(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022183707
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】皮膚常在菌叢制御用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 8/98 20060101AFI20221206BHJP
A61Q 17/00 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
A61K8/98
A61Q17/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021091151
(22)【出願日】2021-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100104802
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 尚人
(74)【代理人】
【識別番号】100186772
【弁理士】
【氏名又は名称】入佐 大心
(72)【発明者】
【氏名】芝本 繁明
(72)【発明者】
【氏名】米田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼井 亮吾
(72)【発明者】
【氏名】山本 公平
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AA071
4C083AA072
4C083AC022
4C083AC081
4C083DD08
4C083DD27
4C083DD31
4C083DD41
4C083EE41
4C083FF01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】皮膚常在菌叢における菌種の多様性を処置前の状態より向上ないし改善することができる、新たな皮膚常在菌叢制御用組成物を提供する。
【解決手段】赤ミミズ(Lumbricus rubellus)から抽出されたミミズ脂質を有効量含有する組成物(例、軟膏剤、液剤)を提供する。該組成物は、例えばスキンケア製品や化粧品の原料として有用である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚常在菌叢における菌種の多様性を制御するための組成物であって、有効量のミミズ脂質と基剤とを含有する、組成物。
【請求項2】
ミミズ脂質が、生ミミズからタンパク質を抽出除去した後の抽出残渣から得られたものである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
ミミズが赤ミミズ(Lumbricus rubellus)である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
皮脂分泌量が少ない対象者または皮膚にアトピー症状を有する対象者に適用するための、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物を含む、皮膚上における炭素数16のモノエン脂肪酸増強剤。
【請求項6】
剤型が、軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤、液剤、パップ剤、テープ剤、シート剤、エアゾール剤、外用散剤、スプレー剤、または入浴剤である、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物、または請求項5に記載の皮膚上における炭素数16のモノエン脂肪酸増強剤。
【請求項7】
請求項1~6に記載の組成物または皮膚上における炭素数16のモノエン脂肪酸増強剤を含む、化粧料。
【請求項8】
生ミミズからタンパク質が抽出除去された後の抽出残渣(ミミズ脱水ケーキ)から、極性有機溶媒を用いて抽出するか、またはミミズ脱水ケーキをアルカリでケン化し、ケン化物から無極性有機溶媒を用いて抽出することにより得られる、皮膚常在菌叢制御用組成物。
【請求項9】
生ミミズからタンパク質が抽出除去された後の抽出残渣(ミミズ脱水ケーキ)から、極性有機溶媒を用いて抽出するか、またはミミズ脱水ケーキをアルカリでケン化し、ケン化物から無極性有機溶媒を用いて抽出することにより得られる、皮膚常在菌叢制御用ミミズ脂質。
【請求項10】
極性有機溶媒が、塩素系有機溶媒とアルコール系有機溶媒の混合溶媒である、請求項8に記載の皮膚常在菌叢制御用組成物または請求項9に記載の皮膚常在菌叢制御用ミミズ脂質。
【請求項11】
無極性有機溶媒が、炭化水素系有機溶媒である、請求項8に記載の皮膚常在菌叢制御用組成物または請求項9に記載の皮膚常在菌叢制御用ミミズ脂質。
【請求項12】
皮膚常在菌叢における菌種の多様性を制御するための組成物を製造する方法であって、
ミミズからミミズ脂質を抽出するステップと、
ミミズ脂質と基剤とを混合するステップと、
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主にスキンケアの技術分野に属する皮膚常在菌叢制御用組成物に関するものである。詳しくは、本発明は、ミミズから抽出されたいわゆるミミズ脂質を含有する皮膚常在菌叢制御用組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
体内外を隔てる表皮、角質層の働きに加えて皮脂膜の形成が、ヒトの皮膚バリア機構に対して重要な役割を担っている。皮脂膜は、皮脂腺から分泌された皮脂が皮膚微生物由来の酵素リパーゼにより遊離脂肪酸へと分解され、汗腺より分泌された汗に含まれるナトリウムと結合することにより生成される脂肪酸ナトリウムにより形成される。皮脂膜は物理的なバリアとなり異物の侵入を防ぐと共に、表皮からの水分蒸散を抑え皮膚の乾燥を防ぎ、また皮膚表面の環境を安定化させる働きを併せ持つ。皮脂の分泌量が少ない場合や、皮脂の分泌が十分であっても発汗量が少ない場合には、脂肪酸ナトリウムが生成され難くなり、皮脂膜の形成が不十分でバリア効果が低下すると考えられる。
【0003】
通常皮膚上ではその環境に適した200種以上の微生物がバランスを保って菌叢を形成しており病原性菌の増殖を防いでいる。皮脂が皮膚微生物のリパーゼに分解されて生成する遊離脂肪酸異性体の中には特定の種類の菌の増殖を抑制する効果を持つものがあり、構成脂肪酸の存在比が皮膚微生物叢に影響していると考えられる。そして、皮膚微生物叢の組成により病原性の微生物に対する耐性が異なると考えられる。
このように、皮膚微生物叢あるいは皮膚常在菌叢の組成ないし多様性を健康な皮膚と同じような状態に制御することは、健康肌を維持する上でも、病原性の微生物の侵入を阻止する上でも、またアトピー性皮膚炎などの炎症を抑制する上でも重要である。非特許文献1では、敏感肌では皮膚常在菌叢の多様性が低いことが紹介されている。
【0004】
皮膚常在菌叢を制御する技術としては、例えば、乳酸マグネシウムおよび/または乳酸カルシウムを有効成分とする皮膚常在菌制御用塗布剤が知られている(特許文献1)。特許文献1によれば、かかる皮膚常在菌制御用塗布剤により、皮膚常在菌の善玉菌の菌数の減少を抑えつつ、悪玉菌の菌数を減らすことができるという。
【0005】
一方、ミミズ、特に養殖されている赤ミミズ(Lumbricus rubellus)に関しては、乾燥し粉末状に加工したものが健康補助食品(サプリメント)や医薬品として広く流通している。当該ミミズには解熱・鎮痛作用がある成分が含まれており、また血栓を溶かす働きがあるとされる酵素ルンブロキナーゼが含まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「資生堂、敏感肌では皮膚常在菌叢の多様性が低いことを発見」、2020年08月19日、発行元:株式会社資生堂、インターネット(URL: https://corp.shiseido.com/jp/news/detail.html?n=00000000002960)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述の通り、皮膚常在菌叢の組成ないし多様性を健康な皮膚と同じような状態に制御することは、健康肌を維持する上でも、病原性の微生物の侵入を阻止する上でも、またアトピー性皮膚炎などの炎症を抑制する上でも重要である。
本発明は、皮膚常在菌叢における菌種の多様性(皮膚上微生物の多様性)を処置前の状態より向上ないし改善することができる新たな皮膚常在菌叢制御用組成物を提供することを主な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討した結果、ミミズから抽出されたいわゆるミミズ脂質に皮膚常在菌の多様性を高める作用などがあることを見出し、本発明を完成するに到った。
本発明として、例えば、以下の態様を挙げることができる。
[1]皮膚常在菌叢における菌種の多様性を制御するための組成物であって、有効量のミミズ脂質と基剤とを含有する、組成物。
[2]ミミズ脂質が、生ミミズからタンパク質を抽出除去した後の抽出残渣から得られたものである、上記[1]に記載の組成物。
[3]ミミズが赤ミミズ(Lumbricus rubellus)である、上記[1]または[2]に記載の組成物。
[4]皮脂分泌量が少ない対象者または皮膚にアトピー症状を有する対象者に適用するための、上記[1]~[3]のいずれか一項に記載の組成物。
[5]上記[1]~[4]のいずれか一項に記載の組成物を含む、皮膚上における炭素数16のモノエン脂肪酸増強剤。
[6]剤型が、軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤、液剤、パップ剤、テープ剤、シート剤、エアゾール剤、外用散剤、スプレー剤、または入浴剤である、上記[1]~[4]のいずれか一項に記載の組成物、または上記[5]に記載の皮膚上における炭素数16のモノエン脂肪酸増強剤。
[7]上記[1]~[6]に記載の組成物または皮膚上における炭素数16のモノエン脂肪酸増強剤を含む、化粧料。
[8]生ミミズからタンパク質が抽出除去された後の抽出残渣(ミミズ脱水ケーキ)から、極性有機溶媒を用いて抽出するか、またはミミズ脱水ケーキをアルカリでケン化し、ケン化物から無極性有機溶媒を用いて抽出することにより得られる、皮膚常在菌叢制御用組成物。
[9]生ミミズからタンパク質が抽出除去された後の抽出残渣(ミミズ脱水ケーキ)から、極性有機溶媒を用いて抽出するか、またはミミズ脱水ケーキをアルカリでケン化し、ケン化物から無極性有機溶媒を用いて抽出することにより得られる、皮膚常在菌叢制御用ミミズ脂質。
[10]極性有機溶媒が、塩素系有機溶媒とアルコール系有機溶媒の混合溶媒である、上記[8]に記載の皮膚常在菌制御用組成物または[9]に記載の皮膚常在菌叢制御用ミミズ脂質。
[11]無極性有機溶媒が、炭化水素系有機溶媒である、上記[8]に記載の皮膚常在菌制御用組成物または[9]に記載の皮膚常在菌叢制御用ミミズ脂質。
[12]皮膚常在菌叢における菌種の多様性を制御するための組成物を製造する方法であって、ミミズからミミズ脂質を抽出するステップと、ミミズ脂質と基剤とを混合するステップと、を含む方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、皮膚上微生物の多様性(皮膚常在菌の多様性)を適用前の状態より向上ないし改善することができ、これによって、皮膚のバリア機能が高まり、病原性菌の増殖を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】皮膚常在菌叢を表す。上図は健常者の結果を、下図はアトピーホルダーの結果を、それぞれ示す。
【
図2】多様性解析結果を表す。左図はSimpson’s Indexの解析結果であり、右図はShannon Entropyの解析結果である。各線種は、コントロールの推移、ミミズ脂質を塗布した場合の推移を、それぞれ示す。
【
図3】GC/MS分析の結果を表すクロマトグラム(TIC)である。左図はコントロールの結果を、右図はミミズ脂質を塗布した場合の結果を、それぞれ示す。各線種は、2週間塗布後の皮脂、ミミズ脂質塗布前の皮脂、およびミミズ脂質のクロマトグラムをそれぞれ示し、▽は、炭素数16のモノエン脂肪酸のピークを示す。
【
図4】多様性解析結果を表す。左図はSimpson’s Indexの解析結果であり、右図はShannon Entropyの解析結果である。各線種は、コントロールの推移、ミミズ脂質を塗布した場合の推移を、それぞれ示す。
【
図5】GC/MS分析の結果を表すクロマトグラム(TIC)である。左図はコントロールの結果を、右図はミミズ脂質を塗布した場合の結果を、それぞれ示す。各線種は、2週間塗布後の皮脂、ミミズ脂質塗布前の皮脂、およびミミズ脂質のクロマトグラムをそれぞれ示し、▽は、炭素数16のモノエン脂肪酸のピークを示す。
【
図6】多様性解析結果を表す。左図はSimpson’s Indexの解析結果であり、右図はShannon Entropyの解析結果である。各線種は、コントロールの推移、ミミズ脂質を塗布した場合の推移を、それぞれ示す。
【
図7】GC/MS分析の結果を表すクロマトグラム(TIC)である。左図はコントロールの結果を、右図はミミズ脂質を塗布した場合の結果を、それぞれ示す。各線種は、2週間塗布後の皮脂、ミミズ脂質塗布前の皮脂、およびミミズ脂質のクロマトグラムをそれぞれ示し、▽は、炭素数16のモノエン脂肪酸のピークを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について詳述する。
1 本発明の実施形態に係る組成物
本発明の実施形態に係る組成物(以下、「本発明組成物」という。)は、皮膚常在菌叢における菌種の多様性(皮膚上微生物の多様性ないし皮膚常在菌の多様性)を制御するための組成物であって、ミミズ脂質を有効量含有することを特徴とする。本発明組成物は、皮膚常在菌叢における菌種の多様性を適用前の状態より向上もしくは改善するため、または当該多様性を維持するために好ましく用い得る。
【0013】
ここで「制御」とは、皮膚常在菌叢における菌種数、または当該菌叢における複数種の菌種の占有率を変動もしくは維持させること(皮膚常在菌叢制御)をいい、皮膚常在菌叢における菌種の多様性を本発明組成物適用前の状態より向上ないし改善させること(皮膚常在菌叢改善)、および皮膚常在菌叢改善またはその他の要因により既に高い状態となっている当該多様性を維持させること(皮膚常在菌叢維持)を含む。「多様性」とは、菌種の豊富さ(菌の種数の多さ)という側面と、菌種の均等度(菌種間の個体数のバラつきの少なさ)という側面とを併せ持つ概念である。菌種の数が多ければ多いほど、また、さらに各菌種の個体数が同程度であればあるほど、あるいは占有率の偏りが小さければ小さいほど、多様性が高い(より善い)ということができる。その向上ないし改善の有無や程度は、上記の2側面を考慮して、例えば、シンプソンの多様度指数(Simpson’s Index)、シャノンエントロピー(Shannon Entropy)、中村のRI指数(中村、瀬戸内短期大学紀要、第24号:37-41、1994年)を指標として判定することができる。「有効量」とは、当該制御(例えば、皮膚常在菌叢改善、皮膚常在菌叢維持)の効果が当業者において確認される量をいう。
【0014】
「ミミズ脂質」とは、ミミズに含まれる多種多様な脂質群をいう。とりわけミミズのあらゆる部位に含まれる多種多様な脂質群をいう。当該脂質群は、通常、100種類以上の多種多様な脂質で構成されている。当該ミミズ脂質は、例えば、生ミミズからタンパク質が抽出除去された抽出残渣(ミミズ脱水ケーキ)から、極性有機溶媒を用いて、脂質を得るための抽出操作を施すことによりエキスとして得ることができる。当該極性有機溶媒としては、例えば、塩素系有機溶媒とアルコール系有機溶媒の混合有機溶媒を挙げることができ、具体的には、例えば、クロロホルムとメタノールまたはそれらに水を加えた混合有機溶媒を挙げることができる。また、ミミズ脱水ケーキをアルカリでケン化し、ケン化物のアルカリ溶液を酸性にして後、無極性有機溶媒で抽出することにより得ることができる。当該無極性有機溶媒としては、例えば、炭化水素系有機溶媒を挙げることができ、具体的には、例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタンを挙げることができる。
得られたミミズ脂質(総脂質)は、油状または固形状であり得る。
得られたエキスに添加剤を加え、適当に加工して、当該エキスを含む組成物(固形、半固形、液状など)としたものでもよい。
本発明に係るミミズとしては、特に制限されないが、ルンブルクス属(Lumbricus属)が好ましく、ルンブルクス・ルベルス(Lumbricus rubellus)、いわゆる赤ミミズがより好ましい。
【0015】
本発明組成物の剤型は、皮膚の表面に直接適用することができる剤型であれば特に制限されず、例えば、軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤、液剤(懸濁剤、乳剤、ローション剤等)、パップ剤、テープ剤、シート剤、エアゾール剤、および外用散剤、スプレー剤、入浴剤を挙げることができる。
【0016】
これらの製剤を調製するに際して、ミミズ脂質以外に、通常の外用剤を調製するのに使用される不活性な基剤または担体に各種配合成分を適宜選択して使用することができる。そのような基剤ないし成分として、軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤、ないしローション剤の場合には、白色ワセリン、黄色ワセリン、ラノリン、サラシミツロウ、セタノール、ステアリルアルコール、ステアリン酸、硬化油、ゲル化炭化水素、ポリエチレングリコール(マクロゴール)、1,3-ブチレングリコール、エタノール、イソプロパノール、流動パラフィン、スクワラン等の基剤;オレイン酸、ミリスチン酸イソプロピル、トリイソオクタン酸グリセリン、クロタミトン、セバシン酸ジエチル、アジピン酸ジイソプロピル、ラウリン酸ヘキシル、脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪族アルコール、植物油等の溶剤および溶解補助剤;チモール、トコフェロール誘導体、アスコルビン酸、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール等の酸化防止剤;フェノキシエタノール、パラヒドロキシ安息香酸エステル等の防腐剤;グリセリン、モノステアリン酸グリセリン、プロピレングリコール、ヒアルロン酸ナトリウム等の保湿剤;ポリオキシエチレン誘導体、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチン等の界面活性剤;カルボキシビニルポリマー、キサンタンガム、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩類、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等の増粘剤;エデト酸ナトリウム水和物、クエン酸水和物、クエン酸ナトリウム水和物等の安定化剤(キレート剤、抗酸化剤を含む);ジメチコン、環状シリコーン、変性シリコーン等のシリコーン類;サリチル酸等の角質柔軟成分を挙げることができる。さらに、所望により保存剤、吸収促進剤、pH調整剤、着色剤(酸化鉄等の顔料を含む)、着香剤、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤(酸化チタン、酸化亜鉛等)、賦形剤、分散剤、乳化剤、等張化剤、緩衝剤、充填剤、架橋剤、清涼化剤、皮膜剤、その他の適当な添加剤を配合することができる。
【0017】
パップ剤については、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸共重合体等の粘着付与剤;硫酸アルミニウム、硫酸カリウムアルミニウム、塩化アルミニウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、ジヒドロキシアルミニウムアセテート等の架橋剤;ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩類、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等の増粘剤;グリセリン、ポリエチレングリコール(マクロゴール)、プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール等の多価アルコール類;ポリオキシエチレン誘導体等の界面活性剤;L-メントール等の香料;パラヒドロキシ安息香酸エステル等の防腐剤;精製水;プラスチックフィルム、不織布、木綿等の支持体を挙げることができる。さらに、所望により安定剤、保存剤、吸収促進剤、pH調整剤、その他の適当な添加剤を配合することができる。
【0018】
テープ剤については、天然ゴム、イソプレンゴム、ポリイソブチレン、ポリブテン、液状ポリイソプレン、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体(SISブロック共重合体)、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、スチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体や、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(共)重合体、ポリアクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等のアクリル樹脂等の粘着剤;脂環族飽和炭化水素系樹脂、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂等の粘着付与樹脂;液状ゴム、流動パラフィン等の軟化剤;ジブチルヒドロキシトルエン等の酸化防止剤;プロピレングリコール等の多価アルコール;オレイン酸等の吸収促進剤;ポリオキシエチレン誘導体等の界面活性剤、その他の適当な添加剤を配合することができる。また、ポリアクリル酸ナトリウムやポリビニルアルコールのような含水可能な高分子と少量の精製水を加えて含水テープ剤とすることもできる。この場合にあっても、さらに、所望により安定剤、保存剤、吸収促進剤、pH調整剤、その他の適当な添加剤を配合することができる。
【0019】
エアゾール剤については、軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤、液剤(懸濁剤、乳剤、およびローション剤)等の調製に用いられる白色ワセリン、黄色ワセリン、ラノリン、サラシミツロウ、セタノール、ステアリルアルコール、ステアリン酸、硬化油、ゲル化炭化水素、ポリエチレングリコール(マクロゴール)、流動パラフィン、スクワラン等の基剤;オレイン酸、ミリスチン酸イソプロピル、アジピン酸ジイソプロピル、セバシン酸イソプロピル、トリイソオクタン酸グリセリン、クロタミトン、セバシン酸ジエチル、ラウリン酸ヘキシル、脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪族アルコール、植物油等の溶剤および溶解補助剤;トコフェロール誘導体、アスコルビン酸、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール等の酸化防止剤;パラヒドロキシ安息香酸エステル等の防腐剤;グリセリン、プロピレングリコール、ヒアルロン酸ナトリウム等の保湿剤;ポリオキシエチレン誘導体、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチン等の界面活性剤;カルボキシビニルポリマー、キサンタンガム、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩類、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等の増粘剤;ジメチルエーテル、液化石油ガス、フッ化炭化水素等の噴射剤;二酸化炭素、窒素、亜酸化窒素等の圧縮ガス;さらに、各種安定剤、緩衝剤、矯味剤、 懸濁化剤、乳化剤、芳香剤、保存剤、溶解補助剤、その他の適当な添加剤を配合することができる。
【0020】
外用散剤については、バレイショデンプン、コメデンプン、トウモロコシデンプン、タルク、酸化亜鉛等の賦形剤またはその他の適当な添加剤を配合することができる。この場合にあっても、さらに、所望により各種安定剤、保存剤、吸収促進剤、乳糖などの糖類、その他の適当な添加剤を配合することができる。
【0021】
上記外用剤を調製する方法としては特に制限されず、所望の剤型に応じて、各成分および必要に応じた基剤成分をよく混練する等の常法により製造することができる。また、パップ剤やテープ剤の調製においては、混練した混合物を剥離紙上に展延、乾燥し、さらに柔軟な支持体と貼り合わせ、所望の大きさに裁断することにより調製することができる。
【0022】
上記外用剤は、例えば、軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤、液剤(懸濁剤、乳剤、ローション剤等)、エアゾール剤および外用散剤の場合には、皮膚に直接適用(塗布)したり、あるいは、布等の支持体に塗布または含浸させて適用したりするなど、常法により使用することができる。また、パップ剤やテープ剤の場合には、これらの製剤を皮膚に直接貼付することにより使用することができる。
【0023】
2 本発明組成物の用途、製造方法、など
本発明組成物は、皮膚常在菌の多様性を適用前の状態より向上ないし改善するために用いることができる。また、本発明組成物は、抗菌性が高いとされる炭素数16のモノエン脂肪酸の比率を、適用前より高めることができるので、皮膚上における炭素数16のモノエン脂肪酸の比率を高めるための増強剤(以下、「本発明モノエン増強剤」という。)として用いることもできる。
【0024】
本発明組成物ないし本発明モノエン増強剤は、後述する実験結果から明らかな通り、皮脂分泌量が少ない対象者または皮膚にアトピー症状を有する対象者に有効性が高いことから、これらの対象者に適用することが好ましい。ここで「皮脂分泌量が少ない」とは、性別や年齢などによって異なるが、健常者の平均的な皮脂分泌量の、概ね、例えば1/2以下、1/3以下、1/5以下、または1/10以下であることをいう。
【0025】
本発明組成物は、例えば、ミミズ脂質に本発明の効果を損なわない範囲で他の成分(賦形剤、添加剤など)を加え、常法により混合などを行うことにより製造することができる。また、上記各製剤の製造方法に従って、本発明組成物を製造することもできる。
【0026】
ミミズ脂質は、例えば、生ミミズから公知の方法(例、酵素分解、酸もしくは有機溶媒添加や加熱もしくは冷却による不溶化、または限外ろ過、透析、もしくは遠心による物理的な除去)によりタンパク質が抽出除去された後の抽出残渣(ミミズ脱水ケーキ)から、有機溶媒を用いて、脂質を得るための抽出操作を施すことにより調製することができる。また、ミミズ脱水ケーキをアルカリでケン化し、ケン化物のアルカリ溶液を酸性にして後、有機溶媒で抽出することにより調製することもできる。なお、ミミズ脱水ケーキは、公知であって、生ミミズからタンパク質を抽出している業者から入手することができる。
ミミズ脱水ケーキから脂質を得るための具体的方法としては、例えば、Bligh-Dyer法、Folch法、直接ケン化法を挙げることができる。これらの方法によりミミズの総脂質を得ることができる。
【0027】
Bligh-Dyer法またはFolch法による場合、抽出溶媒として極性有機溶媒を用い、例えば、ミミズ脱水ケーキから抽出することによりミミズ脂質を得ることができる。極性有機溶媒としては、例えば、塩素系有機溶媒とアルコール系有機溶媒の混合有機溶媒を挙げることができ、具体的にはクロロホルム・メタノールの混合溶媒またはクロロホルム・メタノール・水の混合溶媒を挙げることができる。抽出溶媒としてクロロホルム・メタノールの混合溶媒を用いる場合、クロロホルムとメタノールの混合比率は適宜選択されるが、体積比で1:3~3:1(クロロホルム:メタノール)の範囲内が適当であり、1:2~2:1の範囲内が好ましい。
【0028】
直接ケン化法による場合は、例えば、ミミズ脱水ケーキ中の脂肪酸エステルをアルカリでケン化し、かかるケン化物から無極性有機溶媒で脂肪酸を抽出することによりミミズ脂質を得ることができる。当該無極性有機溶媒としては、例えば、炭化水素系有機溶媒を挙げることができ、具体的には、例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタンを挙げることができる。
【0029】
上記のようにして得られた総脂質は、通常、高度不飽和脂肪酸を含むが、これは酸化し易く、酸化物の皮膚への刺激性を考慮し、シリカゲルカラムを用いるなど常法により精製(高度不飽和脂肪酸を除く操作)してもよい。高度不飽和脂肪酸を除かず、酸化防止剤を用いることにより皮膚への刺激性に対応することもできる。
【0030】
上記抽出操作等により得られたミミズ脂質(総脂質)は、通常、油状のエキスであるが、かかるエキスに添加剤を加え、適当に加工して、当該エキスを含む組成物(固形、半固形、液状など)としたものをミミズ脂質として用いてもよい。
【0031】
本発明組成物または本発明モノエン増強剤は、化粧料の原料としても用いることができる。本発明組成物または本発明モノエン増強剤を含む化粧料(以下、「本発明化粧料」という。)は、皮膚常在菌の多様性を適用前の状態より向上ないし改善することができる機能性化粧料、または適用前より皮膚上における炭素数16のモノエン脂肪酸の比率を高める機能性化粧料ということができる。また、本発明化粧料は、機能性化粧料に限らず、例えば、スキンケア化粧料、美肌化粧料、ボディケア化粧料であってもよい。
本発明化粧料は、例えば、透明液状、分散液状、乳状、クリーム状、ジェル状、半固形状、固形状、フォーム状、粉末状・顆粒状、エアゾール状、シート状であり得る。
【0032】
ここで「化粧料」とは、医薬品医療機器等法に規定されるような「化粧品」のみならず、薬用化粧品等の「医薬部外品」をも含む。
【0033】
本発明化粧料を製造するに際して、本発明組成物および本発明モノエン増強剤以外に各種配合成分を適宜選択して使用することができる。そのような配合成分として、水(精製水、蒸留水、イオン交換水等)、1価アルコール(エタノール、イソプロパノール等)、保湿剤、油剤、界面活性剤、色素・色材、香料、美白有効成分、抗シワ成分、紫外線吸収剤、褪色防止剤、酸化防止剤、美容成分、防腐剤、消炎成分、殺菌成分、鎮痒成分等を挙げることができる。
【0034】
上記保湿剤としては、例えば、グリセリン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ポリエチレングリコール(300、400、1500、4000)、ポリグリセリン等の多価アルコール;グルコース、ショ糖、トレハロース、プルラン、マルチトール等の糖類;ピロリドンカルボン酸、シトルリン等のアミノ酸類;ヘパリン類似物質やムコ多糖等の多糖類;ヒアルロン酸またはその塩、コラーゲン等の生体高分子が挙げられる。
【0035】
上記油剤としては、例えば、カカオ脂、シア脂、オリーブ油、ツバキ油、マカデミアナッツ油、アーモンド油、ヤシ油、ゴマ油、コーン油、大豆油、サフラワー油、馬油、卵黄油、ミンク油、牛脂、馬脂等の油脂;カルナウバロウ、キャンデリラロウ、ホホバ油、ミツロウ、ラノリン、オレンジラフィー油等のロウ;ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトオレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等の脂肪酸;セタノール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール、ラウリルアルコール、コレステロール、シトステロール等の高級アルコール;流動パラフィン、ワセリン、パラフィン、セレシン、マイクロクリスタリンワックス、スクワラン、プリスタン等の炭化水素;トリイソステアリン酸グリセリル、オクタン酸セチル、ミリスチン酸イソプロピル、乳酸セチル、リンゴ酸ジイソステアリル等のエステル;シロキサン、ジメチコン、環状ジメチルシリコーン油、メチルポリシロキ酸、メチルフェニルポリシロキ酸等のシリコーン油;その他、動物油・植物油・合成油等の起源や固形・液状・揮発性等の性状を問わず、炭化水素類、油脂類、ロウ類、硬化油類、エステル油類、脂肪酸類、高級アルコール類、シリコーン油、ラノリン誘導体類、油性ゲル化剤類、油溶性樹脂等が挙げられる。
【0036】
上記界面活性剤としては、例えば、高級脂肪酸石けん、アルキル硫酸エステル塩、アルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキルリン酸エステル塩、アルキルエーテルリン酸エスエル塩、N-アシルアミノ酸塩、N-アシル-N-メチルタウリン塩等のアニオン界面活性剤;塩化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム、塩化ベンザルコニウム等のカチオン界面活性剤;アルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン、アルキルイミダゾリニウムベタイン等の両性界面活性剤;ポリエチレングリコール型ノニオン界面活性剤(ポリエチレングリコールアルキルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリエチレングリコールソルビタン脂肪酸エステル等)、多価アルコールエステル型ノニオン界面活性剤(グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等)、ブロックポリマー型界面活性剤等のノニオン界面活性剤;アクリル酸・メタクリル酸アルキル(C10-30)共重合体、ポリビニルアルコール、アルギン酸ナトリウム、セルロース誘導体等の高分子系界面活性剤;レシチン等の天然系界面活性剤;シリコーン系界面活性剤が挙げられる。
【0037】
上記色素または色材としては、例えば、パラアミノ安息香酸誘導体、ベンゾフェノン誘導体、メトキシケイヒ酸誘導体、サリチル酸誘導体等の紫外線吸収剤;酸化チタン微粒子、二酸化亜鉛微粒子等の紫外線散乱剤;二酸化チタン、酸化亜鉛等の白色顔料;酸化鉄、酸化クロム、カーボンブラック、群青等の着色顔料;マイカ、セリサイト、タルク、カオリン等の体質顔料;真珠光沢顔料;アゾ系染料、キサンテン系染料、インジゴイド系染料、レーキ、アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料等の有機合成色素;βカロチン、リロピン、クロシン、ラファニン、シソニン、カルサミン、サフラワーイエロー、クロロフィル、リボフラビン、コチニール、アリザリン、シコニン、クルクミン等の天然色素;ポリエチレンパウダー、ナイロンパウダー等の高分子粉体が挙げられる。
【0038】
上記香料としては、例えば、ローズ油、ジャスミン油、ラベンダー油、ユーカリ油、パチュリー油、ペパーミント油、レモングラス油、レモン油、ライム油、ベルガモット油、白檀、シナモン、バーク油、オークモス、イリス油、ベチバー油、ムスク、シベット、カスリウム、アンバーグリース等の天然香料;α-リモネン、β-カリオフィレン、シス-3-ヘキセノール、リナロール、ファルネソール、β-フェニルエチルアルコール、2,6-ノナジェナール、シトラール、α-ヘキシルシンナミックアルデヒド、β-イオノン、L-カルボン、シクロペンタデカノン、リナリルアセテート、ベンジルベンゾエート、γ-ウンデカラクトン、オイゲノール、ローズオキサイド、フェニルアセトアルデヒドジメチルアセタール等の合成香料が挙げられる。
【0039】
上記美白有効成分としては、例えば、アスコルビン酸リン酸エステルマグネシウム塩、アスコルビン酸-2-グルコシド、3-O-エチルアスコルビン酸、テトラヘキシルデカン酸アスコルビル、コウジ酸、ハイドロキノンβ-D-グルコシド、エラグ酸、4n-ブチルレゾルシノール、4-メトキシサリチル酸カリウム、4-(4-ヒドロキシフェニル)-2-ブタノール、5,5′-ジプロピルビフェニル-2,2′-ジオール、リノール酸、trans-4-アミノメチルシクロヘキサン酸、トラネキサム酸セチル塩酸塩、カミツレエキス、アデノシン-1-リン酸-2Na、ニコチン酸アミドが挙げられる。
【0040】
上記抗シワ成分としては、例えば、グリセリン、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール等の多価アルコール;セラミド;セリン、グリシン、ピロリドンカルボン酸等のアミノ酸;コラーゲン;ヒアルロン酸;レチナール(ビタミンA);ナイアシンアミド;エラスチン;プロテオグリカンが挙げられる。
【0041】
本発明化粧料を製造する方法は特に制限されず、所望の剤型に応じて、常法により製造することができる。例えば、バッチ式真空乳化機等の乳化機、コロイドミル等の分散機、またはヘンシルミキサーやハンマーミキサー等の混合機・粉砕機を用いて、本発明活性化剤を含む上記各種配合成分を混ぜ合わせ、必要に応じて冷却機、成形機等を用いて所望の剤型とすることができる。
【0042】
また、適宜の製造方法により得られた本発明化粧料を、例えば、充填機、包装機等を用いて、チューブ容器、ボトル容器(細口)、クリーム容器(広口)、パウダー容器、コンパクト容器、スティック容器、ペンシル容器、ブラシ付き容器、ポンプ式ボトル、エアゾール容器等にパッケージングし、化粧料製品とすることができる。
【実施例0043】
以下に実施例を掲げて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0044】
[参考例]皮膚常在菌の多様性検討
健常者50名(中9名は過去にアトピー歴あり)とアトピーホルダー50名の計100名について、各名の皮膚常在菌をサンプリングし、皮膚常在菌叢における菌種の多様性(皮膚常在菌の多様性)をメタゲノム解析により調査した。当該多様性は、シンプソンの多様度指数(D:Simpson’s Index)とシャノンエントロピー(H:Shannon Entropy)を用いて評価した。DおよびHの値は、皮膚常在菌叢における菌種の総数のうちi番目の種の個体数が当該菌叢の全個体数に占める割合をpi(|pi|<1)として、それぞれ次式により求めた。
【0045】
【0046】
【0047】
シンプソンの多様度指数においては0~1の値をとり、1に近いほど均等に多様な菌が存在するということができる。シャノンエントロピーにおいては、数値の絶対値が大きいほど多様性が高いということができる。その解析結果を下記表1に示す。
【0048】
【0049】
表1に示す通り、アトピー症状が有り群に対して、無し群は有意に多様性が高い(菌種が多い)ことが明らかである。
なお、各一例ではあるが、健常者における皮膚常在菌叢とアトピーホルダーにおける皮膚常在菌叢との比較を
図1に示す。
図1では、占有率0.05%以上の菌叢が示されている。
図1に示す通り、健常者では194種の菌叢が確認され、1/3ほどが非病原性のアクネ菌であったが、アトピーホルダーでは31種の菌叢のみ確認され、しかもその1/3以上が病原性の黄色ブドウ球菌であった。
【0050】
また、皮膚常在菌のサンプリングと同時に行った皮脂のサンプリングの結果から、アトピーホルダー50名の中23名が健常者の数分の一から十分の一以下の皮脂分泌量であった。
上記のように、アトピーホルダーは皮膚常在菌の多様度が低い傾向にあり、また一定数の者においては、皮膚常在菌の多様度が低い上に皮脂の分泌量も低下している傾向にあった。
【0051】
[実施例1]ミミズ脂質の調製
(1)ミミズ素材の入手
後述の実験に使用したミミズ脂質を得るためのミミズ素材は、ルンベルクスルベルス(赤ミミズ)からタンパク質を抽出した後の抽出残渣(ミミズ脱水ケーキ)であって、株式会社宮崎血流研究所(宮崎県)から提供を受けた。
【0052】
(2)ミミズ脂質の調製
以下のいずれかの方法によりミミズ脂質(総脂質)を調製した。
(2-1)Bligh-Dyer法による調製
ミミズ脱水ケーキ10gからクロロホルム・メタノール混合溶媒(2:1)30mLを用いて総脂質を抽出した。約2%のミミズ脂質が得られた。
【0053】
(2-2)直接ケン化法による調製
ミミズ脱水ケーキ60gをナス型フラスコに採取し1mol/KOH/エタノール 120mLを加えた後、80℃で1時間加熱し試料中の脂肪酸エステルをケン化した。冷却後、精製水を加え、ケン化後のエタノール溶液を液体抽出装置内にろ別し、ジイソプロピルエーテルを用いて5時間還流し不ケン化物を抽出除去した。
液体抽出装置内のアルカリ溶液を取り出し、硫酸を加えて強酸性とした後ろ過し、ヘキサンを用いて5時間還流し脂肪酸を抽出した。
【0054】
脂肪酸のヘキサン抽出液を精製水で中性(メチルオレンジ)になるまで洗浄し、ろ過して濃縮乾固後、アセトニトリルを加えて溶解後10分間静置しアセトニトリル不溶物を沈殿させた。
アセトニトリル溶液の上清をフロリジル(130℃、3時間活性化済み)カラムに通過させた後、アセトニトリルを用いてカラムを洗浄した。溶出したアセトニトリルを減圧濃縮乾固しミミズ脂質を得た。
【0055】
(3)ミミズ脂質の精製 -高度不飽和脂肪酸の除去-
ワコーシルC-300(110℃、3時間活性化済み)をヘキサンでスラリー状とし、ガラスカラム(内径15mm、長さ30cm)に詰め、フロリジルPR(130℃、3時間活性化済み)をヘキサンでスラリー状とし、ワコーシルC-300の上に積層させた。さらに無水硫酸ナトリウムを積層させ脂肪酸精製用カラムとした。濃縮乾固した脂肪酸をヘキサンで溶解してカラムに負荷し、エーテル/ヘキサンで展開溶出した。
【0056】
[実施例2]ミミズ脂質による皮膚常在菌叢改善効果の検討
(1)実験方法
表2に示すアトピーホルダー9名と健常者3名の計12名を被験者として、各被験者の左右の肘内側に、コントロール/スクワランおよび実施例1(直接ケン化法)で調製した1%ミミズ脂質/スクワランを、プラセボ効果を避けるためにどちらにミミズ脂質が添加されているか分からない状態で、同じものを同じ側に1日2回、朝と夕(入浴後)に1滴ずつを滴下して塗布した。健常者3名とアトピーホルダー1名は4週間、他のアトピーホルダー8名は2週間、塗布した。皮膚上微生物は、メタゲノム解析用のスワブキット綿棒で試料塗布部をこすり取り、サンプリングを行った。スワブした綿棒から細菌の16srRNA遺伝子を取り出してその配列を読み取り、当該配列とリファレンスの全細菌配列データベース(約15000種)とを比較して種レベルまでの菌種同定を行い、各菌種のDNA断片の数を基に個体数、ならびにSimpson’s IndexおよびShannon Entropyを算出した。
【0057】
【0058】
また、2週間の塗布終了後の皮脂について、あぶら取り紙を用いて試料塗布部(左右両側)をサンプリングした。そして、抽出、精製、誘導体化処理を行ってGC/MS分析を行い、皮脂の分泌量を調べ、抗菌性が高いとされる炭素数16のモノエン酸(C16:1)の、炭素数16の直鎖飽和酸(C16:0)に対する比率を分析した。
【0059】
(2)被験者A-109の分析結果
アトピーホルダー9名の中、皮脂分泌量が極端に少なかった被験者は4名であったが、そのうちの1名がA-109である。A-109においては、塗布前と15日目の比較で多様度の変化に加えて占有量上位菌種の入れ替わりが見られた。0日目、8日目、および15日目における菌種数の結果を表3に示す。なお、菌叢における占有率が0.05%以上の菌種をカウントしている。
表3に示す通り、ミミズ脂質を塗布すると、コントロールに比べ菌種数に顕著な増大がみられる。
【0060】
【0061】
A-109について、Simpson’s Index(1に近づくほど多様度が高い)およびShannon Entropy(数値が大きいほど多様度が高い)を計算し、多様性解析を行った。その結果を
図2に示す。
図2に示す通り、A-109のコントロールでは多様度が低下傾向にあるが、ミミズ脂質を塗布すると多様度が増大傾向を示した。
【0062】
また、別途サンプリングした皮脂のGC/MS分析により、
図3に示す結果が得られた。なお、
図3では、C16:0(炭素数16の飽和脂肪酸)でクロマトスケールを合わせて比較している。
図3が示す通り、抗菌性が高いとされる炭素数16のモノエン酸の炭素数16の直鎖飽和酸に対する比率が塗布前に比べコントロールでは変化がなかったが、ミミズ脂質を塗布すると顕著に増加した。また、塗布したミミズ脂質に含まれているモノエン酸とは異なる異性体が増大していることから、ミミズ脂質をもとに皮膚常在菌の働きにより炭素数16のモノエン酸異性体が産出されていることが推測される。
【0063】
(3)被験者A-107の分析結果
被験者A-107も皮脂分泌量の少なかった1名であり、実験前の菌叢多様度は低かった。
ミミズ脂質を塗布したことにより、菌叢の多様度は高くなり、コントロールおよびミミズ脂質塗布の両方において占有度上位の菌種に入れ替わりが見られた。菌種数の結果を表4に示す。
表4に示す通り、ミミズ脂質を塗布すると、コントロールに比べ菌種数に顕著な増大がみられる。
【0064】
【0065】
A-107についても、Simpson’s IndexおよびShannon Entropyを計算し、多様性解析を行ったところ、
図4に示す結果が得られた。
図4が示す通り、A-107ではコントロールの変化は少ないながらも多様度は低下傾向にあり、ミミズ脂質を塗布すると多様度が増大した。
【0066】
また、同様に、別途サンプリングした皮脂のGC/MS分析を行ったところ、
図5に示す結果が得られた。なお、
図5においても、C16:0(炭素数16の飽和脂肪酸)でクロマトスケールを合わせて比較している。
A-107では、菌種の入れ替わりの影響か、コントロールおよびミミズ脂質塗布共に抗菌性が高いとされる炭素数16のモノエン酸の炭素数16の直鎖飽和酸に対する比率が塗布前に比べ増加したが、ミミズ脂質を塗布した方がよりモノエン酸の増加率は高かった。
【0067】
(4)被験者A-105の分析結果
被験者A-105は皮脂分泌量が正常で、塗布前の菌叢多様度も高かった1名である。塗布により占有率の高かったアクネ菌の比率が下がり、それに伴いさらに多様度が増した。コントロールおよびミミズ脂質塗布の両方で占有度上位の菌種に入れ替わりが見られた。菌種数の結果を表5に示す。
表5に示す通り、皮脂分泌量が正常な場合にはミミズ脂質を塗布しても菌種数は微増にとどまるが、コントロールでは菌種数の明らかな減少が見られた。
【0068】
【0069】
A-105についても、Simpson’s IndexおよびShannon Entropyを計算し、多様性解析を行ったところ、
図6に示す結果が得られた。
図6が示す通り、Simpson’s Indexではコントロールとミミズ脂質塗布においてそれほど差異は見られなかったが、Shannon Entropyではミミズ脂質塗布の方が高い多様度を示した。これは占有度の低い菌種の数が多いからではないかと推測された。
【0070】
また、同様に、別途サンプリングした皮脂のGC/MS分析を行ったところ、
図7に示す結果が得られた。なお、
図7においても、C16:0(炭素数16の飽和脂肪酸)でクロマトスケールを合わせて比較している。
A-105では、塗布によるモノエン酸比率の変化はほとんど見られなかった。もともと多様度が高く、皮脂分泌量が多い人には脂質塗布による影響は少ないと推測された。
本発明組成物は、皮膚常在菌の多様性を適用前の状態より向上ないし改善することができ、これによって、皮膚のバリア機能が高まり、病原性菌の増殖を抑制することができるから、例えばスキンケア製品や化粧品の原料として有用である。また、皮膚常在菌の多様性の向上・改善は、アトピー症状の改善や予防、健康な皮膚の保持にもつながるから、本発明組成物は、医薬品の原料としても有用である。