IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東邦チタニウム株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-撹拌機及び、金属の製造方法 図1
  • 特開-撹拌機及び、金属の製造方法 図2
  • 特開-撹拌機及び、金属の製造方法 図3
  • 特開-撹拌機及び、金属の製造方法 図4
  • 特開-撹拌機及び、金属の製造方法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022183912
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】撹拌機及び、金属の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25C 7/00 20060101AFI20221206BHJP
   C25C 3/28 20060101ALI20221206BHJP
   C25C 7/06 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
C25C7/00 302Z
C25C3/28
C25C7/06 302
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021091436
(22)【出願日】2021-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】金子 拓実
(72)【発明者】
【氏名】中條 雄太
(72)【発明者】
【氏名】山本 仁
【テーマコード(参考)】
4K058
【Fターム(参考)】
4K058BA10
4K058BB05
4K058CB04
4K058CB05
4K058CB06
4K058CB17
4K058CB26
4K058CB27
4K058DD27
4K058DD30
(57)【要約】      (修正有)
【課題】メンテナンス性に優れ、長期間使用が可能であり、溶融塩浴を良好に撹拌できる撹拌機、及び金属の製造方法を提供する。
【解決手段】回転方向に間隔をおいて設けた複数枚の羽根部を有し、溶融塩浴中に浸漬させるインペラー2と、溶融塩浴の外部の駆動源からインペラー2に回転駆動力を伝達する回転軸部3と、回転軸部3の周囲を取り囲む軸スリーブ4と、内部にインペラー2が収容されたインペラーケース5と、インペラーケース5に回転軸部3の軸方向の外側から接続され、溶融塩をインペラーケース5内に導く吸引筒部6と、インペラー2の外周側でインペラーケース5に接続され、インペラーケース5内から溶融塩を排出させる排出筒部7とを備え、軸スリーブ4のインペラーケース5に連結されるスリーブ端部4aに、回転軸部3を回転可能に保持する軸受部8が設けられ、軸受部8の周囲で軸方向の内側に延びる貫通孔10が形成された撹拌機1である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融塩浴の撹拌に使用される撹拌機であって、
回転方向に間隔をおいて設けた複数枚の羽根部を有し、溶融塩浴中に浸漬させるインペラーと、
溶融塩浴の外部の駆動源から前記インペラーに回転駆動力を伝達する回転軸部と、
回転軸部の周囲を取り囲む軸スリーブと、
内部にインペラーが収容されたインペラーケースと、
インペラーケースに回転軸部の軸方向の外側から接続され、溶融塩浴の溶融塩をインペラーケース内に導く吸引筒部と、
インペラーの外周側でインペラーケースに接続され、インペラーケース内から溶融塩を排出させる排出筒部と
を備え、
前記軸スリーブの、前記インペラーケースに連結されるスリーブ端部に、前記回転軸部を回転可能に保持する軸受部が設けられるとともに、前記軸受部の周囲で当該軸受部よりも軸方向の内側に延びる少なくとも一箇所の貫通孔が形成されてなる撹拌機。
【請求項2】
前記貫通孔が、前記スリーブ端部の周方向に互いに間隔をおいて複数箇所形成されてなる請求項1に記載の撹拌機。
【請求項3】
前記インペラーの各羽根部が、前記回転軸部の周囲で半径方向に湾曲して延びる形状を有する請求項1又は2に記載の撹拌機。
【請求項4】
前記排出筒部が前記インペラーケースに、半径方向に対して傾斜する向きで接続されてなる請求項1~3のいずれか一項に記載の撹拌機。
【請求項5】
溶融塩浴で電極を用いて電気分解を行い、第四族元素から選択される少なくとも一種を含む金属を製造する方法であって、
請求項1~4のいずれか一項に記載の撹拌機を使用する、金属の製造方法。
【請求項6】
前記金属がチタンを含む、請求項5に記載の金属の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、溶融塩浴の撹拌に使用される撹拌機及び、金属の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
周期表の第四族元素に属する金属としては、チタン、ジルコニウム、ハフニウム等がある。なかでもチタンは、高強度や耐食性等の優れた特性の故に、様々な分野の製品に使用される。そのような金属を製造するには、箔状のものを比較的低コストで得るため、溶融塩浴で電気分解を行う溶融塩電解が採用されることがある。
【0003】
溶融塩電解に関し、特許文献1には、「高温の溶融塩の組成や温度分布を均一化し、膜厚のばらつきのない炭化物被覆層を得ることができる竪型高温塩浴炉および溶融塩の攪拌方法を提供すること」を目的として、「被加工材を高温の溶融塩中に浸漬して塩浴処理を行う竪型高温塩浴炉であって、前記溶融塩を入れた容器内の底部から溶融塩の液面付近にわたって配置される、上部および下部に開口を有する筒状のケーシングと、前記ケーシング内に配置される、攪拌翼を備えた攪拌具と、前記攪拌具を回転させる動力源および駆動機構部と、を有することを特徴とする、竪型高温塩浴炉」が提案されている。
【0004】
特許文献2は、「高温の溶融物を取り扱う回転翼式ポンプに関し、特に、Ca還元によるTiの製造方法を実施するにあたり、必要な箇所(工程)に溶融CaCl2を供給する際に使用される回転翼式ポンプ」について記載されたものである。具体的には、「650~1000℃の高温溶融物用の回転翼式ポンプであって、ポンプ本体に複数の溶融物吐出口が設けられていることを特徴とする回転翼式ポンプ」が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-222598号公報
【特許文献2】国際公開第2009/048022号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
溶融塩電解等で溶融塩浴の温度を均一にするため、溶融塩浴を撹拌することが望ましい場合がある。例えば、箔状のチタンを溶融塩電解で製造する場合、溶融塩浴の温度がチタンの剥離性に影響することがあり、箔状のチタンを連続的に製造するには溶融塩浴の温度が均一になることが望ましい。但し、溶融塩浴は、比較的高温に維持され、溶融塩の融点や共晶点に近い温度では粘度が高くなる。加えて、溶融塩浴の溶融塩は、高温時に濡れ性が高く、また温度が低下すると固体になって体積が変化する。そのため、溶融塩浴の撹拌に、一般的な撹拌機を使用することは困難である。
【0007】
特許文献1に記載されたものでは、「攪拌翼」の近傍で「回転軸」が支持されていないので、「攪拌翼」が溶融塩から大きな抵抗を受けた場合に「回転軸」が変形し得る。これにより、溶融塩浴の撹拌が安定しなくなることや、「回転軸」が破損することが懸念される。なお、特許文献2の「回転翼式ポンプ」は、そもそも溶融塩浴の撹拌に使用されるものではないが、この「回転翼式ポンプ」でも、「シャフト」が「インペラー」の近傍で支持されていない。
【0008】
これに対する対策としては、撹拌機の回転軸部を軸スリーブで取り囲み、軸スリーブのインペラー近傍に、回転軸部を保持する軸受部を設けることが考えられる。しかしながら、この場合、インペラーに接続された回転軸部に沿って軸スリーブ内に溶融塩が浸入する等といったように、軸スリーブ内で軸受部上に溶融塩浴の溶融塩が入り込むことが避けられない。軸スリーブ内に入り込んだ当該溶融塩は、撹拌機を溶融塩浴から引き揚げた際に固化して、そこに残留する。このことは、撹拌機のメンテナンス性を低下させる。特に、その後に浴組成の異なる溶融塩浴に撹拌機を使用する場合、軸スリーブ内から溶融塩を事前に十分に取り除く必要があり、軸スリーブ内の清掃負担が大きい。また、軸スリーブ内の溶融塩の固化物は、加熱や冷却により体積が変化するので、回転軸部や軸受部、軸スリーブ等に応力負荷を与えて撹拌機の寿命を短くするおそれがある。また、浴組成が異なる溶融塩浴にてその後の撹拌機の使用時に、軸スリーブ内に浸入した溶融塩浴の固化物が溶融しにくく、回転軸部の円滑な回転を阻害し、撹拌機の寿命を短くするという問題も生じうる。
【0009】
この発明の目的は、メンテナンス性に優れるとともに、比較的長期間にわたって使用が可能で、溶融塩浴を良好に撹拌することができる撹拌機及び、金属の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者は鋭意検討の結果、軸スリーブのスリーブ端部に軸受部を設けるとともに、軸受部の周囲で当該軸受部よりも軸方向の内側に延びる少なくとも一箇所の貫通孔を形成することを案出した。これにより、インペラーが溶融塩浴から抵抗を受けても、回転軸部が軸受部で保持されているので、溶融塩浴の撹拌が安定して行われる。また、軸スリーブ及び回転軸部を溶融塩浴から引き揚げたときは、軸スリーブ内に入り込んだ溶融塩が貫通孔から良好に排出されるので、軸スリーブ内への溶融塩の残留物の発生を抑制することができる。
【0011】
この発明の撹拌機は、溶融塩浴の撹拌に使用されるものであって、回転方向に間隔をおいて設けた複数枚の羽根部を有し、溶融塩浴中に浸漬させるインペラーと、溶融塩浴の外部の駆動源から前記インペラーに回転駆動力を伝達する回転軸部と、回転軸部の周囲を取り囲む軸スリーブと、内部にインペラーが収容されたインペラーケースと、インペラーケースに回転軸部の軸方向の外側から接続され、溶融塩浴の溶融塩をインペラーケース内に導く吸引筒部と、インペラーの外周側でインペラーケースに接続され、インペラーケース内から溶融塩を排出させる排出筒部とを備え、前記軸スリーブの、前記インペラーケースに連結されるスリーブ端部に、前記回転軸部を回転可能に保持する軸受部が設けられるとともに、前記軸受部の周囲で当該軸受部よりも軸方向の内側に延びる少なくとも一箇所の貫通孔が形成されてなるものである。
【0012】
上記の撹拌機では、前記貫通孔が、前記スリーブ端部の周方向に互いに間隔をおいて複数箇所形成されていることが好ましい。
【0013】
また、上記の撹拌機では、前記インペラーの各羽根部が、前記回転軸部の周囲で半径方向に湾曲して延びる形状を有することが好ましい。
【0014】
そしてまた、上記の撹拌機では、前記排出筒部が前記インペラーケースに、半径方向に対して傾斜する向きで接続されていることが好ましい。
【0015】
この発明の金属の製造方法は、溶融塩浴で電極を用いて電気分解を行い、第四族元素から選択される少なくとも一種を含む金属を製造する方法であって、上記のいずれかの撹拌機を使用するというものである。
【0016】
この製造方法では、前記金属がチタンを含むことがある。
【発明の効果】
【0017】
この発明の撹拌機によれば、メンテナンス性に優れるとともに、比較的長期間にわたって使用が可能で、溶融塩浴を良好に撹拌することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】この発明の一の実施形態の撹拌機を示す、軸方向に沿う断面図である。
図2図1の撹拌機を、電解装置とともに示す断面図である。
図3図1の撹拌機が備えるインペラーを示す底面図及び、そのIII-III線に沿う断面図である。
図4図1の撹拌機が備える軸スリーブのスリーブ端部を示す、軸方向に沿う断面図及び、そのIV-IV線に沿う断面図である。
図5図1の撹拌機が備えるインペラーケースを示す、軸方向に沿う断面図及び、そのV-V線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に図面を参照しながら、この発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1に一例として示す撹拌機1は、たとえば、図2に例示するように、溶融塩浴Bmの撹拌に使用されるものである。
【0020】
電解装置51は、この例では、溶融塩浴Bmを貯留させる容器状の電解槽52と、電解槽52の周囲に配置されたヒータ53と、電解槽52内の溶融塩浴Bm中に浸漬させる陽極54a及び陰極54bを含む電極54とを備える。電解装置51はさらに、図示は省略するが、電解槽52の上方側の開口部を覆うように配置することができる蓋体を備えることがある。また、溶融塩浴Bmの浴面の上側にアルゴンガス等の不活性ガスの導入口や排気口を備えることがある。
【0021】
電解装置51を用いた溶融塩電解では、第四族元素(チタン、ジルコニウム、ハフニウム)から選択される少なくとも一種の金属を陰極54b上に電析させる。具体的には、溶融塩浴Bmの温度を、たとえば450℃以上に維持し、溶融塩浴Bm中に浸漬させた電極54間に電圧を印加して、電気分解を行う。それにより、陰極54bの表面に、上記の金属イオンに応じて第四族元素から選択される少なくとも一種を含む金属が析出する。チタンイオンを含む溶融塩浴Bmでは、陰極54bの表面に、チタン又はチタン合金等のチタンを含む金属が析出する。その結果、溶融塩浴Bmで電極54を用いた電気分解により、第四族元素から選択される少なくとも一種を含む箔状等の金属を製造することができる。なお、溶融塩浴Bmの温度は、溶融塩浴に含まれる成分の融点や共晶点等を参考として適宜設定すればよい。
【0022】
溶融塩浴には、ハロゲン化アルカリ金属及び/又はハロゲン化アルカリ土類金属、ハロゲン化アルミニウムを含ませることがある。なかでも、溶融塩浴は、塩化マグネシウム(MgCl2)、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カルシウム(CaCl2)、塩化カリウム(KCl)、フッ化マグネシウム(MgF2)、フッ化カルシウム(CaF2)、及び塩化アルミニウム(AlCl3)からなる群から選択される少なくとも一種等を含むことが好ましい。
【0023】
溶融塩電解の間、電解槽52内の溶融塩浴Bm中にて部分的に温度が変動し、温度が不均一になることがある。特に陰極54b付近の温度が高くなった場合、陰極54b上に析出した金属を、溶融塩電解の終了後に剥離させることが困難になるおそれがある。
【0024】
溶融塩浴Bm中の温度を均一にするため、継続的に又は任意の時期に断続的に、溶融塩浴Bmを撹拌することが望ましい。しかしながら下記の理由に基づき、溶融塩浴Bmの撹拌に、一般的な撹拌機を用いることはできない。溶融塩浴は、比較的高温に維持されるが、溶融塩の融点や共晶点に近い温度では粘度が高くなる。これにより、撹拌機の羽根部は、溶融塩から大きな抵抗力が作用し得る。また、溶融塩浴Bmを塩化物やフッ化物を使用して形成した場合、溶融塩は腐食性が強いことがある。その上、溶融塩浴Bmの溶融塩は、高温時に濡れ性が高く溶融塩が撹拌機の種々の部位に浸入し、また温度が低下すると固体になって体積が変化する。
【0025】
このような溶融塩浴Bmを有効に撹拌するため、この実施形態の撹拌機1は、図3に示すように、回転方向に間隔をおいて設けた複数枚の羽根部2aを有するインペラー2と、溶融塩浴Bmの外部の図示しない駆動源からインペラー2に回転駆動力を伝達する回転軸部3と、回転軸部3の周囲を取り囲む軸スリーブ4と、内部にインペラー2が収容されたインペラーケース5と、インペラーケース5に回転軸部3の軸方向の外側(図1では下方側)から接続され、溶融塩浴Bmの溶融塩をインペラーケース5内に導く吸引筒部6と、インペラー2の外周側でインペラーケース5に接続され、インペラーケース5内から溶融塩を排出させる排出筒部7とを備えるものとしている。なおここで、回転軸部3の軸方向の外側とは、回転軸部3の軸方向の中央部に対して軸方向に離れた側を意味し、回転軸部3の軸方向の内側とは、軸方向で回転軸部3の当該中央部に近づく側を意味する。吸引筒部6は、インペラーケース5に、軸方向で回転軸部3の当該中央部から離れた側(軸スリーブ4とは反対側)から接続されている。
【0026】
この撹拌機1は、溶融塩浴Bm中に、吸引筒部6側から少なくともインペラー2が浸漬するように配置される。なお、図2に示すように、さらに軸スリーブ4の一部が溶融塩浴Bm中に浸漬するように配置してもよい。軸スリーブ4内でモータ等の駆動源により回転する回転軸部3が、インペラー2を回転させることで、溶融塩浴Bmの溶融塩が吸引筒部6内に吸引され、吸引筒部6と接続されたインペラーケース5内に流入する。インペラーケース5内に流入した溶融塩は、インペラーケース5に接続された排出筒部7を経て、そこから溶融塩浴Bm中に排出される。このような撹拌機1内への溶融塩の流入及び、撹拌機1からの流出が繰り返され、溶融塩浴Bmが撹拌される。
【0027】
ここで、電解装置51の外部に配置された駆動源からインペラー2へと軸スリーブ4内を延びる回転軸部3は、ある程度長い軸方向長さを有する。また、インペラー2は、組成や温度等によっては粘度が高くなる溶融塩から比較的大きな抵抗を受けることがある。そのような回転軸部3でインペラー2を有効に回転させるため、この実施形態では、図1及び4に示すように、軸スリーブ4の、インペラーケース5に連結されるスリーブ端部4aに、回転軸部3を回転可能に保持する軸受部8を設ける。
【0028】
このことによれば、軸方向長さが長い回転軸部3であっても、インペラー2の近傍のスリーブ端部4aで軸受部8によって保持されつつ回転するので、インペラー2が安定して回転し、溶融塩浴Bmを良好に撹拌することができる。また、回転軸部3及びインペラー2の回転が安定することから、回転軸部3の軸方向長さを長くしても、撹拌機1の振動の発生が抑制される。その上、回転しているインペラー2に溶融塩から大きな抵抗力が作用したとしても、回転軸部3が軸受部8で保持されているので、回転軸部3の変形ないし破損を抑制することができる。
【0029】
具体的には、軸受部8は、たとえば、スリーブ端部4aの内側に配置された環状の軸受保持部4b上に配置して設けることができる。また軸受部8に挿入される回転軸部3の周囲には、筒状部材9を設けることが可能であり、この筒状部材9を軸受部8に接触させて回転軸部3を配置することができる。回転軸部3が筒状部材9で軸受部8に支持されることにより、インペラー2が適切な軸方向(高さ方向)の位置に配置され、インペラー2とインペラーケース5との接触が抑制される。但し、軸受部8及びその周囲の構造は、軸受部8で回転軸部3を回転可能に保持できれば、図示のものに限らない。
【0030】
図示は省略するが、軸スリーブ4のスリーブ端部4aとは反対側の、駆動源側の端部にも、軸受部を設けることができる。これにより、回転軸部3及びインペラー2の回転をさらに安定させることができる。
【0031】
軸受部8の材質は、セラミックス、なかでも窒化珪素又は炭化珪素とすることが好ましい。窒化珪素や炭化珪素は、耐熱性、溶融塩に対する耐腐食性、撹拌機1の他の部材との間での耐摩耗性に優れ、また熱衝撃に強いからである。
なお、撹拌機1の他の部材の材質は、炭素鋼もしくはステンレス鋼(SUS304、SUS316等)その他の鋼、ニッケル、ニッケル基合金、タングステン、モリブデン、タンタル又はニオブとすることが好ましい。特に好ましくはニッケル又は炭素鋼である。ニッケルや炭素鋼は、溶融塩に対して比較的腐食しにくく、コストが比較的低廉だからである。さらには、溶融塩電解で溶出しにくい(より貴な金属である)ニッケルが好ましい。
【0032】
スリーブ端部4aに軸受部8を設けると、インペラーケース5内の溶融塩は、回転軸部3とインペラーケース5との間や、軸受部8と回転軸部3との間等から軸スリーブ4内に浸入し、軸受部8上に溜まることがある。軸受部8上に溜まった溶融塩は、撹拌機1を溶融塩浴Bmから引き揚げた際に固化して、そこに付着するとともに残留し得る。そのような溶融塩の固化物を完全に除去することは容易ではなく、メンテナンス性が低下する。また、軸受部8付近の溶融塩の固化物は、その後の撹拌機1の使用に際して回転軸部3の円滑な回転を阻害し、撹拌機1の破損を招くことも懸念される。
【0033】
軸スリーブ4内で軸受部8上に入り込んだ溶融塩を容易に排出させるため、図示の実施形態では、スリーブ端部4aに、軸受部8の周囲で当該軸受部8よりも軸方向の内側(図1では上方側)に延びる少なくとも一箇所の貫通孔10を設けている。それにより、軸スリーブ4内の溶融塩は、撹拌機1を溶融塩浴Bmから引き揚げる際に、スリーブ端部4aの貫通孔10から軸スリーブ4の外側に流れて排出されるので、軸受部8付近での上記の固化物の発生を抑制することができる。その結果として、撹拌機1のメンテナンス性を向上させることができるとともに、撹拌機1を長期間にわたって繰り返し使用可能になり、撹拌機1の寿命が長くなる。
【0034】
貫通孔10は、図4に示すように、スリーブ端部4aの周方向に互いに間隔をおいて複数箇所形成することが好ましい。周方向に複数箇所の貫通孔10があることで、軸受部8付近の溶融塩が軸スリーブ4の外部に排出されやすくなるからである。この実施形態では、周方向に等間隔に離れた四箇所の貫通孔10を形成しているが、貫通孔10の個数は適宜変更され得る。貫通孔10は、軸受部8よりも軸方向の内側に延びて軸スリーブ4を厚み方向に貫通するものであれば、その形状については特に問わない。図示の例では、各貫通孔10はその正面視で、長方形の軸方向内側の短辺を丸めた形状としている。
【0035】
ところで、インペラー2の各羽根部2aは、回転軸部3の周囲で、半径方向に直線状に延びる形状とすることも可能であるが、図3(a)に示すように、半径方向に湾曲して延びる形状を有することが好ましい。各羽根部2aが、半径方向に延びる途中の少なくとも一部で回転方向に突出するように湾曲する形状とし、その突出する方向(図3(a)では時計回りの方向)にインペラー2を回転させることにより、遠心力の作用に起因して溶融塩がより一層排出されやすくなる。
【0036】
なお、この実施形態では、図3(b)に示すように、回転軸部3から半径方向の外側に向かうに従い、羽根部2aの高さ(図3(b)の上下方向の長さ)が漸減する形状としている。但し、羽根部2aの形状はこれに限らず、適宜変更することができる。
【0037】
インペラーケース5から溶融塩浴Bmに排出される溶融塩が通過する排出筒部7は、図5に示すように、インペラーケース5に、半径方向に対して傾斜する向きで接続することが好適である。この実施形態では、図5(b)から解かるように、回転軸部3の半径方向と排出筒部7の中心軸線とが傾斜する向きで、排出筒部7がインペラーケース5に接続されている。これにより、溶融塩がインペラーケース5から排出されやすくなり、溶融塩浴Bmの撹拌がより良好に行われる。
【0038】
図示の撹拌機1では、吸引筒部6の内径を、インペラーケース5の内径よりも小さくしている。この場合、溶融塩の吸引量をより多くすることができる。また、排出筒部7の内径は、吸引筒部6の内径よりも小さくしてもよい。排出筒部7から排出される溶融塩の流速を増大させることができる。この流速の増大により、溶融塩浴Bmの撹拌効率が向上しうる。
【0039】
吸引筒部6の中心軸線と排出筒部7の中心軸線とがなす角度は、この例ではほぼ直角としているが、これに限らず、鋭角又は鈍角としてもよい。また、吸引筒部6及び/又は排出筒部7は、複数本設けることもできる。
【0040】
なお図示の例では、スリーブ端部4aの端面及び、インペラーケース5の軸スリーブ4側の端面にそれぞれ、軸スリーブ4よりも外周側に突き出るフランジ状の円板部材4c及び5aを設けている。撹拌機1を組み立てた状態で、それらの円板部材4c及び5aは互いに重なり合って位置し、回転軸部3が、円板部材4c及び5aのそれぞれの中央に形成された貫通する孔部を通過して配置される。
【0041】
電解装置51の電解槽52内で、撹拌機1は、たとえば図2に示すように配置することができる。撹拌機1の吸引筒部6の先端部は、電解槽52の底部付近に位置させ、また排出筒部7は、溶融塩浴Bmの浴面側で陰極54bを向くように位置させることが好適である。この場合、電解槽52の底部付近の溶融塩が、吸引筒部6から吸引され、排出筒部7から溶融塩浴Bmの浴面付近に排出される。
【実施例0042】
次に、この発明の撹拌機を試作し、その性能を確認したので以下に説明する。但し、ここでの説明は、単なる例示を目的としたものであり、それに限定されることを意図するものではない。
【0043】
実施例として、図1、3~5に示す構成を備える撹拌機を用いて、図2に示すような構成を備える電解装置にて溶融塩浴を撹拌した。その際に、陰極の上端付近と下端付近にて溶融塩浴の温度を測定した。その結果、それらの温度の差は1℃以内であり、溶融塩浴の温度のばらつきを良好に抑制することができた。
また、撹拌中に撹拌機の大きな振動は発生せず、撹拌機を溶融塩浴から取り出した後において軸受部での溶融塩の固化物がほとんどなかった。撹拌機を1回当たり24時間使用し、30回にわたって繰り返し使用したところ、破損が生じずに問題なく使用可能であった。各回の使用前に、撹拌機を水洗した後に乾燥させることで、その前の使用で軸受部等の各部分に生じた固化物を良好に除去することが可能であった。
【0044】
比較例1として、撹拌機で撹拌をせずに、電解装置の溶融塩浴の温度を測定したところ、溶融塩浴の温度のばらつきが発生した。この温度のばらつき(陰極の上端付近と下端付近との温度差)は5℃以上であった。
【0045】
比較例2として、軸スリーブのスリーブ端部に貫通孔が形成されていないことを除いて実施例と同様の撹拌機を用いて、溶融塩浴を撹拌した。この場合、実施例1と同様に溶融塩浴の温度のばらつきを抑制することはできたが、軸受部付近の溶融塩の固化物を除去する作業負担が大きかった。また、軸受部付近の固化物を十分に除去できず、撹拌機を15回(1回当たり24時間)にわたって繰り返し使用したところ、軸受部付近の当該固化物に起因して、回転軸部の折れ曲がりが発生した。
【符号の説明】
【0046】
1 撹拌機
2 インペラー
2a 羽根部
3 回転軸部
4 軸スリーブ
4a スリーブ端部
4b 軸受保持部
4c、5a 円板部材
5 インペラーケース
6 吸引筒部
7 排出筒部
8 軸受部
9 筒状部材
10 貫通孔
51 電解装置
52 電解槽
53 ヒータ
54 電極
54a 陽極
54b 陰極
Bm 溶融塩浴
図1
図2
図3
図4
図5