(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022183756
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】真空ポンプ、スペーサ及びケーシング
(51)【国際特許分類】
F04D 19/04 20060101AFI20221206BHJP
【FI】
F04D19/04 E
F04D19/04 D
F04D19/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021091234
(22)【出願日】2021-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】508275939
【氏名又は名称】エドワーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100156867
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 欣浩
(74)【代理人】
【識別番号】100143786
【弁理士】
【氏名又は名称】根岸 宏子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 春樹
【テーマコード(参考)】
3H131
【Fターム(参考)】
3H131AA02
3H131BA02
3H131CA01
3H131CA31
3H131CA34
3H131CA35
(57)【要約】
【課題】被排気装置との取り付けに要する手間とコストを抑えつつ、被排気装置から伝わる熱が回転翼に及ぼす影響を抑制することが可能な真空ポンプ、スペーサ、ケーシングを提案する。
【解決手段】本発明に係る真空ポンプ100は、吸気口101を有するケーシング127の内部に軸方向に交互に多段配列された回転翼102及び固定翼123を有し、吸気口101側の熱がケーシング127から固定翼123に伝達されるのを抑制する熱伝達抑制手段を備えることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気口を有するケーシングの内部に軸方向に交互に多段配列された回転翼及び固定翼を有する真空ポンプにおいて、
前記吸気口側の熱が前記ケーシングから前記固定翼に伝達されるのを抑制する熱伝達抑制手段を備えることを特徴とする真空ポンプ。
【請求項2】
前記真空ポンプは、ガス流路の下流側に排気口を備え、
前記熱伝達抑制手段として、前記ケーシングとの間に少なくとも前記軸方向の隙間が設けられ、前記吸気口に最も近い最上段固定翼又は前記吸気口に最も近い最上段固定翼スペーサに接触する接触部を有するスペーサを備えることを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項3】
前記スペーサは、前記接触部よりも前記排気口側において薄肉部又は開口部を有することを特徴とする請求項2に記載の真空ポンプ。
【請求項4】
前記熱伝達抑制手段として、前記ケーシングは、前記吸気口に最も近い最上段固定翼又は前記吸気口に最も近い最上段固定翼スペーサに接触する部位の近傍に凹部を備えることを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項5】
前記熱伝達抑制手段として、前記ケーシングは、前記吸気口に最も近い最上段回転翼の先端部に対向する対向部分よりも前記吸気口側において、前記ケーシングの肉厚を減少させる内周側凹部又は外周側凹部を備えることを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項6】
前記真空ポンプは、ガス流路の下流側に排気口を備え、
前記熱伝達抑制手段として、前記吸気口に最も近い最上段固定翼スペーサは、前記排気口側で当該最上段固定翼スペーサに隣接する二段目固定翼スペーサよりも熱伝導率が低い金属材料で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項7】
吸気口を有するケーシングの内部に軸方向に交互に多段配列された回転翼及び固定翼を有する真空ポンプに用いられるスペーサであって、
前記吸気口側の熱が前記ケーシングから前記固定翼に伝達されるのを抑制する熱伝達抑制手段を備えることを特徴とするスペーサ。
【請求項8】
内部に軸方向に交互に多段配列された回転翼及び固定翼を有する真空ポンプに用いられるケーシングであって、
吸気口側の熱が前記固定翼に伝達されるのを抑制する熱伝達抑制手段を備えることを特徴とするケーシング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空ポンプ、及び真空ポンプに用いられるスペーサ並びにケーシングに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造装置に設けられた真空チャンバ内の排気処理には、ターボ分子ポンプ等の真空ポンプが使用される。半導体の製造工程では、半導体の基板に様々なプロセスガスを作用させる工程があり、真空ポンプは、半導体製造装置のチャンバ内を真空にする際に使用されるのみならず、チャンバ内からプロセスガスを排気する際にも使用される。
【0003】
このようなプロセスガスは、蒸気圧曲線で示される圧力と温度の関係が気相から固相に移る箇所において固体化し、半導体製造装置等の被排気装置における流路の内壁面に堆積することがある。このような問題に対し、チャンバーヒータ等の加熱源を被排気装置の排気口付近に取り付けてプロセスガスの温度を高めることによって、生成物の堆積を抑制することが行われている。
【0004】
ところで真空ポンプにおけるケーシングの内部には、回転軸の周囲に放射状に複数段設けられる回転翼と、回転翼の間に複数段設けられる固定翼とが設けられていて、回転軸が高速で回転することにより気体が吸引される。回転翼は、接触する気体との摩擦熱等によって温度が上昇すると、クリープ現象によって耐久性が損なわれることがあるため、輻射等によって固定翼に熱を逃がして温度上昇を抑えることが肝要である。しかし、被排気装置からの熱は、装置の排気口側に取り付けられる真空ポンプのケーシングにも伝わるため、ケーシングから伝達される熱によって固定翼の温度が上昇し、その結果、回転翼から固定翼へ効率よく放熱させることができずに回転翼の温度が上がりすぎるおそれがある。
【0005】
従来、このような不具合を解消することを目的として、特許文献1の真空ポンプが提案されている。この真空ポンプは、被排気装置の排気口側に設けられたフランジと真空ポンプの吸気口側に設けられたフランジとの間に熱伝導率が低いOリング等を介在させることによって、真空ポンプに熱が伝わり難くなるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方、特許文献1の真空ポンプでは、Oリング等が介在できるように被排気装置の排気口側の構造を変更する必要がある。すなわち、被排気装置との取り付けにあたって手間とコストが嵩むことになる。
【0008】
このような点に鑑み、本発明は、被排気装置との取り付けに要する手間とコストを抑えつつ、被排気装置から伝わる熱が回転翼に及ぼす影響を抑制することが可能な真空ポンプ、及びこのような真空ポンプに用いられるスペーサ並びにケーシングを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、吸気口を有するケーシングの内部に軸方向に交互に多段配列された回転翼及び固定翼を有する真空ポンプにおいて、
前記吸気口側の熱が前記ケーシングから前記固定翼に伝達されるのを抑制する熱伝達抑制手段を備えることを特徴とする。
【0010】
このような真空ポンプにおいて、ガス流路の下流側に排気口を備え、前記熱伝達抑制手段として、前記ケーシングとの間に少なくとも前記軸方向の隙間が設けられ、前記吸気口に最も近い最上段固定翼又は前記吸気口に最も近い最上段固定翼スペーサに接触する接触部を有するスペーサを備えることが好ましい。
【0011】
また、前記スペーサは、前記接触部よりも前記排気口側において薄肉部又は開口部を有することが好ましい。
【0012】
そして前記熱伝達抑制手段として、前記ケーシングは、前記吸気口に最も近い最上段固定翼又は前記吸気口に最も近い最上段固定翼スペーサに接触する部位の近傍に凹部を備えることが好ましい。
【0013】
また前記熱伝達抑制手段として、前記ケーシングは、前記吸気口に最も近い最上段回転翼の先端部に対向する対向部分よりも前記吸気口側において、前記ケーシングの肉厚を減少させる内周側凹部又は外周側凹部を備えることが好ましい。
【0014】
また前記真空ポンプは、ガス流路の下流側に排気口を備え、前記熱伝達抑制手段として、前記吸気口に最も近い最上段固定翼スペーサは、前記排気口側で当該最上段固定翼スペーサに隣接する二段目固定翼スペーサよりも熱伝導率が低い金属材料で形成されていることが好ましい。
【0015】
また本発明は、吸気口を有するケーシングの内部に軸方向に交互に多段配列された回転翼及び固定翼を有する真空ポンプに用いられるスペーサであって、前記吸気口側の熱が前記ケーシングから前記固定翼に伝達されるのを抑制する熱伝達抑制手段を備えることを特徴とするものでもある。
【0016】
また本発明は、内部に軸方向に交互に多段配列された回転翼及び固定翼を有する真空ポンプに用いられるケーシングであって、吸気口側の熱が前記固定翼に伝達されるのを抑制する熱伝達抑制手段を備えることを特徴とするものでもある。
【発明の効果】
【0017】
本発明の真空ポンプは、吸気口側の熱がケーシングから固定翼に伝達されるのを抑制する熱伝達抑制手段を備えている。すなわち、被排気装置からケーシングに熱が伝達される場合でも固定翼の温度が抑えられるため、回転翼から固定翼への放熱性が維持されて回転翼の温度上昇を抑制することができる。また、被排気装置に真空ポンプを取り付けるにあたって、従来必要であった被排気装置の構造変更が不要になるため、被排気装置との取り付けに要する手間とコストを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に係る真空ポンプの第一実施形態を概略的に示した縦断面図である。
【
図2】
図1に示した真空ポンプのアンプ回路の回路図である。
【
図3】電流指令値が検出値より大きい場合の制御を示すタイムチャートである。
【
図4】電流指令値が検出値より小さい場合の制御を示すタイムチャートである。
【
図5】
図1に示した真空ポンプのA部における部分拡大図である。
【
図6】
図5に示した真空ポンプの変形例を示した図である。
【
図8】本発明に係る真空ポンプの第二実施形態を示した部分拡大図である。
【
図9】本発明に係る真空ポンプの第三実施形態を示した部分拡大図である。
【
図10】
図9に示した真空ポンプの変形例を示した部分拡大図である。
【
図11】本発明に係る真空ポンプの第四実施形態を示した部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら本発明に係る真空ポンプの一実施形態であるターボ分子ポンプ100について説明する。まず、
図1~
図4を参照しながらターボ分子ポンプ100の全体的な構成について説明する。なお、上述した本発明に係る「ケーシング」は、本実施形態のターボ分子ポンプ100では、外筒127がこれに相当する。また
図1に示したターボ分子ポンプ100は、上述した本発明に係る「熱伝達抑制手段」として、スペーサ160を備えている。
【0020】
このターボ分子ポンプ100の縦断面図を
図1に示す。
図1において、ターボ分子ポンプ100には、円筒状の外筒127の上端に被排気装置の排気ガスを吸引する吸気口101が備えられている。そして、外筒127の内方には、ガスを吸引排気するためのタービンブレードである複数の回転翼102(102a、102b、102c・・・)を周部に放射状かつ多段に形成した回転体103が備えられている。この回転体103の中心にはロータ軸113が取り付けられており、このロータ軸113は、例えば5軸制御の磁気軸受により空中に浮上支持かつ位置制御されている。回転体103は、一般的に、アルミニウム又はアルミニウム合金などの金属によって構成されている。
【0021】
上側径方向電磁石104は、4個の電磁石がX軸とY軸とに対をなして配置されている。この上側径方向電磁石104に近接して、かつ上側径方向電磁石104のそれぞれに対応して4個の上側径方向センサ107が備えられている。上側径方向センサ107は、例えば伝導巻線を有するインダクタンスセンサや渦電流センサなどが用いられ、ロータ軸113の位置に応じて変化するこの伝導巻線のインダクタンスの変化に基づいてロータ軸113の位置を検出する。この上側径方向センサ107はロータ軸113、すなわちそれに固定された回転体103の径方向変位を検出し、不図示の制御装置に送るように構成されている。
【0022】
この制御装置においては、例えばPID調節機能を有する補償回路が、上側径方向センサ107によって検出された位置信号に基づいて、上側径方向電磁石104の励磁制御指令信号を生成し、
図2に示すアンプ回路150(後述する)が、この励磁制御指令信号に基づいて、上側径方向電磁石104を励磁制御することで、ロータ軸113の上側の径方向位置が調整される。
【0023】
そして、このロータ軸113は、高透磁率材(鉄、ステンレスなど)などにより形成され、上側径方向電磁石104の磁力により吸引されるようになっている。かかる調整は、X軸方向とY軸方向とにそれぞれ独立して行われる。また、下側径方向電磁石105及び下側径方向センサ108が、上側径方向電磁石104及び上側径方向センサ107と同様に配置され、ロータ軸113の下側の径方向位置を上側の径方向位置と同様に調整している。
【0024】
さらに、軸方向電磁石106A、106Bが、ロータ軸113の下部に備えた円板状の金属ディスク111を上下に挟んで配置されている。金属ディスク111は、鉄などの高透磁率材で構成されている。ロータ軸113の軸方向変位を検出するために軸方向センサ109が備えられ、その軸方向位置信号が上記制御装置に送られるように構成されている。
【0025】
そして、上記制御装置において、例えばPID調節機能を有する補償回路が、軸方向センサ109によって検出された軸方向位置信号に基づいて、軸方向電磁石106Aと軸方向電磁石106Bのそれぞれの励磁制御指令信号を生成し、アンプ回路150が、これらの励磁制御指令信号に基づいて、軸方向電磁石106Aと軸方向電磁石106Bをそれぞれ励磁制御することで、軸方向電磁石106Aが磁力により金属ディスク111を上方に吸引し、軸方向電磁石106Bが金属ディスク111を下方に吸引し、ロータ軸113の軸方向位置が調整される。
【0026】
このように、上記制御装置は、この軸方向電磁石106A、106Bが金属ディスク111に及ぼす磁力を適当に調節し、ロータ軸113を軸方向に磁気浮上させ、空間に非接触で保持するようになっている。なお、これら上側径方向電磁石104、下側径方向電磁石105及び軸方向電磁石106A、106Bを励磁制御するアンプ回路150については、後述する。
【0027】
一方、モータ121は、ロータ軸113を取り囲むように周状に配置された複数の磁極を備えている。各磁極は、ロータ軸113との間に作用する電磁力を介してロータ軸113を回転駆動するように、上記制御装置によって制御されている。また、モータ121には図示しない例えばホール素子、レゾルバ、エンコーダなどの回転速度センサが組み込まれており、この回転速度センサの検出信号によりロータ軸113の回転速度が検出されるようになっている。
【0028】
さらに、例えば下側径方向センサ108近傍に、図示しない位相センサが取り付けてあり、ロータ軸113の回転の位相を検出するようになっている。上記制御装置では、この位相センサと回転速度センサの検出信号を共に用いて磁極の位置を検出するようになっている。
【0029】
回転翼102(102a、102b、102c・・・)とわずかの空隙を隔てて複数枚の固定翼123(123a、123b、123c・・・)が配設されている。回転翼102(102a、102b、102c・・・)は、それぞれ排気ガスの分子を衝突により下方向に移送するため、ロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成されている。固定翼123(123a、123b、123c・・・)は、例えばアルミニウム、鉄、ステンレス、銅などの金属、又はこれらの金属を成分として含む合金などの金属によって構成されている。
【0030】
また、固定翼123も、同様にロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成され、かつ外筒127の内方に向けて回転翼102の段と互い違いに配設されている。そして、固定翼123の外周端は、複数の段積みされた固定翼スペーサ125(125a、125b、125c・・・)の間に嵌挿された状態で支持されている。
【0031】
固定翼スペーサ125はリング状の部材であり、例えばアルミニウム、鉄、ステンレス、銅などの金属、又はこれらの金属を成分として含む合金などの金属によって構成されている。本実施形態において固定翼スペーサ125の径方向外側には、隙間を隔ててスペーサ160が配設されていて、スペーサ160の径方向外側には、隙間を隔てて外筒127が固定されている。外筒127の底部にはベース部129が配設されている。ベース部129には排気口133が形成され、外部に連通されている。チャンバ(真空チャンバ)側から吸気口101に入ってベース部129に移送されてきた排気ガスは、ガス流路下流側の排気口133へと送られる。
【0032】
さらに、本実施形態のターボ分子ポンプ100は、固定翼スペーサ125の下部とベース部129の間に、ネジ付スペーサ131を配設する。なお、ターボ分子ポンプ100の用途によっては、外筒127とネジ付スペーサ131の一部とを一体的に形成した部材や、ネジ付スペーサ131とベース部129とを一体的に形成した部材を用いることもある。ネジ付スペーサ131は、アルミニウム、銅、ステンレス、鉄、又はこれらの金属を成分とする合金などの金属によって構成された円筒状の部材であり、その内周面に螺旋状のネジ溝131aが複数条刻設されている。ネジ溝131aの螺旋の方向は、回転体103の回転方向に排気ガスの分子が移動したときに、この分子が排気口133の方へ移送される方向である。回転体103の回転翼102(102a、102b、102c・・・)に続く最下部には円筒部102dが垂下されている。この円筒部102dの外周面は、円筒状で、かつネジ付スペーサ131の内周面に向かって張り出されており、このネジ付スペーサ131の内周面と所定の隙間を隔てて近接されている。回転翼102および固定翼123によってネジ溝131aに移送されてきた排気ガスは、ネジ溝131aに案内されつつベース部129へと送られる。
【0033】
ベース部129は、ターボ分子ポンプ100の基底部を構成する円盤状の部材であり、一般には鉄、アルミニウム、ステンレスなどの金属によって構成されている。ベース部129はターボ分子ポンプ100を物理的に保持すると共に、熱の伝導路の機能も兼ね備えているので、鉄、アルミニウムや銅などの剛性があり、熱伝導率も高い金属が使用されるのが望ましい。
【0034】
かかる構成において、回転翼102がロータ軸113と共にモータ121により回転駆動されると、回転翼102と固定翼123の作用により、吸気口101を通じてチャンバから排気ガスが吸気される。回転翼102の回転速度は通常20000rpm~90000rpmであり、回転翼102の先端での周速度は200m/s~400m/sに達する。吸気口101から吸気された排気ガスは、回転翼102と固定翼123の間を通り、ベース部129へ移送される。このとき、排気ガスが回転翼102に接触する際に生ずる摩擦熱や、モータ121で発生した熱の伝導などにより、回転翼102の温度は上昇するが、この熱は、輻射又は排気ガスの気体分子などによる伝導により固定翼123側に伝達される。
【0035】
固定翼スペーサ125は、外周部で互いに接合しており、固定翼123が回転翼102から受け取った熱や排気ガスが固定翼123に接触する際に生ずる摩擦熱などを外筒127へと伝達する。
【0036】
なお、上記では、ネジ付スペーサ131は回転体103の円筒部102dの外周に配設し、ネジ付スペーサ131の内周面にネジ溝131aが刻設されているとして説明した。しかしながら、これとは逆に円筒部102dの外周面にネジ溝が刻設され、その周囲に円筒状の内周面を有するスペーサが配置される場合もある。
【0037】
また、ターボ分子ポンプ100の用途によっては、吸気口101から吸引されたガスが上側径方向電磁石104、上側径方向センサ107、モータ121、下側径方向電磁石105、下側径方向センサ108、軸方向電磁石106A、106B、軸方向センサ109などで構成される電装部に侵入することのないよう、電装部は周囲をステータコラム122で覆われ、このステータコラム122内はパージガスにて所定圧に保たれる場合もある。
【0038】
本実施形態のベース部129には、パージガスポート115が配設され、このパージガスポート115を通じてパージガスが導入される。導入されたパージガスは、保護ベアリング120とロータ軸113間、モータ121のロータとステータ間、ステータコラム122と回転翼102の内周側円筒部の間の隙間を通じて排気口133へ送出される。
【0039】
ここに、ターボ分子ポンプ100は、機種の特定と、個々に調整された固有のパラメータ(例えば、機種に対応する諸特性)に基づいた制御を要する。この制御パラメータを格納するために、上記ターボ分子ポンプ100は、その本体内に電子回路部141を備えている。電子回路部141は、EEP-ROM等の半導体メモリ及びそのアクセスのための半導体素子等の電子部品、それらの実装用の基板143等から構成される。この電子回路部141は、ターボ分子ポンプ100の下部を構成するベース部129の例えば中央付近の図示しない回転速度センサの下部に収容され、気密性の底蓋145によって閉じられている。
【0040】
ところで、半導体の製造工程では、チャンバに導入されるプロセスガスの中には、その圧力が所定値よりも高くなり、或いは、その温度が所定値よりも低くなると、固体となる性質を有するものがある。ターボ分子ポンプ100内部では、排気ガスの圧力は、吸気口101で最も低く排気口133で最も高い。プロセスガスが吸気口101から排気口133へ移送される途中で、その圧力が所定値よりも高くなったり、その温度が所定値よりも低くなったりすると、プロセスガスは、固体状となり、ターボ分子ポンプ100内部に付着して堆積する。
【0041】
例えば、Alエッチング装置にプロセスガスとしてSiCl4が使用された場合、低真空(760[torr]~10-2[torr])かつ、低温(約20[℃])のとき、固体生成物(例えばAlCl3)が析出し、ターボ分子ポンプ100内部に付着堆積することが蒸気圧曲線からわかる。これにより、ターボ分子ポンプ100内部にプロセスガスの析出物が堆積すると、この堆積物がポンプ流路を狭め、ターボ分子ポンプ100の性能を低下させる原因となる。そして、前述した生成物は、排気口133付近やネジ付スペーサ131付近の圧力が高い部分で凝固、付着し易い状況にあった。
【0042】
そのため、この問題を解決するために、従来はベース部129等の外周に図示しないヒータや環状の水冷管149を巻着させ、かつ例えばベース部129に図示しない温度センサ(例えばサーミスタ)を埋め込み、この温度センサの信号に基づいてベース部129の温度を一定の高い温度(設定温度)に保つようにヒータの加熱や水冷管149による冷却の制御(以下TMSという。TMS;Temperature Management System)が行われている。
【0043】
次に、このように構成されるターボ分子ポンプ100に関して、その上側径方向電磁石104、下側径方向電磁石105及び軸方向電磁石106A、106Bを励磁制御するアンプ回路150について説明する。このアンプ回路150の回路図を
図2に示す。
【0044】
図2において、上側径方向電磁石104等を構成する電磁石巻線151は、その一端がトランジスタ161を介して電源171の正極171aに接続されており、また、その他端が電流検出回路181及びトランジスタ162を介して電源171の負極171bに接続されている。そして、トランジスタ161、162は、いわゆるパワーMOSFETとなっており、そのソース-ドレイン間にダイオードが接続された構造を有している。
【0045】
このとき、トランジスタ161は、そのダイオードのカソード端子161aが正極171aに接続されるとともに、アノード端子161bが電磁石巻線151の一端と接続されるようになっている。また、トランジスタ162は、そのダイオードのカソード端子162aが電流検出回路181に接続されるとともに、アノード端子162bが負極171bと接続されるようになっている。
【0046】
一方、電流回生用のダイオード165は、そのカソード端子165aが電磁石巻線151の一端に接続されるとともに、そのアノード端子165bが負極171bに接続されるようになっている。また、これと同様に、電流回生用のダイオード166は、そのカソード端子166aが正極171aに接続されるとともに、そのアノード端子166bが電流検出回路181を介して電磁石巻線151の他端に接続されるようになっている。そして、電流検出回路181は、例えばホールセンサ式電流センサや電気抵抗素子で構成されている。
【0047】
以上のように構成されるアンプ回路150は、一つの電磁石に対応されるものである。そのため、磁気軸受が5軸制御で、電磁石104、105、106A、106Bが合計10個ある場合には、電磁石のそれぞれについて同様のアンプ回路150が構成され、電源171に対して10個のアンプ回路150が並列に接続されるようになっている。
【0048】
さらに、アンプ制御回路191は、例えば、上記制御装置の図示しないディジタル・シグナル・プロセッサ部(以下、DSP部という)によって構成され、このアンプ制御回路191は、トランジスタ161、162のon/offを切り替えるようになっている。
【0049】
アンプ制御回路191は、電流検出回路181が検出した電流値(この電流値を反映した信号を電流検出信号191cという)と所定の電流指令値とを比較するようになっている。そして、この比較結果に基づき、PWM制御による1周期である制御サイクルTs内に発生させるパルス幅の大きさ(パルス幅時間Tp1、Tp2)を決めるようになっている。その結果、このパルス幅を有するゲート駆動信号191a、191bを、アンプ制御回路191からトランジスタ161、162のゲート端子に出力するようになっている。
【0050】
なお、回転体103の回転速度の加速運転中に共振点を通過する際や定速運転中に外乱が発生した際等に、高速かつ強い力での回転体103の位置制御をする必要がある。そのため、電磁石巻線151に流れる電流の急激な増加(あるいは減少)ができるように、電源171としては、例えば50V程度の高電圧が使用されるようになっている。また、電源171の正極171aと負極171bとの間には、電源171の安定化のために、通常コンデンサが接続されている(図示略)。
【0051】
かかる構成において、トランジスタ161、162の両方をonにすると、電磁石巻線151に流れる電流(以下、電磁石電流iLという)が増加し、両方をoffにすると、電磁石電流iLが減少する。
【0052】
また、トランジスタ161、162の一方をonにし他方をoffにすると、いわゆるフライホイール電流が保持される。そして、このようにアンプ回路150にフライホイール電流を流すことで、アンプ回路150におけるヒステリシス損を減少させ、回路全体としての消費電力を低く抑えることができる。また、このようにトランジスタ161、162を制御することにより、ターボ分子ポンプ100に生じる高調波等の高周波ノイズを低減することができる。さらに、このフライホイール電流を電流検出回路181で測定することで電磁石巻線151を流れる電磁石電流iLが検出可能となる。
【0053】
すなわち、検出した電流値が電流指令値より小さい場合には、
図3に示すように制御サイクルTs(例えば100μs)中で1回だけ、パルス幅時間Tp1に相当する時間分だけトランジスタ161、162の両方をonにする。そのため、この期間中の電磁石電流iLは、正極171aから負極171bへ、トランジスタ161、162を介して流し得る電流値iLmax(図示せず)に向かって増加する。
【0054】
一方、検出した電流値が電流指令値より大きい場合には、
図4に示すように制御サイクルTs中で1回だけパルス幅時間Tp2に相当する時間分だけトランジスタ161、162の両方をoffにする。そのため、この期間中の電磁石電流iLは、負極171bから正極171aへ、ダイオード165、166を介して回生し得る電流値iLmin(図示せず)に向かって減少する。
【0055】
そして、いずれの場合にも、パルス幅時間Tp1、Tp2の経過後は、トランジスタ161、162のどちらか1個をonにする。そのため、この期間中は、アンプ回路150にフライホイール電流が保持される。
【0056】
次に、スペーサ160について、
図5、
図7(a)を参照しながら詳細に説明する。上述したようにスペーサ160は、本発明に係る「熱伝達抑制手段」に相当するものであって、被排気装置から吸気口101側に伝わる熱が、外筒127から固定翼123に伝達されるのを抑制する機能を有する。
【0057】
本実施形態のスペーサ160は、
図7(a)に示すように全体的に円筒状になるものであって、円環板状になる上側壁部160aと、上側壁部160aの外縁部から下方に向けて拡径するように延在した後に同径のまま下方に向けて延在する筒状部160bと、筒状部160bの下端部から径方向外側に向けて延在する円環板状のフランジ部160cを備えている。
【0058】
このような形態になるスペーサ160は、
図5に示すようにしてターボ分子ポンプ100に取り付けられている。すなわちスペーサ160は、吸気口101に最も近い固定翼(以下、最上段固定翼123aと称する)の上端部が上側壁部160aの内縁部に接触し(上側壁部160aは、本発明に係る「接触部」に相当する)、またフランジ部160cの外縁部が外筒127の内周面に設けた段部127aに接触した状態で、ボルトB1で外筒127をネジ付スペーサ131に締結することによって固定されている。この状態においてスペーサ160と複数の固定翼123との間、及びスペーサ160と外筒127との間には、径方向の隙間が設けられている。また上側壁部160aと外筒127との間には、軸方向の隙間も設けられている。すなわち、被排気装置から外筒127に伝わる熱は、外筒127から最上段固定翼123aには直接伝達されず、下方に位置するフランジ部160cに伝わった後、さらに筒状部160bと上側壁部160aを介して最上段固定翼123aに伝わることになる。このようにスペーサ160は、外筒127に伝わる被排気装置からの熱が固定翼123に伝わるまでの熱経路を長くする効果があるため、固定翼123の温度が抑えられ、惹いては回転翼102の温度上昇を抑制することができる。なお、本実施形態における固定翼スペーサ125のうち、最も吸気口101に近い固定翼(以下、最上段固定翼スペーサ125aと称する)は、最上段固定翼123aの下方に位置している。一方、ターボ分子ポンプ100としては、最上段固定翼スペーサ125aが最上段固定翼123aの上方に位置している構成を採用することも可能であり、このような場合にスペーサ160を取り付けるにあたっては、最上段固定翼スペーサ125aの上端部に上側壁部160aの内縁部を接触させることが好ましい。
【0059】
スペーサ160は、例えばアルミニウム、鉄、チタン、若しくはステンレス等の金属、又はこれらの金属を成分として含む合金により形成することができるが、特に熱伝導率が低い金属(ステンレス)で形成することにより、被排気装置からの熱に起因する固定翼123の温度上昇をさらに抑えることができる。
【0060】
スペーサ160は、外筒127に対して接触するものに限られず、
図6に示すようにネジ付スペーサ131に接触するものでもよい。
図6に示したスペーサ160は、フランジ部160cを貫通する孔を有していて、この孔に挿通させたボルトB2によって、フランジ部160cがネジ付スペーサ131に接触して固定される。なお、
図6に示した状態のスペーサ160は、ネジ付スペーサ131に対して軸方向に僅かな隙間をもっているが、ボルトB2を完全に締め付けることによって、フランジ部160cをネジ付スペーサ131に接触させることができる。
【0061】
またスペーサ160は、上側壁部160aよりも排気口133側に位置する筒状部160bにおいて、
図7に示すように筒状部160bを貫通する開口部160dを備えるものでもよい。筒状部160bに開口部160dを設けることによって、筒状部160bの熱経路を狭めることができるため、被排気装置からの熱に起因する固定翼123の温度上昇を抑えることができる。なお、図示しないが、開口部160dに替えて、筒状部160bの少なくとも一部の肉厚を薄くした薄肉部を筒状部160bに設けることによって熱経路を狭めるようにしてもよい。
【0062】
本発明に係る「熱伝達抑制手段」は、上述したスペーサ160に限られず、「ケーシング」の上部を構成する外筒127により構成することも可能である。
【0063】
図8に示した外筒127は、複数の固定翼123のうち、吸気口101に最も近い最上段固定翼123aに接触する外筒接触部127bの近傍に、外筒127を軸方向に切り欠くようにして形成した凹部127cを備えている。すなわち、凹部127cを設けることによって外筒127の厚みが減って、外筒127での熱経路が狭まるため、被排気装置から外筒127に伝達された熱が最上段固定翼123aには伝わり難くなる。従って固定翼123の温度が抑えられ、回転翼102の温度上昇を抑制することができる。
【0064】
また外筒127は、
図9に示すように構成してもよい。
図9に示した外筒127は、複数の回転翼102のうち、吸気口101に最も近い回転翼(以下、最上段回転翼102aと称する)の先端部に対向する対向部分127dに対し、この対向部分127dよりも吸気口101側において、外筒127の内周側の肉厚を径方向内側から外側に向けて減少させる内周側凹部127eを備えている。すなわち、内周側凹部127eを設けることによって外筒127の厚みが減って、外筒127での熱経路を狭めることができる。このため、被排気装置から外筒127に伝達された熱が最上段固定翼123aには伝わり難くなり、固定翼123の温度が抑えられて回転翼102の温度上昇を抑制することができる。
【0065】
上述した内周側凹部127eは、対向部分127dよりも吸気口101側において、外筒127の内周側の肉厚を部分的に減少させるものに限られず、
図10に示すように対向部分127dよりも吸気口101側に位置する内周側の肉厚を全て減少させる(対向部分127dよりも上方に位置する内周側の肉厚が全て薄くなって、内周側凹部127eの内周面と吸気口101の内周面が同一面になる)ようにしてもよい。
【0066】
なお図示は省略するが、外筒127の熱経路を狭めるにあたっては、その外周側の肉厚を径方向外側から内側に向けて減少させる外周側凹部を設けてもよい。
【0067】
そして本発明に係る「熱伝達抑制手段」は、上述したスペーサ160に限られず、
図11に示すように固定翼スペーサ125により構成することも可能である。
図11においては、最上段固定翼スペーサ125aが最上段固定翼123aの上方に位置していて、外筒127は、最上段固定翼スペーサ125aに接触している。また最上段固定翼スペーサ125aは、下側(排気口133側)で最上段固定翼スペーサ125aに隣接する二段目固定翼スペーサ125bよりも熱伝導率が低い金属材料で形成されている。例えば金属材料における熱伝導率は、銅、アルミニウム、鉄、チタン、ステンレスの順に低くなる。従って、例えば二段目固定翼スペーサ125bをアルミニウム(アルミニウムを成分として含む合金)で形成する場合、最上段固定翼スペーサ125aは、鉄、チタン、若しくはステンレス、又はこれらを成分として含む合金により形成される。すなわち、最上段固定翼スペーサ125aを熱伝導率が低い金属材料で形成することによって、被排気装置から外筒127に伝達された熱が最上段固定翼123aに伝わり難くなるため、固定翼123の温度が抑えられて回転翼102の温度上昇を抑制することができる。
【0068】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、上記の説明で特に限定しない限り、特許請求の範囲に記載された本発明の趣旨の範囲内において、種々の変形・変更および組合せが可能である。また、上記の実施形態における効果は、本発明から生じる効果を例示したに過ぎず、本発明による効果が上記の効果に限定されることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0069】
100:ターボ分子ポンプ(真空ポンプ)
101:吸気口
102:回転翼
102a:最上段回転翼
123:固定翼
123a:最上段固定翼
125:固定翼スペーサ
125a:最上段固定翼スペーサ
125b:二段目固定翼スペーサ
127:外筒(ケーシング)
127c:凹部
127d:対向部分
127e:内周側凹部
133:排気口
160:スペーサ(熱伝達抑制手段)
160a:上側壁部(接触部)
160d:開口部