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特開2022-183762核内ノンコーディングRNAの抽出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022183762
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】核内ノンコーディングRNAの抽出方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/10 20060101AFI20221206BHJP
   C12Q 1/6844 20180101ALI20221206BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20221206BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALI20221206BHJP
【FI】
C12N15/10 100Z
C12Q1/6844 Z ZNA
C12Q1/686 Z
C12Q1/6869 Z
C12N15/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】25
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021091242
(22)【出願日】2021-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】武田 貴成
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA08
4B063QA18
4B063QQ08
4B063QQ52
4B063QR16
4B063QR52
4B063QS14
4B063QS25
4B063QS26
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】 抽出の困難な核内ncRNAを安定的に効率よく細胞から抽出する方法を提供すること。
【解決手段】 本発明では、核内構造体の分解に適したプロテアーゼ(例えば、サブチリシン)及び細胞溶解剤を含む反応液で細胞試料を処理することにより、一般に抽出が困難な核内ncRNAを含む全RNAを細胞から安定的・効率的に抽出する手法を提供する。核内ncRNAとしてはパラスペックルを構成するNEAT1、核スペックルを構成するMALAT1などの核内lncRNAが挙げられるが、これらに限定されない。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞溶解剤および非特異的プロテアーゼを含む反応液で細胞試料を処理する工程を包含する、核内ノンコーディングRNAの抽出方法。
【請求項2】
該細胞試料中における被験細胞数が、1~500細胞である請求項1記載の方法。
【請求項3】
該細胞試料が、動物細胞を含む試料である請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
該反応液中における非特異的プロテアーゼの濃度が、0.0001mg/mL以上、1mg/mL以下である請求項1~3のいずれか記載の方法。
【請求項5】
該非特異的プロテアーゼが、サブチリシン又はその変異体である、請求項1~4のいずれか記載の方法。
【請求項6】
該反応液中におけるサブチリシン又はその変異体の濃度が、0.0005mg/mL以上、0.5mg/mL以下である、請求項5記載の方法。
【請求項7】
該細胞溶解剤として、界面活性剤を含む請求項1~6のいずれか記載の方法。
【請求項8】
該界面活性剤が、非イオン性界面活性剤である請求項7記載の方法。
【請求項9】
該非イオン性界面活性剤が、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリエチレングリコールモノ-p-イソオクチルフェニルエーテル、及びポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートからなる群より選択される少なくとも1種である請求項8記載の方法。
【請求項10】
該細胞溶解剤として、カオトロピック剤を含む請求項1~9のいずれか記載の方法。
【請求項11】
該カオトロピック剤が尿素、及び過塩素酸リチウム塩からなる群より選択される少なくとも1種である請求項10記載の方法。
【請求項12】
核内ノンコーディングRNAを含む全RNAの抽出方法である請求項1~11のいずれか記載の方法。
【請求項13】
該核内ノンコーディングRNAが、5kb以上の核内長鎖ノンコーディングRNAである、請求項1~12のいずれか記載の方法。
【請求項14】
該核内ノンコーディングRNAが、NEAT1及びMALAT1からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1~13のいずれか記載の方法。
【請求項15】
該反応液で処理した細胞試料を65℃以上で1分間以上インキュベートする工程を更に包含する請求項1~14のいずれか記載の方法。
【請求項16】
該インキュベートを70℃以上で行う請求項15記載の方法。
【請求項17】
該反応液が酸性溶液である、請求項1~16のいずれか記載の方法。
【請求項18】
該酸性溶液がpH4.0~6.0である請求項17に記載の方法。
【請求項19】
該反応液が、デオキシリボヌクレアーゼ及びRNase阻害剤からなる群より選択される少なくとも一種を更に含む、請求項1~18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
該反応液が、ポリイノシン酸、ポリシチジル酸、ポリグアニル酸、ポリアデニル酸、ポリチミジル酸、ポリウリジル酸、ポリデオキシイノシン酸、ポリデオキシシチジル酸、ポリデオキシグアニル酸、ポリデオキシアデニル酸、ポリデオキシチミジル酸、ポリデオキシウリジル酸、及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種の核酸ホモポリマーを更に含有する、請求項1~19のいずれか記載の方法。
【請求項21】
デオキシリボヌクレアーゼで処理する工程を更に包含する請求項1~20のいずれか記載の方法。
【請求項22】
請求項1~21のいずれか記載の方法で抽出したRNAを逆転写する工程を包含するDNA合成方法。
【請求項23】
該逆転写が、RT-PCR法又はRT-RamDA法において行われる、請求項22記載の方法。
【請求項24】
請求項1~21のいずれかに記載の方法で抽出したRNA、又は請求項22若しくは23に記載の方法により合成したDNAを用いる、核内ノンコーディングRNAの解析方法。
【請求項25】
細胞溶解剤および非特異的プロテアーゼを含有する、核内ノンコーディングRNAを抽出するために用いられるキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核内複合体を形成するタンパク質の溶解により、核内ノンコーディングRNA(核内ncRNAともいう)を含む全RNAの効率的な抽出および解析を可能にする分子生物学的な改良技術に関する。本発明により、次世代シーケンサー(NGS)やリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(PCR)などの技術を用いた遺伝子解析による研究を促進することができる。
【背景技術】
【0002】
分子生物学分野において、PCR技術を利用した遺伝子解析は広く用いられる技術となった。特にリバーストランスクリプターゼ(RT)を利用したRT-PCRは、RNAの発現量およびその配列を解析する上で、NGSやリアルタイムPCRとともに必須の技術として確立されている。
【0003】
RT-PCRなどに供するため、細胞から核酸を抽出する手法が数多く樹立されている。広く知られているRNA抽出法の一つが、プロテアーゼなどで細胞を破砕して抽出する方法であるが、この手法では細胞に含まれるすべてのRNA(全RNAともいう)を一様に効率よく抽出できていない。抽出されにくいRNAの一例として、核内RNAなどが挙げられる。
【0004】
核内には多量のRNA、特にNEAT1やMALAT1のようなノンコーディングRNA(ncRNA)が含まれることが知られている(非特許文献1、2)。しかし、これらの核内ncRNAは様々なタンパク質と結合し、核内構造体を形成しているため、抽出されにくい。典型的な例として、MALAT1 RNAを多量に含む核スペックルや、NEAT1を中心に形成されるパラスペックルは、RNAおよびタンパク質の密度が高く、それらに含まれるRNAの抽出が困難である。
【0005】
そして、生物学的試料に含まれるRNAは、種々のヌクレアーゼによる分解や、液体中での自然分解を受け易い。この点は核内ncRNAの抽出でも同様である。従って、抽出困難でありながら分解され易い核内ncRNAの抽出には、特に迅速かつ確実な細胞溶解による抽出が必要となる。
【0006】
近年、NEAT1やMALAT1などの核内RNAは、腫瘍や糖尿病のような難治性疾患と関連することが示唆されている。しかし、核内RNAの詳細な機能や意義は依然として不明な点が多い。核内RNAを解析することは、分子生物学的に重要であり、難治性疾患の治療においても有用な知見を提供する可能性がある。従って、核内RNAを含む全RNAを迅速かつ効率よく抽出できる手法の提供により、分子生物学ひいては難治性疾患の治療に貢献できることが期待される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】West J. A. et. al., The Long Noncoding RNAs NEAT1 and MALAT1 Bind Active Chromatin Sites, Mol. Cell, 2014
【非特許文献2】Yamazaki T. et. al., Functional Domains of NEAT1 Architectural lncRNA Induce Paraspeckle Assembly through Phase Separation, Mol Cell, 2018
【非特許文献3】Hayashi T. et al., Single-cell full-length total RNA sequencing uncovers dynamics of recursive splicing and enhancer RNAs, Nat. Commun.,2018
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
細胞試料からの全RNA抽出を行う際に、核内ncRNAを安定的・効率的に抽出するための新たな方法の開発が求められている(非特許文献3)。この抽出効率が安定しない原因として、核内構造体は核酸およびタンパク質の凝集体であり、完全な溶解が困難であることが想定される。よって本発明では、従来からRNA抽出に用いられているプロテアーゼよりも核内構造体の分解により適したプロテアーゼを見出し、このプロテアーゼを含む反応液で処理することにより、抽出の困難な核内ncRNAを含めた全RNAを細胞から安定的・効率的に抽出できる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、核内構造体の分解に適し、核内ncRNA、例えばパラスペックルの形成に関わるNEAT1 RNAや核スペックルの形成に関わるMALAT1 RNAの抽出に優れたプロテアーゼを見出し、このプロテアーゼを細胞溶解剤と共に用いることで、核内ncRNAを含めた全RNAの安定的・効率的な抽出が可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、代表的な本発明は以下の態様を包含する。
[項1]細胞溶解剤および非特異的プロテアーゼを含む反応液で細胞試料を処理する工程を包含する、核内ノンコーディングRNAの抽出方法。
[項2]該細胞試料中における被験細胞数が、1~500細胞である項1記載の方法。
[項3]該細胞試料が、動物細胞を含む試料である項1または2記載の方法。
[項4]該反応液中における非特異的プロテアーゼの濃度が、0.0001mg/mL以上、1mg/mL以下である項1~3のいずれか記載の方法。
[項5]該非特異的プロテアーゼが、サブチリシン又はその変異体である、項1~4のいずれか記載の方法。
[項6]該反応液中におけるサブチリシン又はその変異体の濃度が、0.0005mg/mL以上、0.5mg/mL以下である、項5記載の方法。
[項7]該細胞溶解剤として、界面活性剤を含む項1~6のいずれか記載の方法。
[項8]該界面活性剤が、非イオン性界面活性剤である項7記載の方法。
[項9]該非イオン性界面活性剤が、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリエチレングリコールモノ-p-イソオクチルフェニルエーテル、及びポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートからなる群より選択される少なくとも1種である項8記載の方法。
[項10]該細胞溶解剤として、カオトロピック剤を含む項1~9のいずれか記載の方法。
[項11]該カオトロピック剤が尿素、及び過塩素酸リチウム塩からなる群より選択される少なくとも1種である項10記載の方法。
[項12]核内ノンコーディングRNAを含む全RNAの抽出方法である項1~11のいずれか記載の方法。
[項13] 該核内ノンコーディングRNAが、5kb以上の核内長鎖ノンコーディングRNAである、項1~12のいずれか記載の方法。
[項14]該核内ノンコーディングRNAが、NEAT1及びMALAT1からなる群より選択される少なくとも1種である項1~13のいずれか記載の方法。
[項15]該反応液で処理した細胞試料を65℃以上で1分間以上インキュベートする工程を更に包含する項1~14のいずれか記載の方法。
[項16]該インキュベートを70℃以上で行う項15記載の方法。
[項17]該反応液が酸性溶液である、項1~16のいずれか記載の方法。
[項18]該酸性溶液がpH4.0~6.0である項17に記載の方法。
[項19]該反応液が、デオキシリボヌクレアーゼ及びRNase阻害剤からなる群より選択される少なくとも一種を更に含む、項1~18のいずれかに記載の方法。
[項20] 該反応液が、ポリイノシン酸、ポリシチジル酸、ポリグアニル酸、ポリアデニル酸、ポリチミジル酸、ポリウリジル酸、ポリデオキシイノシン酸、ポリデオキシシチジル酸、ポリデオキシグアニル酸、ポリデオキシアデニル酸、ポリデオキシチミジル酸、ポリデオキシウリジル酸、及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種の核酸ホモポリマーを更に含有する、項1~19のいずれか記載の方法。
[項21]デオキシリボヌクレアーゼで処理する工程を更に包含する項1~20のいずれか記載の方法。
[項22]項1~21のいずれか記載の方法で抽出したRNAを逆転写する工程を包含するDNA合成方法。
[項23]該逆転写が、RT-PCR法又はRT-RamDA法において行われる、項22記載の方法。
[項24]項1~21のいずれかに記載の方法で抽出したRNA、又は項22若しくは23に記載の方法により合成したDNAを用いる、核内ノンコーディングRNAの解析方法。
[項25] 細胞溶解剤および非特異的プロテアーゼを含有する、核内ノンコーディングRNAを抽出するために用いられるキット。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、核内ncRNAを含めた全RNAの安定的かつ効率的な抽出が可能となり、全RNAを用いた遺伝子解析の精度をより高めることができる。これにより、従来は解析が困難であった多種多様な遺伝子の詳細な解析が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1はヒトにおけるNEAT1、MALAT1、βACTIN遺伝子のRNAと、リアルタイムPCR解析において用いたプライマーの位置を示している。
図2図2は、実施例1におけるリアルタイムPCRの結果を示す図である。核酸ポリマー及び界面活性剤の存在下でネガティブコントロール(プロテアーゼなし)、サブチリシン(条件1)、プロテイナーゼK(条件2)またはプロナーゼ(条件3)を用いて細胞からRNAの抽出を行い、逆転写反応を行った後、リアルタイムPCRにてCt値を測定した。ネガティブコントロールにおけるCt値からサブチリシン、プロテイナーゼKまたはプロナーゼを用いた場合のCt値を引き、ΔCt値を求めることで、NEAT1遺伝子の5’領域、中央領域(mid)、3’領域、MALAT1遺伝子の1領域、およびβACTIN遺伝子の1領域の抽出量を比較した。
図3図3は、実施例2におけるリアルタイムPCRの結果を示す図である。核酸ポリマー及び界面活性剤の存在下でネガティブコントロール(プロテアーゼなし)、サブチリシン(条件1)、プロテイナーゼK(条件2)またはプロナーゼ(条件3)を用いて細胞からRNAの抽出を行い、RT-RamDA反応を行った後、リアルタイムPCRにてCt値を測定した。ネガティブコントロールにおけるCt値からサブチリシン、プロテイナーゼKまたはプロナーゼを用いた場合のCt値を引き、ΔCt値を求めることで、NEAT1遺伝子の5’領域、中央領域(mid)、3’領域、およびMALAT1遺伝子の1領域の抽出量を比較した。
図4図4は、実施例3におけるリアルタイムPCRの結果を示す図である。界面活性剤の存在下でネガティブコントロール(プロテアーゼなし)、サブチリシン(条件1)、プロテイナーゼK(条件2)またはプロナーゼ(条件3)を用いて細胞からRNAの抽出を行い、逆転写反応を行った後、リアルタイムPCRにてCt値を測定した。ネガティブコントロールにおけるCt値からサブチリシン、プロテイナーゼKまたはプロナーゼを用いた場合のCt値を引き、ΔCt値を求めることで、NEAT1遺伝子の5’領域、中央領域(mid)、3’領域、およびMALAT1遺伝子の1領域の抽出量を比較した。
図5図5は、実施例4におけるリアルタイムPCRの結果を示す図である。界面活性剤の存在下でネガティブコントロール(プロテアーゼなし)、サブチリシン(条件1)、プロテイナーゼK(条件2)またはプロナーゼ(条件3)を用いて細胞からRNAの抽出を行い、RT-RamDA反応を行った後、リアルタイムPCRにてCt値を測定した。ネガティブコントロールにおけるCt値からサブチリシン、プロテイナーゼKまたはプロナーゼを用いた場合のCt値を引き、ΔCt値を求めることで、NEAT1遺伝子の5’領域、中央領域(mid)、3’領域、およびMALAT1遺伝子の1領域の抽出量を比較した。
図6図6は、実施例5におけるリアルタイムPCRの結果を示す図である。ネガティブコントロール(プロテアーゼおよび細胞溶解剤なし)、条件1(サブチリシン添加)、条件2(サブチリシン+ポリオキシエチレンオレイルエーテル)、条件3(サブチリシン+ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル)の抽出反応液を用いて細胞からRNAの抽出を行い、逆転写反応を行った後、リアルタイムPCRにてCt値を測定することで、NEAT1遺伝子の中央領域(mid)およびMALAT1遺伝子の1領域の抽出量を比較した。
図7図7は、実施例6におけるリアルタイムPCRの結果を示す図である。条件1(pH5.5)、条件2(pH6.5)、条件3(pH7.0)の抽出反応液を用いて細胞からRNAの抽出を行い、逆転写反応を行った後、リアルタイムPCRにてCt値を測定することで、NEAT1遺伝子の中央領域(mid)の抽出量を比較した。
図8図8は、実施例7におけるリアルタイムPCRの結果を示す図である。条件1(pH7.0)、条件2(pH7.5)、条件3(pH8.0)、条件4(pH8.5)の抽出反応液を用いて細胞からRNAの抽出を行い、逆転写反応を行った後、リアルタイムPCRにてCt値を測定することで、NEAT1遺伝子の中央領域(mid)の抽出量を比較した。
図9図9は、実施例8におけるリアルタイムPCRの結果を示す図である。条件1(サブチリシン0.0001mg/mL)、条件2(サブチリシン0.0005mg/mL)、条件3(サブチリシン0.001mg/mL)の抽出反応液を用いて細胞からRNAの抽出を行い、逆転写反応を行った後、リアルタイムPCRにてCt値を測定することで、NEAT1遺伝子の5’領域の抽出量を比較した。
図10図10は、実施例9におけるリアルタイムPCRの結果を示す図である。条件1(サブチリシン0.005mg/mL)、条件2(サブチリシン0.02mg/mL)、条件3(サブチリシン0.1mg/mL)、条件3(サブチリシン0.5mg/mL)の抽出反応液を用いて細胞からRNAの抽出を行い、逆転写反応を行った後、リアルタイムPCRにてCt値を測定することで、NEAT1遺伝子の5’領域の抽出量を比較した。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を示しつつ、本発明についてさらに詳説する。
<核内ノンコーディングRNAの抽出方法>
本発明は、細胞試料から核内ノンコーディングRNA(核内ncRNA)を安定的・効率的に抽出する方法を提供する。本方法は、核内ncRNAのみを細胞試料から抽出するわけではなく、核外輸送されたmRNA等の他のRNAも核内ncRNAと共に抽出する。従って、本発明の核内ncRNAの抽出方法は、核内ncRNAを含む全RNAの抽出方法ということもできる。本発明により、従来の核外輸送されるmRNAを中心としたRNA抽出法よりも、核内RNAを含む多種多様なRNAの抽出が可能となる。
【0014】
1.細胞試料から核内ncRNAを抽出する方法
一つの実施形態において、本発明の核内ncRNAを抽出する方法は、細胞試料と、細胞溶解剤及び非特異的なプロテアーゼを含む反応液とを接触させて、該反応液で該細胞試料を処理する工程を少なくとも包含する。本発明の方法は、特定の反応液で処理するという比較的簡便な方法でありながら、核内構造体において凝縮しており、通常は抽出が困難なncRNAを安定的・効率的に抽出できるという点で優れている。
【0015】
1-1.核内構造体
対象となる核内構造体は特に限定されず、ncRNAとタンパク質等が凝集して形成された任意の核内に存在する構造体であり得る。例えば、好ましい核内構造体の例として、パラスペックルおよび核スペックルが挙げられる。核内構造体は、ncRNAを含む核酸とタンパク質の集合体であり、溶出が困難であることが知られている(Unusual semi-extractability as a hallmark of nuclear body-associated architectural noncoding RNAs, Takeshi Chujo et. al., EMBO J., 2017(参照することによりその全体が本明細書に組み込まれる)など)。またパラスペックル含有ncRNAとしてNEAT1およびそのトランスクリプトバリアントが、核スペックル含有ncRNAとしてMALAT1およびそのトランスクリプトバリアントが広く知られている。パラスペックルにおいては、多数のNEAT1のncRNAおよびそのトランスクリプトバリアントが中央領域に疎水性タンパク質を結合させることで中心部に集合させ、外側に3’領域と5’領域を向けるミセル構造をとることが示されており、他の核スペックルなどの核内構造体も類似した構造をとると考えられている(Architectural RNAs for Membraneless Nuclear Body Formation, Tomohiro Yamazaki et. al., Cold Spring Harb. Symp. Quant. Biol., 2019、Paraspeckles are constructed as block copolymer micelles through microphase separation, Tomohiro Yamazaki et. al., EMBO J., 2021(参照することによりその全体が本明細書に組み込まれる)など)。本発明により、細胞試料においてこのミセル構造を溶解し、核内ncRNAを含めた全RNAを効率よく抽出することができると考えられる。
【0016】
1-2.核内ノンコーディングRNA
本発明において抽出される核内ncRNAは、特に限定されず、上記のような核内構造体を形成する任意のncRNAが対象となり得る。例えば、好ましい核内ncRNAの例として、NEAT1、MALAT1、及びそれらのトランスクリプトバリアントが挙げられる。NEAT1(Nuclear-Enriched Abundant Transcript 1)は、ヒト11番染色体から転写され、その転写の際の3’末端のプロセシングの違いにより2種類のアイソフォーム(約3.7kbのNEAT1_1及び約23kbのNEAT1_2)が存在することが知られている長鎖ノンコーディングRNA(lncRNA)の一種である。MALAT1 (Metastasis-Associated Lung Adenocarcinoma Tanscript 1)もまたヒト11番染色体から転写される長鎖ノンコーディングRNAの一種であり、約9kbの長さを有することが知られている。本明細書において、NEAT1又はMALAT1は、それらのトランスクリプトバリアントを含む。本発明によれば、これらの核内ncRNAを安定的・効率的に抽出できるので、各細胞試料の様々なRNAを網羅的に解析することも可能となり得る。
【0017】
本発明により抽出される核内ncRNAは、任意の長さの核内ncRNAであり得る。後述の試験例の結果に示されるように、本発明では、約9kbの核内ncRNA(MALAT1)も然ることながら、約23kbの核内ncRNA(NEAT1)の5’領域、mid領域、及び3’領域を全て安定的・効率的に抽出できたことが確認できている。従って、一つの好ましい実施形態において、本発明は核内長鎖ノンコーディングRNA(核内lncRNAともいう)を含む全RNAの抽出に好適であり得る。核内lncRNAの長さは特に限定されないが、例えば、5kb以上であり、好ましくは7kb以上、より好ましくは9kb以上であり得る。更なる実施形態では、10kb以上、又は20kb以上の核内lncRNAを含む全RNAの抽出であってもよい。上限は特に限定されないが、例えば50kb以下であり得る。
【0018】
1-3.抽出反応液
本発明の核内ncRNAの抽出方法に用いる反応液は、細胞溶解剤及び非特異的なプロテアーゼを含む。またこの抽出反応液は、デオキシリボヌクレアーゼやRNase阻害剤等の他の成分も任意に含み得る。
【0019】
(1)非特異的プロテアーゼ
本発明に用いる非特異的プロテアーゼは、切断特異性が高くなく、幅広い基質特異性を示すことが当該分野で公知の任意のプロテアーゼであり得る。非特異的プロテアーゼとして例えば、サブチリシン、プロテイナーゼK、プロナーゼ、又はこれらと同様の基質特異性を示すプロテアーゼであり得るが、これらに限定されない。特定の実施形態では、より高度に核内ncRNAを抽出できるという観点から、非特異的プロテアーゼは、核内構造体の分解に適した非特異的なプロテアーゼであることが好ましく、例えば、プロテイナーゼK(EC3.4.21.64)又はプロナーゼ(EC3.4.24.4)よりも核内構造体(例えばNEAT1のRNAおよびそのトランスクリプトバリアントを多く含むパラスペックルや、MALAT1のRNAおよびそのトランスクリプトバリアントを多く含む核スペックル)の分解に適しているプロテアーゼであることが好ましい。このような核内構造体の分解に適した非特異的プロテアーゼの好ましい例としては、サブチリシン(EC3.4.21.62)およびその変異体が挙げられるが、これに限定されない。サブチリシンの変異体は、サブチリシン(配列番号1)のアミノ酸配列と高い相同性を示し、且つ、サブチリシンと類似した基質特異性を持つ酵素であり得る。サブチリシンは、基質ペプチド鎖中のフェニルアラニン残基や、イソロイシン残基に対する親和性が、プロテイナーゼKよりも高いことが知られており(Substrate Specificity of Aqualysin I, a Bacterial Thermophilic Alkaline Serine Protease from Thermus aquaticus YT-1: Comparison with Proteinase K, Subtilisin BPN′ and Subtilisin Carlsberg, Terauchi Tanaka et. al., B. B. B., 1998(参照することによりその全体が本明細書に組み込まれる))、サブチリシンの変異体はこのような基質特異性を持つ酵素であることが好ましい。サブチリシンの変異体のアミノ酸配列は、特に限定されないが、配列番号1に示されるサブチリシンのアミノ酸配列に対して、好ましくは80%以上の同一性、より好ましくは85%以上、90%以上、93%以上、95%以上、97%以上、98%以上の同一性を示すアミノ酸配列からなることが好ましい。特定の実施形態では、サブチリシンの変異体は、配列番号1に示されるサブチリシンのアミノ酸配列において1又は数個(例えば、1~10個、好ましくは1~5個、より好ましくは1~3個)のアミノ酸の欠失、置換、及び/又は付加を有するアミノ酸配列からなる変異体であってもよい。
【0020】
本発明に用いる抽出反応液中における非特異的プロテアーゼの濃度については、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、一例として、反応液全体に対して0.0001mg/mL以上、1mg/mL以下であることが好ましい。また、非特異的プロテアーゼとしてサブチリシンを用いる場合、より確実に本発明の効果が得られ易いという観点から、反応液全体に対して0.0005mg/mL以上、0.5mg/mL以下であることが好ましい。本発明によれば、このような少量の非特異的プロテアーゼであっても細胞溶解剤の作用と相俟って、抽出が困難な核内ncRNAを効率よく抽出することが可能となる。
特定の実施形態において、本発明に用いる抽出反応液中における非特異的プロテアーゼの量は、0.001U/mL以上、10U/mL以下であってもよい。また、非特異的プロテアーゼとしてサブチリシンを用いる場合、より確実に本発明の効果が得られ易いという観点から、抽出反応液中におけるサブチリシンの量を、0.005U/mL以上、5U/mL以下とすることが好ましい。
【0021】
(2)細胞溶解剤
細胞溶解剤は、細胞膜を溶解して細胞内構造物を溶出させることができる任意の成分であり得る。好ましい細胞溶解剤としては、例えば、界面活性剤、カオトロピック剤などが挙げられる。細胞溶解剤は細胞溶解効果を発揮し得る任意の濃度で使用され得るが、例えば、抽出反応液全体に対して0.005%以上であることが好ましく、0.01%以上であることがより好ましい。抽出反応液中における細胞溶解剤の濃度の上限値は特に限定されないが、例えば5%以下であり得る。
【0022】
界面活性剤には、アニオン性界面活性剤(例えば、ドデシル硫酸ナトリウム、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム)、カチオン性界面活性剤(例えば、臭化セチルトリメチルアンモニウム)、非イオン性界面活性剤(例えば、オクチルフェノールエトキシレート、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート)、及び両イオン性界面活性剤(例えば、3-[(3-コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-1-プロパンスルホン酸)が含まれる。本発明に用いられ得る界面活性剤は、本発明の効果を奏する限り特に制限されないが、好ましい様態として、非イオン性界面活性剤を用いることができる。非イオン性界面活性剤の中でも、好ましい態様として、ポリオキシエチレン鎖を有する非イオン性界面活性剤が挙げられ、特に好ましい態様として、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリエチレングリコールモノ-p-イソオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートが挙げられる。細胞溶解剤として界面活性剤を用いる場合に、抽出反応液中におけるその濃度は特に限定されないが、一例として、反応液全体に対して、0.005%以上、5%以下であることが好ましく、0.01%以上、5%以下であることが好ましい。抽出反応液がこのような濃度の界面活性剤を含むことによって、非特異的プロテアーゼの作用と相俟って核内ncRNAを効率よく抽出することが可能となる。
【0023】
カオトロピック剤としては、当該分野で公知の任意のカオトロピック剤を使用することができ、例えば、尿素、過塩素酸リチウム塩などのリチウム塩が挙げられる。カオトロピック剤もまた、細胞膜を溶解する変性剤として、上記の界面活性剤に替えて又は界面活性剤と共に細胞溶解剤として使用することができる。細胞溶解剤としてカオトロピック剤を用いる場合に、抽出反応液中におけるその濃度は特に限定されないが、一例として、反応液全体に対して50mM以上、10M以下であることが好ましい。
【0024】
(3)デオキシリボヌクレアーゼ
本発明に用いる抽出反応液は更に、デオキシリボヌクレアーゼを含んでいてもよい。このようにデオキシリボヌクレアーゼを含有することによって、ゲノムDNAなどのDNAを分解することができ、RNAのみを核酸として抽出することができる。また、デオキシリボヌクレアーゼは、抽出反応液に添加されず、細胞試料から核内ncRNAを含む全RNAを抽出後に別途使用されてもよい。例えば、後述する逆転写用組成物、RT-RamDA法又はRT-PCR法において用いられる反応液にデオキシリボヌクレアーゼを添加することも好適であり得る。また、細胞試料から核内ncRNAを含む全RNA抽出した後、逆転写反応によるDNA合成を行う前にデオキシリボヌクレアーゼで処理する工程を行ってもよい。
【0025】
(4)RNase阻害剤
本発明に用いる抽出反応液は更に、RNase阻害剤を含んでいてもよい。このようにRNaseを含入することによって、細胞試料から抽出された核内ncRNAを含むRNAの分解を高度に抑制することが可能となる。RNase阻害剤は、特に制限されず、当該分野で公知の任意のRNase阻害剤を使用することができ、具体的にはヒト胎盤由来、ラット肺由来、又はブタ肝臓由来のタンパク質等が挙げられる。また、RNaseは、比較的短時間で処理が終わる抽出工程に用いる反応液には添加せず、細胞試料から核内ncRNAを含む全RNAを抽出した後に別途使用されてもよい。例えば、後述する逆転写用組成物、RT-RamDA法又はRT-PCR法において用いられる反応液にRNaseを添加することも好適であり得る。
【0026】
(5)核酸ポリマー
本発明に用いる抽出反応液は更に、核酸ポリマーを含んでいてもよい。細胞溶解剤および非特異的プロテアーゼを含む反応液で細胞試料を処理し、核内ncRNAを抽出する際、これらの核酸ポリマーを添加することで核内ncRNAに弱くアニーリングされ、二本鎖RNAとなり親水性が増し、反応液中への抽出が容易となることが期待できる。核酸ポリマーとしては、イノシン酸ポリマー、シチジル酸ポリマー、グアニル酸ポリマー、アデニル酸ポリマー、チミジル酸ポリマー、ウリジル酸ポリマー、デオキシイノシン酸ポリマー、デオキシシチジル酸ポリマー、デオキシグアニル酸ポリマー、デオキシアデニル酸ポリマー、デオキシチミジル酸ポリマー、及びデオキシウリジル酸ポリマーからなる群より選択される少なくとも一種が好ましく、イノシン酸ポリマー又はデオキシイノシン酸ポリマーであることがより好ましく、イノシン酸ポリマーであることが更に好ましい。核酸ポリマーを用いる場合、抽出反応液中におけるその濃度は特に限定されないが、一例として、反応液全体に対して1ng/μL以上、20ng/μL以下とすることができる。
(6)添加剤
本発明に用いる抽出反応液は、更に他の添加剤を含んでいてもよい。他の添加剤としては、例えば、緩衝剤、塩、pH調整剤等が挙げられ、これら2種以上の組合せであってもよい。
緩衝剤としては、例えば、トリス(Tris)、ビス-トリス(Bis-Tris)トリシン(Tricine)、ビス-トリシン(Bis-Tricine)、ヘペス(Hepes)、モプス(Mops)、テス(Tes)、タプス(Taps)、ピペス(Pipes)、ギャプス(Caps)、これら2種以上の組合せが挙げられる。緩衝剤は、通常、水(好ましくはヌクレアーゼフリー水)に溶解され、水溶液の形態で使用される。
塩としては、例えば、塩化物(例えば、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化マンガン)、酢酸塩(例えば、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸マグネシウム、酢酸マンガン)、硫酸塩(例えば、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸マンガン)、これら2種以上の組合せが挙げられる。
pH調整剤としては、例えば、上記のような緩衝剤、塩を用いてもよいし、塩酸、硫酸、リン酸などの無機酸や、酢酸、乳酸、クエン酸などの有機酸等を用いてもよい。
【0027】
(7)抽出反応液のpH
本発明に用いる抽出反応液のpHは、特に制限されず、例えば、pH4.0~9.0であり得る。好ましい態様として、細胞試料を溶解する際、反応液を酸性条件にすることで核内ncRNAを含むRNAの自然分解が阻害され、安定した抽出が可能となり易いことが分かっている。サブチリシンの至適pHはpH7.0~pH8.0付近であることが知られているが、後述の試験例の結果に示されるように、本発明ではこの至適pHから少し外れた酸性から中性領域で高い核内ncRNA抽出効果が得られることを確認している。従って、非特異的プロテアーゼが機能し、且つRNAの自然分解が阻害される最適なpHとして、抽出反応液のpHはpH5.0~7.0がより好ましい。特にpH5.5付近(例えば、pH4.0~6.0)が好ましい態様である。
【0028】
1-4.細胞試料
本発明において、対象となる細胞試料は特に制限されないが、動物細胞が好ましい。また核内構造体からのRNAの抽出に好ましい態様として、細胞数が1~500細胞であることが挙げられる。細胞の個数は、セルソーターにより適宜調整することができる。本発明では、安定的・効率的に抽出できるので、例えば、100個以下、50個以下、10個以下の少量の細胞からであっても十分に核内ncRNAを抽出することができる。
【0029】
1-5.抽出反応液での細胞試料の処理
本発明において、細胞溶解剤及び非特異的プロテアーゼを含む反応液で細胞試料を処理する工程は、前記反応液と細胞試料を接触させるように反応させる任意の手法により実施され得る。細胞溶解剤による細胞膜の破壊、及び核内構造体を構成するタンパク質に対する非特異的なプロテアーゼによる分解、更には、細胞溶解剤として界面活性剤を用いる場合にはその界面活性剤による不溶性成分の乳化は、各成分が細胞試料と接触後、直ちに進行する。従って、長時間にわたり抽出反応液で細胞試料を処理する必要はなく、例えば、細胞試料に抽出反応液を添加後、数回(例えば、1~10回程度、好ましくは1~5回程度)にわたりピペッティングにより混和するか、数分間(例えば、1~5分程度)静置すればよい。処理する際の温度条件も特に限定されないが、氷上で反応させることが好ましい。
【0030】
上記のようにして抽出反応液で細胞試料を処理した後、処理後の細胞試料を、高温でインキュベートすることにより、核内構造体のより効率的な溶解、抽出反応液中の非特異的なプロテアーゼの変性を行うことが好ましい。この高温でのインキュベート条件は特に限定されないが、65℃以上の高温でのインキュベートが好ましく、70℃以上の高温でのインキュベートがより好ましい。インキュベート時間は特に限定されないが、例えば、1秒~5分間であることが好ましく、30秒~3分間であることがより好ましく、1分~2分間であることが更に好ましい。
【0031】
<細胞試料から抽出したRNAを逆転写する工程を包含するDNA合成方法>
更なる実施形態として、本発明は、上記方法により細胞試料から抽出した核内ncRNAを鋳型として逆転写することによりDNAを合成する方法を提供する。上記抽出方法では核内ncRNA以外にも、核外輸送されたmRNAなども抽出される。従って、本発明のDNA合成方法は、核内ncRNAを含む全RNAを鋳型として逆転写を行うDNA合成方法ということもできる。本発明により、核内RNAを含む多種多様なRNAからのcDNA合成が可能となり、網羅的な遺伝子解析などにおいて有益である。
【0032】
2.抽出されたRNAを鋳型として、逆転写によりDNAを合成する方法
抽出された鋳型RNAの逆転写によりDNAを合成する方法は、特に制限されず、従来より公知の各種の方法を採用することができる。当該方法は、典型的には、逆転写酵素等の逆転写活性を有するタンパク質を含む逆転写用組成物(又は逆転写反応用溶液)をインキュベーションする工程を含む。
【0033】
2-1.逆転写用組成物
逆転写用組成物は、例えば、鋳型RNA、プライマー、デオキシリボヌクレオチド、及び逆転写酵素を含む。また、逆転写用組成物は、DNAポリメラーゼ、核酸ポリマー等の他の成分等も任意に含み得る。
【0034】
(1)プライマー
プライマーとしては、鋳型RNAに対する特異的なプライマー、オリゴdTプライマー、ランダムプライマー、これら2種以上の組合せが挙げられる。これらのうち、オリゴdTプライマーやランダムプライマーは、特定の配列に特異的なプライマーと異なり、任意のRNAにアニールして多種多様なRNAの逆転写を開始できるので、網羅的なRNAの逆転写によるDNA合成が求められる場面などにおいて好ましい。特定の実施形態では、オリゴdTプライマー及びランダムプライマーの組合せを用いて逆転写反応を行うことが特に有益である。オリゴdTプライマーとランダムプライマーのモル比は、例えば1:5~1:15、好ましくは1:8~1:12である。
ランダムプライマーとしては、例えば、完全ランダムプライマー、NSR(Not So Random)プライマーが挙げられる。
完全ランダムプライマーとは、種々の塩基配列を有するプライマーの混合物であり、各塩基配列は完全にランダムな塩基配列である。完全ランダムプライマーは、例えば、rRNA配列と完全に一致する(又は完全に相補的な)配列を含み得る。完全ランダムプライマーとしては、完全ランダムペンタマー、完全ランダムヘキサマー、完全ランダムヘプタマー、完全ランダムオクタマー、これらの組合せなどが例示できる。例えば、完全ランダムヘキサマーは、4種類のヌクレオチド(A、T、C、G)で可能な全ての塩基配列(4種類)の混合物であってもよい。
NSRプライマーとは、完全ランダムプライマーから、rRNA配列と完全に相補的な配列を有するプライマーを除去したものである。除去するrRNA配列としては、例えば、18S rRNA配列、28S rRNA配列、12S rRNA配列、16S rRNA配列、これらの組合せが挙げられる。
NSRプライマーとしては、例えば、完全ランダムヘキサマーからrRNA配列と完全に相補的な配列を有するヘキサマーを除外したものが挙げられる。また、完全ランダムペンタマー、完全ランダムヘプタマー、完全ランダムオクタマーなどのプライマーセットからrRNA配列と完全に相補的な配列を有するものを除外したものをNSRプライマーとすることもできる。
このようなNSRプライマーを使うことにより、生体内RNAの約8~9割を占めると言われるrRNAの転写を抑制できるので、例えば、遺伝子解析対象がrRNA以外であってrRNAの転写が望まれない場面ではNSRプライマーを使うことが好ましい。
NSRプライマーの詳細については、1)Amour et al., Digital transcriptome profiling using selective hexamer priming for cDNA synthesis, Nature Methods, Vol. 6, No. 9, 2009, pp. 647-649、2)Ozsolak et al., Digital transcriptome profiling from attomole-levelRNA samples, Genome Research, Vol. 20, 2010, pp. 519-525、3)米国特許出願公開公報2010/0029511(参照することによりその全体が本明細書に組み込まれる)等に記載されている。
プライマーの長さは、アニーリングの観点から、例えば5塩基以上、好ましくは6塩基以上であり、合成の観点から、例えば30塩基以下、好ましくは25塩基以下、より好ましくは20塩基以下である。
逆転写用組成物において、プライマーの濃度は、特に制限されないが、例えば1~10μM、好ましくは2~6μM、より好ましくは3~5μMである。
【0035】
(2)デオキシリボヌクレオチド
デオキシリボヌクレオチドとしては、デオキシリボヌクレオシドトリホスフェートが好ましい。デオキシリボヌクレオチドトリホスフェートとしては、例えば、デオキシシチジントリホスフェート(dCTP)、デオキシグアノシントリホスフェート(dGTP)、デオキシアデノシントリホスフェート(dATP)、デオキシチミジントリホスフェート(dTTP)、デオキシウリジントリホスフェート(dUTP)、これらの誘導体、これら2種以上の組合せが挙げられる。これらのうち、dCTP、dGTP、dATP、及びdTTPの混合物、dCTP、dGTP、dATP、及びdUTPの混合物、dCTP、dGTP、dATP、dTTP、及びdUTPの混合物等が好ましい。
【0036】
(3)逆転写酵素
逆転写酵素は、逆転写活性(RNA依存性DNAポリメラーゼ活性)を有する任意のタンパク質(酵素)をいい、特に制限されないが、逆転写酵素活性を示すポリメラーゼが好ましい。また、逆転写酵素は、RNase H活性が低いか、又はRNase H活性がないものが好ましい。逆転写酵素の例としては、例えば、トリ骨髄芽球ウイルス(Avian Myeloblastosis Virus)逆転写酵素(AMV-RT)、モロニーネズミ白血病ウイルス(Moloney Murine Leukemia Virus)逆転写酵素(MMLV-RT)、ヒト免疫ウイルス(Human Immunovirus)逆転写酵素(HIV-RT)、EIRV-RT、RAV2-RT、C.ヒドロゲノホルマンス(C.hydrogenogormans)DNAポリメラーゼ、rTthDNAポリメラーゼ、スーパースクリプト(SuperScript)I、スーパースクリプト(SuperScript)II、これらの変異体、及びこれらの誘導体が挙げられる。これらのうち、MMLV-RTが好ましい。
【0037】
(4)DNAポリメラーゼ
逆転写用組成物は、下記のDNAポリメラーゼを含んでいてもよいし、含まなくてもよい:
Taq、Tbr、Tfl、Tru、Tth、Tli、Tac、Tne、Tma、Tih、Tfi、Pfu、Pwo、Kod、Bst、Sac、Sso、Poc、Pab、Mth、Pho、ES4、VENT(商標)、DEEPVENT(商標)、これらの変異体
【0038】
(5)RNase阻害剤
逆転写用組成物は、RNase阻害剤を含んでいてもよい。RNase阻害剤は、特に制限されず、例えば、ヒト胎盤由来、ラット肺由来、又はブタ肝臓由来のタンパク質等が挙げられる。
【0039】
(6)核酸ポリマー
逆転写反応液は、核酸ポリマーを含んでいてもよい。核酸ポリマーを含むことで、生体内RNAの約8~9割を占めると言われるrRNAの転写を抑制できるので、例えば、遺伝子解析対象がrRNA以外であってrRNAの転写が望まれない場面では核酸ポリマーを含むことが好ましい。核酸ポリマーとしては、特に限定されず、例えば、上記抽出反応液において述べたものと同様のものを使用することができる。
【0040】
(7)添加剤
逆転写用組成物は、更に他の添加剤を含んでいてもよい。他の添加剤としては、例えば、緩衝剤、塩、pH調整剤等が挙げられ、これら2種以上の組合せであってもよい。
これらの緩衝剤、塩、pH調整剤は特に限定されず、例えば、上記抽出反応液において述べたものと同様のものを使用することができる。
【0041】
2-2.インキュベーション
逆転写用組成物のインキュベーションの条件は、鋳型RNAの逆転写が進行する限り特に制限されず、当該分野において知られている、いずれの条件も採用することができる。インキュベーションの温度は、例えば30~65℃、好ましくは35~60℃である。インキュベーションの時間は、例えば5~120分、好ましくは10~60分である。
【0042】
2-3.鋳型RNAの逆転写がRNAを鋳型としてcDNAを増幅させる増幅逆転写法(RT-RamDA法とも言う)において行われる場合
RT-RamDA法とは、鋳型RNA、プライマー、DNA鎖特異的RNA:DNAハイブリッド鎖分解酵素、RNase Hマイナス型逆転写酵素、及び基質を含む混合物をインキュベートする工程を含む、核酸の増幅方法である。RT-RamDA法では、RNase Hマイナス型逆転写酵素のRNA依存性DNAポリメラーゼ活性により鋳型RNAの相補鎖DNA(cDNA)を合成し、RNAとcDNAとのハイブリッド鎖のうちのcDNA鎖をDNA鎖特異的RNA:DNAハイブリッド鎖分解酵素により無作為に切断し、前記の切断部位が起点となり、RNase Hマイナス型逆転写酵素の鎖置換活性により3’側のcDNA鎖がRNAから剥がされ、RNase Hマイナス型逆転写酵素により剥がされた部分に新たなcDNA鎖が合成される。RT-RamDA法の詳細については、米国特許出願公開公報2017/0275685(参照することによりその全体が本明細書に組み込まれる)等に記載されている。
【0043】
鋳型RNAの逆転写がRT-RamDA法において行われる場合、逆転写用組成物は、DNA鎖特異的RNA:DNAハイブリッド鎖分解酵素を含む。
【0044】
DNA鎖特異的RNA:DNAハイブリッド鎖分解酵素は、RNAとDNAとのハイブリッド鎖中のDNA鎖を切断する活性を有する酵素であることが好ましい。当該酵素としては、例えば、二本鎖特異的DNA分解酵素、非特異的DNA分解酵素を使用することができる。
【0045】
二本鎖特異的分解酵素(二本鎖特異的ヌクレアーゼ;DSNとも言う)は、原核生物又は真核生物に由来する酵素を使用することができるが、好ましくは、甲殻類由来の二本鎖特異的DNA分解酵素又はその改変体を使用することができる。具体的な例としては、以下のものが挙げられる。
・ Solenocera melantho(ナミクダヒゲエビ)DNase
・ Penaeus japonicus(クルマエビ)DNase
・ Paralithodes camtschaticus(タラバガニ)DSN
・ Pandalus borealis(ホッコクアカエビ)dsDNase
・ Chionoecetes opilio(ズワイガニ)DSN
・ その他のDSNホモログ
二本鎖特異的DNA分解酵素は、好ましくは、60℃未満でもDNA分解活性を有する酵素である。上記の中では、エビ由来の二本鎖特異的DNA分解酵素又はその改変体が好ましい。
二本鎖特異的DNA分解酵素としては、市販品を使用することができる。市販品としては、dsDNase(ArcticZymes社)、Hl-dsDNase(ArcticZymes社)、dsDNase(Thermo scientific社)、Shrimp DNase、Recombinant(affymetrix社)、Atlantis dsDNase(Zymo Research社)、Thermolabile Nuclease(Roche社)などを挙げることができる。
【0046】
非特異的DNA分解酵素としては、RNAとDNAとのハイブリッド鎖のDNA鎖を切断する活性を有し、RNAとDNAとのハイブリッド鎖のRNA鎖、一本鎖RNAを切断する活性を実質的に有さず、好ましくは、一本鎖DNAを切断する活性がRNAとDNAとのハイブリッド鎖のDNA鎖を切断する活性に比較して低くなる酵素を挙げることができる。非特異的DNA分解酵素は、好ましくは、60℃未満でもDNA分解活性を有する酵素である。このような非特異的DNA分解酵素としては、市販品を使用することもでき、例えば、DNaseI(Thermo Fisher社製、DNaseI)等を用いることが可能である。
非特異的DNA分解酵素は、原核生物又は真核生物に由来する酵素を使用することができるが、好ましくは、ほ乳類由来の非特異的DNA分解酵素又はその改変体、より好ましくはウシ由来の非特異的DNA分解酵素又はその改変体を使用することができる。
【0047】
上記改変体とは、天然由来のアミノ酸配列を改変することによって得られる酵素を意味する。具体的には、天然由来のアミノ酸配列と80%以上(好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上)の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる酵素、並びに天然由来のアミノ酸配列において1又は数個(例えば、1~10個、好ましくは1~5個、より好ましくは1~3個)のアミノ酸の欠失、置換、及び/又は付加を有するアミノ酸配列からなる酵素である。
【0048】
鋳型RNAの逆転写がRT-RamDA法において行われる場合、逆転写用組成物は、一本鎖DNA結合タンパク質を含んでいてもよい。一本鎖DNA結合タンパク質は、通常、DNA鎖特異的RNA:DNAハイブリッド鎖分解酵素とともに使用される。一本鎖DNA結合タンパク質としては、例えば、T4ジーン32プロテイン、RecA、SSB(Single-Stranded DNA Binding Protein)、これら2種以上の組合せが挙げられる。
【0049】
鋳型RNAの逆転写がRT-RamDA法において行われる場合、逆転写用組成物のインキュベーションは、等温条件で行ってもよいし、熱サイクル条件で行ってもよい。
(1)等温条件
インキュベーションを等温条件で行う場合、例えば25℃以上50℃未満の間の所定の温度、好ましくは30~45℃の間の所定の温度、より好ましくは35~40℃の間の所定の温度、例えば37℃で所定の時間(例えば5~180分、好ましくは10~150分)行うことができる。
25℃以上50℃未満の間の所定の温度でのインキュベーションは、2以上の段階に分けて行ってもよい。例えば25℃以上30℃未満の間の所定の温度で5~15分、次いで30℃以上35℃未満の間の所定の温度で5~15分、次いで35℃以上50℃未満の間の所定の温度で所定の時間(例えば5~60分)インキュベーションしてもよい。
25℃以上50℃未満の間の所定の温度でのインキュベーションの後、例えば50℃以上100℃未満の間の所定の温度でインキュベーションしてもよい。50℃以上100℃未満の間の所定の温度でのインキュベーションは2以上の段階に分けて行ってもよい。例えば50℃以上80℃未満の間の所定の温度で5~15分、次いで80~90℃の間の所定の温度で5~15分インキュベーションしてもよい。
【0050】
(2)熱サイクル条件
インキュベーションを熱サイクル条件で行う場合、例えば20℃以上30℃未満の間の所定の温度T1(例えば25℃)と30~45℃の間の所定の温度T2(例えば37℃)とを組み合わせて、T1で所定の時間(例えば1~3分、一例として2分)とT2で所定の時間(例えば1~3分、一例として2分)とを1サイクルとして、これを好ましくは10~40サイクル、より好ましくは15~35サイクル繰り返して行ってもよい。なお、上記の熱サイクルに先立って、例えば25℃以上30℃未満の間の所定の温度で所定の時間(例えば5~15分)、次いで30℃以上35℃未満の間の所定の温度で所定の時間(例えば5~15分)、次いで35℃以上50℃未満の間の所定の温度で所定の時間(例えば1~5分)インキュベーションしてもよい。また、上記の熱サイクルの後、例えば50℃以上80℃未満の間の所定の温度で所定の時間(例えば5~15分)、次いで80~90℃の間の所定の温度で所定の時間(例えば5~15分)インキュベーションしてもよい。
【0051】
2-4.鋳型RNAの逆転写がRT-PCR法において行われる場合
鋳型RNAの逆転写がRT-PCR法において行われる場合、逆転写用組成物のインキュベーションは、2-2.に記載された条件で行うことができ、その後、必要に応じて逆転写酵素を失活してもよい。逆転写の失活方法は、特に限定されるわけではないが、例えば、90~100℃で所定時間(例えば1~10分)インキュベーションする方法であってもよい。
【0052】
鋳型RNAの逆転写がRT-PCR法において行われる場合、鋳型RNAの逆転写によりDNAを合成する方法は、上記インキュベーションされた逆転写用組成物(逆転写産物とも言う)に含まれるDNAを増幅する工程を含む。DNAを増幅する工程は、典型的には、DNA増幅用組成物を熱サイクル条件でインキュベーションする工程を含む。
【0053】
DNA増幅用組成物には、逆転写産物をそのまま含有させてもよく、逆転写産物を水、好ましくはヌクレアーゼフリー水で希釈したものを含有させてもよい。例えば逆転写産物の質量が1/20~1/30になるように希釈してもよい。
DNA増幅用組成物は、逆転写産物に加えて、例えば、プライマー、デオキシリボヌクレオチド、及びDNAポリメラーゼを含む。また、上記2-1.に記載した逆転写用組成物がDNAポリメラーゼ等のDNA増幅反応に必要な成分を含んでいる場合には、その逆転写用組成物はそのままDNA増幅用組成物となり得、両組成物は相互に互換可能に呼称され得る。
プライマーとしては、DNA(RNAから逆転写されたDNAを含む)に対して特異的なプライマー(フォワードプライマー、リバースプライマー)が好ましい。
デオキシリボヌクレオチド及びDNAポリメラーゼは、上記2-1.(2)及び(4)に記載したものと同様のものを使用することができる。
DNA増幅用組成物は、抗DNAポリメラーゼ抗体、反応緩衝剤、金属イオン(マグネシウムイオンなど)、蛍光色素、蛍光標識したプローブ、これら2種以上の組合せを含んでいてもよい。
【0054】
熱サイクル条件でのインキュベーションは、例えば80℃以上100℃未満の間の所定の温度で所定の時間(例えば10~30秒)と50~70℃の間の所定の温度で所定の時間(例えば30秒~2分)とを1サイクルとして、これを好ましくは10~50サイクル、より好ましくは15~40サイクル繰り返して行ってもよい。
【0055】
<核内ノンコーディングRNAの解析方法>
更なる実施形態として、本発明は、上記方法により細胞試料から抽出したRNA又は当該RNAを鋳型として逆転写することにより合成したDNAを用いて、核内ncRNAを解析する方法を提供する。本解析方法では、核内ncRNAの解析と共に、核外輸送されたmRNA等の他のRNAを同時に解析することもできる。
【0056】
本解析方法は、当該分野で公知の任意の遺伝子解析法により解析することができる。例えば、PCR法、qPCR法、マクロアレイ法、マイクロアレイ法、シーケンス法等により核内ncRNAを定性的又は定量的に解析することが可能である。例えば、PCR反応液又はqPCR反応液は、標的となる核内ncRNA及び必要に応じて他の解析を意図するRNAの増幅反応を行うための成分(例えば、プライマー、デオキシリボヌクレオチド、及びDNAポリメラーゼ等)を添加したものを用いればよい。このPCR反応液又はqPCR反応液等において標的核酸の増幅のために用いられるプライマーとしては、標的となる核内ncRNAに特異的なプライマー(フォワードプライマー、リバースプライマー)及び必要に応じて他の解析を意図するRNAに対して特異的なプライマーが好ましい。
更に、PCR反応液又はqPCR反応液等は、抗DNAポリメラーゼ抗体、反応緩衝剤、金属イオン(マグネシウムイオンなど)、蛍光色素、蛍光標識したプローブ、これら2種以上の組合せなどを含んでいてもよい。PCR反応又はqPCR反応を行う熱サイクル条件等は特に限定されず、標的核酸の増幅及び検出に適した条件を当業者は適宜選択して行うことができる。
【0057】
<核内ノンコーディングRNAを抽出するために用いられるキット>
更なる実施形態として、本発明は、上記のような細胞試料から核内ncRNAを抽出するためのキットを提供する。本キットは、核内ncRNAだけでなく、核外輸送されたmRNA等の他のRNAも同時に抽出することができる。従って、本発明のキットは、核内ncRNAを含む全RNAを抽出するために用いられるキットということもできる。
【0058】
本発明のキットは、細胞溶解剤及び非特異的プロテアーゼを少なくとも含む。細胞溶解剤及び非特異的プロテアーゼは、1つの容器中に両成分を充填した態様で提供されても良いし、別々の容器にそれぞれの成分を充填した態様で提供されてもよい。また、本発明のキットは、デオキシリボヌクレアーゼ、RNase阻害剤、核酸ポリマー、緩衝剤、塩、pH調整剤等の他の添加剤を含んでいてもよい。更に本発明のキットは、逆転写用組成物、RT-RamDA法又はRT-PCR法において用いられる反応液、核内ncRNAの解析に用いられる反応液、或いはこれらに含まれる任意の成分を更に含む態様で提供されてもよい。本発明のキットに用いられる細胞溶解剤、非特異的プロテアーゼ、及び任意の他の成分の具体的な種類等は、上記の核内ncRNAの抽出方法、逆転写によりDNAを合成する方法、核内ncRNAの解析方法において述べたものと同様であり得る。これらの成分は、使用時の反応液中終濃度がそれぞれの好ましい濃度範囲となるように調整された量で提供されることが好ましい。
【実施例0059】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0060】
実施例1:各プロテアーゼによる細胞からの核内ノンコーディングRNAの抽出効率の評価
本実施例では、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルと共に、サブチリシン(EC3.4.21.62)、プロテイナーゼK(EC3.4.21.64)、プロナーゼ(EC3.4.24.4)の各種非特異的プロテアーゼを用いて、核内ノンコーディングRNA抽出効率を比較検討するため、以下の実験を行った。
表1の組成で抽出反応液群1を調製した。次いで、5、50、500細胞のHeLa細胞を3μLの抽出反応液(pH5.5)に添加して、氷上で5回ピペッティングすることにより細胞を溶解した。
【表1】
【0061】
細胞溶解による抽出後、75℃で1.5分間処理することによって酵素の失活、細胞の完全な溶解を行った。次いで、細胞溶解した3μLの反応液に、表2に組成を示した逆転写反応液1を6μL加え、37℃、30分間逆転写反応を行い、一本鎖cDNAを合成した。オリゴdTプライマー及びランダムプライマーを含む逆転写反応液を用いることで、全RNAを非特異的に逆転写することが可能となる。その後、以下の方法でリアルタイムPCRにてDNA量(遺伝子領域の抽出量)の比較を行った。
逆転写反応後の反応液をnuclease free water(Qiagen社)で希釈し、1/25量をqPCR反応に用いた。qPCRはStepOne Plus(Life Technologies社)を用いて、以下の条件で行った。
qPCR反応用溶液[20μl(THUNDERBIRD(商標) SYBR qPCR Mix (TOYOBO社)、6pmol フォワードプライマー、6pmol リバースプライマー、2μl 希釈逆転写反応液、nuclease free water]を95℃1分処理して酵素を活性化したのち、95℃15秒の変性及び60℃1分の伸長反応を40サイクル行った。
融解曲線分析は、95℃15秒、60℃15秒、及び95℃15秒で行った。
標的遺伝子として、核内ノンコーディングRNAであるNEAT1遺伝子の3領域、MALAT1遺伝子の1領域、核外のmRNAであるβACTIN遺伝子の1領域(これらの領域のRNAにおける位置を図1に示す)の抽出量をリアルタイムPCRによって解析した。
各プライマーセットは以下の通りである。(5’→3’)
・NEAT1 5’領域
フォワードプライマー:GTACTGGGAGGGATGAGGGT(配列番号2)
リバースプライマー:AATTCCCCAAAGCCCCAGAG(配列番号3)
・NEAT1 mid領域
フォワードプライマー:CAGTTAGTTTATCAGTTCTCCCATCCA(配列番号4)
リバースプライマー:GTTGTTGTCGTCACCTTTCAACTCT(配列番号5)
・NEAT1 3’領域
フォワードプライマー:AGAGGGAGGGAGAGCTGAAG(配列番号6)
リバースプライマー:CAGCAAACTGAACACGAGGC(配列番号7)
・MALAT1
フォワードプライマー:GTGATGCGAGTTGTTCTCCG(配列番号8)
リバースプライマー:CTGGCTGCCTCAATGCCTAC(配列番号9)
・βACTIN
フォワードプライマー:CGCGAGAAGATGACCCAGAT(配列番号10)
リバースプライマー:GCCAGAGGCGTACAGGGATA(配列番号11)
【表2】
【0062】
実施例1の解析の結果を図2に示す。NEAT1遺伝子の3領域、MALAT1遺伝子の1領域、βACTIN遺伝子の1領域において、プロテアーゼなし(ネガティブコントロール)と比較して条件1、条件2、条件3での抽出率の増加をΔCt値で評価した。この結果、細胞試料の細胞数やプロテアーゼの種類により若干の変動はあるものの、本実施例で使用した全ての非特異的プロテアーゼ及び細胞溶解剤を含む反応液で、核内ノンコーディングRNAを抽出できることが初めて分かった。なかでも、非特異的プロテアーゼとしてサブチリシンを用いた場合に、NEAT1、MALAT1などの核内ノンコーディングRNAを最も安定的に効率よく抽出できていることが分かった。
【0063】
実施例2:RT-RamDA反応での各プロテアーゼによる細胞からの核内ノンコーディングRNAの抽出効率の評価
実施例1と同様に、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルと共に、サブチリシン、プロテイナーゼK、プロナーゼの各非特異的プロテアーゼを用いて、核内ノンコーディングRNA抽出効率を比較検討するため、以下の実験を行った。
抽出反応液は、上記実施例1と同じもの(表1)を使用した。50、500細胞のHeLa細胞を3μLの抽出反応液に添加し、氷上で5回ピペッティングすることにより細胞を溶解した。細胞溶解後、同様に75℃で1.5分間処理することによって酵素の失活、細胞の完全な溶解を行った。次いで、この細胞溶解した3μLの反応液に、表3に示したRT-RamDA反応液2を6μL加え、RT-RamDA法を行った。この方法では25℃10分、30℃10分、37℃30分、50℃5分、及び85℃5分で反応を行った。RT-RamDA法では、特定のRNA領域だけではなく、核内ノンコーディングRNAを含む全RNAを非特異的に逆転写することが可能である。そして、RT-RamDA反応後、RT-RamDA反応液を前記実施例1と同じプライマーセットを用いてNEAT1遺伝子の3領域、MALAT1遺伝子の1領域の抽出量をリアルタイムPCRによって実施例1と同じ方法で解析した。リアルタイムPCRの反応液及び熱サイクル条件等は実施例1と同様にして行った。
【表3】
【0064】
実施例2の解析の結果を図3に示す。NEAT1遺伝子の3領域、MALAT1遺伝子の1領域において、プロテアーゼなし(ネガティブコントロール)と比較して条件1、条件2、条件3でRT-RamDA反応を行った場合の溶出率の増加をΔCt値で評価した。この結果、実施例1と同様に、本実施例で使用した全ての非特異的プロテアーゼ及び細胞溶解剤を含む反応液で核内ノンコーディングRNAを抽出できることが分かった。本実施例においても、非特異的プロテアーゼとしてサブチリシンを用いた場合に、最も安定的に効率よく核内ノンコーディングRNAを抽出できることが分かった。
【0065】
実施例3:各プロテアーゼによる細胞からの核内ノンコーディングRNAの抽出効率の評価(核酸ポリマーなし)
実施例1、2と同様に、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルと共に、サブチリシン、プロテイナーゼK、プロナーゼの各非特異的プロテアーゼを用いて、核内ノンコーディングRNA抽出効率を比較検討するため、以下の実験を行った。
表4の組成で抽出反応液群2を調製した。50、500細胞のHeLa細胞を3μLの抽出反応液に添加し、氷上で5回ピペッティングすることにより細胞を溶解した。
【表4】
【0066】
細胞溶解による抽出後、これまでと同様に75℃で1.5分間処理することによって酵素の失活、細胞の完全な溶解を行った。次いで、細胞溶解した3μLの反応液に、表1に組成を示した逆転写反応液1を6μL加え、37℃、30分間逆転写反応を行った。そして、逆転写反応後、前記実施例1と同じプライマーセットを用いてNEAT1遺伝子の3領域、MALAT1遺伝子の1領域の抽出量を実施例1と同じ方法で解析した。リアルタイムPCRの反応液及び熱サイクル条件等は実施例1と同様にして行った。
【0067】
実施例3の解析の結果を図4に示す。NEAT1遺伝子の3領域、MALAT1遺伝子の1領域において、プロテアーゼなし(ネガティブコントロール)と比較して条件1、条件2、条件3で逆転写反応を行った場合の溶出率の増加をΔCt値で評価した。この結果、実施例1と同様に、核酸ポリマーを含まない反応液を用いた場合でも、本実施例で使用した全ての非特異的プロテアーゼ及び細胞溶解剤を含む反応液で核内ノンコーディングRNAを抽出できることが分かった。なかでも、非特異的プロテアーゼとしてサブチリシンを用いた場合に、核内ノンコーディングRNAを最も安定的に効率よく抽出できていることが分かった。
【0068】
実施例4:RT-RamDA反応での各プロテアーゼによる細胞からの核内ノンコーディングRNAの抽出効率の評価(核酸ポリマーなし)
実施例1、2、3と同様に、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルと共に、サブチリシン、プロテイナーゼK、プロナーゼの各非特異的プロテアーゼを用いて、核内ノンコーディングRNA抽出効率を比較検討するため、以下の実験を行った。
抽出反応液は、上記実施例3と同じもの(表4)を使用した。50、500細胞のHeLa細胞を3μLの抽出反応液に添加し、氷上で5回ピペッティングすることにより細胞を溶解した。細胞溶解による抽出後、これまでと同様に75℃で1.5分間処理することによって酵素の失活、細胞の完全な溶解を行った。次いで、この細胞溶解した3μLの反応液に、表3に示したRT-RamDA反応液2を6μL加え、RT-RamDA法を行った。この方法では実施例2と同様に25℃10分、30℃10分、37℃30分、50℃5分、及び85℃5分で反応を行った。RT-RamDA法では、特定のRNA領域だけではなく、核内ノンコーディングRNAを含む全RNAを非特異的に逆転写することが可能である。そして、RT-RamDA反応後、前記実施例1と同じプライマーセットを用いてNEAT1遺伝子の3領域、MALAT1遺伝子の1領域の抽出量をリアルタイムPCRによって実施例1と同じ方法で解析した。リアルタイムPCRの反応液及び熱サイクル条件等は実施例1と同様にして行った。
【0069】
実施例4の解析の結果を図5に示す。NEAT1遺伝子の3領域、MALAT1遺伝子の1領域において、プロテアーゼなし(ネガティブコントロール)と比較して条件1、条件2、条件3でRT-RamDA反応を行った場合の溶出率の増加をΔCt値で評価した。この結果、実施例1と同様に、核酸ポリマーを含まない反応液を用いた場合でも本実施例で使用した全ての非特異的プロテアーゼ及び細胞溶解剤を含む反応液で核内ノンコーディングRNAを抽出できることが分かった。本実施例でも、非特異的プロテアーゼとしてサブチリシンを用いた場合に、最も効率的かつ安定して核内ノンコーディングRNAを抽出できることが示された。
【0070】
実施例5:細胞溶解剤の添加による核内ノンコーディングRNAの抽出効率への影響の評価
細胞溶解剤の添加による核内ノンコーディングRNA抽出効率を比較検討するため、以下の実験を行った。
表5の組成で抽出反応液群3を調製した。次いで、5、50、500細胞のHeLa細胞を3μLの抽出反応液(pH5.5)に添加して、氷上で5回ピペッティングすることにより細胞を溶解した。
【表5】
【0071】
細胞溶解による抽出後、これまでと同様に75℃で1.5分間処理することによって酵素の失活、細胞の完全な溶解を行った。次いで、細胞溶解した3μLの反応液に、表2に組成を示した逆転写反応液1を6μL加え、37℃、30分間逆転写反応を行った。そして、逆転写反応後、前記実施例1と同じプライマーセットを用いてNEAT1遺伝子の1領域(mid)、MALAT1遺伝子の1領域の抽出量をリアルタイムPCRによって実施例1と同じ方法で解析した。リアルタイムPCRの反応液及び熱サイクル条件等は実施例1と同様にして行った。
【0072】
実施例5の解析の結果を図6に示す。NEAT1遺伝子の1領域(mid)、MALAT1遺伝子の1領域において、プロテアーゼおよび細胞溶解剤なし(ネガティブコントロール)、条件1、条件2、条件3で逆転写反応を行った場合の抽出率をCt値で評価した。なお、5細胞の場合のネガティブコントロールではいずれの領域も検出できず、Ct値が得られなかった(Not detected)。そして、サブチリシンのみを加えた条件1に比べ、細胞溶解剤を添加した条件2や条件3ではCt値が低くなっており、核内ノンコーディングRNAの抽出率が向上していることがわかった。
【0073】
実施例6:抽出反応液のpH(酸性側)による核内ノンコーディングRNAの抽出効率への影響の評価
抽出反応液のpH(酸性側)による核内ノンコーディングRNA抽出効率への影響を検討するため、以下の実験を行った。
表6の組成で抽出反応液群4を調製した。pHの調整は100mM Bis(hydroxyethyl)-(iminotris)-(hydroxymethyl)-methane水溶液に1M HClを適量添加することで行った。その後、pH調整後の緩衝液を10分の1量(終濃度10mM)加えることで抽出反応液のpHを調整した。次いで、1、10、100細胞のHeLa細胞を3μLの抽出反応液(表6)に添加して、氷上で5回ピペッティングすることにより細胞を溶解した。
【表6】
【0074】
細胞溶解による抽出後、これまでと同様に75℃で1.5分間処理することによって酵素の失活、細胞の完全な溶解を行った。次いで、細胞溶解した3μLの反応液に、表2に組成を示した逆転写反応液1を6μL加え、37℃、30分間逆転写反応を行った。そして、逆転写反応後、前記実施例1と同じプライマーセットを用いてNEAT1遺伝子の1領域(mid)の抽出量をリアルタイムPCRによって実施例1と同じ方法で解析した。リアルタイムPCRの反応液及び熱サイクル条件等は実施例1と同様にして行った。
【0075】
実施例6の解析の結果を図7に示す。NEAT1遺伝子の1領域(mid)において、条件1、条件2、条件3で逆転写反応を行った場合の溶出率をCt値で評価した。この結果、条件1のpH5.5に比べ、条件2(pH6.5)、条件3(pH7.0)ではCt値が高くなっており、核内ノンコーディングRNAの溶出においては、pH5.5からpH7.0の間ではpH5.5が最も適していることがわかった。
【0076】
実施例7:抽出反応液のpH(アルカリ側)による核内ノンコーディングRNAの抽出効率への影響の評価
抽出反応液のpH(アルカリ側)による核内ノンコーディングRNA抽出効率への影響を検討するため、以下の実験を行った。
表7の組成で抽出反応液群5を調製した。pHの調整は100mM Bis(hydroxyethyl)-(iminotris)-(hydroxymethyl)-methane水溶液に1M HClを適量添加することで行った。その後、pH調整後の緩衝液を10分の1量(終濃度10mM)加えることで抽出反応液のpHを調整した。次いで、10、100細胞のHeLa細胞を3μLの抽出反応液(表7)に添加して、氷上で5回ピペッティングすることにより細胞を溶解した。
【表7】
【0077】
細胞溶解による抽出後、これまでと同様に75℃で1.5分間処理することによって酵素の失活、細胞の完全な溶解を行った。次いで、細胞溶解した3μLの反応液に、表2に組成を示した逆転写反応液1を6μL加え、37℃、30分間逆転写反応を行った。そして、逆転写反応後、前記実施例1と同じプライマーセットを用いてNEAT1遺伝子の1領域(mid)の抽出量をリアルタイムPCRによって実施例1と同じ方法で解析した。リアルタイムPCRの反応液及び熱サイクル条件等は実施例1と同様にして行った。
【0078】
実施例7の解析の結果を図8に示す。NEAT1遺伝子の1領域(mid)において、条件1、条件2、条件3、条件4で逆転写反応を行った場合の溶出率をCt値で評価した。この結果、条件1(pH7.0)、条件2(pH7.5)、条件3(pH8.0)、条件4(pH8.5)では、アルカリ側に偏るほどCt値が高くなった。実施例6の結果を踏まえると、核内ノンコーディングRNAの溶出においては、pH5.5からpH8.0の間ではpH5.5が最も適していることがわかった。
【0079】
実施例8:抽出反応液のサブチリシン濃度による核内ノンコーディングRNAの抽出効率への影響の評価1
抽出反応液のプロテアーゼ濃度による核内ノンコーディングRNA抽出効率への影響を検討するため、以下の実験を行った。
表8の組成で抽出反応液群6を調製した。次いで、10、100細胞のHeLa細胞を3μLの抽出反応液(表8)に添加して、氷上で5回ピペッティングすることにより細胞を溶解した。
【表8】
【0080】
細胞溶解による抽出後、これまでと同様に75℃で1.5分間処理することによって酵素の失活、細胞の完全な溶解を行った。次いで、細胞溶解した3μLの反応液に、表2に組成を示した逆転写反応液1を6μL加え、37℃、30分間逆転写反応を行った。そして、逆転写反応後、前記実施例1と同じプライマーセットを用いてNEAT1遺伝子の1領域(5’)の抽出量をリアルタイムPCRによって実施例1と同じ方法で解析した。リアルタイムPCRの反応液及び熱サイクル条件等は実施例1と同様にして行った。
【0081】
実施例8の解析の結果を図9に示す。NEAT1遺伝子の1領域(5’)において、条件1、条件2、条件3で逆転写反応を行った場合の溶出率をCt値で評価した。この結果、条件1(0.0001mg/mLサブチリシン)よりも、条件2(0.0005mg/mLサブチリシン)や条件3(0.001mg/mLサブチリシン)においてCt値が低く、サブチリシンの濃度は0.0005mg/mL以上が好ましいことがわかった。
【0082】
実施例9:抽出反応液のサブチリシン濃度による核内ノンコーディングRNAの抽出効率への影響の評価2
抽出反応液のプロテアーゼ濃度による核内ノンコーディングRNA抽出効率への影響を検討するため、以下の実験を行った。
表9の組成で抽出反応液群7を調製した。次いで、10細胞のHeLa細胞を3μLの抽出反応液(表9)に添加して、氷上で5回ピペッティングすることにより細胞を溶解した。
【表9】
【0083】
細胞溶解による抽出後、これまでと同様に75℃で1.5分間処理することによって酵素の失活、細胞の完全な溶解を行った。次いで、細胞溶解した3μLの反応液に、表2に組成を示した逆転写反応液1を6μL加え、37℃、30分間逆転写反応を行った。そして、逆転写反応後、前記実施例1と同じプライマーセットを用いてNEAT1遺伝子の1領域(5’)の抽出量をリアルタイムPCRによって実施例1と同じ方法で解析した。リアルタイムPCRの反応液及び熱サイクル条件等は実施例1と同様にして行った。
【0084】
実施例9の解析の結果を図10に示す。NEAT1遺伝子の1領域(5’)において、条件1、条件2、条件3、条件4で逆転写反応を行った場合の溶出率をCt値で評価した。この結果、条件1(0.005mg/mLサブチリシン)、条件2(0.02mg/mLサブチリシン)、条件3(0.1mg/mLサブチリシン)、条件4(0.5mg/mLサブチリシン)においてCt値の差はほとんどなく、サブチリシンの濃度は0.5mg/mL程度であってもよいことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明により、一般に抽出が困難とされている核内構造体含有RNAを安定的に効率よく抽出することができる。この手法は、核内ノンコーディングRNAを含む、全RNAのトランスクリプトーム解析などの分子生物学における遺伝子解析、例えばRT-PCRおよびそれに続くNGSやリアルタイムPCRによるRNAの解析にも利用できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
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