(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022183700
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】太陽電池セル、多接合型太陽電池セル、及び太陽電池セルの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 31/0747 20120101AFI20221206BHJP
【FI】
H01L31/06 455
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021091142
(22)【出願日】2021-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡部 大樹
(72)【発明者】
【氏名】片山 博貴
【テーマコード(参考)】
5F151
【Fターム(参考)】
5F151AA02
5F151AA04
5F151AA05
5F151AA20
5F151CA02
5F151CA03
5F151CA04
5F151CA14
5F151CA15
5F151DA07
5F151DA15
5F151FA02
5F151FA04
5F151GA04
5F151GA14
(57)【要約】
【課題】受光面に微結晶シリコン層を有して、光電変換層に到達する光を大きくでき、曲線因子も大きくし易い太陽電池セルを提供する。
【解決手段】太陽電池セル10が、結晶性シリコン基板11の第1主面上に設けられるn型の第1非晶質シリコン層13、第1非晶質シリコン層13の第1主面上に設けられる非晶質酸化物シリコン層14、及び非晶質酸化物シリコン層14の第1主面上に設けられるn型の微結晶シリコン層15を備えるようにする。第1非晶質シリコン層13、非晶質酸化物シリコン層14、及び微結晶シリコン層15における酸素原子濃度が、厚さ方向に関して非晶質酸化物シリコン層14内で極大値を有するようにする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性シリコン基板の第1主面上に設けられる第1導電型の第1非晶質シリコン層と、
前記第1非晶質シリコン層の第1主面上に設けられる非晶質酸化物シリコン層と、
前記非晶質酸化物シリコン層の第1主面上に設けられる前記第1導電型の微結晶シリコン層と、を備え、
前記第1非晶質シリコン層、前記非晶質酸化物シリコン層、及び前記微結晶シリコン層における酸素原子濃度が、厚さ方向に関して前記非晶質酸化物シリコン層内で極大値を有する、太陽電池セル。
【請求項2】
前記結晶性シリコン基板の前記第1主面と前記第1非晶質シリコン層の第2主面との間に非晶質シリコン系材料で構成される第1パッシベーション層を備える、請求項1に記載の太陽電池セル。
【請求項3】
前記微結晶シリコン層の層厚は、前記第1パッシベーション層の層厚よりも厚いと共に、前記第1非晶質シリコン層の層厚よりも厚い、請求項2に記載の太陽電池セル。
【請求項4】
前記結晶性シリコン基板の第2主面上に設けられ、非晶質シリコン系材料で構成される第2パッシベーション層と、
前記第2パッシベーション層の第2主面上に設けられた第2導電型の第2非晶質シリコン層と、を備え、
前記微結晶シリコン層の結晶化率は、前記第2非晶質シリコン層の結晶化率よりも大きい、請求項1から3のいずれか1つに記載の太陽電池セル。
【請求項5】
前記結晶性シリコン基板の第2主面上に設けられ、非晶質シリコン系材料で構成される第2パッシベーション層と、
前記第2パッシベーション層の第2主面上に設けられた第2導電型の第2非晶質シリコン層と、を備え、
前記第1パッシベーション層の前記第1導電型の原子の濃度が、1×1021atoms/cm3未満であって、前記第1非晶質シリコン層の前記第1導電型の原子の濃度よりも小さく、
前記第2パッシベーション層の前記第2導電型の原子の濃度が、1×1021atoms/cm3未満であって、前記第2非晶質シリコン層の前記第2導電型の原子の原子濃度よりも小さい、請求項2に記載の太陽電池セル。
【請求項6】
前記第1非晶質シリコン層に含有される前記第1導電型の原子の原子濃度が、1×1022atoms/cm3未満であり、
前記微結晶シリコン層に含有される前記第1導電型の原子の原子濃度が、1×1022atoms/cm3未満である、請求項1から5のいずれか1つに記載の太陽電池セル。
【請求項7】
前記結晶性シリコン基板の第2主面上に設けられ、非晶質シリコン系材料で構成される第2パッシベーション層と、
前記第2パッシベーション層の第2主面上に設けられた第2導電型の第2非晶質シリコン層と、を備え、
前記微結晶シリコン層の第1主面上、及び前記第2非晶質シリコン層の第2主面上のうちの少なくとも一方に設けられる透明導電層を備える、請求項1から6のいずれか1つに記載の太陽電池セル。
【請求項8】
前記結晶性シリコン基板の第2主面上に設けられ、非晶質シリコン系材料で構成される第2パッシベーション層と、
前記第2パッシベーション層の第2主面上に設けられた第2導電型の第2非晶質シリコン層と、を備え、
前記微結晶シリコン層の平均算術粗さが、前記第2非晶質シリコン層の平均算術粗さ以上である、請求項1から7のいずれか1つに記載の太陽電池セル。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1つに記載の太陽電池セルと、
前記太陽電池セル上に設けられ、シリコンよりも大きなバンドギャップを持つ光電変換層を有する第2太陽電池セルと、
を備える、多接合型太陽電池セル。
【請求項10】
請求項1から8のいずれか1つに記載の太陽電池セルを製造する太陽電池セルの製造方法であって、
前記第1非晶質シリコン層と前記微結晶シリコン層が、同一の化学気相成長成膜室で大気開放されずに形成される、太陽電池セルの製造方法。
【請求項11】
請求項2又は3に記載の太陽電池セルを製造する太陽電池セルの製造方法であって、
前記第1パッシベーション層と前記第1非晶質シリコン層が、同一の化学気相成長成膜室で大気開放されずに形成される、太陽電池セルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、太陽電池セル、多接合型太陽電池セル、及び太陽電池セルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、太陽電池セルとしては、特許文献1に記載されているものがある。
図12に示すように、この太陽電池セル710は、受光面の非晶質シリコン層を微結晶化して微結晶シリコン層715としている。非晶質シリコン層を用いるヘテロジャンクション型の太陽電池では、受光面の非晶質シリコン層の寄生吸収によって、光電変換層である結晶性シリコン基板に到達する光を減らしてしまうという課題がある。この太陽電池セル710は、受光面の非晶質シリコン層を微結晶化することでシリコン層の透過性を高くして、光電変換層に到達する光の光量を大きくし、太陽電池セル710の出力を高くしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図12に示すように、上記従来の太陽電池セル710は、パッシベーションを実現する真性非晶質シリコン層713に加えて、微結晶化しにくい導電性シリコン層の微結晶化促進のためのシード層としての真性微結晶シリコン層714を有する。よって、導電層と比較して導電性が悪い真正層713,714のトータルの層厚が大きくなるので、内部抵抗が大きくなって、太陽電池セル710の曲線因子FF(Fill Factor)が低下し易い。
【0005】
そこで、本開示の太陽電池セルは、受光面に微結晶シリコン層を有して、光電変換層に到達する光の光量を大きくでき、曲線因子も大きくし易い太陽電池セルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本開示に係る太陽電池セルは、結晶性シリコン基板の第1主面上に設けられる第1導電型の第1非晶質シリコン層と、第1非晶質シリコン層の第1主面上に設けられる非晶質酸化物シリコン層と、非晶質酸化物シリコン層の第1主面上に設けられる第1導電型の微結晶シリコン層と、を備え、第1非晶質シリコン層、非晶質酸化物シリコン層、及び微結晶シリコン層における厚さ方向に関する酸素原子濃度が、非晶質酸化物シリコン層内で極大値を有する。
【0007】
なお、上記第1主面上に層を設けるという文言は、第1主面上に当該層を接触するように設ける場合を含むのは当然のこと、第1主面上に当該層をその層とは別の1以上の層を介して設ける場合も含む。また、上記第1非晶質シリコン層、及び微結晶シリコン層の夫々は、酸素原子を含んでもよく、炭素原子を含んでもよい。
【発明の効果】
【0008】
本開示に係る太陽電池セルによれば、受光面に微結晶シリコン層を有して、光電変換層に到達する光を大きくでき、曲線因子も大きくし易い。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態の太陽電池セルの厚さ方向の模式断面図である
【
図2】ガラス基板上に非晶質シリコン層と微結晶シリコン層をこの順で形成し、ラマン分光スペクトルを測定した結果であり、非晶質シリコン層形成後に酸化処理の有無、すなわち、非晶質酸化物シリコン層14の有無によるラマン分光スペクトルを比較した図である。
【
図3】実施例1の太陽電池セルの作用効果に主に関連する積層部分を説明するための模式断面図である。
【
図4】実施例1の太陽電池セルにおいて
図3に示す積層部分に対応する積層部分の模式断面図である。
【
図5】
図1に示す太陽電池セルと比較して、結晶性シリコン基板の第1主面と第2主面の両方にテクスチャ構造を形成した点のみが異なる太陽電池セルにおける
図1に対応する模式断面図である。
【
図6】第1導電型の微結晶シリコン層の第1主面の形状を説明するための模式断面図である。
【
図7】第2導電型の非晶質シリコン層の第2主面の形状を説明するための模式断面図である。
【
図8】本開示の第2実施形態の多接合型太陽電池セルの厚さ方向の模式断面図である。
【
図9】第2実施形態の変形例の多接合型太陽電池セルにおける
図8に対応する厚さ方向の模式断面図である。
【
図10】第2実施形態の他の変形例の多接合型太陽電池セルにおける
図8に対応する厚さ方向の模式断面図
【
図11】第2実施形態の更なる変形例の多接合型太陽電池セルにおける
図8に対応する厚さ方向の模式断面図
【
図12】従来例の太陽電池セルの主要積層部の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本開示に係る実施の形態について添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下において複数の実施形態や変形例などが含まれる場合、それらの特徴部分を適宜に組み合わせて新たな実施形態を構築することは当初から想定されている。また、以下の実施例では、図面において同一構成に同一符号を付し、重複する説明を省略する。また、以下の説明で、受光面とは、光が主に入射する面を意味し、50%を超える光、例えば、80%以上又は90%以上の光が入射する面である。以下で説明する太陽電池セル10,210,310,410,510は、その受光面を光が主に入射する側に向くように配置する。また、以下の説明で、層における、原子、ドーパント、又は不純物等の濃度と単に言及した場合、それは、層における、原子、ドーパント、又は不純物等の平均の濃度を意味するものとする。また、以下で説明する第1,第2実施形態とそれらの変形例の説明で、第1主面上に層を設けると言及した場合は、その層を第1主面に直接設けることを意味している。しかし、第1,第2実施形態とそれらの変形例の説明で、第1主面上に層を設けると言及した場合において、第1主面上に、その層以外の1以上の層を介してその層を第1主面上に設けてもよく、例えば、上記1以上の層として、第1主面上に設けると言及した層との比較において、膜密度やドープ濃度を少し変えた1以上の層を採用してもよい。また、同様に、第1,第2実施形態とそれらの変形例の説明で、第2主面上に層を設けると言及した場合は、その層を第2主面に直接設けることを意味している。しかし、第1,第2実施形態とそれらの変形例の説明で、第2主面上に層を設けると言及した場合において、第2主面上に、その層以外の1以上の層を介してその層を第2主面上に設けてもよく、例えば、上記1以上の層として、第2主面上に設けると言及した層との比較において、膜密度やドープ濃度を少し変えた1以上の層を採用してもよい。又は、以下の第1,第2実施形態とそれらの変形例の説明で、第1主面や第2主面という文言を使用せずに、単に、層上に層を設けると言及した場合も、同様である。つまり、本明細書及び特許請求の範囲において、第1層上に第2層を設けると言及した場合、第2層を第1層上に直接設ける場合が含まれるのは勿論のこと、第2層を第1層上に他の1以上の層を介して間接的に設ける場合が含まれ、第2層と第1層との間に1以上の層が存在する場合が含まれる。また、以下で説明される構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素であり、必須の構成要素ではない。
【0011】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態の太陽電池セル10の厚さ方向(積層方向)の模式断面図である。
図1に示すように、太陽電池セル10は、第1導電型の一例としてのn型の結晶性シリコン基板11と、結晶性シリコン基板11の受光面側の第1主面上に設けられ、非晶質シリコン系材料で構成される第1パッシベーション層12と、第1パッシベーション層12の第1主面上に設けられたn型の第1非晶質シリコン層13と、第1非晶質シリコン層13の第1主面上に設けられたn型の非晶質酸化物シリコン層14と、非晶質酸化物シリコン層14の第1主面上に設けられたn型の微結晶シリコン層15と、微結晶シリコン層15の第1主面上に設けられた受光面側の第1透明電極16を備える。
【0012】
第1非晶質シリコン層13、非晶質酸化物シリコン層14、及び微結晶シリコン層15における酸素原子濃度が、厚さ方向に関して非晶質酸化物シリコン層14内で極大値を有している。また、太陽電池セル10は、更に、結晶性シリコン基板11の裏面側の第2主面上に設けられ、非晶質シリコン系材料で構成される第2パッシベーション層22と、第2パッシベーション層22の第2主面上に設けられた第2導電型の一例としてのp型の第2非晶質シリコン層23と、第2非晶質シリコン層23の第2主面上に設けられた裏面側の第2透明電極24を備える。
【0013】
[結晶性シリコン基板]
結晶性シリコン基板11は、多結晶性シリコン基板であってもよいが、好ましくは単結晶性シリコン基板である。結晶性シリコン基板11に含有されるn型ドーパントは特に限定されないが、一般的にはリン(P)が用いられる。n型ドーパントは、n型の結晶性シリコン基板11の全体に均一に分布していてもよいが、結晶性シリコン基板11の第1主面及び第2主面の少なくとも一方の面の近傍には、ドーパント濃度が高くなった高ドープ領域が存在することが好ましい。
【0014】
結晶性シリコン基板11の厚みは、例えば50~500μmである。結晶性シリコン基板11には、一般的にチョクラルスキー法(Cz法)により製造される基板が用いられるが、エピタキシャル成長法により製造される基板を用いることも可能である。結晶性シリコン基板11におけるn型ドーパントの濃度は、例えば1×1014atoms/cm3未満である。
【0015】
結晶性シリコン基板11は、化学気相成長(CVD)プロセスの前に、フッ化水素酸水溶液やRCA洗浄液等で洗浄される。第1実施形態では、結晶性シリコン基板11の裏面側の第2主面には、水酸化カリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリエッチング液などを用いてピラミッド状の凹凸で構成されるテクスチャ構造が形成されている。テクスチャ構造を形成することで、光の多重反射により表面の反射損失を低減させることができ、更には、光電変換層に光を閉じ込め易くなる。
【0016】
なお、テクスチャ構造は、フォトリソグラフィによる表面処理で構成されてもよい。また、後で説明する変形例の太陽電池セルのように、テクスチャ構造を、結晶性シリコン基板の第2主面に加えて、結晶性シリコン基板の受光面側の第1主面に形成してもよい。又は、テクスチャ構造を、結晶性シリコン基板の受光面側の第1主面のみに形成してもよく、テクスチャ構造を、結晶性シリコン基板の第1主面と第2主面の両方に形成しなくてもよい。
【0017】
[第1パッシベーション層]
第1パッシベーション層12は、結晶性シリコン基板11の第1主面上に形成される。第1パッシベーション層12は、例えば、プラズマCVD又は触媒型CVDで形成される。第1パッシベーション層12は、結晶性シリコン基板11の第1主面側におけるキャリアの再結合を抑制する。結晶性シリコン基板11には、例えば、第1主面のうち、第1主面の端縁から2mm以下の外周領域を除く領域に第1パッシベーション層12が形成されている。
【0018】
第1パッシベーション層12は、i型非晶質シリコン層であることが好ましい。i型非晶質シリコン層は、不純物が意図的にドープされていない非晶質シリコン層である。第1パッシベーション層12には、太陽電池セル10の製造過程において不純物が混入する場合があり、一般的には所定濃度のn型ドーパントが含まれている。第1パッシベーション層12におけるn型ドーパント(原子)の濃度の平均値は、1×1021atoms/cm3未満であると好ましい。第1パッシベーション層12におけるn型ドーパント(原子)の濃度の平均値は、n型の第1非晶質シリコン層13におけるn型ドーパント(原子)の濃度の平均値よりも小さくなっており、n型の微結晶シリコン層15におけるn型ドーパント(原子)の濃度の平均値よりも小さくなっている。
【0019】
第1パッシベーション層12は、光の吸収をできるだけ抑えられる程度に薄く形成される一方、結晶性シリコン基板11の表面が十分にパッシベーションされる程度に厚く形成される。第1パッシベーション層12の層厚は、3nm~10nmが好ましい。第1パッシベーション層12の厚みは、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた太陽電池セル10の断面観察により測定される(他の層についても同様)。第1パッシベーション層12は、SiH4等のケイ素含有ガスと、必要に応じて希釈ガスとしてのH2とを供給しながら、プラズマCVDの場合は原料ガスをプラズマ化するか、又は触媒型CVDの場合は原料ガスを流しながら例えば触媒体として金属線ヒーターを加熱させることで成膜できる。第1パッシベーション層12の形成時、結晶性シリコン基板11の基板温度は、150℃以上300℃以下が好ましい。第1パッシベーション層12は、例えば、0.1nm/secから0.5nm/secの成膜速度で成膜される。
【0020】
第1パッシベーション層12は、例えば、SiH4に対するH2ガスの割合が、0~50倍の範囲で成膜される。第1パッシベーション層12には、水素、酸素、及び炭素のうちの1以上の原子が含まれていてもよく、例えば、3つの原子が全て含まれていてもよい。なお、第1パッシベーション層12におけるn型ドーパントの濃度は、結晶性シリコン基板11との界面である第1主面に近づくほど高くなる濃度匂配を有してもよい。
【0021】
[第1非晶質シリコン層]
n型の第1非晶質シリコン層13は、第1パッシベーション層12の第1主面上に形成される。第1非晶質シリコン層13は、例えば、プラズマCVD又は触媒型CVDで形成される。第1非晶質シリコン層13は、例えば、非晶質半導体層にn型の導電性を有すP等をドープして構成される。第1非晶質シリコン層13は、第1パッシベーション層12よりも高濃度のn型ドーパントを含む。第1非晶質シリコン層13におけるn型ドーパントの濃度の平均値は、1×1022atoms/cm3未満であることが好ましく、例えば、1×1020~1×1022atoms/cm3が好ましい。
【0022】
第1非晶質シリコン層13には、水素、酸素、及び炭素のうちの1以上の原子が含まれていてもよく、例えば、3つの原子が全て含まれていてもよい。
【0023】
第1非晶質シリコン層13は、光の吸収をできるだけ抑えられる程度に薄くする、また透明電極との接触抵抗の低減を考慮する必要のあるp型の第2非晶質シリコン層23とは異なり、第1非晶質シリコン層13は透明電極と直接接する面積は無いか、又は限りなく小さいため、透明電極との接触は考慮する必要性が低い。よって、第1非晶質シリコン層13は、第1パッシベーション層12と接触させたときに、第1非晶質シリコン層13から第1パッシベーション層12へのキャリアの拡散によって、第1パッシベーション層12の導電性を担保できる程度の厚みや暗導電率があれば十分である。第1非晶質シリコン層13の層厚は、第2非晶質シリコン層23の層厚よりも薄くてもよく、第1非晶質シリコン層13の導電率は、第2非晶質シリコン層23の導電率よりも小さくてもよい。
【0024】
第1非晶質シリコン層13の層厚は、1nm~10nmであると好ましい。また、第1非晶質シリコン層13をガラス基板上に形成したときの暗導電率は、1×10-8S/cm以上であると好ましい。また、第1非晶質シリコン層13を形成している最中の結晶性シリコン基板11の基板温度は、150℃以上300℃以下が好ましい。第1非晶質シリコン層13は、例えば、SiH4を流して成膜ことで形成でき、又は下層の第1パッシベーション層12にn型のドーパント(原子)を打ち込むことでも形成できる。
【0025】
[非晶質酸化シリコン層]
n型の非晶質酸化物シリコン層14は、下層の第1非晶質シリコン層13、または上層の微結晶シリコン層15と同じCVD成膜室(チャンバー)で施される酸化処理によって形成されると成膜室数削減や大気開放のプロセス時間削減の観点から好ましい。非晶質酸化物シリコン層は、層の厚さ方向(積層方向)に対する抵抗増加の要因となるため、非晶質酸化物シリコン層の層厚は、5nm以下であると好ましい。非晶質酸化物シリコン層14の形成時、結晶性シリコン基板11の基板温度は、150℃以上300℃以下が好ましい。酸化処理は、例えば、プラズマCVDの場合はCO2ガスをプラズマ化するか、又は触媒型CVDの場合はCO2ガスを流しながら例えば触媒体として金属線ヒーターを加熱させることで実行できる。酸化処理の時間は、1~20secが好ましい。
【0026】
[微結晶シリコン層]
n型の微結晶シリコン層15は、プラズマCVDまたは触媒型CVDなどを使用して成膜される。微結晶シリコン層15には、n型の元素であるP等が含まれる。微結晶シリコン層15は、酸素や炭素を含有してもよい。層中のn型ドーパントが多くなると微結晶成長の阻害要因となるため、微結晶シリコン層15のn型のドーパントの平均ドーパント密度は、1×1022atoms/cm3未満となるように設計するのが好ましく、例えば、1×1020~1×1022atoms/cm3が好ましい。
【0027】
微結晶シリコン層15の透過性は、第1非晶質シリコン層13と比較すると高くなるため、微結晶シリコン層15の層厚は、第1パッシベーション層12の層厚や、第1非晶質シリコン層13の層厚よりも厚くてもよく、5nm~100nmが好ましい。より詳しくは、本実施形態のように、太陽電池セル10を単接合で使用する場合、微結晶シリコン層15の層厚は、10~30nmが好ましい。また、後で説明する第2実施形態のように、複数の太陽電池セルを接合して多接合型太陽電池セルとして使用する場合、微結晶シリコン層15の層厚は、50~100nmとするのが好ましい。また、微結晶シリコン層15をガラス基板上に形成したときの暗導電率は1×10-5S/cm以上が好ましい。ガラス基板上に、微結晶シリコン層15を、第1非晶質シリコン層13、非晶質酸化物シリコン層14の次の層として形成した試料をラマン分光法で測定した結果、波数520cm-1付近に、結晶シリコン起因のピークが確認できる状態が好ましい。
【0028】
例えば、ガラス基板上に微結晶シリコン層15のみを形成した試料をラマン分光法で測定した際に、520cm-1(カイザー)付近にシグナルが存在している場合、微結晶シリコン層15の微結晶化を確認できる。ここで、シグナルは、520cm-1付近での局所的なピークでもよく、又は、シグナルは、520cm-1付近でのグラフの略平坦な振る舞いでもよく、520cm-1付近での傾きの変動(例えば、傾きの1.1倍以上の変動)でもよい。または、シグナルは、520cm-1付近での変曲点の存在でもよい。ラマン分光法で測定したときのグラフが520cm-1付近で特殊な振る舞いをしている場合に520cm-1付近にシグナルが存在していることを確認できる。
【0029】
図2は、ガラス基板上に非晶質シリコン層と微結晶シリコン層をこの順で形成し、ラマン分光スペクトルを測定した結果であり、非晶質シリコン層形成後に酸化処理の有無、すなわち、非晶質酸化物シリコン層14の有無によるラマン分光スペクトルを比較した図である。
図2に示すように、酸化処理しなかった試料において520cm
-1付近にピークが確認できない一方、酸化処理した試料において520cm
-1付近にピークが確認できた。よって、酸化処理、すなわち、非晶質酸化物シリコン層14を形成すれば、非晶質シリコン層上であっても微結晶シリコン層15の微結晶化を促進することができる。
【0030】
微結晶シリコン層15を形成している最中の結晶性シリコン基板11の基板温度は、100℃以上300℃以下が好ましい。また、微結晶シリコン層15を成膜する際、成膜速度が速すぎると微結晶化が促進されにくくなるので、成膜速度は0.2nm/sec以下にすると好ましい。また、微結晶シリコン層15を形成している最中、SiH4に対するH2ガスの割合を、10~300倍の範囲に設定すると好ましい。
【0031】
[受光側の各層を作製するチャンバについて]
非晶質酸化シリコン層14と微結晶シリコン層15は、同一チャンバ(成膜室)で成膜されるほうが作り易く、非晶質酸化シリコン層14と微結晶シリコン層15は、同一チャンバで作製されると好ましい。第1非晶質シリコン層13と非晶質酸化シリコン層14は、同一チャンバで作製しても、異なるチャンバで作製しても、作製のし易さは、略同等であるが、第1非晶質シリコン層13、非晶質酸化シリコン層14、及び微結晶シリコン層15を同一のチャンバで形成すると各層の成膜間の大気開放やチャンバ間のワークのトランスファーの必要がなくなるため、タクトタイムや装置コストが安くなり好ましい。タクトタイムや装置コストを気にしない場合は、微結晶シリコン層15を高周波電源を要する専用のチャンバなどを用いて作製してもよい。
【0032】
[第1透明電極]
第1透明電極16は、微結晶シリコン層15の第1主面上の略全域に形成されることが好ましい。例えば、一辺が120~210mmの略正方形の結晶性シリコン基板11を用いた場合、第1透明電極16は、各層12~15上からはみ出さない範囲で、結晶性シリコン基板11の端縁から5mm以下の外周領域を除く範囲に形成される。第1透明電極16は、例えば、酸化インジウム(In2O3)、酸化亜鉛(ZnO)等の金属酸化物に、タングステン(W)、錫(Sn)、アンチモン(Sb)、ジルコニウム(Zr)等がドーピングされた透明導電性酸化物(IWO、ITO等)で構成される。第1透明電極16の厚みは、例えば、10~200nmが好ましい。
【0033】
図示しないが、第1透明電極16の第1主面上には、集電極が設けられてもよい。集電極は、複数のフィンガー電極を含むと好ましい。複数のフィンガー電極は、互いに略平行に形成された細線状の電極であって、結晶性シリコン基板11の広範囲に形成され、生成したキャリアを収集する。集電極は、フィンガー電極よりも幅が太く、各フィンガー電極と略直交するバスバー電極を含んでいてもよい。なお、第1実施形態のように、太陽電池セル10を単接合で使用する場合には、集電極が設けられるのが好ましい。しかし、後で説明する第2実施形態のように、複数の太陽電池セルを接合してタンデムで使用する場合には、トップセルを第1透明電極16上に直接形成することが好ましいため、このとき集電極を必要としない場合もある。
【0034】
[第2パッシベーション層]
第2パッシベーション層22は、結晶性シリコン基板11の第2主面上に形成される。第2パッシベーション層22は、例えば、プラズマCVD又は触媒型CVDで形成される。第2パッシベーション層22は、結晶性シリコン基板11の第2主面側におけるキャリアの再結合を抑制する。結晶性シリコン基板11には、例えば、第2主面のうち、第2主面の端縁から2mm以下の外周領域を除く領域に第2パッシベーション層22が形成されている。
【0035】
第2パッシベーション層22は、i型非晶質シリコン層であることが好ましい。i型非晶質シリコン層は、不純物が意図的にドープされていない非晶質シリコン層である。第2パッシベーション層22には、太陽電池セル10の製造過程において不純物が混入する場合があり、一般的には所定濃度のp型ドーパントが含まれている。第2パッシベーション層22におけるp型ドーパント(原子)の濃度の平均値は、1×1021atoms/cm3未満であると好ましい。第2パッシベーション層22におけるp型ドーパント(原子)の濃度の平均値は、p型の第2非晶質シリコン層23におけるp型ドーパント(原子)の濃度の平均値よりも小さくなっている。
【0036】
第2パッシベーション層22は、光の吸収をできるだけ抑えられる程度に薄く形成される一方、結晶性シリコン基板11の表面が十分にパッシベーションされる程度に厚く形成される。第2パッシベーション層22の層厚は、3nm~10nmが好ましい。
【0037】
第2パッシベーション層22は、SiH4等のケイ素含有ガスと、必要に応じて希釈ガスとしてのH2とを供給しながら、原料ガスをプラズマ化するか、又は原料ガスを流しながらヒーターを動作させることで成膜できる。第2パッシベーション層22の形成時、結晶性シリコン基板11の基板温度は、150℃以上300℃以下が好ましい。第2パッシベーション層22は、例えば、0.1nm/secから0.5nm/secの成膜速度で成膜される。第2パッシベーション層22は、例えば、SiH4に対するH2ガスの割合が、0~50倍の範囲で成膜される。第2パッシベーション層22には、水素、酸素、及び炭素のうちの1以上の原子が含まれていてもよく、例えば、3つの原子が全て含まれていてもよい。
【0038】
[第2非晶質シリコン層]
p型の第2非晶質シリコン層23は、第2パッシベーション層22の第2主面上に形成される。第2非晶質シリコン層23は、例えば、プラズマCVD又は触媒型CVDで形成される。第2非晶質シリコン層23は、例えば、非晶質半導体層にp型の導電性を有すB等をドープして構成される。第2非晶質シリコン層23におけるp型ドーパントの濃度の平均値は、1×1022atoms/cm3未満が好ましく、例えば、1×1020~1×1022atoms/cm3が好ましい。第2非晶質シリコン層23は、第2パッシベーション層22よりも高濃度のp型ドーパントを含む。
【0039】
第2非晶質シリコン層23には、さらに、水素、酸素、及び炭素のうちの1以上が含まれてもよく、例えば、3つの原子が全て含まれてもよい。第2透明電極24との接触抵抗を担保するためには、第2非晶質シリコン層23の層厚は5nm~20nmが好ましく、第2非晶質シリコン層23をガラス基板上に形成したときの暗導電率は1×10-5S/cm以上が好ましい。第2非晶質シリコン層23を成膜する際の結晶性シリコン基板11の基板温度は、100℃以上300℃以下が好ましい。また、第2非晶質シリコン層23の成膜速度は、例えば、0.1nm/secから0.5nm/secで成膜され、SiH4に対するH2ガスの割合が0~50倍の範囲で成膜される。
【0040】
[第2透明電極]
第2透明電極24は、第2非晶質シリコン層23の第2主面上の略全域に形成されることが好ましい。例えば、一辺が120~160mmの略正方形の結晶性シリコン基板11を用いた場合、第2透明電極24は、各層22,23上からはみ出さない範囲で、結晶性シリコン基板11の端縁から2mm以下の外周領域を除く範囲に形成される。第2透明電極24は、例えば、酸化インジウム(In2O3)、酸化亜鉛(ZnO)等の金属酸化物に、タングステン(W)、錫(Sn)、アンチモン(Sb)、ジルコニウム(Zr)等がドーピングされた透明導電性酸化物(IWO、ITO等)で構成される。第1透明電極16の厚みは、例えば、10~200nmが好ましい。
【0041】
図示しないが、第2透明電極24の第2主面上には、集電極が設けられる。集電極は、複数のフィンガー電極を含むと好ましい。複数のフィンガー電極は、互いに略平行に形成された細線状の電極であって、結晶性シリコン基板11の広範囲に形成され、生成したキャリアを収集する。集電極は、フィンガー電極よりも幅が太く、各フィンガー電極と略直交するバスバー電極を含んでいてもよい。裏面側に形成される集電極は、受光面側に形成される集電極よりも大面積に形成されることが好ましく、第2透明電極24上の略全域に形成される金属層であってもよい。
【0042】
[実施例1-4及び比較例1の太陽電池セルにおけるIV測定]
本発明者は、実施例1-4の太陽電池セルと、比較例1の太陽電池セルに関して、IV測定を行った。
【0043】
<実施例1の太陽電池セル>
図3は、実施例1の太陽電池セル10の作用効果に主に関連する積層部分を説明するための模式断面図である。実施例1の太陽電池セル10は、
図1に示す太陽電池セル10と同様の構造を有し、結晶性シリコン基板11の第1主面にテクスチャ構造を有さない一方、結晶性シリコン基板11の第2主面にテクスチャ構造を有する。また、
図3に示すように、実施例1の太陽電池セル10は、図示しない結晶性シリコン基板の第1主面側に、i型非晶質シリコン層で構成される第1パッシベーション層12、第1非晶質シリコン層13、非晶質酸化物シリコン層14、及び微結晶シリコン層15を順次備える。実施例1の太陽電池セル10では、n型の非晶質シリコンにCO
2ガスを約10sec供給して、酸化処理を行って、6nm未満の層厚を有する非晶質酸化物シリコン層14を形成した。
【0044】
<実施例2の太陽電池セル>
実施例1の太陽電池セルとの比較において、n型の非晶質シリコンにCO2ガスを約10sec供給して酸化処理を行って、2nm未満の層厚を有する非晶質酸化物シリコン層14を形成した点のみを変えて、実施例2の太陽電池セルを作製した。
【0045】
<実施例3の太陽電池セル>
実施例1の太陽電池セルとの比較において、n型の非晶質シリコンにCO2ガスを約20sec供給して酸化処理を行って、非晶質酸化物シリコン層14を形成した点のみを変えて、実施例3の太陽電池セルを作製した。
【0046】
<実施例4の太陽電池セル>
SiH4を流す成膜方法以外の方法で第1非晶質シリコン層13を作製した。詳しくは、i型非晶質シリコンの第1主面に、PH3やB2H6などの原料ガス(ドープガス)を流し、原料ガスをプラズマ化するか、又は原料ガスを流しながらヒーターを動作させた。このようにして、i型非晶質シリコンの第1主面側にn型のドーパントを打ち込んで、第1非晶質シリコン層を成膜した。その後、作製した非晶質シリコン層にCO2ガスを約10sec供給して酸化処理を行って、第1パッシベーション層12、第1非晶質シリコン層13、非晶質酸化物シリコン層14を形成した。それ以外の点は、第1実施例の太陽電池セルと同一にして、実施例4の太陽電池セルを作製した。
【0047】
<比較例1の太陽電池セル>
図3に示す積層部分を、
図4に示す積層部分に取り換えた点のみが、
図1に示す太陽電池セル10と異なる太陽電池セルを、比較例1の太陽電池セルとした。詳しくは、i型非晶質シリコン層で構成される第1パッシベーション層12の第1主面上に、第1非晶質シリコン層13を設けずに、第1パッシベーション層12の第1主面上に非晶質酸化物シリコン層14を直接形成した太陽電池セル610を、比較例1の太陽電池セルとした。比較例1の太陽電池セルは、i型非晶質シリコンとn型の微結晶シリコンとの界面に、CO
2ガスを約10sec供給して酸化処理を行って、第1パッシベーション層12、非晶質酸化物シリコン層14、及び微結晶シリコン層15を形成した。
【0048】
(IV測定結果)
結晶性シリコン基板の第2主面にのみテクスチャ構造を形成した、片面フラット構造の上記異なる5種類の太陽電池セルの夫々に関して、IV測定を行い、次の表1の結果を得た。なお、以下の表1における実施例1-4の各物理量の値は、比較例1の値を100としたときの値である。なお、以下の表1において、Jscは、短絡電流[A]であり、Vocは、開放電圧[V]である。また、FFは、曲線因子であり、ηは、太陽電池セルの変換効率[%]である。
【表1】
【0049】
表1に示すように、第1パッシベーション層12と非晶質酸化物シリコン層14の間にn型の第1非晶質シリコン層13を設けた全ての実施例1-4で、比較例1との比較において、曲線因子FFが10%以上大きくなり、変換効率ηも10%以上大きくなっている。したがって、本開示の太陽電池セルを作製すれば、第1パッシベーション層12と非晶質酸化物シリコン層14の間にn型の第1非晶質シリコン層13が存在しない太陽電池セルとの比較において、曲線因子FFが各段に大きくて、変換効率ηも格段に大きい太陽電池セルを作製することができる。
【0050】
本願発明者は、この理由を次のように推察している。詳しくは、比較例1の太陽電池セルは、導電性不純物の原子濃度が低いパッシベーション層と、導電性の微結晶シリコン層の間に約10secsecの酸化処理によって形成された非晶質酸化物シリコン層が介在するために、導電性の微結晶シリコン層からパッシベーション層へのキャリアの拡散が阻害され、パッシベーション層は、導電性が低い状態を保っている。そして、パッシベーション層の導電性の悪化が、太陽電池セルの曲線因子FFの悪化に影響していると推察している。
【0051】
これに対し、実施例1の太陽電池セルは、パッシベーション層の後に約6nmの導電性の非晶質シリコン層を形成し、その後に酸化処理を行うことによって、導電性の非晶質酸化物シリコン系薄膜を形成し、続いて、導電性の微結晶シリコン層を形成することで作製されている。よって、実施例1の太陽電池セルでは、パッシベーション層と導電性の非晶質シリコン層が接触していることから、導電性の非結晶シリコン層からパッシベーション層へのキャリアの拡散が容易であり、その結果、パッシベーション層の導電率を大きくできる。よって、比較例1の太陽電池セルと比較して、曲線因子FFを格段に大きくできるものを推察している。
【0052】
実施例2の太陽電池セルは、導電性の非晶質シリコン層の厚みが6nmから約2nmへ減少しているが、曲線因子FFの大きな値を維持している。また透過性の低い非晶質シリコン層の厚みを大きく減らすことでJscの改善も実現している。
【0053】
また、実施例3の太陽電池セルは、酸化処理の時間を約10secから約20secへ延長して作製している。酸化処理時間が長いと非晶質酸化物シリコン層の厚みが増加することで導電性が低下して、曲線因子FFが低下する虞があり、製造安定性に好ましくない影響を与える可能性がある。しかし、実施例3の太陽電池セルのように、パッシベーション層と、導電性の非晶質シリコン層との間に酸化処理を設けないことで、酸化処理時間を延長しても曲線因子FFを高位に維持することができる。
【0054】
また、実施例4の太陽電池セルでは、パッシベーション層の一部を導電性の非晶質シリコン層にするため、実施例1-3で実現できた曲線因子FFの向上(改善)に加えて、成膜を行わないために非晶質シリコン層の膜厚を減らすことにでき、その結果、Jscの改善も実現できる。
【0055】
[実施例5、6及び比較例2の太陽電池セルにおけるIV測定]
本発明者は、
図1に示す太陽電池セル10と比較して、結晶性シリコン基板の第1主面と第2主面の両方にテクスチャ構造を形成した点のみが異なる太陽電池セルに関してもIV測定を実施した。
図5は、その太陽電池セル110における
図1に対応する厚さ方向の模式断面図であり、実施例5、6の太陽電池セル110における
図1に対応する厚さ方向の模式断面図である。
【0056】
図5に示すように、実施例5、6の太陽電池セル110では、結晶性シリコン基板111の受光面側の第1主面にも、テクスチャ構造が形成されるので、結晶性シリコン基板111の第1主面側に設けられる各層の第1主面と第2主面にも、結晶性シリコン基板111の第1主面のテクスチャ構造に対応するようにピラミッド状の凹凸が形成される。
【0057】
より詳しくは、
図5に示すように、実施例5、6の太陽電池セル110は、結晶性シリコン基板111の受光面側の第1主面上に設けられ、非晶質シリコン系材料で構成される第1パッシベーション層112と、第1パッシベーション層112の第1主面上に設けられたn型の第1非晶質シリコン層113と、第1非晶質シリコン層113の第1主面上に設けられたn型の非晶質酸化物シリコン層114と、非晶質酸化物シリコン層114の第1主面上に設けられたn型の微結晶シリコン層115と、微結晶シリコン層115の第1主面上に設けられた受光面側の第1透明電極116を備える。また、太陽電池セル110は、更に、結晶性シリコン基板111の裏面側の第2主面上に設けられ、非晶質シリコン系材料で構成される第2パッシベーション層122と、第2パッシベーション層122の第2主面上に設けられた第2導電型の一例としてのp型の第2非晶質シリコン層123と、第2非晶質シリコン層123の第2主面上に設けられた裏面側の第2透明電極124を備える。ここで、各層112~116,122~124の第1主面及び第2主面は、ピラミッド状の凹凸を有する。
【0058】
<実施例5の太陽電池セル>
結晶性シリコン基板111の第1主面と第2主面の両方にテクスチャ構造を形成した点のみが実施例1の太陽電池セルと異なり、それ以外の作製条件は、実施例1の太陽電池セルと同一の太陽電池セル110を、実施例5の太陽電池セルとした。すなわち、実施例5の太陽電池セルでは、CO2ガスの供給時間を約10secとした。
【0059】
<実施例6の太陽電池セル>
結晶性シリコン基板111の第1主面と第2主面の両方にテクスチャ構造を形成した点のみが実施例3の太陽電池セルと異なり、それ以外の作製条件は、実施例3の太陽電池セルと同一の太陽電池セル110を、実施例6の太陽電池セルとした。すなわち、実施例6の太陽電池セルでは、CO2ガスの供給時間を約20secとした。
【0060】
<比較例2の太陽電池セル>
結晶性シリコン基板の第1主面と第2主面の両方にテクスチャ構造を形成した点のみが比較例1の太陽電池セルと異なり、それ以外の作製条件は、比較例1の太陽電池セルと同一の太陽電池セルを、比較例2の太陽電池セルとした。すなわち、比較例2の太陽電池セルでは、i型非晶質シリコンとn型の微結晶シリコンとの界面に、CO2ガスを10sec供給して酸化処理を行った。
【0061】
(IV測定結果)
次の表2に、IV測定を示す。なお、表2においても、実施例5、6の各物理量の値は、比較例2の値を100としたときの値である。また、表2においても、Jscは、短絡電流[A]であり、Vocは、開放電圧[V]であり、FFは、曲線因子であり、ηは、太陽電池セルの変換効率[%]である。
【表2】
【0062】
表2に示すように、結晶性シリコン基板の第1主面と第2主面の両方にテクスチャ構造を形成した太陽電池セルにおいても、非晶質酸化物シリコン層とパッシベーション層との間に導電性の非晶質シリコン装置を設ければ、非晶質酸化物シリコン層とパッシベーション層との間に導電性の非晶質シリコン装置が存在しない太陽電池セルとの比較において、曲線因子FF及び変換効率ηを10%以上大幅に改善させることができることを確認できた。
【0063】
[実施例5、6及び比較例2の太陽電池セルにおけるIV測定]
本発明者は、
図1に示す太陽電池セル10と比較して、結晶性シリコン基板の第1主面と第2主面の両方にテクスチャ構造を形成した点のみが異なる太陽電池セルに関してもIV測定を実施した。
図5は、その太陽電池セルにおける
図1に対応する厚さ方向の模式断面図であり、実施例5、6の太陽電池セル110における
図1に対応する厚さ方向の模式断面図である。
【0064】
[微結晶シリコン層と、裏面側のp型の非晶質シリコン層の表面粗さの測定]
本発明者は、
図5に示す、結晶性シリコン基板111の第1主面と第2主面の両方にテクスチャ構造を形成した1の太陽電池セル110に関して、太陽電池セル110の断面のTEM画像に基づいて、微結晶シリコン層115の表面粗さと、裏面側のp型の第2非晶質シリコン層123の表面粗さを見積り、それら2つの層115,123の表面粗さを比較した。詳しくは、それら2つの層115,123に関し、表面粗さとして、算術平均粗さRaを採用し、2つの層115,123の夫々において、TEX画像における斜面上の長さ80nmの領域で表面粗さを見積もった。
【0065】
(表面粗さ測定結果)
次の表3に、表面粗さRaの測定結果を示す。
【表3】
【0066】
測定結果により、第1導電型の微結晶シリコン層(本試験では、n型の微結晶シリコン層115に相当)の表面粗さRaを、第2導電型の非晶質シリコン層(本試験では、p型の第2非晶質シリコン層123に相当)の表面粗さRaよりも粗くできることを確認できた。微結晶シリコン層115の層厚を厚くする、または酸化処理や成膜レートを遅くすることなどで微結晶化を促進することで表面粗さRaを大きくできる。したがって、微結晶シリコン層115の層厚を調整すること等で、第1導電型の微結晶シリコン層115と第2導電型の第2非晶質シリコン層123の表面粗さRaの差異を調整することができ、例えば、微結晶シリコン層115の表面粗さRaを、第2非晶質シリコン層123の表面粗さRa以上にできる。
【0067】
太陽電池セルの発電性能や広い波長域における良好な発電性能を実現するために、多接合型太陽電池セルを形成する場合がある。そのような場合において、ボトムセルにおいて、
図6及び
図7に示すように、第1導電型の微結晶シリコン層の表面を、第2導電型の非晶質シリコン層の表面と比較して粗く形成すると好ましい場合がある。
【0068】
例えば、ボトムセルを、シリコン基板を有するシリコン材料太陽電池セル(例えば、
図1に示す太陽電池セル)で構成し、トップセルを、ペロブスカイト基板を有するペロブスカイト太陽電池で構成する場合を考える。この場合、ペロブスカイト太陽電池の各層は、蒸着などのドライプロセス、またはスピンコート、ダイコート、またはインクジェットなどのウェットプロセスで形成されることもあり、特にウェットプロセスにおいてはペロブスカイト太陽電池材料のボトムセルに対する親水性(接触角)は、ボトムセルの表面粗さによって変化することが推測できる。
【0069】
よって、ペロブスカイト太陽電池材料の親水性(接触角)は、ペロブスカイト結晶の粒径や粒密度に影響を与え、それらの変化はペロブスカイト太陽電池の製造プロセス安定性に影響を与えることが期待できる。そのため、第1導電型の微結晶シリコン層を利用したボトムセルの受光面の表面粗さを裏面と独立して制御することで、その上に形成するトップセルの製造プロセス安定性向上に貢献できることが期待できる。多接合型太陽電池セルの一例のより詳しい構造については、次の第2実施形態で説明する。また、ペロブスカイト太陽電池からシリコン太陽電池の光電変換層の間で生じる反射損失を低減するためには、間の非晶質シリコン層、微結晶シリコン層、または透明電極の屈折率の制御が必要である。非晶質シリコンとは異なる屈折率をもちえる微結晶シリコン層を設けることによって、シリコン太陽電池の光電変換層、すなわち結晶性シリコン基板に到達する光量を最大化できることを期待できる。
【0070】
(第2実施形態)
図8は、本開示の第2実施形態の多接合型太陽電池セル210の厚さ方向の模式断面図である。
図8に示すように、多接合型太陽電池セル(以下、単に、太陽電池セルという)210は、ボトムセル220の受光面にトップセル230を接合してなる構造を有する。ボトムセル220は、
図1に示す太陽電池セル10との比較において、第1透明電極16を削除した点のみが異なる構造を有する。ボトムセル220の受光面は、微結晶シリコン層15に含まれる。ボトムセル220では、n型の微結晶シリコン層15の表面粗さRaが、p型の第2非晶質シリコン層23の表面粗さRaよりも大きくなっている。
【0071】
トップセル230は、公知の如何なるペロブスカイト太陽電池セルで構成されてもよく、トップセル230は、ペロブスカイト結晶で構成される光電変換層211と、光電変換層211の受光面側である第1主面上に設けられた電子輸送層212と、電子輸送層212の第1主面上に設けられた第1透明電極213と、光電変換層211の裏面側である第2主面上に設けられた正孔輸送層214と、正孔輸送層214の第2主面上に設けられた第2透明電極215を備える。
【0072】
光吸収層211は、組成式AMX3で示されるペロブスカイト構造を有する化合物を光吸収材料として含む。Aは一価のカチオンである。Aの例としては、アルカリ金属カチオンまたは有機カチオンのような一価のカチオンが挙げられる。さらに具体的には、Aの例として、メチルアンモニウムカチオン(CH3NH3
+)、ホルムアミジニウムカチオン(NH2CHNH2
+)、セシウムカチオン(Cs+)、ルビジウムカチオン(Rb+)が挙げられる。Mは2価のカチオンである。Mは、例えば、遷移金属または第13族元素~第15族元素の2価のカチオンである。さらに具体的には、Mの例として、Pb2+、Ge2+、Sn2+が挙げられる。Xはハロゲンアニオンなどの1価のアニオンである。A、M、Xのそれぞれのサイトは、複数種類のイオンによって占有されていてもよい。ペロブスカイト構造を有する化合物の具体例としては、CH3NH3PbI3、CH3CH2NH3PbI3、NH2CHNH2PbI3、CH3NH3PbBr3、CH3NH3PbCl3、CsPbI3、CsPbBr3、RbPbI3、RbPbBr3等が挙げられる。光電変換層211は、シリコンよりも大きなバンドギャップを有する。光電変換層211は、不純物を含有してもよい。光電変換層211は、上記のペロブスカイト化合物以外の化合物を更に含有してもよい。光電変換層211は、例えば、100ナノメートル以上10マイクロメートル以下の厚み、好ましくは、100ナノメートル以上1000ナノメートル以下の厚みを有してもよい。
【0073】
電子輸送層212は、半導体を含む。半導体の例としては、有機または無機のn型半導体が挙げられる。有機のn型半導体としては、イミド化合物、キノン化合物、ならびにフラーレンおよびその誘導体などが挙げられる。また無機半導体としては、例えば金属元素の酸化物を用いることができる。金属元素の酸化物としては、例えばCd、Zn、In、Pb、Mo、W、Sb、Bi、Cu、Hg、Ti、Ag、Mn、Fe、V、Sn、Zr、Sr、Ga、Crの酸化物を用いることができる。より具体的な例としては、酸化スズ、酸化チタンが挙げられる。電子輸送層212は、材料の異なる複数の層を含む積層構造を有していてもよく、例えば、下から酸化スズとC60(フラーレン)を積層した積層構造を有してもよい。
【0074】
正孔輸送層214は、有機物、自己組成化単分子膜、又は無機物、例えば金属酸化物によって構成される。正孔輸送層214は、例えばポリ-3-ヘキシルチオフェン(P3HT)、ポリ[ビス(4-フェニル)(2,4,6-トリメチルフェニル)アミン](PTAA)、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)等のポリチオフェン誘導体、2,2’,7,7’-テトラキス(N,N’-ジ-p-メトキシフェニルアミン)-9-9’-スピロビフルオレン(Spiro-OMeTAD)、酸化ニッケルや酸化モリブデンなどで構成される。正孔輸送層214は、互いに異なる材料から形成される複数の層を含んでいてもよい。正孔輸送層214は、支持電解質および溶媒を含有してもよい。支持電解質および溶媒を含有させることで、正孔輸送層214中の正孔を安定化させることができる。
【0075】
第1透明電極213及び第2透明電極215は、例えば、酸化インジウム(In2O3)、酸化亜鉛(ZnO)等の金属酸化物に、タングステン(W)、錫(Sn)、アンチモン(Sb)、ジルコニウム(Zr)等がドーピングされた透明導電性酸化物(IWO、ITO等)で構成される。
【0076】
太陽電池セル210は、結晶性シリコン基板を有するボトムセル220と、ボトムセル220上に設けられ、シリコンよりも大きなバンドギャップを持つ光電変換層211を有するトップセル230と、を備えるので、発電性能を広い波長域の非光に対して良好なものにできると共に、出力を向上させることができる。また、n型の微結晶シリコン層15の表面粗さRaを、p型の第2非晶質シリコン層23の表面粗さRaよりも大きくしているので、トップセル230の製造プロセスの安定性を向上させることができる。
【0077】
なお、ボトムセル220の結晶性シリコン基板として、裏面側の第2主面のみがテクスチャ構造を有する結晶性シリコン基板11を採用した。しかし、
図9、すなわち、変形例の多接合型太陽電池セル310における
図8に対応する厚さ方向の模式断面図に示すように、ボトムセル320の結晶性シリコン基板として、裏面側の第2主面に加えて受光面側の第1主面にもテクスチャ構造を形成した結晶性シリコン基板111を採用してもよい。
【0078】
そして、トップセル330における、ペロブスカイト結晶で構成される光電変換層311、電子輸送層312、第1透明電極313、正孔輸送層314、及び第2透明電極315の夫々の第1及び第2主面の両方に結晶性シリコン基板111の第1主面に形成したテクスチャ構造に倣ったピラミッド状の凹凸を形成してもよい。またトップセルのいずれかの層を厚くすることで下層の凹凸を緩和させるような構造としてもよい。詳しくは、トップセルのいずれかの層を厚くすると、トップセルにおいて、テクスチャ構造の凹凸における谷箇所では、層厚が分厚くなり易く、逆に頂点部では、層厚が薄くなり易くなり、凹凸が緩和され易い。また、特に、ウェットプロセスを選択した場合は、テクスチャ構造の凹凸の緩和が顕著となり易い。
【0079】
また、トップセル230,330を、ペロブスカイト太陽電池セルとした場合について説明したが、トップセルは、ペロブスカイト太陽電池セル以外の如何なる太陽電池セルでもよい。ここで、トップセルを、シリコンよりも大きなバンドギャップを持つ光電変換層を有する太陽電池セルで構成する。
【0080】
また、この場合においても、
図10、すなわち、他の変形例の多接合型太陽電池セル410における
図8に対応する厚さ方向の模式断面図に示すように、シリコン材料で構成されるボトムセル420の結晶性シリコン基板の裏面側の第2主面のみにテクスチャ構造を形成しもよい。また、多接合型太陽電池セル410においてボトムセル420の受光面側に構成されるトップセル430は、シリコンよりも大きなバンドギャップを持つ光電変換層を有していればよい。
【0081】
又は、
図11、すなわち、更なるの変形例の多接合型太陽電池セル510における
図8に対応する厚さ方向の模式断面図に示すように、シリコン材料で構成されるボトムセル520の結晶性シリコン基板の裏面側の第2主面に加えて受光面側の第2主面にもテクスチャ構造を形成してもよい。また、この場合においても、多接合型太陽電池セル510においてボトムセル520の受光面側に構成されるトップセル530は、シリコンよりも大きなバンドギャップを持つ光電変換層を有していればよい。なお、多接合型太陽電池セルに関して、ボトムセルの結晶性シリコン基板は、第1主面と第2主面の両方にテクスチャ構造を有していなくてもよい。
【0082】
[本開示の太陽電池セルの主構成と、その作用効果]
以上、太陽電池セル10は、結晶性シリコン基板11の第1主面上に設けられるn型(第1導電型)の第1非晶質シリコン層13と、第1非晶質シリコン層13の第1主面上に設けられるn型の非晶質酸化物シリコン層14と、非晶質酸化物シリコン層14の第1主面上に設けられるn型の微結晶シリコン層15と、を備える。そして、第1非晶質シリコン層13、非晶質酸化物シリコン層14、及び微結晶シリコン層15における酸素原子濃度が、厚さ方向に関して非晶質酸化物シリコン層14内で極大値を有する。
【0083】
本開示によれば、n型の非晶質シリコンを形成し、その後、酸化処理を行っているので、微結晶シリコン層15の結晶化を容易かつ迅速に行うことができる。
【0084】
また、結晶性シリコン基板11の第1主面と第1非晶質シリコン層13の第2主面との間に、非晶質シリコン系材料で構成されて実質的に真性な第1パッシベーション層12を備えてもよい。この場合、導電性を有する第1非晶質シリコン層13を、それよりも裏面側の下層に位置して実質的に真性な第1パッシベーション層12と酸化膜を介すことなく直接接触させることができる。したがって、上述の比較例1、2の太陽電池セルと比較して、第1非晶質シリコン層13から第1パッシベーション層12へのドーパントの拡散を促進でき、第1パッシベーション層12の導電性を高くできる。したがって、曲線因子FFや変換効率ηを大きくできる。
【0085】
また、導電性が低い実質的に真性な第1パッシベーション層12の厚みを、パッシベーションに必要な厚みのみにできるので、特許文献1に記載の陽電池セルと比較して、曲線因子FFや変換効率ηを大きくできる。
【0086】
[採用すると好ましい太陽電池セルの構成と、その作用効果]
微結晶シリコン層15の層厚に対して、第1パッシベーション層12の層厚は薄いと共に、第1非晶質シリコン層13の層厚は薄くてもよい。
【0087】
本構成によれば、太陽電池セル10の出力低下を起こさず、太陽電池セル10の厚さを小さくできる。したがって、太陽電池セル10の出力低下を起こさずに、太陽電池セル10をコンパクトに作製し易く、太陽電池セル10の製造コストも低減し易い。
【0088】
また、結晶性シリコン基板11の第2主面上に設けられ、非晶質シリコン系材料で構成される第2パッシベーション層22と、第2パッシベーション層22の第2主面上に設けられたp型(第2導電型)の第2非晶質シリコン層23と、を備えてもよい。そして、微結晶シリコン層15の結晶化率を、第2非晶質シリコン層23の結晶化率よりも大きくしてもよい。なお、結晶化率は、試料をラマン分光法で測定したときの、(520[cm-1]の光の強度)/(480[cm-1]の光の強度)で定義する。
【0089】
層の結晶化を行うのには長い成膜時間を要し、所望の結晶化を行うためには熟練を要する。本構成によれば、太陽電池セル10の製造時間を短縮でき、製造条件の自由度も大きくできる。したがって、太陽電池セル10の量産性を向上でき、歩留まり率も高くし易い。なお、本開示の太陽電池セルでは、裏面側に、非晶質酸化物シリコン層を形成すると共に、非晶質酸化物シリコン層の第2主面上に第2導電型の微結晶シリコン層を形成してもよい。
【0090】
また、第1パッシベーション層12のn型の原子の濃度が、1×1021atoms/cm3未満であって、第1非晶質シリコン層13のn型の原子の濃度よりも小さくてもよい。また、第2パッシベーション層22のp型の原子の濃度が、1×1021atoms/cm3未満であって、第2非晶質シリコン層23のp型の原子の原子濃度よりも小さくてもよい。
【0091】
本構成によれば、太陽電池セル10の出力電力を大きくし易い。
【0092】
また、第1非晶質シリコン層13に含有されるn型の原子の原子濃度が、1×1022atoms/cm3未満でもよい。また、微結晶シリコン層15に含有されるn導電型の原子の原子濃度が、1×1022atoms/cm3未満でもよい。
【0093】
本構成によれば、微結晶シリコン層15に含有されるn導電型の原子の原子濃度が、1×1022atoms/cm3未満であるので、微結晶シリコン層15の結晶化を円滑に行い易い。
【0094】
また、微結晶シリコン層15の第1主面上、及び第2非晶質シリコン層23の第2主面上のうちの少なくとも一方に透明電極(透明導電膜層)10,24を設けてもよい。
【0095】
本構成によれば、光電変換層に到達する光の光量を大きくできる。
【0096】
また、微結晶シリコン層15の平均算術粗さが、第2非晶質シリコン層23の平均算術粗さ以上でもよい。
【0097】
本構成によれば、太陽電池セル10の受光面上にペロブスカイト太陽電池セルを作製し易い。
【0098】
また、本開示の太陽電池セル(多接合型太陽電池セル)210,310,410,510は、シリコン系材料で構成されるボトムセル220,320,420,520と、シリコンよりも大きなバンドギャップを持つ光電変換層211,311を有するトップセル(第2太陽電池セル)230,330,430,530と、を備える。
【0099】
本開示によれば、太陽電池セル210,310,410,510の発電性能を広い波長域の非光に対して良好なものにできると共に、出力を向上させることができる。
【0100】
また、第1非晶質シリコン層13と微結晶シリコン層15を、同一の化学気相成長成膜室で大気開放されずに形成してもよい。また、第1パッシベーション層12と第1非晶質シリコン層13を、同一の化学気相成長成膜室で大気開放されずに形成してもよい。
【0101】
より詳しくは、
図1等を用いて説明した太陽電池セル10の作製において、結晶性シリコンの第1主面上のパッシベーション層の成膜と、n型の非晶質シリコン層の成膜と、酸化処理と、n型の微結晶シリコンの成膜を、全て同一のCVD成膜室で行ってもよく、その一連の処理中に成膜室やトレイのトランスファーや大気暴露を行わなくてもよい。
【0102】
本構成によれば、導電性不純物を含まない真性なシリコン層を形成するための成膜室やトレイなどの追加装置を必要とせず、しかも、雰囲気中の不純物を完全に排気するためのプロセス時間も不要であるため、製造のプロセスタイムを大幅に低減できる。
【0103】
なお、本開示は、上記実施形態およびその変形例に限定されるものではなく、本願の特許請求の範囲に記載された事項およびその均等な範囲において種々の改良や変更が可能である。
【0104】
例えば、上述の説明では、第1導電型をn型とすると共に第2導電型をp型として、受光面側にn型のシリコン層を形成する場合について説明した。しかし、本開示の太陽電池セルでは、第1導電型をp型とすると共に第2導電型をn型として、受光面側にp型のシリコン層を形成してもよい。その場合においても、単に導電性を逆にしただけであるので、第1導電型をn型としたと場合と全く同様の採用効果を獲得することができる。
【0105】
より詳しくは、例えば、上述の[本開示の太陽電池セルの主構成と、その作用効果]や、採用すると好ましい太陽電池セルの構成と、その作用効果]において、それらの欄で説明した多数の太陽電池セルとの比較において導電性を逆にしただけの太陽電池セルを作製した場合においても、それらの欄で説明した多数の太陽電池セルと同様の優れた作用効果を獲得できる。なお、導電性を逆にするには、n型の導電性を有するP等の原子をp型の導電性を有すB等の原子に入れ替えると共に、p型の導電性を有すB等の原子をn型の導電性を有するP等の原子に入れ替えればよいのは、言うまでもない。
【0106】
また、非晶質酸化物シリコン層が第1導電型である場合について説明したが、本開示の太陽電池セルでは、非晶質酸化物シリコン層は、第1導電型でなくてもよい。本開示の太陽電池セルでは、非晶質酸化物シリコン層を意図的に第1導電性を帯びないように作製してもよい。そのようにしても、第1導電型の微結晶シリコン層の微結晶化を促進できて、発明の効果は変わらないと考えられるからである。
【符号の説明】
【0107】
10,110 太陽電池セル、 11,111 結晶性シリコン基板、 12,112 第1パッシベーション層、 13,113 第1非晶質シリコン層、 14,114 非晶質酸化物シリコン層、 15,115 微結晶シリコン層、 16,116,213,313 第1透明電極、 22,122 第2パッシベーション層、 23,123 第2非晶質シリコン層、 24,124,215,315 第2透明電極、 210,310,410,510 多接合型太陽電池セル、 第2非晶質シリコン層 211.311 光電変換層、 212,312 電子輸送層、 214,314 正孔輸送層、 220,320,420,520 ボトムセル、 230,330,430,530 トップセル。