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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022183902
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】ガラス物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 5/173 20060101AFI20221206BHJP
【FI】
C03B5/173
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021091424
(22)【出願日】2021-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168550
【弁理士】
【氏名又は名称】友廣 真一
(72)【発明者】
【氏名】増田 洋大
(72)【発明者】
【氏名】櫻林 達
(57)【要約】
【課題】素地替えの実行中及び終了後においても、高品質のガラス物品を安定して製造する。
【解決手段】ガラス原料を供給してガラス溶融炉内で溶融ガラスを生成しながら、溶融ガラスの品種を第一品種から第二品種に変更する素地替え工程S2を備えるガラス物品の製造方法であって、素地替え工程S2は、ガラス原料として、第一品種と第二品種との中間材質を供給する中間材質供給工程A~Aを備える。中間材質供給工程A~Aでは、溶融ガラスの密度が第二品種の密度に漸次接近するように、ガラス組成の異なる複数の中間材質を順に供給する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス原料を供給してガラス溶融炉内で溶融ガラスを生成しながら、前記溶融ガラスの品種を第一品種から第二品種に変更する素地替え工程を備えるガラス物品の製造方法であって、
前記素地替え工程は、前記ガラス原料として、前記第一品種と前記第二品種との中間材質を供給する中間材質供給工程を備え、
前記中間材質供給工程では、前記溶融ガラスの密度及び粘度の少なくとも一方の特性が前記第二品種の前記特性に漸次接近するように、ガラス組成の異なる複数の前記中間材質を順に供給することを特徴とするガラス物品の製造方法。
【請求項2】
前記素地替え工程は、前記溶融ガラスの前記特性を評価する特性評価工程と、前記特性評価工程の結果に基づいて後続の前記中間材質のガラス組成を調整するガラス組成調整工程とを備える請求項1に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項3】
前記特性評価工程は、前記溶融ガラスのガラス組成を分析する分析工程を含む請求項2に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項4】
前記特性が、前記溶融ガラスの密度を含み、
前記中間材質供給工程では、前記溶融ガラスの密度変化が24時間当たり0.05[g/cm]以下になるように、前記中間材質を供給する請求項1~3のいずれか1項に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項5】
前記特性が、前記溶融ガラスの粘度を含み、
前記中間材質供給工程では、前記溶融ガラスの粘度10dPa・sの温度変化が24時間当たり15℃以下になるように、前記中間材質を供給する請求項1~4のいずれか1項に記載のガラス物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス溶融炉は、炉内に供給されたガラス原料をバーナ、電極等の加熱装置によって加熱することで、溶融ガラスを生成する。生成された溶融ガラスは、ガラス溶融炉から排出され、成形装置等によって成形されることでガラス物品となる。
【0003】
ガラス物品の品種(ガラス組成)を変更する場合、溶融ガラスの素地替え工程が実施される。素地替え工程の方法としては、素地抜き法や押し出し法が公知である(例えば特許文献1参照)。例えば押し出し法では、ガラス溶融炉内で先に生成されていた第一品種の溶融ガラスを、後に生成される第二品種の溶融ガラスによって下流側に押し出した後に、当該第二品種の溶融ガラスによるガラス物品の製造が開始される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-65933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
押し出し法を用いて素地替え工程を行う場合、特許文献1に開示されているように、ガラス溶融炉に供給するガラス原料の品種を第一品種から第二品種に直接切り替えるのが一般的である。つまり、素地替え工程の最初からガラス原料として第二品種のガラス原料を供給するのが一般的である。
【0006】
しかしながら、素地替え工程の最初から第二品種のガラス原料を供給すると、ガラス溶融炉内の溶融ガラスの特性が急激に変化するため、以下のような問題が生じ得る。
【0007】
第一に、ガラス溶融炉から成形装置に供給される溶融ガラスの品質が低下し、素地替え工程の実行中やその終了後に製造されるガラス物品の品質が低下するおそれがある。
【0008】
第二に、ガラス溶融炉から成形装置に供給される溶融ガラスの流量が適正に制御できずに、素地替え工程の実行中やその終了後において、ガラス物品を安定して製造できなくなるおそれがある。
【0009】
本発明は、素地替え工程の実行中及び終了後においても、高品質のガラス物品を安定して製造することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、鋭意研究の結果、溶融ガラスの特性のうち密度及び/又は粘度が大きく変化した場合に、ガラス物品の品質低下やガラス物品の製造の不安定化といった上記の問題が発生しやすくなるという知見を見いだすに至った。そこで、本発明者等は、上記の課題を解決するために、当該知見に基づき本発明を提案するものである。
【0011】
(1) すなわち、本発明は、ガラス原料を供給してガラス溶融炉内で溶融ガラスを生成しながら、溶融ガラスの品種を第一品種から第二品種に変更する素地替え工程を備えるガラス物品の製造方法であって、素地替え工程は、ガラス原料として、第一品種と第二品種との中間材質を供給する中間材質供給工程を備え、中間材質供給工程では、溶融ガラスの密度及び粘度の少なくとも一方の特性が第二品種の特性に漸次接近するように、ガラス組成の異なる複数の中間材質を順に供給することを特徴とする。
【0012】
このようにすれば、素地替え工程において、ガラス溶融炉で生成される溶融ガラスの密度及び/又は粘度を含む特性が、第二品種の密度及び/又は粘度を含む特性に漸次接近する。つまり、素地替え工程において、ガラス溶融炉で生成される溶融ガラスの密度及び/又は粘度を含む特性が急激に変化するのを確実に防止できる。これにより、素地替え工程の実行中及び終了後においても、高品質のガラス物品を安定して製造することが可能となる。
【0013】
(2) 上記(1)の構成において、素地替え工程は、溶融ガラスの特性を評価する特性評価工程と、特性評価工程の結果に基づいて後続の中間材質のガラス組成を調整するガラス組成調整工程とを備えることが好ましい。
【0014】
このようにすれば、中間材質のガラス組成がより緻密に調整されるため、ガラス溶融炉で生成される溶融ガラスの密度及び/又は粘度を含む特性が急激に変化するのをより確実に防止できる。
【0015】
(3) 上記(2)の構成において、特性評価工程は、溶融ガラスのガラス組成を分析する分析工程を含むことが好ましい。
【0016】
このようにすれば、溶融ガラスのガラス組成との関係性を予め把握又は予測可能な溶融ガラスの特性(例えば粘度)については、分析されたガラス組成から特性を容易に求めることができる。したがって、特性を直接測定するのが難しい場合や、特性の測定に長時間を要する場合などに特に有利となる。
【0017】
(4) 上記(1)~(3)のいずれかの構成において、特性が、溶融ガラスの密度を含み、中間材質供給工程では、溶融ガラスの密度変化が24時間当たり0.05[g/cm]以下になるように、中間材質を供給することが好ましい。
【0018】
このようにすれば、ガラス溶融炉で生成される溶融ガラスの密度変化に伴う不具合の発生をより確実に抑制できる。
【0019】
(5) 上記(1)~(4)のいずれかの構成において、特性が、溶融ガラスの粘度を含み、中間材質供給工程では、溶融ガラスの粘度10dPa・sの温度変化が24時間当たり15℃以下になるように、中間材質を供給することが好ましい。
【0020】
このようにすれば、ガラス溶融炉で生成される溶融ガラスの粘度変化に伴う不具合の発生をより確実に防止できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、素地替え工程の実行中及び終了後においても、高品質のガラス物品を安定して製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】第一実施形態に係るガラス物品の製造方法で用いられる製造装置を示す側面図である。
図2図1の製造装置のガラス溶融炉周辺を示す断面図である。
図3】第一実施形態に係るガラス物品の製造方法に含まれる溶融工程のフロー図である。
図4】第二実施形態に係るガラス物品の製造方法に含まれる溶融工程のフロー図である。
図5】本発明の比較例1に係る素地替え工程における素地替え推移(密度変化)を示すグラフである。
図6】本発明の実施例1に係る素地替え工程における素地替え推移(密度変化)を示すグラフである。
図7】本発明の比較例2に係る素地替え工程における素地替え推移(粘度変化)を示すグラフである。
図8】本発明の実施例2に係る素地替え工程における素地替え推移(粘度変化)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態に係るガラス物品の製造方法について図面を参照しながら説明する。なお、各実施形態において対応する構成要素には同一符号を付すことにより、重複する説明を省略する場合がある。各実施形態において構成の一部分のみを説明している場合、当該構成の他の部分については、先行して説明した他の実施形態の構成を適用することができる。また、各実施形態の説明において明示している構成の組み合わせばかりではなく、特に組み合わせに支障が生じなければ、明示していなくても複数の実施形態の構成同士を部分的に組み合わせることができる。
【0024】
(第一実施形態)
図1に示すように、第一実施形態に係るガラス物品の製造方法に用いられる製造装置は、上流側から順に、ガラス溶融炉1と、移送流路2と、成形装置3とを備えている。
【0025】
ガラス溶融炉1は、溶融ガラスGmを生成する溶融工程を実施するためのものである。ガラス溶融炉1で生成された溶融ガラスGmは、ガラス溶融炉1の下流側の排出口1aから排出され、後続の工程に供給される。本実施形態では、溶融ガラスGmは、例えば、無アルカリガラス、ソーダガラス、ソーダライムガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミノシリケートガラス、アルカリ含有ガラスなどである。
【0026】
移送流路2は、ガラス溶融炉1から成形装置3に向けて溶融ガラスGmを移送する移送工程を実施するためのものであり、必要に応じて通電加熱される。移送流路2は、清澄室4と、均質化室(攪拌室)5と、ポット6と、これら各部を接続する移送管7~10とを備えている。移送管7は、ガラス溶融炉1の下流側の排出口1aに接続されている。ここで、清澄室4などの「室」及び「ポット」という用語には、槽状構造を有するものや、管状構造を有するものが含まれるものとする。
【0027】
清澄室4は、ガラス溶融炉1から供給された溶融ガラスGmを清澄剤などの働きによって清澄(泡抜き)する清澄工程を実施するためのものである。
【0028】
均質化室5は、清澄された溶融ガラスGmを攪拌翼5aによって攪拌し、均一化する均質化工程を実施するためのものである。均質化室5は、複数の均質化室を連ねたものであってもよい。この場合、隣接する二つの均質化室の一方の上端部と、他方の下端部を移送管で連ねることが好ましい。
【0029】
ポット6は、溶融ガラスGmの流量や粘度等を成形に適した状態に調整する状態調整工程を実施するためのものである。ポット6は省略してもよい。
【0030】
移送管7~10は、例えば白金又は白金合金からなる円筒管で構成されており、溶融ガラスGmを横方向(略水平方向)に移送する。本実施形態では、移送流路2のうち、最上流部に位置する移送管7は、下流端が上流端よりも上方に位置するように傾斜している。
【0031】
移送管7~10の端部に設けられたフランジ部(図示省略)は、相手部材に溶接等により接合されている。例えば、最上流部に位置する移送管7の上流端は、ガラス溶融炉1の下流側に設けられた排出口1aに接合されており、最下流部に位置する移送管10の下流端は、成形装置3に接合されている。
【0032】
成形装置3は、溶融ガラスGmを所望の形状に成形する成形工程を実施するためのものである。本実施形態では、成形装置3は、オーバーフローダウンドロー法によって、溶融ガラスGmからガラスリボンGを連続成形する成形体からなる。
【0033】
成形装置3は、スロットダウンドロー法などの他のダウンドロー法や、フロート法を実施するものであってもよい。なお、平滑な表面を得るためには成形方法としてオーバーフローダウンドロー法を用いることが好ましい。
【0034】
オーバーフローダウンドロー法の場合、成形装置3に供給された溶融ガラスGmは成形装置(成形体)3の頂部に形成された溝部から溢れ出た溶融ガラスGmが成形装置3の断面楔状をなす両側面を伝って下端で合流することで、板状のガラスリボンGが連続成形される。成形されたガラスリボンGは、徐冷及び冷却された後に所定サイズに切断され、ガラス物品としてのガラス板が製造される。なお、オーバーフローダウンドロー法で成形されたガラス板は、内部に成形合流面を有する。
【0035】
製造されたガラス板は、例えば、厚みが0.01~10mm(好ましくは0.1~3mm)であって、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどのパネルディスプレイ、有機EL照明、太陽電池などの基板や保護カバーに利用される。
【0036】
図2に示すように、ガラス溶融炉1は、通電加熱を含む加熱によって、ガラス原料(カレットを含んでもよい)Grを溶融して溶融ガラスGmを連続的に生成する。ガラス溶融炉1で生成された溶融ガラスGmは、ガラス溶融炉1の排出口1aから移送管7内に流入するようになっている。
【0037】
ガラス溶融炉1は、耐火物で構成された壁部によって炉内の溶融空間を区画形成する。耐火物としては、例えば、ジルコニア系電鋳煉瓦やアルミナ系電鋳煉瓦、アルミナ・ジルコニア系電鋳煉瓦、AZS(Al-Zr-Si)系電鋳煉瓦、デンス焼成煉瓦などが挙げられる。
【0038】
ガラス溶融炉1の底壁部1bには、溶融ガラスGm中に浸漬された複数の棒状の電極11が設けられている。これら電極11は、溶融ガラスGmを通電加熱する。本実施形態では、溶融ガラスGmを連続生成する溶融工程において、電極11の通電加熱のみでガラス原料Grを連続溶融する、いわゆる全電気溶融が行われる。全電気溶融の場合、排ガスによる環境負荷が小さいこと、製造されるガラス板の水分量が低くなり熱的寸法安定性が向上することなどの利点がある。
【0039】
ガラス溶融炉1における加熱方式は、電極11の通電加熱のみでガラス原料Grを連続溶融する、いわゆる全電融方式に限定されるものではなく、例えば、溶融ガラスGmの液面上方からガス燃料の燃焼(バーナ)のみで加熱する方式、通電加熱とガス燃料の燃焼とを併用して加熱する方式などであってもよい。
【0040】
電極11は、棒状に限らず、板状やブロック状であってもよく、これらを組み合わせてもよい。電極11は、底壁部1bに限らず、側壁部に配置してもよく、底壁部1b及び側壁部の両方に配置してもよい。
【0041】
ガラス溶融炉1の上流側の投入口1cには、ガラス原料Grを供給する原料投入装置12が設けられている。原料投入装置12は、特に限定されるものではなく、例えばプッシャーや振動フィーダなどであってもよいが、本実施形態ではスクリューフィーダである。
【0042】
ガラス溶融炉1には、炉内の気体を外部に排出するための気体排出路としての煙道13が設けられている。煙道13内には、気体を外部に送るためのファン13aが設けられている。
【0043】
なお、本実施形態では、ガラス溶融炉1の溶融空間は単一の溶融空間からなるシングルメルターであり、移送流路2は単一の流路からなるシングルフィーダである。
【0044】
次に、第一実施形態に係るガラス物品の製造方法を説明する。
【0045】
本製造方法は、溶融工程と、移送工程と、成形工程とを備えている。このうち、移送工程は、清澄工程と、均質化工程と、状態調整工程とを含む。
【0046】
図3に示すように、溶融工程では、ガラス溶融炉1で生成する溶融ガラスGmの品種を変更(或いは改良)する必要が生じた場合に、素地替え工程S2を行う。
【0047】
素地替え工程S2を行う場合、溶融工程は、原料投入装置12により第一品種のガラス原料Grを供給してガラス溶融炉1内で第一品種の溶融ガラスGmを生成する第一工程(素地替え前の工程)S1と、原料投入装置12によりガラス原料Grを供給してガラス溶融炉1内で溶融ガラスGmを生成しながら、溶融ガラスGmの品種を第一品種から第二品種に変更する素地替え工程S2と、原料投入装置12により第二品種のガラス原料Grを供給してガラス溶融炉1内で第二品種の溶融ガラスGmを生成する第二工程(素地替え後の工程)S3とを、この順に含む。なお、本実施形態では、第一工程S1、素地替え工程S2及び第二工程S3でそれぞれ生成された溶融ガラスGmから製造されるガラス板は、所定の品質を満たせば製品として取り扱われる。
【0048】
素地替え工程S2は、溶融ガラスの品種を第一品種から、第一品種とガラス組成が異なる第二品種に変更する。また、素地替え工程S2は、いわゆる押し出し法を用いて素地替えを行う工程である。詳細には、素地替え工程S2は、ガラス原料として第二品種と同じ最終材質を供給する最終材質供給工程Bと、最終材質供給工程Bの前に、ガラス原料として第一品種と第二品種との中間材質を供給する中間材質供給工程A~Aとを備えている。中間材質供給工程A~Aでは、ガラス溶融炉1内の溶融ガラスGmの密度が第二品種の密度に漸次接近するように、ガラス組成の異なる複数の中間材質を順に供給する。
【0049】
ここで、中間材質は、第一品種のガラス組成と第二品種のガラス組成との間のガラス組成を有する材質を意味する。つまり、中間材質のガラス組成の各成分の含有量は、第一品種のガラス組成の各成分の含有量および第二品種のガラス組成の各成分の含有量のうち、いずれか一方を下限、他方を上限とする数値範囲に含まれる。また、本実施形態では、中間材質は、第一品種の密度と第二品種の密度との間の密度(D~D)を有する。
【0050】
本実施形態では、全部でn回の中間材質供給工程A~Aが行われ、かつ、第一品種のガラス組成の任意の成分(特定成分という)の含有量をP1、第二品種のガラス組成の特定成分の含有量をP2とした場合、特定成分の含有量差(P2-P1)を各中間材質及び最終材質によりn+1分割する。つまり、k回目(kは1~nまでの整数)の中間材質供給工程Aの第k中間材質では、特性成分の含有量を下記の関係式を満たすように設定する。
P1+k・(P2-P1)/(n+1)・・・(1)
【0051】
これにより、中間材質供給工程A~Aの各回で供給する第一~第n中間材質のガラス組成及び密度(D~D)を、第一品種のガラス組成及び密度から第二品種のガラス組成及び密度に段階的に近づける。つまり、本実施形態では、第一品種のガラス組成と第二品種のガラス組成とで含有量の異なる全ての成分について、k回目の中間材質供給工程Aの第k中間材質が、その直前の第k-1中間材質供給工程Ak-1の第k-1中間材質よりも、第二品種のガラス組成に接近するようになっている。また同時に、k回目の中間材質供給工程Aの第k中間材質の密度Dが、その直前のk-1回目の中間材質供給工程Ak-1の第k-1中間材質の密度Dk-1よりも、第二品種の密度に接近するようになっている。なお、上記の式(1)からも分かるように、第一品種のガラス組成と第二品種のガラス組成とで含有量が同じ成分については、中間材質における当該成分の含有量も変化させない。
【0052】
具体的には、第一品種と第二品種との間で、SiO(第一品種のSiO:50質量%、第二品種のSiO:65質量%)及びP(第一品種のP:8質量%、第二品種のP:2質量%)等の含有量が異なり、2回の中間材質供給工程A、Aを行う場合を例示する。この場合、1回目の中間材質供給工程Aにおける第一中間材質のSiOの含有量は55質量%、2回目の中間材質供給工程Aにおける中間材質のSiOの含有量は60質量%、最終材質供給工程Bにおける最終材質のSiOの含有量は第二品種と同じ65質量%となる。また、1回目の中間材質供給工程Aにおける中間材質のPの含有量は6質量%、2回目の中間材質供給工程Aにおける中間材質のPの含有量は4質量%、最終材質供給工程Bにおける最終材質のPの含有量は第二品種と同じ2質量%となる。
【0053】
このようにすれば、素地替え工程S2において、ガラス溶融炉1で生成される溶融ガラスGmのガラス組成が、第一品種のガラス組成から第二品種のガラス組成に段階的に接近する。これと同時に、ガラス溶融炉1で生成される溶融ガラスGmの密度が、第一品種の密度から第二品種の密度に段階的に接近する。これにより、ガラス溶融炉1で生成される溶融ガラスGmの密度が急激に変化するのを防止できる。したがって、素地替え工程S2の実行中及び終了後においても、高品質のガラス板(ガラス物品)を安定して製造できる。
【0054】
なお、本実施形態では、第一品種のガラス組成と第二品種のガラス組成とで含有量の異なる全ての成分について、前記(1)式によって線形的に変化させたが、本発明は、本実施形態に限定されない。例えば、密度変化に与える影響が大きい成分(例えばSrOやBaO)のみを前記(1)式によって線形的に変化させ、残りの成分は第二品種のガラス組成の含有量と同程度で略一定としてもよい。また、含有量と密度の関係が線形的な相関を有さない場合は、他の関係式(例えば指数関数を用いた関係式)を用いてもよい。
【0055】
中間材質供給工程A~Aでは、溶融ガラスGmの密度変化が24時間当たり0.05[g/cm]以下であることが好ましく、24時間当たり0.03[g/cm]以下であることがより好ましい。溶融ガラスGmの密度変化は、中間材質のガラス組成(第k中間材質と第k-1中間材質とのガラス組成差(或いは密度差))や供給量等によって制御できる。溶融ガラスGmの密度は、例えば、ガラス溶融炉1の排出口1a周辺から採取した溶融ガラスを用いて測定することができる。或いは、清澄室4や均質化室5等に設けられたドレンから採取した溶融ガラスを用いて測定することもできる。或いは、ガラスリボンGから切り出されたガラス板を用いて測定することもできる。
【0056】
各中間材質供給工程A~A(或いは各中間材質供給工程A~A及び最終材質供給工程B)を行う期間(時間)は、同じであってもよいし異なっていてもよい。同様に、各中間材質供給工程A~A(或いは各中間材質供給工程A~A及び最終材質供給工程B)における溶融ガラスGmの密度の変化量は、同じであってもよいし異なっていてもよい。
【0057】
ここで、素地替え工程S2で中間材質供給工程A~Aを行わずに、素地替え工程の最初から第二品種のガラス原料Grを供給した場合、第一品種と第二品種との間で大きな密度差があると、その密度差に起因して以下の問題が生じ得る。
【0058】
第一に、第一品種と第二品種との密度差によって、ガラス溶融炉1内で第一品種と第二品種とが均一に混ざらない場合がある。溶融ガラスGmがこの状態のまま成形装置3に供給されると、ガラス板(ガラス物品)にスジ等の欠陥が発生するおそれがある。このような欠陥の発生はガラス板の品質低下を招く。
【0059】
第二に、第一品種と第二品種との密度差によって、ガラス溶融炉1内の溶融ガラスGmの表層部又は底層部に第一品種に係る溶融ガラスGmの停滞層が形成される場合がある。停滞層の第一品種に係る溶融ガラスGmは、素地替え工程の実行中及び終了後に流出するおそれがある。停滞層の溶融ガラスGmは、一部の成分が揮発することや異物が混入すること等によって変質して異質ガラスとなりやすい。その結果、停滞層の第一品種に係る溶融ガラスGmが素地替え工程の実行中及び終了後に第二品種に係る溶融ガラスGmに混入すると、ガラス板に泡等の欠陥が発生するおそれがある。このような欠陥の発生はガラス板の品質低下を招く。
【0060】
第三に、ガラス溶融炉1内に形成された停滞層の第一品種に係る溶融ガラスGmが成形装置3に流れ込むと、溶融ガラスGmの流量が急激に変化する等して、ガラス板の製造が不安定になるおそれがある。
【0061】
これに対し、本実施形態に係る素地替え工程S2で中間材質供給工程A~Aを行えば、ガラス溶融炉1内の溶融ガラスGmの急激な密度変化を防止できることから、これらの問題の発生を確実に抑制できる。
【0062】
(第二実施形態)
図4に示すように、本発明の第二実施形態に係るガラス物品の製造方法が、第一実施形態と異なるところは、素地替え工程T2の中間材質供給工程X~Xである。中間材質供給工程X~Xでは、ガラス溶融炉1内の溶融ガラスGmの特性変化として、密度変化ではなく、粘度変化に着目している。
【0063】
本実施形態に係る素地替え工程T2では、ガラス原料Grとして、第一品種と第二品種との中間材質を供給する中間材質供給工程X~Xを備える。中間材質供給工程X~Xでは、ガラス溶融炉1内の溶融ガラスGmの粘度が第二品種の粘度に漸次接近するように、ガラス組成の異なる複数の中間材質を順に供給する。
【0064】
ここで、中間材質は、第一品種のガラス組成と第二品種のガラス組成との間のガラス組成を有する材質を意味する。さらに、本実施形態では、中間材質は、第一品種の粘度と第二品種の粘度との間の粘度(V~V)を有する。
【0065】
本実施形態では、全部でn回の中間材質供給工程X~Xが行われ、かつ、第一品種のガラス組成の任意の成分(特定成分という)の含有量をQ1、第二品種のガラス組成の特定成分の含有量をQ2とした場合、特定成分の含有量差(Q2-Q1)を各中間材質及び最終材質によりn+1分割する。つまり、k回目(kは1~nまでの整数)の中間材質供給工程Xの第k中間材質では、特性成分の含有量を以下の関係式を満たすように設定する。
Q1+k・(Q2-Q1)/(n+1)・・・(2)
【0066】
これにより、中間材質供給工程X~Xの各回で供給する第一~第n中間材質のガラス組成及び粘度(V~V)を、第一品種のガラス組成及び粘度から第二品種のガラス組成及び粘度に段階的に近づける。換言すれば、本実施形態では、第一品種のガラス組成と第二品種のガラス組成とで含有量の異なる全ての成分について、k回目の中間材質供給工程Xの第k中間材質が、その直前の第k-1中間材質供給工程Xk-1の第k-1中間材質よりも、第二品種のガラス組成に接近するようになっている。また同時に、k回目の中間材質供給工程Xの第k中間材質の粘度Vが、その直前のk-1回目の中間材質供給工程Xk-1の第k-1中間材質の粘度Vk-1よりも、第二品種の粘度に接近するようになっている。なお、上記の式(2)からも分かるように、第一品種のガラス組成と第二品種のガラス組成とで含有量が同じ成分については、中間材質における当該成分の含有量も変化させない。
【0067】
このようにすれば、素地替え工程T2において、ガラス溶融炉1で生成される溶融ガラスGmのガラス組成が、第一品種のガラス組成から第二品種のガラス組成に段階的に接近する。これと同時に、ガラス溶融炉1で生成される溶融ガラスGmの粘度が、第一品種の粘度から第二品種の粘度に段階的に接近する。これにより、ガラス溶融炉1で生成される溶融ガラスGmの粘度が急激に変化するのを防止できる。したがって、素地替え工程T2の実行中及び終了後においても、高品質のガラス板(ガラス物品)を安定して製造できる。
【0068】
なお、本実施形態では、第一品種のガラス組成と第二品種のガラス組成とで含有量の異なる全ての成分について、上記(2)式によって線形的に変化させたが、本発明は、本実施形態に限定されない。例えば、粘度変化に与える影響が大きい成分(例えばMgOやCaO)のみを上記(2)によって線形的に変化させ、残りの成分は第二品種のガラス組成の含有量と同程度で略一定としてもよい。また、含有量と粘度の関係が線形的な相関を有さない場合は、他の関係式(例えば指数関数を用いた関係式)を用いてもよい。
【0069】
中間材質供給工程X~Xでは、溶融ガラスGmの粘度10dPa・sの温度変化が、24時間当たり15℃以下であることが好ましく、24時間当たり5℃以下であることがより好ましい。溶融ガラスGmの粘度変化は、中間材質のガラス組成(第k中間材質と第k-1中間材質とのガラス組成差(或いは粘度差))、中間材質の供給量等によって制御できる。溶融ガラスGmの粘度は、例えば、ガラス溶融炉1の排出口1a周辺から採取した溶融ガラスを用いて測定することができる。或いは、清澄室4や均質化室5等に設けられたドレンから採取した溶融ガラスを用いて測定することもできる。或いは、ガラスリボンGから切り出されたガラス板を用いて測定することもできる。
【0070】
各中間材質供給工程X~X(或いは各中間材質供給工程X~X及び最終材質供給工程Y)を行う期間(時間)は、同じであってもよいし異なっていてもよい。同様に、各中間材質供給工程X~X(或いは各中間材質供給工程X~X及び最終材質供給工程Y)における溶融ガラスGmの粘度の変化量は、同じであってもよいし異なっていてもよい。
【0071】
ここで、素地替え工程T2で中間材質供給工程X~Xを行わずに、素地替え工程T2の最初から第二品種のガラス原料Grを供給した場合、第一品種と第二品種との間で大きな粘度差があると、その粘度差に起因して以下の問題が生じ得る。
【0072】
第一に、ガラス溶融炉1内の溶融ガラスGmの急激な粘度変化によって、成形装置3における溶融ガラスGmの流量を適正に制御できず、ガラス板の安定した製造ができなくなるおそれがある。最悪の場合、成形装置3における溶融ガラスGmの流量が暴走し、ガラス板の製造自体ができなくなる。
【0073】
第二に、ガラス溶融炉1内の溶融ガラスGmの急激な粘度変化によって、成形装置3における溶融ガラスGmの流量を適正に制御できず、製造されるガラス板の厚み、幅などのサイズ管理が難しくなる。このようなサイズ不良は、ガラス板の品質の低下を招く。
【0074】
第三に、ガラス溶融炉1内の溶融ガラスGmの急激な粘度変化によりガラス板のサイズ不良が生じることによって、想定していないガラス板と製造設備との接触が生じるおそれがある。このような接触は、製造設備にダメージを与えたり、ガラス板の品質の低下にも繋る。
【0075】
これに対し、本実施形態に係る素地替え工程T2で中間材質供給工程X~Xを行えば、ガラス溶融炉1内の溶融ガラスGmの急激な粘度変化を防止できることから、これらの問題の発生を確実に抑制できる。
【0076】
(第三実施形態)
図示は省略するが、本発明の第三実施形態に係るガラス物品の製造方法が、第一及び第二実施形態と異なるところは、素地替え工程の中間材質供給工程である。
【0077】
第三実施形態に係る中間材質供給工程は、溶融ガラスGmの密度及び/又は粘度を含む特性を評価する特性評価工程と、特性評価工程の結果に基づいて後続の中間材質のガラス組成を調整するガラス組成調整工程とを備えている。第一実施形態及び第二実施形態で説明したように、中間材質供給工程が、複数の中間材質工程から構成される場合、少なくとも一つの中間材質供給工程が、特性評価工程及びガラス組成調整工程を備えていればよいが、全ての中間材質工程が、特性評価工程及びガラス組成調整工程を備えていることが好ましい。
【0078】
特性評価工程における評価対象は、ガラス溶融炉1内の溶融ガラスGmに限定されず、溶融ガラスGmの特性を評価できるものであれば、例えば溶融ガラスGmから製造されたガラス板などであってもよい。
【0079】
ガラス組成調整工程では、各中間材質供給工程で目標とする溶融ガラスGmの特性が達成されるように、中間材質のガラス組成を調整する。具体的には、例えば、目標とする溶融ガラスGmの特性と特性評価工程で得られた特性との差に応じて、上記の式(1)又は式(2)で定めた中間材質のガラス組成を変更する。
【0080】
このようにすれば、中間材質のガラス組成がより緻密に調整されるため、ガラス溶融炉1で生成される溶融ガラスGmの特性が急激に変化するのをより確実に防止できる。
【0081】
特性評価工程は、溶融ガラスのガラス組成を分析する分析工程を含むことが好ましい。ガラス組成の分析方法としては、例えば蛍光X線分析法を用いることができる。
【0082】
このようにすれば、溶融ガラスGmのガラス組成との関係性を予め把握又は予測可能な溶融ガラスGmの特性(例えば粘度)については、分析されたガラス組成から特性を容易に求めることができる。したがって、特性を直接測定するのが難しい場合や、特性の測定に長時間を要する場合などに有利となる。
【0083】
以上、本発明の実施形態に係るガラス物品の製造方法について説明したが、本発明の実施の形態はこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更を施すことが可能である。
【0084】
上記の実施形態では、中間材質供給工程において、溶融ガラスの密度又は粘度が第二品種の対応する特性(密度又は粘度)に漸次接近するように、ガラス組成の異なる複数の中間材質を順に供給する場合を例示したが、これに限定されない。中間材質供給工程では、溶融ガラスの密度及び粘度が第二品種の密度及び粘度に漸次接近するように、ガラス組成の異なる複数の中間材質を順に供給するようにしてもよい。
【0085】
上記の実施形態では、ガラス物品がガラス板である場合を例示したが、ガラス物品は、ディスプレイ用のガラス基板であることが好ましい。つまり、ディスプレイ用のガラス基板においては、画素のピッチずれを抑制するために、ディスプレイ製造時のガラス基板の熱収縮を低減することが要求されている。ガラス基板の熱収縮は、歪点又はガラス転移点に代表される低温粘性特性温度を高くすることで抑制できる。ただし、低温粘性特性温度を高くする目的でガラス組成の改良を行うと、密度や粘度が大きく変化する傾向にある。したがって、低温粘性特性温度を高くする目的でガラス組成の改良を行う場合には、本発明に係る中間材質供給工程を含む素地替え工程を行うことが好ましい。
【0086】
上記の実施形態では、ガラス溶融炉が炉内に一つの溶融空間が形成されたシングルメルターである場合を説明したが、ガラス溶融炉は炉内に複数の溶融空間を連ねたマルチメルターであってもよい。
【0087】
上記の実施形態では、一つの成形装置に向かって延びる一つの移送流路がガラス溶融炉に接続されたシングルフィーダである場合を説明したが、複数の成形装置に向かって延びる複数の移送流路がガラス溶融炉に接続されたマルチフィーダであってもよい。
【0088】
上記の実施形態では、ガラス物品がガラス板である場合を説明したが、これに限定されない。成形装置で成形されるガラス物品は、例えば、ガラスフィルムをロール状に巻き取ったガラスロール、光学ガラス部品、ガラス管、ガラスブロック、ガラス繊維などであってもよいし、任意の形状であってよい。
【実施例0089】
図5及び図6は、本発明の実施例1及び比較例1に係る素地替え工程における素地替え推移の状況を例示するグラフである。これらの図の密度は、ガラスリボンGから切り出されたガラス板を用いて測定した。また、これらの図で密度は、素地替え前の第一品種の密度を基準(ゼロ)として相対値で示す。実施例1及び比較例1では、素地替え前の第一品種及び素地替え後の第二品種は、いずれも、無アルカリガラスであり、素地替え後の第二品種の密度と素地替え前の第一品種の密度の差が約0.120g/cmである。
【0090】
図5に示すように、比較例1に係る溶融工程は、第一品種のガラス原料を供給してガラス溶融炉内で第一品種の溶融ガラスを生成する第一工程S11と、ガラス溶融炉内の溶融ガラスの品種を第一品種から第二品種に変更する素地替え工程S12と、第二品種のガラス原料を供給してガラス溶融炉内で第二品種の溶融ガラスを生成する第二工程S13とを、この順に含む。比較例1に係る素地替え工程S12では、最初から第二品種のガラス原料を供給する。このようにすれば、ガラス溶融炉内の溶融ガラスの密度が、第一品種の密度から第二品種の密度に急激に接近するため、ガラス溶融炉内の溶融ガラスの密度変化が大きくなりすぎる。この場合、溶融ガラスの密度変化に起因して、素地替え工程S12の実行中やその終了後に製造されるガラス板(ガラス物品)の品質が低下したり、ガラス板を安定して製造できなくなるおそれがある。
【0091】
これに対し、図6に示すように、実施例1に係る溶融工程は、第一品種のガラス原料を供給してガラス溶融炉内で第一品種の溶融ガラスを生成する第一工程S1と、溶融ガラスの品種を第一品種から第二品種に変更する素地替え工程S2と、第二品種のガラス原料を供給してガラス溶融炉内で第二品種の溶融ガラスを生成する第二工程(素地替え後の工程)S3とを、この順に含む。実施例1に係る素地替え工程S2は、第二品種のガラス原料(最終材質)を供給する最終材質供給工程Bと、工程Bの前に、第一品種と第二品種との中間材質を供給する中間材質供給工程A~Aを含む。詳細には、実施例1では、第一品種の密度から第二品種の密度までを7分割するために、6回の中間材質供給工程A~Aと、1回の最終材質供給工程Bを行っている。つまり、ガラス原料として、ガラス組成の異なる6種の中間材質を順に供給した後に、第二品種と同じ最終材質を供給している。そして、第一中間材質供給工程Aで目標に対する生地替え率が1/7、第二中間材質供給工程Aで目標に対する生地替え率が2/7、…、第六中間材質供給工程Aで目標に対する生地替え率が6/7、最終材質供給工程Bで目標に対する生地替え率が7/7となるように、各中間材質供給工程A~Aの中間材質を設定する。具体的には、各中間材質供給工程A~Aの中間材質のガラス組成の各成分の含有量は、上記の式(1)を満たすように設定される。このようにすれば、図6に示すように、ガラス溶融炉内の溶融ガラスの密度が、第一品種の密度から第二品種の密度に段階的に接近するため、溶融炉内の溶融ガラスの密度が急激に変化するのを防止できる。これにより、素地替え工程の実行中及び終了後においても、高品質のガラス板(ガラス物品)を安定して製造できる。
【0092】
ここで、比較例1の素地替え工程S12では、溶融ガラスの密度変化が最大で24時間当たり約0.115[g/cm]である。これに対し、実施例1の中間材質供給工程A~Aを含む素地替え工程S2では、溶融ガラスの密度変化が24時間当たり約0.03[g/cm]に抑制されている。
【実施例0093】
図7及び図8は、本発明の実施例2及び比較例2に係る素地替え工程における素地替え推移の状況を例示するグラフである。これらの図の粘度は、ガラスリボンGから切り出されたガラス板を用いて測定した。また、これらの図で粘度は、素地替え前の第一品種の粘度を基準(ゼロ)として相対値で示す。実施例2及び比較例2では、素地替え前の第一品種及び素地替え後の第二品種は、いずれも、無アルカリガラスであり、素地替え前の第一品種の粘度10dPa・sの温度と、素地替え後の第二品種の粘度10dPa・sの温度との差が約75℃である。
【0094】
図7に示すように、比較例2に係る溶融工程は、第一品種のガラス原料を供給してガラス溶融炉内で第一品種の溶融ガラスを生成する第一工程T11と、ガラス溶融炉内の溶融ガラスの品種を第一品種から第二品種に変更する素地替え工程T12と、第二品種のガラス原料を供給してガラス溶融炉内で第二品種の溶融ガラスを生成する第二工程T13とを、この順に含む。比較例2に係る素地替え工程T12では、最初から第二品種のガラス原料を供給する。このようにすれば、ガラス溶融炉内の溶融ガラスの粘度が、第一品種の粘度から第二品種の粘度に急激に接近するため、ガラス溶融炉内の溶融ガラスの粘度変化が大きくなりすぎる。この場合、溶融ガラスの粘度変化に起因して、素地替え工程T12の実行中やその終了後に製造されるガラス板(ガラス物品)の品質が低下したり、ガラス板を安定して製造できなくなったりするおそれがある。また、製造設備のダメージも発生するおそれもある。
【0095】
これに対し、図8に示すように、実施例2に係る溶融工程は、第一品種のガラス原料を供給してガラス溶融炉内で第一品種の溶融ガラスを生成する第一工程T1と、溶融ガラスの品種を第一品種から第二品種に変更する素地替え工程T2と、第二品種のガラス原料を供給してガラス溶融炉内で第二品種の溶融ガラスを生成する第二工程T3とを、この順に含む。実施例2に係る素地替え工程T2は、第二品種のガラス原料(最終材質)を供給する最終材質供給工程Yと、工程Yの前に、第一品種と第二品種との中間材質を供給する中間材質供給工程X~Xを含む。詳細には、実施例2では、第一品種の粘度10dPa・sの温度から第二品種の粘度10dPa・sの温度までを7分割するために、6回の中間材質供給工程X~Xと、1回の最終材質供給工程Yを行っている。つまり、ガラス原料として、ガラス組成の異なる6種の中間材質を順に供給した後に、第二品種と同じ最終材質を供給している。そして、第一中間材質供給工程Xで目標に対する生地替え率が1/7、第二中間材質供給工程Xで目標に対する生地替え率が2/7、…、第六中間材質供給工程Xで目標に対する生地替え率が6/7、最終材質供給工程Yで目標に対する生地替え率が7/7となるように、各中間材質供給工程X~Xの中間材質を設定する。具体的には、各中間材質供給工程X~Xの中間材質のガラス組成の各成分の含有量は、上記の式(2)を満たすように設定される。このようにすれば、第一品種の粘度から第二品種の粘度に段階的に接近するため、ガラス溶融炉で生成される溶融ガラスの粘度が急激に変化するのを防止できる。これにより、素地替え工程の実行中及び終了後においても、製造設備のダメージを抑制しつつ、高品質のガラス板(ガラス物品)を安定して製造できる。
【0096】
ここで、比較例2の素地替え工程T12では、溶融ガラスGmの粘度10dPa・sの温度変化が、最大で24時間当たり約50[℃]である。これに対し、実施例2の中間材質供給工程X~Xを含む素地替え工程T2では、溶融ガラスの粘度10dPa・sの温度変化が、24時間当たり約10[℃]に抑制されている。
【符号の説明】
【0097】
1 ガラス溶融炉
2 移送流路
3 成形装置
4 清澄室
5 均質化室
6 ポット
7 移送管
10 移送管
11 電極
12 原料投入装置
13 煙道
13a ファン
G ガラスリボン
Gm 溶融ガラス
Gr ガラス原料
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8