(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022183732
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッド、及び液体吐出装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20221206BHJP
H01L 41/09 20060101ALI20221206BHJP
H01L 41/047 20060101ALI20221206BHJP
H01L 41/29 20130101ALI20221206BHJP
【FI】
B41J2/14 305
B41J2/14 611
H01L41/09
H01L41/047
H01L41/29
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021091201
(22)【出願日】2021-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】山崎 泰志
【テーマコード(参考)】
2C057
【Fターム(参考)】
2C057AF65
2C057AG44
2C057AG52
2C057AG91
2C057AN01
2C057AP79
2C057BA04
2C057BA14
(57)【要約】
【課題】振動板上の圧電素子において、圧電体層にクラックが生じるおそれがある。
【解決手段】液体吐出ヘッド10は、複数の圧力室Cが形成された圧力室基板25と、圧電素子50と、振動板26と、を備える。複数の圧力室Cが配列される方向を第1方向、振動板26、圧力室基板25、及び圧電素子50の積層方向を第3方向、第3方向のうち振動板26から見て圧電素子50が設けられた側を第1側、第3方向のうちの第1側の反対側を第2側としたとき、振動板26の第1側の面は、第1面26c及び第2面26bを有し、第1面26cは、第1方向において、圧力室Cの中心に近い第1位置P1に配置され、第2面26bは、第1方向において、第1位置P1よりも、圧力室Cの中心から離れた第2位置P2に配置され、第1面26cは、第3方向において、第2面26bよりも圧力室基板25に近い位置に配置される。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の圧力室が形成される圧力室基板と、
前記複数の圧力室に対応して設けられた圧電素子と、
前記圧力室基板と前記圧電素子との間に設けられた振動板と、を備える液体吐出ヘッドであって、
前記複数の圧力室が配列される方向を第1方向、
前記振動板、圧力室基板、及び前記圧電素子が積層される方向を第3方向、
前記第3方向のうち前記振動板から見て前記圧電素子が設けられた側を第1側、
前記第3方向のうちの前記第1側の反対側を第2側としたとき、
前記振動板の第1側の面は、第1面及び第2面を有し、
前記第1面は、前記第1方向において、前記圧力室の中心に近い第1位置に配置され、
前記第2面は、前記第1方向において、前記第1位置よりも、前記圧力室の中心から離れた第2位置に配置され、
前記第1面は、前記第3方向において、前記第2面よりも前記圧力室基板に近い位置に配置される、液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記第1位置での前記振動板の厚さは、前記第2位置での前記振動板の厚さよりも薄い、請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記振動板は、
前記第3方向において、前記圧力室基板に近い方に配置された弾性層と、
前記第3方向において、前記弾性層よりも前記圧力室基板から遠い方に配置された絶縁層と、を有し、
前記第1位置での前記弾性層の厚さは、前記第2位置での前記弾性層の厚さよりも薄く、
前記第1位置での前記絶縁層の厚さは、前記第2位置での前記絶縁層の厚さと等しい、請求項2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記第1位置での前記圧電素子の厚さは、前記第2位置での前記圧電素子の厚さよりも厚い、請求項1から3のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記圧電素子は、
圧電体層と、
前記圧電体層よりも前記振動板に近い方に配置され、前記複数の圧力室に対応して個別に設けられる第1電極と、
前記圧電体層よりも前記振動板から遠い方に配置され、前記複数の圧力室に対応して共通に設けられる第2電極と、を有し、
前記第1電極は、前記第1位置に設けられ、前記第2位置に設けられていない、請求項1から4のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記第1位置での前記圧電体層の前記第3方向に沿う厚さは、前記第2位置での前記圧電体層の前記第3方向に沿う厚さと等しい、請求項5に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
前記第1位置での前記圧電体層の結晶の平均粒径は、前記第2位置での前記圧電体層の結晶の平均粒径と等しい、請求項5又は6に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項8】
前記第1電極の傾斜面に重なる第3位置での前記圧電体層の結晶の平均粒径は、前記第1位置での前記圧電体層の結晶の平均粒径の80%以上、120%以下の大きさである、請求項5又は6に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項9】
前記圧電体層は、
前記第1電極と前記第2電極との間に配置された駆動領域と、
前記第3方向に見て、前記第1電極と重ならない位置に配置された非駆動領域と、を有し、
前記振動板は、前記第3方向に見て前記第1面と前記第2面との間に配置され、前記第1面及び前記第2面に対して傾斜する傾斜面を有し、
前記第1電極は、前記第1方向において、前記振動板の前記傾斜面に対向し、前記第1面及び第2面に対して傾斜する傾斜面を有し、
前記非駆動領域の一部は、前記第1方向において、前記振動板の前記傾斜面と、前記第1電極の前記傾斜面との間に位置する、請求項5に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項10】
前記第1電極は、前記第3方向に見て前記第1面及び前記第2面の両方と重なるように、連続して形成されている、請求項5から9の何れか一項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項11】
前記第1面は、前記第3方向に見て、前記圧力室と重なる領域のみに形成されている、請求項1から10の何れか一項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッドと、
前記液体吐出ヘッドにおける液体の吐出を制御する制御部と、を有する、液体吐出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッド、及び液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インク等の液体を吐出する液体吐出ヘッドがある。特許文献1に記載の液体吐出ヘッドは、液体を貯留する圧力室が形成された圧力室基板と、圧力室基板上に配置された振動板と、振動板上に配置された圧電素子と、を備える。圧電素子は、振動板上に配置された下電極層と、下層電極上に配置された圧電体層と、圧電体層上に配置された上電極層と、を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術に係る液体吐出ヘッドでは、振動板上の圧電素子において、圧電体層にクラックが生じるおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様に係る液体吐出ヘッドは、複数の圧力室が形成される圧力室基板と、複数の圧力室に対応して設けられた圧電素子と、圧力室基板と圧電素子との間に設けられた振動板と、を備える液体吐出ヘッドであって、複数の圧力室が配列される方向を第1方向、振動板、圧力室基板、及び圧電素子が積層される方向を第3方向、第3方向のうち振動板から見て圧電素子が設けられた側を第1側、第3方向のうちの第1側の反対側を第2側としたとき、振動板の第1側の面は、第1面及び第2面を有し、第1面は、第1方向において、圧力室の中心に近い第1位置に配置され、第2面は、第1方向において、第1位置よりも、圧力室の中心から離れた第2位置に配置され、第1面は、第3方向において、第2面よりも圧力室基板に近い位置に配置される。
【0006】
本発明の一態様に係る液体吐出装置は、上記の液体吐出ヘッドと、液体吐出ヘッドにおける液体の吐出を制御する制御部と、を有する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施形態に係る液体吐出ヘッドを示す断面図である。
【
図3】振動板上に配置された電極を示す平面図である。
【
図4】液体吐出ヘッドを示す断面図であり、
図2中のIV-IV線に沿う断面を示す図である。
【
図5】
図4に示される液体吐出ヘッドの要部を拡大して示す断面図である。
【
図6】従来技術に係る液体吐出ヘッドの断面図である。
【
図7】従来技術に係る液体吐出ヘッドの圧電体層のSEM像を示す図である。
【
図8】液体吐出ヘッドを備える液体吐出装置を示す概略図である。
【
図10】変形例に係る液体吐出ヘッドの要部を示す断面図である。
【0008】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。ただし、各図において、各部の寸法及び縮尺は、実際のものと適宜に異ならせてある。また、以下に述べる実施形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの形態に限られるものではない。
【0009】
以下の説明において、互いに交差する3方向をX軸方向、Y軸方向、Z軸方向として説明する場合がある。X軸方向は、互いに反対の方向であるX1方向及びX2方向を含む。Y軸方向は、互いに反対の方向であるY1方向及びY2方向を含む。Z軸方向は、互いに反対の方向であるZ1方向及びZ2方向を含む。Z1方向は、下向きの方向であり、Z2方向は、上向きの方向である。また、本明細書において、「上」及び「下」を用いる。「上」及び「下」は、液体吐出ヘッド10のノズルが下である通常の使用状態における「上」及び「下」に対応する。
【0010】
X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向は、直交している。Z軸方向は、通常上下方向に沿う方向であるが、Z軸方向は、上下方向に沿う方向でなくてもよい。なお、Y軸方向は、第1方向の一例であり、X軸方向は、第2方向の一例であり、Z軸方向は、第3方向の一例である。
【0011】
図1は、実施形態に係る液体吐出ヘッド10を示す断面図である。
図2は、液体吐出ヘッド10の要部を示す平面図である。
図3は、振動板上に配置された電極を示す平面図である。
図4は、液体吐出ヘッド10を示す断面図であり、
図2中のIV-IV線に沿う断面を示す。
図5は、
図4に示される液体吐出ヘッドの要部を拡大して示す断面図である。液体吐出ヘッド10は、ノズルプレート21、コンプライアンス基板23、連通板24,圧力室基板25、振動板26、及び圧電素子50を備える。また、液体吐出ヘッド10は、ケース28、及びCOF60を備える。COFは、Chip on Filmの略称である。本実施形態では、液体の一例であるインクを吐出する液体吐出ヘッド10について説明する。液体は、インクに限定されず、液体吐出ヘッド10は、その他の液体を吐出することができる。
【0012】
ノズルプレート21、コンプライアンス基板23、連通板24、圧力室基板25、振動板26、及びケース28の厚さ方向は、Z軸方向に沿う。ノズルプレート21及びコンプライアンス基板23は、液体吐出ヘッド10の底部に配置される。ノズルプレート21及びコンプライアンス基板23のZ2方向には、連通板24が配置される。連通板24のZ2方向には、圧力室基板25が配置される。圧力室基板25のZ2方向には、振動板26が配置される。振動板26上には、複数の圧電素子50が形成される。ケース28は、連通板24上に配置される。圧力室基板25、振動板26、及び圧電素子50は、この順で、Z軸方向に積層される。Z軸方向のうち、振動板26から見て圧電素子50が設けられた方が第1側であり、Z軸方向のうち、第1側の反対側が第2側である。第1側は、Z2方向を向く側であり、第2側は、Z1方向を向く側である。Z軸方向において、振動板26のZ2方向に圧電素子50が配置され、振動板26のZ1方向に圧力室基板25が配置される。
【0013】
液体吐出ヘッド10には、インクが流れる流路40が形成されている。流路40は、供給口42、共通液室R、中継流路43、圧力室C、連通流路45、ノズルNを含む。流路40は、複数の個別流路41を含む。個別流路41は、中継流路43、圧力室C、連通流路45、及びノズルNを含む。共通液室Rは、複数の個別流路41に共通に連通し、複数の個別流路41にインクを供給する。
【0014】
インクは、供給口42を通り、共通液室Rに流入する。共通液室Rの一部は、連通板24に形成され、共通液室Rの一部は、ケース28に形成される。共通液室R内のインクは、中継流路43を通り、圧力室Cに供給される。圧力室C内のインクは、連通流路45を通り、ノズルNから吐出される。なお、液体吐出ヘッド10は、インクを循環させる循環方式を採用することができる。
【0015】
ノズルプレート21には、複数のノズルNが形成されている。複数のノズルNは、Y軸方向に並べられノズル列N1を構成する。ノズルNは、ノズルプレート21をZ軸方向に貫通する貫通孔である。
【0016】
コンプライアンス基板23は、ノズルプレート21のX1方向に配置される。コンプライアンス基板23は、可撓性を有する膜を含む。コンプライアンス基板23は、共通液室Rの底面を構成する。コンプライアンス基板23は、インクの圧力を受けて変形可能である。コンプライアンス基板23は、インクの圧力によって変形し、液体吐出ヘッド10内のインクの圧力変動を吸収できる。
【0017】
連通板24には、共通液室Rの一部、中継流路43、及び連通流路45が形成されている。連通板24には、貫通孔、溝、又は凹部等が形成されている。これらの貫通孔、溝、又は凹部等により、共通液室Rの一部、中継流路43、及び連通流路45が形成されている。
【0018】
共通液室Rは、Y軸方向に長尺である。共通液室RのY軸方向の長さは、ノズル列N1の配置に対応している。共通液室Rのうち、ノズルNに近い方の部分は、Z軸方向に見て、圧力室Cに重なる位置まで形成されている。
【0019】
中継流路43は、共通液室Rと圧力室Cとを連通する。中継流路43は、複数の圧力室Cに対して各々設けられている。複数の中継流路43は、Y軸方向に所定の間隔で配置されている。中継流路43は、Z軸方向に延在する。中継流路43のZ1方向の端部は、共通液室Rに連通する。中継流路43のZ2方向の端部は、圧力室Cに連通する。
【0020】
連通流路45は、Z軸方向に延在し、圧力室CとノズルNとを連通する。連通流路45は、複数の圧力室Cに対して各々設けられている。複数の連通流路45は、Y軸方向に所定の間隔で配置されている。連通流路45は、連通板24をZ軸方向に貫通する。連通流路45は、Z軸方向に見て、圧力室C及びノズルNと重なる位置に配置されている。
【0021】
圧力室基板25には、複数の圧力室Cが形成されている。圧力室Cは、圧力室基板25をZ軸方向に貫通する。複数の圧力室Cは、複数のノズルNに対してそれぞれ設けられている。複数の圧力室Cは、Y軸方向に所定の間隔で配列されている。Y軸方向は、複数の圧力室Cが配列される方向の一例である。複数の圧力室Cは、X軸方向に所定の長さを有する。X軸方向は、複数の圧力室Cのそれぞれが延在する方向の一例である。圧力室Cは、中継流路43と連通流路45とに連通する。圧力室基板25は、例えばシリコンの単結晶基板から製造できる。圧力室基板25は、その他の材料から製造されていてもよい。
【0022】
図1、
図4及び
図5に示されるように、振動板26は、圧力室基板25の上面に配置される。振動板26は、圧力室基板25の開口を覆う。振動板26のうち、圧力室基板25の開口を覆う部分は、圧力室Cの上側の壁面を構成する。振動板26上には、複数の圧電素子50が形成されている。圧電素子50は、複数の圧力室Cに対してそれぞれ設けられている。
【0023】
図4及び
図5に示されるように、振動板26は、弾性層71及び絶縁層72を有する。弾性層71は、例えば二酸化シリコン(SiO
2)からなる。絶縁層72は、二酸化ジルコニウム(ZrO
2)からなる。弾性層71は、圧力室基板25上に成膜され、絶縁層72は、弾性層71上に成膜される。弾性層71は、所定の弾性を有する。絶縁層72は、所定の絶縁性を有する。弾性層71は、絶縁性を有していてもよい。絶縁層72は、弾性を有していてもよい。弾性層71は、絶縁層72よりも高い弾性を有することができる。絶縁層72は、弾性層71よりも高い絶縁性を有することができる。振動板26には、溝部73が形成されている。振動板26の溝部73については後述する。
【0024】
振動板26は、圧電素子50によって駆動され、Z軸方向に振動する。振動板26の合計の厚さT2は、例えば、2μm以下である。振動板26の厚さT2は、溝部73が形成されていない位置P2での厚さである。振動板26の合計の厚さT2は、15μm以下でもよく、40μm以下でもよく、100μm以下でもよい。例えば、振動板26の合計の厚さT2が、15μm以下の場合には、樹脂層を含んでいてもよい。振動板26は、金属から形成されたものでもよい。金属としては、例えば、ステンレス鋼、ニッケル等が挙げられる。振動板26が金属製である場合、振動板26の厚さは、15μm以上、100μm以下でもよい。振動板26は、Y軸方向における位置P1,P2によって厚さT1,T2が異なる。位置P1,P2における厚さT1,T2の違いについては後述する。
【0025】
圧電素子50は、電極51,52及び圧電体層53を有する。電極51、圧電体層53、及び電極52は、振動板26上でこの順で積層されている。圧電体層53は、電極51と電極52とによって挟まれている。電極51は、個別電極であり、電極52は共通電極である。電極51は、第1電極の一例であり、電極52は、第2電極の一例である。なお、下側の電極51が共通電極でもよく、上側の電極52が個別電極でもよい。電極51は、Z軸方向に見て、複数の圧力室Cに重なる位置にそれぞれ配置されている。圧電素子50は、圧電体層53が電極51と電極52に挟まれている能動部と、圧電体層53が電極51と電極52に挟まれていない非能動部を含む。能動部は、後述する圧電体53の駆動領域55に対応する。後述する圧電体53の比駆動領域56に対応する。
【0026】
電極51は、下地層と、電極層とを含む。下地層は、例えば、チタン(Ti)を含む。電極層は、例えば、白金(Pt)又はイリジウム(Ir)等の低抵抗な導電材料を含む。当該電極層は、例えばルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO3)、及びニッケル酸ランタン(LaNiO3)等の酸化物で形成されてもよい。圧電体層53は、複数の電極51を覆うように配置されている。圧電体層53は、Y軸方向に延びる帯状の誘電膜である。なお、電極51には、傾斜面51c,51dが形成されている。電極51の傾斜面51c,51dについては後述する。
【0027】
電極52は、下地層と、電極層とを含む。下地層は、例えば、チタンを含む。電極層は、例えば、白金又はイリジウム等の低抵抗な導電材料を含む。当該電極層は、例えばルテニウム酸ストロンチウム、及びニッケル酸ランタン等の酸化物で形成されてもよい。圧電体層53は、電極51と電極52との間に配置された駆動領域55と、Z軸方向に見て、電極51と重ならない位置に配置された非駆動領域56と、を有する。圧電体層53のうち、駆動領域55ではない領域は、非駆動領域56である。複数の圧力室C上には、駆動領域55が各々形成されている。非駆動領域56の部分57は、Y軸方向において、振動板26の傾斜面26d,26eと、電極51の傾斜面51c,51dとの間に配置される。詳しくは後述する。
【0028】
圧電体層53は、複数の圧電素子50にわたり、Y軸方向に沿って連続する帯状の誘電膜である。圧電体層53は、例えばチタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3)又はセラミックス等の公知の圧電材料で形成される。
【0029】
図1及び
図2に示されるように、圧電素子50には、リード電極54が電気的に接続されている。複数のリード電極54は、X軸方向に延在し、Z軸方向に見て、圧力室Cと重ならない位置まで引き出されている。リード電極54は、電極51よりも低抵抗な導電材料で形成される。例えば、リード電極54は、ニクロム(NiCr)で形成された導電膜の表面に金(Au)の導電膜を積層した構造の導電パターンである。リード電極54は、COF60と電気的に接続されている。
【0030】
図1に示されるCOF60は、フレキシブル配線基板61及び駆動回路62を備える。フレキシブル配線基板61は、可撓性を有する配線基板である。フレキシブル配線基板61は、例えばFPCである。フレキシブル配線基板61は、例えばFFCでもよい。FPCは、Flexible Printed Circuitの略称である。FFCは、Flexible Flat Cableの略称である。
【0031】
フレキシブル配線基板61は、リード電極54を介して、圧電素子50と接続されている。フレキシブル配線基板61は、図示しない回路基板と電気的に接続されている。回路基板は、駆動信号生成回路を含む。
【0032】
駆動回路62は、フレキシブル配線基板61に対して実装されている。駆動回路62は、圧電素子50を駆動するためのスイッチング素子を含む。駆動回路62は、フレキシブル配線基板61、及び回路基板を介して、
図8及び
図9に示される制御部30と電気的に接続されている。駆動回路62は、駆動信号生成回路から出力された駆動信号Comを受信する。駆動回路62のスイッチング素子は、駆動信号生成回路で生成された駆動信号Comを圧電素子50に供給するか否かを切り替える。駆動回路62は、圧電素子50に対して、駆動電圧又は電流を供給して、振動板26を振動させる。
【0033】
次に、
図3~
図5を参照して、振動板26に形成された溝部73について説明する。
図3では、振動板26の溝部73内に配置された電極51を示す。振動板26には、複数の溝部73が形成されている。複数の溝部73は、Y軸方向において、複数の圧力室Cに対応して各々設けられている。溝部73は、X軸方向に長尺である。溝部73のX軸方向に沿う長さは、溝部73のY軸方向に沿う幅よりも長い。複数の溝部73は、Y軸方向に所定の間隔で配置されている。溝部73は、振動板26の面26bからZ1方向に凹む。
【0034】
図4に示されるように、振動板26は、面26a~26cを有する。面26cは、振動板の第1面の一例であり、面26bは、振動板の第2面の一例である。面26b及び面26cは、振動板の第1側の面の一例である。面26a~26cは、X軸方向及びY軸方向に沿う面を形成する。面26aは、振動板26の底面を成し、圧力室基板25上に配置される。面26bは、振動板26の天面を成し、圧電体層53に接する。面26bは、X軸方向において、面26aから離間する。面26cは、Y軸方向において、面26bとは異なる位置に配置されている。面26cは、Z軸方向において、面26aから離間する。面26cは、Z軸方向において、面26bよりも面26aに近い位置に配置される。面26cは、溝部73の底面を形成する。面26cのY軸方向に沿う長さである幅W1は、圧力室CのY軸方向に沿う長さである幅W2よりも狭い。
【0035】
振動板26は、傾斜面26d,26eを有する。傾斜面26dは、面26cのY1方向に位置する。傾斜面26eは、面26cのY2方向に位置する。傾斜面26d,26eは、面26b,26cに対して傾斜する。傾斜面26d,26cは、X-Y面に対して傾斜する。
【0036】
傾斜面26dの上端は、傾斜面26dの下端よりも、Y軸方向において、圧力室Cの中心C1から離れた位置に配置される。傾斜面26dの上端は、Y軸方向において、傾斜面26dの下端よりも、圧力室Cの側壁25aに近い位置に配置される。圧力室Cの側壁25aは、Y軸方向に交差する面であり、圧力室CのY1方向の面である。
【0037】
傾斜面26eの上端は、傾斜面26eの下端よりも、Y軸方向において、圧力室Cの中心よりも離れた位置に配置される。傾斜面26eの上端は、Y軸方向において、傾斜面26eの下端よりも、圧力室Cの側壁25bに近い位置に配置される。圧力室Cの側壁25bは、Y軸方向に交差する面であり、圧力室CのY2方向の面である。
【0038】
振動板26の溝部73は、面26c及び傾斜面26d,26eによって構成される。振動板26の溝部73は、振動板26の圧電体層53側の面に形成された凹部である。
【0039】
位置P1には、面26cが配置され、位置P2には、面26bが配置されている。位置P1は、例えば圧力室Cの中心C1である。位置P2は、Y軸方向において、位置P1から離れた位置である。位置P1は、第1位置の一例であり、位置P2は、第2位置の一例である。位置P1は、Y軸方向において、圧力室Cの中心C1から離れた位置でもよい。位置P1は、Y軸方向において、位置P2よりも圧力室Cの中心C1に近い位置である。位置P2は、Z軸方向に見て圧力室Cに重ならない位置である。
図4及び
図5に示されるように、面26cは、Z軸方向に見て圧力室Cに重なる領域のみに形成されている。面26cは、Z軸方向に見て圧力室Cと重ならない領域に形成されていない。面26bの一部は、Z軸方向に見て、圧力室Cに重なる位置に存在してもよい。
【0040】
振動板26は、互いに異なる複数の厚さT1,T2を有する。振動板26の厚さT1,T2は、Z軸方向に沿う。振動板26の厚さT1は、位置P1における厚さである。振動板26の厚さT2は、位置P2における厚さである。位置P1での振動板26の厚さT1は、位置P2での振動板26の厚さT2よりも薄い。厚さT1は、面26aから面26cまでの距離である。厚さT2は、面26aから面26bまでの距離である。
【0041】
弾性層71は、互いに異なる複数の厚さT11,T12を有する。弾性層71の厚さT11,T12は、Z軸方向に沿う。弾性層71の厚さT11は、位置P1における厚さである。弾性層71の厚さT12は、位置P2における厚さである。位置P1での弾性層71の厚さT11は、位置P2での弾性層71の厚さT12よりも薄い。
【0042】
絶縁層72は、厚さT21,T22を有する。絶縁層72の厚さT21,T22は、Z軸方向に沿う。絶縁層72の厚さT21は、位置P1における厚さである。絶縁層72の厚さT22は、位置P2における厚さである。位置P1での絶縁層72の厚さT21は、位置P2での絶縁層72の厚さT22と同じである。厚さが同じとは、厚さが略同じ場合を含む。位置P1における絶縁層72の厚さT21は、位置P2における絶縁層22の厚さTと異なっていてもよい。
【0043】
次に、電極51の配置及び形状について説明する。
図2~
図5に示されるように、電極51は、振動板26の溝部73に配置されている。電極51は、溝部73の底面を成す面26c上に配置されている。電極51は、Y軸方向において、振動板26の傾斜面26d,26e間に配置されている。電極51は、Z軸方向に見て、位置P1に設けられ、位置P2設けられていない。
図4及び
図5に示される断面において、電極51は圧力室Cに重なる位置に設けられている。
【0044】
電極51は、Z軸方向に離間する面51a,51bを有する。面51a,51bは、X軸方向及びY軸方向に沿う面を形成する。面51aは、電極51の底面を成し、振動板26の面26cと接する。面51bは、電極51の天面を成し、圧電体層53の駆動領域55と接する。
【0045】
電極51は、傾斜面51c,51dを有する。傾斜面51cは、面51bのY1方向に位置する。傾斜面51dは、面51bのY2方向に位置する。傾斜面51c,51dは、面51a,51bに対して傾斜する。傾斜面51c,51dは、X-Y面に対して傾斜する。傾斜面51cは、Y軸方向において、振動板26の傾斜面26dと対向する。傾斜面51dは、Y軸方向において、振動板26の傾斜面26eと対向する。
【0046】
傾斜面51cの上端は、傾斜面51cの下端よりも、Y軸方向において、圧力室Cの中心C1に近い位置に配置される。傾斜面51cの下端は、傾斜面51cの上端よりも、振動板26の傾斜面26dに近い位置に配置される。傾斜面51dの上端は、傾斜面51dの下端よりも、Y軸方向において、圧力室Cの中心C1に近い位置に配置される。傾斜面51dの下端は、傾斜面51dの上端よりも、振動板26の傾斜面26eに近い位置に配置される。
【0047】
電極51の天面を成す面51bは、Z軸方向において、振動板26の天面を成す面26bと同じ位置に配置されている。同じ位置とは、略同じ位置を含む。電極51の面51bと、振動板26の面26bとは、Z軸方向において、互いに異なる位置に配置されていてもよい。電極51のZ軸方向に沿う厚さT51は、溝部73の深さD1と同程度である。
【0048】
次に、圧電素子50の厚さについて説明する。位置P1での圧電素子50の厚さT31は、位置P2での圧電素子50の厚さT32より厚い。圧電素子50の厚さT31,T32は、Z軸方向に沿う。位置P1での圧電素子50の厚さT31は、電極52の面52bから電極51の面51aまでの距離である。電極52の面52bは、電極52の天面であり、電極52のZ2方向の面である。位置P2での圧電素子50の厚さT32は、電極52の面52bから圧電体層53の底面までの距離である。位置P2における圧電体層53の底面は、振動板26の面26bの位置に相当する。
【0049】
次に、圧電体層53の厚さ及び配置について説明する。位置P1での圧電体層53の厚さT41は、位置P2での圧電体層53の厚さT42と等しい。厚さが等しいとは、厚さが略等しい場合を含む。例えば製造誤差等によって厚さT41が厚さT42の95%以上、105%以下となっている場合も、「厚さが等しい」に含まれる。圧電体層53の厚さT41,T42は、Z軸方向に沿う。位置P1での圧電体層53の厚さT41は、電極52の面52aから電極51の面51bまでの距離に相当する。電極52の面52aは、電極52の底面であり、電極52のZ1方向の面である。位置P2での圧電体層53の厚さT42は、電極52の面52aから振動板26の面26bまでの距離に相当する。
【0050】
圧電体層53の非駆動領域56の部分57は、Y軸方向において、振動板26の傾斜面26dと、電極51の傾斜面51cとの間の位置P3、及び、振動板26の傾斜面26eと、電極51の傾斜面51dとの間の位置P4に存在する。位置P3に存在する非駆動領域56の部分57は、振動板26の傾斜面26d及び電極51の傾斜面51cと接する。位置P3に存在する非駆動領域56の部分57は、振動板26の傾斜面26e及び電極51の傾斜面51dと接する。圧電体層53の非駆動領域56の部分57は、圧電体層53の非駆動領域56の一部の一例である。
【0051】
非駆動領域56の部分57は、溝部73の面26cに接する。位置P3,P4には、振動板26の面26cが存在する。位置P3,P4における圧電体層53の厚さT43は、位置P1における圧電体層53の厚さT41よりも厚い。位置P3,P4における圧電体層53の厚さT43は、位置P2における圧電体層53の厚さT42よりも厚い。
【0052】
次に、
図6を参照して、従来技術に係る液体吐出ヘッド110の振動板126及び圧電素子150について説明する。
図6は、従来技術に係る液体吐出ヘッド110の断面図である。液体吐出ヘッド110は、圧力室Cが形成された圧力室基板125と、振動板126と、圧電素子150とを備える。振動板126は、弾性層171と、絶縁層172とを有する。圧電素子150は、電極151,152、及び圧電体層153を有する。電極151は、絶縁層172の天面126b上に配置されている。電極151は、天面151b及び傾斜面151dを有する。傾斜面151dは、絶縁層172の天面126b及び電極151の天面151bに対して傾斜している。圧電体層153は、絶縁層172の天面126b、電極151の天面151b及び傾斜面151dに接するように形成されている。圧電体層153は、例えばチタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O
3)である圧電材料から形成される。
【0053】
図7は、従来技術に係る液体吐出ヘッド110の圧電体層153のSEM像を示す図である。
図7は、
図6中のVII-VII線に沿う断面をZ1方向に平面視した状態のSEM像である。
図7では、絶縁層172の天面126b、電極151の傾斜面151d及び天面151b上の圧電体層153のSEM像を示す。圧電体層153の結晶粒は柱状を成し、Z軸方向に延びている。
【0054】
図7に示されるように、電極151の傾斜面151d上の圧電体層153の結晶粒の粒径は、電極151の天面151b上の結晶粒の粒径よりも大きい。電極151の傾斜面151d上の結晶粒の粒径は、絶縁層172の天面126b上の結晶粒の粒径よりも大きい。このように、結晶粒の粒径が大きい場合には、結晶粒の粒径が小さい場合と比較して、圧電体層153に応力集中が起こりやすく、圧電体層153にクラックが発生しやすい。
【0055】
また、電極151の天面151b上の圧電体層153の厚さT101は、絶縁層172の天面126b上の圧電体層153の厚さT102よりも薄い。換言すると、圧電体層153の駆動領域155の厚さT101は、圧電体層153の非駆動領域156の厚さよりも薄い。駆動領域155は、非駆動領域156よりも薄く絶縁耐性が低下するおそれがある。
【0056】
圧電素子150に駆動信号を印加すると、駆動領域155が変形する。このとき、圧電体層153の結晶粒の粒径にばらつきがある場合、粒径が大きい結晶粒の変形量と、粒径が小さい結晶粒の変形量とが異なる。これにより、結晶粒界では応力変化が急激に生じるおそれがある。そのため、圧電体層153の結晶粒の粒径のばらつきが大きい場合には、結晶粒界においてクラックなどの破壊が生じるおそれがある。
【0057】
本実施形態の液体吐出ヘッド10では、振動板26の圧電体層53側の面に凹凸形状が形成され、溝部73が形成されている。振動板26は、面26b及び面26cを有し、Z軸方向における位置が異なっている。液体吐出ヘッド10では、圧電体層53を形成する際に、溝部73内の結晶粒が互いにぶつかり成長が抑制されるので、溝部73内で結晶粒の大粒化が抑制される。そのため、液体吐出ヘッド10では、圧電体層53において、応力集中の発生を抑制させて、クラックの発生を抑えることができる。
【0058】
液体吐出ヘッド10では、位置P1における振動板26の厚さT1が、位置P2における振動板26の厚さT2より薄い。このように、液体吐出ヘッド10では、振動板26の厚さを変えることで、振動板26に溝部73を形成することができる。
【0059】
また、液体吐出ヘッド10では、位置P1での弾性層71の厚さT11は、位置P2での弾性層71の厚さT12よりも薄く、位置P1での絶縁層72の厚さT21は、位置P2での絶縁層72の厚さT22と等しい。このように、液体吐出ヘッド10では、弾性層71の厚さを変えることで、振動板26に溝部73を形成することができる。
【0060】
液体吐出ヘッド10は、電極51の傾斜面51c,51dと、振動板26の傾斜面26d,26eとの間の位置P3,P4に、圧電体層53の非駆動領域56の部分57が存在する。非駆動領域56の部分57は、電極51の傾斜面51c,51dと、振動板26の傾斜面26d,26eと、によって挟まれている。このような液体吐出ヘッド10では、圧電体層53を形成する際に、傾斜面26d,26e,51c,51dに近い位置から成長する結晶粒が互いにぶつかり成長が抑制される。液体吐出ヘッド10では、圧電体層53において、結晶粒の大きさのばらつきが抑制される。これにより、液体吐出ヘッド10では、非駆動領域56の部分57における結晶粒の粒径の増大を抑制できる。その結果、電極51の傾斜面51c,51dと接する圧電体層53の部分57において、応力集中を緩和して、クラックの発生を抑制できる。
【0061】
液体吐出ヘッド10において、位置P1での圧電体層53の結晶の平均粒径は、位置P2での圧電体層53の結晶の平均粒径と等しくてもよい。なお、「等しい」とは、略等しい場合を含む。例えば位置P1での圧電体層53の結晶の平均粒径が位置P2での圧電体層53の結晶の平均粒径の95%以上、105%以下となっている場合も、「平均粒径が等しい」に含まれる。平均粒径は、例えば、単位面積当たりの結晶粒の面積の平均値でもよく、単位面積当たりの結晶粒の最大径の平均値でもよく、又は、単位面積当たりの結晶粒の外周の長さの平均値でもよい。結晶の平均粒径に代えて、結晶の粒度で比較してもよい。位置P1での圧電体層53の結晶の平均粒径と、位置P2での圧電体層53の結晶の平均粒径とが等しい場合には、圧電体層53において、結晶の粒径のばらつきが抑制されるので、圧電体層53におけるクラックの発生を抑制できる。
【0062】
液体吐出ヘッド10において、電極51の傾斜面51c,51dに重なる位置P5,位置P6での圧電体層53の結晶の平均粒径は、電極51の面51bに重なる位置P1での圧電体層53の結晶の平均粒径の80%以上、120%以下でもよい。この場合には、圧電体層53の駆動領域55において、結晶の粒径のばらつきを抑制することができ、圧電体層53におけるクラックの発生を抑制できる。位置P5,位置P6は、第3位置の一例である。
【0063】
液体吐出ヘッド10では、電極51が配置された位置P1での圧電素子50の厚さT31は、電極51が配置されていない位置P2での圧電素子50の厚さT32より厚い。液体吐出ヘッド10では、電極51が配置された位置P1での圧電体層53の厚さT41と、電極51が配置されていない位置P2での圧電体層53の厚さT42とが同じ厚さとなっている。液体吐出ヘッド10では、電極51と電極52との間に配置された圧電体層53の厚さを従来技術と比較して厚くできる。これにより、駆動領域55における絶縁耐性の低下を抑制できる。液体吐出ヘッド10では、位置P1での圧電体層53の厚さT41と、位置P2での圧電体層53の厚さT42とが等しいので、位置P1と位置P2で絶縁耐性が同程度となり、製造過程等において圧電体層53に高電圧が印可された場合であっても位置P1と位置P2で変位量を同程度とし、位置P1と位置P2の間で変位量の差によるクラックが発生することを抑制できる。
【0064】
次に、
図8及び
図9を参照して、液体吐出ヘッド10を備える液体吐出装置1について説明する。
図8は、液体吐出ヘッド10を備える液体吐出装置1を示す概略図である。液体吐出装置1は、上記の液体吐出ヘッド10を備える。
図9は、液体吐出装置1を示すブロック図である。液体吐出装置1は、「液体」の一例であるインクを液滴として媒体PAに吐出するインクジェット方式の印刷装置である。液体吐出装置1は、シリアル型の印刷装置である。媒体PAは、典型的には印刷用紙である。なお、媒体PAは、印刷用紙に限定されず、例えば、樹脂フィルムまたは布帛等の任意の材質の印刷対象でもよい。
【0065】
液体吐出装置1は、インクを吐出する液体吐出ヘッド10、インクを貯留する液体容器2、液体吐出ヘッド10を搭載するキャリッジ3、キャリッジ3を搬送するキャリッジ搬送機構4、媒体PAを搬送する媒体搬送機構5、及び、制御部30を備える。制御部30は、液体の吐出を制御する制御部である。
【0066】
液体容器2の具体的な態様としては、例えば、液体吐出装置1に着脱可能なカートリッジ、可撓性のフィルムで形成された袋状のインクパック、及び、インクを補充可能なインクタンクが挙げられる。なお、液体容器2に貯留されるインクの種類は任意である。液体吐出装置1は、例えば、4色のインクに対応して複数の液体容器2を備える。4色のインクとしては、例えば、シアン、マゼンダ、イエロー、及び、ブラックがある。液体容器2は、キャリッジ3に搭載されるものでもよい。
【0067】
液体吐出装置1は、液体容器2のインクを液体吐出ヘッド10に供給する液体供給流路8を有する。液体供給流路8には、インクを移送するポンプ83が設けられている。
【0068】
キャリッジ搬送機構4は、キャリッジ3を搬送するための搬送ベルト4a及びモーターを有する。媒体搬送機構5は、媒体PAを搬送するための搬送ローラー5a及びモーターを有する。キャリッジ搬送機構4及び媒体搬送機構5は、制御部30によって制御される。液体吐出装置1は、媒体搬送機構5によって媒体PAを搬送させながら、キャリッジ搬送機構4によってキャリッジ3を搬送させて、媒体PAにインク滴を吐出して印刷する。
【0069】
液体吐出装置1は、
図9に示されるように、リニアエンコーダー6を備える。キャリッジ3の位置を検出可能な位置に設けられている。リニアエンコーダー6は、キャリッジ3の位置に関する情報を取得する。リニアエンコーダー6は、キャリッジ3の移動に伴って、制御部30にエンコーダー信号を出力する。
【0070】
制御部30は、1又は複数のCPU31を含む。制御部30は、CPU31の代わりに、又は、CPU31に加えて、FPGAを備えるものでもよい。制御部30は、記憶部35を含む。記憶部35は、例えばROM36及びRAM37を備える。記憶部35は、EEPROM、又はPROMを備えていてもよい。記憶部35は、ホストコンピューターから供給される印刷データImgを記憶できる。記憶部35は、液体吐出装置1の制御プログラムを記憶する。
【0071】
CPUは、Central Processing Unitの略称である。FPGAは、field-programmable gate arrayの略称である。RAMは、Random Access Memoryの略称である。ROMは、Read Only Memoryの略称である。EEPROMEは、Electrically Erasable Programmable Read-Only Memoryの略称である。PROMは、Programmable ROMの略称である。
【0072】
制御部30は、液体吐出装置1の各部の動作を制御するための信号を生成する。制御部30は、印刷信号SI及び波形指定信号dComを生成できる。印刷信号SIは、液体吐出ヘッド20の動作の種類を指定するためのデジタル信号である。印刷信号SIは、圧電素子50に対して駆動信号Comを供給するか否かを指定できる。波形指定信号dComは、駆動信号Comの波形を規定するデジタル信号である。駆動信号Comは、圧電素子50を駆動するためのアナログ信号である。
【0073】
液体吐出装置1は、駆動信号生成回路32を備える。駆動信号生成回路32は、制御部30と電気的に接続されている。駆動信号生成回路32は、DA変換回路を含む。駆動信号生成回路32は、波形指定信号dComにより規定される波形を有する駆動信号Comを生成する。制御部30は、リニアエンコーダー6からエンコーダー信号を受信すると、駆動信号生成回路32に、タイミング信号PTSを出力する。タイミング信号PTSは、駆動信号Comの生成タイミングを規定する。駆動信号生成回路32は、タイミング信号PTSを受信するごとに、駆動信号Comを出力する。
【0074】
駆動回路62は、制御部30及び駆動信号生成回路32と電気的に接続されている。駆動回路62は、印刷信号SIに基づいて、駆動信号Comを圧電素子50に供給するか否かを切り替える。駆動回路62は、制御部30から供給される印刷信号SI、ラッチ信号LAT、及び、チェンジ信号CHに基づいて、駆動信号Comが供給される圧電素子50を選択できる。ラッチ信号LATは、印刷データImgのラッチタイミングを規定する。チェンジ信号CHは、駆動信号Comに含まれる駆動パルスの選択タイミングを規定する。
【0075】
制御部30は、液体吐出ヘッド20によるインクの吐出動作を制御する。制御部30は、上述の通り、圧電素子50を駆動することにより、圧力室C内のインクの圧力を変動させて、ノズルNからインクを吐出する。制御部30は、印刷動作を行う際に、吐出動作を制御する。
【0076】
このような液体吐出装置1において、液体吐出ヘッド10を適用できる。液体吐出ヘッド10では、上述したように、圧電体層53におけるクラックの発生が抑制される。液体吐出装置1では、液体吐出ヘッド10の圧電体層53におけるクラックの発生を抑制されているので、装置の信頼性の向上を図ることができる。液体吐出装置1では、液体吐出ヘッド10を備えるので、複数のノズルNにおける吐出性能の均一化が図られている。
【0077】
次に、
図10を参照して、変形例に係る液体吐出ヘッド10Bについて説明する。
図10は、変形例に係る液体吐出ヘッド10Bの要部を示す断面図である。
図10に示される変形例に係る液体吐出ヘッド10Bが、上記の実施形態に係る液体吐出ヘッド10と違う点は、電極58が、振動板26の片方の傾斜面26dをまたぐように形成されている点である。電極58は、個別電極であり、第1電極の一例である。なお、変形例の説明において、上記の実施形態と同様の説明は省略する。
【0078】
変形例に係る液体吐出ヘッド10Bは、圧電素子50Bを備える。圧電素子50Bは、電極58,52及び圧電体層53を有する。電極58は、振動板26の片方の傾斜面26dをまたぐように形成されている。電極58の大部分は、振動板26の溝部73内に配置されている。電極58の一部は、Y軸方向において、振動板26の傾斜面26dの上端を超えて、振動板26の溝部73の外側まで存在する。電極58のY1方向の端部は、振動板26の面26b上に位置する。電極58のZ軸方向に沿う厚さT58は、振動板26の溝部73の深さD1より大きい。電極58の面58bは、振動板26の面26bよりもZ2方向に位置する。面58bは、振動板26の面26bよりも電極52に近い方に位置する。
【0079】
このように、圧電素子50Bの電極51Bは、振動板26の溝部73の片方の傾斜面26dを跨ぐように形成されていてもよい。電極51Bは、傾斜面26d上に形成されていてもよい。このような液体吐出ヘッド10Bは、傾斜面58dと傾斜面26eとの間に、圧電体層53の部分57が位置する。この圧電体層53の部分57を形成する際に、傾斜面26e,58dから成長する結晶粒が互いにぶつかり、結晶粒の成長が抑制される。これにより、液体吐出ヘッド10Bでは、圧電体層53の部分57における結晶粒の粒径の増大を抑制できる。その結果、電極58の傾斜面58dと接する圧電体層53の部分57において、応力集中を緩和して、クラックの発生を抑制できる。
【0080】
なお、前述した実施形態は、本発明の代表的な形態を示したに過ぎず、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の変更、付加が可能である。
【0081】
前述の実施形態では、振動板26の溝部73は、Y軸方向において、圧力室Cに重なる領域のみに形成されている場合について例示しているが、溝部73は、圧力室Cと重ならない位置まで形成されていてもよい。換言すれば、溝部73の底面を構成する振動板26の面26cは、圧力室Cと重ならない位置まで形成されていてもよい。
【0082】
前述の実施形態では、1つの圧力室Cに対して、1つの溝部73が形成されている場合について、例示しているが、溝部73は、Z軸方向に見て、複数の圧力室Cに重なるように形成されていてもよい。
【0083】
前述の実施形態では、電極51の面51bが、Z軸方向において、振動板26の面26bと同じ位置に形成されている場合について例示しているが、電極51の面51bのZ軸方向における位置はこれに限定されない。電極51の面51bのZ軸方向における位置は、振動板26の面26bよりも、振動板26の面26cに近い位置に配置されていてもよい。電極51の面51bのZ軸方向における位置は、振動板26の面26bよりも、面26cから離れた位置に配置されていてもよい。
【0084】
前述の実施形態では、液体吐出ヘッド10を搭載したキャリッジ3を媒体PAの幅方向に往復させるシリアル方式の液体吐出装置1について例示しているが、液体吐出ヘッド10が所定の方向に並べられて配置されたラインヘッドを備えたライン方式の液体吐出装置に本発明を適用してもよい。
【0085】
前述の実施形態で例示した液体吐出装置1は、印刷に専用される機器のほか、ファクシミリ装置やコピー機等の各種の機器に採用され得る。もっとも、本発明の液体吐出装置の用途は印刷に限定されない。例えば、色材の溶液を吐出する液体吐出装置は、液晶表示パネル等の表示装置のカラーフィルターを形成する製造装置として利用される。また、導電材料の溶液を吐出する液体吐出装置は、配線基板の配線や電極を形成する製造装置として利用される。また、生体に関する有機物の溶液を吐出する液体吐出装置は、例えばバイオチップを製造する製造装置として利用される。
【符号の説明】
【0086】
1…液体吐出装置、10…液体吐出ヘッド、25…圧力室基板、26…振動板、26b…面(振動板の第2面、振動板の第1側の面)、26c…面(振動板の第1面、振動板の第1側の面)、26d,26e…振動板の傾斜面、30…制御部、50,50B…圧電素子、51…電極(第1電極)、51c,52d…電極の傾斜面(第1電極の傾斜面)、52…電極(第2電極)、53…圧電体層、55…駆動領域、56…非駆動領域、57…非駆動領域の部分(非駆動領域の一部)、58…電極(第1電極)、58d…電極の傾斜面(第1電極の傾斜面)、71…弾性層、72…絶縁層、C…圧力室、C1…圧力室の中心、P1…位置(第1位置)、P2…位置(第2位置)、P5…位置(第3位置)、P6…位置(第3位置)、T1…振動板の厚さ(第1位置での振動板の厚さ)、T2…振動板の厚さ(第2位置での振動板の厚さ)、T11…弾性層の厚さ(第1位置での弾性層の厚さ)、T12…弾性層の厚さ(第2位置での弾性層の厚さ)、T21…絶縁層の厚さ(第1位置での絶縁層の厚さ)、T22…絶縁層の厚さ(第2位置での絶縁層の厚さ)、T31…圧電素子の厚さ(第1位置での圧電素子の厚さ)、T32…圧電素子の厚さ(第2位置での圧電素子の厚さ)、T41…圧電体層の厚さ(第1位置での圧電体層の厚さ)、T42…圧電体層の厚さ(第2位置での圧電体層の厚さ)、X…X軸方向(第2方向)、Y…Y軸方向(第1方向)、Z…Z軸方向(第3方向)、Z1…Z1方向(第2側)、Z2…Z2方向(第1側)。