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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022183667
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】ラクツロースの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07H 3/04 20060101AFI20221206BHJP
   B01J 41/05 20170101ALI20221206BHJP
   B01J 41/07 20170101ALI20221206BHJP
   B01J 45/00 20060101ALI20221206BHJP
   B01J 47/02 20170101ALI20221206BHJP
   B01J 41/10 20060101ALI20221206BHJP
   B01J 41/14 20060101ALI20221206BHJP
   A61K 31/7016 20060101ALN20221206BHJP
   A61P 1/10 20060101ALN20221206BHJP
   A61P 25/00 20060101ALN20221206BHJP
   A61P 1/16 20060101ALN20221206BHJP
【FI】
C07H3/04
B01J41/05
B01J41/07
B01J45/00
B01J47/02
B01J41/10
B01J41/14
A61K31/7016
A61P1/10
A61P25/00
A61P1/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021091107
(22)【出願日】2021-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】398045865
【氏名又は名称】室町ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100195327
【弁理士】
【氏名又は名称】森 博
(72)【発明者】
【氏名】島村 宗孝
(72)【発明者】
【氏名】田中 純奈
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸 淳一
(72)【発明者】
【氏名】出水 丈志
【テーマコード(参考)】
4C057
4C086
【Fターム(参考)】
4C057AA16
4C057BB01
4C057BB03
4C086AA02
4C086EA01
4C086ZA02
4C086ZA72
4C086ZA75
(57)【要約】
【課題】新規のラクツロースの製造方法を提供する。
【解決手段】ラクトースを異性化してラクツロースを製造する方法であって、
イオン交換体に、ラクトースの異性化触媒を固定化した触媒固定イオン交換体を準備する工程(1)と、前記触媒固定イオン交換体にラクトース溶液を接触させてラクツロースを生成する工程(2)と、を有するラクツロースの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトースを異性化してラクツロースを製造する方法であって、
イオン交換体に、ラクトースの異性化触媒を固定化した触媒固定イオン交換体を準備する工程(1)と、
前記触媒固定イオン交換体にラクトース溶液を接触させてラクツロースを生成する工程(2)と、
を有することを特徴とするラクツロースの製造方法。
【請求項2】
前記ラクトースの異性化触媒が、オキソ酸イオン及び/又は多配位ヒドロキシ金属酸イオンである請求項1に記載のラクツロースの製造方法。
【請求項3】
前記ラクトースの異性化触媒が、アルミン酸イオンである請求項2に記載のラクツロースの製造方法。
【請求項4】
使用するイオン交換体が、アニオン交換樹脂である請求項1から3のいずれかに記載のラクツロースの製造方法。
【請求項5】
工程(2)において、前記触媒固定イオン交換体を充填したカラムに、ラクトース溶液を通液させる請求項1から4のいずれかに記載のラクツロースの製造方法。
【請求項6】
ラクトース溶液を通液する前に、前記イオン交換体を充填したカラムにアルカリ水溶液を通液し、カラム内雰囲気のpHを9から13の範囲とする請求項5に記載のラクツロースの製造方法。
【請求項7】
工程(2)において、容器内にラクトース溶液と前記触媒固定イオン交換体とを入れ、溶液中のラクトースと前記触媒固定イオン交換体とを接触させる請求項1から4のいずれかに記載のラクツロースの製造方法。
【請求項8】
生成したラクツロースが吸着した前記触媒固定イオン交換体に溶離液を接触させてラクツロースを溶離させてラクツロース含有溶液を得る工程を有する請求項7に記載のラクツロースの製造方法。
【請求項9】
溶離液が、中性塩、酸またはアルカリ水溶液のいずれかである請求項8に記載のラクツロースの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラクトースを異性化してラクツロースを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ラクツロースは、ラクトースの異性化によって生成する合成二糖である。ラクツロースは、甘味料として用いられる他、肝性脳疾患、便秘等の予防改善に寄与する等の有用性が認められることから、ラクツロースの工業的な製造方法の確立が望まれている。従来のラクツロースの製造方法として、ラクトース水溶液に水酸化ナトリウム等の強アルカリ物質を加え、ラクツロースに変換する方法が知られているが、この方法では得られる糖が劣化してラクツロースの収率が低いこと、異性化触媒である強アルカリ物質が不純物として含まれる等の欠点があった。
【0003】
水酸化ナトリウム等の強アルカリ物質以外の異性化触媒を使用したラクツロースの製造方法として、例えば、特許文献1には原料ラクトースとアルミン酸ナトリウムとの混合水溶液と硫酸溶液とを反応槽に同時に入れ、これを連続的にpH4.5~8になるように中和してラクトースの異性化する工程を含むラクツロースの製造方法が開示されている。また、特許文献2には、ラクトース水溶液を低級アルキルアミン類の存在下加熱して異性化を行うラクツロースの製造方法が開示されている。また、特許文献3にはアルカリ亜リン酸塩の存在下、ラクトース水溶液を加熱して異性化を行うラクツロースの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平6-33304号公報
【特許文献2】特開昭50-29760号公報
【特許文献3】特公昭62-15078号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した従来のラクツロースの製造方法においては、ラクトース含有溶液に異性化触媒を溶解させて反応させるため、生成したラクツロース含有溶液中に残存する異性化触媒を除去することが必須となり、工程が複雑となり、コスト高の一因となっていた。
【0006】
かかる状況下、本発明は、ラクトース水溶液に異性化触媒を溶解させることを必要とせずに、高効率にラクトースからラクツロースへの異性化することができるラクツロースの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1> ラクトースを異性化してラクツロースを製造する方法であって、
イオン交換体に、ラクトースの異性化触媒を固定化した触媒固定イオン交換体を準備する工程(1)と、
前記触媒固定イオン交換体にラクトース溶液を接触させてラクツロースを生成する工程(2)と、
を有するラクツロースの製造方法。
<2> 前記ラクトースの異性化触媒が、オキソ酸イオン及び/又は多配位ヒドロキシ金属酸イオンである<1>に記載のラクツロースの製造方法。
<3> 前記ラクトースの異性化触媒が、アルミン酸イオンである<2>に記載のラクツロースの製造方法。
<4> 使用するイオン交換体が、アニオン交換樹脂である<1>から<3>のいずれかに記載のラクツロースの製造方法。
<5> 工程(2)において、前記触媒固定イオン交換体を充填したカラムに、ラクトース溶液を通液させる<1>から<4>のいずれかに記載のラクツロースの製造方法。
<6> ラクトース溶液を通液する前に、前記イオン交換体を充填したカラムにアルカリ水溶液を通液し、カラム内雰囲気のpHを9から13の範囲とする<5>に記載のラクツロースの製造方法。
<7> 工程(2)において、容器内でラクトース溶液と前記触媒固定イオン交換体とを入れ、溶液中のラクトースと前記触媒固定イオン交換体とを接触させる<1>から<4>のいずれかに記載のラクツロースの製造方法。
<8> 生成したラクツロースが吸着した前記触媒固定イオン交換体に溶離液を接触させてラクツロースを溶離させてラクツロース含有溶液を得る工程を有する<7>に記載のラクツロースの製造方法。
<9> 溶離液が、中性塩、酸またはアルカリ水溶液のいずれかである<8>に記載のラクツロースの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ラクトースの異性化触媒を固定化した触媒固定イオン交換体を使用することで、高効率にラクトースからラクツロースを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実験例2-1(カラム法、pH10)でラクトース溶液をアルミン酸形アニオン樹脂に通液した処理液について、ラクツロース、ラクトース、その他総量を分析した結果である。
図2】実験例2-1(カラム法、pH10)でラクトース溶液をアルミン酸形アニオン樹脂に通液した処理液について、処理液中に溶離したアルミニウムを分析した結果である。
図3】実験例2-2(カラム法、pH12)でラクトース溶液をアルミン酸形アニオン樹脂に通液した処理液について、ラクツロース、ラクトース、その他総量を分析した結果である。
図4】実験例2-2(カラム法、pH12)でラクトース溶液をアルミン酸形アニオン樹脂に通液した処理液について、処理液中に溶離したアルミニウムを分析した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下の例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。なお、本明細書において、「~」とはその前後の数値又は物理量を含む表現として用いるものとする。また、本明細書において、「A及び/又はB」という表現には、「Aのみ」、「Bのみ」、「A及びBの双方」が含まれる。
【0012】
本発明は、ラクトースを異性化してラクツロースを製造する方法であって、イオン交換体に、ラクトースの異性化触媒を固定化した触媒固定イオン交換体を準備する工程(1)と、前記触媒固定イオン交換体にラクトース溶液を接触させてラクツロースを生成する工程(2)と、を有するラクツロースの製造方法(以下、「本発明のラクツロースの製造方法」または単に「本発明の製造方法」と称す。)に関する。
【0013】
なお、本明細書において、「ラクトースの異性化触媒」を、単に「異性化触媒」と記載する場合がある。また、「ラクトースの異性化触媒を固定化した触媒固定イオン交換体」を本発明の触媒固定イオン交換体と称す場合がある。
【0014】
本発明のラクツロースの製造方法の特徴のひとつは、ラクトースの異性化させる工程(工程(2))において、ラクトースの異性化触媒を、イオン交換体に固定化して使用することにある。ラクトースはイオン交換体に固定化された異性化触媒によってラクツロースとなり、生成したラクツロースは、イオン交換体に吸着するか、異性化反応後の処理液に溶出する。異性化触媒はイオン交換体に固定されているため、処理液に溶出することが抑制される。
【0015】
本発明のラクツロースの製造方法では、触媒固定イオン交換体は、繰り返し使用可能である。また、工程(2)における処理液には、異性化されなかった未反応ラクトースを含むが、これを再処理することでラクツロースの転化量を増加させることができる。
【0016】
以下、本発明のラクツロースの製造方法を、工程ごとに詳細に説明する。
【0017】
<工程(1)>
工程(1)は、イオン交換体に、ラクトースの異性化触媒を固定化した触媒固定イオン交換体を準備する工程である。
本発明において、工程(1)における「触媒固定イオン交換体を準備する」には、「イオン交換体に異性化触媒を固定化させて触媒固定イオン交換体を製造すること」のみならず、「既に異性化触媒を固定化させた触媒固定イオン交換体(市販品含む)を使用すること」も含まれるものとする。
【0018】
ラクトースは、ガラクトースとグルコースがβ-1,4-グリコシド結合した二糖であり、下記式(1)で示される構造を有する。本発明のラクツロースの製造方法において、ラクトースは、一般に入手可能なものを使用することができる。
【0019】
【化1】
【0020】
ラクツロースは、ラクトースが異性化して生成するガラクトースとフルクトースがβ-1,4-グリコシド結合した二糖であり、下記式(2)で示される構造を有する。







【0021】
【化2】
【0022】
イオン交換体に吸着させるラクトース異性化触媒は、ラクトースの異性化反応に対する触媒活性を有するものであればよく、オキソ酸イオン及び/又は多配位ヒドロキシ金属酸イオンが好適である。
オキソ酸イオン及び/又は多配位ヒドロキシ金属酸イオンとして、具体的には、アルミン酸イオン、四ホウ酸イオン、ゲルマニウム酸イオン、リン酸イオン、モリブデン酸イオン、ニオブ酸イオン及びタリウム酸イオンを挙げることができる。これらは、1種または2種以上を任意の割合でイオン交換体に吸着させて固定化することができる。
【0023】
この中でも、アルミン酸イオンは、ラクトースの異性化触媒活性に優れ、異性化の際にガラクトースやフルクトース等の副生成物が生成しづらく、高効率にラクツロースを生成できるため好適である。
【0024】
本発明のラクツロースの製造方法において、イオン交換体は、固定化(吸着)させる異性化触媒に応じて、本発明の目的を損なわない範囲で、任意のイオン交換体が使用できる。例えば、強塩基性I型アニオン交換樹脂、強塩基性II型アニオン交換樹脂、弱塩基性アニオン交換樹脂、キレート樹脂、酸化鉄担持アニオン交換樹脂、酸化セリウム担持イオン交換体、活性炭、ゼオライト、アルミナ等を挙げられる。これらのイオン交換体は単独または複数を組合せて使用することができる。
【0025】
イオン交換体の中でも、アニオン交換樹脂が好ましく、ラクトース異性化活性を有するアニオンを強く吸着できることから強塩基性アニオン交換樹脂が特に好ましい。強塩基性アニオン交換樹脂には、強塩基性I型アニオン交換樹脂及び強塩基性II型アニオン交換樹脂があり、前者はトリメチルアンモニウム基を有し、後者はジメチルエタノールアンモニウム基を有するアニオン交換樹脂であり、それぞれ母体構造として、スチレン系やアクリル系などを有する樹脂である。
【0026】
イオン交換体の形状及び大きさは、本発明の目的を損なわない限り任意であり、イオン交換体の種類、固定化(吸着)させる異性化触媒の種類及び量、工程(2)における方法(バッチ法及びカラム法)、処理対象のラクロース濃度等の条件を考慮して適宜決定される。典型的には球形、円柱形、円筒形などのビーズ状の多孔質体であり、その大きさは、平均径が0.3mm~3mm程度である。
【0027】
イオン交換体は、公知の方法により調製したものや市販品をそのまま使用してもよいし、必要に応じて任意の前処理を行ったものを用いてもよい。前処理として例えば、イオン交換体に水酸化ナトリウム等のアルカリ水溶液等を通液する等が挙げられる。
【0028】
強塩基性I型アニオン交換樹脂の場合で市販品を例示すると、室町ケミカル株式会社のMuromac XMS-4613、Muromac XMS-4423、ランクセス株式会社のLewatit MonoPlus MP500、Lewatit MonoPlusMP800、三菱ケミカル株式会社のDIAION PA312、DIAION PA308、ダウデュポンのAmberLite IRA900などが挙げられる。
この中でも、実施例で開示されたMuromac XMS-4613、Muromac XMA-4423(室町ケミカル株式会社製)は好適な市販品の一例である。
【0029】
イオン交換体にラクトース異性化触媒を固定化させる方法は、イオン交換体の種類及びラクトース異性化触媒の種類や固定化させる量等の条件を考慮して適宜決定すればよい。
典型的には、ラクトース異性化触媒となるイオンの水溶液をイオン交換体に通液し固定する方法が挙げられる。
【0030】
また、触媒固定イオン交換体は、使用による活性が低下した場合も、適切な再生処理(吸着した不純物の除去処理、ラクトース異性化触媒の再固定化処理等)により繰り返し使用することもできる。
【0031】
<工程(2)>
工程(2)は、工程(1)で準備した触媒固定イオン交換体にラクトース溶液を接触させてラクツロースを生成する工程である。
【0032】
触媒固定イオン交換体にラクトース溶液を接触させる方法は特に限定されず、異性化触媒やイオン交換体の種類や処理量等を考慮して、バッチ法及びカラム法を適宜選択すればよい。ここで、「バッチ法」とは、カラム充填されていないイオン交換体に対して試料を接触させ、次いで、溶液とイオン交換体を分離する方法であり、「カラム法」とは、イオン交換樹脂を充填したカラムに対して試料を通じる方法である。
【0033】
ラクトース溶液は、通常、ラクトースの水溶液が用いられる。溶媒としては使用される水は、好ましくは純水、イオン交換水である。溶媒には本発明の目的を損なわない範囲で、アルコール等の有機溶媒を含んでいてもよい。また、ラクトース溶液は、本発明の目的を損なわない範囲で任意の成分(中性塩、酸、アルカリ成分等)を含んでいてもよい。
【0034】
ラクトース溶液のラクトース濃度は、接触させる方法(バッチ法、カラム法)、使用する異性化触媒やイオン交換体の種類や量、得られる処理液中のラクツロース濃度等を考慮して適宜決定されるが、通常、1~40%(w/v%)である。
【0035】
工程(2)において、バッチ法を採用する場合について説明する。
バッチ法では、容器内にラクトース溶液と工程(1)で準備した触媒固定イオン交換体とを入れ、溶液中のラクトースと触媒固定イオン交換体とを接触させて、ラクトースを異性化してラクツロースを生成させる。具体的には、容器内で、ラクトース溶液に触媒固定イオン交換体を添加して混合する方法、触媒固定イオン交換体にラクトース溶液を添加して混合する方法、水などの溶媒にラクトースおよび触媒固定イオン交換体を添加して混合する方法を挙げることができる。これらの混合時には、攪拌を伴うことが好ましい。
【0036】
使用する触媒固定イオン交換体の量は、異性化触媒やイオン交換体の種類や量、ラクトースの濃度によって変えることができる。また、反応温度は、異性化触媒やイオン交換体の種類や量、ラクトースの濃度にもよるが、好適には20~60℃である。
【0037】
バッチ法では、ラクトース異性化処理後の溶液(処理溶液)と触媒固定イオン交換体を固液分離して、後工程に供される。このようにバッチ法では、処理溶液とイオン交換体を分離する工程が必要となるが、簡易な設備で大量に処理できるという利点を有する。
固液分離の方法は本発明の目的を損なわない限り任意であり、例えば、濾過、遠心分離等の公知の固液分離方法を適宜選択することができる。
【0038】
バッチ法では、生成したラクツロースの一部は、触媒固定イオン交換体に吸着し、他部は未反応ラクトースと共に処理溶液に含まれる。そこで、固液分離で回収したラクツロースが吸着した触媒固定イオン交換体に、溶離液を接触させてラクツロースを溶離させてラクツロース含有溶液を得ることが好ましい。触媒固定イオン交換体と溶離液とに接触させ、ラクツロース含有溶液を得る方法としては本発明の目的を損なわない限り制限はないが、典型的には触媒固定イオン交換体と溶離液と共に適当な処理容器に入れ、触媒固定イオン交換体からラクツロースを溶離させたのちに、触媒固定イオン交換体と固液分離してラクツロース含有溶液を得る。
【0039】
溶離液は、触媒固定イオン交換体からラクツロースを溶離させ、触媒固定イオン交換体から異性化触媒を溶離させないものであればよく、水(純水)でもよいが、中性塩、酸またはアルカリ水溶液のいずれかであることが好ましい。具体的には、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウムなどの中性塩の水溶液;塩酸や硫酸などの酸性水溶液;水酸化ナトリウムやアンモニアなどのアルカリ性水溶液;を、異性化触媒やイオン交換体の種類等を考慮して適宜選択すればよい。
【0040】
触媒固定イオン交換体に溶離液を接触させる温度は、異性化触媒やイオン交換体の種類や量、ラクツロースの吸着量等にもよるが、好適には20~60℃である。
【0041】
工程(2)において、カラム法を採用する場合について説明する。
カラム法では、工程(1)で準備した触媒固定イオン交換体を充填したカラムに、ラクトース溶液を通液させて、溶液中のラクトースと触媒固定イオン交換体とを接触させて、ラクトースを異性化してラクツロースを生成させる。
【0042】
使用する触媒固定イオン交換体の量は、異性化触媒やイオン交換体の種類や量、ラクトースの濃度によって変えることができる。また、反応温度は、異性化触媒やイオン交換体の種類や量、ラクトースの濃度にもよるが、好適には20~60℃である。
【0043】
カラム法においては、ラクトース溶液を通液する前に、触媒固定イオン交換体を充填したカラムにアルカリ水溶液を通液し、カラム内雰囲気のpHを9~13(特にはpH9~11)の範囲とすることが好ましい。この処理によって、イオン交換体に固定化された異性化触媒が安定するという利点がある。
【0044】
なお、カラム内雰囲気のpHは、pHを規定した溶液を通液することで安定に維持することができる。
【0045】
アルカリ水溶液におけるアルカリ物質は、本発明の目的を損なわない限り限定されず、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)等を1種または2種以上混合して使用することができる。
【0046】
アルカリ水溶液におけるアルカリ物質の濃度やアルカリ水溶液を通液する条件は、上記カラム内雰囲気のpH範囲になるように適宜選択すればよい。
【0047】
工程(2)がカラム法の場合は、ラクトース溶液がアルカリ物質を含み、通液することによって、カラム内雰囲気のpHを9~13(特にはpH9~11)の範囲とすることが好ましい。ラクトース溶液に含ませるアルカリ物質は、上述したラクトース溶液を通液する前に用いるアルカリ水溶液と同じアルカリ物質であることが好ましい。
【0048】
ラクトース溶液を通液させる条件(ラクトース溶液濃度、流量等)は、カラムの容積、
異性化触媒やイオン交換体の種類、ラクツロースの生成量(吸着量)等を考慮して適宜選択すればよい。
【0049】
カラム法では、カラムに充填された触媒固定イオン交換体に対し、ラクトース溶液が通液するため、生成したラクツロースは触媒固定イオン交換体に吸着、保持されずに処理液と共にカラム外に排出される。そのため、ラクトース溶液を連続的に処理してラクツロースを含有する処理液を得ることができる。また、処理液に含まれる未反応ラクトース濃度が高い場合には、処理液を再度カラムに通液させてもよく、この操作によってラクツロースの転化量を増加させることができる。
【0050】
工程(2)を経て得られるラクツロースを含有する処理液(バッチ法の場合は溶離操作後処理液)は、そのまま使用してもよいが、必要に応じて公知の方法によって濃縮、希釈等によってラクツロース濃度を調整したり、処理液に含まれる不純物を除去する操作を行ってもよい。また、溶媒を留去して乾燥物とし、乾燥物をそのまま使用してもよく、精製してラクツロースを単離して使用してもよい。
【0051】
以上、本発明について説明したが、今回開示した内容はすべての点で例示であって制限的なものではない。特に、今回開示された実施形態において、明示的に開示されていない事項は、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用することができる。
【実施例0052】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下において、アニオン交換樹脂を、「アニオン樹脂」と記載する。また、実施例において示す「%」は、特に明示しない限り「w/v%」を示す。
【0053】
(実験例1):バッチ法
(実験例1―1)
工程(1):アルミン酸形アニオン樹脂製造工程
強塩基性I型ポーラス型アニオン樹脂(室町ケミカル株式会社製Muromac XMA-4613)100mLを内径29mm、長さ200mmのガラス製の円筒状カラムに充填した。
ここに、5%水酸化ナトリウム水溶液を1L以上通液し水酸基を吸着させたアニオン樹脂(OH形アニオン樹脂)を作製した。純水を十分に流し、処理水のpHが中性域であることを確認した。
このアニオン樹脂70mLをはかり取り、再度上記ガラスカラムに充填した。そこに、アルミン酸ナトリウム(富士フィルム和光純薬株式会社製)12.5gを純水500mLに溶解させた液(アルミニウムとして0.27mol/L溶液)を250mL/hrの流速で通液しアルミン酸を吸着させ、アルミン酸形アニオン樹脂を得た。
ここに純水を十分に流し、処理水のpHが中性であることを確認した。その後、このアルミン酸形アニオン樹脂を吸引濾過器にて脱水した。
【0054】
工程(2-1):バッチ法によるラクツロース異性化工程
200mL三角フラスコに純水100mL、ラクトース一水和物(富士フィルム和光純薬株式会社製)3.6gを投入して、ホットスターラー上で攪拌しながら30℃に加温した。
ここに、アルミン酸形アニオン樹脂40mLを投入し、攪拌しながら45℃に加温した。45℃到達後、温度を維持したまま3時間スターラーで攪拌を続けた。
その後、冷純水120mLを投入し反応を停止した。ろ紙で濾過し、アルミン酸形アニオン樹脂と処理液(ラクトース処理液)をそれぞれ回収した。
【0055】
工程(2-2):バッチ法によるラクツロース溶離工程
反応後のアルミン酸形アニオン樹脂35mLを200mL三角フラスコに投入した。ここに、純水100mLを投入し、2時間スターラーで攪拌を行った。ろ紙で濾過し、アルミン酸形アニオン樹脂と処理液をそれぞれ回収した。(純水溶離液)
純水溶離後のアルミン酸形アニオン樹脂35mLを200mL三角フラスコに投入した。ここに、2.5%塩化ナトリウム水溶液を100mL投入し、2時間スターラーで攪拌を行った。ろ紙で濾過し、処理液を回収した。(塩化ナトリウム溶離液)
【0056】
工程(2-1)で得られたラクトース処理液、工程(2-2)で得られた純水溶離液、塩化ナトリウム溶離液について、HPLCにてラクトースおよびラクツロースの分析を行った。
【0057】
(実験例1―2)
(実験例1―1)において、アルミン酸形アニオン樹脂に代えて、アルミン酸イオンを吸着させていないOH形アニオン樹脂を使用した以外は、(実験例1―1)と同様の処理及び評価を行った。
【0058】
(結果)
表1は、(実験例1―1)及び(実験例1-2)について、ラクトース処理液、純水溶離液、塩化ナトリウム溶離液についてラクツロース、ラクトース、その他総量を分析した結果である。値は、面積百分率で示している。表1に示されるように、アルミン酸形アニオン樹脂を使用した(実験例1―1)では、ラクトース処理液中のラクツロースは16.6%と少ないが、塩化ナトリウム溶離液中のラクツロースは49.8%であった。このことより、アルミン酸形アニオン樹脂によってラクトースは異性化されており、異性化されたラクツロースは、アルミン酸形アニオン樹脂に吸着していたことが分かる。
一方、OH形アニオン樹脂を使用した(実験例1―2)では、塩化ナトリウム溶離液中のラクツロースは8.4%であり、OH形アニオン樹脂への異性化されたラクツロースの吸着量が少ないことが分かる。
【0059】
【表1】
【0060】
(実験例2):カラム法
(実験例2-1)
工程(1):アルミン酸形アニオン樹脂製造工程
強塩基性I型ポーラス型アニオン樹脂(室町ケミカル株式会社製Muromac XMA-4423)100mLを内径29mm、長さ200mmのガラス製の円筒形カラムに充填した。ここに、5%水酸化ナトリウム水溶液を1L以上通液し水酸基を吸着させたアニオン樹脂を作製した。純水を十分に流し、処理水のpHが中性域であることを確認した。アルミン酸ナトリウム(富士フィルム和光純薬株式会社製)18.8gを純水4Lに溶解させた液(アルミニウムとして0.05mol/L溶液)を、上記アニオン樹脂を充填したカラムに1L/hrの流速で通液しアルミン酸を吸着させ、アルミン酸形アニオン樹脂を得た。ここに、pH10の水酸化ナトリウム水溶液を500mL以上通水し、カラム内をpH10に保った。
【0061】
工程(2):カラム法によるラクトース異性化工程
10%ラクトース溶液に水酸化ナトリウムを添加し、pH10となるように調製した。
アルミン酸形アニオン樹脂を充填したガラスカラムに、pH10の10%ラクトース溶液を50mL/hrの流速で上向流で通液してラクトース異性化反応を行った。なお、反応時の温度は45℃に維持した。
【0062】
処理液を100mL毎に回収し、HPLCにてラクトースおよびラクツロースの分析、ICPにてアルミニウムの分析を行った。
【0063】
(結果)
図1は、ラクトース溶液をアルミン酸形アニオン樹脂に通液した処理液について、ラクツロース、ラクトース、その他総量を分析した結果である。なお、「BV(Bed Volume)」は、充填した樹脂体積に対するラクトース溶液の通液量を示す。1BVは通液開始から100mLまでを回収した液、2BVは100mLから200mLまでを回収した液のことである。図1に示されるように、通液初期はラクトースがアルミン酸形アニオン樹脂に吸着したが、その後は35%程度がラクツロースへ異性化していることが分かる。また、その他で表されるガラクトースを含む副生成物も少ない。
【0064】
図2は、ラクトース溶液をアルミン酸形アニオン樹脂に通液した処理液について、処理液中に溶離したアルミニウムを分析した結果である。図2に示されるように、ラクトース溶液を通液してもアニオン樹脂に吸着したアルミン酸イオンは少量しか溶離していないことが分かる。アルミン酸イオンが溶離した量は、アニオン樹脂に吸着した量のおおよそ2%程度である。
この結果より、アルミン酸イオンがアニオン樹脂に保持されたまま、副反応を抑制しながらカラム内でラクトースの異性化反応が連続的に行われていることが確認できた。アルミン酸形アニオン樹脂は繰り返し使用可能であるので、転換されなかったラクトースを再処理することでラクツロースの転化量を増加することが期待できる。
【0065】
(実験例2-2)
カラム内及び10%ラクトース溶液をpH12になるように調製した以外は、(実験例2-1)と同様な操作及び評価を行った。結果を図3図4に示す。
ラクトース溶液をpH12に調製した場合、pH10の場合と比較して、その他(ガラクトースを含む分解物など)が増加し、樹脂に吸着させたアルミン酸溶離量が多くなることが認められた。
図1
図2
図3
図4