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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022183765
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】鋼の連続鋳造方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/00 20060101AFI20221206BHJP
   B22D 11/124 20060101ALI20221206BHJP
   B22D 11/12 20060101ALI20221206BHJP
   B22D 11/22 20060101ALI20221206BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20221206BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
B22D11/00 A
B22D11/124 L
B22D11/12 F
B22D11/22 B
C22C38/58
C22C38/00 301Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021091245
(22)【出願日】2021-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 健治
(74)【代理人】
【識別番号】100202441
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 純
(72)【発明者】
【氏名】廣角 太朗
(72)【発明者】
【氏名】梶谷 敏之
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 義起
(72)【発明者】
【氏名】高屋 慎
【テーマコード(参考)】
4E004
【Fターム(参考)】
4E004KA12
4E004MC02
4E004NB01
4E004NC04
(57)【要約】
【課題】CuやSnを含む鋼の連続鋳造の際、鋼に対するNiの添加を抑えつつ、鋳片表面割れを抑制する。
【解決手段】所定の化学組成を有する鋼の鋳片を、矯正点を有する連続鋳造機を用いて連続的に鋳造する方法であって、鋳型から引き抜かれた鋳片の表面の温度を、Ar温度以下に冷却すること、Ar温度以下に冷却された鋳片の表面の温度を、Ac温度以上に上昇させること、及び、Ac温度以上に上昇された鋳片の表面の温度を、矯正点において、以下の条件で表される温度Tb℃以下とすること、を含む、鋼の連続鋳造方法。
[Cu]+4[Sn]≦0.15である場合:Tb=1050
0.15<[Cu]+4[Sn]≦0.25である場合:Tb=1000
0.25<[Cu]+4[Sn]≦0.35である場合:Tb=950
0.35<[Cu]+4[Sn]である場合:Tb=900
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:0.03%以上0.20%以下、
Si:0.01%以上1.00%以下、
Mn:0.10%以上2.50%以下、
P:0.040%以下、
S:0.030%以下、
Cu:0.05%以上0.50%以下、
Sn:0%以上0.025%以下、
Ni:0%以上0.05%以下、
Al:0.005%以上0.100%以下、
Cr:0%以上0.50%以下、
Mo:0%以上0.05%以下、及び、
N:0.0150%以下、
を含有し、残部がFe及び不純物からなる鋼の鋳片を、矯正点を有する連続鋳造機を用いて連続的に鋳造する方法であって、
鋳型から引き抜かれた前記鋳片の表面の温度を、Ar温度以下に冷却すること、
Ar温度以下に冷却された前記鋳片の表面の温度を、Ac温度以上に上昇させること、及び、
Ac温度以上に上昇された前記鋳片の表面の温度を、前記矯正点において、以下の条件で表される温度Tb℃以下とすること、
を含む、鋼の連続鋳造方法。
[Cu]+4[Sn]≦0.15である場合:Tb=1050
0.15<[Cu]+4[Sn]≦0.25である場合:Tb=1000
0.25<[Cu]+4[Sn]≦0.35である場合:Tb=950
0.35<[Cu]+4[Sn]である場合:Tb=900
ここで、[Cu]及び[Sn]は、前記鋼におけるCu及びSnの含有量(質量%)である。
【請求項2】
前記鋼が、質量%で、
Ti:0%以上0.020%以下、
V:0%以上0.20%以下、
Nb:0%以上0.030%以下、
Zr:0%以上0.010%以下、
Ca:0%以上0.010%以下、
Mg:0%以上0.010%以下、
REM:0%以上0.010%以下、及び、
B:0%以上0.0040%以下、
のうちの1種又は2種以上を含有する、
請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は鋼の連続鋳造方法を開示する。
【0002】
近年、地球温暖化防止の観点等から、種々の分野で省COの取り組みが盛んに行われている。鉄鋼業においても製鉄用の原料として廃スクラップを多量に用いる製鉄法が注目され、技術開発が進んでいる。一方、スクラップにはCuやSnといったトランプエレメントを高濃度で含むものも多く、これらの元素は溶鋼中からの除去が困難であることが知られている。
【0003】
Cuを含む鋼は熱間加工性に劣る傾向にある。そのため、Cuを含む鋼の連続鋳造時に通常の鋼の連続鋳造条件を採用した場合、鋳片の表面に割れが発生する場合がある。これは、連続鋳造時に鋼が雰囲気中の酸素に晒されて酸化する際に、スケール(酸化鉄)と地鉄との間に液体のCuが生成し、鋼の結晶粒界に侵入し、界面強度を低下させるためと考えられる(非特許文献1)。また、SnはCuの鋼中への溶解度を下げることにより、Cuによる割れの現象を促進してしまうことから、SnとCuとが共存する鋼についても、鋳片の表面割れの問題が生じ易い(非特許文献2)。
【0004】
この現象は表面赤熱脆化と呼ばれ、CuやSnがFeと比較して酸化され難いためにスケール成長の過程でCuやSnが金属状態のまま濃縮すること、及び、Fe中へのCuの固溶度が低いことが原因とされる。一方で、CuやSnは鋼の精錬工程において除去し難い。赤熱脆化による鋳片表面割れの問題を解決するためには、CuやSnを鋼中に混入させないようにするか、もしくはCuの鋼中への溶解度を上げる元素であるNiを添加することが有効である。特に、循環型社会となりCuを多く含むスクラップが多量に使用される現在では、Ni添加によりCuを無害化する必要性が高まってきている。しかしながら、Niは稀少で高価な元素であり、また機械的特性や焼入れ性などの鋼特性を大きく変え得ることから、Ni添加によらない、あるいはその添加量を極少量に抑え得る、CuやSnの無害化技術に対する期待は大きい。
【0005】
このような背景のもと、特許文献1には、鋳片の表面赤熱脆化を防止する技術として、溶鋼湯面近傍のモールド内面形状が、鋳片引き抜き方向下方に向かって広がる逆テーパー値が2~10%である逆テーパー形状で、前記逆テーパー部より下方のモールド内面形状が、鋳片引抜方向に向かって狭まる順テーパー形状であって、該順テーパー値が0~1%の範囲であるモールドを用いると共に、結晶化温度が900℃以下、もしくは結晶化しない特性を有するモールドフラックスを用い、前記モールドフラックスと鋼との接触角が70度以下であることを特徴とする連続鋳造方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、Ni酸化物を含有するモールドフラックスを供給しながら鋳片の表面にニッケル酸化物によるコーティング層を形成することを特徴とする連続鋳造方法が開示されている。
【0007】
しかし、これらの方法はいずれも鋳片表層の酸化をモールドフラックスにより防止しようとするものであり、連続鋳造機の型式や2次冷却方法によっては、鋳片表面へのモールドフラックス付着状況が安定しないため、効果を十分享受することができない。
【0008】
特許文献3には、連続鋳造鋳片の表面を、Ar変態点以上の温度域からAr変態点以下の温度域になるまで300℃/s以上の冷却速度で冷却し、その後、再び連続鋳造鋳片の表面をAr変態点以上の温度域まで復熱させることを特徴とする、連続鋳造鋳片の表面割れ防止方法が提案されている。
【0009】
また、特許文献4には、Cu:0.1~2.0%等を含有する鋼を連続的に鋳造する方法であって、鋳型から引き抜かれた鋳片を、前記鋳片の表面温度がAr3点以下の急冷温度T1(℃)となるまで3~20℃/sの冷却速度で急冷するステップと、前記急冷温度T1の鋳片について、その表面温度をAr3点以上の復熱温度T2(℃)に上昇させるステップと、前記復熱温度T2の鋳片について、その表面温度が矯正温度T3(℃)となるまで冷却するステップと、前記矯正温度T3の鋳片に矯正歪み量ε(%)を付与して矯正を行うステップと、の一連のステップを含み、前記温度T1~T3及び前記矯正歪み量εが所定の式を満足する、鋼の連続鋳造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】「Materials Transactions」vol.43, (2002), No.3, pp.292-300
【非特許文献2】「ふぇらむ」vol.7, (2002), No.4, pp.18-22
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2004-202523号公報
【特許文献2】特表2018-520004号公報
【特許文献3】特開2007-245232号公報
【特許文献4】特開2015-217435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来技術においては、CuやSnを含む鋼の連続鋳造の際、鋼に対するNiの添加を抑えつつ、鋳片表面割れを抑制することについて、改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願は上記課題を解決するための手段の一つとして、
質量%で、
C:0.03%以上0.20%以下、
Si:0.01%以上1.00%以下、
Mn:0.10%以上2.50%以下、
P:0.040%以下、
S:0.030%以下、
Cu:0.05%以上0.50%以下、
Sn:0%以上0.025%以下、
Ni:0%以上0.05%以下、
Al:0.005%以上0.100%以下、
Cr:0%以上0.50%以下、
Mo:0%以上0.05%以下、及び、
N:0.0150%以下、
を含有し、残部がFe及び不純物からなる鋼の鋳片を、矯正点を有する連続鋳造機を用いて連続的に鋳造する方法であって、
鋳型から引き抜かれた前記鋳片の表面の温度を、Ar温度以下に冷却すること、
Ar温度以下に冷却された前記鋳片の表面の温度を、Ac温度以上に上昇させること、及び、
Ac温度以上に上昇された前記鋳片の表面の温度を、前記矯正点において、以下の条件で表される温度Tb℃以下とすること、
を含む、鋼の連続鋳造方法
を開示する。
【0014】
[Cu]+4[Sn]≦0.15である場合:Tb=1050
0.15<[Cu]+4[Sn]≦0.25である場合:Tb=1000
0.25<[Cu]+4[Sn]≦0.35である場合:Tb=950
0.35<[Cu]+4[Sn]である場合:Tb=900
ここで、[Cu]及び[Sn]は、前記鋼におけるCu及びSnの含有量(質量%)である。
【0015】
本開示の方法においては、前記鋼が、質量%で、
Ti:0%以上0.020%以下、
V:0%以上0.20%以下、
Nb:0%以上0.030%以下、
Zr:0%以上0.010%以下、
Ca:0%以上0.010%以下、
Mg:0%以上0.010%以下、
REM:0%以上0.010%以下、及び、
B:0%以上0.0040%以下、
のうちの1種又は2種以上を含有していてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本開示の技術によれば、CuやSnを含む鋼の連続鋳造の際、鋼に対するNiの添加を抑えつつ、鋳片表面割れを抑制し易い。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】連続鋳造機の一例を概略的に示している。
図2】高温引張装置を用いたモデル実験における熱加工パターンを概略的に示している。
図3】鋼に含まれるCuの量と、モデル実験における引張温度と、表面割れの有無との関係を示している。
図4】鋼に含まれるCu及びSnの量と、モデル実験における引張温度と、表面割れの有無との関係を示している。
図5】高温引張装置を用いたモデル実験における熱加工パターンを概略的に示している。
図6】鋼に含まれるCu及びSnの量と、モデル実験における引張温度と、表面割れの有無との関係を示している。
図7】高温引張装置を用いたモデル実験における熱加工パターンを概略的に示している。
図8】鋼に含まれるCu及びSnの量と、モデル実験における引張温度と、表面割れの有無との関係を示している。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1を参照しつつ本開示の鋼の連続鋳造方法について説明する。図1においては分かり易さのため冷却スプレーノズル等を省略して示している。冷却スプレーノズルは、例えば、鋳型10の直下から矯正点20に至る前までの間のサポートロール間に備えられ、鋳片1の両面側から冷却水を噴射し得る。図1においては垂直曲げ型の連続鋳造機100を例示したが、本開示の連続鋳造方法は矯正点を有するいずれの連続鋳造機を用いた場合にも適用可能である。例えば、湾曲型の連続鋳造機を用いてもよい。尚、「矯正点」とは、鋳片1の鋳造方向を湾曲から水平方向に矯正するために歪を加える点をいう。矯正は複数個所で行ってもよい。鋳型10、矯正点20等を備える連続鋳造機100の構成そのものについては従来公知の構成と同様とすればよいことから、ここでは詳細な説明を省略する。
【0019】
図1に示されるように、本実施形態に係る鋼の連続鋳造方法は、
質量%で、
C:0.03%以上0.20%以下、
Si:0.01%以上1.00%以下、
Mn:0.10%以上2.50%以下、
P:0.040%以下、
S:0.030%以下、
Cu:0.05%以上0.50%以下、
Sn:0%以上0.025%以下、
Ni:0%以上0.05%以下、
Al:0.005%以上0.100%以下、
Cr:0%以上0.50%以下、
Mo:0%以上0.05%以下、及び、
N:0.0150%以下、
を含有し、残部がFe及び不純物からなる鋼の鋳片1を、矯正点20を有する連続鋳造機100を用いて連続的に鋳造する方法であって、
鋳型10から引き抜かれた前記鋳片1の表面の温度を、Ar温度以下に冷却すること、
Ar温度以下に冷却された前記鋳片1の表面の温度を、Ac温度以上に上昇させること、及び、
Ac温度以上に上昇された前記鋳片1の表面の温度を、前記矯正点20において、以下の条件で表される温度Tb℃以下とすること、
を含む。
【0020】
[Cu]+4[Sn]≦0.15である場合:Tb=1050
0.15<[Cu]+4[Sn]≦0.25である場合:Tb=1000
0.25<[Cu]+4[Sn]≦0.35である場合:Tb=950
0.35<[Cu]+4[Sn]である場合:Tb=900
ここで、[Cu]及び[Sn]は、前記鋼におけるCu及びSnの含有量(質量%)である。
【0021】
1.鋼の化学組成
まず、本実施形態における鋼の化学組成について説明する。本実施形態において、鋼は、質量%で、C:0.03%以上0.20%以下、Si:0.01%以上1.00%以下、Mn:0.10%以上2.50%以下、P:0.040%以下、S:0.030%以下、Cu:0.05%以上0.50%以下、Sn:0%以上0.025%以下、Ni:0%以上0.05%以下、Al:0.005%以上0.100%以下、Cr:0%以上0.50%以下、Mo:0%以上0.05%以下、及び、N:0.0150%以下、を含有する。
【0022】
(C:0.03%以上0.20%以下)
Cは鋼の静的強度だけでなく、疲労強度、靭性、延性に影響する最も基本的な元素である。C含有量が少な過ぎる場合、これらの特性の著しい改善は見られず、脱炭のコスト増大を招く。この点、C含有量は0.03%以上であってもよく、0.05%以上であってもよい。また、C含有量が多過ぎる場合、鋼の靭性が劣化する虞がある。この点、C含有量は0.20%以下であってもよく、0.17%以下であってもよい。
【0023】
(Si:0.01%以上1.00%以下)
Siは適正な添加により鋼の強度を高めることができる元素である。Si含有量が0.01%以上である場合に、そのような効果が得られ易い。Si含有量は、0.05%以上であってもよく、0.10%以上であってもよい。一方で、Si含有量が多過ぎると、鋼の靭性や加工性が劣化する場合がある。この点、Si含有量は1.00%以下であってもよく、0.80%以下であってもよく、0.60%以下であってもよく、0.40%以下であってもよく、0.30%以下であってもよく、0.20%以下であってもよい。
【0024】
(Mn:0.10%以上2.50%以下)
MnはSiと同様に適正な添加により鋼の強度を高めることができる元素である。Mn含有量が0.10%以上である場合に、そのような効果が得られ易い。Mn含有量は0.25%以上であってもよく、0.50%以上であってもよく、0.75%以上であってもよい。一方で、Mn含有量が多過ぎると、鋼の靭性や加工性が劣化する場合がある。この点、Mn含有量は2.50%以下であってもよく、2.00%以下であってもよく、1.75%以下であってもよく、1.50%以下であってもよい。
【0025】
(P:0.040%以下)
Pは連続鋳造時の鋳片表面割れの発生を促進する元素である。すなわち、P含有量が多過ぎると、鋳片割れを抑制することが困難になる。P含有量は0.040%以下であってもよく、0.030%以下であってもよく、0.020%以下であってもよく、0.015%以下であってもよい。P含有量の下限は特に限定されるものではなく、0%であってもよく、0%超であってもよく、0.001%以上であってもよく、0.002%以上であってもよい。
【0026】
(S:0.030%以下)
SもPと同様に連続鋳造時の鋳片表面割れの発生を促進する元素である。また、Sは鋼の曲げ加工性を劣化させる元素であり、少ない方が好ましい。S含有量は0.030%以下であってもよく、0.020%以下であってもよく、0.010%以下であってもよい。S含有量の下限は特に限定されるものではなく、0%であってもよく、0%超であってもよく、0.001%以上であってもよく、0.002%以上であってもよい。
【0027】
(Cu:0.05%以上0.50%以下)
Cu含有量が少な過ぎると、鋼材の酸化により生成する液相の量が十分少なくなり、脆化による割れが発生し難くなり、すなわち、解決すべき課題が発生し難くなる。本実施形態に係る方法は、Cuをある程度含む鋼に対して、Niの添加を抑えつつ、連続鋳造時の鋳片表面割れを抑制する技術である。この点、Cu含有量は0.05%以上であってもよく、0.07%以上であってもよく、0.09%以上であってもよい。一方、Cu含有量が多過ぎると、鋼の材質に悪影響を与える。この点、Cu含有量は0.50%以下であってもよく、0.45%以下であってもよく、0.40%以下であってもよい。
【0028】
(Sn:0%以上0.025%以下)
Snは液相安定化温度を大きく下げ、脆化温度域を広げるため極力混入させないことが望ましい。Sn含有量が多過ぎると、連続鋳造時に赤熱脆化割れが生じ易くなり、これを抑制するために多量のNiを要することになる。この点、Sn含有量は0.025%以下であってもよく、0.022%以下であってもよく、0.020%以下であってもよい。Sn含有量の下限は特に限定されるものではなく、0%であってもよく、0%超であってもよく、0.001%以上であってもよく、0.002%以上であってもよい。
【0029】
(Ni:0%以上0.05%以下)
NiはCuやSnによる赤熱脆化割れを抑制する効果を有することが知られているが、高価な元素であり、その添加量は極力少ないことが望ましい。Cu含有量やSn含有量が上記の範囲内であれば、後述する鋳片表面温度の制御によって、鋳片表面割れの抑制が十分可能であることから、本実施形態においてNiの添加は特に要しない。Ni含有量は、スクラップから混入する程度の濃度、例えば、0.05%以下で十分であり、0.04%以下であってもよく、0.03%以下であってもよい。Ni含有量の下限は特に限定されるものではなく、0%であってもよく、0%超であってもよく、0.01%以上であってもよい。
【0030】
(Al:0.005%以上0.100%以下)
Alは脱酸目的で用いられる元素である。Al含有量が少な過ぎると脱酸の効果が得られ難い。この点、Al含有量は、0.005%以上であってもよく、0.007%以上であってもよく、0.010%以上であってもよい。一方、Al含有量が多過ぎると、鋳造中にノズル詰まりが発生したり、鋼中に残存する酸化物系介在物によって鋼の性能を劣化させたりするなどの不具合が生じ易い。この点、Al含有量は0.100%以下であってもよく、0.075%以下であってもよく、0.050%以下であってもよい。
【0031】
(Cr:0%以上0.50%以下)
Crは鋼の強度を高めるために有用な元素である。ただし、Cr含有量が多過ぎると、効果がほぼ飽和してコストの増大を招くだけでなく、Ar温度が低くなって、鋳片の表層組織を微細化し難くなる。この点、Cr含有量は0.50%以下であってもよく、0.40%以下であってもよく、0.30%以下であってもよく、0.20%以下であってもよい。Cr含有量の下限は特に限定されるものではなく、0%であってもよく、0%超であってもよく、0.01%以上であってもよい。
【0032】
(Mo:0%以上0.05%以下)
Moは焼入れ性を高める元素である。Mo含有量が多過ぎると、Crと同様に、Ar温度が低くなって、鋳片の表層組織を微細化し難くなる。この点、Mo含有量は0.05%以下であってもよく、0.04%以下であってもよく、0.03%以下であってもよく、0.02%以下であってもよい。Mo含有量の下限は特に限定されるものではなく、0%であってもよく、0%超であってもよく、0.01%以上であってもよい。
【0033】
(N:0.0150%以下)
Nは鋼材の機械的特性に影響する元素であり、熱間延性を低下させ、連続鋳造時あるいは熱間圧延時に表面疵の要因となる元素でもある。Nは主に2次精錬の脱ガス工程で除去される。N含有量は0%であってもよいが、精錬コストを抑える観点から、0%超であってもよく、0.0001%以上であってもよく、0.0010%以上であってもよく、0.0040%以上であってもよい。一方、N含有量が多過ぎると、窒化物系介在物の粗大化を招き、鋼の疲労強度を低下させる原因となる。この点、N含有量は0.0150%以下であってもよい。また、鋼の清浄性の観点から、N含有量は0.0080%以下であってもよい。
【0034】
本実施形態においては、製品に求める特性を発現させるため、鋼がさらに以下の元素のうちの1種又は2種以上を含有してもよい。これらの元素はいずれもIII領域脆化を鋭敏化させるため、これら元素を含有する鋼の鋳造の際、本実施形態に係る方法によって特に大きな効果が得られる。すなわち、本実施形態においては、鋼が、質量%で、Ti:0%以上0.020%以下、V:0%以上0.20%以下、及び、Nb:0%以上0.030%以下、のうちの1種又は2種以上を含有していてもよい。
【0035】
また、本実施形態においては、上記の鋼が、上記以外の任意元素として、さらに、Zr:0%以上0.010%以下、Ca:0%以上0.010%以下、Mg:0%以上0.010%以下、REM:0%以上0.010%以下、及び、B:0%以上0.0040%以下、のうちの1種又は2種以上を含有していてもよい。
【0036】
(Ti:0%以上0.020%以下)
TiはAl同様脱酸の効果を有するのみならず、熱的安定性が大きい窒化物を形成し、加熱炉内で鋼の組織の微細化を図ることができる。一方、Ti含有量が多過ぎると、窒化物系析出物の生成量が増加し、III領域脆化による割れ感受性が高まる。また、鋳造時に酸化物によるノズル詰まりが頻発する虞がある。この点、Ti含有量は0.020%以下であってもよく、0.015%以下であってもよい。Ti含有量の下限は特に限定されるものではなく、0%であってもよく、0%超であってもよく、0.001%以上であってもよく、0.005%以上であってもよい。
【0037】
(V:0%以上0.20%以下)
VはTiと同様に窒化物を生成させる元素であり、強度改善のために用いられる。一方、V含有量が多過ぎると、窒化物が粗大に成長しやすくなり、疲労強度を低下させる原因となる。この点、V含有量は0.20%以下であってもよく、0.10%以下であってもよい。V含有量の下限は特に限定されるものではなく、0%であってもよく、0%超であってもよく、0.01%以上であってもよい。
【0038】
(Nb:0%以上0.030%以下)
NbはTiと同様に窒化物等を生成させる元素である。また、少量で鋼材の強度を著しく高める効果がある。一方、Nb含有量が多過ぎると、上記の効果が飽和するだけでなく、鋳造時の割れ頻発の原因となる。この点、Nb含有量は0.030%以下であってもよく、0.020%以下であってもよい。Nb含有量の下限は特に限定されるものではなく、0%であってもよく、0%超であってもよく、0.001%以上であってもよい。
【0039】
(Zr:0%以上0.010%以下)
Zrは適正な添加により、凝固組織の接種核となる酸化物を形成し、等軸晶率を高める効果がある。一方、Zr含有量が多過ぎると、粗大な酸化物系介在物を形成し、疲労破壊の起点となるばかりか、鋳型への溶鋼供給に用いられるノズルの詰りを引き起こす虞がある。この点、Zr含有量は0.010%以下であってもよく、0.005%以下であってもよい。Zr含有量の下限は特に限定されるものではなく、0%であってもよく、0%超であってもよく、0.001%以上であってもよい。
【0040】
(Ca:0%以上0.010%以下)
CaはAlを改質し、酸化物系介在物の粗大化を抑制する効果がある。一方、Ca含有量が多過ぎると、CaO-Alを主成分とする却って粗大な酸化物系介在物を形成し、疲労破壊の基点となる虞がある。この点、Ca含有量は0.010%以下であってもよく、0.005%以下であってもよい。Ca含有量の下限は特に限定されるものではなく、0%であってもよく、0%超であってもよく、0.001%以上であってもよい。
【0041】
(Mg:0%以上0.010%以下)
MgはCaと同様にAlを改質し、酸化物系介在物の粗大化を抑制する効果がある。また、硫化物系介在物にも作用し、アスペクト比を低下させる効果がある。一方、Mg含有量が多過ぎると、MgOを主成分とする粗大なクラスター状酸化物系介在物を形成し、疲労破壊の基点となる虞がある。この点、Mg含有量は0.010%以下であってもよく、0.005%以下であってもよい。Mg含有量の下限は特に限定されるものではなく、0%であってもよく、0%超であってもよく、0.001%以上であってもよい。
【0042】
(REM:0%以上0.010%以下)
REMもまたAlを改質し、酸化物系介在物の粗大化を抑制する効果がある。一方、REM含有量が多過ぎると、鋼の清浄性を低下させ、鋼の靭性を劣化させる虞がある。この点、REM含有量は0.010%以下であってもよく、0.005%以下であってもよい。REM含有量の下限は特に限定されるものではなく、0%であってもよく、0%超であってもよく、0.001%以上であってもよい。尚、本願にいうREMとは、LaやCe等の希土類元素を表すが、そのうちの任意の1種類、あるいは2種類以上のREMを用いることができる。
【0043】
(B:0%以上0.0040%以下)
Bは少量で鋼材の機械的特性を高める効果がある。一方、B含有量が多過ぎると効果が飽和し、また鋳造時に割れが発生し易くなる。この点、B含有量は0.0040%以下であってもよく、0.0030%以下であってもよい。B含有量の下限は特に限定されるものではなく、0%であってもよく、0%超であってもよく、0.0001%以上であってもよい。
【0044】
本実施形態において、鋼は上記に述べた成分以外の残部がFe及び不純物であってよい。不純物とは、鉱石やスクラップ等のような原料を始めとして、鋼の製造工程の種々の要因によって混入する成分等である。
【0045】
2.鋳片の2次冷却
Cu含有鋼が酸化された際の赤熱脆化は、概ね1050℃から1200℃の範囲で発生し、Cu濃度の増加、及びSnの共存により下限温度が下方に拡大する。よって、湾曲型や垂直曲げ型等の矯正点を有する連続鋳造機を用いた連続鋳造の際、鋳片表面に大きな歪がかかる矯正点においてこの温度域を回避することにより、鋳片表面の赤熱脆化割れを防止することが可能と考えられる。
【0046】
しかしながら、矯正点における鋳片の表面温度が低下すると、鋳片冷却時にγ粒界に沿って析出する析出物や、フィルム状フェライトに起因する脆化(いわゆるIII領域脆化)温度域に入り、割れ感受性が高まる。上記脆化は鋼材の成分にもよるが、概ね700℃から950℃の範囲である。すなわち、通常の連続鋳造方法によるCu、Sn含有鋼の鋳造においては、割れ回避のために、矯正点における鋳片の表面温度を非常に狭い範囲にコントロールする必要があり、鋳造する鋼の成分によっては適正な矯正点温度が存在せず、割れ発生回避が困難となることもあり得る。
【0047】
本発明者は上記課題について鋭意検討し、連続鋳造時の2次冷却条件の適正化を図ることにより、割れが発生し難い鋳片表層組織としたうえで、矯正点温度を適正に制御することにより、スケールと地鉄の間に液体のCuが生成したとしても、赤熱脆化割れとIII領域割れの両方を抜本的に防止し得る方法を見出した。
【0048】
詳しくは、2次冷却帯において鋳片表層の組織をフェライト-パーライトあるいはベイナイトに変態させ、その後にAc以上まで復熱させて逆変態させることにより、オーステナイト組織を微細化させる。これにより、III領域割れを防止するのみならず、液体のCu系合金浸潤サイトが増加し、割れ深さを著しく小さくすることができる。さらに、鋼のCu及びSn濃度に応じて定まる値以下に矯正点温度を制御することにより、鋳片を過剰に冷却することなく赤熱脆化割れを防止することができる。以上の通り、本実施形態に係る連続鋳造方法においては、鋳型10の直下から矯正点20に至るまでにおいて、鋳片1の表面の温度を、A温度以下に冷却した後で、Ac温度以上に上昇させ、且つ、矯正点における鋳片1の表面の温度を鋼におけるCuの含有量[Cu](質量%)及びSnの含有量[Sn](質量%)に応じた以下の温度Tb(℃)以下とすることが重要である。本実施形態に係る連続鋳造方法においては、Cuの鋼中への溶解度を上げずとも、上記のメカニズムによって鋳片表面割れを抑制できることから、鋼へのNiの添加が不要であり、或いは、鋼へのNiの添加量を極少量とすることができる。
【0049】
[Cu]+4[Sn]≦0.15である場合:Tb=1050
0.15<[Cu]+4[Sn]≦0.25である場合:Tb=1000
0.25<[Cu]+4[Sn]≦0.35である場合:Tb=950
0.35<[Cu]+4[Sn]である場合:Tb=900
【0050】
2.1 Ar温度以下に冷却後、Ac温度以上に上昇
上述の通り、本実施形態においては、2次冷却帯において鋳片表層の組織をフェライト-パーライトあるいはベイナイトに変態させ、その後にAc以上まで復熱させて逆変態させることにより、オーステナイト組織を微細化させる。これにより、III領域割れを防止するのみならず、液体のCu系合金浸潤サイトが増加に増加し、割れ深さを著しく小さくすることができる。上記条件の一方又は双方が満たされない場合、延性の高い逆変態組織を鋳片表層全体で得ることができない。すなわち、鋳型引抜後の冷却過程(ステップ1と称する)にてAr以下まで冷却し、その後の復熱過程(ステップ2と称する)にて矯正点に至る前にAc以上まで復熱させることが割れ抑制に必要となる。
【0051】
鋳型10から引き抜かれた鋳片1をAr以下の温度まで冷却する際は、水による冷却、気液2相による冷却などの種々の方法を用いることができる。本実施形態において、鋳片1の表面の冷却速度に特に制限はなく、例えば、1℃/s以下などの冷却速度でも問題はない。ただし、外部からエネルギーを印加することなくその後の復熱、すなわち鋳片表面温度の再上昇を生じさせ易くする観点からは、冷却速度は3℃/s以上であってもよい。一方で、冷却速度が過大になると、鋳片表面の温度分布にむらが生じ、熱応力による割れの発生を促す虞がある。この点、冷却速度は20℃/s以下であってもよい。
【0052】
Ar以下の温度に冷却された鋳片1の表面の復熱は、鋳片1の内部から伝わる熱量が鋳片1の表面から放出される熱量を上回ることによって起こる。鋳片1の表面の復熱は、2次冷却帯の冷却を緩和させることで比較的簡単に行うことができる。或いは、鋳造ラインの周囲に熱源や高周波誘導加熱設備を配し、表面を加熱してもよい。鋳片1の復熱速度(昇温速度)は特に限定されるものではなく、いずれの復熱速度であっても所望の効果が発揮される。また、鋳片1の表面はAc以上に復熱されればよいが、鋳片1の表面温度や組織のバラつきを一層抑える観点からは、復熱後の最高温度をAc+30℃以上としてもよい。尚、復熱温度が高すぎるとオーステナイト結晶粒が再び粗大化する虞がある。この点、復熱後の最高温度は1200℃以下であってもよい。
【0053】
尚、ArやAcは、変態点記録測定装置(フォーマスタ装置)等を用いて測定することができる。或いは、先行文献(邦武立郎: 熱処理, 43, p. 99(2003))で提案されている以下の式(a)、(b)を用いてArやAcを特定することもできる。
【0054】
Ar1=(52C+122Si+66Cu+6Cr)-(65Mn+36Ni+58Mo)-73.2/log((Ac3-500)/v)+713 (a)
Ac3=(32Si+17Mo)-(231C+20Mn+40Cu+18Ni+15Cr)+912 (b)
ここで、式(a)中のvは、Acから冷却到達温度までの平均冷却速度(℃/s)である。
【0055】
2.2 矯正点における温度
連続鋳造機の矯正点20において、Cu及びSnが液体を呈するような温度域になっている場合、矯正歪を受けた際に、液体のCu及びSnがオーステナイト粒界に侵入し得る。その侵入深さが大きいほど割れ感受性が大きくなる。一方、Cu及びSnの液体の量が少ない場合、鋳片の変形時でも粒界に深く浸入せず、割れが発生し難くなる。この点、本実施形態においては、矯正点20における鋳片1の表面の温度をCuやSnの量に応じて規定される温度Tb以下とすることで、赤熱脆化起因の割れ発生を防止することができる。さらに、上記のステップ1、2の効果により、矯正点温度を下げた際に懸念されるIII領域割れも同時に防止することができる。尚、連続鋳造機が複数の矯正点20を有する場合、最もメニスカスに近い矯正点20において、鋳片1の表面の温度をTb以下とすればよい。
【0056】
矯正点20における鋳片1の表面温度の下限については特に限定されるものではなく、連続鋳造の操業上問題とならない温度であればよい。例えば、矯正点20における鋳片1の表面の温度は、500℃以上であってもよい。矯正点20における鋳片1の表面の温度は、復熱後に矯正点20に至るまでの鋳片1に対する冷却条件や矯正点20におけるロール温度等によって制御すればよい。
【0057】
本発明者の知見によると、鋼に含まれるCuの量のみに着目した場合、赤熱脆化起因の割れを適切に防止することが可能な矯正点温度を設定することは困難である。これに対し、本実施形態においては、上述の通り、CuだけでなくSnの量も考慮して、矯正点における鋳片表面の温度を規定する。本発明者の知見では、Cuの量とSnの量の4倍との和([Cu]+4[Sn])の値に応じて、矯正点における温度の上限Tbを規定することで、赤熱脆化起因の割れを適切に防止することができる。
【0058】
3.補足
本実施形態に係る方法は、主に原料としてスクラップを用いた溶鋼を連続的に鋳造する方法を念頭に置いたものであるが、スクラップを用いず、鉄鉱石や還元鉄を用い、所定成分に調整した溶鋼を用いた連続鋳造を行う際にも問題なく適用することができる。また、本実施形態に係る方法は、矯正点を有する連続鋳造を用いた連続鋳造であれば、スラブ、矩形ブルーム、丸形ブルームなど鋳片形状を問わず適用することができる。本実施形態に係る方法において、冷却条件、復熱条件及び矯正点温度以外の連続鋳造条件(鋳造速度等)については、特に限定されるものではない。
【0059】
以上の通り、本実施形態に係る連続鋳造方法によれば、CuやSnを含む鋼の連続鋳造の際、鋼に対するNiの添加を抑えつつ、III領域割れや赤熱脆化に起因する鋳片表面割れを抑制することができる。尚、本願において、「鋳片の表面」とは、鋳片の表面全体である必要は無い。すなわち、鋳片の表面のうち、少なくとも表面割れを抑制したい部分について、Ar以下への冷却、Ac以上への復熱、及び、矯正点における温度の制御を行えばよい。
【実施例0060】
以下に本発明に係る実施例を示す。本発明はこの一条件例に限定されるものではない。本発明においては、本発明要旨を逸脱せず、本発明目的を達する限りにおいて、種々の条件が採用され得る。
【0061】
1.モデル実験
鋳型から引き抜かれた鋳片に対する2次冷却及び復熱、並びに、矯正点における歪印加温度による割れ防止効果を十分得るための最適条件を解明するために、高温引張装置を用いたモデル実験を実施した。
【0062】
表1に示される組成を有する鋼からなる長さ100mmの試料を大気中で1400℃まで加熱し、平均粒径1.5mm以上のオーステナイト組織とした後、ヘリウムガス気流中で急冷した。冷却速度は-10℃/s、冷却到達温度はAr温度又はそれより20℃高い温度の2通りとした。目標温度到達後は直ちに引張温度まで試料を再加熱した。所定温度到達後60s保持した後引っ張った。熱加工パターンを図2に示す。冷却条件、再加熱条件、引張条件はそれぞれ次に示すとおりである。
【0063】
【表1】
【0064】
冷却条件:-10℃/sでAr温度まで冷却
【0065】
再加熱条件:5℃/sで825~1075℃(25℃刻み)まで再加熱
【0066】
引張条件:引張速度0.01/s、引張長さ5mm
【0067】
熱間引張後の試験片について、その変形部を観察し、割れの有無を観察した。結果を図3及び4に示す。図3はCu濃度(質量%)を横軸としたもので、図4はCu濃度(質量%)とSn濃度(質量%)の4倍との和を横軸としたものである。図3及び4から明らかなように、割れに及ぼす影響としてはCu濃度のみならずSn濃度も影響していることが分かる。赤熱脆化に及ぼすSnの影響については鋭意検討した結果、図4に示されるように、Cu濃度とSn濃度の4倍との和([Cu]+4[Sn])で整理することが最善であることが判明したため、以後はこの関係を用いることとした。
【0068】
図4より、900~1050℃を超える高温の領域、および875℃未満の低温の領域において割れ感受性が高いことが判明した。これらはそれぞれ、選択酸化に伴う赤熱脆化、III領域脆化に対応するものと考えられる。
【0069】
III領域脆化を回避し、割れを防止するためには、冷却によりオーステナイトをフェライト-パーライトやベイナイト等の組織に変態させるのみならず、矯正点に至るまでに微細なオーステナイト組織にする、いわゆる逆変態組織を得ることが必須である。復熱温度がAcに満たない場合、逆変態が起こらない場所が残存する。Arまで冷却したにもかかわらず割れを呈した水準に関しては、引張温度に至る前にAc温度以上への復熱が行われておらず、冷却前の粗大な組織の影響が残るため、矯正歪に対して割れを呈しやすくなっていたと推定される。そこで、Ac以上にまで復熱させ、オーステナイト単相組織とすることが割れ発生抑制に有効と想定された。
【0070】
上記を確認するために、熱間引張試験の熱加工パターンを図5に示されるパターンに変更し、改めて割れの評価を行った。その結果、図6に示される通り、875℃未満で発生していた割れは当該熱加工パターンにおいては確認されなかった。
【0071】
さらに確認のため、広い引張温度領域で割れが見られた試料A-5、A-6、A-7、A-8について、1400℃から図7に示される熱加工パターンにより引張加工を行った。その結果、図8に示される通り、III領域脆化に起因すると見られる割れを抑制できないのみならず、赤熱脆化に起因すると見られる割れについても、より低い温度において割れを呈する結果になった。この理由として、引張時までにオーステナイト粒が粗大なまま残存し、液体のCu系合金浸潤サイトがより深くまで浸入したことで、より割れ感受性が高まったためと推定される。
【0072】
以上のモデル実験の結果から、CuやSnを含む鋼の連続鋳造の際、鋼に対するNiの添加を抑えつつ、III領域割れや赤熱脆化に起因する鋳片表面割れを抑制するためには、以下の要件を満たす必要があるものと考えられる。
(1)鋳型から引き抜かれた鋳片の表面の温度を、Ar温度以下に冷却すること
(2)Ar温度以下に冷却された鋳片の表面の温度を、Ac温度以上に上昇(復熱)させること
(3)Ac温度以上に上昇された鋳片の表面の温度を、矯正点において、以下の条件で表される温度Tb℃以下とすること
【0073】
[Cu]+4[Sn]≦0.15である場合:Tb=1050
0.15<[Cu]+4[Sn]≦0.25である場合:Tb=1000
0.25<[Cu]+4[Sn]≦0.35である場合:Tb=950
0.35<[Cu]+4[Sn]である場合:Tb=900
ここで、[Cu]及び[Sn]は、前記鋼におけるCu及びSnの含有量(質量%)である。
【0074】
2.連続鋳造試験
上記モデル実験の結果が妥当であることを連続鋳造試験によって確認した。具体的には、電気炉にて表2に示される組成の溶鋼を溶製し、曲率半径12.0mの連続鋳造試験機(5点矯正型)を用い、幅2000mm×厚み250mmの鋳片を製造した。鋳造速度は0.8~1.5m/minである。鋳型から引き抜いた鋳片は鋳型直下に設置したゾーン長さ1.0mのスプレー冷却装置にて急冷した。ゾーン通過後は2次冷却スプレーの水量を調整し、復熱を制御することにより、急冷温度T1、復熱温度T2及び矯正点(メニスカスに最も近いもの)における温度T3を変動させた。鋳片はガス切断機にて5.0±0.2mの長さに切断後、表面の観察に供した。
【0075】
【表2】
【0076】
鋳片の表面温度は、連続鋳造機内の湾曲部外周側に設置した複数の放射温度計により測定した。この実測値とともに冷却水やロールによる抜熱条件を与えて伝熱凝固解析を行い、鋳片の表面温度分布を求めた。この鋳片の表面温度分布に基づき、急冷到達最低温度T1、復熱到達最高温度T2及び矯正点温度T3を得た。T1、T2、T3はいずれも湾曲部外周側の長辺面のうちで幅方向の中央部の表面温度とした。その際、伝熱計算で求めた表面温度と放射温度計から得られた実測値との間に20℃以上の乖離がないことを確認した。
【0077】
Ar、Acについては上記(a)、(b)式をもとに計算した。ステップ1の冷却速度は伝熱計算よりv=15℃/sと見積もって計算した。
【0078】
試験結果を表3に示す。表面割れの評価は、割れがないものを○印、割れの数が鋳片長さ1mあたり10箇所以下であったものを△印、いずれにも該当しないものを×印で表した。
【0079】
【表3】
【0080】
表3に示される結果から明らかなように、上記の要件(1)~(3)を満たす水準1~14については、いずれも割れ発生のない良好な表面品位の鋳片が得られた。一方、水準15~18、19~22、23~36は、それぞれ、鋳片2次冷却による冷却温度がAr以下とならなかったもの、冷却後矯正点に至るまでの温度がAc以上にならなかったもの、及び、矯正点温度がTb以下ではなかったものであり、いずれも鋳片表面に割れを呈した。
【符号の説明】
【0081】
1 鋳片
10 鋳型
20 矯正点
100 連続鋳造機
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8