(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022183743
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】ポリイミド
(51)【国際特許分類】
C08G 73/10 20060101AFI20221206BHJP
【FI】
C08G73/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021091214
(22)【出願日】2021-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 貴大
(72)【発明者】
【氏名】渡部 大輔
【テーマコード(参考)】
4J043
【Fターム(参考)】
4J043PA04
4J043PA10
4J043PC145
4J043PC146
4J043QB26
4J043RA34
4J043SA06
4J043SA42
4J043SA54
4J043SA71
4J043SB01
4J043TA22
4J043TB01
4J043UA042
4J043UA052
4J043UA082
4J043UA131
4J043UA132
4J043UA141
4J043UA151
4J043UB021
4J043UB061
4J043UB111
4J043UB121
4J043UB131
4J043UB221
4J043VA011
4J043VA032
4J043VA041
4J043VA042
4J043VA051
4J043VA062
4J043VA071
4J043VA081
4J043XA16
4J043XA19
4J043XB14
4J043XB27
4J043YA28
4J043YA29
4J043ZA31
4J043ZA42
4J043ZB02
4J043ZB03
4J043ZB11
4J043ZB22
4J043ZB47
4J043ZB50
(57)【要約】 (修正有)
【課題】より高い水準の耐熱性を有するものとすることが可能なポリイミドを提供する。
【解決手段】下記式(1):
で表されるテトラカルボン酸二無水物及び/又はその誘導体を含むモノマー(A)と、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン等の特定の構造を有する化合物群から選択される少なくとも1種のモノマー(B)と、の重合物であることを特徴とするポリイミド。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1):
【化1】
で表されるテトラカルボン酸二無水物及び/又はその誘導体を含むモノマー(A)と、
3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ジアミノベンズアニリド、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、及び、2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンからなる群から選択される少なくとも1種のジアミン化合物であるモノマー(B)と、
の重合物であることを特徴とするポリイミド。
【請求項2】
前記モノマー(B)が、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノベンズアニリド、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、及び、2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンからなる群から選択される少なくとも1種のジアミン化合物であることを特徴とする請求項1に記載のポリイミド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ディスプレイ機器の分野等においては、基板等に用いる材料としてガラスのように光透過性が高くかつ十分に高度な耐熱性を有する樹脂材料の出現が求められてきた。そして、近年では、このようなガラス代替用途等に用いる樹脂材料としてポリイミドが着目され、十分に高度な耐熱性を有するポリイミドが開発されている。例えば、国際公開第2015/163314号(特許文献1)においては、下記式(a):
【0003】
【0004】
[式(a)中、Aは、置換基を有していてもよく、かつ芳香環を形成する炭素原子の数が6~30である2価の芳香族基よりなる群から選択される1種を示し、複数のRzは、それぞれ独立に水素原子及び炭素数1~10のアルキル基よりなる群から選択される1種を示す。]
で表されるテトラカルボン酸二無水物と、芳香族ジアミンとの反応物であるポリイミドが開示されている。このような特許文献1に記載のポリイミドは、光透過性が高くかつ十分に高度な耐熱性を有するものであった。しかしながら、このような従来のポリイミドにおいても、用途に応じた特性をより高く発揮するといった観点から、より高い水準の耐熱性を発揮するといった点で改良の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、より高い水準の耐熱性を有するものとすることが可能なポリイミドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ポリイミドを、下記式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物及び/又はその誘導体を含むモノマー(A)と、特定のジアミン化合物であるモノマー(B)との重合物(重縮合物)からなるものとすることにより、従来のポリイミドと比較して、より高い水準の耐熱性を有するものとすることが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明のポリイミドは、下記式(1):
【0009】
【0010】
で表されるテトラカルボン酸二無水物及び/又はその誘導体を含むモノマー(A)と、
3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ジアミノベンズアニリド、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、及び、2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンからなる群から選択される少なくとも1種のジアミン化合物であるモノマー(B)と、
の重合物であることを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明においては、前記モノマー(B)が、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノベンズアニリド、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、及び、2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンからなる群から選択される少なくとも1種のジアミン化合物であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、より高い水準の耐熱性を有するものとすることが可能なポリイミドを提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0014】
本発明のポリイミドは、前記モノマー(A)と前記モノマー(B)との重合物であることを特徴とするものである。
【0015】
なお、一般的に、ポリイミドは、テトラカルボン酸二無水物及び/又はその誘導体と、ジアミンとを重付加反応させることにより得られるポリアミド酸(重付加物:付加重合体:開環重付加体)を閉環縮合(脱水閉環:分子内縮合)させることにより得られるものであることが知られている。このように、ポリイミドは、一般に、上述のような反応により得られる重合物であることから、前記モノマー(A)とモノマー(B)とを重縮合(前記重付加及び前記閉環縮合)させることにより得られる重合物(重縮合物)はポリイミドであるといえる。以下、先ず、このような重合物を形成するために利用される、モノマー(A)と、モノマー(B)とを分けて説明する。
【0016】
〈モノマー(A)〉
前記モノマー(A)は、下記式(1):
【0017】
【0018】
で表されるテトラカルボン酸二無水物及び/又はその誘導体を含むものである。
【0019】
前記式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物を得るための方法は特に制限されず、公知の方法(例えば、国際公開第2015/163314号に記載されている方法(例えば、かかる国際公開公報の実施例5等)等)を採用することができる。
【0020】
また、前記式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物の誘導体としては、特に制限されないが、前記式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物の変性物であるジエステルジカルボン酸、及び、ジエステルジカルボン酸ジクロライドを好適に利用できる。すなわち、前記式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物の誘導体を利用する場合、前記式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物を、対応するジエステルジカルボン酸、または、ジエステルジカルボン酸ジクロライドに変性してから使用することが好ましい。このような誘導体の調製方法としては、特に制限されず、公知の方法を適宜採用することができる。前記式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物の誘導体として好適なジエステルジカルボン酸ジクロライドを調製する場合、例えば、前記式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物を任意のアルコールと反応させることで、ジエステルジカルボン酸を得た後に、塩素化試薬(チオニルクロライド、オキサリルクロライドなど)と反応させることで、対応するジエステルジカルボン酸ジクロライドを得る方法等を採用することができる。
【0021】
また、前記モノマー(A)は、前記式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含んでいればよく、他の化合物(モノマー(B)と反応させることでポリイミドを製造することが可能な公知の他のモノマー化合物)を更に含んでいてもよい。ここにおいて、前記モノマー(A)は、前記一般式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物及び/又はその誘導体を主成分として含むことが好ましく、モノマー(A)中のテトラカルボン酸二無水物の全量(化合物の全量)に対して、前記一般式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物及びその誘導体の含有量(総量)が70モル%(より好ましくは80モル%、更に好ましくは90モル%、特に好ましくは95モル%以上)であることが好ましい。なお、モノマー(A)は、より効率よくポリイミドを製造することが可能となることから、前記一般式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物からなるものであることが好ましい。
【0022】
なお、モノマー(A)が前記式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1種の化合物以外の他の化合物を更に含む場合、かかる他の化合物は、前記式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物以外の「他のテトラカルボン酸二無水物」及び/又はその誘導体であることが好ましい。このように、モノマー(A)は、前記式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1種の化合物とともに、他のテトラカルボン酸二無水物及び/又はその誘導体を含む、テトラカルボン酸二無水物系のモノマーからなるものとして利用してもよい。
【0023】
このような「他のテトラカルボン酸二無水物」としては、特に制限されず、ポリイミドの製造に利用可能な公知のものを適宜利用でき、例えば、無水ピロメリット酸、3,4’-オキシジフタル酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸二無水物、ビフェニル-3,4,3’,4’-テトラカルボン酸二無水物、ベンゾフェノン-3,4,3’,4’-テトラカルボン酸二無水物、ジフェニルスルホン-3,4,3’,4’-テトラカルボン酸二無水物、4,4’-(2,2-ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物、m-ターフェニル-3,4,3’,4’-テトラカルボン酸二無水物、p-ターフェニル-3,4,3’,4’-テトラカルボン酸二無水物、シクロブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、3-カルボキシメチル-1,2,4-シクロペンタントリカルボン酸1,4:2,3-二無水物、シクロヘキサン-1,2,4,5-テトラカルボン酸二無水物(HPMDA)、ブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、ビス(1,3-ジオキソ-1,3-ジヒドロイソベンゾフラン-5-カルボン酸)1,4-フェニレン、ノルボルナン-2-スピロ-α-シクロペンタノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸二無水物(CpODA)、下記式(2)~(3):
【0024】
【0025】
で表される化合物(上記式(2)で表される化合物(略称「BNBDA」)、上記式(3)で表される化合物(略称「BzDA」))等を挙げることができる。このような他のテトラカルボン酸二無水物は、1種を単独で用いてもよく、あるいは、2種以上を併用してもよい。なお、このような他のテトラカルボン酸二無水物及び/又はその誘導体を利用する場合、モノマー(A)中の化合物の総モル量に対して、他のテトラカルボン酸二無水物及びその誘導体の含有量(合計量)が5~30モル%となるようにして利用することが好ましい。
【0026】
〈モノマー(B)〉
モノマー(B)は、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル(略称:3,4’-DDE)、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(略称:4,4’-DDE)、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン(略称:1,3,3-BAB)、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン(略称:BAPF、又は、HFBAPP)、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル(略称:APBP)、4,4’-ジアミノベンズアニリド(略称:DABAN)、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(略称:TFMB)、2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン(略称:Bis-AP-AF)からなる群から選択される少なくとも1種のジアミン化合物である。
【0027】
このように、3,4’-DDE、4,4’-DDE、1,3,3-BAB、BAPF、APBP、DABAN、TFMB、及び、Bis-AP-AFからなる群から選択される少なくとも1種のジアミン化合物をモノマー(B)として利用し、これをモノマー(A)と組み合わせてポリイミドとすることにより、従来のポリイミドと比較して、より高い水準の耐熱性を有するものとすることができる。
【0028】
また、このようなモノマー(B)としては、更に高い水準の耐熱性を有するものとすることが可能となることから、中でも、3,4’-DDE、4,4’-DDE、DABAN、TFMB、Bis-AP-AFがより好ましい。すなわち、モノマー(B)は、3,4’-DDE、4,4’-DDE、DABAN、TFMB、及び、Bis-AP-AFからなる群から選択される少なくとも1種のジアミン化合物であることがより好ましい。また、モノマー(B)としては、ポリイミドの溶媒に対する溶解性がより高くなるといった観点からは、Bis-AP-AFがより好ましく、また、耐熱性と透明性の両立といった観点からは、TFMBがより好ましく、更に、より高度な耐熱性の発現といった観点からは、DABANがより好ましい。なお、Bis-AP-AFを用いた場合には、側鎖に水酸基を有することから、得られるポリイミドの塩基性溶液への溶解性が向上するため、例えば、レジスト用途に応用した場合に、現像速度、解像度の点でより高い効果が得られるものと本発明者らは推察している。
【0029】
このようなモノマー(B)として用いるジアミン化合物を製造するための方法は特に制限されず、公知の方法を適宜採用できる。また、このようなジアミン化合物は、市販のものを適宜利用してもよい。
【0030】
〈ポリイミドの特性等〉
本発明のポリイミドは、前記式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物及び/又はその誘導体を含むモノマー(A)と、3,4’-DDE、4,4’-DDE、1,3,3-BAB、BAPF、APBP、DABAN、TFMB、及び、Bis-AP-AFからなる群から選択される少なくとも1種のジアミン化合物であるモノマー(B)との重合物(重縮合物)である。
【0031】
このようなポリイミドは、モノマー(A)及びモノマー(B)の重合物(重縮合物)でであるため、少なくとも、前記式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物及び/又はその誘導体と、前記ジアミン化合物との反応により形成される繰り返し単位を含むものとなる。そのため、かかるポリイミドは、例えば、下記式(10):
【0032】
【0033】
[式(10)中、Arは前記モノマー(B)として利用される前記ジアミン化合物から2つのアミノ基を除いた残基を示す。]
で表される繰り返し単位(I)を有するものとすることができる。
【0034】
また、本発明のポリイミドが前記繰り返し単位(I)を有するものである場合、前記繰り返し単位(I)の含有量は、ポリイミド中の全繰り返し単位に対して70~100モル%であることが好ましく、90~100モル%であることがより好ましく、100モル%であることが特に好ましい。前記繰り返し単位(I)の含有量を前記下限以上とすることで、前記下限未満とした場合と比較して、耐熱性を更に向上させることが可能となる。なお、前記モノマー(A)が、前記一般式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物及び/又はその誘導体とともに、他のテトラカルボン酸二無水物及び/又はその誘導体を含有するものである場合、本発明のポリイミドは、他のテトラカルボン酸二無水物及び/又はその誘導体とジアミン化合物(モノマー(B))とを重縮合して得られる構造(他の繰り返し単位)を更に有するものとなる。
【0035】
また、本発明のポリイミドとしては、耐熱性を更に高い水準のものとするといった観点から、ガラス転移温度(Tg)が300℃以上のものが好ましく、350℃以上のものがより好ましい。なお、このようなガラス転移温度(Tg)は、熱機械的分析装置(リガク製の商品名「TMA8311」)を使用して引張モードにより測定することができる。
【0036】
さらに、本発明のポリイミドとしては、耐熱性をより高い水準のものとするといった観点から、5%重量減少温度(5%Td)が400℃以上のものが好ましく、450℃以上のものがより好ましい。また、本発明のポリイミドとしては、耐熱性をより高い水準のものとするといった観点から、1%重量減少温度(Td1%)が300℃以上のものが好ましく、400℃以上のものがより好ましい。なお、このような重量減少温度(Td5%、Td1%)の値としては、実施例の欄に記載している重量減少温度(Td5%、Td1%)の測定方法と同様の方法を採用して求められる値を採用する。
【0037】
また、本発明のポリイミドの数平均分子量(Mn)としては、ポリスチレン換算で1,000~1,000,000であることが好ましい。このようなポリイミドの重量平均分子量(Mw)としては、ポリスチレン換算で1,000~5,000,000であることが好ましい。さらに、このようなポリイミドの分子量分布(Mw/Mn)は1.1~5.0であることが好ましい。このようなポリイミドの分子量(Mw又はMn)や分子量の分布(Mw/Mn)が前記範囲内にある場合には、より均一なフィルムをより効率よく製膜することが可能となる。なお、このようなポリイミドの分子量(Mw又はMn)や分子量の分布(Mw/Mn)は、測定装置としてゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定装置(東ソー株式会社製、商品名:HLC-8320GPC/カラム4本:東ソー株式会社製、商品名:TSK gel SuperAW4000,3000,2500,SuperH-RC、溶媒:N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc))を用いて測定したデータをポリスチレンで換算して求めることができる。なお、このようなポリイミドにおいては、分子量の測定が困難な場合には、そのポリイミドの製造に用いるポリアミド酸の粘度に基づいて、分子量等を類推して、用途等に応じたポリイミドを選別して使用してもよい。
【0038】
また、本発明のポリイミドは、溶媒に対する溶解性を有するものとすることも可能であるため、有機溶媒に溶解させてポリイミド溶液(樹脂溶液:ワニス)として利用することも可能である。なお、このようなポリイミド溶液に用いる有機溶媒としては、溶解性、成膜性、生産性、工業的入手性、既存設備の有無、価格といった観点から、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、γ-ブチロラクトン、プロピレンカーボネート、テトラメチル尿素、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、シクロペンタノンが好ましく、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、γ-ブチロラクトン、テトラメチル尿素がより好ましく、N,N-ジメチルアセトアミド、γ-ブチロラクトンが特に好ましい。なお、このような有機溶媒は1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて利用してもよい。
【0039】
また、本発明のポリイミドをポリイミド溶液として利用する場合、各種の加工品を製造するための塗工液等として好適に利用することも可能である。例えば、フィルムを形成する場合、ポリイミド溶液を基材上に塗工して塗膜を得た後、溶媒を除去することで、ポリイミドフィルムを形成してもよい。なお、このようなポリイミド溶液においては、前記ポリイミドの含有量(溶解量)は特に制限されないが、1~75質量%であることが好ましく、10~50質量%であることがより好ましい。
【0040】
また、本発明のポリイミドは、その用途に応じて公知の成分を適宜含有させて利用してもよく、例えば、他のポリマー、酸化防止剤、紫外線吸収剤・ヒンダードアミン系光安定剤、核剤・透明化剤、無機フィラー(ガラス繊維、ガラス中空球、タルク、マイカ、アルミナ、チタニア、シリカなど)、重金属不活性化剤・フィラー充填プラスチック用添加剤、難燃剤、加工性改良剤・滑剤/水分散型安定剤、永久帯電防止剤、靱性向上剤、界面活性剤、炭素繊維等の添加成分を更に含有させて利用してもよい。
【0041】
また、このようなポリイミドの形状は特に制限されず、例えば、フィルム形状や粉状としたり、更には、押出成形によりペレット形状等としてもよい。このように、本発明のポリイミドは、フィルム形状にしたり、押出成形によりペレット形状としたり、公知の方法で各種の形状に適宜成形することもできる。
【0042】
また、本発明のポリイミドを製造するための方法は、特に制限されず、例えば、モノマー(A)として前記一般式(1)で表される化合物を利用する場合、テトラカルボン酸二無水物として前記一般式(1)で表される化合物を利用する以外は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させてポリイミドを製造する公知の方法(例えば、国際公開第2011/099518号に記載されている方法、国際公開第2015/163314号公報に記載されている方法等)で採用されている方法(条件)を適宜採用できる。
【0043】
また、本発明のポリイミドを製造するための方法として好適に利用可能な方法としては、特に制限されるものではないが、例えば、モノマー(A)及びモノマー(B)を重付加反応させてポリイミド前駆体樹脂(好ましくはポリアミド酸(ポリアミック酸))を形成し、その後、ポリイミド前駆体樹脂を閉環縮合(脱水閉環:分子内縮合)させてイミド化することにより、モノマー(A)及びモノマー(B)の重合物であるポリイミドを得る方法(以下、場合により、単に「ポリイミドの製造方法(I)」と称する)を採用することができる。以下、本発明のポリイミドを製造するための方法として好適に利用可能なポリイミドの製造方法(I)を簡単に説明する。
【0044】
このようなポリイミドの製造方法(I)においては、先ず、モノマー(A)及びモノマー(B)を重付加反応させてポリイミド前駆体樹脂(好ましくはポリアミド酸)を形成した後に、これを利用してポリイミドを得る方法である。なお、ここにいう「ポリイミド前駆体樹脂」は、前記モノマー(A)と前記モノマー(B)とを重付加反応させることにより得られるものであればよく、前記モノマー(A)と前記モノマー(B)との付加重合体そのものの他、その付加重合体から得られる誘導体をも含む概念である。以下、先ず、ポリイミドを製造する際に形成するポリイミド前駆体樹脂について説明する。
【0045】
このようなポリイミド前駆体樹脂としては、例えば、下記一般式(11):
【0046】
【0047】
[式(11)中、Arは前記モノマー(B)として利用される前記ジアミン化合物から2つのアミノ基を除いた残基を示し、Y1はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基及び炭素数3~9のアルキルシリル基よりなる群から選択される1種を示し、aで表される結合手及びbで表される結合手のうちの一方が*1で表される炭素原子に結合し、aで表される結合手及びbで表される結合手のうちのもう一方が*2で表される炭素原子に結合し、cで表される結合手及びdで表される結合手のうちの一方が*3で表される炭素原子に結合し、かつ、cで表される結合手及びdで表される結合手のうちのもう一方が*4で表される炭素原子に結合する。]
で表される繰り返し単位(II)を有するものを挙げることができる。なお、このような繰り返し単位(II)は、前記一般式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物及び/又はその誘導体と、前記ジアミン化合物とを重付加することにより、又は、重付加後、誘導することにより得ることができる。そのため、前記繰り返し単位(II)は、前記一般式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物及び/又はその誘導体と、前記ジアミン化合物とを重付加することにより得られる構造(繰り返し単位)及びその誘導体であるといえる。
【0048】
ここで、式(11)中のY1はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6(好ましくは炭素数1~3)のアルキル基及び炭素数3~9のアルキルシリル基よりなる群から選択される1種を示す。このようなY1は、その置換基の種類、及び、置換基の導入率を、その製造条件を適宜変更することで変化させることができる。なお、このようなY1が、いずれも水素原子である場合(いわゆるポリアミド酸の繰り返し単位となる場合)には、それを脱水閉環させることで、効率よくポリイミドを製造することが可能となる。また、前記一般式(11)中のY1が炭素数1~6(好ましくは炭素数1~3)のアルキル基である場合、ポリイミド前駆体樹脂の保存安定性がより優れたものとなる傾向にある。Y1として選択され得る炭素数1~6のアルキル基としては、メチル基又はエチル基がより好ましい。また、前記一般式(11)中のY1が炭素数3~9のアルキルシリル基である場合、ポリイミド前駆体樹脂の溶解性がより優れたものとなる傾向にある。Y1として選択され得る炭素数3~9のアルキルシリル基としては、トリメチルシリル基又はt-ブチルジメチルシリル基がより好ましい。
【0049】
前記式(11)中のY1に関して、水素原子以外の基(アルキル基及び/又はアルキルシリル基)の導入率は、特に限定されないが、ポリイミド前駆体樹脂中に含まれる全繰り返し単位(II)中の全Y1のうちの少なくとも一部をアルキル基及び/又はアルキルシリル基とする場合、前記繰り返し単位(II)中のY1の総量の25%以上(より好ましくは50%以上、更に好ましくは75%以上)をアルキル基及び/又はアルキルシリル基とすることが好ましい(なお、この場合、アルキル基及び/又はアルキルシリル基以外のY1は水素原子となる)。Y1の総量の25%以上をアルキル基及び/又はアルキルシリル基にすることで、ポリイミド前駆体樹脂の保存安定性がより優れたものとなる傾向にある。
【0050】
また、前記ポリイミド前駆体樹脂が前記繰り返し単位(II)を有するものである場合、前記繰り返し単位(II)の含有量は特に制限されないが、ポリイミド前駆体樹脂中の全繰り返し単位に対して70~100モル%であることが好ましく、90~100モル%であることがより好ましく、100モル%であることが特に好ましい。前記繰り返し単位(II)の含有量を前記下限以上とすることで、前記下限未満とした場合と比較して、ポリイミドを製造した場合に、ポリイミドの黄色度を更に低減させることが可能となる。なお、このようなポリイミド前駆体樹脂は、前記式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物及び/又はその誘導体と、前記ジアミン化合物とを重付加することにより得られる構造(繰り返し単位)及びその誘導体を含むものであればよく、他のテトラカルボン酸二無水物及び/又はその誘導体とジアミン化合物とを重付加して得られる構造(他の繰り返し単位)を更に有するものであってもよい。
【0051】
前記ポリイミドの製造方法(I)において、ポリイミド前駆体樹脂(好ましくはポリアミド酸(ポリアミック酸))を形成する方法としては、特に制限されないが、有機溶媒の存在下において、モノマー(A)及びモノマー(B)を重付加反応させてポリイミド前駆体樹脂を得る方法を好適に採用することができる。このような方法に用いる有機溶媒としては、前記モノマー(A)と前記モノマー(B)の両者を溶解することが可能な有機溶媒(さらに好ましくは、形成されるポリイミド前駆体も溶解可能な有機溶媒)であることが好ましい。このような有機溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジメチルホルムアミド、γ-カプロラクトン(GBL)、テトラメチル尿素(N,N,N’,N’-テトラメチルウレア:TMU)、ジメチルスルホキシド、δ-バレロラクトンなどが挙げられる。このような有機溶媒は、1種を単独であるいは2種以上を混合して使用してもよい。
【0052】
また、モノマー(A)及びモノマー(B)を重付加反応させるための条件としては特に制限されず、例えば、モノマー(A)として前記一般式(1)で表される化合物を利用する場合、テトラカルボン酸二無水物として前記一般式(1)で表される化合物を利用する以外は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させてポリアミド酸を製造する公知の方法(例えば、国際公開第2011/099518号に記載されている方法、国際公開第2015/163314号公報に記載されている方法等)で採用されている条件を適宜採用できる。このようにして、モノマー(A)として前記一般式(1)で表される化合物を利用して、かかるテトラテトラカルボン酸二無水物と、前記ジアミン化合物との付加重合反応を進行させることで、ポリイミド前駆体樹脂として好適なポリアミド酸(式(11)中のY1がいずれも水素原子である繰り返し単位(II)を有するポリイミド前駆体樹脂)を得ることが可能となる。
【0053】
ここで、式(11)中のY1が水素原子以外となるような繰り返し単位(II)を含有するポリイミド前駆体樹脂を製造する場合の製造方法としては、例えば、テトラカルボン酸二無水物として前記一般式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物を用いる以外は、国際公開第2018/066522号公報の段落[0165]~[0174]に記載されている方法と同様にして製造する方法を適宜採用してもよい。
【0054】
また、前記ポリイミドの製造方法(I)においては、ポリイミド前駆体樹脂を形成した後、前記ポリイミド前駆体樹脂を閉環縮合(脱水閉環:分子内縮合)させてイミド化することによりポリイミドを得る。
【0055】
前記ポリイミド前駆体樹脂(好ましくはポリアミド酸)を閉環縮合させてイミド化するための方法(条件等)は特に制限されず、公知のイミド化の方法(例えば、国際公開第2011/099518号に記載されているイミド化の方法等)において採用されている方法(条件)を適宜採用することができる。
【0056】
また、前記ポリイミドの製造方法(I)においては、反応促進剤の存在下、有機溶媒中でモノマー(A)及びモノマー(B)を加熱して反応させることにより、前記ポリイミド前駆体樹脂の形成と、それに続く閉環縮合(イミド化)を一連の反応として同時に進行せしめてポリイミドを形成することが好ましい。これにより、中間体のポリイミド前駆体樹脂(好ましくはポリアミド酸)の形成とそれに続くポリイミドの形成(イミド化)とを同時に進行せしめてポリイミドを効率よく製造することが可能である。また、これにより有機溶媒に溶解した状態のポリイミドを得ることも可能であり、有機溶媒と、ポリイミドとからなるポリイミド溶液(ポリイミドワニス)を効率よく得ることもできる。なお、このような手法でポリイミドを形成した場合には、高分子量体のポリイミドが効率よく形成されて、得られるポリイミドの耐熱性がより高度なものとなる傾向にある。そのため、本発明のポリイミドとしては、耐熱性を更に高度なものとすることが可能となるといった観点から、前記手法により得られるポリイミドワニスの硬化物であることが好ましい。なお、このように、ポリイミドワニスを調製した場合には、これを基板上に塗布して硬化せしめることでフィルム形状のポリイミドを調製することが可能となる等、各種形状のポリイミドをより効率よく製造することも可能となる。
【0057】
また、反応促進剤の存在下、有機溶媒中でモノマー(A)及びモノマー(B)を加熱する場合に利用する、前記反応促進剤としては、特に制限されないが、反応性、入手性、実用性の観点から、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、N-メチルピペリジン、ピリジンが好ましく、トリエチルアミン、ピリジン、N-メチルピペリジンがより好ましく、トリエチルアミン、N-メチルピペリジンが更に好ましい。このような反応促進剤は1種を単独であるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、反応促進剤の存在下、有機溶媒中でモノマー(A)及びモノマー(B)を加熱する場合の加熱温度も特に制限されないが150~200℃とすることが好ましい。前記加熱温度を前記範囲内とすることでより効率よくポリイミドを製造することが可能となる。
【実施例0058】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0059】
〔実施例等で用いたモノマーについて〕
先ず、各実施例等において利用したモノマー(テトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物)について簡単に説明する。
【0060】
〈テトラカルボン酸二無水物〉
各実施例等で用いたテトラカルボン酸二無水物は、以下に記載した略称(BpDA、BzDA)にて表現する。
・BpDA:上記式(1)で表される化合物
・BzDA:上記式(3)で表される化合物。
【0061】
〈ジアミン化合物〉
各実施例等で用いたジアミン化合物は、以下に記載した略称(3,4’-DDE、4,4’-DDE、DABAN等)にて表現する。なお、以下に、各ジアミン化合物の略称と化学式の関係を示す。
【0062】
【0063】
なお、BAPPの化合物名は2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパンであり、TPE-Rの化合物名は1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼンであり、3,4’-DDE、4,4’-DDE、DABAN、TFMB、Bis-AP-AFの化合物名は前述の通りである。なお、BAPPおよびTPE-Rは比較のための成分として利用した。
【0064】
(実施例1)
〈ワニス調製工程〉
先ず、50mLフラスコ内に、ジアミン化合物として4,4’-DDEを1.00g(5.00mmol)、テトラカルボン酸二無水物としてBpDAを2.41g(5.00mmol)導入した。次に、前記フラスコ内に、有機溶媒であるN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)を6.8g、有機溶媒であるγ-ブチロラクトン(GBL)を6.8g、及び、反応促進剤であるトリエチルアミン(TEA)を0.025g(0.25mmol)導入することにより混合液を得た。次いで、このようにして得られた混合液を窒素雰囲気下、温度:180℃、時間:3時間の条件で加熱しながら撹拌することにより、粘性のある均一な淡黄色の反応液として、ポリイミドワニス(PIワニス)を得た。
【0065】
〈フィルム調製工程〉
次に、前記PIワニスを、縦76mm、横52mmの大きさのガラス基板にスピンコーターを用いて塗布し、ガラス基板上に前記PIワニスの塗膜を形成した。その後、前記塗膜の形成されたガラス基板を真空ホットチャンバーにセットし、減圧条件下、70℃で30分間保持することにより塗膜の乾燥を実施した(焼成前の乾燥、乾燥条件:70℃、30分間)。その後、乾燥塗膜が形成された前記ガラス基板をイナートオーブンにセットし、窒素パージを実施した。次いで、窒素パージ後のイナートオーブンの温度が焼成温度(350℃)となるまで昇温して、350℃(焼成温度)にて1時間保持した後、室温(約25℃)まで放冷するようにイナートオーブンを操作して、ガラス基板上にポリイミドを形成(加熱硬化)し、ポリイミドからなるフィルムがコートされたガラス基板を得た(焼成条件:350℃、1時間)。次いで、前記ガラス基板からポリイミドからなるフィルムを剥離し、ポリイミドフィルム(フィルム状のポリイミド)を得た。なお、得られたフィルムを目視にて確認したところ、無色透明のものであった。
【0066】
(実施例2~5及び比較例1~6)
先ず、テトラカルボン酸二無水物の種類及び使用量、ジアミン化合物の種類及び使用量、有機溶媒の種類及び使用量、並びに、混合液の加熱条件を、表1に記載の条件となるように変更した以外は、実施例1で採用している〈ワニス調製工程〉と同様にして、PIワニスをそれぞれ調製した。
【0067】
次に、実施例2~5、比較例2及び比較例4~6においては、それぞれ得られたPIワニスを用い、焼成条件(焼成温度及び保持時間)を表1に記載の条件となるように変更した以外は、実施例1で採用している〈フィルム調製工程〉と同様にして、ポリイミドからなるフィルムを得た。他方、比較例1及び比較例3においては、それぞれ得られたPIワニスを用い、ガラス基板上に前記PIワニスの塗膜を形成した後に、前記塗膜の形成されたガラス板をイナートオーブンに投入し、窒素気流下にて60℃に昇温して、60℃で保持時間が4時間(比較例1)又は3時間(比較例2)となるように保持することにより塗膜を乾燥し(焼成前の乾燥)、その後、イナートオーブンの温度が焼成温度(250℃)となるまで昇温して、250℃(焼成温度)で1時間保持した後、室温まで放冷するようにイナートオーブンを操作して、ガラス基板上にポリイミドを形成(加熱硬化)し、ポリイミドからなるフィルムがコートされたガラス基板を得た以外は、実施例1で採用している〈フィルム調製工程〉と同様にして、ポリイミドフィルム(フィルム状のポリイミド)を得た。なお、実施例2~5及び比較例1~6で得られたフィルムはいずれも、目視にて確認したところ無色透明のものであった。
【0068】
【0069】
〔実施例1~5及び比較例1~6で得られたポリイミドの特性の評価〕
<重量減少温度(Td1%、Td5%)の測定>
5%重量減少温度(単位:℃)及び1%重量減少温度(単位:℃)は、実施例1~5及び比較例1~4で得られたポリイミドフィルムを用いて、以下のようにして求めた。すなわち、先ず、各実施例等で得られたポリイミドフィルムから、それぞれ2~10mgの試料を準備し、かかる試料をアルミ製サンプルパンに入れ、測定装置として熱重量分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製の商品名「TG/DTA7200」)を使用して、窒素ガス雰囲気下、昇温速度10℃/分の条件で室温から200℃まで加熱して、200℃にて1時間保持した。そして、この時点(200℃で1時間保持した直後)の試料の重量の測定値を、重量減少温度を測定するための試料の重量の基準値(減少量0%:ゼロ点)とした。その後、走査温度を200℃から550℃に設定し、昇温速度10℃/分の条件で200℃から加熱して、試料の重量が前記基準値に対して1%減少する温度を1%重量減少温度(Td1%)として測定し、また、試料の重量が前記基準値に対して5%減少する温度を5%重量減少温度(Td5%)として測定することにより求めた。得られた結果を表2に示す。
【0070】
<ガラス転移温度(Tg)の測定>
ガラス転移温度(単位:℃)は、各実施例等で得られたポリイミドフィルムから縦20mm、横5mmの大きさのフィルムをそれぞれ切り出して測定試料(かかる試料の厚みは各実施例等で得られたフィルムの厚みのままとした)とし、測定装置として熱機械的分析装置(リガク製の商品名「TMA8311」)を用いて、窒素雰囲気下、引張りモード(49mN)、昇温速度5℃/分の条件で測定を行ってTMA曲線を求め、ガラス転移に起因するTMA曲線の変曲点に対し、その前後の曲線を外挿することにより、各実施例等で得られたフィルムを構成する樹脂のガラス転移温度(Tg)の値(単位:℃)を求めた。得られた結果を表2に示す。
【0071】
<誘電率(Dk)および誘電正接(Df)の測定方法>
誘電率(Dk)および誘電正接(Df)の値の測定は、実施例1~2で得られたポリイミド(フィルム)並びに、比較例1~2で得られたポリイミド(フィルム)に対して行った。かかる測定に際しては、これらのポリイミド(フィルム)から、それぞれ幅:1.5mm、長さ:70~80mmの大きさに切りだした試料片を作成し、測定法として空洞共振器摂動法(IEC 62810に準拠)を採用し、以下のようにして測定した。すなわち、このような誘電率(Dk)および誘電正接(Df)の値の測定は、それぞれ、上述のようにして作成した試験片(幅:1.5mm、長さ:70~80mm)を23℃で相対湿度50%の環境下で24時間静置した後、23℃、相対湿度50%の環境下に調節した実験室にて行った。また、測定装置としてはキーサイト・テクノロジー株式会社製の「PNAネットワークアナライザN522B」及び関東電子応用開発製の商品名「空洞共振器10GHz用CP531」を利用した。また、測定に際しては、前記試験片を前記測定装置の空洞共振器にセットし、周波数を10GHzとして、誘電率(Dk)および誘電正接(Df)の実測値をそれぞれ求めた。そして、このような実測値の測定を計2回行い、それらの平均値を求めることにより、誘電率(Dk)および誘電正接(Df)の値を求めた。このように、誘電率(Dk)および誘電正接(Df)の値としては、2回の測定により得られた実測値の平均値を採用した。得られた結果を表2に示す。
【0072】
【0073】
表2に示す結果において、先ず、テトラカルボン酸二無水物の相違による効果の違いを確認すべく、テトラカルボン酸二無水物としてBpDAを利用した実施例1~5と、テトラカルボン酸二無水物としてBzDAを利用した比較例1~4とに関して、ジアミン化合物が同一のもの同士でそれぞれ比較すると(実施例1と比較例1の対比、実施例2と比較例2の対比、実施例3と比較例3の対比、実施例4と比較例4の対比をそれぞれ行うと)、テトラカルボン酸二無水物としてBpDAを利用した場合にはいずれも、Tg、Td1%及びTd5%がより高い値となっていた。このような結果から、テトラカルボン酸二無水物としてBpDAを利用した場合に、テトラカルボン酸二無水物としてBzDAを利用した場合よりも、Tg及び重量減少温度(Td1%、Td5%)がさらに高い水準のものとなることが確認され、耐熱性がより高い水準のものとなることが分かった。なお、テトラカルボン酸二無水物としてBpDAを利用した場合にBzDAを利用した場合よりも耐熱性がより高いものとなる理由は必ずしも定かではないが、BpDAを利用した場合には、その構造に起因して、得られるポリイミドの高分子鎖にビフェニル骨格が導入されることとなるため、高分子鎖にフェニル骨格が導入されることとなるBzDAを用いた場合よりも、得られるポリイミドの分子の剛直性がより向上するものと考えられ、これによりポリマー分子の分子運動性がより抑制されて耐熱性をより高度なものとすることが可能となるものと本発明者らは推察する。
【0074】
また、表2に示す結果からも明らかなように、BpDAを利用した実施例1~2とBzDAを利用した比較例1~2について、ジアミン化合物が同一のもの同士を比較すると(実施例1と比較例1の対比、実施例2と比較例2の対比をそれぞれ行うと)、テトラカルボン酸二無水物としてBpDAを利用した場合にいずれも誘電率(Dk)および誘電正接(Df)がより低い値となっていた。このような結果から、テトラカルボン酸二無水物としてBpDAを利用した場合に、BzDAを利用した場合よりも誘電率(Dk)および誘電正接(Df)をより低い値とすることが可能であることも確認された。なお、テトラカルボン酸二無水物としてBpDAを利用した場合にBzDAを利用した場合よりも誘電率(Dk)および誘電正接(Df)がより低い値となる理由は必ずしも定かではないが、BpDAを用いた場合には、その構造に起因して高分子鎖にビフェニル骨格が導入されることとなるため、高分子鎖にフェニル骨格が導入されることとなるBzDAを用いた場合よりも、ポリマー分子中のイミド基の濃度を低下させることが可能となり、これに起因して吸水性が低下して誘電率(Dk)および誘電正接(Df)をより低い値とすることが可能となるものと本発明者らは推察する。
【0075】
次に、ジアミン化合物の種類の違いによる効果の違いを確認すべく、テトラカルボン酸二無水物としてBpDAを利用した場合(実施例1~5及び比較例5~6)を比較すると、BpDAに対して組み合わせるジアミン化合物の種類が3,4’-DDE、4,4’-DDE、DABAN、TFMB、Bis-AP-AFである場合(実施例1~5)には、得られるポリイミドのTgが300℃以上となっているのに対して、他のジアミン化合物を利用した場合(比較例5~6)には、Tgが300℃未満となっていた。このような結果から、BpDAに対して、実施例1~5で利用しているような特定のジアミン化合物を組み合わせることで、得られるポリイミドのTgをより高い水準のものとすることが可能となり、少なくともTgを基準とした耐熱性をより高度な水準のものとすることが可能となることが確認された。
以上説明したように、本発明によれば、より高い水準の耐熱性を有するものとすることが可能なポリイミドを提供することが可能となる。このように、本発明のポリイミドは、特に耐熱性に優れるため、例えば、フレキシブル配線基板用のポリイミド、耐熱絶縁テープ用のポリイミド、電線エナメル用のポリイミド、半導体の保護コーティング用のポリイミド(感光性ポリイミド)、液晶配向膜用のポリイミド、透明電極基板(有機EL、太陽電池、電子ペーパー)用のポリイミド、複写機のシームレスベルト用のポリイミド(いわゆる転写ベルト用のポリイミド)、各種のガスバリアフィルム基板材料用のポリイミド、層間絶縁膜用のポリイミド、センサー基板用のポリイミド等として特に有用である。