(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022183671
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】画像処理装置、画像処理方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G06T 1/00 20060101AFI20221206BHJP
G01J 3/36 20060101ALI20221206BHJP
G01N 21/27 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
G06T1/00 500A
G01J3/36
G01N21/27 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021091111
(22)【出願日】2021-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】502324066
【氏名又は名称】株式会社デンソーアイティーラボラトリ
(74)【代理人】
【識別番号】100113549
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 守
(74)【代理人】
【識別番号】100115808
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 真司
(72)【発明者】
【氏名】小澤 圭右
【テーマコード(参考)】
2G020
2G059
5B057
【Fターム(参考)】
2G020BA19
2G020CC28
2G020CC63
2G020CD24
2G020CD36
2G059AA01
2G059AA05
2G059BB08
2G059EE11
2G059FF01
2G059JJ03
2G059KK04
2G059MM01
2G059MM09
2G059MM10
5B057CA08
5B057CA16
5B057CB08
5B057CB12
5B057CB16
5B057CE05
5B057CE06
5B057CH20
5B057DA17
5B057DB09
5B057DC33
(57)【要約】 (修正有)
【課題】モザイク画像から適切に成分マップを生成することができる画像処理装置、方法及びプログラムを提供する。
【解決手段】各空間画素に異なる透過スペクトルのバンドの信号を有するモザイク画像から成分マップを生成する画像処理装置1であって、モザイク画像を取得するモザイク画像取得部10と、モザイク画像に含まれる成分スペクトルの辞書を生成する辞書生成部11と、成分スペクトルの成分マップのなめらかさを示す変数と、成分マップから復元した復元画像とモザイク画像とにおいて対応する画素との親和性を示す変数と、を有するエネルギー関数を最小にする成分マップを求めるエネルギー関数計算部12と、エネルギー関数計算部12にて求めた成分マップを出力する出力部13と、を備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
各空間画素に異なる透過スペクトルのバンドの信号を有するモザイク画像から成分マップを生成する画像処理装置であって、
前記モザイク画像を取得するモザイク画像取得部と、
前記モザイク画像に含まれる成分スペクトルの辞書を生成する辞書生成部と、
前記成分スペクトルの成分マップのなめらかさを示す変数と、前記成分マップから復元した復元画像と前記モザイク画像との親和性を示す変数と、を有するエネルギー関数を最小にする成分マップを求めるエネルギー関数計算部と、
前記エネルギー関数計算部にて求めた成分マップを出力する出力部と、
を備える画像処理装置。
【請求項2】
前記成分マップのなめらかさを示す変数として、前記成分マップのTVノルムを用いる請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記エネルギー関数は、前記成分マップの要素が0以上であることを課す変数を含む請求項1または2に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記辞書生成部は、前記モザイク画像取得部にて取得したモザイク画像を頂点成分分析(Vertex Component Analysis)して、前記モザイク画像に含まれる成分スペクトルを求める請求項1乃至3のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記モザイク画像に写る対象物の光スペクトルを別途測定する測定機器を備え、
前記辞書生成部は、前記測定機器による測定結果に基づいて成分スペクトルを生成する請求項1乃至3のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項6】
前記モザイク画像に写る対象物の特性に関するデータベースを備え、
前記辞書生成部は、前記データベースに基づいて成分スペクトルの辞書を生成する請求項1乃至3のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項7】
前記エネルギー関数は、成分スペクトルの線形和を変数として含む請求項6に記載の画像処理装置。
【請求項8】
前記エネルギー関数計算部は、前記辞書生成部にて生成した成分スペクトルを初期値として、成分マップと成分スペクトルを同時最適化する請求項1乃至7のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項9】
画像処理装置によって、各空間画素に異なる透過スペクトルのバンドの信号を有するモザイク画像から成分マップを生成する画像処理方法であって、
前記画像処理装置が、前記モザイク画像を取得するステップと、
前記画像処理装置が、前記モザイク画像に含まれる成分スペクトルの辞書を生成するステップと、
前記画像処理装置が、前記成分スペクトルの成分マップのなめらかさを示す変数と、前記成分マップから復元した復元画像と前記モザイク画像との親和性を示す変数と、を有するエネルギー関数を最小にする成分マップを求めるステップと、
前記画像処理装置が、成分マップを出力するステップと、
を備える画像処理方法。
【請求項10】
各空間画素に異なる透過スペクトルのバンドの信号を有するモザイク画像から成分マップを生成するためのプログラムであって、コンピュータに、
前記モザイク画像を取得するステップと、
前記モザイク画像に含まれる成分スペクトルの辞書を生成するステップと、
前記成分スペクトルの成分マップのなめらかさを示す変数と、前記成分マップから復元した復元画像と前記モザイク画像との親和性を示す変数と、を有するエネルギー関数を最小にする成分マップを求めるステップと、
成分マップを出力するステップと、
を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数バンドの情報を含むモザイク画像の成分マップを生成する画像処理装置の発明に関する。
【背景技術】
【0002】
物質は、固有の反射スペクトルを有する。光照射下で物質の反射スペクトルを取得する方法を総じて分光測定という。特に、画像の各画素に分光データを割り当てて撮像する測定方法を総じて、分光イメージングという。分光イメージングは、さらに、(1)プッシュブルームによる撮像、(2)レンズ前方に光透過フィルタを設置する撮像、(3)モザイクフィルタアレイを用いた撮像(特許文献1)に大別される。
【0003】
(3)モザイクフィルタアレイを用いる撮像方法は、スナップショット方式である。センサ面の各画素上に光学積層膜を施すことにより、隣接画素間で互いに異なる透過スペクトルが実現される。例えば、3×3や5×5の繰り返し構造をもつフィルタアレイでは、一つの繰り返し単位内の画素集合が一つの空間画素を表現し、3×3では9バンド、5×5では25バンドの分光情報を与える。
【0004】
スナップショット方式では、透過スペクトルの異なる複数画素からなる空間画素の分光スペクトルをワンショットで取得するので、(1)の方式における掃引や(2)の方法で必要なフィルタの付け替えまたはホイール回転機構を必要としない。このようにスナップショット方式は、機械的な頑健さや動画像取得に利点を持つ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
分光イメージングにおいて広く使われる応用手法の一つに成分マッピングがある。例えば、画像1画素内に葉と土が写り込んでいる場合、葉のスペクトルと土のスペクトルの存在割合の線形和で観測スペクトルが表されると仮定できる。このような場合、葉と土それぞれが純粋成分であり、そのスペクトルが成分スペクトルと定義される。各成分の空間分布を与える処理をマッピングと呼ぶ。成分マッピングは分光画像の波長解像度と空間解像度が十分高い場合に可能な技術である。一般的に、成分マッピングは以下の3ステップからなる。
(1)純粋成分数を指定
(2)成分スペクトルの抽出
(3)成分スペクトルの重みつき和として成分マップを推定
【0007】
分光画像の撮影方式の中でもモザイクフィルタアレイを用いた方式は、スナップショット撮像が可能であり、動画撮影などに向いている。その一方で、画素の繰り返し単位で一つの空間点と分光スペクトルを同時に表すため、ユーザにとって解釈可能なデータ構造に変換する際(以下、「画素再配列」と呼ぶ)に空間面解像度がバンド数分だけ減少する。また、一つの分光スペクトルを表現するために、本来は異なる空間点の反射率を寄せ集めるので(つまり、離れた画素を一つの画像に変換しようとするので)、正しい分光スペクトルに誤差が入り込む。
【0008】
したがって、画素再配列で得られる分光画像は空間解像度が低く、各点毎のスペクトルには撮像系由来でないノイズも含まれることになる。特に物体境界領域でテクスチャに欠損が生じたり、アーチファクトが生じる。この問題に対して種々のデモザイキング手法を適用することが考えられるが、同一の透過スペクトルを有する薄膜を施した画素間距離は一般的なRGBカメラに用いられるベイヤー配列のそれよりも大きく、さらに各薄膜の分光特性同士の相関が小さいため、ベイヤー配列用に設計されたデモザイキング手法を適用することは不適切である。
【0009】
以上の理由により、分光画像を用いた成分マッピングにおいてモザイクフィルタアレイを用いる際、以下の利点と欠点がある。
・利点:スナップショットによる動画撮影が可能。
・欠点:空間解像度が低い。画素再配列によるスペクトルへの誤差混入。
【0010】
成分マッピングを動画に適用可能にすることは技術的に重要であり、スナップショットの利点を活かすために、上記の欠点を解消する手法が求められる。
【0011】
そこで、本発明は、空間解像度の低いモザイク画像の成分マッピングを行う技術を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の画像処理装置は、各空間画素に異なる透過スペクトルのバンドの信号を有するモザイク画像から成分マップを生成する画像処理装置であって、前記モザイク画像を取得するモザイク画像取得部と、前記モザイク画像に含まれる成分スペクトルの辞書を生成する辞書生成部と、前記成分スペクトルの成分マップのなめらかさを示す変数と、前記成分マップから復元した復元画像と前記モザイク画像との親和性を示す変数と、を有するエネルギー関数を最小にする成分マップを求めるエネルギー関数計算部と、前記エネルギー関数計算部にて求めた成分マップを出力する出力部とを備える。
【0013】
このように成分マップのなめらかさを示す変数と、成分マップからの復元画像と観測されたモザイク画像との親和性を示す変数とを有するエネルギー関数を最小にする計算により、適切な成分マップが得られる。親和性を示す変数は、観測されたモザイク画像と復元画像の対応する画素の値が乖離することに対してペナルティを与える変数である。エネルギー関数に親和性を示す変数を含むことにより、観測されたモザイク画像と整合した復元画像を与える成分マップが得られる。親和性を示す変数は、例えば、観測されたモザイク画像と復元画像の対応する画素値が一致する場合には0、一致しない場合には∞をとる指示関数を用いることができる。別の例として、対応する画素の誤差(例えば、最小二乗誤差)に重みを掛ける変数を用いることもできる。なお、成分マップは成分スペクトルごとに存在し、復元画像はモザイク画像の複数のバンドのそれぞれについて求められる。
【0014】
本発明の画像処理装置は、前記成分マップのなめらかさを示す変数として、前記成分マップのTVノルムを用いてもよい。
【0015】
本発明の画像処理装置において、前記エネルギー関数は、前記成分マップの要素が0以上であることを課す変数を含んでもよい。成分マップの要素が0以上であることを課すことで、不自然な成分マップが生成される原因の一つを除去することができる。
【0016】
本発明の画像処理装置において、前記辞書生成部は、前記モザイク画像取得部にて取得したモザイク画像を頂点成分分析(Vertex Component Analysis)して、前記モザイク画像に含まれる成分スペクトルを求めてもよい。この構成により、他の測定機器を要することなく、モザイク画像に含まれる成分スペクトルの辞書を生成することができる。頂点成分分析については、J.M.B. Dias他「Vertex component analysis: a fast algorithm to unmix hyperspectral data」(IEEE Transactions on Geoscience and Remote Sensing Volume: 43, 2005年4月4日)に記載されている。
【0017】
本発明の画像処理装置は、前記モザイク画像に写る対象物の光スペクトルを別途測定する測定機器を備え、前記辞書生成部は、前記測定機器による測定結果に基づいて成分スペクトルを生成してもよい。この構成により、測定機器を用いて、対象物の成分スペクトルを求めることができ、辞書を生成できる。測定機器としては、例えば、ポイント分光器、ラインスキャナ等が挙げられる。
【0018】
本発明の画像処理装置は、前記モザイク画像に写る対象物の特性に関するデータベースを備え、前記辞書生成部は、前記データベースに基づいて成分スペクトルの辞書を生成してもよい。成分スペクトルは対象物の特性に依存するので、対象物の特性から成分スペクトルを求めることができる。この構成は、撮像対象の特性が既知の場合に有効である。なお、対象物の特性とは、撮像対象の材質や撮像中のシーン等である。
【0019】
本発明の画像処理装置において、前記エネルギー関数は、成分スペクトルの線形和を変数として含んでもよい。この構成により成分スペクトルが冗長なときに、重要性の高い少数の成分スペクトルについて成分マップを生成できる。
【0020】
本発明の画像処理装置において、前記エネルギー関数計算部は、前記辞書生成部にて生成した成分スペクトルを初期値として、成分マップと成分スペクトルを同時最適化してもよい。成分スペクトルを可変の変数として、成分マップを求める際に同時に最適化することにより、適切な成分スペクトルと成分マップを生成できる。
【0021】
本発明の画像処理方法は、画像処理装置によって、各空間画素に異なる透過スペクトルのバンドの信号を有するモザイク画像から成分マップを生成する方法であって、前記画像処理装置が、前記モザイク画像を取得するステップと、前記画像処理装置が、前記モザイク画像に含まれる成分スペクトルの辞書を生成するステップと、前記画像処理装置が、前記成分スペクトルの成分マップのなめらかさを示す変数と、前記成分マップから復元した復元画像と前記モザイク画像との親和性を示す変数と、を有するエネルギー関数を最小にする成分マップを求めるステップと、前記画像処理装置が、成分マップを出力するステップとを備える。
【0022】
本発明のプログラムは、各空間画素に異なる透過スペクトルのバンドの信号を有するモザイク画像から成分マップを生成するためのプログラムであって、コンピュータに、前記モザイク画像を取得するステップと、前記モザイク画像に含まれる成分スペクトルの辞書を生成するステップと、前記成分スペクトルの成分マップのなめらかさを示す変数と、前記成分マップから復元した復元画像と前記モザイク画像との親和性を示す変数と、を有するエネルギー関数を最小にする成分マップを求めるステップと、成分マップを出力するステップとを実行させる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、モザイク画像から適切に成分マップを生成できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図2】モザイク画像から生成される成分マップを説明するための図である。
【
図3】画像処理装置が行う処理の概要を示す図である。
【
図4】第1の実施の形態の画像処理装置の構成を示す図である。
【
図5】第1の実施の形態の画像処理装置の動作を示す図である。
【
図6】第2の実施の形態の画像処理装置の構成を示す図である。
【
図7】第3の実施の形態の画像処理装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態に係る画像処理装置について図面を参照して説明する。画像処理装置は、モザイクフィルタアレイを用いた撮像により得られたモザイク画像から成分マップを生成する。モザイク画像は、各画素が分光スペクトルの強度を表した分光画像である。実施の形態に説明に先立って、本実施の形態の画像処理装置が処理するモザイク画像と成分マップについて説明する。
【0026】
図1は、モザイク画像の例を示す図である。モザイク画像は、縦H×横Wの空間画素を有する。
図1では、各空間画素を太線で囲んで示している。モザイク画像は、
図1に示すように、空間画素が繰り返し並んだ構成を有している。
【0027】
空間画素は、複数のバンドの分光情報を有する画素の集合である。
図1に示す例では、1つの空間画素は、3×3=9のバンド(f1~f9)の分光情報を有している。1つの空間画素が有するバンド数は9バンドに限られず、例えば、4×4=16バンドでもよいし、5×5=25バンドでもよい。一般的に表記すると、空間画素はb×b=Bバンドを有する。なお、空間画素は、縦横比が1:1でなくてもよい。モザイク画像は、あるバンドに着目すると1つの空間画素につき、1つしか値を持っていない。
図1に示す例では、同じバンドのデータは3画素おきに存在し、各バンドに着目すると解像度は低い。各バンドについてみると解像度は、H×Wである。
【0028】
図2は、画像処理装置によってモザイク画像から生成する成分マップを説明するための図である。
図2の上段は、
図1で説明した空間画素数がH×Wのモザイク画像を掲載している。
図2の下段に、モザイク画像から生成した成分マップを示す。成分マップは、モザイク画像を構成する成分スペクトルごとのマップである。成分マップの成分スペクトルは、モザイク画像の純粋成分という。
【0029】
成分マップの解像度は、H×Wである。モザイク画像に含まれる成分スペクトルの辞書は、辞書生成部によって生成される。成分スペクトルを生成する方法としては、モザイク画像に対して頂点成分分析(Vertex Component Analysis)を行う方法(第1の実施の形態)、外部の測定機器を用いる方法(第2の実施の形態)、予め持っているデータベースを用いる方法(第3の実施の形態)等がある。
【0030】
図3は、本実施の形態の画像処理装置によって成分マップを生成する処理の概要を示す図である。
図3の左上の観測画像Mは、観測されたモザイク画像である。
図1を用いて説明したとおり、モザイク画像は1つの空間画素に3×3=9バンドの分光情報を有する画像である。
【0031】
図3の左下には、モザイク画像の成分マップを示している。成分マップの解像度は、H×Wである。モザイク画像に含まれる成分スペクトルに対応する数(すなわち、M個)の成分マップがある。本実施の形態で画像処理装置は、観測されたモザイク画像からこの成分マップを求める。
図3では、成分マップのそれぞれの画素値を「a」とのみ記載しているが各画素の値は異なり、例えば、成分マップA
(n)の画素値を省略せずに記載すれば、成分マップA
(n)=(a
n,1,・・・,a
n,H×W)となる。画像処理装置は、成分マップA
(1)~A
(M)から各バンド(f1~f9)の復元画像を生成する。
【0032】
図3の右下の復元先は、成分マップから復元される復元画像を示しており、復元画像はモザイク画像のバンド数だけ存在する。ここで、復元画像は、元のモザイク画像よりも高解像度である。すなわち、モザイク画像は、各バンドに着目すると解像度はH×Wであるのに対し、復元画像の解像度はH×W×Bである。
【0033】
画像処理装置1は、次式(1)に示すエネルギー関数を最小にするような成分マップA
(1)~A
(M)を求める。
【数1】
【0034】
エネルギー関数Eは、
(1)復元先の画像Xと観測されたモザイク画像Mとの親和性
(2)成分マップAの要素が非負値であること
(3)成分マップAのなめらかさ
を考慮した関数であり、エネルギー関数を最小にする成分マップA(n)=(an,1,・・・,an,H×W)(ただし、n=1,・・・,M)が求めるべき成分マップとなる。エネルギー関数の左辺は、エネルギー関数が成分スペクトルD,モザイク画像Mが与えられたときに、成分マップAを求める関数であることを示している。つまり、この例では、辞書Dを固定値として扱う。
【0035】
エネルギー関数の右辺第1項は、復元先の画像と観測されたモザイク画像との親和性を示す変数である。ここで、親和性は、復元先の画像とモザイク画像の対応する画素の値がどれだけ近いかを示す指標である。
【0036】
図3に示す復元先の画像Xにおいて網掛けした画素に対応する位置には、バンドf1の観測値が存在する。つまり、バンドf1の復元先の画像において、各空間画素の左上の画素に対応する画素については観測値がある。復元先の画像において、網掛けをした画素については観測値と同じ値が入ることが期待される。親和性を示す変数は、観測された画素値と復元先の画素値との近さを示す変数である。
【0037】
親和性を示す変数δM(X)としては、画素値が一致する場合に0、一致しない場合に∞の値をとる指示関数を用いてもよい。このようにすれば、復元画像とモザイク画像の観測値を厳密に一致させる条件を課すことができる。別の例として、親和性を示す変数δM(X)として、対応する画素の誤差(例えば、最小二乗誤差)に重みを掛ける変数を用いてもよい。
【0038】
エネルギー関数の右辺第2項は、成分マップの各要素が非負値であることを条件として課すための変数である。δ≧0(A)は、Aの要素が0以上であるときにコストが0、負値である場合に∞の値をとる指示関数である。成分マップの各要素は物理的に非負値であることが期待される。この条件を課すことで、成分マップの要素が負値をとるような不自然な結果を除外できる。
【0039】
右辺第3項は、成分マップのなめらかさを示す変数である。成分スペクトルがM個あるとすると、成分スペクトルのそれぞれに対する成分マップA
(n)は、H×Wのサイズの画像で表される。各成分マップA
(n)に対し、局所的な変動が少なくなるような条件を課す。この条件は一般に空間変動の何らかのノルム|∇A|の積分(次式(2))を小さくするものとして与えられる。
【数2】
【0040】
これは変分問題であり、一般に例えば、TV-L1ノルムを最小化する問題に帰着する。このため、右辺第2項には、成分マップのTV(Total Variation)ノルムを用いている。TVノルムは輝度の微分値のl1ノルムである。輝度変化が小さいほど、TVノルムが小さくなる。TVノルムをエネルギー関数に含めることで、隣接画素間の輝度変化が小さいなめらかな成分マップを得られる。
【0041】
画像処理装置1は、式(1)に示すエネルギー関数を最小にする成分マップA(n)を求める。これにより、適切にモザイク画像の成分マップを求めることができる。なお、成分マップを求めるときに、同時に、高解像度の復元画像が生成される。
【0042】
以上の説明では、エネルギー関数は、第1の実施の形態で用いるエネルギー関数を例に説明したが、より一般に、成分マップのなめらかさを示す変数を別の空間事前知識、例えば、2次以上の空間変動の変分問題の最小化としてもよい。これをR(X)と書くと、エネルギー関数は次式(3)のように表せる。
【数3】
以上、本実施の形態の画像処理装置の処理の概要について説明した。
【0043】
(第1の実施の形態)
図4は、第1の実施の形態の画像処理装置1の構成を示す図である。第1の実施の形態の画像処理装置1は、分光カメラ20による撮影で得られたモザイク画像のデータの入力を受け付け、入力されたモザイク画像から成分マップを生成する機能を有している。分光カメラ20は、イメージセンサ上に、モザイク状に配列した分光フィルタを搭載したカメラである。
【0044】
図4に示すように、画像処理装置1は、モザイク画像取得部10と、辞書生成部11と、エネルギー関数計算部12と、出力部13とを有している。モザイク画像取得部10は、分光カメラ20から送信されるモザイク画像のデータを取得する機能を有する。辞書生成部11は、モザイク画像を頂点成分分析して、モザイク画像に含まれる成分スペクトルを求める。辞書生成部11は求めた成分スペクトルをモザイク画像の純粋成分とし、成分スペクトルの辞書Dとする。本実施の形態では、辞書生成部11で生成した辞書Dを固定値として扱う。つまり、辞書Dの成分スペクトルが真であることを前提として計算を行う。
【0045】
エネルギー関数計算部12は、成分スペクトルと成分マップを用いて、H×W×Bの高解像度の復元画像を推定する。エネルギー関数計算部12が復元画像を計算するのは、観測されたモザイク画像との親和性の変数を求めるためである。
【0046】
成分スペクトルの辞書D∈RB×Mと成分マップを結合したテンソルA∈RH×W×Mがあるとする。ここで、成分方向(3つめの軸)でテンソルをスライスしたA(n)=A(:,:,n) ∈RH×Wは成分nの成分マップである。復元された高解像度分光画像X∈RH×W×BはX=A×3Dによって計算できる。ここで「×3」は波長軸(3番目の次元)に沿う行列ベクトル積を表す。
【0047】
ここでA×3Dの(i,j,k)要素は、aij=A(i,j,:)∈RMとして、Daij∈RBで与えられる。この復元においてはX=A×3Dを返す。例としてB=9,M=2で、Dが(葉のスペクトル、土のスペクトル)∈R(9×2)であるとする。このとき、m=1,2がそれぞれ葉と土に対応し、画素(i,j)に葉が0.4と土が0.6の割合で含まれていたとすれば、aijは(0.4×葉のスペクトル)+(0.6×土のスペクトル)と計算できる。
【0048】
エネルギー関数計算部12は、最適化計算により、式(1)に示すエネルギー関数を最小にする成分マップA(n)を求める。出力部13は、エネルギー関数計算部12にて求めた復元画像を出力する。
【0049】
図5は、画像処理装置1の動作を示すフローチャートである。画像処理装置1は、分光カメラ20からモザイク画像を取得し(S10)、取得したモザイク画像に対して頂点成分分析を行い、モザイク画像の成分スペクトルを求め、モザイク画像が含む成分スペクトルの辞書Dを生成する(S11)。
【0050】
画像処理装置1は、復元先の画像Xと観測されたモザイク画像との親和性を示す変数と、成分マップの要素が非負値であることを課す変数と、成分マップのなめらかさを示す変数とを含む式(1)のエネルギー関数を生成し、エネルギー関数を最小にする復元画像を求める(S13)。画像処理装置1は求めた成分マップを出力する。なお、画像処理装置1は、成分マップを求める過程で得られた高解像度の復元画像を出力してもよい。
【0051】
以上、第1の実施の形態の画像処理装置1について説明したが、上記した画像処理装置1のハードウェアの例は、CPU、RAM、ROM、ハードディスク、ディスプレイ、キーボード、マウス、通信インターフェース等を備えたコンピュータである。上記した各機能を実現するモジュールを有するプログラムをRAMまたはROMに格納しておき、CPUによって当該プログラムを実行することによって、上記した画像処理装置1が実現される。このようなプログラムも本発明の範囲に含まれる。
【0052】
本実施の形態の画像処理装置1は、モザイク画像に含まれる成分スペクトルの辞書を生成し、式(1)で示すエネルギー関数を最小にする成分マップを求めることで、モザイク画像の成分マップを適切に求めることができる。
【0053】
本実施の形態の画像処理装置1は、純粋成分スペクトルの辞書を活用し、成分マップの滑らかさ、つまり空間変動が小さいという事前知識に基づき高解像成分マップを推定することができる。また、純粋成分スペクトルの辞書は撮影したスナップショットデータ自身から取得することもできる利便性も備えている。スナップショット撮影で得られる分光モザイク画像は分光画像のテンソル構造としては1/Bサンプリングのスパースデータであり、画素間相関に乏しく、高解像な成分マッピングが困難である。本実施の形態の画像処理装置1は、純粋成分スペクトルの線形和で張られるベクトル空間上で、成分マップの空間変動(1次または高次の微分の変分問題として)が滑らかであることを課した最適化を行うことで、スナップショットだけで、高解像な成分マップの生成を可能にする。
【0054】
さらに、スナップショット撮影方式は動画撮影も可能であり、時間変化する成分マップの推定も可能であると期待される。また、スナップショット撮影を人の目に解釈可能な形態に変換する際、詳細な空間情報(テクスチャなど)が取得波長数の平方根で欠落するが、本実施の形態によれば、装置が出力する成分マップではセンサ解像度が保たれる。
【0055】
(第2の実施の形態)
図6は、第2の実施の形態の画像処理装置2の構成を示す図である。第2の実施の形態においては、対象物体からの光線をハーフミラー21で分岐し、分光カメラ20でモザイク画像を撮影すると共に、ポイント分光器またはラインスキャナ等の測定機器22によって分光スペクトルを測定する。
【0056】
第2の実施の形態の画像処理装置2は、モザイク画像のデータを取得すると共に、測定機器22から分光スペクトルのデータを取得する。第2の実施の形態の画像処理装置2の基本的な構成は、第1の実施の形態の画像処理装置1と同じであるが、辞書生成部11による成分スペクトルの求め方が異なる。第2の実施の形態の画像処理装置2は、測定機器22から取得した分光スペクトルのデータを用いて、モザイク画像の成分スペクトルの辞書を求める。
【0057】
第2の実施の形態の画像処理装置2は、測定機器22によって別途測定した分光スペクトルのデータを用いて成分スペクトルを求めるので、直接的に成分スペクトルを求めることができる。
【0058】
(第3の実施の形態)
図7は、第3の実施の形態の画像処理装置3の構成を示す図である。第3の実施の形態の画像処理装置3は、撮影対象の特性を予め記憶した特性データ記憶部14を有している。例えば、撮影対象の画像が森林の衛星写真であるといった情報でもよいし、対象物の材質等の情報でもよい。辞書生成部11は、特性データ記憶部14から撮影対象の特性データを読み出し、読み出した特性データに基づいて撮影対象の成分スペクトルの辞書を生成する。例えば、撮影対象が森林の衛星写真の場合、成分スペクトルとしては森林の色である「緑」、土の色である「茶色」、湖や川や海の色である「青」を純粋成分とし、成分スペクトルの辞書を生成する。なお、特性データ記憶部14には、複数の対象物の特性データを記憶しておき、ユーザに特性データを選択させることとしてもよい。
【0059】
第3の実施の形態の画像処理装置3は、モザイク画像から成分スペクトルを生成する処理に代えて、特性データ記憶部14から読み出した特性データに基づいて成分スペクトルの辞書を生成する。エネルギー関数計算部12は、生成した成分スペクトルを用いてエネルギー関数を最小にする成分マップを求める。
【0060】
第3の実施の形態の画像処理装置3は、予め保有している撮影対象に関する特性データを用いるので、辞書データを生成する処理を容易にすることができる。
【0061】
(第4の実施の形態)
次に、第4の実施の形態の画像処理装置について説明する。第4の実施の形態の画像処理装置の基本的な構成は、第3の実施の形態の画像処理装置3と同じである(
図7参照)。
【0062】
第4の実施の形態の画像処理装置では、エネルギー関数計算部12にて用いるエネルギー関数が、成分スペクトルのスパース性を示す変数S(A)を含む点が異なる。第4の実施の形態の画像処理装置が用いるエネルギー関数は、次式(4)のように表される。
【0063】
【0064】
成分の数そのものを扱う場合には、S(A)としてAのL0ノルム(Aの非ゼロ要素の総数)が用いればよいが、エネルギー関数の最適化を行うために凸最適化の方法を使うためには凸関数を使う必要がある。本実施の形態では、一般的にAのL1ノルム(Aの要素の絶対値の総和)を用いる。L1ノルムはL0ノルムに近い性質を持ちつつ凸であるため、本実施の形態の構成により、成分スペクトルをスパースにしながら凸最適化の枠組みで計算を行うことができる。なお、S(A)に対する乗数μは、スパース性を要求する度合いを調整する重みパラメータである。
【0065】
画像処理装置は、辞書データから読み出した成分スペクトルを初期値として、エネルギー関数を最小にする最適化計算を行う。これにより、成分スペクトルがスパースになるように成分マップを求めることができる。本実施の形態によれば、観察されたモザイク画像に対して、特性データ記憶部に記憶されている成分スペクトルが冗長で真の成分数より多い場合、成分スペクトルの数を減らして真の純粋成分に基づく成分マップを生成することができる。
【0066】
本実施の形態では、特性データ記憶部14を備えた第3の実施の形態の画像処理装置3に対して、成分スペクトルのスパース性を示す変数を含むエネルギー関数を適用した例を挙げて説明したが、第1の実施の形態または第2の実施の形態の画像処理装置において、成分スペクトルのスパース性を示す変数を含むエネルギー関数を適用してもよい。
【0067】
(第5の実施の形態)
次に、第5の実施の形態の画像処理装置について説明する。第5の実施の形態の画像処理装置の基本的な構成は、第1の実施の形態の画像処理装置1と同じである。第5の実施の形態の画像処理装置においては、エネルギー関数計算部12は、複数のバンドの復元画像を求めると同時に成分スペクトルの最適化を行う。
【0068】
第5の実施の形態において用いるエネルギー関数は次式(5)で表される。なお、次式は、成分マップのなめらかさを一般的に示している。
【数5】
【0069】
上式(5)の左辺は、式(1)の場合と異なり、エネルギー関数がモザイク画像Mに対して、成分マップA及び成分スペクトルの辞書Dを求める関数であることを示している。このように、本実施の形態では、分光スペクトルの辞書Dは、辞書生成部11にて生成された成分スペクトルを固定値として扱うのではなく、成分スペクトル自体をも調整して、エネルギー関数を最小にする。本実施の形態においては、辞書生成部11にて生成された成分スペクトルを初期値として用いる。
【0070】
このように成分スペクトルの辞書Dの最適化も行うことにより、成分スペクトルを固定した場合よりも、成分マップの精度を向上できる可能性がある。
【0071】
本実施の形態では、第1の実施の形態の画像処理装置1において、成分マップと成分スペクトルの同時最適化を行う例を挙げて説明したが、第2の実施の形態または第3の実施の形態の画像処理装置において、成分スペクトルと成分マップの同時最適化を行ってもよい。
【0072】
以上、本発明の画像処理装置について実施の形態を挙げて詳細に説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。エネルギー関数には、復元画像のなめらかさを示す変数を加えてもよい。これにより、自然界で撮影される画像は境界部分等の一部を除けば輝度の変化がなめらかであるので、復元画像のなめらかさを考慮することで、適切な成分マップを求めることができる。また、その際に、復元画像のなめらかさを示す変数として、TVノルムを用いてもよいし、単純に、輝度の微分値の和を取るのではなく、勾配の大きさが小さい(つまり、エッジが走らない)方向に対して和をとってもよい。これは異方性勾配フィルタの考え方を用いたなめらかさの評価である。例えば、ノイズによって周辺とは大きく輝度が異なる画素があった場合でも、微分値が小さくなるためには周辺の輝度に近づける必要があるため、エッジが走らない方向において画像がなめらかになる。一方で、エッジが走る方向については、微分値の和を評価しないので、エッジが鈍ることがない。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、複数バンドの情報を含むモザイク画像から成分マップを生成する装置として有用である。
【符号の説明】
【0074】
1~3 画像処理装置
10 モザイク画像取得部
11 辞書生成部
12 エネルギー関数計算部
13 出力部
20 分光カメラ
21 ハーフミラー
22 測定機器