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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022183913
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】金属の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25C 7/06 20060101AFI20221206BHJP
   C25C 3/04 20060101ALI20221206BHJP
   C25C 3/06 20060101ALI20221206BHJP
   C25C 3/34 20060101ALI20221206BHJP
   C25C 7/02 20060101ALI20221206BHJP
   C22B 26/22 20060101ALI20221206BHJP
   C22B 21/00 20060101ALI20221206BHJP
   C22B 19/20 20060101ALI20221206BHJP
   C22B 34/12 20060101ALI20221206BHJP
   C22B 34/14 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
C25C7/06 302
C25C3/04
C25C3/06 Z
C25C3/34 A
C25C7/02 308Z
C22B26/22
C22B21/00
C22B19/20
C22B34/12
C22B34/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021091437
(22)【出願日】2021-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】並木 洸樹
【テーマコード(参考)】
4K001
4K058
【Fターム(参考)】
4K001AA02
4K001AA13
4K001AA27
4K001AA30
4K001AA31
4K001AA38
4K001BA04
4K001DA11
4K058AA14
4K058BA05
4K058BA08
4K058BA09
4K058BA10
4K058BA25
4K058BA33
4K058BB05
4K058CB03
4K058CB06
4K058CB23
4K058ED03
(57)【要約】
【課題】消費電力を比較的小さく抑えつつ、金属の減産に良好に対応することができる金属の製造方法を提供する。
【解決手段】この発明の金属の製造方法は、溶融塩電解により金属を製造する方法であり、内部に溶融塩浴を貯留させる電解槽2と、溶融塩浴に接触させる陽極3a及び陰極3bを含む二組以上の電極3とを備える電解装置1を使用し、前記電解装置1の使用開始から30か月が経過するまでの間の少なくとも一時期に、二組以上の電極3の一部であって少なくとも一組の電極3間への電圧の印加を停止し、前記電極3の残部での電流密度を0.5A/cm2以上とするというものである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融塩電解により金属を製造する方法であり、
内部に溶融塩浴を貯留させる電解槽と、溶融塩浴に接触させる陽極及び陰極を含む二組以上の電極とを備える電解装置を使用し、
前記電解装置の使用開始から30か月が経過するまでの間の少なくとも一時期に、二組以上の電極の一部であって少なくとも一組の電極間への電圧の印加を停止し、前記電極の残部での電流密度を0.5A/cm2以上とする、金属の製造方法。
【請求項2】
二組以上の電極の陽極及び陰極が交互に並んで配置された電解装置を使用する、請求項1に記載の金属の製造方法。
【請求項3】
前記少なくとも一時期に、少なくとも一個の陽極を電源から電気的に切断することにより、当該陽極を含む電極間への電圧の印加を停止する、請求項1又は2に記載の金属の製造方法。
【請求項4】
前記電極の少なくとも一組がさらに、陽極と陰極との間に配置された複極を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の金属の製造方法。
【請求項5】
前記少なくとも一時期に、前記電極の残部での電流密度を0.5A/cm2~1.2A/cm2とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の金属の製造方法。
【請求項6】
前記少なくとも一時期に、前記電解装置に流す総電流量を、通常期間での総電流量の70%~90%に減らす、請求項1~5のいずれか一項に記載の金属の製造方法。
【請求項7】
前記電解装置が、溶融塩浴の温度を調整することが可能な温度調整器を備え、
前記少なくとも一時期中に、前記温度調整器を用いて溶融塩浴の温度を調整する、請求項1~6のいずれか一項に記載の金属の製造方法。
【請求項8】
前記金属が、金属マグネシウム、金属アルミニウム又は金属亜鉛である、請求項1~7のいずれか一項に記載の金属の製造方法。
【請求項9】
溶融塩電解により前記金属を製造する際に、塩素ガスが生成される、請求項1~8のいずれか一項に記載の金属の製造方法。
【請求項10】
前記金属が、金属チタン、金属ジルコニウム、金属ハフニウム又は金属ケイ素の生産に用いられる、請求項1~9のいずれか一項に記載の金属の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、溶融塩電解により金属を製造する方法に関するものであり、特に、減産時に金属を良好に製造できるようにする技術を提案するものである。
【背景技術】
【0002】
たとえば金属マグネシウムを製造するには、塩化マグネシウムを含む溶融塩浴を用いた溶融塩電解を行うことがある。溶融塩電解では、電解装置の電解槽内にて溶融塩を溜めて溶融塩浴とし、陽極及び陰極を含む電極により溶融塩浴中の塩化マグネシウムを金属マグネシウムと塩素とに分解する。それにより、金属マグネシウムが得られる。電解装置としては、陽極及び陰極を含む二組以上の電極を備えるものを使用することがある。
【0003】
このようにして製造された金属マグネシウムは、クロール法で四塩化チタンを金属チタンに還元することに用いられ得る。なおこのとき、四塩化チタンの還元により副次的に生成される塩化マグネシウムは、上述した溶融塩電解で溶融塩浴に含ませることにより、金属マグネシウムの製造に使用することができる。
【0004】
なお、これに関連する技術として、特許文献1には、「電解槽と電極対とを有する金属溶融塩電解装置による金属の製造方法であって、電解槽における金属溶融塩の電解と、電解を行う電極対間で生じるジュール熱による金属溶融塩の加熱とを同時に行い、前記金属溶融塩電解装置は少なくとも2組の電極対を有し、前記電極対のうちの少なくとも1組が開放されていることを特徴とする溶融塩電解による金属の製造方法」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2016/002377号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述した溶融塩電解による金属マグネシウム等の金属の製造では、状況ないし時期等に応じて、金属の製造量を減らすことが必要になる場合がある。たとえば、先述したクロール法における金属チタンの生産に用いる金属マグネシウムを製造するに当り、金属チタンの生産量を減らすときは、それに合わせて金属マグネシウムの製造量をも減らすことがある。金属マグネシウムを減産せずに通常どおり製造して保管しておいた場合、大気中の酸素と反応しやすい金属マグネシウムが保管時に酸化し、不純物のマグネシウム酸化物が四塩化チタンの還元反応に持ち込まれる懸念があるためである。それ故に、金属マグネシウムは所要量を適時製造することが望まれる。
【0007】
金属を減産するには、電解装置に流す総電流量を減らすことが考えられる。しかしながら、二組以上の電極を備える電解装置で単純に総電流量を低減しても、減産で所期する金属の製造量を得るには依然としてある程度大きな消費電力が必要になるという問題があった。
【0008】
この発明の目的は、消費電力を比較的小さく抑えつつ、金属の減産に良好に対応することができる金属の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者は鋭意検討の結果、減産期間中に、二組以上の電極のうちの一部の電極間への電圧の印加を停止するとともに、残部の電極での電流密度をある程度高く維持することを案出した。これにより、比較的小さな消費電力で、所期した減産の製造量を達成することが可能になる。但し、電解装置は使用するに従って電極の減肉が生じ、電極間距離の増大に起因して電気抵抗が大きくなり、消費電力が増大する。そのため、減産期間は、電解装置の使用開始から30か月が経過するまでの間の少なくとも一時期に設けることが望ましい。
【0010】
この発明の金属の製造方法は、溶融塩電解により金属を製造する方法であり、内部に溶融塩浴を貯留させる電解槽と、溶融塩浴に接触させる陽極及び陰極を含む二組以上の電極とを備える電解装置を使用し、前記電解装置の使用開始から30か月が経過するまでの間の少なくとも一時期に、二組以上の電極の一部であって少なくとも一組の電極間への電圧の印加を停止し、前記電極の残部での電流密度を0.5A/cm2以上とするというものである。
【0011】
この発明の金属の製造方法では、二組以上の電極の陽極及び陰極が交互に並んで配置された電解装置を使用することができる。
【0012】
前記少なくとも一時期には、少なくとも一個の陽極を電源から電気的に切断することにより、当該陽極を含む電極間への電圧の印加を停止することができる。
【0013】
前記電極の少なくとも一組はさらに、陽極と陰極との間に配置された複極を含むことがある。
【0014】
前記少なくとも一時期には、前記電極の残部での電流密度を0.5A/cm2~1.2A/cm2とすることが好ましい。
【0015】
前記少なくとも一時期には、前記電解装置に流す総電流量を、通常期間での総電流量の70%~90%に減らすことが好ましい。
【0016】
前記電解装置は、溶融塩浴の温度を調整することが可能な温度調整器を備えることができる。この場合、前記少なくとも一時期中には、前記温度調整器を用いて溶融塩浴の温度を調整することが好ましい。
【0017】
前記金属は、金属マグネシウム、金属アルミニウム又は金属亜鉛とすることができる。
【0018】
溶融塩電解により前記金属を製造する際には、塩素ガスが生成されることがある。
【0019】
前記金属は、金属チタン、金属ジルコニウム、金属ハフニウム又は金属ケイ素の生産に用いられるものとすることができる。
【発明の効果】
【0020】
この発明の金属の製造方法によれば、消費電力を比較的小さく抑えつつ、金属の減産に良好に対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】この発明の一の実施形態に係る金属の製造方法を実施することができる電解装置の一例を示す、溶融塩浴の深さ方向に沿う断面図である。
図2図1のII-II線に沿う断面図である。
図3】電解装置の使用期間の経過に伴う電極間電圧の増大の一例を示すグラフである。
図4】電解装置の他の例の電解室を示す、図2と同様の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、この発明の実施の形態について詳細に説明する。
この発明の一の実施形態に係る金属の製造方法は、図1に例示するような電解装置1を使用して金属を製造するに当り、電解装置1の使用開始から30か月が経過するまでの間の少なくとも一時期に、二組以上の電極の一部であって少なくとも一組の電極間への電圧の印加を停止し、前記電極の残部での電流密度を0.5A/cm2以上とする。この方法は、金属の製造量を減らす減産に対応する場合に特に有効である。
【0023】
(電解装置)
図示の電解装置1は、内部に溶融塩浴を貯留させる電解槽2と、溶融塩浴に接触させる陽極3a及び陰極3bを含む二組以上の電極3とを備えるものである。
【0024】
ここで、この例では、電解槽2の内部に、実質的に深さ方向(図1の上下方向)に沿って配置されて、電解室2aと回収室2bとを区画する隔壁4が設けられている。隔壁4により、電解槽2の内部は、図1の右側に位置して電気分解が行われる電解室2aと、図1の左側に位置し、電解室2aでの電気分解により得られた金属マグネシウムが流れ込んで該金属マグネシウムが溶融塩との密度差により上方側に溜まる回収室2bとに区画されている。
【0025】
隔壁4は、図示の例では、電解槽2の上方側開口部を覆蓋するための蓋部材5に近接させて配置されている。これにより、隔壁4と電解槽2の内部の底面との間に、回収室2bから電解室2aへの溶融塩浴の移動を可能にする溶融塩循環路4aが形成される。また、隔壁4の溶融塩循環路4aよりも上方側の部分に設けた溶融金属流路4bにより、電解室2aから回収室2bへの金属マグネシウムの流入が可能になる。隔壁4は、図1では左右二箇所に分かれて設置されているが、溶融塩循環路4a及び溶融金属流路4bを設けることができれば、その形状や個数等の構成を適宜変更することができる。
【0026】
またここで、電極3は、電解槽2の内部の電解室2a側に配置されており、溶融塩浴の深さ方向と平行に並んで配置される部分を有する。電極3には、図示しない電源等に接続される陽極3a及び陰極3bが含まれる。電極3は、少なくとも陽極3a及び陰極3bを有するものであれば、溶融塩浴中の塩化マグネシウムの電気分解を行うことができる。
【0027】
電気分解の金属マグネシウム生成効率向上等の観点からは、図2に示すところから解かるように、陽極3aと陰極3bとの間に、電源に接続されておらず陽極3a及び陰極3b間への電圧の印加によって分極する一枚以上、たとえば二枚の複極3cをさらに有することが好ましい。ここでは、少なくとも各一枚の陽極3a及び陰極3bを含むものを、一組の電極3という。複極3cを設ける場合は、さらに一枚以上の複極3cを含むものを、一組の電極3という。二組以上の電極3のうち、少なくとも一組の電極3について複極3cを省略することも可能である。
【0028】
この電解装置1では、図2から解かるように、各電極3の陽極3aと陰極3bとが、溶融塩浴の深さ方向に直交する方向(電極整列方向)に交互に並んで平行に配置されている。そして、複極3cは、互いに隣接する陽極3a及び陰極3bの交互間に、それらの陽極3a及び陰極3bと平行に並べて設けられている。図示の例では、電極3中の陽極3a及び陰極3bは、それと隣り合う電極3のものと共有しており、各陽極3a及び陰極3bの両側で電気分解が行われる。
【0029】
電解装置1はさらに、たとえば回収室2b等に配置されて、溶融塩浴の温度を調整する温度調整器6を備えることができる。図示の例では、温度調整器6は、加熱媒体もしくは冷却媒体としてのガスを流す管状の熱交換器であって、溶融塩浴の深さ方向に延びる二本の主管と、深さ方向と直交する方向に延びて主管どうしを連結する枝管とを有するものとしている。但し、温度調整器は、溶融塩浴の温度を調整できれば、図示のものに限らない。
【0030】
溶融塩浴を構成する溶融塩には、塩化マグネシウム(MgCl2)の他、支持塩が含まれ得る。この支持塩は、塩化マグネシウムと混合した際に晶出温度を低下させ、かつ、粘度を低下させる電解質を意味する。支持塩は具体的には、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カルシウム(CaCl2)、塩化カリウム(KCl)、フッ化マグネシウム(MgF2)及びフッ化カルシウム(CaF2)からなる群から選択される少なくとも一種とすることができる。晶出温度とは、二種類以上の電解質からなる溶融塩を液体の状態から温度を下げたときに、ある一種類の電解質成分が固体として析出し始める晶出という現象が起きる温度をいう。仮に溶融塩が一種類だけである場合、液体の状態から温度を下げたときに、凝固点で全体が固体となるため、晶出温度は凝固点、すなわち融点に相当する。なお、電気分解で塩化マグネシウムを優先的に分解させるため、支持塩としては、塩化マグネシウムより分解電圧が高い電解質を用いることが一般的である。
【0031】
電解槽2を用いて行う溶融塩電解では、電解室2aでの塩化マグネシウムの電気分解により、MgCl2→Mg+Cl2の反応に基づいて、陰極3bの表面で還元反応により溶融金属である金属マグネシウム(Mg)が生成されるとともに、陽極3aの表面で酸化反応により塩素(Cl2)ガスが発生する。
【0032】
より詳細には、溶融塩浴の対流により、図1に示すように、溶融塩が回収室2bから底面側の溶融塩循環路4aを経て電解室2aに流動する。電解室2aでは、溶融塩中の塩化マグネシウムが電気分解され、金属マグネシウムが生成される。そして、この金属マグネシウムは、隔壁4の浴面側の溶融金属流路4bを通って回収室2bに流入する。その後、溶融塩に対する比重の小さい金属マグネシウムは、回収室2bの浅い箇所に浮上してそこに溜まることになる。回収室2bで浮上した金属マグネシウムは、図示しないポンプ等により回収することができる。したがって、これによれば、溶融塩から金属マグネシウムを製造することができる。また、それとともに塩素ガスが得られる。
【0033】
溶融塩電解で生成された金属マグネシウムは、金属チタンを生産するクロール法における四塩化チタンの還元に、また塩素ガスは、チタン鉱石の塩化にそれぞれ用いることができる。溶融塩電解の原料とする塩化マグネシウムとしては、クロール法で副次的に生成されるものを使用可能である。
【0034】
上述した電解装置1では、金属マグネシウムに限らず、金属アルミニウムや金属亜鉛を製造することもできる。また、電解装置1を用いた溶融塩浴で製造された金属は、四塩化チタンに限らず金属塩化物の還元に使用することで、金属チタン以外に金属ジルコニウム、金属ハフニウム又は金属ケイ素の生産に用いることも可能である。
【0035】
(減産期間)
上述したような電解装置1を用いて、金属マグネシウム等の金属を製造するに当り、金属の製造量を一時的に減らすことが必要になる場合がある。たとえば、クロール法による金属チタンの生産に用いる金属マグネシウムを製造する場合、金属チタンの生産量の低減に合わせて、金属マグネシウムの製造量も減らすことがある。金属マグネシウムは大気中の酸素と反応して酸化物が形成されやすいところ、そのような酸化物に起因する金属チタンの汚染を抑制するべく適切な量を適時製造することが望まれるからである。
【0036】
電解装置1は溶融塩電解を行って使用するに従い、図3に一例を示すように、電極間電圧が増加し、大きな消費電力が必要になる。これは、電解装置1の使用に伴い、電極3が減肉し、電極3間の距離が増大して電気抵抗が大きくなることによるものと考えられる。なお、電圧はたとえば15V程度に大きく増加しても支持塩の分解電圧未満に維持されるので、通常、支持塩が分解されることはない。塩化マグネシウムは2.8V程度で分解される。
減産期間での消費電力を小さく抑えるため、減産期間は、電解装置1を構築して溶融塩電解の使用を開始したときから30か月が経過するまでの間の少なくとも一時期に設けることが好ましい。より好ましくは、電解装置1の使用開始から16か月が経過するまでの間の少なくとも一時期に、減産期間を設ける。
【0037】
なお、電極間電圧が増加して電気抵抗が大きくなると、電解装置1に供給する電力はジュール熱として消費される割合が多くなる。溶融塩浴の温度維持は、電極間電圧が小さい使用開始初期では温度調整器6に大きく依存するが、使用期間が経過するに従い、電極3のジュール熱で溶融塩浴が加熱されやすくなるので、温度調整器6への依存度は小さくなることがある。
【0038】
また、減産期間中は、二組以上の電極3の一部であって少なくとも一組の電極3間への電圧の印加を停止し、電圧の印加を停止しない電極3の残部での電流密度を0.5A/cm2以上とする。これにより、減産しない期間に対して少ない電力消費量で、減産で所期する金属の製造量を達成することができる。
【0039】
一部の電極3間への電圧の印加を停止せずに、電解装置1に流す総電流量を少なくした場合は、電極3の一部の電圧印加を停止した場合に比して、金属マグネシウム等の金属の製造に必要な総電流量が大きくなる。
【0040】
また、一部の電極3間への電圧の印加を停止した上で、電圧の印加を停止しない電極3の残部の電流密度を上記のように高く維持することにより、減産で必要なある程度多くの金属を高い電流効率で製造することができる。電極3の残部の電流密度を低くしすぎると、所要の減産製造量が実現できない可能性があり、また電流効率が低下するおそれがある。
【0041】
一部の電極3間への電圧の印加の停止は、たとえば図示の電解装置1では、少なくとも一個の陽極3aを、図示しない電源から電気的に切断することにより実現することができる。両側で電気分解が行われる陽極3aでは、電源から電気的に切断すると、その両側での電気分解が行われなくなる。少なくとも一組の電極3に含まれる陽極3a及び陰極3bの両方を、電源から電気的に切断してもよい。
【0042】
減産期間に、電圧の印加を停止しない電極3の残部の電流密度は、好ましくは0.5A/cm2~1.2A/cm2、より好ましくは0.5A/cm2~1.0A/cm2とする。電極3の残部の電流密度をある程度低くすることにより、ジュール熱の発生に起因する電力の消費を抑制することができる。
【0043】
なおここでは一例として「減産期間」と呼称しているが、電解装置の使用開始から30か月が経過するまでの間の少なくとも一時期に、少なくとも一組の電極間への電圧の印加を停止するとともに前記電極の残部での電流密度を0.5A/cm2以上とする期間が設けられていれば、この発明に含まれる。この期間に、金属の製造量が減っていなくてもかまわない。
【0044】
減産期間で一部の電極3間への電圧の印加を停止すると、電解装置1に流す総電流量を変化させなくても、残部の電極3の電流密度が上昇する。電流密度の過度な上昇は、多くのジュール熱を発生させ、電力消費量を増大させる。これを抑制するため、減産期間では、電解装置1に流す総電流量を、減産期間以外の通常期間での総電流量の70%~90%に減らすことが好ましい。総電流量を減らすことにより、減産期間における金属の製造量を調整することもできる。
【0045】
上述したように電極3の残部の電流密度をある程度の高さに維持したり、電解装置1への総電流量を低下させたりすると、電極3のジュール熱が少なくなる。この場合、温度調整器6を用いて、溶融塩浴の温度を調整することが好適である。それにより、電流密度や総電流量の増大で多くのジュール熱を発生させる場合に比して、溶融塩浴を小さい電力で効率的に加熱することができる。温度調整器6を用いた溶融塩浴の加熱は、少なくとも、電解装置の使用開始から30か月が経過するまでの間に行うことが好ましい。その間は、電極3の減肉があまり生じておらず、ジュール熱の発生量が比較的少ないからである。
【0046】
このように溶融塩浴は、電極3のジュール熱と温度調整器6を適切に組み合わせて使用して加熱することが望ましい。たとえば金属マグネシウムを製造する場合、溶融塩浴の温度は、好ましくは655℃~680℃、より好ましくは655℃~665℃の範囲内に維持することができる。溶融塩浴の温度をある程度高くすることにより、金属マグネシウムの固化を抑制することができる。なお、溶融塩浴の温度が高すぎると特段の利点はなく、熱エネルギーが浪費される。
【0047】
以上に述べたところでは、電解室2aに板状である電極3が平行に配置されている電解装置1を例として説明したが、図4に示すような電解装置11を用いることもできる。この電解装置11では、電解室12aに設けた各電極が、電解槽12の内外に延びる四角柱等の柱状もしくは板状の陽極13aと、陽極13aの周囲を取り囲んで陽極13aから間隔をおいて配置した四角筒型等の角筒型の陰極13bと、陽極13aと陰極13bとの間に配置した角筒型の複極13cとを有するものである。複極13cは省略可能であるが、このような電極を二組以上備える電解装置が用いられ得る。また、図示は省略するが、電極は、円柱状の陽極並びに、円筒状の陰極及び複極を有するものに変更してもよい。
【0048】
上記のように、陰極13b(電極13がさらに複極13cを備える場合は陰極13b及び複極13c)が陽極13aを取り囲む形状の電極13を使用する場合、陽極13aと陰極13bとで電流密度が異なることがある。この場合、電解装置11が備える二組以上の電極13の一部であって少なくとも一組の電極13間への電圧の印加を停止したとき、前記電極13の残部での電流密度のうち、陰極13bの電流密度が0.5A/cm2以上であれば、「二組以上の電極の一部であって少なくとも一組の電極間への電圧の印加を停止し、前記電極の残部での電流密度を0.5A/cm2以上とする」との構成は満足されるものとする。陽極13aは陰極13bや複極13cに囲まれるため、通常陽極13aの電流密度は陰極13bより高くなるからである。
【実施例0049】
次に、この発明の金属マグネシウムの製造方法を試験的に実施し、その効果を確認したので以下に説明する。但し、ここでの説明は単なる例示を目的としたものであり、これに限定されることを意図するものではない。
【0050】
(試験例1)
図1及び2に示すような構成を備える電解装置を構築し、電解装置の使用開始から10か月が経過したときに、減産期間を1か月設けて金属マグネシウムの製造を行った。つまり、減産期間は、電解装置の使用開始後11か月目である1か月とした。減産期間中は、金属マグネシウムの目標製造量が、その以前の通常期間を100%とした場合に80%になるように、製造量を減らすことを試みた。また減産期間中は、電解装置に流す総電流量を、通常期間の総電流量(A)の80%に低減した。なお、「電解装置の使用開始」とは、後述のように、溶融塩浴の温度が目標とする温度範囲(実施例では655℃~665℃)の下限値(ここでは655℃)に到達した時点を意味する。溶融塩浴の形成等の電解装置の準備期間は「電解装置の使用開始前」に該当する。
【0051】
通常期間及び減産期間のいずれにおいても、温度調整器の加熱媒体の燃焼ガスの流量を調整することにより、溶融塩浴を655℃~665℃の範囲内に維持した。電極のジュール熱による加熱が十分ではない場合、溶融塩浴の温度を維持するため、温度調整器でのガス消費量が上昇することになる。
【0052】
なお、電解装置の電解槽は、内壁がAl23の含有率が95%以上の煉瓦からなり、電解室が2m3、回収室が1m3である。電解室側には、七枚の黒鉛製の陽極及び、八枚の鋼製の陰極を設置し、陽極と陰極の間にはそれぞれ二枚の黒鉛製の複極を配置した。溶融塩浴の浴組成については、MgCl2、CaCl2、NaCl、MgF2がそれぞれ質量比で20%、30%、49%、1%からなる溶融塩とした。
【0053】
実施例1では、減産期間中は、七枚の陽極のうち、電極整列方向の中央(端から四番目)に位置する一本の陽極を電源から電気的に切断して、金属マグネシウムを製造した。減産期間中、電流密度は、減産期間前から継続して0.5A/cm2を維持した。
【0054】
比較例1では、減産期間に電極間への電圧の印加を停止せず、総電流量の減少により電極の電流密度が0.4A/cm2に低下したことを除いて実施例1とほぼ同様にして、金属マグネシウムを製造した。
【0055】
実施例1では、減産期間中の上述した目標製造量の80%を達成することができた。一方、比較例1では、減産期間中の製造量が実施例1よりも2%減少した。そのため、比較例1では、上記の目標製造量を達成することができなかった。すなわち、四塩化チタンの還元工程において必要量の金属マグネシウムを所望する時期に確保できなかったことを意味する。なお、電解装置に流した総電流量は、実施例1と比較例1で同じである。比較例1のこの結果より、単に総電流量を減らすだけでは、所定の製造量の減産に対応することが困難であることが解かる。仮に比較例1で減産期間中に総電流量を80%よりも増やした場合、電極間への電圧の印加を停止せずに目標製造量を達成可能とも考えられるが、この場合は金属マグネシウムの単位量あたりの消費電流量が増大する。
【0056】
温度調整器で使用したガスの流量は、比較例1を基準(100%)とした場合、実施例1では比較例1よりも25%減少した。実施例1は、温度調整器で使用したガスの流量が少なく、溶融塩浴の温度調整の観点でも比較例1よりも優れるといえる。
【0057】
(試験例2)
実施例2では、電解装置の使用開始から14か月が経過したときに、減産期間を1か月設けたことを除いて、実施例1とほぼ同様にして金属マグネシウムの製造を行った。つまり、減産期間は、電解装置の使用開始後15か月目である1か月とした。
【0058】
その結果、実施例2でも、減産期間中の上述した目標製造量の80%を達成することができた。実施例2にて温度調整器で使用したガスの流量は、実施例1の場合よりもさらに2%減少した。総電流量は実施例1と同じであった。
【0059】
実施例2の結果より、電解装置の使用開始からの経過期間がある程度長いときに、減産期間を設けた場合であっても、減産に良好に対応できることが解かった。但し、電解装置の使用開始からの経過期間が長くなりすぎると、ジュール熱の発生による電力ロスが多くなる。そのため、図3からも解かるように、使用開始から30か月までの間に減産期間を設けることが好ましいといえる。より好ましくは、減産期間を、使用開始から16か月までの間に設ける。但し、電解装置は30か月が経過した後も使用可能である。
【0060】
【表1】
【0061】
以上より、この発明によれば、消費電力を比較的小さく抑えつつ、金属の減産に良好に対応できることが解かった。
【符号の説明】
【0062】
1、11 電解装置
2、12 電解槽
2a、12a 電解室
2b 回収室
3 電極
3a、13a 陽極
3b、13b 陰極
3c、13c 複極
4、14 隔壁
4a 溶融塩循環路
4b 溶融金属流路
5 蓋部材
6 温度調整器
図1
図2
図3
図4