052】
判定結果提示部9は、管理装置10上のバルブID記憶部1からバルブIDを読み込むと共に、フリクション判定部7,8の判定結果を読み込み、判定結果をコンピュータ11のディスプレイに表示する(図3ステップS108)。
【0053】
オペレータは、表示されたバルブIDに基づき、特にグランドパッキンの点検に留意すべきバルブを確認する。オペレータは、表示された事項を確認した後で、コンピュータ11と管理装置10との接続を解除する。
こうして、第1の実施例で説明したバルブメンテナンス支援装置を実際のプラントに適用することができる。
【0054】
第1、第2の実施例で説明したバルブメンテナンス支援装置は、CPU、記憶装置及びインタフェースを備えたコンピュータと、これらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。このコンピュータの構成例を図6に示す。コンピュータは、CPU300と、記憶装置301と、インタフェース装置(I/F)302とを備えている。I/F302には、例えばバルブ、管理装置、ディスプレイ等が接続される。このようなコンピュータにおいて、本発明のバルブメンテナンス支援方法を実現させるためのプログラムは記憶装置301に格納される。CPU300は、記憶装置301に格納されたプログラムに従って第1、第2の実施例で説明した処理を実行する。
なお、第2の実施例に示したようにバルブメンテナンス支援装置を管理装置10とコンピュータ11に分けて実装する場合には、これらの各々を図6のような構成で実現すればよい。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、バルブメンテナンス作業を支援する技術に適用することができる。
【符号の説明】
【0056】
1…バルブID記憶部、2…開度取得部、3…開度指令値記憶部、4…開度計測値記憶部、5…定常データ抽出部、6…ハンチング判定部、7,8…フリクション判定部、9…判定結果提示部、10…管理装置、11…コンピュータ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8