(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022183909
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】ペン入力装置用カバー部材、及びペン入力装置
(51)【国際特許分類】
G06F 3/041 20060101AFI20221206BHJP
C03C 19/00 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
G06F3/041 460
C03C19/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021091432
(22)【出願日】2021-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】弁理士法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】木下 沢泉
【テーマコード(参考)】
4G059
【Fターム(参考)】
4G059AA01
4G059AC01
(57)【要約】
【課題】本発明は優れた書き心地を実現できるペン入力装置用カバー部材等を提供する。
【解決手段】ペン入力装置10におけるディスプレイ装置30の前面側に配置されるガラス基板20であって、ガラス基板20の主面20aに、200gfの荷重を与えた1.4mmφのエラストマー製の摩擦子であるペン先51を、室温下、移動距離50mm、移動速度50mm/sの条件下で100回往復運動させた際の、15回目の動作時における動摩擦係数μk15と85回目の動作時における動摩擦係数μk85との比であるμk85/μk15が、1.40以下である。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペン入力装置におけるディスプレイ装置の前面側に配置されるペン入力装置用カバー部材であって、
当該ペン入力装置用カバー部材の主面に、200gfの荷重を与えた1.4mmφのエラストマー製の摩擦子を、室温下、移動距離50mm、移動速度50mm/sの条件下で100回往復運動させた際の、15回目の動作時における動摩擦係数μk15と85回目の動作時における動摩擦係数μk85との比であるμk85/μk15が、1.40以下であることを特徴とするペン入力装置用カバー部材。
【請求項2】
前記ペン入力装置用カバー部材は、少なくとも一方の主面に凹凸形状を有し、
前記凹凸形状は、高域フィルタλcのカットオフ値λc1を、粗さ曲線要素の平均長さの5倍の値とし、且つ低域フィルタλsのカットオフ値λs1を27μmとした場合、最大高さ粗さRzaが3~2000nm、且つ粗さ曲線要素の平均長さRSmaが100~5000μmであり、高域フィルタλcのカットオフ値λc2を14μmとし、且つ低域フィルタλsのカットオフ値λs2を0.35μmとした場合、算術平均高さSaが0.5~50nm、最大高さ粗さRzbが10~290nm、且つ粗さ曲線要素の平均長さRSmbが0.01~10μmであることを特徴とする請求項1に記載のペン入力装置用カバー部材。
【請求項3】
前記ペン入力装置用カバー部材は化学強化処理されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のペン入力装置用カバー部材。
【請求項4】
請求項1~請求項3の何れか一項に記載のペン入力装置用カバー部材と、ディスプレイ装置と、ペン入力を検出する検出回路とを備えることを特徴とするペン入力装置。
【請求項5】
前記ペン入力装置用カバー部材の主面に接触しながら移動することにより、前記ペン入力装置に対するペン入力を行う入力ペンを備えることを特徴とする請求項4に記載のペン入力装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペン入力装置用カバー部材、及びペン入力装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、入力ペンを用いて、ユーザーが文字及び図形等の入力操作を画面上にて手書きで行うことができるペン入力装置が知られている。
【0003】
このようなペン入力装置においては、液晶ディスプレイ等によるディスプレイ装置の前面側に、ガラス基板等で構成された透明なカバー部材が配置されており、当該カバー部材の表面において入力ペンを接触及び移動させることで、様々な入力操作を行うことが可能となっている。
【0004】
ここで、ペン入力装置のカバー部材としてガラス基板を用いた場合、ガラス基板の表面は、一般的に凹凸が小さく滑らかに形成されているため、カバー部材(ガラス基板)の表面に入力ペンを接触させて移動させた際に、当該入力ペンのペン先が滑ってしまい、書き心地が悪いという問題が生じていた。
【0005】
そこで、入力ペンの滑りやすさを防止するために、高い摩擦係数を有するエラストマー材のペン先を用いることが、特許文献1に開示されている。
また、特許文献2には、エッチング処理によってガラス表面に微小な凹凸をつけることにより摩擦力を増加させて、書き心地を向上させたカバーガラス(カバー部材)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-173955号公報
【特許文献2】国際公開第2015/072297号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2に記載されたようなカバー部材に対してエラストマー材のペン先を用いた場合、カバー部材の表面に入力ペンを繰り返し接触させて移動させた際の、ペン先とカバー部材との間の摩擦力が高くなるため、ペン先に摩耗が発生し易くなっていた。この場合、ペン先の摩耗が進んで摩耗度合いが大きくなると、ペン先とカバー部材との間の摩擦力が高くなり過ぎて、書き心地が損なわれることがあった。
【0008】
本発明は、以上に示した現状の問題点に鑑みてなされたものであり、入力ペンによりペン入力装置に対して連続して入力操作を行った場合においても、ペン先とカバー部材との間の摩擦力の増加を抑制してペン先に生じる摩耗を軽減し、優れた書き心地を実現することができる入力装置用カバー部材、及びペン入力装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するペン入力装置用カバー部材、及びペン入力装置は、以下の特徴を有する。
【0010】
即ち、本発明に係るペン入力装置用カバー部材は、ペン入力装置におけるディスプレイ装置の前面側に配置されるペン入力装置用カバー部材であって、当該ペン入力装置用カバー部材の主面に、200gfの荷重を与えた1.4mmφのエラストマー製の摩擦子を、室温下、移動距離50mm、移動速度50mm/sの条件下で100回往復運動させた際の、15回目の動作時における動摩擦係数μk15と85回目の動作時における動摩擦係数μk85との比であるμk85/μk15が、1.40以下であることを特徴とする。
このような構成を有することにより、本発明に係るペン入力装置用カバー部材によれば、高い摩擦係数を有する摩擦子をペン先に用いた入力ペンによるペン入力装置への繰り返しの入力操作においてペン先に生じる摩耗を抑制して、ペン先の摩耗による摩擦力の増加を低減でき、優れた書き心地を実現することができる。
【0011】
本発明に係るペン入力装置用カバー部材において、前記ペン入力装置用カバー部材は、少なくとも一方の主面に凹凸形状を有し、前記凹凸形状は、高域フィルタλcのカットオフ値λc1を、粗さ曲線要素の平均長さの5倍の値とし、且つ低域フィルタλsのカットオフ値λs1を27μmとした場合、最大高さ粗さRzaが3~2000nm、且つ粗さ曲線要素の平均長さRSmaが100~5000μmであり、高域フィルタλcのカットオフ値λc2を14μmとし、且つ低域フィルタλsのカットオフ値λs2を0.35μmとした場合、算術平均高さSaが0.5~50nm、最大高さ粗さRzbが10~290nm、且つ粗さ曲線要素の平均長さRSmbが0.01~10μmであることが好ましい。
このような構成を有することにより、本発明に係るペン入力装置用カバー部材によれば、入力ペンによるペン入力装置への入力操作においてペン先の摩耗を抑制して、摩耗が進むことによる摩擦力の増加を低減でき、優れた書き心地を実現することができる。
【0012】
また、本発明に係るペン入力装置用カバー部材において、前記ペン入力装置用カバー部材は、化学強化処理されていることが好ましい。
このような構成を有することにより、本発明に係るペン入力装置用カバー部材によれば、ペン入力装置自体の耐久性が向上するとともに、カバー部材の耐傷性が向上し、ペン先の摩耗抑制効果を持続させることができる。
【0013】
そして、本発明に係るペン入力装置は、上述した何れかのペン入力装置用カバー部材と、ディスプレイ装置と、ペン入力を検出する検出回路とを備えることを特徴とする。
また、本発明に係るペン入力装置は、前記ペン入力装置用カバー部材の主面に接触しながら移動することにより、前記ペン入力装置に対するペン入力を行う入力ペンを備えることを特徴とする。
このような構成を有することにより、本発明に係るペン入力装置によれば、入力ペンによるペン入力装置への入力操作において、ペン先の摩耗を抑制することができ、優れた書き心地を実現することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、入力ペンによるペン入力装置への入力操作において、ペン先の摩耗を抑制することができ、優れた書き心地を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】主面の測定断面曲線、うねり成分の凹凸、及び微小凹凸を示す図である。
【
図3】高域フィルタλc及び低域フィルタλsのカットオフ値を説明するための図であって、波長と振幅伝達率との関係を示す図である。
【
図4】摩擦係数測定装置を示す図であって、(a)は側面図であり、(b)は正面図である。
【
図5】一定荷重を印可したペン先を一定速度で100回往復移動させた際の時間tと摩擦係数μとの関係を示した図である。
【
図6】
図5に示した往復移動において、15回目の往復運動または85回目の往復運動における時間tと摩擦係数μの関係を拡大して示した図である。
【
図7】実施例である試料1について往復運動を100回行った場合の時間tと摩擦係数μとの関係を示す図である。
【
図8】比較例である試料10について往復運動を100回行った場合の時間tと摩擦係数μとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明に係るペン入力装置用カバー部材、及びペン入力装置を実施するための形態を、添付の図面を用いて説明する。
【0017】
なお、以下の説明に関しては便宜上、
図4(a)及び
図4(b)中に示した各矢印の方向によって、摩擦係数測定装置101の上下方向、前後方向、及び左右方向を各々規定して記述する。
【0018】
[ペン入力装置10の全体構成]
先ず、ペン入力装置10の全体構成について、
図1を用いて説明する。
ペン入力装置10は、本発明に係るペン入力装置用カバー部材を備えたペン入力装置の一実施形態である。
ペン入力装置10は、映像を表示するディスプレイ装置の一例であるディスプレイ素子30、ディスプレイ素子30の前面側に配置されるカバー部材としてのガラス基板20、ディスプレイ素子30の背面側に配置されるデジタイザ回路40、及び入力ペン50などを備える。
また、ガラス基板20は、本発明に係るペン入力装置用カバー部材の一例であり、デジタイザ回路40は、本発明に係るペン入力を検出する検出回路の一例である。
【0019】
なお、上記の記載において、ディスプレイ素子30の「前面側」とは、映像が表示される側を意味し、ディスプレイ素子30の「背面側」とは、映像が表示される側の反対側を意味する。
本実施形態においては、例えば、ディスプレイ素子30の「前面側」は、
図1中における紙面上方側となり、ディスプレイ素子30の「後面側」は、
図1中における紙面下方側となる。
【0020】
ペン入力装置10は、ガラス基板20の主面20a(ガラス基板20に対してディスプレイ素子30側とは反対側の面)に対して、入力ペン50を接触させた状態で移動させることにより、文字及び図形などのペン入力(入力操作)を行うことが可能な構成となっている。ペン入力装置10の例示としては、例えばタブレット端末が挙げられる。
【0021】
ここで、上記タブレット端末は、表示機能、及びペン入力機能の双方を備えたペン入力用表示装置を広く意味し、タブレットPC、モバイルPC、スマートフォン、及びゲーム機などの機器を含むものである。
【0022】
ガラス基板20は、少なくとも一方の主面(本実施形態においては、上記の主面20a)に凹凸形状が形成された、透明なガラス板により形成されている。
また、ガラス基板20は、凹凸形状が形成された主面20aが、入力ペン50が接触する側の面となるように配置されている。
【0023】
ここで、ガラス基板20としては、例えばアルミノシリケートガラス、またはホウケイ酸ガラスなどからなるガラス板を用いることができる。
なお、ガラス基板20の詳細については後述する。
【0024】
デジタイザ回路40は、入力ペン50による入力操作を検出する、検出センサを備えている。
また、入力ペン50は、鉛筆やボールペンなどの筆記具に似た形状の入力器具であり、ガラス基板20と接触する摩擦子の一例であるペン先51を有し、当該ペン先51が、エラストマー材の合成樹脂材で構成されている。なお、ペン先51としてPOMなどの合成樹脂材、またはフェルトなどを用いても良い。
【0025】
入力ペン50において、エラストマー材からなるペン先51であれば、微細な凹凸形状によって、ガラス基板の主面20aに対して接触面積を低減することができる。
従って、入力ペン50のペン先51を、凹凸形状が形成されたガラス基板20の主面20aに接触させて移動させた場合、ペン先51の摩耗を低減することができ、繰り返し使用における摩擦係数の増加を抑制することができる。
【0026】
なお、本実施形態においては、ペン入力装置用カバー部材としてガラス基板20を用いているが、これに限定されるものではなく、例えば、合成樹脂により形成され、少なくとも一方の主面に凹凸形状が形成された樹脂基板を、ペン入力装置用カバー部材として用いることも可能である。
この場合、当該樹脂基板の凹凸形状は、例えば、樹脂基板の主面にウェットブラスト等のブラスト加工を施したり、樹脂基板の主面にエンボス加工を施したりすることにより形成することが可能である。
【0027】
また、凹凸形状が表面に形成された樹脂層を、ガラス基板の少なくとも一方の主面に積層させたものを、ペン入力装置用カバー部材として用いることも可能である。
この場合、当該カバー部材は、凹凸形状が表面に形成された樹脂シートを、ガラス基板の主面に貼り付けることにより構成することができる。
【0028】
なお、上記樹脂シートの凹凸形状は、例えば、樹脂シートの表面にエンボス加工を施したり、粉粒体を混入させた合成樹脂をシート状に形成したりすることにより形成することができる。
また、上記樹脂層は、合成樹脂をガラス基板の主面にスプレーにて吹き付けて形成することも可能である。
【0029】
但し、ペン入力装置用カバー部材としてガラス基板20を用いた場合は、上述した樹脂基板や、ガラス基板の主面に樹脂層を形成したものなどを用いた場合に比べて、表面(特に、入力ペン50のペン先51と接触する主面)の硬度が高くなるため、表面に傷が付き難い点で有利である。
【0030】
[ガラス基板20の構成]
次に、ガラス基板20の構成について、
図1及び
図2を用いて詳細に説明する。
前述したように、ガラス基板20は、本発明に係るペン入力装置用カバー部材の一実施形態である。
図1において、ガラス基板20の主面20aには、凹凸形状が形成されている。
【0031】
ガラス基板20は、上記凹凸形状が形成された主面20a上に、200gfの荷重を与えた1.4mmφのエラストマー製の摩擦子を、室温下、移動距離50mm、移動速度50mm/sの条件下で100回往復運動させた際の、15回目の動作時における動摩擦係数μk15と85回目の動作時における動摩擦係数μk85との比であるμk85/μk15が、1.40以下になるように構成されている。
【0032】
ここで、上記の動摩擦係数μk15及び動摩擦係数μk85は、それぞれ15回目及び85回目の往復運動における動摩擦係数の平均値である。
本実施形態においては、μk85/μk15が1.40以下に設定されているが、1.39に設定されるのが好ましく、1.38に設定されるのがさらに好ましい。
【0033】
動摩擦係数の比μk85/μk15を、上記の範囲に設定するのは、以下の理由による。
即ち、動摩擦係数の比μk85/μk15が1.40を超える場合、ペン先51を繰り返し使用する際に当該ペン先51の摩耗が激しく、ペン先51を形成する材料の表層の剥離により現れた新生面が原因となって、ペン先51に高い凝着力が発生するという現象が連続的に現れる。これにより、ペン先51の連続使用において摩擦力が高くなり過ぎて、書き心地が損なわれることがある。
【0034】
一方、動摩擦係数の比μk85/μk15が1.40以下である場合には、入力ペン50によるペン入力装置10への繰り返しの入力操作において、ペン先51に生じる摩耗を抑制して、ペン先51の摩耗による摩擦力の増加を低減でき、優れた書き心地を実現することができる。
【0035】
図2に示すように、ガラス基板20の主面20aに形成される凹凸形状は、うねり成分の凹凸、及び微小凹凸からなる大小2種類の凹凸により構成されている。
うねり成分の凹凸は、最大高さ粗さRzaが3~2000nmであり、且つ粗さ曲線要素の平均長さRSmaが100~5000μmである。
また、微小凹凸は、算術平均高さSaが0.5~50nmであり、最大高さ粗さRzbが10~290nmであり、且つ粗さ曲線要素の平均長さRSmbが0.01~10μmである。
【0036】
ここで、本願における最大高さ粗さ(Rza及びRzb)及び粗さ曲線要素の平均長さ(RSma及びRSmb)は、JISB0601 2013に準拠し、算術平均高さSaは、ISO 25178に準拠する。
【0037】
うねり成分の凹凸の最大高さ粗さRzaは、微小凹凸の算術平均高さSaに比べて、大きな値となることが好ましい(Rza>Sa)。
また、うねり成分の凹凸の最大高さ粗さRzaは、微小凹凸の算術平均高さSaに対して、1.1~500倍の値となることがより好ましい(Rza=Sa×(1.1~500))。
【0038】
ここで、うねり成分の凹凸において、最大高さ粗さRzaは、当該うねり成分の凹凸における最も高い山の高さと最も深い谷の深さの和である。
また、うねり成分の凹凸の粗さ曲線要素の平均長さRSmaは、所定の基準長さにおける当該凹凸の各周期長さXaの平均である(RSma=(Xa1+Xa2+・・・+Xan)/n)。
【0039】
一方、微小凹凸において、算術平均高さSaは、所定の面における凹凸の山の高さZa、及び谷の深さZbの絶対値の平均である(Sa=((|Za1|+|Za2|+・・・+|Zan|)+(|Zb1|+|Zb2|+・・・+|Zbn|))/2n)。
また、微小凹凸の最大高さ粗さRzbは、所定の基準長さにおける当該微小凹凸の最も高い山の高さRpと、最も深い谷の深さRvとの和である(Rzb=Rp+Rv)。
また、微小凹凸の粗さ曲線要素の平均長さRSmbは、所定の基準長さにおける当該微小凹凸の各周期長さXbの平均である(RSmb=(Xb1+Xb2+・・・+Xbn)/n)。
【0040】
そして、
図2及び
図3に示すように、上述したうねり成分の凹凸における最大高さ粗さRza及び粗さ曲線要素の平均長さRSmaの値は、主面20aの測定断面曲線から長波長成分を遮断するための高域フィルタλcのカットオフ値λc1を、粗さ曲線要素の平均長さRSmaの5倍の値に設定し、且つ主面20aの測定断面曲線から短波長成分を遮断するための低域フィルタλsのカットオフ値λs1を、27μmに設定した場合に得られる粗さ曲線から評価される値である。
つまり、ガラス基板20の主面20aに形成される凹凸形状は、高域フィルタλcのカットオフ値λc1を、粗さ曲線要素の平均長さRSmaの5倍の値とし、且つ低域フィルタλsのカットオフ値λs1を27μmとした場合、最大高さ粗さRzaが3~2000nm、且つ粗さ曲線要素の平均長さRSmaが100~5000μmのうねり成分として発現する。
【0041】
また、上述した微小凹凸における算術平均高さSa、最大高さ粗さRzb、及び粗さ曲線要素の平均長さRSmbの値は、主面20aの測定断面曲線から長波長成分を遮断するための高域フィルタλcのカットオフ値λc2を14μmに設定し、且つ主面20aの測定断面曲線から短波長成分を遮断するための低域フィルタλsのカットオフ値λs2を0.35μmとした場合に得られる粗さ曲線から評価される値である。
つまり、ガラス基板20の主面20aに形成される凹凸形状は、高域フィルタλcのカットオフ値λc2を14μmとし、且つ低域フィルタλsのカットオフ値λs2を0.35μmとした場合、算術平均高さSaが0.5~50nm、最大高さ粗さRzbが10~290nm、且つ粗さ曲線要素の平均長さRSmbが0.01~10μmの微小凹凸として発現する。
【0042】
このように、ガラス基板20の主面20aに形成される凹凸形状は、うねり成分の凹凸、及び微小凹凸により構成され、連続的に繋がる微小凹凸が波状に起伏することにより、うねり成分の凹凸の形状が形成される。
【0043】
本実施形態におけるペン入力装置10(
図1を参照)においては、ガラス基板20の主面20aにおける、うねり成分の凹凸の形状、及び微小凹凸の形状が、それぞれ上述した条件の範囲内にて形成されていることにより、ディスプレイ素子30(同じく、
図1を参照)の視認性を保持しつつ、入力ペン50の書き心地を向上させることが可能となっている。
また、このようなうねり成分の凹凸及び微小凹凸を、上述した条件の範囲内で構成された凹凸形状とすることにより、当該凹凸形状による散乱光の干渉によってスパークリングと呼ばれるギラつきが発生することを、抑制することができる。
さらに、本実施形態においては、ガラス基板20の主面20aに樹脂層が形成されておらず、当該主面20aに対して直接的に凹凸形状が形成されているため、耐傷性が高く、傷が付き難いことから、ディスプレイ素子30の視認性を低下させることがない。
【0044】
ところで、うねり成分の凹凸は、ガラス基板20の主面20aと、入力ペン50のペン先51との接触状態に影響する。
即ち、ペン先51は、ガラス基板20の主面20aに対して、主にうねり成分の凹凸における凸部と接触し、うねり成分の凹凸における凹部とは接触し難い。
つまり、うねり成分の凹凸が、上述した条件の範囲内にて形成されていることにより、ガラス基板20の主面20aと、入力ペン50のペン先51との接触面積の低減を図ることができる。
【0045】
よって、入力ペン50のペン先51を、凹凸形状が形成されたガラス基板20の主面20aに接触させて移動させた場合、当該ペン先51と主面20aとの間に発生する摩耗を低減することができる。
【0046】
ここで、上述したように、本実施形態においては、うねり成分の凹凸における最大高さ粗さRza(
図2を参照)の上限値が2000nmに設定されているが、当該上限値は、1000nmに設定されるのが好ましく、500nmに設定されるのがより好ましく、200nmに設定されるのがさらに好ましく、100nmに設定されるのが特に好ましく、50nmに設定されるのが最も好ましい。
また、本実施形態においては、上記最大高さ粗さRzaの下限値が3nmに設定されているが、当該下限値は4nmに設定されるのが好ましく、5nmに設定されるのがさらに好ましい。
【0047】
さらに、上述したように、本実施形態においては、うねり成分の凹凸における粗さ曲線要素の平均長さRSmaの上限値が5000μmに設定されているが、当該上限値は4000μmに設定されるのが好ましく、3000μmに設定されるのがより好ましく、2000μmに設定されるのがさらに好ましく、1500μmに設定されるのが特に好ましい。
【0048】
うねり成分の凹凸において、最大高さ粗さRzaの上限値及び下限値を上記の範囲に設定するのは、以下の理由による。
即ち、うねり成分の凹凸において、最大高さ粗さRzaの上限値が少なくとも2000nmを超える場合、光の散乱が大きくなり過ぎてガラス基板20の表面(主面20a)が白濁することに加え、摩擦子であるペン先51のうねり成分の凸部での切削摩擦が大きくなり、ペン先51の摩耗が大きくなる。
また、うねり成分の凹凸において、最大高さ粗さRzaの下限値が少なくとも3nmに満たない場合、上述したようなガラス基板20の主面20aと入力ペン50のペン先51との接触面積の低減による効果が十分に得られず、摩耗低減効果が低下する。
【0049】
微小凹凸は、ガラス基板20の主面20aと、入力ペン50のペン先51との間の真実接触部における接触面積に寄与し、ひいては主面20aとペン先51との間の摩擦力に寄与する。また、上記摩擦力の寄与は、ペン先51の材質によって変化する。
【0050】
具体的には、低弾性率の材料であるエラストマー製のペン先51の場合、ガラス基板20の主面20aが平らであればあるほど凝着力による大きな摩擦力が生じ、ガラス基板20の主面20aに対して、ペン先51が滑り難くなる。
この場合、ガラス基板20の主面20aに微小凹凸を付与することにより、当該主面20aと入力ペン50のペン先51との接触面積の低減を図ることができる。従って、ガラス基板20の主面20aに対して、ペン先51を適度に滑り易くすることができ、入力ペン50によるペン入力装置10への入力操作においてペン先51の摩耗を低減することができる。これにより、ペン先51の摩耗が進むことによる摩擦力の増加を低減でき、優れた書き心地を実現することができる。
【0051】
一方、ポリアセタールのような硬い材質からなるペン先51の場合、ガラス基板20の主面20aが平らであればあるほど摩擦力が低下し、ガラス基板20の主面20aに対して、ペン先51が滑り易くなる。
これに対しては、ガラス基板20の主面20aに微小凹凸を付与することにより、当該主面20aに対して、入力ペン50のペン先51を引掛り易くすることができる。これにより、主面20aとペン先51との間の摩擦力が増加し、ガラス基板20の主面20aに対して、ペン先51を適度に滑り難くすることができる。この場合、微小凹凸を上述した範囲内にすることによって、入力ペン50によるペン入力装置10への入力操作においてペン先51の摩耗を抑制することができる。これにより、ペン先51の摩耗が進むことによる摩擦力の増加を低減でき、優れた書き心地を実現することができる。
【0052】
なお、フェルトのような材質からなるペン先51の場合、上述したポリアセタール製のペン先51に似た挙動を示し、ガラス基板20の主面20aに微小凹凸を付与することにより、当該主面20aに対して入力ペン50のペン先51が引掛り易くなる。これにより、主面20aとペン先51との間の摩擦力が増加し、ガラス基板20の主面20aに対して、ペン先51を適度に滑り難くすることができる。この場合においても、微小凹凸を上述した範囲内にすることによって、入力ペン50によるペン入力装置10への入力操作においてペン先51の摩耗を抑制することができる。これにより、ペン先51の摩耗が進むことによる摩擦力の増加を低減でき、優れた書き心地を実現することができる。
【0053】
このように、ガラス基板20の主面20aに微小凹凸を付与することにより、様々な材質(エラストマー、ポリアセタール、及びフェルト)からなる入力ペン50のペン先51に対して、当該ペン先51が主面20a上で滑ることを適度に抑制し、または主面20a上での当該ペン先51の滑り難さを適度に調整させることができる。これにより、入力ペン50によるペン入力装置10への入力操作においてペン先51の摩耗を抑制して、摩耗が進むことによる摩擦力の増加を低減でき、入力ペン50による書き心地を、優れたものにすることができる。
【0054】
ここで、上述したように、本実施形態においては、微小凹凸の算術平均高さSaの上限値が50nmに設定されているが、当該上限値は40nmに設定されるのが好ましく、30nmに設定されるのがさらに好ましく、20nmに設定されるのが特に好ましく、10nmに設定されるのが最も好ましい。
また、微小凹凸の算術平均高さSaの下限値が0.5nmに設定されているが、当該下限値は1nmに設定されるのが好ましく、1.5nmに設定されるのがさらに好ましい。
【0055】
また、上述したように、本実施形態においては、微小凹凸の最大高さ粗さRzbの上限値が290nmに設定されているが、当該上限値は200nmに設定されるのが好ましく、100nmに設定されるのがさらに好ましく、80nmに設定されるのが特に好ましく、50nmに設定されるのが最も好ましい。
また、微小凹凸の最大高さ粗さRzbの下限値が10nmに設定されているが、当該下限値は12nmに設定されるのが好ましく、14nmに設定されるのがさらに好ましい。
【0056】
さらに、上述したように、本実施形態においては、微小凹凸の粗さ曲線要素の平均長さRSmbの上限値が10μmに設定されているが、当該上限値は8μmに設定されるのが好ましく、5μmに設定されるのがさらに好ましい。
また、微小凹凸の粗さ曲線要素の平均長さRSmbの下限値が0.01μmに設定されているが、当該下限値は0.1μmに設定されるのが好ましく、0.5μmに設定されるのがさらに好ましく、1μmに設定されるのが特に好ましく、2μmに設定されるのが最も好ましい。
【0057】
また、ガラス基板20の主面20aは、上述のエラストマー及びポリアセタールなどの合成樹脂材、フェルト、並びにフェルトと合成樹脂材の複合材料など、凹凸に対して摩擦力を調整可能な材質によって構成されているペン先51に対して、書き心地が特に優れたものとなっている。
【0058】
図1において、ガラス基板20は、当該ガラス基板20を介してディスプレイ素子30の映像を見たときの、映像の視認性の観点から、透明性に関する指標で曇度を表すヘイズが、可視光の波長域(380nm~780nm)において10%未満となることが好ましい。
ガラス基板20のヘイズを10%未満とすることで、ガラス基板20の透明度を保持することができ、ディスプレイ素子30の視認性を保持することができる。
【0059】
また、ガラス基板20の主面20aには、入力ペン50が接触する側の反射率を低下させるための反射防止膜、または指紋の付着を防止し、撥水性、撥油性を付与するための防汚膜を形成することができる。
【0060】
上記の反射防止膜は、ガラス基板20をペン入力装置10のカバー部材として使用する場合には、少なくともガラス基板20の表側(入力ペン50が接触する側)の主面20aに有する。また、ガラス基板20とディスプレイ素子30との間に隙間がある場合には、ガラス基板20の裏側(ディスプレイ素子30側)の主面20bにも反射防止膜を有することが好ましい。
【0061】
反射防止膜としては、例えばガラス基板20よりも屈折率が低い低屈折率膜、または相対的に屈折率が低い低屈折率膜と相対的に屈折率が高い高屈折率膜とが交互に積層された誘電体多層膜が用いられる。反射防止膜は、スパッタリング法、真空蒸着法、またはCVD法などにより形成することができる。
【0062】
ガラス基板20の主面20aに反射防止膜を有する場合、当該反射防止膜の表面の凹凸が、上述の表面粗さ(うねり成分の凹凸の最大高さ粗さRza、及び粗さ曲線要素の平均長さRSma、並びに微小凹凸の算術平均高さSa、最大高さ粗さRzb、及び粗さ曲線要素の平均長さRSmb)の範囲となるように、ガラス基板20の主面20aの凹凸形状が形成される。
また、ガラス基板20の主面20aに反射防止膜を有する場合、反射防止膜を有するガラス基板20のヘイズが、上述の範囲となるように、ガラス基板20の主面20aの凹凸形状が形成される。
【0063】
なお、反射防止膜を形成した後において、微小凹凸の粗さ曲線要素の算術平均高さSa、最大高さ粗さRzb、及び平均長さRSmbを測定する場合は、10nmのAu膜を形成し、その後これらの値を測定する。
【0064】
上記の防汚膜は、ガラス基板20をペン入力装置10のカバー部材として使用する場合には、ガラス基板20の表側(入力ペン50が接触する側)の主面20aに形成する。また、防汚膜は、主鎖中にケイ素を含む含フッ素重合体を含むことが好ましい。
【0065】
含フッ素重合体としては、例えば、主鎖中に、-Si-O-Si-ユニットを有し、且つ、フッ素を含む撥水性の官能基を側鎖に有する重合体を用いることができる。含フッ素重合体は、例えばシラノールを脱水縮合することにより合成することができる。
【0066】
なお、ガラス基板20の表側の主面20aに反射防止膜と防汚膜とを形成する場合には、ガラス基板20の主面20a上に反射防止膜を形成し、反射防止膜上に防汚膜を形成する。
【0067】
ガラス基板20の主面20aに防汚膜を有する場合、またはガラス基板20の主面20aに反射防止膜と防汚膜とを有する場合、防汚膜の表面の凹凸が、上述の表面粗さ(うねり成分の凹凸の最大高さ粗さRza、及び粗さ曲線要素の平均長さRSma、並びに微小凹凸の算術平均高さSa、最大高さ粗さRzb、及び粗さ曲線要素の平均長さRSmb)の範囲となるように、ガラス基板20の主面20aの凹凸形状が形成される。
また、ガラス基板20の主面20aに防汚膜を有する場合、またはガラス基板20の主面20aに反射防止膜と防汚膜とを有する場合、防汚膜を形成した後のガラス基板20のヘイズ、または反射防止膜と防汚膜とを形成した後のガラス基板20のヘイズが、上述の範囲となるように、ガラス基板20の主面20aの凹凸形状が形成される。
【0068】
また、ガラス基板20は、化学強化処理されていることが好ましい。
化学強化処理は、アルカリ金属を含む溶融塩中にガラス基板を浸漬させ、ガラス基板の最表面に存在する原子径の小さなアルカリ金属(イオン)を、溶融塩中に存在する原子径の大きなアルカリ金属(イオン)と置換する技術の総称を言う。化学強化処理されたガラス基板の表面には、処理前の元の原子よりも原子径の大きなアルカリ金属(イオン)の原子が配置される。例えば、ガラス基板がナトリウム(Na)を含む場合、このナトリウムは化学強化処理の際に、溶融塩(例えば硝酸塩)中で、例えばカリウム(K)と置換される。このため、ガラス基板の表面に圧縮応力層を形成することができ、これによりガラス基板の強度を向上することが可能となる。
【0069】
従って、ガラス基板20に化学強化処理を行うことで、ペン入力装置10自体の耐久性が向上するとともに、カバー部材としてのガラス基板20の耐傷性が向上し、ペン先51の摩耗抑制効果を持続させることができる。
【0070】
[ガラス基板20の製造方法]
次に、ガラス基板20の製造方法について、
図1を用いて説明する。
ガラス基板20の少なくとも一方の主面20aに形成される凹凸は、当該主面20aにウェットブラスト処理、化学エッチング処理、及びシリカコーティング処理などの処理方法を、少なくとも1種類以上組み合わせて行うことにより形成される。
【0071】
ウェットブラスト処理は、アルミナなどの個体粒子にて構成される砥粒と、水などの液体とを均一に攪拌してスラリーとしたものを、圧縮エアを用いて噴射ノズルから、ガラスからなるワークに対して高速で噴射することにより、当該ワークに微細な凹凸を形成する処理である。
また、スラリーを噴射するノズルとして、スラリーの噴射口の面積をワークの面積に対して小さく絞った丸ノズルを用い、この丸ノズルをワークに対して相対運動させることにより、様々な表面形状を形成させることができる。
【0072】
ウェットブラスト処理においては、高速に噴射されたスラリーがワークに衝突した際に、スラリー内の砥粒がワークの表面を削ったり、叩いたり、こすったりすることにより、ワークの表面に微細な凹凸が形成されることとなる。
この場合、ワークに噴射された砥粒や、砥粒により削られたワークの破片は、ワークに噴射された液体によって洗い流されるため、ワークに残留する粒子が少なくなる。
【0073】
また、ノズルをワークに対して任意に走査させて、ワークの表面に部分的にスラリーを噴射することにより、微小凹凸を形成することができる。
ガラス基板20は、うねり成分の凹凸、及び微小凹凸からなる凹凸形状が表面に形成されたワークを、所望の大きさや形状に切断等して調製することにより得られる。
【0074】
ウェットブラスト処理によってワークの主面に形成される、微小凹凸の表面粗さ(算術平均高さSa、最大高さ粗さRzb、及び粗さ曲線要素の平均長さRSmb)は、主にスラリーに含まれる砥粒の粒度分布と、スラリーをワークに噴射する際の噴射圧力とにより調整可能である。
また、うねり成分の凹凸の最大高さ粗さRza及び粗さ曲線要素の平均長さRSmaは、スラリーを噴射するノズルのサイズ、送りピッチ幅、送り速度、噴射圧、及び砥粒サイズにより調整可能である。
【0075】
ウェットブラスト処理においては、スラリーをワークに噴射した場合、液体が砥粒をワークまで運ぶため、微細な砥粒を使用することができるとともに、砥粒がワークに衝突する際の衝撃が小さくなり、精密な加工を行うことが可能である。
このように、ワークに対してウェットブラスト処理を施すことで、ガラス基板20の主面20aに、適度なうねり成分の凹凸と、微小凹凸とを形成し易く、ガラス基板20の透明度を損なうことがない。
【0076】
また、乾式ブラスト処理を施すことにより、ガラス基板20の主面20aに凹凸形状を形成することも可能である。
【0077】
なお、化学エッチング処理は、ガラス基板20の主面20aを、フッ化水素(HF)ガス、またはフッ化水素酸によって化学エッチングする処理である。
【0078】
また、シリカコーティング処理は、ガラス基板20の主面20aに、シリカ前駆体等のマトリックス前駆体、及びマトリックス前駆体を溶解する液状媒体を含むコーティング剤を、ガラス基板20の主面20aに塗布し、加熱する処理である。
【実施例0079】
次に、大小2種類の凹凸(うねり成分の凹凸、及び微小凹凸)からなる凹凸形状が一方の主面20aに形成された、ガラス基板20の実施例について、
図4~
図8を用いて説明する。なお、ガラス基板20の構成については、以下に示すものに限定されるものではない。
【0080】
[試料の作製]
本実施例においては、ガラス基板20の実施例として試料1~9を各々作製し、これらの実施例に対する比較例として、試料10~11を各々作製した。
なお、これらの試料1~11に用いたガラス基板20としては、厚さが0.55mmのアルカリ含有アルミノシリケートガラスを使用した。
【0081】
実施例となる試料1~9のガラス基板20に対しては、ウェットブラスト処理を施すことにより、一方の主面20aに、微小凹凸からなる凹凸形状を形成した。
具体的には、試料1~9の各々のガラス基板20を略垂直姿勢の状態で配置し、粒度が♯8000のアルミナからなる砥粒3wt%と、水と、分散剤とを均一に攪拌してスラリーを調製し、調製したスラリーを、処理圧力0.23MPaのエアを用いて丸ノズルから噴射させた状態で、当該丸ノズル0.5~10mm/sの速度にて移動させながら、各ガラス基板20の一方の主面20aの全体に対して走査させることによりウェットブラストを施した。
なお、各々のガラス基板20を略垂直姿勢の状態で配置したのは、主面20aの全体に噴き付けられたスラリーが、局所的に留まるのを防ぐためである。
【0082】
ここで、ウェットブラストを施す丸ノズルは、スラリーの噴射口の断面積を、各ガラス基板20の主面20aの面積に対して小さく絞り、当該主面20aに対して、スラリーを部分的に噴射するノズルである。
うねり成分の凹凸における粗さ曲線要素の平均長さRSmaは、丸ノズルの走査速度を変更することで可変させた。
また、うねり成分の凹凸における最大高さ粗さRzaは、丸ノズルの走査速度を変えることで可変させた。
さらに、微小凹凸における算術平均高さSaは、丸ノズルの走査速度を変更することで可変させた。
なお、上記の砥粒としては、多角形状を有する砥粒を用いた。
【0083】
比較例となる試料10のガラス基板20に対しては、一方の主面20aに処理を施していない。つまり、試料10のガラス基板20は、未処理である。
【0084】
比較例となる試料11のガラス基板20に対しては、一方の主面20aにSiO2成分を含む液体を噴射することにより塗布し、塗布したSiO2成分を含む液体を乾燥させることにより、当該主面20aにSiO2コーティング膜を形成した。つまり、試料11のガラス基板20には、SiO2コーティングを施した。
【0085】
[表面粗さの測定]
先ず始めに、試料1~11のガラス基板20における主面20aの表面粗さを測定した。
表面粗さの測定は、試料1~9についてはウェットブラスト処理を施した主面20aに対して行い、試料10については一方の主面20aに対して行い、試料11についてはSiO2コーティングを施した主面20aに対して行った。
【0086】
測定した表面粗さのパラメータは、うねり成分の凹凸に関しては、最大高さ粗さRza、及び粗さ曲線要素の平均長さRSmaであり、微小凹凸に関しては、算術平均高さSa、最大高さ粗さRzb、及び粗さ曲線要素の平均長さRsmbであり、表面粗さの測定は、白色干渉顕微鏡を用いて行った。用いた白色干渉顕微鏡は、Zygo社製の白色干渉顕微鏡(製品名:New View 7300)である。
【0087】
うねり成分の凹凸の測定条件は、対物レンズ2.5倍、ズームレンズ0.5倍を使用し、測定エリア5658×4244μmの領域に対して、カメラ画素数が640×480、積算回数1回となるように設定した。
また、うねり成分の凹凸における最大高さ粗さRza、及び粗さ曲線要素の平均長さRSmaを測定する際の、高域フィルタλcのカットオフ値λc1は、当該粗さ曲線要素の平均長さRSmaの間隔の5倍に設定し、低域フィルタλsのカットオフ値λs1は27μmに設定した。
【0088】
一方、微小凹凸の測定条件は、対物レンズ50倍、ズームレンズ2倍を使用し、測定エリア74×55μmの領域に対して、カメラ画素数が640×480、積算回数10回となるように設定した。
また、算術平均高さSa、最大高さ粗さRzb、及び粗さ曲線要素の平均長さRSmbを測定する際の、高域フィルタλcのカットオフ値λc2は14μmに設定し、低域フィルタλsのカットオフ値λs2は0.35μmに設定した。
【0089】
[表面粗さの測定結果]
試料1~11について行った、表面粗さの測定結果について説明する。
表1に測定結果を示す。
【0090】
【0091】
表1に示すように、うねり成分の凹凸における粗さ曲線要素の平均長さRsmaは、実施例である試料1~9については、500~1000μmの範囲内の数値であった。
また、うねり成分の凹凸における最大高さ粗さRzaは、実施例である試料1~9については、8~35nmの範囲内の数値であった。
これに対して、比較例である未処理の試料10、及びSiO2コーティングを施した試料11については、うねり成分の凹凸自体が形成されていなかった。
【0092】
一方、微小凹凸における算術平均高さSaは、実施例である試料1~9については、1.8~5.8nmの範囲内の数値であった。
これに対して、比較例である試料10~11においては、未処理の試料10の算術平均高さSaは0.1nmと小さかった。なお、SiO2コーティングを施した試料11の算術平均高さSaは47.5nmであった。
【0093】
また、微小凹凸における最大高さ粗さRzbは、実施例である試料1~9については、15.8~45.3nmの範囲内の数値であった。
これに対して、比較例である試料10~11においては、未処理の試料10の最大高さ粗さRzbは0.9nmと小さく、SiO2コーティングを施した試料11の最大高さ粗さRzbは296.1nmと大きかった。
【0094】
さらに、微小凹凸における粗さ曲線要素の平均長さRsmbは、実施例である試料1~9については、2.2~4.3μmの範囲内であり、比較例である試料10については0.9μmであり、比較例である試料11については9.9μmであった。
【0095】
[往復運動による動摩擦係数μkの測定]
次に、試料1~11のガラス基板20における主面20aの動摩擦係数μkを往復運動により測定し、各々のガラス基板20のペン先の摩耗度合いを評価した。
ここで、動摩擦係数μkの測定については、以下に示す摩擦係数測定装置101を新たに構築し、当該摩擦係数測定装置101を用いて実施した。
【0096】
即ち、
図4(a)に示すように、摩擦係数測定装置101は、測定対象であるガラス基板20を水平姿勢の状態で保持しつつ、当該ガラス基板20とともに前後方向に往復移動可能に設けられる可動式定盤部110、及び摩擦子であるペン先51を、ガラス基板20の上面(主面20a)に当接させた状態で保持するペン先保持部120などを備える。
【0097】
可動式定盤部110は、水平状に設けられる第一定盤111、第一定盤111の直上において当該第一定盤111と平行に配置される第二定盤112、これらの第一定盤111及び第二定盤112の間に介装される六軸力覚センサ113、第一定盤111の移動方向を規制するリニアガイド114、並びに第一定盤111を前後方向に往復移動させる一軸アクチュエータ機構115などにより構成される。
【0098】
そして、第二定盤112の上面にガラス基板20を載置して固定し、一軸アクチュエータ機構115によって第一定盤111を可動させることにより、当該ガラス基板20は、前後方向に繰り返し往復移動される。
また、上記の往復移動に伴い、ガラス基板20と、当該ガラス基板20の上面(主面20a)に当接されたペン先51との間に発生した摩擦力は、六軸力覚センサ113によって検知される。
【0099】
なお、六軸力覚センサ113については、レプトリノ社製の六軸力覚センサ(製品名:FFS080YA501)を用いることとした。
また、一軸アクチュエータ機構115については、サーボモータ115aと連結するTHK社製のLMガイドアクチュエータ(製品名:SKR26-2-110)を用いることとした。
【0100】
ペン先保持部120は、可動式定盤部110によるガラス基板20の往復移動の方向、即ち前後方向に延出する支持部材121、支持部材121の延長方向中央部において当該支持部材121を上下方向に回動可能に軸支する軸受122、支持部材121の前端部に設けられるペン先取付け治具123、支持部材121の後端部に設けられるバランスウエイト124、及びペン先取付け治具123の直上に設けられる負荷ウエイト125などにより構成される。
【0101】
ペン先取付け治具123は、支持部材121の前端部において下方に延出するようにして設けられ、左右方向から見て、ガラス基板20の上面(主面20a)に対して直交し、且つ
図4(b)に示すように、前後方向(即ち、可動式定盤部110によるガラス基板20の往復移動の方向)から見て、ガラス基板20の上面(主面20a)との傾斜角度θが60°となるように、傾斜した状態にて支持されている。
【0102】
そして、軸受122を支点とする、支持部材121の前端部(ペン先取付け治具123)及び後端部の各々のモーメントが釣り合うように、バランスウエイト124の重量は設定されている。
換言すると、負荷ウエイト125が未だ設けられていない状態において、支持部材121は、バランスウエイト124によって水平姿勢に保持された状態となっており、ペン先取付け治具123の下端部に装着されるペン先51は、ガラス基板20の上面(主面20a)に対して、略押圧することなく接することが可能となっている。
【0103】
負荷ウエイト125は、ペン先取付け治具123の下端部に装着されるペン先51の直上に設けられ、自身の全荷重がペン先51の先端部(下端部)に作用するように配置されている。
【0104】
以上のような構成からなる動摩擦係数測定装置101を用いて、試料1~11のガラス基板20における主面20aの動摩擦係数μkを測定した。
具体的には、摩擦子であるペン先51として、エラストマー製のペン先を有するワコム社製の替え芯(製品名:エラストマー芯(ACK-20004)、ペン先の直径:約1.4mm)を用いることとし、凹凸形状が形成された主面20aを上面として、ガラス基板20を第二定盤112に固定した後、各ペン先51を、試料面(ガラス基板の主面20a)に対して60°傾斜し、且つ上記往復移動の方向に対して90°直立した状態となるようにして、ペン先取付け治具123に装着した。
次に、200gfの負荷ウエイト125を取付け、ペン先51に当該荷重を負荷させた。
【0105】
そして、一軸アクチュエータ機構115を可動させ、ガラス基板20の往復移動を行うとともに、六軸力覚センサ113によって、当該往復移動によって発生する摩擦力の動摩擦係数μkを測定した。
【0106】
なお、ガラス基板20の往復移動における諸条件として、移動速度は50mm/sに設定し、移動距離は50mmに設定し、且つ往復回数は100回に設定することとした。
また、
図5に示すように、動摩擦係数μkの測定値については、繰り返し入力の初期値として15往復目の値を動摩擦係数μk15として採用し、また、繰り返し入力の終盤の値として85往復目の値を動摩擦係数μk85として採用することとした。
動摩擦係数μk15は、100回往復運動させた際の、15回目の動作時における動摩擦係数である。動摩擦係数μk85は、100回往復運動させた際の、85回目の動作時における動摩擦係数である。
【0107】
さらに、
図6に示すように、動摩擦係数μkの測定値については、往方向の動摩擦係数を平均した値(μk往)と、復方向の動摩擦係数を平均した値(μk復)とをそれぞれ読み取り、往方向の値(μk往)の絶対値と、復方向の値(μk復)の絶対値との平均値を採用することにした。
【0108】
なお、動摩擦係数μkの測定は、それぞれの測定結果のばらつきを考慮し、同一試料に対して3回測定を行った。各試料表面の清浄度を同じ状態にするため、毎回、測定前に試料表面をエタノールで拭き取った。
【0109】
[動摩擦係数μk15、及びμk85の測定結果]
試料1~11について行った、動摩擦係数μk15、及びμk85の測定結果について説明する。
表2に測定結果を示す。
【0110】
【0111】
表2に示すように、実施例である試料1~9については、それぞれ、エラストマー製のペン先51である場合の85回目の動摩擦係数μk85と15回目の動摩擦係数μk15との比であるμk85/μk15が、1.07~1.38の範囲内の数値であった。
【0112】
これに対して、比較例である未処理の試料10については、エラストマー製のペン先51である場合の85回目の動摩擦係数μk85と15回目の動摩擦係数μk15との比であるμk85/μk15が、1.43~1.51の数値であった。
また、比較例であるSiO2コーティングを施した試料11については、エラストマー製のペン先51である場合の85回目の動摩擦係数μk85と15回目の動摩擦係数μk15との比であるμk85/μk15が、1.43~1.50の数値であった。
【0113】
[ペン先の摩耗の評価]
次に、試料1~11について、往復回数100回の往復運動後のペン先の摩耗度合いについて観察した。
評価方法としては、100回往復試験後の試料面(ガラス基板の主面20a)を観察し、試料面における試験痕の有無から以下に示す2段階で評価を行った。
〇:目視にて試料面に試験痕は確認できなかった、×:目視にて試料面に試験痕が確認できた。
【0114】
[ペン先の摩耗の評価結果]
試料1~11について行った、ペン先の摩耗の評価結果について説明する。
上記の表2に測定結果を示す。
【0115】
表2に示すように、ペン先の摩耗の有無については、実施例である試料1~9については、全て〇となった。
これに対して、比較例である未処理の試料10については×となり、比較例であるSiO2コーティングを施した試料11については×となった。
【0116】
[各試料の総合評価]
以上の結果から、実施例である試料1~9については、入力ペン50のエラストマー製ペン先51が接する主面20aに形成された、うねり成分の凹凸及び微小凹凸によって、ペン先51とガラス基板20の主面20a間の接触面積を低減できたため、高い凝着力によるペン先51の摩耗を抑制でき、結果として往復運動下において摩擦力が増加することを抑制できた。例えば、
図7に示すように、試料1について往復運動を100回行った場合の動摩擦係数μkを見ると、往復回数が増えても動摩擦係数μkがあまり増加していないことがわかる。
【0117】
一方、未処理の比較例である試料10については、入力ペン50が接する主面20aの凹凸が小さく、エラストマー製のペン先51とガラス基板20の主面20a間に高い凝着力が生じたため、ペン先51の摩耗が激しく、結果として往復運動下において摩擦力が増加した。例えば、
図8に示すように、試料10について往復運動を100回行った場合の動摩擦係数μkを見ると、往復回数が増えるにつれて動摩擦係数μkが増加しており、動摩擦係数μkの増加度合いが
図7に示す試料1の場合と比べて大きいことがわかる。
【0118】
また、SiO2コーティングを施した比較例である試料11については、大きな凹凸により、エラストマー製のペン先51とガラス基板20の主面20a間に大きな切削摩擦が生じたため、ペン先51の摩耗が激しく、結果として往復運動下において摩擦力が増加した。