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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022183906
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】スパッタ付着防止具
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/32 20060101AFI20221206BHJP
【FI】
B23K9/32 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021091429
(22)【出願日】2021-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】500213915
【氏名又は名称】株式会社ワイテック
(71)【出願人】
【識別番号】520200584
【氏名又は名称】株式会社キーレックス・ワイテック・インターナショナル
(71)【出願人】
【識別番号】590000721
【氏名又は名称】株式会社キーレックス
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柿谷 直紀
(57)【要約】
【課題】溶接時のスパッタがナットの内面に付着するのを抑制してスパッタの除去作業を不要にする。
【解決手段】スパッタ付着防止具Aは、ピン状部材20と、ピン状部材20の挿入方向先端部よりも基端部寄りに配設され、ピン状部材20の中心線方向に相対移動可能とされた筒状部材30と、ピン状部材20の挿入方向先端部と筒状部材30との間に配設された弾性材料からなるカバー部材40とを備えている。カバー部材40は、ナット100の端面100bから突出するように位置付けられるとともに、中心線方向の圧縮力によって中心線方向中間部が拡径するように構成されている。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接時に飛散するスパッタがナットのネジ溝に付着するのを抑制するスパッタ付着防止具において、
前記ナットに対して当該ナットの中心線方向一方から挿入可能に形成され、前記ナットへの挿入状態で挿入方向先端部が前記ナットの中心線方向他方の端面から所定量突出するピン状部材と、
前記ピン状部材の挿入方向先端部よりも基端部寄りに配設され、前記ピン状部材を囲む筒状をなすとともに、前記ピン状部材の中心線方向に相対移動可能とされた筒状部材と、
前記ピン状部材の挿入方向先端部と前記筒状部材との間に配設され、前記ピン状部材を囲む筒状をなすとともに弾性材料からなるカバー部材とを備え、
前記カバー部材は、前記ピン状部材の挿入方向先端部が前記ナットの中心線方向他方の端面から前記所定量突出した状態にあるときに、前記ナットの中心線方向他方の端面から突出するように位置付けられるとともに、中心線方向の圧縮力によって中心線方向中間部が拡径するように構成されているスパッタ付着防止具。
【請求項2】
請求項1に記載のスパッタ付着防止具において、
ケーシングを備えており、
前記筒状部材の基端部には、少なくとも一部が前記ケーシングに収容されるとともに前記ケーシングによって支持される被支持部が、前記筒状部材の径方向に延びるように設けられ、該被支持部には、前記筒状部材の中心線方向に貫通する貫通孔が形成され、
前記ピン状部材の基端部には、前記被支持部よりも前記ケーシングの奥側に配置され、前記ピン状部材の径方向に延びるように形成されたベース部が設けられ、
前記ベース部には、前記貫通孔に挿通されて前記ケーシングの外方へ達するまで突出する突出部が設けられているスパッタ付着防止具。
【請求項3】
請求項2に記載のスパッタ付着防止具において、
前記ケーシングには、前記ピン状部材を前記ケーシングの外方へ向けて付勢する第1付勢部材が収容され、
前記第1付勢部材の付勢方向は、前記ピン状部材の中心線に沿う方向に設定されているスパッタ付着防止具。
【請求項4】
請求項2または3に記載のスパッタ付着防止具において、
前記被支持部には、複数の前記貫通孔が前記筒状部材の中心線を挟むようにして設けられ、
前記ベース部には、複数の前記貫通孔にそれぞれ挿通される複数の前記突出部が設けられているスパッタ付着防止具。
【請求項5】
請求項2から4のいずれか1つに記載のスパッタ付着防止具において、
前記筒状部材の前記被支持部は、前記ケーシングの外方へ突出するように形成され、
前記ケーシングには、前記筒状部材を前記ケーシングの外方へ向けて付勢する第2付勢部材が収容され、
前記第2付勢部材の付勢方向は、前記筒状部材の中心線に沿う方向に設定されているスパッタ付着防止具。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1つに記載のスパッタ付着防止具において、
中心線方向の圧縮力が作用していないときの前記カバー部材の外径は、前記ピン状部材の挿入方向先端部近傍に形成された大径部の外径よりも小径に設定されているスパッタ付着防止具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接作業中に周囲に飛散するスパッタが溶接箇所以外の部分に付着するのを防止するスパッタ付着防止具の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
一般に、鋼材等からなる部材を溶接する際には、スパッタが溶接箇所の周囲に飛散して溶接箇所以外の部分に付着する。例えば、ネジ孔を有する部材を溶接する際には、スパッタがネジ孔の内面や中心線方向の端部に位置する傾斜面に付着することがある。こうなるとネジの螺合不良が起こってしまうので、溶接工程の後、ネジ孔の内面や上記傾斜面に付着したスパッタを除去するためにネジさらいを行う必要がある。
【0003】
そこで、例えば特許文献1に開示されているようなスパッタ付着防止具が利用されることがある。特許文献1のスパッタ付着防止具は、ネジ孔に差し込まれるピン状部材と、ピン状部材を軸方向に変位可能に支持するバネとを備えている。バネを備えていることで、ナットの寸法やナットが取り付けられている部材の寸法の相違を許容して、ピン状部材を所定の位置まで挿入することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-202480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1のピン状部材は、多少の芯ずれを許容しながら、ネジ孔へ容易に差し込むことができるように先細形状をなすように形成されるとともに、ネジ孔よりも小径に形成されている。このため、ピン状部材をネジ孔に差し込んだ状態で、ピン状部材の外周面とネジ孔との間に隙間ができてしまい、この隙間へスパッタが侵入してネジ孔の内面や上記傾斜面に付着することがある。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、溶接時のスパッタがナットの内面や上記傾斜面に付着するのを抑制してスパッタの除去作業を不要にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本開示の第1の側面では、溶接時に飛散するスパッタがナットのネジ溝に付着するのを抑制するスパッタ付着防止具を前提とし、スパッタ付着防止具は、前記ナットに対して当該ナットの中心線方向一方から挿入可能に形成され、前記ナットへの挿入状態で挿入方向先端部が前記ナットの中心線方向他方の端面から所定量突出するピン状部材と、前記ピン状部材の挿入方向先端部よりも基端部寄りに配設され、前記ピン状部材を囲む筒状をなすとともに、前記ピン状部材の中心線方向に相対移動可能とされた筒状部材と、前記ピン状部材の挿入方向先端部と前記筒状部材との間に配設され、前記ピン状部材を囲む筒状をなすとともに弾性材料からなるカバー部材とを備えている。前記カバー部材は、前記ピン状部材の挿入方向先端部が前記ナットの中心線方向他方の端面から前記所定量突出した状態にあるときに、前記ナットの中心線方向他方の端面から突出するように位置付けられるとともに、中心線方向の圧縮力によって中心線方向中間部が拡径するように構成されている。
【0008】
この構成によれば、筒状部材をピン状部材の挿入方向先端部に接近する方向へ相対移動させると、ピン状部材の挿入方向先端部と筒状部材との間に配設されたカバー部材には中心線方向に圧縮力が作用するので、当該カバー部材の中心線方向中間部が拡径するように弾性変形する。この圧縮力を除けば、カバー部材の形状が変形前の形状に復元するので、カバー部材を拡径させる前の形状にしたまま、ピン状部材をナットの中心線方向一方から挿入することができる。ピン状部材を挿入すると、ピン状部材の挿入方向先端部がナットの中心線方向他方の端面から所定量突出するとともに、カバー部材もナットの中心線方向他方の端面から突出した状態になる。この状態で、筒状部材をピン状部材の挿入方向先端部に接近する方向へ相対移動させると、上述したようにカバー部材の中心線方向中間部が拡径する。これにより、カバー部材の拡径した部分でナットの開口を閉塞することが可能になるとともに、カバー部材の拡径した部分でナットの端面の一部を覆うことができる。したがって、溶接時にナットの周囲に飛散するスパッタがナットの内部に入りにくくなり、よって、スパッタがナットのネジ溝に付着しにくくなる。
【0009】
本開示の第2の側面では、スパッタ付着防止具はケーシングを備えている。前記筒状部材の基端部には、少なくとも一部が前記ケーシングに収容されるとともに前記ケーシングによって支持される被支持部が、前記筒状部材の径方向に延びるように設けられ、該被支持部には、前記筒状部材の中心線方向に貫通する貫通孔が形成され、前記ピン状部材の基端部には、前記被支持部よりも前記ケーシングの奥側に配置され、前記ピン状部材の径方向に延びるように形成されたベース部が設けられ、前記ベース部には、前記貫通孔に挿通されて前記ケーシングの外方へ達するまで突出する突出部が設けられている。
【0010】
この構成によれば、ピン状部材のベース部に設けられている突出部が筒状部材の被支持部の貫通孔からケーシングの外方へ達するまで突出しているので、ピン状部材をナットへ挿入していくと、突出部がナットへ接近していき、やがてナットまたはナットが取り付けられている板材等に当接する。この状態でケーシングを更に同方向へ移動させると、突出部がナットまたは板材等によって押されるので、ピン状部材の挿入方向先端部が筒状部材に接近する方向に相対移動する。これによりカバー部材の中心線方向中間部を拡径させることができる。つまり、ピン状部材をナットへ挿入する操作を行うだけで、カバー部材の中心線方向中間部を拡径させることができる。
【0011】
本開示の第3の側面では、前記ケーシングには、前記ピン状部材を前記ケーシングの外方へ向けて付勢する第1付勢部材が収容され、前記第1付勢部材の付勢方向は、前記ピン状部材の中心線に沿う方向に設定されている。
【0012】
この構成によれば、ピン状部材をナットへ挿入する前に、当該ピン状部材をケーシングの外方、即ちピン状部材の挿入方向先端部が筒状部材から離れる方向に移動させておくことができるので、カバー部材を変形前の形状にしておくことができる。これにより、ピン状部材及びカバー部材をナットに容易に挿入することができる。
【0013】
そして、ピン状部材及びカバー部材を挿入した後、突出部がナットまたは板材等によって押されると、ピン状部材が第1付勢部材の付勢力に抗してケーシングの奥側へ移動する。これにより、ピン状部材の挿入方向先端部が筒状部材に接近する方向に相対移動するので、カバー部材の中心線方向中間部を拡径させることができる。
【0014】
本開示の第4の側面では、前記被支持部には、複数の前記貫通孔が前記筒状部材の中心線を挟むようにして設けられ、前記ベース部には、複数の前記貫通孔にそれぞれ挿通される複数の前記突出部が設けられている。
【0015】
この構成によれば、ピン状部材をナットに挿入していくと、互いに間隔をあけて設けられた複数の突出部がナットまたは板材等によって押されることになるので、ピン状部材を安定させて移動させることができる。
【0016】
本開示の第5の側面では、前記筒状部材の前記被支持部は、前記ケーシングの外方へ突出するように形成され、前記ケーシングには、前記筒状部材を前記ケーシングの外方へ向けて付勢する第2付勢部材が収容され、前記第2付勢部材の付勢方向は、前記筒状部材の中心線に沿う方向に設定されている。
【0017】
この構成によれば、ピン状部材をナットに挿入すると、筒状部材の被支持部のうち、ケーシングの外方へ突出した部分が、ナットまたはナットが取り付けられている板材等によって押されるので、筒状部材が第2付勢部材の付勢力に抗してケーシングの奥側へ移動する。これにより、ナットや板材の寸法、位置等がばらついていても、そのばらつきに対応するように筒状部材の位置を変化させることができる。
【0018】
本開示の第6の側面では、中心線方向の圧縮力が作用していないときの前記カバー部材の外径は、前記ピン状部材の挿入方向先端部近傍に形成された大径部の外径よりも小径に設定されている。
【0019】
この構成によれば、ピン状部材及びカバー部材をナットへ挿入する際に、カバー部材がナットのネジ溝に引っ掛からないようにすることができ、挿入操作がスムーズに行えるようになる。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、ピン状部材をナットに挿入した状態でカバー部材を拡径させてナットの開口を閉塞することや、ナットの端面の一部を覆うことができるので、溶接時のスパッタがナットの内面や上記傾斜面に付着するのを抑制してスパッタの除去作業を不要にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施形態に係るスパッタ付着防止具の側面図である。
図2】本発明の実施形態に係るスパッタ付着防止具の断面図である。
図3】ピン状部材、筒状部材及びカバー部材の分解図である。
図4】ナット及び板材の断面図である。
図5】ピン状部材及びカバー部材をナットに挿入する途中の状態を示す図2相当図である。
図6】ピン状部材及びカバー部材をナットに完全に挿入した状態を示す図2相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0023】
図1は、本発明の実施形態に係るスパッタ付着防止具Aの側面図であり、図2は、スパッタ付着防止具Aの断面図である。スパッタ付着防止具Aは、図4に示すような金属製のナット100に挿入された状態(挿入状態を図6に示す)で使用される器具であり、溶接時に飛散するスパッタがナット100のネジ溝100aに付着するのを抑制するためのものである。スパッタ付着防止具Aは、例えば産業用ロボット(図示せず)のアーム部に取り付けておき、ロボットによって所望の箇所へ移動させて使用することができる。または、溶接工程の組付け治具上でスライド機構等によりスパッタ付着防止具Aをナット100に抜き差しして使用することもできる。ナット100が複数ある場合には、複数のスパッタ付着防止具Aを同時に使用することができる。また、スパッタ付着防止具Aを、あるナット100で使用した後、別のナット100に使用することもできる。
【0024】
スパッタ付着防止具Aの構造を説明する前に、ナット100及び板材101について説明する。ナット100は、例えば六角ナット等であり、フランジ付きであってもよいし、フランジ無しであってもよい。ナット100の内面にネジ溝100aが形成されている。言い換えると、ナット100の内面(ネジ孔の内面)は、ネジ溝100aで構成されている。
【0025】
この実施形態の説明では、図4に示すように、ナット100の上方の端面を符号100bで示し、ナット100の下方の端面を符号100cで示す。ナット100の中心線方向一方を図4における下方とし、ナット100の中心線方向他方を図4における上方とする。従って、下方の端面100cが中心線方向一方の端面となり、上方の端面100bが中心線方向他方の端面となるが、これは説明の便宜を図るために定義するだけであり、スパッタ付着防止具Aを使用する際のナット100の向きを限定するものではない。ナット100は、その中心線が水平方向に向く姿勢で配置されていてもよいし、傾斜する姿勢で配置されていてもよい。
【0026】
ナット100の中心線方向他方の端面100b及び中心線方向一方の端面100cにはそれぞれネジ孔が開口している。ナット100の中心線方向他方の端面100bにおけるネジ孔の開口周りは、径方向内方へ行くほど下(中心線方向一方)に位置するように傾斜した傾斜面100dで構成されている。この傾斜面100dには、ネジ溝100aが形成されていない。
【0027】
板材101は、金属製であり、貫通孔101aを有している。貫通孔101aは円形であり、ナット100のネジ孔の径(内径)よりも大きく、ナット100の外径よりも小さな径を有している。ナット100は板材101に対して、当該ナット100の中心線が貫通孔101aの中心と一致するように配置された状態で溶接されている。溶接時には、ナット100の中心線方向一方の端面100cを板材101に当接させた状態で溶接する。
【0028】
板材101の形状や大きさは任意に設定することができる。例えば板材101が自動車の部品であってもよく、この場合、板材101は鋼板等で構成される。板材101は、例えばプレス成形品であってもよい。
【0029】
次に、図1図3図5図6に基づいてスパッタ付着防止具Aの構造について説明する。スパッタ付着防止具Aは、ケーシング10と、ピン状部材20と、筒状部材30と、カバー部材40と、第1付勢部材50と、第2付勢部材60とを備えている。これら各部材10、20、30、40、50、60はスパッタ付着防止具Aの近傍で溶接作業が行われた際の熱によって溶けたり、容易に変形しないようになっている。この実施形態の説明では、スパッタ付着防止具Aのピン状部材20の基端側を図1等における下側とし、ピン状部材20の先端側を図1等における上側とするが、スパッタ付着防止具Aの向きは図示した向きに限られるものではなく、例えば、上下が反転した姿勢、傾斜した姿勢、水平方向に延びる姿勢等で使用することもできる。つまり、使用時におけるスパッタ付着防止具Aの姿勢は、ナット100の姿勢に対応させればよい。また、ピン状部材20以外の部材についても、基端側と先端側を上記のように定義する。ピン状部材20の中心線を符号X(図1にのみ示す)で示しており、図1では中心線Xが上下方向に延びている。
【0030】
ケーシング10が上記産業用ロボットのアーム部等に取り付けられる部材となっている。図2に示すように、このケーシング10は、例えば円筒状に成形された本体部材11と、閉塞部材12と、結合部材13とを備えている。本体部材11の中心線は、ピン状部材20の中心線Xと一致しているので、本体部材11の中心線も中心線Xと呼ぶことができる。本体部材11の基端部には、略全体に基端側開口部11aが形成されている。また、本体部材11の先端部には、基端側開口部11aよりも小径の先端側開口部11bが形成されている。基端側開口部11a及び先端側開口部11bを介して本体部材11の内部空間が外部と連通可能になっている。基端側開口部11a及び先端側開口部11bの中心部は、ピン状部材20の中心線X上に位置している。
【0031】
ケーシング10の基端側開口部11aは、円形板状の閉塞部材12によって閉塞されている。閉塞部材12は、結合部材13によって本体部材11に結合されている。結合部材13は、本体部材11の基端部寄りの部分を径方向に貫通するとともに、結合部材13を径方向に貫通している。閉塞部材12を本体部材11に結合する構造は、上述した結合部材13を用いる構造以外の構造、例えばネジ込み構造や圧入構造であってもよい。
【0032】
閉塞部材12における先端側の面(図2における上側の面)には、中心線X方向先端側へ向けて開放した小径凹部12aと、大径凹部12bとが形成されている。小径凹部12aは、平面視で円形状をなしており、その中心部はピン状部材20の中心線X上に位置している。大径凹部12bも平面視で円形状をなしており、その中心部はピン状部材20の中心線X上に位置しているが、小径凹部12aに比べて大径となっている。小径凹部12aは、大径凹部12bの底面の中心部において一段窪むように形成されており、従って、小径凹部12aの底面は、大径凹部12bの底面よりも中心線X方向基端側に位置している。小径凹部12aの底面及び大径凹部12bの底面は、共に中心線Xと直交する平面で構成されている。
【0033】
ピン状部材20は、ナット100に対して当該ナット100の下方から挿入可能に形成された本体部21を有している。本体部21の挿入方向は、ナット100の中心線方向に沿う方向である。本体部21の挿入方向先端部近傍の部分には、当該部分よりも基端側に比べて大径に形成された大径部21aが設けられている。大径部21aの最大径は、ナット100の内径よりも若干小さく設定されている。例えば、大径部21aの外径の方がナット100の内径に比べて0.1~0.5mm程度小さく設定されており、これにより、大径部21aをナット100に挿入する際に多少の芯ずれが起こっていても、大径部21aがナット100に強干渉しないようになる。
【0034】
本体部21の大径部21aよりも先端側の部分は、先端部に近づくほど小径となるように形成されるとともに、本体部21の先端面が湾曲しており、従って、本体部21は先細形状となっている。このことによっても、大径部21aをナット100に挿入する際の芯ずれを許容することができる。本体部21の先端部は、いわゆる砲弾型とすることもできる。
【0035】
また、本体部21の大径部21aには、基端側へ向けて開放した先端溝部21bが形成されている。先端溝部21bは、中心線X周りに環状に延びている。ピン状部材20の本体部21の挿入方向先端部は、ナット100への挿入状態(図6に示す)でナット100の端面100bから所定量(所定寸法ともいう)突出するようになっている。所定量とは、本体部21の大径部21aがナット100の端面100bよりも先端側に位置する量である。
【0036】
本体部21における大径部21aよりも基端側の部分は中心線Xに沿って直線状に延びている。本体部21の基端部には、ピン状部材20の径方向に延びるように形成されたベース部22が設けられている。図3に示すように、ベース部22は、他の部品の組付性を考慮して本体部21とは別体にすることができるが、これに限られるものではなく、一体成形されていて大径部21aが分離可能に構成されていてもよい。ベース部22と本体部21とが別体である場合には、本体部21の基端部をベース部22に締結固定することが可能である。
【0037】
ベース部22は円形の板状をなしている。ベース部22の中心部から本体部21が中心線X方向先端側へ向けて突出するように配置されている。ベース部22の基端側に位置する面には、中心線X方向基端側へ向けて開放したベース側凹部22aが形成されている。ベース側凹部22aは、平面視で円形状をなしており、その中心部は中心線X上に位置している。ベース側凹部22aの内径は、閉塞部材12に設けられている小径凹部12aの内径と略同じに設定されている。ベース側凹部22aの底面(上方へ向けて窪んでいるので上面ともいう)は、中心線Xと直交する平面で構成されている。
【0038】
図2に示すように、ベース部22には、後述する貫通孔に挿通されてケーシング10の外方へ達するまで突出する複数の突出部22bが設けられている。突出部22bは、中心線Xを挟むように位置付けられており、中心線Xと略平行な円柱状または円筒状をなしている。この実施形態では、一対の突出部22bが中心線Xを対称の中心として点対称となるように配置されているが、これに限らず、点対称とならないように配置してもよい。また、突出部22bは、1つだけ設けてもよいし、3つ以上設けてもよい。
【0039】
筒状部材30は、ピン状部材20の挿入方向先端部よりも基端部寄りに配設され、当該ピン状部材20を囲む筒状をなしている。つまり、ピン状部材20の本体部21における大径部21aよりも基端側の部分が筒状部材30に挿通されている。筒状部材30の中心線はピン状部材20の中心線Xと一致しており、筒状部材30の中心線を中心線Xと呼ぶこともできる。また、本体部21における大径部21aよりも基端側の部分の外面と、筒状部材30の内面とは摺動可能になっており、筒状部材30がピン状部材20の中心線X方向に相対移動可能となっている。
【0040】
筒状部材30の基端部には、少なくとも一部がケーシング10に収容されるとともに当該ケーシング10によって支持される被支持部31が設けられている。被支持部31と、ピン状部材20のベース部22との相対的な位置関係は、ベース部22が被支持部31よりもケーシング10の奥側(中心線X方向基端側)に配置されるようになっている。被支持部31は、筒状部材30の径方向(中心線Xの径方向)に延びる円形の板状をなしている。被支持部31の中心線X方向基端側は、先端側に比べて大径に形成された大径部31dとなっている。この大径部31dがケーシング10の本体部材11に収容されており、本体部材11の内面によって支持されている。また、本体部材11の先端側開口部11bが小径となっているので、この先端側開口部11bの周縁部に、筒状部材30の大径部31dがケーシング10の内方から引っ掛かるようにして係合する。これにより、筒状部材30の大径部31dがケーシング10に収容された状態で支持され、筒状部材30のケーシング10からの脱落が防止される。また、筒状部材30の大径部31dがケーシング10に支持された状態で、筒状部材30はケーシング10に対して中心線X方向に相対移動可能となっている。
【0041】
被支持部31の基端側の面には、小径凹部31aと、大径凹部31bとが形成されている。小径凹部31aは、平面視で円形状をなしており、その中心部はピン状部材20の中心線X上に位置している。大径凹部31bも平面視で円形状をなしており、その中心部はピン状部材20の中心線X上に位置しているが、小径凹部31aに比べて大径となっている。大径凹部31bの内径は、閉塞部材12に形成されている大径凹部12bの内径と略同じである。小径凹部31aは、ピン状部材20のベース部22が嵌まるように形成されている。尚、小径凹部31aを省略してもよい。
【0042】
被支持部31には、筒状部材30の中心線方向に貫通する複数の貫通孔31cが形成されている。貫通孔31cの数は、ベース部22に形成されている突出部22bの数と一致しており、この実施形態では一対の貫通孔31cが形成されている。また、一対の貫通孔31cの位置は、突出部22bの位置と一致しており、中心線Xを挟むように(中心線Xを対称の中心として点対称に)配置されている。ベース部22の複数の突出部22bは、それぞれ、対応する貫通孔31cへ中心線X方向基端側から挿通されている。突出部22bの外面は、貫通孔31cの内面に対して摺接するようになっており、中心線X方向の相対移動が可能である。貫通孔31cは、突出部22bを中心線X方向に案内する案内孔であってもよい。また、筒状部材30の先端部には、先端側へ向けて開放した溝部30aが形成されている。溝部30aは、先端溝部21bと同様に中心線X周りに環状に延びている。
【0043】
ケーシング10には、ピン状部材20をケーシング10の外方へ向けて付勢する第1付勢部材50が収容されている。第1付勢部材50の付勢方向は、ピン状部材20の中心線Xに沿う方向に設定されており、先端側へ向かっている。第1付勢部材50は、例えばコイルスプリングやゴム、ゴム状弾性体等で構成することができるが、この実施形態では中心線X方向に延びるコイルスプリングとしている。第1付勢部材50の先端部は、ベース部22に設けられているベース側凹部22aに収容された状態で保持されている。第1付勢部材50の基端部は、閉塞部材12に設けられている小径凹部12aに収容された状態で保持されている。
【0044】
また、ケーシング10には、筒状部材30をケーシング10の外方へ向けて付勢する第2付勢部材60が収容されている。第2付勢部材60の付勢方向は、筒状部材30の中心線Xに沿う方向に設定されており、先端側へ向かっている。第2付勢部材60は、例えばコイルスプリングやゴム、ゴム状弾性体等で構成することができるが、この実施形態では中心線X方向に延びるコイルスプリングとしている。第2付勢部材60の径は、第1付勢部材50の径よりも大きく設定されており、第2付勢部材60の内方に第1付勢部材50が配置されている。これにより、2つの付勢部材50、60をコンパクトにまとめることができる。
【0045】
第1付勢部材50のばね定数と、第2付勢部材60のばね定数とを比較した時、第1付勢部材50のばね定数の方が低く設定されている。その理由は後述するが、カバー部材40を確実に圧縮変形させるためである。尚、第1付勢部材50のばね定数と、第2付勢部材60のばね定数とは同じであってもよいし、第2付勢部材60のばね定数の方が低く設定されていてもよい。
【0046】
第2付勢部材60の先端部は、筒状部材30に設けられている大径凹部31bに収容された状態で保持されている。第2付勢部材60の基端部は、閉塞部材12に設けられている大径凹部12bに収容された状態で保持されている。
【0047】
カバー部材40は、ピン状部材20の挿入方向先端部と筒状部材30との間に配設されている。具体的には、カバー部材40は、ピン状部材20の本体部21における大径部21aよりも基端側の部分を囲む筒状をなしており、弾性材料で構成されている。カバー部材40を構成する材料としては、例えばシリコンゴム等を挙げることができるが、これに限らず、近傍で溶接された際の熱によって損傷しない程度の耐熱性を有するゴム材料等であってもよい。カバー部材40の肉厚は、中心線方向先端部から基端部まで同一であってもよいし、途中で変化していてもよい。
【0048】
カバー部材40の中心線はピン状部材20の中心線Xと略一致している。したがって、カバー部材40の中心線は中心線Xと呼ぶこともできる。カバー部材40の中心線X方向先端部は、先端溝部21bに嵌入しており、また、カバー部材40の中心線X方向基端部は、溝部30aに嵌入している。これにより、カバー部材40の先端部と基端部とをそれぞれピン状部材20と筒状部材30とに保持することができる。尚、カバー部材40の先端部と基端部とをそれぞれピン状部材20と筒状部材30とに突き当てるようにしてもよい。
【0049】
カバー部材40にはピン状部材20の一部が挿通されているので、カバー部材40に対して中心線方向の圧縮力が作用すると、中心線方向中間部が拡径するように弾性変形する。カバー部材40の圧縮変形量が大きくなればなるほど、カバー部材40の最大径が大きくなる。拡径した時のカバー部材40の最大径は、当該カバー部材40の肉厚や長さ等で設定することができるが、この実施形態では、図6に示すように、カバー部材40の拡径した部分によってナット100の傾斜面100dが全周に渡って覆われるように設定されている。
【0050】
中心線方向の圧縮力が作用していないときのカバー部材40の外径、即ち形状が復元したときのカバー部材40の外径は、ピン状部材20の挿入方向先端部近傍に形成された大径部21aの外径よりも小径に設定されている。これにより、ナット100へ挿入する際に、カバー部材40がナット100に干渉し難くなる。
【0051】
カバー部材40の中心線X方向の位置は、ピン状部材20の長さや筒状部材30の長さ等によって設定することができる。この実施形態では、カバー部材40は、ピン状部材20の挿入方向先端部がナット100の端面100bから所定量突出した状態(以下、突出状態という)にあるときに、当該ナット100の端面100bから突出するように位置付けられる。具体的には、ピン状部材20が上記突出状態にあるとき、カバー部材40の少なくとも中心線X方向中央部がナット100の端面100bから突出するように、カバー部材40の位置を設定することができる。
【0052】
図2に示すように、第1付勢部材50及び第2付勢部材60が縮んでいない状態(以下、初期状態という)では、ベース部22に設けられている突出部22bと、筒状部材30に設けられている被支持部31の大径部31dよりも先端側部分とが、ケーシング10の先端側開口部11bから先端側(ケーシング10の外方)へ向けて突出するように位置付けられる。この初期状態では、カバー部材40には、当該カバー部材40を拡径させるほどの圧縮力は作用していないので、直管形状となっている。また、突出部22bの先端部は、被支持部31の先端面よりも中心線X方向先端側へ向けて突出している。突出部22bの先端部と、被支持部31の先端面との中心線X方向の距離が長ければ長いほど、カバー部材40の圧縮変形量を大きくすることができる。カバー部材40の圧縮変形量は、上述した図6に示すように設定されている。
【0053】
(スパッタ付着防止具Aの使用方法)
次に、スパッタ付着防止具Aの使用方法について説明する。スパッタ付着防止具Aを例えば上記ロボットのアーム部に取り付けた後、図5に示すようにピン状部材20を板材101の貫通孔101aに挿入するとともに、ナット100に挿入していく。このとき、カバー部材40が直管形状であるため、貫通孔101aの周縁部やナット100の内面に引っ掛かり難くなっている。尚、ピン状部材20を挿入する際、スパッタ付着防止具Aを移動させてもよいし、ナット100及び板材101を移動させてもよい。
【0054】
ピン状部材20を挿入していくと、まず、ベース部22の突出部22bの先端部が板材101に当接する。当接した時点で、ピン状部材20の挿入方向先端部がナット100の端面100bから上記所定量突出している。ピン状部材20を更に挿入していくことで、突出部22bが板材101によって基端側へ向けて押され、第1付勢部材50の付勢力に抗してピン状部材20が基端側へ移動する。このとき、筒状部材30を付勢している第2付勢部材60の付勢力は第1付勢部材50の付勢力よりも大きいので、筒状部材30は初期状態のときと同じ位置に留まっている。つまり、第1付勢部材50のばね定数の方が低く設定されていることで、筒状部材30を変位させることなく、ピン状部材20だけを変位させることが可能になる。
【0055】
ピン状部材20が筒状部材30に対して基端側へ移動すると、カバー部材40には中心線X方向の圧縮力が作用する。これにより、図6に示すように、カバー部材40の中心線方向中間部が拡径し、カバー部材40の拡径した部分によってナット100の傾斜面100dが全周に渡って覆われる。また、カバー部材40が弾性部材からなるものなので、拡径した部分がナット100の傾斜面100dに全周に渡って密着し、ナット100が閉塞される。したがって、溶接時にナット100の周囲に飛散するスパッタがナット100の内部、即ちネジ溝100aに入りにくくなる。
【0056】
また、スパッタ付着防止具Aをピン状部材20の挿入方向へ向けて更に移動させると、被支持部31の先端側に位置する面が板材101に当接する。そして、第2付勢部材60の付勢力に抗して筒状部材30がピン状部材20と共に基端側へ移動する。これにより、ナット100や板材101の寸法、位置等がばらついていても、そのばらつきに対応するように筒状部材30の位置を変化させることができる。
【0057】
尚、この実施形態では、板材101側からピン状部材20を挿入する場合について説明したが、これに限らず、板材101と反対側からピン状部材20を挿入してもよい。この場合、カバー部材40の拡径した部分によって板材101の貫通孔101aを閉塞することができる。
【0058】
(実施形態の作用効果)
以上説明したように、本実施形態に係るスパッタ付着防止具Aによれば、ピン状部材20をナット100に挿入した状態でカバー部材40を拡径させてナット100の開口を閉塞することや、ナット100の端面100bの一部を覆うことができるので、溶接時のスパッタがナット100の内面に付着するのを抑制してスパッタの除去作業を不要にすることができる。
【0059】
上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0060】
以上説明したように、本発明に係るスパッタ付着防止具は、例えばナットを有する部材の近傍で溶接が行われる場合に利用することができる。
【符号の説明】
【0061】
10 ケーシング
20 ピン状部材
21a 大径部
22 ベース部
22b 突出部
30 筒状部材
31 被支持部
31c 貫通孔
40 カバー部材
50 第1付勢部材
60 第2付勢部材
100 ナット
100a ネジ溝
A スパッタ付着防止具
図1
図2
図3
図4
図5
図6