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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022018369
(43)【公開日】2022-01-27
(54)【発明の名称】積層シート及び包装体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/36 20060101AFI20220120BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20220120BHJP
【FI】
B32B27/36
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020121437
(22)【出願日】2020-07-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100186761
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 勇太
(72)【発明者】
【氏名】青木 和美
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
【Fターム(参考)】
3E086AA23
3E086AB01
3E086AD01
3E086BA14
3E086BA15
3E086BA25
3E086BA33
3E086BA35
3E086BB02
3E086BB05
3E086BB21
3E086BB61
3E086BB62
3E086BB71
3E086CA01
3E086CA28
3E086CA29
3E086CA34
3E086CA35
3E086CA40
4F100AA20C
4F100AK01B
4F100AK04B
4F100AK04J
4F100AK25B
4F100AK25J
4F100AK41A
4F100AK41D
4F100AK41E
4F100AK42C
4F100AK71B
4F100AL01B
4F100AT00C
4F100BA03
4F100BA04
4F100BA05
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100DG10C
4F100EH232
4F100EH23A
4F100EH23B
4F100EH66C
4F100EJ37C
4F100GB15
4F100JA04A
4F100JA05A
4F100JA11A
4F100JA11E
4F100JA12D
4F100JD01C
4F100JL12A
4F100JL12B
4F100JL12D
4F100JL12E
4F100YY00A
(57)【要約】      (修正有)
【課題】脂肪酸エステル系香気成分の吸着を良好に抑制可能であって、安定した品質のシーラント層を具備可能な積層シートの提供。
【解決手段】シート形状を有する基材2と、基材2上に設けられるシーラント層3を備え、シーラント層3は、結晶性ポリエステルを含む第1樹脂層15、並びに、第1樹脂層15と基材2との間に位置すると共にポリエステルを含まない第2樹脂層16を有し、第2樹脂層16は、基材2と第1樹脂層15に接合し、結晶性ポリエステルの結晶化温度は、120~150℃である積層シート1。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート形状を有する基材と、
基材上に設けられるシーラント層と、を備え、
シーラント層は、結晶性ポリエステルを含む第1樹脂層、並びに、前記第1樹脂層と前記基材との間に位置すると共にポリエステルを含まない第2樹脂層を有し、
前記第2樹脂層は、前記基材と前記第1樹脂層とに接合し、
前記結晶性ポリエステルの結晶化温度は、120℃以上150℃以下である、
積層シート。
【請求項2】
前記結晶性ポリエステルのガラス転移温度は、70℃以上80℃以下である、請求項1に記載の積層シート。
【請求項3】
前記結晶性ポリエステルの融解温度は、210℃以上240℃以下である、請求項1又は2に記載の積層シート。
【請求項4】
前記第1樹脂層は、前記結晶性ポリエステルを含む第1層、並びに、前記第2樹脂層と前記第1層との間に位置する第2層を有し、
前記第2層は、前記結晶性ポリエステルよりも低い結晶化度のポリエステルを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の積層シート。
【請求項5】
前記第2層に含まれる前記ポリエステルは、非晶性ポリエステルである、請求項4に記載の積層シート。
【請求項6】
前記第1樹脂層は、前記第1層と前記第2層との間に位置する第3層をさらに有し、
前記第3層は、前記結晶性ポリエステルよりも低い結晶化度のポリエステルを含む、請求項4又は5に記載の積層シート。
【請求項7】
前記第3層に含まれる前記ポリエステルの結晶化度は、前記第2層に含まれる前記ポリエステルの結晶化度よりも高い、請求項6に記載の積層シート。
【請求項8】
前記基材は、紙製の支持層、並びに、前記支持層と前記シーラント層との間に位置するバリア層を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の積層シート。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の積層シートを備える包装体であって、
前記包装体の最内層は、前記シーラント層の前記第1樹脂層によって構成され、
前記第1樹脂層の第1部分と、前記第1樹脂層の第2部分とは、互いに接着している、包装体。
【請求項10】
前記第1樹脂層の厚さは、20μm以上40μm以下であり、前記第1部分と前記第2部分との平均接着強度は、20N/15mm以上である、請求項9に記載の包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層シート及び包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
液体、レトルト食品等の内容物を充填及び密封する容器として、例えば下記特許文献1に開示される包装袋が開示される。当該包装袋は、無機酸化物の蒸着膜を設けたポリエステルフィルムである基材層及び中間層と、ポリオレフィンフィルムであるシーラント層とからなる積層体から構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-178357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
容器に収容される飲食物は、香気成分を含むことがある。香気成分の一例として、脂肪酸エステル系香気成分が挙げられる。脂肪酸エステル系香気成分は、ポリオレフィン(特に、ポリエチレン)に吸着されやすい。このため、例えば上記特許文献1に開示される包装袋に、脂肪酸エステル系香気成分を一種類もしくは多種類含む内容物が収容される場合、当該内容物に含まれる脂肪酸エステル系香気成分の大部分もしくは全ては、上記包装袋のポリオレフィンフィルムに吸着されてしまう。これにより、包装された内容物の香りが著しく劣化してしまうことがある。
【0005】
このような問題を抑制するため、例えば、シーラント層として結晶性ポリエステルフィルムを用いることが挙げられる。しかしながら、結晶性ポリエステルフィルムのシール性は悪い傾向にある。このため、単に結晶性ポリエステルフィルムをシーラント層とした場合、当該シーラント層の封止不良等が発生しやすくなるおそれがある。すなわち、単にシーラント層として結晶性ポリエステルフィルムを用いる場合、当該シーラント層の品質がばらつく傾向にある。
【0006】
本発明の一側面の目的は、脂肪酸エステル系香気成分の吸着を良好に抑制可能であって、安定した品質のシーラント層を具備可能な積層シート、及び当該積層シートを備える包装体の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面に係る積層シートは、シート形状を有する基材と、基材上に設けられるシーラント層と、を備える。シーラント層は、結晶性ポリエステルを含む第1樹脂層、並びに、第1樹脂層と基材との間に位置すると共にポリエステルを含まない第2樹脂層を有し、第2樹脂層は、基材と第1樹脂層とに接合し、結晶性ポリエステルの結晶化温度は、120℃以上150℃以下である。
【0008】
結晶性ポリエステルのガラス転移温度は、70℃以上80℃以下でもよい。
【0009】
結晶性ポリエステルの融解温度は、210℃以上240℃以下でもよい。
【0010】
第1樹脂層は、結晶性ポリエステルを含む第1層、並びに、第2樹脂層と第1層との間に位置する第2層を有し、第2層は、結晶性ポリエステルよりも低い結晶化度のポリエステルを含んでもよい。また、第2層に含まれるポリエステルは、非晶性ポリエステルでもよい。
【0011】
第1樹脂層は、第1層と第2層との間に位置する第3層をさらに有し、第3層は、結晶性ポリエステルよりも低い結晶化度のポリエステルを含んでもよい。また、第3層に含まれるポリエステルの結晶化度は、第2層に含まれるポリエステルの結晶化度よりも高くてもよい。
【0012】
基材は、紙製の支持層、並びに、支持層とシーラント層との間に位置するバリア層を有してもよい。
【0013】
本発明の別の一側面に係る包装体は、上記積層シートを備えており、当該包装体の最内層は、シーラント層の第1樹脂層によって構成され、第1樹脂層の第1部分と、第1樹脂層の第2部分とは、互いに接着している。
【0014】
第1樹脂層の厚さは、20μm以上40μm以下であり、第1部分と第2部分との平均接着強度は、20N/15mm以上でもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一側面によれば、脂肪酸エステル系香気成分の吸着を良好に抑制可能であって、安定した品質のシーラント層を具備可能な積層シート、及び当該積層シートを備える包装体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、実施形態に係る積層シートの要部拡大断面図である。
図2図2は、包装体の概略平面図である。
図3図3は、図2のIII-III線に沿った断面図である。
図4図4は、第1変形例に係る積層シートの要部拡大断面図である。
図5図5(a)は第2変形例に係る積層シートの第1樹脂層の概略断面図であり、図5(b)は第3変形例に係る積層シートの第1樹脂層の概略断面図である。
図6図6は、ヒートシール温度と平均接着強度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して、本発明の一側面の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0018】
<積層シート>
図1を参照しながら、本実施形態に係る積層シートについて説明する。図1は、積層シートの要部拡大断面図である。図1に示される積層シート1は、例えば飲食物、医薬品、化粧品、化学品、電子機器、工具、文房具等の被包装物を包装するための部材であり、可撓性を示す。積層シート1は、複数の層状部材及び/又は膜状部材の積層体である。積層シート1は、固体、液体等を包装するための包装体として用いられてもよい。積層シート1が包装体として用いられる場合、当該包装体は、積層シート1のみによって構成されてもよいし、積層シート1及び接着剤等によって構成されてもよい。積層シート1は、積層フィルムとも呼称できる。本明細書では、「層」、「膜」、「フィルム」、「シート」、及び「箔」は、同一もしくは略同一の意味で用いられることである。
【0019】
積層シート1は、要求される性能(例えば、吸着性、ガスバリア性、遮光性、耐水性、耐温湿性、機械的強度、印刷容易性、印刷適性、装飾容易性等)を備え得る。吸着性は、例えば積層シート1にて包まれた物体から発生する物質、空気中に含まれる物質等を吸着する性能を意味する。ガスバリア性は、酸素、水蒸気等のガス透過を防止または抑制する性能を意味する。耐水性は、包装体が濡れたときの強度低下率によって評価される。印刷適性は、印刷された部分のピンホール、虫食い等の数によって評価される。例えば、印刷適性が高いほど印刷された部分におけるピンホール等の数が少ないので、当該部分の発色性が高い傾向にある。積層シート1は、シート形状を有する基材2と、基材2上に設けられるシーラント層3とを備える。
【0020】
基材2は、積層シート1におけるベースシートであり、紙製の支持層11と、第1コート層12と、第2コート層13と、バリア層14とを有する。
【0021】
支持層11は、抄紙された紙から形成される層状部材であり、第1コート層12と、第2コート層13と、バリア層14と、シーラント層3とを支持する。支持層11は、主面11a,11bを有する。主面11a,11bは、支持層11の厚さ方向に対して交差する面である。積層シート1から包装体が形成される場合、主面11aは包装体の外表面側に位置する一方面となり、主面11bは包装体の内表面側に位置する他方面となる。支持層11を構成する紙は、例えば上質紙、特殊上質紙、コート紙、アート紙、キャストコート紙、和紙、模造紙、クラフト紙等である。本実施形態では、支持層11は、晒クラフト紙であるが、これに限られない。支持層11は、例えば、未晒クラフト紙でもよい。包装体の外表面における美粧性の観点から、支持層11は、雲龍紙でもよいし、混抄紙でもよい。支持層11は、単層構造を有してもよいし、積層構造を有してもよい。
【0022】
支持層11の坪量は、例えば200g/m以上500g/m以下であり、可撓性を示す。支持層11の坪量の下限値は、例えば200g/mでもよいし、250g/mでもよいし、280g/mでもよいし、300g/mでもよいし、320g/mでもよいし、360g/mでもよい。この場合、積層シート1の一部と他部との貼り合わせ加工を良好に実施できる。また、支持層11の坪量の上限値は、例えば450g/mでもよいし、400g/mでもよいし、360g/mでもよいし、320g/mでもよいし、300g/mでもよい。この場合、積層シート1の一部と他部との境界が良好に加熱される。
【0023】
第1コート層12は、支持層11の耐水性等を向上するための層であり、主面11aの全体をコーティングする。積層シート1において、第1コート層12は、支持層11を介してシーラント層3の反対側に位置する。積層シート1から包装体が形成されたとき、第1コート層12は、支持層11よりも外側に位置する。第1コート層12の厚さは、例えば20μm以上40μm以下である。第1コート層12の厚さが20μm以上であることによって、支持層11に形成される凹凸を埋めることができる。このため、第1コート層12の外表面を平滑面にできる。また、第1コート層12の厚さが40μm以下であることによって、第1コート層12が割れにくくなる。第1コート層12の厚さの下限値は、例えば25μmでもよいし、30μmでもよい。第1コート層12の厚さの上限値は、例えば35μmでもよいし、30μmでもよい。
【0024】
第1コート層12は、例えばポリオレフィンフィルムである。ポリオレフィンフィルムは、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンを主材料として形成されるフィルムである。本実施形態では、第1コート層12は、ポリエチレンを主材料として形成される。第1コート層12は、例えば、低密度ポリエチレン樹脂(LDPE)、中密度ポリエチレン樹脂(MDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(LLDPE)等によって形成される。耐水性、寸法安定性等の観点から、第1コート層12は延伸フィルムであるが、これに限られない。第1コート層12は、非延伸フィルムでもよい。第1コート層12の延伸方法は、特に限定されない。第1コート層12には、添加剤等が含まれてもよい。第1コート層12上には、インキなどが塗布されてもよい。
【0025】
第2コート層13は、支持層11の耐水性等を向上するための層であり、主面11bの全体をコーティングする。積層シート1において、第2コート層13は、支持層11とシーラント層3との間に位置する。積層シート1から包装体が形成されたとき、第2コート層13は、支持層11よりも内側に位置する。第2コート層13の厚さは、第1コート層12の厚さと同様に、例えば15μm以上40μm以下である。本実施形態では、第2コート層13は、第1コート層12と同様に、ポリエチレンを主材料として形成される。
【0026】
バリア層14は、例えばガスバリア性を示す層であり、第2コート層13上に位置する。バリア層14は、第2コート層13において支持層11から露出する部分をコーティングする。積層シート1において、バリア層14は、支持層11とシーラント層3との間に位置する。バリア層14は、例えば1又は複数の樹脂フィルムから構成される。樹脂フィルムは、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)等から構成される。当該樹脂フィルムには、例えば、アルミニウム、アルミナ、又はシリカ等が蒸着される。これにより、バリア層14が良好なガスバリア性を発揮できる。もしくは、樹脂フィルムは、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリビニルアルコール(PVA)等から構成されてもよい。この場合、シリカ等が蒸着されなくても、バリア層14は、ガスバリア性等を発揮可能である。バリア層14は、ポリエチレン等から構成される樹脂フィルムと、PVDC等から構成される樹脂フィルムとを含んでもよい。バリア層14の厚さは、例えば9μm以上25μm以下である。
【0027】
シーラント層3は、積層シート1においてヒートシールによる封止性を付与する層であり、バリア層14上に位置する。シーラント層3は、バリア層14において第2コート層13から露出する部分をコーティングする。積層シート1から包装体が形成される場合、シーラント層3は当該包装体の最内層になる。このため当該包装体において、シーラント層3は、積層シート1において被包装物に接する部材である。シーラント層3の厚さは、例えば40μm以上100μm以下である。シーラント層3の厚さが40μm以上であることによって、シーラント層3は、良好なヒートシール性を示し得る。シーラント層3は、第1樹脂層15、並びに、第1樹脂層15と基材2との間に位置する第2樹脂層16を有する。
【0028】
第1樹脂層15は、シーラント層3における露出層であり、ヒートシールによる封止性を発揮する。第1樹脂層15は、結晶性ポリエステルを含んでおり、例えば脂肪酸エステル系香気成分等に対する低吸着性を示す。第1樹脂層15は、結晶性ポリエステルフィルムからなってもよい。第1樹脂層15は、延伸フィルムでもよいし、非延伸フィルムでもよい。第1樹脂層15は、例えばTダイ法、インフレーション法等の押出し成形法によって形成される。
【0029】
第1樹脂層15の厚さは、例えば20μm以上80μm以下である。第1樹脂層15の厚さが20μm以上であることによって、第1樹脂層15が良好なヒートシール性を発揮できる。第1樹脂層15の厚さの下限値は、例えば30μmでもよいし、40μmでもよい。また、第1樹脂層15の厚さが80μm以下であることによって、第1樹脂層15は、脂肪酸エステル系香気成分等に対する低吸着性を良好に発揮できる。また、第1樹脂層15の厚さの上限値は、例えば60μmでもよいし、50μmでもよいし、40μmでもよい。
【0030】
第1樹脂層15の一部と他部とを、ヒートシール温度190℃、圧力0.2MPaの条件下で1秒間ヒートシールしたとき、上記一部と上記他部との平均接着強度は、例えば13N/15mm以上である。この場合、上記一部と上記他部とが良好に融着される。平均接着強度が13N/15mm以上であるとき、例えば積層シート1から形成される包装体の耐圧性及び耐衝撃性を確保しやすい。この観点から、平均接着強度は15N/15mm以上でもよいし、20N/15mm以上でもよいし、25N/15mm以上でもよいし、30N/15mm以上でもよい。なお、上記平均接着強度は、JIS K 7127:1999に準拠して測定される。
【0031】
第1樹脂層15に含まれる結晶性ポリエステルの結晶化温度は、例えば120℃以上150℃以下である。この場合、第1樹脂層15は、脂肪酸エステル系香気成分に対して良好な低吸着性を示すことができる。特に第1樹脂層15は、脂肪酸エステル系香気成分の一種であるカプリン酸エチルに対して良好な低吸着性を示すことができる。また、結晶性ポリエステルのガラス転移温度は70℃以上80℃以下であり、当該結晶性ポリエステルの融解温度は210℃以上240℃以下である。結晶性ポリエステルの結晶化温度、ガラス転移温度、及び融解温度のそれぞれは、例えば、測定温度20~300℃、昇温速度5℃/分の条件にて示差走査熱量(DSC)測定を実施することによって決定できる。
【0032】
結晶性ポリエステルは、例えば、ジオール類とジカルボン酸とを縮重合させることによって生成できる。結晶性ポリエステルとして、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート等が用いられ得る。ジオール類は、例えば脂肪族ジオール等である。脂肪族ジオールの具体例として、エチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4-ブタンジオール等の化合物が挙げられる。結晶性ポリエステルを生成するとき、ジオール類は、上述した化合物を単独で用いてもよいし、2種類以上の化合物を組み合わせて用いてもよい。ジカルボン酸は、例えば、芳香族ジカルボン酸等である。芳香族ジカルボン酸の具体例として、イソフタル酸、テレフタル酸、これらの酸の無水物又は低級アルキルエステル等の化合物が挙げられる。結晶性ポリエステルを生成するとき、ジカルボン酸は、上述した化合物を単独で用いてもよいし、2種類以上の化合物を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
結晶性ポリエステルの結晶化度は、例えば10%以上である。第1樹脂層15に含まれる結晶性ポリエステルの結晶化度は、例えば、X線回折法を利用することによって得られる。この場合、まず、X線源としてCuKα線を用い、結晶性ポリエステルのサンプルフィルムのX線回折スペクトルを測定する。当該X線回折スペクトルの測定結果に含まれる結晶部の回折強度及び全散乱強度から、質量分率結晶化度として算出する。
【0034】
第1樹脂層15には、結晶性ポリエステルに加えて、難燃剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、酸化防止剤、光安定剤、粘着付与剤等の各種添加材が添加されてもよい。
【0035】
第2樹脂層16は、基材2と第1樹脂層15とに接合する層であり、基材2及び第1樹脂層15によって覆われる。第2樹脂層16は、第1樹脂層15の製膜性を補助するために用いられてもよいし、基材2と第1樹脂層15とを強固に一体化するために用いられてもよい。第2樹脂層16は、未伸フィルムである。第2樹脂層16は、例えばTダイ法、インフレーション法等の押出し成形法によって形成される。第2樹脂層16が第1樹脂層15の製膜性を補助するために用いられる場合、例えば共押出成形法によって、第2樹脂層16は第1樹脂層15と同時に形成される。これにより、例えば第1樹脂層15の製膜性が低い場合であっても、第1樹脂層15を良好に製膜できる。本実施形態では、第1樹脂層15及び第2樹脂層16は、共押出成形法によって同時に形成される。
【0036】
第2樹脂層16は、第1樹脂層15と異なりポリエステルを含まない層である。すなわち、第2樹脂層16は、第1樹脂層15とは異なる樹脂を含む層(異樹脂層)とも言える。第2樹脂層16の製膜性を良好なものにする観点から、第2樹脂層16に含まれる樹脂(高分子化合物)は、例えば、ポリオレフィン、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、エチレン-メタクリル酸エステル共重合体、エチレン-メタクリル酸エステル-酸無水物共重合体、エチレン-メタクリル酸-メタクリル酸エステル共重合体等が挙げられる。ポリオレフィンは、接着性の観点から、酸無水物変性ポリオレフィンでもよい。ポリエチレンの密度は、例えば0.86g/cm以上0.90g/cm以下である。エチレン-アクリル酸エステル共重合体は、例えばエチレン-メチルアクリレート共重合体(EMA)、エチレン-エチルアクリレート共重合体(EEA)等である。エチレン-メタクリル酸エステル共重合体は、例えばエチレン-メチルメタクリレート共重合体(EMMA)等である。第2樹脂層16は、上述した高分子化合物を少なくとも一種類含む。
【0037】
第2樹脂層16には、上述した高分子化合物に加えて、難燃剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、酸化防止剤、光安定剤、粘着付与剤等の各種添加材が添加されてもよい。
【0038】
<パッケージ>
次に、図2及び図3を参照しながら、本実施形態に係る積層シート1を用いて形成される包装体を備えるパッケージの一例について説明する。図2は、パッケージの概略平面図である。図3は、図2のIII-III線に沿った断面図である。
【0039】
図2及び図3に示されるパッケージ50は、固体、液体等の内容物52を収容する製品である。パッケージ50は、積層シート1から形成される包装体51と、包装体51に収容される内容物52とを備える。本実施形態では包装体51は、紙製容器包装体である。紙製容器包装体は、日本の資源有効利用促進法に基づき、紙製容器包装の識別表示が付される包装体である。このため、本実施形態に係る包装体51の主成分は、紙である。本実施形態においては、包装体51の合計質量のうち、紙の質量が51%以上である。
【0040】
包装体51は、積層シート1から構成されると共に、内容物52を収容している。包装体51は、例えば内容物52を挟むように二つ折りにした積層シート1の端部を封止することによって、袋形状に成形される。内容物52は、特に限定されず、例えば飲食物、医薬品、化粧品、化学品等である。内容物52は、固体に限られず、液体、気体でもよい。内容物52は、個包装されてもよい。本実施形態では、内容物52は、酒類等の脂肪酸エステル系香気成分を含む液体である。脂肪酸エステル系香気成分は、例えば、酢酸イソアミル、カプロン酸エチル、カプリル酸エチル、カプリン酸エチル、ラウリン酸エチル、酢酸フェニルエチル、乳酸エチル等である。脂肪酸エステル系香気成分における脂肪酸の炭素数は、例えば6以上20以下である。例えば酒類の一種である日本酒の吟醸酒は、脂肪酸エステル系香気成分に基づく香りを発生する。
【0041】
包装体51は、内容物52が収容される本体部53と、積層シート1が2つに折り曲げられた折曲部54と、本体部53の端部に位置するシール部55と、を有する。本体部53の形状は、特に限定されず、例えば所定の方向から見て矩形状を呈する。本体部53の外表面における少なくとも一部には、印刷が施されている(不図示)。本体部53には、例えば、内容物52に加えて窒素等の特定の気体が収容されてもよい。包装体51の最内層は、シーラント層3(より具体的には、第1樹脂層15)によって構成される。このため、包装体51に収容される内容物52は、本体部53における第1樹脂層15に接する。本実施形態では、所定の方向から見て、折曲部54が本体部53の一辺を構成し、シール部55が本体部53の残り三辺を構成する。折曲部54の両端と、シール部55とは重なっている。
【0042】
シール部55は、積層シート1におけるシーラント層3の一部と他部とが貼り合わされる部分である。より具体的には、第1樹脂層15の第1部分15aと第2部分15bとが、互いに接着している。第1部分15aと第2部分15bとは、シール部55を形成する部分である。第1部分15aは二つ折りにされたシール部55のうち一方に含まれ、第2部分15bは二つ折りにされたシール部55のうち他方に含まれる。シール部55は、例えば、積層シート1の一部と他部とが加熱及び圧縮される(すなわち、ヒートシールされる)ことによって形成される。第1部分15aと第2部分15bとの平均接着強度は、例えば15N/15mm以上であるが、これに限られない。包装体51の密封性の観点から、第1樹脂層15の厚さが20μm以上40μm以下であるときの第1部分15aと第2部分15bとの平均接着強度は、20N/15mm以上でもよいし、25N/15mm以上でもよいし、30N/15mm以上でもよい。
【0043】
以上に説明した本実施形態に係る積層シート1と、積層シート1を備える包装体51とによって奏される作用効果について、従来例と比較しながら説明する。
【0044】
従来では、内容物の保香性を図るために、包装体の内面に非晶性ポリエステルから構成されるフィルムが用いられることがある。しかしながら、非晶性ポリエステルのヒートシール性は比較的低いことが知られている。このため、非晶性ポリエステルから構成されるフィルムをヒートシール層として用いることは一般的ではない。例えば、非晶性ポリエステルフィルムの表面に良好なヒートシール性を示す樹脂(例えば、ポリオレフィン)を設けることが考えられる。この場合、非晶性ポリエステルによる保香性が阻害されてしまう問題がある。加えて、非晶性ポリエステルを用いた場合であっても、内容物の保香性は十分とは言えない問題があった。よって、例えば紙製の支持層を備える積層シートに非晶性ポリエステルが用いられた場合、ヒートシール性と保香性との両立は困難である。
【0045】
これに対して、積層シート1のシーラント層3は、結晶性ポリエステルを含む第1樹脂層15を有する。この第1樹脂層15は、シーラント層3における露出層として機能する。ここで脂肪酸エステル系香気成分は、ポリオレフィン及び非晶性ポリエステルよりも、結晶性ポリエステルに吸着されにくい傾向にある。特に、脂肪酸エステル系香気成分(例えば、カプリン酸エチル等)が、結晶化温度が120℃以上150℃以下に設定される結晶性ポリエステルに吸着されにくい傾向にあることが発見された。このため、例えば脂肪酸エステル系香気成分を含む食品等を、シーラント層3が接するように積層シート1にて包装することによって、脂肪酸エステル系香気成分が積層シート1に吸着されにくくなる。
【0046】
ポリエステルが溶融すると、当該ポリエステルの粘度は低下する傾向にある。このため、シーラント層を単一の結晶性ポリエステル層で形成する場合、当該シーラント層の品質がばらつきやすい。例えば、結晶性ポリエステル層をTダイ法によって形成するとき、当該結晶性ポリエステル層の幅が大きく縮む傾向にある(すなわち、ネックインが発生しやすい)。また、ポリエステルの粘度変化が大きいので、安定した品質の結晶性ポリエステル層をインフレーション法によって形成することは困難である。これに対して本実施形態では、シーラント層3は、第1樹脂層15に加えて、第1樹脂層15と基材2との間に位置すると共にポリエステルを含まない第2樹脂層16を有する。このようにシーラント層3を積層構造とすることによって、結晶性ポリエステルを含む第1樹脂層15の製膜性を向上できる。特に本実施形態では、第1樹脂層15と第2樹脂層16とが共押出成形法によって形成される。このため、第2樹脂層16による第1樹脂層15の製膜性の補助機能が良好に発揮される。したがって本実施形態によれば、脂肪酸エステル系香気成分の吸着を良好に抑制可能であって、安定した品質のシーラント層3を具備可能な積層シート1を提供できる。加えて、第1樹脂層15及び第2樹脂層16を有するシーラント層3を用いることによって、紙製の支持層11を用いた場合であっても良好なヒートシール性及び保香性を示す積層シート1が得られる。
【0047】
積層シート1を用いて形成される包装体51の最内層は、シーラント層3の第1樹脂層15によって構成される。これにより、包装体51の内容物に脂肪酸エステル系香気成分が含まれる場合、当該脂肪酸エステル系香気成分は、包装体51によって吸着されにくい傾向にある。したがって、本実施形態に係る積層シート1を用いることによって、内容物52の保香性に優れた包装体51を製造できる。
【0048】
本実施形態では、結晶性ポリエステルのガラス転移温度は、70℃以上80℃以下であり、結晶性ポリエステルの融解温度は、210℃以上240℃以下であってもよい。この場合、シーラント層3の第1樹脂層15は、カプリン酸エチルを吸着しにくい結晶性ポリエステルを含むことができる。
【0049】
本実施形態では、第1樹脂層15の厚さは、20μm以上40μm以下であり、第1部分15aと第2部分15bとの平均接着強度は、20N/15mm以上でもよい。この場合、包装体51の形態を良好に維持できる。
【0050】
以下では、図4及び図5を参照しながら、上記実施形態の各変形例について説明する。以下の各変形例において、上記実施形態と重複する箇所の説明は省略する。したがって以下では、上記実施形態と異なる箇所を主に説明する。
【0051】
図4は、第1変形例に係る積層シートの要部拡大断面図である。図4に示されるように、第1変形例に係る積層シート1Aは、基材2Aを備える点で、上記実施形態の積層シート1と異なる。基材2Aは、支持層11と、第1コート層12と、第2コート層13と、バリア層14Aとを有する。バリア層14Aは、互いに積層される第1フィルム14aと第2フィルム14bとを有する。
【0052】
第1フィルム14aは、水蒸気及び酸素等に対するガスバリア性を示すフィルムであり、第2コート層13上に形成される。第1フィルム14aは、例えば、アルミニウム箔等の金属箔もしくはステンレス箔等の合金箔である。第1変形例では、第1フィルム14aは、アルミニウム箔である。第1フィルム14aの厚さは、例えば5μm以上13μm以下である。この場合、第1フィルム14aは、良好なガスバリア性及び遮光性を示すことができる。第2フィルム14bは、上記実施形態のバリア層14と同一材料によって形成される。第2フィルム14bには、シリカ等が蒸着されなくてもよい。
【0053】
以上に説明した第1変形例に係る積層シート1Aにおいても、上記実施形態と同様の作用効果が奏される。加えて、積層シート1Aがバリア層14Aを有することによって、良好なガスバリア性及び遮光性が発揮される。
【0054】
図5(a)は、第2変形例に係る積層シートの第1樹脂層の概略断面図である。図5(a)に示される第1樹脂層15Aは、互いに積層される第1層151及び第2層152を有する。
【0055】
第1層151は、シーラント層3における露出層であり、結晶性ポリエステルを含む。第2変形例では、第1層151は、上記実施形態の第1樹脂層15と同様の構成を有する。このため、第1層151に含まれる結晶性ポリエステルの結晶化温度は、120℃以上150℃以下である。また、当該結晶性ポリエステルのガラス転移温度は70℃以上80℃以下でもよいし、当該結晶性ポリエステルの融解温度は210℃以上240℃以下でもよい。第1層151は、例えばTダイ法、インフレーション法等の押出し成形法によって形成される。
【0056】
第2層152は、第1層151の製膜性を補助するための層であり、シーラント層3において第2樹脂層16と第1層151との間に位置する。第2層152は、ポリエステルを含む。第2層152に含まれるポリエステルは、例えばポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート等である。第2層152に含まれるポリエステルは、結晶性ポリエステルでもよいし、非晶性ポリエステルでもよい。第2層152に含まれるポリエステルが結晶性ポリエステルである場合、当該ポリエステルの結晶化度は、第1層151に含まれる結晶性ポリエステルの結晶化度よりも低い。この場合、第2層152の結晶性ポリエステルの結晶化度は、例えば第1層151の結晶性ポリエステルの結晶化度よりも1%以上低い。ポリエステルの結晶化度は、例えば、共重合に供するモノマーの種類を変えることによって調整できる。もしくは、当該結晶化度は、ポリエステルを含む層の成膜条件を変更することによっても調整できる。成膜条件は、例えば、冷却速度、加熱温度、延伸倍率等である。非晶性ポリエステルは、結晶構造を有さないもしくは実質的に有さないポリエステルである。結晶性ポリエステルと、非晶性ポリエステルとは、DSC測定によって結晶化温度を決定できるか否かによって区別できる。
【0057】
第1樹脂層15Aの厚さは、上記実施形態の第1樹脂層15と同程度である。このため、第1層151と第2層152との合計厚さは、例えば30μm以上80μm以下である。第1層151の厚さは、第2層152の厚さよりも大きくてもよいし、小さくてもよい。第1樹脂層15Aによる脂肪酸エステル系香気成分の吸着性の観点から、第1層151の厚さは、第2層152の厚さよりも大きくてもよい。第1樹脂層15Aの製膜性の観点から、第1層151の厚さは、第2層152の厚さよりも小さくてもよい。
【0058】
第2層152は、未延伸フィルムである。第2層152は、例えばTダイ法、インフレーション法等の押出し成形法によって形成される。第1樹脂層15Aの製膜性の観点から、第1層151と第2層152とは、同時に形成されてもよい。この場合、例えば共押出成形法によって、第1層151と第2層152とが同時に形成される。この場合、第1樹脂層15A及び第2樹脂層16は、共押出成形法によって同時に形成されてもよい。すなわち、第1層151と、第2層152と、第2樹脂層16とは、共押出成形法によって同時に形成されてもよい。これにより、第2変形例に係るシーラント層の製膜性を良好に向上できる。
【0059】
以上に説明した第2変形例に係る積層シートにおいても、上記実施形態と同様の作用効果が奏される。加えて第2変形例では、第1樹脂層15Aの製膜性を向上できると共に、第1樹脂層15Aが脂肪酸エステル系香気成分をより吸着しにくくなる。
【0060】
図5(b)は、第3変形例に係る積層シートの第1樹脂層の概略断面図である。図5(b)に示される第1樹脂層15Bは、互いに積層される第1層151、第2層152及び第3層153を有する。第3層153は、第1層151と第2層152との間に位置する。第3変形例では、第1層151と第2層152とのそれぞれは、第2変形例の第1層151と第2層152と同様の構成を有する。
【0061】
第3層153は、第2層152と同様に第1層151の製膜性を補助するための層である。第3層153は、ポリエステルを含む。第3層153に含まれるポリエステルは、例えばポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート等である。第3層153に含まれるポリエステルは、結晶性ポリエステルでもよいし、非晶性ポリエステルでもよい。第3層153に含まれるポリエステルが結晶性ポリエステルである場合、当該ポリエステルの結晶化度は、第1層151に含まれる結晶性ポリエステルの結晶化度よりも低い。この場合、第3層153の結晶性ポリエステルの結晶化度は、例えば第1層151の結晶性ポリエステルの結晶化度よりも1%以上低い。加えて、第3層153の結晶性ポリエステルの結晶化度は、第2層152の結晶性ポリエステルの結晶化度よりも高いが、これに限られない。
【0062】
第1樹脂層15Bの厚さは、上記実施形態の第1樹脂層15と同程度である。このため、第1層151と、第2層152と、第3層153の合計厚さは、例えば30μm以上80μm以下である。第1樹脂層15Bによる脂肪酸エステル系香気成分の吸着性の観点から、第1層151の厚さは、第2層152及び第3層153の厚さよりも大きくてもよい。第1樹脂層15Bの製膜性の観点から、第1層151の厚さは、第2層152及び第3層153の厚さよりも小さくてもよい。
【0063】
第3層153は、未延伸フィルムである。第3層153は、例えばTダイ法、インフレーション法等の押出し成形法によって形成される。第1樹脂層15Bの製膜性の観点から、第1層151と、第2層152と、第3層153は、同時に形成されてもよい。この場合、例えば共押出成形法によって、第1層151と、第2層152と、第3層153とが同時に形成される。この場合、第1樹脂層15B及び第2樹脂層16は、共押出成形法によって同時に形成されてもよい。すなわち、第1層151と、第2層152と、第3層153と、第2樹脂層16とは、共押出成形法によって同時に形成されてもよい。これにより、第3変形例に係るシーラント層の製膜性を良好に向上できる。
【0064】
以上に説明した第3変形例に係る積層シートにおいても、上記実施形態と同様の作用効果が奏される。加えて第3変形例では、第1樹脂層15Aの製膜性をより向上できる。
【0065】
本発明の一側面に係る積層シート及び当該積層シート1を用いた包装体は、上記実施形態及び上記変形例に限られない。上記実施形態と上記変形例とは、適宜組み合わされてもよい。例えば、上記第1変形例と第2変形例とが組み合わされてもよいし、上記第1変形例と上記第3変形例とが組み合わされてもよい。
【0066】
上記実施形態及び上記変形例では、積層シートの基材は、支持層、第1コート層、第2コート層、及びバリア層、シール層を有するが、これに限られない。基材は、上記層以外の構成要件を有してもよい。例えば、支持層とバリア層との間には、物理的強度を向上させるための補強層等が形成されてもよい。補強層は、例えば未延伸フィルムでもよいし、延伸フィルムでもよい。この場合、補強層は、例えばポリアミド、ポリプロピレン、ポリエステル等の熱可塑性樹脂を含む。
【0067】
上記実施形態及び上記変形例では、積層シートが二つ折りされることによって袋形状の包装体が形成されるが、これに限られない。例えば、積層シートは複数回屈曲されてもよい。この場合、包装体は、例えば箱形状を有する容器でもよいし、ゲーブルトップ形状を有する容器でもよい。もしくは、包装体は、積層シートを折り曲げることなく製造されてもよい。この場合、例えば互いに重ね合わせた2枚のシートの端部を封止することによって、包装体が製造されてもよい。包装体の一部には、開閉自在な部分が形成されてもよい。例えば、包装体には着脱可能なキャップ等が装着されてもよい。
【0068】
上記実施形態及び上記変形例では、基材は紙製の支持層を有するが、これに限られない。支持層は、例えばPETフィルム等の樹脂フィルム等でもよい。この場合、積層シートは、第1コート層、第2コート層及びバリア層の少なくとも一つを含まなくてもよい。
【実施例0069】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0070】
(実施例1)
<積層シート>
まず、EMAと、ポリエステルA(ユニチカ株式会社製、固有粘度:0.73)とを準備した。また、バリア層として機能するシリカ蒸着を施した延伸基材PETフィルム(厚さ12μm)を準備した。続いて、押出成形装置を用いて、260℃以上300℃以下にて、二液硬化型ポリウレタン系接着剤(アンカーコート剤)を用いて、上記基材上にEMAとポリエステルAとを溶融多層押出製膜した。換言すると、押出成形装置にて、溶融したEMAとポリエステルAとをフィルム状に共押出成形した。これにより、バリア層の直上に位置するEMAフィルム(第2樹脂層、厚さ20μm)と、当該第2樹脂層上に位置するポリエステルフィルム(第1樹脂層、厚さ40μm)とを同時に形成した。
【0071】
次に、紙製の支持層として矩形形状を呈すると共に坪量320g/mのパック原紙(王子エフテックス株式会社製)を準備した。続いて、フィルム状に成形したポリエチレン(密度0.906g/cm)を支持層の両面に接着した。これにより、支持層の一方の主面に厚さ18μmのポリエチレンフィルム(第1コート層)を形成すると共に、支持層の他方の主面に厚さ30μmのポリエチレンフィルム(第2コート層)を形成した。続いて、第2コート層と積層体のバリア層とを接着した。以上により、基材と、第1樹脂層及び第2樹脂層とを有するシーラント層とを備える積層シートを形成した。
【0072】
ポリエステルAのガラス転移温度、結晶化温度及び融解温度は、下記表1に示される。ポリエステルAのガラス転移温度、結晶化温度及び融解温度は、積層シートから剥離した第1樹脂層を測定用試料とし、示差走査熱量計(株式会社日立製作所製、「DSC7020」)を用い、測定温度20~300℃、昇温速度5℃/分の条件にて測定した。
【0073】
<包装体>
まず、上記積層シートのシーラント層の一部と他部とを熱溶着した。熱溶着は、インパルスシーラー(富士インパルス株式会社製、「OPL-300-10」)を用いて、200℃、0.2MPa、1secの条件で行った。このとき、端部の少なくとも一部を未溶着とした。これにより、開口を有する袋を形成した。続いて、当該袋に50mLの大吟醸酒(白鶴酒造株式会社製、「大吟醸」)を収容した。その後、上記端部における未溶着部分を溶着した。これにより、大吟醸酒が収容された包装体を備えるパッケージを形成した。なお、包装体の接液面積が200cmになるように、上記積層シートの寸法及びシール領域は設定された。
【0074】
(実施例2)
ポリエステルAの代わりにポリエステルB(ユニチカ株式会社製、固有粘度:0.57)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、積層シート、並びに当該積層シートを用いたパッケージを形成した。ポリエステルBのガラス転移温度、結晶化温度及び融解温度は、下記表1に示される。
【0075】
(実施例3)
ポリエステルAの代わりにポリエステルC(ユニチカ株式会社製、固有粘度:0.69)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、積層シート、並びに当該積層シートを用いたパッケージを形成した。ポリエステルCのガラス転移温度、結晶化温度及び融解温度は、下記表1に示される。
【0076】
(比較例1)
ポリエステルAの代わりにポリエステルD(ユニチカ株式会社製、固有粘度:0.66)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、積層シート、並びに当該積層シートを用いたパッケージを形成した。ポリエステルDのガラス転移温度、結晶化温度及び融解温度は、下記表1に示される。
【0077】
(比較例2)
ポリエステルAの代わりに非晶性のポリエステルE(タマポリ株式会社製、固有粘度:0.72)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、積層シート、並びに当該積層シートを用いたパッケージを形成した。ポリエステルEのガラス転移温度は、下記表1に示される。
【0078】
(比較例3)
ポリエステルAの代わりにポリエチレン(密度0.916g/cm)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、積層シート、並びに当該積層シートを用いたパッケージを形成した。ポリエチレンのガラス転移温度及び融解温度は、下記表1に示される。なお、ポリエチレンのガラス転移温度は、公知の文献に記載される値である。
【0079】
【表1】
【0080】
<吸着性の評価方法>
実施例1~3及び比較例1~3の包装体のそれぞれにおける香気成分の吸着性を下記の方法で試験し、評価した。なお、以下に説明する試験では、約±2%の測定誤差が発生し得る。
【0081】
まず、実施例1~3及び比較例1~3の包装体のそれぞれを、常圧、23℃の環境下にて静置した。加えて基準例として、300mLの大吟醸酒が収容されたガラス瓶(容量:720mL)を、常圧、23℃の環境下にて静置した。続いて、実施例1~3、比較例1~3及び基準例のそれぞれに対して固相マイクロ抽出法(SPME法)を実施することによって、所定期間が経過した後における大吟醸酒に含まれる香気成分を捕集した。具体的には、まず、所定期間静置された包装体とガラス瓶とのそれぞれから、検体となる大吟醸酒2gを回収した。続いて、各検体を20mLのバイアルビンに入れて密封した。次に、当該バイアルビンを60℃にて5分間加熱した。次に、バイアルビンにSPMEファイバー(Sigma-Aldrich製、外径:65μm、PDMS/DVB)を挿入した後、バイアルビンとSPMEファイバーとを60℃にて5分間加熱した。これにより、検体から発生した香気成分をSPMEファイバーが捕集した。なお、PDMSはポリジメチルシロキサンであり、DVBはジビニルベンゼンである。
【0082】
続いて、香気成分を捕集したSPMEファイバーをGC/MS(アジレント・テクノロジー株式会社製、「7890B/5977B」)の注入口に差し込んだ。そして、捕集した香気成分の種類及び量を測定した。各実施例及び各比較例の測定結果は、下記表2,3に示される。なお、実施例1~3及び比較例1~3における所定期間経過後の香気成分の測定量は、基準例における香気成分の測定量を100%としたときの割合にて、表2,3に示される。表2では、香気成分の一つであるカプリル酸エチルの測定結果が示される。表3では、香気成分の一つであるカプリン酸エチルの測定結果が示される。
【0083】
各実施例及び各比較例における香気成分(カプリル酸エチル)の吸着性試験の評価は、以下に示すA~Dの基準に沿って定めた。評価結果がAであれば、香気成分に対して低い吸着性を示すと言える。各実施例及び各比較例に対する評価結果は、以下の表2に示される。
A:8週間経過後におけるカプリル酸エチルの測定結果が88.0%以上
B:8週間経過後におけるカプリル酸エチルの測定結果が85.0%以上
C:8週間経過後におけるカプリル酸エチルの測定結果が70.0%以上
D:8週間経過後におけるカプリル酸エチルの測定結果が50.0%以下
【0084】
各実施例及び各比較例における香気成分(カプリン酸エチル)の吸着性試験の評価は、以下に示すA~Cの基準に沿って定めた。評価結果がAであれば、香気成分に対して低い吸着性を示すと言える。各実施例及び各比較例に対する評価結果は、以下の表3に示される。
A:8週間経過後におけるカプリン酸エチルの測定結果が70.0%以上
B:8週間経過後におけるカプリン酸エチルの測定結果が30.0%以上
C:8週間経過後におけるカプリン酸エチルの測定結果が10.0%以下
【0085】
下記表2,3に示されるように、実施例1~3は、カプリル酸エチルとカプリン酸エチルとのいずれに対してもAと評価された。一方、比較例1~3は、カプリル酸エチルとカプリン酸エチルとのいずれに対してもB~Dのいずれかと評価された。このことから、結晶化温度が120℃以上150℃以下に制御された結晶性ポリエステルを利用したシーラント層は、香気成分(特に、脂肪酸エステル系香気成分)に対して良好な低吸着性を示すことがわかる。
【0086】
【表2】
【0087】
【表3】
【0088】
<ヒートシール試験>
上記表1に示されるポリエステルA~Eとポリエチレンとのヒートシール性を下記の方法で試験し、評価した。
【0089】
まず、厚さ12μmの延伸基材PETフィルムを準備した。続いて、押出成形装置を用いて、260℃以上300℃以下にて、二液硬化型ポリウレタン系接着剤を用いて、上記基材上にEMAとポリエステルA(表1を参照)とを溶融多層押出製膜した。換言すると、押出成形装置にて、溶融したEMAとポリエステルAとをフィルム状に共押出成形した。これにより、延伸基材PETフィルムの直上に位置するEMAフィルム(厚さ20μm)と、当該EMAフィルム上に位置するポリエステルフィルム(厚さ20μm)とを同時に形成した。以上により、延伸基材PETフィルムと、EMAフィルム及びポリエステルフィルムを含むシーラント層とが、二液硬化型ポリウレタン系接着剤にて一体化された試料A1を形成した。試料A1のシーラント層には、ポリエステルAが含まれる。
【0090】
加えて、ポリエステルAの代わりに、ポリエステルB(表1を参照)を用いたシーラント層を有する試料B1と、ポリエステルC(表1を参照)を用いたシーラント層を有する試料C1と、ポリエステルD(表1を参照)を用いたシーラント層を有する試料D1と、ポリエステルE(表1を参照)を用いたシーラント層を有する試料E1とを形成した。さらには、延伸基材PETフィルムと、ポリエチレンのみから形成される厚さ60μmのシーラント層とが一体化された試料F1を形成した。
【0091】
試料A1~F1のそれぞれにおいて、シーラント層の一部と他部とが互いに接触する接触部を形成した。続いて、10mm幅の直線シールバーを用いて、0.2MPa、1秒間、上記接触部をヒートシールした。これにより、シーラント層の一部と他部との接着部を形成した。ヒートシール温度は、90℃から210℃とした。そして、JIS Z 1707:2019に記載される「ヒートシール強さ試験」を参考に、接着部の平均接着強度を測定した。接着強度の測定においては、テンシロン万能材料試験機(株式会社オリエンテック製、「RTC-1310A」)を用い、引っ張り速度を300mm/minとした。
【0092】
図6は、ヒートシール温度と平均接着強度との関係を示す図である。図6において、横軸はヒートシール温度を示し、縦軸は平均接着強度を示す。図6において、ライン61~66は、試料A1~F1の測定結果をそれぞれ示す。図6に示されるように、ポリエステルDを含む試料D1においては、ヒートシール温度が190℃以上である場合、接着部の平均接着強度が20N/15mm以上である。これに対して、ポリエステルA~Cのいずれかを含む試料A1~C1においては、ヒートシール温度が150℃以上である場合、接着部の平均接着強度が20N/15mm以上である。特に、試料C1の接着部の平均接着強度は、ヒートシール温度が120℃以上にて急激に上昇する。この結果から、結晶化温度が120℃以上150℃以下(もしくは、ガラス転移温度が70℃以上80℃以下)である結晶性ポリエステルを含むシーラント層は、比較的低温にてヒートシールを実施できる。
【0093】
また、非晶性ポリエステルを含む試料E1においては、ヒートシール温度が150℃以上であっても、接着部の平均接着強度が20N/15mm未満である。これに対して、結晶性ポリエステルを含む試料A1~C1においては、ヒートシール温度が150℃以上である場合、接着部の平均接着強度が20N/15mm以上である。この結果から、結晶性ポリエステルを含むシーラント層は、非晶性ポリエステルを含むシーラント層よりも、ヒートシール性に優れていることがわかる。
【符号の説明】
【0094】
1,1A…積層シート、2,2A…基材、3…シーラント層、11…支持層、11a…主面、11b…主面、12…第1コート層、13…第2コート層、14,14A…バリア層、14a…第1フィルム、14b…第2フィルム、15,15A,15B…第1樹脂層、15a…第1部分、15b…第2部分、16…第2樹脂層、50…パッケージ、51…包装体、52…内容物、53…本体部、54…折曲部、55…シール部、151…第1層、152…第2層、153…第3層。
図1
図2
図3
図4
図5
図6