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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022183829
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】マスク
(51)【国際特許分類】
   A41D 13/11 20060101AFI20221206BHJP
   A62B 18/02 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
A41D13/11 B
A41D13/11 Z
A62B18/02 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021091323
(22)【出願日】2021-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神野 文夫
【テーマコード(参考)】
2E185
【Fターム(参考)】
2E185AA07
2E185CC32
(57)【要約】
【課題】着用時にプリーツが開きやすいマスクを提供する。
【解決手段】複数シートの積層体であるマスクであって、前記積層体の長手方向と平行に複数付されたプリーツ状の折り目と、前記複数シートの積層体を、接着領域により断続的に接着する接着列を、前記マスクの長手方向両端部に複数設けた接着部と、を、備え、前記接着部は、前記プリーツ状の折り目が幅方向に開く箇所において、前記接着部を構成する前記接着列のうちマスク中央側の少なくとも非肌面側を接着しない非接着領域を有する、マスクを提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数シートの積層体であるマスクであって、
前記積層体の長手方向と平行に複数付されたプリーツ状の折り目と、
前記複数シートの積層体を、接着領域により断続的に接着する接着列を、前記マスクの長手方向両端部に複数設けた接着部と、
を、備え、
前記接着部は、前記プリーツ状の折り目が幅方向に開く箇所において、前記接着部を構成する前記接着列のうちマスク中央側の少なくとも非肌面側を接着しない非接着領域を有する、
マスク。
【請求項2】
前記マスクの長手方向両端部において、マスク中央側の接着列の接着領域を、互いに対称に付した、
請求項1記載のマスク。
【請求項3】
前記接着領域は、溶着により形成された溶着模様であり、
前記接着列を、前記溶着模様を断続的に付することにより溶着列として形成した、
請求項1または2に記載のマスク。
【請求項4】
前記溶着模様は、美観を有し、観念上関連のある形状であり、
前記プリーツ状の折り目に係らない部分では、溶着模様は該形状の輪郭線のみを溶着し、
前記プリーツ状の折り目に係る部分では、溶着模様は該形状を塗りつぶすように溶着する、
請求項3に記載のマスク。
【請求項5】
前記溶着模様は、美観を有し、観念上関連のある形状であり、
前記プリーツ状の折り目の幅方向端部を溶着する部分の模様は、前記プリーツ状の折り目を接着しない部分よりも大きい、
請求項3または4に記載のマスク。
【請求項6】
前記溶着列には、前記溶着模様に加えて、前記溶着模様よりも小さい点状溶着部を更に備える、
請求項3~5のうちいずれか一項に記載のマスク。
【請求項7】
前記プリーツ状の折り目を溶着する部分では、前記プリーツ状の折り目を溶着しない部分に比べて、前記点状溶着部の数が少ない、
請求項6に記載のマスク。
【請求項8】
前記マスクの四隅にある耳紐取り付け部分には、前記溶着模様を付さず、前記点状溶着部を付した、
請求項6または7に記載のマスク。
【請求項9】
一の溶着列に溶着模様を付する場合、隣接する溶着列の幅方向同一位置には溶着模様を付さない、
請求項3~8のうちいずれか一項に記載のマスク。
【請求項10】
前記溶着列のうちの一つに溶着模様を付する場合、隣接する溶着列の幅方向近傍位置に付す溶着模様の大きさ、形状及び方向のうち少なくともそのいずれかを変更する、
請求項3~9のうちいずれか一項に記載のマスク。
【請求項11】
前記溶着列において、幅方向に隣接する溶着模様の大きさ、形状及び方向の少なくともそのいずれかが異なる、
請求項9または10に記載のマスク。
【請求項12】
前記複数シートのうちの一層に、前記プリーツ状の折り目が開いた状態で維持しやすくするプリーツ解放状態維持層を備えた、
請求項1~11のうちいずれか一項に記載のマスク。
【請求項13】
前記複数シートのうちのいずれかのシートに、長繊維で形成された不織布を用いた、
請求項1~12のうちいずれか一項に記載のマスク。
【請求項14】
前記複数シートのうちのいずれかのシートに、
前記プリーツ状の折り目の延在方向と交差する繊維配向を持つ不織布を用いた、
請求項1~13のうちいずれか一項に記載のマスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスクに関する。
【背景技術】
【0002】
衛生マスクの長手方向端部には、マスクを構成する各シートの離散を防ぐため、熱溶着等により接着線を付するのが一般的である。一方、この接着線の代わりに連続する溶着模様を付してマスクの審美性を向上させる技術が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-65995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1では、プリーツを有するマスクの長手方向端部に溶着模様を付する場合に、プリーツの折り目に跨って溶着模様を付している。確かに溶着模様により審美性は向上するが、プリーツの折り目に跨って溶着模様を付すと、プリーツは広がりにくくなる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明では、複数の溶着列を設けてプリーツの折り目を避けて接着領域を付すと共に、マスクの内側の溶着列には、プリーツの折り目が開く位置に接着領域を設けないマスクを提供する。
【0006】
詳細には、本発明は、複数シートの積層体であるマスクであって、前記積層体の長手方向と平行に複数付されたプリーツ状の折り目と、前記複数シートの積層体を、接着領域により断続的に接着する接着列を、前記マスクの長手方向両端部に複数設けた接着部と、を、備え、前記接着部は、前記プリーツ状の折り目が幅方向に開く箇所において、前記接着部を構成する前記接着列のうちマスク中央側の少なくとも非肌面側を接着しない非接着領域を有する、マスクである。
【0007】
前記マスクの長手方向両端部において、マスク中央側の接着列の接着領域を、互いに対称に付してよい。
【0008】
前記接着領域は、溶着により形成された溶着模様であり、前記接着列を、前記溶着模様を断続的に付することにより溶着列として形成してよい。
【0009】
前記溶着模様は、美観を有し、観念上関連のある形状であり、前記プリーツ状の折り目に係らない部分では、溶着模様は該形状の輪郭線のみを溶着し、前記プリーツ状の折り目に係る部分では、溶着模様は該形状を塗りつぶすように溶着してよい。
【0010】
前記溶着模様は、美観を有し、観念上関連のある形状であり、前記プリーツ状の折り目の幅方向端部を溶着する部分の模様は、前記プリーツ状の折り目を接着しない部分よりも大きくてよい。
【0011】
前記溶着列には、前記溶着模様に加えて、前記溶着模様よりも小さい点状溶着部を更に備えてよい。
【0012】
前記プリーツ状の折り目を溶着する部分では、前記プリーツ状の折り目を溶着しない部分に比べて、前記点状溶着部の数が少なくてよい。
【0013】
前記マスクの四隅にある耳紐取り付け部分には、前記溶着模様を付さず、前記点状溶着部を付してよい。
【0014】
一の溶着列に溶着模様を付する場合、隣接する溶着列の幅方向同一位置には溶着模様を付さなくてよい。
【0015】
前記溶着列のうちの一つに溶着模様を付する場合、隣接する溶着列の幅方向近傍位置に付す溶着模様の大きさ、形状及び方向のうち少なくともそのいずれかを変更してよい。
【0016】
前記溶着列において、幅方向に隣接する溶着模様の大きさ、形状及び方向の少なくともそのいずれかが異なっていてよい。
【0017】
前記複数シートのうちの一層に、前記プリーツ状の折り目が開いた状態で維持しやすくするプリーツ解放状態維持層を備えてよい。
【0018】
前記複数シートのうちのいずれかのシートに、長繊維で形成された不織布を用いてよい。
【0019】
前記複数シートのうちのいずれかのシートに、前記プリーツ状の折り目の延在方向と交差する繊維配向を持つ不織布を用いてよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、シートの離散を防ぐ機能を維持しながらも、審美性に優れ、更にプリーツが広がりやすい装着感の良いマスクを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、実施形態に係るマスクの外観斜視図である。
図2図2は、実施形態に係るマスク本体部分の平面図である。
図3図3は、実施形態に係るマスクの装着状態を示した図である。
図4図4は、プリーツ解放状態維持層を備えるマスク本体部分の構造を示した図である。
図5図5は、プリーツ解放状態維持層の一例を示した図である。
図6図6は、シートの一形態であるスパンボンド不織布の方向別引張強度を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、図面を参照して本発明の実施形態に係るマスクについて説明する。なお、以下の実施形態の構成は例示であり、本発明はこれらの実施の形態の構成に限定されるものではない。
【0023】
図1は、実施形態に係るマスクの外観斜視図である。図1に示されるように、マスク1は、マスク本体2、耳紐3,4、側部5,6、ノーズフィッター7を有する。マスク本体2は略長方形状で、シート状の通気性素材で形成されており、着用者の口と鼻を覆うことが可能な大きさを有する。耳紐3,4は、紐状の伸縮性素材で形成されており、マスク本体2の両側部に位置する側部5,6において端部が接合されることにより、マスク本体2の左右両側に環状の輪をそれぞれ形成する。
【0024】
マスク本体2は、通気性と熱可塑性を有する不織布等の各種シートから構成されるものであり、複数シートの積層体である。複数シートのうちの各シートは、それぞれ機能性を有していてよい。マスク本体2が3層シートの積層体である場合、肌面側シートは、肌触りの良い不織布で構成され、中間シートは、異物を吸着するフィルタ性能の高い不織布で構成され、表面側シートは耐久性が高く、デザインが付された不織布で構成されてよい。
【0025】
そして、複数シートは、上下左右の縁等において互いに適宜接合されている。マスク本体2は、当該マスク本体2の長辺方向と平行に、プリーツ状(蛇腹状)の立体形状を形成し得る折り目を複数付されている。このような折り目は、マスク本体2が襞状に折り込まれた状態で、左右両側の端部に模様が断続的に溶着されて側部5,6となることにより、その形状が保持される。すなわち、左右両側の端部に形成されている側部5,6で折り目の展開は阻止され、マスク本体2の中心部付近の領域において、マスク1の装着時に折り目が展開されることで、マスク本体2のプリーツが広げられて立体形状となる。なお、非装着時にはプリーツが閉じられることで、マスク本体2をかさばらない平面状とすることができる。
【0026】
耳紐3,4を構成する紐状の伸縮性素材は、例えば、ゴム糸と綿の交織帯や、樹脂フィラメントの交編ネット、伸縮性の不織布等で形成される。このような紐状の素材の両端部が、それぞれマスク本体2の左右両側の側部にある側部5,6に接合されることで、当該素材の一端が始点となり、当該素材の他端が終点となるループ状の形態の耳紐3,4がマスク本体2の左右両側に形成される。
【0027】
ノーズフィッター7は、マスク本体2の上部において、長手方向がマスク本体2の左右方向に延在する状態でマスク本体2に固定される部材である。ノーズフィッター7は、マスク本体2を構成するシート状の通気性素材同士の間に挟み込まれる状態で積層体の内部に固定されていてもよいし、或いは、マスク本体2の表面に固定されていてもよい。ノーズフィッター7は、着用者が指で押圧することにより適宜の形状へ変形可能な程度の強度を有すると共に、当該押圧から解放されても形状を維持する塑性変形可能な素材である。このようなノーズフィッター7がマスク本体2の上部に設けられていることにより、着用者は、鼻とマスク本体2との間にできる隙間を塞ぐことができる。
【0028】
マスク本体2の左下のプリーツが設けられていない部分には、ブランドロゴ8が付されている。ブランドロゴ8は、マスクの製造元、販売元、商品名、型番等を示す任意の文字列や記号であり、本図のように、これに加えて更に模様が付されていてもよい。使用者は、当該ブランドロゴを視認することにより、マスクの上下を容易に判断することができる。勿論、ブランドロゴ8とそれに付随する模様をマスク本体2には付さず、マスクの包装に付すこととしてもよい。
【0029】
側部5,6と、ブランドロゴ8は、視認性、機能性の面から、超音波溶着などの熱溶着技術によって形成されることが好適である。また、マスク1を構成するその他の各素材も、超音波溶着によって接合されてよいが、例えば、ミシン糸等による縫合、ホットメルト接着剤等による接着、ヒートシール、その他の各種接合技術を適用し得る。
【0030】
図2は、実施形態に係るマスク本体部分の平面図である。側部5は、マスク本体2の長手方向端部にマスク本体2の短手方向に平行に複数設けられた接着列により構成されている。本実施形態では、側部5は、2列の接着列5A,5Bから構成され、側部6も、同様に2列の接着列6A,6Bから構成されている。接着列は、マスク本体2の長手方向端部に略均等に並んでいる。接着列の本数は2本に限られないが、1本では十分な接着効果が得られず、多すぎると接着領域が煩雑になって美観を損なうため、2本前後が好適である。接着列は、熱溶着技術によって形成された溶着列であってよく、接着領域は、熱溶着に
よって形成された溶着模様であってよい。
【0031】
本実施形態において、接着列は熱溶着技術によって形成された溶着列であり、当該溶着列に沿って、マスク本体2の長手方向端部全体に、熱溶着により形成された接着領域である、溶着模様Mと点Cが付されている。本図における溶着模様Mはクローバーの葉を模した美観を有する図形であるが、他の簡単な図形であってよいし、他の花や、キャラクターなどを溶着してもよい。このような模様を用いると、単に破線状の溶着列を用いるよりも、美観を向上させることができる。また、側部5,6を固定するシート部材を別途用いる必要はない。
【0032】
溶着模様Mの大きさは同一である必要はない、当該部分が要求される強度に応じてその大きさを変えることができる。マスクは通常3層以上の複数層の機能性不織布シートで形成されている。側部5,6では、これら複数層の不織布シートを溶着し、マスク使用時にかかる外力によるシートの離散を防ぐことが求められる。プリーツが存在しない部分においては、複数層のシートのみを溶着できればよいため、溶着模様Mの大きさは最小限でよく、また塗りつぶされている必要もない。
【0033】
しかし、プリーツ(蛇腹状の折り目)存在部分では、マスクが複数回折り返されるため、3層シートのマスクにおいては、溶着すべきシートが最大で15層になることがある。この状態で、マスクを着用する際にプリーツを開くと、側部5,6には大きな力がかかり、シート同士が剥離しやすくなる。このため、従来のマスク設計においては、設計上のプリーツ部分の層数に対応できるように、接着列の強度を規定していた。
【0034】
そこで、本実施形態に係るマスクでは、プリーツ部分において、接着すべき不織布シートの層が多くなる箇所では、塗りつぶしにより溶着面積が増大した、大きな溶着模様M1を付し、溶着模様同士の密度を高くして強力に溶着する。幅方向上下にあるプリーツが存在しない箇所では、小さく、また輪郭線のみからなる溶着模様M3を付することができる。また、マスクの幅方向中央部などの溶着すべき不織布シートの枚数が少ない箇所では、塗りつぶしにより溶着面積が増大した、小さな溶着模様M2を付することができる。
【0035】
このように、溶着模様の大きさを変更したり、塗りつぶしの有無によって溶着面積を変更したりすることで、側部5,6は、接着力が必要となる部分で必要な接着力を保つことができる。また、模様M1,M2,M3はクローバーの葉という観念上関連のある形状であり、その大きさや内部の塗りつぶしについて様々なアクセントができるので、使用者、また観察者に与える美観を向上させることができる。
【0036】
さらに、本図のように植物の葉の模様を溶着で形成する場合、特に大きな溶着模様M1の一部について葉身に加えて葉柄を表現し、当該葉柄は常に設計上の下方向を向くようにすることができる。このようにすることで、使用者は葉柄をマスクの上下方向判断の手がかりにすることができる。
【0037】
点Cは、溶着模様M1,M2,M3で不足する強度を補うために用いられる点状溶着部である。模様(本実施形態ではクローバーの葉)を並べると各側部同士の模様が重なってしまい審美性を損なうが、大きな溶着模様(M1)が溶着されている側部に隣接する側部において当該模様の近傍に点Cを設ければ、複数の側部により強度を維持でき、かつ美観を損なわない。
【0038】
プリーツが存在する部分においては、大量のシートを溶着する必要があり、着用時にプリーツが広がる力に対抗する必要があるため、なるべく点Cの数を少なくし、溶着模様M1,M2のいずれかを配置することが望ましい。また、耳紐3,4を溶着する耳紐取付部
分においては、別のエンボス接着によって十分な強度が確保できるため、点Cを最低限度付しておくだけで良い。
【0039】
各溶着列5A,5B(または6A,6B)のうち任意の一の溶着列に溶着模様Mを付した場合、隣接する溶着列の幅方向同一位置には、溶着模様Mなどの接着部分を付さないことができる。このようにすることで、隣接する溶着列にはみ出すような大きな溶着模様M(例えば、溶着模様M1)をマスク側面のアクセントとして付することができる。また、このような大きな溶着模様を付しても隣接溶着列に付された模様と融合してマスクの美観が損なわれることがない。
【0040】
任意の溶着列に大きな溶着模様を付して、強度上隣接する複数の溶着列でもシートを溶着する必要がある場合、当該大きな溶着模様M(例えば、溶着模様M1)の幅方向近傍位置に、大きさや形状を調整した(例えば、溶着模様がクローバーの葉であれば、四つ葉にしたり三つ葉にしたりする)小さな溶着模様M(例えば、溶着模様M2)や点Cなどを設けることができる。また、近傍にある溶着模様M同士が重ならないように、溶着模様M同士の方向を調整することもできる。このようにして調整しながら溶着模様Mと点Cを配置すると、結果的に隣接する溶着模様の大きさ・形状・方向が異なる、審美性が高い溶着列を実現することができる。また、各溶着列5A,5B(または6A,6B)を、側部5(または6)として見た場合、各側部において溶着模様が途切れることがない。
【0041】
このようにしてできた各溶着列(5A,5B,6A,6B)の各列を幅方向から見た場合、隣接する溶着模様(すなわち、隣接する5A,5Bに付された溶着模様と、隣接する6A,6Bに付された溶着模様)の大きさ、形状、方向は異なっている。このように幅方向(縦方向)から見た場合に模様にバリエーションがある溶着列を用いれば、審美性を向上させることができる。また、各溶着列に意味を持たせる場合、これを視認・認識しやすくすることができる。このようにすることで、今まで単にシートの離散を防ぐ機能性を持たせることのみを目的として用いられていた接着列に、訴求力のあるデザイン性をもたらすことができる。
【0042】
さらに、本実施形態では、マスクの側部5,6の各溶着列に付された溶着模様Mは、着用者の顔の正中線に対して線対称に付されている。すなわち、マスクの長手方向端部に付された各溶着列には、反対側の端部に付された溶着模様を左右反転した模様が付されている。このように溶着模様を付すると、溶着模様によりプリーツを構成する各機能性シートが固定される位置は左右均等になる。このようにすれば、使用者がマスクを着用する際、プリーツは長手方向両端部から均等に開く。このため、着用時に口元にできる空間が効率的に形成されやすくなる。
【0043】
図3は、実施形態に係るマスクの装着状態を示した図である。使用者がマスクを装着すると、耳紐3,4の張力がかかることによりマスクの四隅は肌に強く密着する。一方、マスクの短手方向中央部(すなわち、プリーツ部分)においては、逆方向の力がかかっており、模様Mが付されたマスクの長手方向端部は、肌にそれほど強く密着しない。
【0044】
模様M1のように大きく、また模様M1,M2のように塗りつぶされた溶着模様はマスクの肌面シートに比べると硬く、肌に強く密着すると装着者に違和感を与えるが、本実施形態に係るマスクでは、このような溶着模様が肌と密着しない部分に付されているため、使用者に与える違和感は軽減される。耳紐4,5の伸縮力により肌に密着するマスク四隅では点Cのみが、また、その近傍では塗りつぶしがない模様M3と点Cが付されているため、肌に密着する溶着模様は最低限に抑えられる。よって、模様Mにより美観を向上しつつも部位毎には十分な強度を保ち、溶着模様が肌面に強く密着しない、肌に優しいマスクを提供できる。
【0045】
また、本実施形態では、各溶着列(5A,5B,6A,6B)の各列のうち、溶着すべき不織布シートの層が多くなるプリーツ部分の幅方向端部に、最もマスク中央側に存在する溶着列(6B,5B)には溶着模様Mや点Cを付さない非接着領域が設けられている。プリーツのマスク中央部側端部が溶着によって固定されていると、プリーツの折り曲げ線は、起立部分では幅方向の位置を維持したまま肌面に平行に広がる。しかし、本実施形態のように、非接着領域の存在により、マスク長手方向端部の中央部側でプリーツの折り曲げ線が固定されていなければ、プリーツの折り曲げ線は、肌面に平行に広がりやすくなり、更に、幅方向にも広がりやすくなる。なお、当該非接着領域は、複数シートのうち少なくともその非肌面側を接着しないことによっても実現できる。
【0046】
例えば、プリーツの折り曲げ線は、図3におけるプリーツ展開線9のように幅方向に大きな自由度を持って広がりやすくなる。また、プリーツの折り曲げ線の幅方向が長手方向端部とずれて広がることで、着用時に一度広がったプリーツが元に戻りにくくなる。このため、溶着模様による美観を有し、口元にできる空間を維持しやすいマスクを提供できる。
【0047】
また、溶着模様を顔の正中線から対称に付するメリットは図2において説明したが、特に、最も着用者の正中線側に存在する溶着列(6B,5B)に付される溶着模様を顔の正中線から線対称とすることができる。このようにすることで、左右不均等な溶着模様によって、プリーツの広がりが不均等になるのを防ぐことができる。
【0048】
なお、本実施形態に係るマスクの厚みは厚い場所で2mmであり、このような効果をもたらすため、幅方向に溶着模様Mや点Cを付さない領域の幅は、幅方向に115mm以上とすることが望ましい。
【0049】
図4は、プリーツ解放状態維持層を備えるマスク本体部分の構造を示した図である。本実施形態では、端部5,6の溶着模様を、プリーツの展開を妨害しないように付することで、プリーツの開閉が容易になるが、更に、マスクを積層する機能性シートの中にプリーツ解放状態維持層を備えることで、プリーツが開いた状態を維持しやすくすることができる。本図の例では、マスク本体2は、非肌面側から肌面側に向かって、表面シート10、フィルタシート11、プリーツ解放形状維持シート12、肌面シート13を積層して構成されている。
【0050】
表面シート10は、外部環境や摩擦などに一定程度耐えうる丈夫なシートであり、不織布などで構成されている。フィルタシート11は、静電気を帯びた、非常に目の細かい樹脂繊維からなる不織布により構成されたシートであり、その帯電した目の細かい繊維により異物を吸着する。プリーツ解放形状維持シート12は、プリーツが開いた状態を容易に維持しやすくするシートであり、装着者の口元に空間を確保して呼吸を楽にする。肌面シート13は、長時間着用しても違和感を生じにくい肌触りのよい不織布で構成されている。
【0051】
図5は、プリーツ解放状態維持層の一例を示した図である。図5に示すように、マスク本体2の積層体に折り目が設けられる前の形状維持シート12は矩形状を有している。なお、折り目が設けられた後の形状維持シート12も、プリーツが閉じている状態の場合には矩形状を有している。但し、折り目が設けられる前の形状維持シート12は、縦方向の長さが、シートが縦方向に折り返されていない分、プリーツが設けられた後の形状維持シート12よりも長い。本図では、マスク本体2の積層体のプリーツが形成されたときに、形状維持シート12に形成される折り目の位置を破線で示している。一方、横方向の長さについては、折り目が設けられる前の形状維持シート12は、折り目が設けられた後の形
状維持シート12と同じである。
【0052】
折り目の構成について説明する。マスク本体2の積層体が折り返された後、積層体の各シート10~13には、例えば、マスク本体2の下方向に見たときに上から谷折りの折り目VF1、山折りの折り目MF1、谷折りの折り目VF2、及び山折りの折り目MF2がこの順で形成されている。この構成の場合、着用者の非肌面側からマスク本体2を見たときには、上から2番目及び3番目の折り目MF1,VF2が視認可能となっている。なお、マスク本体2の積層体に設けられる折り目の構成は、図4に示された構成に限定されない。例えば、マスク本体2の積層体に設けられる折り目の数は、図4に示された構成の折り目の数よりも多くてもよく、また少なくてもよい。
【0053】
そして、本実施形態では、形状維持シート12は、当該シート12の四隅の角部の各々に1つずつ配置され、斜め方向に延在する直線状の固化部分15を有している。四隅の角部のうち、左上角部に配置された固化部分15は、当該角部の左下側から右上側に延在し、右上角部に配置された固化部分15は、当該角部の左上側から右下側に延在している。これらの固化部分15はまた、折り目VF1,MF1と交わるように延在している。更に、右下角部に配置された固化部分15は、当該角部の右上側から左下側に延在し、左下角部に配置された固化部分15は、当該角部の右下側から左上側に延在している。これらの固化部分15はまた、折り目VF2,MF2と交わるように延在している。
【0054】
固化部分15は、形状維持シート12の素材である不織布を軟化又は溶融して、膜状に固化したものである。固化部分15は、固化部分15以外の不織布が固化していない部分よりも硬いので、形状維持シート12を含む積層体は、マスク本体2の中心部側からのプリーツが広がろうとする力を受けたときに固化部分15に沿って折れ曲がり易くなっている。このため、積層体が固化部分15のマスク本体2の中心部側の端部(本開示の「屈曲部」の一例)で一度折れ曲がると、積層体が折れ戻り難くなる。つまり、固化部分15は、広げられたプリーツが元の形状へ戻るのを阻害することができると言える。これにより、積層体が折れ曲がった状態を維持することができる。この結果、マスク1を装着した着用者がプリーツを広げてマスク本体2の立体形状を定めたときに、マスク本体2に形成されたドーム状に膨らんだ部分の立体形状を維持することができる。なお、固化部分15は比較的硬いものの、柔軟性も備えているので、マスク本体2の積層体が折り返された後でも切断されることなく、立体形状を維持する機能を維持し得る。
【0055】
しかも、固化部分15が折り目VF1,MF1,VF2,MF2と交わるように延在しているので、プリーツを広げたときに、積層体が当該折り目の延在方向と異なる方向に沿って折れ曲がるようになる。例えば、固化部分15が折り目と交わらず平行に延在している場合、積層体は折り目の延在方向と同じ方向に沿って折れ曲がるようになる。しかし、この場合では、折れ曲がる方向が、折れ戻ろうとする方向と反対ではあるものの、平行になってしまうので、折れ戻ろうとする力を受け易くなってしまう。本実施形態では、固化部分15が“折り目”として機能することにより、積層体が折り目VF1,MF1,VF2,MF2の延在方向と異なる方向に沿って折れ曲がるようになるので、折れ戻ろうとする力を受け難くなり、積層体が折れ曲がった状態をより一層維持することができる。
【0056】
また、前述した固化部分15の配置によって形成されたマスク本体2のドーム状に膨らんだ部分は、着用者の縦方向には鼻根から下顎まで、横方向には左頬から左頬までを覆う部分である。従って、本配置によって着用者に適切な立体形状を形成することができる。特に、前述した左上角部及び右上角部の固化部分15の上側端部UEの位置により、着用者の鼻根を起点とするドーム状に膨らんだ部分を形成することができる。
【0057】
更にまた、前述した左上角部の固化部分15の下側端部LE、及び左下角部の固化部分
15の上側端部UEの位置と、右上角部の固化部分15の下側端部LE、及び右下角部の固化部分15の上側端部UEの位置により、プリーツを広げたときにマスク本体2の側部5,6が着用者の非肌面側に反り返ったとしても、固化部分15まで反り返らないので、固化部分15による積層体を折れ戻り難くする機能を維持することができる。
【0058】
更にまた、固化部分15は比較的硬いものの、固化部分15を有する形状維持シート12は、マスク本体2の積層体において着用者の肌面側の肌面シート13と非肌面側の外層シート10との間に配置されている。このため、形状維持シート12は着用者の肌面側に露出していなく、比較的硬い固化部分15が着用者の肌に直接当たることがない。よって、硬い部分が着用者の肌に直接当たるのを回避するための被覆部材を設ける必要もない。また、形状維持シート12が着用者の非肌面側にも露出していないので、非肌面側から見たときのマスク1の外観を損ねることもない。
【0059】
このような固化部分15は、不織布のシート(固化部分15が形成される前の形状維持シート12)の所定部分を加熱又は超音波振動によって軟化させ、固化させることにより形成できる。また、固化部分15には様々な形態を取りうる。形状維持シート12全体に丸括弧状の溶着線を付してよいし、別途補助溶着線が付されていてもよい。本実施形態では、プリーツが幅方向に開く位置において、前記複数の溶着列のうちのマスク中央側の溶着列に溶着模様を付さないことによりプリーツが広がりやすくし、かつプリーツが広がった状態を維持しやすくなるため、審美性が高く、かつ着用感のよいマスクを提供できる。
【0060】
図6は、シートの一形態であるスパンボンド不織布の方向別の引張強度を示す図である。スパンボンド不織布は、原材料である樹脂チップを溶融して糸を作り、網状に堆積させたものをシート状に結合したものであり、途切れのない長い糸(長繊維)により形成されている。
【0061】
また、スパンボンド不織布は繊維を完全にランダムに絡め合わせたものではなく、製造工程上の縦目(Machine Direction)と横目(CrossDirect
ion)とで引張強度が異なる。ここで縦目(MD)とは、形成されたシートが機械から流れ出る方向(機械方向)のことをいい、横目(CD)とは、それと直交する方向(幅方向)のことをいう。発明者が種別毎、米坪毎に不織布の引張強度を測定した結果、縦目のほうが横目に対しておおよそ2倍~4倍の引張強度を持っていることが分かった。このようなシートは縦目方向に繊維配向を有していると言え、横目方向に折り曲げやすい。
【0062】
本実施形態では、マスクを構成するいずれかのシート、特に肌面シートをスパンボンドのような長繊維で形成された不織布で形成し、その縦目方向を、プリーツの折り目の延在方向と交差する方向にする。この方向に配置したシートに折り目を形成してプリーツにすると、シートには復元力がより強く働くため、プリーツは容易に開きやすくなる。更に、着用者がプリーツを広げたときに、マスク本体2に形成されたドーム状に膨らんだ部分において、プリーツが折れ戻ろうとする種々の方向の力のうちの縦方向の力に抵抗して、折れ戻り難くすることができる。このため、マスク着用時に口元に空間を形成しやすくなり、着用者の快適性が向上する。
【0063】
また、シートの横目方向は、プリーツの折り目の延在方向と平行になるため、顔の形に添いやすいマスクを実現することもできる。
【0064】
なお、シートの縦目方向をプリーツの折り目の延在方向と交差する方向にするのはプリーツ解放形状維持シートを含む、積層された複数のシートであってもよい。このようにすれば、複数のシートの縦目方向と交差するプリーツはより開きやすくなり、また開いた状態を維持しやすくなるため、口元に空間を形成しやすくなる。また、シートの横目方向が
プリーツの折り目の延在方向と揃うため、顔に非常に沿いやすいマスクが実現できる。
【0065】
以上、本発明におけるマスクの実施の形態について説明したが、本発明の内容は上記実施の形態に限られるものではない。上記本実施形態では、プリーツが開きやすく、また開いた状態を維持しやすくするためにするために長繊維の不織布(スパンボンド不織布)を用いる例を示した。しかし、縦目方向と横目方向で強度が異なる点はスパンボンド不織布に限られず、不織布シート全般が有する特徴である。よって、任意の不織布の縦目方向を、プリーツの折り目の延在方向と交差する方向にすることで、プリーツが開きやすく、また閉じにくく、口元に空間を形成しやすく、着用者の快適性が向上するマスクが提供できる。
【0066】
以上で開示した実施形態や応用例は、それぞれ組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0067】
1・・マスク
2・・マスク本体
3,4・・耳紐
5,6・・側部
5A,5B,6A,6B・・溶着列
7・・ノーズフィッター
M,M1,M2,M3・・溶着模様
C・・点
8・・ブランドロゴ
9・・プリーツ展開線
10・・表面シート
11・・フィルタシート
12・・プリーツ解放形状維持シート
13・・肌面シート
15・・固化部分
VF1、MF1、VF2、MF2・・マスク本体の折り目
図1
図2
図3
図4
図5
図6