(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022183875
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】インク組成物、インクジェット記録装置、インクジェット記録方法、及びインク収容容器
(51)【国際特許分類】
C09D 11/32 20140101AFI20221206BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20221206BHJP
B41J 2/175 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
C09D11/32
B41J2/01 501
B41J2/175 111
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021091387
(22)【出願日】2021-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115255
【弁理士】
【氏名又は名称】辻丸 光一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100154081
【弁理士】
【氏名又は名称】伊佐治 創
(72)【発明者】
【氏名】津坂 友香
(72)【発明者】
【氏名】前田 光範
【テーマコード(参考)】
2C056
4J039
【Fターム(参考)】
2C056FC01
2C056KC02
4J039BC09
4J039BE01
4J039BE12
4J039BE30
4J039CA03
4J039DA01
4J039EA29
4J039EA46
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】 溶解性、初期OD値、及び消色性に優れるインク組成物を提供する。
【解決手段】 本発明の第1のインク組成物は、水、水溶性有機溶媒、及び発色剤を含み、前記発色剤が、pH指示薬を含み、前記水溶性有機溶媒が、少なくとも1つのSP値16以下且つSP値11以上の水溶性有機溶媒を含み、前記SP値16以下且つSP値11以上の水溶性有機溶媒の配合量が、15重量%以上である。
本発明の第2のインク組成物は、水、水溶性有機溶媒、及び発色剤を含み、前記発色剤が、pH指示薬を含み、前記水溶性有機溶媒が、少なくとも1つのSP値16以下の水溶性有機溶媒を含み、前記SP値16以下の水溶性有機溶媒の配合量が、15重量%以上であり、インクジェット記録用水性インクであることを特徴とする。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、水溶性有機溶媒、及び発色剤を含み、
前記発色剤が、pH指示薬を含み、
前記水溶性有機溶媒が、少なくとも1つのSP値16以下、且つSP値11以上の水溶性有機溶媒を含み、
前記SP値16以下、且つSP値11以上の水溶性有機溶媒の配合量が、15重量%以上であることを特徴とするインク組成物。
【請求項2】
水、水溶性有機溶媒、及び発色剤を含み、
前記発色剤が、pH指示薬を含み、
前記水溶性有機溶媒が、少なくとも1つのSP値16以下の水溶性有機溶媒を含み、
前記SP値16以下の水溶性有機溶媒の配合量が、15重量%以上であり、インクジェット記録用水性インクであることを特徴とする、インク組成物。
【請求項3】
前記pH指示薬が、フェノールフタレイン、チモールフタレイン、o-クレゾールフタレインから選択された少なくとも一つを含む、請求項1又は2記載のインク組成物。
【請求項4】
前記pH指示薬の配合量が、0.1~3.0重量%である、請求項1から3のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項5】
前記pH指示薬の配合量が、0.1~0.8重量%である、請求項1から4のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項6】
前記pH指示薬の配合量が、0.2~0.8重量%である、請求項1から5のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項7】
前記SP値16以下の水溶性有機溶媒が、ジオール型のポリアルキレングリコールを含む、請求項1から6のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項8】
さらに、pH調整剤を含み、
前記pH調整剤の配合量が、5重量%以下である、請求項1から7のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項9】
前記pH調整剤の配合量が、3重量%以下である、請求項8に記載のインク組成物。
【請求項10】
流路、及びインク吐出手段を含み、
前記流路に供給されたインクを前記インク吐出手段によって記録媒体に吐出するインクジェット記録装置であって、
前記流路に、請求項1から9のいずれか一項に記載のインク組成物が供給されることを特徴とする、インクジェット記録装置。
【請求項11】
記録媒体にインクをインクジェット方式により吐出して記録する記録工程を含み、
前記記録工程において、前記インクとして、請求項1から9のいずれか一項に記載のインク組成物を用いることを特徴とする、インクジェット記録方法。
【請求項12】
インクを含むインク収容容器であって、前記インクが、請求項1から9のいずれか一項に記載のインク組成物であることを特徴とする、インク収容容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク組成物、インクジェット記録装置、インクジェット記録方法、及びインク収容容器に関する。
【背景技術】
【0002】
フェノールフタレイン等のアルカリ性で発色し、中性で消色するpH指示薬を用いた消えるインクが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなインクの溶媒(湿潤剤)としては、グリセリンを使用するが、前記pH指示薬はグリセリンへの溶解性が悪く、プリンタのつまりの原因となる。また、溶解性が悪いためにインク中に含まれるpH指示薬の量に限界があり、初期OD値が低いという問題があった。OD値改善のためpH指示薬濃度を向上させると、pH指示薬を溶解させるために水酸化ナトリウムの添加量を上昇させる必要がある。するとインクのpHが上がるために、消色しにくくなる、すなわち、初期OD値と消色性の両立が困難という問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、溶解性、初期OD値、及び消色性に優れるインク組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明の第1のインク組成物は、水、水溶性有機溶媒、及び発色剤を含み、
前記発色剤が、pH指示薬を含み、
前記水溶性有機溶媒が、少なくとも1つのSP値16以下且つSP値11以上の水溶性有機溶媒を含み、
前記SP値16以下且つSP値11以上の水溶性有機溶媒の配合量が、15重量%以上であることを特徴とする。
【0007】
前記目的を達成するために、本発明の第2のインク組成物は、
水、水溶性有機溶媒、及び発色剤を含み、
前記発色剤が、pH指示薬を含み、
前記水溶性有機溶媒が、少なくとも1つのSP値16以下の水溶性有機溶媒を含み、
前記SP値16以下の水溶性有機溶媒の配合量が、15重量%以上であり、インクジェット記録用水性インクであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明のインク組成物は、溶解性、初期OD値、及び消色性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明のインクジェット記録装置の一例の構成を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のインク組成物について説明する。本発明の第1のインク組成物は、前述のように、水、水溶性有機溶媒、及び発色剤を含み、前記発色剤が、pH指示薬を含み、前記水溶性有機溶媒が、少なくとも1つのSP値16以下且つSP値11以上の水溶性有機溶媒を含み、前記SP値16以下且つSP値11以上の水溶性有機溶媒の配合量が、15重量%以上である。本発明の第2のインク組成物は、前述のように、水、水溶性有機溶媒、及び発色剤を含み、前記発色剤が、pH指示薬を含み、前記水溶性有機溶媒が、少なくとも1つのSP値16以下の水溶性有機溶媒を含み、前記SP値16以下の水溶性有機溶媒の配合量が、15重量%以上であり、インクジェット記録用水性インクである。本発明において、前記第1のインク組成物及び第2のインク組成物を、まとめて、「本発明のインク組成物」(以下、「水性インク」、「インク」又は「消色インク」と言うことがある。)という。
【0011】
前記発色剤は、例えば、pH指示薬以外の発色剤を含んでもよいし、含まなくてもよいが、pH指示薬以外の発色剤を含まないことが好ましい。前記発色剤がpH指示薬以外の発色剤を含まないことにより、例えば、前記消色インクの消色性が向上し、消色後に記録内容を確認されることを抑制できる。
【0012】
前記pH指示薬は、例えば、溶液中の水素イオン濃度の変化(pHの変化)によって変色する試薬のうち、アルカリ性(例えば、pH9.8~13.4)で発色し、pHが中性側に移行するにつれて色が薄くなり、pHが中性(例えば、pH8.5以下)になると色が消える(消色する)ものである。前記pH指示薬の具体例としては、フェノールフタレイン、チモールフタレイン、及びo-クレゾールフタレインから選択された少なくとも1種のpH指示薬があげられる。前記pH指示薬は、例えば、1種類を単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。本発明のインク組成物において、前記pH指示薬の配合量は、例えば、0.1~3.0重量%であり、好ましくは0.1~0.8重量%であり、さらに好ましくは0.2~0.8重量%である。
【0013】
本発明の第1のインク組成物において、前記水溶性有機溶媒は、前述のように、少なくとも1つのSP値(溶解度パラメータ)16以下且つSP値11以上の水溶性有機溶媒を含む。また、本発明の第2のインク組成物において、前記水溶性有機溶媒は、前述のように、少なくとも1つのSP値16以下の水溶性有機溶媒を含む。前記SP値は、例えば、Fedorsの方法により、下記式で求められる値であり、単位は、(cal/cm3)1/2である。
SP値=(ΣΔei/ΣΔvi)1/2
Δei:原子及び原子団の蒸発エネルギー(cal/mol)
Δvi:モル体積(cm3/mol)
【0014】
前記本発明の第1のインク組成物における前記SP値16以下且つSP値11以上の水溶性有機溶媒は、SP値16以下且つSP値11以上の水溶性有機溶媒であれば、従来公知の水溶性有機溶媒を使用することができ、例えば、インクジェットヘッドのノズル先端部におけるインクの乾燥を防止する湿潤剤及び記録媒体上での乾燥速度を調整する浸透剤のうち、SP値16以下且つSP値11以上のものが使用できる。前記SP値16以下且つSP値11以上の水溶性有機溶媒の具体例としては、例えば、メタノール(SP値:14.5-14.8)、エタノール(SP値:12.7)、イソプロパノール(SP値:11.5)、n-ブタノール(SP値:11.3)、分子量200のポリエチレングリコール(SP値:12.0)、ジエチレングリコール(SP値:14.6)、プロピレングリコール(SP値:13.5)、トリエチレングリコール(SP値:13.6)、トリプロピレングリコール(SP値:11.5)、1,2-ヘキサンジオール(SP値:11.8)、2-ピロリドン(SP値:11.4)等があげられ、トリエチレングリコール又は分子量200のポリエチレングリコールの少なくとも一方を含むことが好ましい。前記SP値16以下且つSP値11以上の水溶性有機溶媒は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。後者の場合、例えば、本発明のインク組成物の全重量に対して、2種類以上のSP値16以下且つSP値11以上の水溶性有機溶媒の合計配合量が15重量%以上である。前記SP値16以下且つSP値11以上の水溶性有機溶媒において、SP値の下限は、特に制限されず、例えば、SP値11以上、SP値12以上、SP値13以上があげられる。前記SP値16以下且つSP値11以上の水溶性有機溶媒において、SP値が11以上であると、例えば、SP値11未満である場合と比較して、前記消色インクが消色するまでの時間(消色時間)が長くなるため好ましい。前記好ましい消色時間は、例えば、6時間以上72時間以内である。この場合、例えば、本発明の消色インクを用いて印刷した印刷物は、印刷した当日は印刷内容を視認できるが、数日後には消色して視認できなくなる。このため、本発明の第1のインク組成物は、例えば、セキュアな印刷が可能である。
【0015】
前記本発明の第2のインク組成物における前記SP値16以下の水溶性有機溶媒は、SP値16以下の水溶性有機溶媒であれば、従来公知の水溶性有機溶媒を使用することができ、例えば、インクジェットヘッドのノズル先端部におけるインクの乾燥を防止する湿潤剤及び記録媒体上での乾燥速度を調整する浸透剤のうち、SP値16以下のものが使用できる。前記SP値16以下の水溶性有機溶媒の具体例としては、メタノール(SP値:14.5-14.8)、エタノール(SP値:12.7)、イソプロパノール(SP値:11.5)、n-ブタノール(SP値:11.3)、分子量200以上のポリエチレングリコールのうちSP値が16以下のもの(例えば、分子量200のポリエチレングリコール(SP値:12.0))、ジエチレングリコール(SP値:14.6)、プロピレングリコール(SP値:13.5)、トリエチレングリコール(SP値:13.6)、ポリプロピレングリコールのうちSP値が16以下のもの、トリプロピレングリコール(SP値:11.5)、1,2-ヘキサンジオール(SP値:11.8)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(SP値:10.2)、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(SP値:10.3)、トリエチレングリコール-n-ブチルエーテル(SP値:9.8)、トリプロピレングリコール-n-ブチルエーテル(SP値:9.2)、2-ピロリドン(SP値:11.4)等があげられる。前記SP値16以下の水溶性有機溶媒としては、例えば、ジオール型のポリアルキレングリコールを含むことが好ましい。前記SP値16以下の水溶性有機溶媒は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。後者の場合、例えば、本発明のインク組成物の全重量に対して、2種類以上のSP値16以下の水溶性有機溶媒の合計配合量が15重量%以上である。
【0016】
前記水溶性有機溶媒は、例えば、前記SP値16以下且つSP値11以上の水溶性有機溶媒又は前記SP値16以下の水溶性有機溶媒以外に、他の水溶性有機溶媒を含んでもよいし、含まなくてもよい。前記他の水溶性有機溶媒としては、インクジェットヘッドのノズル先端部におけるインクの乾燥を防止する湿潤剤及び記録媒体上での乾燥速度を調整する浸透剤があげられる。前記他の水溶性有機溶媒のSP値は、特に制限されず、例えば、SP値16以下でもよいし、SP値16以上でもよいが、前記発色剤が含むpH指示薬の溶解性の観点からは、SP値16を超える他の水溶性有機溶媒は含まないことが好ましい。
【0017】
前記湿潤剤は、特に制限されず、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール等の低級アルコール;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド;アセトン等のケトン;ジアセトンアルコール等のケトアルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル;ポリアルキレングリコール等のポリエーテル;アルキレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリ
メチロールエタン等の多価アルコール;2-ピロリドン;N-メチル-2-ピロリドン;1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等があげられる。前記ポリアルキレングリコールは、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等があげられる。前記アルキレングリコールは、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール等があげられる。これらの湿潤剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0018】
前記インク組成物全量に対する前記湿潤剤の配合量は、例えば、0重量%~84.9重量%であり、好ましくは、0重量%~20重量%であり、より好ましくは、0重量%~2重量%である。
【0019】
前記浸透剤は、例えば、グリコールエーテルがあげられる。前記グリコールエーテルは、例えば、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール-n-プロピルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコール-n-プロピルエーテル、ジエチレングリコール-n-ブチルエーテル、ジエチレングリコール-n-ヘキシルエーテル、トリエチレングリコールメチルエーテル、トリエチレングリコールエチルエーテル、トリエチレングリコール-n-プロピルエーテル、トリエチレングリコール-n-ブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコール-n-プロピルエーテル、プロピレングリコール-n-ブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールエチルエーテル、ジプロピレングリコール-n-プロピルエーテル、ジプロピレングリコール-n-ブチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールエチルエーテル、トリプロピレングリコール-n-プロピルエーテル及びトリプロピレングリコール-n-ブチルエーテル等があげられる。前記浸透剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0020】
前記インク組成物全量に対する前記浸透剤の配合量は、例えば、0重量%~84.9重量%であり、好ましくは、0重量%~20重量%であり、より好ましくは、0重量%~2重量%である。
【0021】
本発明のインク組成物は、例えば、pH調整剤を含んでもよい。前記pH調整剤は、例えば、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、2族~12族元素の水酸化物、2族~12族元素の炭酸塩、アミン類等があげられる。前記pH調整剤の具体例としては、例えば、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、トリエタノールアミン、N-ブチルジエタノールアミン、クエン酸ナトリウム(クエン酸二ナトリウム、クエン酸三ナトリウム)、炭酸水素ナトリウム、リン酸カリウム(リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム)、リン酸三ナトリウム、リン酸水素ナトリウム(リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム)、ピロリン酸二水素ナトリウム等があげられる。これらの中でも、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、トリエタノールアミン、N-ブチルジエタノールアミンが好ましい。前記pH調整剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。本発明のインク組成物において、前記pH調整剤の配合量は、5重量%以下であり、好ましくは3重量%以下である。
【0022】
前記水は、イオン交換水又は純水であることが好ましい。前記インク組成物全量に対する前記水の配合量(水割合)は、所望のインク特性等に応じて適宜決定される。前記水割合は、例えば、他の成分の残部としてもよい。前記水の配合量は、例えば、60重量%~90重量%、65重量%~85重量%、70重量%~85重量%である。
【0023】
前記インク組成物は、必要に応じて、さらに、従来公知の添加剤を含んでもよい。前記添加剤としては、例えば、界面活性剤、粘度調整剤、表面張力調整剤、防黴剤等があげられる。前記粘度調整剤は、例えば、ポリビニルアルコール、セルロース、水溶性樹脂等があげられる。
【0024】
本発明のインク組成物は、例えば、インクジェット記録用に使用可能であるが、これには制限されない。本発明のインク組成物は、例えば、ペン、マーカ、筆等の筆記具;塗料;等の用途においても使用可能である。
【0025】
つぎに、本発明のインク収容容器は、インクを含むインク収容容器であって、前記インクが、本発明のインク組成物であることを特徴とする。前記インク収容容器としては、例えば、インクカートリッジ、タンク、パウチ等があげられる。前記インク収容容器の本体としては、例えば、従来公知のものを使用できる。
【0026】
つぎに、本発明のインクジェット記録装置及びインクジェット記録方法について説明する。
【0027】
本発明のインクジェット記録装置は、流路及びインク吐出手段を含み、前記流路に供給されたインクを前記インク吐出手段によって吐出するインクジェット記録装置であって、前記流路に、本発明のインク組成物が供給されることを特徴とする。
【0028】
図1に、本発明のインクジェット記録装置の一例の構成を示す。図示のとおり、このインクジェット記録装置1は、インクカートリッジ2と、インク吐出手段(インクジェットヘッド)3と、ヘッドユニット4と、キャリッジ5と、駆動ユニット6と、プラテンローラ7と、パージ装置8とを主要な構成要素として含む。また、図示していないが、インクカートリッジ2と、インク吐出手段3とは、流路により接続されており、本発明のインク組成物が収容されたインクカートリッジ2から、前記流路に前記本発明のインク組成物が供給され、インク吐出手段3は、前記本発明のインク組成物を記録媒体に吐出する。
【0029】
インクカートリッジ2は、例えば、前記本発明のインク組成物を含む。前記インクカートリッジの本体としては、例えば、従来公知のものを使用できる。
【0030】
また、図示していないが、インクジェット記録装置1は、本発明のインク組成物を含むインクカートリッジ2に加えて、イエロー、マゼンタ、シアン及びブラックの4色の水性インクを、それぞれ1色ずつ含む4つのインクカートリッジのセットを含んでもよい。また、前記4つのインクカートリッジのセットに代えて、水性イエローインク収納部、水性マゼンタインク収納部、水性シアンインク収納部及び水性ブラックインク収納部を形成するようにその内部が間仕切りされた一体型のインクカートリッジを用いてもよい。
【0031】
ヘッドユニット4に設置されたインクジェットヘッド3は、記録媒体(例えば、記録用紙)Pに記録を行う。キャリッジ5には、インクカートリッジ2及びヘッドユニット4が搭載される。駆動ユニット6は、キャリッジ5を直線方向に往復移動させる。駆動ユニット6としては、例えば、従来公知のものを使用できる(例えば、特開2008-246821号公報参照)。プラテンローラ7は、キャリッジ5の往復方向に延び、インクジェットヘッド3と対向して配置されている。
【0032】
パージ装置8は、インクジェットヘッド3の内部に溜まる気泡等を含んだ不良インクを吸引する。パージ装置8としては、例えば、従来公知のものを使用できる(例えば、特開2008-246821号公報参照)。
【0033】
パージ装置8のプラテンローラ7側には、パージ装置8に隣接してワイパ部材20が配設されている。ワイパ部材20は、へら状に形成されており、キャリッジ5の移動に伴って、インクジェットヘッド3のノズル形成面を拭うものである。
図1において、キャップ18は、インクの乾燥を防止するため、記録が終了するとリセット位置に戻されるインクジェットヘッド3の複数のノズルを覆うものである。
【0034】
本例のインクジェット記録装置1においては、インクカートリッジ2は、ヘッドユニット4と共に、1つのキャリッジ5に搭載されている。ただし、本発明は、これに限定されない。インクジェット記録装置1において、インクカートリッジ2は、ヘッドユニット4とは別のキャリッジに搭載されていてもよい。また、インクカートリッジ2は、キャリッジ5には搭載されず、インクジェット記録装置1内に配置、固定されていてもよい。これらの態様においては、例えば、インクカートリッジ2と、キャリッジ5に搭載されたヘッドユニット4とが、チューブ等の前記流路により連結され、インクカートリッジ2からヘッドユニット4に前記インクが供給される。また、これらの態様においては、インクカートリッジ2に代えて、ボトル形状のインクボトルを用いてもよい。この場合、前記インクボトルには、外部から内部にインクを注入するための注入口が設けられていることが好ましい。
【0035】
このインクジェット記録装置1を用いたインクジェット記録は、例えば、つぎのようにして実施される。まず、記録用紙Pが、インクジェット記録装置1の側方又は下方に設けられた給紙カセット(図示せず)から給紙される。記録用紙Pは、インクジェットヘッド3と、プラテンローラ7との間に導入される。導入された記録用紙Pに、インクジェットヘッド3から吐出される水性インクにより所定の記録がされる。記録後の記録用紙Pは、インクジェット記録装置1から排紙される。
図1においては、記録用紙Pの給紙機構及び排紙機構の図示を省略している。
【0036】
図1に示す装置では、シリアル型インクジェットヘッドを採用するが、本発明は、これに限定されない。前記インクジェット記録装置は、ライン型インクジェットヘッドやロールトゥロールを採用する装置であってもよい。
【0037】
つぎに、本発明のインクジェット記録方法は、記録媒体にインクをインクジェット方式により吐出して記録するインクジェット記録方法であって、前記インクとして、本発明のインク組成物を用いることを特徴とする。本発明のインクジェット記録方法は、例えば、本発明のインクジェット記録装置を用いて実施可能である。前記記録は、印字、印画、印刷等を含む。
【実施例0038】
つぎに、本発明の実施例について比較例と併せて説明する。なお、本発明は、下記の実施例及び比較例により限定及び制限されない。
【0039】
(消色インクの調製)
下記表1に示す消色インク組成の各成分を均一に混合し、実施例1~13の消色インクを得た。また、下記表2に示す消色インク組成の各成分を均一に混合し、比較例1~5の消色インクを得た。表1及び表2において、括弧内の数値は、各成分のSP値を示す。そして、前記実施例1~13及び比較例1から5の消色インクにおける発色剤の溶解性を評価した。また、前記実施例1~13及び比較例1から5の消色インクを、記録用紙(商品名:アスクルスーパーホワイトプラス、アスクル株式会社)に塗布し、以下に示す方法により初期OD値、当日視認性、消色性を確認した。下記表1及び表2には、各消色インクの試験結果をあわせて示している。
【0040】
【0041】
【0042】
(溶解性)
各消色インクの溶解性は、各成分の混合後、下記の基準に基づいて評価した。
A:完全に溶解する。
B:撹拌後、室温、1か月静置で沈殿物が発生する。
C:撹拌直後に沈殿物が観察される。
【0043】
(初期OD値)
初期OD値(光学濃度)は、各消色インクの塗布直後に、エックスライト株式会社製の分光測色計SpectroEye(登録商標)(光源:D50、視野角:2°、ANSI-T)により測定し、下記の基準に基づいて評価した。
A:式(1)を達成する、又はOD値0.40以上
B:式(1)を達成する、又はOD値0.25以上
C:式(1)を達成できない、且つ、OD値0.25以下
式(1)y>0.75x+0.05
x:インク中pH指示薬量
y:OD値
【0044】
(当日視認性)
当日視認性は、各インクを記録媒体に記録後、6時間放置した後のOD値を測定し、下記の基準に基づいて評価した。
A:白紙とのOD値差0.10以上
B:白紙とのOD値差0.10未満
【0045】
(消色性)
消色性は、各インクを記録媒体に記録後、72時間(3日間)放置した後のOD値を測定し、下記の基準に基づいて評価した。
A:白紙とのOD値差0.03未満
B:白紙とのOD値差0.10未満
C:白紙とのOD値差0.10以上
【0046】
前記表1及び2に示すように、実施例1~13の消色インクは、いずれも溶解性、初期OD値、及び消色性の評価がA又はBであり、良好であった。さらに、実施例1~12は、当日視認性の評価がいずれもAであり、良好であった。このため、当日視認性と消色性とを両立する観点から、本発明の消色インクにおいて、水溶性有機溶媒のSP値は、16以下且つ11以上であることが好ましいことが示唆された。これに対して、比較例1~3及び5の消色インクは、いずれも溶解性の評価がCと悪く、撹拌直後に沈殿物が観察された。また、比較例4の消色インクは、初期OD及び当日視認性の評価がCと悪く、不鮮明であった。