(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022183889
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】コンバイナ、ヘッドアップディスプレイ、及び移動体
(51)【国際特許分類】
G02B 5/32 20060101AFI20221206BHJP
G02B 1/11 20150101ALI20221206BHJP
G02B 27/01 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
G02B5/32
G02B1/11
G02B27/01
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021091410
(22)【出願日】2021-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(72)【発明者】
【氏名】三浦 啓介
(72)【発明者】
【氏名】國安 寛行
(72)【発明者】
【氏名】本間 聡
【テーマコード(参考)】
2H199
2H249
2K009
【Fターム(参考)】
2H199DA03
2H199DA27
2H199DA42
2H199DA43
2H249CA05
2H249CA15
2H249CA22
2K009AA02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ノイズ像を目立たなくすることを特徴とするコンバイナを提供する。
【解決手段】コンバイナは、第1面及び第2面を含み、ヘッドアップディスプレイに用入られる。コンバイナは、第1面を形成する第1基板と、第2面を形成する第2基板と、第1基板及び第2基板を接合する接合層と、第1基板及び第2基板の間の位置するホログラム素子と、を含む。試験用光源から射出して第2面からコンバイナに入射し、第1面で反射してホログラム素子で回折されて第1面から射出する光に起因したコンバイナでのノイズ像輝度の、試験用光源から射出する光に起因した光源での輝度に対するノイズ回折率(%)は、0.11%以下としてもよい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面及び第2面を含むヘッドアップディスプレイ用のコンバイナであって、
前記第1面を形成する第1基板と、
前記第2面を形成する第2基板と、
前記第1基板及び前記第2基板を接合する接合層と、
前記第1基板及び前記第2基板の間に位置するホログラム素子と、を備え、
光源から射出して前記第2面から前記コンバイナに入射し、前記第1面で反射して前記ホログラム素子で回折されて前記第1面から射出する光に起因したコンバイナでの輝度(ワット/ステラジアン)の、前記光源から射出する光に起因した光源での輝度(ワット/ステラジアン)に対する割合は、0.11%以下である、ヘッドアップディスプレイ用のコンバイナ。
【請求項2】
前記第1基板は、前記第1面を構成する反射防止層を含む、請求項1に記載のヘッドアップディスプレイ用のコンバイナ。
【請求項3】
前記第1面での反射率は、1%以下である、請求項1又は2に記載のヘッドアップディスプレイ用のコンバイナ。
【請求項4】
前記ホログラム素子の回折効率H(%)、前記ホログラム素子の回折効率の波長分布における半値全幅W(nm)、及び前記第1面での反射率R(%)が、
(H/100)×W×(R/100)×(1-(R/100))≦0.098
となる、請求項1~3のいずれか一項に記載のヘッドアップディスプレイ用のコンバイナ。
【請求項5】
前記ホログラム素子の回折効率は、60%以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載のヘッドアップディスプレイ用のコンバイナ。
【請求項6】
第1面及び第2面を含むヘッドアップディスプレイ用のコンバイナであって、
前記第1面を形成する第1基板と、
前記第2面を形成する第2基板と、
前記第1基板及び前記第2基板を接合する接合層と、
前記第1基板及び前記第2基板の間に位置するホログラム素子と、を備え、
前記第1基板は、前記第1面を構成する反射防止層を含み、
前記第1面での反射率は、1%以下である、ヘッドアップディスプレイ用のコンバイナ。
【請求項7】
第1基板および第2基板と、
前記第1基板及び前記第2基板を接合する接合層と、
前記第1基板及び前記第2基板の間に位置するホログラム素子と、を備え、
前記ホログラム素子の回折効率は、60%以下である、ヘッドアップディスプレイ用のコンバイナ。
【請求項8】
第1面及び第2面を含むヘッドアップディスプレイ用のコンバイナであって、
前記第1面を形成する第1基板と、
前記第2面を形成する第2基板と、
前記第1基板及び前記第2基板を接合する接合層と、
前記第1基板及び前記第2基板の間の位置するホログラム素子と、を備え、
前記第1基板は、前記第1面を構成する反射防止層を含み、
前記ホログラム素子の回折効率H(%)、前記ホログラム素子の回折効率の波長分布における半値全幅W(nm)、及び前記第1面での反射率R(%)が、
(H/100)×W×(R/100)×(1-(R/100))≦0.098
となる、ヘッドアップディスプレイ用のコンバイナ。
【請求項9】
画像光を放出する画像形成装置と、
前記画像光を照射される請求項1~8のいずれか一項に記載のコンバイナと、を備える、ヘッドアップディスプレイ。
【請求項10】
請求項9に記載のヘッドアップディスプレイを備える、移動体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、コンバイナ、ヘッドアップディスプレイ、及び移動体に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘッドアップディスプレイは、使用者の視野内に表示を行う。ヘッドアップディスプレイは、透明なコンバイナを有している。コンバイナは画像光を投射される。特許文献1に開示されたヘッドアップディスプレイにおいて、コンバイナはホログラム素子を含んでいる。ホログラム素子は、画像光を回折して使用者に向ける。使用者は、コンバイナ内に画像を観察できる。また、使用者は、透明なコンバイナを介して視野を確保できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されたコンバイナを用いた場合、太陽や外灯等のノイズ像がコンバイナ内に明るく観察され得る。ノイズ像は実際の位置とは異なる位置に観察される。本発明は、このような点を考慮してなされたものであり、ノイズ像を目立たなくすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一実施の形態による第1のコンバイナは、
第1面及び第2面を含むヘッドアップディスプレイ用のコンバイナであって、
前記第1面を形成する第1基板と、
前記第2面を形成する第2基板と、
前記第1基板及び前記第2基板を接合する接合層と、
前記第1基板及び前記第2基板の間に位置するホログラム素子と、を備え、
光源から射出して前記第2面から前記コンバイナに入射し、前記第1面で反射して前記ホログラム素子で回折されて前記第1面から射出する光に起因したコンバイナでの輝度(ワット/ステラジアン)の、前記光源から射出する光に起因した光源での輝度(ワット/ステラジアン)に対する割合は、0.11%以下である。
【0006】
本開示の一実施の形態による第1のコンバイナにおいて、前記第1基板は、前記第1面を構成する反射防止層を含んでもよい。
【0007】
本開示の一実施の形態による第1のコンバイナにおいて、前記第1面での反射率は、1%以下でもよい。
【0008】
本開示の一実施の形態による第1のコンバイナにおいて、前記ホログラム素子の回折効率は、60%以下でもよい。
【0009】
本開示の一実施の形態による第1のコンバイナにおいて、前記ホログラム素子の回折効率H(%)、前記ホログラム素子の回折効率の波長分布における半値全幅W(nm)、及び前記反射防止層での反射率R(%)が、
(H/100)×W×(R/100)×(1-(R/100))≦0.098
となってもよい。
【0010】
本開示の一実施の形態による第2のコンバイナは、
第1面及び第2面を含むヘッドアップディスプレイ用のコンバイナであって、
前記第1面を形成する第1基板と、
前記第2面を形成する第2基板と、
前記第1基板及び前記第2基板を接合する接合層と、
前記第1基板及び前記第2基板の間に位置するホログラム素子と、を備え、
前記第1基板は、前記第1面を構成する反射防止層を含み、
前記第1面での反射率は、1%以下である。
【0011】
本開示の一実施の形態による第3のコンバイナは、
第1基板および第2基板と、
前記第1基板及び前記第2基板を接合する接合層と、
前記第1基板及び前記第2基板の間に位置するホログラム素子と、を備え、
前記ホログラム素子の回折効率は、60%以下である。
【0012】
本開示の一実施の形態による第4のコンバイナは、
第1面及び第2面を含むヘッドアップディスプレイ用のコンバイナであって、
前記第1面を形成する第1基板と、
前記第2面を形成する第2基板と、
前記第1基板及び前記第2基板を接合する接合層と、
前記第1基板及び前記第2基板の間の位置するホログラム素子と、を備え、
前記第1基板は、前記第1面を構成する反射防止層を含み、
前記ホログラム素子の回折効率H(%)、前記ホログラム素子の回折効率の波長分布における半値全幅W(nm)、及び前記反射防止層での反射率R(%)が、
(H/100)×W×(R/100)×(1-(R/100))≦0.098
となる。
【0013】
本開示の一実施の形態によるヘッドアップディスプレイは、
画像光を放出する画像形成装置と、
前記画像光を照射される本開示の一実施の形態による第1~4のコンバイナのいずれかと、を備える。
【0014】
本開示の一実施の形態による移動体は、本開示の一実施の形態によるヘッドアップディスプレイのいずれかを備える。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ノイズ像を目立たなくできる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、一実施の形態を説明する図であって、移動体およびヘッドアップディスプレイの一具体例を示す側面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示されたヘッドアップディスプレイのコンバイナを示す側断面図である。
【
図3A】
図3Aは、
図2に示されたコンバイナに含まれ得る第1基板の一例を示す断面図である。
【
図3B】
図3Bは、
図2に示されたコンバイナに含まれ得る第1基板の他の例を示す断面図である。
【
図3C】
図3Cは、
図2に示されたコンバイナに含まれ得る第1基板の更に他の例を示す断面図である。
【
図4】
図4は、
図2に示されたコンバイナに含まれたホログラム記録層の製造方法を説明する図である。
【
図5】
図5は、
図2に示されたコンバイナに含まれるホログラム素子の分光透過率の一例を示すグラフである。
【
図6】
図6は、
図5に示されホログラム素子の分光透過率の測定方法を示す図である。
【
図7】
図7は、
図2に示されたコンバイナの作用を説明する図である。
【
図8】
図8は、
図2に示されたコンバイナのノイズ回折率の測定方法を示す図である。
【
図9】
図9は、
図9の測定方法に用いられた光源の分光強度を示すグラフである。
【
図10】
図10は、サンプル1~10の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本開示の一実施の形態について説明する。なお、本件明細書に添付する図面においては、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺および縦横の寸法比等を、実物のそれらから変更し誇張してある。また、一部の図において示された構成等が、他の図において省略されていることもある。
【0018】
本明細書において、形状や幾何学的条件ならびにそれらの程度を特定する、例えば、「平行」、「直交」、「同一」等の用語や長さや角度の値等については、厳密な意味に限定されることなく、同様の機能を期待し得る程度の範囲を含めて解釈する。
【0019】
本明細書において、「シート」、「フィルム」及び「板」等の用語は、呼称の違いのみに基づいて互いから区別されない。例えば「透明板」は、透明フィルム又は透明シートと呼ばれる部材等と呼称の違いのみにおいて区別され得ない。
【0020】
本明細書において、シート状(シート状、板状)の部材の法線方向とは、対象となるシート状(フィルム状、板状)の部材のシート面への法線方向のことを指す。また、「シート面(フィルム面、板面)」とは、対象となるシート状(フィルム状、板状)の部材を全体的且つ大局的に見た場合において対象となるシート状部材(フィルム状部材、板状部材)の平面方向と一致する面のことを指す。
【0021】
方向の関係を図面間で明確にするため、いくつかの図面には、共通する符号を付した矢印により第1方向D1、第2方向D2、第3方向D3及び法線方向NDを共通する方向として示している。以下の例において、第1方向D1及び第2方向D2は水平方向と平行であり、第3方向D3は鉛直方向と平行である。矢印の先端側が、各方向の一側となる。図面の紙面に垂直な方向に沿って紙面から手前に向かう矢印を、例えば
図2に示すように、円の中に点を設けた記号により示した。
【0022】
図1~
図9は、一実施の形態を説明するための図である。
図1及び
図2に示すように、ヘッドアップディスプレイ20は、画像形成装置30及びコンバイナ40を有している。コンバイナ40は透明である。ヘッドアップディスプレイ20は、コンバイナ40を用いて、画像形成装置30によって形成された画像を使用者5に表示する。ヘッドアップディスプレイ20の使用者5は、コンバイナ40を介して、コンバイナ40の背後を観察できる。撮像装置が、コンバイナ40を介して、コンバイナ40を観察する使用者5を撮像してもよい。本実施の形態では、従来のヘッドアップディスプレイで問題となっていたノイズ像88を目立たなくするための工夫がなされている。以下、図面に示された具体例を参照して、一実施の形態を説明する。
【0023】
本明細書で用いる「透明」とは、可視光透過率が、50%以上であることを意味し、好ましくは80%以上である。可視光透過率は、分光光度計((株)島津製作所製「UV-3100PC」、JISK0115準拠品)を用いて測定波長380nm以上780nm以下の範囲内で1nm毎に測定したときの、各波長における全光線透過率の平均値として特定される。
【0024】
本実施の形態によるヘッドアップディスプレイ20は、種々の分野に適用可能である。ヘッドアップディスプレイ20は、ヘッドマウントディスプレイに適用されてもよい。ヘッドアップディスプレイ20が、プロンプターに適用されてもよい。プロンプターは講演や撮像等に使用されてもよい。
【0025】
図示された例において、ヘッドアップディスプレイ20は移動体10に適用されている。移動体10は、移動可能な装置である。移動体10は、人間が乗った状態で移動可能としてもよい。移動体10として、船、飛行機、ドローン、鉄道車両、図示された自動車12等が例示される。
図1に示すように、コンバイナ40は、自動車12のフロントウインドウ14を構成している。
【0026】
画像形成装置30は、画像を形成する画像光を射出する。使用者5は、画像光を受光することによって画像を観察する。画像形成装置30として、特に限定されず、画像を形成可能な種々の装置を使用可能である。
図1に示された例において、画像形成装置30はダッシュボード内に配置されている。画像形成装置30は、ダッシュボードによって隠蔽されている。
【0027】
画像形成装置30は、ドットマトリックス方式を採用してもよい。ドットマトリックス方式の画像形成装置30は、各ドットを形成する複数の画素を有している。この画像形成装置30は、画素毎に発光状態を制御することによって、所望の画像を形成する。画像形成装置30として、透過型の液晶表示装置、反射型の液晶表示装置、レーザー表示装置、EL表示装置とも呼ばれるエレクトロルミネッセンス表示装置等が例示される。
【0028】
画像形成装置30は、光学シートと、光学シートを背面から照明する光源と、を有してもよい。光学シートは、透明なフィルムと、透明なフィルムに印刷された可視光透過性を有した印刷層と、を有してもよい。別の例として、光学シートは、開口部や透過部が設けられた遮光板であってもよい。光源は、面状に光を発光する面光源装置であってもよい。これらの表示装置によれば、光学シートに対応した表示、例えばピクトグラムやマーク等を、表示できる。
【0029】
画像形成装置30からの画像光はコンバイナ40に投射される。画像形成装置30は、
図2に二点鎖線で示す投射光学系35を含んでもよい。投射光学系35は、画像形成装置30からコンバイナ40へ画像光を誘導する。投射光学系35は、ミラー、レンズ、プリズム、回折光学素子及びこれらの組合せを含んでもよい。
【0030】
コンバイナ40は、
図2に示すように、画像形成装置30からの画像光を使用者5に向ける。
図2に示すように、コンバイナ40は、第1基板51、第2基板52、接合層45及びホログラム素子60を含んでもよい。コンバイナ40は上述したように透明である。コンバイナ40に透明性を付与するため、コンバイナ40の構成要素も透明である。
【0031】
コンバイナ40は、第1面41及び第2面42を有している。
図2に示された例において、コンバイナ40は、法線方向NDを有している。第1面41及び第2面42は、コンバイナ40の一対の主面を構成している。第1面41及び第2面42は法線方向NDに対面している。第1面41及び第2面42は、法線方向NDに直交する方向に広がっている。第1基板51が第1面41を構成している。第2基板52が第2面42を構成している。第1面41は、画像形成装置30からの画像光の入射面となる。
【0032】
第1基板51及び第2基板52は、法線方向NDに重ねられている。接合層45は、法線方向NDにおいて第1基板51及び第2基板52の間に位置している。接合層45は、第1基板51及び第2基板52に接触している。接合層45は、第1基板51及び第2基板52に接合している。結果として、接合層45は、第1基板51及び第2基板52を互いに接合している。ホログラム素子60は、法線方向NDにおいて第1基板51及び第2基板52の間に位置している。ホログラム素子60は、少なくとも部分的に接合層45と接触している。図示された例において、ホログラム素子60は、法線方向NDにおいて第1基板51及び第2基板52の両方から離れている。ホログラム素子60と第1基板51との間に、接合層45が位置している。ホログラム素子60と第2基板52との間に、接合層45が位置している。ホログラム素子60は、その全外表面において接合層45と接触している。
【0033】
図示された例において、コンバイナ40の法線方向NDは、第1面41の法線方向、第2面42の法線方向、第1基板51の法線方向、第2基板52の法線方向、接合層45の法線方向、ホログラム素子60の法線方向と平行である。理解のしやすさの便宜上、
図2等において、コンバイナ40を平板状に示している。
図1に示すように、コンバイナ40は曲がっていてもよい。
【0034】
第1基板51及び第2基板52は、透明な板である。第1基板51及び第2基板52は、ホログラム素子60を支持する基板として機能する。図示された例において、第1基板51及び第2基板52は、風防用の部材として機能する。第1基板51及び第2基板52の材料として、ソーダライムガラスや青板ガラス等のガラスを用いてもよい。第1基板51及び第2基板52の材料として、アクリル樹脂やポリカーボネート等の樹脂を用いてもよい。第1基板51及び第2基板52の法線方向NDに沿った厚みを、1mm以上5mm以下としてもよい。第1基板51及び第2基板52は、同一の材料で同一に構成されていてもよいし、異なる材料で構成されてもよいし、異なる構成を有していてもよい。
【0035】
図2に二点鎖線で示すように、第1基板51及び第2基板52は、複数の層を含んでもよい。第1基板51及び第2基板52の少なくとも一方が、透明板56及び反射防止層57を含んでもよい。反射防止層57が、コンバイナ40の最表面である第1面41を構成してもよい。反射防止層57が、コンバイナ40の最表面である第2面42を構成してもよい。
【0036】
透明板56は、ソーダライムガラスや青板ガラス等のガラス板でもよい。透明板56は、アクリル樹脂やポリカーボネート等の樹脂板でもよい。
【0037】
反射防止層57は、反射を抑制し得る種々の構成を採用してもよい。反射防止層57は、
図3A~
図3Cに示された構成を有してもよい。
図3Aは、単層の反射防止層57を示している。
図3Aに示された反射防止層57は、この反射防止層57と法線方向NDに隣接する層(図示された例では透明板56)の屈折率よりも低い屈折率を有した低屈折率層57aである。
図6Bに示された反射防止層57は、第3方向D3における最表面からの順番で、低屈折率層57a及び高屈折率層57bを有している。
図3Cに示された反射防止層57は、複数の低屈折率層57a及び複数の高屈折率層57bを有している。
図3Cに示された例において、第3方向D3における第1面41側から、低屈折率層57a及び高屈折率層57bが繰り返し順に配置されている。
図3A~
図3Cに示された例において、反射防止層57は、異なる光学界面で反射された光が打ち消し合うようにして、反射を抑制する。反射防止層57に含まれる層の厚み及び当該層の屈折率は、反射を抑制すべき光の波長に応じて適宜選択され得る。反射防止層57に含まれる低屈折率層57a及び高屈折率層57bの厚みは、780nmよりも薄い。
【0038】
低屈折率層57a及び高屈折率層57bは、塗布された液状の紫外線硬化樹脂組成物の層に紫外線を照射することによって、作製され得る。低屈折率層57aを作製するための液状の紫外線硬化樹脂組成物は、屈折率を調整するための粒子、例えば中空シリカと、開始剤と、フッ素添加剤と、を含んでもよい。高屈折率層57bを作製するための液状の紫外線硬化樹脂組成物は、屈折率を調整するための粒子、例えば高屈折フィラーと、開始剤と、を含んでもよい。低屈折率層57a及び高屈折率層57bは、真空蒸着やスパッタリング等の物理的蒸着によって、作製され得る。
【0039】
後述するノイズ像88を目立たなくする観点から、反射防止層57によって構成されるコンバイナ40の表面での反射率を、1%以下としてもよく、0.5%以下としてもよい。反射率は、分光光度計((株)島津製作所製「UV-3100PC」、JISK0115準拠品)を用いて、測定波長400nm以上700nm以下の範囲内で1nm毎に測定したときの、正反射率の最大値として特定される。反射率を測定する際の入射角は、ホログラム素子60での回折効率が最大値をとるようになるコンバイナ40への入射角とする。ただし、ホログラム素子60での回折効率が最大値をとるようになるコンバイナ40への入射角が5°未満の場合、反射率の測定が困難となるので、反射率を測定する際の入射角は5°とする。入射角は、入射面への法線方向に対して入射光の進行方向がなす角度(°)であり、90°未満の値となる。コンバイナ40の反射率は、コンバイナ40の入射面とは反対側の表面に黒色シートを貼り合わせた状態で、測定する。黒色シートは、分光測色計(コニカミノルタ製「CM-700d」)を用いて特定されたL*a*b*表色系における明度L*の値が30であるシートを用いる。
【0040】
第1基板51及び第2基板52は、図示された例に限られず、特定の機能を発揮することを期待されたその他の機能層を含んでもよい。1つの機能層が2つ以上の機能を発揮してもよい。第1基板51及び第2基板52に付与され得る機能として、耐擦傷性を有したハードコート(HC)機能、赤外線遮蔽(反射)機能、紫外線遮蔽(反射)機能、防汚機能等が例示される。
【0041】
接合層45は、第1基板51及び第2基板52を接合する。接合層45は透明な層である。接合層45として、種々の接着性または粘着性を有した材料からなる層を用いてもよい。一例として、接合層45の材料は熱可塑性樹脂でもよい。熱可塑性樹脂によって構成された接合層45は、第1基板51及び第2基板52の間で加熱および加圧されることによって、第1基板51及び第2基板52に接合する。接合層45を構成する熱可塑性樹脂として、ポリビニルブチラール(PVB)を用いてもよい。接合層45の法線方向NDへの厚さは、例えば20μm以上1000μm以下である。接合層45は、種々の機能を付与されてもよい。種々の機能としては、帯電防止機能、紫外線吸収機能等が例示される。
【0042】
ホログラム素子60は、画像光を回折して使用者5に向ける。コンバイナ40に透明性を付与するため、ホログラム素子60は透明である。ホログラム素子60はシート状である。
【0043】
ホログラム素子60は、ホログラム記録層62を含んでいる。ホログラム記録層62は、いわゆるホログラムである。ホログラム記録層62は、特定の入射方向から入射する特定波長の光を、高い回折効率で回折して、特定の方向に向ける。ホログラム記録層62には、回折機能を実現するための干渉縞が記録されている。ホログラム記録層62は、ブラッグ条件を満たす入射光を高い回折効率で回折して、特定の方向に向ける。ホログラム記録層62は、画像形成装置30からの画像光を、高効率で回折する。画像形成装置30は、コンバイナ40に対して所定の位置に配置される。ホログラム記録層62は、コンバイナ40に対する所定の位置に向けて、画像光を回折する。
【0044】
図2に示された例において、ホログラム記録層62は、入射角0°で法線方向NDに沿って入射する画像光を、高効率で回折する。ホログラム記録層62は、第1方向D1に直交し且つ法線方向NDに対して45°傾斜した第2方向D2に、画像光を高効率で回折する。
【0045】
干渉縞に関する情報は、種々の形態として、ホログラム記録層62に記録され得る。ホログラム記録層62は、位相型のホログラムであってもよいし、振幅型のホログラムであってもよい。ホログラム記録層62は、反射型のホログラムであってもよいし、透過型のホログラムであってもよい。ホログラム記録層62は、レリーフホログラムであってもよいし、計算機合成ホログラム(CGH:Computer Generated Hologram)としてのレリーフホログラムであってもよい。ホログラム記録層62は、大面積化が容易である点において、体積ホログラムとしてもよい。ホログラム記録層62は、波長選択性や角度選択性の鋭い反射型体積ホログラムでもよい。
【0046】
図4は、反射型体積ホログラムの作成時における感光性材料層63の露光方法を示している。ホログラム記録層62の原材料となる感光性材料層63として、銀塩感材、重クロム酸ゼラチン、架橋性ポリマー、フォトポリマー等の層が例示される。感光性材料層63及び得られるホログラム記録層62の法線方向NDに沿った厚みを、1μm以上100μm以下としてもよく、5μm以上40μm以下としてもよい。
【0047】
単一の光源から射出したコヒーレント光を、参照光L4A及び物体光L4Bに分光する。参照光L4Aは、参照光用レンズ71によって発散光に整形される。整形された参照光L4Aが、感光性材料層63に照射される。感光性材料層63に対する参照光L4Aの入射方向は、
図2に示されたホログラム素子60への画像光の入射方向と一致している。物体光L4Bは、物体光用レンズ72によって発散光に整形される。整形された物体光L4Bが感光性材料層63に照射される。物体光L4B及び参照光L4Aは、感光性材料層63の異なる面に照射される。物体光L4B及び参照光L4Aが、干渉することによって、感光性材料層63上に干渉パターンが生成される。干渉パターンが感光性材料層63に干渉縞として記録される。架橋性ポリマーを用いた感光性材料層63では、屈折率のパターンとして干渉縞が記録される。干渉縞を記録した感光性材料層63を、全面露光によって不感化することによって、ホログラム記録層62が得られる。
【0048】
作製されたホログラム記録層62は、参照光L4Aと同一の方向から入射する照明光L3Aを高回折効率で回折する。すなわち、参照光L4Aと同一の方向から入射する照明光L3Aが、ホログラム記録層62のブラッグ条件を満たし得る。参照光L4Aの光路を、画像光の光路と一致又は対応させておくことによって、ホログラム記録層62に所望の角度依存性を付与できる。作製されたホログラム記録層62で回折された再生光L3Bは、感光性材料層63を透過した物体光L4Bの光路に沿って進む。物体光L4Bの光路を、コンバイナ40から使用者5に進む光路と一致又は対応させておくことによって、ホログラム記録層62に所望の角度依存性を付与できる。
【0049】
作製されたホログラム記録層62は、参照光L4A及び物体光L4Bと同一の波長の光を高効率で回折する。すなわち、参照光L4A及び物体光L4Bと同一の波長の光が、ホログラム記録層62のブラッグ条件を満たし得る。参照光L4A及び物体光L4Bの波長を、画像光の中心波長に一致又は対応させておくことによって、ホログラム記録層62に所望の波長依存性を付与できる。画像光が青色光である場合、430nm以上490nm以下の波長のレーザー光を感光性材料層63の露光に用いてもよい。画像光が緑色光である場合、490nm以上550nm以下の波長のレーザー光を感光性材料層63の露光に用いてもよい。画像光が赤色光である場合、640nm以上770nm以下の波長のレーザー光を感光性材料層63の露光に用いてもよい。
【0050】
ホログラム素子60は、複数のホログラム記録層62を有していてもよい。複数のホログラム記録層62は、互いに異なる波長の光を高効率で回折できる。例えば、画像形成装置30からの画像光は、青色の光、緑色の光、及び赤色の光を含み得る。この例において、ホログラム素子60は、青色の光を高効率で回折するホログラム記録層62、緑色の光を高効率で回折するホログラム記録層62、及び赤色の光を高効率で回折するホログラム記録層62を含んでもよい。ホログラム記録層62が体積ホログラムである場合には、多重記録によって、単一のホログラム記録層62が複数の波長域の光を高効率で回折してもよい。
【0051】
図2に示された例において、ホログラム素子60は、ホログラム記録層62と法線方向NDに重ねられた第1シート64及び第2シート66を含んでいる。ホログラム記録層62は、第1シート64及び第2シート66の間に位置している。図示された例において、ホログラム記録層62は、第1シート64及び第2シート66に接合している。
【0052】
第1シート64及び第2シート66は、ホログラム記録層62を支持する基材として機能する。第1シート64及び第2シート66は、ホログラム記録層62を保護する保護層として機能する。第1シート64及び第2シート66は透明なシートである。第1シート64及び第2シート66の材料として、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、環状ポリオレフィン等が例示される。第1シート64及び第2シート66の法線方向NDに沿った厚みを10μm以上100μm以下としてもよい。第1シート64及び第2シート66は、同一の材料で同一に構成されていてもよいし、異なる材料で構成されてもよいし、異なる構成を有していてもよい。
【0053】
図5は、ホログラム素子60の分光透過率の一例を示している。すなわち、
図5は、ホログラム素子60の波長毎の透過率を示している。対象となったホログラム素子60は、
図4の露光方法を用いて作製された三つのホログラム記録層62を含んでいる。三つのホログラム記録層62は、
図5に示された分光透過率の極小値に対応する三つの異なる波長の光を、参照光L4A及び物体光L4Bとして、用いて作製された。参照光L4Aの光軸は、感光性材料層63の法線方向NDに沿っていた。物体光L4Bの光軸は、第1方向D1に直交し且つ法線方向NDに対して45°傾斜していた。
【0054】
図6は、
図5に示された分光透過率の測定方法を示している。光源80からの光L61は、コリメートレンズ81を通過して、ホログラム素子60に照射される。ホログラム素子60に照射される光の光軸は、法線方向NDと平行とした。光源80から射出する光の放射束(ワット)に対する直線透過光の放射束(ワット)の割合を透過率として波長毎に特定することにより、
図5の分光透過率が得られた。光源80、コリメートレンズ81及び測光器82を含む分光透過率の測定手段として、分光光度計((株)島津製作所製「UV-3100PC」、JISK0115準拠品)を用いた。
【0055】
図5の分光透過率において、波長λ1、波長λ2及び波長λ3において透過率が低下している。透過率の低下に相当する光が、ホログラム素子60で回折されている。すなわち、波長λ1、波長λ2及び波長λ3は、ホログラム素子60の選択波長の中心である。
【0056】
後述するノイズ像88を目立たなくする観点から、ホログラム素子60の回折効率に上限を設けることが好ましい。ホログラム素子60の回折効率を、60%以下にしてもよく、40%以下にしてもよく、20%以下にしてもよい。ホログラム記録層62の露光時に複数の波長の光を用いた場合、ホログラム素子60は当該複数の波長の光に対して回折効率のピーク値を有する。例えば、波長460nmの光、波長532nmの光、及び波長640nmの光を用いて、感光性材料層63の露光が行われ得る。複数の波長の光に対して回折効率のピーク値を有する場合、「ホログラム素子60の回折効率」は、各波長の光に対する回折効率の最大値を意味する。
【0057】
ホログラム素子60の回折効率は、JISZ8791:2011に準拠して測定される。ホログラム素子60の回折効率(%)は、ホログラム素子60への照明光の放射束(ワット)に対する一次回折光の放射束(ワット)の割合の最大値を意味している。したがって、一次回折光の放射束(ワット)は、ブラッグ条件を満たすようにして照明光をホログラム素子60へ照射した状態で、測定される。具体的には、ホログラム素子60に対する照明光L3Aの光軸を、露光時における感光性材料層63に対する参照光L4Aの光軸と一致させる。一次回折光の放射束(ワット)は、露光時における物体光L4Bの光路と平行な方向に、ホログラム素子60から出射する回折光の放射束を測定することによって、特定され得る。
【0058】
後述するノイズ像88を目立たなくする観点から、ホログラム素子60の回折効率の波長分布における半値全幅W(nm)に上限を設けることが好ましい。ホログラム素子60の回折効率の波長分布における半値全幅W(nm)を、15nm以下としてもよく、10nm以下としてもよく、5nm以下としてもよい。半値全幅Wとは、回折効率のピーク値が得られる波長を含んで両側に広がり且つ回折効率のピーク値の半分以上の回折効率が確保される波長範囲の長さ(nm)を意味する。ホログラム素子60が複数の波長の光に対して回折効率のピーク値を有する場合、「ホログラム素子60の回折効率の波長分布における半値全幅W(nm)」は、各波長の光に関する回折効率のピーク値に対する半値全幅の最大値を意味する。
【0059】
次に、図示されたヘッドアップディスプレイ20の作用について説明する。
【0060】
図7に示すように、画像形成装置30から画像光L71が射出する。画像光L71は、投射光学系35によって、コンバイナ40に向けられる。画像光L71は、コンバイナ40に第1面41から入射する。画像光L71は、照明光L72として、コンバイナ40のホログラム素子60に入射する。ホログラム素子60のホログラム記録層62は、照明光L72としての画像光L71を高効率で回折する。ホログラム素子60で回折された画像光L71は、再生光L73として、ホログラム素子60で反射して使用者5に向かう。使用者5は、画像光L72によって形成される画像を観察できる。使用者5は、画像を画像形成装置30の位置ではなく、再生光L73の光路と平行な方向に沿ったコンバイナ40の背後となる位置に観察する。すなわち、ヘッドアップディスプレイ20によれば、使用者5を基準としたコンバイナ40の背後に、使用者5によって観察される虚像85を表示できる。
【0061】
図示されたヘッドアップディスプレイ20において、虚像85が表示される位置は、ホログラム素子60によって調節できる。
図4に示された、参照光用レンズ71から感光性材料層63までの距離DXに対して、物体光用レンズ72から感光性材料層63までの距離DYを調節することによって、虚像85の位置および大きさを調節できる。具体的には、距離DXに対する距離DYの比(DY/DX)を大きくすることによって、使用者5及びコンバイナ40からより遠くに、虚像85を表示できる。距離DXに対する距離DYの比(DY/DX)を大きくすることによって、虚像85の大きさを拡大できる。
【0062】
ところで、太陽や外灯等が設置された場所で、従来のヘッドアップディスプレイを用いた場合、太陽や外灯が、意図しないノイズ像88として、コンバイナに映り込むことがある。しかも、太陽や外灯等のノイズ像88は、太陽や外灯等の実際の位置とは異なる位置に観察される。このようなノイズ像88の出現は、ヘッドアップディスプレイ20の表示品質を低下させ、且つコンバイナ40を介した視認性を低下させる。
【0063】
ノイズ像88の出現は次の理由と考えられる。
図7に示すように、太陽や外灯等からのノイズ光L74は、画像光L72とは異なり、第2面42を介してコンバイナ40に入射する。ノイズ光L74は、第1面41に到達して第1面41で反射する。その後、ノイズ光L74は、ホログラム素子60に入射する。ノイズ光L74の光路がホログラム記録層62のブラッグ回折条件を満たす場合、ノイズ光L74は、ホログラム記録層62にて高効率で回折されて、使用者5に向かう。使用者5は、コンバイナ40の背後に位置するノイズ像88を観察する。
【0064】
上述したように、ノイズ像88を目立たなくするには、第1面41をなす反射防止層57での反射率を低減することが有効である。反射防止層57での反射率を低減することによって、ホログラム素子60に入射するノイズ光L74の放射束(W)を低減できる。具体的には、反射防止層57での反射率を、1%以下としてもよく、0.5%以下としてもよい。反射防止層57での反射率(%)は、反射防止層57の厚み、反射防止層57に含まれる層の数、反射防止層57をなす材料の屈折率等によって、調節可能である。
【0065】
また、ノイズ像88を目立たなくするには、ホログラム素子60の回折効率を低減することが有効である。ホログラム素子60での回折効率を低減することによって、ノイズ像88を暗くできる。具体的には、ホログラム素子60の回折効率を、60%以下としてもよく、40%以下にしてもよく、20%以下にしてもよい。
【0066】
さらに、ノイズ像88を目立たなくするには、ホログラム素子60の回折効率の波長分布における半値全幅W(nm)を低減することが有効である。ホログラム素子60の回折効率の波長分布における半値全幅W(nm)を低減することによって、ノイズ像88を暗くできる。具体的には、ホログラム素子60の回折効率の波長分布における半値全幅W(nm)を、15nm以下としてもよく、10nm以下としてもよく、5nm以下としてもよい。
【0067】
ホログラム素子60の回折効率(%)およびホログラム素子60の回折効率の波長分布における半値全幅W(nm)は、ホログラム素子60の製造条件を変更することによって、調節可能である。例えば、ホログラム記録層62の作製に用いられる感光性材料層63の種類や厚み、干渉縞の記録後におけるラミネートフィルムの種類、干渉縞の記録後の後処理方法等によって、回折効率(%)及び半値全幅W(nm)を調節可能である。感光性材料層63の露光時における露光光の強度や露光時間によっても、回折効率(%)及び半値全幅W(nm)を調節可能である。
【0068】
更に本件発明者等が鋭意検討を重ねたところ、ノイズ回折率(%)を低減することによって、ノイズ像88を目立たなくできた。
図8に示すように、試験用光源92から射出して第2面42からコンバイナ40に入射し、第1面41で反射してホログラム素子60で回折されて第1面41から射出する光L74,L81に起因したコンバイナ40の輝度を、ノイズ像輝度(ワット/ステラジアン)と定義する。試験用光源92から射出する光に起因した輝度を、光源輝度(ワット/ステラジアン)と定義する。ノイズ像輝度に対する光源輝度の割合をノイズ回折率(%)と定義する。ノイズ像88を目立たなくするには、ノイズ回折率(%)を、0.11%以下とすることが有効であり、0.05%以下としてもよく、0.02%以下としてもよい。
【0069】
図8に、ノイズ回折率(%)を測定する試験装置90が示されている。試験装置90は、試験用光源92、コリメートレンズ93及び輝度測定器94を含んでいる。試験用光源92からの光L81は、コリメートレンズ93で整形された後、測定対象となるコンバイナ40に向かう。試験用光源92は、シーシーエス株式会社製の自然光LED(型番:HLV2-22-3W同等品)とする。
図9は、試験用光源92の分光分布を示している。すなわち
図9は、試験用光源92から射出する各波長の光の強度比を示している。第1面41で反射した光が、ホログラム素子60のブラッグ条件を満たすように、試験用光源92はホログラム素子60に対して位置決めされる。ホログラム素子60が
図4に示された露光工程を経て作製されている場合、第1面41で反射してホログラム素子60に向かう光の光軸を、感光性材料層63に向かう参照光L4Aの光軸と一致させる。輝度測定器94は、コンバイナ40の第2面42でのノイズ像輝度を、一次回折光の出射方向から測定する。試験用光源92の輝度も輝度測定器94を用いて測定する。光源の輝度は、光L81の光路と平行な方向から測定する。輝度測定器94は、コニカミノルタ社製の2次元色彩輝度計(CA-2500)とする。
【0070】
更に本件発明者等が鋭意検討を重ねたところ、次の条件式(A)を満たすことによって、ノイズ像88を目立たなくできた。条件式(A)における「H」は、ホログラム素子60の回折効率(%)である。ホログラム素子60がホログラム記録層62の露光時に用いた複数の波長において回折効率のピーク値を有する場合、回折効率のピーク値の最大値(%)を「H」の値とする。条件式(A)における「W」は、ホログラム素子60の回折効率の波長分布における半値全幅Wである。ホログラム素子60が複数の波長において回折効率のピーク値を有する場合、複数のピーク値に対して特定された半値全幅の最大値(nm)を「W」の値とする。
条件式(A)における「R」は、コンバイナ40の第1面の反射率(%)である。
(H/100)×W×(R/100)×(1-(R/100))≦0.098
・・・条件式(A)
【0071】
ここで、本件発明者等が実施した実験の一例について説明する。
【0072】
図10に示されたコンバイナ40のサンプル1~10を作製した。コンバイナ40は、第1基板51、第2基板52、接合層45、及びホログラム素子60を有していた。ホログラム素子60は、第1シート64、ホログラム記録層62及び第2シート66を有していた。サンプル1~3及びサンプル6~10において、第1基板51は、透明板56及び反射防止層57を有していた。サンプル1~10に係るコンバイナ40は、ホログラム素子60を接合層45内に配置した合わせガラスとした。
【0073】
第1基板51及び第2基板52は、法線方向NDからの観察において、150mm×150mmの正方形形状とした。ホログラム素子60は、法線方向NDからの観察において、100mm×100mmの正方形形状とした。ホログラム素子60の周縁が、第1基板51及び第2基板52の周縁から25mm内側に位置するように、ホログラム素子60を第1基板51及び第2基板52に対して配置した。
【0074】
<サンプル1>
サンプル1において、第1基板51の法線方向NDに沿った厚みT1を2mmとした。透明板56として青板ガラスを用いた。反射防止層57によって構成される第1面41での反射率は1%であった。第2基板52の法線方向NDに沿った厚みT2を2mmとした。第2基板52として青板ガラスを用いた。接合層45として、ポリビニルブチラール(PVB)を用いた。ホログラム素子60と第1基板51との間における接合層45の厚みT3を380μmとした。ホログラム素子60と第2基板52との間における接合層45の厚みT3を380μmとした。
【0075】
ホログラム素子60は、単一のホログラム記録層62を有していた。この単一のホログラム記録層62は、多重露光により、青色波長(460nm)の光、緑色波長(532nm)の光、および赤色波長(640nm)の光に対して、波長選択性を有していた。すなわち、青色波長の光、緑色波長の光、および赤色波長の光が、それぞれ、単一のホログラム記録層62のブラッグ条件を満たしていた。ホログラム記録層62は、青色波長の光、緑色波長の光、および赤色波長の光を用いて、
図4に示された露光条件で作製された。ホログラム記録層62は、
図2に示されたホログラム記録層62と同様の回折特性を有した。すなわち、ホログラム記録層62は、法線方向NDに沿って入射する光によってブラッグ条件が満たされるようにした。ホログラム記録層62は、ブラッグ条件を満たす入射光を、第1方向D1に直交し且つ法線方向NDに対して45°傾斜した第2方向D2に、高効率で回折した。
【0076】
ホログラム素子60は、ホログラム記録層62に対応した三つの波長において、回折効率のピーク値を有した。ホログラム素子60の回折効率は、三つの回折効率のピーク値の最大値として算出され、60%であった。ホログラム素子の回折効率の波長分布における半値全幅Wは5nmであった。この半値全幅Wは、三つの回折効率のピーク値に対して特定された半値全幅の最大値とした。
【0077】
ホログラム記録層62は、架橋性ポリマーを用いて作製された。ホログラム記録層62の厚みT6は、15μmであった。第1シート64及び第2シート66は、ポリエチレンテレフタレート製シートとした。第1シート64の厚みT7は、50μmであった。第2シート66の厚みT8は、38μmであった。
【0078】
<サンプル2>
サンプル2は、ホログラム素子の回折効率の波長分布における半値全幅Wにおいて、サンプル1と異なった。サンプル2は、その他において、サンプル1と同様とした。
【0079】
サンプル2において、ホログラム素子60は、ホログラム記録層62に対応した三つの波長において、回折効率のピーク値を有した。ホログラム素子60の回折効率は、三つの回折効率のピーク値の最大値として算出され、60%であった。ホログラム素子の回折効率の波長分布における半値全幅Wは10nmであった。この半値全幅Wは、三つの回折効率のピーク値に対して特定された半値全幅の最大値とした。
【0080】
サンプル2において、反射防止層57によって構成される第1面41での反射率は1%であった。
【0081】
<サンプル3>
サンプル3は、ホログラム素子の回折効率の波長分布における半値全幅Wにおいて、サンプル1と異なった。サンプル3は、その他において、サンプル1と同様とした。
【0082】
サンプル3において、ホログラム素子60は、ホログラム記録層62に対応した三つの波長において、回折効率のピーク値を有した。ホログラム素子60の回折効率は、三つの回折効率のピーク値の最大値として算出され、60%であった。ホログラム素子の回折効率の波長分布における半値全幅Wは15nmであった。この半値全幅Wは、三つの回折効率のピーク値に対して特定された半値全幅の最大値とした。
【0083】
サンプル3において、反射防止層57によって構成される第1面41での反射率は1%であった。
【0084】
<サンプル4>
サンプル4は、第1基板51が反射防止層57を含まない点において、サンプル1と異なった。サンプル4は、その他において、サンプル1と同様とした。
【0085】
サンプル4において、ホログラム素子60は、ホログラム記録層62に対応した三つの波長において、回折効率のピーク値を有した。ホログラム素子60の回折効率は、三つの回折効率のピーク値の最大値として算出され、60%であった。ホログラム素子の回折効率の波長分布における半値全幅Wは5nmであった。この半値全幅Wは、三つの回折効率のピーク値に対して特定された半値全幅の最大値とした。
【0086】
サンプル4において、第1基板51の透明板56によって構成された第1面41での反射率は4%であった。
【0087】
<サンプル5>
サンプル5は、第1基板51が反射防止層57を含まない点において、サンプル2と異なった。サンプル5は、その他において、サンプル2と同様とした。
【0088】
サンプル5において、ホログラム素子60は、ホログラム記録層62に対応した三つの波長において、回折効率のピーク値を有した。ホログラム素子60の回折効率は、三つの回折効率のピーク値の最大値として算出され、60%であった。ホログラム素子の回折効率の波長分布における半値全幅Wは10nmであった。この半値全幅Wは、三つの回折効率のピーク値に対して特定された半値全幅の最大値とした。
【0089】
サンプル5において、第1基板51の透明板56によって構成された第1面41での反射率は4%であった。
【0090】
<サンプル6>
サンプル6は、第1基板51が反射防止層57を含まない点において、サンプル3と異なった。サンプル6は、その他において、サンプル3と同様とした。
【0091】
サンプル6において、ホログラム素子60は、ホログラム記録層62に対応した三つの波長において、回折効率のピーク値を有した。ホログラム素子60の回折効率は、三つの回折効率のピーク値の最大値として算出され、60%であった。ホログラム素子の回折効率の波長分布における半値全幅Wは15nmであった。この半値全幅Wは、三つの回折効率のピーク値に対して特定された半値全幅の最大値とした。
【0092】
サンプル6において、第1基板51の透明板56によって構成された第1面41での反射率は4%であった。
【0093】
<サンプル7>
サンプル7は、ホログラム素子の回折効率Hにおいて、サンプル3と異なった。サンプル7は、その他において、サンプル3と同様とした。
【0094】
サンプル7において、ホログラム素子60は、ホログラム記録層62に対応した三つの波長において、回折効率のピーク値を有した。ホログラム素子60の回折効率は、三つの回折効率のピーク値の最大値として算出され、80%であった。ホログラム素子の回折効率の波長分布における半値全幅Wは15nmであった。この半値全幅Wは、三つの回折効率のピーク値に対して特定された半値全幅の最大値とした。
【0095】
サンプル7において、反射防止層57によって構成される第1面41での反射率は1%であった。
【0096】
<サンプル8>
サンプル8は、ホログラム素子の回折効率Hにおいて、サンプル3と異なった。サンプル8は、その他において、サンプル3と同様とした。
【0097】
サンプル8において、ホログラム素子60は、ホログラム記録層62に対応した三つの波長において、回折効率のピーク値を有した。ホログラム素子60の回折効率は、三つの回折効率のピーク値の最大値として算出され、40%であった。ホログラム素子の回折効率の波長分布における半値全幅Wは15nmであった。この半値全幅Wは、三つの回折効率のピーク値に対して特定された半値全幅の最大値とした。
【0098】
サンプル8において、反射防止層57によって構成される第1面41での反射率は1%であった。
【0099】
<サンプル9>
サンプル9は、ホログラム素子の回折効率Hにおいて、サンプル3と異なった。サンプル9は、その他において、サンプル3と同様とした。
【0100】
サンプル9において、ホログラム素子60は、ホログラム記録層62に対応した三つの波長において、回折効率のピーク値を有した。ホログラム素子60の回折効率は、三つの回折効率のピーク値の最大値として算出され、20%であった。ホログラム素子の回折効率の波長分布における半値全幅Wは15nmであった。この半値全幅Wは、三つの回折効率のピーク値に対して特定された半値全幅の最大値とした。
【0101】
サンプル9において、反射防止層57によって構成される第1面41での反射率は1%であった。
【0102】
<サンプル10>
サンプル10は、ホログラム素子の回折効率Hおよび反射防止層57での反射率において、サンプル2と異なった。サンプル10は、その他において、サンプル2と同様とした。
【0103】
サンプル10において、ホログラム素子60は、ホログラム記録層62に対応した三つの波長において、回折効率のピーク値を有した。ホログラム素子60の回折効率は、三つの回折効率のピーク値の最大値として算出され、50%であった。ホログラム素子の回折効率の波長分布における半値全幅Wは10nmであった。この半値全幅Wは、三つの回折効率のピーク値に対して特定された半値全幅の最大値とした。
【0104】
サンプル10において、反射防止層57によって構成される第1面41での反射率は2%であった。
【0105】
<評価>
サンプル1~10でノイズ像88の有無を確認した。サンプル1~10を実際の自動車のフロントガラス上に配置した。自動車の位置や向きを調節して、サンプル1~10のコンバイナ40内に外灯のノイズ像88を出現させた。ノイズ像88によるコンバイナ40を介した視認性の劣化を評価した。評価結果を表1の「評価」の欄に記載する。ノイズ像88が目立たなかったサンプルに対して、「評価」の欄に「A」を記入した。ノイズ像88によって、コンバイナ40を介した視認性が大きく劣化したサンプルに対し、「評価」の欄に「Z」を記入した。サンプル1~3、及び8~10において、暗くて小さいノイズ像88が確認された。ただし、ノイズ像88が外灯であることを判別することは難しかった。ノイズ像88の背後についても、観察可能であった。サンプル4~7において、明るくて大きいノイズ像88が確認された。ノイズ像88の背後を観察できなかった。
【0106】
<条件1の確認>
サンプル3、サンプル6及びサンプル10について、
図8及び
図9を参照して説明した試験装置90を用いた測定方法により、ノイズ回折率(%)を計測した。光源輝度は、100000(ワット/ステラジアン)であった。サンプル3について、ノイズ像輝度は、19(ワット/ステラジアン)であった。サンプル6について、ノイズ像輝度は、140(ワット/ステラジアン)であった。サンプル10について、ノイズ像輝度は、110(ワット/ステラジアン)であった。サンプル3のノイズ回折率は、0.019%であった。サンプル26ノイズ回折率は、0.14%であった。サンプル10について、ノイズ回折率は、0.11%であった。ノイズ回折率を、表1の「条件1」の「値」の欄に記入した。ノイズ回折率が上述した0.11以下となるサンプルについて、表1の「条件1」の「判定」の欄に「A」を記入した。ノイズ回折率が0.11より大きくなったサンプルについて、表1の「条件1」の「判定」の欄に「Z」を記入した。
【0107】
<条件2の確認>
サンプル1~10について、上述した条件式(A)の左辺の値を算出した。条件式(A)の左辺の値を、表1の「条件2」の「値」の欄に記入した。条件式(A)が満たされたサンプルについて、表1の「条件2」の「判定」の欄に「A」を記入した。つまり、条件式(A)の左辺の値が0.098以下となったサンプルについて、表1の「条件2」の「判定」の欄に「A」を記入した。条件式(A)が満たされなかったサンプルについて、表1の「条件2」の「判定」の欄に「Z」を記入した。つまり、条件式(A)の左辺の値が0.098より大きくなったサンプルについて、表1の「条件2」の「判定」の欄に「Z」を記入した。
【0108】
【0109】
以上に説明してきた一実施の形態において、コンバイナ40は、第1面41及び第2面42を含み、ヘッドアップディスプレイ20に用入られる。コンバイナ40は、第1面41を形成する第1基板51と、第2面42を形成する第2基板52と、第1基板51及び第2基板52を接合する接合層45と、第1基板51及び第2基板52の間の位置するホログラム素子60と、を含む。
【0110】
一実施の形態において、試験用光源92から射出して第2面42からコンバイナ40に入射し、第1面41で反射してホログラム素子60で回折されて第1面41から射出する光L74,L81に起因したコンバイナ40でのノイズ像輝度(ワット/ステラジアン)の、試験用光源92から射出する光に起因した光源での輝度(ワット/ステラジアン)に対するノイズ回折率(%)を、0.11%以下としてもよい。この例によれば、ノイズ像88を目立たなくできる。これにより、ヘッドアップディスプレイ20の表示品質を向上でき、且つ、コンバイナ40を介した視認性を向上できる。
【0111】
一実施の形態において、第1基板51は、第1面41を構成する反射防止層57を含んでもよい。第1面41での反射率は1%以下としてもよい。この例によれば、ノイズ像88を目立たなくできる。これにより、ヘッドアップディスプレイ20の表示品質を向上でき、且つ、コンバイナ40を介した視認性を向上できる。
【0112】
一実施の形態において、ホログラム素子60の回折効率を60%以下としてもよい。この例によれば、ノイズ像88を目立たなくできる。これにより、ヘッドアップディスプレイ20の表示品質を向上でき、且つ、コンバイナ40を介した視認性を向上できる。
【0113】
一実施の形態において、ホログラム素子60の回折効率H(%)、ホログラム素子60の回折効率の波長分布における半値全幅W(nm)、及び第1面41での反射率R(%)が、次の条件式(A)を満たしてもよい。この例によれば、ノイズ像88を目立たなくできる。これにより、ヘッドアップディスプレイ20の表示品質を向上でき、且つ、コンバイナ40を介した視認性を向上できる。
(H/100)×W×(R/100)×(1-(R/100))≦0.098
・・・条件式(A)
具体例を参照しながら一実施の形態を説明してきたが、上述の具体例が一実施の形態を限定しない。上述した一実施の形態は、その他の様々な具体例で実施でき、その要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、追加等を行うことができる。例えば、第2基板52が、第2面42を構成する反射防止層を含んでもよい。
【符号の説明】
【0114】
D1:第1方向、D2:第2方向、D3:第3方向、ND:法線方向、L4A:参照光、L4B:物体光、L3A:照明光、L3B:再生光、5:使用者、10:移動体、12:自動車、14:フロントウインドウ、20:ヘッドアップディスプレイ、30:画像形成装置、35:投射光学系、40:コンバイナ、41:第1面、42:第2面、45:接合層、51:第1基板、52:第2基板、56:透明板、57:反射防止層、57a:低屈折率層、57b:高屈折率層、60:ホログラム素子、62:ホログラム記録層、63:感光性材料層、64:第1シート、66:第2シート、71:参照光用レンズ、72:物体光用レンズ、80:光源、81:コリメートレンズ、82:測光器、85:虚像、88:ノイズ像、90:試験装置、92:試験用光源、94:輝度測定器